IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本写真印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図1
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図2
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図4
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図3
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図5
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図6
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図7
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図8
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図9
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図10
  • 特開-転写シートの製造方法及び積層物 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159952
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】転写シートの製造方法及び積層物
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/16 20060101AFI20221011BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064453
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】徳倉 大朗
(72)【発明者】
【氏名】今井 聡司
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AD05
4F206AD10
4F206AD20
4F206AF10
4F206AF16
4F206AG01
4F206AG03
4F206AH25
4F206AH42
4F206JA07
4F206JB19
4F206JB28
4F206JF05
(57)【要約】
【課題】レーザによるパターニングの際に、基体シートと剥離層との間で剥がれが生じにくい積層物と、そのような積層物を用いた転写シートの製造方法を提供する。
【解決手段】転写シートの製造方法は、基体シートの上に、少なくとも、剥離層、アンカー層、UV波長を吸収しにくい透明樹脂を含むブロック層、及びベース色層が順に積層された積層物を準備する工程と、積層物のベース色層が形成されている側から、ベース色層に対してUVレーザを照射することで、ベース色層を貫通する穴部を有する任意のパターンを形成する工程とを含む。積層物は、基体シートと、基体シートの上に積層された剥離層と、剥離層の上に積層されたアンカー層と、アンカー層の上に積層された、UV波長を吸収しにくい透明樹脂を含むブロック層と、ブロック層の上に積層されたベース色層とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シートの上に剥離層を積層するステップと、前記剥離層の上にアンカー層を積層するステップと、前記アンカー層の上にUV波長を吸収しにくい透明樹脂を含むブロック層を積層するステップと、前記ブロック層の上にベース色層を積層するステップとを少なくとも含む、積層物の形成工程と、
前記積層物の前記ベース色層が形成されている側から、前記ベース色層に対してUVレーザを照射することで、前記ベース色層を貫通する穴部を有する任意のパターンを形成する工程とを含む、転写シートの製造方法。
【請求項2】
基体シートの上に、少なくとも、剥離層、アンカー層、UV波長を吸収しにくい透明樹脂を含むブロック層、及びベース色層が順に積層された積層物を準備する工程と、
前記積層物の前記ベース色層が形成されている側から、前記ベース色層に対してUVレーザを照射することで、前記ベース色層を貫通する穴部を有する任意のパターンを形成する工程とを含む、転写シートの製造方法。
【請求項3】
前記ベース色層は黒色系統であり、前記ブロック層は1層である、請求項1又は2に記載の転写シートの製造方法。
【請求項4】
前記ベース色層は白色系統であり、前記ブロック層は2層以上である、請求項1又は2に記載の転写シートの製造方法。
【請求項5】
