(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159629
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】密閉式冷却塔および蒸発式凝縮器
(51)【国際特許分類】
F28C 1/14 20060101AFI20221011BHJP
F28F 25/08 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
F28C1/14
F28F25/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063932
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【弁理士】
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大騎
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
(57)【要約】
【課題】より高効率で稼働する密閉式冷却塔および蒸発式凝縮器を提供する。
【解決手段】密閉式冷却塔は、被冷却媒体の流路を形成する冷却用コイルと、冷却用コイルの鉛直上方側に設置された充填部であって、流体の蒸発潜熱を用いることにより冷却用コイル内を流れる被冷却媒体を冷却する充填部と、を備える。充填部は、鉛直方向に対して90度未満の角度で傾斜した板状の傾斜板を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉式冷却塔であって、
被冷却媒体の流路を形成する冷却用コイルと、
前記冷却用コイルの鉛直上方側に設置された充填部であって、流体の蒸発潜熱を用いることにより前記冷却用コイル内を流れる前記被冷却媒体を冷却する充填部と、
を備え、
前記充填部は、鉛直方向に対して90度未満の角度で傾斜した板状の傾斜板を有する、密閉式冷却塔。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉式冷却塔であって、
前記充填部は、鉛直方向に沿って配置された複数の前記傾斜板を有し、
前記複数の傾斜板のうち、鉛直方向に隣り合う2枚の前記傾斜板は、それぞれ逆方向に傾斜して配置されており、
前記複数の傾斜板のうち鉛直下方側に位置する下端部は、それぞれ、流体が流れ落ちるための空間を形成している、密閉式冷却塔。
【請求項3】
請求項2に記載の密閉式冷却塔であって、
前記充填部は、さらに、
鉛直方向に延びる第1側壁と、
鉛直方向に延び、前記第1側壁と対向して配置された第2側壁と、を有し、
前記複数の傾斜板は、
鉛直上方側に位置する上端部が前記第1側壁に支持されると共に、前記下端部が前記第2側壁と離間して向かい合う第1傾斜板と、
鉛直上方側に位置する上端部が前記第2側壁に支持されると共に、前記下端部が前記第1側壁と離間して向かい合う第2傾斜板と、を含む、密閉式冷却塔。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の密閉式冷却塔であって、
前記冷却用コイルと前記充填部とは、鉛直方向に沿って交互に複数設置され、かつ、前記鉛直方向に直交する水平方向に沿って並列に複数設置される、密閉式冷却塔。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の密閉式冷却塔であって、さらに、
送風機を備え、
前記充填部は、前記傾斜板の表面が前記送風機により発生する風の通風方向に平行になるように配置されている、密閉式冷却塔。
【請求項6】
蒸発式凝縮器であって、
被冷却媒体の流路を形成する冷却用コイルと、
前記冷却用コイルの鉛直上方側に設置された充填部であって、流体の蒸発潜熱を用いることにより前記冷却用コイル内を流れる前記被冷却媒体を冷却する充填部と、
を備え、
前記充填部は、鉛直方向に対して90度未満の角度で傾斜した板状の傾斜板を有する、蒸発式凝縮器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉式冷却塔および蒸発式凝縮器に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却用コイル内を流れる被冷却媒体を、流体しての冷却水と被冷却媒体との温度差を利用して冷却する密閉式冷却塔が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された密閉式冷却塔は、上下方向に設けられた複数の充填材と複数の冷却コイルとを備えている。