(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159852
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】超音波診断装置、画像処理装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064287
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広樹
(72)【発明者】
【氏名】今村 智久
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE01
4C601EE04
4C601EE11
4C601JB24
4C601JB45
(57)【要約】
【課題】位相情報を喪失または変質させる処理の後に、振幅情報と位相情報の両方を用いる処理を実行すること。
【解決手段】実施形態に係る超音波診断装置は、第1の処理部と、再構成部と、第2の処理部とを含む。第1の処理部は、第1の超音波データの入力を受け、第2の超音波データを出力する。再構成部は、第2の超音波データの振幅情報と第1の超音波データの位相情報とに基づいて、第3の超音波データを再構成する。第2の処理部は、第3の超音波データの振幅情報および位相情報を用いる処理を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超音波データの入力を受け、第2の超音波データを出力する第1の処理部と、
前記第2の超音波データの振幅情報と前記第1の超音波データの位相情報とに基づいて、第3の超音波データを再構成する再構成部と、
前記第3の超音波データの振幅情報および位相情報を用いる処理を実行する第2の処理部と、
を備える超音波診断装置。
【請求項2】
前記第1の超音波データは、複数フレーム分の複素信号データであり、
前記第1の処理部は、前記複数フレーム分の複素信号データをコンパウンドすることにより、前記第2の超音波データを生成する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記第2の処理部は、前記第3の超音波データの振幅情報および位相情報に基づいて、前記第3の超音波データよりもSN(Signal to Noise)比の高い第4の超音波データを生成する、
請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記第2の処理部は、複数の入力超音波データと、前記複数の入力超音波データのノイズ成分が低減した複数の教師超音波データとを学習済みの学習済みモデルに前記第3の超音波データを入力することにより、前記第4の超音波データを得る、
請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記第2の処理部は、前記第3の超音波データの振幅情報および位相情報に基づいて、血流を検出する血流検出処理を実行する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記第1の処理部は、複数の入力超音波データと、前記複数の入力超音波データのノイズ成分が低減した複数の教師超音波データとを学習済みの学習済みモデルにより、前記第1の超音波データが入力された場合に前記第2の超音波データを出力する、
請求項1または5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記第1の超音波データから、位相情報を有する位相データを分割する分割部、をさらに備え、
前記再構成部は、前記第2の超音波データの振幅情報と、前記位相データの位相情報とを用いて前記第3の超音波データを再構成する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記第1の超音波データを記憶する記憶部、をさらに備え、
前記再構成部は、前記第2の超音波データと、前記記憶部に記憶された前記第1の超音波データの位相情報とを用いて前記第3の超音波データを再構成する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
第1の超音波データの入力を受け、第2の超音波データを出力する第1の処理部と、
前記第2の超音波データの振幅情報と前記第1の超音波データの位相情報とに基づいて、第3の超音波データを再構成する再構成部と、
前記第3の超音波データの振幅情報および位相情報を用いる処理を実行する第2の処理部と、
を備える画像処理装置。
【請求項10】
第1の超音波データの入力を受け、第2の超音波データを出力する第1の処理ステップと、
前記第2の超音波データの振幅情報と前記第1の超音波データの位相情報とに基づいて、第3の超音波データを再構成する再構成ステップと、
前記第3の超音波データの振幅情報および位相情報を用いる処理を実行する第2の処理ステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、超音波診断装置、画像処理装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波診断装置においては、受信した反射波から得られる超音波データに含まれる振幅情報と位相情報を用いて、ノイズ低減処理や、血流検出力処理等の種々の処理を実行する技術が知られている。
【0003】
しかしながら、このような振幅情報と位相情報の両方を用いる処理は、反射波の位相情報を喪失または変質させる処理の後に実行することができないため、複数の処理を効率的に組み合わせて実行することが困難な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-114294号公報
