(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159881
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】アーク溶接方法及びアーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20221011BHJP
B23K 9/09 20060101ALI20221011BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
B23K9/095 501A
B23K9/09
B23K9/173 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064338
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 友也
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001BB09
4E001DD02
4E001DD04
4E001DE01
4E001DE04
4E082AA03
4E082AA04
4E082BA04
4E082DA01
4E082EA20
4E082EB11
4E082EC13
4E082ED03
4E082EF07
(57)【要約】
【課題】溶接電流を周期的に変化させることによって溶融池を安定化させる埋もれアーク溶接において、大電流期間に溶滴移行形態がローテーティング移行にならない場合であっても、埋もれアーク溶接の安定性を向上させることができるアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】溶接ワイヤに平均電流300A以上の溶接電流を供給することによってアークを発生させ、発生したアークにより母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に溶接ワイヤの先端部を進入させて母材を溶接する消耗電極式のアーク溶接方法であって、溶接電流を減少させる電流減少期間と、溶接電流を上昇させる電流上昇期間を周期的に繰り返し、更に、電流減少期間から電流上昇期間に変化する際に、パルス大電流を追加供給する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤに平均電流300A以上の溶接電流を供給することによって前記溶接ワイヤ及び母材間にアークを発生させ、前記母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に前記溶接ワイヤの先端部を進入させて前記母材を溶接する消耗電極式のアーク溶接方法であって、
前記溶接電流を減少させる電流減少期間と、前記溶接電流を上昇させる電流上昇期間を周期的に繰り返し、
更に、前記電流減少期間から前記電流上昇期間に変化する際に、パルス大電流を追加供給する
アーク溶接方法。
【請求項2】
追加供給される前記パルス大電流の値は、設定電流値の0.7倍以上3倍以下である
請求項1に記載のアーク溶接方法。
【請求項3】
前記パルス大電流を追加供給する時間は、前記電流上昇期間及び前記電流減少期間の変化周期の5%以上20%以下である
請求項1又は請求項2に記載のアーク溶接方法。
【請求項4】
前記溶接ワイヤの径が所定値以上である場合、前記パルス大電流を追加供給し、前記溶接ワイヤの径が前記所定値未満である場合、前記パルス大電流を追加供給しない
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアーク溶接方法。
【請求項5】
前記溶接ワイヤの径が1.4mm以上である場合、前記パルス大電流を追加供給する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアーク溶接方法。
【請求項6】
溶接ワイヤに平均電流300A以上の溶接電流を供給することによって前記溶接ワイヤ及び母材間にアークを発生させる電源部を備え、発生したアークにより前記母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に前記溶接ワイヤの先端部を進入させて前記母材を溶接する消耗電極式のアーク溶接装置であって、
前記電源部は、
前記溶接電流を減少させる電流減少期間と、前記溶接電流を上昇させる電流上昇期間を周期的に繰り返し、
更に、前記電流減少期間から前記電流上昇期間に変化する際に、パルス大電流を追加供給する
アーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極式のアーク溶接方法及びアーク溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、埋もれアーク溶接の実用化が進んでいる。溶接ワイヤを約5~100m/分で送給し、300A以上の大電流を供給することによって、埋もれアーク溶接が実現される。溶接ワイヤの高速送給及び大電流供給を行うと、母材に凹状の溶融池(溶融部分)が形成され、溶接ワイヤの先端部が溶融池に形成された凹状空間(凹状の溶融部分によって囲まれる空間)に進入する。以下、当該凹状空間を埋もれ空間と呼び、埋もれ空間に進入した溶接ワイヤの先端部と、母材又は溶融部分との間に発生するアークを、適宜、埋もれアークと呼ぶ。