充填材内には、気液接触面積を増やすための複数の単位板が、通風方向に平行かつ垂下した状態で並べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された密閉式冷却塔では、気液接触面積を増やすためには充填材内に並べる単位板の数を増やさなければならない。単位板の数が増えると、充填材の圧力損失が大きくなるため、送風機動力を増加させる必要がある。一方で、充填材の圧力損失を低減させるためには、充填材内の複数の単位板の間隔を大きくすることにより実現できるが、単位板の間隔を大きくすると、充填材を大きくする必要がある。特に、充填材内で冷却する時間を長くするためには、充填材の高さを高くしなければならない。充填材の大きさおよび高さを大きくすると、充填材に散布する冷却水が増加し、かつ、冷却水をくみ上げる高さが大きくなるため、ポンプ動力が増加する。そのため、密閉式冷却塔の高効率の稼働には課題がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、より高効率で稼働する密閉式冷却塔および蒸発式凝縮器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、密閉式冷却塔が提供される。この密閉式冷却塔は、被冷却媒体の流路を形成する冷却用コイルと、前記冷却用コイルの鉛直上方側に設置された充填部であって、流体の蒸発潜熱を用いることにより前記冷却用コイル内を流れる前記被冷却媒体を冷却する充填部と、を備え、前記充填部は、鉛直方向に対して90度未満の角度で傾斜した板状の傾斜板を有する。
【0008】
この構成によれば、充填部に散水された流体が傾斜板の表面を流れる際の滞留時間を、傾斜していない傾斜板よりも長くすることができる。滞留時間が長いことにより、流体と送風機による送風との接触時間が増大する。この結果、充填部に流す流体の流量に対する蒸発量が多くなり、流体の温度がより下がり、より少ない流体の流量での密閉式冷却塔の冷却効果が向上する。これにより、本構成の密閉式冷却塔は、より高効率で稼働できる。
【0009】
(2)上記態様の密閉式冷却塔において、前記充填部は、鉛直方向に沿って配置された複数の前記傾斜板を有し、前記複数の傾斜板のうち、鉛直方向に隣り合う2枚の前記傾斜板は、それぞれ逆方向に傾斜して配置されており、前記複数の傾斜板のうち鉛直下方側に位置する下端部は、それぞれ、流体が流れ落ちるための空間を形成していてもよい。
この構成によれば、充填部の上部から散水される流体は、複数の傾斜板のうちの最上部に配置された傾斜板の表面に付着する。傾斜板に付着した流体は、重力により、複数の傾斜板の表面を移動する。流体は、傾斜板の下端部に到達すると、下端部に形成された空間を通って、傾斜板の鉛直下方に位置する傾斜板の表面に付着する。その後、流体は、傾斜板の表面に沿って移動する間に、空気にさらされながら鉛直下方へと移動する。すなわち、本構成の密閉式冷却塔では、流体は、互いに逆方向に傾斜した複数の傾斜板の表面を移動することにより、より長い時間空気にさらされて蒸発できる。この結果、より少ない流体の流量で冷却効率をさらに向上させることができる。
【0010】
(3)上記態様の密閉式冷却塔において、前記充填部は、さらに、鉛直方向に延びる第1側壁と、鉛直方向に延び、前記第1側壁と対向して配置された第2側壁と、を有し、前記複数の傾斜板は、鉛直上方側に位置する上端部が前記第1側壁に支持されると共に、前記下端部が前記第2側壁と離間して向かい合う第1傾斜板と、鉛直上方側に位置する上端部が前記第2側壁に支持されると共に、前記下端部が前記第1側壁と離間して向かい合う第2傾斜板と、を含んでいてもよい。
この構成によれば、充填部内に供給された流体が複数の傾斜板の基端部から下端部までの傾斜板の表面の距離を移動するため、流体が空気に接触する時間をより長くすることができる。この結果、より少ない流体の流量で本構成の密閉式冷却塔の冷却効率をさらに向上させることができる。
【0011】
(4)上記形態の密閉式冷却塔において、前記冷却用コイルと前記充填部とは、鉛直方向に沿って交互に複数設置され、かつ、前記鉛直方向に直交する水平方向に沿って並列に複数設置されていてもよい。
この構成によれば、充填部と冷却用コイルとを鉛直方向に沿って交互に配置することにより、熱交換によって冷却用コイルで上昇した流体の温度を冷却用コイルの鉛直下方側に位置する充填部で再度冷却できる。また、複数の充填部と冷却用コイルとが水平方向に沿って複数設置されることにより、鉛直上方側から散水される流体の全てを、水平方向に配置された複数の充填部のうちのいずれかに供給できる。この結果、本構成の密閉式冷却塔では、充填部で流体の温度を湿球温度に適切に戻してやることで、少ない流体の流量で高い冷却効果を得ることができる。
