(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159362
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク及び反射型マスク、並びに半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20221006BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G03F1/24
C23C14/06 N
C23C14/06 R
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123750
(22)【出願日】2022-08-03
(62)【分割の表示】P 2019525523の分割
【原出願日】2018-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2017121485
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】小坂井 弘文
(72)【発明者】
【氏名】尾上 貴弘
(57)【要約】
【課題】 露光光に対する反射率が高く、かつ膜応力の小さい多層反射膜を有する反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板を提供する。
【解決手段】 基板上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜を備える多層反射膜付き基板であって、前記多層反射膜は、クリプトン(Kr)を含有することを特徴とする多層反射膜付き基板である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜を備える多層反射膜付き基板であって、
前記多層反射膜は、クリプトン(Kr)を含有することを特徴とする多層反射膜付き基板。
【請求項2】
前記多層反射膜のクリプトン(Kr)含有量は、3原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項3】
前記低屈折率層はモリブデン(Mo)層であり、高屈折率層はシリコン(Si)層であり、
前記低屈折率層は、前記高屈折率層に比べてクリプトン(Kr)含有量が相対的に少ないことを特徴とする請求項1又は2に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項4】
前記多層反射膜上に保護膜を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜上、又は請求項4に記載の多層反射膜付き基板の前記保護膜上に、吸収体膜を有することを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記多層反射膜上に、請求項5に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターニングした吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスク。
【請求項7】
請求項6に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィプロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造などに使用される反射型マスク、並びに反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランクに関する。また、本発明は、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業において、半導体装置の高集積化に伴い、従来の紫外光を用いたフォトリソグラフィ法の転写限界を上回る微細パターンが必要とされてきている。このような微細パターン形成を可能とするため、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、「EUV」と呼ぶ。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィにおいて用いられる転写用マスクとして反射型マスクが提案されている。このような反射型マスクは、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、該多層反射膜上に露光光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成された吸収体膜パターンを有するものである。
【0003】
当該反射型マスクは、基板と、当該基板上に形成された多層反射膜と、当該多層反射膜上に形成された吸収体膜を有する反射型マスクブランクから製造される。吸収体膜パターンは、フォトリソグラフィ法等により吸収体膜のパターンを形成することによって製造される。
【0004】
多層反射膜付き基板は、近年のパターンの微細化に伴う欠陥品質の向上や、転写用マスクに求められる光学特性の観点から、より高い平滑性を有することが要求されている。多層反射膜は、マスクブランク用基板の表面上に高屈折率層及び低屈折率層を交互に積層することで形成される。これら各層は、一般にそれらの層の形成材料からなるスパッタリングターゲットを使用したスパッタリングにより形成されている。
【0005】
スパッタリングの手法としては、イオンビームスパッタリングが好ましく実施されている。イオンビームスパッタリングは、放電でプラズマを作る必要がないので、多層反射膜中に不純物が混ざりにくく、イオン源が独立しているため、条件設定が比較的容易であるなどの利点がある。平滑性及び面均一性の良い多層反射膜の各層を形成するために、マスクブランク用基板の主表面の法線(前記主表面に直交する直線)に対して大きな角度、すなわち基板主表面に対して斜め若しくは平行に近い角度を有するように、スパッタ粒子を基板に到達させて、高屈折率層及び低屈折率層を成膜している。
【0006】
このような方法で多層反射膜付き基板を製造する技術として、特許文献1には、基板上にEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜を成膜するに際し、基板をその中心軸を中心に回転させつつ、基板の法線と基板に入射するスパッタ粒子とがなす角度αの絶対値を35度≦α≦80度に保持してイオンビームスパッタリングを実施することが記載されている。
【0007】
また、上記多層反射膜としては、相対的に屈折率の高い物質と相対的に屈折率の低い物質が、数nmオーダーで交互に積層された多層膜が通常使用される。例えば、13~14nmのEUV光に対する反射率の高いものとして、SiとMoの薄膜を交互に積層した多層膜が知られている。このような多層反射膜を用いた反射型マスクにおいては、短波長の光で高反射率を得るために多層膜の各層の膜密度を高くする必要がある。そのため、必然的に多層反射膜は高い圧縮応力を有することになる。
【0008】
特許文献2には、Mo/Si多層反射膜の形成後、約100℃~約400℃で約30秒間~約12時間加熱処理を実施することにより、Mo/Si多層反射膜の反射特性を損なうことなしに、Mo/Si多層反射膜の膜応力を緩和できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2009-510711号公報
【特許文献2】米国特許第6,309,705号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
反射型マスクを用いた露光の際には、パターン状に形成された吸収体膜により露光光が吸収され、多層反射膜が露出した部分で露光光が多層反射膜により反射される。露光の際に高いコントラストを得るために、多層反射膜の露光光に対する反射率は、高いことが望ましい。
【0011】
また、多層反射膜の形成後の加熱処理おいて、加熱処理温度を高くすればするほど多層反射膜の膜応力は低減できる。しかしながら、Mo/Si多層反射膜を構成する各層界面でのミキシングが進行してしまう。ミキシングが進行し過ぎると、多層反射膜のEUV光に対する反射率が低下するという問題が生じる。多層反射膜の露光光に対する反射率が十分高い場合には、このようなミキシングが発生した場合でも、使用に耐える反射率を維持することができる。
【0012】