【0003】
埋もれアーク溶接では埋もれ空間の形状が変動しやすく、その結果溶融池が揺動して溶接が不安定化しやすい。特に埋もれ空間の開口部が縮小する場合には、溶接ワイヤと溶融池の接触短絡や、埋もれ空間内部での圧力上昇に伴う空間膨張に起因する溶融池の揺動が生じ、溶接不安定化の大きな原因となる。
【0004】
埋もれアークを安定化する技術として、溶接電流の大きさを周期的に変化させる制御が開発されている(例えば、特許文献1)。いくつかの電流の変化パターンが提案されているが、これらは大電流が供給される大電流期間における溶滴移行形態をローテーティング移行にすることで、溶接ワイヤに迫る埋もれ空間の開口部をアークによって押し支え、開口部の縮小を抑制することを主たる狙いとした制御である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/105548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、太径の溶接ワイヤを用いる場合、あるいは平均溶接電流が小さい場合は、溶滴移行形態がローテーティング移行になりにくく、上述のような溶滴移行形態の遷移が生じない場合がある。つまり、溶接ワイヤに迫る埋もれ空間の開口部をアークによって押し支えることができないことがある。
【0007】
本発明の目的は、溶接電流を周期的に変化させることによって溶融池を安定化させる埋もれアーク溶接において、大電流期間に溶滴移行形態がローテーティング移行にならない場合であっても、埋もれアーク溶接の安定性を向上させることができるアーク溶接方法及びアーク溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本態様に係るアーク溶接方法は、溶接ワイヤに平均電流300A以上の溶接電流を供給することによって前記溶接ワイヤ及び母材間にアークを発生させ、前記母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に前記溶接ワイヤの先端部を進入させて前記母材を溶接する消耗電極式のアーク溶接方法であって、前記溶接電流を減少させる電流減少期間と、前記溶接電流を上昇させる電流上昇期間を周期的に繰り返し、更に、前記電流減少期間から前記電流上昇期間に変化する際に、パルス大電流を追加供給する。
【0009】
本態様にあっては、溶接電流を周期的に変動させることによって、埋もれアーク溶接を安定化させることができる。溶接電流の平均値が大きい大電流期間においては、溶滴移行形態がローテーティング移行となり、溶接ワイヤに迫る埋もれ空間の開口部をアークによって押し支え、開口部の縮小を抑制することができる。
しかし、太径の溶接ワイヤを用いる場合、あるいは平均溶接電流が小さい場合は、大電流期間においても溶滴移行形態がローテーティング移行になりにくく、埋もれ空間の開口部をアークによって押し支えることができないことがある。そこで、本態様にあっては、大電流期間に供給される前記溶接電流よりも大きなパルス大電流を追加供給する。アークの向きは、既にアークプラズマが既に形成されている高電気伝導率領域の中で、溶接ワイヤの先端部と埋もれ空間を形成する溶融池表面の距離が最も小さくなる方向に連続的に移動し、アーク圧力により溶融池を押し支える。パルス大電流が供給されると、アークの広がりが大きくなるため、より広い範囲においてアークの向きが変化できるようになる。つまり、溶接ワイヤ先端に対する埋もれ空間の開口部の接近部分にアークが向きやすくなり、埋もれ空間の開口部をアークで押し支えやすくなり、溶接が安定化する。
また、電流減少期間から電流上昇期間へ変化する際、パルス大電流を追加供給することにより、アークを拡げるために必要な大きなパルス大電流を付与することができる。
【0010】
本態様に係るアーク溶接方法は、追加供給される前記パルス大電流の値は、設定電流値の0.7倍以上3倍以下である構成が好ましい。
【0011】
本態様によれば、パルス大電流の値を設定電流値の0.7倍以上にすることによって、アークを十分に拡げ、埋もれ空間の開口部が溶接ワイヤに接近した場合に、溶接が不安定化する前に接近部分をアークで押し戻し、溶接の不安定化を抑制することができる。パルス大電流の値を設定電流値の0.7倍未満であると、アークが十分に広がらず、溶接ワイヤに対する埋もれ空間の開口部の接近部分にアークが向きにくくなり、溶接不安定化を抑制できなくなる。
また、パルス大電流の値を設定電流値の3倍以下にすることによって、大電流に起因するアーク力によって溶融池が揺動することを避けることができる。パルス大電流の値を設定電流値の3倍より大きくなると、大電流による大きなアーク力が長時間溶融池に作用することで、溶融池の揺動を招き、埋もれアークが不安定化する。
【0012】
本態様に係るアーク溶接方法は、前記パルス大電流を追加供給する時間は、前記電流上昇期間及び前記電流減少期間の変化周期の5%以上20%以下である構成が好ましい。
