(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159298
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】温冷触覚提示装置、ウェアラブル端末、かゆみ抑制装置、アイシング装置、マッサージ装置、口内保持具、及び食器
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20221006BHJP
H01L 35/00 20060101ALI20221006BHJP
A61F 7/03 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G06F3/01 560
H01L35/00 S
A61F7/08 332B
A61F7/08 332R
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114631
(22)【出願日】2022-07-19
(62)【分割の表示】P 2022515935の分割
【原出願日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2021009579
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521036447
【氏名又は名称】大阪ヒートクール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】伊庭野 健造
(72)【発明者】
【氏名】菅原 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克成
(72)【発明者】
【氏名】和泉 慎太郎
(57)【要約】
【課題】同時に複数の温度情報をユーザに伝達できる温冷触覚提示装置及びウェアラブル端末を提供する。
【解決手段】本発明による温冷触覚提示装置2は、x,y方向のそれぞれに沿って並置することによりマトリクス状に配置された複数の熱電素子10と、それぞれx方向に延在する複数のロウ_ヒート線RLhと、それぞれy方向に延在する複数のカラム線CLと、を備える。複数のロウ_ヒート線RLhはそれぞれ、x方向に並ぶ複数の熱電素子10それぞれの一端に接続され、複数のカラム線CLはそれぞれ、y方向に並ぶ複数の熱電素子10それぞれの他端に接続される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の方向のそれぞれに沿って並置することによりマトリクス状に配置された複数の熱電素子と、
それぞれ前記第1の方向に延在する複数の第1のロウ線と、
それぞれ前記第2の方向に延在する複数のカラム線と、を備え、
前記複数の第1のロウ線はそれぞれ、前記第1の方向に並ぶ複数の前記熱電素子それぞれの一端に接続され、
前記複数のカラム線はそれぞれ、前記第2の方向に並ぶ複数の前記熱電素子それぞれの他端に接続される、
温冷触覚提示装置。
【請求項2】
それぞれ前記第1の方向に延在する複数の第2のロウ線、をさらに備え、
前記複数の第2のロウ線はそれぞれ、前記第1の方向に並ぶ複数の前記熱電素子それぞれの一端に接続される、
請求項1に記載の温冷触覚提示装置。
【請求項3】
前記複数の熱電素子のそれぞれに対応して設けられ、対応する前記熱電素子の一端に一方の電極が接続されてなる複数の第1のダイオード、をさらに備え、
前記複数の第1のロウ線はそれぞれ、前記第1の方向に並ぶ複数の前記熱電素子それぞれの一端に、対応する前記第1のダイオードを介して接続される、
請求項1又は2に記載の温冷触覚提示装置。
【請求項4】
前記複数の熱電素子のそれぞれに対応して設けられ、対応する前記熱電素子の一端に他方の電極が接続されてなる複数の第2のダイオード、をさらに備え、
前記複数の第2のロウ線はそれぞれ、前記第1の方向に並ぶ複数の前記熱電素子それぞれの一端に、対応する前記第2のダイオードを介して接続される、
請求項2に記載の温冷触覚提示装置。
【請求項5】
前記複数の熱電素子は、間隔を空けてフレキシブル基板上に並置される、
請求項1乃至4に記載の温冷触覚提示装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の温冷触覚提示装置を備えるウェアラブル端末。
【請求項7】
請求項2に記載の温冷触覚提示装置と、
前記第1のロウ線及び前記第2のロウ線のいずれか一方に対して電源電位及び接地電位の一方を印加する第1のドライバ回路と、
前記カラム線に対して前記電源電位及び前記接地電位の他方を印加する第2のドライバ回路と、
を備えるウェアラブル端末。
【請求項8】
センサにより検出された状態又はネットワークサービスから受信される情報に基づいて温度のパターンを決定し、決定したパターンに従って前記第1及び第2のドライバ回路を制御するプロセッサ、
をさらに備える請求項7に記載のウェアラブル端末。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記センサにより所定の引っ掻き動作を検出したことに応じて、ユーザに冷刺激及び温刺激を同時に与えることのできるパターンを前記温度のパターンとして決定する、
請求項8に記載のウェアラブル端末。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の温冷触覚提示装置を備えるかゆみ抑制装置。
【請求項11】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の温冷触覚提示装置を備えるアイシング装置。
