(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159655
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】超音波送受波器及び超音波流量計
(51)【国際特許分類】
G01F 1/66 20220101AFI20221011BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
G01F1/66 A
H04R17/00 330G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063986
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000116633
【氏名又は名称】愛知時計電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅子
(72)【発明者】
【氏名】堀田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】松岡 幸広
【テーマコード(参考)】
2F035
5D019
【Fターム(参考)】
2F035DA05
2F035DA07
2F035DA22
5D019AA15
5D019AA26
5D019EE01
5D019FF02
(57)【要約】
【課題】従来より簡素な構造で防水が図られ、ケース内の結露も防がれる超音波送受波器を提供する。
【解決手段】本開示の超音波送受波器20では、ケース20A内のうち1対の端子金具21と、圧電素子30の第1と第2の電極32,33との接続部分が配置される接続部屋22Nに絶縁性流体60が充填されているので、簡素な構造で防水が図られ、ケース20A内の結露も防がれる。ここで、超音波送受波器の圧電素子には、超音波を発生させるために高周波の電圧が印加されるため、一般的な回路の防水用のポッティング材では、圧電素子の1対の電極の間又は1対の導電部材の間の短絡が問題になるが、本開示においてケース内に充填される絶縁性流体は、比誘電率が5以下であるので、上記短絡の問題が解消される。しかも、一般的なポッティング材のようには固化しない絶縁性流体であるので超音波生成の妨げにもなり難い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子が貼着している振動板で一部を構成されたケース内で、前記圧電素子の1対の電極に1対の導電部材が接続されている超音波送受波器において、
前記ケース内のうち前記圧電素子の1対の電極と前記1対の導電部材との接続部分に、比誘電率が5以下の絶縁性流体が充填されている超音波送受波器。
【請求項2】
前記絶縁性流体は、シリコーンオイルである請求項1に記載の超音波送受波器。
【請求項3】
前記絶縁性流体は、シリコーンオイルを基油とし、ちょう度が200以上であるシリコーングリス又はシリコーンオイルコンパウンドである請求項1に記載の超音波送受波器。
【請求項4】
前記1対の電極は、前記圧電素子のうち前記振動板と反対側の後面に配置され、
前記ケース内に前記圧電素子が嵌合される嵌合部が設けられて、前記ケース内が前記圧電素子により前後に区画され、
前記絶縁性流体は、前記ケース内のうち前記圧電素子より後側の接続部屋に充填されている請求項1から3の何れか1の請求項に記載の超音波送受波器。
【請求項5】
前記ケースは、前記嵌合部を前端に備えるケース本体と、前記ケース本体の外側に前側から嵌合され、前端に前記振動板を有するキャップ部材と、を含んでなる請求項4に記載の超音波送受波器。
【請求項6】
前記ケース本体には、前記圧電素子との間に前記接続部屋を挟んで対向する後部壁が備えられ、
前記1対の導電部材は、前記後部壁を貫通しかつ前記圧電素子の前記1対の電極に当接する弾性当接部を有する1対の端子金具であり、
前記後部壁には、前記接続部屋に前記絶縁性流体を注入するための注入孔が形成されている請求項5に記載の超音波送受波器。
【請求項7】
前記後部壁には、前記接続部屋に前記絶縁性流体が注入されたときに前記接続部屋内の空気を逃がすガス抜き孔が備えられている請求項6に記載の超音波送受波器。
【請求項8】
