(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159278
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】球状ポリエステル系樹脂粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20221006BHJP
C08J 3/11 20060101ALI20221006BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20221006BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20221006BHJP
C09D 167/02 20060101ALI20221006BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221006BHJP
A61K 8/85 20060101ALI20221006BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08J3/12 Z
C08J3/12 A CFD
C08J3/11
C08J7/04 Z
C09D7/65
C09D167/02
C09D201/00
A61K8/85
A61Q19/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112270
(22)【出願日】2022-07-13
(62)【分割の表示】P 2019509365の分割
【原出願日】2018-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2017071628
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】原田 良祐
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、透明性に優れる球状ポリエステル系樹脂粒子及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】ポリエステル系樹脂を含み、結晶化度20%以下、平均円形度が0.96以上であることを特徴とする、球状ポリエステル系樹脂粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂を含み、結晶化度20%以下、平均円形度が0.96以上であることを特徴とする、球状ポリエステル系樹脂粒子。
【請求項2】
200℃で2時間加熱後の質量減少率が3%以下である、請求項1に記載の球状ポリエステル系樹脂粒子。
【請求項3】
前記ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートである、請求項1又は2に記載の球状ポリエステル系樹脂粒子。
【請求項4】
円形度が0.90以下である粒子の割合が10個数%以下である、請求項1~3いずれかに記載の球状ポリエステル樹脂粒子。
【請求項5】
光学フィルム用配合剤である、請求項1~4いずれかに記載の球状ポリエステル系樹脂粒子。
【請求項6】
塗料用配合剤である、請求項1~5いずれかに記載の球状ポリエステル系樹脂粒子。
【請求項7】
化粧料用配合剤である、請求項1~6いずれかに記載の球状ポリエステル系樹脂粒子。
【請求項8】
請求項1~7いずれかに記載の球状ポリエステル系樹脂粒子の製造方法であって、固有粘度が0.6dl/g以下のポリエステル系原料樹脂粒子を該粒子の融点より80℃以上高い温度で溶融させて球状化する溶融工程と、球状化後の粒子を前記融点以下の温度で固化する冷却工程とを有する、球状ポリエステル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7いずれかに記載の球状ポリエステル系樹脂粒子と、バインダーとを含み、前記球状ポリエステル系樹脂粒子が分散質として前記バインダーに分散されていることを特徴とする、分散液。
【請求項10】
請求項1~5いずれかに記載の球状ポリエステル系樹脂粒子を含むことを特徴とする、光学用フィルム。
【請求項11】
請求項1~4、または7いずれかに記載の球状ポリエステル系樹脂粒子を含むことを特徴とする、化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状ポリエステル系樹脂粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂粒子は、大きな比表面積及び粒子の構造を利用して、各種材料の改質及び改良に用いられている。主要用途としては、ファンデーション、制汗剤、スクラブ剤等の化粧料用の配合剤、塗料用艶消し剤、レオロジー改質剤、ブロッキング防止剤、滑り性付与剤、光拡散剤、導電剤、医療用診断検査剤等の各種剤、自動車材料、建築材料等の成形品への添加剤等の用途が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、透明な熱可塑性樹脂からなる微細粒子を溶融させて球状化する球状化処理工程を有している光拡散シート用ビーズ製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法においては、アクリル樹脂を使用する場合には透明性の高い粒子が得られていても、ポリエステル系樹脂を使用する場合には粒子の結晶化度が十分に低いとは言い難く、さらなる改良が求められるものであった。
