(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159302
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】光硬化性組成物、硬化物及び歯科用製品
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20221006BHJP
A61C 7/08 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
C08F290/06
A61C7/08
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115062
(22)【出願日】2022-07-19
(62)【分割の表示】P 2021512123の分割
【原出願日】2020-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2019068556
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒巻 俊一
(72)【発明者】
【氏名】塩出 浩久
(72)【発明者】
【氏名】木村 万依
(57)【要約】
【課題】光硬化後において、硬度の指標である曲げ強度及び曲げ弾性率を適切な範囲としつつ、靱性の指標である全破壊仕事が高い値を示す光硬化性組成物の提供。
【解決手段】光重合性成分と、光重合開始剤とを含有する光硬化性組成物であって、前記光硬化性組成物を硬化して得られた硬化物において、曲げ弾性率が1500MPa~2500MPaであり、全破壊仕事が250J/m2以上である、光硬化性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性成分と、光重合開始剤とを含有する光硬化性組成物であって、
前記光硬化性組成物を硬化して得られた硬化物において、曲げ弾性率が1500MPa~2500MPaであり、全破壊仕事が250J/m2以上である、光硬化性組成物。
【請求項2】
E型粘度計を用いて測定された、25℃、50rpmにおける粘度が、20mPa・s~3000mPa・sである、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
光造形用である、請求項1又は2に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
2つの(メタ)アクリロイルオキシ基及び2つのウレタン結合を有し、下記一般式(1)で表される化合物であるジ(メタ)アクリルモノマー(A)と、
1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)と、
光重合開始剤と、を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は、2価の鎖状炭化水素基、芳香族構造を有する2価の炭化水素基、又は脂環式構造を有する2価の炭化水素基であり、
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい2価の鎖状炭化水素基であり、
R
4及びR
5は、それぞれ独立にメチル基又は水素原子である。)
【請求項5】
前記光硬化性組成物において、アクリロイル基及びメタクリロイル基の数の合計に対するアクリロイル基の数の割合が10%以上である、請求項4に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
前記光硬化性組成物を硬化して得られた硬化物において、曲げ強度が50~70MPaである、請求項4又は5に記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
一般式(1)において、R1が芳香族構造を有する炭素数6~12の2価の炭化水素基又は脂環式構造を有する炭素数6~12の2価の炭化水素基であり、
R2及びR3が、それぞれ独立に、置換基を有しない炭素数2~6の2価の鎖状炭化水素基である、請求項6に記載の光硬化性組成物。
【請求項8】
アクリルモノマー(B)が、下記一般式(2)で表される化合物及び下記一般式(3)で表される化合物の少なくとも一方を含む、請求項4~7のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【化2】
(式(2)中、R
6は、環構造を有してもよい1価の有機基である。
式(3)中、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、環構造を有してもよい1価の有機基、又は水素原子であり、R
7及びR
8は互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項9】
アクリルモノマー(B)が、一般式(2)で表される化合物を含み、
一般式(2)において、R6が環構造を有する炭素数6~20の1価の有機基である、請求項8に記載の光硬化性組成物。
【請求項10】
ジ(メタ)アクリルモノマー(A)の重量平均分子量が、380~700である、請求項4~9のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項11】
アクリルモノマー(B)の重量平均分子量が、130~320である、請求項4~10のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の光硬化性組成物の硬化物。
【請求項13】
請求項12に記載の光硬化性組成物の硬化物を含む歯科用製品。
【請求項14】
口腔内で使用される医療器具である、請求項13に記載の歯科用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物、硬化物及び歯科用製品に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、樹脂は様々な用途に用いられており、用途に応じた特性が必要とされる。例えば、歯科で用いられるマウスピースは、顎関節症の治療や矯正治療に用いられている。
【0003】
現在、歯科用マウスピースの作製には、樹脂製のシート等を湯せんなどで加温して軟化させ、模型に圧接して成形し光重合もしくは加熱重合を行う方法が多く用いられている。
歯科で用いられるマウスピースの樹脂材料としては、主にアクリル樹脂が用いられており、例えば、特開平11-79925号公報の実施例には、ジ-2-メタクリロキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート UDMA)等のウレタンジメタクリレートと1,3-ブチレングリコールジメタクリレート等のウレタン結合を有しない二官能メタクリレート、ウレタンオリゴマー、シリカ等の無機フィラーを含むスプリント用の光硬化性組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯科用のマウスピースのうち、顎関節症の治療に用いるスプリントや、矯正治療や歯ぎしりの防止等に用いられるマウスピース、矯正された歯列を維持させるリテーナーなどは、歯列を矯正又は維持するために使用されるため、ある程度の硬度及び強度が必要とされる。一方で、口腔内で長時間に渡り使用されるものであるため、硬度が高すぎると装着時に不快感が強くなるため、曲げ強度及び曲げ弾性率は高すぎないことが望ましい。しかし、曲げ強度及び曲げ弾性率を低くすると強度(つまり、靭性)を保つことが困難になり、強度を保持しつつ、硬度を適切な範囲とすることは困難である。
【0005】
また、歯科用マウスピースには上述のとおりある程度の硬度が求められるが、硬度が高すぎると口腔内で使用した際に痛みや違和感を生じる場合もある。これは、歯科の分野においては重大な問題である。一方で、硬度を抑えた場合には靭性を高く保つことは難しいが、靭性が高くなければ長期間の使用に耐えられない。つまり、硬度を適切な範囲としつつ、靭性は高いことが望ましく、より高い強度と適切な範囲の硬度とを兼ね備えた樹脂材料が求められている。
【0006】
本開示の目的は、光硬化後において、硬度の指標である曲げ強度及び曲げ弾性率を適切な範囲としつつ、靱性の指標である全破壊仕事が高い値を示すことが可能な光硬化性組成物を提供することである。さらに、前記光硬化性組成物の硬化物、前記硬化物を含む歯科用製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討した結果、2つの(メタ)アクリロイルオキシ基及び2つのウレタン結合を有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)と、1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)と、光重合開始剤と、を含む光硬化性組成物が、光硬化後において、靱性に優れ、適切な範囲の曲げ強度及び曲げ弾性率とを有することを見出して本発明を完成させた。