【0013】
本態様によれば、パルス大電流の追加供給時間を溶接電流変化周期の5%以上にすることによって、アークを十分に拡げ、埋もれ空間の開口部が溶接ワイヤに接近した場合に、溶接が不安定化する前に接近部分をアークで押し戻し、溶接の不安定化を抑制することができる。パルス大電流の追加供給時間が溶接電流変化周期の5%未満であると、アークが十分に広がらず、溶接ワイヤに対する埋もれ空間の開口部の接近部分にアークが向きにくくなり、溶接不安定化を抑制できなくなる。
また、パルス大電流の追加供給時間を溶接電流変化周期の20%以下にすることによって、大電流に起因するアーク力によって溶融池が揺動することを避けることができる。パルス大電流の追加供給時間を溶接電流変化周期の20%より大きくなると、大電流による大きなアーク力が長時間溶融池に作用することで、溶融池の揺動を招き、埋もれアークが不安定化する。
【0014】
本態様に係るアーク溶接方法は、前記溶接ワイヤの径が所定値以上である場合、前記パルス大電流を追加供給し、前記溶接ワイヤの径が前記所定値未満である場合、前記パルス大電流を追加供給しない構成が好ましい。
【0015】
本態様によれば、既に安定した状態にあるにもかかわらず、不必要に大電流パルスを追加供給することにより、埋もれアークが不安定化することを避けることができる。
【0016】
本態様に係るアーク溶接方法は、前記溶接ワイヤの径が1.4mm以上である場合、前記パルス大電流を追加供給する構成が好ましい。
【0017】
本態様によれば、既に安定した状態にあるにもかかわらず、不必要に大電流パルスを追加供給することにより、埋もれアークが不安定化することを避けることができる。
【0018】
本態様に係るアーク溶接装置は、溶接ワイヤに平均電流300A以上の溶接電流を供給することによって前記溶接ワイヤ及び母材間にアークを発生させる電源部を備え、発生したアークにより前記母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に前記溶接ワイヤの先端部を進入させて前記母材を溶接する消耗電極式のアーク溶接装置であって、前記電源部は、前記溶接電流を減少させる電流減少期間と、前記溶接電流を上昇させる電流上昇期間を周期的に繰り返し、溶接電流の時間平均を設定電流に対応させる。すなわち、前記電流減少期間の後半から前記電流上昇期間の前半までの期間は小電流期間、前記電流上昇期間の後半から前記電流減少期間の前半までの期間は大電流期間と言い換えることができる。更に、前記電流減少期間から前記電流上昇期間に変化する際に、該設定電流の0.7倍以上3倍以下のパルス大電流を追加供給する。
【0019】
本態様によれば、パルス大電流を追加供給することにより、上記アーク溶接方法と同様の原理により、埋もれ空間の開口部の接近部分にアークを向け、埋もれアーク溶接の安定性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶接電流を周期的に変化させることによって溶融池を安定化させる埋もれアーク溶接において、大電流期間に溶滴移行形態がローテーティング移行にならない場合であっても、埋もれアーク溶接の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態1に係る消耗電極式のアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。
【
図2】本実施形態1に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】溶接電流を周期的に変動させることによる溶滴移行の様子を示す模式図である。
【
図5】溶接電流変動制御の手順を示すフローチャートである。
【
図7】パルス大電流が付与されていない溶接電流の波形を示すグラフである。
【
図8】パルス電流が付与された溶接電流の波形を示すグラフである。
【
図9】本実施形態2に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。
【
図10】本実施形態2に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示の実施形態に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0023】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施形態1)
図1は、本実施形態1に係る消耗電極式のアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。本実施形態1に係るアーク溶接装置は、溶接電源1、トーチ2及びワイヤ送給部3を備える。本実施形態1に係るアーク溶接装置は、溶接電流Iwを周期的に変化させることによって溶融池を安定化させる埋もれアーク溶接において、大電流期間に溶滴移行形態がローテーティング移行にならない場合であっても、電流減少期間から電流上昇期間に変化する際にパルス大電流を追加供給することによって、埋もれアーク溶接の安定性を向上させることを可能にするものである。