【特許文献2】特開2020-114295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、位相情報を喪失または変質させる処理の後に、振幅情報と位相情報の両方を用いる処理を実行可能にすることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る超音波診断装置は、第1の処理部と、再構成部と、第2の処理部とを含む。第1の処理部は、第1の超音波データの入力を受け、第2の超音波データを出力する。再構成部は、第2の超音波データの振幅情報と第1の超音波データの位相情報とに基づいて、第3の超音波データを再構成する。第2の処理部は、第3の超音波データの振幅情報および位相情報を用いる処理を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係るコンパウンド済みIQデータの生成に関する各機能の関係性の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係るコンパウンド済みIQデータの生成処理の流れの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る学習済みモデルによるノイズ低減処理の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る学習済みモデルの生成手法の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態に係る超音波診断装置の一例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、第2の実施形態に係る位相復元済みIQデータの生成に関する各機能の関係性の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、第2の実施形態に係る位相復元済みIQデータの生成処理の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、超音波診断装置、画像処理装置、およびプログラムの実施形態について詳細に説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、超音波診断装置1は、装置本体100と、超音波プローブ21と、入力装置22と、ディスプレイ23とを備える。また、装置本体100は、ネットワークNWを介して外部装置30と接続されている。
【0010】
超音波プローブ21は、例えば、圧電振動子等の複数の素子を有する。これら複数の素子は、装置本体100の超音波送信回路101から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ21は、被検体Pからの反射波を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ21は、例えば、圧電振動子に設けられる整合層と、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。なお、超音波プローブ21は、装置本体100と着脱自在に接続される。
【0011】
超音波プローブ21から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ21が有する複数の素子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。そして、超音波プローブ21は、反射波信号を装置本体100の超音波受信回路102に出力する。
【0012】
本実施形態においては、超音波プローブ21は、複数の超音波振動子が所定の方向に沿って配列された一次元アレイプローブであるとする。しかしながら、当該例に拘泥されず、超音波プローブ21は、ボリュームデータを取得可能なものとして、二次元アレイプローブ(複数の超音波振動子が二次元マトリックス状に配列されたプローブ)、又はメカニカル4Dプローブ(超音波振動子列をその配列方向と直交する方向に機械的に煽りながら超音波走査を実行可能なプローブ)であってもよい。
【0013】
入力装置22は、例えば、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等の入力手段により実現される。入力装置22は、超音波診断装置1の操作者からの各種設定要求を受け付け、受け付けた各種設定要求を装置本体100に転送する。
【0014】
ディスプレイ23は、例えば、超音波診断装置1の操作者が入力装置22を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体100において生成された超音波画像データにより示される超音波画像等を表示したりする。ディスプレイ23は、液晶モニタやOLED(Organic Light Emitting Diode)モニタ等によって実現される。
【0015】
装置本体100は、超音波プローブ21が受信した反射波信号に基づいて超音波画像データを生成する。装置本体100は、超音波プローブ21が受信した被検体Pの2次元領域に対応する反射波データに基づいて2次元の超音波画像データを生成可能である。また、装置本体100は、超音波プローブ21が受信した被検体Pの3次元領域に対応する反射波データに基づいて3次元の超音波画像データを生成可能である。
【0016】
図1に示すように、装置本体100は、超音波送信回路101と、超音波受信回路102と、バッファメモリ103と、RAWデータメモリ104と、記憶回路105と、画像メモリ106と、通信インタフェース107と、処理回路108と、入力インタフェース130と、出力インタフェース140とを備える。
【0017】
超音波送信回路101は、処理回路108による制御を受けて、超音波プローブ21に超音波を送信させる。超音波送信回路101は、例えば、図示しないトリガ発生回路、遅延回路およびパルサ回路等を有している。トリガ発生回路では、所定のレート周波数fr Hz(周期;1/fr秒)で、送信超音波を形成するためのトリガパルスが繰り返し発生される。また、遅延回路では、チャンネル毎に超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間が、各トリガパルスに与えられる。パルサ回路は、このトリガパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ21に駆動パルスを印加する。
【0018】
超音波受信回路102は、超音波プローブ21が受信した反射波信号に基づいて反射波データを生成する。反射波データは、本実施形態における第1の超音波データの一例である。そして、超音波受信回路102は、生成した反射波データをバッファメモリ103に格納する。
【0019】
