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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159559
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】物体捕捉装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/499 20060101AFI20221006BHJP
   G01S 17/931 20200101ALI20221006BHJP
【FI】
G01S7/499
G01S17/931
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131820
(22)【出願日】2022-08-22
(62)【分割の表示】P 2018568146の分割
【原出願日】2018-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2017027778
(32)【優先日】2017-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000242600
【氏名又は名称】北陽電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】森 利宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 明人
(72)【発明者】
【氏名】前田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】笠原 隆弘
(57)【要約】
【課題】 物体が物体捕捉装置の近傍に位置する場合でも精度よく判別可能な物体捕捉装置を提供する。
【解決手段】 測定対象空間に存在する物体を捕捉する物体捕捉装置であって、発光部と、受光部と、前記発光部から出射された所定波長の測定光を測定対象空間に向けて走査し、前記測定光に対する測定対象空間の物体からの反射光を前記受光部に導く光走査部と、を備え、前記光走査部は、偏向ミラーで偏向された測定光を測定対象空間に案内する光路と前記反射光を前記受光部に導く光路とを区画する光ガイド部と、を備え、前記光ガイド部の測定光光路側に、前記反射光を前記受光部に導くハーフミラーが配されている。
【選択図】 図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象空間に存在する物体を捕捉する物体捕捉装置であって、
発光部と、
受光部と、
前記発光部から出射された所定波長の測定光を測定対象空間に向けて走査し、前記測定光に対する測定対象空間の物体からの反射光を前記受光部に導く光走査部と、
を備え、
前記光走査部は、
偏向ミラーで偏向された測定光を測定対象空間に案内する光路と前記反射光を前記受光部に導く光路とを区画する光ガイド部と、
を備え、
前記光ガイド部の測定光光路側に、前記反射光を前記受光部に導くハーフミラーが配されている物体捕捉装置。
【請求項2】
前記物体捕捉装置はケーシングを備え、
前記ケーシングの前記測定光と前記反射光の経路となる部分が、測定光を透過させるとともに測定光に対して低偏光特性を有する素材で構成される請求項記載の物体捕捉装置。
【請求項3】
前記発光部は、波長が異なる複数の光源を備え、前記光走査部の走査周期に同期して切替駆動される請求項1または2記載の物体捕捉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象空間に存在する物体のうち特定の物体を捕捉する物体捕捉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造設備では、複数枚の半導体ウェハが収容されたウェハキャリア装置を一つの製造装置のロードポートから他の製造装置のロードポートに搬送するために搬送台車が用いられている。このような搬送台車は、天井走行式無人搬送車と称され、OHT(Overhead Hoist Transfer)と略記される。
【0003】
該搬送台車と人や機械などの障害物との接触を回避するため、各製造装置の上部空間に設置された走行レール、つまり軌道に沿って自走する走行部と、該走行部に支持される物品収容部を備えて該搬送台車が構成され、物品収容部には搬送対象物であるウェハキャリア装置を掴むチャック機構を備えた昇降体を所定の昇降経路に沿って昇降させる昇降機構が組み込まれている。
【0004】
各製造装置のレイアウトに従ってウェハキャリア装置を搬送するために、該軌道は単純な直線部のみならず、カーブ、分岐部、合流部などを備えた複雑な形状となり、該製造設備は、同一の軌道を複数の搬送台車が間隔を隔てて走行するように構成されている。
【0005】
該製造設備では、ウェハキャリア装置の搬送効率を上げるために、多数の搬送台車が軌道を高速走行することが要求されており、搬送台車間の車間距離が短くなる傾向にあるため、万が一の追突事故の発生を防止する機構を備える必要がある。
【0006】
特許文献1には、搬送台車の追突を回避するために、搬送台車にレーザ距離計などの車間距離センサを備え、車間距離センサで計測された車間距離に基づいて前方の搬送台車との相対速度を算出し、相対速度に基づいて自車の走行速度を制御することにより、追突を回避する技術が開示されている。
【0007】
しかし、前方の搬送台車が軌道のカーブを走行するような場合に、レーザ距離計から出力される測定光の走査範囲から前方の搬送台車が逸脱するために、前方の搬送台車を検知できなくなるばかりか、各製造装置などの外装パネルや他の走行台車などからの反射光を、前方を走行する搬送台車からの反射光と誤検知する虞があった。
【0008】
そこで、特許文献2には、軌道に沿って走行する搬送台車の前部に、変調された測定光を平面状に走査する走査部と、走査部で走査された測定光と検出物からの反射光との時間遅れから検出物までの距離を算出する距離演算部とからなる測距装置を配置し、該測距装置により前方を走行する搬送台車の後部に配置された再帰性反射部材からの反射光に基づいて搬送台車間の車間距離を検知する距離測定装置が提案されている。
【0009】
該距離測定装置は、走査部により走査された測定光の複数の走査角度と、距離演算部により算出された各走査角度に対応する距離と、各走査角度に対応する反射光の強度のうち、少なくとも何れか二つの相関関係に基づいて、再帰性反射部材からの反射光であるか否かを識別する識別部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007-25745号公報
【特許文献2】特開2011-69671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2に記載された距離測定装置でも、製造装置などの壁面からの反射光を搬送台車に備えた再帰性反射部材からの反射光であると、識別部で誤って判断される場合が完全に排除できなかった。
【0012】
