(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159580
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】抗ウイルス光硬化性樹脂組成物及びハードコートフィルム
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20221011BHJP
C09D 175/16 20060101ALI20221011BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20221011BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20221011BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221011BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20221011BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20221011BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C08F290/06
C09D175/16
C09D5/00 Z
C09D4/02
C09D7/63
C09D7/65
C08F2/44 Z
C08F2/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063853
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 正章
【テーマコード(参考)】
4J011
4J038
4J127
【Fターム(参考)】
4J011PA36
4J011PA99
4J011PB33
4J011PB34
4J011QB23
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4J127DA57
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4J127FA08
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性や耐爪傷性を有し、破断伸度が高く成形性が良好であると共に、優れた耐薬品性と抗ウイルス特性を有し、インモールド成形やインサート成形などに適した光硬化性樹脂組成物、及びこれを塗工した成形用ハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】エチレングリコールとイソホロンジイソシアネートを反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを更に反応させたウレタンアクリレートと、表面調整剤と、抗ウイルス剤と、光重合開始剤とを含み、前記ウレタンアクリレートの重量平均分子量が5000~12000であり、表面調整剤の配合量が固形分全量に対し0.3~2.5重量%であり、抗ウイルス剤が4級アンモニウム塩系化合物であることを特徴とする光硬化性樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールとイソホロンジイソシアネートを反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを更に反応させたウレタンアクリレート(A)と、表面調整剤(B)と、抗ウイルス剤(C)と、光重合開始剤(D)とを含み、前記(A)の重量平均分子量が5000~12000であり、(B)の配合量が固形分全量に対し0.3~2.5重量%であり、(C)が4級アンモニウム塩系化合物であることを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
更に(A)以外の多官能(メタ)アクリレート(E)を固形分全量に対し1~20重量%含むことを特徴とする請求項1記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)の配合量が固形分全量に対し0.3~25重量%であることを特徴とする請求項1又は2いずれか記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
プラスチック基材上に請求項1~3いずれか記載の光硬化性樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とする成形用ハードコートフィルム。
【請求項5】
請求項4記載のハードコートフィルムを用いたプラスチック成型品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ウイルス機能を有する光硬化性の樹脂組成物、及びその樹脂硬化層を有するハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系の光硬化型樹脂は、プラスチックフィルムやプラスチック成形物表面に特別な性能を付与するために多くの分野で用いられており、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に塗布して高硬度を付与したハードコートフィルムは、タッチパネル用フィルムや成形用フィルムとして大量に使用されている。
【0003】
