(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159247
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】取付け治具
(51)【国際特許分類】
B23K 9/028 20060101AFI20221006BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20221006BHJP
B23K 37/053 20060101ALI20221006BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B23K9/028 J
B23K9/00 501B
B23K37/053 F
B23K9/12 331F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060982
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021060167
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】305017815
【氏名又は名称】十一屋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大附 和敬
(72)【発明者】
【氏名】森 貴久
(72)【発明者】
【氏名】平松 剛
(72)【発明者】
【氏名】田原 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一道
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081BA02
4E081EA17
4E081EA24
4E081FA14
4E081YB03
4E081YR04
4E081YX02
4E081YY02
4E081YY11
(57)【要約】
【課題】鋼管柱の側面に、支持部材を精度よく位置決めでき、容易に固着することができる取付け治具を提供する。
【解決手段】取付け治具10は、下部鋼管柱1A上端面2aに係合する係合爪13A、13Aを有した一対の縦部材11A、11Aと、係合爪13Aを上端面2aに係合した状態で、一対の縦部材11A、11Aが水平方向に対向するように、一対の縦部材11A、11Aを連結する横部材12Aと、を備えている。一対の縦部材11A、11A同士の対向する対向面11f、11fが、支持部材PAの水平方向の位置決め用の第1基準面S1となり、横部材12Aの上面12fが、支持部材PAの鉛直方向の位置決め用の第2基準面S2となる位置で、一対の縦部材11A、11Aは、横部材12Aに連結される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端面を有した多角形状の鋼管柱に支持部材を固着するための取付け治具であって、
前記鋼管柱の複数の側面のうち、少なくとも1つの側面が、前記支持部材が固着される固着面であり、
前記取付け治具は、
前記上端面に係合する係合爪を有した一対の縦部材と、
前記一対の縦部材の前記係合爪を前記上端面に係合した状態で、前記一対の縦部材が水平方向に対向するように、前記一対の縦部材を連結する横部材と、を備えており、
前記一対の縦部材同士の対向する対向面が、前記支持部材の水平方向の位置決め用の第1基準面となり、前記横部材の上面が、前記支持部材の鉛直方向の位置決め用の第2基準面となる位置で、前記一対の縦部材は、前記横部材に連結されることを特徴とする取付け治具。
【請求項2】
前記取付け治具は、
前記鋼管柱の複数の側面のうち、前記固着面と反対側に形成された背面に配置される背面部材と、
前記鋼管柱を挟んだ位置に配置され、前記横部材と前記背面部材とを連結する一対の連結部材と、を備え、
前記一対の連結部材は、前記横部材と前記背面部材とで前記鋼管柱を挟み込むように、前記横部材と前記背面部材とを連結することを特徴とする請求項1に記載の取付け治具。
【請求項3】
前記鋼管柱の複数の側面のうち、前記支持部材が固着される固着面は、相互に反対側に位置する一対の固着面であり、
前記取付け治具は、
前記固着面ごとに配置される、前記一対の縦部材と、
前記固着面ごとの前記一対の縦部材を連結する前記横部材と、
前記鋼管柱を挟んだ位置に配置され、前記一対の固着面のうち一方の固着面に配置された前記横部材と、他方の固着面に配置された前記横部材とを連結する一対の連結部材と、を備え、
前記一対の連結部材は、前記横部材同士で前記鋼管柱を挟み込むように、前記各横部材を連結することを特徴とする請求項1に記載の取付け治具。
【請求項4】
前記取付け治具は、前記一対の縦部材の上部を連結する上部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の取付け治具。
【請求項5】
前記取付け治具は、固着前の前記支持部材を、前記縦部材とともに挟持する挟持部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の取付け治具。
【請求項6】
前記各縦部材には、前記鋼管柱の表面に対して間隙を形成するように、前記鋼管柱の表面に接触する複数のスペーサが、前記縦部材に着脱自在に取り付けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の取付け治具。
【請求項7】
前記スペーサは、前記各縦部材から前記鋼管柱の表面までの長さを調整する調整機構を有することを特徴とする請求項6に記載の取付け治具。
【請求項8】
前記係合爪は、前記各縦部材から前記上端面に向けて延出する長さを調整する調整機構を有することを特徴とする請求項6または7に記載の取付け治具。
【請求項9】
前記取付け治具は、前記支持部材として、溶接用ロボットおよび前記溶接用ロボットが走行する走行レールを支持するための支持部材用の取付け治具であり、
