(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159439
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】術後回復を促進するための分子状水素含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20221006BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20221006BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20221006BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221006BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20221006BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20221006BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221006BHJP
A61P 13/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P17/02
A61P25/04
A61P29/00
A61P31/00
A61P7/00
A61P21/00
A61P13/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129681
(22)【出願日】2022-08-16
(62)【分割の表示】P 2020004154の分割
【原出願日】2020-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】394021270
【氏名又は名称】MiZ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文武
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 秀介
(72)【発明者】
【氏名】黒川 亮介
(72)【発明者】
【氏名】平野 伸一
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐介
(57)【要約】
【課題】術後回復の改善を促進するための組成物を提供する。
【解決手段】分子状水素を有効成分として含む、手術を受けた被験体において、手術の侵
襲からの、及び/又は、手術と関連する症状からの回復又は改善を促進するための組成物
。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子状水素を有効成分として含む、手術を受けた被験体において、手術の侵襲からの、
及び/又は、手術と関連する症状からの回復又は改善を促進するための組成物。
【請求項2】
前記分子状水素を含む液体又は気体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記分子状水素を含む液体が、1~10ppmの水素濃度を有する、請求項2に記載の
組成物。
【請求項4】
前記分子状水素を含む気体が、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下の水素
濃度を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記被験体が、ヒトを含む哺乳動物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成
物。
【請求項6】
水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置を用いて作製される、請求
項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記手術の侵襲が、前記被験体の手術によってもたらされる、生体の内部環境の恒常性
を乱す創傷、疼痛、感染、出血、及び、炎症からなる群から選択される刺激であることを
特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記手術と関連する症状が、前記被験体の疾患、病巣もしくは障害の治療のために行わ
れた手術後に認められる疼痛、出血、炎症、発熱、筋肉の硬直、しびれ、むくみ、痙攣の
症状、及び/又は、前記被験体の疾患、病巣もしくは障害に起因する症状からなる群から
選択される症状であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体において、手術の侵襲及び症状からの回復又は改善を促進するための
分子状水素含有組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
医療現場では多種多様な手術が行われている。手術は侵襲性であるとともに、出血、感
染症、疼痛などに対するケアと管理が求められる。また、手術後の経過観察が行われ、回
復が良好であるかが監視される。
【0003】
手術によっては、麻酔が消失した後の疼痛が見られることが多くあり、このような疼痛
