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特開2022-15955植物の育成方法、及び、植物の育成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015955
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】植物の育成方法、及び、植物の育成装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/04 20060101AFI20220114BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20220114BHJP
【FI】
A01G31/04 A
A01G31/00 612
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119161
(22)【出願日】2020-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】514108263
【氏名又は名称】株式会社ファームシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】岡 理一郎
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
(72)【発明者】
【氏名】北島 正裕
【テーマコード(参考)】
2B314
【Fターム(参考)】
2B314MA38
2B314NC06
2B314NC11
2B314NC25
2B314ND06
2B314PB02
2B314PD08
2B314PD59
(57)【要約】
【課題】容器の内部に溜められた養液に植物の根が浸った状態で植物を容器にて育成させる方法として、植物をより良好に育成させることが可能な育成方法を提供する。
【解決手段】本発明の植物の育成方法では、容器の内部に溜められた養液に植物の根が浸った状態で植物を容器にて育成させる期間中に、容器を回転又は揺動させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の内部に溜められた養液に植物の根が浸った状態で前記植物を前記容器にて育成させる期間中に、前記容器を回転又は揺動させることを特徴とする植物の育成方法。
【請求項2】
前記容器を間欠的に回転又は揺動させる、請求項1に記載の植物の育成方法。
【請求項3】
前記容器の上部には、前記容器の内部と前記容器の外側の空間とを連通させる開口が設けられており、
前記植物の葉茎部分が前記開口から前記容器の外側に出た状態で前記容器を回転又は揺動させる、請求項1又は2に記載の植物の育成方法。
【請求項4】
前記容器を上面に載せた台を、前記上面の法線方向に沿う回転軸周りに回転させ、又は、前記上面に沿う方向に揺動させ、又は、前記上面に沿う中心軸を中心として揺動させる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の植物の育成方法。
【請求項5】
容器の内部に溜められた養液に植物の根が浸った状態で前記植物を前記容器にて育成させる期間中に、前記植物を保持するために前記容器に取り付けられた保持部材を前記容器に対して回転させることを特徴とする植物の育成方法。
【請求項6】
可視光に対する透過率が10%以下である材料からなる前記容器にて前記植物を育成させる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の植物の育成方法。
【請求項7】
前記容器の内部が前記容器の底壁、側壁及び天井壁によって囲まれており、
前記容器の外にある光源から前記植物に向けて光を照射する、請求項6に記載の植物の育成方法。
【請求項8】
前記容器内の養液が前記容器内に滞留した状態で前記植物を前記容器にて育成させる、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の植物の育成方法。
【請求項9】
内部に養液が溜められた容器と、
前記容器内の養液に植物の根が浸った状態で前記植物を前記容器にて育成させる期間中に、前記容器を回転又は揺動させる駆動装置と、
を有することを特徴とする植物の育成装置。
【請求項10】
内部に養液が溜められた容器と、
植物を保持するために前記容器に取り付けられた保持部材と、
前記植物が前記保持部材によって保持され且つ前記容器内の養液に前記植物の根が浸った状態で前記植物を前記容器にて育成させる期間中に、前記保持部材を前記容器に対して回転させる駆動装置と、