【請求項12】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の温冷触覚提示装置を備えるマッサージ装置。
【請求項13】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の温冷触覚提示装置を備える口内保持具。
【請求項14】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の温冷触覚提示装置を備える食器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温冷触覚提示装置、ウェアラブル端末、かゆみ抑制装置、アイシング装置、マッサージ装置、口内保持具、及び食器に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルチェ素子などの熱電素子によって構成される温冷触覚提示装置が知られている。携帯電話やウェアラブル端末などのユーザ端末にこの種の装置を組み込めば、視聴覚や振動などに比べてアウェアネス(認知性)の高い温冷感によって、ユーザに情報を伝達することが可能になる。
【0003】
特許文献1,2には、そのようなユーザ端末の例が開示されている。特許文献1に記載のユーザ端末は、バーチャルに接触した物体の温度情報をユーザに伝達するために使用されるグローブ型の端末であり、指先に1つの温熱素子、又は、温熱素子及び冷却用素子の組み合わせを有して構成される。特許文献2のユーザ端末は、着信があったことを温度変化によって通知する携帯電話であり、側面にペルチェ素子を有して構成される。
【0004】
特許文献3には、携帯電話端末のリアカバーの裏側に配置した複数のペルチェ素子を用いてユーザの手を加熱又は冷却し、それによって携帯電話端末の操作性を向上する技術が開示されている。特許文献3にはまた、同時に動作させるペルチェ素子の個数を可変制御することにより、目標温度を可変にすることも開示されている。
【0005】
特許文献4には、2×2のマトリクス状に配置した4つのペルチェ素子を手首ベルトに取り付けることにより、リュウマチを抱えるユーザの手首を温める技術が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、冷刺激又は温刺激を単独で与えられても人間は痛みを感じない一方で、冷刺激及び温刺激を同時に与えられると人間は痛みを感じることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-003470号公報
【特許文献2】大韓民国特許公開第2005-0078889号明細書
【特許文献3】特開2010-171180号公報
【特許文献4】特開2001-238903号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A. D. Craig and M. C. Bushnell,"The Thermal Grill Illusion: Unmasking the Burn of Cold Pain",SCIENCE,1994年7月8日,VOL. 265,p. 252-255
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1,2に記載のユーザ端末によれば、同時に一種類の温度情報しかユーザに伝えることができない。これでは温冷感により伝達可能な情報が限られてしまうので、本願の発明者は、複数のペルチェ素子によって温冷触覚提示装置を構成し、各ペルチェ素子を個別に制御することにより、同時に複数の温度情報をユーザに伝達可能とすることを検討している。
【0010】
ここで、特許文献3,4には、温度情報の伝達を目的とするものではないが、1つの装置内に複数のペルチェ素子を設けることが開示されている。しかしながら、これらの文献に記載の技術によっても、同時に複数の温度情報をユーザに伝達することはできない。
【0011】
したがって、本発明の目的の一つは、同時に複数の温度情報をユーザに伝達できる温冷触覚提示装置、ウェアラブル端末、かゆみ抑制装置、アイシング装置、マッサージ装置、口内保持具、及び食器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による温冷触覚提示装置は、第1及び第2の方向のそれぞれに沿って並置することによりマトリクス状に配置された複数の熱電素子と、それぞれ前記第1の方向に延在する複数の第1のロウ線と、それぞれ前記第2の方向に延在する複数のカラム線と、を備え、前記複数の第1のロウ線はそれぞれ、前記第1の方向に並ぶ複数の前記熱電素子それぞれの一端に接続され、前記複数のカラム線はそれぞれ、前記第2の方向に並ぶ複数の前記熱電素子それぞれの他端に接続される、温冷触覚提示装置である。
【0013】
本発明の一側面によるウェアラブル端末は、上記温冷触覚提示装置を備えるウェアラブル端末である。
【0014】
本発明の他の一側面によるウェアラブル端末は、第1及び第2の方向のそれぞれに沿って並置することによりマトリクス状に配置された複数の熱電素子と、それぞれ前記第1の方向に延在する複数の第1のロウ線と、それぞれ前記第2の方向に延在する複数のカラム線と、それぞれ前記第1の方向に延在する複数の第2のロウ線と、を備え、前記複数の第1のロウ線はそれぞれ、前記第1の方向に並ぶ複数の前記熱電素子それぞれの一端に接続され、前記複数の第2のロウ線はそれぞれ、前記第1の方向に並ぶ複数の前記熱電素子それぞれの一端に接続され、前記複数のカラム線はそれぞれ、前記第2の方向に並ぶ複数の前記熱電素子それぞれの他端に接続される、温冷触覚提示装置と、前記第1のロウ線及び前記第2のロウ線のいずれか一方に対して電源電位及び接地電位の一方を印加する第1のドライバ回路と、前記カラム線に対して前記電源電位及び前記接地電位の他方を印加する第2のドライバ回路と、を備えるウェアラブル端末である。