前記注入孔のうち前記接続部屋に臨む開口端は、前記圧電素子の一方の電極と対向し、前記ガス抜き孔のうち前記接続部屋に臨む開口端は、前記圧電素子の他方の電極と対向する請求項7に記載の超音波送受波器。
【請求項9】
前記接続部屋は、前記圧電素子より上方に配置され、
前記ケース内には、前記絶縁性流体より上に、前記絶縁性流体より比重が小さい封止材が充填されている請求項4から8の何れか1の請求項に記載の超音波送受波器。
【請求項10】
前記ケースには、上方に延びる筒壁が備えられ、
前記筒壁の内部に前記封止材が充填されている請求項9に記載の超音波送受波器。
【請求項11】
前記ケースに設けられて前記圧電素子との間に前記接続部屋を挟んで対向する後部壁と、
前記後部壁に形成されて前記接続部屋に前記絶縁性流体を注入するための注入孔と、
前記後部壁に形成されて前記接続部屋に前記絶縁性流体が注入されたときに前記接続部屋内の空気を逃がすガス抜き孔と、が備えられ、
前記筒壁が、前記後部壁の後面から突出し、前記注入孔及び前記ガス抜き孔と連通する請求項10に記載の超音波送受波器。
【請求項12】
計測流路を内側に有するハウジングと、
前記ハウジングに取り付けられて、前記計測流路内を流れる液体を介して超音波を送受波する請求項1から11の何れか1の請求項に記載の1対の超音波送受波器と、を備える超音波流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電素子を有する超音波送受波器及び超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の超音波送受波器として、圧電素子がケースに収容されて防水されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-270013(段落[0015]及び
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の超音波送受波器に対し、構造の簡素化とケース内の結露対策が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するためになされた請求項1の発明は、圧電素子が貼着している振動板で一部を構成されたケース内で、前記圧電素子の1対の電極に1対の導電部材が接続されている超音波送受波器において、前記ケース内のうち前記圧電素子の1対の電極と前記1対の導電部材との接続部分に、比誘電率が5以下の絶縁性流体が充填されている超音波送受波器である。
【0006】
請求項2の発明は、前記絶縁性流体は、シリコーンオイルである請求項1に記載の超音波送受波器である。
【0007】
請求項3の発明は、前記絶縁性流体は、シリコーンオイルを基油とし、ちょう度が200以上であるシリコーングリス又はシリコーンオイルコンパウンドである請求項1に記載の超音波送受波器である。
【0008】
請求項4の発明は、前記1対の電極は、前記圧電素子のうち前記振動板と反対側の後面に配置され、前記ケース内に前記圧電素子が嵌合される嵌合部が設けられて、前記ケース内が前記圧電素子により前後に区画され、前記絶縁性流体は、前記ケース内のうち前記圧電素子より後側の接続部屋に充填されている請求項1から3の何れか1の請求項に記載の超音波送受波器である。
【0009】
請求項5の発明は、前記ケースは、前記嵌合部を前端に備えるケース本体と、前記ケース本体の外側に前側から嵌合され、前端に前記振動板を有するキャップ部材と、を含んでなる請求項4に記載の超音波送受波器である。
【0010】
請求項6の発明は、前記ケース本体には、前記圧電素子との間に前記接続部屋を挟んで対向する後部壁が備えられ、前記1対の導電部材は、前記後部壁を貫通しかつ前記圧電素子の前記1対の電極に当接する弾性当接部を有する1対の端子金具であり、前記後部壁には、前記接続部屋に前記絶縁性流体を注入するための注入孔が形成されている請求項5に記載の超音波送受波器である。
【0011】
請求項7の発明は、前記後部壁には、前記接続部屋に前記絶縁性流体が注入されたときに前記接続部屋内の空気を逃がすガス抜き孔が備えられている請求項6に記載の超音波送受波器である。
【0012】
請求項8の発明は、前記注入孔のうち前記接続部屋に臨む開口端は、前記圧電素子の一方の電極と対向し、前記ガス抜き孔のうち前記接続部屋に臨む開口端は、前記圧電素子の他方の電極と対向する請求項7に記載の超音波送受波器である。
