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特開2022-159818放射性元素の含有量が低減したガドリニウム化合物を製造する方法、及びガドリニウム化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159818
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】放射性元素の含有量が低減したガドリニウム化合物を製造する方法、及びガドリニウム化合物
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/17 20200101AFI20221011BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20221011BHJP
   G21F 9/10 20060101ALI20221011BHJP
   C01F 17/282 20200101ALI20221011BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20221011BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20221011BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20221011BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20221011BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C01F17/17
G21F9/06 G
G21F9/10 B
C01F17/282
C22B59/00
C22B3/44 101A
C22B3/22
C22B3/38
C22B3/06
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064241
(22)【出願日】2021-04-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】592097244
【氏名又は名称】日本イットリウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 靖英
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄太
【テーマコード(参考)】
4G076
4K001
【Fターム(参考)】
4G076AA14
4G076AA21
4G076AB02
4G076AB08
4G076BA13
4G076BA15
4G076BD01
4G076BE09
4G076BE11
4G076BE12
4G076CA02
4G076CA37
4G076DA30
4K001AA39
4K001BA19
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB23
4K001DB31
(57)【要約】
【課題】ガドリニウム化合物におけるラジウム等の極微量の放射性元素を低減する。
【解決手段】本発明は放射性元素を含むガドリニウムの酸性水溶液を、以下の工程A及び工程Bにこの順又は逆の順で供することにより、放射性元素の含有量が低減したガドリニウム化合物を製造する方法である。
工程A:ガドリニウムの酸性水溶液に塩基を添加して、該水溶液のpHを8~9に調整することで、前記放射性元素が水相に溶解した状態を維持しつつガドリニウムの沈殿物を生成させ、回収された前記沈殿物を酸に溶解させてガドリニウムの酸性水溶液を得る。
工程B:ガドリニウムの酸性水溶液のpHを1.0~1.3に調整した状態下に、該水溶液と2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相とを接触させた後、接触後の該水相としてガドリニウムの酸性水溶液を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性元素を含むガドリニウムの原料酸性水溶液を、以下の工程A及び工程Bにこの順又は逆の順で供することにより、放射性元素の含有量が低減したガドリニウム化合物を製造する方法。
ただし、工程A及び工程Bをこの順で行う場合には、工程Aのガドリニウムの酸性水溶液Aとしてガドリニウムの原料酸性水溶液を用い、工程Bのガドリニウムの酸性水溶液Bとして工程Aで得られたガドリニウムの酸性水溶液A’を用いる。
また、工程A及び工程Bを逆の順で行う場合には、工程Bのガドリニウムの酸性水溶液Bとしてガドリニウムの原料酸性水溶液を用い、工程Aのガドリニウムの酸性水溶液Aとして工程Bで得られたガドリニウムの酸性水溶液B’を用いる。
工程A:ガドリニウムの酸性水溶液Aに塩基を添加して、該水溶液のpHを8~9に調整することで、前記放射性元素が水相に溶解した状態を維持しつつガドリニウムの沈殿物を生成させ、
固液分離によって前記沈殿物を回収し、
回収された前記沈殿物を酸に溶解させてガドリニウムの酸性水溶液A’を得る。
工程B:ガドリニウムの酸性水溶液BのpHを1.0~1.3に調整した状態下に、該水溶液と2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相とを接触させて、ガドリニウムが水相に溶解した状態を維持しつつ、水相に溶解している前記放射性元素を油相に抽出し、抽出後の該水相としてガドリニウムの酸性水溶液B’を得る。
【請求項2】