【0006】
本発明の課題は、透明性に優れる球状ポリエステル系樹脂粒子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
[1]ポリエステル系樹脂を含み、結晶化度20%以下、平均円形度が0.96以上であることを特徴とする、球状ポリエステル系樹脂粒子、
[2][1]に記載の球状ポリエステル系樹脂粒子の製造方法であって、固有粘度が0.6dl/g以下のポリエステル系原料樹脂粒子を該粒子の融点より80℃以上高い温度で溶融させて球状化する溶融工程と、球状化後の粒子を前記融点以下の温度で固化する冷却工程とを有する、球状ポリエステル系樹脂粒子の製造方法、
[3][1]に記載の球状ポリエステル系樹脂粒子と、バインダーとを含み、前記球状ポリエステル系樹脂粒子が分散質として前記バインダーに分散されていることを特徴とする、分散液、
[4][1]に記載の球状ポリエステル系樹脂粒子を含むことを特徴とする、光学用フィルム、及び
[5][1]に記載の球状ポリエステル系樹脂粒子を含むことを特徴とする、化粧料に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、透明性に優れる球状ポリエステル系樹脂粒子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の球状ポリエステル系樹脂粒子の写真である。
【
図2】実施例2の球状ポリエステル系樹脂粒子の写真である。
【
図3】実施例3の球状ポリエステル系樹脂粒子の写真である。
【
図4】比較例1の球状ポリエステル系樹脂粒子の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(球状ポリエステル系樹脂粒子)
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子は、ポリエステル系樹脂を含み、以下の諸物性を有する。
【0011】
(1)諸物性
(a)結晶化度
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子の結晶化度は、透明性の観点から、20%以下であり、好ましくは18%以下であり、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは13%以下である。結晶化度の下限値は、特に限定されるものではないが、5%以上とすることができる。
【0012】
本明細書において、結晶化度は、以下の方法により測定される。
球状ポリエステル系樹脂粒子の結晶化度は、JIS K7122:2012「プラスチックの転移熱測定方法」に記載されている方法で測定する。但し、サンプリング方法・温度条件に関しては以下のように行う。示差走査熱量計装置 DSC6220型(エスアイアイナノテクノロジー社製)を用いアルミニウム製測定容器の底にすきまのないよう試料を約10mg充填して、窒素ガス流量20mL/minのもと30℃で2分間保持し、速度10℃/minで30℃から290℃まで昇温した時のDSC曲線を得る。その時の基準物質はアルミナを用いる。
本発明において算出される結晶化度とは、融解ピークの面積から求められる融解熱量(J/g)と結晶ピークの面積から求められる結晶化熱量(J/g)の差をポリエステル系樹脂完全結晶の理論融解熱量(例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合140.1J/g、ポリブチレンテレフタレートの場合145.5J/g)で除して求められる割合である。融解熱量及び結晶化熱量は装置付属の解析ソフトを用いて算出する。
具体的には、融解熱量は低温側のベースラインからDSC曲線が離れる点と、そのDSC曲線が再び高温側のベースラインへ戻る点とを結ぶ直線と、DSC曲線に囲まれる部分から算出される。結晶化熱量は低温側のベースラインからDSC曲線が離れる点と、そのDSC曲線が再び高温側へ戻る点とを結ぶ直線と、DSC曲線に囲まれる部分の面積から算出される。
つまり、結晶化度は次式より求められる。
結晶化度(%)=((融解熱量(J/g)-結晶化熱量(J/g))/完全結晶の理論融解熱量(J/g))×100
部分融解熱量については、得られる融解ピークに少なくとも2つ以上のピークが存在する場合は、融解ピーク中に存在する上に凸のピークトップ温度を基準に境界線を設け、その境界線から高温側および低温側に融解熱量を分割したそれぞれの面積(部分融解熱量)を読み取る。
