(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159716
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】空調制御システム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/63 20180101AFI20221011BHJP
【FI】
F24F11/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064081
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】金本 薫希
(72)【発明者】
【氏名】細沢 貴史
(72)【発明者】
【氏名】森田 舟哉
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260BA02
3L260BA75
3L260CA12
3L260EA02
3L260EA28
3L260FA03
(57)【要約】
【課題】人が快適と感じる環境を好適に創り出すことが可能な空調制御システムを提供する。
【解決手段】空調制御システムには、空調対象空間1での境界条件を取得する境界条件取得手段21Aと、空調対象空間1を模擬して多数のゾーンに細分された仮想空間内において、取得した境界条件に基づいて空調対象空間1での温熱・気流分布を再現予測するシミュレーションを実行して、ゾーンごとの温熱・気流に関する情報を環境情報として取得する環境情報取得手段30Aと、取得した環境情報に基づいて人が感じる快適性を示す温冷感指標を取得する温冷感指標取得手段21Bと、取得した温冷感指標のうち、多数のゾーンから任意に設定される特定ゾーンでの温冷感指標に基づいて、空調対象空間1を空調する空調設備10を制御する制御手段21Cとが備えられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調対象空間での境界条件を取得する境界条件取得手段と、
前記空調対象空間を模擬して多数のゾーンに細分された仮想空間内において、前記境界条件取得手段が取得した前記境界条件に基づいて前記空調対象空間での温熱・気流分布を再現予測するシミュレーションを実行して、前記ゾーンごとの温熱・気流に関する情報を環境情報として取得する環境情報取得手段と、
前記環境情報取得手段が取得した前記環境情報に基づいて人が感じる快適性を示す温冷感指標を取得する温冷感指標取得手段と、
前記温冷感指標取得手段が取得した前記温冷感指標のうち、前記多数のゾーンから任意に設定される特定ゾーンでの前記温冷感指標に基づいて、前記空調対象空間を空調する空調設備を制御する制御手段とが備えられている空調制御システム。
【請求項2】
前記境界条件取得手段は、前記空調設備として前記空調対象空間内で空調空気を循環させる循環ファンによる循環風量を前記境界条件として取得する請求項1に記載の空調制御システム。
【請求項3】
前記境界条件取得手段は、前記空調設備としての空調機から前記空調対象空間に供給される空調空気の給気温度と、前記空調空気の給気風量と、前記空調対象空間からの排気風量とを前記境界条件として取得する請求項1又は2に記載の空調制御システム。
【請求項4】
前記境界条件取得手段は、前記空調対象空間の表面温度を前記境界条件として取得する請求項1~3のいずれか一項に記載の空調制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が快適と感じる空調環境を創り出す空調制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術としては、例えば、空調環境モニタリングシステムにおいて、室内気流シミュレーションプログラムが、先ず室内外への出入り気流・出入り熱量及び室内での発生熱量などの境界条件データを取得して、室内形状データと解析対象の領域の流体を適切な間隔で分割した空間格子データとに基づいて室内空間をメッシュ分割し、取得した境界条件データよりシミュレーションを実行し、メッシュ単位での室内の温度分布及び気流速度分布を算出することにより、空間格子データ上に配置された風速・空気温度、体感温度のシミュレーション結果を自動空調制御運転に反映させることを可能にする技術がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