即ち、前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
【0008】
<1> 2つの(メタ)アクリロイルオキシ基及び2つのウレタン結合を有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)と、1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)と、光重合開始剤と、を含む、光硬化性組成物。
<2> 前記光硬化性組成物において、アクリロイル基及びメタクリロイル基の数の合計に対するアクリロイル基の数の割合が10%以上である、<1>に記載の光硬化性組成物。
<3> 前記光硬化性組成物を硬化して得られた硬化物において、曲げ強度が50~70MPaであり、曲げ弾性率が1500~2000MPaであり、全破壊仕事が250J/m
2以上である、<1>又は<2>に記載の光硬化性組成物。
<4> ジ(メタ)アクリルモノマー(A)が、下記一般式(1)で表される化合物である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は、2価の鎖状炭化水素基、芳香族構造を有する2価の炭化水素基、又は脂環式構造を有する2価の炭化水素基であり、
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい2価の鎖状炭化水素基であり、
R
4及びR
5は、それぞれ独立にメチル基又は水素原子である。)
【0009】
<5> 一般式(1)において、R
1が芳香族構造を有する炭素数6~12の2価の炭化水素基又は脂環式構造を有する炭素数6~12の2価の炭化水素基であり、R
2及びR
3が、それぞれ独立に、置換基を有しない炭素数2~6の2価の鎖状炭化水素基である、<4>に記載の光硬化性組成物。
<6> アクリルモノマー(B)が、下記一般式(2)で表される化合物及び下記一般式(3)で表される化合物の少なくとも一方を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【化2】
(式(2)中、R
6は、環構造を有してもよい1価の有機基である。
式(3)中、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、環構造を有してもよい1価の有機基、又は水素原子であり、R
7及びR
8は互いに結合して環を形成してもよい。)
<7> アクリルモノマー(B)が、一般式(2)で表される化合物を含み、
一般式(2)において、R
6が環構造を有する炭素数6~20の1価の有機基である、<6>に記載の光硬化性組成物。
<8> ジ(メタ)アクリルモノマー(A)の重量平均分子量が、380~700である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
<9> アクリルモノマー(B)の重量平均分子量が、130~320である、請<1>~<8>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【0010】
<10> ジ(メタ)アクリルモノマー(A)の含有量が、前記光硬化性組成物に含まれる(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、300質量部以上950質量部以下である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
<11> ジ(メタ)アクリルモノマー(A)及びアクリルモノマー(B)の含有量の合計が、前記光硬化組成物に含まれる(メタ)アクリルモノマー成分の含有量の合計1000質量部に対し、800質量部以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
<12>光重合性成分と、光重合開始剤とを含有する光硬化性組成物であって、
前記光硬化性組成物を硬化して得られた硬化物において、曲げ弾性率が1500MPa~2500MPa、全破壊仕事が250J/m2以上である、光硬化性組成物。
<13> E型粘度計を用いて測定された、25℃、50rpmにおける粘度が、20mPa・s~3000mPa・sである、<1>~<12>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
<14> 光造形用である、<1>~<13>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
<15> <1>~<14>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物の硬化物。
【0011】
<16> <15>に記載の光硬化性組成物の硬化物を含む歯科用製品。
<17> 口腔内で使用される医療器具である、<16>に記載の歯科用製品。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、光硬化後において、破壊靱性に優れ、適切な範囲の曲げ強度及び曲げ弾性率を有する光硬化性組成物が提供される。
また、本発明の一形態によれば、上記光硬化性組成物の硬化物、並びに、上記光硬化性組成物の硬化物を含む歯科用製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】着脱試験のための着脱試験片の形状を示す。
【
図1B】着脱試験において着脱試験片を対象に装着した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「(メタ)アクリルモノマー」は、アクリルモノマー及びメタクリルモノマーの両方を包含する概念である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の両方を包含する概念であり、「アクリロイルオキシ基」又は「メタクリロイルオキシ基」と記載した場合には、それぞれのみを指す。
本明細書において、「ウレタン結合」は-NHC(=O)O-結合を指す。
【0015】
[光硬化性組成物]
本開示に係る光硬化性組成物は、光重合性成分と、光重合開始剤とを含有する光硬化性組成物である。
光重合性成分は、2つの(メタ)アクリロイルオキシ基及び2つのウレタン結合を有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)と、1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)と、を含むことが好ましい。
【0016】
本開示の光硬化性組成物が、2つの(メタ)アクリロイルオキシ基及び2つのウレタン結合を有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)と、1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)と、光重合開始剤とを含むことにより、光硬化後において、破壊靱性に優れ、適切な範囲の曲げ強度及び曲げ弾性率を有する。
従って、本開示の光硬化性組成物を用い、光造形によって作製された光造形物及び前記光造形物を含む歯科用製品も、破壊靱性に優れ、適切な範囲の曲げ強度、曲げ弾性率、着脱の容易さ及び着脱を繰り返した際の耐久性を有する。
【0017】
本明細書中において、「光硬化性組成物中のアクリロイル基及びメタクリロイル基の数の合計に対するアクリロイル基の数の割合」は、光硬化性組成物に含まれる全てのアクリロイル基の数を、全てのアクリロイル基及びメタクリロイル基の数の合計で除して100を乗じて%で表した値である。
【0018】
本開示の光硬化性組成物では、光硬化性組成物中のアクリロイル基及びメタクリロイル基の数の合計に対するアクリロイル基の数の割合を10%以上とすることが好ましい。10%以上とすることによって靭性を向上させることができる。靭性の向上の観点からは、光硬化性組成物中のアクリロイル基及びメタクリロイル基の数の合計に対するアクリロイル基の数の割合は、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上、60%以上、70%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0019】
本開示の光硬化性組成物は、光硬化によって得られる光硬化物おいて、曲げ強度(曲げ強さ)が50MPa~100MPaの範囲であり、曲げ弾性率が1500MPa~2500MPaの範囲であり、全破壊仕事が250J/m2以上であることが好ましい。曲げ強度、曲げ弾性率及び全破壊仕事のそれぞれが前記範囲を満たすことは、得られる光硬化物が靱性に優れ、かつ、適切な範囲の硬度を有する光硬化物であることを示す。