【0013】
(b)円形度
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子の平均円形度は、光拡散性、流動性、耐傷つき性の観点から、0.96以上であり、好ましくは0.97以上であり、より好ましくは0.98以上であり、最も好ましくは1である。
【0014】
また、本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子は、光拡散性、流動性、耐傷つき性の観点から、円形度が0.90以下である粒子の割合が、好ましくは10個数%以下であり、より好ましくは5個数%以下であり、さらに好ましくは3個数%以下であり、最も好ましくは0個数%である。
【0015】
本明細書において、円形度は、以下の方法により測定される。
球状ポリエステル系樹脂粒子の円形度は、フロー式粒子像分析装置(商品名「FPIA(登録商標)-3000S」、シスメックス社製)を用いて測定する。
具体的な測定方法としては、イオン交換水20mLに、分散剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩0.05gを加えて界面活性剤水溶液を得る。その後、上記界面活性剤水溶液に、測定対象の樹脂粒子群0.2gを加え、分散機としてBRANSON社製の超音波分散機「BRANSON SONIFIER 450」(出力400W、周波数20kHz)を用いて超音波を5分間照射して、樹脂粒子群を界面活性剤水溶液中に分散させる分散処理を行い、測定用の分散液を得る。
測定には、標準対物レンズ(10倍)を搭載した上記フロー式粒子像分析装置を用い、上記フロー式粒子像分析装置に使用するシース液としては、パーティクルシース(商品名「PSE-900A」、シスメックス社製)を使用する。上記手順に従い調整した測定用の分散液を上記フロー式粒子像分析装置に導入し、下記測定条件にて測定する。
測定モード:LPFもしくはHPF測定モード(粒径により適宜選択する。目安として8μm以下の粒径の場合はHPF測定モード、8μm以上の粒径の場合はLPF測定モードを選択する。)
粒子の測定個数:10000個
測定にあたっては、測定開始前に標準ポリマー粒子群の懸濁液(例えば、Thermo Fisher Scientific社製の「5200A」(標準ポリスチレン粒子群をイオン交換水で希釈したもの))を用いて上記フロー式粒子像分析装置の自動焦点調整を行う。なお、円形度は、樹脂粒子を撮像した画像と同じ投影面積を有する真円の直径か
ら算出した周囲長を、樹脂粒子を撮像した画像の周囲長で除した値である。平均円形度は個々の粒子の円形度の合計を個数基準の頻度の合計で除した値である。円形度が0.90以下の粒子の個数の割合については、上記測定により測定された0.010の間隔(例えば0.980以上0.990未満)における個数基準の頻度のデータから算出する。
データ分析に当たり、次の範囲を設定して測定を行う。
粒子径の測定範囲:0.5μm~200μm
粒子の円形度の測定範囲:0.2~1.0
【0016】
(c)体積平均粒子径
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子の体積平均粒子径は、コーティングに用いた場合に光拡散性に優れた光学フィルムを得やすいことから、好ましくは1~300μmであり、より好ましくは1~100μmであり、さらに好ましくは3~50μmである。
【0017】
本明細書において、体積平均粒子径は、以下の方法により測定される。
球状ポリエステル系樹脂粒子の体積平均粒子径は、コールターMultisizerTM3(ベックマン・コールター社製測定装置)により測定する。測定は、ベックマン・コールター社発行のMultisizerTM3ユーザーズマニュアルに従って校正されたアパチャーを用いて実施するものとする。
なお、測定に用いるアパチャーは、測定する球状ポリエステル系樹脂粒子の大きさによって、適宜選択する。Current(アパチャー電流)及びGain(ゲイン)は、選択したアパチャーのサイズによって、適宜設定する。例えば、50μmのサイズを有するアパチャーを選択した場合、Current(アパチャー電流)は-800、Gain(ゲイン)は4と設定する。
測定用試料としては、球状ポリエステル系樹脂粒子0.1gを0.1質量%ノニオン性界面活性剤水溶液10ml中にタッチミキサー(ヤマト科学社製、「TOUCHMIXER MT-31」)及び超音波洗浄器(ヴェルヴォクリーア社製、「ULTRASONICCLEANER VS-150」)を用いて分散させ、分散液としたものを使用する。測定中はビーカー内を気泡が入らない程度に緩く撹拌しておき、球状ポリエステル系樹脂粒子を10万個測定した時点で測定を終了する。球状ポリエステル系樹脂粒子の体積平均粒子径は、10万個の粒子の体積基準の粒度分布における算術平均である。