又、空調制御システムにおいて、シミュレーションソフトを用いて空調室内の温度分布を求め、エリア毎に、問題発生時に行う制御を規定した複数の対策パラメータを登録しておき、あるエリアで環境に変動があった場合に、そのエリアに対する対策パラメータを付加したシミュレーションを行って対策の適否を判定し、問題が解決できない場合は次の対策パラメータを付加してシミュレーションを繰り返し、問題が解決できたら空調設備に対して指示情報を送り、全ての対策パラメータを付加しても問題が解決できない場合は、その旨を通報する技術がある(例えば特許文献2参照)。
【0004】
更に、情報処理システムにおいて、解析部が、部屋の解析モデルである空間モデルと部屋の内部に存在する物体の解析モデルであるオブジェクトモデルとを含むシミュレーションモデルを利用して、シミュレーションを実施し、空調機器を制御するための1又は複数の制御パラメータの少なくとも1つを決定し、中央監視装置が、決定された制御パラメータに基づいて空調機器を制御する技術がある(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5674193号公報
【特許文献2】特開2010-139119号公報
【特許文献3】特開2018-151095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1~3に記載の技術では、人が快適と感じる空調環境を創り出す上においては不十分であり、改善の余地がある。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、人が快適と感じる環境を好適に創り出すことが可能な空調制御システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は、空調対象空間での境界条件を取得する境界条件取得手段と、
前記空調対象空間を模擬して多数のゾーンに細分された仮想空間内において、前記境界条件取得手段が取得した前記境界条件に基づいて前記空調対象空間での温熱・気流分布を再現予測するシミュレーションを実行して、前記ゾーンごとの温熱・気流に関する情報を環境情報として取得する環境情報取得手段と、
前記環境情報取得手段が取得した前記環境情報に基づいて人が感じる快適性を示す温冷感指標を取得する温冷感指標取得手段と、
前記温冷感指標取得手段が取得した前記温冷感指標のうち、前記多数のゾーンから任意に設定される特定ゾーンでの前記温冷感指標に基づいて、前記空調対象空間を空調する空調設備を制御する制御手段とが備えられている点にある。
【0009】
本構成によると、特定ゾーンが、実空間では人や物あるいは使い方によってセンサの設置が制約される区域であったとしても、境界条件取得手段が取得した空調対象空間での温熱環境や気流環境などの境界条件に基づいて、環境情報取得手段が前述したシミュレーションを実行してゾーンごとの環境情報を取得し、この環境情報に基づいて温冷感指標取得手段が温冷感指標を取得することにより、制御手段は、特定ゾーンでの温冷感指標を取得することが可能になり、特定ゾーンを空調制御の制御ポイントに設定することが可能になる。
そして、制御手段が、制御ポイントに任意設定した特定ゾーンでの温冷感指標に基づいて空調設備を制御することにより、例えば、特定ゾーン(制御ポイント)から離れた壁などに設置されたセンサが検出する温度や湿度などに基づいて空調設備を制御する場合に生じていた、使用する空調エネルギーが過剰気味になるのを防止しながら、特定ゾーンでの温冷感指標を適正範囲内に収束させることができる。
つまり、空調対象空間での負荷分布に合わせた最適な空調制御を実現することが可能になり、その結果、省エネルギー化の促進を図りながら、センサの設置が制約される特定ゾーンにおいても、人が快適と感じる空調環境を好適に創り出すことができる。
【0010】
本発明の第2特徴構成は、前記境界条件取得手段は、前記空調設備として前記空調対象空間内で空調空気を循環させる循環ファンによる循環風量を前記境界条件として取得する点にある。
【0011】
