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特開2022-159610永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータ及びその製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159610
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータ及びその製法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/17 20060101AFI20221011BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
H02K1/17
H02K15/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063893
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】591013997
【氏名又は名称】株式会社 五十嵐電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】山内 義典
(72)【発明者】
【氏名】クエン シャオ
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA02
5H622AA03
5H622CA01
5H622CA05
5H622CA10
5H622CA13
5H622DD02
5H622PP05
5H622PP11
5H622QB01
(57)【要約】
【課題】ステータの全体を1個の永久磁石で構成し、高出力が得られ、耐久性に優れ、かつ、コギングトルクの特性を向上させることができる、小型の永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータを提供する。
【解決手段】小型の永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータにおいて、1個の環状の永久磁石は、軸方向に伸びる複数のN極領域、S極領域が交互に円弧状に形成されており、モータケースと環状の永久磁石は、締りばめの関係にあり、各N極領域、S極領域の内周面には、各々複数個の、軸方向に伸びる凹溝が設けられてている。各凹溝は、永久磁石の内周面でかつ、永久磁石の整流子から遠い側の第2の端部から、永久磁石の記整流子に近い側の第1の端部から軸方向長さLだけ内側の位置まで設けられている。永久磁石の第1の端部は、凹溝の無い環状の溝無端部(1144)となっている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、前記ステータ内で回転するロータとを有し、
前記ステータを構成する1個の環状の永久磁石が、一端が開口した金属製のカップ状のモータケース内に固定され、
前記ロータを構成する積層鉄心及び電機子巻線が回転軸と一体に形成され、前記回転軸に整流子が固定され、
前記モータケースの開口部に、前記整流子に摺接するカーボンブラシを保持したエンドキャップが固定された、永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータにおいて、
前記環状の永久磁石は、軸方向に伸びる複数のN極領域、S極領域が交互に円弧状に形成されており、
前記モータケースと前記環状の永久磁石は、締りばめの関係にあり、
前記各N極領域、S極領域の内周面には、各々複数個の、軸方向に伸びる凹溝が設けられており、
前記凹溝は、前記永久磁石の内周面でかつ、前記永久磁石の前記整流子から遠い側の第2の端部から、前記永久磁石の前記整流子に近い側の第1の端部から軸方向長さLだけ内側の位置まで設けられ、
前記永久磁石の前記第1の端部は、前記凹溝の無い環状の溝無端部となっていることを特徴とする永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータ。
【請求項2】
請求項1に記載の永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータにおいて、
前記永久磁石の半径方向の厚さをHとしたとき、
前記溝無端部の軸方向長さLは、2H≧L≧Hの範囲にある
ことを特徴とする永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータ。
【請求項3】
請求項1に記載の前記永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータの製法であって、