前記溶接用ロボットは、前記走行レールを走行しながら、前記鋼管柱を下部鋼管柱とし、前記下部鋼管柱と上部鋼管柱との開先に、溶融した溶接材料を供給することにより、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱との溶接するものであることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の取付け治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取付け治具に関し、特に、建築物等で使用する多角形状の鋼管柱の側面に、他の部材等を取付けるための支持部材を固着する取付け治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管柱の側面に、他の部材等を取付けるための支持部材を固着するとき、たとえば、特許文献1には、多角形状の鋼管柱としての外柱の対向側面のうち、付加柱の上下の位置には、ブレースがボルト接合されるガセットプレートが、溶接により接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のガセットプレートなどの支持部材を鋼管柱に溶接する場合、支持部材を鋼管柱の接合場所に正確に位置決めし、溶接することが必要となる。このため、たとえば、マーカーあるいはケガキ線で、多角形状の鋼管柱の側面に、支持部材の配置箇所を特定しなければならないが、短時間で精度良く配置箇所を特定することは難しい。
【0005】
このような点を鑑みて、本発明として、上端面を有した多角形状の鋼管柱に、支持部材を固着する際に、鋼管柱の側面に、支持部材を容易に精度よく取り付けることができる取付け治具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明に係る取付け治具は、上端面を有した多角形状の鋼管柱に支持部材を固着するための取付け治具であって、前記鋼管柱の複数の側面のうち、少なくとも1つの側面が、前記支持部材が固着される固着面であり、前記取付け治具は、前記上端面に係合する係合爪を有した一対の縦部材と、前記一対の縦部材の前記係合爪を前記上端面に係合した状態で、前記一対の縦部材が水平方向に対向するように、前記一対の縦部材を連結する横部材と、を備えており、前記一対の縦部材同士の対向する対向面が、前記支持部材の水平方向の位置決め用の第1基準面となり、前記横部材の上面が、前記支持部材の鉛直方向の位置決め用の第2基準面となる位置で、前記一対の縦部材は、前記横部材に連結されることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、鋼管柱の上端面に、一対の縦部材の係合爪を係合し、一対の縦部材が水平方向に対向するように、一対の縦部材に横部材を連結することにより、取付け治具を鋼管柱に取付けることができる。この取付け状態において、鉛直方向の位置決め用の第2基準面である横部材の上面に、支持部材の下面を接触させ、水平方向の位置決め用の第1基準面である一対の縦部材の対向する対向面に、支持部材の側面を接触させる。これにより、固着面の所定位置に支持部材を位置合わせすることができるため、所定位置に精度よく支持部材を固着することができる。
【0008】
より好ましい態様としては、前記鋼管柱の複数の側面のうち、前記固着面と反対側に形成された背面に配置される背面部材と、前記鋼管柱を挟んだ位置に配置され、前記横部材と前記背面部材とを連結する一対の連結部材と、を備え、前記一対の連結部材は、前記横部材と前記背面部材とで前記鋼管柱を挟み込むように、前記横部材と前記背面部材とを連結する。
【0009】
この態様によれば、固着面に配置された横部材と鋼管柱の背面に配置された背面部材とを、一対の連結部材で連結し、横部材と背面部材とで鋼管柱を挟み込むことができる。この結果、取付け治具を鋼管柱に安定して取付けることができるため、第1基準面と第2基準面の位置を安定して固定し、支持部材の鋼管柱における位置精度を高めることができる。
【0010】
より好ましい他の態様としては、前記鋼管柱の複数の側面のうち、前記支持部材が固着される固着面は、相互に反対側に位置する一対の固着面であり、前記取付け治具は、前記固着面ごとに配置される、前記一対の縦部材と、前記固着面ごとの前記一対の縦部材を連結する前記横部材と、前記鋼管柱を挟んだ位置に配置され、前記一対の固着面のうち一方の固着面に配置された前記横部材と、他方の固着面に配置された前記横部材とを連結する一対の連結部材と、を備え、前記一対の連結部材は、前記横部材同士で前記鋼管柱を挟み込むように、前記各横部材を連結する。
【0011】
この態様によれば、一方の固着面および他方の固着面において、鋼管柱の上端面に一対の縦部材の係合爪を係合させた状態で、一対の縦部材に横部材を連結することができる。さらに、各固着面に配置される横部材同士を、一対の連結部材で連結し、横部材同士で鋼管柱を挟み込むことができる。この結果、取付け治具を鋼管柱に安定して取付けることができるため、各固着面において、第1基準面と第2基準面の位置を精度良く確定し、支持部材の鋼管柱における位置精度を高めることができる。
【0012】
さらに好ましい他の態様としては、前記取付け治具は、前記一対の縦部材の上部を連結する上部材をさらに備える。この態様によれば、上部材で一対の縦部材の上部を連結し、それよりも下方で一対の縦部材を横部材で連結するため、一対の縦部材の水平方向の間隔を安定して固定することができる。これにより、第1基準面と第2基準面の位置精度を高めることができ、結果として、支持部材の取付け精度を高めることができる。
【0013】
さらに好ましい他の態様としては、前記取付け治具は、固着前の前記支持部材を、前記縦部材とともに挟持する挟持部材をさらに備える。この態様によれば、支持部材を縦部材とともに挟持部材で挟んで位置決めするため、位置決め後の支持部材の鋼管柱への溶接等による固着作業の作業性が向上し、その作業時間の短縮することができ、固着後の支持部材の位置決め精度を高めることができる。
【0014】
さらに好ましい他の態様としては、前記各縦部材には、前記鋼管柱の表面に対して間隙を形成するように、前記鋼管柱の表面に接触する複数のスペーサが、前記縦部材に着脱自在に取り付けられている。この態様によれば、鋼管柱の固着面に突起物が存在するとき、突起物を避けて各縦部材を鋼管柱の表面から離して位置させることができ、鋼管柱の所定の位置に精度よく支持部材を固着することができる。