距離測定装置と測定光が照射される壁面との離隔距離によっては、測定光が照射される壁面の反射特性が搬送台車の後部に配置された再帰性反射部材の反射特性と近似する場合があるためである。例えば壁面がアルミなどの金属板で構成され、測定光が略垂直方向から壁面に入射する場合や、例えば壁面がしぼ加工された白色塗装面などで構成されている場合である。
【0013】
そのような場合には、誤判断を回避するために製造設備毎に判断基準となる相関関係を個別に調整しなければならず、非常に煩雑な作業が必要になっていた。
【0014】
同様の問題は、上述した天井走行式無人搬送車OHTに限るものではなく、走行経路に沿って配された複数のランドマークに誘導されて、走行経路を外れることなく目的地まで無人走行する搬送台車でも生じる。このような搬送台車はAGV(Automated Guided Vehicle)と略記される。
【0015】
AGVには、経路に沿って配されたランドマークに向けて測定光を走査出力する距離測定装置が搭載され、距離測定装置によって各ランドマークを構成する再帰性反射部材からの反射光を検知することにより位置確認し、或いは走行経路に存在する人や物などの障害物を検知するように構成されている。
【0016】
しかし、製造装置などの壁面からの反射光をランドマークからの反射光であると誤って判断すると、走行経路を外れる虞があった。
【0017】
ところで、測定光が照射される物体が物体捕捉装置の近傍に位置する場合には、受光部に導かれる光量が少なくなって正確に距離を検出し難い状況が発生する虞があった。
【0018】
本発明の目的は、上述の問題に鑑み、物体が物体捕捉装置の近傍に位置する場合でも精度よく判別可能な物体捕捉装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明による物体捕捉装置の第一の特徴構成は、測定対象空間に存在する物体を捕捉する物体捕捉装置であって、発光部と、受光部と、前記発光部から出射された所定波長の測定光を測定対象空間に向けて走査し、前記測定光に対する測定対象空間の物体からの反射光を前記受光部に導く光走査部と、を備え、前記光走査部は、偏向ミラーで偏向された測定光を測定対象空間に案内する光路と前記反射光を前記受光部に導く光路とを区画する光ガイド部と、を備え、前記光ガイド部の測定光光路側に、前記反射光を前記受光部に導くハーフミラーが配されている点にある。
【0020】
ハーフミラーがなく測定光が照射される物体が物体捕捉装置の近傍に位置する場合には、光ガイド部から出射される測定光の光線束の径が小さく、当該物体からの反射光の光線束の広がりも小さくなり、反射光光路を進む反射光の径が測定光光路を進む測定光の径に近づく結果、受光部に導かれる光量が少なくなって正確に距離を検出し難い状況が発生する虞がある。そのような場合でも、ハーフミラーを備えていれば、当該物体からの反射光がハーフミラーで反射されて受光部に導かれるようになり、近傍にある物体であっても正確に検出できるようになる。
【0021】
同第の特徴構成は、上述の第の特徴構成に加えて、前記物体捕捉装置はケーシングを備え、前記ケーシングの前記測定光と前記反射光の経路となる部分が、測定光を透過させるとともに測定光に対して低偏光特性を有する素材で構成される点にある。
【0022】
ケーシングのうち測定光と反射光の経路となる部分つまり光学窓を構成する素材として低偏光特性を有する素材を用いることにより、光学窓を通過する測定光及び反射光の偏光特性の変化が抑制され、検出精度の低下を回避することができるようになる。
【0023】
同第の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記発光部は、波長が異なる複数の光源を備え、前記光走査部の走査周期に同期して切替駆動される点にある。
【0024】
光走査部の走査周期に同期して波長が異なる複数の光源が切替駆動されて、少なくとも一走査周期の間は一定の波長の測定光で走査され、一走査周期の途中で測定光の波長が切り替わることがない。
【発明の効果】
【0025】
以上説明した通り、本発明によれば、物体が捕捉対象物であるか否かを判別可能な物体捕捉装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は半導体デバイスの製造設備及び走行レールに沿って移動する搬送台車の説明図である。
図2図2は搬送台車と製造装置間で行われるウェハキャリアの受渡し処理の説明図である。
図3図3は搬送台車の斜視図である。
図4図4は搬送台車に搭載された搬送制御部の機能ブロック説明図である。
図5】図5(a),(b),(c)は、走行レールに沿って移動する2台の搬送台車の位置関係の説明図である。
図6図6は物体捕捉装置の外観説明図である。
図7図7は物体捕捉装置の内部構造説明図である。
図8図8は物体捕捉装置に組み込まれた制御部の機能ブロック説明図である。
図9】図9(a),(b),(c)は、距離と走査角度範囲の相関関係の説明図である。
図10図10(a),(b),(c)は、距離と反射光強度分布の相関関係の説明図である。
図11図11(a),(b),(c)は、反射シートの反射特性と反射光強度分布の相関関係の説明図である。
図12図12は物体判別部の動作を説明するフローチャートである。
図13図13(a),(b)は反射シートとして用いる再帰性反射部材の説明図である。
図14図14は別実施形態を示す物体捕捉装置の内部構造説明図である。
図15図15は別実施形態を示す物体捕捉装置の内部構造説明図である。
図16図16は別実施形態を示す物体捕捉装置の内部構造説明図である。
図17図17(a)は複数の反射部材に対する反射光の検出特性図、(b)は反射板の角度変化に対する反射光の検出特性図、(c)は走査方向に対する反射光の検出特性図、(d)は反射板の角度を変化させた場合の走査方向に対する反射光の検出特性図である。
図18図18は反射板(反射部材)の素材の説明図である。
図19図19(a),(b)は反射シートの反射特性の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明による物体捕捉装置が組み込まれた物体捕捉システムを、半導体デバイスの製造設備に備えられた無人の搬送台車に適用した実施形態を説明する。
【0028】
図1に示すように、半導体デバイスの製造設備100は、所定の通路に沿って配置され半導体ウェハに順次所定の処理を施すための各種の製造装置1(1a~1l)と、各製造装置1に沿うように天井に吊設された走行レール5と、走行レール5に沿って走行し製造装置1(1a~1l)間で半導体ウェハWを自動搬送する複数の搬送台車(OHT)10とを備えている。各製造装置1(1a~1l)は一連の纏まりのある製造工程毎にベイ6,7に分けられて設置されている。ウェハキャリア3には複数枚の半導体ウェハWが収容されている。
【0029】
走行レール5は、単純な直線部のみならず、カーブ、分岐部、合流部などを備えて構成されている。例えば、各ベイ6,7間を結ぶ工程間レール5a、各ベイ6,7に設置された製造装置1間を結ぶ工程内レール5b、工程間レール5aと工程内レール5bを結ぶ分岐レール5c、工程内レール5b内を走行する搬送台車10を一時退避させる退避レール5d、搬送台車10がストッカSTへウェハキャリア3を積降するためのバイパスレール5eなどで構成されている。
