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特開2022-159710磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体及び磁気記憶装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159710
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体及び磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/64 20060101AFI20221011BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20221011BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20221011BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20221011BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
G11B5/64
G11B5/84 Z
G11B5/851
G11B5/65
G11B5/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064071
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】徐 晨
(72)【発明者】
【氏名】黒川 剛平
(72)【発明者】
【氏名】張 磊
(72)【発明者】
【氏名】福島 隆之
(72)【発明者】
【氏名】茂 智雄
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 伸
【テーマコード(参考)】
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
5D006CA01
5D006DA03
5D006EA03
5D112AA03
5D112AA05
5D112AA24
5D112BB01
5D112BB06
5D112FA04
5D112FB02
5D112FB04
5D112FB06
5D112GB02
(57)【要約】
【課題】結晶配向性が高く、欠陥が少ない磁性層を有することができる磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、基板の表面に、酸化マグネシウムを含むターゲットを用いて、スパッタ法により、酸化マグネシウム下地層を形成する工程と、前記酸化マグネシウム下地層の表面側に、磁性層を形成する工程と、を含み、前記酸化マグネシウム下地層を形成する際、前記酸化マグネシウムを含むターゲットを600℃以上に加熱する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に、酸化マグネシウムを含むターゲットを用いて、スパッタ法により、酸化マグネシウム下地層を形成する工程と、
前記酸化マグネシウム下地層の表面側に、磁性層を形成する工程と、
を含み、
前記酸化マグネシウム下地層を形成する際、前記酸化マグネシウムを含むターゲットを600℃以上に加熱する磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記酸化マグネシウムを含むターゲットは、800℃以上に加熱する請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁性層は、L1構造を有するFePt合金及びCoPt合金の少なくとも一方を含む請求項1又は2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
酸化マグネシウムを含む酸化マグネシウム下地層と、
L1構造を有するFePt合金を含む磁性層と、
を備え、
前記酸化マグネシウムは、X線光電子分光法で測定した時に検出されるO1sスペクトルのピークが、531eV~533eVである磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気記録媒体を備える磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体は、一般に、基板上に、下地層、磁性層及び保護層をこの順に積層することで製造される。磁気記録媒体に磁気情報を記録する方法として、磁気記録媒体にレーザー光等を照射して磁性層表面を局所的に加熱することにより、磁性層の保磁力を低下させて磁気情報を記録する熱アシスト記録方式がある。熱アシスト記録方式は、1Tbit/inchクラスの面記録密度を実現することができることから、磁気記録媒体の小型化、高記録密度化に伴い、記憶容量を高めることができる次世代の磁気記録方式として検討されている。