より詳細には、超音波プローブ21により送信された超音波の反射波は、超音波プローブ21内部の圧電振動子まで到達した後、圧電振動子において、機械的振動から電気的信号(反射波信号)に変換され、超音波受信回路102に入力される。超音波受信回路102は、例えば、プリアンプと、A/D(Analog to Digital)変換器と、直交検波回路等を有し、超音波プローブ21が受信した反射波信号に対して各種処理を行なって反射波データを生成する。
【0020】
プリアンプは、反射波信号をチャンネルごとに増幅してゲイン調整(ゲイン補正)を行なう。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をA/D変換することでゲイン補正された反射波信号をデジタル信号に変換する。直交検波回路は、A/D変換された反射波信号をベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-phase)と直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)とに変換する。
【0021】
そして、直交検波回路は、I信号およびQ信号を、反射波データとしてバッファメモリ103に格納する。以下、I信号及びQ信号を総称する場合、IQ信号という。また、IQ信号はA/D変換されたデジタルデータであるため、IQデータともいう。IQデータは、振幅情報と位相情報とを有する複素信号データである。
【0022】
超音波受信回路102は、超音波プローブ21が受信した2次元の反射波信号から2次元の反射波データを生成する。また、超音波受信回路102は、超音波プローブ21が受信した3次元の反射波信号から3次元の反射波データを生成してもよい。
【0023】
バッファメモリ103は、超音波受信回路102により生成された反射波データ(IQデータ)を少なくとも一時的に記憶する。例えば、バッファメモリ103は、数フレーム分の反射波データ、又は、数ボリューム分の反射波データを記憶する。例えば、バッファメモリ103は、超音波受信回路102の制御により、所定数のフレーム分の反射波データを記憶する。そして、バッファメモリ103は、所定数のフレーム分の反射波データを記憶している状態で、新たに1フレーム分の反射波データが超音波受信回路102により生成された場合、超音波受信回路102による制御を受けて、生成された時間が最も古い1フレーム分の反射波データを破棄し、新たに生成された1フレーム分の反射波データを記憶する。例えば、バッファメモリ103は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子によって実現される。なお、超音波受信回路102により生成される1フレーム分の反射波データとは、1収集フレーム分の反射波データである。バッファメモリ103は、本実施形態における記憶部の一例である。なお、バッファメモリ103を一時記憶部と称しても良い。
【0024】
RAWデータメモリ104は、後述の処理回路108により生成されたBモードデータやドプラデータ等の各種データを記憶する。RAWデータメモリ104は、RAM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、または光ディスク等により実現される。
【0025】
記憶回路105は、例えば、磁気的若しくは光学的記憶媒体、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、または光ディスク等のプロセッサにより読み取り可能な記憶媒体等により実現される。記憶回路105は、超音波送受信を実現するためのプログラム、各種データ等を記憶している。プログラム、及び各種データは、例えば、記憶回路105に予め記憶されていてもよい。また、例えば、非一過性の記憶媒体に記憶されて配布され、非一過性の記憶媒体から読み出されて記憶回路105にインストールされてもよい。なお、記憶回路105を本実施形態における記憶部の一例としても良い。
【0026】
画像メモリ106は、処理回路108により生成された各種の画像データを記憶する。例えば、画像メモリ106は、RAM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、または光ディスク等により実現される。なお、RAWデータメモリ104と画像メモリ106とが1つのメモリとして統合されても良い。
【0027】
通信インタフェース107は、例えばネットワークNWを介して外部装置30と接続され、外部装置30との間でデータ通信を行う。
【0028】
外部装置30は、例えば、超音波診断装置1で生成された各種データの後処理、および超音波画像データの表示等の処理を実行するワークステーションである。外部装置30は、例えば、プロセッサ等の処理回路、記憶装置、およびディスプレイを備える。また、外部装置30は、タブレット端末等であっても良い。
【0029】
入力インタフェース130は、入力装置22を介し、操作者からの各種指示を受け付ける。入力インタフェース130は、例えばバスを介して処理回路108に接続され、操作者から入力される操作指示を電気信号へ変換し、電気信号を処理回路108へ出力する。なお、入力インタフェース130は、マウス及びキーボード等の物理的な操作部品と接続するものだけに限られない。例えば、超音波診断装置1とは別体に設けられた外部の入力機器から入力される操作指示に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路108へ出力する回路も入力インタフェースの例に含まれる。
【0030】
出力インタフェース140は、例えば処理回路108からの電気信号を外部へ出力する。出力インタフェース140は、例えばバスを介して処理回路108に接続され、処理回路108からの電気信号をディスプレイ23に出力する。
【0031】
処理回路108は、記憶回路105からプログラムを読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。本実施形態の処理回路108は、分割機能110と、コンパウンド機能111と、再構成機能112と、ノイズ低減機能113と、Bモード処理機能114と、ドプラ処理機能115と、画像生成機能116と、表示制御機能117と、システム制御機能118とを備える。
【0032】