【0018】
(d)屈折率
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子の屈折率は、コーティングに用いた場合に光拡散性の高い光学フィルムを得やすいことから、好ましくは1.560~1.590であり、より好ましくは1.565~1.585であり、さらに好ましくは1.570~1.580である。
【0019】
本明細書において、屈折率は、液浸法により測定される。
まず、スライドガラス上に球状ポリエステル系樹脂粒子を載せ、屈折液(CARGILLE社製:カーギル標準屈折液、屈折率 nD25 1.560~1.600の屈折液を、屈折率差0.002刻みで複数準備)を滴下する。そして、球状ポリエステル系樹脂粒子と屈折液をよく混ぜた後、下から岩崎電気社製高圧ナトリウムランプ NX35(中心波長589nm)の光を照射しながら、上部から光学顕微鏡により粒子の輪郭を観察する。そして、輪郭が見えない場合を、屈折液と球状ポリエステル系樹脂粒子の屈折率が等しいと判断する。
なお、光学顕微鏡による観察は、球状ポリエステル系樹脂粒子の輪郭が確認できる倍率での観察であれば特に問題ないが、粒子径5μmの粒子であれば500倍程度の観察倍率が適当である。上記操作により、球状ポリエステル系樹脂粒子と屈折液の屈折率が近いほど球状ポリエステル系樹脂粒子の輪郭が見えにくくなることから、球状ポリエステル系樹脂粒子の輪郭が判りにくい屈折液の屈折率をその球状ポリエステル系樹脂粒子の屈折率と等しいと判断する。
また、屈折率差が0.002の2種類の屈折液の間で球状ポリエステル系樹脂粒子の見え方に違いがない場合は、これら2種類の屈折液の中間の値を当該球状ポリエステル系樹脂粒子の屈折率と判断する。例えば、屈折率1.554と1.556の屈折液それぞれで試験をしたときに、両屈折液で球状ポリエステル系樹脂粒子の見え方に違いがない場合は、これら屈折液の中間値1.555を球状ポリエステル系樹脂粒子の屈折率と判定する。
なお、上記の測定においては試験室気温22℃~24℃の環境下で測定を実施する。
【0020】
(e)質量減少率
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子は、樹脂粒子中に含まれる揮発成分の塗工面へのブリードアウトを抑制する観点から、200℃で2時間加熱後の質量減少率が3%以下であることが好ましい。更に好ましくは2%以下であり、さらには1%以下である。
【0021】
(f)水分
また、本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子は、樹脂粒子中に含まれる水分が、溶剤中への均一分散性の観点から、0.01質量%~0.5質量%の範囲が好ましい。更に好ましくは、0.05質量%~0.3質量%の範囲である。なお、水分は、カールフィッシャー法で測定する。
【0022】
(2)ポリエステル系樹脂
本発明におけるポリエステル系樹脂としては特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル系樹脂、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリヒドロキシブチレートなどの脂肪族ポリエステル系樹脂が挙げられる。このうち、光学フィルム用配合剤として用いる場合は、透明性の高い球状ポリエステル樹脂粒子を得る観点から、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、ファンデーション、スクラブ、制汗剤等の化粧料用配合剤として用いる場合は、化粧料中の液体成分との屈折率差の小さい球状ポリエステル系樹脂粒子を得る観点から、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエートが好ましい。ここで、ポリエステル系樹脂はホモポリマーであることが好ましいが、ジカルボン酸成分やグリコール成分など他の成分を用いた共重合ポリマーであってもよく、他の縮合樹脂を混合させたブレンドポリマーであってもよい。
【0023】
(3)他の添加剤
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子には、性能に影響を及ぼさないのであれば、必要に応じて、他の添加剤が含まれていてもよい。他の添加剤としては、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、展着剤、気泡調整剤、充填剤、着色剤、耐候剤、老化防止剤、滑剤、防曇剤、香料などが挙げられる。なお、光学フィルム用配合剤として使用する場合には、染料や顔料等の着色剤を含まない透明な粒子が好ましい。
【0024】
(球状ポリエステル系樹脂粒子の製造方法)
