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特開2022-159243シート状成形材料の製造方法、パネルおよびタンク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159243
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】シート状成形材料の製造方法、パネルおよびタンク
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20221006BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20221006BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20221006BHJP
   C08J 5/08 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/18
C08K7/14
C08J5/08 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060906
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021061769
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】513026399
【氏名又は名称】三菱ケミカルインフラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】安藤 隆臣
(72)【発明者】
【氏名】八木 善史
(72)【発明者】
【氏名】西澤 保
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 竜也
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB09
4F072AB28
4F072AB29
4F072AB30
4F072AD38
4F072AF04
4F072AF06
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH21
4F072AJ22
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL07
4J002AA022
4J002CF211
4J002DE236
4J002DL007
4J002DL008
4J002FA047
4J002FA048
4J002FB267
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD018
4J002GG01
(57)【要約】
【課題】ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)の粉末を材料に用いて、所期の成形性および機械的強度を実現可能なGFRP製品の製造を実現する。
【解決手段】シート状成形材料の製造方法において、無機粒子、GFRP粉末および熱硬化性樹脂を含有、かつ7000~14000mPa・sの粘度を有する組成物をガラス繊維のシート材に含浸させ、シート材が含浸している当該組成物を必要に応じて増粘させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末および熱硬化性樹脂を含有する組成物をガラス繊維のシート材に含浸させる工程を含み、
前記含浸させる工程において、7000~14000mPa・sの粘度を有する前記組成物を用いる、シート状成形材料の製造方法。
【請求項2】
前記含浸させる工程において、含水量が1000ppm未満である前記組成物を用いる、請求項1に記載のシート状成形材料の製造方法。
【請求項3】
前記含浸させる工程において、前記無機粒子、前記ガラス繊維強化プラスチックの粉末、前記熱硬化性樹脂および前記シート材の総量に対して20~45質量%の前記無機粒子を含有する前記組成物を用いる、請求項1または2に記載のシート状成形材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のシート状成形材料の製造方法で製造されたシート状成形材料を加熱成形してなるガラス繊維強化プラスチック製のパネル。
【請求項5】
請求項4に記載のパネルを組み立てて構成されるタンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状成形材料の製造方法、パネルおよびタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化プラスチック製のパネル(「GFRPパネル」とも言われる)は、複数の単位パネルを組立てて接合し、貯槽を形成する組立式のタンクの好適に使用される。当該組み立て式のタンクは、例えば貯水槽として使用される。GFRPパネルは、シート状成形材料(「SMC」とも言われる)の加熱成形によって製造される。
【0003】
一方、プラスチック製品については、環境への負荷を軽減する観点から、そのリサイクルが行われる。強化繊維プラスチック成形品をリサイクルする技術には、回収した強化繊維プラスチック成形品を粉砕してなる粉末を、強化繊維プラスチック成形品の材料の一部として強化繊維プラスチック成形品の製造に利用する技術が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-169407号公報
【特許文献2】特開2005-305876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、GFRPパネルを上述の従来技術のように原料として再利用すると、材料組成物の粘度が増加してガラス繊維へ十分に含浸しないことがある。その結果、製造されるパネルが所期の形状に成形されないことがあり、また機械的強度などの所期の物性を発現しないことがある。