【0015】
さらに好ましい他の態様としては、前記スペーサは、前記各縦部材から前記鋼管柱の表面までの長さを調整する調整機構を有する。この態様によれば、鋼管柱の固着面に突起物が存在するとき、突起物の高さに合わせて、突起物を避けて一対の縦部材を鋼管柱の表面から離して位置させることができ、鋼管柱の所定の位置に精度よく支持部材を固着することができる。
【0016】
さらに好ましい他の態様としては、前記係合爪は、前記各縦部材から前記上端面に向けて延出する長さを調整する調整機構を有する。この態様によれば、鋼管柱の固着面に突起物が存在するとき、突起物の高さに合わせて、係合爪を伸縮させることができる。この結果、突起物を避けて各縦部材を安定して吊り下げることができ、鋼管柱の所定の位置に精度よく支持部材を固着することができる。
【0017】
さらに好ましい態様としては、前記取付け治具は、前記支持部材として、溶接用ロボットおよび前記溶接用ロボットが走行する走行レールを支持するための支持部材用の取付け治具であり、前記溶接用ロボットは、前記走行レールを走行しながら、前記鋼管柱を下部鋼管柱とし、前記下部鋼管柱と上部鋼管柱との開先に、溶融した溶接材料を供給することにより、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱との溶接するものである。
【0018】
この態様としては、取付け治具によって取付けられた支持部材は、溶接用ロボットおよび前記溶接用ロボットが走行する走行レールを支持するものであるため、支持部材の取付け精度の向上により、溶接用ロボットが走行するレールを精度良く取り付けることができる。この結果として、溶接ロボットをレール上に安定して走行させることができ、下部鋼管柱と上部鋼管柱との溶接を精度良く、安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上端面を有した鋼管柱に、支持部材を固着する際に、鋼管柱の側面に、支持部材を精度よく位置決めした状態で、固着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る取付け治具の一実施形態を鋼管柱に取付けた状態の要部正面図である。
【
図2】
図1に示す鋼管柱の要部と取付け治具の右側面図である。
【
図3】
図1に示す鋼管柱の要部と取付け治具のA-A線に沿う断面図である。
【
図4】
図1に示す取付け治具の下部の詳細を示す要部拡大正面図である。
【
図5】
図4に示す取付け治具のC-C線に沿う取付け治具の断面図である。
【
図6】
図1から
図5に示す取付け治具の分解状態の斜視図である。
【
図7】
図6に示す分解状態を組み立てた状態の取付け治具に、支持部材を位置決めする動作を示す斜視図である。
【
図8】
図7に示す取付け治具で、2つの側面に支持部材を位置決めして固着した状態の鋼管柱の斜視図である。
【
図9】取付け治具の変形例1の挟持部材の要部正面図である。
【
図10】(a)は、取付け治具の変形例2の上部材の平面図であり、(b)は、(a)の要部正面図である。
【
図11】(a)は、取付け治具の変形例3の要部平面図、(b)は、(a)の正面図である。
【
図12】取付け治具の変形例4の要部正面図である。
【
図13】本発明に係る取付け治具の他の実施形態を鋼管柱に取付けた状態の要部右側面図である。
【
図15】
図14に示す取付け治具を組み立て後に、鋼管柱に取付けた状態の斜視図である。
【
図16】(a)は、
図14に示す取付け治具の係合爪とスペーサの詳細を示す分解斜視図、(b)はスペーサの第1変形例の分解斜視図、(c)はスペーサの第2、第3変形例の分解斜視図である。
【
図17】
図8に示す状態から、支持部材に溶接用ロボットおよび溶接用ロボットが走行する走行レール等を取付けた状態を示した模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態に係る取付け治具の一実施形態を
図1~13を参照しながら詳細に説明する。図面では、一部の構成を模式的に表現しているとともに、理解を容易にするため一部の構成を省略している。
【0022】
図1から
図3に示すように、本実施形態の取付け治具10は、上端面を有した鋼管柱1に、支持部材PA、PBを固着するための取付け治具である。なお、鋼管柱1は、下部鋼管柱1Aと上部鋼管柱1B同士の突合せ部分2を有しており、下部鋼管柱1Aには上端面2aが形成され、上部鋼管柱1Bには下端面2bが形成されている。
【0023】
下部鋼管柱1Aおよび上部鋼管柱1Bは、四角形の角形鋼管柱であるが、支持部材PA、PBを固着する固着面が平面であれば、これに限定されるものではなく、たとえば、四角形以外の多角形の角形鋼管柱(具体的には四面以上の多角形鋼管)であってもよく、四面ボックス柱など多面ボックス柱であってもよい。
【0024】
下部鋼管柱1Aの上端面2aは、概ね水平方向に沿った平坦面(水平面)であり、上部鋼管柱1Bの下端面2bは、水平方向に沿って傾斜したテーパ面であり、上端面2aと下端面2bと間には、溶接用の開先2cが形成されている。下部鋼管柱1Aは、コンクリート基礎1Cから鉛直状態に立設されており、下部鋼管柱1Aは、仮固定治具5により上部鋼管柱1Bと固定されている。下部鋼管柱1Aと上部鋼管柱1Bとを開先2cに沿って、溶接した後、仮固定治具5は、鋼管柱1から取り除かれる。
【0025】
一例として、下部鋼管柱1Aは、後述する
図8に示すように、鉛直方向の4つの側面を有している。4つの側面は、前面3Aと、前面3Aに隣接する両側面3B、3Cと、両側面3B、3Cに隣接し前面3Aと平行な背面3Dである。鋼管柱1は、前面3A、両側面3B、3Cおよび背面3Dが、湾曲面3Eを介して連続する断面四角形状に形成されている。
【0026】
本実施形態では、下部鋼管柱1Aの4つの側面のうち、少なくとも1つの側面が、支持部材PA、PBが固着される固着面であり、本実施形態では、前面3Aと背面3Dの2つの側面が固着面となっている。したがって、本実施形態では、下部鋼管柱1Aの4つの側面のうち、支持部材PA、PBが固着される固着面は、相互に反対側に位置する一対の固着面である。なお、支持部材PAが前面3Aに固着される部材であり、支持部材PBが背面3Dに固着される部材である。