【0013】
請求項9の発明は、前記接続部屋は、前記圧電素子より上方に配置され、前記ケース内には、前記絶縁性流体より上に、前記絶縁性流体より比重が小さい封止材が充填されている請求項4から8の何れか1の請求項に記載の超音波送受波器である。
【0014】
請求項10の発明は、前記ケースには、上方に延びる筒壁が備えられ、前記筒壁の内部に前記封止材が充填されている請求項9に記載の超音波送受波器である。
【0015】
請求項11の発明は、前記ケースに設けられて前記圧電素子との間に前記接続部屋を挟んで対向する後部壁と、前記後部壁に形成されて前記接続部屋に前記絶縁性流体を注入するための注入孔と、前記後部壁に形成されて前記接続部屋に前記絶縁性流体が注入されたときに前記接続部屋内の空気を逃がすガス抜き孔と、が備えられ、前記筒壁が、前記後部壁の後面から突出し、前記注入孔及び前記ガス抜き孔と連通する請求項10に記載の超音波送受波器である。
【0016】
請求項12の発明は、計測流路を内側に有するハウジングと、前記ハウジングに取り付けられて、前記計測流路内を流れる液体を介して超音波を送受波する請求項1から11の何れか1の請求項に記載の1対の超音波送受波器と、を備える超音波流量計である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1及び請求項12の超音波送受波器では、ケース内のうち圧電素子の1対の電極と1対の導電部材との接続部分に絶縁性流体が充填されているので、簡素な構造で防水が図られ、ケース内の結露も防がれる。ここで、ケースに充填物が充填されると、その充填物の誘電率と空気の誘電率との相違により、圧電素子の1対の電極の間の静電容量及び1対の導電部材の間の静電容量が変化する。そして、超音波送受波器の圧電素子には、超音波を発生させるために高周波の電圧が印加されるため、一般的な回路の防水用のポッティング材では、圧電素子の1対の電極の間又は1対の導電部材の間の短絡が問題になる。これに対し、本開示においてケース内に充填される絶縁性流体は、比誘電率が5以下であるので、上記短絡の問題が解消される。しかも、一般的なポッティング材のようには固化しない絶縁性流体であるので超音波生成の妨げにもなり難い。
【0018】
絶縁性流体は、例えば、気体を除いて固化しない性質を有する液状、ゲル状又はペースト状の物質であって、シリコーンオイルや、シリコーンオイルを基油とし、ちょう度が200以上であるシリコーングリス又はシリコーンオイルコンパウンドが好ましい(請求項3の発明)。
【0019】
また、圧電素子の1対の電極を、請求項4の超音波送受波器のように、振動板と反対側の後面に配置して、絶縁性流体は、ケース内のうち圧電素子より後側の接続部屋に充填される構成としてもよい。
【0020】
また、請求項5の超音波送受波器では、ケースが、圧電素子を嵌合する嵌合部を前端に備えるケース本体と、ケース本体の前端から嵌合するキャップ部材とを有し、キャップ部材の前端に振動板を備えているので、容易に圧電素子と振動板とを組み付けることができる。さらに、請求項6の超音波送受波器のように、ケース本体に、1対の導電部材としての1対の端子金具を保持する後部壁を備え、後部壁と圧電素子との間に接続部屋を備えて、後部壁に、接続部屋に絶縁性流体を注入するための注入孔を備えた構成とすれば、1対の導電部材と圧電素子とを接続してケースを組み立てた後で、注入孔を介して絶縁性流体をケース内に容易に充填することができる。
【0021】
さらに、請求項7の超音波送受波器のように、後部壁にガス抜き孔を備えて、接続部屋に絶縁性流体が注入されたときに接続部屋内の空気を逃がすことで、接続部屋を絶縁性流体で充填しやすくなる。また、請求項8の超音波送受波器のように、注入孔のうち接続部屋に臨む開口端を、圧電素子の一方の電極と対向するように配置し、ガス抜き孔のうち接続部屋に臨む開口端を、圧電素子の他方の電極と対向するように配置すれば、注入孔から絶縁性流体を注入し、ガス抜き孔に絶縁性流体が到達するまで充填することで、1対の電極間を絶縁性流体で確実に覆うことができる。
【0022】
