(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159511
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】粘着フィルム収納箱及び粘着フィルム収納装置
(51)【国際特許分類】
B65D 5/72 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
B65D5/72 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130763
(22)【出願日】2022-08-18
(62)【分割の表示】P 2017177853の分割
【原出願日】2017-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】礒田 奈央子
(57)【要約】
【課題】粘着フィルムを収納し、使用時には適切に引き出すことができる粘着フィルム収
納箱を提供する。
【解決手段】粘着フィルム収納箱10は、前板30、底板31、後板32及び側板34を
少なくとも有し、上面が開口した本体部20と、本体部20の上面の開口を開閉可能な蓋
部21と、を有する。前板30における、引き出される粘着フィルムFと接触する部位の
少なくとも一部には、接触した粘着フィルムFのせん断剥離力が6.0N/25mm以下
となるせん断剥離力低減部120、121が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着性のある粘着フィルムを巻回した巻回体を収納するための粘着フィルム収納箱であ
って、
前板、底板、後板及び側板を少なくとも有し、上面が開口した本体部と、
前記本体部の上面の開口を開閉可能な蓋部と、を有し、
前記前板における、引き出される粘着フィルムと接触する部位の少なくとも一部には、
接触した粘着フィルムのせん断剥離力が6.0N/25mm以下となるせん断剥離力低減
部が設けられている、粘着フィルム収納箱。
【請求項2】
前記せん断剥離力低減部は、前記前板と前記粘着フィルムとの接触面積を低減する構造
である、請求項1に記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項3】
前記せん断剥離力低減部は、前記前板における粘着フィルムと接触する部位に凸部、凹
部或いは凹凸部を設けた構造である、請求項2に記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項4】
前記せん断剥離力低減部は、前記粘着フィルムと接触する部位の表面に、前記接触面積
を低減する塗料が塗布された構造である、請求項2に記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項5】
前記せん断剥離力低減部は、前記粘着フィルムと接触する部位の表面に、前記接触面積
を低減する材質を有する構造である、請求項2に記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項6】
前記せん断剥離力低減部は、前記前板における外面、内面及び上端の少なくとも一部に
設けられている、請求項1~5のいずれかに記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項7】
前記せん断剥離力低減部は、前記前板の内面の左右方向の少なくとも両端付近の領域に
設けられている、請求項6に記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項8】
前記せん断剥離力低減部は、前記前板の外面の上端付近の領域に設けられている、請求
項6又は7に記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項9】
前記蓋部の先端には、切断部が設けられ、
前記せん断剥離力低減部は、前記前板の外面における、前記蓋部が前記本体部の開口を
閉じたときの前記切断部に対応する位置よりも上側の領域に設けられている、請求項8に
記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項10】
前記蓋部の先端には、切断部が設けられ、
前記せん断剥離力低減部は、前記前板の外面における、前記蓋部が前記本体部の開口を
閉じたときの前記切断部に対応する位置に設けられ、それよりも上側の領域には、粘着フ
ィルムを係止する係止部が設けられている、請求項8に記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項11】
前記前板の外面には、つまみ片が設けられ、