本構成によると、循環風量を考慮した環境情報に基づいて特定ゾーンでの温冷感指標を取得することができ、取得した温冷感指標に基づいて空調設備を精度良く制御することができ、特定ゾーンでの温冷感指標をより好適に適正範囲内に収束させることができる。
その結果、特定ゾーンにおいて、人が快適と感じる空調環境をより好適に創り出すことができる。
【0012】
本発明の第3特徴構成は、前記境界条件取得手段は、前記空調設備としての空調機から前記空調対象空間に供給される空調空気の給気温度と、前記空調空気の給気風量と、前記空調対象空間からの排気風量とを前記境界条件として取得する点にある。
【0013】
本構成によると、空調機からの給気温度と給気風量と空調対象空間からの排気風量とを考慮した環境情報に基づいて特定ゾーンでの温冷感指標を取得することができ、取得した温冷感指標に基づいて空調機を精度良く制御することができ、特定ゾーンでの温冷感指標をより好適に適正範囲内に収束させることができる。
その結果、特定ゾーンにおいて、人が快適と感じる空調環境をより好適に創り出すことができる。
【0014】
本発明の第4特徴構成は、前記境界条件取得手段は、前記空調対象空間の表面温度を前記境界条件として取得する点にある。
【0015】
本構成によると、空調対象空間の表面温度を考慮した環境情報に基づいて特定ゾーンでの温冷感指標を取得することができ、取得した温冷感指標に基づいて空調設備を精度良く制御することができ、特定ゾーンでの温冷感指標をより好適に適正範囲内に収束させることができる。
その結果、特定ゾーンにおいて、人が快適と感じる空調環境をより好適に創り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る空調制御システムを、展示室や会議室などの室内空間が大空間の空調対象空間となるイベント会場や会議場などの屋内環境に適用した場合を図面に基づいて説明する。
尚、本発明に係る空調制御システムは、上記以外の屋内環境や屋外環境などに適用することも可能である。
【0018】
本実施形態で例示する空調制御システムには、
図1~2に示すように、空調対象空間1を空調する空調設備10と、空調設備10などの監視や制御などを行う中央監視設備20と、空調対象空間1での温熱・気流分布を再現予測するシミュレーションなどを実行するシミュレーション装置の一例であるシミュレーションサーバ30などが備えられている。
尚、空調制御システムとしては、中央監視設備20とシミュレーションサーバ30とが一体で備えられているものであってもよい。
【0019】
空調設備10には、空調対象空間1に供給する空調空気(給気SA)の温度(給気温度)や湿度などを調整する空調機11と、空調機11に冷水又は温水などの熱媒体を循環供給する熱源機12と、空調機11から空調対象空間1に供給する空調空気の風量(給気風量)を調整する可変風量ユニット13と、空調対象空間1内の空調空気を循環させるシーリングファン(循環ファンの一例)14などが含まれている。
尚、空調設備10における空調機11、熱源機12、可変風量ユニット13、シーリングファン14などの設置数、及び、空調設備10に設置する設備構成などは、空調対象空間1の用途や規模などの特性に応じて種々の変更が可能である。
【0020】
空調設備10には、空調機11から空調対象空間1に供給される空調空気の給気温度と給気湿度とを検出する温湿度センサ15と、空調機11から空調対象空間1に供給される空調空気の給気風量を検出する給気風量センサ16と、空調対象空間1からの排気風量を検出する排気風量センサ17と、シーリングファン14による空調空気の循環風量を検出する循環風量センサ18、空調対象空間1に存在する人や物体の表面温度を検出して可視化するサーモカメラ19などが備えられている。循環風量センサ18は、シーリングファン14の回転数を循環風量として検出する回転センサである。
尚、温湿度センサ15、給気風量センサ16、排気風量センサ17、循環風量センサ18、サーモカメラ19などの設置数は、空調対象空間1の広さ、及び、空調機11や可変風量ユニット13などの設置数、などに応じて種々の変更が可能である。
又、サーモカメラ19に代えて赤外線アレイセンサなどが備えられていてもよい。
【0021】