【0006】
本発明の一態様は、ガラス繊維強化プラスチックの粉末を材料に用いて、所期の成形性および機械的強度を実現可能なガラス繊維強化プラスチック製品の製造を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るシート状成形材料の製造方法は、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末および熱硬化性樹脂を含有する組成物をガラス繊維のシート材に含浸させる工程を含み、前記含浸させる工程において、7000~14000mPa・sの粘度を有する前記組成物を用いる。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るガラス繊維強化プラスチック製のパネルは、上記のシート状成形材料の製造方法で製造されたシート状成形材料を加熱成形してなる。
【0009】
さらに、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るタンクは、上記のパネルを組み立てて構成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、ガラス繊維強化プラスチックの粉末を材料に用いて、所期の成形性および機械的強度を実現可能なガラス繊維強化プラスチック製品の製造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る製造方法の各工程を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るパネルの一例を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係るタンクの一例を模式的に示す図である。
図4】本発明の実施例におけるリサイクル粉末の添加量と粉末材料の水分量との関係を示す図である。
図5】本発明の実施例におけるリサイクル粉末の添加量とパネルの曲げ試験結果との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔シート状成形材料の製造方法〕
本発明の実施形態におけるシート状成形材料(以下「SMC」とも言う)の製造方法は、含浸させる工程を含む。
【0013】
[含浸させる工程]
本発明の実施形態において、含浸させる工程とは、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末および熱硬化性樹脂を含有する組成物をガラス繊維のシート材に含浸させる工程である。
【0014】
<粘度>
含浸させる工程における上記の組成物は、ガラス繊維のシート材に含浸可能な流動性を有する組成物である。含浸させる工程において、当該組成物には、7000~14000mPa・sの粘度を有する組成物を用いる。なお、本明細書において、特に断り書きがなければ、「~」は、その両端の数値を含む以上以下の数値範囲を意味する。
【0015】
上記粘度は、シート材の目開き、シート材への組成物の含浸時間などの製造に関する条件に応じて、上記の範囲から適宜に決めてよい。このため、一概には言えないが、組成物の粘度は、例えばSMCの生産性を高める観点から、14000mPa・s以下であることが好ましく、13500mPa・s以下であることがより好ましく、13000mPa・s以下であることがさらに好ましい。これにより、当該組成物のシート材へより好適に含浸させることができ、その結果、製造されたSMCを硬化させてなる成形品の製造において所望の形状により容易に成形することができ、あるいは、成形品の所期の物性のより好適に発現させることができる。
【0016】
また、組成物の粘度は、例えばシート材に含浸した組成物のシート材からの流出を抑制する観点から、6000mPa・s以上であることが好ましく、6500mPa・s以上であることがより好ましく、7000mPa・s以上であることがさらに好ましい。これにより、シート材中における組成物の含浸量を所望の量とし易くなり、成形品における所期の物性をより好適に発現させることができる。
【0017】
上記組成物の粘度は、溶融樹脂の粘度を測定する公知の方法、例えばキャピラリーレオメータまたは回転式粘度計を用いて測定する方法、によって測定することが可能である。また、上記組成物の粘度は、後述する粉末の水分量、組成物中の溶剤の添加量、あるいは各種添加剤、などによって調整することが可能である。
【0018】
<粉末材料>
本発明の実施形態で用いられる無機粒子およびガラス繊維強化プラスチックの粉末について説明する。本発明の実施形態において、無機粒子およびガラス繊維強化プラスチックを合わせて「粉末材料」とも言う。
【0019】
本発明の実施形態において上記組成物に含有される無機粒子は、通常、樹脂組成物の機械的強度を阻害しない(または高める)観点あるいはコスト低減の観点で用いられる材料である。無機粒子は、一種でもそれ以上でもよい。無機粒子の例には、炭酸カルシウム粒子、酸化チタン粒子、硫酸バリウム粒子、が含まれる。なかでも、無機粒子は、コスト低減の観点から、炭酸カルシウム粒子であることが好ましい。
【0020】
無機粒子の粒径は、無機粒子による所期の機能に応じて適宜に決めてよい。たとえば、SMCの成形品としてのGFRPパネルにおいて骨材として機械的強度を阻害しない(または高める)観点であれば、無機粒子の粒径は、体積平均粒径で1~100μmであってよいし、成形品の表面における凹凸を抑制する観点であれば、1~1000μmであってよい。無機粒子は、同一の機能を発現する粒子径の範囲において二以上のピークを有していてもよいし、例えば無機粒子による二以上の機能を発現させる観点から、粒度分布において二以上のピークを含んでいてもよい。
【0021】
無機粒子の粒径は、体積基準の粒子径を測定する公知の方法によって測定することが可能であり、あるいはカタログ値であってもよい。無機粒子の粒径は、分級によって、あるいは分級品の混合によって調整することが可能である。また、無機粒子の粒子形状は、限定されず、球形であってもよいし、繊維状であってもよいし、不定形であってもよい。