分割機能110は、分割部の一例である。コンパウンド機能111は、第1の処理部およびコンパウンド処理部の一例である。再構成機能112は、再構成部の一例である。ノイズ低減機能113は、第2の処理部およびノイズ低減部の一例である。Bモード処理機能114は、Bモード処理部の一例である。ドプラ処理機能115は、ドプラ処理部の一例である。画像生成機能116は、画像生成部の一例である。表示制御機能117は、表示制御部の一例である。システム制御機能118は、システム制御部の一例である。
【0033】
ここで、例えば、処理回路108の構成要素である分割機能110、コンパウンド機能111、再構成機能112、ノイズ低減機能113、Bモード処理機能114、ドプラ処理機能115、画像生成機能116、表示制御機能117、およびシステム制御機能118の各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路105に記憶されている。例えば、処理回路108は、プログラムを記憶回路105から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路108は、
図1の処理回路108内に示された各機能を有することとなる。なお、
図1においては単一のプロセッサにより、分割機能110、コンパウンド機能111、再構成機能112、ノイズ低減機能113、Bモード処理機能114、ドプラ処理機能115、画像生成機能116、表示制御機能117、およびシステム制御機能118にて行われる処理機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路108を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。また、
図1においては単一の記憶回路105が各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明したが、複数の記憶回路を分散して配置して、処理回路108は個別の記憶回路から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。
【0034】
上記説明では、「プロセッサ」が各機能に対応するプログラムを記憶回路から読み出して実行する例を説明したが、実施形態はこれに限定されない。「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路105に保存されたプログラムを読み出して実行することで機能を実現する。一方、プロセッサがASICである場合、記憶回路105にプログラムを保存する代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、
図1における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしても良い。
【0035】
図2は、第1の実施形態に係るコンパウンド済みIQデータの生成に関する各機能部の関係性の一例を示す図である。
【0036】
分割機能110は、バッファメモリ103に記憶されたIQデータから、位相情報を有する位相データを分割する。より詳細には、
図2に示すように、分割機能110は振幅情報と位相情報とを有するIQデータの入力を受けると、位相情報を有する位相データと、振幅情報と位相情報とを有するIQデータとを出力する。
【0037】
コンパウンド機能111は、IQデータの入力を受け、コンパウンド済み包絡線データを出力する。より詳細には、コンパウンド機能111は、複数フレーム分のIQデータから包絡線データを生成しコンパウンドすることで、コンパウンド済み包絡線データを生成する。本実施形態においては、説明のために、コンパウンド処理前のデータを指す場合は「包絡線データ」、コンパウンド処理後のデータを指す場合は「コンパウンド済み包絡線データ」と呼んで区別する。なお、コンパウンド処理前後のデータを総称して単に包絡線データと呼んでも良い。包絡線データおよびコンパウンド済み包絡線データは、振幅情報を有するが、位相情報は有さない。コンパウンド済み包絡線データは、本実施形態における第2の超音波データの一例である。
【0038】
再構成機能112は、コンパウンド済み包絡線データの振幅情報とIQデータの位相情報とに基づいて、振幅情報と位相情報とを有するコンパウンド済みIQデータを再構成する。本実施形態においては、IQデータの位相情報は分割機能110により分割された位相データに含まれるため、再構成機能112は、コンパウンド済み包絡線データの振幅情報と位相データの位相情報を用いてコンパウンド済みIQデータを再構成する。
【0039】
コンパウンド済みIQデータは、IQデータと同様に、振幅情報と位相情報の両方を含むデータ構成をしている。一般に、IQデータにコンパウンド処理が施されると、位相情報が喪失する。これに対して、本実施形態におけるコンパウンド済みIQデータでは、再構成機能112により位相情報が付加されることにより、コンパウンド処理が施されているにも関わらず、位相情報を保持している。コンパウンド済みIQデータは、本実施形態における第3の超音波データの一例である。
【0040】
ノイズ低減機能113は、コンパウンド済みIQデータの振幅情報および位相情報に基づいて、コンパウンド済みIQデータよりもSN(Signal to Noise)比の高い、ノイズ低減済みIQデータを生成する。
【0041】
ノイズ低減済みIQデータは、本実施形態における第4の超音波データの一例である。また、ノイズ低減機能113が実行するノイズ低減処理は、本実施形態におけるコンパウンド済みIQデータの振幅情報および位相情報を用いる処理の一例である。
【0042】
コンパウンド済みIQデータの振幅情報はコンパウンド済み包絡線データに由来し、コンパウンド済みIQデータの位相情報は、バッファメモリ103に記憶されたIQデータの位相情報に由来する。すなわち、ノイズ低減機能113は、コンパウンド済みIQデータを用いることにより、コンパウンド済み包絡線データの振幅情報と、コンパウンド処理によって位相情報が損なわれる前のIQデータに由来する位相情報と、を用いてノイズ低減処理を実行することができる。
【0043】
次に、
図3を用いて、分割機能110、コンパウンド機能111、および再構成機能112により実行される処理の流れについて説明する。
図3は、第1の実施形態に係るコンパウンド済みIQデータ53の生成処理の流れの一例を示す図である。
