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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159689
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】応力評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20221011BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20221011BHJP
【FI】
G01L1/00 B
G01N23/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064037
(22)【出願日】2021-04-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [刊行物] 令和2年11月4日発行、第29回ポリマー材料フォーラム 予稿集(冊子体)の101ページ [発表] 令和2年11月26日開催、第29回ポリマー材料フォーラム [発表] 令和2年12月8日開催、プラスチック成形加工学会関西支部 2020年度若手セミナー [ウェブサイト] 令和2年7月10日掲載、第66回高分子研究発表会(神戸)予稿集 https://spsj.or.jp/branch/kansai/programs/p-3.html
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】西野 孝
(72)【発明者】
【氏名】細見 亮介
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA25
2G001CA01
2G001KA07
2G001KA08
2G001MA05
(57)【要約】
【課題】樹脂-樹脂間の残留応力を評価可能な新たな評価方法を提供すること。
【解決手段】(1)結晶性高分子を含む第1層と、樹脂材料で構成され、第1層の一方の面に接して設けられた第2層と、を備える積層体状の試料の一方の面側から試料に入射X線を入射させて、試料の他方の面側から発せられる回折X線を検出する第1工程と、(2)回折X線に基づき、結晶性高分子の結晶格子の格子面間隔の微小ひずみεを求める第2工程と、を含み、微小ひずみεに基づいて、第1層と第2層との間の応力σを評価する、応力評価方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性高分子を含む第1層と、樹脂材料で構成され、前記第1層の一方の面に接して設けられた第2層と、を備える積層体状の試料の一方の面側から試料に入射X線を入射させて、前記試料の他方の面側から発せられる回折X線を検出する第1工程と、
前記回折X線に基づき、前記結晶性高分子の結晶格子の格子面間隔の微小ひずみεを求める第2工程と、
を含み、前記微小ひずみεに基づいて、前記第1層と前記第2層との間の応力σを評価する、応力評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の応力評価方法であって、
前記微小ひずみε、ならびに、前記第1層のポアソン比νおよび弾性率Eに基づき、前記第1層と前記第2層との間の応力σを算出する第3工程を含む、応力評価方法。
【請求項3】
請求項2に記載の応力評価方法であって、
前記第1層は、2以上の異なる方位の微結晶を含み、
前記第1工程においては、前記2以上の異なる方位の微結晶に対して入射X線が入射され、その結果、前記第1層における前記第2層を備える側の面と、前記第1層が含む微結晶の格子面法線とがなす角度をψとしたときに、2以上のψに対応する2以上の回折X線が検出され、
前記第2工程においては、前記2以上の回折X線のそれぞれに基づき、2以上の微小ひずみεを求め、
前記3工程においては、前記2以上の微小ひずみεに基づいて、前記第1層と前記第2層との間の応力σを算出する、応力評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の応力評価方法であって、
前記第1工程において、前記2以上のψを、ψ、・・・、ψ(nは2以上の整数)とし、
前記第3工程において、前記2以上の微小ひずみεを、ε、・・・、ε(nは2以上の整数)と
したとき、
(sinψ、ε)、・・・、(sinψ、ε)からなるn個のデータセットを回帰分析することにより、前記第1層と前記第2層との間の応力σを算出する、応力評価方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の応力評価方法であって、
前記第3工程においては、前記2以上の微小ひずみεを横軸に、前記2以上の異なるψから計算される2以上の異なるsinψを縦軸にプロットして近似直線を引き、その近似直線の傾きaから、数式:a=(1+ν)σ/Eに基づき応力σを算出する、応力評価方法。