そこで本発明は、露光光に対する反射率が高く、かつ膜応力の小さい多層反射膜を有する反射型マスクを提供することを目的とする。また、本発明は、露光光に対する反射率が高く、かつ膜応力の小さい多層反射膜を有する反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランクを提供することを目的とする。さらに本発明は、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、イオンビームスパッタリングによって多層反射膜を成膜する際に、ターゲットに対して、イオン源からクリプトン(Kr)イオン粒子を供給して多層反射膜を成膜することによって、成膜後の反射率を高くすることができることを見出した。また、本発明者らは、本発明に用いる多層反射膜の反射率は高いので、多層反射膜を加熱処理して膜応力が緩和した場合でも、高い反射率を維持することが可能であることを見出した。以上の知見に基づき、本発明者らは本発明に至った。
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0015】
(構成1)
本発明の構成1は、基板上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜を備える多層反射膜付き基板であって、
前記多層反射膜は、クリプトン(Kr)を含有することを特徴とする多層反射膜付き基板である。
【0016】
(構成2)
本発明の構成2は、前記多層反射膜のクリプトン(Kr)含有量は、3原子%以下であることを特徴とする構成1に記載の多層反射膜付き基板である。
【0017】
(構成3)
本発明の構成3は、前記低屈折率層はモリブデン(Mo)層であり、高屈折率層はシリコン(Si)層であり、前記低屈折率層は、前記高屈折率層に比べてクリプトン(Kr)含有量が相対的に少ないことを特徴とする構成1又は2に記載の多層反射膜付き基板である。
【0018】
(構成4)
本発明の構成4は、前記多層反射膜上に保護膜を有することを特徴とする構成1~3のいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板である。
【0019】
(構成5)
本発明の構成5は、構成1~3のいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜上、又は構成4に記載の多層反射膜付き基板の前記保護膜上に、吸収体膜を有することを特徴とする反射型マスクブランクである。
【0020】
(構成6)
本発明の構成6は、前記多層反射膜上に、構成5に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターニングした吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスクである。
【0021】
(構成7)
本発明の構成7は、構成6に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィプロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、露光光に対する反射率が高く、かつ膜応力の小さい多層反射膜を有する反射型マスクの製造方法を提供することができる。また、本発明により、露光光に対する反射率が高く、かつ膜応力の小さい多層反射膜を有する反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランクの製造方法を提供することができる。さらに本発明により、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の多層反射膜付き基板の一例の断面模式図である。
【
図2】本発明の多層反射膜付き基板の別の一例の断面模式図である。
【
図3】本発明の反射型マスクブランクの一例の断面模式図である。
【
図4】本発明の反射型マスクの製造方法を断面模式図にて示した工程図である。
【
図5】イオンビームスパッタリング装置の内部構造の模式図である。
【
図6】Kr又はArを用いて製造された多層反射膜付き基板のアニール温度に対する多層反射膜の平坦度及びEUV光反射率を示すグラフである。
【
図7】実施例1における多層反射膜のラザフォード後方散乱分析法による分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体的に説明するための形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0025】
図1に示すように、本発明の多層反射膜付き基板110は、基板1の上に多層反射膜5を備えたものである。多層反射膜5は、露光光を反射するための膜であり、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなる。本発明の多層反射膜付き基板110における多層反射膜は、クリプトン(Kr)を含有することを特徴とする。
【0026】
本発明の多層反射膜付き基板110の製造の際には、イオンビームスパッタリングにより、基板1上に多層反射膜5を成膜する。具体的には、イオンビームスパッタリングは、高屈折率材料のターゲット及び低屈折率材料のターゲットに対して、イオン源からイオン粒子を供給することにより行う。多層反射膜5は、イオンビームスパッタリングの際に、イオン源から、ターゲットに対して、クリプトン(Kr)イオン粒子が供給されることにより形成される。イオン源から供給されたKrイオン粒子は、ターゲットに衝突し、ターゲット材料のスパッタ粒子を発生させる。スパッタ粒子が、基板1の表面に堆積することにより、基板1に所定の材料の膜を成膜することができる。
【0027】
Krイオン粒子を用いたイオンビームスパッタリングにより多層反射膜5を成膜すると、Krを含有する多層反射膜5を得ることができ、多層反射膜5の露光光に対する反射率を高くすることができる。Krイオン粒子を用いた場合に、Arイオン粒子を用いた場合と比較して反射率を高くすることができる理由は、以下のように推察できる。KrはArに比べて原子量が低屈折率層の材料(例えばMo)に近いため、ターゲットに衝突した後の反射Krイオン粒子の数及び/又は運動エネルギーが小さくなる。そのため、多層反射膜5中に含まれるKr含有量を、スパッタ粒子としてArイオン粒子を用いた場合のAr含有量よりも少なくすることができる。イオンビームスパッタリングを行った場合、高屈折率層の材料(例えばSi)が低屈折率層(例えばMo層)に拡散されて金属拡散層(例えばMoSi拡散層)が形成されてしまう。多層反射膜5中に含まれる希ガスの含有量を少なくすることにより、金属拡散層が形成されることを抑制することができるので、高い反射率の多層反射膜5を得ることができると考えられる。
【0028】
したがって、Krイオン粒子を用いて多層反射膜5を成膜した場合、金属拡散層が形成されにくいため、多層反射膜付き基板110に対して高温で加熱処理を施して多層反射膜5の膜応力を小さくすることが可能となる。したがって、本発明の多層反射膜付き基板110は、多層反射膜5の高い反射率を維持したまま、膜応力を低減することができる。
【0029】
本発明の多層反射膜付き基板110を用いて、反射型マスクブランク100を製造することができる。本発明の多層反射膜付き基板110を用いるならば、露光光に対する反射率が高く、かつ膜応力の小さい多層反射膜5を有する反射型マスクブランク100を製造することができる。
【0030】
図3に、本発明の反射型マスクブランク100の一例の断面模式図を示す。具体的には、多層反射膜付き基板110の最表面(例えば、多層反射膜5又は保護膜6の表面)の上に、吸収体膜7を有する反射型マスクブランク100とすることができる。本発明の反射型マスクブランク100を用いることにより、EUV光に対する反射率が高い多層反射膜5を有する反射型マスク200を得ることができる。
【0031】
本明細書において、「多層反射膜付き基板110」とは、所定の基板1の上に多層反射膜5が形成されたものをいう。
図1及び
図2に、多層反射膜付き基板110の断面模式図の一例を示す。なお、「多層反射膜付き基板110」は、多層反射膜5以外の薄膜、例えば保護膜6及び/又は裏面導電膜2が形成されたものを含む。本明細書において、「反射型マスクブランク100」とは、多層反射膜付き基板110の上に吸収体膜7が形成されたものをいう。なお、「反射型マスクブランク100」は、エッチングマスク膜及びレジスト膜等の、さらなる薄膜が形成されたものを含む。
【0032】
本明細書において、「多層反射膜5の上(多層反射膜5上)に吸収体膜7を配置(形成)する」とは、吸収体膜7が、多層反射膜5の表面に接して配置(形成)されることを意味する場合の他、多層反射膜5と、吸収体膜7との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。その他の膜についても同様である。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの表面に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0033】
<多層反射膜付き基板110>
以下、本発明の多層反射膜付き基板110を構成する基板1及び各薄膜について説明をする。
【0034】
<<基板1>>