【0022】
本発明の実施形態において上記組成物に含有されるガラス繊維強化プラスチック(以下、「GFRP」とも言う)の粉末は、無機粒子と同様の用途で使用することができる。GFRP粉末は、使用されたGFRPパネルを粉砕して形成されるGFRPのリサイクル粉末であることが、資源の回収と再利用を実現する観点から好ましい。リサイクルされるGFRP物は、製造しようとするSMCおよびそれによるGFRPパネルと同じ用途の物であってもよいし、または同じ組成を有していてもよいし、異なる用途の物であってもよいし、または異なる組成を有していてもよい。
【0023】
GFRPのリサイクル粉末の材料の例には、GFRP製の船の船体、組み立て式タンクを構成するパネル、およびその他のGFRP製品の廃棄物、が含まれる。GFRPのリサイクル粉末を使用することは、従来廃棄処理に問題のあったGFRP製品の廃棄物の産生量を軽減し、有効活用する観点から好ましい。
【0024】
GFRP粉末の粒径も、無機粒子の粒径と同様に、その所期の機能に応じて適宜に決めてよく、上記の観点から、例えば体積平均粒径で1~1000μmであってよい。GFRP粉末の粒子形状も、限定されず、球形であってもよいし、繊維状であってもよいし、不定形であってもよい。さらに、GFRP粉末も、その粒度分布において二以上のピークを含んでいてもよい。GFRP粉末の粒径も、分級によって、あるいは分級品の混合によって調整することが可能である。
【0025】
上記組成物における無機粒子およびGFRP粉末の含有量は、少なすぎるとSMCおよびそれによるGFRPパネルにおいて無機粒子およびGFRP粉末による機能の発現が不十分となることがあり、多すぎると当該パネルが脆くなることがある。無機粒子およびGFRP粉末の所期の機能は、SMCおよびその成形品(たとえばGFRPパネル)の用途または所期の物性に応じて適宜に決めてよい。上記組成物における無機粒子およびGFRP粉末(すなわち粉末材料)の含有量は、製造しようとするSMCの組成に基づいて適宜に決めることができる。
【0026】
たとえば、タンクの組み立てに用いられるGFRPパネルであれば、含浸させる工程における粉末材料の使用量は、所期の機械的強度を十分に発現させる観点から、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して25質量%以上となる量であることが好ましく、27質量%以上となる量であることがより好ましく、30質量%以上となる量であることがさらに好ましい。また、上記の用途における上記の観点から、上記組成物における粉末材料の含有量は、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して45質量%以下となる量であることが好ましく、43質量%以下となる量であることがより好ましく、40質量%以下となる量であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の実施形態において、GFRPパネルの骨材となる粉末材料を上記組成物中に含有することから、本実施形態のSMCから形成されたGFRPパネルの機械的な強度は、骨材として無機粒子のみを用いる場合に比べて同等かそれ以上に高くなる傾向がある。その理由は定かではないが、GFRP粉末は無機粒子に比べて、組成物における熱硬化性樹脂の連続相中により分散しやすく、骨材としての効果がより均等に発現されるため、と考えられる。
【0028】
上記組成物中における無機粒子とGFRP粉末との含有量の比は、所期の機能が得られる範囲において決めてよいが、GFRP粉末の量が多すぎると、骨材としての機能が低減することがある。たとえば、GPFRパネルとしたときに十分な強度を発現させる観点から、組成物中における無機粒子の量Wiに対するGFRP粉末の量Wgの比Wg/Wiは、0超となることが好ましく、0.01以上となることがより好ましく、0.02以上となることがさらに好ましい。同様の観点から、上記の比Wg/Wiは、0.40以下となることが好ましく、0.39以下となることがより好ましく、0.38以下となることがさらに好ましい。
【0029】
また、上記の観点から、含浸させる工程における無機粒子の使用量は、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して20質量%以上となる量であることが好ましく、25質量%以上となる量であることがより好ましく、30質量%以上となる量であることがさらに好ましい。また、上記の観点から、含浸させる工程における無機粒子の使用量は、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して45質量%以下となる量であることが好ましく、44質量%以下となる量であることがより好ましく、43質量%以下となる量であることがさらに好ましい。
【0030】
また、上記の観点から、含浸させる工程におけるGFRP粉末の使用量は、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して1質量%以上となる量であることが好ましく、2質量%以上となる量であることがより好ましく、3質量%以上となる量であることがさらに好ましい。また、上記の観点から、含浸させる工程におけるGFRP粉末の使用量は、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して10質量%以下となる量であることが好ましく、9質量%以下となる量であることがより好ましく、8質量%以下となる量であることがさらに好ましい。
【0031】
<熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂は、繊維強化プラスチックにおいて使用され得る熱硬化性樹脂であればよく、一種でもそれ以上でもよい。熱硬化性樹脂の例には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ポリウレタンおよび熱硬化性ポリイミドが含まれる。