前記せん断剥離力低減部は、前記つまみ片に設けられている、請求項6~10のいずれ
かに記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項12】
前記せん断剥離力低減部は、前記前板の上端の左右方向の少なくとも中央付近の領域に
設けられている、請求項6~11のいずれかに記載の粘着フィルム収納箱。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の粘着フィルム収納箱に巻回体が収納された粘着フィ
ルム収納装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、感染予防フィルムなどの粘着性の高い粘着フィルムを巻回して構成された巻
回体を収納する粘着フィルム収納箱、及び粘着フィルム収納箱に巻回体が収納された粘着
フィルム収納装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば医療現場では、医者が、患者を診察、治療しながら、パソコンに患者の情報を入
力してカルテ等を作成することがある。この際、患者に触れた手でパソコンのキーボード
に触れる場合もあり得る。万が一キーボードに患者の体液等が付着すると、医者や看護婦
などの医療従事者間の感染等が懸念され好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、例えばパソコンのキーボードの表面に粘着性の高い感染予防フィルムを貼付し
、キーボードの使用後にそれを剥がして破棄することを考えている。
【0005】
しかしながら、医療従事者が上述のような感染予防フィルムなどの粘着フィルムを簡便
に使えるように、粘着フィルムを収納し、使用時には粘着フィルムを所望の長さに切断で
きるような粘着フィルムの収納容器は開発されていない。
【0006】
従来よりラップフィルムを巻回したラップフィルムロールを収納するラップフィルム収
納箱(特許文献1参照)がある。しかし、このラップフィルム収納箱を上述のような粘着
性の高い粘着フィルムの収納に用いると、例えば粘着フィルムを箱から引き出す際に粘着
フィルムが箱に接着しやすくなり、一旦接着すると粘着フィルムを引っ張り出すのに非常
に大きな力が必要となる。この結果、粘着フィルムを適切に引き出せないなどの引出不良
を起こすことがある。
【0007】
本出願はかかる点に鑑みてなされたものであり、粘着フィルムを収納し、使用時には適
切に引き出すことができる粘着フィルム収納箱及び粘着フィルム収納装置を提供すること
をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、前板における、引き出される粘着フィルムと接触
する部位の少なくとも一部に、接触した粘着フィルムのせん断剥離力が5.0N/25m
m以下となるせん断剥離力低減部を設けることで上記課題が解決されることを見出し、本
発明を完成するに至った。即ち、本発明の態様は以下を含む。
【0009】
(1)粘着性のある粘着フィルムを巻回した巻回体を収納するための粘着フィルム収納箱
であって、前板、底板、後板及び側板を少なくとも有し、上面が開口した本体部と、前記
本体部の上面の開口を開閉可能な蓋部と、を有し、前記前板における、引き出される粘着
フィルムと接触する部位の少なくとも一部には、接触した粘着フィルムのせん断剥離力が
6.0N/25mm以下となるせん断剥離力低減部が設けられている、粘着フィルム収納
箱。
(2)前記せん断剥離力低減部は、前記前板と前記粘着フィルムとの接触面積を低減する
構造である、(1)に記載の粘着フィルム収納箱。
(3)前記せん断剥離力低減部は、前記前板における粘着フィルムと接触する部位に凸部
、凹部或いは凹凸部を設けた構造である、(2)に記載の粘着フィルム収納箱。
(4)前記せん断剥離力低減部は、前記粘着フィルムと接触する部位の表面に、前記接触
面積を低減する塗料が塗布された構造である、(2)に記載の粘着フィルム収納箱。
(5)前記せん断剥離力低減部は、前記粘着フィルムと接触する部位の表面に、前記接触
面積を低減する材質を有する構造である、(2)に記載の粘着フィルム収納箱。
(6)前記せん断剥離力低減部は、前記前板における外面、内面及び上端の少なくとも一
部に設けられている、(1)~(5)のいずれかに記載の粘着フィルム収納箱。
(7)前記せん断剥離力低減部は、前記前板の内面の左右方向の少なくとも両端付近の領
域に設けられている、(6)に記載の粘着フィルム収納箱。
(8)前記せん断剥離力低減部は、前記前板の外面の上端付近の領域に設けられている、
(6)又は(7)に記載の粘着フィルム収納箱。
(9)前記蓋部の先端には、切断部が設けられ、前記せん断剥離力低減部は、前記前板の