これらのなかで特に成形用としては、フィルム表面に絵柄を印刷後、加熱により軟化させた状態で3次元成形を行うインサートフィルムが良く知られているが、フィルムに塗布されたハードコート樹脂層を硬くすると、立体形状に加工する際に曲面においてマイクロクラックが入りやすくなり、加工形状には制約があった。そのため過去に出願人は、表面硬度と成形性を両立させるインサート成形用のハードコート樹脂として、トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーと平均一次粒子径が80~500nmの有機微粒子を含むハードコート剤を発明した(特許文献1)。このハードコート剤は膜厚が1~10μmで十分な柔軟性と表面物性が両立可能な優れるものであった。
【0004】
こうした成形用途に適したハードコート剤を選定することで、加工面での制約はある程度緩和されてはきたが、深い絞込みが必要とされる用途ではまだ伸び性が不足する場合があった。また頻繁に人手に触られる用途、例えば自動車の内装分野等では、手の表面についているハンドクリームがハードコートの表面皮膜を侵し、長期にわたる使用では表面皮膜がはがれると言う課題があり、更に近年では抗ウイルス機能を要求されるようになってきた。そのため、良好な加工特性(伸び性)を有しつつ、耐薬品性と抗ウイルス性を並立させるためには改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐摩耗性や耐爪傷性を有し、破断伸度が高く成形性が良好であると共に、優れた耐薬品性と抗ウイルス特性を有し、インモールド成形やインサート成形などに適した光硬化性樹脂組成物、及びこれを塗工した成形用ハードコートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、エチレングリコールとイソホロンジイソシアネート(以下IPDI)を反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレート(以下PETA)を更に反応させたウレタンアクリレート(A)と、表面調整剤(B)と、抗ウイルス剤(C)と、光重合開始剤(D)とを含み、前記(A)の重量平均分子量が5000~12000であり、(B)の配合量が固形分全量に対し0.3~2.5重量%であり、(C)が4級アンモニウム塩系化合物であることを特徴とする光硬化性樹脂組成物を提供する。
【0008】
請求項2の発明は、更に(A)以外の多官能(メタ)アクリレート(E)を固形分全量に対し1~20重量%含むことを特徴とする請求項1記載の光硬化性樹脂組成物を提供する。
【0009】
請求項3の発明は、前記(C)の配合量が固形分全量に対し0.3~25重量%であることを特徴とする請求項1又は2いずれか記載の光硬化性樹脂組成物を提供する。
【0010】
請求項4の発明は、プラスチック基材上に請求項1~3いずれか記載の光硬化性樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とする成形用ハードコートフィルムを提供する。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4記載のハードコートフィルムを用いたプラスチック成型品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光硬化樹脂組成物は、耐摩耗性や耐爪傷性を有し、破断伸度が高く成形性が良好であると共に、優れた耐薬品性と抗ウイルス性を有しており、インモールド成形やインサート成形などに用いる成形用フィルムに塗工するハードコート樹脂として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の光硬化型樹脂組成物の構成は、エチレングリコールとIPDIを反応合させたジイソシアネートに、PETAを更に反応させたウレタンアクリレート(A)と、表面調整剤(B)と、抗ウイルス剤(C)と、光重合開始剤(D)である。なお、本明細書において(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0014】
本発明で使用される(A)の合成で使用する脂環式ジイソシアネートのIPDIは、黄変が無く耐候安定性に優れると同時に剛性が高く、硬化物の硬度を上げることができる。炭素鎖が非常に短いエチレングリコールと反応させることで、分子内のウレタン結合濃度を高くすることが可能となり、耐薬品性に優れた剛性の高い直鎖構造の主骨格を形成できる。エチレングリコールの代わりにポリエチレングリコールを用いると、ウレタン結合の濃度が低くなり耐薬品性が低下するため不適である。
【0015】
前記(A)の合成方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。反応は無溶媒下でも良いが、(A)の分子量が大きくなるにつれて攪拌が困難となる場合があるため、ブタノン等のケトン類、キシレン等の芳香族不活性溶媒などを用いても良い。またエチレングリコール及びPETAの水酸基と、イソシアネート基との反応には、触媒を用いることが好ましい。その場合の例としては、ジブチルスズジラウレート等の錫系、ナフテン酸コバルト等の金属アルコキシド系が挙げられる。反応温度は適宜設定可能であるが40~120℃が好ましく、60~100℃が更に好ましい。
【0016】
前記(A)のMw.は5000~12000であり、6000~11000が好ましく、7000~10000が更に好ましい。5000以下では充分な破断伸度を確保できず、12000以下では作業性の良い粘度に調整しにくくなりフィルム外観が安定せず、また架橋密度が低下し耐爪傷性や鉛筆硬度が低下するため不可である。(A)のMwは、反応させるエチレングリコールとIPDIのモル比により調整が可能で、エチレングリコールに対するIPDIのモル比を近づけると、Mwは大きくなる傾向がある。なおMwは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、スチレンジビニルベンゼン基材の充填剤を用いたカラムでテトラハイドロフラン溶離液を用いて、標準ポリスチレン換算の分子量を測定、算出した。
