(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160003
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】歯科用局所麻酔マイクロニードルアレイ2
(51)【国際特許分類】
A61K 31/245 20060101AFI20221011BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20221011BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20221011BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20221011BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221011BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20221011BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20221011BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20221011BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221011BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
A61K31/245
A61M37/00 530
A61P23/02
A61P1/02
A61K9/08
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/10
A61K9/70 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063156
(22)【出願日】2022-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2021063935
(32)【優先日】2021-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 美生
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕史
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
4C267
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA51
4C076AA72
4C076BB22
4C076CC01
4C076CC16
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4C076EE30
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4C076EE43
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA36
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA37
4C206MA52
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4C206MA83
4C206NA10
4C206ZA21
4C206ZA67
4C267AA72
4C267BB24
4C267CC16
4C267GG16
(57)【要約】
【課題】口腔内への適用が容易で適用部位に則した麻酔効果を発揮し、安定性に優れたマイクロニードル製剤。
【解決手段】アミノ安息香酸エチルを含有するマイクロニードルアレイからなる即効性歯科局所麻酔製剤であって、マイクロニードルアレイ中のアミノ安息香酸エチルの含有量は5~30質量%であり、マイクロニードルアレイ中にアミノ安息香酸エチルとポリビニルピロリドンとが共存し、アミノ安息香酸エチルはマイクロニードルアレイ中に溶解又は均一分散している、歯科局所麻酔製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ安息香酸エチルを含有するマイクロニードルアレイからなる即効性歯科局所麻酔製剤であって、マイクロニードルアレイ中のアミノ安息香酸エチルの含有量は5~30質量%であり、マイクロニードルアレイ中にアミノ安息香酸エチルとポリビニルピロリドンとが共存し、アミノ安息香酸エチルはマイクロニードルアレイ中に溶解又は均一分散している、歯科局所麻酔製剤。
【請求項2】
ポリビニルピロリドンの含有量がアミノ安息香酸エチル100質量部に対し100質量部以上である、請求項1に記載の歯科局所麻酔製剤。
【請求項3】
アミノ安息香酸エチルとポリビニルピロリドンとを共存させたエタノールを含む溶液を用いて鋳型充填法により製造される、請求項1又は2に記載の歯科局所麻酔製剤。
【請求項4】
前記マイクロニードルアレイが水溶性かつエタノール溶解性のポリマーを基剤として含有する、請求項1又は2に記載の歯科局所麻酔製剤。
【請求項5】
アミノ安息香酸エチルを含有するマイクロニードルアレイからなる即効性歯科局所麻酔製剤であって、
該マイクロニードルアレイは基板と基板上の複数のマイクロニードルとからなり、水溶性高分子を基剤として同一の水溶性高分子から一体的に形成され、かつ、柔軟な基板部を有し、