外面における、前記蓋部が前記本体部の開口を閉じたときの前記切断部に対応する位置よ
りも上側の領域に設けられている、(8)に記載の粘着フィルム収納箱。
(10)前記蓋部の先端には、切断部が設けられ、前記せん断剥離力低減部は、前記前板
の外面における、前記蓋部が前記本体部の開口を閉じたときの前記切断部に対応する位置
に設けられ、それよりも上側の領域には、粘着フィルムを係止する係止部が設けられてい
る、(8)に記載の粘着フィルム収納箱。
(11)前記前板の外面には、つまみ片が設けられ、前記せん断剥離力低減部は、前記つ
まみ片に設けられている、(6)~(10)のいずれかに記載の粘着フィルム収納箱。
(12)前記せん断剥離力低減部は、前記前板の上端の左右方向の少なくとも中央付近の
領域に設けられている、(6)~(11)のいずれかに記載の粘着フィルム収納箱。
(13)(1)~(12)のいずれかに記載の粘着フィルム収納箱に巻回体が収納された
粘着フィルム収納装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粘着フィルムを収納し、使用時には適切に引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】粘着フィルム収納装置の外観の一例を示す斜視図である。
【
図2】蓋部を開放したときの粘着フィルム収納装置を示す斜視図である。
【
図3】巻回体と粘着フィルム収納箱の構成を示す斜視図である。
【
図4】粘着フィルム収納箱の表面側の展開図である。
【
図5】粘着フィルム収納箱の側部の構成を示す説明図である。
【
図7】前板の高さを説明するための粘着フィルム収納箱の縦断面の説明図である。
【
図8】開封片を切り取る際の粘着フィルム収納箱の斜視図である。
【
図10】前板の塗料の塗布領域を示す説明図である。
【
図11】粘着フィルムが前板の内面に接触した状態を示す模式図である。
【
図12】前板の塗料の塗布領域の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について、以下具体的に説明する。なお、以下の実施の形態は、本
発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではな
い。同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面中、上下左
右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに
、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本実施の形態にかかる粘着フィルム収納装置1の一例を示す斜視図である。図
2は、粘着フィルム収納装置1を開封した状態の斜視図である。
【0014】
粘着フィルム収納装置1は、粘着フィルム収納箱10と、粘着フィルムFの巻回体11
を有している。なお、本明細書において、「粘着フィルム」とは、粘着力(JIS023
7準拠180度剥離力)が0.01N/25mm以上、1.5N/25mm以下の粘着性
があるフィルムをいう。
【0015】
粘着フィルム収納箱10は、全体が例えば直方体形状を有している。粘着フィルム収納
箱10は、
図3及び
図4に示すように本体部20と蓋部21を有している。本体部20は
、例えば前板30と、底板31と、後板32と、前板脇片33と、側板34と、延出片3
5と、後板脇片36等を有している。前板30は、前板30の内面を有する折り返し裏板
37と、前板30の外面を有する外面板38を備えている。蓋部21は、例えば天板40
と、掩蓋片41と、天板脇片42と、掩蓋脇片43及び開封片44等を有している。
【0016】
本体部20は、
図3に示すように上面が開口した直方体状に形成されている。前板30
、底板31、後板32及び側板34は、それぞれ方形状に形成され、本体部20の5つの
各面を構成している。
【0017】
図4に示すように後板脇片36は、後板32の左右方向(
図4のA方向)の両端に接続
されている。前板脇片33は、前板30の左右方向の両端に接続されている。折り返し裏
板37は、前板30の外面板38の幅方向(
図4のB方向)の一端に接続されている。図
3に示すように後板脇片36は、側板34側に折り返されて、側板34の外面を覆い、側
板34の外面に接着されている。前板脇片33は、側板34側に折り返されて後板脇片3
6と側板34との間に介在され、側板34の外面に接着されている。折り返し裏板37は
、前板30の裏面側に折り返されて前板30の外面板38の裏面に接着されている。
【0018】
延出片35は、
図4に示すように略長方形の板状に形成され、両側の各側板34の長手