【0032】
含浸させる工程における熱硬化性樹脂の使用量は、SMCおよびその成形品であるGFRPパネルの用途または所期の物性に応じて適宜に決めることができる。たとえば、GFRPパネルの用途が組み立て式のタンクに用いられるGFRPパネルである場合には、含浸させる工程における熱硬化性樹脂の使用量は、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して25質量%以上となる量であることが好ましく、27質量%以上となる量であることがより好ましく、30質量%以上となる量であることがさらに好ましく、また、上記の用途であれば、含浸させる工程における熱硬化性樹脂の使用量は、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して40質量%以下となる量であることが好ましく、37質量%以下となる量であることがより好ましく、35質量%以下となる量であることがさらに好ましい。
【0033】
熱硬化性樹脂の粘度は、25℃において14000mPa・s以下であることが好ましく、13000mPa・s以下であることがより好ましく、12000mPa・s以下であることがさらに好ましい。これにより、含浸させる工程において当該組成物をシート材に含浸させることがより容易となる。また、熱硬化性樹脂の粘度は、25℃において、6000mPa・s以上であることが好ましく、6500mPa・s以上であることがより好ましく、7000mPa・s以上であることがさらに好ましい。これにより、含浸させる工程において組成物がシート材から流出することを抑制することができる。また、組成物が含有する粉末材料を組成物中及びSMC中により均一に存在させることができるので、粉末材料の機能をより好適に発現させることができる。熱硬化性樹脂の粘度は、公知の測定技術、例えば回転式粘度計、によって測定することが可能である。
【0034】
<シート材>
本発明の実施形態において上記組成物が含浸するガラス繊維のシート材は、ガラス繊維がシート状に存在する材料である。当該シート材は、GFRP用のSMCの製造に使用される公知の材料であってよい。たとえば、当該シート材は、ガラス繊維製のシートであってもよいし、ガラス繊維をシート状に散布してなるガラス繊維の層であってもよい。ガラス繊維製のシートは、ロービングと呼ばれる織られたガラス繊維であってもよいし、ガラス繊維が四方八方に広がった不織状態の、マットと呼ばれる形態であってもよい。
【0035】
含浸させる工程におけるシート材の使用量は、SMCおよびその成形品であるGFRPパネルの用途または所期の物性に応じて適宜に決めることができる。たとえば、GFRPパネルの用途が組み立て式のタンクに用いられるGFRPパネルである場合には、含浸させる工程におけるシート材の使用量は、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して25質量%以上となる量であることが好ましく、27質量%以上となる量であることがより好ましく、30質量%以上となる量であることがさらに好ましく、また、上記の用途であれば、含浸させる工程におけるシート材の使用量は、無機粒子、ガラス繊維強化プラスチックの粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して45質量%以下となる量であることが好ましく、43質量%以下となる量であることがより好ましく、40質量%以下となる量であることがさらに好ましい。
【0036】
<他の材料>
組成物は、本実施形態の効果が得られる範囲において、前述した各種材料以外の他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分は、一種でもそれ以上でもよい。当該他の成分は、それによる所期の効果と本実施形態の効果とが得られる種類および量で使用され得る。当該他の成分の例には、溶剤、熱可塑性樹脂、ガラス繊維以外の無機繊維、および、熱硬化性樹脂の硬化剤、が含まれる。
【0037】
溶剤は、通常、低沸点または揮発性の溶剤であることが、SMCの製造過程において、またはSMCから溶剤を留去させる観点から好ましい。溶剤の例には、酢酸エチル、ブタノン、イソプロピルアルコールおよびアセトンが含まれる。また、熱可塑性樹脂の例には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリアミドおよびポリ塩化ビニルが含まれる。これらの熱可塑性樹脂は、これらの樹脂の製品の廃棄物またはその粉砕物であってもよい。さらに、ガラス繊維以外の無機繊維の例には、金属繊維およびセラミック繊維が含まれる。
【0038】
<含水量>
含浸させる工程において、粉末材料の含水量が多すぎると上記の組成物の粘度が高まり、当該組成物の上記シート材への含浸が不十分となることがある。含浸させる工程において組成物がシート材に十分に含浸する流動性を発現させる観点から、含浸させる工程において、含水量が1000ppm未満である組成物を用いることが好ましい。
【0039】
含浸させる工程で用いられる組成物の含水量は、上記の観点から低いことが好ましく、990ppm以下であることがより好ましく、980ppm以下であることがさらに好ましい。一方、組成物の含水量は、乾燥させることで低減可能であるが、過度の乾燥は、工程の簡素化および生産性の向上の観点から好ましくない。このような観点から、含浸させる工程で用いられる組成物の含水量は、600ppm以上であってよい。
【0040】
上記の含水量は、水分を除去するのに十分な条件(例えば120℃、3時間の加熱)で粉末材料、特にGFRP粉末、を乾燥し、乾燥前の質量に対する乾燥後の質量の差から求めることが可能である。
【0041】