【0027】
下部鋼管柱1Aと上部鋼管柱1Bの外周面の平面部、すなわち、前面3A、両側面3B、3C、背面3Dの所定位置には、複数(ここでは4つ)の突片(エレクションピースともいう)4が溶接されている。この突片4は、下部鋼管柱1Aおよび上部鋼管柱1B同士を仮固定するために設けられている。上下に配置された2つの突片4、4には、仮固定治具5が取り付けられている。
【0028】
仮固定治具5は、上下方向に延設されており、上側の端部はボルト6等を用いて突片4に締結されており、下側の端部はボルト6等を用いて突片4に締結されている。仮固定治具5は、ここでは詳細な説明を省略するが、上下に配置された2つの突片4同士の間の距離を調節可能に構成されていてもよい。これにより、上下に配置された下部鋼管柱1Aおよび上部鋼管柱1B同士の隙間を調節することが可能であるとともに、上側に配置された上部鋼管柱1Bの傾きを調節することが可能である。なお、仮固定治具5は下部鋼管柱1Aと上部鋼管柱1B同士の突合せ部分2の溶接が完了した際、又は突合せ部分2の溶接途中であっても、下部鋼管柱1Aと上部鋼管柱1B同士の間の接合強度が建設中の建物を支持するのに十分な大きさになった際に、突片4から取り外される。
【0029】
本実施形態の取付け治具10は、前面3A側と背面3D側に、それぞれ2つ、合計4つの支持部材Pを取付けるための治具であり、これらの支持部材PA、PBは、鋼管柱1の外周面に図示していない他の部材を連結するために固着される。たとえば、支持部材PA、PBは、下部鋼管柱1Aと上部鋼管柱1Bを現場で溶接する際に、溶接ロボット(図示せず)を移動可能とさせるレールを含む構造体(図示せず)を支持する部材である。
【0030】
図1に示すように、取付け治具10は、その前面3Aにおいて、鉛直方向に延在する一対の縦部材11A、11Aと、一対の縦部材11A、11Aに連結される水平方向に延在する横部材12Aと、を備えている。各縦部材11Aは、その上端部に、鋼管柱1の突合せ部分2の上端面2aに係合する係合爪13Aを有している。
【0031】
本実施形態では、後述する
図6に示すように、各縦部材11Aは、断面がL字のアングル材11aの上端に、ボルトを通す貫通孔を有する長方形のプレート(鋼板)11bが接合された部材である。プレート11bのうち、係合爪13Aは、アングル材11aから鋼管柱1の方向に突出した部分である。また、アングル材11aの下端には、ボルトを通す貫通孔を有する正方形のプレート13Gが接合されている。
【0032】
横部材12Aは、一対の縦部材11A、11Aの係合爪13A、13Aを、下部鋼管柱1Aの上端面2aに係合した状態で、前面3A(固着面)に沿って、一対の縦部材11A、11Aが水平方向に対向するように、一対の縦部材11A、11Aに連結される。本実施形態では、各縦部材11Aは、水平面で形成された上端面2aから、鉛直方向に沿った下方に同じ距離となる位置で、横部材12Aに連結されるため、横部材12Aの上面は水平面になる。
【0033】
より具体的には、
図7に示すように、一対の縦部材11A、11A同士の対向する対向面11f、11fが、支持部材PA、PAの水平方向の位置決め用の第1基準面S1となり、横部材12Aの上面が、支持部材の鉛直方向の位置決め用の第2基準面S2となる位置で、一対の縦部材11A、11Aは、横部材12Aに連結される。
【0034】
図6および
図7に示すように、本実施形態では、一対の縦部材11A、11Aは、所定の間隔Dを空けて並設され、横部材12Aから立設されるように、ボルト、ナットで連結されている。この所定の間隔Dは、各縦部材11Aが、下部鋼管柱1Aの前面3Aにおいて対向する位置に設定される。このようにして、各縦部材11Aの係合爪13Aは、下部鋼管柱1Aの湾曲面3Eに対向せず、平坦面である前面3Aに対向するため、上端面2aに対する係合爪13Aの係合が安定する。
【0035】
取付け治具10は、一対の縦部材11A、11Aの上部を連結する上部材14Aを備えている。本実施形態では、上部材14Aは、その両端において、各縦部材11Aのプレート11bに連結されている。上部材14Aにより、一対の縦部材11A、11Aの上部が固定され、これよりも下方では、横部材12Aにより、一対の縦部材11A、11Aの下部が固定される。
【0036】
したがって、一対の縦部材11A、11Aは、並設した状態を安定して維持することができ、一対の縦部材11A、11Aの間隔Dが安定的に確保される。また、一対の縦部材11A、11Aの上部が上部材14Aで連結されるため、係合爪13A、13A同士の位置関係は固定される。これにより、係合爪13A、13Aと、鋼管柱1の上端面2aとの係合状態が安定する。このようにして、一対の縦部材11A、11Aの上端を連結する上部材14A、およびこれらの下端を連結する横部材12Aにより、前面ユニットY1(
図7参照)が形成される。
【0037】
本実施形態の下部鋼管柱1Aは、背面3D側にも、一対の縦部材11B、11Bと、一対の縦部材11B、11Bに連結される横部材12Bと、を備えている。これらの構造は前面3A側のものと同様の構造である。ただし、本実施形態では、背面3D側にも、支持部材PB、PBを固着するため、一対の縦部材11B、11Bを設けているが、たとえば、支持部材PB、PBが不要である場合には、背面3D側に、横部材12Bのみを設けてもよい。この場合には、横部材12Bが、本発明でいうところの「背面部材」に相当し、後述する連結部材15、15により、横部材12A、12Bで、下部鋼管柱1Aを挟み込むことができる。
【0038】
本実施形態では、背面ユニットY2(
図7参照)は、一対の縦部材11B、11Bと、一対の縦部材11B、11Bの上端部を連結する上部材14B、一対の縦部材11B、11Bの下端を連結する横部材12Bにより形成される。各縦部材11Bは、前面ユニットY1と同様に、下部鋼管柱1Aの上端面2aに係合する係合爪13Bを有している。
【0039】