【0003】
熱アシスト記録方式に用いることが可能な磁気記録媒体として、例えば、基板と、基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層とからなり、複数の下地層が、NiO下地層と、配向制御層とを含む磁気記録媒体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この磁気記録媒体では、配向制御層は、BCC構造の合金からなる下地層と、NaCl構造を有するMgO等の下地層を含み、NiO下地層に(100)配向をとらせるようにしている。
【0004】
磁気記録培媒体の磁性層として、L1構造を有するFePt合金を用いる場合、磁性層の結晶配向面として(001)面が用いられる。FePt合金を(001)配向させるため、下地層としては、一般に、(100)配向しているMgOが用いられることが多い。即ち、MgOの(100)面は、FePt合金の(001)面と格子整合性が高いため、MgO層の上方に、FePt合金を含む磁性層を成膜することにより、FePt合金は、(001)配向させやすくなる。また、特許文献1の磁気記録媒体では、NiO下地層も(100)配向をとらせるため、配向制御層の下地層として、MgOが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-026368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
配向制御層の形成にMgOを用いる場合、MgO層の形成には一般にスパッタ法が用いられるが、MgOは融点が高いため焼結性が悪い。焼結性の悪いターゲットを用いてスパッタ法によりMgO層を形成すると、ターゲット表面で異常放電(アーキング)が生じてターゲット表面が溶融及び飛散することで、スパッタダストが発生し易い、という問題があった。このスパッタダストにより、MgO層の結晶配向性が低下すると共に、MgO層に欠陥が生じ易くなる。そのため、MgO層の上に形成される磁性層の結晶配向性が低下すると共に、磁性層内に欠陥が生じる可能性が高くなる。
【0007】
本発明の一態様は、結晶配向性が高く、欠陥が少ない磁性層を有することができる磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一態様は、基板の表面に、酸化マグネシウムを含むターゲットを用いて、スパッタ法により、酸化マグネシウム下地層を形成する工程と、前記酸化マグネシウム下地層の表面側に、磁性層を形成する工程と、を含み、前記酸化マグネシウム下地層を形成する際、前記酸化マグネシウムを含むターゲットを600℃以上に加熱する。
【0009】
本発明の一態様に係る磁気記録媒体は、酸化マグネシウム下地層と、L1構造を有するFePt合金を含む磁性層とを備え、前記酸化マグネシウム下地層は、酸化マグネシウムを含み、前記酸化マグネシウムは、XPSで測定した時のO1sスペクトルのピークが、531eV~533eVである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、結晶配向性が高く、欠陥が少ない磁性層を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法の一工程を示す説明図である。
図3】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法の他の工程を示す説明図である。
図4】MgOターゲットのターゲット温度と、チャンバ内に発生するスパッタダストの量との関係の一例を示す図である。
図5】XPSで測定した酸化マグネシウム膜のO1sスペクトルである。
図6】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法の他の工程を示す説明図である。
図7】本発明に係る実施形態に係る磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。
図8】磁気ヘッドの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明するに当たり、本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法により得られる磁気記録媒体について説明する。
【0014】
[磁気記録媒体]
図1は、本実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。図1に示すように、磁気記録媒体1は、基板10と、下地層20と、L1構造を有する合金を含む磁性層30を、基板10側からこの順に積層して備える。