【0024】
トーチ2は、銅合金等の導電性材料からなり、母材4の被溶接部へ溶接ワイヤ5を案内すると共に、アーク7(
図4参照)の発生に必要な溶接電流Iwを供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤ5に接触し、溶接電流Iwを溶接ワイヤ5に供給する。また、トーチ2は、コンタクトチップを囲繞する中空円筒形状をなし、被溶接部へシールドガスを噴射するノズルを有する。シールドガスは、アーク7によって溶融した母材4及び溶接ワイヤ5の酸化を防止するためのものである。シールドガスは、例えば炭酸ガス、炭酸ガス及びアルゴンガスの混合ガス、アルゴン等の不活性ガス等である。
【0025】
溶接ワイヤ5は、例えばソリッドワイヤであり、その直径は0.9mm以上1.6mm以下であり、消耗電極として機能する。溶接ワイヤ5は、例えば、螺旋状に巻かれた状態でペールパックに収容されたパックワイヤ、あるいはワイヤリールに巻回されたリールワイヤである。
【0026】
ワイヤ送給部3は、溶接ワイヤ5をトーチ2へ送給する送給ローラと、当該送給ローラを回転させるモータとを有する。ワイヤ送給部3は、送給ローラを回転させることによって、ワイヤリールから溶接ワイヤ5を引き出し、引き出された溶接ワイヤ5をトーチ2へ供給する。なお、かかる溶接ワイヤ5の送給方式は一例であり、特に限定されるものでは無い。
【0027】
溶接電源1は、給電ケーブルを介して、トーチ2のコンタクトチップ及び母材4に接続され、溶接電流Iwを供給する電源部11と、溶接ワイヤ5の送給速度を制御する送給速度制御部12とを備える。なお、電源部11及び送給速度制御部12を別体で構成しても良い。電源部11は、PWM制御された直流電流を出力する電源回路11a、出力電圧設定回路11b、平均電圧設定回路11c、平均電流設定回路11d、周波数設定回路11e、振幅設定回路11f、電圧検出部11g、電流検出部11h及び比較回路11iを備える。
【0028】
電圧検出部11gは、溶接電圧Vwを検出し、検出した電圧値を示す電圧値信号Edを比較回路11iへ出力する。
【0029】
電流検出部11hは、例えば、溶接電源1からトーチ2を介して溶接ワイヤ5へ供給され、アーク7を流れる溶接電流Iwを検出し、検出した電流値を示す電流値信号Idを出力電圧設定回路11bへ出力する。
【0030】
平均電圧設定回路11cは、周期的に変動する溶接電圧Vwの平均電圧を設定するための平均電圧設定信号を出力電圧設定回路11bへ出力する。
【0031】
平均電流設定回路11dは、周期的に変動する溶接電流Iwの平均電流を設定するための平均電流設定信号を出力電圧設定回路11b及び送給速度制御部12へ出力する。本実施形態1に係るアーク溶接方法を実施する場合、平均電流設定回路11dは、300A以上の平均電流、好ましくは平均電流を300A以上1000A以下の平均電流、より好ましくは500A以上800A以下の平均電流を示す平均電流設定信号を出力する。
【0032】
周波数設定回路11eは、母材4及び溶接ワイヤ5間の溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを周期的に変化させる周波数を設定するための周波数設定信号を出力電圧設定回路11bへ出力する。本実施形態1に係るアーク溶接方法を実施する場合、周波数設定回路11eは、10Hz以上1000Hz以下の周波数、好ましくは50Hz以上300Hz以下の周波数、より好ましくは80Hz以上200Hz以下の周波数を示す周波数設定信号を出力する。
【0033】
振幅設定回路11fは、周期的に変動する溶接電圧Vw又は溶接電流Iwの振幅を設定するための振幅設定信号を出力電圧設定回路11bへ出力する。振幅は、変動する溶接電圧Vwの最小設定電圧値と、最大設定電圧値との電圧差、又は変動する溶接電流Iwの最小電流値と、最大電流値との電流差である。
本実施形態1に係るアーク溶接方法を実施する際、電流の振幅を設定する場合、振幅設定回路11fは、50A以上の電流振幅、好ましくは100A以上500A以下の電流振幅、より好ましくは200A以上400A以下の電流振幅を示す振幅設定信号を出力する。
【0034】
出力電圧設定回路11bは、各部から出力された電流値信号Id、平均電圧設定信号、平均電流設定信号、周波数設定信号、振幅設定信号、に基づいて、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwが目標とする平均電圧及び平均電流、周波数、電圧振幅又は電流振幅となるように、例えば、矩形波状の目標電圧を示す出力電圧設定信号Ecrを生成し、生成した出力電圧設定信号Ecrを比較回路11iへ出力する。
【0035】
比較回路11iは、電圧検出部11gから出力された電圧値信号Edと、出力電圧設定回路11bから出力された出力電圧設定信号Ecrとを比較し、その差分を示す差分信号Evを電源回路11aへ出力する。
【0036】