ここで、絶縁性流体は、請求項9の超音波送受波器のように、接続部屋が圧電素子より上方に配置され、ケース内に充填された絶縁性流体が、絶縁性流体より比重が小さい封止材により封止されていてもよい。封止材は、例えば、ケースに備えられて上方に延び、注入孔及びガス抜き孔と連通する筒壁の内部に充填された構成とすることができる(請求項10,11の発明)。また、絶縁性流体と封止材との界面に蓋部材が配置されてもよい。また、封止材は、固化しない性質を有する液状、ゲル状又はペースト状の物質であってもよいし、筒部の内部で硬化して固定されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示の一実施形態に係る超音波流量計の断面図
【
図5】超音波送受波器の(A)
図3のB―B切断面における断面図、(B)後面側から見た正面図
【
図6】圧電素子が備えられたキャップの(A)後面図、(B)側断面図
【
図8】他の実施形態に係る圧電素子が備えられたキャップの(A)後面図、(B)側断面図
【
図9】他の実施形態に係る超音波送受波器の
図3のB―B切断面における断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、
図1~
図6を参照して、本開示の超音波流量計10の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の超音波流量計10は、計測スリーブ11と、この計測スリーブ11と斜めに交差する分岐管13とを有するハウジング10Aを備え、分岐管13の両端部に1対の超音波送受波器20を備えている。計測スリーブ11は、例えば、配管の途中に取り付けられ、内側の計測流路12には、液体が流れる。
【0025】
分岐管13は、計測流路12に連通して、円筒状をなし、その両端部は、
図2に示すように、鉛直方向上方に曲げられて、上端開口を有する1対の受容部14となっている。そして、各受容部14の上端開口に、送受波面が下方を向くように配置された超音波送受波器20が嵌合されている。また、分岐管13には、各超音波送受波器20の下方に、水平方向に対して45度の傾きで保持された反射板80が備えられ、図示しない信号処理回路により1対の超音波送受波器20,20の間で超音波を送受波させると、一方の超音波送受波器20から送波された超音波が、各反射板80で反射されて他方の超音波送受波器20に到達する構成となっている。そして、公知な超音波流量計と同様に、一方の超音波送受波器20から他方の超音波送受波器20までの超音波の伝播時間と、他方の超音波送受波器20から一方の超音波送受波器20までの超音波の伝播時間とに基づき、計測流路12内を流れる液体の流量を計測する。
【0026】
超音波送受波器20は、
図3に示すように、ケース本体22と、ケース本体22の前端部を閉塞するキャップ部材40と、を有するケース20Aで全体が覆われている。そして、ケース本体22が1対の端子金具21を保持し(
図3には、一方の端子金具21のみが示されている)、その前端に、キャップ部材40に貼着された圧電素子30が固定された構造をなしている。以下、端子金具21が延びる方向を前後方向とし、端子金具21に対して圧電素子30が配置される側を前側と呼ぶこととする。なお、超音波送受波器20は、その前端が、前述の受容部14の上端開口において、下方を向いて配置される。
【0027】
圧電素子30は、
図4(A)に示すように、第1と第2の電極32,33と、これら電極32,33により挟まれる圧電部31とを有する。圧電部31は、円盤状をなし、電圧が印可されることによって電圧印加方向に伸縮するものであり、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛等で構成される。
【0028】
第1の電極32は、圧電部31の後面31Bの中央部分に配置され、平面視形状は、
図4(B)に示すように、円形の一部が切り欠かれた凹状部32Eを有する形状となっている。第2の電極33は、
図4(A)に示すように、圧電部31の前面31A全体を覆う前面電極部33Aと、圧電部31の後面31Bの外縁に配置される後面電極部33Cと、圧電部31の側面に配置されて前面電極部33Aと後面電極部33Cとを接続する側面電極部33Bとを有している。なお、後面電極部33Cのうち、第1の電極32の凹状部32Eとの対向面は、
図4(B)に示すように、凹状部32Eに沿った円弧面となっている。