背面3Dにおいて、一対の縦部材11B、11Bの係合爪13Bを、下部鋼管柱1Aの上端面2aに係合した状態で、一対の縦部材11B、11Bは、鉛直方向に延在し、横部材12Aは、水平方向に延在する。より具体的には、背面3D側においても、一対の縦部材11B、11B同士の対向する対向面11f、11fが、各支持部材PBの水平方向の位置決め用の第1基準面S1となり、横部材12Bの上面12fが、各支持部材PBの鉛直方向の位置決め用の第2基準面S2となる位置で、一対の縦部材11B、11Bは、横部材12Bに連結される。
【0040】
一方の固着面である前面3A側の横部材12Aと、他方の固着面である背面3D側の横部材12Bとのそれぞれの両端部は、一対の連結部材15、15に連結されている。具体的には、一対の連結部材15、15は、下部鋼管柱1Aを挟んだ位置に、配置されている。より具体的には、一対の連結部材15、15は、横部材12A、12B同士で鋼管柱1を挟み込むように、一対の横部材12A、12Bを連結している。本実施形態では、一対の横部材12A、12Bが、水平状態に前面3A、背面3Dと対向し、一対の連結部材15、15が、水平状態に両側面3B、3Cと対向している。一対の横部材12A、12Bと、一対の連結部材15、15が下部鋼管柱1Aを周回している。
【0041】
ここで、一対の縦部材11A、11A(11B、11B)、一対の横部材12A、12B、一対の連結部材15、15は、全て金属製のアングル材を含んでいる。一対の横部材12A、12Bは、上部が平坦な上面12f(
図7参照)となるように配置され、一対の連結部材15、15は、平坦な下面15f(
図7参照)となるように配置されている。各横部材12A(12B)と各連結部材15とは、上面12fおよび下面15f同士が当接した状態で、ボルトおよびナットで連結されている。また、一対の縦部材11A、11A(11B、11B)は、平坦な対向面11f、11fが形成されるように配置されている。
【0042】
このように構成された取付け治具10は、鋼管柱1の外周面に4つの支持部材PA、PBを溶接等で固着する際に、支持部材PA、PBの位置決めに使用される。本実施形態では、一対の縦部材11A、11A(11B、11B)の対向面11f、11fが支持部材PA、PBの水平方向の位置決め用の第1基準面S1となる。横部材12A(12B)の上面12fが支持部材PA(PB)の鉛直方向の位置決め用の第2基準面S2となる。
【0043】
したがって、支持部材PA、PBのそれぞれに対して、第1基準面S1および第2基準面S2を当接させることにより、下部鋼管柱1Aに対する鉛直方向および水平方向における支持部材PA、PBの位置決めを行うことができる。
【0044】
ここで、取付け治具10は、固着前の支持部材Pを、各縦部材11A(11B)とともに挟持する挟持部材16をさらに備えている。本実施形態では、4つの支持部材PA、PBに合わせて、4つの挟持部材16を備えている。
図5に示すように、挟持部材16は、各横部材12A(12B)の一部を収容し、横部材12A(12B)に沿わせて移動させるスライド用の溝部16bが形成されている。挟持部材16には、溝部16bまで貫通したねじ穴が形成されており、このねじ穴に固定ボルト16aを螺着させて締め込むことにより、挟持部材16を横部材12A、12Bに固定することができる。このようにして、第1基準面S1と、第2基準面S2とで位置決めされた支持部材PA、PBを、挟持部材16で第1基準面S1側に押し付けて固定し、支持部材Pを挟持することができる。
【0045】
前記のように構成された本実施形態の取付け治具10による鋼管柱1の側面への支持部材PA、PBの位置決めおよび固着動作について、以下に述べる。先ず、取付け治具10の組み立てについて、
図6、
図7を参照して説明する。
【0046】
まず、前面3A側の一対の縦部材11A、11Aの下端に、横部材12Aをボルト、ナットで連結固定した門型ユニットを作製し、係合爪13A、13Aを下部鋼管柱1Aの上端面2aに係合する。これにより、門型ユニットの状態で、縦部材11A、11Aを、下部鋼管柱1Aの上端面2aから吊下げることができる。
【0047】
同様に、背面3D側の一対の縦部材11B、11Bの下端に、横部材12Bをボルト、ナットで連結固定した門型ユニットを作製し、係合爪13A、13Aを下部鋼管柱1Aの上端面2aに係合する。これにより、縦部材11B、11Bを、門型ユニットの状態で、下部鋼管柱1Aの上端面2aから吊下げることができる。
【0048】
この状態でも支持部材Pの位置決めは可能であるが、より安定性を高めるために、本実施形態では、上部材14A、14Bを用いる。具体的には、前面3A側において、仮固定治具5と開先2cとの間に、上部材14Aを差し込むように配置し(
図2の上部材14A参照)、門型ユニット(一対の縦部材11A、11A)の上部に上部材14Aをボルト、ナットで連結固定する。これにより、前面ユニットY1が作製される。同様に、背面3D側において、仮固定治具5と開先2cとの間に、上部材14Bを差し込むように配置し、門型ユニット(一対の縦部材11B、11B)の上部に上部材14Bをボルト、ナットで連結固定する。これにより、背面ユニットY2が作製される。
【0049】
より安定性を高めるために、本実施形態では、前面ユニットY1と背面ユニットY2を連結部材15、15で連結して、前面ユニットY1と背面ユニットY2を一体化する。これにより、一対の連結部材15、15は、前面ユニットY1の横部材12Aと、背面ユニットY2の横部材12Bとで鋼管柱1を挟み込むように、横部材12A、12Bを連結することができる。
【0050】
下部鋼管柱1Aの前面3A側において、取付け治具10の横部材12Aの上面に支持部材PAを載置し、第2基準面S2に接触させ、縦部材11Aの第1基準面S1に支持部材PAを接触させ、挟持部材16で第1基準面S1側に押圧して支持部材PAを挟持する。また、背面3D側でも、同様にして、横部材12Bの上面に支持部材PBを載置し第2基準面S2に接触させ、縦部材11Bの第1基準面S1に支持部材PBを接触させ、挟持部材16で第1基準面S1側に押圧して支持部材PBを挟持する。このようにして、下部鋼管柱1Aの前面3Aおよび背面3D側において、支持部材PA、PBの位置決めを、容易に行うことができる。
【0051】