【0015】
本発明によるかゆみ抑制装置は、上記温冷触覚提示装置を備えるかゆみ抑制装置である。
【0016】
本発明によるアイシング装置は、上記温冷触覚提示装置を備えるアイシング装置である。
【0017】
本発明によるマッサージ装置は、上記温冷触覚提示装置を備えるマッサージ装置である。
【0018】
本発明による口内保持具は、上記温冷触覚提示装置を備える口内保持具である。
【0019】
本発明による食器は、上記温冷触覚提示装置を備える食器である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ロウ線とカラム線の組み合わせにより個々の熱電素子の温度を制御できるので、同時に複数の温度情報をユーザに伝達することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態によるウェアラブル端末1及び温冷触覚提示装置2を示す図である。
【
図3】ウェアラブル端末1及び温冷触覚提示装置2の回路構成を示す図である。
【
図4】(a)は、ドライバ回路4の内部構成を示す図であり、(b)は、ドライバ回路5の内部構成を示す図である。
【
図5】温冷触覚提示装置2を用いてユーザに温冷感を伝達するためにプロセッサ3が行う処理を示す処理フロー図である。
【
図6】(a)及び(b)はそれぞれ、
図5のステップS2において決定されるパターンに含まれる温度分布の一例を示す図である。
【
図7】スネークパスについて説明するための図である。
【
図8】本発明の実施の形態の第1の変形例によるかゆみ抑制装置60の外観を示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態の第2の変形例によるアイシング装置70の使用状態を示す図である。
【
図10】本発明の実施の形態の第3の変形例による口内保持具80を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態の第4の変形例による食器90を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態によるウェアラブル端末1及び温冷触覚提示装置2を示す図である。ウェアラブル端末1は例えばスマートウオッチであり、時計盤の裏面1a、ベルトの内側表面1bのように、ユーザに密着する部分を有している。なお、本実施の形態によるウェアラブル端末1として、例えばヘッドマウントディスプレイやスマートグラスなどスマートウオッチ以外の端末を用いてもよいのは勿論である。また、スマートフォンなどのコンピューティング機能を有する装置とは別体の装置としてウェアラブル端末1を構成し、コンピューティング機能を有する装置からウェアラブル端末1を制御することとしてもよい。
【0024】
温冷触覚提示装置2は、マトリクス状に配置された複数の熱電素子10を有する装置である。
図1に示すように、各熱電素子10は、フレキシブル基板やストレッチャブル基板などの柔軟性のある基板上に、x方向及びy方向のそれぞれに沿って、かつ、x方向及びy方向のそれぞれに間隔を空けて並置される。このように各熱電素子10を間隔を空けて柔軟性のある基板上に配置するとともに、後述するように各熱電素子10自体も柔軟性を有していることから、温冷触覚提示装置2は高い柔軟性を有しており、z方向に屈曲可能に構成される。温冷触覚提示装置2は、この柔軟性を利用して、上述した裏面1a又は内側表面1bのように、ウェアラブル端末1内のユーザに密着する任意の部分に組み込まれる。
【0025】
図2は、個々の熱電素子10の構造を示す図である。同図に示すように、熱電素子10は、ポリイミドなどの絶縁体からなるフレキシブル基板又はエラストマーなどの弾性をもった高分子材料からなるストレッチャブル基板である基板11と、基板11上に間隔を空けて配置された複数の電極12と、隣接する2つの電極12の上面に跨がるように配置された複数の単位熱電素子13とを有して構成される。
【0026】
図2に示したノードn1,n2はそれぞれ熱電素子10の外部端子であり、各電極12は、これらノードn1,n2の間に等間隔で一列に配置されている。なお、
図2から理解されるように、各電極12によって構成される列(以下「電極列」と称する)は一直線ではなく、各単位熱電素子13の配置がマトリクス状となるように、基板11上で蛇行している。
【0027】
各単位熱電素子13は、隣接する2つの電極12のうち電極列内でノードn1寄りに位置する一方の電極12に導電性ペーストなどを用いて接着されたn型半導体20と、隣接する2つの電極12のうち電極列内でノードn2寄りに位置する他方の電極12に導電性ペーストなどを用いて接着されたp型半導体21と、n型半導体20とp型半導体21の間に配置され、これらを電気的に切り離す絶縁体22と、n型半導体20、p型半導体21、及び絶縁体22の上面(基板11と反対側の表面)に導電性ペーストなどを用いて接着された電極23と、電極23の上面を覆う基板24とを有して構成される。なお、基板24は、ポリイミドなどの絶縁体からなるフレキシブル基板をレーザーなどによって細かく切断したものである。各単位熱電素子13は間隔を空けて配置されており、その結果として、熱電素子10には高い柔軟性が付与されている。また、各単位熱電素子13の間は、電極列を介して電気的に接続されている他は、電気的に切り離されている。
【0028】