前記原料酸性水溶液を、工程A及び工程Bにこの順で供する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、生成させるガドリニウムの沈殿物が水酸化ガドリニウムである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料酸性水溶液は、放射性元素を含む固体状のガドリニウム化合物を鉱酸で溶解することによって得られたものである、請求項1~3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料酸性水溶液を、工程A及び工程Bにこの順で供する場合、ガドリニウムの酸性水溶液B’に硫酸を添加して、硫酸ガドリニウムの沈殿物を生成させ、
前記原料酸性水溶液を、工程B及び工程Aにこの順で供する場合、ガドリニウムの酸性水溶液A’に硫酸を添加して、硫酸ガドリニウムの沈殿物を生成させる、請求項1~4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記放射性元素が少なくともラジウムである、請求項1~5の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記放射性元素が少なくともラジウム、ウラン及びトリウムである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
226Raに由来する214Biの放射能が酸化ガドリニウム換算質量基準で10.0mBq/kg以下であり、
228Raに由来する228Acの放射能が酸化ガドリニウム換算質量基準で2.0mBq/kg以下である、ガドリニウム化合物。
【請求項9】
ウラン含有量が酸化ガドリニウム換算質量基準で2.0質量ppb以下、トリウム含有量が酸化ガドリニウム換算質量基準で0.2質量ppb以下である請求項8に記載のガドリニウム化合物。
【請求項10】
硫酸ガドリニウム無水物または硫酸ガドリニウム水和物である請求項8又は9に記載のガドリニウム化合物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性元素の含有量が低減したガドリニウム化合物を製造する方法、及びガドリニウム化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガドリニウムは熱中性子吸収能が高いことから原子核分裂反応の制御棒に含有させて反応を低下させることに使用されてきた。一方、超新星爆発背景ニュートリノが超純水中の陽子と衝突してチェレンコフ光を発する際に同時に発生する中性子を吸収してγ線とチェレンコフ光を発生させることから、スーパーカミオカンデでは超新星爆発背景ニュートリノの識別剤として超純水中に硫酸ガドリニウムを溶解させている。しかし溶解する硫酸ガドリニウム中にラジウムやトリウム、ウランなどの放射性元素が含有されていると、これら元素イオンから発生する中性子等の放射線によって、バックグラウンド信号が高くなってしまう。
【0003】
特許文献1にはウラン、トリウム等の放射性元素が微量共存するガドリニウム含有酸性溶液にアルカリを添加してpH5~7とし、沈澱物を除去後、該溶液のpHを2以下に調整してシュウ酸源を添加し、沈澱するシュウ酸ガドリニウムを回収するガドリニウムの分離回収方法が開示されている。
また一般に希土類元素等における放射性元素の低減方法について種々の例が知られている(特許文献2~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-60108号公報
【特許文献2】特開2002-267795号公報
【特許文献3】特開2018-205182号公報
【特許文献4】特開昭61-205618号公報
【特許文献5】特開平10-212532号公報
【特許文献6】特開昭64-26196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガドリニウム化合物における極微量のラジウムやトリウム、ウランの中でも、とりわけラジウムは微量分析手法が無く、しかし微量でも信号強度が強くバックグラウンドを高めることが分かった。しかしラジウムの除去方法は不明な点が多く、同じアルカリ土類金属であるカルシウムやバリウムを除去しても、ラジウム由来の放射線が低減しないことから、特に微量のラジウム除去は難しかった。
しかしながら、特許文献1では、ガドリニウムに関し、ウランを分離することが記載されているにすぎず、ラジウムの除去を考慮したものではない。
また、特許文献2~6においても、極微量のウラン、トリウム、ラジウムを同時に除去することについて考慮したものではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、各種条件で鋭意検討した結果、ガドリニウムイオンを含む酸性溶液にアルカリを添加してpHを8~9の限られた範囲内でガドリニウムを水酸化物として沈殿させ、これを固液分離して沈殿物、即ち水酸化ガドリニウムを回収しこれを再度酸溶解させる工程と、ガドリニウムイオンを含む酸性溶液を特定の抽出剤と接触させて不純物を除去する工程とを組み合わせることにより、ラジウム、トリウム、ウランなどの放射性元素をほぼ完全に除去する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は上記知見に基づくものであり、放射性元素を含むガドリニウムの原料酸性水溶液を、以下の工程A及び工程Bにこの順又は逆の順で供することにより、放射性元素の含有量が低減したガドリニウム化合物を製造する方法を提供するものである。
ただし、工程A及び工程Bをこの順で行う場合には、工程Aのガドリニウムの酸性水溶液Aとしてガドリニウムの原料酸性水溶液を用い、工程Bのガドリニウムの酸性水溶液Bとして工程Aで得られたガドリニウムの酸性水溶液A’を用いる。