【0017】
前記(A)の配合量は固形分全量に対し60~95重量%が好ましく、65~90重量%が更に好ましく、70~80重量%が特に好ましい。60重量%以上とすることで十分な破断強度を確保することができ、95重量%以下とすることで作業性に適した粘度に調整しやすくなる。
【0018】
本発明で使用される表面調整剤(B)は、硬化物表面の滑り性を向上させる目的で添加しており、その影響で摩擦係数が低下し、結果として耐擦傷性を向上させている。例えばポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、変性ポリエーテル、フッ素系ポリマーなどが挙げられ、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、前記(A)との相溶性を向上させるため、側鎖にポリエーテル基を導入したポリジメチルシロキサンコポリマーが好ましい。
【0019】
前記(B)の配合量は全固形分全量に対し0.3~2.5重量%であり、0.35~2.0重量%が好ましく、0.4~1.5重量%が更に好ましい。0.3%未満では、摩擦係数の上昇により耐布摩耗性や耐爪傷性が低下し、2.5重量%超ではヘイズの上昇により加飾印刷した時の色再現性が低下する。市販品としてはBYK-UV3500(商品名:BYK社製)等が挙げられる。
【0020】
本発明で使用される抗ウイルス剤(C)は、硬化物に抗ウイルス特性を付与する目的で添加する4級アンモニウム塩系化合物である。一般に抗ウイルス特性を有する無機系材料としては銅、銀、チタン、スズ、鉄、ニッケル、亜鉛などを含む化合物が、また有機系材料としてはハイドロキシアパタイト、スルホン酸基又はその塩を有する重合体などが挙げられるが、製造工程やバインダーとの組合せにより、抗ウイルス性の発現には大きな差がある。またその添加によりヘイズの上昇や着色等の外観に変化が生じる場合があるため、目的とする製品に合った抗ウイルス剤を選定する必要がある。例えば一価の銅化合物は塗膜表面に偏在することが出来ず、抗ウイルス剤が不活性となりやすく不適である。
【0021】
前記(C)の配合量は固形分全量に対し0.3~25重量%が好ましく、5~20重量%が更に好ましく、8~17重量%が特に好ましい。0.3重量%以上とすることで抗ウイルス特性を付与することが可能となり、25重量%以下とすることで十分な外観と塗膜性能を確保することができる。
【0022】
本発明で使用される光重合開始剤(D)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系等汎用の光重合開始剤が使用できる。重合開始剤の光吸収波長を任意に選択することによって、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲にわたって硬化性を付与することができる。具体的にはベンジルケタール系として2.2-ジメトキシ-1.2-ジフェニルエタン-1-オンが、α-ヒドロキシアセトフェノン系として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン及び1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンが、α-アミノアセトフェノン系として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンが、アシルフォスフィンオキサイド系として2.4.6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド及びビス(2.4.6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
これらの中では、黄変しにくいα-ヒドロキシアセトフェノン系を含むことが好ましく、市販品としてはOmnirad127、184、2959(商品名:IGM Resins社製)などがある。前記(B)のラジカル重合性分100重量部に対する配合は3~12重量部が好ましく、5~10重量部が更に好ましい。
【0024】
本発明の組成物には、更に(A)以外の多官能(メタ)アクリレート(E)を配合することで、耐爪傷性や鉛筆硬度等を向上させることができる。特に少量添加でも、これらの物性を向上させることができる5官能以上が好ましく、例えばジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(以下DPHA)などが挙げられる。また5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートも好ましく、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDI)とPETAを反応させた6官能のウレタン(メタ)アクリレートを例示できる。単官能(メタ)アクリレートだけを配合すると、硬化物の分子量が大きくならず破断伸度や耐薬品性が低下する傾向かある。
【0025】
前記(E)の配合量は固形分全量に対し1~20重量%が好ましく、5~18重量%が更に好ましい。3重量%以上とすることで耐爪傷性や鉛筆硬度等の向上が期待でき、20重量%以下とすることで十分な破断伸度を確保できる。
【0026】
本発明の組成物には、性能を損なわない範囲で必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、密着促進剤、酸化防止剤、ブルーイング剤、顔料、消泡剤、増粘剤、沈澱防止剤、帯電防止剤、防曇剤、抗菌剤、ワックス、つや消し剤、親水剤、撥水剤等を添加してもよい。但し、酸化シリカやアルミナ等の無機フィラーについては、耐布摩耗性を低下させる場合があるため配合しないことが好ましい。
【0027】