を軽減するために鎮痛剤が投与されるなどの処置が行われている。しかしながら、術後回
復を促進するための処置に関しては、十分な処置がなされているとは云い難い。特許文献
を検索してみても、特許文献1を除いて、術後回復の促進に関するものは極めて少ない。
【0004】
特許文献1には、ミオスタチンアンタゴニストを含む組成物による、股関節部骨折手術
からの回復を改善および/または促進するための方法が開示されている。
【0005】
本発明の有効成分である水素は、活性酸素種に起因する酸化ストレスを抑制する抗酸化
反応性を有するため、酸化ストレスに関連する種々の疾患の治療に使用できる可能性が指
摘されている(非特許文献1)。しかしながら、実際にヒトでの臨床効果が確認された症
例は少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】太田成男,生化学,87(1):82-90,2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
手術後(「術後」とも称する。)の回復を促進することができるならば、患者の苦痛を
軽減し、かつ生活の質を改善することができるだけでなく、医療費の削減にも貢献できる
だろうと考えられる。上記のとおり、術後回復の促進に有用な成分もしくは物質は、ほと
んど知られていない。
【0009】
このような状況下で、本発明の目的は、分子状水素を使用することによって術後回復を
促進し、及び/又は、手術と関連する症状の改善を促進することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、以下の特徴を包含する。
(1)分子状水素を有効成分として含む、手術を受けた被験体において、手術の侵襲から
の、及び/又は、手術と関連する症状からの回復又は改善を促進するための組成物。
(2)上記分子状水素を含む液体又は気体である、上記(1)に記載の組成物。
(3)上記分子状水素を含む液体が、1~10ppmの水素濃度を有する、上記(2)に
記載の組成物。
(4)上記分子状水素を含む気体が、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下の
水素濃度を有する、上記(2)に記載の組成物。
(5)上記被験体が、ヒトを含む哺乳動物である、上記(1)~(4)のいずれかに記載
の組成物。
(6)水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置を用いて作製される、
上記(1)~(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)上記手術の侵襲が、前記被験体の手術によってもたらされる、生体の内部環境の恒
常性を乱す創傷、疼痛、感染、出血、及び、炎症からなる群から選択される刺激であるこ
とを特徴とする、上記(1)~(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)上記手術と関連する症状が、上記被験体の疾患、病巣もしくは障害の治療のために
行われた手術後に認められる疼痛、出血、炎症、発熱、筋肉の硬直、しびれ、むくみ、痙
攣の症状、及び/又は、上記被験体の疾患、病巣もしくは障害に起因する症状からなる群
から選択される症状であることを特徴とする、上記(1)~(7)のいずれかに記載の組
成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、手術を受けた被験体において、手術の侵襲及び/又は手術と関連する症状か
らの回復又は改善を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
1.術後回復を促進するための組成物
本発明は、分子状水素を有効成分として含む、手術を受けた被験体において、手術の侵
襲からの、及び/又は、手術と関連する症状からの回復又は改善を促進するための組成物
を提供する。
【0014】
本明細書中「手術の侵襲」という用語は、被験体に対して行われた手術の種類に関わら
ず、手術によってもたらされる、生体の内部環境の恒常性を乱す刺激、例えば創傷、疼痛
、感染、出血、炎症などを含む。手術は、病気や障害の原因を取り除き、疾患・障害部位
の機能を回復及び改善するために行われ、手術には、病巣の切除、器官や組織の整形、移
植などが含まれる。手術は、通常、生体を傷つけるため侵襲性であり、高侵襲性の開腹・
開胸手術、低侵襲性の内視鏡手術(例えば、ポリープ切除、腹腔鏡手術、ロボット手術な
ど)など多種多様であり、皮膚・乳房、筋骨、呼吸器・胸部、循環器・脾、消化器、泌尿
器・性器、内分泌器、感覚器・視器・聴器、悪性新生物などの手術を含む。
【0015】
より具体的に、手術は、医学分野及び医療業界で一般的に使用される用語の意味を有す
るものとし、以下のものに限定されないが、手術を必要とする疾患、障害、事故などに起
因するすべての手術、例えば、良性もしくは悪性腫瘍(例えば、癌、筋腫など)、肥大(
例えば、前立腺、扁桃腺など)、盲腸(虫垂炎)などの切除、腎臓、肝臓、大腸、胃、肺
、心臓、乳房などの臓器や器官の手術、骨折、骨変形、椎間板ヘルニア、関節症などの手
術、臓器、角膜、皮膚などの移植、人工骨、人工関節などの人工物の移植のための手術、