また、工程A及び工程Bを逆の順で行う場合には、工程Bのガドリニウムの酸性水溶液Bとしてガドリニウムの原料酸性水溶液を用い、工程Aのガドリニウムの酸性水溶液Aとして工程Bで得られたガドリニウムの酸性水溶液B’を用いる。
工程A:ガドリニウムの酸性水溶液Aに塩基を添加して、該水溶液のpHを8~9に調整することで、前記放射性元素が水相に溶解した状態を維持しつつガドリニウムの沈殿物を生成させ、
固液分離によって前記沈殿物を回収し、
回収された前記沈殿物を酸に溶解させてガドリニウムの酸性水溶液A’を得る。
工程B:ガドリニウムの酸性水溶液BのpHを1.0~1.3に調整した状態下に、該水溶液と2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相とを接触させて、ガドリニウムが水相に溶解した状態を維持しつつ、水相に溶解している前記放射性元素を油相に抽出し、抽出後の該水相としてガドリニウムの酸性水溶液B’を得る。
【0008】
また本発明は、226Raに由来する214Biの放射能が酸化ガドリニウム換算質量基準で10.0mBq/kg以下であり、
228Raに由来する228Acの放射能が酸化ガドリニウム換算質量基準で2.0mBq/kgである、ガドリニウム化合物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法では、原料となるガドリニウム化合物又はそれから得られる酸性水溶液中のラジウム、ウラン、トリウム含量が極微量であっても、これらの放射線元素が効果的に低減されたガドリニウム化合物を得ることができる。また本発明のガドリニウム化合物はラジウム、ウラン、トリウム等に由来する放射能が非常に低いレベルに低減されたものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るガドリニウム化合物の製造方法を詳細に説明する。
本製造方法は以下の工程A及び工程Bをこの順又は逆の順で有する。
ただし、工程A及び工程Bをこの順で行う場合には、工程Aのガドリニウムの酸性水溶液Aとしてガドリニウムの原料酸性水溶液を用い、工程Bのガドリニウムの酸性水溶液Bとして工程Aで得られたガドリニウムの酸性水溶液A’を用いる。
また、工程A及び工程Bを逆の順で行う場合には、工程Bのガドリニウムの酸性水溶液Bとしてガドリニウムの原料酸性水溶液を用い、工程Aのガドリニウムの酸性水溶液Aとして工程Bで得られたガドリニウムの酸性水溶液B’を用いる。
工程A:ガドリニウムの酸性水溶液Aに塩基を添加して、該水溶液のpHを8~9に調整することで、前記放射性元素が水相に溶解した状態を維持しつつガドリニウムの沈殿物を生成させ、
固液分離によって前記沈殿物を回収し、
回収された前記沈殿物を酸に溶解させてガドリニウムの酸性水溶液A’を得る。
工程B:ガドリニウムの酸性水溶液BのpHを1.0~1.3に調整した状態下に、該水溶液と2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相とを接触させて、ガドリニウムが水相に溶解した状態を維持しつつ、水相に溶解している前記放射性元素を油相に抽出し、抽出後の該水相としてガドリニウムの酸性水溶液B’を得る。
この手法はガドリニウム(酸化ガドリニウム換算)に対してトリウムの含有量が質量比50ppb以下の場合に特に有用である。
【0011】
本実施形態は、工程A及び工程Bをこの順で行う場合、以下の手順となる。
ガドリニウムの原料酸性水溶液に塩基を添加して、該水溶液のpHを8~9に調整することで、前記放射性元素が水相に溶解した状態を維持しつつガドリニウムの沈殿物を生成させ、
固液分離によって前記沈殿物を回収し、
回収された前記沈殿物を酸に溶解させてガドリニウムの酸性水溶液を得る。
得られたガドリニウムの酸性水溶液のpHを1.0~1.3に調整した状態下に、該水溶液と2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相とを接触させて、ガドリニウムが水相に溶解した状態を維持しつつ、水相に溶解している前記放射性元素を油相に抽出し、抽出後の該水相としてガドリニウムの酸性水溶液を得る。
【0012】
本実施形態は、工程B及び工程Aをこの順で行う場合、以下の手順となる。
ガドリニウムの原料酸性水溶液のpHを1.0~1.3に調整した状態下に、該水溶液と2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相とを接触させて、ガドリニウムが水相に溶解した状態を維持しつつ、水相に溶解している前記放射性元素を油相に抽出し、抽出後の該水相としてガドリニウムの酸性水溶液を得る。
得られた酸性水溶液に塩基を添加して、該水溶液のpHを8~9に調整することで、前記放射性元素が水相に溶解した状態を維持しつつガドリニウムの沈殿物を生成させ、
固液分離によって前記沈殿物を回収し、
回収された前記沈殿物を酸に溶解させてガドリニウムの酸性水溶液を得る。
【0013】
工程A及び工程Bのいずれを先に行う場合も、原料として、放射性元素を含むガドリニウムの酸性水溶液(以下「原料酸性水溶液」ともいう。)を用いる。放射性元素を含むガドリニウムの原料酸性水溶液は、固体状のガドリニウム化合物を酸に溶解することで得ることができる。ガドリニウム化合物としては、酸に溶解するものであれば特に限定されるものではないが、酸化ガドリニウム、水酸化ガドリニウム、塩化ガドリニウム、硝酸ガドリニウム、ヨウ化ガドリニウム、臭化ガドリニウム、炭酸ガドリニウム、シュウ酸ガドリニウム、酢酸ガドリニウム等が挙げられ、とりわけ酸化ガドリニウム、水酸化ガドリニウム、塩化ガドリニウム、炭酸ガドリニウムが酸への溶解容易性と原料コストの点で好ましい。
【0014】