【0030】
分岐レール5cは、工程間レール5aと工程内レール5bとを接続するレールであり、走行する搬送台車10は、分岐レール5cに沿って走行することで、工程間レール5aと工程内レール5bを互いに往来する。
【0031】
退避レール5dは、工程内レール5bから分岐して設けられ、例えば、搬送台車10のメンテナンスなどのために、工程内レール5bから搬送台車1を一時退避させる場合に用いられる。
【0032】
バイパスレール5eは、工程間レール5aから分岐し、工程間レール5aを走行する搬送台車1に掴持されたウェハキャリア3をストッカSTに一時保管する場合などに用いられる。
【0033】
図2及び図3に示すように、走行レール5は、支持部材11によって適当な間隔で天井から吊設され、下壁に長手方向に沿うスリット状の開口5Aが形成された断面矩形の管状体で構成されている。搬送台車10は、当該開口5Aを挟んで管状体の下壁の内側上面5Bに沿って走行する走行部10Aと、走行部10Aと連結具10Dを介して連結され、管状体の下壁の下方に位置する把持部10Bとで構成されている。
【0034】
走行部10Aは、走行基台と走行基台に取り付けられた前後一対の車輪とを備えて構成され、車輪を駆動する走行モータ及び後述の昇降機構10Eを制御して、ウェハキャリア3を目的の製造装置1まで搬送する搬送制御部などが搭載されている。
【0035】
図4には、各搬送台車10に搭載された搬送制御部70の機能ブロック構成が示されている。搬送制御部70は、マイクロコンピュータ及びその周辺回路で構成される走行制御部71と、走行制御部71に接続されたチャック機構制御部72、ホスト通信部73、光通信部10Fなどを備えている。
【0036】
搬送制御部70は、システムコントローラH(図1参照)からの指令に基づいて、各製造装置1(1a~1l)のロードポート2上に載置されたウェハキャリア3を掴持して、各製造装置1間、或いはウェハキャリア3を一時的に保管しておくストッカST間を走行して、搬送先のロードポート2上にウェハキャリア3を載置するように制御する。
【0037】
把持部10Bには、ウェハキャリア3を掴持するためのチャック機構10Cを備えた昇降体10Dと、昇降体10Dを所定の昇降経路に沿って昇降させるベルト及び巻上モータを備えた昇降機構10Eが組み込まれている。
【0038】
また、把持部10Bの底面側には、各製造装置1に備えた光通信部2Cとローカル通信する光通信部10Fが組み込まれている。走行制御部71は、システムコントローラHからの指令に基づいて目的とする製造装置1の近傍に到達し、光通信部2C,10F間で光通信が確立したことを認識すると、走行モータを停止制御する。尚、ローカル通信のための信号伝送媒体は無線通信媒体であればよく、光に限らず電波などを用いてもよい。つまり、光通信部に代えて無線通信部で構成してもよい。
【0039】
さらに、巻上モータを制御して昇降機構10Eを降下させ、チャック機構制御部72を介して駆動される把持モータによりウェハキャリア3を保持すると、巻上モータを制御して昇降機構10Eを上昇させ、ウェハキャリア3を搬送先の製造装置1などに向けて搬送する。
【0040】
図3に示されているように、把持部10Bのうち各搬送台車10の走行方向前面側に物体捕捉装置20が組み込まれ、走行方向後面側に所定サイズの反射シート40が貼付されている。
【0041】
図5(a)から(c)に示すように、物体捕捉装置20は進行方向前方に向けて測定光を走査し、前方を走行する他の搬送台車10に貼付された反射シート40からの反射光を検出することにより他の搬送台車10との車間距離を算出して搬送制御部70(走行制御部71)に出力するように構成されている。搬送制御部70は、物体捕捉装置20から入力された車間距離が許容値より短くなると判断すると、衝突回避のために搬送台車10を減速または停止制御する。なお、衝突回避のための制御部を物体捕捉装置20に設け、物体捕捉装置から搬送台車10を減速又は停止制御するための制御信号を出力するように構成してもよい。
【0042】
前方で走行している他の搬送台車が、図5(a)に示すような直線状の走行レールから、図5(b)のようなカーブ状の走行レールに進入して走行する際に、図5(c)のようなカーブ直前の走行レール5の延長上に設置されている製造装置1のパネルなどからの反射光を、前方を走行中の搬送台車10に添付された反射シート40からの反射光であると誤検出して、搬送台車10が減速または停止すると、当該搬送台車10は停止状態から再度走行することが困難になる。そこで、当該物体捕捉装置20には検出された反射光が前方で走行している他の搬送台車に貼付された反射シート40からの反射光であるか否かを判別する物体判別部が設けられている。
【0043】
以下、物体捕捉装置20について詳述する。
〔物体捕捉装置の第1の実施形態〕
図6には物体捕捉装置20の外観が示され、図7には物体捕捉装置20の内部構造が示されている。図6に示すように、物体捕捉装置20は、略直方体形状の下部ケーシング20Aと、略円筒形状の光学窓20Cを備えた上部ケーシング20Bを備えている。下部ケーシング20Aには信号接続部CNと表示部20Dが設けられている。
【0044】
図7に示すように、物体捕捉装置20のケーシング20A,20Bの内部には、発光部21と、受光部22と、光走査部23と、投光レンズ24と、受光レンズ25と、信号処理基板30,31が収容されている。
【0045】
上部ケーシング20Bの上面内壁に設置されたモータ50と、モータ50の回転軸51に回転軸51と一体回転可能に固定された偏向ミラー52によって光走査部23が構成されている。偏向ミラー52は回転軸51に対して45度の傾斜角度に設定され、さらに回転軸51にはモータ50の回転速度を計測するエンコーダ53が設けられている。当該エンコーダ53が測定光の走査角度検出部として機能する。
【0046】
鉛直姿勢に配された回転軸51と同軸心となる光軸P上で、偏向ミラー52を挟んでモータ50とは反対側には、受光レンズ25と受光部22が上下方向に位置を異ならせて配置されている。受光レンズ25の中央部に筒状に切り欠かれた開孔部が形成され、開孔部の下端に発光部21が配置され、その上方に投光レンズ24が配置されている。
【0047】
偏向ミラー52と一体に回転し偏向ミラー52で偏向された測定光を測定対象空間に案内する測定光光路L1と反射光を偏向ミラー52で偏向して受光部22に導く反射光光路L2とを区画する光ガイド部54が偏向ミラー52と一体に回転するように偏向ミラー52に固定されている。
【0048】
発光部21は、片持ち状に支持された基板にマウントされた赤外域の波長のレーザダイオードで構成されている。レーザダイオードから出射されたコヒーレントな測定光が投光レンズ24により平行光に成形され、光軸Pに沿って偏向ミラー52に入射し、90度偏向された後に光軸P1に沿った光ガイド部54で区画された内側領域の測定光光路L1を経由して光学窓20Cから測定対象空間に照射される。