図1に示すように、空調設備10には、空気の流路として、外気OAを空調機11に導入する外気導入路10Aと、空調機11からの給気SAを空調対象空間1に案内する給気路10Bと、空調対象空間1から排出された空気を空調機11に戻す還気路10Cと、空調機11に戻された空気を排気EAとして屋外に排出する排気路10Dとが備えられている。
【0022】
空調機11は、空調対象空間1に隣接する機械室などに設置されている。空調機11には、空調機11に導入された外気OAと空調機11から排出する排気EAとの間で全熱(顕熱と潜熱)を交換する全熱交換器11Aと、空調対象空間1に供給する空調空気の温度を熱源機12からの熱媒体との熱交換で調節する顕熱交換器11Bと、空調空気を空調対象空間1に供給する給気ファン11Cと、空調対象空間1内の空気を空調機11に戻す還気ファン11Dなどが備えられている。
尚、空調設備10としては、全熱交換器11Aが空調機11に備えられたもの以外に、全熱交換器11Aが空調機11とは別に備えられたものや、全熱交換器11A自体が備えられていないものであってもよい。
【0023】
空調機11には、空気の流路として、空調空気を生成して給気路10Bに導く給気路11Eと、空調対象空間1からの空気を排気EAとして排気路10Dに導く排気路11Fと、空調対象空間1からの空気を還気RAとして給気路11Eに導く還気路11Gとが備えられている。還気路11Gには、還気RAの風量調節を可能にするダンパ11Hが備えられている。
【0024】
空調設備10において、温湿度センサ15と排気風量センサ17は空調機11に備えられている。排気風量センサ17は、還気ファン11Dの回転数をインバータ制御するときの制御量から排気EAと還気RAの総風量を排気風量として検出する。給気風量センサ16は可変風量ユニット13に備えられている。循環風量センサ18は、シーリングファン14の回転数をインバータ制御するときの制御量を空調空気の循環風量として検出するようにシーリングファン14に備えられている。
【0025】
図1~2に示すように、中央監視設備20には、建物内の各設備(
図1~2では空調設備10のみ記載)を統括して監視制御する中央監視装置21や、設備ごとに監視制御する複数の設備用コントローラ(
図1~2では空調設備用コントローラ22のみ記載)などが備えられている。中央監視装置21は、各種の設備用コントローラなどにBACnet(登録商標)やLONWORKS(登録商標)などの通信ネットワーク23によって接続されている。各設備用コントローラは、各設備の各種機器を系統ごとに監視制御する複数のリモートステーション(
図1~2では空調設備10に備えられる各リモートステーション24~28のみ記載)に接続されている。
【0026】
図1に示すように、中央監視装置21には、温湿度センサ15が検出する給気温度と、給気風量センサ16が検出する給気風量と、排気風量センサ17が検出する排気風量と、循環風量センサ18が検出する循環風量と、サーモカメラ19が検出する空調対象空間1での表面温度とを、空調対象空間1での境界条件として、空調設備10の各リモートステーション24~28や空調設備用コントローラ22などを介してリアルタイムに取得する境界条件取得手段21Aが備えられている。
【0027】
図1~2に示すように、中央監視装置21は、連携装置の一例である連携サーバ31を介してシミュレーションサーバ30と接続されており、これにより、データの保存形式などが異なるシミュレーションサーバ30との間でのデータの受け渡しや、シミュレーションサーバ30と連携した空調制御などが可能になっている。
【0028】
図1に示すように、シミュレーションサーバ30には、複数のブース2などが設置された空調対象空間1を模擬して多数のゾーンに細分(メッシュ分割)された仮想空間が備えられ、この仮想空間において、中央監視装置21の境界条件取得手段21Aが取得した境界条件に基づいて、空調対象空間1での温熱・気流分布を再現予測するシミュレーションを実行することで、ゾーンごとの温熱・気流に関する情報を環境情報として取得する環境情報取得手段30Aが備えられている。
尚、仮想空間の分割数(解析メッシュ数)は、シミュレーションサーバ30の処理能力などに応じて、例えば100万メッシュや1000万メッシュなどの種々の設定が可能である。
【0029】