前記永久磁石の前記第1の端部を、加圧装置により押圧して、前記環状の永久磁石を前記モータケースの前記開口部から前記モータケース内に圧入し、前記永久磁石を前記モータケースに固定し、
前記永久磁石を着磁して、前記複数のN極領域、S極領域を形成することを特徴とする永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータの製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータ及びその製法に係り、特に、車載用の停止保持力を要求されるアクチュエータに適した、ブラシ付き直流モータ及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、永久磁石式回転電機であって、その回転子鉄心に、この回転電機の極数に相当する磁極部を構成するU字形状永久磁石が埋設され、各磁極部にスリット(凹溝)が形成された発明が開示されている。
【0003】
特許文献2には、IPMモータおいて、回転子磁極若しくは固定子磁極の各曲面部の最適な場所に、凸面部と凹溝を所定間隔で交互に形成して対向する磁極との間で磁界の変化を大きくし、コギングトルクを増大させたブラシレスモータの発明が開示されている。凹溝に関しては、回転子磁極若しくは固定子極歯に設けられる隣り合う凹溝どうしの中心がなす中心角をζ、iを整数、Tをコギング周期、pを回転子磁極対数とすると、ζ=2i*π/T*pで算出される中心角ζの間隔で、各曲面部に対して凹溝が凸面部を介して交互に設けられている。
【0004】
特許文献3には、ロータの磁石が、コギングトルクを増加させるための溝部を周方向において複数有するモータの発明が開示されている。これら複数の溝部は、隣り合う磁極部の間に設けられた境界空隙部としての第3の溝部と、磁極部内においてロータの極数とステータのスロット数とから求められるコギングトルクの周期に応じた位置に設けられた極内空隙部としての第1及び第2溝部とを含んで構成されている。
特許文献4には、電動モータで自動車のバックドアなどの開閉を行う、開閉体開閉装置の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-78255号公報
【特許文献2】特開2018-143079号公報
【特許文献3】特開2019-41530号公報
【特許文献4】特開2021-38532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発明に記載の発明では、回転子鉄心に、磁極部を構成する複数の永久磁石片が埋設されており、回転子コアの全体を、1個の永久磁石で構成するものではない。
【0007】
特許文献2に記載の発明では、回転子コア(若しくは固定子コア)の複数の磁石挿入孔に各々磁性体が挿入され、その後これらの挿入された磁性体が着磁されて、永久磁石が形成されている。換言すると、凹溝付きの回転子コアとするために、各永久磁石を各磁石挿入孔に挿入しており、回転子コア(若しくは固定子コア)の全体を、1個の永久磁石で構成するものではない。
【0008】
特許文献3に記載の発明も、各々磁極部が埋設された複数の永久磁石片や、ロータの表面に磁石を張り合わせた表面磁石型(SPM型)磁石で構成されており、回転子コアの全体を、1個の永久磁石で構成するものではない。
特許文献4には、駆動モータの回転子コア若しくは固定子コアについての具体的な記載は無い。
【0009】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、ステータの全体を1個の永久磁石で構成し、高出力が得られ、かつ、コギングトルクの特性を向上させることができる、小型の永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータ及びその製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、
ステータと、前記ステータ内で回転するロータとを有し、
前記ステータを構成する1個の環状の永久磁石が、一端が開口した金属製のカップ状のモータケース内に固定され、
前記ロータを構成する積層鉄心及び電機子巻線が回転軸と一体に形成され、前記回転軸に整流子が固定され、
前記モータケースの開口部に、前記整流子に摺接するカーボンブラシを保持したエンドキャップが固定された、永久磁石界磁型のブラシ付き直流モータにおいて、
前記環状の永久磁石は、軸方向に伸びる複数のN極領域、S極領域が交互に円弧状に形成されており、
前記モータケースと前記環状の永久磁石は、締りばめの関係にあり、
前記各N極領域、S極領域の内周面には、各々複数個の、軸方向に伸びる凹溝が設けられており、
前記凹溝は、前記永久磁石の内周面でかつ、前記永久磁石の前記整流子から遠い側の第2の端部から、前記永久磁石の前記整流子に近い側の第1の端部から軸方向長さLだけ内側の位置まで設けられ、