【0049】
測定対象空間に存在する物体の表面に測定光が照射され、その反射光の一部が光軸P1に沿って光学窓20Cから光ガイド部54で区画された外側領域の反射光光路L2を経由して偏向ミラー52に入射し、偏向ミラー52によって90度偏向された後に受光レンズ25で集光されて受光部22に入射する。
【0050】
受光レンズ25は、その周部に形成されたフランジ部がレンズホルダー26で支持され、当該レンズホルダー26に発光部21を構成する基板が支持されている。さらに、受光部22がマウントされた基板や信号処理基板30,31がレンズホルダー26を支持する複数の脚部27に支持されている。
【0051】
さらに、光走査部23に組み込まれた光ガイド部54のうち、光学窓20Cと対向する位置で、測定光光路L1の出口端部に偏光子PLが配され、反射光光路L2の入口端部に検光子ANが配されている。つまり、偏光子PLが光ガイド部54の内側に配され、検光子ANが光ガイド部54の外側に配されている。
【0052】
偏光子PLによって、測定光の光路に第1方向へ振動する光のみが透過され、検光子ANによって、反射光の光路に第1方向と直交する第2方向へ振動する光のみが透過される。また、光の出射方向に沿って投光レンズ24の直後の位置に円偏光板の一例である1/4波長板28が配置されている。
【0053】
発光部21のレーザダイオードから出射され、所定方向に直線偏光する測定光が、1/4波長板28を通過することにより円偏光に変化し、さらに偏光子PLを通過することにより、例えば走査方向に対して直交する方向の直線偏光に変化する。
【0054】
偏光子PLや検光子ANとしてガラスの表面上に微細な金属のグリッドを形成したワイヤーグリッドや、材料自体の持つ複屈折現象を利用して偏光成分を調節する結晶性材料などを用いることができる。
【0055】
捕捉対象物の反射面に偏光方向を90度回転させるような光学部材を配置することにより、測定光の偏光方向に対して反射光の偏光方向が90度回転するようになる。この様な光学部材として、3面体キューブコーナー素子が配列された再帰性反射シートや1/2波長板が好適に用いられる。
【0056】
図13(a)には、3面体キューブコーナー素子(マイクロプリズムともいう。)が示されている。互いに直交する3枚の反射ミラー41,42,43で単位素子が構成されている。この様な3面体キューブコーナー素子に入射した光は、入射方向に向けて反射されるようになる。
【0057】
図13(b)に示すように、偏光子PLを通過して縦方向に直線偏光する測定光が、3面体キューブコーナー素子の3面で反射されることにより90度偏光方向が変化した直線偏光となり、検光子ANを通過するようになる。
【0058】
偏光子PLを通過した測定光がアルミなどの金属板に反射しても、反射光の偏光方向は変化することがないため、反射光が検光子ANを通過することはない。偏光子PLを通過した測定光が白色散乱板に反射すると、偏光方向が乱されて円偏光や様々な角度方向への直線偏光が重なった反射光となるため、検光子ANを通過する反射光の光量はおよそ半減する。
【0059】
光走査部23に備えた偏光子PLと検光子AN偏向ミラー52と一体に回転するので、走査に伴って出射する測定光の偏方向が変化することがなく、また入射した反射光の偏方向が変化することもない。捕捉対象物の反射面の反射特性が測定光の偏方向を90度回転させるような反射特性を備えていれば、確実に捕捉対象物であると識別できるようになる。
【0060】
光学窓20Cを通過することにより偏光特性が変化することがないように、測定光と反射光の経路となる光学窓20Cを構成する素材として、複屈折率の小さなアクリル系樹脂や光学ガラスなどの測定光を透過させるとともに測定光に対して低偏光特性を有する素材を用いることが好ましい。
【0061】
信号処理基板30には、物体捕捉装置20を制御する制御部80が設けられ、信号処理基板31には、表示部20Dに各種の情報を表示するためのLEDや液晶表示素子がマウントされている。信号処理基板30と発光部21と受光部22は信号線で互いに接続され、信号処理基板30から下部ケーシング20Aに備えた信号接続部CNを介して外部機器との間で信号を遣り取りする信号ケーブルが延伸されている。
【0062】
図8には、制御部80の機能ブロック構成が示されている。制御部80は、マイクロコンピュータやデジタルシグナルプロセッサなどを備えて構成され、これらにより、受光部21の発光タイミングを制御する発光制御部84と、光走査部23で走査された測定光と物体からの反射光との時間差または位相差から当該検出物までの距離を算出する距離演算部81と、距離演算部81で算出された距離を補正する補正演算部83と、物体判別部82を備えている。
【0063】
測定光と反射光との時間差に基づき距離を算出する方式をTOF方式といい、以下の数式1により距離dが算出される。ここに、Cは光速、ΔTは時間差である。
〔数1〕
d=(1/2)×C×ΔT
【0064】
光源を所定の変調周波数でAM変調した測定光と反射光との位相差に基づき距離を算出する方式をAM方式といい、以下の数式2により距離dが算出される。ここに、φは計測された位相差、Cは光速、Fは光源の変調周波数である。
〔数2〕
d=(1/2)×(φ/2π)×C/F
【0065】
補正演算部83は物体捕捉装置20の部品ばらつきなどに起因する誤差を補正するブロックで、上部ケーシング20Bの内壁の一部に設けられた基準反射板55からの反射光に基づき算出される距離が所定距離となるように補正係数を求める機能ブロックである。
【0066】
以下では、TOF方式が採用された場合を例に説明を続ける。なお、AM方式が採用された場合も同様である。
物体判別部82は、走査角度検出部(エンコーダ―53)で検出された走査角度と、当該走査角度に対応して距離演算部81で算出された距離を補正演算部83で算出される補正係数で補正した後の距離(以下では、単に「距離演算部81で算出された距離」と記す。)とから、測定光の反射位置つまり物体捕捉装置20から反射位置までの距離と方向を認識し、認識した距離と方向で定まる複数の反射位置に基づいて、検出した物体が捕捉対象物であるか否かを判別するとともに、捕捉対象物である場合にその距離及び/または方向を搬送台車10の走行制御部71に出力するように構成されている。
【0067】
本実施形態で説明する物体捕捉装置20の仕様値は、検出距離50mm~7000mm、走査角度範囲270度、走査時間25ms、角度分解能0.25度であり、反射シート40のサイズは横300mm、縦270mmである。なお、これらの仕様値は一例に過ぎず、本発明がこれら仕様値に限定されることを意図するものではない。
【0068】
物体判別部82は、距離演算部81で算出されたある走査角度とその走査角度に隣接する走査角度での各距離の差分が所定の閾値以下となると判断される連続した走査角度範囲が物体の走査方向に沿ったサイズと認識し、当該走査角度範囲が捕捉対象物の基準走査角度範囲に対応するか否か、及び、当該走査角度範囲での反射光の強度分布が、捕捉対象物からの反射光の基準強度分布に対応するか否かに基づいて、物体が捕捉対象物であるか否かを判別するように構成されている。