下部鋼管柱1Aの2つの側面(前面3A、背面3D)に4つの支持部材PA、PBを位置決めしたあと、4つの支持部材PA、PBを点溶接で仮固定し、仮固定後に挟持部材16、16を外すとともに取付け治具10を外し、4つの支持部材PA、PBを露出させる。そして、4つの支持部材PA、PBのそれぞれの鋼管柱1との接触部の全周を本溶接して、下部鋼管柱1Aの前面3Aおよび背面3Dに4つの支持部材PA、PBを固着する(
図8参照)。
【0052】
本実施形態の取付け治具10によれば、下部鋼管柱1Aの前面3Aおよび背面3Dに支持部材Pを容易に位置決めすることができ、精度よく所定の位置に固着することができる。固着された4つの支持部材PA、PBは、
図8に示されるように、下部鋼管柱1Aの上端面2aから一定の高さであり、かつ、水平方向に所定の間隔Dを空けて正確に固着できる。このため、突合せ部分2を溶接する溶接ロボットを移動させるレールを設置するのに好適である。
【0053】
〔変形例1〕
つぎに、取付け治具の変形例1について、
図9を参照して説明する。
図9は、取付け治具の変形例の要部正面図である。
図7では、挟持部材16は、横部材12A、12Aにボルト等で固定する機構を有したが、本実施形態では、挟持部材17は、支持部材PA、PAを、一対の縦部材11A、11Aに向かって押し付ける機構を有している。
【0054】
具体的には、挟持部材17は、中央に位置する回転体17aと、回転体17aに螺合する押付け部17bと、回転体17aに螺合する押付け部17cと、を備えている。押付け部17bと押付け部17cは、反対方向にねじが形成されており、このねじに回転体17aが螺合している。回転体17aをねじの軸心周りの一方向に回転させることにより、押付け部17b、17cの先端を広がる方向に移動させることができ、一方向とは反対方向に回転させることにより、押付け部17b、17cの先端を狭める方向に移動させることができる。
【0055】
この挟持部材17の押付け部17b、17cを、支持部材PA、PA間に配置し、回転体17aをねじの軸心周りの一方向に回す。これにより、押付け部17bで右方の支持部材PAを縦部材11Aの第1基準面S1に押付け、押付け部17cで左方の支持部材PAを縦部材11Aの第1基準面S1に押付け、2つの支持部材PA、PAを同時に挟持することができる。このように、支持部材PA、PAを位置決めした後、これらを点溶接等により仮固定した後、回転体17aを、押圧時とは反対方向に回す。これにより、挟持部材17による2つの支持部材PA、PAの挟持を同時に解除することができる。
【0056】
〔変形例2〕
さらに、取付け治具の変形例2について、
図10を参照して説明する。
図10(a)は、取付け治具の変形例2の上部材の平面図であり、
図10(b)は、
図10(a)の要部正面図である。
図10に示す取付け治具10は、一対の縦部材が異なるものであり、他の構成については同じ符号を伏して詳細な説明は省略する。
【0057】
図10において、取付け治具10の各縦部材11Aは、下部アングル材21aと、上部アングル材21bと、下部アングル材21aおよび上部アングル材21bを連結する調整ねじ部材21cとから構成される。調整ねじ部材21cは、下部アングル材21aの上端および上部アングル材21b下端に形成された貫通孔(図示せず)に挿通されており、貫通孔を挟むよう調整ねじ部材21cに螺合したナット21d、21eにより連結されている。
【0058】
本実施形態では、上部アングル材21bおよび下部アングル材21aは、支持用のナット21dにより支持されており、調整ねじ部材21cに対してナット21dを回転させることにより、上部アングル材21bと下部アングル材21aとの距離を調整することができる。さらに、上部アングル材21bと下部アングル材21aとの間において、調整ねじ部材21cに対して、固定用のナット21e、21eを締め込むことにより、下部アングル材21aおよび上部アングル材21bに、調整用ねじ部材21cを固定することができる。このようにして、上部アングル材21bと下部アングル材21aとの距離を調整することで、一対の縦部材11A、11Aの鉛直方向の長さを調整し、係合爪13A、13Aで係合した下部鋼管柱1Aの上端面2aから横部材12Aまでの高さを調整することができる。これにより、支持部材PA、PAの第2基準面S2の高さを調整することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、上部材14Aには、一対の縦部材11A、11Aと、を連結するための貫通孔が、長手方向に沿って形成された調整用の長孔14cとなっている。この場合、横部材12Aの貫通孔も、図示しないが調整用の長孔となっている。このように、上部材14Cの貫通孔が長孔14cとなっているため、一対の縦部材11A、11Aの間隔Dを調整することができ、支持部材PA、PAの固着位置の間隔を調整することができる。
【0060】
〔変形例3〕
さらに、取付け治具の変形例3について、
図11を参照して説明する。
図11(a)は、取付け治具の変形例3の要部平面図、
図11(b)は、
図11(a)の正面図である。この変形例3では、一対の横部材12A、12Bと、一対の連結部材15、15との貫通孔が長孔となっている。このため、下部鋼管柱1Aの大きさおよび形状に合わせて一対の横部材12A、12Bの間隔と、一対の連結部材15、15の間隔を自由に設定することができる。
【0061】
各支持部材PAを挟持する挟持部材が、マグネット固定具18となっている。マグネット固定具18は、吸着面の着磁および消磁の切換えを行うことができる切換え式のマグネット固定具である。マグネット固定具18を下部鋼管柱1Aの側面に吸着させることにより、支持部材PA、PBを第1基準面S1、S1に押付けて挟持し、支持部材PA、PBの位置決めを容易に行うことができ、支持部材PA、PBの取付け後、マグネット固定具18を簡単に取り外すことができる。
【0062】
〔変形例4〕
さらに、取付け治具の他の変形例について、
図12を参照して説明する。
図12は、変形例4の要部正面図である。これまでの実施形態および変形例では、各連結部材15は、横部材に連結されていたが、たとえば、
図12に示すように、各連結部材15が、縦部材11Aに連結されていてもよい。