方向の外側端に接続されている。延出片35は、
図3、
図5、
図6に示すように側板34
の上部から本体部20の内部に折り込まれ、本体部20の中心側に延出している。
【0019】
延出片35は、
図2及び
図6に示すように各側板34の上端から本体部20の巻回体1
1の芯管100の内部まで延出し、巻回体11を両端から中心側に押すことができる。な
お、粘着フィルム収納装置1を組み立てる際に、
図3に示すように巻回体11を上から本
体部20に収納することにより、延出片35が巻回体11の芯管100の内部に入り込む
。
【0020】
図5に示すように各側板34の上端の中央には、側板34の外側に突出する突出部60
が形成されている。突出部60は、
図4に示すように側板34の上部に切り込み61を形
成し、その切り込み61の内側領域を立ち上げることによって形成されている。突出部6
0の基端(側板34の上端)となる部分には、点線状の切れ線62が形成され、突出部6
0が外側に折り曲げられている。かかる構成により、突出部60は、
図6に示すように本
体部20の開口が閉鎖された時の蓋部21の内面に当接する。
【0021】
各側板34の中央には、本体部20の内部に突出する折り込み部70が形成されている
。折り込み部70は、例えば下に凸の舌状(略半円状)に形成され、上端に折り線71が
形成されている。折り込み部70は、巻回体11の芯管100内に折り込まれ、この折り
込み部70によって巻回体11が保持され、その結果巻回体11が本体部20から飛び出
ることを抑制できる。折り込み部70が折り込まれることにより、側板34に開口部72
が形成されるが、この開口部72は、後板脇片36或いは前板脇片33により閉鎖されて
いる。
【0022】
図3乃至
図5に示すように後板32と側板34は、同程度の高さに形成され、前板30
は、後板32と側板34よりも低く形成されている。前板30は、粘着フィルム収納箱1
0の長手方向に沿って高さが一定の長方形状の板状に形成されている。前板30は、
図7
に示すように例えば巻回体11の芯管100の外径R2の50%~90%、好ましくは、
55~85%、さらに好ましくは60~80%の高さHを有している。また、前板30の
高さHは、後板32及び側板34の半分以下の高さであってもよい。また前板30の高さ
が低いことによって生じる本体部20の前面の開口部の上下幅が後板32及び側板34の
半分以上あってもよい。前板30の中央には、下に凸に湾曲する切れ目が形成され、それ
によってつまみ片110が形成されている。つまみ片110は、下部が前方に突出し、粘
着フィルムFの先端を保持する。
【0023】
図7に示すように蓋部21の天板40は、後板32の上縁部から前方に延びて本体部2
0の上面を覆っている。掩蓋片41は、天板40の前縁部から前面(前板30)側に延び
ている。掩蓋片41の先端部は、少なくとも前板30の一部に重なっている。例えば掩蓋
片41の先端部の裏側には、
図2及び
図3に示すように本体部20内の巻回体11から引
き出された粘着フィルムFを切断する切断部としての鋸刃状の切断刃90が設けられてい
る。
【0024】
図1に示すように粘着フィルム収納装置1が使用される前は、粘着フィルム収納箱10
は、蓋部21の掩蓋片41の先端に接続された開封片44によって封止されている。開封
片44は、本体部20の前板30の前面に位置し、粘着フィルム収納箱10の長手方向に
沿って帯状に形成されている。開封片44は、掩蓋片41の先端に切り取り線91を介し
て切り取り可能に連結され、なおかつ前板30の表面の複数箇所に接着されている。粘着
フィルム収納箱10の開封時には、
図8に示すように開封片44を箱の長手方向に沿って
切り取ることで蓋部21を開けることができる。
【0025】
図4に示すように前板30における、引き出される粘着フィルムFと接触する部位の少
なくとも一部には、接触した粘着フィルムFのせん断剥離力(せん断剥離強度)が6.0
N/25mm以下となるせん断剥離力低減部120、121が設けられている。なお、せ
ん断剥離力低減部120、121の粘着フィルムFに対するせん断剥離力は、3.0N/
25mm以下であればより好ましく、1.0N/25mm以下であればさらに好ましい。
【0026】
せん断剥離力低減部120、121の粘着フィルムFとのせん断剥離力は、次の測定方
法で測定されたものとする。粘着フィルムを幅25mm、長さ100mmに切断し、フィ
ルム試験片を作成する。測定する前板30の紙片も同様に幅25mm、長さ100mmに
切断し、紙試験片を作成する。接触面積が12.5mm×25mmとなるように、フィル
ム試験片の粘着面と紙試験片の測定面を重ねあわせたのち、JIS Z0237に準じた
2kgローラーで2往復してフィルム試験片と紙試験片を圧着させる。次に、フィルム試