【請求項6】
請求項2に記載の応力評価方法であって、
前記第1層は、前記第1層における前記第2層を備える側の面と、前記第1層が含む微結晶の格子面法線とがなす角度をψとしたときに、ψ=0°となる微結晶を含み、
前記第1工程においては、前記ψ=0°となる微結晶に対して入射X線が入射され、
前記第3工程においては、前記微小ひずみεから、数式:ε=-(ν/E)σに基づき応力σを算出する、応力評価方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の応力評価方法であって、
前記第1工程において、前記入射X線は、前記第1層における前記第2層側の面に対して非直角に入射される、応力評価方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の応力評価方法であって、
前記入射X線は、前記第1層が含む結晶性高分子の結晶の格子面に対してブラッグ角となる角度で入射される、応力評価方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の応力評価方法であって、
前記入射X線は、前記積層体状の試料における前記第2層の側から入射される、応力評価方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の応力評価方法であって、
前記第2層が、硬化性樹脂組成物の硬化物により構成されている、応力評価方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の応力評価方法であって、
前記第2層が、接着剤組成物の硬化物により構成されている、応力評価方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の応力評価方法であって、
前記第1層の厚みが0.5mm以上である、応力評価方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の応力評価方法であって、
前記第1層が含む前記結晶性高分子が、結晶性ポリオレフィン、結晶性ポリエステル、結晶性ポリアミド、結晶性ポリエーテル、結晶性ポリウレタン、結晶性ポリカーボネート、結晶性ポリイミド、結晶性ポリスチレンおよび結晶性セルロースからなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、応力評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力評価方法に関する。より具体的には、X線回折法による応力評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異種材料が接着した複合材料において、異種材料間の界面における残留応力を適切に評価することは、学術的にも工業的に重要である。例えば、基材と、その基材上に設けられた接着剤と、の界面における残留応力の評価は、接着メカニズムや接着剤の改良指針などに関する重要な情報を与えることがある。
【0003】
異種材料間の界面における残留応力の測定に関する従来技術として、X線応力測定法を挙げることができる。X線応力測定法においては、典型的には、試料面法線と、X線が回折する格子面法線がなす角度ψを変化させて結晶の格子ひずみを測定し、そのひずみにより残留応力を評価する。この方法を利用することで、非破壊かつ簡便に残留応力を評価することができる。
【0004】
X線応力測定法による残留応力の測定に関する背景技術としては、例えば、以下の非特許文献1および2を挙げることができる。
非特許文献1には、アルミニウム基材の表面にエポキシ系接着剤を塗布して硬化させた試料にX線を照射することで、界面の応力を評価したこと、また、その測定原理、sinψ法による残留応力の算出方法などが記載されている。
非特許文献2には、アルミニウム基材の表面にポリイミド膜を形成した試料にX線を照射し、sinψ法により残留応力を求めたことなどが記載されている。
非特許文献3は、残留応力の測定法に関する総説である。この文献の項目3.において、X線回折法による残留応力の測定について記載されている。また、この文献には、他の残留応力の測定法についても記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「複合材料における接着性と疲労特性のX線的評価」マテリアルライフ(Materials Life) 12[2]67-70
【非特許文献2】「ポリイミド/アルミニウム界面での残留応力に関するX線的評価」日本材料学会 学術講演会講演論文集 49、307-308