【0015】
なお、本明細書では、磁気記録媒体1の厚さ方向(垂直方向)をZ軸方向とし、厚さ方向と直交する横方向(水平方向)をX軸方向とする。Z軸方向の磁性層30側を+Z軸方向とし、基板10側を-Z軸方向とする。以下の説明において、説明の便宜上、+Z軸方向を上又は上方といい、-Z軸方向を下又は下方と称すが、普遍的な上下関係を表すものではない。
【0016】
図1では、基板10の上方にのみ下地層20及び磁性層30を示すが、磁気記録媒体1は、基板10の下方にも、基板10側から下地層20及び磁性層30をこの順に積層して備える。
【0017】
磁気記録媒体1は、基板10の上下両面の上に、下地層20及び磁性層30を有し、情報を基板10の上下両面に記録(両面記録)できるが、基板10の上面又は下面の一方の面のみに下地層20及び磁性層30を有し、情報を基板10の片面にのみ記録(片面記録)できるものでもよい。
【0018】
基板10を構成する材料は、磁気記録媒体に使用可能な材料であれば特に限定されず使用できる。基板10を構成する材料としては、例えば、AlMg合金等のAl合金、ソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、アモルファスガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、サファイア、石英、樹脂等が挙げられる。これらの中でも、Al合金や、結晶化ガラス、アモルファスガラス等のガラスが好ましい。
【0019】
下地層20は、第1の下地層である酸化マグネシウム(MgO)下地層21を備え、第2の下地層22を備えてよい。下地層20は、MgO下地層(第1の下地層)21及び第2の下地層22を、基板10側から第2の下地層22及びMgO下地層21の順に積層して備える。
【0020】
MgO下地層21は、第2の下地層22の上方に設けられている。MgO下地層21は、下地層20の最上層(基板10から最も遠い層)とするのが好ましく、MgOを含み、MgOから実質的になることが好ましく、MgOのみからなることがより好ましい。「実質的に」とは、MgO以外に、製造過程で不可避的に含まれ得る不可避不純物を含んでもよいことを意味する。
【0021】
本実施形態では、MgO下地層21は、第1の磁性層31と接しているため、MgOの(100)面と、第1の磁性層31に含まれる、L1構造を有する磁性合金の(001)面とが格子整合し易くなるため、磁性合金の結晶配向性を高めることができる。
【0022】
MgO下地層21は、後述するように、スパッタリング法(スパッタ法)により、所定の条件下で成膜することで形成される。MgO下地層21は、X線光電子分光法(XPS)で測定した時に検出される、MgOのO1sスペクトルのピークを531eV~533eVに有している。MgO下地層21の製造条件、特性の詳細については後述する。
【0023】
第2の下地層22は、基板10の上方に設けられている。
【0024】
第2の下地層22を構成する材料としては、第1の磁性層31を(001)配向させることが可能であれば、特に限定されず、例えば、(100)配向しているW、Cr、BCC構造を有するCr合金、B2構造を有する合金等が挙げられる。
【0025】
BCC構造を有するCr合金としては、例えば、CrMn合金、CrMo合金、CrW合金、CrV合金、CrTi合金、CrRu合金等が挙げられる。
【0026】
B2構造を有する合金としては、例えば、RuAl合金、NiAl合金等が挙げられる。
【0027】
なお、下地層20の積層数は、特に限定されず、それぞれ3層以上であってもよい。
【0028】
下地層20の積層数が3層以上である場合、MgO下地層21以外の下地層は、第2の下地層22と同様の材料を用いて形成できる。
【0029】
磁性層30は、第1の磁性層31および第2の磁性層32を、MgO下地層21側からこの順に積層して備える。
【0030】
第1の磁性層31は、磁性層30の最下層(基板10に最も近い層)であるが、L1構造を有する合金を含むのが好ましい。
【0031】
第1の磁性層31を構成するL1構造を有する合金は、Fe又はCoと、Ptとをさらに含むことが好ましい。L1構造を有する合金としては、具体的には、FePt合金、CoPt合金であることが好ましい。FePt合金の結晶磁気異方性定数(Ku)が7×10J/m以下であり、CoPt合金のKuが5×10J/m以下であり、いずれも、1×10J/m台のKuが高い材料(高Ku材料)である。そのため、FePt合金又はCoPt合金を第1の磁性層31を構成する材料として用いることで、磁性層30は、熱安定性を維持したまま、磁性層30を構成する磁性粒子を、例えば粒径が6nm以下になるまで微細化することができる。