電源回路11aは、商用交流を交直変換するAC-DCコンバータ、交直変換された直流をスイッチングにより所要の交流に変換するインバータ回路、変換された交流を整流する整流回路等を備える。電源回路11aは、比較回路11iから出力された差分信号Evに従って、インバータをPWM制御し、電圧を溶接ワイヤ5へ出力する。その結果、母材4及び溶接ワイヤ5間に、周期的に変化する溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電し、溶接電流Iwも周期的に変化する。なお、溶接電源1には、図示しない制御通信線を介して外部から出力指示信号が入力されるように構成されており、電源部11は、出力指示信号をトリガにして、電源回路11aに溶接電流Iwの供給を開始させる。出力指示信号は、例えば、溶接ロボットから溶接電源1へ出力される。また、手動の溶接機の場合、出力指示信号は、トーチ2側に設けられた手元操作スイッチが操作された際にトーチ2側から溶接電源1へ出力される。
【0037】
図2は、本実施形態1に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャート、
図3は、溶接対象の母材4を示す側断面図である。まず、溶接により接合されるべき一対の母材4をアーク溶接装置に配置し、溶接電源1の各種設定を行う(ステップS11)。具体的には、
図3に示すように板状の第1母材41及び第2母材42を用意し、被溶接部である端面41a、42aを突き合わせて、所定の溶接作業位置に配する。第1及び第2母材41、42は、例えば軟鋼、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼等の鋼板である。第1及び第2母材41、42の厚みは、例えば9mm以上30mm以下である。また必要に応じて、第1母材41又は第2母材に開先を設けてもよい。また必要に応じて、母材と同種の金属や銅板、あるいはセラミック等の裏当てを用いてもよい。
そして、溶接電源1は、周波数10Hz以上1000Hz以下、平均電流300A以上、電流振幅50A以上の範囲内で溶接電流Iwの溶接条件を設定する。
【0038】
なお、溶接電流Iwの条件設定は、全て溶接作業者が行っても良いし、溶接電源1が、本実施形態1に係る溶接方法の実施を操作部にて受け付け、全ての条件設定を自動的に行うように構成しても良い。また、溶接電源1が、平均電流等、一部の溶接条件を操作部にて受け付け、受け付けた一部の溶接条件に適合する残りの溶接条件を決定し、条件設定を半自動的に行うように構成しても良い。
【0039】
各種設定が行われた後、溶接電源1は、溶接電流Iwの出力開始条件を満たすか否かを判定する(ステップS12)。具体的には、溶接電源1は、溶接の出力指示信号が入力されたか否かを判定する。出力指示信号が入力されておらず、溶接電流Iwの出力開始条件を満たさないと判定した場合(ステップS12:NO)、溶接電源1は、出力指示信号の入力待ち状態で待機する。
【0040】
溶接電流Iwの出力開始条件を満たすと判定した場合(ステップS12:YES)、溶接電源1の送給速度制御部12は、ワイヤの送給を指示する送給指示信号を、ワイヤ送給部3へ出力し、所定速度で溶接ワイヤ5を送給させる(ステップS13)。溶接ワイヤ5の送給速度は、例えば、約5~100m/分の範囲内で設定される。送給速度制御部12は、平均電流設定回路11dから出力された平均電流設定信号に応じて、送給速度を決定する。なお、溶接ワイヤ5の送給速度は一定速度であっても良いし、周期的に変動させても良い。また、溶接作業者が、ワイヤの送給速度を直接設定するように構成しても良い。
【0041】
次いで、溶接電源1の電源部11は、電圧検出部11g及び電流検出部11hにて溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを検出し(ステップS14)、検出された溶接電圧Vw及び溶接電流Iwの値、周波数及び振幅が設定された溶接条件に一致し、溶接電流Iwが周期的に変動するように、PWM制御する(ステップS15)。
【0042】
次いで、溶接電源1の電源部11は、溶接電流Iwの出力を停止するか否かを判定する(ステップS16)。具体的には、溶接電源1は、出力指示信号の入力が継続しているか否かを判定する。出力指示信号の入力が継続しており、溶接電流Iwの出力を停止しないと判定した場合(ステップS16:NO)、電源部11は、処理をステップS13へ戻し、溶接電流Iwの出力を続ける。
【0043】
溶接電流Iwの出力を停止すると判定した場合(ステップS16:YES)、電源部11は、処理をステップS12へ戻す。
【0044】
以下、溶接電流Iwの周期的変動と溶滴移行の概要を説明する。
本実施形態1に係るアーク溶接方法においては、電源部11は、溶接電流Iwの周波数が10Hz以上1000Hz以下、平均電流が300A以上、電流振幅が50A以上になるように、溶接電流Iwを制御する。
好ましくは、電源部11は、溶接電流Iwの周波数が50Hz以上300Hz以下、平均電流が300A以上1000A以下、電流振幅が100A以上500A以下になるように、溶接電流Iwを制御する。
【0045】