験片と紙試験片を300mm/minでせん断剥離させ、そのときの荷重をせん断剥離力
とする。この測定は23℃、50%RHの雰囲気下で行う。
【0027】
第1のせん断剥離力低減部120は、例えば
図4及び
図9に示すように前板30の内面
、すなわち折り返し裏板37の内面30cに設けられている。第1のせん断剥離力低減部
120は、例えば前板30と粘着フィルムFとの接触面積を低減する構造を有し、折り返
し裏板37の内面30cに複数の凸部130を設けた構造である。凸部130は、例えば
前板30の左右方向の両端部間に亘って複数例、例えば2列に設けられている。各凸部1
30は、例えば方形である。各凸部130は、0.05mm以上、好ましくは0.1mm
~0.3mmの段差を有する。各凸部130の径は0.5mm~10mm、好ましくは1
mm~8mm、より好ましくは2mm~6mmである。凸部130の径が0.5mm以上
であれば紙表面の罫割れが起こりにくく、凸部130の段差を安定して出しやすい。凸部
130の径が10mm以下であれば、粘着フィルムFとの接触面積を効率よく減らすこと
ができる。また、隣り合う凸部130同士の間隔は2mm~6mmが好ましく、より好ま
しくは3mm~5mmである。凸部130の間隔が2mm以上であれば紙表面の罫割れが
起こりにくく、6mm以下であれば接触面積を効率よく減らすことができる。
【0028】
図10に示すように第2のせん断剥離力低減部121は、粘着フィルムFと接触する部
位の表面に、接触面積を低減する塗料Pが塗布された構造を有する。塗料Pとしては、例
えばニスやインキが使用される。より具体的には、塗料Pとして、はじきニス(疑似エン
ボスニス)や、微細粒子を配合したニス、ちぢみ印刷等を用いてもよい。例えば前板30
の内面である折り返し裏板37の内面30cの全面と、前板30と折り返し裏板37の接
続部である上端30bの全体と、前板30の外面である外面板38の外面30aの一部の
領域S1に塗料Pが塗布されている。塗料Pの処方や塗工条件を適宜調整し、塗料Pの塗
工面の算術平均粗さSaが1.0μm以上、かつVmp/(Vvc+Vvv)の値が0.
020以上となるように塗布するのが、接触面積を低減する上で好ましい。ここでVmp
、Vvc、Vvvは体積パラメータで、コア部と突出山部を分離する負荷面積率を10%
、コア部と突出谷部を分離する負荷面積率を80%としたときの、山部の実体体積、コア
部の中空体積、谷部の中空体積を指す。
【0029】
前板30の外面30aには、例えば上端30bから下方に5mmの範囲の上端付近の領
域に塗料Pが塗布されている。外面30aには、蓋部21が本体部20の開口を閉じたと
きの切断刃90に対応する位置よりも上側の領域に塗料Pが塗布されている。
【0030】
また、前板30の外面30aには、つまみ片110の表面及びその周辺に、塗料Pが塗
布されている。つまみ片110の周辺には、塗料Pが、上底が短く下底が長い台形状に塗
布されている。なお、前板30の外面30aの領域S1以外の領域S2には、領域S1に
比べて粘着フィルムFとの粘着性が高くなるニスなどが塗布されている。
【0031】
なお、粘着フィルム収納箱10を構成する原紙としては、例えば、ボール紙、コートボ
ール紙、段ボール等が挙げられるが、これらに限定されず、当業界で公知の紙類を適宜選
択して用いることができる。
【0032】
図3に示すように巻回体11は、例えば感染予防フィルムなどの粘着性のある粘着フィ
ルムFが円筒状の紙製の芯管100に巻かれて構成されている。なお、感染予防フィルム
とは、病院内で複数の医療関係者が接触する電子カルテキーボードや操作盤を有する各種
検査機器などにおいて、菌やウイルスの付着、血液や嘔吐物、その他体液の付着を防止し
、医療関係者間の交差感染を予防するフィルムを言う。
【0033】
巻回体11は、例えば100mm以上の長手方向の幅を有し、芯管100の直径が25
mm~40mm程度である。
【0034】
粘着フィルムFは、少なくとも一部に粘着層を含んでおり、粘着層の粘着力(JIS0
237準拠180度剥離力)が、0.01N/25mm以上、1.5N/25mm以下の
ものである。
【0035】
巻回体11は、芯管100と粘着フィルムFの長手方向Aの長さが同じで芯管100と
粘着フィルムFの端面が揃っているものであってもよいし、芯管100の長手方向Aの長
さが粘着フィルムFの長手方向Aの長さよりも長く芯管100と粘着フィルムFの端面が
ずれているものであってもよい。前者は、例えば十分に長い芯管100に粘着フィルムF
を巻回し、その後芯管100を切って所定長さの巻回体11を製造した場合のものであり
、後者は、例えば所定長さに予め切った芯管100に粘着フィルムFを巻回して巻回体1