本発明の多層反射膜付き基板110における基板1は、EUV露光時の熱による吸収体パターン歪みの発生を防止することが必要である。そのため、基板1としては、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0035】
基板1の転写パターン(後述の吸収体膜7がこれを構成する)が形成される側の第1主表面は、少なくともパターン転写精度、及び位置精度を得る観点から、所定の平坦度となるように表面加工される。EUV露光の場合、基板1の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下である。また、吸収体膜7が形成される側と反対側の第2主表面(裏面)は、露光装置にセットするときに静電チャックされる表面である。第2主表面は、132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下である。なお、反射型マスクブランク100における第2主表面の平坦度は、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下である。
【0036】
また、基板1の表面平滑性の高さも極めて重要な項目である。転写用吸収体パターンが形成される第1主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.15nm以下、より好ましくはRmsで0.10nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑性は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0037】
さらに、基板1は、基板1の上に形成される膜(多層反射膜5など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、基板1は、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0038】
<<下地膜>>
本発明の多層反射膜付き基板110は、基板1の表面に接して下地膜を有することができる。下地膜は、基板1と多層反射膜5との間に形成される薄膜である。下地膜を有することにより、電子線によるマスクパターン欠陥検査時のチャージアップを防止するとともに、多層反射膜5の位相欠陥が少なく、高い表面平滑性を得ることができる。
【0039】
下地膜の材料として、ルテニウム又はタンタルを主成分として含む材料が好ましく用いられる。例えば、Ru金属単体、Ta金属単体でも良いし、Ru又はTaにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、及び/若しくはレニウム(Re)等の金属を含有したRu合金又はTa合金であっても良い。下地膜の膜厚は、例えば1nm~10nmの範囲であることが好ましい。
【0040】
<<多層反射膜5>>
多層反射膜5は、反射型マスク200において、EUV光を反射する機能を付与するものである。多層反射膜5は、屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜である。
【0041】
一般的には、多層反射膜5として、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40から60周期程度積層された多層膜が用いられる。
【0042】
多層反射膜5として用いられる多層膜は、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層しても良いし、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層しても良い。なお、多層反射膜5の最表面の層、すなわち、基板1側と反対側の多層反射膜5の表面層は、高屈折率層とすることが好ましい。上述の多層膜において、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が低屈折率層となる。この場合、低屈折率層が多層反射膜5の最表面を構成すると容易に酸化されてしまい反射型マスク200の反射率が減少する。そのため、最上層の低屈折率層上に高屈折率層をさらに形成して多層反射膜5とすることが好ましい。一方、上述の多層膜において、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が高屈折率層となる。したがって、この場合には、さらなる高屈折率層を形成する必要はない。
【0043】
高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層を用いることができる。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び/又は酸素(O)を含むSi化合物を用いることができる。Siを含む高屈折率層を用いることによって、EUV光の反射率に優れた反射型マスク200が得られる。また、低屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及び白金(Pt)から選ばれる金属単体、又はこれらの合金を用いることができる。本発明の多層反射膜付き基板110においては、低屈折率層がモリブデン(Mo)層であり、高屈折率層がシリコン(Si)層であることが好ましい。例えば波長13nmから14nmのEUV光を反射するための多層反射膜5としては、Mo層とSi層とを交互に40から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましく用いられる。なお、多層反射膜5の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成し、最上層(Si)と保護膜6との間に、ケイ素と酸素とを含むケイ素酸化物層を形成することができる。この構造の場合には、マスク洗浄耐性を向上させることができる。
【0044】
多層反射膜5は、クリプトン(Kr)を含有している。この場合、上述したように、Arイオン粒子を使用したイオンビームスパッタリングの場合と比較して、金属拡散層が形成されるのが抑制され、反射率を高くすることができる。多層反射膜5中のKr含有量は、3原子%以下が好ましく、1.5原子%以下がより好ましい。また、Si含有量に対するKr含有量の割合は0.06以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましい。Kr含有量が多すぎると、反射率が低下するため、好ましくない。
【0045】
また、低屈折率層をMo層とし、高屈折率層をSi層とした場合、Mo層はSi層に比べてKr含有量が相対的に少ないことが好ましい。Mo層のKr含有量が少ない場合、Mo層の表面粗さが大きくなるのを抑制でき、その結果、多層反射膜5の最表層の表面粗さが大きくなるのを抑制することができる。Mo層のKr含有量は、Si層のKr含有量よりも0.5原子%以上少なくてもよく、1原子%以上少なくてもよい。また、Mo層は多結晶の構造であり、Si層はアモルファス状の構造とすることができる。
【0046】
低屈折率層又は高屈折率層のKr含有量は、各層のイオンビームスパッタリングの際のKrイオン粒子の供給量、Krイオン粒子の加速電圧、及び入射角度(基板の法線と基板に入射するスパッタ粒子とがなす角度)等を調整することにより、変えることが可能である。例えば、Mo層を成膜する際の入射角度を、Si層を成膜する際の入射角度よりも小さくすることにより、Mo層のKr含有量をSi層のKr含有量よりもより少なくすることができる。
【0047】
低屈折率層及び高屈折率層を成膜する際の入射角度は、0°~40°であることが好ましい。入射角度を40°超とすると、金属拡散層を薄くできるが、膜厚の面内均一性が悪化し、反射率の面内均一性を損なう。そのため、入射角度を40°超とすることは好ましくない。Krイオン粒子を使用して多層反射膜5を成膜することにより、低屈折率層及び高屈折率層の入射角度を0°~40°とした場合であっても金属拡散層を薄くすることができる。例えば、低屈折率層がMo層であり、高屈折率層がSi層である場合、MoSi拡散層の膜厚は、1.2nm以下とすることが可能である。
【0048】
多層反射膜5の単独での反射率は通常65%以上であり、上限は通常73%である。なお、多層反射膜5の各構成層の膜厚及び周期は、露光波長により適宜選択することができる。具体的には、多層反射膜5の各構成層の膜厚及び周期は、ブラッグ反射の法則を満たすように選択することができる。多層反射膜5において、高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在するが、高屈折率層同士の膜厚、又は低屈折率層同士の膜厚は、必ずしも同じでなくても良い。また、多層反射膜5の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi(高屈折率層)の膜厚は、3nmから10nmとすることができる。