図3では、分割機能110、コンパウンド機能111、および再構成機能112による処理を、それぞれ破線で囲んで図示する。
【0044】
図3に示すIQデータ51a,51bは、それぞれ、1フレーム分のIQデータである。以下、IQデータ51a,51bを区別しない場合は、単にIQデータ51という。また、
図3では2フレーム分のIQデータ51a,51bを処理対象としているが、3フレーム分以上のIQデータ51a,51bを処理対象としても良い。
【0045】
分割機能110は、式(1)に示すように複数フレーム分のIQデータ51a,51bを加算することにより、加算済みIQデータ510を生成する(S1)。IQデータ51a,51b、および加算済みIQデータ510は、実部と虚部とを有する複素信号データである。
【0046】
【0047】
式(1)の“IQ0”はIQデータ51aを示し、“IQ1”はIQデータ51bを示す。
【0048】
そして、分割機能110は、加算済みIQデータ510から、複素数の偏角(argument of complex)∠IQを、位相情報として取り出す(S2)。分割機能110は、取り出した位相情報を含む位相データ511を出力する。
【0049】
また、コンパウンド機能111は、式(2)に示すように複数フレーム分のIQデータ51a,51bの絶対値を取り出すことにより、IQデータ51a,51bに対応する包絡線データを生成し(S3)、取り出した複数の絶対値の加算平均処理を実行することにより(S4)、1つのコンパウンド済み包絡線データ52を生成する。IQデータ51の絶対値は、振幅情報の一例である。
【0050】
【0051】
図3に示す例では、コンパウンド対象は2フレーム分のIQデータ51a,51bであるため、式(2)ではIQデータ51aの絶対値とIQデータ51bの絶対値の加算結果を“2”で除算している。除算する数は、コンパウンド対象のフレーム数に応じて異なる。
【0052】
再構成機能112は、式(3)に示す演算により、コンパウンド機能111により生成されたコンパウンド済み包絡線データ52と、分割機能110により生成された位相データ511から、コンパウンド済みIQデータ53を再構成する(S5)。
【0053】
【0054】
式(3)の∠IQおよび∠IQは、分割機能110によって加算済みIQデータ510から取り出された複素数の偏角である。
【0055】
コンパウンド済みIQデータ53は、その後、ノイズ低減機能113によるノイズ低減処理に用いられる(S6)。
【0056】
次に、
図4を用いて、ノイズ低減機能113の詳細について説明する。
図4は、第1の実施形態に係る学習済みモデル90によるノイズ低減処理の一例を示す図である。
図4に示すように、学習済みモデル90は、コンパウンド済みIQデータ53が入力されると、ノイズ低減済みIQデータ54を出力する。ノイズ低減機能113は、学習済みモデル90にコンパウンド済みIQデータ53を入力することにより、ノイズ低減済みIQデータ54を得る。
【0057】
学習済みモデル90は、複数の入力超音波データと、複数の教師超音波データとが対応付けられて学習された学習済みのモデルである。教師超音波データは、入力超音波データのノイズ成分が低減されたデータである。入力超音波データと、当該入力超音波データに対応する教師超音波データとが1セットの学習データとなる。
【0058】
学習済みモデル90は、例えば、ニューラルネットワーク等のディープラーニング(深層学習)またはその他の機械学習によって生成された学習済みモデルとする。ディープラーニングの手法としては、深層畳み込みニューラルネットワーク(DCNN:Deep Convolutional Neural Network)、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)などを適用することができるが、これらに限定されるものではない。学習済みモデル90は、例えば、ニューラルネットワークと、学習済みパラメータデータとによって構成される。
【0059】
学習済みモデル90は、例えば記憶回路105に記憶されているものとする。ノイズ低減機能113は、記憶回路105から学習済みモデル90を読み出し、コンパウンド済みIQデータ53を入力する。あるいは、ノイズ低減機能113に学習済みモデル90が組み込まれていても良い。
【0060】
図5は、第1の実施形態に係る学習済みモデル90の生成手法の一例を示す図である。学習済みモデル90は、例えば、学習装置60により生成される。学習装置60は、DCNNなどの機械学習モデルを含む。学習装置60は、被検体の同一位置に対する超音波検査に関する入力IQデータ61と教師IQデータ62とに基づく学習(教師あり学習)を行うことにより、学習済みモデル90を生成する。教師IQデータ62は、入力IQデータ61のノイズが低減されたデータである。また、
図5では、1セットの入力IQデータ61と教師IQデータ62とを図示しているが、学習装置60は、複数セットの入力IQデータ61と教師IQデータ62とを学習するものとする。入力IQデータ61は、入力超音波データの一例である。また、教師IQデータ62は、教師超音波データの一例である。
【0061】
なお、超音波診断装置1が学習済みモデル90を生成する学習機能を備えても良い。この場合、超音波診断装置1が学習装置60と呼ばれてもよい。
【0062】
図1に戻り、Bモード処理機能114は、ノイズ低減済みIQデータ54からBモードデータを生成する。Bモード処理機能114は、例えば、ノイズ低減済みIQデータ54に対して対数圧縮処理等を施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。Bモード処理機能114は、生成したBモードデータを、2次元的な超音波走査線(ラスタ)上のBモードRAWデータとしてRAWデータメモリ104に記憶させる。なお、BモードRAWデータは、3次元的な音波走査線上のBモードデータであっても良い。
【0063】
なお、分割機能110、コンパウンド機能111、再構成機能112、およびノイズ低減機能113は、Bモード処理機能114に含まれても良い。
【0064】