【0020】
曲げ強度が50MPa以上で曲げ弾性率が1500MPa以上であれば、本開示の光硬化性組成物の硬化物を、例えば歯科用製品に用いた場合に実用的に充分な硬度である。曲げ強度が100MPa以下で曲げ弾性率が2500MPa以下であれば、本開示の光硬化性組成物の硬化物を、例えば口腔内で使用される医療器具に用いた場合に、痛みを生じることなく良好な使用感を得ることができる。
【0021】
本開示の光硬化性組成物を硬化して得られた硬化物において、曲げ弾性率は1500~2500MPa以下であることがさらに好ましく、2000MPa以下であることが特に好ましい。好適な曲げ弾性率の範囲は、例えば、1500MPa~2500MPa、1500MPa~2000MPaである。また、全破壊仕事は250J/m2以上であることが好ましい。この範囲とすることにより、さらに良好な使用感及び強度を得ることができる。全破壊仕事は、300J/m2以上であることが更に好ましく、400J/m2以上であることが更に好ましく、500J/m2以上であることが特に好ましい。全破壊仕事の上限は特に規定することを要さないが、例えば、1100J/m2未満であることが好ましい。
上記範囲とすることによって、スプリントなどの口腔内で使用する医療器具に形成した場合に、痛みを生じることなく良好な使用感が得られると共に装着後の取り外しを容易にすることができる。
また、曲げ弾性率が2500MPa以下であり、かつ、全破壊仕事は250J/m2以上であることにより、口腔内で使用される医療器具に用いた場合に着脱が容易であり、着脱を繰り返した際の耐久性に優れる。
ISO20795-2に記載されている通り、曲げ強度を50MPa以上、曲げ弾性率1500MPa以上とすることが、本開示の光硬化性組成物の硬化物を、例えば口腔内で使用される医療器具に用いた場合に好適な使用感及び強度及び耐久性が得られる。
【0022】
本開示の光硬化性組成物は、光硬化によって得られる光硬化物おいて、曲げ強度(曲げ強さ)が50MPa~70MPaの範囲であり、曲げ弾性率が1500MPa~2000MPaの範囲であり、かつ、全破壊仕事が250J/m2以上であることがより好ましい。全破壊仕事は、300J/m2以上であることが更に好ましく、400J/m2以上であることが更に好ましく、500J/m2以上であることが特に好ましい。曲げ弾性率を前記範囲とすることによって、本開示の光硬化性組成物の硬化物を、例えば口腔内で使用される医療器具に用いた場合に痛みを生じにくく、さらに良好な使用感が得られる。曲げ弾性率を抑制しつつ、全破壊仕事を高く保つことによって使用感に優れ、強度にも優れる医療器具とすることができる。また、曲げ弾性率及び全破壊仕事を前記範囲とすることによって、口腔内で使用される医療器具に用いた場合に着脱が容易であり、着脱を繰り返した際の耐久性に優れる医療器具を得ることができる。
【0023】
曲げ強度及び曲げ弾性率は、本開示の光硬化性組成物を、64mm×10mm×厚さ3.3mmの大きさに造形して造形物とし、得られた造形物に対し10J/cm2の条件で紫外線照射して光硬化させて光造形物(即ち、硬化物。以下同じ。)とし、得られた光造形物を37±1℃の恒温水槽にて50±2時間保管し、保管後にISO20795-1:2008(又は、JIS T 6501:2012)に準拠して曲げ強度(曲げ強さ)及び曲げ弾性率を測定する。
【0024】
また、全破壊仕事(J/cm2)は、曲げ試験による破壊靱性試験によって得られる。 本開示の光硬化性組成物を、39mm×8mm×厚さ4mmの大きさに造形して造形物とし、得られた造形物に対し10J/cm2の条件で紫外線照射して光硬化させて光造形物とし、ISO20795-1:2008に準拠し、得られた光造形物にノッチ加工を施した上で37±1℃の恒温水槽にて7日間±2時間保管し、保管後に、押込み速度1.0±0.2mm/分の条件で曲げ試験による破壊靱性試験を行って全破壊仕事(J/m2)を測定する。
【0025】
本開示の光硬化性組成物は、光造形に好適に用いられる。本開示において、「光造形」は、3Dプリンタを用いた三次元造形方法のうちの1種である。
光造形の方式としては、SLA(Stereo Lithography Apparatus)方式、DLP(Digital Light Processing)方式、インクジェット方式などが挙げられる。
本実施形態の光硬化性組成物は、SLA方式又はDLP方式の光造形に特に好適である。
【0026】
SLA方式としては、スポット状の紫外線レーザー光を光硬化性組成物に照射することにより立体造形物を得る方式が挙げられる。
SLA方式によって歯科用製品等を作製する場合、例えば、本実施形態の光硬化性組成物を容器に貯留し、光硬化性組成物の液面に所望のパターンが得られるようにスポット状の紫外線レーザー光を選択的に照射して光硬化性組成物を硬化させ、所望の厚みの硬化層を造形テーブル上に形成し、次いで、造形テーブルを降下させ、硬化層の上に1層分の液状光硬化性組成物を供給し、同様に硬化させ、連続した硬化層を得る積層操作を繰り返せばよい。これにより、歯科用製品等を作製することができる。
【0027】
DLP方式としては、面状の光を光硬化性組成物に照射することにより立体造形物を得る方式が挙げられる。
DLP方式によって立体造形物を得る方法については、例えば、特許第5111880号公報及び特許第5235056号公報の記載を適宜参照することができる。
DLP方式によって歯科用製品等を作製する場合、例えば、光源として高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプなどのレーザー光以外の光を発射するランプ、LEDなどを用い、光源と光硬化性組成物の造形面との間に、複数のデジタルマイクロミラーシャッターを面状に配置した面状描画マスクを配置し、前記面状描画マスクを介して光硬化性組成物の造形面に光を照射して所定の形状パターンを有する硬化層を順次積層させればよい。これにより、歯科用製品等を作製することができる。
【0028】
インクジェット方式としては、インクジェットノズルから光硬化性組成物の液滴を基材に連続的に吐出し、基材に付着した液滴に光を照射することにより立体造形物を得る方式が挙げられる。
インクジェット方式によって歯科用製品等を作製する場合、例えば、インクジェットノズル及び光源を備えるヘッドを平面内で走査させつつ、インクジェットノズルから光硬化性組成物を基材に吐出し、かつ吐出された光硬化性組成物に光を照射して硬化層を形成し、これらの操作を繰り返して、硬化層を順次積層させればよい。これにより、歯科用製品等を作製することができる。
【0029】
本開示の光硬化性組成物は、光造形による歯科用製品の作製に対する適性の観点から、E型粘度計を用いて測定された、25℃、50rpmにおける粘度が、20mPa・s~5000mPa・sであることが好ましい。前記粘度の下限は、50mPa・sであることがより好ましい。前記粘度の上限は、3000mPa・sであることがより好ましく、2000mPa・sであることがより好ましく、1500mPa・sであることがさらに好ましく、1200mPa・sであることが特に好ましい。
【0030】
次に、本開示の光硬化性組成物の成分について説明する。
本開示の光硬化性組成物は、光重合性成分を少なくとも1種含有する。
光重合性成分としては、エチレン性二重結合を含む化合物が挙げられる。
エチレン性二重結合を含む化合物としては、(メタ)アクリルモノマー、スチレン、スチレン誘導体、(メタ)アクリロニトリル、等が挙げられる。
光重合性成分としては、国際公開第2019/189652号の段落0030~段落0059に記載の光重合性成分を用いてもよい。
光重合性成分は、(メタ)アクリルモノマーを少なくとも1種含むことが好ましい。
【0031】
(メタ)アクリルモノマー成分を構成する(メタ)アクリルモノマーとしては、分子中に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーであればよく、その他には特に制限はない。
(メタ)アクリルモノマーは、単官能(メタ)アクリルモノマー(即ち、分子中に1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)であっても、2官能(メタ)アクリルモノマー(即ち、分子中に2つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)であっても、多官能(メタ)アクリルモノマー(即ち、3官能以上の(メタ)アクリルモノマー;即ち、分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)であってもよい。