一般に、市販されているガドリニウム化合物はラジウム、ウラン、トリウム等の微量の放射性元素を有する。これらが放出する放射線は人体の健康に影響するレベルではないが、超新星爆発背景ニュートリノの識別剤としての使用可能なレベルからほど遠いものである。原料として使用するガドリニウム化合物の純度はGd/TREO(全希土類酸化物換算量中の酸化ガドリニウム換算量)として例えば99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることがさらに好ましい。また、原料として使用するガドリニウム化合物はFe及びCaOの含有量が各々10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
固体状のガドリニウム化合物を溶解する酸としては、鉱酸が好適であり、塩酸、硫酸、硝酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられるが、特に塩酸であることが、塩化ガドリニウムの溶解度が大きく、窒素を含有しないため排水処理の負荷が小さい点から好ましい。固体状のガドリニウム化合物を溶解する酸としては、酸水溶液とすることが、ガドリニウムの原料酸性水溶液を首尾よく得られる点で好ましく、特に15~40質量%酸水溶液であることが、反応性が高く揮発性が低い点から好ましい。酸の使用量は固体状のガドリニウム化合物を溶解する量であれば特に限定されない。ガドリニウム化合物を酸に溶解して得られた原料酸性水溶液は必要があれば不溶解物を除去するために濾過を行う。以上により原料酸性水溶液が得られる。放射性元素の除去効率や収率等の観点から、この原料酸性水溶液におけるガドリニウムイオン濃度は100~500g/Lが好ましく、200~400g/Lがより好ましい。また原料酸性水溶液中に含まれるウラン及びトリウムの濃度は合計で、酸化ガドリニウム換算質量基準にて0.01ppm以上100ppm以下が好適である。
【0016】
次いで、工程Aについて説明する。
工程Aでは、まず、ガドリニウムの酸性水溶液Aに塩基を添加して、該水溶液のpHを8以上9以下に調整することで、前記放射性元素が水相に溶解した状態を維持しつつガドリニウムの沈殿物を生成させる(以下、酸性水溶液Aに塩基を添加して調製するpHを「工程AのpH」ともいう。)。工程Aの原料となる酸性水溶液Aとしては、工程A及び工程Bをこの順で行う場合には、原料酸性水溶液を用い、工程B及び工程Aの順で行う場合は、工程Bで得られる酸性水溶液B’を用いる。
【0017】
本発明者は、ガドリニウムの水溶液を上記特定のpHに調整することにより、ラジウムが水に溶解した状態を維持しながら効率よくガドリニウムを沈殿させることができることを見出した。水溶液のpHを8未満に調整した場合、ガドリニウムが完全に沈降せず、またpH9超に調整した場合、ウランやトリウム、ラジウムなどの沈殿が生じやすくなる。
【0018】
pH8~9に調整して得られる沈殿は、ガドリニウムの水酸化物であることがガドリニウムとラジウム、ウラン、トリウムとの分離性能が高い点で好ましい。この観点から、工程Aにおいてガドリニウムの酸性水溶液Aに添加してpH8~9に調整するために用いる塩基の種類としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好ましく挙げられ、ナトリウム等の他の金属の混入を避けガドリニウムとウランやトリウム、ラジウムとの分離効率を高める観点から、アンモニアを用いることが最も好ましい。なお、pH測定時の液温は特に限定されないが、通常25~40℃であることが好適である。アンモニアを用いる場合は、例えば20~30質量%アンモニア水とすることが扱いやすさ等の点で好適である。工程AのpHは8.0~8.8とすることが特に好適である。
【0019】
得られた沈殿を濾別し、洗浄し、濾液を良く分離させた後に酸で再度溶解する。ここで用いる酸としては鉱酸が挙げられ、塩酸、硝酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられるが、特に塩酸であることが、塩化ガドリニウムの溶解度が大きく、窒素を含有しないため排水処理の負荷が小さい点から好ましい。ここで用いる酸としては、ガドリニウム化合物を溶解して原料酸性水溶液を得る際に用いる酸水溶液の好適な濃度範囲と同様の濃度範囲の酸水溶液を使用することができる。
【0020】
工程Aで得られるガドリニウムの酸性水溶液A’におけるガドリニウムイオンの好ましい濃度としては、上記ガドリニウムの原料酸性水溶液におけるガドリニウムイオンの好ましい濃度として上記で挙げた濃度と同様の濃度を挙げることができる。
【0021】
次いで、工程Bについて説明する。
工程Bでは、ガドリニウムの酸性水溶液BのpHを1.0~1.3に調整した状態下に、該水溶液Bと2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相とを接触させる。工程Bに供するガドリニウムの酸性水溶液Bとしては、本製造方法を工程A及び工程Bの順で行う場合には工程Aで得られるガドリニウムの酸性水溶液A’を用い、工程B及び工程Aの順で行う場合には、原料酸性水溶液を用いる。ここで、pHを1.0~1.3に調整した状態下で水溶液Bと2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相とを接触させるとは、2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相と接触させる直前の水溶液BのpHが、1.0~1.3であればよい。
【0022】