【0012】
(5)上記形態の密閉式冷却塔において、さらに、送風機を備え、前記充填部は、前記傾斜板の表面が前記送風機により発生する風の通風方向に平行になるように配置されていてもよい。
すなわち、本構成の傾斜板は、通風方向に平行になるように配置されているため、通風方向に対しての圧力損失を低減できる。この結果、送風機の稼働電力を削減し、本構成の密閉式冷却塔をより高効率で稼働させることができる。
【0013】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、密閉式冷却塔、蒸発式凝縮器(エバコン)、およびこれらの装置を備えるシステム等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態における密閉式冷却塔の概略ブロック図である。
【
図5】実施例と比較例とにおける冷却評価の説明図である。
【
図6】実施例と比較例とにおける冷却評価の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
1.密閉式冷却塔の構成:
図1は、本発明の実施形態における密閉式冷却塔100の概略ブロック図である。本実施形態の密閉式冷却塔100では、後述する充填部1内に配置された複数の傾斜板(
図2)が傾斜した平板形状を有するため、板状部材の傾斜面に沿って流体としての冷却水が流れる。これにより、冷却水が送風機3による送風と接する接触時間が長くなることにより、単位当たりの冷却水に対する蒸発量が多くなり、冷却水の温度を低下させることができる。
【0016】
図1に示されるように、密閉式冷却塔100は、被冷却流体(被冷却媒体)が流れるコイル(冷却用コイル)2と、コイル2の鉛直上方側に設置される充填部1と、充填部1を通過した冷却水をコイル2の全体に散水する分散板6と、充填部1へと送風する送風機3と、コイル2を冷却した冷却水が流入する受水槽4と、受水槽4から最上部にある充填部1へと冷却水をくみ上げるポンプ5と、冷却される被冷却流体が流入してくる入口7と、入口7から各コイル2へと被冷却流体を分岐させる入口分岐管8と、各コイル2と通過して冷却された被冷却流体を合流させる出口分岐管9と、出口分岐管9を通過した被冷却流体が流出する出口10と、を備えている。なお、本実施形態の充填部1と、コイル2と、分散板6とは、鉛直方向に沿って複数積み上げられているが、
図1では、図示を省略して1段の簡略図が示されている。
【0017】
図2は、充填部1とコイル2との概略斜視図である。
図2に示されるように、本実施形態の充填部1とコイル2とは、鉛直方向(Z軸に平行な方向)に沿って交互に2段に配置されている。また、充填部1とコイル2とは、鉛直方向に直交する水平方向(XY平面に平行な方向)に沿って並列に複数設置されている。なお、
図2では、図示されていないが、充填部1の鉛直下方側とコイル2の鉛直上方側との間には、分散板6が配置されている。
図2に示される座標系CSは、鉛直方向をZ軸に平行な方向とし、送風機3から充填部1へと送風される通風方向DRをY軸とした場合の直交座標系である。座標系CSは、
図3、4に示される座標系CSに対応している。
【0018】
図2に示されるように、充填部1は、X軸の正方向側に位置する第1側壁12aと、第1側壁12aに対向してX軸の負方向側に位置する側壁12bと、XY平面に平行な面がY軸回りに所定の角度回転した複数の傾斜板(板状部材)11a,11bと、を備えている。2つの側壁12a,12bのそれぞれは、YZ平面に平行な面、換言すると鉛直方向に伸びる面を有する板状の部材である。後述する
図3に示されるように、複数の傾斜板11a,11bは、Y軸を時計回りにα1(>0)回転した複数の第1傾斜板11aと、Y軸を反時計回りにα2(>0)回転した第2傾斜板11bと、で構成されている。本実施形態の複数の傾斜板11a,11bの表面は、送風機3により発生する風の通風方向DRに平行になるように配置されている。第1傾斜板11aと第2傾斜板11bとは、鉛直方向に沿って交互に配置されている。換言すると、複数の傾斜板11a,11bは、鉛直方向に対して90°未満で傾斜している。鉛直方向に沿って隣り合う2つの傾斜板11a,11bは、それぞれ逆方向に傾斜して配置されている。
【0019】
図3は、第1傾斜板11aと第2傾斜板11bとの説明図である。
図3には、充填部1の一部をY軸負方向側(通風方向DRの基端側)から見た矢視の概略図が示されている。
図3では、説明のために、
図2に示される側壁12a,12bおよび複数の傾斜板11a,11bの寸法関係が変更されて図示されている。
【0020】