【0032】
本開示の光硬化性組成物における光重合性成分は、2つの(メタ)アクリロイルオキシ基と2つのウレタン結合とを有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)、及び、
1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)の少なくとも一方を含むことが好ましく、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)及びアクリルモノマー(B)の両方を含むことがより好ましい。
光重合性成分がジ(メタ)アクリルモノマー(A)及びアクリルモノマー(B)の少なくとも一方(好ましくは両方)を含む場合には、前記した好ましい曲げ弾性率及び/又は全破壊仕事の範囲を達成しやすい。
全破壊仕事を維持しつつ、曲げ弾性率及び曲げ強度を調整する方法としては、アクリルモノマー(B)の種類と比率を調整することが挙げられる。例えば、アクリルモノマー(B)の芳香環濃度を増やすことで、全破壊仕事を維持しつつ、曲げ弾性率及び曲げ強度が上げることができ、芳香環濃度を減らすことで、全破壊仕事を維持しつつ、曲げ弾性率及び曲げ強度が下げることができる。また、特に、全破壊仕事を向上させるためには、アクリルモノマー(A)の芳香環濃度を増やすことで調整することができる。また、特に、全破壊仕事を向上させ、曲げ弾性率及び曲げ強度を低く調整するためには、アクリルモノマー(B)の含有量を増やすことで達成しやすい。
【0033】
<2つの(メタ)アクリロイルオキシ基及び2つのウレタン結合を有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)>
本開示の光硬化性組成物は、2つの(メタ)アクリロイルオキシ基及び2つのウレタン結合を有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)を含むことが好ましい。ジ(メタ)アクリルモノマー(A)は、2つの(メタ)アクリロイルオキシ基以外の(メタ)アクリロイルオキシ基を有さない。ジ(メタ)アクリルモノマー(A)は、2つのウレタン結合以外のウレタン結合を有さない。
ジ(メタ)アクリルモノマー(A)は、2つの(メタ)アクリロイルオキシ基及び2つのウレタン結合を有するジ(メタ)アクリルモノマーであれば、1種類を用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0034】
ジ(メタ)アクリルモノマー(A)は、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0035】
【化3】
式(1)中、R
1は、2価の鎖状炭化水素基、芳香族構造を有する2価の炭化水素基、又は脂環式構造を有する2価の炭化水素基であり、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい2価の鎖状炭化水素基であり、R
4及びR
5は、それぞれ独立にメチル基又は水素原子である。
【0036】
式(1)中、R1としては、芳香族構造を有する2価の炭化水素基、又は脂環式構造を有する2価の炭化水素基であることが好ましい。R1に環構造を含むことによって、粘度が抑制され、靭性が向上し、適切な範囲の曲げ強度および曲げ弾性率となる。
【0037】
式(1)のR1において、2価の鎖状炭化水素基の炭素数としては、炭素数1~20であることが好ましく、1~10であることがさらに好ましく、2~6であることが特に好ましい。2価の鎖状炭化水素基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、飽和でも不飽和でもよく、置換基を有していてもよい。好ましくは、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖アルキレン基であり、より好ましくは炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖アルキレン基であり、特に好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖アルキレン基である。
【0038】
2価の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基の具体例として、例えば、直鎖状又は分岐鎖状の、メチレン基、エチレン基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基、ヘキサンジイル基、ヘプタンジイル基、オクタンジイル基、ノナンジイル基、デカンジイル基、ウンデカンジイル基、ドデカンジイル基、トリデカンジイル基、テトラデカンジイル基、ペンタデカンジイル基、オクタデカンジイル基、エイコシレン基、ビニレン基、プロペンジイル基、ブテンジイル基、ペンテンジイル基、エチニレン基、プロピニレン、2,4,4-トリメチルヘキシレン基が挙げられる。これらのうち、2,4,4-トリメチルヘキシレン基が特に好ましい。
【0039】
式(1)のR1において、芳香族構造を有する2価の炭化水素基としては、置換基を有していても良い炭素数6~20の芳香族構造を有する2価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数が6~12であることがさらに好ましく、炭素数が6~10であることが特に好ましい。
芳香族構造を有する2価の炭化水素基の例としては、アリーレン基、アルキレンアリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、及びアリーレンアルキレンアリーレン基を挙げることができる。
粘度が抑制され、適度な曲げ強度及び曲げ弾性率を有しつつ、高い全破壊仕事が得られる点から、R1はアルキレンアリーレン基又はアルキレンアリーレンアルキレン基であることが好ましい。
【0040】
アリーレン基、アルキレンアリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、アルキルアリーレン基及びアリーレンアルキレンアリーレン基の具体例としては、1,3-又は1,4-フェニレン基、1,3-又は1,4-フェニレンジメチレン基及び1,3-又は1,4-フェニレンジエチレン基が挙げられる。
【0041】
式(1)のR1において、脂環式構造を有する2価の炭化水素基としては、炭素数3~20であることが好ましく、6~12であることがさらに好ましく、6~8であることが特に好ましい。
脂環式構造としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロヘキセニレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロウンデシレン基、シクロドデシレン基、シクロトリデシレン基、シクロテトラデシレン基、シクロペンタデシレン基、シクロオクタデシレン基、シクロイコシレン基、ビシクロへキシレン基、ノルボルニレン基、イソボルニレン基、アダマンチレン基を挙げることができる。これらのうち、ノルボルニレン基、イソボルニレン基が好ましい。
【0042】
R1が脂環式構造を有する2価の炭化水素基である場合、特に好適な例は以下の通りである。*は結合位置を表す。
【0043】
【0044】
式(1)のR1は置換基を有していてもよく、置換基としては炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルキル基が挙げられる。
【0045】
式(1)のR1において、脂環式構造を有する2価の炭化水素基は、同じでも異なっていてもよい2つの2価のアルキレン基(例えば、炭素数1~3のアルキレン基)それぞれの一方の結合手を介して脂環式構造と結合した構造を有する2価の炭化水素基(つまり、2つの2価のアルキレン基の間に脂環式構造が結合した構造を有する)、又は、1つの2価のアルキレン基(例えば、炭素数1~3のアルキレン基)の一方の結合手を介して脂環式構造と結合した構造を有する2価の炭化水素基であることが好ましく、2つのメチレン基の間に脂環式構造を有するもの又は1つのメチレン基の一方の結合手を介して脂環式構造と結合するものがさらに好ましい。
【0046】
式(1)において、R2及びR3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい2価の鎖状炭化水素基である。R2及びR3として好適な2価の鎖状炭化水素基は、R1として好適な2価の鎖状炭化水素基と同様である。ただし、R2及びR3としては、炭素数2~6であることがさらに好ましく、炭素数2~3であることがより好ましい。また、粘度を抑制できる観点から、置換基を有していない炭素数2~6の2価の鎖状炭化水素基であることが好ましく、炭素数が2~3であることが特に好ましい。