前記ブロック層に含まれる前記透明樹脂は、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選ばれた1つである、請求項1~4のいずれかに記載の転写シートの製造方法。
【請求項6】
前記パターンが形成された前記積層物の前記ベース色層の上に、前記ベース色層とは異なる色のパターン色層を、前記穴部に充填するようにして形成する工程を含む、請求項1~5のいずれかに記載の転写シートの製造方法。
【請求項7】
基体シートと、
前記基体シートの上に積層された剥離層と、
前記剥離層の上に積層されたアンカー層と、
前記アンカー層の上に積層された、UV波長を吸収しにくい透明樹脂を含むブロック層と、
前記ブロック層の上に積層されたベース色層とを含む、積層物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写シートの製造方法及び積層物に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品のカバーパネル、自動車の内装パネルなどの成形品を製造する際に、加飾シートを用いる方法が知られている。加飾シートに任意の文字、記号、図形などのパターンを表現する場合、加飾シートの印刷層をレーザでパターニングする方法がある。図11(a)を参照して、たとえば特許文献1には、基体シート210の上に着色層220及び遮光層230が順に積層された積層物に対し、遮光層230が形成された面から赤外線レーザを照射して、任意のパターンを形成する方法が記載されている。この方法によれば、パターンの追加もしくは変更又はそれらの両方が必要になっても、印刷版を新たに用意する必要がなく、少量多品種の成形品を容易に製造することができる。
【0003】
しかしながら、従来のパターニング方法は、基体シートが成形品に残る加飾シートを対象としたものであり、基体シートが成形品に残らない転写シートを対象としたパターニング技術は未だ提案されていない。そこで、特許文献1に記載された加飾シートを転写シートの構成に置き換えた積層物を、レーザでパターニングすることが考えられる。図11(b)を参照して、加工対象となる積層物300は、基体シート210の上に、剥離層240、アンカー層250、着色層220、遮光層230が順に積層されたものとなる。剥離層240は基体シート210を剥離しやすくするための層であり、アンカー層250は剥離層240と着色層220とを密着させるための層である。図11(c)を参照して、遮光層230が形成された面から赤外線レーザを照射すると、任意のパターンが形成された転写シート200を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-30290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の赤外線レーザによるパターニングは、任意の層(たとえば、遮光層230)だけを除去する制御が難しく、図11(c)に示すように、遮光層230から剥離層240までの全層が除去されたものとなる。このとき、剥離層240が赤外線レーザによって除去される際の衝撃で、基体シート210と剥離層240との間で部分的な剥がれが生じる。その状態で、たとえば成形同時加飾法により転写シート200と射出成形品とを一体化し、基体シート210を剥がすと、加飾品に剥離跡ができる。つまり、従来の赤外線レーザによるパターニングが施された転写シートを用いると、加飾品の外観不良を引き起こしてしまうことがあった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、レーザによるパターニングの際に、基体シートと剥離層との間で剥がれが生じにくい積層物と、そのような積層物を用いた転写シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための、第1の発明は、基体シートの上に剥離層を積層するステップと、剥離層の上にアンカー層を積層するステップと、アンカー層の上にUV波長を吸収しにくい透明樹脂を含むブロック層を積層するステップと、ブロック層の上にベース色層を積層するステップとを少なくとも含む、積層物の形成工程と、積層物のベース色層が形成されている側から、ベース色層に対してUVレーザを照射することで、ベース色層を貫通する穴部を有する任意のパターンを形成する工程とを含む、転写シートの製造方法である。
【0008】
また、上記の目的を達成するための、第2の発明は、基体シートの上に、少なくとも、剥離層、アンカー層、UV波長を吸収しにくい透明樹脂を含むブロック層、及びベース色層が順に積層された積層物を準備する工程と、積層物のベース色層が形成されている側から、ベース色層に対してUVレーザを照射することで、ベース色層を貫通する穴部を有する任意のパターンを形成する工程とを含む、転写シートの製造方法である。
【0009】