【0049】
本発明の多層反射膜付き基板110の製造の際には、イオンビームスパッタリングにより、基板1上に多層反射膜5を成膜する。
図5に、イオンビームスパッタリング装置500の内部構造の模式図を示す。具体的には、イオンビームスパッタリングは、高屈折率材料のターゲット及び低屈折率材料のターゲットに対して、イオン源からイオン粒子を供給することにより行う。多層反射膜5がMo/Si周期多層膜である場合、イオンビームスパッタリング法により、例えば、まずSiターゲットを用いて膜厚4nm程度のSi層を基板1の上に成膜する。その後Moターゲットを用いて膜厚3nm程度のMo層を成膜する。このSi層及びMo層を1周期として、40から60周期積層して、多層反射膜5を形成する(最表面の層はSi層とする)。
【0050】
次に、本発明に用いることのできるイオンビームスパッタリング装置500について、
図5を用いて説明する。
【0051】
図5の模式図に示されるように、本発明に用いることのできるイオンビームスパッタリング装置500は、略矩形状の真空チャンバー502を備えている。真空チャンバー502の一方の短手面(
図5の下辺を一辺とする壁面。以下、説明の便宜上、適宜「下側短手面」という。)には、ホルダー取付ロッド504を介して基板ホルダー503が配設されている。基板ホルダー503は、詳細を後述する基板1を保持した状態で自転できるように構成されている。また、基板ホルダー503は、隅部に押えピン518が設けられたトップクランプ517を備えている。基板1は、基板ホルダー503上に配置されてから、基板1の主表面の隅を押えピン518で押える形でトップクランプ517によってクランプされる。トップクランプ517は、基板ホルダー503とともに基板1を保持する機能を有するとともに、基板1側面への膜付着に対するシールドとしても機能する。トップクランプ517の材料は、基板1を押さえて発塵を抑制する観点から、絶縁性の材料、例えば、樹脂製のものであることが好ましい。さらに、樹脂の中でも、比較的硬度の高い材質が好ましく、例えば、ポリイミド系樹脂が特に好適である。
【0052】
また、真空チャンバー502の他方の短手面(
図5の上辺を一辺とする壁面。以下、適宜「上側短手面」という)付近には、平面視略矩形状の基台506が、基板ホルダー503に対向するように配設されている。基台506の一方の長辺側(一方の長辺を含む面)には、第一スパッタリングターゲット507が配設され、基台506の他方の長辺側(他方の長辺を含む面)には、第二スパッタリングターゲット508が配設される。第一スパッタリングターゲット507、第二スパッタリングターゲット508を構成する材料としては、マスクブランクにおける所定の光学特性を有する薄膜を成膜するため、金属、合金、非金属又はこれらの化合物を使用することができる。上述の所定の光学特性としては、反射率、及び透過率等である。このイオンビームスパッタリング装置500を使用して、高屈折率材料と低屈折率材料を交互に積層した多層反射膜5を形成することができる。この場合、第一スパッタリングターゲット507を構成する材料としては、Si又はSi化合物の高屈折率材料を用いることができる。また、第二スパッタリングターゲット508を構成する材料としては、Mo、Nb、Ru又はRhなどの低屈折率材料を用いることができる。ここでは、第一スパッタリングターゲット507にシリコン(Si)材料を、第二スパッタリングターゲット508にモリブデン材料を用いた場合について説明する。また、基台506の中心部には回転軸509が配設され、基台506は回転軸509と一体的に回転可能に構成されている。
【0053】
真空チャンバー502の一方の長手面(
図5の左辺を一辺とする壁面。以下、適宜「左側長手面」という)には、真空ポンプ511が配設された給排通路510が接続されている。また、給排通路510には、バルブ(図示せず)が開閉自在に設けられている。
【0054】
真空チャンバー502の他方の長手面(
図5の右辺を一辺とする壁面。以下、適宜「右側長手面」という)には、真空チャンバー502内の圧力を測定するための圧力センサ512、イオン化された粒子を供給するためのイオン源505がそれぞれ配設されている。イオン源505は、プラズマガス供給手段(図示せず)に接続され、このプラズマガス供給手段からプラズマガスのイオン粒子(クリプトンイオン)が供給される。また、イオン源505は、基台506に対向するように配設され、プラズマガス供給手段から供給されるイオン粒子を、基台506のスパッタリングターゲット507又は508のいずれかに供給するように構成されている。
【0055】
また、イオン源505からのイオン粒子を中性化するための電子を供給するために、ニュートラライザー513が配設されている。ニュートラライザー513には、所定のガスのプラズマから電子を引き出すことによる電子供給源(図示せず)が設けられ、イオン源505からスパッタリングターゲット507又は508へ向かうイオン粒子の経路に向けて、電子を照射するように構成されている。なお、ニュートラライザー513によりすべてのイオン粒子が必ずしも中性化されるわけではない。そのため、本明細書では、ニュートラライザー513により一部中性化されたイオン粒子(Kr+粒子)にも、「イオン粒子(Kr+粒子)」の用語を用いることとする。
【0056】
そして、ホルダー取付ロッド504、イオン源505、回転軸509、真空ポンプ511、及び圧力センサ512等の各機器は、制御装置(図示せず)に接続され、この制御装置によって動作が制御されるように構成されている。
【0057】
以上のような構成を備えたイオンビームスパッタリング装置500を用いた多層反射膜5の形成方法について説明する。
【0058】
まず、真空ポンプ511を作動させて、真空チャンバー502内からガスを、給排通路510を介して排出する。そして、圧力センサ512により計測した真空チャンバー502内の圧力が所定の真空度(形成する膜の特性に影響しない真空度、例えば、10-8Torr(1.33×10-6Pa))に達するまで待つ。
【0059】
次に、薄膜形成用基板である基板1を、ロボットアーム(図示せず)を介して真空チャンバー502内に導入し、基板1の主表面が露出するように基板ホルダー503の開口部に収容する。そして、基板ホルダー503に配置された基板1を、基板1の主表面の隅を押えピン518で押えた形でトップクランプ517によってクランプする。
【0060】
なお、真空チャンバー502に隣接するロボットアーム収容室(図示せず)内も、所定の真空状態に保持されている。そのため、基板1を導入する際にも、真空チャンバー502を上述した真空状態に保持することができる。
【0061】
そして、プラズマガス供給手段からイオン源505を介して、プラズマガス(クリプトンガス)を真空チャンバー502内に導入する。このとき、真空チャンバー502の真空度は、スパッタリングを行うのに好適な10-4~10-2Torr(1.33×10-2~1.33Pa)に保持されるように制御される。
【0062】
そして、イオン源505からイオン化した粒子(すなわちKr+粒子)を、基台506に配置された第一スパッタリングターゲット507に供給する。この粒子を第一スパッタリングターゲット507に衝突させて、ターゲット507を構成するシリコン粒子をその表面から叩きだして(スパッタして)、このシリコン粒子を基板1の主表面に付着させる。この工程中、ニュートラライザー513を作動させ、イオン化した粒子(Kr+粒子)を中性化する。また、この工程中において、基板ホルダー503のロッド504が所定の回転速度で回転するように、そして、第一スパッタリングターゲット507の傾斜角度が一定範囲内で変動するように、基板ホルダー503のロッド504及び基台506の回転軸509が制御機器によって制御される。これにより、基板1の主表面上において、均一にシリコン膜を成膜することができる。
【0063】
シリコン膜の成膜が完了した後、基台506の回転軸509を略180°回転させて、第二スパッタリングターゲット508を基板1の主表面に対向させる。そして、イオン源505からKr+粒子を、基台506に配置された第二スパッタリングターゲット508に供給する。Kr+粒子により、ターゲット508を構成するモリブデン粒子をその表面から叩きだして(スパッタして)、このモリブデン粒子を基板1の主表面に成膜されたシリコン膜表面に付着させる。この工程中、ニュートラライザー513を作動させ、イオン化した粒子(Kr+粒子)を中性化する。また、上述したシリコン膜の成膜処理と同様に、基板ホルダー503のロッド504や回転軸509を制御することで、基板1上に成膜されたシリコン膜上において、均一な厚さでモリブデン膜を成膜することができる。そして、これらのシリコン膜及びモリブデン膜の成膜処理を、所定回数(例えば40から60回)繰り返して行うことにより、シリコン膜とモリブデン膜とが交互に積層された、露光光であるEUV光に対して所定の反射率を有する多層反射膜5が得られる。