【0029】
ケース本体22は、樹脂製であって、
図3に示すように、前端に、圧電素子30が嵌合する嵌合部23を備えている。嵌合部23は、圧電素子30の中心軸J1と同心の円筒状をなし、内周面には、前端側に縮径する段差面が備えられて、その段差面に圧電素子30の後面が突き当てられている。
【0030】
また、ケース本体22は、嵌合部23に嵌合された圧電素子30の後側に、1対の端子金具21が貫通する後部壁22Aを備えている。そして、圧電素子30と後部壁22Aとの間に接続部屋22Nが形成されている。接続部屋22Nは、
図5(A)に示すように、前後方向における断面が、隣接する大円と小円の外縁を囲った形状をなしていて、接続部屋22N内に、圧電素子30の後面の第1の電極32の一部と第2の電極33の後面電極部33Cの一部とが露出している。そして、1対の端子金具21は、前端に図示しない弾性当接部を備えて、接続部屋22N内で、第1の電極32と、第2の電極33の後面電極部33Cとに当接している。また、後部壁22Aには、
図3に示すように、前後方向に貫通し、前端が接続部屋22Nと連通する1対の貫通孔27,28が形成されている。なお、1対の貫通孔のうち一方の貫通孔27は、内部空間22Nのうち前述の小円部分と連通し、他方の貫通孔28は、内部空間22Nのうち前述の大円部分と連通するように配置されている。
【0031】
1対の端子金具21の後端部は、後部壁22Aの後面から突出し、リード線21Rに接続されている。リード線21Rは、外側を絶縁性樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル)の被覆材で覆われて後方に延ばされ、後述する延長スリーブ50の内側に通されて外部へ引き出されて、前述の信号処理回路に接続されている。
【0032】
また、ケース本体22の後端部には、側方に張り出す側方張出部25が備えられている。そして、側方張出部25の後面からは、後方に突出して、後部壁22Aから突出する1対の端子金具21を外側から囲む円筒状の後側突部26が備えられている。
【0033】
また、後側突部26は、接続部屋22Nと連通する1対の貫通孔27,28と連通する。詳細には、
図5(B)に示すように、1対の貫通孔27,28は、後側突部26の内側で、その軸方向と交差する方向で最も離れた位置に配置される。これにより、1対の貫通孔27,28は、接続部屋22Nに対して、軸方向と交差する方向で概ね最も離れた位置に配置される。そして、
図5(A)に示すように、1対の貫通孔27,28のうち一方の貫通孔27の前端開口が、圧電素子30の第2の電極33の後面電極部33Cと対向し、他方の貫通孔28の前端開口が、圧電素子30の第1の電極32と対向するように配置される。なお、後部壁22Aの後面のうち後側突部26の内側と重なる部分は、側方張出部25の後面よりも後方に配置されている(
図3参照)。
【0034】
また、後側突部26には、金属製の延長スリーブ50が外側から嵌合している。延長スリーブ50は、後側突部26より後方に延び、リード線21Rが通される後側は、前側よりも小径となっている。また、延長スリーブ50の前端部に、金属製のフランジ部51が蝋付け、溶接又は接着されている。フランジ部51は、延長スリーブ50の前端部から側方に張り出して側方張出部25の後面全体を覆っている。フランジ部51の外縁部は、後述するキャップ部40の後端に蝋付け、溶接又は接着されている。なお、本実施形態の後側突部26及び延長スリーブ50が、特許請求の範囲の「筒壁」に相当する。
【0035】
キャップ部材40は、導電性を有する材料、例えば、鉄、ステンレス、銅、アルミ等の金属で形成される。キャップ部材40は、
図3に示すように、ケース本体22の外側面に嵌合される円筒状のリング部41と、リング部41の前端を閉塞する振動板47とを備えている。
【0036】
振動板47は、
図6(A)に示すように、円形の薄板状をなし、後面に圧電素子30が固定される。具体的には、振動板47は、圧電素子30の第2の電極33の前面電極部33Aに重ねられる(
図3参照)。なお、振動板47は、圧電素子30よりも大きい円形をなしている。
【0037】
図6(B)に示すように、リング部41の内側面には、後端側を段付き状に拡径する複数の段差面により、前端側から順に、第1嵌合部42、第2嵌合部43及び第3嵌合部44が形成されている。そして、