中央監視装置21には、環境情報取得手段30Aが取得した環境情報に基づいて人が感じる快適性を示す温冷感指標の一例であるPMV(Predicted Mean Vote:温熱環境評価指数)を多数のゾーンごとに取得する温冷感指標取得手段21Bと、温冷感指標取得手段21Bが取得した温冷感指標のうちの多数のゾーンから任意に設定される単一又は複数のゾーンからなる制御対象の特定ゾーン(制御ポイント)での温冷感指標に基づいて空調設備10を制御する制御手段21Cとが備えられている。
尚、温冷感指標としては、PMV以外のSET*(Standard New Effective Temperature:標準新有効温度)などを使用することができる。
又、特定ゾーンは、例えば人が集まる各ブース2の設置個所などに設定することが可能であり、特定ゾーンの広さは、各ブース2の大きさや室の使用状況などに応じて種々の変更が可能である。
【0030】
温冷感指標取得手段21Bは、PMVの算出に必要な環境情報のうち、温度と風速は環境情報取得手段30Aから取得し、熱放射は、環境情報取得手段30Aから取得した空調対象空間1での表面温度と予め設定された空調対象空間1の形態係数とから試算し、湿度は温湿度センサ15から取得する。温冷感指標取得手段21Bには、PMVの算出に必要な人体情報である活動量と着衣量として予め設定された一定値が記憶されている。温冷感指標取得手段21Bは、これらの温度と湿度と風速と熱放射と活動量と着衣量とに基づいてPMVを算出して取得する。
尚、温冷感指標取得手段21Bとしては、空調対象空間1に備えられたカメラなどのセンシングデバイスから活動量や着衣量に関する情報を取得し、その情報を取得するごとに活動量や着衣量を更新するように構成されたものであってもよい。
【0031】
図1~2に示すように、制御手段21Cは、温冷感指標取得手段21Bが取得したPMVのうちの特定ゾーンでのPMVに基づいて、空調機11の還気ファン11Dに対する制御量を算出し、算出した制御量を、空調設備用コントローラ22などを介して空調機用のリモートステーション24に送信することにより、空調機用のリモートステーション24を介して還気ファン11Dの回転数を制御して、空調対象空間1からの排気風量を調整する。
【0032】
制御手段21Cは、特定ゾーンでのPMVに基づいて、熱源機12に対する制御量を算出し、算出した制御量を、空調設備用コントローラ22などを介して熱源機用のリモートステーション25に送信することにより、熱源機用のリモートステーション25を介して熱源機12から空調機11の顕熱交換器11Bへの送水量と送水温度とを制御して、空調機11から空調対象空間1への給気温度と給気湿度とを調整する。
【0033】
制御手段21Cは、特定ゾーンでのPMVに基づいて、可変風量ユニット13に対する制御量を算出し、算出した制御量を、空調設備用コントローラ22などを介して可変風量ユニット用のリモートステーション26に送信することにより、可変風量ユニット用のリモートステーション26を介して可変風量ユニット13のダンパ開度を制御して、空調機11から空調対象空間1への給気風量を調整する。
【0034】
制御手段21Cは、特定ゾーンでのPMVに基づいて、シーリングファン14に対する制御量を算出し、算出した制御量を、空調設備用コントローラ22などを介してシーリングファン用のリモートステーション27に送信することにより、シーリングファン用のリモートステーション27を介してシーリングファン14の回転数を制御して、空調対象空間1内での空調空気の循環風量を調整する。
【0035】
以下、
図3に示すフローチャートに基づいて、本実施形態で例示する空調制御システムにて行われる空調制御の制御手順について説明する。
【0036】
この空調制御においては、先ず、中央監視装置21の境界条件取得手段21Aが、温湿度センサ15が検出する給気温度と、給気風量センサ16が検出する給気風量と、排気風量センサ17が検出する排気風量と、循環風量センサ18が検出する循環風量と、サーモカメラ19が検出する空調対象空間1の表面温度とを、空調対象空間1での境界条件として、空調設備10の各リモートステーション24~28や空調設備用コントローラ22などを介してリアルタイムに取得する境界条件取得処理と、取得した境界条件を中央監視装置21の保存形式で連携サーバ31に送信する境界条件送信処理とを行う(ステップ#1~2)。
【0037】