【0064】
本発明では、上述のように多層反射膜5の形成のためのイオンビームスパッタリングの際に、イオン源から、ターゲットに対して、クリプトン(Kr)イオン粒子を供給することにより、Krを含有し、金属拡散層が小さく、露光光に対する反射率が高い多層反射膜5を基板1上に形成することができる。
【0065】
<<保護膜6>>
本発明の多層反射膜付き基板110では、
図2に示すように、多層反射膜5上に保護膜6を形成することが好ましい。多層反射膜5上に保護膜6が形成されていることにより、多層反射膜付き基板110を用いて反射型マスク200を製造する際の多層反射膜5表面へのダメージを抑制することができる。そのため、得られる反射型マスク200のEUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0066】
保護膜6は、後述する反射型マスク200の製造工程におけるドライエッチング及び洗浄から、多層反射膜5を保護するために、多層反射膜5の上に形成される。また、保護膜6は、電子線(EB)を用いたマスクパターンの黒欠陥修正の際の多層反射膜5の保護という機能も兼ね備える。ここで、
図2では、保護膜6が1層の場合を示している。しかしながら、保護膜6を3層以上の積層構造とし、最下層及び最上層を、例えばRuを含有する物質からなる層とし、最下層と最上層との間に、Ru以外の金属、若しくは合金を介在させたものすることができる。保護膜6は、例えば、ルテニウムを主成分として含む材料により形成される。ルテニウムを主成分として含む材料としては、Ru金属単体、Ruにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、及び/又はレニウム(Re)などの金属を含有したRu合金、並びにそれらに窒素を含む材料が挙げられる。この中でも特にTiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いることが好ましい。この場合には、多層反射膜5の構成元素であるケイ素が、多層反射膜5の表面から保護膜6へと拡散するという現象を抑制できる。このため、マスク洗浄時の表面荒れが少なくなり、また、膜はがれも起こしにくくなる。表面荒れの低減は、EUV露光光に対する多層反射膜5の反射率低下防止に直結するので、EUV露光の露光効率改善、スループット向上のために重要である。
【0067】
保護膜6に用いるRu合金のRu含有比率は50原子%以上100原子%未満、好ましくは80原子%以上100原子%未満、より好ましくは95原子%以上100原子%未満である。特に、Ru合金のRu含有比率が95原子%以上100原子%未満の場合には、保護膜6に対する多層反射膜5の構成元素(ケイ素)の拡散を抑えることが可能になる。また、この場合の保護膜6は、EUV光の反射率を十分確保しながら、マスク洗浄耐性、吸収体膜7をエッチング加工した時のエッチングストッパ機能、及び多層反射膜5の経時変化防止の機能を兼ね備えることが可能となる。
【0068】
EUVリソグラフィでは、露光光に対して透明な物質が少ないので、マスクパターン面への異物付着を防止するEUVペリクルが技術的に簡単ではない。このことから、ペリクルを用いないペリクルレス運用が主流となっている。また、EUVリソグラフィでは、EUV露光によってマスクにカーボン膜が堆積したり酸化膜が成長するといった露光コンタミネーションが起こる。このため、マスクを半導体装置の製造に使用している段階で、度々洗浄を行って、マスク上の異物及びコンタミネーションを除去する必要がある。このことから、EUV反射型マスク200では、光リソグラフィ用の透過型マスクに比べて桁違いのマスク洗浄耐性が要求されている。Tiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いると、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、及び濃度が10ppm以下のオゾン水などの洗浄液に対する洗浄耐性が特に高くなり、マスク洗浄耐性の要求を満たすことが可能となる。
【0069】
保護膜6の膜厚は、保護膜6としての機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜6の膜厚は、好ましくは、1.0nmから8.0nm、より好ましくは、1.5nmから6.0nmである。
【0070】
保護膜6の形成方法としては、公知の膜形成方法を特に制限なく採用することができる。具体例としては、保護膜6の形成方法として、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0071】
<加熱処理>
上述した通り、多層反射膜5の形成後の加熱処理(アニール)において、加熱処理温度を高くすればするほど多層反射膜5の膜応力は低減できるが、多層反射膜5のEUV光に対する反射率が低下するという問題が生じる。そこで、イオンビームスパッタリングによる多層反射膜5の成膜の際に、クリプトン(Kr)イオン粒子を用いた場合と、アルゴン(Ar)イオン粒子を用いた場合とで、アニール温度を変えて平坦度の測定を行うことにより、どの程度、多層反射膜付き基板110の多層反射膜5の膜応力を低減できるか評価した。
【0072】
後述する実施例1に準じた方法により、多層反射膜5の成膜の際に、イオン源505からクリプトン(Kr)イオン粒子を供給して、イオンビームスパッタリングを行うことにより多層反射膜5を形成し、多層反射膜付き基板110を試作した(試料1)。また、イオンビームスパッタリングの際に、イオン源505からアルゴン(Ar)イオン粒子を供給したこと以外は試料1と同一条件で多層反射膜5を形成し、多層反射膜付き基板110を試作した(試料2)。
【0073】
Krイオン粒子を用いた試料1の場合には、アニール温度を150℃、200℃、240℃、及び280℃とし、Arイオン粒子を用いた試料2の場合には、アニール温度を180℃、200℃、210℃、及び220℃とした。試料1及び試料2のアニール後、多層反射膜5の平坦度及びEUV光に対する反射率を測定した。多層反射膜付き基板110の多層反射膜5の平坦度の測定は、平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)を用い、多層反射膜5の成膜エリア内の132mm角でのTIRで評価した。この結果を
図6に示す。
【0074】
図6からわかるように、Krイオン粒子を用いた試料1の場合には、アニール温度の上昇に伴う反射率の低下も緩やかであり、アニール温度が280℃でも反射率が67.2%という高い反射率であった。また、アニール温度が250℃付近でTIRが0nmとなった。一方、Arイオン粒子を用いた試料2の場合には、アニール温度が200℃で反射率が65.4%と、Krイオン粒子を用いた試料1の場合よりも低く、210℃以上で急激に反射率が低下し、220℃で64.9%であった。また、アニール温度が220℃でTIRが283nmであり、TIRが0nmとなるアニール温度は試料1の場合よりも高くなることが推察される。
【0075】
これにより、Krイオン粒子を用いた場合には、アニール温度を調整することにより、多層反射膜5の膜応力をゼロとすることが可能であることがわかる。また、イオンビームスパッタリングの際にArイオン粒子よりもKrイオン粒子を用いた方が、多層反射膜5のアニール耐性が向上し、アニールしても高い反射率を維持できることがわかった。
【0076】
多層反射膜5が形成された状態、又は多層反射膜5上に保護膜6が形成された状態の多層反射膜付き基板110に対して、150℃以上300℃以下、好ましくは200℃以上280℃以下で熱処理(アニール)することが望ましい。このアニールにより、応力が緩和して、マスクブランク応力歪による平坦度の低下を防止できるとともに、多層反射膜5のEUV光反射率経時変化を防止できる。また、上記多層反射膜付き基板110に対して、210℃以上でアニールすることにより、高い反射率を維持しつつ、膜応力をゼロにすることが可能となる。
【0077】
本発明の多層反射膜付き基板110に形成された多層反射膜5のEUV光に対する反射率は高いので、多層反射膜付き基板110に対して加熱処理を施した場合でも、反射型マスク200としての使用に耐える多層反射膜5の反射率を維持することができる。
【0078】
<反射型マスクブランク100>
本発明の反射型マスクブランク100について説明する。
【0079】
<<吸収体膜7>>