図3に示されるように、本実施形態の第1傾斜板11aにおいて、鉛直上方側に位置する基端部(上端部)11aBは第1側壁12aに支持されている。一方で、第1傾斜板11aにおいて、鉛直下方側に位置する下端部11aEは、第2側壁12bと離間して向かい合っている。換言すると、第1傾斜板11aの下端部11aEと第2側壁12bとは、第1空間SP1を形成している。
【0021】
第1傾斜板11aと同じように、第2傾斜板11bにおいて、鉛直上方側に位置する基端部(上端部)11bBは第2側壁12bに支持されている。一方で、第2傾斜板11bにおいて、鉛直下方側に位置する下端部11bEは、第1側壁12aと離間して向かい合っている。換言すると、第2傾斜板11bの下端部11bEと第1側壁12aとは、第2空間SP2を形成している。
【0022】
複数の傾斜板11a,11bのそれぞれが第1空間SP1または第2空間SP2を形成することにより、ポンプ5からくみ上げられて充填部1の上部から散水される冷却水は、複数の傾斜板11a,11bのうちの最上部に配置された第1傾斜板11aに付着する。第1傾斜板11aに付着した冷却水は、重力により、
図3に示される傾斜方向DRcに沿って、複数の傾斜板11a,11bの表面を移動する。冷却水は、傾斜方向DRcに沿って移動する間に、送風機3により発生した送風にさらされて、充填部1の下側に位置する分散板6に到達する。すなわち、本実施形態の充填部1は、冷却水の蒸発潜熱を用いることにより、コイル2内を流れる被冷却流体を冷却している。
【0023】
2.密閉式冷却塔の効果:
以降では、本実施形態の1つの充填部1による冷却水の冷却評価について説明する。なお、下記の冷却水評価では、冷却水は蒸発のみで冷却するものと仮定し、複数の傾斜板11a,11bに付着する冷却水厚さtは、全ての場所で同じ厚さとして評価した。冷却水の落下速度vfは、第1傾斜板11aのX軸に対する傾きα1に応じた重力加速度に応じて決定されると仮定した。なお、本実施形態では、第2傾斜板11bの傾きα2は、第1傾斜板11aの傾きα1と同じと仮定して、以降の計算を行った。
【0024】
冷却水の落下速度v
fは、下記式(1)のように表される。なお、V
fは、空中を落下する冷却水の落下速度である。
【数1】
充填部1による冷却水の蒸発量Vaは、下記式(2)のように表される。なお、式(2)におけるシャーウッド数shと、水蒸気の拡散係数Dとは、下記式(3)~(6)を用いることにより算出される。
【0025】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
L:代表長さ(奥行き長さ)
C
1:飽和水蒸気量
C
2:空気中の水蒸気量
Re:空気側レイノルズ数
Sc:シュミット数
μ
air:空気粘性係数、1.86×10
-5(Pa・s)
ρ
air:空気密度、1.164(kg/m
3)
v
air:送風機による空気流速、0.2(m/s)
T
air:空気温度
P
0:標準気圧、1013.25(hPa)
P:空気圧力、1001.91(hPa)
【0026】
上記式(2)における蒸発量Vaを求めるための飽和水蒸気量C1は、下記式(7)により算出される。また、式(7)における冷却水の平均温度Taveは、冷却水の入口温度Tinと出口温度Toutとの平均として、下記式(8)により算出される。
【0027】
【0028】
冷却水の温度差ΔT(=T
in-T
out)は、下記式(9)により算出される。
【数9】
【0029】
上記式(2)における空気中の水蒸気量C
2は、下記式(10)により算出される。空気中の水蒸気量C
2は、空気中の水蒸気量C
2は、入口側の空気に含まれる水蒸気量θ
inと、出口側の空気に含まれる水蒸気量θ
outとの平均とした。出口側の水蒸気量θ
outは、下記式(11)により算出される。
【数10】
【数11】
【0030】
蒸発量Va,飽和水蒸気量C1,空気中の水蒸気量C2,冷却水の平均温度Tave,冷却水の出口温度Tout,および出口側の水蒸気量θoutを変数として、式(2),(7)~(11)を連立方程式として解くことで、下記式(12)で表される冷却出力Wqが算出される。
【0031】
【0032】
上記式(1)により算出される冷却水の落下速度vfを用いて、下記式(13)により冷却水の流量qが算出される。流量qを用いて、下記式(14)により冷却水をくみ上げるポンプ5のポンプ動力Wpが算出される。冷却評価の指標となるポンプ動力当たりの冷熱出力Wq-pは、下記式(15)により算出される。
【0033】
【0034】
上記式(15)により算出される実施例と比較例との冷熱出力Wq-pを評価した。実施例では、本実施形態の充填部1において、傾斜板11a,11bの総枚数を5枚として、各傾斜板11a,11bの大きさの幅W1を1000mmおよび奥行きD1を1000mmとして、傾きα1(=α2)を5°とした。また、充填部1の高さH1を500mmとした。