プラスチック基材に塗工する際には、塗工特性を向上させるため。トルエン、イソブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン(以下MEKと表記)、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGMと表記)などの溶剤で希釈してもよい。希釈する場合の固形分としては20~50%が例示されるが、特に指定は無く、塗工しやすい粘度となるように適宜設定可能である。
【0028】
光硬化性樹脂組成物が塗布されるプラスチック基材としては、ポリエステルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリカーボネート(以下PCと表記)フィルム、ポリスルフォンフィルム、ナイロンフィルム、シクロオレフィンフィルム、アクリル(以下PMMAと表記)フィルム、ポリイミドフィルム、ABSフィルム、ポリオレフィンフィルム、PVCフィルム、PVAフィルム等を挙げることができる。なかでも耐候性、加工性、寸法安定性などの点から二軸延伸処理されたポリエステルフィルムが好ましく用いられる。更に自動車内装加飾用ではPMMAフィルムやPCフィルムが好ましく用いられ、またそれらの積層フィルムでも良い。フィルムの厚みは概ね25μm~500μmであればよい。
【0029】
前記プラスチック基材は、光硬化性樹脂組成物との密着性を向上させる目的で、プライマー処理やサンドブラスト法、溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン・紫外線照射処理などの表面の酸化処理などの表面処理を施すことができる。また逆に転写用途で用いるため剥離性を向上させる目的で、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等の剥離剤によるプライマー処理を行っても良い。
【0030】
前記組成物を塗布する方法は、特に制限はなく、公知のスプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法により形成できる。塗工する膜厚は乾燥時で1μm~10μmが例示できるが、これに限定されるものではない。
【0031】
前記組成物を硬化させる際に用いる紫外線照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ、無電極紫外線ランプなどがあり、また照射する雰囲気は空気中でもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中でもよい。また紫外線照射時にバックロールの加温や、IRヒーターなどにより塗膜を加熱することで、より硬化性を上げることができる。照射条件としては照射強度500mW/cm2~3000mW/cm2、露光量50~400mJ/cm2が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0032】
前記組成物をプラスチック基材に塗工し硬化させたハードコートフィルムは、130℃雰囲気下での破断伸度が100%以上であることが好ましく、150%以上が更に好ましい。破断伸度が100%未満では、深絞りのある用途で成型時にひび割れが発生する場合がある。
【0033】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げて詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、室温は25℃相対湿度65%の条件下で測定を行った。
【0034】
合成例Aの調製
エチレングリコール(以下EG)200重量部とIPDI(住化バイエルウレタン株式会社製 商品名デスモジュールI NCO基37.5%)835重量部とを、触媒と共にMEK溶剤中(固形分50%)に加え30℃で30分攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(日本化薬株式会社製 商品名PET30 固形分100%)230重量部を添加し、10℃で30分攪拌・反応させた後、60℃で30分攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw.6,000の6官能のオリゴマーAを得た。
【0035】
合成例Bの調製
エチレングリコール(以下EG)200重量部とIPDI(住化バイエルウレタン株式会社製 商品名デスモジュールI NCO基37.5%)798重量部とを、触媒と共にMEK溶剤中(固形分40%)に加え30℃で30分攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(日本化薬株式会社製 商品名PET30 固形分100%)150重量部を添加し、10℃で30分攪拌・反応させた後、60℃で30分攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw.8,000の6官能のオリゴマーBを得た。
【0036】
合成例Cの調製
エチレングリコール(以下EG)200重量部とIPDI(住化バイエルウレタン株式会社製 商品名デスモジュールI NCO基37.5%)780重量部とを、触媒と共にMEK溶剤中(固形分60%)に加え30℃で30分攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(日本化薬株式会社製 商品名PET30 固形分100%)120重量部を添加し、10℃で30分攪拌・反応させた後、60℃で30分攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKで固形分を50%に調整して、Mw.10,000の6官能のオリゴマーCを得た。
【0037】
上記製法に準じて、以下の骨格を有するウレタンアクリレート(以下ウレアク)1~3を得た。