反射型マスクブランク100は、上述の多層反射膜付き基板110の上に、吸収体膜7を有する。すなわち、吸収体膜7は、多層反射膜5の上(保護膜6が形成されている場合には、保護膜6の上)に形成される。吸収体膜7の基本的な機能は、EUV光を吸収することである。吸収体膜7は、EUV光の吸収を目的とした吸収体膜7であっても良いし、EUV光の位相差も考慮した位相シフト機能を有する吸収体膜7であっても良い。位相シフト機能を有する吸収体膜7とは、EUV光を吸収するとともに一部を反射させて位相をシフトさせるものである。すなわち、位相シフト機能を有する吸収体膜7がパターニングされた反射型マスク200において、吸収体膜7が形成されている部分では、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射させる。また、吸収体膜7が形成されていない領域(フィールド部)では、EUV光は、保護膜6を介して多層反射膜5から反射する。そのため、位相シフト機能を有する吸収体膜7からの反射光と、フィールド部からの反射光との間に所望の位相差を有することになる。位相シフト機能を有する吸収体膜7は、吸収体膜7からの反射光と、多層反射膜5からの反射光との位相差が170度から190度となるように形成される。180度近傍の反転した位相差の光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上に伴って解像度が上がり、露光量裕度、及び焦点裕度等の露光に関する各種裕度を大きくすることができる。
【0080】
吸収体膜7は単層の膜であっても良いし、
図4(a)に示されるように複数の膜(例えば、下層吸収体膜71及び上層吸収体膜72)からなる多層膜であっても良い。単層膜の場合は、マスクブランク製造時の工程数を削減できて生産効率が上がるという特徴がある。多層膜の場合には、上層吸収体膜72が、光を用いたマスクパターン検査時の反射防止膜になるように、その光学定数と膜厚を適当に設定することができる。このことにより、光を用いたマスクパターン検査時の検査感度が向上する。また、上層吸収体膜72に酸化耐性が向上する酸素(O)及び窒素(N)等が添加された膜を用いると、経時安定性が向上する。このように、吸収体膜7を多層膜にすることによって様々な機能を付加させることが可能となる。吸収体膜7が位相シフト機能を有する吸収体膜7の場合には、多層膜にすることによって光学面での調整の範囲を大きくすることができるので、所望の反射率を得ることが容易になる。
【0081】
吸収体膜7の材料としては、EUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)やフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)である限り、特に限定されない。そのような機能を有するものとして、タンタル(Ta)単体又はTaを主成分として含むタンタル化合物を好ましく用いることができる。
【0082】
上述のタンタル及びタンタル化合物等の吸収体膜7は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法で形成することができる。例えば、タンタル及びホウ素を含むターゲットを用い、酸素又は窒素を添加したアルゴンガスを用いた反応性スパッタリング法により、吸収体膜7を成膜することができる。
【0083】
吸収体膜7を形成するためのタンタル化合物は、Taの合金を含む。吸収体膜7がTaの合金の場合、平滑性及び平坦性の点から、吸収体膜7の結晶状態は、アモルファス状又は微結晶の構造であることが好ましい。吸収体膜7の表面が平滑・平坦でないと、吸収体パターン7aのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなることがある。吸収体膜7の好ましい表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で、0.5nm以下であり、より好ましくは0.4nm以下、さらに好ましくは0.3nm以下である。
【0084】
吸収体膜7の形成のためのタンタル化合物としては、TaとBとを含む化合物、TaとNとを含む化合物、TaとOとNとを含む化合物、TaとBとを含み、さらにOとNの少なくともいずれかを含む化合物、TaとSiとを含む化合物、TaとSiとNとを含む化合物、TaとGeとを含む化合物、及びTaとGeとNとを含む化合物、等を用いることができる。
【0085】
Taは、EUV光の吸収係数が大きく、また、塩素系ガスやフッ素系ガスで容易にドライエッチングすることが可能な材料である。そのため、Taは、加工性に優れた吸収体膜7材料であるといえる。さらにTaにB、Si及び/又はGe等を加えることにより、アモルファス状の材料を容易に得ることができる。この結果、吸収体膜7の平滑性を向上させることができる。また、TaにN及び/又はOを加えれば、吸収体膜7の酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができるという効果が得られる。
【0086】
吸収体膜7を、TaBNの下層吸収体膜71及びTaBOの上層吸収体膜72からなる積層膜とし、上層吸収体膜72のTaBOの膜厚を約14nmとすることにより、光を用いたマスクパターン欠陥検査の際、この上層吸収体膜72が反射防止膜となる。そのため、マスクパターン欠陥検査の際の検査感度を上げることができる。
【0087】
また、吸収体膜7を構成する材料としては、タンタル又はタンタル化合物以外に、Cr、CrN、CrCON、CrCO、CrCOH、及びCrCONH等のクロム及びクロム化合物、並びに、WN、TiN及びTi等の材料が挙げられる。
【0088】
<<裏面導電膜2>>
基板1の第2主表面(裏面)の上(多層反射膜5の形成面の反対側であり、基板1に水素侵入抑制膜等の中間層が形成されている場合には中間層の上)には、静電チャック用の裏面導電膜2が形成される。静電チャック用として、裏面導電膜2に求められるシート抵抗は、通常100Ω/□以下である。裏面導電膜2の形成方法は、例えば、クロム又はタンタル等の金属、又はそれらの合金のターゲットを使用したマグネトロンスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法である。裏面導電膜2のクロム(Cr)を含む材料は、Crにホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択した少なくとも一つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCNなどを挙げることができる。裏面導電膜2のタンタル(Ta)を含む材料としては、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかにホウ素、窒素、酸素、及び炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物を用いることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。裏面導電膜2の膜厚は、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されないが、通常10nmから200nmである。また、この裏面導電膜2はマスクブランク100の第2主表面側の応力調整も兼ね備えている。すなわち、裏面導電膜2は、第1主表面側に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦な反射型マスクブランク100が得られるように調整される。
【0089】
なお、上述の吸収体膜7を形成する前に、多層反射膜付き基板110に対して裏面導電膜2を形成することができる。その場合には、
図2に示すような裏面導電膜2を備えた多層反射膜付き基板110を得ることができる。
【0090】
<その他の薄膜>
本発明の製造方法で製造される多層反射膜付き基板110及び反射型マスクブランク100は、吸収体膜7上にエッチング用ハードマスク膜(「エッチングマスク膜」ともいう。)及び/又はレジスト膜を備えることができる。エッチング用ハードマスク膜の代表的な材料としては、ケイ素(Si)、並びにケイ素に酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、及び/又は水素(H)を加えた材料、又は、クロム(Cr)、並びにクロムに酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、及び/又は水素(H)を加えた材料等がある。具体的には、SiO2、SiON、SiN、SiO、Si、SiC、SiCO、SiCN、SiCON、Cr、CrN、CrO、CrON、CrC、CrCO、CrCN、及びCrOCN等が挙げられる。但し、吸収体膜7が酸素を含む化合物の場合、エッチング用ハードマスク膜として酸素を含む材料(例えばSiO2)はエッチング耐性の観点から避けたほうが良い。エッチング用ハードマスク膜を形成した場合には、レジスト膜の膜厚を薄くすることが可能となり、パターンの微細化に対して有利である。
【0091】