ドプラ処理機能115は、バッファメモリ103に記憶されたIQデータ51を周波数解析することで、スキャン領域に設定されるROI(Region Of Interest:関心領域)内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報を抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。例えば、ドプラ処理機能115は、カラーフローマッピング(CFM:Color Flow Mapping)法とも呼ばれるカラードプラ法を実行可能である。ドプラ処理機能115は、生成したドプラデータを、2次元的な超音波走査線上のドプラRAWデータとしてRAWデータメモリ104に記憶させる。なお、ドプラRAWデータは、3次元的な音波走査線上のドプラデータであっても良い。
【0065】
画像生成機能116は、Bモード処理機能114により生成されたBモードRAWデータに基づいて、Bモード画像データを生成する。また、画像生成機能116は、ドプラ処理機能115により生成されたドプラRAWデータに基づいて、ドプラ画像データを生成する。
【0066】
例えば、画像生成機能116は、BモードRAWデータおよびドプラRAWデータにRAW-ピクセル変換を実行することで、ピクセルから構成される2次元の超音波画像データを生成する。超音波画像データは、例えば、Bモード画像データ、カラードプラ画像データ、ドプラ波形画像データ等である。また、画像生成機能116は、RAWデータメモリに記憶されているBモードRAWデータに対し、空間的な位置情報を加味した補間処理を含むRAW-ボクセル変換を実行することで、ボリュームデータを生成してもよい。また、画像生成機能116は、例えば各種ボリュームデータに対してレンダリング処理や多断面変換再構成(Multi Planar Reconstruction:MPR)処理等を施し、レンダリング画像データやMPR画像データを生成してもよい。画像生成機能116は、生成した超音波画像データを、画像メモリ106に記憶させる。
【0067】
表示制御機能117は、画像生成機能116によって生成された各種の超音波画像データに基づく超音波画像を、ディスプレイ23に表示させる。また、表示制御機能117は、操作者が入力装置22を用いて各種設定要求を入力するためのGUIをディスプレイ23に表示させても良い。
【0068】
システム制御機能118は、超音波診断装置1全体の動作を統括して制御する。例えば、システム制御機能118は、超音波送信回路101を介して超音波プローブ21を制御することで、超音波走査の制御を行なう。
【0069】
このように、本実施形態の超音波診断装置1は、コンパウンド機能111によってIQデータ51から生成されたコンパウンド済み包絡線データ52の振幅情報とIQデータ51の位相情報とに基づいてコンパウンド済みIQデータ53を再構成する再構成機能112を備える。このため、本実施形態の超音波診断装置1によれば、IQデータ51の位相情報を喪失させるコンパウンド処理の後であっても、振幅情報および位相情報を用いるノイズ低減処理を実行することができる。
【0070】
また、本実施形態の超音波診断装置1は、複数フレーム分のIQデータ51をコンパウンドすることにより、コンパウンド済み包絡線データ52を生成する。また、本実施形態の超音波診断装置1は、コンパウンド済みIQデータ53の振幅情報および位相情報に基づいて、コンパウンド済みIQデータ53よりもSN比の高いノイズ低減済みIQデータ54を生成する。
【0071】
一般に、IQデータのノイズ低減処理は、フレーム1つ分のIQデータごとに実行される。このため、コンパウンドのように複数フレーム分のIQデータを統合する処理が実行される場合は、コンパウンドの処理が実行される前に、コンパウンド対象の複数フレーム分のIQデータの各々に対して、1フレーム分毎に個別にノイズ低減処理が実行される。そして、ノイズ低減された複数フレーム分のIQデータに対して、コンパウンド処理が実行される。このような手法では、コンパウンド対象のフレーム数に応じて処理負荷が増大する。このため、被検体に対する超音波走査中に超音波画像データを生成するリアルタイム処理中に、このようなノイズ低減処理を実行することが困難な場合があった。また、コンパウンド処理をするとノイズ低減処理に必要な位相情報が喪失するため、ノイズ低減処理の前にコンパウンド処理を実行することも困難であった。
【0072】
これに対して、本実施形態の超音波診断装置1は、複数フレーム分のIQデータ51から生成されたコンパウンド済み包絡線データ52の振幅情報と、複数フレーム分のIQデータ51の位相情報とに基づいてコンパウンド済みIQデータ53を再構成する。また、本実施形態の超音波診断装置1は、コンパウンド済みIQデータ53に対してノイズ低減処理を実行する。すなわち、本実施形態の超音波診断装置1は、コンパウンド対象の複数のフレームを1つにまとめたコンパウンド済みIQデータ53に対してノイズ低減処理を実行するため、コンパウンド対象のフレーム数が増加した場合でも、ノイズ低減処理の負荷を低減することができる。このため、被検体Pに対する超音波走査中に超音波画像データを生成するリアルタイム処理においてコンパウンドとノイズ低減処理の両方を実行する場合であっても、超音波画像データの時間分解能を向上させることができる。
【0073】
また、本実施形態の超音波診断装置1は、学習済みモデル90にコンパウンド済みIQデータ53を入力することにより、ノイズ低減済みIQデータ54を得る。一般に、学習済みモデル90に入力されるデータのデータ構成は統一されている必要がある。例えば、IQデータのように振幅情報と位相情報とを有するデータ構成の入力データを学習済みの学習済みモデル90であれば、振幅情報と位相情報とを有するデータを入力する必要がある。本実施形態のコンパウンド済みIQデータ53は、IQデータ51と同様に振幅情報と位相情報とを有するデータ構成であるため、本実施形態の超音波診断装置1によれば、個別のIQデータに対してノイズ低減処理を行う学習済みモデル90を、コンパウンド済みIQデータ53のノイズ低減処理にも適用可能である。
【0074】
また、本実施形態の超音波診断装置1は、IQデータ51から、位相情報を有する位相データ511を分割する。本実施形態の超音波診断装置1は、コンパウンド済み包絡線データ52の振幅情報と、位相データ511の位相情報とを用いてコンパウンド済みIQデータ53を再構成することにより、コンパウンドによって損なわれる前の位相情報をコンパウンド済みIQデータ53に含めることができる。
【0075】