以上の構成により、電極23及び基板24の温度は、ノードn1からノードn2に対して電流を流すと上がり、ノードn2からノードn1に対して電流を流すと下がることになる。逆に、電極12及び基板11の温度は、ノードn1からノードn2に対して電流を流すと下がり、ノードn2からノードn1に対して電流を流すと上がる。温冷触覚提示装置2は、この温度変化により、ウェアラブル端末1を着用しているユーザの皮膚に温冷触覚を与える役割を果たす。なお、ウェアラブル端末1に温冷触覚提示装置2を組み込む際には、基板24側がユーザ側になるように組み込んでもよいし、基板11側がユーザ側になるように組み込んでもよいが、以下では、基板24側がユーザ側になるように組み込むこととして説明を続ける。この場合、ノードn1からノードn2に対して電流を流すとユーザに温感が伝達され、ノードn2からノードn1に対して電流を流すとユーザに冷感が伝達されることになる。
【0029】
図3は、ウェアラブル端末1及び温冷触覚提示装置2の回路構成を示す図である。同図に示すように、温冷触覚提示装置2は、複数の熱電素子10の他に、それぞれx方向に延在する複数のロウ_ヒート線RLh(第1のロウ線)及び複数のロウ_クール線RLc(第2のロウ線)と、それぞれy方向に延在する複数のカラム線CLと、複数の熱電素子10のそれぞれに対応して設けられる複数のダイオードDh(第1のダイオード)と、複数の熱電素子10のそれぞれに対応して設けられる複数のダイオードDc(第2のダイオード)とを有して構成される。
【0030】
図3には、64個の熱電素子10が8行8列のマトリクス状に配置されてなる温冷触覚提示装置2の例を示している。各熱電素子10の符号に右下付きで示した数字は、各熱電素子10のマトリクス内における座標を示している。ただし、熱電素子10の配置及び個数は8行8列の計64個に限られず、m行n列(1≦m,1≦n)の計m×n個であればよい。
【0031】
ロウ_ヒート線RLh及びロウ_クール線RLcはそれぞれ、マトリクスの各行に対して1本ずつ設けられる。ロウ_ヒート線RLhは、対応する行内に並ぶ複数の熱電素子10のそれぞれに、ダイオードDhを介して接続される。ロウ_ヒート線RLhに接続されるダイオードDhの電極は、アノードとなる。ダイオードDhのカソードは、対応する熱電素子10のノードn1に接続される。また、ロウ_クール線RLcは、対応する行内に並ぶ複数の熱電素子10のそれぞれに、ダイオードDcを介して接続される。ロウ_クール線RLcに接続されるダイオードDcの電極は、カソードとなる。ダイオードDcのアノードは、対応するダイオードDhのカソードと同じノードn1に接続される。
【0032】
カラム線CLは、マトリクスの各列に対して1本ずつ設けられる。各カラム線CLは、対応する列内に並ぶ複数の熱電素子10それぞれのノードn2に共通に接続される。
【0033】
ウェアラブル端末1は、ロウ_ヒート線RLh及びロウ_クール線RLcの組み合わせごとに1つのドライバ回路4(第1のドライバ回路)と、カラム線CLごとに1つのドライバ回路5(第2のドライバ回路)と、ドライバ回路4,5を制御するプロセッサ3とを有して構成される。このうちプロセッサ3はウェアラブル端末1の中央処理装置であり、図示しないメモリからプログラムを読み出して実行することにより、後述する各処理を実行するように構成される。また、ドライバ回路4,5はそれぞれ、プロセッサ3による制御に従って、接続される配線に流れる電流を制御する回路である。
【0034】
図4(a)は、ドライバ回路4の内部構成を示す図である。同図に示すように、ドライバ回路4は、トランジスタ40~43と、分圧回路44~47とを有して構成される。トランジスタ40~43はそれぞれバイポーラトランジスタであり、トランジスタ40,41の組み合わせ、及び、トランジスタ42,43の組み合わせにより、それぞれコレクタ出力型のSEPP(Single Ended Push-Pull)を構成している。具体的に説明すると、トランジスタ40,42はPNP型のバイポーラトランジスタによって構成され、トランジスタ41,43はNPN型のバイポーラトランジスタによって構成される。トランジスタ40,42のエミッタは電源電位に接続され、トランジスタ41,43のエミッタは接地電位に接続される。トランジスタ40~43のベースは、それぞれ分圧回路42~47を介して、各SEPPの入力端であるノードn3に接続される。ノードn3には、プロセッサ3から制御信号が供給される。トランジスタ40とトランジスタ41それぞれのコレクタは相互に接続され、トランジスタ40,41によって構成されるSEPPの出力端であるノードn4cを構成している。ノードn4cには、対応するロウ_クール線RLcが接続される。同様に、トランジスタ42とトランジスタ43それぞれのコレクタは相互に接続され、トランジスタ42,43によって構成されるSEPPの出力端であるノードn4hを構成している。ノードn4hには、対応するロウ_ヒート線RLhが接続される。
【0035】
図4(b)は、ドライバ回路5の内部構成を示す図である。同図に示すように、ドライバ回路5は、トランジスタ50,51と、分圧回路52,53とを有して構成される。トランジスタ50,51はそれぞれバイポーラトランジスタであり、
図4(a)に示したトランジスタ40,41と同様に、コレクタ出力型のSEPPを構成している。具体的に説明すると、トランジスタ50はPNP型のバイポーラトランジスタによって構成され、トランジスタ51はNPN型のバイポーラトランジスタによって構成される。トランジスタ50のエミッタは電源電位に接続され、トランジスタ51のエミッタは接地電位に接続される。トランジスタ50,51のベースは、それぞれ分圧回路52,53を介して、SEPPの入力端であるノードn5に接続される。ノードn5には、プロセッサ3から制御信号が供給される。トランジスタ40とトランジスタ41それぞれのコレクタは相互に接続され、SEPPの出力端であるノードn6を構成している。ノードn6には、対応するカラム線CLが接続される。