を有することを特徴とする植物の育成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の育成方法、及び、植物の育成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
容器の内部に溜められた養液に植物の根が浸った状態で植物を容器にて育成させる方法は、既に知られており、例えば、特許文献1に記載の育成方法が挙げられる。特許文献1に記載の育成方法では、プラスチック製の飲料ボトルを利用し、直根性の植物を水耕栽培する際に、当該植物の根と共に保水体をボトル内に入れる。これにより、ボトル内に蓄積された水又は養液が保水体によって吸い上げられ、吸い上げられた水又は養液が根に吸収されることで植物が育成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/002248号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
容器を用いて植物を育成させる場合には良好な成育が望まれ、例えば、野菜等の植物を容器にて栽培する場合において、植物の収量増加等を可能とする植物の育成方法が求められている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、以下に示す目的を解決することを課題とする。
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、容器の内部に溜められた養液に植物の根が浸った状態で植物を容器にて育成させる方法として、植物をより良好に育成させることが可能な育成方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記の育成方法を実現するための育成装置を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る植物の育成方法は、容器の内部に溜められた養液に植物の根が浸った状態で植物を容器にて育成させる期間中に、容器を回転又は揺動させることを特徴とする。
上記の方法によれば、容器を回転又は揺動させて、容器内の養液を攪拌することができる。これにより、容器内において根周辺での養液の濃度低下を抑えることができるので、植物が根から養液中の養分を適切に吸収するため、植物を良好に育成させることが可能となる。
【0007】
また、本発明の一実施形態において、容器を間欠的に回転又は揺動させてもよい。これにより、容器を回転又は揺動させる時間を短縮し、無駄な電力消費を削減することができる。また、容器を回転又は揺動させる機器内に設けられた摺動部分の摩耗を低減することができる。
【0008】
また、本発明の一実施形態において、容器の上部には、容器の内部と容器の外側の空間とを連通させる開口が設けられてもよい。この場合において、植物の葉茎部分が開口から容器の外側に出た状態で容器を回転又は揺動させると好適である。これにより、容器の回転又は揺動に伴って、植物の葉茎部分も回転又は揺動するため、葉茎部分の周辺の空気が攪拌(換気)されるようになり、植物をより良好に育成させることができる。
【0009】
また、本発明の一実施形態において、容器を上面に載せた台を、上面の法線方向に沿う回転軸周りに回転させ、又は、上面に沿う方向に揺動させ、又は、上面に沿う中心軸を中心として揺動させてもよい。上記の構成であれば、容器を上面に載せた台を回転又は揺動させることで、容器を容易に回転又は揺動させることができる。
【0010】
また、前述した課題を解決するため、本発明の他の実施形態に係る植物の育成方法は、容器の内部に溜められた養液に植物の根が浸った状態で植物を容器にて育成させる期間中に、植物を保持するために容器に取り付けられた保持部材を容器に対して回転又は揺動させることを特徴とする。
上記の方法によれば、植物を保持した保持部材を容器に対して回転させることで植物が回転し、これにより、容器内の養液が植物の根によって攪拌される。この結果、容器内において根周辺での養液の濃度低下を抑え、植物を良好に育成させることができる。
【0011】
また、本発明の一実施形態において、可視光に対する透過率が10%以下である材料からなる容器にて植物を育成させてもよい。この場合には、容器内において、養液に光が照射されることに因る藻の発生を抑えることができる。
また、上記の構成において、容器の内部が容器の底壁、側壁及び天井壁によって囲まれており、容器の外にある光源から植物に向けて光を照射するとよい。この場合には、光源からの光を容器各部の壁によって遮断し、藻の発生をより効果的に抑制することができる。
【0012】
また、本発明の一実施形態において、容器内の養液が容器内に滞留した状態で植物を容器にて育成させると、より好適である。この場合には、容器内の養液が循環せずに滞留しているので、容器又は保持部材を回転させて容器内の養液を攪拌するという構成が、より有意義なものとなる。
