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特開2022-159865放射能測定方法および放射能測定装置
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  • 特開-放射能測定方法および放射能測定装置 図1
  • 特開-放射能測定方法および放射能測定装置 図2
  • 特開-放射能測定方法および放射能測定装置 図3
  • 特開-放射能測定方法および放射能測定装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159865
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】放射能測定方法および放射能測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/167 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
G01T1/167 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064313
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 哲一
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA06
2G188AA23
2G188BB04
2G188BB15
2G188CC20
2G188CC28
2G188DD30
(57)【要約】
【課題】コンクリートなどの固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなくこれに含まれる放射能を短時間で測定することができる放射能測定方法および放射能測定装置を提供する。
【解決手段】固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなく前記測定対象物の放射能を測定する方法であって、前記測定対象物の表面に放射線検出器を近接配置して、前記測定対象物に含まれる放射能から放出されるγ線のスペクトルを測定するステップS1、S2と、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、放射能濃度を求めるステップS3と、を有するようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなく前記測定対象物の放射能を測定する方法であって、
前記測定対象物の表面に放射線検出器を近接配置して、前記測定対象物に含まれる放射能から放出されるγ線のスペクトルを測定するステップと、
測定されたγ線のスペクトルに基づいて、放射能濃度を求めるステップと、を有することを特徴とする放射能測定方法。
【請求項2】
測定されたγ線のスペクトルに基づいて、所定の放射性核種のγ線のピーク面積、検出効率を求め、これらに基づいて放射能濃度を求めることを特徴とする請求項1に記載の放射能測定方法。
【請求項3】
固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなく前記測定対象物の放射能を測定する装置であって、
前記測定対象物の表面に近接配置されるとともに、前記測定対象物に含まれる放射能から放出されるγ線のスペクトルを測定する放射線検出器と、
測定されたγ線のスペクトルに基づいて、放射能濃度を求める放射能濃度算出手段と、を有することを特徴とする放射能測定装置。
【請求項4】
放射能濃度算出手段は、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、所定の放射性核種のγ線のピーク面積、検出効率を求め、これらに基づいて放射能濃度を求めることを特徴とする請求項3に記載の放射能測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートなどの固形物に残留する放射能を測定する放射能測定方法および放射能測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所の解体によりコンクリートや金属類など様々な低レベル放射性廃棄物が排出される。一般的に低レベル放射性廃棄物は、放射能測定を行い、残留放射能の量に応じてレベルの高い順に、L1廃棄物、L2廃棄物、L3廃棄物、クリアランス廃棄物に分類され、それぞれのレベルに応じた処分が行われる。コンクリートはL2~クリアランスレベルに該当する。
【0003】
各レベルの核種ごとの濃度上限値は以下のように定められている。
クリアランスレベル: 129I:0.01Bq/g
60Co, 134Cs, 137Cs 152Eu, 154Euなど:0.1Bq/g
14C, 36Cl, 59Fe, 58Fe, 90Sr, 99Tcなど:1Bq/g
3H, 41Ca, 59Ni, 63Ni:100Bq/g
L3: 60Co: 10GBq/ton, 90Sr: 10MBq/ton, 137Cs: 100MBq/ton
L2: 14C:100GBq/ton, 60Co:1PBq/ton, 63Ni, 90Sr:10TBq/ton,
99Tc:1GBq/ton, 137Cs:100TBq/ton, α核種:10GBq/ton
L1: 14C:10PBq/ton, 36Cl:10TBq/ton, 99Tc:100TBq/ton,
129I:1TBq/ton, α核種:100GBq/ton
【0004】
核種が複数含まれる場合は、含まれる核種ごとの放射能/上限値の積算値が1を超えなければ、そのレベル廃棄物として分類される。
【0005】
原子力発電所の解体が行われる時期に残存する放射性核種は、原子力発電所の稼働が停止し、解体されるまでの数年の期間より長い半減期を有する核種であるため、コンクリートに限れば、60Coと134Csと152Euと154Euの4核種に着目しなければならない。
【0006】
従来のコンクリートの放射能測定は、コアボーリングによるサンプリングを行い、ボーリングコアを粉砕し、所定形状の容器に粉砕試料を一定量詰め、高純度Ge検出器等で測定することによって実施している。なお、GMサーベイメータやNaIサーベイメータを使ってコンクリート表面汚染を迅速に測定することはできるが、含まれる核種は分からないので、汚染の有無しか判定できず、L1~L3やクリアランス等の各レベルに分類することはできない。そのため、高純度Ge検出器等を用いた測定が必要になる。
【0007】