【0036】
図5は、温冷触覚提示装置2を用いてユーザに温冷感を伝達するためにプロセッサ3が行う処理を示す処理フロー図である。以下、この
図5を参照しながら、温冷触覚提示装置2を用いてユーザに温冷感を伝達する方法について、具体的に説明する。
【0037】
図5に示すように、プロセッサ3はまず、所定状態の発生を検出する(ステップS1)。所定状態の具体的な例としては、例えば、運転時のいねむり、作業中のふらつき、地震や台風などの災害の発生、近隣における事故の発生、電話やショートメッセージングサービスの着信、点字による情報伝達が必要となる状態などが考えられる。なお、プロセッサ3は、ウェアラブル端末1の中又は外に設けられるセンサによって検出された状態に基づいて、運転時のいねむりや作業中のふらつきを検出すればよい。また、プロセッサ3は、緊急地震速報や交通情報などのネットワークサービスから受信される情報を参照することにより、災害や事故の発生を検出すればよい。
【0038】
所定状態の発生を検出したプロセッサ3は次に、検出した状態に基づいて、ユーザに伝達する温度のパターンを決定する(ステップS2)。具体的な例では、状態と温度パターンの対応付けを示すテーブルをウェアラブル端末1内のメモリに予め格納しておき、プロセッサ3は、検出した状態に基づいてこのテーブルを参照することによって、温度パターンを決定すればよい。ステップS2で決定される温度パターンには、熱電素子10のマトリクス内における1以上の温度分布、各温度分布の繰り返しの回数及び順序、行選択の順序などが含まれる。
【0039】
図6(a)及び
図6(b)はそれぞれ、ステップS2において決定されるパターンに含まれる温度分布の一例を示す図である。
図6(a)に示すパターンは、運転時のいねむり、作業中のふらつき、地震や台風などの災害の発生、近隣における事故の発生などの危険な状態をユーザに警告するために好適に用いられるパターンであり、図示した温度分布A及び温度分布Bを所定時間間隔で交互に再現するよう構成される。温度分布Aはすべての熱電素子10の温度を1度上げるというものであり、温度分布Bは、すべての熱電素子10の温度を1度下げるというものとなっている。
【0040】
図6(b)に示すパターンは、電話やショートメッセージングサービスの着信を通知するために好適に用いられるパターンであり、図示した温度分布C及び温度分布Dを所定時間間隔で交互に再現するよう構成される。温度分布Cは、上半分の行について、左端の列から右端の列にかけて+1℃から-1℃まで等しい温度間隔で温度を設定し、下半分の行について、左端の列から右端の列にかけて-1℃から+1℃まで等しい温度間隔で温度を設定する、というものである。温度分布Dは、温度分布Cの上下(又は左右)を反転させたものとなっている。
【0041】
ステップS2で決定されるパターンとしては、
図6(a)及び
図6(b)に示したパターンの他にも各種のものが考えられる。例えば、温度分布を点字のように用いることにより、1文字ずつテキストデータを伝達することも可能である。こうして温冷感による情報の伝達を行うことで、視聴覚や振動に比べ、高いアウェアネスをもって情報を伝達することが可能になる。また、視聴覚や振動による伝達と異なり、ウェアラブル端末1を装着している人以外に情報が伝達されてしまうおそれが小さいので、高い秘匿性を保つことも可能になる。
【0042】
図5に戻る。温度のパターンを決定したプロセッサ3は、決定したパターンに従い、まず1以上の行を選択する(ステップS3)。この選択では、行単位で同じ温度分布での制御となる1以上の行が選択される。例えば
図6(a)の温度分布A,Bでは、8行すべてが選択される。一方、
図6(b)の温度分布C,Dでは、上4行又は下4行が選択される。なお、ステップS3において1つの行を選択することとしてもよいのは勿論である。
【0043】
続いてプロセッサ3は、変数nに1を代入し(ステップS4)、n番目の列を選択する(ステップS5)。そして、決定したパターンに従い、選択した行及び列に対応する1以上の熱電素子10により伝達する温度を決定する(ステップS6)。一例として、
図6(b)に示した温度分布Cの再現中であり、かつ、ステップS3(又は、後述するステップS11)で選択した行が上4行である場合について説明すると、選択した列が一番左の列であれば、ステップS6で決定される温度は+1℃となる。また、選択した列が一番右の列であれば、ステップS6で決定される温度は-1℃となる。さらに、選択した列が左から2番目の列であれば、ステップS6で決定される温度は+0.71(≒1-2/7)℃となる。
【0044】
次にプロセッサ3は、決定した温度に従ってドライバ回路4,5を制御することにより、対応する熱電素子10の温度を制御する(ステップS7)。具体的に説明すると、プロセッサ3は、決定した温度がプラスである場合には、対応するロウ_ヒート線RLhから対応するカラム線CLに向かって電流が流れるよう、ドライバ回路4,5を制御する。すなわち、
図4(a)に示したトランジスタ42、及び、
図4(b)に示したトランジスタ51がそれぞれオンとなり、
図4(a)に示したトランジスタ43、及び、
図4(b)に示したトランジスタ50がそれぞれオフとなるようにドライバ回路4,5を制御する。このとき、
図4(a)に示したトランジスタ40もオンとなるが、ダイオードDcの存在により、対応するロウ_クール線RLcに電流が流れることはない。これにより、対応する熱電素子10内をノードn1からノードn2に向かって電流が流れるので、熱電素子10の温度を上げ、ユーザに温感を伝達することが可能になる。この場合においてプロセッサ3は、トランジスタ42,51のベース-エミッタ間電圧を適宜制御して熱電素子10内を流れる電流の大きさを制御することにより、任意の温度を実現する。