【0013】
また、前述した課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る植物の育成装置は、内部に養液が溜められた容器と、容器内の養液に植物の根が浸った状態で植物を容器にて育成させる期間中に、容器を回転又は揺動させる駆動装置と、を有することを特徴とする。
あるいは、本発明の他の実施形態に係る植物の育成装置は、内部に養液が溜められた容器と、植物を保持するために容器に取り付けられた保持部材と、植物が保持部材によって保持され且つ容器内の養液に植物の根が浸った状態で植物を容器にて育成させる期間中に、保持部材を容器に対して回転又は揺動させる駆動装置と、を有することを特徴とする。
上述した育成装置を用いれば、本発明の植物の育成方法を実施することができるので、植物を良好に育成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、容器の内部に溜められた養液に植物の根が浸った状態で植物を容器にて育成させる方法として、植物をより良好に育成させることが可能な育成方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】容器の一例を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る植物の育成装置の模式図である。
図3】容器を回転させる様子を示す平面図である。
図4】容器を揺動させる様子を示す平面図である。
図5】容器を旋回させる様子を示す平面図である。
図6】容器を揺動させる様子を示す側面図である。
図7】本発明の他の実施形態に係る育成装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の植物の育成方法及び育成装置について、具体的な実施形態(第1実施形態及び第2実施形態)を挙げて詳細に説明する。なお、以下の説明中、「上」及び「下」とは、通常の使用状態における「上」及び「下」を意味し、例えば、後述する容器の上端は、その容器を用いて植物を栽培している状態において容器の上端に位置する部分のことである。
【0017】
<<第1実施形態に係る植物の育成方法について>>
第1実施形態に係る植物の育成方法は、図1に示す容器10を用いて植物の苗Pを育成する方法、すなわち水耕栽培方式による植物の育成方法である。具体的に説明すると、容器10の内部に、苗Pの育成に必要な養分を含有する養液Lが溜められている。苗Pは、容器10内の養液Lに苗Pの根が浸った状態で容器10に入れられて保持される。すなわち、苗Pは、容器10に定植され、その後は収穫されるまで容器10にて育成される。
【0018】
ここで、苗Pは、根、茎及び葉が分化した植物の個体を意味する。苗Pの状態は、例えば、後述する培地14の下面から根が1mm以上突出した状態であるのがよく、好ましくは5mm以上突出した状態であるのがよく、より好ましくは、10mm以上突出した状態であるのがよい。
【0019】
また、苗Pは、可食な植物の苗であり、詳しくは野菜の苗であり、好ましくは葉菜類の植物の苗である。本発明が適用可能な葉菜類の植物は、特に限定されないが、一例として、エンダイブ(キクヂシャ)、カラシナ、ホウレンソウ、コマツナ、タカナ、チンゲンサイ、ナバナ(カキナ)、非結球性レタス(ロメインレタス及びサニーレタス等)、オランダガラシ(クレソン)、シマツナソ(モロヘイヤ)、シュンギク、クキタチナ、シノブナ、サントウナ、アブラナ、チヂレナ、コウサイタイ、タアサイ、ウルイ、畑ワサビ、花ワサビ、クレソン、ルッコラ、ナズナ、プチベール、アイスプラント、葉ダイコン、キャベツ、メキャベツ、ケール、コリアンダー(パクチー)、サイシン、セリ、ノザワナ、セロリ、ハクサイ、結球レタス、シソ、ネギ、ワケギ、ニラ、ニンニク、シソ、タマネギ、パセリ、ブロッコリー、セロリ、ミズナ、ツルムラサキ、ミツバ、アサツキ、エシャロット、チャイブ、ラッキョウ、並びにリーキ等が挙げられる。
【0020】
養液Lは、水等の溶媒に各種の養分を添加して溶解させ、育成対象の植物の種類に応じて各成分の濃度等が調整されたものである。養液L中の成分としては、窒素(具体的には、アンモニア性窒素、又は硝酸性窒素)、リン酸(P)、加里(KO)、石灰(CaO)、苦土(MgO)、マンガン(MnO)、ホウ素(B)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びモリブデン(Mo)等が挙げられる。
【0021】
第1実施形態では、図1に示すように、容器10内の養液Lに苗Pの根が浸り、且つ苗Pの葉茎部分が容器10の外側に出た状態の苗Pを容器10にて育成させる。以下では、容器10内の養液Lに苗Pの根が浸った状態で苗Pを容器10にて育成させる期間を、「苗Pの育成期間」と呼ぶこととする。