図3に示すように、第1嵌合部42は嵌合部23の外側面に嵌合され、第3嵌合部44は側方張出部25の外側面に嵌合される。また、第2嵌合部43は、ケース本体22の外側面のうち嵌合部23と側方張出部25との間の外側面に嵌合される。
【0038】
また、第1嵌合部42の前端寄り位置には、周方向に沿ってリブ42Rが突出形成され、リブ42Rの前面に、振動板47の後面の周縁部が重ねられている。また、リブ42Rの内側面は、圧電素子30の外周面を包囲している。本実施形態では、振動板47は、溶接によりリブ42Rの前面に固定されているが、蝋付け又は接着剤により固定されてもよい。また、振動板47とリング板41とは一体に形成されていてもよい。
【0039】
リング部41の外側面には、前端側から順に、後端側を段付き状に拡径する第2段差面45Dと第3段差面46Dとが形成されている。そして、第2段差面45Dとその前側の外側面とにOリング92が嵌合されて、
図2に示すように、分岐管13の受容部14の内側面に嵌合する。また、リング部41のうち第3段差部46Dより後端側が分岐管13の受容部14の上端開口縁に嵌合する。
【0040】
さて、本実施形態では、ケース本体22の接続部屋22Nに、絶縁性流体60が充填されている。絶縁性流体60は、例えば、気体を除いて固化しない性質を有する液状、ゲル状又はペースト状の物質であって、シリコーンオイル、シリコーンオイルコンパウンド、シリコーングリス等が好ましい。シリコーンオイルであれば、粘度は1000[mPa・s]以下が好ましく、シリコーンオイルコンパウンド、シリコーングリスであれば、ちょう度が200以上のものが好ましい。
【0041】
本実施形態では、一方の貫通孔27を注入孔としてその後端開口から絶縁性流体60が接続部屋22N内に充填される。そして、他方の貫通孔28は、絶縁性流体60が注入されたときに接続部屋22N内の空気を逃がすガス抜き孔となっている。また、本実施形態では、絶縁性流体60は、接続部屋22Nだけではなく、1対の貫通孔27,28の後端開口まで充填される。なお、他方の貫通孔28を注入孔とし、一方の貫通孔27をガス抜き孔として、絶縁性流体60を接続部屋22Nに充填してもよい。
【0042】
また、後側突部26及び延長スリーブ50の内側には、封止材61が充填されている。封止材61は、絶縁性流体60よりも比重が小さい材料である。本実施形態では、後側突部26及び延長スリーブ50が接続部屋22Nよりも上方に配置されるので、封止材61は、1対の貫通孔27,28の後端開口まで充填された絶縁性流体60に直接重ねて充填されて、絶縁性流体60を封止する。封止材61は、液状又はペースト状の状態で後側突部26及び延長スリーブ50の内側に注入され、加熱や自然固化によって硬化される。硬化することによってリード線21Rが固定される。なお、封止材61としては、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂が挙げられる。
【0043】
本実施形態の超音波流量計10の構成に関する説明は以上である。次に、超音波送受波器20及び超音波流量計10の組み立て手順について説明する。
【0044】
まず、キャップ部材40の振動板47の後面に、接着剤により、圧電素子30を貼着し、振動板47に圧電素子30の第2の電極33の前面電極部33Aを固定する。
【0045】
それから、1対の端子金具21を保持したケース本体22を、キャップ部材40に対して後方から挿し込んでリング部41と嵌合させ、ケース本体22の前面に振動板47を固定する。このとき、一方の貫通孔27の前端開口が、圧電素子30の第2の電極33の後面電極部33Cと対向し、他方の貫通孔28の前端開口が、圧電素子30の第1の電極32と対向するように組み付ける。
【0046】
さらに、1対の端子金具21に、リード線21Rを接続してはんだ付けを行う。続いて、端子ホルダ22の後側突部26に、前端にフランジ部51を溶接により接着しておいた延長スリーブ50を外側から嵌合させる。そして、延長スリーブ50のフランジ部51の外縁部をキャップ部40の後端に溶接により接着する。
【0047】