1を製造した場合のものである。
【0036】
粘着層を構成する粘着剤としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系粘着剤、
ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤が挙げられ、中でも、アクリル系
粘着剤、ウレタン系粘着剤が好ましく、アクリル系粘着剤が特に好ましい。
【0037】
アクリル系粘着剤では主モノマーに対してコモノマーを添加して凝集力を調整したり、
官能基含有モノマーを添加して架橋点を設けて粘着剤の硬さを調整し目的の粘着力を発現
させることができる。主モノマーとしては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリ
ル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル
酸2-エチルヘキシル等の各種(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられ、これらを単独も
しくは組合せて使用できる。コモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、酢酸ビ
ニル、アクリロニトリル、アクリルアミド、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸
メチルが挙げられる。官能基含有モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アク
リル酸、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、メタクリル酸グリシジルなどが
挙げられる。さらにロジンやテルペン類、脂肪族及び芳香族合成樹脂等のタッキーファイ
ヤーを添加し、粘着力を調整することができる。粘着剤には他に、安定剤、酸化防止剤、
光安定化剤、紫外線吸収材剤、などを添加してもよい。
【0038】
また、粘着フィルムは、基材フィルムを含み、基材フィルムは、例えば流れ方向(MD
方向)の2%歪み弾性率及び幅方向(TD方向)の2%歪み弾性率が190~600MP
a、並びに流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の引張伸びが60~200%を
満たす基材フィルムであってもよい。
【0039】
以上のように構成された粘着フィルム収納装置1の使用時には、先ず
図8に示すように
開封片44を切り取り、粘着フィルム収納箱10を開封する。次に巻回体11の粘着フィ
ルムFを粘着フィルム収納箱10の前方側に引き出す。そして
図7に示すように蓋部21
を閉じた状態で、例えば粘着フィルムFを粘着フィルム収納箱10に対し上方に引っ張る
ことにより、切断刃90により粘着フィルムFを所定の長さに切断する。
【0040】
本実施の形態によれば、粘着フィルムFの収納、使用に優れた粘着フィルム収納箱10
を実現できる。また、前板30における、引き出される粘着フィルムと接触する部位の少
なくとも一部に、接触した粘着フィルムFのせん断剥離力が6.0N/25mm以下とな
るせん断剥離力低減部120、121が設けられている。このため、粘着フィルムFが引
き出される際に、
図11に示すように粘着フィルムFが前板30に接触し粘着した際にも
、粘着フィルムFを強い力で引っ張る必要はなく、粘着フィルムFを適切に引き出すこと
ができる。特に、粘着フィルムFは、重力で前板30の内面30c側に落ち込み、前板3
0の内面30cに接着しやすいが、本実施の形態によれば、その後の粘着フィルムFの引
き出しを適切に行うことができる。
【0041】
せん断剥離力低減部120、121は、前板30と粘着フィルムFとの接触面積を低減
する構造であるので、粘着フィルムFのせん断剥離力を簡単な構造で低減できる。
【0042】
せん断剥離力低減部120は、前板30における粘着フィルムFと接触する部位に凸部
130を設けた構造であるので、粘着フィルムFのせん断剥離力の低減をより簡単な構造
で効果的に実現できる。なお、凸部130の代わりに、凹部、或いは凹凸部を設けてもよ
い。
【0043】
せん断剥離力低減部121は、粘着フィルムと接触する部位の表面に、接触面積を低減
する塗料Pが塗布された構造であるので、せん断剥離力低減部121を広範囲に漏れなく
簡単に形成できる。
【0044】
せん断剥離力低減部120、121は、前板30における外面30a、内面30c及び
上端30bの少なくとも一部に設けられている。これにより、せん断剥離力低減部120
、121が、前板30の粘着フィルムFが接触しやすい部分に設けられており、粘着フィ