本発明者は、ガドリニウム酸性水溶液BをpH1.0以上1.3以下に調整した状態で2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相と接触させると、ガドリニウムを水相中に溶解させたまま、ウランとトリウムとの両方を特に効率よく油相に抽出させることができることを見出した。2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートは別名を(2-エチルヘキシル)ホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルともいい、第八化学工業(株)のPC-88Aという製品名で知られている。2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む有機溶剤中に希土類元素を抽出させて分離することは知られている(特許文献5、希土類元素はスカンジウム)が、pH1.0以上pH1.3以下ではガドリニウムイオンは、2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相に抽出されない。一方、ウランやトリウム、ラジウムなどの放射性元素は2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相に抽出されて分離することができる。
【0023】
pH1.0~1.3に調整するための試薬としては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸等が挙げられ、ナトリウムなどの金属の混入を防止し、分離性能を高める点等の点からアンモニアが好ましい。
なお、pH測定時の液温は特に限定されないが、通常20~80℃である。
【0024】
ガドリニウムとウラン、トリウム、ラジウム等との分離性能を高める点から、工程Bで用いる油相中の抽出剤としての2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートの量としては、例えば10体積%以上が好ましく、15体積%以上がより好ましく、20体積%以上が特に好ましい。また、油相の粘度を下げ、水相との混合・接触が十分に行われることにより溶媒抽出の効率を向上させるため及び油相の比重を下げて、混合・接触後の静置時に、水相との分相が速やかに行われるために、油相における抽出剤としての2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネート以外の成分として、炭化水素系の溶剤、例えばイソパラフィン系溶剤、芳香族系溶剤等の希釈剤を適宜必要に用いてもよい。イソパラフィン系溶剤の例としては、出光興産社製のIPソルベント1016、IPソルベント1020、IPソルベント2028、IPソルベント2835、IPクリーンLX等が挙げられる。芳香族系溶剤の例としては、出光興産社製のイプゾール100番、イプゾール150番等が挙げられる。油相中の抽出剤としての2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートの量としては、例えば90体積%以下が好ましく、80体積%以下がより好ましく、70体積%以下が特に好ましい。
また油相中の希釈剤の量としては例えば10~90体積%が好適に挙げられ、20~85体積%がより好ましく、30~80体積%が更に好ましい。
上記の通り、特定pHに調整した水溶液に特定の油相を接触させた後、放射性元素が低減したガドリニウムの酸性水溶液B’として、水相を分離する。
【0025】
pHを1.0~1.3に調整したガドリニウムの酸性水溶液100体積部に対し、油相の量は0.1体積部~100体積部であることが抽出効率や装置を小さくできる点で好ましく、0.2体積部~50体積部であることがより好ましい。
【0026】
本製造方法では、工程Aの後に工程Bを行うこと、つまり工程Aの沈殿生成工程を経た酸性水溶液に対し、工程Bの溶媒抽出を行うことが好ましい。これは工程Aの溶媒抽出処理後に、工程Bの水酸化沈殿処理をおこなうと回収率が低い上、ウランの除去率が低くなりやすいとの理由による。
【0027】
上記の工程A及び工程Bを経た精製後の酸性水溶液(工程Aが先の場合には酸性水溶液B’、工程Bが先の場合には、酸性水溶液A’)については、必要に応じて適宜所望のガドリニウム化合物とする。例えば、酸性水溶液に濃硫酸を添加することで硫酸ガドリニウム八水和物を得ることができる。
【0028】
次いで、本発明のガドリニウム化合物を説明する。
ラジウム含有量の定量分析は困難である。そこでラジウム(Ra)についてはラジウムに由来する放射線を測定して含有量を比較する。
その一つである226Raはウラン系列で発生するものである。ウラン系列は238Uが崩壊系列の一番上流にあり、その系列の崩壊過程で、226Raが生し、これが崩壊して222ラドン(Rn)、218ポロニウム(Po)、214鉛(Pb),214ビスマス(Bi)、214Po、210Pbの順に変わっていく。ここでは214Biの放射線を測定することで226Ra由来の放射線量が換算できる。
もう一つのラジウム同位体である228Raはトリウム系列という崩壊系列の過程で生成する元素であり、228Ra→228アクチニウム(Ac)→228Th→224Raというように崩壊が進む。ここでは228Acのガンマ線を測定することで228Ra由来の放射線量が換算できる。
本発明のガドリニウム化合物は、226Raに由来する214Biの放射能が酸化ガドリニウム換算質量基準で10.0mBq/kg以下であり、228Raに由来する228Acの放射能が酸化ガドリニウム換算質量基準で2.0mBq/kg以下である。
このように、226Raに由来する214Biの放射能及び228Raに由来する228Acの放射能がいずれも低いことは、実質的にラジウム、トリウム、ウラン、特にラジウムが少ないことを意味する。
【0029】
本発明のガドリニウム化合物において、226Raに由来する214Biの放射能の量は酸化ガドリニウム換算質量基準で、8.0mBq/kg以下であることが特に好ましく、6.0mBq/kg以下であることが最も好ましい。一般的に市販されているガドリニウム化合物において、例えば酸化ガドリニウムの場合、226Raに由来する214Biの放射能の量は通常100mBq/kg以上である。