本発明の多層反射膜付き基板110及び反射型マスクブランク100は、それらの基板1であるガラス基板と、タンタル又はクロムを含有する裏面導電膜2との間に、基板1から裏面導電膜2へ水素が侵入することを抑制する水素侵入抑制膜を備えることが好ましい。水素侵入抑制膜の存在により、裏面導電膜2中に水素が取り込まれることを抑制でき、裏面導電膜2の圧縮応力の増大を抑制することができる。
【0092】
水素侵入抑制膜の材料は、水素が透過しにくく、基板1から裏面導電膜2への水素の侵入を抑制することができる材料であればどのような種類であってもよい。水素侵入抑制膜の材料としては、具体的には、例えば、Si、SiO2、SiON、SiCO、SiCON、SiBO、SiBON、Cr、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、Mo、MoSi、MoSiN、MoSiO、MoSiCO、MoSiON、MoSiCON、TaO及びTaON等を挙げることができる。水素侵入抑制膜は、これらの材料の単層であることができ、また、複数層及び組成傾斜膜であってもよい。
【0093】
<反射型マスク200>
【0094】
本発明は、上述の反射型マスクブランク100の吸収体膜7をパターニングして、多層反射膜5上に吸収体パターン7aを有する反射型マスク200である。本発明の反射型マスクブランク100を用いることにより、EUV光に対する反射率が高く、かつ膜応力の小さい多層反射膜5を有する反射型マスク200を得ることができる。
【0095】
本実施形態の反射型マスクブランク100を使用して、反射型マスク200を製造する。ここでは概要説明のみを行い、後に実施例において図面を参照しながら詳細に説明する。
【0096】
反射型マスクブランク100を準備して、その第1主表面の最表面(以下の実施例で説明するように、吸収体膜7上)に、レジスト膜8を形成し(反射型マスクブランク100としてレジスト膜を備えている場合は不要)、このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成する。
【0097】
このレジストパターン8aをマスクとして使用して、吸収体膜7をドライエッチングすることにより、吸収体パターン7aを形成する。なお、エッチングガスとしては、Cl2、SiCl4、及びCHCl3等の塩素系のガス、塩素系ガスとO2とを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガスとHeとを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガスとArとを所定の割合で含む混合ガス、CF4、CHF3、C2F6、C3F6、C4F6、C4F8、CH2F2、CH3F、C3F8、SF6、及びF2等のフッ素系のガス、並びにフッ素系ガスとO2とを所定の割合で含む混合ガス等から選択したものを用いることができる。ここで、エッチングの最終段階でエッチングガスに酸素が含まれていると、Ru系保護膜6に表面荒れが生じる。このため、Ru系保護膜6がエッチングに曝されるオーバーエッチング段階では、酸素が含まれていないエッチングガスを用いることが好ましい。
【0098】
その後、アッシングやレジスト剥離液によりレジストパターン8aを除去し、所望の回路パターンが形成された吸収体パターン7aを作製する。
【0099】
以上の工程により、本発明の反射型マスク200を得ることができる。
【0100】
<半導体装置の製造方法>
本発明は、上述の反射型マスク200を用いて、露光装置を使用したリソグラフィプロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有する、半導体装置の製造方法である。本発明の半導体装置の製造方法によれば、EUV光に対する反射率が高く、かつ膜応力の小さい多層反射膜5を有する反射型マスク200を用いることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【0101】
具体的には、上記本実施形態の反射型マスク200を使用してEUV露光を行うことにより、半導体基板上に所望の転写パターンを形成することができる。このリソグラフィ工程に加え、被加工膜のエッチングや絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の電子回路が形成された半導体装置を高い歩留まりで製造することができる。
【実施例0102】
以下、各実施例について図面を参照しつつ説明する。
【0103】
(実施例1)
実施例1として、
図1に示すように、基板1の一方の主表面に多層反射膜5を形成した多層反射膜付き基板110を作製した。実施例1の多層反射膜付き基板110の作製は、次のようにして行った。
【0104】
((基板1))
第1主表面及び第2主表面の両表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の低熱膨張ガラス基板であるSiO2-TiO2系ガラス基板を準備し、基板1とした。平坦で平滑な主表面となるように、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨加工工程よりなる研磨を行った。
【0105】
((多層反射膜5))
図5に示すようなイオンビームスパッタリング装置500を用いて、上述の基板1の第1主表面の上に、多層反射膜5を形成した。この多層反射膜5は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜5とするために、SiとMoからなる周期多層反射膜5とした。具体的には、高屈折率材料のターゲット及び低屈折率材料のターゲット(第一及び第二スパッタリングターゲット507及び508)として、Siターゲット及びMoターゲットを使用した。これらのターゲット507及び508に対して、イオン源505からクリプトン(Kr)イオン粒子を供給して、イオンビームスパッタリングを行うことにより、基板1上にSi層及びMo層を交互に積層した。
【0106】
ここで、Si及びMoのスパッタ粒子は、基板1の主表面の法線に対して30度の角度で入射させた。まず、Si層を4.2nmの膜厚で成膜し、続いて、Mo層を2.8nmの膜厚で成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi層を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜5を形成した。したがって、多層反射膜5の最下層、すなわち基板1に最も近い多層反射膜5の材料はSiであり、また多層反射膜5の最上層、すなわち保護膜6と接する多層反射膜5の材料もSiである。なお、ここでは40周期としたが、それに限るものではなく、例えば60周期でも良い。60周期とした場合、40周期より工程数は増えるが、EUV光に対する反射率を高めることができる。
【0107】
多層反射膜5の成膜の際、ニュートラライザー513を作動するためのガスとして、クリプトンを用いた。したがって、イオンビームスパッタリングの際にチャンバー内に導入したガスは、クリプトンのみである。ニュートラライザー513においてクリプトンはプラズマ化され、プラズマから電子を引き出した。電子の引き出しは、イオン源505からスパッタリングターゲット507又は508へ向かうイオン粒子の経路に向けて照射されるように行った。
【0108】
以上のようにして、実施例1の多層反射膜付き基板110を製造した。
【0109】
実施例1の多層反射膜付き基板110の反射率を測定した。表1に示すように、波長13.5nmの反射率は、68.4%だった。また、このときの実施例1の多層反射膜付き基板110の多層反射膜5の平坦度を、平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)を用いて測定したところ、表1に示すように、平坦度は900nmだった。
【0110】
また、多層反射膜5の組成をラザフォード後方散乱分析法により測定したところ、
図7に示すように、Kr含有量は1.1原子%(at%)、Mo含有量は43.6原子%、Si含有量は55.3原子%であった。Si含有量に対するKr含有量の割合は、0.02であった。また、X線光電子分光法により分析したところ、Krは、Mo層にはほとんど含まれておらず、Si層に含まれていることがわかった。さらに、多層反射膜5の断面を透過型電子顕微鏡で観察したところ、Mo層は多結晶の構造を有しており、Si層はアモルファス状の構造を有していることがわかった。また、X線反射率測定法により金属拡散層の厚さを測定したところ、Si層上にMo粒子を入射させた際に形成されるSi層上のMoSi拡散層は1.1nmであった。
【0111】
次に、実施例1の多層反射膜付き基板110に対して、温度230℃、10分間でアニール(加熱処理)した。その後、実施例1の多層反射膜付き基板110の反射率を、再度、測定した。表1に示すように、アニール後の波長13.5nmの反射率は、67.7%だった。また、表1に示すように、実施例1の多層反射膜付き基板110の、アニール後の多層反射膜5の平坦度を測定したところ、平坦度は350nmだった。また、アニール後の多層反射膜5の組成はほとんど変わらなかった。