【非特許文献3】「残留応力の測定法」日本接着学会誌、Vol.39、No.1(2003)24-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1~3においては、金属-樹脂材料間の残留応力が、X線応力測定法により評価されている。
【0007】
一方、近年、例えば航空機などのモビリティ分野において、金属材料の代替として樹脂材料を利用するため、樹脂材料同士を接着する検討が進められている。このため、2つの異なる樹脂材料が接着した場合の樹脂-樹脂間の残留応力を適切に評価することは、高分子材料の利用拡大、製品の信頼性確保などのために重要である。
【0008】
本発明者は、今回、樹脂-樹脂間の残留応力を評価可能な新たな評価方法を提供することを目的に、検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
検討の結果、本発明者らは、以下に提供される発明を完成させた。
【0010】
本発明によれば、
結晶性高分子を含む第1層と、樹脂材料で構成され、前記第1層の一方の面に接して設けられた第2層と、を備える積層体状の試料の一方の面側から試料に入射X線を入射させて、前記試料の他方の面側から発せられる回折X線を検出する第1工程と、
前記回折X線に基づき、前記結晶性高分子の結晶格子の格子面間隔の微小ひずみεを求める第2工程と、
を含み、前記微小ひずみεに基づいて、第1層と前記第2層との間の応力を評価する、応力評価方法。
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂-樹脂間の残留応力を評価可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】応力評価方法の、特に第1工程について説明するための図である。
図2】sinψ法について説明するための補足図である。
図3図3Aは、実施例1において、sinψの変化に伴うイソタクチックポリプロピレンの結晶の、微小ひずみに伴う回折ピークのシフトを示す。図3Bは、実施例1において、微小ひずみεを縦軸に、sinψを縦軸にプロットしたグラフを示す。
図4図4Aは、実施例2において、sinψの変化に伴うイソタクチックポリプロピレンの結晶の、微小ひずみに伴う回折ピークのシフトεを示す。図4Bは、実施例2において、微小ひずみεを縦軸に、sinψを縦軸にプロットしたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0014】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0015】
<応力評価方法>
(第1工程)
図1は、本実施形態の応力評価方法の、特に第1工程について説明するための図である。
第1工程においては、結晶性高分子を含む第1層と、樹脂材料で構成され、第1層の一方の面に接して設けられた第2層と、を備える積層体状の試料の、一方の面側から、入射X線を入射させる。そして、試料の他方の面側から発せられる回折X線を、適当な手段又は装置(不図示)を用いて検出する。
入射X線は、通常、積層体状の試料における第2層の側から入射される。
【0016】
非特許文献1~3に記載されている応力評価方法においては、第1層がアルミニウム(金属材料)であり、また、回折X線は試料の一方の面側(入射X線を入射させた側の面)で検出される。少なくともこれらの点で、本実施形態の応力評価方法は、従来の応力評価方法と異なる。
別の捉え方として、本実施形態においては、第1層としてX線透過性を有するものを採用することにより、回折X線を、入射X線を入射させた側の面とは反対側の面で検出可能としている、とも言える。
【0017】
入射X線は、第1層における第2層側の面に対して直角に入射されてもよいし、非直角に入射されてもよい。第1層-第2層間の界面に平行な応力を検出するためには、入射X線に対して、結晶性高分子の結晶の格子面をブラッグ角だけ傾斜させる必要がある。この場合、入射X線は、通常、第1層における第2層側の面に対して非直角に入射されることとなる。
別の言い方として、入射X線は、好ましくは、第1層が含む結晶性高分子の結晶の格子面に対してブラッグ角となる角度で入射される。つまり、入射X線は、ブラッグの式(後述)に従って、回折が起こる角度で試料に入射されることが好ましい。
【0018】
後述の第3工程においてsinψ法を適用するため、第1工程においては、第1層中の異なる2以上の方位の結晶に対して入射X線が入射されることが好ましい。
具体的には、第1層は、様々な方位の(2以上の異なる方位の)微結晶を含む多結晶でありうるところ、sinψ法を適用するためには、例えば、図2Aにおけるψが0°、15°、30°、45°および60°となる微結晶に対して、(ブラッグの式を満たす角度で)入射X線を入射させて、回折X線を得ることが好ましい。つまり、複数の異なるψにおいてX線の入射および回折X線の検出が行われることが好ましい。