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子の製造方法は、固有粘度が0.6dl/g以下のポリエステル系原料樹脂粒子を該粒子の融点より80℃以上高い温度で溶融させて球状化する溶融工程と、球状化後の粒子を前記融点以下の温度で固化する冷却工程とを有する。
【0025】
かかる製造方法により透明性に優れる球状ポリエステル系樹脂粒子が得られるメカニズムは定かではないが、上記固有粘度のポリエステル系原料樹脂粒子を融点より80℃以上高い温度で溶融することで、分子鎖の運動が激しくなる。加えて表面張力が作用することで球状化する。その後、融点以下の温度にすることで分子鎖が結晶を形成する前に固化することで結晶化度を低く抑えることができるためと推定される。
【0026】
(溶融工程)
溶融工程で使用されるポリエステル系原料樹脂粒子は、溶融後の粒子の結晶化度を低くする観点及び円形度を高くする観点から、固有粘度が0.6dl/g以下であり、好ましくは0.55dl/g以下であり、より好ましくは0.5dl/g以下であり、溶融後の粒子の強度を十分なものとする観点から、好ましくは0.2dl/g以上である。
【0027】
本明細書において、固有粘度は、以下の方法により測定される。
ポリエステル系原料樹脂粒子の固有粘度は、ポリエステル系原料樹脂粒子0.5gをテトラクロロエタン/フェノール=50/50(質量比)混合溶液100ml中に加熱溶解した後、冷却して25℃で測定された溶液粘度から算出する。
【0028】
溶融工程で使用されるポリエステル系原料樹脂粒子の結晶化度は、円形度の高い粒子を得る観点から、好ましくは30~50%であり、より好ましくは35~45%である。ポリエステル系原料樹脂粒子の結晶化度は、球状ポリエステル系樹脂粒子と同様の方法で測定される。
【0029】
溶融工程で使用されるポリエステル系原料樹脂粒子の平均円形度は、円形度の高い粒子を得る観点から、好ましくは0.50~1.00であり、より好ましくは0.60~1.00である。ポリエステル系原料樹脂粒子の円形度は、球状ポリエステル系樹脂粒子と同様の方法で測定される。
【0030】
溶融工程で使用されるポリエステル系原料樹脂粒子の体積平均粒子径は、樹脂粒子に十分な熱量を与えやすく、円形度の高い粒子を得る観点から、好ましくは1~50μmであり、より好ましくは1~30μmである。ポリエステル系原料樹脂粒子の体積平均粒子径は、球状ポリエステル系樹脂粒子と同様の方法で測定される。
【0031】
なお、溶融工程に使用されるポリエステル系原料樹脂粒子は、例えば、以下の方法により調製することができる。
【0032】
(ポリエステル系原料樹脂粒子の調製例)
ポリエステル系原料樹脂をグリコールエーテル系溶剤と接触させる工程と、接触させた後に粉砕する工程とを含む製造方法が挙げられる。
【0033】
接触工程では、ポリエステル系原料樹脂をグリコールエーテル系溶剤の存在下で、ポリエステル系原料樹脂の結晶化温度以上の温度に加温し、その後に冷却される。ここで、ポリエステル系原料樹脂としては、前記で例示したものと同様の樹脂を使用することができる。グリコールエーテル系溶剤としては、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどが挙げられる。
【0034】
粉砕工程では、公知の各種ミルを使用した方法を使用することができ、例えば、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミル、ラボミルサーの如き粉砕機で粗粉砕した後に、更に、例えば、クリプトロンシステム(川崎重工業社製)、スーパーローター(日清エンジニアリング社製)、ターボ・ミル(ターボ工業製)、パルペライザー(ホソカワミクロン社製)などの機械式粉砕機や、カレントジェットミル、スーパージェットミル(日清エンジニアリング社製)などのエアージェット方式による微粉砕機で微粉砕できる。その後、更に必要に応じて慣性分級方式のエルボージェット(日鉄鉱業社製)、遠心力分級方式のターボプレックス(ホソカワミクロン社製)、TSPセパレータ(ホソカワミクロン社製)、ファカルティ(ホソカワミクロン社製)などの分級機や篩分機を用いて分級することもできる。
【0035】
溶融工程は、溶融後の粒子の結晶化度を低くする観点及び円形度を高くする観点から、ポリエステル系原料樹脂粒子を粒子の融点より80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上高い温度で溶融させて球状化させるものである。また、溶融工程の温度は、樹脂粒子の劣化による強度低下や透明性を損なうことを抑制する観点から、粒子の融点より300℃高い温度以下であることが好ましい。例えば、ポリエステル系原料樹脂粒子として融点が250℃のポリエチレンテレフタレートを使用する場合、330~550℃で溶融させて球状化させることが好ましい。なお、本明細書において、ポリエステル系原料樹脂粒子の融点は、DSCにより得られる、昇温過程(昇温速度:20℃/min)における融点であり、JIS K-7121(1999)に基づいた方法により、25℃から300℃まで20℃/分の昇温速度で加熱(1stRUN)、その状態で5分間保持し、次いで25℃以下となるよう急冷し、再度室温から20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温を行って得られた2ndRunの結晶融解ピークにおけるピークトップの温度でもって樹脂粒子の融点とする。