【0022】
そして、第1実施形態では、苗Pの育成期間中、苗Pが入った容器10を、後述の駆動装置30によって回転又は揺動させる。これにより、容器10内の養液Lに流れが生じて養液Lが攪拌されるために、苗Pを良好に育成させることができる。かかる効果については、後に詳述する。
【0023】
[容器について]
容器10は、図1に示すように略箱型の容器であり、底壁10a、側壁10b及び天井壁10cを有する。容器10の内部は、これらの壁によって囲まれて閉空間となっている。この閉空間内に養液Lが所定量溜められており、厳密には容器10内で滞留している。ここで、養液Lが容器10内で滞留しているとは、容器10内で養液Lを循環させずに留めておくことを意味する。なお、容器10内の養液Lが苗Pに吸収される分、及び、容器10から自然に蒸発する分については許容することとする。
以上のように、容器10内において養液Lが溜められる空間が閉空間となっていることで、養液Lへの光の照射に起因する藻の発生を良好に抑えることができる。
【0024】
容器10の上部には、図1に示すように矩形状の開口12が設けられている。開口12は、天井壁10cに穿設された貫通孔の上端に位置し、容器10の内部空間と容器10の外側、すなわち大気とを連通させる。第1実施形態では、容器10の上部の略中央部分に開口12が1つ設けられている。
【0025】
容器10の形状については、図1に図示の形状に限定されず、例えば、フラスコのようなボトル形状であってもよい。容器10のサイズについても、特に限定されないが、運搬可能なサイズであるのが好ましい。容器10の構造についても、特に限定されず、天井壁10cがそれ以外の部分から分離可能な構造でもよく、天井壁10cとそれ以外の部分とが一体化した構造でもよい。また、開口12の形状及び個数についても特に限定されるものではなく、円形の開口12でもよく、容器10一個あたりに開口12が複数設けられてもよい。
【0026】
容器10の材料についても、特に限定されないが、養液Lへの光の照射に起因する藻の発生を抑える目的から、可視光に対する透過率が10%以下である材料からなる容器10を用いて苗Pを育成するのがよい。
容器10の材質としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、メタクリル樹脂(PMMA)、及びポリエチレンテレフタラート(PET)等のプラスチックが好ましい。
透過率は、公知の測定方法、例えば積分球付きの分光光度計を用いた測定方法によって測定可能であり、具体的には、積分球の開口に測定対象の材料を配置し、測定光を開口から積分球内に入射させ、球内にて直進又は散乱した光を検出することで透過率を測定することができる。
【0027】
容器10の表面色についても、特に限定されないが、容器10にて光を反射させて苗Pの葉茎部分に効果的に光を照射する目的から、白色等のように光に対する反射能が比較的高い色が好ましい。また、透過率を下げることを優先する場合には、容器10の表面色を黒、青、赤、緑及び黄色等とするのがよく、容器10の表面に対して、染料又は顔料によって光を吸収する加工がなされるのが好ましい。
【0028】
図1に示す容器10は、一個体の苗Pを育成するにあたり、一個用いられる。ここで、「個体」とは、苗Pの個数を表す単位であり、一個体とは、苗Pの一株に相当する。なお、一個の容器10にて育成される苗Pは、一個に限定されず、二個以上でもよい。
【0029】
容器10の上部には前述の開口12が設けられており、苗Pの根が開口12から容器10の内部に入り込んで容器10内の養液Lに浸かっている。苗Pの葉茎部分は、開口12から容器10の外側に出て露出している。
【0030】
より詳しく説明すると、苗Pは、ウレタン、ロックウール又はスポンジ等からなる培地14によって保持されている。培地14は、保持部材に相当し、苗Pを保持する。培地14は、小鉢型のフィルム体からなるカップ部16内に収容されている。カップ部16の底には比較的大きな孔が形成されており、培地14の下面が露出している。苗Pの根は、図1に示すように、露出した培地14の下面から突出して延びている。他方、苗Pの茎の基部(根に近い部分)が培地14内に埋まっており、培地14の上面の上方で苗Pの葉茎部分が展開している。このような状態で苗Pが培地14に保持されている。
【0031】
カップ部16は、図1に示すように容器10の開口12に上方から嵌り込んでいる。これにより、カップ部16に収容された培地14が容器10に取り付けられている。かかる状態では、培地14の下端が、容器10内の養液Lの液面よりも下方に位置するようになり、培地14の下面から突出した苗Pの根が容器10内の養液Lが浸っている。また、培地14の上面よりも上側にある苗Pの葉茎部分は、開口12から容器10の外側に出ている。