図2Aにおいて、ψは、試料面と格子面法線とがなす角度である。「試料面」は、第1層の、第2層を備える側の面のことである。また、θはブラッグ角である。参考のため、図2Bとして、図2Aの特別な場合であるψが0°である場合を特に示す。
ちなみに、非特許文献1~3に記載されているような従来のX線応力測定法では、ψとしては、通常、試料面「法線」と格子面法線のなす角度を取る。つまり、従来のX線応力測定法と、本実施形態のX線応力測定法では、ψのとり方が異なる。これは、従来のX線応力測定法は、回折X線は入射X線を入射させた側の面で検出する「反射法」である一方、本実施形態のX線応力測定法では、回折X線は入射X線を入射させた側とは反対側の面で検出する「透過法」であることに基づく。
【0019】
2以上の方位の結晶に対して入射X線を入射させるために、入射X線を試料に入射させる角度を変えた第1工程を複数回行ったり、入射X線を試料に入射させる角度を連続的に変えて回折X線を連続的に検出したりしてもよい。「入射X線を試料に入射させる角度」とは、第1層における第2層を備える側の面と、入射X線とがなす角のことである。
第1層については、層全体が単一結晶である場合と、試料中に複数の結晶ドメインが存在する場合とがあり得る。後者の場合、複数の結晶ドメインにおいて、結晶面はそれぞれ異なる方向を向いている。このため、入射X線を試料に入射させる角度を変えた第1工程を複数回行えば、回折X線を得る対象となる結晶ドメインを増やすことができ、データ数を増加させることができる。この結果、例えば、得られるε、σの値の信頼性を向上させることができる。
【0020】
第1層は、結晶性高分子を含み、X線回折を通じて結晶性高分子の結晶格子の格子面間隔を求めることができる限り、任意の素材で構成することができる。
結晶性高分子の例としては、結晶性ポリオレフィン、結晶性ポリエステル、結晶性ポリアミド、結晶性ポリエーテル、結晶性ポリウレタン、結晶性ポリカーボネート、結晶性ポリイミド、結晶性ポリスチレン、結晶性セルロースなどを挙げることができる。もちろん、結晶性高分子はこれらのみに限定されない。第3工程において応力を算出するために、ポアソン比および弾性率が既知または精度良く測定可能な結晶性高分子が好ましい。特に、分子鎖軸に対して直角方向の結晶弾性率が既知の結晶性高分子が好ましく用いられる。
特に好ましい結晶性高分子としては、イソタクチックポリプロピレンおよびシンジオタクチックポリプロピレンを挙げることができる。
【0021】
念のため述べておくと、必ずしも、第1層を構成する材料の「全て」が結晶性高分子でなくてもよい。回折X線プロファイルが得られる限り、第1層は、結晶性高分子の結晶のほか、アモルファス状態の結晶性高分子、非晶性高分子、有機または無機フィラー粒子などのうち1または2以上を含んでもよい。別の言い方として、第1層は、結晶性高分子を少なくとも含み、さらに、非晶性高分子、有機または無機フィラー粒子などのうち1以上を含む複合材料であることができる。
【0022】
第2工程において微小ひずみεが求められる限り、第1層の厚みは特に限定されない。ただし、第1層と第2層の間の応力による第1層の変形(カールなど)を抑えるため、第1層は比較的厚いことが好ましい。具体的には、第1層の厚みは好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.7mm以上である。第1層の厚みの上限は特に無いが、例えば10mm以下である。
ちなみに、第2層の厚みは、評価しようとする材料により適宜設定すればよい。入射X線が十分に透過して第1層に到達する限り、第2層の厚みは限定されない。典型的には、第2層の厚みは、例えば1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下である。また、第2層の厚みは、例えば1μm以上、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上である。
【0023】
第1層における第2層側の面には、第2層との接着性などの観点で表面処理が施されていてもよいし、表面処理が施されていなくてもよい。表面処理を施す場合、その方法は特に限定されず、酸素プラズマ処理、コロナ放電処理など、異種材料間の接着や積層の分野で知られている種々の表面処理を適用することができる。
表面処理の方法や条件を変えることにより、表面処理による応力の変化を探ることも可能である。
【0024】
第2層は、入射X線および/または回折X線を過度に遮らないものである限り、任意の樹脂材料で構成されることができる。
第2層は、例えば、硬化性樹脂組成物の硬化物により構成される。具体的には、第2層は、接着剤組成物の硬化物により構成される。第2層がこれら構成であることにより、硬化性樹脂組成物または接着剤組成物の硬化による「残留応力」を評価することができる。