なお、本実施形態においては、コンパウンド済みIQデータ53の振幅情報および位相情報を用いる処理の一例としてノイズ低減処理を例示したが、振幅情報および位相情報を用いる処理であれば、ノイズ低減処理以外の処理であっても良い。また、本実施形態においては、IQデータ51の位相情報が喪失する処理の一例としてコンパウンドを挙げたが、IQデータ51の位相情報を喪失または変質させる処理であれば、コンパウンド以外の処理であっても良い。
【0076】
(第2の実施形態)
上述の第1の実施形態では、位相情報が喪失するコンパウンドの処理の後に、位相情報を使用するノイズ低減処理を実行する場合について説明した。この第2の実施形態においては、位相情報が変質する可能性のある処理の後に、位相情報を使用する処理を実行する場合について説明する。
【0077】
図6は、第2の実施形態に係る超音波診断装置1の一例を示すブロック図である。本実施形態の超音波診断装置1は、
図1で説明した第1の実施形態と同様に、装置本体100と、超音波プローブ21と、入力装置22と、ディスプレイ23とを備え、ネットワークNWを介して外部装置30と接続されている。
【0078】
また、本実施形態の装置本体100は、第1の実施形態と同様に、超音波送信回路101と、超音波受信回路102と、バッファメモリ103と、RAWデータメモリ104と、記憶回路105と、画像メモリ106と、通信インタフェース107と、処理回路108と、入力インタフェース130と、出力インタフェース140とを備える。
【0079】
本実施形態の超音波診断装置1の処理回路108は、分割機能210と、ノイズ低減機能213と、再構成機能212と、Bモード処理機能214と、ドプラ処理機能215と、画像生成機能116と、表示制御機能117と、システム制御機能118とを備える。
【0080】
分割機能110は、分割部の一例である。ノイズ低減機能213は、本実施形態における第1の処理部およびノイズ低減部の一例である。再構成機能212は、再構成部の一例である。Bモード処理機能214は、Bモード処理部の一例である。ドプラ処理機能215は、本実施形態における第2の処理部、血流検出部、およびドプラ処理部の一例である。画像生成機能116は、画像生成部の一例である。表示制御機能117は、表示制御部の一例である。システム制御機能118は、システム制御部の一例である。
【0081】
図7は、第2の実施形態に係る位相復元済みIQデータの生成に関する各機能の関係性の一例を示す図である。
【0082】
分割機能210は、バッファメモリ103に記憶されたIQデータから、位相情報を有する位相データを分割する。
図7に示すように、分割機能210は、振幅情報と位相情報とを有するIQデータの入力を受けると、位相情報を有する位相データと、振幅情報と位相情報とを有するIQデータとを出力する。第1の実施形態と同様に、バッファメモリ103に記憶されたIQデータは、第1の超音波データの一例である。
【0083】
ノイズ低減機能213は、IQデータの入力を受け、ノイズ低減済みIQデータを出力する。本実施形態のノイズ低減機能213は、第1の実施形態と同様に、学習済みモデル90にIQデータを入力することにより、ノイズ低減済みIQデータを得るものとする。
【0084】
学習済みモデル90は、第1の実施形態と同様に、複数の入力超音波データと、複数の教師超音波データとが対応付けられて、深層学習等の手法により学習されたモデルとする。
【0085】
ノイズ低減済みIQデータは、IQデータよりもSN比の高いデータである。本実施形態においては、ノイズ低減済みIQデータが第2の超音波データの一例である。
【0086】
ノイズ低減済みIQデータは、振幅情報と位相情報とを有するが、ノイズ低減処理によってこれらの情報が変質している可能性がある。なお、本実施形態において「情報が変質している可能性がある」とは、情報が必ず変質しているとは限らないが、情報の品質が保障されないことを含む。
【0087】
再構成機能212は、ノイズ低減済みIQデータの振幅情報とIQデータの位相情報とに基づいて、振幅情報と位相情報とを有する位相復元済みIQデータを再構成する。なお、再構成機能212は、ノイズ低減済みIQデータの位相情報は使用しないため、ノイズ低減済みIQデータの振幅情報のみを含むノイズ低減済み包絡線データを、再構成機能212への入力データとしても良い。
【0088】
位相復元済みIQデータは、ノイズ低減処理が施された上で、位相情報が変質前の状態に復元されたデータである。位相復元済みIQデータは、本実施形態における第3の超音波データの一例である。
【0089】
ドプラ処理機能215は、位相復元済みIQデータを周波数解析することで、スキャン領域に設定されるROI内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報を抽出する。本実施形態のドプラ処理機能215は、位相復元済みIQデータの振幅情報および位相情報に基づいて、血流の方向および大きさ(パワー)を検出する血流検出処理を実行する。当該血流検出処理は、本実施形態における第3の超音波データの振幅情報および位相情報を用いる処理の一例である。
【0090】
位相復元済みIQデータから血流検出をする手法は、IQデータから血流検出をする公知のカラーフローマッピングの手法を採用することができる。ドプラ処理機能215は、位相復元済みIQデータから検出した血流データを、RAWデータメモリ104に記憶させる。血流データは、例えばカラーフローマッピング法により推定された血流情報を示すドプラデータである。
【0091】
なお、本実施形態の分割機能210、ノイズ低減機能213、および再構成機能212は、ドプラ処理機能215に含まれても良い。
【0092】
次に、
図8を用いて、分割機能210、ノイズ低減機能213、および再構成機能212により実行される処理の流れについて説明する。
図8は、第2の実施形態に係る位相復元済みIQデータ1053の生成処理の流れの一例を示す図である。
図8では、分割機能210、ノイズ低減機能213、および再構成機能212による処理を、それぞれ破線で囲んで図示する。
【0093】
図8に示すIQデータ1051は、超音波の送受信が複数の走査線上で実行される場合における、同一位置のデータ列に対応するIQデータである。なお、
図8では1つのデータ列に対応するIQデータ1051に対する処理を図示したが、複数のデータ列分に対応するIQデータ1051に対する処理が並行して実行されても良い。