【0045】
また、決定した温度がマイナスである場合、プロセッサ3は、対応するカラム線CLから対応するロウ_クール線RLcに向かって電流が流れるよう、ドライバ回路4,5を制御する。すなわち、
図4(a)に示したトランジスタ41、及び、
図4(b)に示したトランジスタ50がそれぞれオンとなり、
図4(a)に示したトランジスタ41、及び、
図4(b)に示したトランジスタ51がそれぞれオフとなるようにドライバ回路4,5を制御する。このとき、
図4(a)に示したトランジスタ43もオンとなるが、ダイオードDhの存在により、対応するロウ_ヒート線RLhに電流が流れることはない。これにより、対応する熱電素子10内をノードn2からノードn1に向かって電流が流れるので、熱電素子10の温度を下げ、ユーザに冷感を伝達することが可能になる。この場合においてもプロセッサ3は、トランジスタ41,50のベース-エミッタ間電圧を適宜制御して熱電素子10内を流れる電流の大きさを制御することにより、任意の温度を実現する。
【0046】
次にプロセッサ3は、すべての列を処理したか否かを判定する(ステップS8)。ここで処理していないと判定したプロセッサ3は、変数nに1を加算したうえで(ステップS9)、ステップS5に戻る。この繰り返し処理により、すべての列が順に処理されることになる。
【0047】
ステップS8においてすべての列を処理したと判定したプロセッサ3は、続いてすべての行を処理したか否かを判定する(ステップS10)。ここで処理していないと判定したプロセッサ3は、ステップS2で決定したパターンに従って次の1以上の行を選択したうえで(ステップS11)、ステップS4に戻る。例えば、
図6(b)に示した温度分布Cの再現中であり、かつ、ステップS3で上4行を選択していた場合であれば、プロセッサ3は、ステップS11では下4行を選択することになる。また、ステップS3で1つの行を選択していた場合であれば、プロセッサ3は、ステップS3及びステップS3の実行後に実行した過去のステップS11においてまだ選択していない行を、今回のステップS11において選択することになる。
【0048】
ステップS10においてすべての行を処理したと判定したプロセッサ3は、ステップS2で決定したパターンに従い、温度伝達を終了するか否かを決定する(ステップS12)。この判定の結果は、ステップS2で決定したパターンに含まれる各温度分布の再現回数が同パターンに含まれる繰り返し回数に達した場合に、肯定となる。ステップS12で肯定的な判定結果を得たプロセッサ3は、ユーザに温冷感を伝達するための処理を終了する。一方、ステップS12で否定的な判定結果を得たプロセッサ3は、ステップS3に戻って処理を続ける。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態によるウェアラブル端末1及び温冷触覚提示装置2によれば、ロウ_クール線RLc又はロウ_ヒート線RLhとカラム線CLとの組み合わせにより、以下で説明するスネークパスを回避しつつ個々の熱電素子10の温度を制御できるので、同時に複数の温度情報をユーザに伝達することが可能になる。また、例えばウェアラブル端末1としてヘッドマウントディスプレイを用いれば、同時に複数の温度情報をユーザに伝達することで、仮想現実体験への没入感を向上させることも可能になる。
【0050】
ここで、スネークパスについて説明する。
図7は、スネークパスについて説明するための図であり、温冷触覚提示装置2を構成する複数の熱電素子10のうちの4つの熱電素子10
33,10
34,10
43,10
44と、これらに対応するロウ_ヒート線RLh3,RLh4及びカラム線CL3,CL4とを示している。ただし同図には、ダイオードDhを設けない場合を示している。
【0051】
熱電素子10
33が温度の制御対象である場合、プロセッサ3は、
図7(a)に破線で示す電流を流す必要がある。そのためにプロセッサ3が、ドライバ回路4,5を用いて、
図7(a)に示すように、ロウ_ヒート線RLh3に電源電位VDDを印加し、カラム線CL3に接地電位GNDを印加し、他のロウ_ヒート線RLh及びカラム線CLをハイインピーダンス(High-z)の状態にしたとすると、
図7(b)に破線で示すように、熱電素子10
33以外の熱電素子10にも電流が流れてしまう。これを防ぐため、例えば
図7(c)に示すように他のカラム線CLにも電源電位VDDを印加することとしても、同図に示すように、やはり熱電素子10
33以外の熱電素子10に電流が流れてしまう。このように、意図しない熱電素子10を通過する電流パスを「スネークパス」と称する。
【0052】
スネークパスが生じていては、各熱電素子10を個別に制御することはできない。そこで本実施の形態による温冷触覚提示装置2では、各ロウ_ヒート線RLhと対応する各熱電素子10との間に、ダイオードDhを挿入することとしている。こうすることで、
図7(b)や
図7(c)に示したようなスネークパスの発生を回避できるので、各熱電素子10を個別に制御することが可能になる。各ロウ_クール線RLcと対応する熱電素子10の間にダイオードDcを挿入するのも、同様の理由による。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0054】
例えば、上記実施の形態では、ロウ_クール線RLc及びロウ_ヒート線RLhを設けることにより温感と冷感の両方を伝達できるように構成した温冷触覚提示装置2を説明したが、ロウ_クール線RLc及びロウ_ヒート線RLhの一方のみを設けることにより温感と冷感の一方のみを伝達できるように温冷触覚提示装置2を構成してもよい。この場合、ドライバ回路4,5内にSEPPを設ける必要はなく、それぞれ1つのバイポーラトランジスタを含むように構成すればよい。