第2層を構成する硬化性樹脂組成物としては、例えば、エポキシ系の硬化性樹脂組成物、ウレタン系の硬化性樹脂組成物、(メタ)アクリル系の硬化性樹脂組成物、ポリイミド系の硬化性樹脂組成物を挙げることができる。
第2層を構成する接着剤組成物としては、例えば、エポキシ系の接着剤組成物、ウレタン系の接着剤脂組成物、(メタ)アクリル系の接着剤組成物、ポリイミド系の接着剤組成物を挙げることができる。
その他、第2層は、塗料組成物などのコーティング材料による塗膜であってもよいし、第1層にラミネートコーティングされたものであってもよい。要は、第2層は、第1層との密着力や残留応力などについて興味が持たれる任意の材料で構成されることができる。
【0025】
(第2工程)
第2工程では、第1工程で検出された回折X線に基づき、結晶性高分子の結晶格子の格子面間隔の微小ひずみεを求める。微小ひずみεは、以下のdおよびdに基づき、ε=(d-d)/dと定義することができる。
:第1工程で得られた回折X線に基づき求められる、第1層が含む結晶性高分子の結晶格子の格子面間隔
:第2層が存在しない場合における、第1層が含む結晶性高分子の結晶格子の格子面間隔
【0026】
ブラッグの式:2d・sinθ=λ(dは結晶格子の格子面間隔、θはブラッグ角、λはX線の波長)に基づけば、第1工程で検出された回折X線のブラッグ角θの情報から、dを求めることができる。
また、第1層のみを単層でX線回折法により分析することでdを求めることができる。あるいは、dとして文献値を採用してもよい。
【0027】
(第3工程)
上記第2工程まででも、第1層と第2層との間の応力については「微小ひずみε」という形で情報が得られる。例えば、異なる試料間でεの大小を比較することで、応力の定量的な値の算出まではしなくても、応力を定性的に評価することは可能である。つまり、第2工程で得られる微小ひずみεに基づいて、第1層と第2層との間の応力を評価することはできる。
ただし、本実施形態においては、以下で説明する第3工程を行うことが好ましい。第3工程を行うことで、応力を定量的に評価することができる。
【0028】
第3工程では、第2工程で求めた微小ひずみε、ならびに、第1層のポアソン比νおよび弾性率Eに基づき、第1層と第2層との間の応力を算出する。
【0029】
原理的には、前述の図2Bに示すψ=0°での測定結果のみに基づき、第1層と第2層との間の応力を求めることは可能である(後述)。ただし、精度を高め、一軸応力の残留を確認するうえでも、以下のようにして応力を算出することが好ましい。
・第1工程においては、第1層中の2以上の異なる方位の微結晶に対して入射X線を入射させて、図2Aにおけるψが複数の角度において回折X線を検出する。つまり、第1工程においては、2以上のψ、具体的にはψ、・・・、ψ(nは2以上の整数)に対応する2以上の回折X線を検出する。
・第2工程においては、第1工程で検出された2以上の回折X線のそれぞれに対応する2以上の微小ひずみε、具体的にはε、・・・、ε(nは2以上の整数)を求める。
・第3工程においては、第2工程で得られた2以上の微小ひずみεに基づき、第1層と第2層との間の応力σを算出する。例えば、(sinψ、ε)、・・・、(sinψ、ε)からなるn個のデータセットを回帰分析することにより、第1層と第2層との間の応力σを算出する。
【0030】
以下、応力算出の具体的手順として、sinψ法について説明する。
X線応力測定法の過去の知見に基づけば、第2工程で求めた微小ひずみε、第1層のポアソン比ν、第1層の弾性率E、第1層と第2層との間の応力σ、および、図2Aで説明したψの間には、以下数式(X)の関係が成り立つ。
ε={(1+ν)σ/E}sinψ-(ν/E)σ ・・・(X)
数式(X)に示されるとおり、微小ひずみεはsinψの一次関数である。つまり、第1工程および第2工程において、2以上のψでの回折X線に基づき2以上の微小ひずみεを求め、そして、微小ひずみεを縦軸に、sinψを縦軸にプロットして近似直線を引いたとき、その直線の傾きaは(1+ν)σ/Eである。よって、直線の傾きaと、ポアソン比νおよび弾性率Eの値から、a=(1+ν)σ/Eの式に基づき応力σを算出することができる。
第1層のポアソン比νおよび弾性率Eの値は、公知の方法により測定してもよいし、文献値を採用してもよい。また、近似曲線の引き方(回帰分析の具体的手法)としては、最小二乗法を好ましく採用することができるが、それ以外の方法であってもよい。
【0031】
一方、数式(X)は、ψ=0°(つまりsinψ=0)の場合、ε=-(ν/E)σと単純化される。第1工程においてψ=0°での測定のみを行って(ψ=0°となる微結晶に対して入射X線を入射して)微小ひずみεを求め、そしてこの単純化された数式に微小ひずみε、ポアソン比νおよび弾性率Eの値を代入することで、応力σを求めることもできる。この方法は、sinψ法に比べると精度は劣るが、ψ=0°での1回の測定のみで応力σを求めることができるという簡便性の点でメリットがある。