【0032】
第1の磁性層31は、粒界偏析材料をさらに含み、グラニュラー構造を有していてもよい。これにより、第1の磁性層31が(001)配向し易くなり、(100)配向しているMgO下地層21との格子整合性が向上する。
【0033】
第1の磁性層31に含まれる粒界偏析材料としては、例えば、VN、BN、SiN、TiN等の窒化物、C、VC等の炭化物、BN等のホウ化物等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0034】
第2の磁性層32は、第1の磁性層31と同様、L1構造を有する合金を含むことが好ましい。これにより、磁性層30の(001)配向性が向上する。即ち、第2の磁性層32としては、第1の磁性層31の配向に沿ってエピタキシャル成長した磁性膜を成膜することができる。
【0035】
第2の磁性層32を構成するL1構造を有する合金は、第1の磁性層31と同様、Fe又はCoと、Ptとを含むことが好ましい。
【0036】
第2の磁性層32は、第1の磁性層31と同様、粒界偏析材料をさらに含み、グラニュラー構造を有していてもよい。
【0037】
第2の磁性層32に含まれる粒界偏析材料VN、BN、SiN、TiN等の窒化物、C、VC等の炭化物、BN等のホウ化物、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO等の酸化物等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0038】
なお、磁性層30の積層数は、特に限定されず、3層以上であってもよい。
【0039】
磁性層30の積層数が3層以上である場合、第1の磁性層31以外の磁性層は、第2の磁性層32と同様の材料を用いて形成できる。
【0040】
磁気記録媒体1は、磁性層30上に、保護層40を備えることが好ましい。
【0041】
保護層40は、磁気記録媒体1が磁気ヘッド等との接触による損傷等から磁気記録媒体1を保護する機能を有する。
【0042】
保護層40の厚さは、1nm~6nmであることが好ましい。保護層40の厚さが1nm~6nmであれば、磁気ヘッドの浮上特性が良好となると共に、磁気スペーシングが小さくなり、磁気記録媒体1のSNRが向上する。
【0043】
磁気記録媒体1は、保護層40上に、潤滑剤層50をさらに有してもよい。
【0044】
潤滑剤層50を構成する材料としては、例えば、パーフルオロポリエーテル等のフッ素樹脂等が挙げられる。
【0045】
本実施形態に係る磁気記録媒体1は、MgOを含むMgO下地層21と、磁性層30とを備え、MgO下地層21に含まれるMgOは、XPSで測定した時に検出されるO1sスペクトルのピークを531eV~533eVに有している。MgO下地層21は結晶配向性が高く、欠陥も少ないため、MgO下地層21の上方に形成される磁性層30も、MgO下地層21と同様に、高い結晶配向性を有しかつ欠陥を生じ難くしながら成膜できる。よって、磁気記録媒体1は、MgO下地層21の上方に、結晶配向性が高く、欠陥の少ない磁性層30を有することができる。
【0046】
[磁気記録媒体の製造方法]
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法は、MgO下地層(第1の下地層)の形成工程と、磁性層の形成工程とを含み、第2の下地層の形成工程、保護層の形成工程、潤滑剤層の形成工程等の他の構成を含んでもよい。
【0047】
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法は、第2の下地層の形成工程、MgO下地層(第1の下地層)の形成工程、磁性層の形成工程、保護層の形成工程及び潤滑剤層の形成工程を含む。
【0048】
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法では、まず、図2に示すように、基板10の表面に、MgO下地層21を形成してよい(第1の下地層の形成工程)。
【0049】
次に、図3に示すように、第2の下地層22の表面に、MgOを含むターゲットを用いて、スパッタリング法(スパッタ法)により、MgO下地層21を形成する(MgO下地層の形成工程)。
【0050】
MgO下地層21を形成する際、MgOを含むターゲットを600℃以上に加熱し、800℃以上に加熱することが好ましく、1000℃以上に加熱することがさらに好ましい。
【0051】