無機粒子は、吸湿する特性を有するために、上記の組成物の含水量および粘度に影響を与えることがある。また、無機粒子の吸湿量は、季節によっても変化する。したがって、組成物の調製に際しては、熱風循環式乾燥機などの乾燥機を用いて無機粒子を乾燥し、無機粒子の吸湿量を一定に調整した後に組成物を調製することが好ましい。
【0042】
<含浸の態様>
含浸させる工程は、シート材に組成物を供給して含浸させてもよいし、組成物の溜まりにシート材を供給することでシート材に組成物を含浸させてもよい。あるいは、組成物の溜まりにガラス繊維を平面方向に略均一に分散し、ガラス繊維に組成物を十分に付着させてガラス繊維によるシートに組成物を含浸させてもよい。あるいは、組成物の溜まりにガラス繊維を平面方向に略均一に分散したガラス繊維のシート状の集合物に組成物を供給し、ガラス繊維に組成物を十分に付着させてガラス繊維によるシートに組成物を含浸させてもよい。
【0043】
[その他の工程]
本発明の実施形態におけるシート状成形材料の製造方法は、本実施形態の効果が得られる範囲において、前述した含浸させる工程以外の他の工程をさらに含んでもよい。このような他の工程の例には、シート材が含浸した組成物を増粘させる工程、GFRP製品を粉砕してGFRP粉末を製造する粉砕工程、GFRP粉末を洗浄する洗浄工程、GFRP粉末の粒度を調整する粒度調整工程、粉末材料の水分を調整する水分調整工程、および、粉末材料を熱硬化性樹脂に混合して組成物を調製する組成物調製工程、が含まれる。
【0044】
増粘させる工程は、得られるSMCのタック性を低減させる観点から、熱硬化性樹脂の一部を硬化させることにより行われる。増粘させる工程により、上記組成物が含浸するシート材が変形可能であるとともに上記組成物がシート材に対して相対的に固定され、特定の形状を有するGFRP製品の成形の材料に使用可能なSMCが得られる。増粘させる工程は、組成物中の熱硬化性樹脂を硬化させる条件に基づいて実施することが可能である。たとえば、増粘させる工程は、常温での静置、乾燥あるいは光照射によって実施することが可能である。
【0045】
粉砕工程は、前述した廃棄物などのGFRP製品を粉砕する工程であり、GFRP製品を粉砕してGFRP粉末を生成するのに適当な公知の技術または装置を用いて実施することが可能である。
【0046】
洗浄工程では、水、酸、アルカリまたは有機溶剤によってGFRP粉末を洗浄することが可能である。
【0047】
粒度調整工程は、GFRP粉末の分級可能な公知の技術によって実施することができる。粒度調整工程では、特定の粒径を有するGFRP粉末を取得することが可能であるし、また、特定の粒径(例えばD10とD90)のGFRP粉末を取り出し、これらを混合して組成物に使用するためのGFRP粉末としてもよい。
【0048】
水分調整工程では、上記の粉末材料を乾燥させることによって、組成物に使用するための粉末材料の水分を低減させることが可能である。水分調整工程は、粉末材料の水分量を特定の量に調整する工程であってもよい。たとえば、水分調整工程は、特定の温湿度の環境に粉末材料を十分に曝す工程であってもよい。粉末材料の含水量を一定の値に調整することによって、組成物の粘度を安定させ、そしてSMCの製造を安定させることが期待される。
【0049】
[製造方法の一例]
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法の各工程を模式的に示す図である。ポリエチレン製シートなどの熱可塑性樹脂製のシート1がロール2から矢印S方向に沿って搬送される。ガラス繊維のシート材3が、ロール4からシート1上に供給され、シート1に重ねられて矢印S方向に沿って搬送される。樹脂組成物5が、Tダイ6から、シート1に重ねられたシート材3の上からシート材3の幅方向に沿って供給され、矢印S方向に沿って搬送されながらシート材3に含浸する。樹脂組成物5は、前述した無機粒子、GFRPの粉末および熱硬化性樹脂を含有する組成物である。こうして、シート1と樹脂組成物5が含浸したシート材3との積層体7が製造される。こうして、シート1上に担持されているSMC10が製造される。SMC10は、例えばカッター8によって適当な長さに切断される。切断されたSMC10のシートは、その後、別室で室温にて放置され、それにより樹脂組成物5が増粘する。
【0050】
上記の製造方法において、シート1はなくてもよい。たとえば、フッ素樹脂製または金属製などの十分な離型性を有する搬送ベルト上に直接シート材3を供給してもよい。また、樹脂組成物5をまずシート1に供給し、次いでシート1上の樹脂組成物5にシート材3を供給してもよい。また、シート材3をロール4から提供するのに代えて、シート1上にガラス繊維を散布することでシート状に提供してもよい。
【0051】
また、上記の製造方法において、SMC10は、切断せずに巻き取って、ロール状の形態で取り扱ってもよい。さらに、SMC10を上から被覆する熱可塑性樹脂製のシートをさらに提供してもよい。当該シートの提供の時期は、適宜に決めてよく、例えば、樹脂組成物5が増粘する前であってもよいし、増粘した後であってもよい。
【0052】
〔パネル〕
本発明の実施形態におけるガラス繊維強化プラスチック製のパネル(GFRPパネル)は、本発明の実施形態で製造されたSMCを加熱成形してなる。SMCの加熱成形方法は、パネルの製法として適当な方法であればよく、例えば加熱プレス成型であってよい。
【0053】
SMCを加熱成形では、成形時のSMCの温度を適切に調整することが、成形不良の発生を抑制する観点から好ましい。たとえば、プレス機に取り付けた凹凸型内に、上記製造されたSMCを適宜投入し、調整された金型温度で加圧圧力を規定時間保持し、冷却後成形品を取り出すことでパネル成形品を得ることができる。
【0054】
GFRPパネルの厚さは、SMCの成形によって所期の形状に成形可能な範囲において適宜に決めることができる。GFRPパネルの厚さは、たとえばGFRPパネルに所望の凹凸形状を形成する観点から、例えば5~20mmの範囲内であってよい。
【0055】