ルムFを適切に引き出すことができる。
【0045】
粘着フィルムFの中央をつまんで引き出したとき、粘着フィルムFは前板30の内面3
0cの両端付近で特に接着しやすくなるので、せん断剥離力低減部120、121を前板
30の内面30cの左右方向の少なくとも両端付近の領域に設けることにより、粘着フィ
ルムFの引き出しを好適に行うことができる。なお、両端付近とは、前板30の端から5
0mm以内の領域をいう。なお、本実施の形態のように、せん断剥離力低減部120、1
21が、前板30の内面30cの左右方向の全体に亘り設けられているとより好ましい。
【0046】
粘着フィルムFを引き出したとき、粘着フィルムFは前板30の外面30aの上端付近
で特に接着しやすくなる。よって、せん断剥離力低減部121を前板30の外面30aの
上端付近の領域に設けることにより、粘着フィルムFの引き出しを好適に行うことができ
る。なお、上端付近とは、前板30の上端から10mm以内の領域をいう。
【0047】
せん断剥離力低減部121は、前板30の外面30aにおける、蓋部21が本体部20
の開口を閉じたときの切断刃90の位置よりも上側の領域に設けられている。これにより
、前板30の外面30aにおける切断刃90に対応する部分には、せん断剥離力低減部1
21が設けられておらず、この部分には、粘着フィルムFが接着しやすくなる。この結果
、粘着フィルムFが巻き戻ることも防止できる。
【0048】
せん断剥離力低減部121がつまみ片110にも設けられているので、つまみ片110
に粘着フィルムFが接触した際にも粘着フィルムFの引き出しを適切に行うことができる
。
【0049】
粘着フィルムFの中央をつまんで引き出したとき、粘着フィルムFは前板30の上端3
0bの中央付近で摩擦が大きくなる。本実施の形態において、せん断剥離力低減部121
が、前板30の上端30bの左右方向の少なくとも中央付近の領域に設けられているので
、粘着フィルムFの引き出しを好適に行うことができる。なお、中央付近とは、前板30
の左右方向の中心から10mm以内の領域をいう。なお、本実施の形態のように、せん断
剥離力低減部121が、前板30の上端30bの左右方向の全体に亘り設けられていると
より好ましい。
【0050】
以上の実施の形態において、
図12に示すようにせん断剥離力低減部121は、前板30
の外面30aにおける、蓋部21が本体部20の開口を閉じたときの切断刃90に対応す
る位置に設けられ、それよりも上側の領域には、粘着フィルムFを係止する係止部140
が設けられていてもよい。せん断剥離力低減部121は、例えば前板30の内面である折
り返し裏板37の内面30cの全面と、前板30と折り返し裏板37の接続部である上端
30bの全体と、前板30の外面である外面板38の外面30aの一部の領域S1に塗料
Pが塗布されて形成されている。塗料Pは、前板30の外面30aにおいて、上端30b
付近の5mm幅の領域S3と、蓋部21が本体部20の開口を閉じたときの切断刃90に
対応する位置の上下1mm~2mmの幅の領域S4に塗布される。また、係止部140は
、前板30の外面30aにおいて塗料Pの領域S4よりも上側の領域S5に、塗料Pに比
べて粘着フィルムFとの粘着性が高くなるニスなどが塗布されて形成されている。このと
き、つまみ片110は、粘着性が高いニスが塗布され、係止部140となってもよい。ま
た、領域S4の下側の領域S6には、塗布されるニスは特に限定されないが、一般的な剥
離ニスとニス抜き部が適宜組み合わせて塗布される。これにより、開封前の開封片44が
適切に接着され、かつ使用開始時には開封片44が前板30から容易に剥離することがで
きる。かかる場合、切断刃90で切断された粘着フィルムFの端部がせん断剥離力低減部
121に位置するので、粘着フィルムFの端部をつまんだ際のフィルムの裂けを抑制する
ことができる。また、係止部140により、粘着フィルムFの巻き戻りも抑制することが
できる。なお、領域S4は、細長方形状の全面塗布でなくても、点状の塗布であってもよ
い。また、つまみ片110の周辺領域には、塗料Pが塗布され、せん断剥離力低減部12
1となっていてもよい。
【0051】
以上の実施の形態において、せん断剥離力低減部は、粘着フィルムFと接触する部位の
表面に、接触面積を低減する材質を有する構造であってもよい。接触面積を低減する材質
は、例えば紙の繊維が露出した表面に細かい凹凸のある原紙であってもよい。この場合、
例えば
図13に示すように前板30が折り返し裏板37を備えず、コーティングやニスな
どの表面処理を行っていない前板30の外面板38の裏面を前板30の内面30cとして
露出させてもよい。また、
図14に示すように折り返し裏板37を前方側に折り返して、