図4は、溶接電流Iwを周期的に変動させることによる溶滴移行の様子を示す模式図である。上記溶接条件で溶接電流Iwを周期的に変動させると、溶接ワイヤ5の先端部5a及び被溶接部間に発生したアーク7の熱によって溶融した母材4及び溶接ワイヤ5の溶融金属からなる凹状の溶融部分6が母材4に形成される。そして、アーク7の様子を高速度カメラで撮影したところ、
図4左図に示すように、溶接ワイヤ5の先端部5a及び溶融部分6の底部61間にアーク7が発生する第1状態と、先端部5a及び溶融部分6の側部62間にアーク7が発生する第2状態とが周期的に変動することが確認された。
【0046】
具体的には、溶接ワイヤ5の先端部5aから溶融部分6の底部61へアーク7が飛ぶ第1状態と、溶接ワイヤ5の先端部5aから溶融部分6の側部62へアーク7が飛ぶ第2状態とを繰り返す。溶接電流Iwの平均値が小さい小電流期間においては第1状態、溶接電流Iwの平均値が大きい大電流期間においては第2状態となる。第1状態は、溶接ワイヤ5の溶滴移行形態がドロップ移行の状態である。第2状態は、例えば溶接ワイヤ5の溶滴移行形態がローテーティング移行又は振り子移行の状態である。
ドロップ移行は、溶接ワイヤ5の先端部5aから溶融部分6の底部61へ溶滴移行する形態の一例であり、ローテーティング移行は、溶接ワイヤ5の先端部5aから溶融部分6の側部62へ溶滴移行する形態の一例である。また、振り子移行は、溶接ワイヤ5の先端部5aに形成された液柱及びアーク7が、同一平面上を振り子状に揺動しつつ、溶接ワイヤ5の突き出し方向を中心軸として当該平面が全体として少しずつ回転していく特徴的な溶滴移行形態である。
溶融金属は、埋もれ空間6aが閉口し、溶接ワイヤ5の先端部5aが埋没される方向へ流れようとするが、第2状態において溶融部分6の側部62にアーク7が飛び、溶融部分6の溶融金属は溶接ワイヤ5から離隔する方向へ押し返され、埋もれ空間6aは凹状の状態で安定化する。なお、
図4右図では、大電流によって溶融した溶接ワイヤ5の先端部5aの溶滴が移行した結果、溶接ワイヤ5の先端部5aが短くなっている。
このような第1状態及び第2状態を80Hz以上200Hz以下で変動させることによって、埋もれ空間6aを安定化させ、埋もれアーク溶接の安定性を向上させることができる。
【0047】
ただし、太径の溶接ワイヤ5、例えば径が1.4mm以上の溶接ワイヤ5を用いる場合、あるいは平均溶接電流が小さい場合は、第2状態においても溶滴移行形態がローテーティング移行になりにくく、上述のような溶滴移行形態の遷移が生じない場合がある。
【0048】
しかし、太径の溶接ワイヤ5を用いる上記のような場合においても、埋もれアーク溶接の安定化に寄与し得る現象が確認されている。これは大電流時にアーク7の広がりが大きくなることによる。アーク7は、既にアークプラズマが形成されている高電気伝導率領域の中で、溶接ワイヤ5の先端部5aと埋もれ空間6aを形成する溶融池表面の距離が最も小さくなる方向に向く。従ってアーク7の広がりが大きくなると、より広い範囲において、溶接ワイヤ5に対する埋もれ空間6aの開口部の接近部分にアーク7が向きやすくなり、接近部分をアーク7で押し支えやすくなるため、溶接が安定化する。なお埋もれ空間6aの開口部が押し戻されるに伴い、アーク7の向きは連続的に変化し、最終的には定常状態である下向きに戻る。
【0049】
上述の、アーク拡大による埋もれアーク安定化方法においては、必ずしも大電流状態が長時間継続しなくてもよい。一旦アーク7が溶接ワイヤ5に対する埋もれ空間6a開口部の接近部分に向けば、その後、接近部分が押し戻されるまでは、溶接電流Iwの大きさに関わらずそのアーク7の向きが維持される。従って、瞬間的にパルス大電流(
図6参照)を付与すればよい。むしろ大電流条件が長時間継続すると、大きなアーク力が長時間溶融池に作用することで溶融池不安定化の原因となる。
【0050】
そこで本実施形態では、
図4に示した溶接電流変動制御において、更に追加的なアーク安定化制御として、パルス大電流の追加供給を行う。
【0051】
図5は、溶接電流変動制御の手順を示すフローチャートである。溶接電源1は、溶接電流Iwが周期的に変化するようにPWM制御を行う(ステップS31)。言い換えると、溶接電源1は、溶接電流Iwを減少させる電流減少期間と、溶接電流Iwを上昇させる電流上昇期間を周期的に繰り返す。例えば、溶接電源1は、平均電圧より大きい電圧を設定する期間と小さい設定電圧を設定する期間を周期的に繰り返すことによって、溶接電流Iwを変動させることができる。すなわち平均電圧より大きい電圧を設定する期間においては、溶接電流Iwは上昇し、前記電流上昇期間となる。平均電圧より小さい電圧を設定する期間においては、溶接電流Iwは減少し、前記電流減少期間となる。また、前記電流減少期間の後半から前記電流上昇期間の前半までの期間は小電流期間、前記電流上昇期間の後半から前記電流減少期間の前半までの期間は大電流期間と言い換えることができる。
【0052】
次いで、溶接電源1は、電流減少期間から電流上昇期間への切り換えタイミングであるか否かを判定する(ステップS32)。電流上昇期間への切り換えタイミングで無いと判定した場合(ステップS32:NO)、溶接電源1は、パルス大電流の追加付与を行わず、溶接電流変動制御を継続する。