一方、放射性廃棄物の放射能レベルを推定する方法に関し、本特許出願人は既に特許文献1に記載の方法を提案している。この特許文献1に記載の方法は、γ線の計数率とサンプル分析結果に基づき、放射能レベルを推定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-94981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の従来のコンクリートの放射能測定方法では、高純度Ge検出器等を用いるため精度の良い測定が可能であるが、サンプリングした部位しか測定ができないという問題がある。また、コアボーリングや試料の粉砕には時間を要するという問題がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コンクリートなどの固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなくこれに含まれる放射能を短時間で測定することができる放射能測定方法および放射能測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る放射能測定方法は、固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなく前記測定対象物の放射能を測定する方法であって、前記測定対象物の表面に放射線検出器を近接配置して、前記測定対象物に含まれる放射能から放出されるγ線のスペクトルを測定するステップと、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、放射能濃度を求めるステップとを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の放射能測定方法は、上述した発明において、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、所定の放射性核種のγ線のピーク面積、検出効率を求め、これらに基づいて放射能濃度を求めることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る放射能測定装置は、固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなく前記測定対象物の放射能を測定する装置であって、前記測定対象物の表面に近接配置されるとともに、前記測定対象物に含まれる放射能から放出されるγ線のスペクトルを測定する放射線検出器と、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、放射能濃度を求める放射能濃度算出手段とを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る他の放射能測定装置は、上述した発明において、放射能濃度算出手段は、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、所定の放射性核種のγ線のピーク面積、検出効率を求め、これらに基づいて放射能濃度を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る放射能測定方法によれば、固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなく前記測定対象物の放射能を測定する方法であって、前記測定対象物の表面に放射線検出器を近接配置して、前記測定対象物に含まれる放射能から放出されるγ線のスペクトルを測定するステップと、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、放射能濃度を求めるステップとを有するので、コンクリートなどの固形の測定対象物を破壊することなくこれに含まれる放射能を短時間で測定することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の放射能測定方法によれば、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、所定の放射性核種のγ線のピーク面積、検出効率を求め、これらに基づいて放射能濃度を求めるので、放射能濃度を精度よく求めることができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る放射能測定装置によれば、固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなく前記測定対象物の放射能を測定する装置であって、前記測定対象物の表面に近接配置されるとともに、前記測定対象物に含まれる放射能から放出されるγ線のスペクトルを測定する放射線検出器と、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、コンクリートなどの固形の測定対象物を破壊することなくこれに含まれる放射能を短時間で測定することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他の放射能測定装置によれば、放射能濃度算出手段は、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、所定の放射性核種のγ線のピーク面積、検出効率を求め、これらに基づいて放射能濃度を求めるので、放射能濃度を精度よく求めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明に係る放射能測定方法の実施の形態を示す概略フロー図である。
図2図2は、各検出器によるγ線スペクトルの例を示す図であり、(1)は高純度Ge検出器による場合、(2)はLaBr検出器による場合、(3)はNaI検出器による場合である。
図3図3は、本発明に係る放射能測定装置の実施の形態を示す概略構成図である。
図4図4は、測定時間と検出限界の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る放射能測定方法および放射能測定装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
本発明の実施の形態に係る放射能測定方法は、原子力発電所の解体に伴って排出される放射化・汚染コンクリートをL1~L3やクリアランスの各レベルに分けるための非破壊測定方法である。具体的には、図1に示すように、測定対象のコンクリート(固形の測定対象物)の表面に、放射線検出器を近接配置する(ステップS1)。続いて、この放射線検出器で、コンクリートに含まれる放射能から放出されるγ線のスペクトルを測定する(ステップS2)。次に、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、放射能濃度を求める(ステップS3)。こうすることで、コンクリートをコアボーリングすることなく非破壊で放射能濃度を測定することができる。