脳梗塞、くも膜下出血、脳挫傷などの手術、火傷、裂傷、打撲などの手術、白内障、網膜
剥離などの眼科分野の手術などを包含する。
【0016】
本明細書中「手術と関連する症状」という用語は、疾患(もしくは病巣)や障害の治療
のために行われた手術後に認められる症状(例えば、疼痛、出血、炎症、発熱、筋肉の硬
直、しびれ、むくみ、痙攣など)、及び/又は疾患(もしくは病巣)や障害に起因する症
状を含む。例えば、変形性股関節症の患者は、股関節置換手術により人工股関節を移植し
た後、筋肉の硬直、疼痛、しびれなどの症状が現れることがしばしば見られる。
【0017】
本明細書中「被験体」という用語は、哺乳動物、例えば、ヒトを含む霊長類、イヌ、ネ
コなどのペット動物、動物園などの観賞用動物などを含む。好ましい被験体はヒトである
。
【0018】
本明細書中、本発明の組成物の有効成分である「水素」は分子状水素(すなわち、気体
状水素もしくは水素ガス)であり、特に断らない限り、単に「水素」又は「水素ガス」と
称する。また、本明細書中で使用する用語「水素」は、分子式でH2、D2(重水素)、
HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスを指す。D2は、高価であるが、H2より
スーパーオキシド消去作用が強いことが知られている。本発明で使用可能な水素は、H2
、D2(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスであり、好ましくはH
2であり、或いはH2に代えて、又はH2と混合して、D2及び/又はHDを使用しても
よい。
【0019】
本発明の組成物の好ましい形態は、分子状水素を含む気体又は液体であり、好ましくは
分子状水素を含む気体である。
【0020】
分子状水素を含む気体は、好ましくは、水素ガスを含む空気又は、水素ガスと酸素ガス
を含む混合ガスである。分子状水素を含む気体(すなわち、本発明の組成物)の水素ガス
の濃度は、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下、例えば0.5~18.5体
積%であり、好ましくは1~10体積%、例えば2~10体積%、2~9体積%、2~8
体積%、3~10体積%、3~9体積%、3~8体積%、3~7体積%、3~6体積%、
4~10体積%、4~9体積%、4~8体積%、4~7体積%、4~6体積%、4~5体
積%、5~10体積%、5~9体積%、5~8体積%、6~10体積%、6~9体積%、
6~8体積%、6~7体積%などである。本発明では、爆発限界以下で水素ガス濃度が高
いほど、或いは1日あたりの水素投与量が高いほど、術後回復の症状の改善(例えば抑制
又は軽減)を促進する効果が大きい傾向がある。
【0021】
水素は可燃性かつ爆発性ガスであるため、術後回復の促進においては、ヒトなどの被験
体に安全な条件で本発明の組成物に水素を含有させて被験体に投与することが好ましい。
【0022】
水素ガス以外の気体が空気であるときには、空気の濃度は、例えば81.5~99.5
体積%の範囲である。
【0023】
水素ガス以外の気体が酸素ガスを含む気体であるときには、酸素ガスの濃度は、例えば
21~99.5体積%の範囲である。
【0024】
その他の主気体として例えば窒素ガスをさらに含有させることができる。
【0025】
分子状水素を含む液体は、具体的には、水素ガスを溶存させた水性液体であり、ここで
、水性液体は、非限定的に、例えば水(例えば精製水、滅菌水)、生理食塩水、緩衝液(
例えばpH4~7.4の緩衝液)、点滴液、輸液、注射溶液、飲料(例えば、緑茶、紅茶
などの茶飲料、果汁、青汁、野菜ジュース、など)などである。分子状水素を含む液体の
水素濃度は、非限定的に、例えば1~10ppm、好ましくは1.2~9ppm、例えば
1.5~9ppm、1.5~8ppm、1.5~7ppm、1.5~6ppm、1.5~
5ppm、1.5~4ppm、2~10ppm、2~9ppm、2~8ppm、2~7p
pm、2~6ppm、2~5ppm、3~10ppm、3~9ppm、3~8ppm、3
~7ppm、4~10ppm、4~9ppm、4~8ppm、4~7ppm、5~10p
pm、5~9ppm、5~8ppm、5~7ppmなどである。
【0026】
本発明では、爆発限界以下で溶存する水素濃度が高いほど、或いは1日あたりの水素投
与量が高いほど、術後回復を促進する効果が大きい傾向がある。
【0027】
分子状水素を含む気体又は液体は、所定の水素ガス濃度になるように配合されたのち、
例えば耐圧性の容器(例えば、ステンレスボンベ、アルミ缶、好ましくは内側をアルミフ
ィルムでラミネーションした、耐圧性プラスチックボトル(例えば耐圧性ペットボトル)
及びプラスチックバッグ、アルミバッグ、等)に充填される。アルミは水素分子を透過さ
せ難いという性質を有している。或いは、分子状水素を含む気体又は分子状水素を含む液
体は、投与時に、水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置、例えば、
公知のもしくは市販の水素ガス供給装置(分子状水素を含む気体の生成用装置)、水素添
加器具(水素水生成用装置)、非破壊的水素含有器(例えば点滴液などの生体適用液バッ
グ内部へ非破壊的に水素ガスを添加するための装置)などの装置を用いてその場で作製さ
れてもよい。
【0028】