【0030】
また、本発明のガドリニウム化合物において、228Raに由来する228Acの放射能の量は酸化ガドリニウム換算質量基準で1.5mBq/kg以下であることが特に好ましく、1.0mBq/kg以下であることが最も好ましい。一般的に市販されている酸化ガドリニウムにおいて、228Raに由来する228Acの放射能の量は通常100mBq/kg以上である。酸化ガドリニウム(Gd)の分子量が362.5g/mol、硫酸ガドリニウム八水和物(Gd(SO・8HO)の分子量が746.8g/molなので、硫酸ガドリニウム八水和物で1mBq/kgであれば、酸化ガドリニウム換算質量基準にすると2.06mBq/kgと約2倍になる。
本発明のガドリニウム化合物における226Raに由来する214Biの放射能の量、及び228Raに由来する228Acの放射能の量は後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0031】
更に、本発明のガドリニウム化合物は、ウラン濃度が酸化ガドリニウム換算質量基準で2.0ppb以下であることが好ましく、1.5ppb以下であることがより好ましく、1.0ppb以下であることが特に好ましい。
【0032】
また本発明のガドリニウム化合物は酸化ガドリニウム換算質量基準にて、トリウム濃度が0.2ppb以下であることが好ましく、0.1ppb以下であることがより好ましく、0.01ppb以下であることが特に好ましい。
本発明のガドリニウム化合物におけるウラン及びトリウムの濃度は誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)にて測定できる。
【0033】
なお、本発明のガドリニウム化合物のその他の不純物は、酸化ガドリニウム換算質量基準で、各不純物の酸化物換算量として、Feが5質量ppm以下であることが好ましく、CaOが5質量ppm以下であることが好ましく、Yが3質量ppm以下であることが好ましく、Euが5質量ppm以下であることが好ましく、Dyが3質量ppm以下であることが好ましい。
【0034】
本発明のガドリニウム化合物としては酸化ガドリニウム、水酸化ガドリニウム、硫酸ガドリニウム、塩化ガドリニウム、リン酸ガドリニウム、硝酸ガドリニウム、ヨウ化ガドリニウム、臭化ガドリニウム、炭酸ガドリニウム、シュウ酸ガドリニウム、酢酸ガドリニウム等の各種のガドリニウム化合物が挙げられる。本発明のガドリニウム化合物が硫酸ガドリニウムであると、放射性元素が十分低減されていることに加え、酸性度が弱くタンクを腐食しにくく、また発光検出波長領域の吸収が無いためスーパーカミオカンデにおける超新星爆発背景ニュートリノの識別剤として特に有用に用いることができ好ましい。これらのガドリニウム化合物は無水物及び水和物のいずれをも含み、例えば単に「硫酸ガドリニウム」という場合、硫酸ガドリニウム無水物であってもよく、硫酸ガドリニウム水和物であってもよい。ガドリニウムイオンが溶解した水溶液に硫酸を添加して析出する化合物は通常硫酸ガドリニウム八水和物である。本発明のガドリニウム化合物は、固形状、例えば粉末状である。
【実施例0035】
(実施例1)
前工程として、酸化ガドリニウム(純度(Gd/TREO)99.99質量%、Fe及びCaOの含有量が各々3質量ppm以下、226Raに由来する214Biの放射能206mBq/kg、228Raに由来する228Acの放射能118mBq/kg)35kgを、純水40L及び35質量%塩酸60L(70.5kg)からなる塩酸水溶液に溶解した。得られた塩化ガドリニウム水溶液は、ウランをGd換算量に対して質量基準で190ppb、トリウムをGd換算量に対して質量基準で4ppb、それぞれ含有していた。
得られた塩化ガドリニウム水溶液に、工程Aとして、25質量%アンモニア水を徐々に添加し、pHを8.0に調整して水酸化ガドリニウムの沈殿を得た。当該pH測定時における液の温度は36℃であった。添加したアンモニア水は47kgであった。沈殿を濾別、濾液の塩化物イオン濃度が1000mg/L以下になるまで水洗して水酸化ガドリニウムを得た。得られた水酸化物を純水40L及び35質量%塩酸60L(70.5kg)からなる塩酸水溶液に溶解して中間体である酸性水溶液(塩化ガドリニウム水溶液A’)を得た。
得られた酸性水溶液A’に工程Bとして、アンモニア水を添加してpHを1.1に設定した後、抽出剤である2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネート(第八化学工業(株)PC-88A)が20体積%を占める油相200mLを添加し、水と油を良く混合撹拌した。当該pH測定時における液の温度は22℃であった。油相は、前記抽出剤と希釈剤としてイソパラフィン系溶剤(出光興産(株)社製IPソルベント2028)とを体積比1:4の割合で混合したものであった。その後、これを静置して油水分離した後、水相のみを回収した。
得られた水相に後工程として、98質量%高純度硫酸36kgを添加して、硫酸ガドリニウムを析出させた。硫酸ガドリニウムは濾過して濾液を除去後pH4になるまで80Lの純水で洗浄し、粉末状の硫酸ガドリニウム八水和物として回収した。硫酸ガドリニウム八水和物であることはエックス線回折又は熱重量分析で確認することができる。回収した硫酸ガドリニウム八水和物を下記方法で分析した結果を表1に示す。ウラン濃度は酸化ガドリニウム換算では.0.8ppb未満、トリウム濃度は0.02ppb未満であった。また回収した硫酸ガドリニウム八水和物を下記方法によって各放射線を測定した結果、226Raに由来する214Biの放射能が0.9mBq/kg、即ち酸化ガドリニウム換算質量基準で1.8mBq/kg、228Raに由来する228Acの放射能が0.2mBq/kg未満、即ち酸化ガドリニウム換算質量基準で0.4mBq/kg未満であった。また、その他の不純物をグロー放電質量分析装置(GD-MS)によって測定した結果、酸化ガドリニウム換算質量基準で、各酸化物換算量として、Feが0.1質量ppm未満、CaOが2.0質量ppm、Yが0.02質量ppm、Euが0.1質量ppm未満、Dyが0.1質量ppm未満であった。なお表1には、得られた硫酸ガドリニウム八水和物の質量から計算したGd回収率を併せて示す。