【0022】
放射線検出器は、γ線スペクトルを測定可能な検出器を用いる。こうした検出器としては、例えば高純度Ge検出器、LaBr検出器、NaI検出器等があり、これらを利用可能である。これらの検出器は、検出部として用いられている結晶のサイズか大きければ感度が高く、小さいと感度が低いという特徴がある。
【0023】
上記の検出器を用いて天然放射性核種と60Coと152Euを測定した時のスペクトル例を図2に示す。この図に示すように、NaI検出器はエネルギー分解能が悪く、60Coと152Euのピークの分離が不完全なため、これらの核種の分析にはあまり適さない。一方、高純度Ge検出器とLaBr検出器はこれらの核種を分析するのに十分な分解能があり、本実施の形態の検出器に好適である。
【0024】
図3は、本発明の実施の形態の放射能測定装置10の構成例を示したものである。この図に示すように、放射能測定装置10は、放射線検出器1と、放射線遮蔽体3と、放射能濃度算出手段5とを備える。放射線検出器1には検出部としての結晶2が備わっている。放射線遮蔽体3は、この結晶2の周囲を覆うように配置される遮蔽体であり、例えば筒状の鉛などの金属で構成することができる。このようにして構成した放射能測定装置10を測定対象のコンクリート4の表面に近づけて、γ線測定を行う。放射線検出器1によるγ線測定結果は、放射能濃度算出手段5に送られる。
【0025】
放射能濃度算出手段5は、測定されたγ線のピーク面積と測定時間、検出効率、核データを用いて、放射能濃度(Bq/g)を計算する。
【0026】
γ線のエネルギーにより検出効率が異なるため、検出効率は放射線輸送計算コードを用いて計算することが望ましい。放射線輸送計算コードとしては、例えばMCNPやPHITSなどの周知のコードを用いることができる。
【0027】
本実施の形態によれば、コンクリートのような固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなくこれに含まれる放射能を短時間で測定することができる。また、一箇所あたり一定時間の測定を行い、測定場所の移動を繰り返せば、面的な測定が可能になる。コンクリートの表面から深さ方向において放射能濃度が所定の傾向で小さくなることを利用して、このコンクリートの残留放射能量を推定することができる。これにより、原子力発電所の解体に伴って排出される放射化・汚染コンクリートをL1~L3やクリアランスの各レベルに容易に分けることが可能である。
【0028】
上述したように、クリアランスレベルのコンクリートの放射性廃棄物は、含まれる放射能量が小さいため、従来は採取したボーリングコアを分析して測定する方法が用いられていた。しかし、この方法は、上述したようにボーリングコアの採取と、粉砕による試料の作製に手間と時間を要するという問題があった。これに対し、本実施の形態によれば、γ線測定から放射能量の算定までを短時間(例えば数十分程度の測定時間)で実施可能であり、手間と時間をかけずに放射能量の定量が可能である。
【0029】
次に、本実施の形態における検出限界について説明する。
天然放射性核種であるウラン、トリウム、カリウムが天然の岩石の含有量の平均値程度(ウラン:2.9ppm、トリウム:9.1ppm、カリウム:2.9%)含まれていた時の放射線輸送計算コード(PHITS)を用いて見積もられる60Coと152Euの検出限界と測定時間の関係は図4の通りである。図4(1)は、サイズ(直径×高さ)が2×2インチのLaBr検出器における測定時間と検出限界の関係、図4(2)は、サイズ(直径×高さ)が2×2インチの高純度Ge検出器における測定時間と検出限界の関係、図4(3)は、サイズ(直径×高さ)が3×3インチのLaBr検出器における測定時間と検出限界の関係、図4(4)は、サイズ(直径×高さ)が3×3インチの高純度Ge検出器における測定時間と検出限界の関係である。
【0030】
これらの図に示すように、3×3インチ(直径×高さ)のサイズの検出器を用いれば、天然放射性核種が岩石の平均値程度含まれる場合は、LaBr検出器と高純度Ge検出器のどちらを用いても、20分程度の測定でクリアランスレベルが判別可能になることがわかる。
【0031】
以上説明したように、本発明に係る放射能測定方法によれば、固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなく前記測定対象物の放射能を測定する方法であって、前記測定対象物の表面に放射線検出器を近接配置して、前記測定対象物に含まれる放射能から放出されるγ線のスペクトルを測定するステップと、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、放射能濃度を求めるステップとを有するので、コンクリートなどの固形の測定対象物を破壊することなくこれに含まれる放射能を短時間で測定することができる。
【0032】
また、本発明に係る他の放射能測定方法によれば、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、所定の放射性核種のγ線のピーク面積、検出効率を求め、これらに基づいて放射能濃度を求めるので、放射能濃度を精度よく求めることができる。
【0033】
また、本発明に係る放射能測定装置によれば、固形の測定対象物を粉砕して得られる粉砕試料を用いることなく前記測定対象物の放射能を測定する装置であって、前記測定対象物の表面に近接配置されるとともに、前記測定対象物に含まれる放射能から放出されるγ線のスペクトルを測定する放射線検出器と、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、コンクリートなどの固形の測定対象物を破壊することなくこれに含まれる放射能を短時間で測定することができる。
【0034】
また、本発明に係る他の放射能測定装置によれば、放射能濃度算出手段は、測定されたγ線のスペクトルに基づいて、所定の放射性核種のγ線のピーク面積、検出効率を求め、これらに基づいて放射能濃度を求めるので、放射能濃度を精度よく求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明に係る放射能測定方法および放射能測定装置は、放射化・汚染コンクリートに残留する放射能を測定するのに有用であり、特に、コンクリートを破壊することなく短時間で放射能を測定するのに適している。
【符号の説明】
【0036】
1 放射線検出器
2 結晶
3 放射線遮蔽体
4 コンクリート(測定対象物)
5 放射能濃度算出手段
10 放射能測定装置
図1
図2
図3
図4