前記永久磁石の前記第1の端部は、前記凹溝の無い環状の溝無端部となっていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ステータの全体が、凹溝付きの環状の1個の永久磁石で構成され、かつ、ステータの第1の端部が溝無端部となっている。これにより、この永久磁石をモータケース内に割れることなく圧入し、モータケースと環状の永久磁石を締りばめの関係で固定することができる。ステータの全体が1個の永久磁石で構成されているため、高出力が得られ、耐久性に優れ、かつ、コギングトルクの特性を向上させることのできる、小型のブラシ付き直流モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施例になる、小型のブラシ付き直流モータの縦断面図である。
図2図1のロータ部分及びステータ部分の横断面図である。
図3】第1の実施例における、N極領域、S極領域の構成を示す斜視図である。
図4】第1の実施例における、ステータの構成を示す縦断面図である。
図5】第1の実施例における、ステータの製法の説明図である。
図6】第1の実施例における、ブラシ付き直流モータの製法の説明図である。
図7】第1の実施例になるブラシ付き直流モータと比較例のモータの、コギングトルクの比較図である。
図8】第1の実施例になるブラシ付き直流モータを採用した、自動車のバックドアの開閉装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る小型のブラシ付き直流モータの実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態では、一例として4極6スロットのブラシ付き直流モータを用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施例になる、ブラシ付き直流モータの縦断面図である。
ブラシ付き直流モータ100は、ステータと、このステータ内で回転するロータとを有する。モータケース110は、その一端が開口したカップ状をした鉄等の金属製のケースである。モータケース110内には、直流モータのステータを構成する永久磁石114が固定されている。モータケース110のカップ状の底部に設けられたボス部1102内に、軸受118が固定され、モータケース110の開口部に固定された絶縁性樹脂製のエンドキャップ130のボス部131内に、軸受119が固定されている。
一方、直流モータのロータを構成する積層鉄心122及び電機子巻線124が、回転軸120と一体に形成され、この回転軸120は軸受118,119により回転自在に支持されている。積層鉄心122は円周方向に多極に分極され、各鉄心に夫々電機子巻線124が巻回され、各電機子巻線の端部は、回転軸120に固定された整流子132に接続されている。
エンドキャップ130には、整流子132に摺接する一対のカーボンブラシ134と、ピグテール135を介して各々カーボンブラシ134に接続された給電用のターミナルが設けられており、このターミナルは、エンドキャップ130の外側に伸びるターミナル端子136を有している。エンドキャップ130には、さらに、整流時に発生する火花放電や電気ノイズを低減するためのチョークコイル138等のノイズ対策部品が設けられている。
【0015】
図2は、図1のロータ部分及びステータ部分の横断面図である。
モータケース110は、例えば、鋼板をプレスして形成されたものが用いられる。モータケース110内に圧入され直流モータのステータを構成する永久磁石114は、軸方向すなわち回転軸120と同じ方向に伸びる複数のN極領域114a、114c、S極領域114b、114dが交互に円弧状に形成されている。
換言すると、ステータの全体が、凹溝と溝無端部とを有する1個の永久磁石114で構成されている。本実施例は、N極領域、S極領域が位相差90度(機械角)毎に4個形成された4極のモータである。永久磁石としては、他の磁石と比較して磁力が強く機械的強度も高い、希土類磁石(ネオジム磁石、サマリュウムコバルト磁石等)が適している。
【0016】
直流モータのロータのコアを構成する積層鉄心122は、電磁鋼板を積層プレスして形成されたものであり、永久磁石114に対して半径方向の外側に向かって放射状に突設された極歯が6極突設されている。積層鉄心122の各極歯には、電機子巻線124が各々巻かれている。
回転軸120には、磁性体(SUS等)よりなる金属シャフトが用いられる。
【0017】
図3は、第1の実施例における、永久磁石114の構成を示す斜視図である。また、図4は、ステータの構成を示す縦断面図である。