【0069】
捕捉対象物の基準走査角度範囲とは、走査角度範囲で算出された各距離を代表する基準距離に対応する走査角度範囲をいう。基準距離として物体捕捉装置20から物体までの最小距離、最大距離、中央値、平均値などを用いることができ、本実施形態では平均値を用いている。
【0070】
図9(a)に示すように、距離演算部81によってある走査角度θで算出された距離dと、その走査角度θに隣接する走査角度θ±Δθp(Δθp=0.25度)で算出された距離が所定の閾値Δd以下となる場合に、当該距離dに対応する物体が同一物体であると判断される。
【0071】
走査方向に沿った当該物体のサイズに相当する走査角度範囲±Δθが、当該走査角度範囲±Δθ内の各距離dを代表する基準距離drefに基づいて設定される捕捉対象物の基準走査角度範囲θrefに対応すれば、検出された物体が捕捉対象物であると同定可能になる。
【0072】
つまり、物体捕捉装置20から基準距離 ref 離隔した位置に反射シート40が位置する場合に、走査方向サイズとなる反射シート40の横方向長さ300mmに対応する走査角度が基準走査角度範囲θrefとなる。
【0073】
従って、図9(b)に示すように、基準走査角度範囲θrefは基準距離drefを変数とする以下のような関数によって定めることができる。
θref=2・tan-1(W/2・dref
ここで、Wは測定光の走査方向に沿った反射シート40の横幅である。上述したように本実施形態では、基準距離drefとして物体捕捉装置20から物体までの距離の平均値を用いている。
【0074】
さらに、図10(a)に示すように、走査方向に沿った当該物体のサイズに相当する走査角度範囲±Δθで検出される反射光の強度分布Iが、捕捉対象物からの反射光の基準強度分布Irefに対応すれば、検出された物体が捕捉対象物であると同定可能になる。つまり、捕捉対象物の走査方向サイズ及び反射光強度分布が、他の物体と異なるように設定されていれば、確実に捕捉対象物であると識別できるようになる。
【0075】
図10(b)に示すように、基準強度分布Irefは、物体捕捉装置20から反射シート40までの距離dを変数とする関数で求めることができる。一般的には、距離dと反射光の強度Iは距離dの二乗に反比例するため、反射シート40までの距離dが短くなれば反射光の強度Iが大きくなり、反射シート40までの距離dが長くなれば反射光の強度Iが小さくなる。即ち、基準強度分布は、物体までの距離を指標にして定められる。
【0076】
そして、上述した基準走査角度範囲θref及び基準強度分布Irefは、測定光の走査基準位置に対する走査角度範囲の偏りの程度を指標にして定められていることが好ましい。
【0077】
測定光の走査範囲で捕捉対象物が位置する角度が変れば、基準距離が同じであっても捕捉対象物の走査方向サイズ及び反射光強度分布が変化する。そのような場合でも測定光の走査基準位置に対する走査角度範囲の偏りの程度を指標にして基準走査角度範囲及び基準強度分布を定めることにより、より確実に捕捉対象物であると識別できるようになる。
【0078】
測定光の走査基準位置として、走査始点角度(図9(a)のθ=0度の位置)、走査終点角度(図9(a)のθ=270度の位置)、走査範囲の中央となる走査角度(図9(a)のθ=135度の位置)など任意に選択すればよく、走査角度範囲の偏りの程度として、例えば走査角度範囲の始点角度(図9(a)のθ=135度-Δθの位置)、終点角度(図9(a)のθ=135度+Δθの位置)または中心角度(図9(a)のθ=135度の位置)など任意に選択した角度と、上述した走査基準位置との角度差で表し、当該角度差を変数にした関数に基づいて、基準走査角度範囲θref及び基準強度分布Irefをそれぞれ定めればよい。
【0079】
さらに、基準走査角度範囲θref及び基準強度分布Irefは、走査角度範囲の各距離に基づいて定まる測定光の光軸に対する捕捉対象物(反射シート40)の傾斜角度を指標にして定められていることが好ましい。
【0080】
測定光の光軸と捕捉対象物(反射シート40)の傾斜角度によって基準距離drefが同じであっても捕捉対象物の走査方向サイズ及び反射光強度分布が変化する。そのような場合でも走査角度範囲の各距離に基づいて測定光の光軸に対する捕捉対象物(反射シート40)の傾きが求められ、求められた捕捉対象物(反射シート40)の傾斜角度を指標にして基準走査角度範囲θref及び基準強度分布Irefを定めることにより、より確実に捕捉対象物であると識別できるようになる。
【0081】
図9(c)には、捕捉対象物の反射面が測定光の光軸に対して角度φ傾斜した場合に求まる走査角度範囲内の各距離が示されている。捕捉対象物の走査角度範囲に存在する反射面の走査方向に沿った両端部の距離に基づいて幾何学的に傾斜角度φを求めることができ、走査角度範囲内の各距離の平均値を基準距離d1、d2、d3として算出することができる。例えば、以下の数式のように、求めた基準距離drefと傾斜角度φを変数とする関数により走査角度範囲θrefを求めることができる。
θref=2・tan-1(W・cosθ/4・dref
【0082】
図10(c)には、捕捉対象物の反射面が測定光の光軸に対して角度φ傾斜した場合に求まる走査角度範囲内の各反射光の強度Iが示されている。図9(c)と同様に、求めた基準距離drefと傾斜角度φを変数とする関数により基準強度分布 refを求めることができる。
【0083】
上述した基準走査角度範囲θref及び基準強度分布Irefは、物体判別部82によって上述した関数演算により算出されるように構成してもよいし、基準距離drefや傾斜角度φを複数の区分に分割して、各区分に対応する基準走査角度範囲θref及び基準強度分布Irefをメモリに基準データとして記憶しておいてもよい。
【0084】
図11(a)には、入射角度0度(垂直入射)±45度の走査角度範囲で、反射シート40の反射特性によって基準強度分布Irefが異なる例が示されている。反射シート40が白色紙のような散乱体であれば、受光部22によって検出される反射光の強度分布は、測定光の走査角度が変化してもほぼフラットな特性となる。
【0085】
これに対して、反射シート40が例えばアルミの金属板のような鏡面であれば、測定光が鏡面反射されるために、測定光が略垂直方向から金属板に入射する際に受光部22によって検出される反射光の強度は大きくなり、測定光の入射角度が垂直方向からずれると反射光の強度は極端に小さくなる。そのため反射光の強度分布は、測定光が垂直入射する中央部でピークとなり、その前後で次第に低くなる特性を示す。
【0086】
反射シート40として再帰性反射部材を採用すると、白色紙のような散乱体からの反射光と同様に全域でフラットでありながらも十分に大きな強度の強度分布が得られる。再帰性反射部材として上述した3面体キューブコーナー素子が配列された反射シートが好適に用いられる。
【0087】