ウレアク1:PETA-IPDI-(EG-IPDI)n-PETA骨格、
6官能、固形分50%、Mw.4000(合成例A~Cと同骨格のMw違い)
ウレアク2:PETA-IPDI-ポリエチレングリコール-IPDI-PETA骨格、
6官能、固形分50%、Mw.5500
ウレアク3:PETA-IPDI-ポリカーボネートジオール-IPDI-PETA骨格、
6官能、固形分50%、Mw.22000
ウレアク4:PETA-IPDI-シクロヘキサンジオール-IPDI-PETA骨格、 6官能、固形分50%、Mw.7000
ウレアク5:PETA-HDI-PETA骨格、6官能、固形分100%
【0038】
実施例1~13
前記(A)として上記で調整した合成例A~Cを、(B)としてBYK-UV3500(商品名:BYK社製)を、(C)としてスラニモD100(商品名:大阪ガスケミカル社製、4級アンモニウム塩系)及びアモルデンV-100JM(商品名:大和化学工業社製、4級アンモニウム塩系)及びマルカサイドV-1(商品名:大阪化成社製、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド)を、(D)としてOmnirad2959及び127(商品名:IGM Resins社製)を、(E)としてDPHA及びウレアク5を、表1記載の配合で均一に溶解・分散するまで撹拌し、更に固形分が30%となるようにPGMを加えて希釈撹拌し、実施例1~13の光硬化性樹脂組成物を得た。なお配合表の単位は重量部とする。
【0039】
比較例1~9
実施例で用いた材料の他、オリゴマーとして上記ウレアク1~4を、抗ウイルス剤として一価の銅化合物を表2記載の配合で均一に溶解・分散するまで撹拌し、更に固形分が30%となるようにPGMを加えて希釈撹拌し、比較例1~9の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0040】
【0041】
【0042】
評価方法は以下の通りとした。
【0043】
ハードコートフィルムの作成
実施例及び比較例で作成した光硬化性樹脂組成物を、PMMAフィルム505NAH(商品名:カネカ社製、厚み75μm)に乾燥膜厚で3μmとなるように光硬化性樹脂を塗布して乾燥後、高圧水銀ランプ200mJにて硬化させハードコートフィルムとした。
【0044】
全光線透過率、ヘイズ:JIS K7361-1に準拠し、東洋精機製作所製のHaze-GARD2を用いて測定し、全光線透過率は90%以上を○、90%未満を×、ヘイズは1.5%以下を○、1.5%超を×とした。
【0045】
密着性:JIS K 5600-5-6のクロスカット法に準拠し、塗工面に1mm間隔で10×10にマス目を作成し、セロハンテープCT-24(商品名:ニチバン社製)を貼り、上方に引っ張り剥離状況を確認した。剥離せず:100/100、剥離あり:0/100~99/100
【0046】
耐布摩耗性:スガ試験機製の摩擦試験機FR-IBSを用い、ハードコートフィルムの樹脂組成物塗布面を、試験用白綿布(カナキン3号)を取り付けた摩擦子(直径16mm)で9Nの荷重をかけて1往復/1秒の速さで100mm往復させ、1000往復後の傷の有無を確認し、傷無しを○、傷有りを×とした。
【0047】
破断伸度:ハードコートフィルムを横25mm×縦50mmにカットし、Minebia製TechnoGraph TGI-1KNを用い、雰囲気温度130℃、引っ張り速度300mm/分で引っ張り試験を行い、目視で割れを確認し、伸び率が200%以上を◎、150%以上を○、150%未満を×とした。
計算式:50mmを基準として何mm伸びたかで計算。
伸びた長さ(mm)/50mm×100=伸び率%
【0048】
耐爪傷性:ガラス上でハードコートフィルムの樹脂組成物塗布面を任意の力にて爪で引っ掻き、傷の発生有無を確認し、傷も跡も無いものを◎、傷無しを○、傷有りを×とした。
【0049】
動摩擦係数:協和界面科学製の自動摩擦摩耗解析装置TribosterTS501を用い、点接触子(鋼球)にて100gの荷重をかけ、50mm幅を往復させ動摩擦係数を測定し、0.070以下を○とした。
【0050】
静摩擦係数:動摩擦係数と同様の方法を用いて静摩擦係数を測定し、0.200以下を○とした。
【0051】
耐薬品性:硬化皮膜にハンドクリーム、ニュートロジーナSPF45(商品名:ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)を塗布し、80℃24時間放置させ、その後室温に戻し、拭き取ったのち表面を観察した。塗布の跡なしを○、跡ありを×とした。
【0052】
抗ウイルス活性値:ISO 21702:2019のプラーク測定法によって測定した。試験ウイルスとしてはA型インフルエンザウイルスとネコカリシウイルスを用い24時間後のウイルス感染価を測定した。ブランクフィルムとのウイルス感染価の差を抗ウイルス活性値とし2.0超を○、2.0以下を×とした。
【0053】
【0054】
【0055】
実施例は全光線透過率、ヘイズ、密着性、耐布摩耗性、破断伸度、耐爪傷性、動摩擦係数、静摩擦係数、耐薬品性、抗ウイルス活性値、全ての面で問題はなく良好であった。
【0056】
一方(B)を全く配合していない比較例1は摩擦係数が高くなり、耐布摩耗性及び耐爪傷性も悪く、(C)を含まない比較例2は抗ウイルス活性値が低く、(B)が下限以下の比較例3は、摩擦係数は良好であったものの耐布摩耗性が悪く、(B)が上限を超えた比較例4はヘイズが高かった。また(C)以外の抗ウイルス剤を配合した比較例5は抗ウイルス活性値が低く、(A)と同骨格で分子量が5000に満たない比較例6は破断伸度が低く、(A)の代わりにポリエチレン骨格オリゴマーを配合した比較例7、ポリオール部分が異なるオリゴマーを配合した比較例8及び9は耐薬品性が悪くなり、いずれも本願発明に適さないものであった。