コーティングやニスなどの表面処理を行っていない折り返し裏板37の裏面を前板30の
外面30aとして、前板30の外面板38の裏面を前板30の内面30cとして露出させ
てもよい。さらに、
図15に示すように折り返し裏板37を前板30の裏面側に折り返し
、さらにその折り返し裏板37の先端側を延長し三重に折り返して、折り返し裏板37の
裏面を前板30の内面30cとして露出させたものであってもよい。なお、接触面積を低
減する材質としては、これに限られない。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明
はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内
において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについて
も当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0053】
例えばせん断剥離力を6.0N/25mm以下とする方法は、上記方法に限られない。
例えば前板30の裏側へ突出するような切欠きを設けるなどして、せん断剥離力を6.0
N/25mm以下としてもよい。また、せん断剥離力を低減する複数の方法を併用しても
よい。
【0054】
以上の実施の形態において記載した粘着フィルム収納箱10の構成はこれに限られない
。例えば延出片35、つまみ片110等がないものにも本発明は適用できる。
【実施例0055】
(引出性の評価)
フィルムの中央をつまんで前板の上端と同じ高さを保ちながら水平に引き出した時の引
出感で評価した。評価条件と評価結果を表1、表2に示す。
◎:とても適切に引き出すことができる。
○:適切に引き出すことができる。
△:やや適切に引き出すことができる。
×:適切に引き出すことができない。
【0056】
(実施例1)
JETスター(日本製紙製)に
図10の塗工パターンにて疑似エンボスニスを塗工し、
図4の形状に切り出したものを箱型に組み立て、粘着フィルムロールを挿入し、引出性の
評価を行った。
【0057】
(実施例2)
実施例1のJETスターをサンコート(王子マテリア製)に変えた以外は実施例1と同
じ要領にて評価を行った。
【0058】
(実施例3)
実施例1の疑似エンボスニスを樹脂粒子配合ニスに変えた以外は実施例1と同じ要領に
て評価を行った。
【0059】
(実施例4)
JETスター(日本製紙製)に
図10の塗工パターンにて疑似エンボスニスを塗工し、
図15の形状となるよう切り出したものを箱型に組み立て、粘着フィルムロールを挿入し
、引出性の評価を行った。
【0060】
(実施例5)
JETスター(日本製紙製)に
図10の塗工パターンにて疑似エンボスニスを塗工し、
前板30の内面に
図10に示すような凸部(3×4mmの方形、深さ0.22mm、凸部
間距離3mm)を付与し、
図4の形状に切り出したものを箱型に組み立て、粘着フィルム
ロールを挿入し、引出性の評価を行った。
【0061】
(実施例6)
JETスター(日本製紙製)に
図10の塗工パターンにて疑似エンボスニスを塗工し、
前板30の内面に
図10に示すような凸部(1.5×2mmの方形、深さ0.16mm、
凸部間距離3mm)を付与し、
図4の形状に切り出したものを箱型に組み立て、粘着フィ
ルムロールを挿入し、引出性の評価を行った。
【0062】
(実施例7)
JETスター(日本製紙製)に
図10の塗工パターンにてFD HS剥離OPニスSM
(東洋インキ製)を塗工し、前板30の内面に
図10に示すような凸部(3×4mmの方
形、深さ0.22mm、凸部間距離3mm)を付与し、
図4の形状に切り出したものを箱
型に組み立て、粘着フィルムロールを挿入し、引出性の評価を行った。
【0063】
(実施例8)
JETスター(日本製紙製)に
図10の塗工パターンにてシリコーンを塗工し、前板3
0の内面に
図10に示すような凸部(3×4mmの方形、深さ0.22mm、凸部間距離
3mm)を付与し、
図4の形状に切り出したものを箱型に組み立て、粘着フィルムロール
を挿入し、引出性の評価を行った。
【0064】
(比較例1)
実施例1の疑似エンボスニスをFD HS剥離OPニスSM(東洋インキ製)に変えた
以外は実施例1と同じ要領にて評価を行った。
【0065】
(比較例2)
実施例1の疑似エンボスニスをFDクリアコートニス(東洋インキ製)に変えた以外は
実施例1と同じ要領にて評価を行った。
【0066】
(比較例3)
実施例1の疑似エンボスニスを塩ビシートに変えた以外は実施例1と同じ要領にて評価
を行った。
【0067】
(比較例4)
実施例1の疑似エンボスニスをシリコーンに変えた以外は実施例1と同じ要領にて評価
を行った。
【0068】
【0069】