【0047】
R2及びR3が置換基を有している場合、置換基としては、例えば、メチル基、エチル基などの炭素数1~6のアルキル基;アリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素数3~6のシクロアルキル基;トリル基:キシリル基:クミル基;スチリル基:メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、プロポキシフェニル基などのアルコキシフェニル基;が挙げられる。
【0048】
ジ(メタ)アクリルモノマー(A)として好適な化合物として、例えば、m‐キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシナネート及びイソホロンジイソシアネートからなる群から選択される1つのイソシアネートと、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、及び4-ヒドロキブチルアクリレートからなる群から選択される1つのヒドロキシアクリレートとの反応物であるウレタンジアクリルモノマーや、後述する実施例で使用されるジ(メタ)アクリルモノマー(A)が挙げられる。
【0049】
ジ(メタ)アクリルモノマー(A)の分子量は、重量平均分子量が380~700であることが好ましく、400~650であることがさらに好ましい。
【0050】
ジ(メタ)アクリルモノマー(A)は、市販のモノマーから合成してもよい。例えば、ヒドロキシ(メタ)アクリレート2分子と、ジイソシアネート1分子とからジ(メタ)アクリルモノマー(A)を合成してもよい。
好適なヒドロキシ(メタ)アクリレートの例は以下の通りである。下記構造のうち、「Et」はエチル基を示す。
【0051】
【0052】
好適なジイソシアネート例は以下の通りである。下記構造のうち、「Me」はメチル基を示す。
【0053】
【0054】
<1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)>
本開示の光硬化性組成物は、1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)を含む。アクリルモノマー(B)は、1つのアクリロイル基以外にアクリロイル基を有さない。
アクリルモノマー(B)は、1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマーであれば、1種類を用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0055】
アクリルモノマー(B)は、下記一般式(2)又は(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0056】
【0057】
式(2)中、R6は、環構造を有してもよい1価の有機基である。
式(3)中、R7及びR8は、それぞれ独立に、環構造を有してもよい1価の有機基、又は水素原子であり、R7及びR8は互いに結合して環を形成してもよい。
【0058】
アクリルモノマー(B)は、一般式(2)で表される化合物であることが好ましく、R6は環構造を有する炭素数3~30の1価の有機基であることが好ましく、環構造を有する炭素数6~20の1価の有機基であることがより好ましい。
【0059】
式(2)中、R6は、下記一般式(4)で表される構造であってもよい。
*-L1-A (4)
式(4)中、L1は、単結合又は炭素数1~30のO又はNであるヘテロ原子を有していてもよい2価の鎖状炭化水素基であり、Aは、水素原子、炭素数3~30のO又はNであるヘテロ原子を有していてもよい1価の脂環式基、又は、炭素数6~30のアリール基である。*は結合位置を表す。
【0060】
一般式(4)中、L1で表される炭素数1~30のO又はNであるヘテロ原子を有していてもよい2価の鎖状炭化水素基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
L1は炭素数が1~20であることがより好ましく、1~10であることが更に好ましく、1~8であることが特に好ましい。
L1がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子の数は1~3であることが好ましく、1又は2であることがさらに好ましい。
【0061】
L1は置換基を有していてもよい。L1の置換基の好適な例としては、炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基、水素原子のうち1又は2がヒドロキシ基で置換された炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。
L1はウレタン結合を含んでいてもよい。L1はウレタン結合を含む場合、ウレタン結合の数は1又は2であってよい。
【0062】
L
1の例としては、例えば、以下の構造が挙げられる。
【化8】
【0063】
式(4)中、Aで表される炭素数3~20のO又はNであるヘテロ原子を有していてもよい1価の脂環式基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロペンタデシル基、シクロオクタデシル基、シクロイコシル基、ビシクロへキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、モルホリル基、ピペリジノ基、ピペラジノ基、ジオキサン基を挙げることができる。1価の脂環式基の炭素数は、5~12であることが好ましく、6~10であることがさらに好ましい。
【0064】
式(4)中、Aで表される炭素数6~30のアリール基における芳香族構造としては、例えば、フェニル構造、ビフェニル構造、ナフチル構造、アントリル構造が挙げられる。
【0065】
Aは置換基を有していてもよい。Aの置換基の好適な例としては、メチル基、エチル基などの炭素数1~6のアルキル基;ヒドロキシ基;1つ又は2つのヒドロキシ基で置換された炭素数1~6のアルキル基;アリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素数3~6のシクロアルキル基;トリル基:キシリル基:クミル基;スチリル基:メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、プロポキシフェニル基などのアルコキシフェニル基;が挙げられる。
【0066】
Aとしては、例えば、以下の例を挙げることができる。*は結合位置を表す。
【0067】
【0068】
式(4)で表される有機基の炭素数の合計は、1~30であることが好ましく、1~20であることがさらに好ましい。
【0069】
一般式(3)において、R7及びR8は、それぞれ独立に、環構造を有してもよい1価の有機基、又は水素原子であり、R7及びR8は互いに結合して環を形成してもよい。
好適なR7及びR8としては、炭素数1~30のO又はNであるヘテロ原子を有していてもよい1価の炭化水素基が挙げられる。前記鎖状炭化水素基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、飽和でも不飽和でもよく、置換基を有していいてもよい。
炭素数は、1~20であることがより好ましく、1~10であることがさらに好ましい。
【0070】
R7及びR8における有機基の例としては、OまたはNであるヘテロ原子を有していてもよい、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1~30のアルキル基が挙げられる。R7及びR8のいずれか一方がヒドロキシエチル基又はブトキシメチル基であり、他方が水素原子であることが好ましい。例えば、以下に示すモノマーが好ましいモノマーとして挙げられる。
【0071】
【0072】
R7及びR8が互いに結合して環を形成している場合のアクリルモノマー(B)の例としては、以下のものが挙げられる。
【0073】
【0074】
アクリルモノマー(B)の分子量は特に限定はされないが、重量平均分子量が80~500であることが好ましく、100~400であることがさらに好ましく、130~320であることが特に好ましい。
【0075】
アクリルモノマー(B)として好適な化合物としては、例えば、後述する実施例に使用した化合物を挙げることができる。
【0076】
本開示の光硬化性組成物は、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)の含有量が、前記光硬化性組成物に含まれる(メタ)アクリルモノマー成分の含有量の合計1000質量部に対し、300質量部以上950質量部以下であることが好ましく、450質量部以上900質量部以下であることがさらに好ましい。