MgOは融点が高いため、焼結性が悪い。そのため、スパッタ用ターゲットとして、十分に高密度なMgOを含むMgOターゲットを製造することは困難である。通常のMgOターゲットの相対密度は65%~98%程度であるため、スパッタ時にターゲット表面で異常放電(アーキング)が生じやすい。このアーキングにより、ターゲット表面が溶融及び飛散することで発生したスパッタダストがMgO下地層21の上面である成膜面に付着することで、MgO下地層21の結晶性が低下すると共に、MgO下地層21に欠陥が生じ易くなる。これらはMgO下地層21の上面に形成される磁性層30にも引き継がれ、磁性層30の結晶性が低下し、また、磁性層30に欠陥が導入されることで磁気記録媒体1のデータ面に読み書き不能の個所が生じ、製品収率の低下を引き起こす可能性がある。
【0052】
本願発明者らは、磁性層30の結晶性の低下及び磁性層30内の欠陥の発生について鋭意検討した結果、MgO下地層21の形成時の成膜条件、特に、MgOを含むMgOターゲットの加熱温度に着目した。そして、MgOターゲットを600℃以上の極めて高温に加熱しながらスパッタすることで、スパッタダストの発生を抑えられ、結晶配向性が高く、欠陥の少ないMgO下地層21を成膜することができ、MgO下地層21の上方に形成される磁性層30も結晶配向性が向上し、欠陥を低減できることを見出した。
【0053】
図4は、MgOターゲットのターゲット温度と、スパッタ装置のチャンバ内に発生するスパッタダストの量との関係の一例を示す図である。なお、図4は、相対密度85%、直径120mmのMgOターゲットを使用し、投入電力を1kW、スパッタガス圧を3Paとし、スパッタガスをArガスとして、RFスパッタリング法を用いて、2時間スパッタを行い、スパッタダストの量を求めた結果である。スパッタダストの量は、直径3.5インチの磁気記録媒体用基板の片面で半径16mm~48mmの範囲内に付着するダストをカウントした。なお、磁気記録媒体の製造時におけるMgO膜の成膜時間は、通常、10秒程度である。図4に示すように、MgOターゲットのターゲット温度を600℃以上としてスパッタすれば、MgOターゲットのターゲット温度を400℃以下にしてスパッタする場合よりも、スパッタダストの数を1/2以下に低減できる。
【0054】
また、MgOターゲットを用いて、MgOターゲットの加熱温度を600℃以上としてスパッタ法によりで製造したMgO膜は、従来の方法で製造したMgO膜と物性の点でも相違する。なお、従来の方法とは、MgOターゲットを加熱せずに成膜した場合であり、具体的には、MgOターゲットの温度を400℃以下で成膜した場合である。この際のMgOターゲットは通常は裏面を水冷している。
【0055】
図5は、X線光電子分光法(XPS)で測定した酸化マグネシウム膜のO1sスペクトルである。図5中、(a)は従来の方法で成膜した場合の酸化マグネシウム膜のスペクトルであり、(b)は本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法で製造した場合の酸化マグネシウム膜のスペクトルである。図5に示すように、(a)では、530eV付近にO1sスペクトルのピークがある。これに対し、(b)では、O1sスペクトルのピークが1eVほど高エネルギー側にシフトし、531eV~533eVの範囲内にある。
【0056】
このようなピークシフトは、本願発明者らの検討によると、MgO膜の表層側ほど顕著となり、MgO中の酸素の一部がOHに置換されることで発生していると考える。
【0057】
そして、この置換により、MgO(100)面と、L1構造を有するFePt合金の(001)面との格子整合性が高まり、FePt合金膜の(001)配向性が高まるといえる。
【0058】
スパッタ法に用いられる、MgOを含むスパッタターゲットは、通常、絶縁体であるため、スパッタ法としては、RFスパッタリング法を用いることが好ましい。一方で、スパッタターゲットが導電性を有する場合は、DCスパッタリング法、DCマグネトロンスパッタリング法を用いることができる。
【0059】
次に、図6に示すように、MgO下地層21の表面に、磁性層30を形成する(磁性層の形成工程)。
【0060】
磁性層の形成工程では、MgO下地層21の表面に、第1の磁性層31を形成する(第1の磁性層の形成工程)。
【0061】
第1の磁性層31の形成方法としては、第1の磁性層31を形成する材料を含むターゲットを用いて、スパッタリング法により形成できる。
【0062】
第1の磁性層31を形成する材料を含むターゲットとしては、L1構造を有する合金を含むターゲットを用いることが好ましい。L1構造を有する合金としては、Fe又はCoと、Pt等を含む合金を用いることができ、例えば、FePt合金、CoPt合金等を用いることができる。
【0063】
スパッタリング法としては、DCマグネトロンスパッタリング法、RFスパッタリング法の成膜方法を用いることができる。
【0064】
第1の磁性層31を成膜する際には、必要に応じて、RF(Radio Frequency)バイアス、DCバイアス、パルスDC、パルスDCバイアス等を用いてもよい。