水素ガス供給装置は、水素発生剤(例えば金属アルミニウム、水素化マグネシウム、等
)と水の反応により発生する水素ガスを、希釈用ガス(例えば空気、酸素、等)と所定の
比率で混合することを可能にする(日本国特許第5228142号公報、等)。あるいは
、水の電気分解を利用して発生した水素ガスを、酸素、空気などの希釈用ガスと混合する
(日本国特許第5502973号公報、日本国特許第5900688号公報、等)。これ
によって、例えば0.5~18.5体積%の範囲内の水素濃度の分子状水素を含む気体を
調製することができる。
【0029】
水素添加器具は、水素発生剤とpH調整剤を用いて水素を発生し、水などの生体適用液
に溶存させる装置である(日本国特許第4756102号公報、日本国特許第46524
79号公報、日本国特許第4950352号公報、日本国特許第6159462号公報、
日本国特許第6170605号公報、特開2017-104842号公報、等)。水素発
生剤とpH調整剤の組み合わせは、例えば、金属マグネシウムと強酸性イオン交換樹脂も
しくは有機酸(例えばリンゴ酸、クエン酸、等)、金属アルミニウム末と水酸化カルシウ
ム粉末、などである。これによって、例えば1~10ppm程度の溶存水素濃度の分子状
水素を含む液体を調製できる。
【0030】
非破壊的水素含有器は、点滴液などの市販の生体適用液(例えば、ポリエチレン製バッ
グなどの水素透過性プラスチックバッグに封入されている。)に水素ガスをパッケージの
外側から添加する装置又は器具であり、例えばMiZ(株)から市販されている(htt
p://www.e-miz.co.jp/technology.html)。この装
置は、生体適用液を含むバッグを飽和水素水に浸漬することによってバッグ内に水素を透
過し濃度平衡に達するまで無菌的に水素を生体適用液に溶解させることができる。当該装
置は、例えば電解槽と水槽から構成され、水槽内の水が電解槽と水槽を循環し電解により
水素を生成することができる。或いは、簡易型の使い捨て器具は同様の目的で使用するこ
とができる(特開2016-112562号公報、等)。この器具は、アルミバッグの中
に生体適用液含有プラスチックバッグ(水素透過性バッグ、例えばポリエチレン製バッグ
)と水素発生剤(例えば、金属カルシウム、金属マグネシウム/陽イオン交換樹脂、等)
を内蔵しており、水素発生剤は例えば不織布(例えば水蒸気透過性不織布)に包まれてい
る。不織布に包まれた水素発生剤を水蒸気などの少量の水で濡らすことによって発生した
水素が生体適用液に非破壊的かつ無菌的に溶解される。
【0031】
或いは、精製水素ガスボンベ、精製酸素ガスボンベもしくは精製空気ボンベを用意し、
所定の水素濃度、所定の酸素もしくは空気濃度になるように調整した分子状水素を含む気
体や液体を作製してもよい。
【0032】
上記の装置又は器具を用いて調製された、分子状水素を含む気体や分子状水素を含む液
体(例えば水(例えば精製水、滅菌水)、生理食塩水、点滴液、等)は、手術を受ける被
験体に、手術の前、手術の間、手術の後に、経口的に又は非経口的に投与されうる。
【0033】
本発明の組成物の別の形態には、被験体に経口投与(もしくは摂取)するように調製さ
れた、消化管内で水素の発生を可能にする水素発生剤を含有する剤型(例えば、錠剤、カ
プセル剤、等)が含まれる。水素発生剤は、例えば食品もしくは食品添加物として承認さ
れている成分によって構成されることが好ましい。
【0034】
本発明の組成物を被験体に投与する方法としては、分子状水素を有効成分とするとき、
例えば吸入、吸引等による投与、例えば経肺投与が好ましい、また、分子状水素を含む液
体を有効成分とするとき経口投与又は静脈内投与(点滴を含む)が好ましい。ガスを吸入
するときには、鼻カニューラや、口と鼻を覆うマスク型の器具を介して口又は鼻からガス
を吸入して肺に送り、血液を介して全身に送達することができる。
【0035】
経口投与する分子状水素を含む液体については、冷却した液体又は常温で保存した液体
を被験体に投与してもよい。水素は常温常圧下で約1.6ppm(1.6mg/L)の濃
度で水に溶解し、温度による溶解度差が比較的小さいことが知られている。或いは、分子
状水素を含む液体は、例えば上記の非破壊的水素含有器を用いて調製された水素ガスを含
有させた点滴液又は注射液の形態であるときには、静脈内投与、動脈内投与などの非経口
投与経路によって被験体に投与してもよい。
【0036】
上記水素濃度の分子状水素を含む気体又は上記溶存水素濃度の分子状水素を含む液体を
1日あたり1回又は複数回(例えば2~3回)、1週間~3か月又はそれ以上の期間、例
えば1週間~6か月又はそれ以上(例えば、1年以上、2年以上、など)にわたりヒトに
投与することができる。分子状水素を含む気体が投与されるときには、1回あたり少なく
とも30分吸入することが好ましい。吸入時間は長いほど改善効果があることから、例え
ば、30分から1時間、1時間から2時間、2時間から3時間、もしくはそれ以上かけて
投与することができる。また、分子状水素を含む気体を吸入又は吸引によって経肺投与す
るときには、大気圧環境下で、或いは、例えば標準大気圧(約1.013気圧をいう。)
を超える且つ7.0気圧以下の範囲内の高気圧、例えば1.02~7.0気圧、好ましく
は1.02~5.0気圧、より好ましくは1.02~4.0気圧、さらに好ましくは1.