【0055】
また、上記実施の形態では、ロウ_クール線RLcと熱電素子10の間にダイオードDcを設け、ロウ_ヒート線RLhと熱電素子10の間にダイオードDhを設ける例を説明したが、ダイオードDh,Dcに代えてスイッチ素子を設け、プロセッサ3によりオンオフ制御することとしてもよい。また、ロウ_クール線RLcと各熱電素子10の間、及び/又は、ロウ_ヒート線RLhと各熱電素子10の間にダイオード及びスイッチ素子のいずれも設けず、これらを直接接続することとしてもよい。この場合、スネークパスの形成は避けられないが、ある程度の温度制御を行うことは可能である。
【0056】
また、上記実施の形態では、
図1に示したx方向、y方向、z方向がそれぞれ互いに直交する1次元の方向(直線)であることを前提として説明したが、x方向、y方向、z方向は直交していなくてもよく、それぞれ3次元の方向(3次元空間内に延在する曲線)であってもよい。別の言い方をすれば、各熱電素子10は電気的にマトリクス状に配置されていればよく、物理的に碁盤の目状に配置されていなくてもよい。
【0057】
また、上記実施の形態では、基板11上に電極12や単位熱電素子13を実装した例を説明したが、基板11を省略することとしてもよい。この場合、各電極12及び各単位熱電素子13をエラストマー樹脂内に埋め込むことにより、柔軟性を確保しつつ立体的に構造を固定することとすればよい。さらに、このエラストマー樹脂内にロウ_ヒート線RLh、ロウ_クール線RLc、カラム線CLも埋め込み、温冷触覚提示装置2を全体として一塊のエラストマー樹脂により固定することとしてもよい。
【0058】
また、上記実施の形態では、ウェアラブル端末1に組み込まれる温冷触覚提示装置2に本発明を適用する例を説明したが、本発明は、他の種類の装置等に組み込まれる温冷触覚提示装置にも適用可能である。以下、そのような装置等にかかる上記実施の形態の変形例を具体的に説明する。
【0059】
図8は、上記実施の形態の第1の変形例によるかゆみ抑制装置60の外観を示す図である。同図に示すように、かゆみ抑制装置60は、棒状の筐体61と、筐体61の先端に設けられた平面部62と、筐体61の中ほどに設けられた電源スイッチ63とを有して構成される。平面部62の表面には、複数の熱電素子10がマトリクス状に配置されている。
図8には示していないが、筐体61の内部には、
図3に示した回路を構成するために必要な装置(プロセッサ3、ドライバ回路4,5など)が配置される。
【0060】
かゆみ抑制装置60は、筐体61を手に持ち、電源スイッチ63をオンにして平面部62をユーザの患部に当てることにより、ユーザのかゆみを軽減する役割を果たす装置である。もし、複数の熱電素子10のすべてが同じ温度で発熱した状態で平面部62をユーザの患部に当てたとすると、ユーザのかゆみはむしろ増大してしまう。これに対し、本発明を用いれば、
図8に例示するように複数の熱電素子10の温度を個別に制御できるので、ユーザに冷刺激及び温刺激を同時に与えることができる。したがって、非特許文献1に記載されているようにユーザに痛みを与えることができるので、本変形例によるかゆみ抑制装置60によれば、ユーザのかゆみを軽減することが可能になる。
【0061】
なお、本変形例では、平面部62に4つの熱電素子10を配置する例を説明したが、平面部62には2つ以上の熱電素子10を配置すればよい。また、
図8には、4つの熱電素子10の一方の対角に沿って冷刺激を与え、他方の対角に沿って温刺激を与える例を示しているが、他のパターンにより冷刺激及び温刺激を同時に与えることとしてもよい。
【0062】
また、
図1に示したウェアラブル端末1をかゆみ抑制装置として機能させることも可能である。この場合、ユーザの動きを検知するためのセンサ(例えば、加速度センサやジャイロセンサなど)をウェアラブル端末1に搭載し、
図5に示した処理を実行するプロセッサ3は、このセンサを用いて所定の引っ掻き動作を検出し(ステップS1)、所定の引っ掻き動作を検出したことに応じて、ユーザに伝達する温度のパターンとしてユーザに冷刺激及び温刺激を同時に与えることのできるパターンを決定し(ステップS2)、決定したパターンに従ってステップS3~S12の処理を実行すればよい。この例では、例えばユーザが右手にウェアラブル端末1をはめた状態で右足の表面を掻く動作をした場合、ユーザは、掻こうとした右足の表面ではなく右手に痛みを感じることになるが、一般に痛みはかゆみに勝ることから、ウェアラブル端末1によってユーザに右足の表面のかゆみを忘れさせること、すなわち、患部のかゆみを抑制することが可能になる。
【0063】
図9は、上記実施の形態の第2の変形例によるアイシング装置70の使用状態を示す図である。同図に示すように、アイシング装置70は、それぞれ複数の熱電素子10が一列に取り付けられた2本のバンド71,72と、各熱電素子10と電気的に接続された回路部73とを有して構成される。回路部73内には、
図3に示した回路を構成するために必要な装置(プロセッサ3、ドライバ回路4,5など)が配置される。
【0064】
アイシング装置70は、
図9に示すように、バンド71,72を人間のふくらはぎに装着した状態で使用されるもので、その基本的な役割は、運動などによって疲弊したふくらはぎをアイシングする点にある。各熱電素子10は、バンド71,72が人間のふくらはぎに装着されているとき、
図2に示した基板24側(又は基板11側)で人体に密着することとなるように、バンド71,72に取り付けられる。
【0065】