図11(b)には、走査角度135度における測定光の光軸にほぼ垂直な姿勢に配置された反射シートからの反射光強度分布が示されている。距離dが一定であっても、反射シートの反射面が散乱面である場合には比較的平坦な反射光強度Ipとなり、反射シートの反射面が鏡面である場合には垂直入射する中央部で極端に大きく辺部で小さな反射光強度Imとなり、反射シートの反射面が再帰性反射部材で構成されている場合には、比較的平坦で前二者よりも大きな反射光強度Isとなる。
【0088】
図11(c)には、測定光の光軸に対して垂直な姿勢から僅かに傾斜した反射シートからの反射光強度分布が示されている。反射シートの反射面が散乱面である場合、及び反射面が再帰性反射部材で構成されている場合の強度分布は、図11(b)に比べてそれほど変化しないが、反射面が鏡面である場合には強度分布が入射角度に依存して大きく変化する。
【0089】
従って、誤検出する虞がある物体の反射特性と異なる反射特性の反射シート40を採用することにより捕捉対象物を適正に判別することができ、しかも反射シート40の特性を反映した基準走査角度範囲θref及び基準強度分布Irefに基づいて捕捉対象物であるか否かを判別することにより、測定光の走査範囲で捕捉対象物がどのような位置にあっても適切に捕捉できるようになる。
【0090】
図12には、物体判別部82により実行される物体捕捉手順のフローが示されている。
物体判別部82は、測定光の1走査ごとに距離演算部81で算出され、補正演算部83で補正された距離及び対応する走査角度で表される位置データを取得すると(S1)、それら複数の位置データに基づいて、ある走査角度とその走査角度に隣接する走査角度での各距離の差分が所定の閾値以下となると判断される連続した走査角度範囲が所定の閾値以上である場合に、捕捉対象物の候補であると認識する物体判別処理を行なう(S2)。
【0091】
抽出された物体毎に基準距離を算出し(S3)、上述した関数を用いて基準走査角度範囲を導出するとともに(S4)、上述した関数を用いて基準強度分布を導出する(S5)。なお、基準走査角度範囲及び基準強度分布は、基準距離及び基準距離に対応する走査角度つまり基準走査角度からの偏りの程度に応じて、予め定められ、メモリに記憶されたデータを読み出すように構成してもよい。
【0092】
各物体の走査角度範囲と基準走査角度範囲の差分を求め、当該差分が所定の閾値以下であれば捕捉対象物の可能性があると判定し、当該差分が所定の閾値以上であれば捕捉対象物ではないと判断する(S6,OK)。
【0093】
次に、ステップS6で捕捉対象物の可能性があると判定した物体に対して、反射光強度分布と基準強度分布の差分を求め、当該差分が所定の閾値以下であれば捕捉対象物であると判定する(S7,OK)。
【0094】
捕捉対象物であると判定した物体の基準距離が予め定めた近接閾値以下であれば(S8,Y)、走行制御部7図8参照)に、減速または停止警告信号を出力する。なお、近接閾値を大小2段階設定し、大きい方の閾値以下のときに減速警告信号を出力し、小さい方の閾値以下のときに停止警告信号を出力するように構成してもよい。
【0095】
また、ステップS8で捕捉対象物の基準距離が予め定めた近接閾値より大きく、過去に減速または停止警告信号を出力している場合には、当該信号を解除する。上述したステップS1からステップS9の処理が測定光の単位走査ごとに繰り返される。
【0096】
〔物体捕捉装置の第2の実施形態〕
上述した物体捕捉装置20では、発光部21が赤外域の波長のレーザダイオードで構成されているが、波長は特に制限されない。また、発光部は波長が異なる複数の光源を備えて構成され、上述した基準強度分布Irefが各光源の波長に対応してそれぞれ定められていてもよい。光源の数や波長については特に制限されるものではなく、適宜設定すればよい。基準走査角度範囲θrefについては上述と同様である。
【0097】
例えば、発光部が、赤色のレーザーダイオードチップと、緑色のレーザーダイオードチップの二つの光源で構成され、捕捉対象物の反射面以外の物体の表面の分光反射特性と異なるように、捕捉対象物の反射面となる反射シートの分光反射特性に対応した基準強度分布が光源の波長ごとに設定されていれば、さらに確実に捕捉対象物であると識別できるようになる。
【0098】
例えば、赤色と緑色に対する基準強度分布が同じ特性となるように反射シートの分光反射特性を設定し、或いは赤色と緑色に対する基準強度分布が異なる特性となるように反射シートの分光反射特性を設定すればよい。また、測定光の走査方向に沿って各色に対する分光反射特性が連続的に、或いは段階的に異なるように設定することも可能である。
【0099】
この場合、発光制御部84(図8参照)は、光走査部23の単位走査周期で二つの光源を交互に切り替えて駆動すればよい。捕捉対象物の移動速度が光走査部23の単位走査周期よりも十分に遅い場合には、単位走査周期毎に光源を切り替えて駆動することも可能である。
【0100】
一つの物体捕捉装置20の発光部21に波長が異なる複数の光源を備える構成に代えて、一つの光源でなる発光部を備えた物体捕捉装置20を複数台準備し、各物体捕捉装置20の発光部の光源の波長をそれぞれ異ならせてもよい。
【0101】
図14には、物体捕捉装置20の光走査部23の他の例が示されている。光走査部23に組み込まれた光ガイド部54のうち、発光部21と対向する位置で、測定光光路Lの入口端部に上述の偏光子PLが配され、偏向ミラー52によって偏向された反射光光路L2の出口端部に上述の検光子ANが偏向ミラー52と一体に回転するように配されている。
【0102】
図7の構成を採用する場合には、偏光子PL及び検光子ANの重量により回転軸51周りのトルクが多少大きくなりモータ50のパワーが大きくなるが、光走査部23の安定した回転が実現できる。図14の構成を採用するとモータ50のパワーが図7の構成ほどは大きくならない。
【0103】
図15には、物体捕捉装置20の光走査部23を含めた他の例が示されている。図7及び図14の例では、光の出射方向に沿って投光レンズ24の直後の位置に1/4波長板28が配置されているが、図15の例では、発光部21と1/4波長板28との間に直線偏光させる偏光子PL´がさらに配されているという特徴を有する。偏光子PLが第一の偏光子となり、偏光子PL´が第二の偏光子となる。
【0104】
入射光の偏光面が1/4波長板28の高速軸(或いは低速軸)に対して45度の方位角で入射するように偏光子PL´を調整することにより直線偏光を真円に近い円偏光に変えることができ、その結果、光走査部23に備えた偏光子PLにより適切に直線偏光された測定光が得られるようになる。
【0105】
偏光子PL´がない場合に、投光レンズ24にポリカーボネートのような複屈折率の大きな樹脂製レンズを用いると、発光部21となるレーザダイオードから出射された測定光の偏光状態が変動するため、1/4波長板28を通過した測定光が楕円に近い円偏光になり、偏光子PLを通過した測定光が楕円偏光となり、反射光の検出精度が低下する虞がある。しかし、偏光子PL´を備えることによりレーザダイオードから出射された測定光を確実に直線偏光させて1/4波長板28に導くことにより、偏光子PLを通過した測定光を適切に直線偏光させ、反射光の検出精度を高めることができるようになる。
【0106】