「(メタ)アクリルモノマー成分の含有量の合計」は、本開示の光硬化性組成物に含有される、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマー全ての含有量の合計である。
【0077】
本開示の光硬化性組成物は、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)及びアクリルモノマー(B)の含有量の合計が、前記光硬化組成物に含まれる(メタ)アクリルモノマー成分の含有量の合計1000質量部に対し、800質量部以上であることが好ましく、900質量部以上であることがより好ましく、950質量部以上であることが更に好ましい。
【0078】
<光重合開始剤>
本開示の光硬化性組成物は、光重合開始剤を含有する。
光重合開始剤は、光を照射することでラジカルを発生するものであれば特に限定されないが、光造形の際に用いる光の波長でラジカルを発生するものであることが好ましい。
光造形の際に用いる光の波長としては、一般的には365nm~500nmが挙げられるが、実用上好ましくは365nm~430nmであり、より好ましくは365nm~420nmである。
【0079】
光造形の際に用いる光の波長でラジカルを発生する光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、ベンゾイン系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、α-アシロキシムエステル系化合物、フェニルグリオキシレート系化合物、ベンジル系化合物、アゾ系化合物、ジフェニルスルフィド系化合物、有機色素系化合物、鉄-フタロシアニン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、アントラキノン系化合物等が挙げられる。
これらのうち、反応性等の観点から、アルキルフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物が好ましい。
【0080】
アルキルフェノン系化合物としては、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(Omnirad184:IGMresins社製)が挙げられる。
アシルフォスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(Omnirad819:IGMresins社製)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(OmniradTPO:IGMresins社製)が挙げられる。
【0081】
本開示の光硬化性組成物は、光重合開始剤を1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
本開示の光硬化性組成物中における光重合開始剤の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、0.1質量%~10質量%であることが好ましく、0.2質量%~5質量%であることがさらに好ましく、0.3質量%~3質量%であることが特に好ましい。
【0082】
<その他の成分>
本開示の光硬化性組成物は、必要に応じて、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)、アクリルモノマー(B)及び光重合開始剤以外のその他の成分を1種類以上含んでいてもよい。
光硬化性組成物が、前記その他の成分を含有する場合、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)、アクリルモノマー(B)及び光重合開始剤の合計質量は、光硬化性組成物の全量に対し、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがなお好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90%以上であることがより一層好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0083】
その他の成分としては、例えば、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)及びアクリルモノマー(B)以外のモノマーが挙げられる。
光硬化性組成物が、その他の成分としてジ(メタ)アクリルモノマー(A)及びアクリルモノマー(B)以外のモノマーを含む場合、その他の成分としてのモノマーの含有量は、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)及びアクリルモノマー(B)の質量の合計に対して50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることが更に好ましく、10%以下であることが特に好ましい。その他の成分としてのモノマーの含有量の下限値は特に限定されず、0%であってもよい。
【0084】
その他の成分としては、例えば、色材、ジ(メタ)アクリルモノマー及び(メタ)アクリルモノマー以外のモノマー、シランカップリング剤(例えば3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)等のカップリング剤、ゴム剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤等の添加剤、熱重合開始剤が挙げられる。
本開示の光硬化性組成物が熱重合開始剤を含有する場合には、光硬化と熱硬化との併用が可能となる。熱重合開始剤としては、例えば、熱ラジカル発生剤、アミン化合物などが挙げられる。
【0085】
本開示の光硬化性組成物の調製方法は特に制限されず、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)及びアクリルモノマー(B)、及び光重合開始剤(及び必要に応じその他の成分)を混合する方法が挙げられる。
各成分を混合する手段は特に限定されず、例えば、超音波による溶解、双腕式攪拌機、ロール混練機、2軸押出機、ボールミル混練機、及び遊星式撹拌機等の手段が含まれる。
本実施形態の光硬化性組成物は、各成分を混合した後、フィルタでろ過して不純物を取り除き、さらに真空脱泡処理を施すことによって調製してもよい。
【0086】
[光硬化物]
本開示の光硬化性組成物を用いて光硬化を行う方法は特に制限されず、公知の方法及び装置のいずれも使用できる。例えば、本開示の光硬化性組成物からなる薄膜を形成する工程と、該薄膜に対して光を照射し硬化層を得る工程とを複数回繰り返すことにより、硬化層を複数積層させ、所望の形状の光硬化物を製造する方法が挙げられる。なお、得られる光硬化物はそのまま用いてもよいし、更に光照射、加熱等によるポストキュアなどを行って、その力学的特性、形状安定性などを向上させた後に用いてもよい。
【0087】
また、本開示の光硬化性組成物の光硬化後のガラス転移温度(Tg)は特に制限はないが、曲げ強度及び曲げ弾性率の観点から、光硬化後のガラス転移温度(Tg)は、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
また、破壊靱性の観点から、光硬化後のガラス転移温度(Tg)は、140℃以下であることが好ましい。
【0088】
[歯科用製品]
本開示の光硬化性組成物の硬化物(即ち、光造形物)を含む歯科用製品としては、特に限定されず、人工歯、補綴物、口腔内で使用する医療器具等で使用できるが、口腔内で使用する医療器具が好ましく、マウスピースが特に好ましい。本開示の光硬化性組成物の硬化物を歯科用製品の少なくとも一部に用いることが好ましい。口腔内で使用される医療器具としては、例えば、歯列矯正用のマウスピース、咬合調整用スプリント又は顎関節症治療用スプリントなどのスプリント、睡眠時無呼吸症候群の治療に用いるマウスピースを挙げることができる。
本開示の光硬化性組成物の硬化物を用いることによって、口腔内で使用したときの使用感に優れ、かつ、十分な強度及び硬度を備える医療器具を製造することができる。さらに、スプリントなどの口腔内で使用する医療器具に形成した場合に、着脱を容易にし、着脱を繰り返した際の耐久性を向上させることができる。
【実施例0089】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
〔実施例1~28、比較例1~12〕
<光硬化性組成物の調製>
下記表1-1~1-6に示す各成分を混合し、光硬化性組成物を得た。
【0091】
<測定及び評価>
得られた光硬化性組成物を用い、以下の測定及び評価を行った。結果を表1-1~1-6に示す。