【0112】
(実施例2)
表1に示すように、実施例2として、実施例1と同様に、基板1の第1主表面に多層反射膜5が形成された多層反射膜付き基板110を製造した。
【0113】
アニール温度を200℃とした以外は実施例1と同様に、実施例2の多層反射膜付き基板110をアニールした。また、アニールの前後の多層反射膜5の反射率及び平坦度を測定した。これらの測定結果を、表1に示す。
【0114】
(実施例3)
表1に示すように、実施例3として、実施例1と同様に、基板1の第1主表面に多層反射膜5が形成された多層反射膜付き基板110を製造した。
【0115】
アニール温度を260℃とした以外は実施例1と同様に、実施例3の多層反射膜付き基板110をアニールした。また、アニールの前後の多層反射膜5の反射率及び平坦度を測定した。これらの測定結果を、表1に示す。
【0116】
(実施例4)
実施例4として、Siのスパッタ粒子の入射角度を25度に変えた以外は、実施例1と同様に、基板1の第1主表面に多層反射膜5が形成された多層反射膜付き基板110を製造した。
【0117】
実施例1と同様に、多層反射膜付き基板110の反射率及び平坦度を測定したところ、反射率は68.4%であり、平坦度は850nmだった。
【0118】
また、多層反射膜5の組成をラザフォード後方散乱分析法により測定したところ、Kr含有量は1.0原子%(at%)、Mo含有量は43.6原子%、Si含有量は55.4原子%であった。Si含有量に対するKr含有量の割合は、0.02であった。また、X線光電子分光法により分析したところ、Krは、Mo層にはほとんど含まれておらず、Si層に含まれていることがわかった。さらに、多層反射膜5の断面を透過型電子顕微鏡で観察したところ、Mo層は多結晶の構造を有しており、Si層はアモルファス状の構造を有していることがわかった。また、X線反射率測定法により金属拡散層の厚さを測定したところ、Si層上にMo粒子を入射させた際に形成されるSi層上のMoSi拡散層は1.15nmであった。
【0119】
次に、実施例1と同様に、多層反射膜付き基板110に対して、温度230℃、10分間でアニール(加熱処理)した。その後、実施例5の多層反射膜付き基板110の反射率及び平坦度を測定したところ、反射率は67.7%であり、平坦度は330nmだった。また、アニール後の多層反射膜5の組成はほとんど変わらなかった。
【0120】
(比較例1)
表1に示すように、比較例1として、多層反射膜5の成膜の際に、イオン源からイオン粒子としてアルゴンイオンを用い、ニュートラライザー513を作動するためのガスとしてアルゴンを用いた以外は実施例1と同様に、基板1の第1主表面に多層反射膜5が形成された多層反射膜付き基板110を製造した。すなわち、比較例1の多層反射膜5の成膜の際には、クリプトンを用いなかった。
【0121】
多層反射膜5の組成をラザフォード後方散乱分析法により測定したところ、Ar含有量は1.3原子%、Mo含有量は43.7原子%、Si含有量は55.0原子%であった。また、X線反射率測定法により金属拡散層の厚さを測定したところ、Si層上のMoSi拡散層は1.3nmであった。
【0122】
実施例1と同様に、比較例1の多層反射膜付き基板110をアニールした。また、アニールの前後の多層反射膜5の反射率及び平坦度を測定した。これらの測定結果を、表1に示す。
【0123】
(実施例1~4及び比較例1の多層反射膜付き基板110の評価結果)
実施例1、4では金属拡散層の厚さが各々1.1nm、1.15nmであり、比較例1の金属拡散層の厚さ1.3nmよりも薄かった。また、表1から明らかなように、イオン源505からクリプトンイオンを供給してKrを含有する多層反射膜5を形成した実施例1~4の多層反射膜付き基板110の場合には、アニール前の多層反射膜5の反射率が68.4%という、高い値の反射率を得ることができた。これに対して比較例1の多層反射膜付き基板110のアニール前の多層反射膜5の反射率は、66.0%と低い値だった。また、実施例1~4のアニール後の多層反射膜5の反射率も、67.5%以上であり、比較例1のアニール前の多層反射膜5の反射率よりも高かった。また、実施例3では、比較例1よりも反射率が高く、かつ平坦度も50nmと高かった。以上のことから、実施例1~4の多層反射膜付き基板110の場合には、金属拡散層を薄くでき、アニールによって多層反射膜5の膜応力を低減させて多層反射膜付き基板110の平坦度を向上させるとともに、反射型マスク200としての使用に耐える多層反射膜5の反射率を維持することができることが明らかとなった。
【0124】
(反射型マスクブランク100)
上述の実施例1~4の多層反射膜付き基板110を用いて、反射型マスクブランク100を製造することができる。以下、反射型マスクブランク100の製造方法について、説明する。
【0125】
((保護膜6))
上述の多層反射膜付き基板110の表面に、保護膜6を形成した。Arガス雰囲気中で、Ruターゲットを使用したイオンビームスパッタリングによりRuからなる保護膜6を2.5nmの膜厚で成膜した。ここで、Ruのスパッタ粒子は、基板1の主表面の法線に対して30度の角度で入射させた。その後、大気中で130℃のアニールを行った。
【0126】
((吸収体膜7))
次に、DCスパッタリング法により、下層吸収体膜71として膜厚56nmのTaBN膜を、上層吸収体膜72として膜厚14nmのTaBO膜を積層して、この2層膜よりなる吸収体膜7を形成した。TaBN膜は、TaBをターゲットに用いて、ArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリング法で形成した。TaBO膜は、TaBをターゲットに用いて、ArガスとO2ガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリング法により形成した。TaBO膜は経時変化の少ない膜であるとともに、この膜厚のTaBO膜は光を用いたマスクパターン検査の時に反射防止膜として働き、検査感度を向上させる。EBでマスクパターン検査を行う場合でも、スループットの関係で、光によるマスクパターン検査を併用する方法が多用されている。すなわち、メモリセル部のような微細パターンが用いられている領域に対しては検査感度の高いEBでマスクパターン検査を行い、間接周辺回路部のような比較的大きなパターンで構成されている領域に対してはスループットの高い光でマスクパターン検査を行う。
【0127】
((裏面導電膜2))
次に、基板1の第2主表面(裏面)にCrNからなる裏面導電膜2をマグネトロンスパッタリング(反応性スパッタリング)法により下記の条件にて形成した。裏面導電膜2の形成条件:Crターゲット、ArとN2の混合ガス雰囲気(Ar:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm。
【0128】
以上のようにして、実施例1~4の多層反射膜付き基板110を用いて、反射型マスクブランク100を製造した。
【0129】
(反射型マスク200)
次に、実施例1~4の上記の反射型マスクブランク100を用いて、反射型マスク200を製造した。
図5を参照して反射型マスク200の製造を説明する。
【0130】
まず、
図4(b)に示されるように、反射型マスクブランク100の上層吸収体膜72の上に、レジスト膜8を形成した。そして、このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成した(
図4(c))。次に、レジストパターン8aをマスクにしてTaBO膜(上層吸収体膜72)を、CF
4ガスを用いてドライエッチングし、引き続き、TaBN膜(下層吸収体膜71)を、Cl
2ガスを用いてドライエッチングすることで、吸収体パターン7aを形成した(
図4(d))。Ruからなる保護膜6はCl
2ガスに対するドライエッチング耐性が極めて高く、十分なエッチングストッパとなる。その後、レジストパターン8aをアッシングやレジスト剥離液などで除去した(
図4(e))。
【0131】
以上のようにして実施例1~4の反射型マスク200を製造した。
【0132】
(半導体装置の製造)
実施例1~4の多層反射膜付き基板110を用いて製造した反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0133】
実施例1~4の多層反射膜付き基板110を用いて製造した反射型マスク200は、露光光に対する反射率が高い多層反射膜5を有するので、微細でかつ高精度の転写パターンを形成することができた。
【0134】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を高い歩留まりで製造することができた。
【0135】