該水溶性高分子はポリビニルピロリドン、又はポリビニルピロリドンと、ヒアルロン酸及びその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロース、コラーゲン、プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、並びにデキストランからなる群より選ばれる1種又は2種以上との混合物であり、
該ポリビニルピロリドンの該水溶性高分子に占める割合は50~100質量%であり、
口腔粘膜又は歯茎に貼付することによりニードル部が粘膜内溶解する即効性歯科局所麻酔製剤。
【請求項6】
前記マイクロニードルアレイの背面に疎水性または非溶解フィルムを裏打ちしている、請求項1又は5に記載の歯科局所麻酔製剤。
【請求項7】
前記マイクロニードルアレイの基板の厚さが5μm以上100μm以下である、請求項5に記載の歯科局所麻酔製剤。
【請求項8】
マイクロニードルの高さが50μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の歯科局所麻酔製剤。
【請求項9】
マイクロニードルの針密度が20本/cm2以上2000本/cm2以下であることを特徴とする請求項5に記載の歯科局所麻酔製剤。
【請求項10】
前記マイクロニードルアレイの基剤が水溶性高分子以外に水溶性低分子化合物を2質量%以上含有する、請求項5に記載の歯科局所麻酔製剤。
【請求項11】
アミノ安息香酸エチルの基剤中の濃度が5質量%以上30質量%以下である、請求項5に記載の歯科局所麻酔製剤。
【請求項12】
水溶性高分子を基剤とし、基板と基板上の複数のマイクロニードルが同一の水溶性高分子から一体的に形成されている、アミノ安息香酸エチルを含有するマイクロニードルアレイであって、
該マイクロニードルの高さは50μm以上500μm以下であり、該マイクロニードルの先端は直径1μm以上50μm以下の円形又はそれと同面積を有する平面であり、該マイクロニードルアレイの基板の厚さは5μm以上100μm以下であり、かつ、該基板は柔軟な基板であり、
該水溶性高分子はポリビニルピロリドン、又はポリビニルピロリドンと、ヒアルロン酸及びその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロース、コラーゲン、プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、並びにデキストランからなる群より選ばれる1種又は2種以上との混合物であり、
該ポリビニルピロリドンの該水溶性高分子に占める割合は50~100質量%である、
マイクロニードルアレイ。
【請求項13】
基剤が水溶性高分子以外に水溶性低分子化合物を2質量%以上含有する、請求項12に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項14】
アミノ安息香酸エチルの基剤中の濃度が5質量%以上30質量%以下である、請求項12に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイと、該マイクロニードルアレイの背面に備えられた支持体とからなるマイクロニードルパッチ。
【請求項16】
支持体が口腔内粘着性を有する、請求項15に記載のマイクロニードルパッチ。
【請求項17】
支持体に粘着性物質がコーティングされている、請求項16に記載のマイクロニードルパッチ。
【請求項18】
支持体が水溶性である、請求項16に記載のマイクロニードルパッチ。
【請求項19】
支持体がフィルム状であり、一部にフィルムを含まない欠損部分を有する、請求項15に記載のマイクロニードルパッチ。
【請求項20】
支持体が滅菌紙であり、マイクロニードルアレイを内包する外枠を形成している、請求項15に記載のマイクロニードルパッチ。
【請求項21】
アミノ安息香酸エチルとポリビニルピロリドンとを共存させたエタノールを含む溶液を調製する工程、及び
前記溶液をマイクロニードルアレイ成型用鋳型に流延し、乾燥した後剥離する工程を含む、
アミノ安息香酸エチルがマイクロニードルアレイ中に溶解又は均一分散している即効性歯科局所麻酔製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科(口腔内)局所麻酔に適用するマイクロニードルの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療においては、痛みの軽減のため口腔内に局所麻酔が施され、口腔(歯茎)粘膜に麻酔薬を塗布したり、歯茎内に麻酔薬を注射する。
歯科用市販局所麻酔剤は数多く使用されている。それらは局所麻酔剤含有液剤、ゲル剤、ゼリー剤、などが主であり、液剤は脱脂綿などに浸して口腔内に適用する。ゲル剤、ゼリー剤はそのまま口腔内に適用する。いずれも、粘膜からの麻酔薬の吸収が遅いため効果が発生するまでの時間が長く、患者が横になって待つ時間が長いことや粘膜吸収のばらつきが生じることにより、QOLを損なうことが多い。また、麻酔薬が適用局所から流れて口腔内の広い部分が麻酔されることも、これらの局所表面麻酔剤の欠点である。麻酔薬の注射は、麻酔薬を注射される時点で痛みを感じて治療前に恐怖心が高まり、このことが歯科治療を敬遠する原因のひとつとなっている。
【0003】