アイシング装置70は、上記のようにふくらはぎをアイシングするための装置であるが、各熱電素子10の温度を一斉に下げるだけでは、身体が冷えすぎて逆効果になってしまう場合がある。この点、本発明を用いて複数の熱電素子10の温度を個別に制御すれば、例えばふくらはぎの周回方向に冷刺激と温刺激を交互に循環させることにより、身体が冷えすぎることを防止するとともに、マッサージ効果をも得ることが可能になる。したがって、本変形例によるアイシング装置70によれば、より効果的に、ふくらはぎの疲れを取り除くことが可能になる。また、冷刺激と温刺激を同時に与えることで、第1の変形例と同様に痛みを与え、ユーザのかゆみを軽減することも可能になる。
【0066】
なお、本変形例では、2本のバンド71,72を有するアイシング装置70の例を説明したが、アイシング装置70は、1つ以上のバンドを有していればよい。また、各バンドに取り付ける熱電素子10の数は特に制限されず、アイシング装置70は、全体として2つ以上の熱電素子10を有していればよい。
【0067】
また、本変形例では、ふくらはぎ用のアイシング装置70に本発明を適用する例を説明したが、本発明は、その他のアイシング装置や、アイシングを目的としないマッサージ装置にも広く適用可能である。例えば、目(アイマスク)、耳(イヤホン)、顔面、首、背中、肩、胸、腕、太ももなどをアイシング又はマッサージする装置に対して本発明を適用することにより、これらの部位を効果的にアイシング又はマッサージすることが可能になる。部位によっては、睡眠改善、瞑想効果向上、熱中症予防、心臓への刺激による緊張緩和などの更なる効果を得ることも可能になる。
【0068】
図10は、上記実施の形態の第3の変形例による口内保持具80を示す図である。同図に示すように、口内保持具80はいわゆるフォークであり、持ち手を構成する筐体81と、筐体81の先端に取り付けられた櫛状先端部82と、櫛状先端部82の中央を口内保持具80の軸方向に貫いて設けられる断熱材料83と、櫛状先端部82のうち筐体81の内部に延在する部分の両側に配置された複数の熱電素子10とを有して構成される。各熱電素子10は、
図2に示した基板24側(又は基板11側)で櫛状先端部82に密着するように配置される。なお、
図10には筐体81の内部を図示しているが、筐体81は不透明な筒状の部材であり、実際には筐体81内の構成を外から見ることはできない。また、図示していないが、筐体81の内部には、
図3に示した回路を構成するために必要な装置(プロセッサ3、ドライバ回路4,5など)も配置される。
【0069】
櫛状先端部82の中央に断熱材料83を設けていることから、櫛状先端部82は、断熱材料83の一方側(以下、単に「一方側」という)と断熱材料83の他方側(以下、単に「他方側」という)とで別々に温度制御可能に構成される。また、複数の熱電素子10は、櫛状先端部82の一方側に密着する1以上の第1の熱電素子10aと、櫛状先端部82の他方側に密着する1以上の第2の熱電素子10bとを含んで構成される。したがって、第1の熱電素子10aと第2の熱電素子10bとで異なる温度制御を行うことにより、櫛状先端部82の一方側でユーザに冷刺激を与え、他方側でユーザに温刺激を与えることができるので、本変形例による口内保持具80によれば、痛覚刺激によりユーザの味覚を操作することが可能になる。
【0070】
なお、本変形例では、フォークである口内保持具80に本発明を適用した例を説明したが、口内に保持することのある道具であれば、本発明はどのような道具にも適用可能である。例えば、スプーンや箸など他の種類のカトラリー、ストロー、タバコなどにも、本変形例と同様に本発明を適用することが可能である。カトラリーに本発明を適用すれば、本変形例で説明したように、ユーザの味覚を操作することが可能になる。ストローやタバコに本発明を適用すれば、清涼感やアロマ感を向上することが可能になる。
【0071】
図11は、上記実施の形態の第4の変形例による食器90を示す図である。同図に示すように、食器90は円形の皿であり、マトリクス状に配置された複数の熱電素子10を底面に有して構成される。なお、
図11には食器90が円形である例を示しているが、食器90の形状は円形に限られない。各熱電素子10は、
図2に示した基板24側(又は基板11側)が上面となり、かつ、上面が食器90の底面と面一になるように、食器90の表面に埋め込まれる。また、図示していないが、食器90の内部には、
図3に示した回路を構成するために必要な装置(プロセッサ3、ドライバ回路4,5など)が埋め込まれる。
【0072】
食器90に液状又は粉状の食品を搭載した状態で複数の熱電素子10の温度を個別に制御すると、食品に対して位置ごとに異なる温度を与えることができる。例えば、
図11には、Aの文字形を構成する複数の熱電素子10が相対的に高い温度を示し、他の熱電素子10が相対的に低い温度を示すように、複数の熱電素子10の温度を個別に制御する例を示している。このような制御を行うことで、食品の表面に文字や図形などを浮き上がらせることが可能になるので、本発明による食器90によれば、食品ディスプレイを実現することが可能になる。
【符号の説明】
【0073】
1 ウェアラブル端末
1a 時計盤の裏面
1b ベルトの内側表面
2 温冷触覚提示装置
3 プロセッサ
4,5 ドライバ回路
10 熱電素子
11,24 基板
12 電極
13 単位熱電素子
20 n型半導体
21 p型半導体
22 絶縁体
23 電極
40~43,50,51 トランジスタ
44~47,52,53 分圧回路
60 かゆみ抑制装置
61,81 筐体
62 平面部
63 電源スイッチ
70 アイシング装置
71,72 バンド
73 回路部
80 口内保持具
82 櫛状先端部
83 断熱材料
90 食器
CL カラム線
Dh,Dc ダイオード
RLc ロウ_クール線
RLh ロウ_ヒート線