【0036】
溶融工程における処理時間としては、樹脂粒子の劣化を抑制する観点から、好ましくは1秒以下である。
【0037】
溶融工程では、公知の熱風表面改質装置などを使用することができ、メテオレインボー MR Type(日本ニューマチック社製)などが挙げられる。
【0038】
溶融工程で熱風表面改質装置を使用する場合において、処理温度は熱風の温度であり、熱風の風量としては、円形度の高い粒子を得る観点から、好ましくは10~150L/g、より好ましくは12~120L/g、さらに好ましくは15~100L/gである。
【0039】
(冷却工程)
冷却工程においては、前記溶融工程において球状化後の粒子を粒子の融点以下の温度、好ましくは粒子の融点より100℃以上低い温度で固化する。冷却温度の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、0℃以上とすることができる。冷却手段としては、特に限定されるものではないが、室温雰囲気での固化の他、冷却ジャケットを具備した配管内を通過させて固化する方法などが挙げられる。
【0040】
かくして本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子が得られる。
【0041】
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子は、透明性に優れるため、ファンデーション、制汗剤、スクラブ剤等の化粧料用の配合剤、塗料用艶消し剤、レオロジー改質剤、ブロッキング防止剤、滑り性付与剤、光拡散剤、導電剤、医療用診断検査剤等の各種剤、自動車材料、建築材料等の成形品への添加剤等の用途に好適に使用される。
【0042】
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子は、分散液の態様としても好適に提供される。このような分散液としては、本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子と、バインダーとを含み、本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子が分散質としてバインダーに分散されているものである。
【0043】
バインダーとしては、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、アモルファスポリオレフィン樹脂、紫外線硬化樹脂などが挙げられる。
【0044】
分散液には、使用する用途に応じて、さらに架橋剤、溶剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒、体質顔料、着色顔料、金属顔料、マイカ粉顔料、染料等などを任意に含むことができる。
【0045】
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子を含む分散液は、光拡散性に優れるため、光拡散シートなどの光学用フィルム、艶消し塗料などに好適に使用される。例えば、光学用の基材フィルム上に前記分散液を塗布することで、本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子を含む光学用フィルムを調製することができ、かかる光学用フィルムは光拡散性に優れる。
【0046】
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子を含む分散液を光学用フィルムの用途に使用する場合において、分散液中の球状ポリエステル系樹脂粒子とバインダーの質量比(粒子/バインダー)は、光拡散性に優れる光学フィルムを得る観点から、好ましくは1/10~1/1であり、より好ましくは1/5~1/2である。
【0047】
〔光学フィルム〕
本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子は、光学フィルム用の光拡散剤として使用することができる。本発明の光学フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に、上記の本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子を含む分散液を塗工して形成されたものである。このような本発明の光学フィルムは、防眩フィルム、光拡散フィルム等として利用できる。
【0048】
前記基材フィルムの材質としては、透明性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0049】