【0032】
[植物の育成装置の構成について]
第1実施形態に係る植物の育成方法は、図2に示す植物の育成装置(以下、育成装置20)を用いて実現される。育成装置20は、苗Pから収穫される野菜(詳しくは、葉菜類の野菜)を生産する植物工場内で利用され、複数個(例えば、数十~数千個)の苗Pを同時に育成するものである。
【0033】
育成装置20は、図2に示すように、奥行方向に沿って長く延びた多段の栽培棚22を有する。栽培棚22の各段には、前述した容器10及び後述する駆動装置30からなる育成ユニット24が、栽培棚22の奥行方向に沿って複数並べられている。また、栽培棚22において、各段にある育成ユニット24の上方位置には、LED(Light Emitting Diode)等からなる光源26が配置されている。光源26からの光が容器10に入った苗Pに向けて照射されることで、苗Pが光合成を行い、その結果として苗Pが成長する。
【0034】
なお、光源26は、栽培棚22に設けられたLED等の照明機器に限定されず、自然光の光源、例えば太陽でもよい。すなわち、植物工場の壁面に設けられた窓等から入り込む太陽光を利用して苗Pを育成してもよい。
【0035】
容器10は、一株又は複数株の苗Pを収容し、苗Pの育成期間中、養液Lを補給又は交換するとき以外は、駆動装置30が有する台32の上面に載置されている。なお、図2に示す構成では、一つの台32に一個の容器10が載置されているが、これに限定されるものではなく、一つの台32に複数の容器10が載置されてもよい。
【0036】
駆動装置30は、苗Pの育成期間中に台32を回転又は揺動させることで容器10を回転又は揺動させる電動機器である。駆動装置30の一例を挙げると、駆動装置30は、電動の回転台であってもよい。この場合、装置内に搭載された不図示のモータが起動することで、図3に示すように、台32が、その上面の法線方向に沿い上面の略中央位置を通る回転軸M周りに回転する。このとき、容器10の底面の中央位置と台32の上面の中央位置とが一致又は略一致していると、容器10は、台32と共に回転軸M周りに回転(自転)する。
【0037】
駆動装置30の別の例を挙げると、駆動装置30は、水平往復式の振とう機であってもよい。この場合、装置内に搭載された不図示のモータが回転すると、その回転力が直進方向の推進力に変換されて台32に伝達されることで、図4に示すように、台32が、その上面に沿って揺動(水平往復移動)する。これにより、容器10は、台32と共に一体的に揺動(水平往復移動)する。
【0038】
駆動装置30の第三の例を挙げると、駆動装置30は、旋回式の振とう機であってもよい。この場合、装置内に搭載された不図示のモータが起動することで、図5に示すように、台32が、その上面の法線方向に沿い上面の中央位置から多少ずれている位置を通る回転軸N周りに回転する。これにより、容器10は、回転軸Nを中心とする円周軌道に沿って揺動(旋回)する。
【0039】
駆動装置30の第四の例を挙げると、駆動装置30は、シーソー型振とう機であってもよい。この場合、装置内に搭載された不図示のモータが起動することで、図6に示すように、台32が、その上面に沿う中心軸Oを中心としてシーソーのように揺動する。これにより、容器10は、中心軸Oを中心として揺動する。なお、図6では、図示を簡略化しており、台32及び容器10のみを図示し、それ以外の機器及び苗P等を省略している。
【0040】
また、駆動装置30は、上記の構成を組み合わせたものでもよく、例えば台32及び容器10を回転又は水平往復させる際に、これらを上下動させながら回転又は揺動させたり、あるいは、上下方向に対する台32の上面の傾きを変えながら回転又は揺動させたりしてもよい。
【0041】
上述した駆動装置30により、苗Pの育成期間中に容器10を回転又は揺動させることで、容器10内の養液Lを攪拌することができ、この結果、苗Pを良好に育成させることができる。この効果について説明すると、容器10内の養液Lのうち、苗Pの根周辺では養液Lの濃度が局所的に低下するため、養液Lの濃度がより高くなった領域に向かって苗Pの根が伸びようとする。これにより、苗Pが成長のために蓄えていた光合成産物の一部が根の成長に費やされるために、その分、葉茎部分の成長量が減少して最終収穫物の収量が減る可能性がある。
【0042】
これに対して、駆動装置30により容器10を回転又は揺動させて容器10内の養液Lを攪拌すれば、苗Pの根周辺における養液Lの局所的な濃度低下が抑えられ、上述した不具合を回避することができる。これにより、最終収穫物の収量を増加させることができる。
【0043】