第1又は第2の発明のように構成すると、ベース色層の除去により減衰したUVレーザのエネルギーは、ブロック層に吸収されてさらに減衰するところ、その減衰したエネルギーではアンカー層及び剥離層は除去されず、ベース色層のみが除去される。基体シートの上に積層された剥離層が除去されないため、基体シートと剥離層との間で剥がれが生じにくい。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、ベース色層は黒色系統であり、ブロック層は1層である、転写シートの製造方法である。
このように構成すると、UVレーザエネルギーの多くがベース色層に吸収され、ベース色層の除去に使われる。つまり、UVレーザエネルギーの多くは、ベース色層により減衰される。そして、残りのエネルギーは、UV波長を吸収しにくいブロック層を透過することで、アンカー層及び剥離層が除去されない程度にまで減衰される。そのため、より確実に、基体シートと剥離層との間で剥がれが発生するのを防ぐことができる。
【0011】
第4の発明は、第1又は第2の発明において、ベース色層は白色系統であり、ブロック層は2層以上である、転写シートの製造方法である。
このように構成すると、UVレーザエネルギーは、ベース色層によって吸収されにくいため、つまりベース色層によって減衰されにくいため、多くがブロック層に到達する。しかし、そのUVレーザエネルギーは、UV波長を吸収しにくい複数のブロック層を透過することで、アンカー層及び剥離層が除去されない程度にまで減衰される。そのため、より確実に、基体シートと剥離層との間で剥がれが発生するのを防ぐことができる。
【0012】
第5の発明は、第1から第4の発明のいずれかにおいて、ブロック層に含まれる透明樹脂は、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選ばれた1つである、転写シートの製造方法である。
【0013】
第6の発明は、第1から第5の発明のいずれかにおいて、パターンが形成された積層物のベース色層の上に、ベース色層とは異なる色のパターン色層を、穴部に充填するようにして形成する工程を含む、転写シートの製造方法である。
このように構成すると、穴部がUVレーザによって形成されるためエッジが明確になり、その穴部にベース色層とは異なる色のパターン色層が充填されるため、任意のパターンを視認しやすくなる。
【0014】
また、上記目的を達成するための、第7の発明は、基体シートと、基体シートの上に積層された剥離層と、剥離層の上に積層されたアンカー層と、アンカー層の上に積層された、UV波長を吸収しにくい透明樹脂を含むブロック層と、ブロック層の上に積層されたベース色層とを含む、積層物である。
【0015】
このように構成すると、ベース色層が形成された側からUVレーザを照射して任意のパターンを形成するとき、ベース色層の除去により減衰したUVレーザのエネルギーは、UV波長を吸収しにくいブロック層を透過することでさらに減衰するところ、その減衰したエネルギーではアンカー層及び剥離層は除去されず、ベース色層のみが除去される。基体シートの上に積層された剥離層が除去されないため、基体シートと剥離層との間で剥がれが生じにくい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の積層物と、それを用いた転写シートの製造方法によれば、レーザによるパターニングの際に、基体シートと剥離層との間で剥がれが生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)積層物の第1実施形態を示す模式的な断面図。(b)転写シートの製造方法の第1実施形態を示す模式的な断面図。
図2】左は第1実施形態の積層物にUVレーザでパターニングする様子を示す模式的な断面図、右はUVレーザエネルギーの減衰傾向を示す模式図。
図3】(a)積層物の第2実施形態を示す模式的な断面図。(b)転写シートの製造方法の第2実施形態を示す模式的な断面図。
図4】左は第2実施形態の積層物にUVレーザでパターニングする様子を示す模式的な断面図、右はUVレーザエネルギーの減衰傾向を示す模式図。
図5】第1実施形態の転写シートを用いた加飾品の一例を示す模式的な断面図。
図6】第2実施形態の転写シートを用いた加飾品の一例を示す模式的な断面図。
図7】転写シートの別の実施形態を示す模式的な断面図。
図8】転写シートの別の実施形態を示す模式的な断面図。
図9】転写シートの別の実施形態を示す模式的な断面図。
図10】転写シートの別の実施形態を示す模式的な断面図。
図11】(a)従来の加飾シートの製造方法を示す模式的な断面図。(b)(a)に示す加飾シートを、転写シートの構造に置き換えた模式的な断面図。(c)(b)に示す積層物を、赤外線レーザでパターニングする転写シートの製造方法を示す模式的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
図1(a)を参照して、積層物3は、基体シート31と、基体シート31の上に積層された剥離層32と、剥離層32の上に積層されたアンカー層33と、アンカー層33の上に積層された、UV波長を吸収しにくい透明樹脂を含むブロック層34と、ブロック層34の上に積層されたベース色層35とを含む。