図16には、物体捕捉装置20の光走査部23を含めた他の例が示されている。光走査部23に組み込まれた光ガイド部54の出口側に、偏光子PLと同じ向きの偏光特性を備えた偏光子PL´´が偏向ミラー52と同じ傾斜姿勢になるように配されている。
【0107】
偏光子PL´´がなく測定光が照射される物体が物体捕捉装置20の近傍に位置する場合には、光ガイド部54から出射される測定光の光線束の径が小さく、当該物体からの反射光の光線束の広がりも小さくなり、反射光光路L2を進む反射光の径が測定光光路L1を進む測定光の径に近づく結果、受光部22に導かれる光量が少なくなって正確に距離を検出し難い状況が発生する虞がある。
【0108】
そのような場合でも、偏光子PL´´を備えていれば、当該物体からの反射光のうち、測定光の直線偏光と直交する直線偏光が偏光子PL´´で反射されて受光部22に導かれるようになる。
【0109】
従って、当該物体が捕捉対象物であれば、測定光の直線偏光と直交する直線偏光が受光部22に導かれるようになり、検出精度を高めることができる。そして、当該物体が捕捉対象物でなく、測定光の直線偏光と同じ直線偏光の反射光であれば、偏光子PL´´を通過するようになり、受光部22に導かれる反射光量が低下するため、誤検出を回避できるようになる。即ち、偏光子PL´´は光ガイド部54に向けて入射する反射光を受光部22に導くハーフミラーとして機能する。偏光子PL´´は反射光が受光部22に導かれる条件であれば、測定光光路L1内に適宜設けることができる。また一般的なハーフミラーを使用できる場合もある。
【0110】
〔反射光の受光レベルから捕捉対象物を識別するフィルタリング処理〕
物体判別部82(図8参照)による捕捉対象物の識別アルゴリズムの改良について説明する。
図17(a)には、図16に示した構成の物体捕捉装置20を用いた場合の各種の反射部材に対する距離と反射光の受光レベルの検出特性が示されている。図18には、図17(a)に示した各反射部材の材質が示されている。図18に示す「反射板」が、捕捉対象物に付され、上述した光学部材を用いた反射板(例えば、3面体キューブコーナー素子を用いた反射板)となる。
【0111】
距離が50~1000mmの範囲では、上述した反射板の受光レベルがその他の反射部材に比べて十分に大きな値となる。距離が1000mmを超えると、当該反射板の受光レベルが大きく低下するが、他の反射部材に比べて大きな値となる。
【0112】
従って、反射光の受光レベルに距離に応じた閾値を設定して、閾値を超えた反射光を真正の捕捉対象物と判断することが可能となる。即ち、検出距離に応じて反射光の受光レベルの閾値を異なる値に設定することにより、捕捉対象物とその他の物体とを識別することができるようになる。
【0113】
具体的には、近距離からの反射光の受光レベルの閾値を、遠距離からの反射光の受光レベルの閾値よりも大きくなるように設定すればよい。上述の例では、近距離と遠距離の境界が1000mm程度となり、1000mm以内の近距離で閾値を1000、1000mmより遠距離で閾値を700に設定される。
【0114】
なお、近距離と遠距離の境界は物体捕捉装置20の具体的な構成、つまり光源の光量、受光素子の感度、光学系の構成などにより適宜適切な値に定めることができる。また、近距離と中距離と遠距離の各境界で閾値を異なる値に設定するなど、閾値を多段階で切り替えるように構成することも可能である。
【0115】
そして、物体までの検出距離による反射光の受光レベルの閾値の切替設定は、図16に示した構成の物体捕捉装置20に限って効果が奏されるものではなく、図7図14図15に示した構成の物体捕捉装置20であっても有効に適用できる。
【0116】
図17(b)には、測定光の光軸と当該反射板の法線とのなす角度θ1を0度±45度の範囲で異ならせた場合の反射光の検出特性が示されている。角度θ1が0度のときに最大の受光レベルとなり、±45度付近で最少となる傾向が示される。角度θ1が±45度付近で受光レベルが近距離の閾値1000以下となるため、反射板の角度θ1が45度の近傍で検出不能となる虞がある。
【0117】
図17(c)には、各種の反射部材に対して角度θ1が0度に設定されたときの走査方向に沿った反射光の受光レベルが示されている。図17(c)中、STEP540は、測定光の走査方向が反射部材の法線方向となる場合の受光レベルである。なお、反射部材と物体捕捉装置20との距離は500mmである。受光レベルの閾値を1000に設定すれば、当該反射板とその他の反射部材とを明確に識別できる。
【0118】
図17(d)には、当該反射板に対して角度θ1が0度、-45度、+45度に設定されたときの走査方向に沿った反射光の受光レベルが示されている。反射板と物体捕捉装置20との距離は500mmである。図17(b)と同様に、受光レベルの閾値を近距離用の閾値である1000に設定すれば、角度θ1が±45度の近傍で検出不能となる虞がある。そのような場合でも、近距離用の閾値よりも小さなレベルの近距離用の第2閾値を設け、例えばその値を700に設定すると、角度θ1が±45度の近傍でも確実に検出できるようになる。
【0119】
しかし、近距離用の第2閾値を700に設定すると、図17(a)に示したように、角度θ1が0度近傍でアルミ板やSUS板のような鏡面反射部材を捕捉対象物の反射板であると誤って検出する虞がある。
【0120】
そのような場合でも、測定光の走査方向に対する反射光の連続検出ステップ数を加味すれば、鏡面反射部材からの反射光と当該反射板(例えば、3面体キューブコーナー素子を用いた反射板)からの反射光を識別することができる。
【0121】
例えば、図17(c)に示されたように、角度θ1が0度のときに、近距離用の第2閾値700で検出される鏡面反射部材からの反射光の連続検出ステップ数より大きな閾値ステップ数を設定し、反射光の受光レベルが閾値ステップ数以上のステップ数で連続して近距離用の第2閾値700以上となると、当該反射板を備えた捕捉対象物であると識別することができる。
【0122】
例えば、検出距離が近距離である場合には、反射光の受光レベルが近距離用の閾値以上であるという条件と、反射光の受光レベルが閾値ステップ数以上のステップ数で連続して近距離用の第2閾値以上であるという条件の何れかを具備した場合に捕捉対象物であると識別できる。
【0123】
また、検出距離が遠距離である場合には、別途遠距離用の閾値よりも小さなレベルの遠距離用の第2閾値を設け、反射光の受光レベルが遠距離用の閾値以上であるという条件、または、反射光の受光レベルが閾値ステップ数以上のステップ数で連続して遠距離用の第2閾値以上であるという条件の何れか一方を具備した場合に捕捉対象物であると識別できる。
【0124】
〔物体捕捉装置に組み込まれる光走査部の他の実施形態〕
図7に示した物体捕捉装置20では、上部ケーシング20Bの上面内壁に設置されたモータ50と、モータ50の回転軸51に回転軸51と一体回転可能に固定された偏向ミラー52によって光走査部23が構成された例を説明したが、本発明が適用される物体捕捉装置の光走査部の構成は、上述の構成に限るものではなく他の公知の光走査部の構成を採用することも可能である。
【0125】