【0032】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0033】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0034】
<実施例1>
(1)第1層の準備
ホットプレス法により、住友化学株式会社製のイソタクチックポリプロピレン(品番:W101)を素材とする、厚み1mmのフィルムを作製した。このフィルムの片面に、酸素プラズマ処理を施した(条件:100W、0.1Torr、10s)。
【0035】
(2)第2層の形成
エポキシ樹脂(jER(登録商標)828、三菱ケミカル株式会社製)、硬化剤(HN-2200、日立化成株式会社製)および硬化促進剤(2E4MZ-CN、四国化成工業株式会社製)を、100:85:1.5の割合(単位:重量部)で混合・脱泡して接着剤組成物を得た。
この接着剤組成物を、(1)で準備したフィルムの酸素プラズマ処理面上に塗布して、100℃で120分間、その後続けて150℃で120分間硬化させた。これにより、第1層:イソタクチックポリプロピレン、第2層:エポキシ系接着剤の硬化物、の積層体状の試料を作製した。なお、第2層については、乾燥厚みが100μmとなるように、接着剤組成物の塗布量を調整した。
【0036】
(3)X線の照射、微小ひずみεの算出、および応力の算出
(2)で得られた積層体状の試料に対して、第2層側からX線を入射した。そして、第1層側から放出された回折X線を検出した。この際、以下(4)でsinψ法を適用するため、ψ=0°、15°、30°、45°および60°において回折X線を得た。
回折X線から得られた、イソタクチックポリプロピレンの結晶の110面からの回折ピーク位置から、微小ひずみεを求めた。
【0037】
(4)結果
図3Aに、得られた回折X線プロファイルを示す。図3Aには、ψ=0°、15°、30°、45°および60°における回折X線プロファイルを同時に示した。また、微小ひずみに伴う回折ピークのシフトについても示した。ψの値によりピーク位置がシフトしていることから、結晶の微小ひずみεが発生していることがわかる。
【0038】
また、図3Bに、微小ひずみεを縦軸に、sinψを縦軸にプロットしたグラフを示す。
図3Bにおいては、ψが大きくなるにつれて格子ひずみは小さくなった。このことは、第1層は面内での収縮が妨げられ,引張の応力が残留していることに対応する。
各点に基づき引いた近似直線の勾配、第1層のポアソン比ν(0.42)および第1層の弾性率E(2.8GPa)から、sinψ法により求めた、第1層と第2層との間に残留する応力は8.5MPaであった。
【0039】
<実施例2>
(1)の酸素プラズマ処理の条件を、(150W、0.1Torr、15s)とした以外は、実施例1と同様の評価を行った。
【0040】
図4Aに、sinψの変化に伴うイソタクチックポリプロピレンの結晶の微小ひずみεおよび微小ひずみに伴う回折ピークのシフトを示す。また、図4Bに、微小ひずみεを縦軸に、sinψを縦軸にプロットしたグラフを示す。sinψ法により求めた、第1層と第2層との間に残留する応力は24.1MPaであった。実施例1よりも大きい応力が算出されたことは、酸素プラズマ処理の条件の変更によって第1層-第2層間の接着力が高まったことに対応すると解釈可能である。
【0041】
<参考:他の熱残留応力評価法との比較>
他の熱残留応力評価法に基づき求められる残留応力と、上記で求められた残留応力とを比較した。具体的には、線熱膨張係数を用いた熱残留応力の評価式として知られている以下数式(z)に基づき、熱残留応力を計算した。参考までに、この数式については非特許文献3で説明されている。
【0042】
【数1】
【0043】
数式(z)における各記号は以下を意味する。
Tg:第2層のガラス転移温度
E:第1層の弾性率
ν:第1層のポアソン比
α:第1層の熱膨張係数
α:第2層の熱膨張係数
【0044】
ちなみに、今回、Eの値としては、高分子論文集 42、241-247(1985)に基づき2.9GPaを、νの値としては、Polymer Composites 17、No.1(1997)に基づき0.4を採用した。
また、αとαは、窒素雰囲気下での実測に基づき求めた。
【0045】
数式(z)を計算することで求められた残留応力の値は、25MPaであり、実施例2で求められた残留応力の値(24.1MPa)とよい一致を示した。このことは、本実施形態の応力評価方法により、良好な精度で定量的に応力を求めることができることを意味する。
ちなみに、数式(z)を計算することで求められた残留応力の値が、実施例1ではなく実施例2で求められた残留応力の値とよく一致している理由は、実施例2では第1層と第2層が強く接着しており、数式(z)の導出の際のモデルに近い状態となっているためと推測される。
図1
図2
図3
図4