図1(b)を参照して、転写シート1の製造方法は、上記した積層物3を形成する工程と、積層物3のベース色層35が形成されている側から、ベース色層35に対してUVレーザを照射することで、ベース色層35を貫通する穴部35aを有する任意のパターン5を形成する工程とを含む。
【0019】
基体シート31は、転写シート1を被転写物に転写した後に、被転写物から剥離する。積層物3から被転写物に転写されるのは、剥離層32、アンカー層33、ブロック層34、ベース色層35を含む転写層36である。基体シート31の材料としては、たとえば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂などの熱可塑性樹脂およびこれらの積層品を挙げることができる。
【0020】
剥離層32は、転写シート1を被転写物に転写して、基体シート31を剥離することで、転写層36によって加飾された被転写物の最表面となる層である。剥離層32は透明である。剥離層32は、基体シート31の上に、全面にわたって形成される。剥離層32の材料としては、たとえば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン‐酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。このような熱可塑性樹脂で剥離層を形成すると、被転写物に耐薬品性などを与えることができる。また、他の材料としては、たとえば、紫外線硬化型樹脂などの光硬化性樹脂、電子線硬化型樹脂などの放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれかを含んで形成することができる。このような樹脂としては、たとえば、ウレタンアクリレート系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、これらの樹脂にイソシアネートなどの添加剤を加えた樹脂を挙げることができる。上記硬化性樹脂で剥離層を形成すると、被転写物に耐久性や耐摩耗性といった物性を与えることができる。剥離層32の厚みは2μm以上12μm以下とすることができる。
【0021】
アンカー層33は、剥離層32とブロック層34との密着性を向上させるための層である。アンカー層33は透明である。アンカー層33は、剥離層32の上に、全面にわたって形成される。アンカー層33の材料としては、たとえば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂などを用いることができる。アンカー層33の厚みは1μm以上3μm以下とすることができる。
【0022】
ブロック層34は、ベース色層35をUVレーザでパターニングする際に、アンカー層33及び剥離層32がUVレーザによってパターニングされるのを防ぐ層である。第1実施形態においては、ブロック層34は1層形成されている。ブロック層34は、アンカー層33の上に、全面にわたって形成される。ブロック層34の作用・機能についての詳細は、後述する。ブロック層34は、UV波長を吸収しにくい透明樹脂を含んで形成された、透明な層である。換言すれば、ブロック層34は、UV波長を透過しやすい透明樹脂を含んで形成されている。さらに換言すれば、ブロック層34は、UV波長によって分子結合が切れにくい透明樹脂を含んで形成されている。このような透明樹脂としては、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂のいずれかを用いるとよい。なお、ブロック層34は、これらの樹脂に硬度を向上させる添加剤を加えて形成しても良い。
ブロック層34の厚みは、2μm以上30μm以下とすることができる。なお、ブロック層34は、UVレーザを拡散させる粒子は含まない。
【0023】
ベース色層35は、着色された層である。ベース色層35は、ブロック層34の上に、全面にわたって形成される。第1実施形態において、ベース色層35の色は、黒色系統である。ここで黒色系統とは、好ましくは黒色であるが、黒色に近い比較的濃い色を含む意味である。たとえば、マンセル表色系における明度及び彩度を示す数値が、ともに中央値以下となる範囲の色を含む意味である。ベース色層35にUVレーザが照射されることによって、任意のパターン5が形成される。パターン5は、ベース色層35を貫通する穴部35aを有する。任意のパターン5は、たとえば、文字、記号、図形、及びこれらを組み合わせたものである。転写層36を被転写物に転写し、基体シート31を剥離した後、ブロック層34、アンカー層33、剥離層32といった透明な層を通して、ベース色層35の色及び任意のパターン5が視認される。ベース色層35の材料としては、バインダー樹脂に黒色系統の顔料又は染料を分散させたインキを用いることができる。ベース色層35の厚みは、2μm以上20μm以下とすることができる。