続いて、ケース本体22の後部壁22Aの一方の貫通孔27の後端開口から絶縁性流体60をシリンジ等を用いて注入する。このとき、注入された絶縁性流体60が他方の貫通孔28の後端開口に到達するまで注入する。
【0048】
そして、1対の端子金具21に、リード線21Rを接続し、後側突部26及び延長スリーブ50内に封止材61をシリンジ等を用いて注入した後に、硬化させる。これにより、超音波送受波器20の組み立てが完成する。
【0049】
そして、リング部41の第2段差面45Dとその前側の外側面とにOリング92を装着した状態で、分岐管13の受容部14に嵌合させる。これにより、超音波流量計10の組み立てが完成する。
【0050】
次に、超音波流量計10の作用効果について説明する。本実施形態の超音波送受波器20では、ケース20A内のうち1対の端子金具21と、圧電素子30の第1と第2の電極32,33との接続部分が配置される接続部屋22Nに絶縁性流体60が充填されているので、簡素な構造で防水が図られ、ケース20A内の結露も防がれる。ここで、ケースに充填物が充填されると、その充填物の誘電率と空気の誘電率との相違により、圧電素子の1対の電極の間の静電容量及び1対の導電部材の間の静電容量が変化する。そして、超音波送受波器の圧電素子には、超音波を発生させるために高周波の電圧が印加されるため、一般的な回路の防水用のポッティング材では、圧電素子の1対の電極の間又は1対の導電部材の間の短絡が問題になる。これに対し、本開示においてケース内に充填される絶縁性流体は、比誘電率が5以下であるので、上記短絡の問題が解消される。しかも、一般的なポッティング材のようには固化しない絶縁性流体であるので超音波生成の妨げにもなり難い。
【0051】
さらに、本実施形態では、ケース20Aが、圧電素子30を嵌合する嵌合部23を前端に備えるケース本体22と、ケース本体22の前端から嵌合するキャップ部材40とを有し、キャップ部材40の前端に振動板47を備えているので、容易に圧電素子30と振動板47とを組み付けることができる。そして、ケース本体22に、1対の端子金具21を保持する後部壁22Aを備え、後部壁22Aと圧電素子30との間に接続部屋22Nを備えて、後部壁22Aに、接続部屋22Nに絶縁性流体60を注入するための貫通孔27を備えているので、1対の端子金具21と圧電素子30とを接続してケース20Aを組み立てた後で、絶縁性流体60を容易に貫通孔27を介してケース20A内に充填することができる。
【0052】
また、後部壁22Aにはガス抜き孔となる貫通孔28も設けられているので、接続部屋22Nに絶縁性流体60が注入されたときに接続部屋22N内の空気を逃がすことができる。これにより、接続部屋22Nを絶縁性流体60で充填しやすくなる。さらに、これら1対の貫通孔27,28は、接続部屋22Nの概ね端と端に配置されているので、貫通孔27から注入した絶縁性流体60が貫通孔28の後端開口に到達するまで充填すれば、ケース20A内部を確認することができなくても接続部屋22N内が十分充填されたとみなすことが可能となる。しかも、1対の貫通孔27,28のうち、一方の貫通孔27が圧電素子30の第2の電極33の側面電極部33Cと対向し、他方の貫通孔28が圧電素子30の第1の電極32と対向するように配置されているので、絶縁性流体60が貫通孔28の後端開口に到達するまで充填することで、第1と第2の電極32,33間を絶縁性流体60で確実に覆うことができる。
【0053】
また、本実施形態では、後側突部60及び延長スリーブ50が接続部屋22Nよりも上方に配置され、後側突部60及び延長スリーブ50内が絶縁性流体60よりも比重の小さい封止材61が充填されている。本実施形態では、このように、絶縁性流体60よりも比重の小さい封止材61を充填することで、絶縁性流体60の上面に直接重ねることが可能となり、絶縁性流体60を蓋部材等で閉塞する必要なく、絶縁性流体60を容易に封止することができる。
【0054】
なお、超音波送受波器20の周波数―インピーダンス特性は、インピーダンスが最小のピーク値となる共振周波数frを有し、そのピーク値が小さいほど送受信感度に優れることが知られているが、接続部屋22Nに絶縁性流体60を充填しても、共振周波数frのピーク値を充分低くできることを、次述する実験により確認することができる。
【0055】
[確認実験]