【0053】
電流減少期間から電流上昇期間への切り換えタイミングであると判定した場合(ステップS32:YES)、溶接電源1は、溶接ワイヤ5の径が所定値以上であるか否かを判定する(ステップS33)。つまり、溶接電源1は、溶接ワイヤ5が太径ワイヤであるか否かを判定する。オペレータは、溶接電源1に使用する溶接ワイヤ5の径を設定することができ、溶接電源1は、設定された径を読み出すことによって、溶接ワイヤ5が太径であるか否かを判定することができる。太径の溶接ワイヤ5は、例えば径が1.4mm又は1.6mm以上のワイヤをいう。
【0054】
溶接ワイヤ5が太径で無いと判定した場合(ステップS33:NO)、溶接電源1は、パルス大電流の追加付与を行わず、溶接電流変動制御を継続する。溶接ワイヤ5が太径で無い場合、
図4に示した溶接電流Iwを周期的に変化させるだけの制御で埋もれアーク7を安定化させることができるため、パルス大電流を付与する制御を行わない。
【0055】
溶接ワイヤ5が太径であると判定した場合(ステップS33:YES)、溶接電源1は、電流減少期間から電流上昇期間に切り換える際にパルス大電流を追加供給する(ステップS34)。つまり、溶接電源1は、溶接電流Iwが上昇に転じるタイミングに合わせて、パルス大電流を追加供給する。
【0056】
図6は、パルス大電流の波形を示すグラフ、
図7は、パルス大電流が付与されていない溶接電流Iwの波形を示すグラフ、
図8は、パルス電流が付与された溶接電流Iwの波形を示すグラフである。
図6~
図8中、横軸は時間、縦軸は溶接電流Iwを示している。溶接電源1は、太径の溶接ワイヤ5を用いた埋もれアーク溶接において、埋もれ空間6aを安定化させるために、
図6に示すようなパルス大電流を追加的に供給する。
【0057】
ただし、瞬間的なパルス大電流を与えるためには、溶接電流Iwを急峻に上下させる必要があるが、実現可能な変化速度はアーク溶接装置の二次側抵抗又はインダクタンスに依存する。二次側のパワーケーブルが長い場合や巻かれている場合など、二次側抵抗又はインダクタンスが大きい場合には、溶接電流Iwが急峻に変化できず、十分高い電流が出力されなくなり、埋もれアーク7を安定化できなくなる。
【0058】
そこで、パルス大電流の付与を、追加的なアーク安定化制御として、
図4及び
図7に示すような溶接電流制御と併用する。つまり、
図4及び
図7に示すような溶接電流制御における追加的なアーク安定化制御として、パルス大電流の追加供給を行う。
【0059】
通常、
図7に示すように、溶接電流Iwが急激に変化しないよう制限されており、二次側抵抗及びインダクタンスが大きい環境でも小さい環境でも同様の溶接電流Iwの波形が得られるようになっている。溶接電源1は、このように制御されている溶接電流Iwの立ち上がり時、すなわち電流減少期間から電流上昇期間への切り替え時に、短時間のパルス大電流を付与する。溶接電流Iwの立ち上がり時にパルス大電流を追加供給すると、
図8に示すように、溶接電流Iwの立ち上がりに合わせて、電流を急峻に変化させやすくなり、埋もれ空間6aの開口部接近へアーク7を向けるために必要な電流を出力することが可能になる。
【0060】
なお、付与部分の溶接電流Iwの立ち上がり及び立ち下がり挙動は、溶接環境の二次側抵抗及びインダクタンスに左右されるが、あくまでも追加的な安定化制御であるため、高電流を出力できなかったとしても、溶接が不安定化することはない。高電流を出力できた場合は、埋もれアーク7がより安定する。
【0061】
追加的に供給するパルス大電流の目標値は設定電流値の0.7倍以上3倍以下、供給時間は電流変化周期の5%以上20%以下が望ましい。より好ましくは、パルス大電流は設定電流値の1倍以上2倍以下、供給時間は電流変化周期の8%以上15%以下が望ましい。なお、設定電流値は、平均電流設定回路11dに設定される溶接電流Iwの平均電流の値である。
【0062】
パルス大電流が設定電流値の0.7倍よりも小さい、又は供給時間が電流変化周期の5%よりも小さいと、アーク7が十分拡大せず、意図した埋もれアーク安定化効果がほとんど得られない。パルス大電流又は供給時間の増大に伴い、アーク拡大による埋もれアーク安定化効果が大きくなり、パルス大電流が設定電流値の1倍以上、又は供給時間が電流変化周期の8%以上になると、埋もれアーク安定化効果を溶接作業者が体感できるようになる。
【0063】
一方パルス大電流が設定電流値の2倍より大きい、又は供給時間が電流変化周期の15%よりも大きいと、大電流期間における強いアーク力が、溶融池の揺動、すなわち埋もれアークの不安定化の要因となりはじめる。特にパルス大電流が設定電流値の3倍よりも大きい、又は付与時間が電流変化周期の20%よりも大きいと、設定電圧を周期的に変化させる電圧振幅制御を用いない場合よりも埋もれアークが不安定化する。
【0064】
(実施例)
パルス大電流により、埋もれアーク溶接の安定性を向上させることができる溶接条件の一例を説明する。溶接ワイヤ5としてワイヤ径1.6mmのソリッドワイヤを用い、シールドガスとして炭酸ガスを用いて、溶接電流600A、アーク電圧45Vで埋もれアーク溶接を行う。また設定電圧を±4V、100Hz(周期10ms)で変化させ、溶接電流Iwを変化させて埋もれアークを安定化する。このとき、溶接電流Iwの立ち上がり時に、1000Aの出力電流指令を0.5ms間矩形で付与することで、埋もれアーク安定性を向上することができる。