なお、ベース色層35は、ブロック層34の全面ではなく、一部の面に形成してもよい。
【0024】
上記各層の形成は、公知の層形成方法で行うことができる。たとえば、コーティング法及び印刷法を用いることができる。コーティング法としては、たとえば、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法がある。印刷法としては、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、ラミネート法がある。
【0025】
UVレーザは、紫外線波長を有するレーザである。第1実施形態において、UVレーザの波長は355nmである。波長355nmのUVレーザを用いると、集光径はおよそ25μmにすることができる。このようにUVレーザでは、より波長の長い赤外線レーザなどと比較して、集光径を小さくすることができるため、精密に焦点を合わせ、優れた位置精度を維持しつつ、非常に細かい加工が可能である。
UVレーザは光子の持つエネルギーが大きいため、結合の弱い部分を持つ材料に照射すると、分子結合を直接解離する光分解加工を行うことができる。光分解加工は、分子結合を光(UVレーザ)で断ち切るため、赤外線レーザなど波長の長いレーザによる熱加工と比較して、加工対象物における熱の発生が少ない。また、加工対象物に当たったUVエネルギーが、加熱ではなく分解に主に使われるため、加工面が極めてシャープであり、加工残渣が少ないといった利点がある。
【0026】
図2を参照して、第1実施形態におけるUVレーザ加工の詳細と、ブロック層34の作用・機能について説明する。
加工対象物である積層物3は、図1(a)に示す通り、ブロック層34が1層であり、ベース色層35は黒色系統である。図2の左側を参照して、ベース色層35が形成されている側から、UVレーザ光Lを照射する。UVレーザ光Lは、UVレーザ機(図示せず)の中にあるレンズ(図示せず)によって焦点fに集光される。また、図2の右側に示すように、焦点fにおいてUVレーザエネルギーの値はE1となり、最も高くなる。この理由は次の通りである。すなわち、焦点fにおいて集光径つまり集光面積が最も小さくなることにより、焦点fでは単位面積当たりのレーザエネルギー(エネルギー密度)が最も大きくなるためである。ここで、ベース色層35は黒色系統であるため、UVレーザ光Lの波長を吸収しやすい。したがって、ベース色層35の表面近傍に焦点fの位置を調整すると、ベース色層35がUVレーザ光Lをよく吸収し、そのエネルギーによって分子結合が断ち切られ、ベース色層35が除去される。そして、図2の左側に二点鎖線で示すように、ベース色層35に穴部35aが形成される。このように、ベース色層35が黒色系統であると、ベース色層35がUVレーザ光Lの波長をよく吸収し、かつ、最大のUVレーザエネルギー値E1で加工できるため、ベース色層35の加工効率がよい。
【0027】
UVレーザエネルギーは、黒色系統のベース色層35に吸収され、ベース色層35を除去することに費やされる。そのため、図2右側に示すように、UVレーザエネルギー値はE2まで大きく減衰する。UVレーザ光Lは、ベース色層35に穴部35aを形成した後にブロック層34に到達する。ブロック層34は、UV波長を吸収しにくい透明な層であるため、UVレーザ光Lによって光分解加工されにくく、UVレーザ光Lを透過する。ブロック層34を透過したUVレーザ光Lは、アンカー層33に到達する。ここで、UVレーザ光Lはブロック層34を透過する際にいくらか吸収されるため、UVレーザエネルギー値E2はさらに減衰し、E3となっている。アンカー層33は、上述の通り、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂及びエポキシ系樹脂などのUV波長に弱い透明樹脂で形成される。UV波長に弱い樹脂とは、換言すれば、UV波長を吸収しやすく、UV波長で分子結合が切れやすい樹脂である。アンカー層33はこのような性質を持つため、UVレーザ光Lを吸収して加工されやすいが、アンカー層33に到達したUVレーザエネルギー値E3では、アンカー層33は光分解加工されない。つまり、アンカー層33は、UVレーザエネルギー値E3では除去されない。
【0028】
UVレーザ光Lは、透明なアンカー層33を透過して、剥離層32に到達する。ここで、UVレーザ光Lはアンカー層33を透過する際にいくらか吸収されるため、UVレーザエネルギー値E3はさらに減衰し、E4となっている。UVレーザエネルギー値E4はE3より小さいため、アンカー層33と同様、剥離層32もUVレーザエネルギー値E4では除去されない。
【0029】