【0092】
(光硬化性組成物の粘度)
光硬化性組成物の粘度を、E型粘度計により、25℃、50rpmの条件で測定した。
【0093】
(光造形物の曲げ強度及び曲げ弾性率)
得られた光硬化性組成物を、3Dプリンタ(Kulzer社、Cara Print4.0)を用い、64mm×10mm×厚さ3.3mmの大きさに造形し、造形物を得た。得られた造形物に対し、波長365nmの紫外線を10J/cm2の条件で照射して本硬化させることにより、光造形物を得た。
得られた光造形物(以下「試験片」という)を、37±1℃の恒温水槽にて50±2時間保管した。
その後、試験片を恒温水槽から取り出し、取り出した試験片の曲げ強度及び曲げ弾性率を、それぞれ、ISO20795-1:2008に準拠して測定した。これらの測定は、万能試験機((株)インテスコ製)を用い、試験速度5±1mm/分の条件で行った。
【0094】
(曲げ試験による破壊靱性試験での全破壊仕事)
得られた光硬化性組成物を、3Dプリンタ(Kulzer社、Cara Print4.0)を用い、39mm×8mm×厚さ4mmの大きさに造形し、造形物を得た。得られた造形物に対し、波長365nmの紫外線を10J/cm2の条件で照射して造形物を本硬化させることにより、光造形物を得た。
得られた光造形物(以下「試験片」という)を、ISO20795-1:2008に準拠して、ノッチ加工を施し、37±1℃の恒温水槽にて7日間±2時間保管した。
その後、試験片を恒温水槽から取り出し、取り出した試験片について、ISO20795-1:2008に準拠して、曲げ試験による破壊靱性試験を行い、全破壊仕事(J/m2)を測定した。曲げ試験による破壊靱性試験(即ち、全破壊仕事の測定)は、万能試験機((株)インテスコ製)を用い、押込み速度1.0±0.2mm/分の条件で行った。
【0095】
(着脱評価)
着脱試験片による着脱試験
得られた光硬化性組成物を、3Dプリンタ(Kulzer社、Cara Print4.0)を用い、
図1Aに示す形状に厚さ2mmで造形し、造形物を得た。得られた造形物に対し、波長365nmの紫外線を10J/cm
2の条件で照射して造形物を本硬化させることにより、光造形物を得た。
得られた光造形物(以下「試験片」という)について、万能試験機((株)インテスコ製)を用い、
図1Bに示すように着脱対象に装着し、移動速度120.0±2.0mm/分の条件で試験片を上下に移動させ、着脱評価を行った。着脱対象は、直径10mmのSUS304の円筒を、断面の円形において弦の長さが7.07mmとなるようにカットして作成した。試験時にはカットした面を接地面として設置した。10,000回の上下移動後に、試験片を観察し、試験後に形状変化無し、および割れ無しを「A」、試験後に形状変化有り、割れ無しを「B」、試験後に割れ発生を「C」として評価した。
図1Aおよび
図1Bにおいて、Tは厚みを表し、D2は、半円の直径を示し、H1及びH2を示された部分の高さを示し、W1及びW2は示された部分の幅を示す。
図1Bにおいて、D1は着脱対象の接地面をカットする前の円筒の断面の直径を示し、θは円筒の断面の円の中心を接地面の両端とを結んでできる三角形の頂点の角度を示し、W3は接地面の幅を示す。
T=2mm、D1=10mm、D2=2mm、W1=15mm、W2=2mm、W3=7.07mm、H1=12mm、H2=5mm、θ=135°である。また、
図1A及び
図1Bに示す試験片の奥行は10mmである。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
表1-1~1-6中、各実施例及び各比較例における「組成」欄の数字は、質量部で示されている。
表1-1~1-6中、各実施例及び各比較例における「アクリロイル基の数(%)」の欄の数字は、光硬化性組成物中のアクリロイル基及びメタクリロイル基の合計数に対する、アクリロイル基の数の割合(%)を示している。
【0103】
<2つの(メタ)アクリロイルオキシ基と2つのウレタン結合とを有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)>
表1-1~1-6に記載の、2つの(メタ)アクリロイルオキシ基と2つのウレタン結合とを有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)の各々の構造は以下のとおりである。
【0104】
【0105】
AH-600は、共栄社化学(株)製のウレタンアクリルモノマーである。
UDA、UDMA、MMD-352、KRM-076、KRM-077は下記のとおりに製造を行った。
なお、下記製造例における略号の説明を以下に示す。
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
TMHDI:2,4,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート
DBTDL:ジラウリン酸ジブチルすず
MEHQ:4-メトキシフェノール
XDI:m‐キシリレンジイソシアネート
NBDI:ノルボルネンジイソシアネート
【0106】
[製造例1:UDAの製造]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた1リットル4ツ口フラスコ内に、HEA372g(3.20モル)、DBTDL0.71g(HEAとTMHDIの合計重量に対して0.1重量%)、及びMEHQ0.35g(HEAとTMHDIの合計重量に対して0.05重量%)を添加し、均一となるまで撹拌した後、60℃に昇温した。続いて、TMHDI337g(1.60モル)を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、80℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を80℃に保って、10時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、ウレタンアクリレート(UDA)680gを得た。25℃における粘度は7100mPa・sであった。
【0107】
[製造例2:UDMAの製造]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた1リットル4ツ口フラスコ内に、HEMA(構造は後述する)416g(3.20モル)、DBTDL0.75g(HEMAとTMHDIの合計重量に対して0.1重量%)、及びMEHQ0.38g(HEMAとTMHDIの合計重量に対して0.05重量%)を添加し、均一となるまで撹拌した後、60℃に昇温した。続いて、TMHDI337g(1.60モル)を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、80℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を80℃に保って、10時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、ウレタンメタクリレート(UDMA)720gを得た。25℃における粘度は8200mPa・sであった。
【0108】
[製造例3:MMD-352の製造]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた1リットル4ツ口フラスコ内に、M-600Aを444g(2.00モル)、DBTDL0.63g(後述するM-600AとXDIの合計重量に対して0.1重量%)、及びMEHQ0.32g(M-600AとXDIの合計重量に対して0.05重量%)を添加し、均一となるまで撹拌した後、60℃に昇温した。続いて、XDI188g(1.00モル)を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、80℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を80℃に保って、10時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、ウレタンアクリレート(MMD-352)600gを得た。65℃における粘度は6210mPa・sであった。
【0109】