【0065】
このように構成された実施形態2に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置によれば、溶接電流Iwを周期的に変化させることによって溶融池を安定化させる埋もれアーク溶接において、大電流期間に溶滴移行形態がローテーティング移行にならない場合であっても、埋もれアーク溶接の安定性を向上させることができる。
【0066】
更に、追加的に供給するパルス大電流の目標値を設定電流値の0.7倍以上3倍以下、供給時間は電流変化周期を5%以上20%以下とすることにより、アーク7を拡げて溶接ワイヤ5に対する埋もれ空間6aの開口部の接近部分にアークを向けやすくすることで、溶融池の揺動を抑制し、埋もれアーク溶接の安定性を向上させることができる。
【0067】
更にまた、溶接ワイヤ5が太径であるか否かを判定し、埋もれアーク溶接が不安定化するおそれがある場合に限定して、パルス大電流を供給するように構成することにより、不要なパルス大電流の追加供給を抑制することができる。埋もれアークが既に安定している状態で、パルス大電流を与えると不測の悪影響が生ずるおそれがあるため、このように制御することによって、埋もれアークをより効果的に安定化させることができる。
【0068】
(実施形態2)
実施形態2に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置は、アークスタート用のコンデンサを用いてパルス大電流の付与を補助する点が実施形態1と異なるため、以下では主にかかる相違点について説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態1と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0069】
図9は、本実施形態2に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。なお、
図9においては、作図の便宜上、
図1に示した平均電圧設定回路11c、平均電流設定回路11d、周波数設定回路11e、振幅設定回路11f、電圧検出部11gを省略している。
【0070】
実施形態2に係るアーク溶接装置は、コンデンサCと、整流器DRと、充電スイッチSW1と、遮断スイッチSW2とを備える。コンデンサCの一端はグランドに接続され、コンデンサCの他端は、整流器DRのアノードに接続されている。整流器DRのカソードは電源回路11aの正電位又は電源部11の出力端子に接続されている。充電スイッチSW1は、例えばサイリスタである。充電スイッチSW1の一端(例えば、アノード)は、電源回路11aの正電位又は電源部11の出力端子に接続され、充電スイッチSW1の他端(例えば、カソード)は、コンデンサCの上記他端に接続されており、電源回路11aと、コンデンサCとの接続経路を開閉する。遮断スイッチSW2は、例えばパワー半導体スイッチであり、その一端は整流器DRのカソードに接続され、他端は電源回路11aの正電位又は電源部11の出力端子に接続されている。充電スイッチSW1及び遮断スイッチSW2の開閉は電源部11によって制御される。
【0071】
図10は、本実施形態2に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。溶接電源1は、実施形態1と同様、溶接電流Iwが周期的に変化するようにPWM制御を行う(ステップS231)。溶接電源1は、大電流期間にあるか否かを判定する(ステップS232)。大電流期間にある場合(ステップS232:YES)、溶接電源1は、充電スイッチSW1を閉じてコンデンサCを充電する(ステップS233)。大電流期間にない場合(ステップS232:NO)、充電スイッチSW1及び遮断スイッチSW2を開いて充電を停止する(ステップS234)。
【0072】
次いで、溶接電源1は、実施形態1と同様、パルス大電流を付加する制御を行う(ステップS235~ステップS237)。更に、溶接電源1は、遮断スイッチSW2を開き、コンデンサCを放電させる(ステップS238)。充電されたコンデンサCを放電させることにより、より効果的にパルス大電流を追加供給することができ、埋もれアークを安定化させることができる。なお、ステップS237と、ステップS238は逆順で実行してもよい。
【0073】
このように構成された実施形態2に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置によれば、溶接電流制御に加えてコンデンサCを用いて効果的にパルス大電流を追加供給することができ、埋もれアーク溶接の安定性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 溶接電源、5 溶接ワイヤ、6 溶融部分、6a 埋もれ空間、7 アーク、11 電源部、11a 電源回路、12 送給速度制御部