また、GFRPパネルの表面には、加飾の観点からフィルムを貼り付けてもよい。この場合、GFRPパネルの表面が平滑であることは、加飾フィルムとの接着性を高める観点から好ましい。たとえば、このような観点から、GFRPパネルの表面粗さは、十点平均粗さで50μm以下であることが好ましい。GFRPパネルの表面の平滑さは、熱処理あるいは研磨によって調整することが可能である。
【0056】
本実施形態のGFRPパネルは、凹凸形状を有していてもよい。図2は、本発明の一実施形態で製造されるGFRPパネルの一例における凹凸形状を説明するための図である。図2に示されるように、GFRPパネル20は、矩形の平面形状を有しており、平板状の周縁部21と、周縁部21よりも内側の凸曲面部22とを有している。凸曲面部22は、略矩形の平面形状を有しており、当該平面形状の縦方向および横方向のいずれの方向においても凸の曲面で形成されている。なお、GFRPパネル20は、組み立て式タンクの外装用パネルの一例である。
【0057】
凸曲面部22は、縦方向に、第一凹部23、第二凹部24および第三凹部25を有している。第一凹部23および第三凹部25は、いずれも、略半円状の平面形状を有しており、弧の部分の斜面部231、251と、それに囲まれる平板部232、252とを有している。斜面部231、251は、それぞれ、GFRPパネル20を平面視したときの凹曲面部である。第二凹部24は、凸曲面部22の頂部であって平面形状における中央部に位置し、略矩形の平面形状を有している。
【0058】
GFRPパネル20の凸曲面部22、第一凹部23、第二凹部24および第三凹部25のうち、平面視したときの当該曲面の部分における曲率半径(「第一の曲率半径」とも言う)は、GFRPパネルの用途における機能性および意匠性の観点、および前述の加飾フィルムの十分な密着性の観点から、150mm以上であってよく、160mm以上であってよく、170mm以上であってよい。同様の観点から、第一の曲率半径は、400mm以下であってよく、380mm以下であってよく、360mm以下であってよい。なお、第一の曲率半径は、例えば図2中の一点鎖線で示される円C1、C2のそれぞれの半径である。円C1は、平面視したときに第一凹部23の斜面部231の上縁部にほぼ接する円である。円C2は、平面視したときに第三凹部25の斜面部251の上縁部にほぼ接する円である。
【0059】
また、GFRPパネル20の凹凸形状の断面における曲面の部分の曲率半径(「第二の曲率半径」とも言う)は、GFRPパネルの用途における機能性および意匠性の観点から、1000mm以上であってよく、1050mm以上であってよく、1100mm以上であってよい。同様の観点から、第二の曲率半径は、1800mm以下であってよく、1700mm以下であってよく、1600mm以下であってよい。なお、第二の曲率半径は、例えば図2中の二点鎖線で示される弧Aを含む円の半径である。弧Aは、例えば、平面視したときにGFRPパネル20の平面形状を縦方向に二分する直線である。
【0060】
さらに、GFRPパネル20の凹凸形状における凹凸の程度、例えば凸部と凹部との最大の高低差は、GFRPパネルの用途における機能性および意匠性の観点、および前述の加飾フィルムの十分な密着性の観点から、30mm以上であってよく、50mm以上であってよく、70mm以上であってよい。また、上記の観点から、上記の最大の高低差は、120mm以下であってよく、100mm以下であってよく、90mm以下であってよい。当該最大の高低差は、例えば、図2に示されるGFRPパネル20であれば、周縁部21から凸曲面部22の頂部までの鉛直方向における距離である。
【0061】
本実施形態のGFRPパネルでは、たとえばX線分析顕微鏡による元素マッピングによって、シート材由来のガラス繊維と、それ以外のガラス、たとえばGFRP粉末由来のガラス、とを判別することが可能である。ガラスがGFRP粉末由来であることは、たとえば電子顕微鏡または光学顕微鏡での観察によって、GFRPに含まれる特定の元素または成分の有無および分布、あるいは廃棄物由来の成分の確認に基づいて推定することが可能である。
【0062】
<不可能・非実際的事情>
本発明の一態様に係るGFRPパネルは、本発明の実施形態の製造方法で製造されたSMCを加熱成形してなる物である。本発明の実施形態の製造方法で製造されたGFRPパネルには、その構造または特性によって直接特定することが不可能、またはおよそ実際的でないという事情が存在する。本発明の一態様におけるGFRPパネルは、強化繊維プラスチック成形品を粉砕してなるガラス繊維が含まれるという特性を有する。この特性については、GFRPパネルの原料中に、添加剤としてガラスフレーク等が添加されている可能性はあるが、粉砕されたガラス繊維がどのような状態であればこの特性をもたらすのかを一概に文言にて特定することは不可能である。また、この特性をもたらす粉砕されたガラス繊維を特定する作業は、多数かつ多様な状態のガラス繊維、サイジング材またはそれに付着している樹脂の特性を比較検討すると可能かもしれないが、膨大な時間とコストを要し、特許出願の性質上、迅速性などを必要とすることに鑑みてもおよそ実際的ではない。
【0063】
本実施形態のGFRPパネルは、組み立て式タンクの外装用のパネル以外の他の用途にも用いることができ、たとえば、パネル状の部材の組み立てまたは接合によって製造される製品に適宜に用いられる。組み立て式タンク以外に、本実施形態のGFRPパネルで構成され得る製品の例には、浴槽、浴室パネル、防水パン、洗面化粧台、洗面ボール、台所カウンター、浄化槽、小型ボート、船舶用部材および自動車用部材が含まれる。
【0064】
〔タンク〕
本発明の実施形態のタンクは、前述の本発明の実施形態のパネルを組み立てて構成される。図3は、本発明の一実施形態に係るタンクの一例を模式的に示す図である。図3に示されるように、タンク30は、GFRPパネル31、天井33および底板34を有しており、架台35の上に載置されている。
【0065】