02~1.35気圧の範囲内の高気圧環境下(分子状水素含有気体を含む)で被験体に当
該気体を投与することができる。
【0037】
2.術後回復を促進するための方法
本発明はさらに、上記の分子状水素を有効成分として含む組成物を、手術を受けた被験
体において、手術の侵襲からの、及び/又は、手術と関連する症状からの回復又は改善を
促進するための方法を提供する。
【0038】
分子状水素を含む組成物、手術の侵襲、手術と関連する症状、投与量、投与方法、など
については、上記1.で説明したとおりである。
【0039】
本発明の方法では、手術の前、手術の間、或いは手術の後、例えば手術前1~7日目か
ら、手術直後から、被験体に本発明の組成物を投与することができる。
【0040】
本発明の方法では、被験体に、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下、例え
ば0.5~18.5体積%、2~10体積%、2~9体積%、2~8体積%、3~10体
積%、3~9体積%、3~8体積%、3~7体積%、3~6体積%、4~10体積%、4
~9体積%、4~8体積%、4~7体積%、4~6体積%、4~5体積%、5~10体積
%、5~9体積%、5~8体積%、6~10体積%、6~9体積%、6~8体積%、6~
7体積%など、好ましくは5~10体積%、5~8体積%、例えば6~10体積%、6~
8体積%、6~7体積%など、の分子状水素を含有する気体(好ましくは、空気もしくは
酸素)を1日あたり例えば1~3時間もしくはそれ以上にわたり吸入又は吸引し、例えば
1~3か月もしくはそれ以上、4~7か月もしくはそれ以上、1~3年もしくはそれ以上
継続することができる。
【0041】
或いは、本発明の方法では、被験体に、例えば1~10ppm、1.5~9ppm、1
.5~8ppm、1.5~7ppm、1.5~6ppm、1.5~5ppm、1.5~4
ppm、2~10ppm、2~9ppm、2~8ppm、2~7ppm、2~6ppm、
2~5ppm、3~10ppm、3~9ppm、3~8ppm、3~7ppm、4~10
ppm、4~9ppm、4~8ppm、4~7ppm、5~10ppm、5~9ppm、
5~8ppm、5~7ppmなど、好ましくは3~10ppm、4~10ppm、5~1
0ppm、5~9ppm、5~8ppm、5~7ppmなど、の分子状水素含有液体を、
静脈内投与の場合1回あたり例えば200~500mL、また経口投与の場合1回あたり
例えば500~1000mLを投与し、例えば0.5~3か月もしくはそれ以上、4~7
か月もしくはそれ以上、1~3年もしくはそれ以上継続することができる。
【0042】
本発明の方法はさらに、必要に応じて、化学療法、放射線療法、リハビリテーションな
どの療法と併用してもよい。併用することによって、術後回復・改善の促進効果が高まる
ことが期待される。
【0043】
リハビリテーションは、術後、からだの低下した機能を回復するために行われる。例え
ば高齢者は、手術後の入院により身体機能が顕著に低下しやすいため、リハビリテーショ
ンは必須であると考えられている。具体的には、リハビリテーションにおいては、理学療
法、作業療法、言語聴覚療法、社会的、情緒的ニーズに応えるためのカウンセリングなど
を適宜組み合わせた、身体機能の回復のためのプログラムが実施される。
【0044】
また、疼痛などの症状に対しては、化学療法と併用することが好ましい。鎮痛剤は、例
えばボルタレン、ロキソニン、モルヒネなどを含む。
【実施例0045】
以下の実施例を参照しながら本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は当該実施例
によって制限されないものとする。
【0046】
[実施例1]
<水素吸入による術後の早期回復症例>
65歳の男性は変形性股関節症(右足が4.5cm短い。)のため股関節置換手術を受
けた。手術は、2019年7月10日の午前10時に開始し、同日の午前11時頃に終了
した。患者は、手術終了後、目覚めて直ちに病室で水素ガスを吸入し始めた。また、同時
に手術終了後は筋肉が引っ張られて硬くなり脚がパンパンになっていたため、リハビリを
開始した。覚醒直後からリハビリ期間中の1日当たりの吸入時間は、MiZ(株)製の水
素発生機(タイプJobs-α、水素濃度約5.0%、水素ガス発生量約200ml/m
in)を用いて3~4時間であった。
【0047】
当初の術後経過予想では、通常3か月の松葉杖を使用する予定であった(すなわち、最
初の1.5か月は両杖の使用予定、その後の1.5か月は片杖の使用予定であった)。し
かし、手術直後からの水素吸入によって術後の回復が早く、7月20日には退院でき、2
019年7月23日(手術から13日後)には杖の使用の必要はなくなり、回復の状態に
リハビリ担当者が驚くほどであった。