マイクロニードル製剤は、経皮吸収性が高く、化粧品及び医薬品等の開発が試みられている。一般に、マイクロニードル製剤の適用部位は皮膚表皮であるが、例えば、経内頬投与によるワクチン接種としての微小針パッチが知られている(特許文献1)。本微小針パッチは、内頬粘膜の外側層を貫通するように設計されている。また、歯科用局所麻酔薬等の歯科用物質伝達のためのマイクロニードルが開発されている(特許文献2、3、4)。特許文献2は、マイクロニードルアレイと、歯科用局所麻酔薬を内部に含む中空型球状容器とを備え、マイクロニードルを貫通する開口部を通じて麻酔薬が局所に送達される。特許文献3は、口腔内部の皮膚形状に沿って曲がるベース部とマイクロニードル本体部と該ニードル本体部の表面にコーティングされた有効成分コーティング部とを備えたマイクロニードルである。特許文献4は、水溶性高分子及び水溶性低分子化合物を基剤として同一の水溶性高分子及び水溶性低分子化合物から一体的に形成された基板と基板上の複数のマイクロニードルから構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-515474号公報
【特許文献2】特表2017-507734号公報
【特許文献3】特開2017-061447号公報
【特許文献4】特開2019-084352号公報(特許第6671616号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロニードル技術は歯科用局所麻酔への適用が試みられているが、マイクロニードルデバイスとしての装置が複雑であり、より簡便で麻酔効果が得られるマイクロニードル製剤が求められている。また、歯科用局所麻酔に汎用されるアミノ安息香酸エチルは、製剤化工程及び保存工程で、結晶が析出する問題点が生じた。本発明の目的は、口腔内への適用が容易であり、適用部位に則した麻酔効果を発揮でき、安定性に優れたマイクロニードルアレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
麻酔薬の注射の前に、まず皮膚の1~2mmの深部まで迅速表面麻酔ができれば、患者のQOLは著しく改善ができる。本発明者らは、口腔内組織及び歯科分野の特殊性に鑑みて鋭意検討した結果、マイクロニードルアレイの形状及び材質を特定のものとすることで、歯科用局所麻酔に適したマイクロニードルアレイを発明するに至った(特開2019-084352号公報)。さらに、薬物のアミノ安息香酸エチルの安定性を高めるため、鋭意検討した結果、特定の基剤を用いて製造したマイクロニードルアレイに特定の割合で薬物を含有させることにより所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 アミノ安息香酸エチルを含有するマイクロニードルアレイからなる即効性歯科局所麻酔製剤であって、マイクロニードルアレイ中のアミノ安息香酸エチルの含有量は5~30質量%であり、マイクロニードルアレイ中にアミノ安息香酸エチルとポリビニルピロリドンとが共存し、アミノ安息香酸エチルはマイクロニードルアレイ中に溶解又は均一分散している、歯科局所麻酔製剤。
〔2〕 ポリビニルピロリドンの含有量がアミノ安息香酸エチル100質量部に対し100質量部以上である、〔1〕に記載の歯科局所麻酔製剤。
〔3〕 アミノ安息香酸エチルとポリビニルピロリドンとを共存させたエタノールを含む溶液を用いて鋳型充填法により製造される、〔1〕又は〔2〕に記載の歯科局所麻酔製剤。
〔4〕 前記マイクロニードルアレイが水溶性かつエタノール溶解性のポリマーを基剤として含有する、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の歯科局所麻酔製剤。
〔5〕 アミノ安息香酸エチルを含有するマイクロニードルアレイからなる即効性歯科局所麻酔製剤であって、
該マイクロニードルアレイは基板と基板上の複数のマイクロニードルとからなり、水溶性高分子を基剤として同一の水溶性高分子から一体的に形成され、かつ、柔軟な基板部を有し、
該水溶性高分子はポリビニルピロリドン、又はポリビニルピロリドンと、ヒアルロン酸及びその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロース、コラーゲン、プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、並びにデキストランからなる群より選ばれる1種又は2種以上との混合物であり、
該ポリビニルピロリドンの該水溶性高分子に占める割合は50~100質量%であり、
口腔粘膜又は歯茎に貼付することによりニードル部が粘膜内溶解する即効性歯科局所麻酔製剤。
〔6〕 前記マイクロニードルアレイの背面に疎水性または非溶解フィルムを裏打ちしている、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の歯科局所麻酔製剤。
〔7〕 前記マイクロニードルアレイの基板の厚さが5μm以上100μm以下である、〔5〕又は〔6〕に記載の歯科局所麻酔製剤。
〔8〕 前記マイクロニードルアレイの基剤が水溶性高分子以外に水溶性低分子化合物を2質量%以上含有する、〔5〕~〔7〕のいずれかに記載の歯科局所麻酔製剤。
〔9〕 アミノ安息香酸エチルの基剤中の濃度が5質量%以上30質量%以下である、〔5〕~〔8〕のいずれかに記載の歯科局所麻酔製剤。
〔10〕 水溶性高分子を基剤とし、基板と基板上の複数のマイクロニードルが同一の水溶性高分子から一体的に形成されている、アミノ安息香酸エチルを含有するマイクロニードルアレイであって、