第1実施形態の積層物3では、UVレーザ光Lの多くが黒色系統のベース色層35に吸収されることにより、UVレーザエネルギーの多く(E1-E2)が黒色系統のベース色層35の除去に費やされる。ベース色層35の直下に位置するブロック層34はUV波長を吸収しにくいため、換言すればUVレーザ光Lの吸収量が少ないため、UVレーザエネルギー値E2では光分解加工がされにくい。このようなベース色層35及びブロック層34の作用・機能により、ブロック層34の下に位置するアンカー層33及び剥離層32はUVレーザによって光分解加工がされず、そのままの状態で残る。したがって、基体シート31と剥離層32との間で剥がれが生じにくい。
【0030】
(第2実施形態)
図3(a)を参照して、第2実施形態における積層物4は、ベース色層45が白色系統であり、2層のブロック層44-1,44-2がある点において、第1実施形態とは異なる。
ベース色層45の白色系統とは、好ましくは白色であるが、白色に近い比較的薄い色を含む意味である。たとえば、マンセル表色系における明度を示す数値が8以上、及び彩度を示す数値が2以下となる範囲の色を含む意味である。ベース色層45にUVレーザが照射されることによって、任意のパターン6が形成される。白色系統のベース色層45の材料としては、バインダー樹脂に白色系統の顔料又は染料を分散させたインキを用いることができる。白色系統のベース色層45の厚みは、2μm以上20μm以下とすることができる。
【0031】
図4を参照して、第2実施形態におけるUVレーザ加工の詳細と、ブロック層44-1,44-2の作用・機能について説明する。
加工対象物である積層物4は、2層のブロック層44-1,44-2があり、ベース色層45は白色系統である。図4の左側を参照して、ベース色層45が形成されている側から、UVレーザ光Lを照射する。UVレーザ光Lは、UVレーザ機(図示せず)の中にあるレンズ(図示せず)によって焦点fに集光される。また、図4の右側に示すように、焦点fにおいてUVレーザエネルギーの値はE1となり、最も高くなる。ここで、ベース色層45は白色系統であるため、UVレーザ光Lの波長を吸収しにくい。換言すれば、白色系統のベース色層45は、黒色系統のときよりもUVレーザで加工されにくい。したがって、焦点fの位置を第1実施形態の位置よりも下方の位置(ベース色層45により近い位置)に調整する必要がある。こうすることで、最も高いUVレーザエネルギー値E1が白色系統のベース色層45に当たるため、ベース色層45が白色系統であっても、その分子結合を断ち切りやすくなる。そして、図4の左側に二点鎖線で示すように、ベース色層45に穴部45aが形成される。
【0032】
UVレーザエネルギーは、白色系統のベース色層45にいくらか吸収され、ベース色層45を除去することに費やされる。そのため、図4右側に示すように、UVレーザエネルギー値はE5まで減衰する。ここで、ベース色層が黒色系統の場合(図2)と比べると、E5はE2よりも大きい値である。これは、白色系統のベース色層45に吸収されるUVレーザ光Lの量が、黒色系統のベース色層25の場合よりも少ないためである。換言すれば、白色系統のベース色層45の除去に費やされるUVレーザエネルギーが、黒色系統のベース色層25の除去に費やされる場合よりも少ないためである。
【0033】
UVレーザ光Lは、ベース色層45に穴部45aを形成した後に、ベース色層45が接している第1ブロック層44-1に到達する。ここで、第1実施形態では、ベース色層35に接するブロック層34は、UVレーザエネルギー値E2によって光分解加工されなかった。しかし、第2実施形態においては、UVレーザエネルギー値E5はE2よりも大きいため、第1ブロック層44-1はUV波長を吸収しにくい層であるとは言え、いくらか吸収し、UVレーザエネルギー値E5によって光分解加工される。そして、図4左側に二点鎖線で示すように、第1ブロック層44-1にも穴部が形成される。
【0034】
第1ブロック層44-1を透過したUVレーザ光Lは、第2ブロック層44-2に到達する。UVレーザ光LのUVレーザエネルギーは、第1ブロック層44-1を除去することにより減衰する。つまり、UVレーザ光Lがブロック層44-2に到達したとき、UVレーザエネルギー値E5はE6にまで減衰している。このUVレーザエネルギー値E6は、第1実施形態におけるE2と同等の値であり、このエネルギーでは、第2ブロック層44-2は光分解加工されない。このように、第2実施形態では、白色系統のベース色層45を加工することで、UVレーザエネルギーE1をE5に減衰させ、そのエネルギー値E5で第1ブロック層44-1を加工することによって、第2ブロック層44-2が加工されない程度の値E6にまで減衰させている。
【0035】
第2ブロック層44-2を透過したUVレーザ光Lは、アンカー層43に到達する。ここで、UVレーザ光Lは第2ブロック層44-2を透過する際にいくらか吸収されるため、UVレーザエネルギー値E6はさらに減衰し、E7となっている。しかし、アンカー層43はUVレーザエネルギー値E7では除去されない。UVレーザ光Lは、透明なアンカー層43を透過して、剥離層42に到達する。ここで、UVレーザ光Lはアンカー層43を透過する際にいくらか吸収されるため、UVレーザエネルギー値E7はさらに減衰し、E8となっている。UVレーザエネルギー値E8はE7より小さいため、アンカー層43と同様、剥離層42もUVレーザエネルギー値E8では除去されない。