容器10内の養液Lを流動させる構成としては、例えば、容器10内の養液Lを容器10の外に流出させた後に容器10内に返送して養液Lを循環させることが考えられるが、その場合には循環用の配管及びポンプ等が別途必要となる。これに対して、上記の駆動装置30を用いて容器10を回転又は揺動させれば、循環用の配管及びポンプ等を設けなくても、容器10を適切に攪拌することができるため、設備コストの面でも有利である。
【0044】
また、容器10を回転又は揺動させることに伴って、苗Pの葉茎部分を回転又は揺動させることができる。これにより、特に送風機等を用いずに、苗Pの葉周辺の空気を攪拌(換気)することができる。この結果、苗Pの葉周辺における二酸化炭素の濃度を、光合成を促進させる上で適切な濃度に維持し、また、葉周辺における高湿度の空気が除去されて葉からの蒸散が適切に行われるようになる。
【0045】
また、駆動装置30は、不図示のコントローラによって制御され、例えば、駆動装置30のオンオフがタイマー制御され、1時間の中で数分~数十分だけ作動する。つまり、駆動装置30は、容器10を間欠的に回転又は揺動させるように制御される。これにより、容器10を回転又は揺動させる時間を短縮し、駆動装置30を作動させる際の消費電力を削減することができる。また、駆動装置30内に設けられた不図示の摺動部分の摩耗を低減することができる。
【0046】
<<第2実施形態に係る植物の育成方法について>>
第1実施形態では、容器10内の養液Lを攪拌させるために、容器10を回転又は揺動させることとしたが、これに限定されるものではない。図6に示す育成装置(以下、育成装置120)では、容器10の代わりに、苗Pを保持した培地14を容器10に対して回転させる構成となっている。かかる構成による植物の育成方法を、第2実施形態として以下に説明する。
【0047】
なお、以下では、第2実施形態のうち、第1実施形態と異なる構成を主に説明することとし、第1実施形態と共通する構成については説明を省略することとする。また、図6に示す育成装置120のうち、図1及び2に示す育成装置20と同様の部品及び機器については、同じ符号を付して表記する。
【0048】
第2実施形態では、容器10の開口12に嵌め込まれるカップ116が、永久磁石等の磁性体によって構成される。また、開口12の内縁に沿って、巻回コイルからなる外筒リング34が配置されている。外筒リング34のコイルに電流が流れると、インナーロータ型のモータと同じ原理によってカップ116が回転軸M周りに回転し、これに伴って、培地14及び培地14に保持された苗Pが容器10に対して回転する。この結果、第2実施形態でも、第1実施形態と同様に、苗Pの育成期間中、容器10内の養液Lを攪拌し、これにより、苗Pを良好に育成させることができる。
【0049】
以上のように、第2実施形態に係る植物の育成方法では、容器10を静置させる一方で、培地14を容器10に対してカップ116と共に回転させる点では、第1実施形態に係る植物の育成方法と異なるが、それ以外の点では、両方法は共通する。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0050】
以上までに本発明の植物の育成方法、及び、植物の育成装置について、具体例を挙げて説明したが、上述の実施形態(第1実施形態及び第2実施形態)は、本発明の理解を容易にするために挙げたものであり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下に説明する実施形態から変更又は改良され得る。また、当然ながら、本発明には、その等価物が含まれる。
【実施例0051】
以下、本発明の実施例について、比較例と対比しながら具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。すなわち、本発明の範囲は、以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0052】
(実施例1)
実施例1では、リーフレタスの苗一株を、図1に示す形状の容器にて栽培した。苗は、ウレタン又はスポンジからなる培地に播種して所定日数(例えば、14日)が経過したもの、詳しくは、根が培地の下面から一定量以上延びているものを上記の容器に培地とともに定植した。容器内には、各種成分の濃度が調整された養液が所定量溜められており、苗は、根が容器内の養液に浸かった状態で容器にて育成される。
【0053】
苗の育成期間中、容器を公知の振とう機(DLAB社製 デジタルシェーカーSK-L0180-E)の上に載置し、一定速度で容器を往復揺動させ、具体的には水平方向に規定された軌道に沿って揺動させた。容器を揺動させる際の条件は、以下の通りである。
揺動時の軌道径:20mm
揺動速度:120rpm(=約0.04m/s)
【0054】
(実施例2)
実施例2では、苗の育成期間中、容器を公知の振とう機(DLAB社製 デジタルシェーカーSK-L0180-E)の上に載置し、定期的に且つ間欠的に容器を往復揺動させ、具体的には水平方向に規定された軌道に沿って揺動させた。揺動時間は、1時間あたりに15分間とした。それ以外の条件については、実施例1と同様の条件とした。