例えば、上述した偏向ミラーに代えて、各側面が鏡面に形成された多角柱を縦軸心周りに回転させる回転多面鏡を用いて、発光部から出射される測定光を測定対象空間に向けて走査し、反射光を受光部に導くように構成してもよい。
【0126】
また、上述した平坦な偏向ミラーを回転させる走査機構に代えて、揺動走査する揺動機構を採用してもよい。さらに上述した光走査部23により回転駆動される偏向ミラーを回転軸心と交差する軸心周りに揺動走査する揺動機構を備えて三次元走査可能に構成してもよい。
【0127】
何れの態様であっても、光走査部は、偏向ミラーと、偏向ミラーで偏向された測定光を測定対象空間に案内する光路と反射光を受光部に導く光路とを区画する光ガイド部と、を備え、偏光子が光ガイド部の測定光光路側に配され、検光子が光ガイド部の反射光光路側に配されていればよい。
【0128】
このような構成を備えていれば、光ガイド部によって測定光光路と反射光光路に光路が領域区画される。発光部から出射された測定光が測定光光路を進む際に第1方向へ振動する直線偏光のみが偏光子を透過して測定対象空間に走査され、物体からの反射光が反射光光路を進む際に第1方向と直交する第2方向へ振動する直線偏光のみが検光子を透過して受光部で受光されるようになる。
【0129】
〔他の物体捕捉装置からの干渉光の影響を低減する信号処理〕
物体捕捉装置20の近隣に位置する他の物体捕捉装置20からの測定光が干渉光として入射すると、当該物体捕捉装置20から出射された測定光に対する反射光であると誤って検出される虞がある。双方の物体捕捉装置20から出射される測定光の周期が同じである場合、同じ周期で干渉光が入射するため、誤検出する可能性が高くなる。
【0130】
そこで、各物体捕捉装置20から出射される測定光の平均周期を一定に保持しつつ、平均周期Tに対して前後にT/2周期の範囲内でランダムに出射時期をずらせるように発光制御部84(図8参照)を構成することにより、同じ周期で干渉光が入射するような現象を回避することができる。
【0131】
また、物体捕捉装置20から出射される1パルスの測定光に対して複数の反射光が検出される場合に、測定光の周期Tを複数の時間領域に分割し、検出された反射光が何れの時間領域に属するかをメモリに記憶する処理を、連続する所定数の測定光に対して実行し、検出された反射光の数が最大となる時間領域の反射光を真の反射光として採用するように距離演算部81(図8参照)を構成することが好ましい。
【0132】
同様に、物体捕捉装置20から出射される1パルスの測定光に対して複数の反射光が検出される場合に、距離演算部81(図8参照)でそれぞれの反射光に対する距離を算出するように構成し、測定光の周期Tを複数の時間領域に分割し、検出された距離が何れの時間領域に属するかをメモリに記憶する処理を、連続する所定数の測定光に対して実行し、検出された距離の数が最大となる時間領域の距離を真の反射光に対する距離として採用するように物体判別部82(図8参照)を構成してもよい。
【0133】
さらに、物体捕捉装置20から出射される1パルスの測定光に対して複数の反射光が検出される場合に、測定光の周期Tを複数の時間領域に分割し、検出された反射光が何れの時間領域に属するかをメモリに記憶する処理を、所定数の走査周期にわたり実行し、検出された反射光の数が最大となる時間領域の距離を真の反射光に対する距離として採用するように距離演算部81(図8参照)を構成してもよい。
【0134】
同様に、物体捕捉装置20から出射される1パルスの測定光に対して複数の反射光が検出される場合に、距離演算部81(図8参照)でそれぞれの反射光に対する距離を算出するように構成し、測定光の周期Tを複数の時間領域に分割し、検出された距離が何れの時間領域に属するかをメモリに記憶する処理を、所定数の走査周期にわたり実行し、検出された距離の数が最大となる時間領域の距離を真の反射光に対する距離として採用するように物体判別部82(図8参照)を構成してもよい。
【0135】
〔捕捉対象物の反射面〕
上述した物体捕捉装置20により捕捉される捕捉対象物は、光走査部23により走査される測定光の走査方向に沿って反射光量が段階的に変化する反射特性を備えた反射シート40を備えていることが好ましい。
【0136】
光走査部23により走査される測定光の走査方向に沿って反射光量が段階的にまたは連続的に変化するように、捕捉対象物の反射面の反射特性を設定することにより、そのような特性を備えていない他の物体との精度の高い識別が可能になる。
【0137】
例えば、図19(a)に示すように、測定光の走査方向に沿って、反射シート40の表面反射率が両端部及び中央部で高く、両端部と中央部の間で低く設定された反射シート40であれば、それに伴って受光部22で検出される反射光量が走査方向に沿って段階的に変化するため、他の物体からの反射光と確実に識別できるようになる。
【0138】
例えば、図19(b)に示すように、測定光の走査方向に沿って、反射シート40の表面反射率が鋸刃状に変化するように設定された反射シート40であれば、それに伴って受光部22で検出される反射光量が走査方向に沿って連続的に上昇し或いは連続的に下降するため、他の物体からの反射光と確実に識別できるようになる。
【0139】
また、測定光の走査方向に沿って測定光の波長に対する分光反射特性が段階的にまたは連続的に変化するような反射特性を備えた反射シート40を採用してもよい。発光部21に波長が異なる複数の光源を備える場合には、光源の波長毎に分光反射特性が変化するような反射特性を備えることが好ましい。
【0140】
何れの場合であっても、反射シート40として再帰性反射部材、特に3面体キューブコーナー素子が表面に配列された再帰性反射部材を用いることが好ましい。この様な再帰性反射部材を用いる場合には、反射ミラー41,42,43(図14(a)参照。)に所定厚の干渉膜を形成することで分光反射特性を調整することが可能となる。
【0141】
また、反射シート40の全域に再帰性反射部材を配するのではなく、測定光の走査方向に沿って反射光量が段階的にまたは連続的に変化するように、再帰性反射部材を配する領域と配さない領域に区分けしてもよい。例えば、再帰性反射部材を配さない領域に散乱反射部材を配したり、吸光部材を配したりしてもよい。
【0142】
上述した複数の態様の物体捕捉装置20及び捕捉対象物に備えた反射シート40を適宜組み合わせることにより、本発明の物体捕捉システムが具現化される。
【0143】
以上説明した実施形態は何れも本発明の一実施例に過ぎず、当該記載により本発明の範囲が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0144】
1:製造装置
5:走行レール
10:搬送台車
20:物体捕捉装置
21:発光部
22:受光部
23:光走査部
24:投光レンズ
25:受光レンズ
40:反射シート
54:光ガイド部
70:搬送制御部
71:走行制御部
80:制御部
81:距離演算部
82:物体判別部
100:製造設備
AN:検光子
PL,PL´,PL´´:偏光子
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