境界条件送信処理にて境界条件が連携サーバ31に送信されると、連携サーバ31が、受け取った中央監視装置21の保存形式に基づく境界条件を、シミュレーションサーバ30にて使用可能な保存形式の境界条件に変換してシミュレーションサーバ30に送信する境界条件変換処理を行う(ステップ#3)。
【0038】
境界条件変換処理にて変換後の境界条件がシミュレーションサーバ30に送信されると、シミュレーションサーバ30の環境情報取得手段30Aが、空調対象空間1を模擬して多数のゾーンに細分された仮想空間において、中央監視装置21の境界条件取得手段21Aが取得した境界条件に基づいて、空調対象空間1での温熱・気流分布を再現予測するシミュレーションを実行して、ゾーンごとの温熱・気流に関する情報を環境情報として取得する環境情報取得処理と、取得した環境情報をシミュレーションサーバ30の保存形式で連携サーバ31に送信する環境情報送信処理とを行う(ステップ#4~5)。
【0039】
環境情報送信処理にて環境情報が連携サーバ31に送信されると、連携サーバ31が、受け取ったシミュレーションサーバ30の保存形式に基づく環境情報を、中央監視装置21にて使用可能な保存形式の環境情報に変換して中央監視装置21に送信する環境情報変換処理を行う(ステップ#6)。
【0040】
環境情報変換処理にて変換後の環境情報が中央監視装置21に送信されると、中央監視装置21の温冷感指標取得手段21Bが、シミュレーションサーバ30の環境情報取得手段30Aが取得した環境情報に基づいて温冷感指標の一例であるPMVを多数のゾーンごとに取得して制御手段21Cに送信する温冷感指標取得処理を行う(ステップ#7)。
【0041】
温冷感指標取得処理にてPMVが制御手段21Cに送信されると、制御手段21Cが、温冷感指標取得手段21Bが取得した温冷感指標のうちの制御対象の特定ゾーンでの温冷感指標に基づいて、空調設備10における空調機11の還気ファン11Dと熱源機12と可変風量ユニット13とシーリングファン14とに対する制御量を算出する制御量算出処理と、算出した制御量を、空調設備用コントローラ22などを介して空調設備10の所定のリモートステーション24~27に送信することにより、制御対象の特定ゾーンにおいて快適な空調環境が得られるように、各リモートステーション24~27を介して空調設備10における空調機11の還気ファン11Dと熱源機12と可変風量ユニット13とシーリングファン14とを制御する空調設備制御処理とを行う(ステップ#8~9)。
そして、手動操作や所定時間の経過などによって空調制御の終了が指令されるまでの間は、前述したステップ#1~9の各処理が繰り返して行われる。
【0042】
つまり、本実施形態で例示する空調制御システムによると、制御対象の特定ゾーンが、実空間では人や物あるいは使い方によってセンサの設置が制約される区域であったとしても、中央監視装置21の境界条件取得手段21Aが取得した空調対象空間1での温熱環境としての給気温度と表面温度、及び、気流環境としての給気風量と排気風量と循環風量とを含む境界条件に基づいて、シミュレーションサーバ30の環境情報取得手段30Aが前述したシミュレーションを実行してゾーンごとの環境情報を取得し、この環境情報などに基づいて、中央監視装置21の温冷感指標取得手段21Bが温冷感指標としてのPMVを多数のゾーンごとに取得することにより、中央監視装置21の制御手段21Cは、特定ゾーンでのPMVを取得することが可能になり、特定ゾーンを空調制御の制御ポイントに設定することが可能になる。
そして、制御手段21Cが、制御ポイントに任意設定した特定ゾーンでの温冷感指標に基づいて空調設備10を制御することにより、例えば、特定ゾーン(制御ポイント)から離れた壁などに設置されたセンサが検出する温度や湿度などに基づいて空調設備10を制御する場合に生じていた、使用する空調エネルギーが過剰気味になることを防止しながら、特定ゾーンでの温冷感指標を適正範囲内に収束させることができる。
その結果、空調対象空間1での負荷分布に合わせた最適な空調制御を実現することが可能になり、省エネルギー化の促進を図りながら、センサの設置が制約される特定ゾーンにおいても、人が快適と感じる空調環境を好適に創り出すことができる。
【0043】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