〔化粧料〕
更に、本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子は、化粧料の配合剤として使用できる。本発明の化粧料は、本発明の球状ポリエステル系樹脂粒子を含んでいる。化粧料における球状ポリエステル系樹脂粒子の含有量は、化粧料の種類に応じて適宜設定できるが、1~80質量%の範囲内であることが好ましく、5~70質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0050】
化粧料としては、前記球状ポリエステル系樹脂粒子の含有により効果を奏するものであれば特に限定されず、例えば、プレシェーブローション、ボディローション、化粧水、クリーム、乳液、ボディシャンプー、制汗剤などの液系の化粧料;石鹸、スクラブ洗顔料などの洗浄用化粧品;パック類;ひげ剃り用クリーム;おしろい類;ファンデーション;口紅;リップクリーム;頬紅;眉目化粧品;マニキュア化粧品;洗髪用化粧品;染毛料;整髪料;芳香性化粧品;歯磨き;浴用剤;日焼け止め製品;サンタン製品;ボディーパウダー、ベビーパウダーなどのボディー用の化粧料;などが挙げられる。この中でも、液系の化粧料や洗浄用化粧料が好ましい。
【0051】
また、これらの化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲で、一般に用いられている主剤または添加物を目的に応じて配合できる。そのような主剤または添加剤としては、例えば水、低級アルコール(炭素数5以下のアルコール)、油脂およびロウ類、炭化水素、高級脂肪酸(炭素数12以上の脂肪酸)、高級アルコール(炭素数6以上のアルコール)、ステロール、脂肪酸エステル(2-エチルヘキサン酸セチルなど)、金属石鹸、保湿剤、界面活性剤(ソルビタンセスキオレエートなど)、高分子化合物、粘土鉱物類(体質顔料および吸着剤などの数種の機能を兼ね備えた成分;タルク、マイカなど)、色材原料(酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄など)、香料、防腐・殺菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シリコーン系粒子、ポリスチレン粒子などのその他の樹脂粒子、特殊配合添加物などが挙げられる。
【実施例0052】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0053】
ポリエステル系原料樹脂粒子の製造例1
接触工程
ポリエステル系原料樹脂としてポリエチレンテレフタレート(Honam Petrochemical Corp.社製 商品名GLOBIO BCB80)のペレット50g、グリコールエーテル系溶剤として3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(クラレ社製 商品名;ソルフィット)100gを攪拌機付き容量300mlのオートクレーブに投入し、185℃の条件下で2時間攪拌した。2時間後に速やかに室温まで冷却し、内容物を濾別、水洗、80℃のオーブンでの乾燥を経て、溶剤との接触済ポリエステル系原料樹脂のペレット49gを得た。
粉砕工程
前記接触済ポリエステル系原料樹脂をラボミルサー(大阪ケミカル社 小型粉砕機ラボミルサーPLUS LMPLUS)で粗粉砕した後、日清エンジニアリング社製 カレントジェットミル CJ-10(粉砕空気圧 0.5MPa)にて微粉砕処理を行った結果、体積平均粒子径7.5μm、結晶化度38%、平均円形度0.89、固有粘度0.4dl/gの微細なポリエステル系原料樹脂粒子を得た。
【0054】
ポリエステル系原料樹脂粒子の製造例2
ポリエステル系原料樹脂としてポリブチレンテレフタレート(東レ社製 商品名トレコンPBT 1401X06)を使用し、接触工程においてオートクレーブで190℃の条件下で2時間攪拌した以外は製造例1と同様にして、体積平均粒子径14.5μm、結晶化度41%、平均円形度0.88、固有粘度0.45dl/gの微細なポリエステル系原料樹脂粒子を得た。
【0055】
ポリエステル系原料樹脂粒子の製造例3
接触工程を行わず、接触済ポリエステル系原料樹脂に代えてポリエチレンテレフタレート(The Far Eastern Industry社製、商品名「CH611」)を使用した以外は製造例1と同様にして、体積平均粒子径30μm、結晶化度39%、平均円形度0.87、固有粘度1.05dl/gの微細なポリエステル系原料樹脂粒子を得た。
【0056】
実施例1~3、比較例1
表1に記載したポリエステル系原料樹脂粒子を、熱風表面改質装置(日本ニューマチック社製 メテオレインボー MR-10)を用いて表1に記載した条件で溶融させて球状化処理を行い、室温(25℃)雰囲気で固化させ、球状ポリエステル系樹脂粒子を得た。なお、溶融処理時間は1秒以下であった。得られた球状ポリエステル系樹脂粒子について、を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式:JSM-6360LV)で撮影した。写真を