【0036】
226Raに由来する214Biの放射能及び228Raに由来する228Acの放射能)
硫酸ガドリニウム八水和物10kg(酸化ガドリニウム換算質量は4.85kg)をEVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)製樹脂袋に入れてミリオンテクノロジーズ社製同軸p型高純度ゲルマニウム検出器によって214Biの609keV、1120keV、1764keVガンマ線の計測数を下記の検出効率及びサンプル質量からバックグラウンドレートを引いて226Ra由来の214Biの放射線量を算出した。一方、228Raは228Ac起源の338keV、911keV、969keVガンマ線量の計測数を下記の検出効率及びサンプル質量からバックグラウンドレートを引いて228Ra由来の228Acの放射線を算出した。
詳細には以下の手順で計算した。
3本のガンマ線の計測頻度(計測数/測定時間)±誤差をC1±E1、C2±E2、C3±E3とする。バックグラウンド頻度±誤差についてもB1±BE1、B2±BE2、B3±BE3とする。さらに、検出効率をEf1、Ef2、Ef3、放出確率をP1、P2、P3とする。
それぞれのサンプル当たりの放射能R1、R2、R3(Bq)は、
R1=(C1-B1)/(Ef1×P1)
R2=(C2-B2)/(Ef2×P2)
R3=(C3-B3)/(Ef3×P3)
となる。
また、それぞれの誤差についても、
ER1=sqrt(E1+BE1)/(Ef1×P1)
ER2=sqrt(E2+BE2)/(Ef2×P2)
ER3=sqrt(E3+BE3)/(Ef3×P3)
となる。
R1、R2、R3の加重平均Rave(Bq)を計算する。
ave=(R1/ER1+R2/ER2+R3/ER3)/(1/ER1+1/ER2+1/ER3
aveをサンプルの酸化ガドリニウム換算質量W(kg)で割れば、酸化ガドリニウム換算質量基準の放射能Rresaltが計算できる。
resalt=Rave/W
また、誤差Eresaltは、
resalt=sqrt{1/(1/ER1+1/ER2+1/ER3)}/W
となる。
換算係数は以下の通りである。
214Bi:609keV:ガンマ線放出比0.461(46.1%)、ゲルマニウム検出器での検出効率 0.0097(0.97%)
214Bi:1120keV:ガンマ線放出比0.151(15.1%)、ゲルマニウム検出器での検出効率 0.0077(0.77%)
214Bi:1764keV:ガンマ線放出比0.154(15.4%)、ゲルマニウム検出器での検出効率 0.0058(0.58%)
228Ac:338keV:ガンマ線放出比0.113(11.3%)、ゲルマニウム検出器での検出効率 0.0121(1.21%)
228Ac:911keV:ガンマ線放出比0.258(25.8%)、ゲルマニウム検出器での検出効率 0.0089(0.89%)
228Ac:969keV:ガンマ線放出比0.158(15.8%)、ゲルマニウム検出器での検出効率 0.0085(0.85%)
この手法により硫酸ガドリニウム起源の放射性不純物量を算出した結果、226Raに由来する214Biの放射線量が0.9mBq/kg、即ち酸化ガドリニウム換算質量基準で1.8mBq/kg、228Raに由来する228Acの放射線量が0.2mBq/kg未満、酸化ガドリニウム換算質量基準で0.4mBq/kg未満と算出された。
【0037】
(ウラン濃度、トリウム濃度)
トリウム分析は硫酸ガドリニウム八水和物1g(酸化ガドリニウム換算質量は0.485g)を超高純度塩酸で溶解したのち、固相抽出カラムに吸着した濃縮液を用いた。またウラン分析は硫酸ガドリニウム八水和物1g(酸化ガドリニウム換算質量は0.485g)を超高純度硫酸で溶解した液を陰イオン交換樹脂に吸着させ、これを塩酸で溶離させた液を用いた。これらをICP-MS(Agilent社製Agilent8800)にて含有量を測定した。なお測定値は酸化ガドリニウム換算質量基準で算出した。
【0038】
(実施例2)
本実施例は第2の方法を用いたものである。
実施例1において工程Aと工程Bの順序を逆とした。具体的には、前工程により得られた塩化ガドリニウム水溶液を、工程Bに供した。工程Bで得られた水相をガドリニウムの酸性水溶液Aとして工程Aに供して、ガドリニウムの酸性水溶液A’を得た。得られた酸性水溶液A’に後工程として硫酸を添加し、硫酸ガドリニウムを製造した。その際、工程BのpHを1.3に設定し、工程AのpHを8.6に調整した。それらの点以外は実施例1と同様とした。得られた硫酸ガドリニウム八水和物について実施例1と同様に評価した。
【0039】
(比較例1)
実施例1において、工程A及び工程Bのどちらも行わず、前工程において酸化ガドリニウムを35質量%塩酸水溶液に溶解して得られた塩化ガドリニウム水溶液に対してそのまま後工程として、98質量%高純度硫酸を添加した。その点以外は実施例1と同様にして、硫酸ガドリニウムを製造した。得られた硫酸ガドリニウム八水和物について実施例1と同様に評価した。
【0040】
(比較例2)