【0065】
反応性ガスとして、Oガス、HOガス、Nガス等を用いてもよい。
【0066】
スパッタリングガス圧は、各層の特性が最適になるように適宜調整されるが、通常、0.1Pa~30Pa程度の範囲内である。
【0067】
その後、第1の磁性層31の表面に第2の磁性層32を形成する(第2の磁性層の形成工程)。
【0068】
第2の磁性層32の形成方法としては、第1の磁性層31の形成方法と同様、第2の磁性層32を形成する材料を含むターゲットを用いて、スパッタリング法により形成できる。
【0069】
第2の磁性層32を形成する材料を含むターゲットとしては、第1の磁性層31を形成する材料を含むターゲットと同様のターゲットを用いることができる。
【0070】
スパッタリングの条件は、第1の磁性層31のスパッタリング条件と同様の条件を用いることができる。
【0071】
次に、図1に示すように、磁性層30の表面に、保護層40を形成する(保護層の形成工程)。
【0072】
保護層40の成膜方法としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素からなる原料ガスを高周波プラズマで分解して成膜するRF-CVD(Radio Frequency-Chemical Vapor Deposition)法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して成膜するIBD(Ion Beam Deposition)法、原料ガスを用いずに、固体炭素ターゲットを用いて成膜するFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法等が挙げられる。
【0073】
さらに、保護層40の表面に、一般的な塗布法等を用いることで、潤滑剤層50を形成してよい(潤滑剤層の形成工程)。
【0074】
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法は、MgO下地層の形成工程と、磁性層の形成工程とを含み、MgO下地層の形成工程において、MgOを含むMgOターゲットを600℃以上に加熱してMgO下地層21を形成している。これにより、MgO下地層21の形成時においてスパッタ装置のチャンバ内にMgOターゲットに起因してスパッタダストが発生することを抑えることができる。これにより、MgO下地層21は、結晶配向性が高く、欠陥の少ない状態で成膜することができる。この結果、得られるMgO下地層21に含まれるMgOをXPSで測定すると、O1sスペクトルのピークは、531eV~533eVの範囲内で検出される。このXPSで測定結果から、得られるMgO下地層21は、(100)配向しており、その結晶配向性が高い。磁性層30としてFePt合金を用いる場合、磁性層30の結晶配向面として(001)面が用いられる。そのため、MgO下地層21の結晶配向性を高めることで、その表面に形成される磁性層30の結晶配向性を高めることができる。また、結晶配向性が高くなることで、磁性層30内に生じる欠陥を低減することができる。よって、本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法によれば、結晶配向性が高く、欠陥の少ない磁性層30を有する磁気記録媒体1を製造することができる。
【0075】
即ち、磁性層30に含まれる第1の磁性層31又は第2の磁性層32がFePt合金を含む場合、磁性層30の結晶配向面として(001)面が用いられる。そして、MgO下地層21に含まれるMgOは、(100)配向している。MgO下地層21に含まれるMgOの(100)面は、磁性層30に含まれるL1構造を有するFePt合金の(001)面と格子整合性が高いため、MgO下地層21上に、FePt合金を含む磁性層30を成膜することで、FePt合金を含む磁性層30は(001)配向させ易くなる。そのため、MgO下地層21の結晶配向性を高めると共に欠陥を少なくすることで、その表面に形成される磁性層30の結晶配向性も高めることができると共に欠陥を少なくすることができる。
【0076】
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法は、MgO下地層の形成工程において、スパッタ用ターゲットとして、MgOを高密度に含むターゲットを製造しなくても、結晶配向性を高めると共に、欠陥の発生を抑えたMgO下地層21を形成することができる。よって、本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法によれば、これまでのMgOを含むターゲットを用いて、結晶配向性が高く、欠陥の少ないMgO下地層21を形成できる。
【0077】