上記実施形態の超音波送受波器20の接続部屋22Nに充填する絶縁性流体について、比誘電率が異なる2つの材料を用いて、その送受信感度の変化を実験により確認した。この実験では、接続部屋22Nに比誘電率が2.8のシリコーングリスを充填した試験サンプルS1と、比誘電率が24のエタノールを充填した試験サンプルS2と、比較サンプルとして、充填前の(接続部屋22Nに充填物を充填しない)試験サンプルS3と、を作成し、インピーダンスアナライザ(HIOKI IM3570)を用いて25[℃]におけるインピーダンス特性を測定した。
【0056】
図7に、各実験例における周波数―インピーダンス特性を示す。横軸は800~1200[kHz]の範囲を表す周波数であって、縦軸は10~10000[kΩ]の範囲を表すインピーダンスの対数を示している。
【0057】
試験サンプルS3では、インピーダンス曲線は、共振周波数frのピーク値が非常に低くなっているのに対し、比誘電率が大きいエタノールが充填された試験サンプルS2のインピーダンス曲線では、共振周波数frのピークが著しく鈍化している。一方、比誘電率の小さいシリコーングリスが充填された試験サンプルS1のインピーダンス曲線は、試験サンプルS3と比較すると、共振周波数frのピークが少し鈍化するものの超音波送受波器20の必要な送受信の感度を得るには充分に低い値(100[Ω]以下)が得られた。
【0058】
[他の実施形態]
(1)
図8(A)、(B)に示すように、キャップ部材40Vのリング部41Vの後端部の外周縁の一箇所に、外側面に開放する位置決め凹部41Mを設けてもよい。この場合、例えば、位置決め凹部41M側に、圧電素子30の第2の電極33の後面電極部33Cを配置することとすれば、超音波送受波器20を組み立てる際にケース本体22の前端に圧電素子30を嵌合する工程で、一方の貫通孔27の前端開口が、圧電素子30の第2の電極33の後面電極部33Cと対向し、他方の貫通孔28の前端開口が、圧電素子30の第1の電極32と対向するように組み付ける作業をスムーズに行うことができる。
【0059】
(2)前記実施形態の超音波送受波器20では、絶縁性流体60が1対の貫通孔27,28の後端開口まで充填されていたが、絶縁性流体60が1対の貫通孔27,28の前後方向の途中位置まで充填されてもよいし、1対の貫通孔27,28の後端開口よりも上方となる後側突部26の内側まで充填されていてもよい。この場合も、封止材61を絶縁性流体60の上面に直接重ねて充填すればよい。
【0060】
(3)前記実施形態の超音波送受波器20では、封止材61は、絶縁性流体60の上面に直接重ねていたが、絶縁性流体60と封止材61との界面に蓋部材を配置してもよい。
【0061】
(4)前記実施形態の超音波送受波器20では、封止材61は、後側突部26及び延長スリーブ50の内側に注入された後に硬化されていたが、硬化しない性質を有する液状、ゲル状又はペースト状の物質を充填してもよい。この場合、延長スリーブ50の後端を蓋部材等で閉塞してもよい。
【0062】
(5)前記実施形態の超音波送受波器20では、貫通孔27,28は、1対設けられていたが、3つ以上あってもよい。
【0063】
(6)前記実施形態の超音波送受波器20では、接続部屋22Nの断面形状は、隣接する大円と小円の外縁を囲った形状をなしていたが、1対の貫通孔27,28に連通しかつ、圧電素子30の後面の第1の電極32の一部と第2の電極33の後面電極部33Cの一部とが露出するような形状であればよく、
図9に示すように、いびつな形状をなしていてもよい。
【0064】
なお、本明細書及び図面には、特許請求の範囲に含まれる技術の具体例が開示されているが、特許請求の範囲に記載の技術は、これら具体例に限定されるものではなく、具体例を様々に変形、変更したものも含み、また、具体例から一部を単独で取り出したものも含む。
【符号の説明】
【0065】
10 超音波流量計
10A ハウジング
12 計測流路
20 超音波送受波器
20A ケース
21 端子金具(導電部材)
22 ケース本体
22A 後部壁
22N 接続部屋
23 嵌合部
26 後側突部(筒壁)
27 貫通孔(注入孔)
28 貫通孔(ガス抜き孔)
30 圧電素子
32 第1の電極
33 第2の電極
40 キャップ部材
47 振動板
50 延長スリーブ(筒壁)
60 絶縁性流体
61 封止材
92 Oリング