【0036】
第2実施形態の積層物4では、UVレーザ光Lが白色系統のベース色層45に吸収されにくいため、第1実施形態と比べて、ベース色層45の除去に費やされるUVレーザエネルギーの量(E1-E5)も少ない。UVレーザエネルギー値E5は第1実施形態におけるブロック層が加工されない値E2よりも大きいため、第1ブロック層44-1はUVレーザエネルギー値E5で加工される。そして、第1ブロック層44-1の直下に位置する第2ブロック層44-2はUVレーザ光Lを吸収しにくいため、UVレーザエネルギー値E6では光分解加工されにくい。このようなベース色層45及び2層のブロック層44-1,44-2の作用・機能により、第2ブロック層44-2の下に位置するアンカー層43及び剥離層42はUVレーザによって光分解加工がされず、そのままの状態で残る。したがって、基体シート41と剥離層42との間で剥がれが生じにくい。
【0037】
図5及び図6を参照して、第1及び第2実施形態の転写シート1,2の使用方法を説明する。転写シート1,2は、たとえば成形同時加飾法に用いることができる。成形同時加飾法は、一対の金型の間に転写シート1,2を挟み、金型を閉じてキャビティ内に射出成形する方法である。金型を開くと、転写シート1,2と成形体7とが一体化された成形品が製造される。そして、基体シート31,41を剥離することで加飾品8,9が得られる。加飾品8,9を、剥離層32,42が形成された方から見ると、ベース色層35,45に形成された任意のパターン5,6を視認することができる。
なお、成形体7の材料に用いる樹脂を透明樹脂又は着色透明樹脂とし、加飾品8,9の下又は成形体7の内部にLEDなどの光源を配置してもよい。このようにすると、光源をオンにした際、任意のパターン5,6をライトアップし、パターン5,6の視認性及び加飾品8,9の装飾性を高めることができる。
【0038】
図7図10を参照して、実施形態に共通の変形例を説明する。以下では第1実施形態の積層物3を例に説明するが、これらの変形例は第2実施形態の積層物4にも適用できる。
転写シート1の製造方法は、任意のパターン5が形成された積層物3のベース色層35の上に、ベース色層とは異なる色のパターン色層37を、穴部35aに充填するようにして形成する工程を含んでもよい。ベース色層35は黒色系統であるので、それと異なる色であれば、どのような色もパターン色層37として用いることができる。図7を参照して、1色のパターン色層37が、ベース色層35を全て覆うようにして形成されてもよい。また、図8を参照して、2色以上のパターン色層37,38がベース色層35を全て覆うように形成されてもよい。また、図9を参照して、1色のパターン色層37がベース色層35の一部を覆うようにして形成されてもよい。つまり、図7図9に示すように、ベース色層35に形成された全ての穴部35aは、1色又は2色以上のパターン色層によって充填される。パターン色層37,38の材料としては、バインダー樹脂に、ベース色層35とは異なる色の顔料又は染料を分散させたインキを用いることができる。パターン色層37,38の厚みは、2μm以上20μm以下とすることができる。パターン色層37,38の形成方法には、たとえば、コーティング法及び印刷法を用いることができる。
このような転写シートの製造方法によれば、穴部35aがUVレーザによって形成されることでエッジが明確になり、その穴部35aにベース色層35とは異なる色のパターン色層37,38が充填されるため、任意のパターン5を視認しやすくなる。
また、図10を参照して、転写シート1の製造方法は、パターン色層37を覆うようにして接着層39を形成する工程を含んでもよい。接着層39があることにより、被転写物に対する転写層36の密着力が向上する。
【0039】
なお、第2実施形態においてブロック層は2層であるが、3層以上形成してもよい。また、第2実施形態において、ブロック層は、ブロック層2層以上に相当する厚みで1層だけ形成してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1,2 :転写シート
3,4 :積層物
31,41 :基体シート
32,42 :剥離層
33,43 :アンカー層
34,44 :ブロック層
44-1 :第1ブロック層
44-2 :第2ブロック層
35,45 :ベース色層
35a,45a:穴部
36,46 :転写層
37,38 :パターン色層
39 :接着層
5,6 :パターン
7 :成形体
8,9 :加飾品
L :UVレーザ光
f :焦点
100 :加飾シート
200 :転写シート
210 :基体シート
220 :着色層
230 :遮光層
240 :剥離層
250 :アンカー層
300 :積層物
図1
図2
図4
図3
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11