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法は、MgO下地層の形成工程において、MgOを含むターゲットを800℃以上に加熱して、MgO下地層21を形成することができる。これにより、MgO下地層21の結晶配向性をより確実に高めることができると共に、欠陥を少なくすることができるため、その表面に形成される磁性層30の結晶配向性もより確実に高めることができると共に、磁性層30中に生じる欠陥を低減することができる。よって、本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法によれば、磁気記録媒体1は、より結晶配向性が高く、欠陥の少ない磁性層30を有することができる。
【0078】
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法は、磁性層30が、L1構造を有するFePt合金及びCoPt合金の少なくとも一方を含むことができる。FePt合金及びCoPt合金は、いずれも、1×10J/m台の高Ku材料である。そのため、FePt合金及びCoPt合金の少なくとも一方を磁性層30を構成する材料として用いることで、熱安定性を維持したまま、磁性層30を構成する磁性粒子を、例えば、粒径が6nm以下になるまで微細化することができる。よって、記録方式として熱アシスト記録方式を用いた際には、磁性層30は、室温において数十kOeの保磁力を有することができ、磁性層30に、磁気ヘッドの記録磁界によって、磁気情報を容易に記録することができる。
【0079】
また、FePt合金及びCoPt合金の少なくとも一方を含む磁性層30は、結晶配向面として(001)面を用いることができる。MgO下地層21は、(100)配向しているため、MgO又はCoPtの(100)面とFePt合金の(001)面との格子整合性が高いため、磁性層30の結晶配向性は高め易くなる。よって、本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法によれば、磁気記録媒体1は、より結晶配向性が高く、欠陥の少ない磁性層30を有することができる。
【0080】
[磁気記憶装置]
本実施形態に係る磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置について説明する。本実施形態に係る磁気記憶装置は、本実施形態に係る磁気記録媒体を有すれば、形態は特に限定されない。なお、ここでは、磁気記憶装置が熱アシスト記録方式を用いて磁気情報を磁気記録媒体に記録する場合について説明する。
【0081】
本実施形態に係る磁気記憶装置は、例えば、本実施形態に係る磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部と、先端部に近接場光発生素子が設けられている磁気ヘッドと、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理部を有することができる。
【0082】
また、磁気ヘッドは、例えば、磁気記録媒体を加熱するためのレーザー光発生部と、レーザー光発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路を有する。
【0083】
図7は、本実施形態に係る磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。図7に示すように、磁気記憶装置100は、磁気記録媒体101と、磁気記録媒体101を回転させるための磁気記録媒体駆動部102と、先端部に近接場光発生素子を備えた磁気ヘッド103と、磁気ヘッド103を移動させるための磁気ヘッド駆動部104と、記録再生信号処理部105とを有することができる。磁気記録媒体101は、上述の本実施形態に係る磁気記録媒体1が用いられる。
【0084】
図8は、磁気ヘッド103の一例を示す模式図である。図8に示すように、磁気ヘッド103は、記録ヘッド110と、再生ヘッド120とを有する。
【0085】
記録ヘッド110は、主磁極111と、補助磁極112と、磁界を発生させるコイル113と、レーザー光発生部であるレーザーダイオード(LD)114と、LD114から発生したレーザー光Lを近接場光発生素子115まで伝送する導波路116とを有する。
【0086】
再生ヘッド120は、シールド121と、シールド121で挟まれた再生素子122を有する。
【0087】
図3に示すように、磁気記憶装置100は、磁気記録媒体101の中心部をスピンドルモータの回転軸に取り付けて、スピンドルモータにより回転駆動される磁気記録媒体101の面上を磁気ヘッド103が浮上走行しながら、磁気記録媒体101に対して情報の書き込み又は読み出しを行う。
【0088】