実施例1において工程Aにおいて中間体として得られた酸性水溶液A’に対し、工程Bを行わずに、後工程として98質量%高純度硫酸を添加した。その際、工程AのpHを8.1に調整した。それらの点以外は実施例1と同様にして、硫酸ガドリニウム八水和物を製造した。得られた硫酸ガドリニウム八水和物について実施例1と同様に評価した。
【0041】
(比較例3)
実施例1において前工程にて酸化ガドリニウムを塩酸水溶液に溶解して得られた塩化ガドリニウム水溶液に、工程Aを行わず工程Bを施した。工程Bにおいて得られた抽出処理後の水相に、後工程として98質量%高純度硫酸を添加した。その点以外は実施例1と同様にして硫酸ガドリニウム八水和物を製造した。得られた硫酸ガドリニウム八水和物について実施例1と同様に評価した。
【0042】
(比較例4)
実施例1において、工程Aにおける沈殿pHを9.2にして沈殿を行った。また工程BのpHを1.3に設定した。それらの点以外は実施例1と同様にして、硫酸ガドリニウム八水和物を製造した。得られた硫酸ガドリニウム八水和物について実施例1と同様に評価した。水酸化物の沈殿量は120℃乾燥後で38kgと回収率は高かったが、ウラン、トリウムの含有量はそれぞれ酸化ガドリニウム換算質量基準で36質量ppb、0.6質量ppbであった。
【0043】
(比較例5)
実施例1において、工程Aにおける沈殿pHを7.6にして沈殿を行った。その点以外は実施例1と同様にして、硫酸ガドリニウム八水和物を製造した。得られた硫酸ガドリニウム八水和物について実施例1と同様に評価した。得られた硫酸ガドリニウム八水和物の量は39.7kgとなり、理論量の55%しか回収できなかった。
【0044】
(比較例6)
実施例1において、工程AにおけるpHを8.4にして沈殿を行った。また工程BにおけるpHを0.4とした。それらの点以外は実施例1と同様にして、硫酸ガドリニウム八水和物を製造した。得られた硫酸ガドリニウム八水和物について実施例1と同様に評価した。
【0045】
(比較例7)
実施例1において、工程AにおけるpHを8.3にして沈殿を行った。また工程BにおけるpHを1.9にした。その点以外は実施例1と同様にして、硫酸ガドリニウム八水和物を製造した。得られた硫酸ガドリニウム八水和物について実施例1と同様に評価した。
【0046】
(比較例8)
実施例1において、工程Aにおける塩基を25質量%アンモニア水から炭酸アンモニウムに替えて、pHを6.4に設定して、炭酸ガドリニウムの沈殿を得た。工程AにおけるGdの回収率はほぼ100%であった。その点以外は実施例1と同様とした。得られた硫酸ガドリニウム八水和物について実施例1と同様に評価した。その結果、ウランについては酸化ガドリニウム換算質量基準で0.8質量ppb未満と低減できているが、トリウムについては酸化ガドリニウム換算質量基準で0.4質量ppbと低減が不十分であることが確認された。
【0047】
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2021-07-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性元素を含むガドリニウムの原料酸性水溶液を、以下の工程A及び工程Bにこの順又は逆の順で供することにより、放射性元素の含有量が低減したガドリニウム化合物を製造する方法。
ただし、工程A及び工程Bをこの順で行う場合には、工程Aのガドリニウムの酸性水溶液Aとしてガドリニウムの原料酸性水溶液を用い、工程Bのガドリニウムの酸性水溶液Bとして工程Aで得られたガドリニウムの酸性水溶液A’を用いる。
また、工程A及び工程Bを逆の順で行う場合には、工程Bのガドリニウムの酸性水溶液Bとしてガドリニウムの原料酸性水溶液を用い、工程Aのガドリニウムの酸性水溶液Aとして工程Bで得られたガドリニウムの酸性水溶液B’を用いる。
工程A:ガドリニウムの酸性水溶液Aに塩基を添加して、該水溶液のpHを8~9に調整することで、前記放射性元素が水相に溶解した状態を維持しつつガドリニウムの沈殿物を生成させ、
固液分離によって前記沈殿物を回収し、
回収された前記沈殿物を酸に溶解させてガドリニウムの酸性水溶液A’を得る。
工程B:ガドリニウムの酸性水溶液BのpHを1.0~1.3に調整した状態下に、該水溶液と2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートを含む油相とを接触させて、ガドリニウムが水相に溶解した状態を維持しつつ、水相に溶解している前記放射性元素を油相に抽出し、抽出後の該水相としてガドリニウムの酸性水溶液B’を得る。
【請求項2】
前記原料酸性水溶液を、工程A及び工程Bにこの順で供する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、生成させるガドリニウムの沈殿物が水酸化ガドリニウムである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料酸性水溶液は、放射性元素を含む固体状のガドリニウム化合物を鉱酸で溶解することによって得られたものである、請求項1~3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料酸性水溶液を、工程A及び工程Bにこの順で供する場合、ガドリニウムの酸性水溶液B’に硫酸を添加して、硫酸ガドリニウムの沈殿物を生成させ、
前記原料酸性水溶液を、工程B及び工程Aにこの順で供する場合、ガドリニウムの酸性水溶液A’に硫酸を添加して、硫酸ガドリニウムの沈殿物を生成させる、請求項1~4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記放射性元素が少なくともラジウムである、請求項1~5の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記放射性元素が少なくともラジウム、ウラン及びトリウムである、請求項6に記載の製造方法。