【0035】
図4は、比較例の充填部1zの概略斜視図である。
図4には、幅W1と、奥行きD1と、高さH1とを有する比較例の充填部1z内に配置された10枚の単位板11zが示されている。単位板11zでは、奥行きD1が1000mmであり、高さH1が500mmである。その結果、比較例の充填部1zにおける伝熱面積Aは、5m
2である。
【0036】
図5および
図6は、実施例と比較例とにおける冷却評価の説明図である。
図5には、実施例と比較例とにおいて、冷熱出力W
q-pと、冷熱出力W
q-pを算出するために式(1)~(15)で用いられる各パラメータと、が一覧表として示されている。
図6には、
図5に示される各パラメータが用いられて算出された実施例と比較例とにおける冷却評価に関する各パラメータが示されている。
図6に示されるように、実施例の蒸発量Vaは比較例よりも小さいため、実施例の冷却出力W
qは比較例の半分程度である。しかしながら、本実施例の冷却水の冷却水の落下速度v
fが比較例よりも小さいため、本実施例の冷却水の流量qは比較例よりも少なくて済み、この結果、本実施例のポンプ動力W
pは比較例よりも大幅に抑制される。さらに、実施例における冷却水の出口温度T
outは比較例よりも低くなり、実施例における冷却水の温度差ΔTは比較例よりも大きくなる。この結果、実施例におけるポンプ出力当たりの冷却出力W
q-pは、比較例の6倍以上と大幅に向上している。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の密閉式冷却塔100では、冷却水の蒸発潜熱を用いることにより、コイル2内を流れる被冷却流体を冷却する充填部1は、鉛直方向に対して90°未満の角度で傾斜した複数の傾斜板11a,11bを有している。そのため、本実施形態の密閉式冷却塔100では、傾斜した傾斜板11a,11bの表面を流れる冷却水の滞留時間を、
図4に示される比較例の傾斜していない単位板11zよりも長くすることができる。滞留時間が長いことにより、冷却水と送風機3による送風との接触時間が増大する。この結果、充填部1に流す冷却水の流量qに対する蒸発量Vaが多くなり、冷却水の温度がより下がり、より少ない冷却水の流量qでの密閉式冷却塔100の冷却効果が向上する。これにより、本実施形態の密閉式冷却塔100は、より高効率で稼働できる。
【0038】
また、本実施形態の充填部1は、鉛直方向に沿って配置された複数の傾斜板11a,11bを有している。鉛直方向に沿って隣り合う2つの傾斜板11a,11bは、それぞれ逆方向に傾斜して配置されている。第1傾斜板11aの下端部11aEと第2側壁12bとは、第1空間SP1を形成している。同じように、第2傾斜板11bの下端部11bEと第1側壁12aとは、第2空間SP2を形成している。そのため、本実施形態の密閉式冷却塔100では、ポンプ5からくみ上げられて充填部1の上部から散水される冷却水は、複数の傾斜板11a,11bのうちの最上部に配置された第1傾斜板11aの表面に付着する。第1傾斜板11aに付着した冷却水は、重力により、
図3に示される傾斜方向DRcに沿って、複数の傾斜板11aの表面を移動する。冷却水は、第1傾斜板11aの下端部11aEに到達すると、下端部11aEに形成された第1空間SP1を通って、第1傾斜板11aに隣接すると共に第1傾斜板11aの鉛直下方に位置する第2傾斜板11bの表面に付着する。その後、冷却水は、傾斜方向DRcに沿って移動する間に、送風機3により発生した送風にさらされて、充填部1の下側に位置する分散板6に到達する。すなわち、本実施形態の密閉式冷却塔100では、冷却水は、互いに逆方向に傾斜した複数の傾斜板11a,11bの表面を移動することにより、より蒸発することができる。この結果、より少ない冷却水の流量qで密閉式冷却塔100の冷却効率をさらに向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態の第1傾斜板11aにおいて、鉛直上方側に位置する基端部11aBは第1側壁12aに支持され、鉛直下方側に位置する下端部11aEは第2側壁12bと離間して向かい合っている。また、第2傾斜板11bにおいて、鉛直上方側に位置する基端部11bBは第2側壁12bに支持され、鉛直下方側に位置する下端部11bEは第1側壁12aと離間して向かい合っている。そのため、本実施形態では、充填部1内に散水された冷却水が複数の傾斜板11aの基端部11aB,11bBから下端部11aE,11bEまでの傾斜板11a,11bの距離を移動するため、冷却水が送風機3による送風に接触する時間をより長くすることができる。この結果、より少ない冷却水の流量qで密閉式冷却塔100の冷却効率をさらに向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態の充填部1とコイル2とは、