【0063】
さらに、これまでの実施形態および変形例では、横部材12A、12Bは、一対の縦部材11A、11Aの下端に固定されていたが、変形例4の如く、横部材12Cは、一対の縦部材11A、11Aに対して、鉛直方向に沿って移動自在に連結されていてもよい。具体的には、横部材12Cは、一対の縦部材11A、11Aの対向面11f、11fに当接し、各縦部材11Aの鉛直方向に沿って形成された長孔(図示せず)を介して、ボルトおよびナット等の締結部材によって、各縦部材11Aに取付けられていてもよい。これにより、横部材12Cを、一対の縦部材11A、11Aに対して鉛直方向に沿って位置調整した後、横部材12Cを、一対の縦部材11A、11Aに連結することができる。これにより、第2基準面S2の鉛直方向に沿った位置を所望の位置に設定することができる。
【0064】
つぎに、本発明の取付け治具の他の実施形態について図面を参照して説明する。
図13は、他の実施形態に係る取付け治具10Aを鋼管柱に取付けた状態の要部右側面図、
図14は、
図13に示す取付け治具の分解状態の斜視図、
図15は、
図14に示す取付け治具を組み立て後に、鋼管柱に取付けた状態の斜視図、
図16(a)は、
図14に示す取付け治具の係合爪とスペーサの詳細を示す分解斜視図、
図16(b)は、スペーサの第1変形例の分解斜視図、
図16(c)は、スペーサの第2、第3変形例の分解斜視図である。本実施形態の取付け治具10Aは、鋼管柱1の表面(固着面)に、たとえば建設中に作業者が足をかけるための足掛け金具を支持するための支持金具等の突起物が存在するとき、一対の縦部材が突起物を避けるために鋼管柱1との間に空間を形成するものである。
【0065】
すなわち、この実施形態の取付け治具10Aは、前記の取付け治具10と比較して、一対の縦部材11A、11Bが鋼管柱1の固着面3A、3Dから離れた状態で設置される。具体的には、
図13において、各縦部材11A、11Bは、鋼管柱1の上端面2aに係合爪13C、13Dが係合し、各縦部材が上端面2aから吊り下げられた状態において、固着面3A、3Dから間隙Sを有して離れた状態で設置される。したがって、係合爪13C、13Dは、取付け治具10の係合爪13A、13Bと比較して長さの長いものとなっている。
【0066】
係合爪13C、13Dは、各縦部材11A、11Bから下部鋼柱1Aの上端面2aに向けて延出する長さを調整する調整機構を有してもよい。具体的には、
図16(a)に示されるように、縦部材11Bの上端に固着されたプレート11bの上部に係合爪13Dが位置しており、係合爪13Dには長孔が形成され、ボルトナットで締結されている。このため、係合爪13Dはボルトナットを緩めることで長孔に沿って延出できる構造となっている。また、
図7のもの同様に、一対の連結部材15、15を設けてもよいが、一対の横部材12A、12Bが、
図7に示すものに比べて短く形成されるとともに、横部材12Aと背面部材12Bを連結する一対の連結部材15,15が省略されている。
【0067】
取付け治具10Aの各縦部材11A、11Bには、鋼管柱1の表面に対し、間隙Sを形成するように、鋼管柱1の表面に接触する複数のスペーサ25が、各縦部材11A、11Bに着脱自在に取り付けられている。
図14等ではスペーサ25は6個用いられているが、これ以上でも、以下でも可能である。たとえば各縦部材11Aの上方に各1個設けられるとともに、横部材12Aの中央部に1個設け、合計3個のスペーサを設けるように構成してもよい。複数のスペーサ25により、鋼管柱1の表面(固着面)に対して、各縦部材11A、11Bは間隙Sを形成して平行に対向するように構成されている。なお、本例では、スペーサ25を取り付ける貫通孔を多数設けてあり、任意の貫通孔を用いてスペーサ25を取り付けることができるため、あらかじめ鋼管柱1に固着された金具等を効率よく避けることができる。
【0068】
スペーサ25は、各縦部材11A、11Bから鋼管柱1の表面までの長さを調整する調整機構を有する。より具体的には、スペーサ25は、
図16(a)に詳細に示されるように、ボルト25a、ナット25bで構成され、ボルト25aを縦部材11Bの貫通孔に形成された雌ネジに螺着させながら挿通し、ナット25bを締め込むことで形成される。ボルト25aの締め込み長さで、間隙Sの大きさは決定される。したがって、鋼管柱1の表面に固着された突起物の表面からの突出量が大きいときはボルト25aの締め込み量を少なくし、ナット25bで固定される。
【0069】
図16(b)に示される第1変形例のスペーサ26は、ボルト26a、ナット26bと、金属板材を四角に屈成したスペーサ片26cで構成され、スペーサ片26cの重なり部分に形成された貫通孔にボルト26aを通し、ナット26bで縦部材11Bに固定したものである。広い間隙Sが必要な時は、スペーサ片26cを大きく形成して縦部材11Bと鋼管柱1の固着面との間を広く離して間隙Sを広くする。なお、スペーサ片は前記のように側面視で四角形でなく、三角形状でもよい。
【0070】
図16(c)に示される第2変形例のスペーサ27は、ボルト27aと、金属、樹脂等で形成されたブロック27bで構成され、縦部材11Bの貫通孔にボルト27aを挿通し、ブロック27bにねじ込んで固定するものである。ブロック27bにあらかじめ雌ねじを形成したものでもよい。また、第3変形例のスペーサ28は、金属、木材、樹脂等で形成した立方体状のブロック28aと、このブロックの中心に位置する円筒状の永久磁石28bで構成されている。このスペーサ28は鋼材等で形成された縦部材11Bの表面に磁力で吸着して固定されるものである。スペーサ28の場合、各縦部材11A、11Bの貫通孔が不要であり、任意の位置に取り付けることができる。
【0071】
上述のように構成されたスペーサ25~28を、各縦部材11A、11Bに取り付けて取付け治具10Aを鋼管柱1に装着すると、鋼管柱1の固着面3A、3Bと、各縦部材との間に間隙Sが形成され、各縦部材11A、11Bは鋼管柱1の表面から離れた状態で設置される。このため、