【0055】
(実施例3)
実施例3では、苗の育成期間中、容器を公知の旋回式の振とう機(DLAB社製 デジタルシェーカーSK-0180-E)の上に載置し、一定速度で容器を旋回させた。容器を旋回させた際の条件は、以下の通りである。
旋回直径:20mm
旋回速度:120rpm(=約0.13m/s)
上記以外の条件については、実施例1と同様の条件とした。
【0056】
(比較例1)
比較例1では、苗の育成期間中、容器を動かさず静置状態のままとした。それ以外の条件については、実施例1と同様の条件とした。
【0057】
(比較例2)
比較例2では、内部に撹拌子が収容された容器をマグネチックスターラ本体(INTLLAB社製 MS-500)の上に載せ、苗の育成期間中、上記の撹拌子を一定速度で回転させた。撹拌子の回転速度は、770rpmとした。それ以外の条件については、実施例1と同様の条件とした。
【0058】
(比較例3)
比較例3では、攪拌子の回転速度を220rpmとし、それ以外の条件は、比較例2と同様の条件とした。
【0059】
(比較例4)
比較例4では、苗の育成期間中、1時間あたりに15分間の間隔で撹拌子を定期的に且つ間欠的に回転させることとし、それ以外の条件は、比較例2と同様の条件とした。
【0060】
(評価)
上記の実施例1~3及び比較例1~4のそれぞれについて、所定の栽培日数(21日)が経過した時点での苗の重量を測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から分かるように、苗の育成期間中、容器内の養液を攪拌することで苗の重量(すなわち、成育量)が増加した。また、実施例1~3と比較例2~4との対比から分かるように、容器全体を回転又は揺動させる場合には、容器内の撹拌子を回転させる場合よりも苗の重量が増加する傾向にあることが分かった。特に、容器を往復揺動した実施例1,2では、苗の重量がより一層増える傾向にあることが分かった。これは、容器全体を回転又は揺動させることで、容器の外に位置する苗Pの葉茎部分を回転又は揺動させることができ、苗Pの葉周辺の空気が攪拌(換気)されることで、苗の生育が一層良好になったからである。
【0063】
(参考例1及び2)
参考例1,2として、リーフレタスの苗5株を、図1に示す形状の容器(幅120mm×奥行き120mm×高さ40mm)にて同時に栽培した。苗は、ウレタン又はスポンジからなる培地に播種して2日間の発芽工程を経た後に上記の容器に培地とともに定植し、容器内で7日間育苗し、さらに容器内で所定期間生育させた。容器内には、各種成分の濃度が調整された養液が所定量溜められており、また、苗には照明光を照射した。これらに関する詳細条件は、以下の通りである。
養液pH:6.0、養液の電気伝導度(EC):2.1mS/cm
照射光量:300μmol/m/s
育苗環境温度:25℃、育苗環境湿度:70%RH
また、容器内に撹拌子を収容し、容器をマグネチックスターラ本体(INTLLAB社製 MS-500)の上に載せ、上記の撹拌子を回転数約720rpmにて定期的に且つ間欠的に回転させた。
そして、参考例1では、根が培地から出た時点から、撹拌子の回転による養液攪拌を開始した。他方、参考例2では、根が培地から出る前の育苗段階から、容器内の撹拌子を回転させて養液を攪拌させた。
【0064】
参考例1,2のそれぞれについて、所定の栽培日数(21日)が経過した時点での苗5株分の重量及び草丈、並びにこれらの平均値を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2から分かるように、根が培地から出る前の早い段階で養液の攪拌を行っても、草丈及び重量については、根が培地から出た時点で養液を撹拌した場合と比較して有意な差が確認されなかった。成長促進のためには、根が培地から十分に出てから養液の攪拌を行うのが効果的であると考えられる。
【0067】
以上までに説明してきたように、本発明の実施例1~3は、苗の育成期間中に容器を回転又は揺動させるものであるため、本発明の範囲にあり、苗の重量が増えていることから、本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0068】
10 容器
10a 底壁
10b 側壁
10c 天井壁
12 開口
14 培地(保持部材)
16,116 カップ
20,120 育成装置
22 栽培棚
24 育成ユニット
26 光源
30 駆動装置
32 台
34 外筒リング
L 養液
M,N 回転軸
O 中心軸
P 苗(植物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7