永久磁石114の各N極領域、S極領域114a~114dの内周面1140には、各々複数個、本実施例では3個の、軸方向に伸びる凹溝1142が設けられている。但し、凹溝1142は、永久磁石の内周面1140でかつ、永久磁石114の左端の端部(第2の端部)から、永久磁石114の右端の端部(第1の端部)よりも軸方向長さLだけ内側の位置まで、設けられている。すなわち、永久磁石114の第1の端部付近は、溝の無い環状の端部、換言すると、溝無端部1144となっている。
なお、この永久磁石114の第1の端部は、永久磁石114の整流子132に近い側の端部である。もし、整流子132が永久磁石114の左側に位置する場合には、第1の端部が左側となり、溝無端部1144が永久磁石114の左端に設けられることは言うまで無い。
【0018】
次に、凹溝1142の形状について述べる。
凹溝1142の断面形状として、凹形、U字形、半円弧形、V字形等が適している。
各溝の円周方向の幅は、永久磁石の半径方向の厚さHが基準になり、永久磁石の厚さに対し20~200%が望ましい。各溝の深さGは、永久磁石の厚さHに対し10~40%が望ましい。
溝無端部1144の軸方向長さLは、Lが長いほど永久磁石114の強度は増すが、Lが長くなるとコギングトルクが低下する。そのため、Lは、2H≧L≧Hの範囲にあるのが望ましい。
また、各溝の深さGが大きい場合は、小さい場合に比べて、軸方向長さLを長くするのが望ましい。
一例として、モータケース110の内径が28mmの小型のモータで、希土類磁石からなる永久磁石114を採用した場合、その厚さHは1.5~2.0mm、凹溝1142の深さGは0.5~1.0mm程が望ましい。
【0019】
次に、図5図6を参照しながら、本実施例における、ブラシ付き直流モータの製法について説明する。
まず、図5は第1の実施例における、ステータの製法の説明図である。
最初に、磁性材料から、焼結又はボンド(樹脂)により、溝付きの環状の永久磁石(磁性体)114が、製造される。例えば、金型を使用して、凹溝1142及び溝無端部1144を有する環状の永久磁石(磁性体)114が、一体形成される。
次に、永久磁石(磁性体)114が着磁されて、複数のN極領域114a、114c、S極領域114b、114dを有する永久磁石114となる(図5(A))。すなわち、ステータの全体が、凹溝と溝無端部とを有する1個の永久磁石として形成される。
次に、この環状の永久磁石114は、モータケース110を治具で保持した状態で、モータケース110の開口部1104の側から、リング状の加圧装置によりモータケース110の内面に圧入され、固定される(図5(B))。すなわち、加圧装置により永久磁石114に荷重を加えると、モータケース110の塑性変形や弾性変形を伴いながら、永久磁石114がモータケース110の内側へ入っていく。
図5の(C)は、永久磁石を圧入した後のステータの状態を示している。圧入後、永久磁石114は、モータケース110の弾性変形分の締付力により、保持される。
【0020】
永久磁石114は、モータの回転に伴う振動等や温度変化等に耐えて、モータケース110内に固定された状態が長期間維持される必要がある。すなわち、モータケース110と環状の永久磁石114とは、「締め代」のある「締りばめ」の関係とし、保持力を大きくするのが望ましい。そのため、モータケース110の弾性変形を利用して、永久磁石114をモータケース110内に圧入する。
なお、永久磁石をモータケース内に圧入せずに接着剤のみで固定する方法もあるが、永久磁石の保持力はかなり劣る。そのため、モータの耐久性に難点がある。
一般的に、永久磁石は機械的強度が劣り、割れ易い欠点がある。特に、本実施例の永久磁石114の各N極領域、S極領域114a~114dには複数の凹溝1142が設けられ、各凹溝1142は肉厚が薄くなっている。
圧入時には、塑性変形、弾性変形及び摩擦力が圧入に必要なエネルギーとなり、かなり大きな圧入荷重が必要になる。もし、加圧装置により永久磁石114に大きな圧入荷重を加えると、薄肉の凹溝部分に応力集中が発生し、この凹溝部分が容易に割れる可能性が有る。
しかしながら、本発明によれば、永久磁石114の第1の端部は溝の無い溝無端部1144となっている。そのため、加圧装置により溝無端部1144を大きな圧入荷重で押圧しても、荷重を直接受ける永久磁石の第1の端部に応力集中は発生せず、永久磁石114をモータケース110内に確実に圧入できる。
このようにして、永久磁石114は、モータケース110の内面側に圧入して固定される。これにより、ステータ(110,114)が完成する。
【0021】
その後、図6に示したように、ステータ内に、軸受118、ロータ(122,124)、及びエンドキャップ130を挿入し、軸受118、119で回転軸120を回転可能に支持することにより、ブラシ付き直流モータが完成する。
【0022】
図7は、第1の実施例になるブラシ付き直流モータと、比較例のモータの、コギングトルクの比較図である。