尚、以下に説明する各別実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、上記の実施形態や他の別実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0044】
(1)上記の実施形態においては、空調制御システムとして、環境情報取得手段30Aが取得した環境情報に基づいて、温冷感指標取得手段21Bが温冷感指標を取得し、温冷感指標取得手段21Bが取得した温冷感指標のうち、多数のゾーンから任意に設定される特定ゾーンでの温冷感指標に基づいて、制御手段21Cが空調設備10を制御するように構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、環境情報取得手段30Aが取得した環境情報に基づいて、温冷感指標取得手段21Bが多数のゾーンから任意に設定される特定ゾーンでの温冷感指標を取得し、特定ゾーンでの温冷感指標に基づいて制御手段21Cが空調設備10を制御するように構成されたものであってもよい。
【0045】
(2)上記の実施形態においては、空調制御システムとして、中央監視装置21とシミュレーションサーバ30とを連携サーバ31を介して接続するように構成したものを例示したが、これに限らず、例えば、中央監視装置21とシミュレーションサーバ30とのデータ形式が統一されている場合には、中央監視装置21とシミュレーションサーバ30とを、連携サーバ31を介さずにBACnet(登録商標)やLONWORKS(登録商標)などの通信ネットワーク23によって接続するように構成したものであってもよい。
【0046】
(3)上記の実施形態においては、境界条件取得手段21Aが、給気温度と給気風量と排気風量と循環風量と表面温度とを空調対象空間1での境界条件として取得するように構成したものを例示したが、これに限らず、例えば、給気温度と給気風量と排気風量と循環風量と表面温度とに加えて、温湿度センサ15が検出する給気湿度、空調対象空間1に対する空調空気の吹き出し角度、空調対象空間1に対する空調空気吹出口の大きさ、などを空調対象空間1での境界条件として取得するように構成したものであってもよい。
【0047】
(4)上記の実施形態においては、温冷感指標取得手段21Bとして、中央監視装置21に備えられたものを例示したが、これに限らず、例えば、シミュレーションサーバ30に備えられたものであってもよい。
又、温冷感指標取得手段21Bが、湿度を温湿度センサ15から取得するのに代えて、シミュレーションで算出するようにしてもよい。
【0048】
(5)上記の実施形態においては、温湿度センサ15が空調機11に備えられたものを例示したが、これに限らず、例えば、温湿度センサ15が空調機11からの給気SAを空調対象空間1に案内する給気路10B、又は、空調対象空間1を形成する壁面などに備えられたものであってもよい。
【0049】
(6)上記の実施形態においては、空調制御システムとして、境界条件取得手段21Aが取得した空調対象空間1での境界条件に基づいて、環境情報取得手段30Aがシミュレーションを実行して環境情報を取得し、その環境情報に基づいて、温冷感指標取得手段21Bが温冷感指標を取得するごとに、その温冷感指標を制御手段21Cに送信し、制御手段21Cが、その温冷感指標に基づいて空調設備10の制御量を設定し、その制御量で空調設備10を制御して実空間である空調対象空間1に逐一反映することで、温冷感指標を適正範囲内に収束させるように構成されたものを例示したが、これに代えて、例えば、温冷感指標取得手段21Bが取得した温冷感指標に基づいて、環境情報取得手段30Aが空調設備10の制御量を設定し、その制御量を考慮したシミュレーションを実行して環境情報を取得し、その環境情報に基づいて、温冷感指標取得手段21Bが温冷感指標を取得する制御動作を、仮想空間において温冷感指標が適正範囲内に収束するまで繰り返して、温冷感指標が適正範囲内に収束した段階で、そのときの空調設備10の制御量を最適解として制御手段21Cに送信する逆解析を行うように構成されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 空調対象空間
10 空調設備
11 空調機
14 循環ファン
19 サーモカメラ
21A 境界条件取得手段
21B 温冷感指標取得手段
21C 制御手段
30A 環境情報取得手段