【0094】
分割機能210は、バッファメモリ103に記憶されたIQデータから、複素数の偏角を、位相情報として取り出す(S101)。分割機能210は、取り出した位相情報を含む位相データ512を出力する。
【0095】
ノイズ低減機能213は、バッファメモリ103に記憶されたIQデータに対して学習済みモデル90を用いたノイズ低減処理を実行し(S102)、ノイズ低減済みIQデータ1052を出力する。
【0096】
再構成機能212は、ノイズ低減済みIQデータ1052から絶対値を振幅情報として取り出し(S103)、当該振幅情報と位相データ512の位相情報から、位相復元済みIQデータ1053を再構成する(S104)。再構成の手法としては、第1の実施形態と同様に、式(3)に示す演算を採用することができる。
【0097】
位相復元済みIQデータ1053は、その後、ドプラ処理機能215による血流検出処理に用いられる(S105)。
【0098】
図6に戻り、本実施形態のBモード処理機能214は、バッファメモリ103に記憶されたIQデータ1051に対数圧縮処理等を施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。Bモード処理機能214は、生成したBモードデータを、RAWデータメモリ104に記憶させる。
【0099】
画像生成機能116、表示制御機能117、およびシステム制御機能118は、第1の実施形態と同様の機能を備える。画像生成機能116は、例えば、ドプラ処理機能215が生成した2次元のドプラデータから血流情報が映像化された2次元または3次元のカラードプラ画像データを生成する。
【0100】
このように、本実施形態の超音波診断装置1は、ノイズ低減済みIQデータ1052の振幅情報とIQデータ1051の位相情報とに基づいて、振幅情報と位相情報とを有する位相復元済みIQデータ1053を再構成する再構成機能212を備える。このため、本実施形態の超音波診断装置1によれば、IQデータ1051の位相情報を変質させる可能性のあるノイズ低減処理の後であっても、振幅情報および位相情報を用いる血流検出処理を実行することができる。
【0101】
本実施形態の超音波診断装置1によれば、ノイズ低減による高いSN比を有する位相復元済みIQデータ1053を血流検出処理に使用することができるため、カラーフローマッピングによるカラードプラ画像データの画質を向上させることができる。
【0102】
(変形例1)
上述の第1の実施形態では、超音波診断装置1がコンパウンド済みIQデータ53の生成処理を実行するものとしたが、例えば超音波診断装置1に接続された外部装置30が当該処理を実行しても良い。当該構成を採用する場合、外部装置30の処理回路は、分割機能110、コンパウンド機能111、再構成機能112、およびノイズ低減機能113を備える。
【0103】
また、外部装置30は、第2の実施形態の超音波診断装置1と同様の機能を備えても良い。例えば、外部装置30の処理回路は、分割機能210、ノイズ低減機能213、再構成機能212、およびドプラ処理機能215を備えても良い。外部装置30は、本変形例における画像処理装置の一例である。
【0104】
(変形例2)
また、上述の第2の実施形態では、超音波診断装置1の処理回路108は、第1の実施形態と異なる機能を備えるものとしたが、処理回路108は、第1の実施形態と第2の実施形態の両方の機能を備えても良い。例えば、Bモード処理による超音波検査の実施の際には第1の実施形態と同様の処理を実行し、ドプラ処理による超音波検査の実施の際には第2の実施形態と同様の処理を実行しても良い。
【0105】
(変形例3)
上述の第1の実施形態および第2の実施形態では、再構成機能112,212は、分割機能110,210によってIQデータ51,1051から分割された位相情報を再構成に用いていたが、再構成の手法はこれに限定されるものではない。
【0106】
例えば、再構成機能112,212は、バッファメモリ103に記憶されたIQデータ51,1051の位相情報を、再構成に用いても良い。
【0107】
(変形例4)
上述の第1の実施形態および第2の実施形態では、学習済みモデル90によるノイズ低減処理を例示したが、他の手法によるノイズ低減処理が採用されても良い。例えば、数式モデル等によるノイズ低減処理が第1の実施形態および第2の実施形態で使用されても良い。
【0108】
(変形例5)
上述の第1の実施形態では、振幅情報と位相情報の両方を用いる処理としてノイズ低減処理を例示し、第2の実施形態では、振幅情報と位相情報の両方を用いる処理として血流検出処理を例示したが、これらの処理は一例であり、振幅情報と位相情報の両方を用いる他の処理が、第1の実施形態および第2の実施形態に含まれても良い。
【0109】
なお、本明細書において扱う各種データは、典型的にはデジタルデータである。
【0110】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、位相情報を喪失または変質させる処理の後に、振幅情報と位相情報の両方を用いる処理を実行することができる。
【0111】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0112】
1 超音波診断装置
10 装置本体
21 超音波プローブ
22 入力装置
23 ディスプレイ
30 外部装置
51a,51b,1051 IQデータ
52 コンパウンド済み包絡線データ
53 コンパウンド済みIQデータ
54,1052 ノイズ低減済みIQデータ
60 学習装置
61 入力IQデータ
62 教師IQデータ
90 学習済みモデル
100 装置本体
101 超音波送信回路
102 超音波受信回路
103 バッファメモリ
104 RAWデータメモリ
105 記憶回路
106 画像メモリ
107 通信インタフェース
108 処理回路
110,210 分割機能
111 コンパウンド機能
112,212 再構成機能
113,213 ノイズ低減機能
114,214 Bモード処理機能
115,215 ドプラ処理機能
116 画像生成機能
117 表示制御機能
118 システム制御機能
130 入力インタフェース
140 出力インタフェース
510 加算済みIQデータ
511,512 位相データ
1053 位相復元済みIQデータ
P 被検体