図15に示すように、鋼管柱1の表面に溶接等で固着された金具が存在していても、これらを避けて取付け治具10Aを所定の位置に取り付けることができる。この結果、取付け治具10Aを用いて支持部材PA、PBを鋼管柱1に精度良く固着することができ、下部鋼管柱1Aと上部鋼管柱1Bとの溶接を精度良く、安定して行うことができる。
【0072】
また、この実施形態では、一対の縦部材11A、11B(背面部材)の下部を連結する横部材12A、12Bが短く形成され、横部材12A、12Bを連結する一対の連結部材15が無いため、構成が簡略化できるとともに、小型化できるため、運搬作業、組み立て作業を簡略化できる。
【0073】
このような取付け治具10、10Aは、
図17に示すように、支持部材PA、PBとして、溶接用ロボット80および溶接用ロボット80が走行する走行レール73を支持するための支持部材用の取付け治具である。溶接用ロボット80は、走行レール73を走行しながら、下部鋼管柱1Aと上部鋼管柱1Bとの開先2cに、溶融した溶接材料を供給することにより、下部鋼管柱1Aと上部鋼管柱1Bとの溶接するものである。
【0074】
ここで、一対のレール73は、下部鋼管柱1Aを挟むように、下部鋼管柱1Aに取付けられる。本実施形態では、下部鋼管柱1Aに、一対の第1支持梁71A、71Bで挟むように、各支持部材71A(71B)を、支持片PA、PA(PB、PB)に固定する。本実施形態では、第1支持梁71A、71Bは、H形鋼などの長尺状の部材であり、後述する多関節ロボット(ロボットアーム)80が、走行するレール73と直交する方向に延在している。
【0075】
次に、下部鋼管柱1Aを挟むように、一対の第2支持梁72、72を一対の第1支持部材71A、71Bに跨って固定する。第2支持梁72は、長尺状の部材であり、各第2支持梁72には、長手方向に沿ってレール73が取付けられているので、下部鋼管柱1Aを挟むように、下部鋼管柱1Aに一対のレール73、73を、取付けることができる。なお、本実施形態では、第1支持梁71A、71Bと第2支持部材72、72とを用いて、下部鋼管柱1Aにレール73を取付けたが、たとえば、剛性が確保することができるのであれば、下部鋼管柱1Aに、レール73を取付けてもよい。
【0076】
本実施形態では、レール73は、リニアガイドレールであり、レール73には、台車(スライダ)74が取付けられている。台車74は、図示しないモータにより、レール73に沿って走行自在となっている。なお、本実施形態では、台車74の走行制御、後述する溶接用ロボット80の駆動制御、溶接用ロボット80の先端に取付けられたトーチ92による溶接条件に応じた溶接等は、制御装置(図示せず)により行われるが、たとえば、これらの作業の少なくとも一部を作業者により行ってもよい。
【0077】
本実施形態で用いられる溶接用ロボット80は、台車74に取付けられる。本実施形態で用いる溶接用ロボット80は、6軸で回動するロボットであり、溶接機に接続された多関節ロボットである。なお、溶接用ロボットは、溶接機のトーチ先端の位置を適切な位置に移動させることができるものであれば、溶接用ロボットは、たとえば、レール上を走行する溶接用ロボットや、旋回のみを行う溶接用ロボットであってもよく、溶接用ロボットの形態は、特に限定されるものではない。
【0078】
溶接用ロボット80は、溶接機(図示せず)に接続された溶接用ロボットであり、溶接用ロボット80は、台車74に取付けられる基台82と、基台82に載置され、基台82に対して旋回する旋回台83と、を備えている。旋回台83には、ロアアーム84が枢動自在に取付けられている。ロアアーム84の先端には、関節部85が枢動自在に取付けられている。関節部85には、アッパアーム86が、長手方向を軸心として回動自在に取付けられている。
【0079】
さらに、アッパアーム86の先端には、エンドエフェクタとなる溶接機のトーチ92を支持する支持アーム87が取付けられている。支持アーム87は、アッパアーム86に対して、トーチ92には、溶接ワイヤを送給するケーブル91が接続されており、ケーブル91の基端は溶接ワイヤを送給する送給装置(図示せず)に接続されている。
【0080】
取付け治具10によって取付けられた支持部材PA、PBは、溶接用ロボット80および溶接用ロボット80が走行する走行レール73を支持するものであるため、支持部材PA、PBの取付け精度の向上により、溶接用ロボット80が走行するレール73を精度良く取り付けることができる。この結果として、溶接用ロボット80をレール73上に安定して走行させることができ、下部鋼管柱1Aと上部鋼管柱1Bとの溶接を精度良く、安定して行うことができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0082】
支持部材として、金属製の長方形の支持プレートの例を示したが、板材に限られるものでなく、ブロック状のもの、軸状のもの、ボルトまたはナットなどねじが切られた部材等、適宜変更することができる。また、一対の縦部材と支持部材とを挟持する挟持部材として、ストッパ状の挟持部材と、対向する支持部材の間隔を広げる挟持部材の例、マグネット固定具の例を示したが、鋼管柱の側面に固定され、支持部材を挟んで一対の縦部材に押し付けるものであれば、他の形状のものでもよい。
【0083】
さらに、本実施形態では、縦部材と横部材の連結、横部材と連結部材の連結を、これに設けた貫通孔にボルトを挿通し、ボルトにナットを締結することにより行ったが、これらの連結を行うことができるのであれば、その連結手段は特に限定されるものではない。たとえば、貫通孔にピンを挿通することにより、これらの連結を行ってもよく、クランパーなどにより、これらを直接連結してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1:鋼管柱、1A:下部鋼管柱、2:突合せ部分、2a:上端面、10、10A:取付け治具、3A:前面(固着面)、3D:背面(固着面)、11A、11B:一対の縦部材、12A:横部材、12B:横部材(背面部材)、13A、13B、13C、13D:係合爪、14A、14B、14C:上部材、15:連結部材、16、17:挟持部材、18:マグネット固定具(挟持部材)、25、26、27、28:スペーサ、PA、PB:支持プレート(支持部材)、S1:第1基準面、S2:第2基準面、S:間隙