GFRPパネル31は、矩形の平面形状を有している。GFRPパネル31の縁は、接合縁32となっている。タンク30の側部は、隣り合うGFRPパネル31の接合縁32同士を、防水用のパッキンを介して接合縁においてボルトおよびナットで締結することにより構成されている。天井33および底板34も同様に、接合縁での接合によって構成されている。GFRPパネル31は、前述した本実施形態のGFRPパネルである。天井33および底板34も、本実施形態のGFRPパネルの接合で構成することができる。
【0066】
タンク30は、GFRPパネル31同士の接合部分を補強する補強材を鉛直方向または水平方向に備えていてもよい。このような補強材および架台35は、十分に高い剛性を有していればよく、GFRP製、コンクリート製あるいは金属製の部材であってもよい。当該金属の例には、鋳鉄、鋳鋼、銅、銅合金、真鍮、ステンレス、アルミニウムおよびチタンが含まれる。
【0067】
GFRPパネル31は、タンク30に適したさらなる構成を伴ってもよい。GFRPパネル31は、たとえば保温材をタンク30の内側の表面上に有していてもよいし、前述した加飾フィルムを外表面上に有していてもよい。
【0068】
〔作用効果〕
本発明の実施形態では、GFRP用のSMCの材料にGFRP粉末を用いる。このため、例えば、GFRP製品の粉砕物をGFRPパネル材料としてリサイクルしたものを、GFRP粉末に用いることができる。本実施形態のGFRPパネルは、通常の製品、すなわちGFRP粉末を使用しないGFRPパネルと比べて、同様の加工が可能であり、かつ、同等かそれ以上の強度を有する。
【0069】
一方で、GFRP粉末を用いることによって、SMCの製造時に材料の組成物の粘度が高まり、流動性が低下することがある。これは、本実施形態のSMCにおける無機粒子の含有量が比較的高いことも粘度上昇による流動性の低下の一因となっている、よって、当該組成物の粘度を適切に調整することによって、GFRPパネルのリサイクルを適切に実現することが可能である。
【0070】
組成物の粘度の上昇には、組成物中の粉末材料、特にCFRP粉末の含水量が関係していると考えられる。よって、粉末材料の含水量を適切に調整することが、組成物の粘度調整の一手段として有効である。
【0071】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態におけるSMCの製造方法は、無機粒子、GFRP粉末および熱硬化性樹脂を含有する組成物をガラス繊維のシート材に含浸させる工程を含み、含浸させる工程において、7000~14000mPa・sの粘度を有する組成物を用いる。この製造方法によれば、樹脂および粉末材料がシート材に十分に含浸する。よって、本製造方法で製造されたSMCを用いることで、GFRP粉末を材料に用いて所期の成形性および機械的強度を実現可能なGFRP製品の製造を実現することができる。
【0072】
含浸させる工程において、含水量が1000ppm未満である組成物を用いることは、上記の組成物の粘度を適切に調整する観点からより一層効果的である。
【0073】
また、含浸させる工程において、無機粒子、GFRP粉末、熱硬化性樹脂およびシート材の総量に対して20~45質量%の無機粒子を含有する組成物を用いることは、GFRPパネルの用途に応じた所期の機械的強度を実現する観点からより一層効果的である。
【0074】
本発明の実施形態のパネルは、前述の製造方法で製造されたSMCを加熱成形してなるガラス繊維強化プラスチック製のパネル(GFRPパネル)である。よって、所期の成形性および機械的強度を有するGFRPパネルを、その材料の一部にGFRP粉末を用いて実現することができる。
【0075】
本発明の実施形態のタンクは、上記のパネルを組み立てて構成される。よって、その材料の一部にGFRP粉末を用いつつも、機械的強度などの所望の物性を十分に有するタンクを実現することができる。
【0076】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0077】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0078】
〔実施例1〕
[SMCの製造]
120℃で3時間乾燥させた33質量部の炭酸カルシウム(平均粒子径5μm)と、3質量部のGFRPのリサイクル粉末(平均粒子径12μm)とを混合し、粉末材料1を得た。
【0079】
次いで、36質量部の粉末材料1と34質量部の不飽和ポリエステル(樹脂粘度1700mPa・s)とを混合し、炭酸カルシウム粒子、GFRPのリサイクル粉末および不飽和ポリエステルを含有する組成物を得た。組成物の粘度を回転式粘度計によって測定したところ、9600mPa・sであった。また、当該組成物の含水量を測定したところ、920ppmであった。当該含水量は、カールフィッシャー法を用いて求めた水分量である。
【0080】
次いで、30質量部のガラス繊維(平均繊維長40~50mm、単位重量450g/mのチョップドストランドのシート材)を用意した。当該シート材の上から組成物を供給し、組成物の自重によって組成物1をシート材に含浸させ、SMCを製造した。
【0081】
次いで、組成物を含浸しているシート材を常温で2日間放置し、シート材に含浸されている組成物を増粘させた。こうして、シート材に含浸している組成物が増粘してなるSMCを製造した。
【0082】
[GFRPパネルの製造]
SMCを、金型に収容し、160℃、10MPaで十分に加熱加圧し、その後冷却することによって、厚さ3mmの板状のGFRPパネルを製造した。
【0083】
[GFRPパネルの評価]
<曲げ強度および曲げ弾性率>
GFRPパネルから試験片1を用意した。試験片1は、幅10mm×長さ80mm×厚み約3mmの矩形の板状片である。そして、試験片1の曲げ強度および曲げ弾性率をJIS K7171に準じて測定し、GFRPパネルの曲げ強度および曲げ弾性率とした。その結果、GFRPパネルの曲げ強度は200MPaであり、GFRPパネルの曲げ弾性率は10592MPaであった。
【0084】
〔実施例2〕