本実施形態に係る磁気記憶装置100は、磁気記録媒体101に本実施形態に係る磁気記録媒体1を用いることで、磁気記録媒体101を高記録密度化することができるため、記録密度を高めることができる。
【実施例0089】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0090】
<実施例1>
[磁気記録媒体の製造]
以下の方法により、磁気記録媒体を製造した。
【0091】
耐熱ガラス基板上に、厚さ50nmの50原子%Cr-50原子%Ti合金膜(第3の下地層)と、厚さ25nmの75原子%Co-20原子%Ta-5原子%B合金膜(軟磁性下地層)をこの順で成膜した。次に、基板を250℃まで加熱した後、厚さ10nmのCr膜(第2の下地層)を成膜した。このとき、第3の下地層、軟磁性下地層、第2の下地層の成膜には、DCマグネトロンスパッタ装置(C-3040、アネルバ社製)を用いた。
【0092】
次に、RFスパッタ装置を用いて、第1の下地層であるMgO下地層を成膜した。具体的には、相対密度85%、直径120mmのMgOターゲットを使用し、ターゲット温度を1000℃、投入電力1kW、スパッタガスAr、スパッタガス圧3Paとして12秒間放電し、厚さ2nmのMgO膜を成膜した。
【0093】
次に、基板を520℃まで加熱した後、厚さ3nmの60mol%(52at%Fe-48at%Pt)-40mol%C膜(第1の磁性層)と、厚さ5nmの82mol%(52at%Fe-48at%Pt)-18mol%SiO膜(第2の磁性層)をこの順で成膜した。このとき、第1の磁性層、第2の磁性層の成膜には、DCマグネトロンスパッタ装置(C-3040、アネルバ社製)を用いた。
【0094】
次に、イオンビーム法を用いて、厚さ3nmのカーボン膜を保護層として成膜した後、塗布法により、パーフルオロポリエーテル膜を潤滑剤層として形成することで、磁気記録媒体を得た。
【0095】
(磁性層の(001)配向性)
X線回折装置(Philips製)を用いて、第2の磁性層を成膜した後の基板のX線回折スペクトルを測定し、FePt合金の(200)ピークの半値幅を求めた。
【0096】
第2の磁性層の(001)配向性は、第2の磁性層に含まれるL1構造を有するFePt合金の(200)ピークの半値幅を用いて評価した。ここで、FePt合金の(001)ピークは、出現角度2θが十分に大きくない。そのため、ロッキングカーブを測定する時に低角度側を測定限界まで広げても、FePt合金の(001)ピークの強度が、ピークが存在していない場合に対して安定しておらず、半値幅を解析するのが困難である。このような測定上の理由により、FePt合金の(001)ピークの半値幅を用いて、磁性層の(001)配向性を評価するのが困難である。一方、FePt合金の(200)ピークは、FePt合金が(001)配向する際に現れるが、出現角度2θが十分に大きいため、磁性層の(001)配向性を評価するのに適している。
【0097】
FePt合金の(200)ピークの半値幅の評価結果を表1に示す。また、上記と同じ条件で磁気記録媒体を1000枚製造した時の収率をエラーテスターにより評価した。評価結果を表1に示す。
【0098】
<実施例2~3、比較例1>
実施例1において、MgO下地層の成膜時のMgOターゲットの加熱温度を表1の温度に変更したこと以外は、実施例1と同様にして行った。FePt合金の(200)ピークの半値幅の評価結果と、各実施例及び比較例において同じ条件で磁気記録媒体を1000枚製造した時の収率を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1より、実施例1~実施例3では、磁気記録媒体を1000枚製造した時の収率が98.7%以上であった。一方、比較例1では、磁気記録媒体を1000枚製造した時の収率が98.1%であった。
【0101】
実施例1~実施例3は、比較例1と異なり、MgO下地層の成膜時にMgOターゲット温度を600℃以上にしてMgO下地層を成膜して、磁気記録媒体を製造することで、第2の磁性層の配向性を高め、収率を向上させることができることが確認された。したがって、本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法によれば、磁気記録媒体を高効率で製造することができるといえる。
【0102】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0103】
1、101 磁気記録媒体
10 基板
20 下地層
21 酸化マグネシウム(MgO)下地層(第1の下地層)
22 第2の下地層
30 磁性層
31 第1の磁性層
32 第2の磁性層
100 磁気記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8