図2に示されるように、鉛直方向に沿って交互に2段に配置されている。また、充填部1とコイル2とは、鉛直方向に直交する水平方向に沿って並列に複数設置されている。本実施形態のように、充填部1とコイル2とを鉛直方向に沿って交互に配置することにより、熱交換によってコイル2で上昇した冷却水の温度をコイル2の鉛直下方側に位置する充填部1で再度冷却できる。また、複数の充填部1とコイル2とが水平方向に沿って複数設置されることにより、鉛直上方側から散水される冷却水の全てを、水平方向に配置された複数の充填部1のうちのいずれかに供給できる。この結果、本実施形態の密閉式冷却塔100では、充填部1で冷却水の温度を湿球温度に適切に戻してやることで、少ない冷却水の流量qで高い冷却効果を得ることができる。
【0041】
また、本実施形態の複数の傾斜板11a,11bの表面は、送風機3により発生する風の通風方向DRに平行になるように配置されている。すなわち、本実施形態の傾斜板11a,11bは、通風方向DRに対しての圧力損失を低減できる。この結果、送風機3の稼働電力を削減し、密閉式冷却塔100をより高効率で稼働させることができる。
【0042】
<実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0043】
上記実施形態では、密閉式冷却塔100の一例について説明したが、密閉式冷却塔100の構成等については変形可能である。例えば、密閉式冷却塔100が備えるコイル2と、充填部1とを備える蒸発式凝縮器(いわゆる「エバコン」)であってもよい。また、密閉式冷却塔100およびエバコンは、被冷却流体の流路を形成するコイル2と、鉛直方向に傾斜した傾斜板11aを有する充填部1とを備える範囲で変形可能である。例えば、密閉式冷却塔100は、1つの傾斜板11aのみを備えていてもよい。傾斜板11aが鉛直方向に成す角度は、冷却評価で用いられた5°(α1,α2)以外であってもよく、0°よりも大きく、90°よりも小さい範囲の任意の値でよい。また、傾斜板11a,11bは、表面が平面を形成する平板形状ではなく、例えば曲面を形成する板状の形状を有していてもよい。
【0044】
上記実施形態の傾斜板11a,11bは、下端部11aE,11bEと対向する第1側壁12aまたは第2側壁12bとの間に第1空間SP1または第2空間SP2が形成していたが、空間SP1,SP2の形成位置については、冷却水を鉛直下方に導ける範囲内で変形可能である。複数の傾斜板11aのそれぞれは、鉛直方向に対して同じ角度α1で傾いていたが、それぞれが異なる角度で傾いていてもよい。複数の第2傾斜板11bについても、それぞれが異なる角度で傾いていてもよい。
【0045】
上記実施形態の充填部1とコイル2とは、鉛直方向および水平方向に沿って複数配置されたが、1組のみが配置されてもよい。上記実施形態の傾斜板11a,11bの表面は、送風機3の通風方向DRに平行になるように配置されたが、平行ではない角度で配置されてもよい。例えば、1部の傾斜板11aが通風方向DRに平行に配置され、残りの傾斜板11bが通風方向DRに平行でない角度に配置されてもよい。
【0046】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…充填部
1z…充填部
2…冷却用コイル
3…送風機
4…受水槽
5…ポンプ
6…分散板
7…入口
8…入口分岐管
9…出口分岐管
10…出口
11a…第1傾斜板
11aB…第1傾斜板の基端部(上端部)
11aE…第1傾斜板の下端部
11b…第2傾斜板
11bB…第2傾斜板の基端部(上端部)
11bE…第2傾斜板の下端部
11z…単位板
12a…第1側壁
12b…第2側壁
100…密閉式冷却塔
A…伝熱面積
C1…飽和水蒸気量
C2…空気中の水蒸気量
CS…座標系
D…拡散係数
DR…通風方向
DRc…傾斜方向
ΔH…蒸発潜熱
L…代表長さ
P…空気圧力
P0…標準気圧
q…流量
Re…空気側レイノルズ数
SP1…第1空間(空間)
SP2…第2空間(空間)
Sc…シュミット数
sh…シャーウッド数
Tave…平均温度
Tin…入口温度
Tout…出口温度
Va…蒸発量
W1…幅
Wp…ポンプ動力
Wq…冷却出力
Wq-p…冷熱出力
Vf,vf…落下速度
α1,α2…角度
ρair…空気密度
μair…空気粘性係数
θin…空気入口の水蒸気量
θout…空気出口の水蒸気量
ΔT…温度差