[製造例4:KRM-076の製造]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた1リットル4ツ口フラスコ内に、2HPA(構造は後述する)418g(3.21モル)、DBTDL0.72g(2HPAとXDIの合計重量に対して0.1重量%)、及びMEHQ0.36g(2HPAとXDIの合計重量に対して0.05重量%)を添加し、均一となるまで撹拌した後、60℃に昇温した。続いて、XDI303g(1.61モル)を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、80℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を80℃に保って、10時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、ウレタンアクリレート(KRM-076)690gを得た。65℃における粘度は570mPa・sであった。
【0110】
[製造例5:KRM-077の製造]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた1リットル4ツ口フラスコ内に、HEA372g(3.20モル)、DBTDL0.70g(HEAとNBDIの合計重量に対して0.1重量%)、及びMEHQ0.35g(HEAとNBDIの合計重量に対して0.05重量%)を添加し、均一となるまで撹拌した後、60℃に昇温した。続いて、NBDI330g(1.60モル)を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、80℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を80℃に保って、10時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、ウレタンアクリレート(KRM-077)670gを得た。65℃における粘度は930mPa・sであった。
【0111】
<2つの(メタ)アクリロイルオキシ基と2つのウレタン結合とを有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)に該当しない(メタ)アクリルモノマー>
表1-1~1-6中、EBECRYL4100及びEBECRYL4740は、ダイセル・オルネックス社製のウレタンアクリレートである。構造の詳細は公開されていないが、3官能であることがダイセル・オルネックス社により公開されており、表2に示す官能基を有する。UA-306T及びUA-306Hは、共栄化学株式会社製である。UA-306T及びUA-306Hの構造を以下に示す。
【0112】
【0113】
上記のジ(メタ)アクリルモノマー(A)及びジ(メタ)アクリルモノマー(A)に該当しない(メタ)アクリルモノマー1分子中のメタアクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基及びアクリロイル基の数を表2に示す。
【0114】
【0115】
<1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)>
表1-1~1-6に記載の、1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)の各々の構造は以下のとおりである。
【0116】
【0117】
【0118】
IB-XA、POB-A、PO-A、M-600A、HOP-Aは共栄社化学(株)製である。A-LEN-10は新中村化学工業製である。ACMOは、KJケミカルズ社製である。Photomer4184はIGMresins社製である。SR531は、アルケマ社製である。FA511ASは、日立化成工業社製である。M-110は、東亜合成社製である。CHDMMAは、日本化成社製である。
【0119】
<1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)及び上述のジ(メタ)アクリルモノマー(A)に該当しないモノマー>
表1-1~1-6中、4EG、4EG-A、HEMA及びPOは共栄社化学株式会社製である。ABE-300は新中村化学工業株式会社製である。それぞれの構造は以下の通りである。
【化16】
【0120】
上記の1つのアクリロイル基を有るアクリルモノマー(B)、並びにアクリルモノマー(B)及びジ(メタ)アクリルモノマー(A)に該当しないアクリルモノマー1分子中のアクリロイル基の数を表3に示す。
【0121】
【0122】
<光重合開始剤>
表1-1~1-6に記載の光重合開始剤の各々の構造は以下のとおりである。
【0123】
【0124】
Omnirad819(アシルフォスフィンオキサイド系化合物)、Omnirad184(アルキルフェノン系化合物)及びOmniradTPO(アシルフォスフィンオキサイド系化合物)は、IGMresins社製である。
【0125】
表1-1~1-6に示すように、2つの(メタ)アクリロイルオキシ基と2つのウレタン結合とを有するジ(メタ)アクリルモノマー(A)と、1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)とを有する実施例の光硬化性組成物は、これらを含まない比較例の光硬化性組成物と比較して、曲げ強度、曲げ弾性率、全破壊仕事の全体が良好であった。
例えば、1つのメタアクリロイル基を有するモノマーを含む光硬化性組成物(例えば、比較例1及び比較例10)と比較して、1つのアクリロイル基を有するアクリルモノマー(B)を含む実施例の光硬化性組成物の方が全破壊仕事に優れていることがわかった。
【0126】
また、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)としてUDAを使用した実施例5とUDMAを使用した実施例13とを比較すると、実施例5の方が全破壊仕事が優れていた。このことから、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)としてメタクリレートよりアクリレートを使用した方が靭性に優れることがわかった。
【0127】
また、アクリルモノマー(B)としてACMO又はHPAを含む実施例(例えば、実施例1、実施例9など)は全破壊仕事が高い傾向にあった。しかし、表には示していないが、これらの実施例はACMO又はHPA等の含有量が多いことに起因して吸水性が上がる傾向にあった。これに対し、POB-Aなどのアクリルモノマー(B)として環構造を有する単官能アクリルモノマー用いた実施例(例えば、実施例4、7など)あるいはこれを併用した実施例(例えば、実施例10など)は、吸水性を抑えつつ、適度な曲げ強度、曲げ弾性率、全破壊仕事を得ることができた。
【0128】
また、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)として、AH600、MMD-352を含む実施例(例えば、実施例16など)は、全破壊仕事は高い傾向にあったが、一方で粘度も高くなる傾向にあった。これに対し、ジ(メタ)アクリルモノマー(A)として、KRM-076又はKRM-077等の中央に環構造を有し、かつアルキレン構造を有するモノマーを使用した実施例(実施例24、26、27)は、粘度を抑えつつ、適度な曲げ強度、曲げ弾性率を有しつつ、高い全破壊仕事を得ることができた。
【0129】
また、スプリント等の口腔内で使用される医療器具として用いる場合、ある程度の硬さと靭性が求められるが、一方で曲げ強度が高すぎると患者にとっては痛みを感じやすくなる。この観点において、一部の実施例においては、曲げ強度を50~70Mpaの範囲内に抑えつつ、250J/m2以上(さらに、一部の実施例では500J/m2以上)の優れた全破壊仕事を得ることができ、口腔内で使用される医療器具に適していることがわかった。
【0130】
スプリント等の口腔内で使用される医療器具として用いる場合には、口腔内で装着したり外したりが繰り返し行われる。このとき、着脱の容易さおよび着脱を繰り返した場合の耐久性が高いことが求められる。
実施例においては、着脱試験の評価結果が良好であった。比較例2及び3も着脱試験において良好な評価結果を示したが、曲げ強度が50MPa未満かつ曲げ弾性率が1500MPa未満であり、ISO-20795-2に規定される規格を満たさず、口腔内で使用される医療器具としては強度が不足していると考えられる。
【0131】
2019年3月29日に出願された日本国特許出願2019-068556の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。本発明の例示的実施形態についての以上の記載は例示および説明の目的でされたものであり、網羅的であることあるいは発明を開示されている形態そのものに限定することを意図するものではない。明らかなことではあるが、多くの改変あるいは変更が当業者には自明である。上記実施形態は発明の原理及び実用的応用を最もうまく説明し、想定される特定の用途に適するような種々の実施形態や種々の改変と共に他の当業者が発明を理解できるようにするために選択され、記載された。本発明の範囲の範囲は以下の請求項およびその均等物によって規定されることが意図されている。