図1~4に示す。
【0057】
各実施例、比較例の球状ポリエステル系樹脂粒子について、結晶化度、平均円形度、円形度が0.90以下の粒子の割合、及び体積平均粒子径を測定した。結果を表1に示す。なお、各物性の測定方法は前記のとおりである。
【0058】
【0059】
ポリエステル系原料樹脂粒子の結晶化度及び平均円形度はいずれも同様のものを使用したが、固有粘度0.6dl/g以下のポリエステル系原料樹脂粒子を使用した実施例1~3では、得られた球状ポリエステル系樹脂粒子の結晶化度が低く、円形度も高いものであった。一方、固有粘度が1.05のポリエステル系原料樹脂粒子を使用した比較例1では、得られた球状ポリエステル系樹脂粒子の結晶化度が高く、円形度も低いものであった。
【0060】
また、実施例1の球状ポリエステル系樹脂粒子について液浸法にて屈折率を確認したところ、1.572の屈折液で粒子輪郭が見えなくなり、粒子浸漬液も透明であった。一方、比較例1の球状ポリエステル系樹脂粒子ついて液浸法にて1.56~1.60の間で0.02刻みで確認したが、粒子輪郭が見えなくなる液はなかった。従って、実施例1は、比較例1に比べての透明性に優れていることがわかる。なお、実施例2、3についても実施例1と同様に透明性に優れていた。
【0061】
実施例1及び比較例1の球状ポリエステル系樹脂粒子について、水分及び質量減少率を測定した。質量減少率の測定には、TGA装置(セイコーインスツル社製TG/DTA6200)を用いて、空気雰囲気中で、40~200℃までは10℃/minで昇温し、200℃に達した後,2時間保持し、質量減少率を算出した。結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
(PETフィルム用コーティング材料製造例1)
実施例1で得られた球状ポリエステル系樹脂粒子7.5質量部と、アクリル樹脂(DIC社製、製品名アクリディックA811)30質量部、架橋剤(DIC社製、製品名VM-D)10質量部、溶剤として酢酸ブチル50質量部とを攪拌脱泡装置を用いて、3分間混合し、1分間脱泡することによって、球状ポリエステル系樹脂粒子を含む分散液を得た。得られた分散液を、クリアランス50μmのブレードをセットした塗工装置を用いて、厚さ125μmのPETフィルム上に塗布した後、70℃で10分乾燥することによってフィルムを得た。得られたフィルムのヘイズは78.6%、全光線透過率は90.8%であった。
【0064】
ヘイズ及び全光線透過率の測定は、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、商品名「NDH4000」)を使用して、JIS K 7361-1に従って測定した。
【0065】
(塗料製造例)
実施例1で得られたそれぞれの樹脂粒子2質量部と、市販のアクリル系水性つやあり塗料(カンぺパピオ社製、商品名スーパーヒット)20質量部とを、攪拌脱泡装置を用いて、3分間混合し、1分間脱泡することによって、塗料を得た。
得られた塗料を、クリアランス75μmのブレードをセットした塗工装置を用いてABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂)板上に塗布した後、乾燥することによって塗膜を得た。得られた塗膜をHORIBA社製 GLOSS CHECKER IG-330を用いて測定したグロス(60°)は14であった。
【0066】
(化粧料製造例)
化粧乳液の製造
・製造法
まず、ステアリン酸、セチルアルコール、ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレンモノオレイン酸エステルを加熱溶解して、ここへ樹脂粒子を添加・混合し、70℃に保温する(油相)。また、精製水にポリエチレングリコール、トリエタノールアミンを加え、加熱溶解し、70℃に保温する(水相)。水相に油相を加え、予備乳化を行い、その後ホモミキサーで均一に乳化し、乳化後かき混ぜながら30℃まで冷却させることで化粧乳液を得る。
・配合量
実施例1で得られた樹脂粒子 10.0質量部
ステアリン酸 2.5質量部
セチルアルコール 1.5質量部
ワセリン 5.0質量部
流動パラフィン 10.0質量部
ポリエチレン(10モル)モノオレイン酸エステル 2.0質量部
ポリエチレングリコール1500 3.0質量部
トリエタノールアミン 1.0質量部
精製水 64.5質量部
香料 0.5質量部
防腐剤 適量
本発明にかかる球状ポリエステル系樹脂粒子は、ファンデーション、制汗剤、スクラブ剤等の化粧料用の配合剤、塗料用艶消し剤、レオロジー改質剤、ブロッキング防止剤、滑り性付与剤、光拡散剤、導電剤、医療用診断検査剤等の各種剤、自動車材料、建築材料等の成形品への添加剤等として好適な樹脂粒子群を提供できる。