120℃で3時間乾燥させた31質量部の炭酸カルシウムと5質量部のGFRPのリサイクル粉末とを混合する以外は粉末材料1と同様に調製して粉末材料2を得た。そして、粉末材料1に代えて粉末材料2を用いる以外は実施例1と同様にして、組成物を調製し、SMCおよびGFRPパネルを製造し、評価した。
【0085】
〔実施例3〕
120℃で3時間乾燥させた29質量部の炭酸カルシウムと7質量部のGFRPのリサイクル粉末とを混合する以外は粉末材料1と同様に調製して粉末材料3を得た。そして、粉末材料1に代えて粉末材料3を用いる以外は実施例1と同様にして、組成物を調製し、SMCおよびGFRPパネルを製造し、評価した。
【0086】
〔比較例1〕
120℃で3時間乾燥させた26質量部の炭酸カルシウムと10質量部のGFRPのリサイクル粉末とを混合する以外は粉末材料1と同様に調製して粉末材料C1を得た。粉末材料1に代えて粉末材料C1を用いる以外は実施例1と同様にして、組成物を調製し、SMCおよびGFRPパネルを製造し、評価した。
【0087】
〔比較例2〕
120℃で3時間乾燥させた21質量部の炭酸カルシウムと15質量部のGFRPのリサイクル粉末とを混合する以外は粉末材料1と同様に調製して粉末材料C2を得た。粉末材料1に代えて粉末材料C2を用いる以外は実施例1と同様にして、組成物を調製した。得られた組成物は粘度が高く、流動性が不十分であり、シート材に十分に含浸せず、SMCを製造することができなかった。よってGFRPパネルを製造することができなかった。
【0088】
〔実施例4〕
120℃で3時間加熱して乾燥させたGFRPのリサイクル粉末を用いる以外は粉末材料C1と同様に調製して粉末材料4を得た。そして、粉末材料1に代えて粉末材料4を用いる以外は比較例1と同様にして、組成物を調製し、SMCおよびGFRPパネルを製造し、評価した。
【0089】
〔参考例〕
GFRPのリサイクル粉末を使用せず、120℃で3時間乾燥させた36質量部の炭酸カルシウムを用意して粉末材料R1を得た。粉末材料1に代えて粉末材料R1を用いる以外は実施例1と同様にして、組成物を調製し、SMCおよびGFRPパネルを製造し、評価した。
【0090】
〔実施例5〕
120℃で3時間乾燥させた35質量部の炭酸カルシウムと120℃3時間加熱して乾燥させた3質量部のGFRPのリサイクル粉末とを混合する以外は粉末材料1と同様に調製して粉末材料5を得た。そして、粉末材料1に代えて粉末材料5を用い、不飽和ポリエステルの量を32質量部とする以外は実施例1と同様に組成物を調製し、SMCを製造した。そして、実施例1と同様にしてGFRPパネルを製造し、評価した。
【0091】
〔実施例6〕
120℃で3時間乾燥させた40質量部の炭酸カルシウムと120℃3時間加熱して乾燥させた3質量部のGFRPのリサイクル粉末とを混合する以外は粉末材料1と同様に調製して粉末材料6を得た。そして、粉末材料1に代えて粉末材料6を用い、不飽和ポリエステルの量を27質量部とする以外は実施例1と同様に組成物を調製し、SMCを製造した。そして、実施例1と同様にしてGFRPパネルを製造し、評価した。
【0092】
〔比較例3〕
120℃で3時間乾燥させた45質量部の炭酸カルシウムと120℃3時間加熱して乾燥させた3質量部のGFRPのリサイクル粉末とを混合する以外は粉末材料1と同様に調製して粉末材料C3を得た。そして、粉末材料1に代えて粉末材料C3を用い、不飽和ポリエステルの量を22質量部とする以外は実施例1と同様に組成物を調製し、SMCを製造した。そして、実施例1と同様にしてGFRPパネルを製造し、評価した。
【0093】
〔結果の表示〕
上記の各例における材料の量比、組成物の含水量、組成物の粘度およびGFRPパネルの評価結果を表1に示す。また、参考例、実施例1~3および比較例1について、GFRP粉末の含有量と組成物の含水量との関係を図4に示し、GFRP粉末の含有量とGFRPパネルの曲げ強度(白抜き丸のプロット)および曲げ弾性率(白抜きひし形のプロット)との関係を図5に示す。
【0094】
評価方法としてGFRPリサイクル粉末が未添加の参考例を基準に、曲げ強度が参考例のそれの90%以上、かつ曲げ弾性率が参考例のそれの84%以上、を発現する物を実施例とし、それ未満の例を比較例とした。
【0095】
【表1】
【0096】
〔考察〕
表1から明らかなように、炭化カルシウムの一部をGFRPのリサイクル粉末に置き換えても、当該リサイクル粉末を用いない従来品と同様にGFRPパネルを製造することが可能である。
【0097】
また、炭化カルシウムの一部をGFRPのリサイクル粉末に置き換えて製造されたGFRPパネルは、当該リサイクル粉末を用いない従来のGFRPパネルに比べて、少なくとも85%以上の強度(曲げ弾性率、曲げ強度)を有し、多くは当該リサイクル粉末を用いない従来のGFRPパネル同等かそれ以上に高い強度を有している。
【0098】
一方で、比較例1および比較例3のGFRPパネルは、炭化カルシウムの一部に代えてGFRPのリサイクル粉末を含んでいるが、その強度は、当該リサイクル粉末を用いない従来のGFRPパネルのそれに比べて低い。これは、ガラス繊維のシート材に含浸させる組成物の粘度が高すぎ、SMCにおいて組成物の材料が十分に分布せず、SMCを構成する材料による所期の機械的強度が十分に発現されないため、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、GFRP製品の適切なリサイクルを可能する。本発明によって、GFRP製品の普及および発展に寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0100】
1 シート
2、4 ロール
3 シート材
5 樹脂組成物
6 Tダイ
7 積層体
8 カッター
10 SMC
20、31 GFRPパネル
21 周縁部
22 凸曲面部
23 第一凹部
24 第二凹部
25 第三凹部
30 タンク
32 接合縁
33 天井
34 底板
35 架台
231、251 斜面部
232、252 平板部
図1
図2
図3
図4
図5