実線は第1の実施例のモータ、すなわち、4極で、凹溝の深さが0.65mm、一端に「溝無し端部」を有するモータである。破線は、比較例として、永久磁石の内周面に凹溝が無いタイプのモータである。図7から、凹溝1142を設けた場合には、設けない場合に比べてコギングトルク(保持トルク)が大幅に増大していることがわかる。
【0023】
コギングトルクは、永久磁石より発生した磁束が磁路のパーミアンス変化によって増減し、磁場エネルギーが変化することによって発生する。ロータ(122,124)とステータ(110,114)の対向位置で、凹溝1142による空隙の存在のために、磁路が薄くなるため、トルクが低下する。すなわち、凹溝1142の設けられた箇所において、ロータとステータの対向位置で磁界の変化が大きくなるため、コギングトルクが増大する。
【0024】
コギングトルク(保持トルク)を増大すると、ロータ磁極とステータ磁極との磁界の変化が大きくなるため、逆起電力やインダクタンス変化が大きくなるため電流リップルも大きくなる。そのため、検出ホールIC等を用いずにブラシ付き直流モータの回転数や回転方向を検出することも可能になる。これによって、ブラシ付き直流モータの電流リップルから回転数を検知する際の制御性も向上する。
【0025】
第1の実施例によれば、ステータの全体が、凹溝付きの環状の1個の永久磁石で構成され、かつ、ステータの第1の端部が溝無端部となっている。これにより、この永久磁石を、割れることなくモータケース内に圧入して固定することができる。ステータの全体が1個の永久磁石で構成されているため、高出力が得られ、耐久性に優れ、かつ、コギングトルクの特性を向上させることのできる、小型のブラシ付き直流モータを提供することができる。
【0026】
第1の実施例になる小型のブラシ付き直流モータは、コギングトルク(保持トルク)によりロータを所定位置に保持する停止保持機能があるため、自動車のバックドアやスライドドアを駆動する車載用の駆動源として用いるのに適している。
図8は、第1の実施例になるブラシ付き直流モータを採用した、自動車のバックドアの開閉装置を示す斜視図である。
自動車300のバックドア310には、回動軸を中心にしてバックドア310を開閉するための左右一対の駆動装置320が設けられている。これらの駆動装置320は、各々、上端がバックドア310に回動可能に連結された第一の駆動部と、上端が第一の駆動部に、下端が自動車300の車体1に回動可能に連結された第二の駆動部とで構成されている。この駆動装置320の第一の駆動部には、第1の実施例になるブラシ付き直流モータと、その出力軸に直結された減速装置とが設けられ、第二の駆動部には、減速装置を介して駆動されるスピンドルと、このスピンドルに螺合したスピンドルナットと、このスピンドルナットに固定された筒状部等が設けられている。また、ユーザがブラシ付き直流モータを制御するためのコントローラやセンサも設けられている。
駆動装置320のブラシ付き直流モータが正回転すると、スピンドルも正回転し、第二の駆動部における筒状部の突出量が増加し、バックドア310が開方向に駆動される。一方、駆動装置320のブラシ付き直流モータが逆回転すると、スピンドルが逆回転し、第二の駆動部における筒状部の突出量が減少して、バックドア310が閉方向に駆動される。
第1の実施例になるブラシ付き直流モータは、コギングトルク(保持トルク)が大きいという特性がある。そのため、バックドア310を、その全開位置又は全閉位置のみならず、ユーザが希望する中間の所定の開度に保持するのに適している。
【0027】
以上、4極のモータの実施例について述べたが、6極~8極のモータにも、同様に本発明を適用することで、高出力が得られ、耐久性に優れ、かつ、コギングトルクの特性を向上させることのできる、小型のブラシ付き直流モータが得られる。
【0028】
また、本発明の溝の形状の他の実施例として、マグネットの両側、すなわち、第1の端部及び第2の端部に、「溝無し端部」を設けても良い。これにより、永久磁石114をモータケース110内に圧入する際の、大きな圧入荷重に耐え、永久磁石の割れを防止する効果がより高まる。ただ、磁石の成形用の金型が複雑になり、高価になる欠点はある。そのため、若干高価となっても、永久磁石の厚さに対する溝の深さや幅を大きくしてコギングトルク(保持トルク)をより大きくする必要のある用途に、このようなモータを採用するのが望ましい。
【符号の説明】
【0029】
100 直流モータ
110 モータケース
114 永久磁石
114a、114c N極領域、
114b、114d S極領域
1140 永久磁石の内周面
1142 凹溝
1144 溝無端部
118 軸受
119 軸受
120 回転軸
122 積層鉄心
124 電機子巻線
130 エンドキャップ
132 整流子
134 カーボンブラシ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8