該マイクロニードルの高さは50μm以上500μm以下であり、該マイクロニードルの先端は直径1μm以上50μm以下の円形又はそれと同面積を有する平面であり、該マイクロニードルアレイの基板の厚さは5μm以上100μm以下であり、かつ、該基板は柔軟な基板であり、
該水溶性高分子はポリビニルピロリドン、又はポリビニルピロリドンと、ヒアルロン酸及びその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロース、コラーゲン、プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、並びにデキストランからなる群より選ばれる1種又は2種以上との混合物であり、
該ポリビニルピロリドンの該水溶性高分子に占める割合は50~100質量%である、
マイクロニードルアレイ。
〔11〕 基剤が水溶性高分子以外に水溶性低分子化合物を2質量%以上含有する、〔10〕に記載のマイクロニードルアレイ。
〔12〕 アミノ安息香酸エチルの基剤中の濃度が5質量%以上30質量%以下である、〔10〕又は〔11〕に記載のマイクロニードルアレイ。
〔13〕 〔10〕~〔12〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイと、該マイクロニードルアレイの背面に備えられた支持体とからなるマイクロニードルパッチ。
〔14〕 支持体が口腔内粘着性を有する、〔13〕に記載のマイクロニードルパッチ。
〔15〕 支持体に粘着性物質がコーティングされている、〔14〕に記載のマイクロニードルパッチ。
〔16〕 支持体が水溶性である、〔14〕に記載のマイクロニードルパッチ。
〔17〕 支持体がフィルム状であり、一部にフィルムを含まない欠損部分を有する、〔13〕~〔16〕のいずれかに記載のマイクロニードルパッチ。
〔18〕 支持体が滅菌紙であり、マイクロニードルアレイを内包する外枠を形成している、〔13〕~〔16〕のいずれかに記載のマイクロニードルパッチ。
〔19〕 アミノ安息香酸エチルとポリビニルピロリドンとを共存させたエタノールを含む溶液を調製する工程、及び
前記溶液をマイクロニードルアレイ成型用鋳型に流延し、乾燥した後剥離する工程を含む、
アミノ安息香酸エチルがマイクロニードルアレイ中に溶解又は均一分散している即効性歯科局所麻酔製剤の製造方法。
〔20〕 マイクロニードルの高さが50μm以上500μm以下であることを特徴とする〔5〕~〔9〕のいずれかに記載の歯科局所麻酔製剤。
〔21〕 マイクロニードルの針密度が20本/cm2以上2000本/cm2以下であることを特徴とする〔5〕~〔9〕のいずれかに記載の歯科局所麻酔製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマイクロニードルアレイは、基剤としてポリビニルピロリドンを主成分とする水溶性高分子を使用しているので、有効成分であるアミノ安息香酸エチルの安定性に優れている。
本発明のマイクロニードルアレイは、水溶性高分子を基剤として基板とマイクロニードルとが一体的に形成されているので、製造が容易であり、含有する局所麻酔剤の量及びマイクロニードルアレイの大きさを調整することにより、目的に応じた麻酔効果を短時間で達成することができる。
本発明のマイクロニードルアレイ及びマイクロニードルパッチは、水溶性高分子を基剤として用いているので、高湿度環境下で口腔粘膜又は歯茎の屈曲に追随して密着し易く、口腔内の局所投与に適している。
本発明のマイクロニードルアレイ及びマイクロニードルパッチは、歯科用局所麻酔製剤として、さらには、歯科用局所麻酔注射液を投与する前に、投与部位の痛みを軽減するためのプレ麻酔薬としても使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のマイクロニードルパッチの写真。
図1Aはポリエチレン粘着フィルム1を支持体としているが、マイクロニードル部3の背面の中央にはポリエチレン粘着フィルムが存在しない。
図1Bは滅菌紙4を支持体とし、マイクロニードル部5の背面には滅菌紙が存在せず、マイクロニードルパッチの外枠を形成している。
【
図2】マイクロニードル部7の背面の中央には支持体が存在しない、端の一部に手で持つための耳が付いているマイクロニードルパッチの模式図。
【
図3】実施例7,8に使用したマイクロニードルパッチの顕微鏡写真。マイクロニードルの高さは350μm、針密度は1070本/cm
2であり、パッチの大きさは、直径1cmである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のマイクロニードルアレイは、局所麻酔、特に歯科用局所麻酔に適するものである。本発明のマイクロニードルアレイは、基板と基板上の複数のマイクロニードルとからなり、水溶性高分子を基剤として同一の水溶性高分子から一体的に形成されており、かつ、柔軟な基板部を有するものである。
【0011】
マイクロニードルアレイの基剤
マイクロニードルアレイの基剤は、ポリビニルピロリドンを主成分とする水溶性高分子である。このような素材を用い均一に局所麻酔剤を含有するマイクロニードルアレイを常法により作製すると、局所麻酔剤はマイクロニードル部のみならず基板部にも含まれることとなる。このマイクロニードルアレイを口腔内(口腔粘膜又は歯茎等)に適用すると、マイクロニードル部は粘膜内又は歯茎内に到達することができ、それにより、含まれる局所麻酔剤の目的部位への送達を促進する。マイクロニードルアレイの基板も、口腔内の高湿度環境下で口腔粘膜又は歯茎の屈曲に追随して密着し、基板の水溶性高分子が溶解し、そこに存在する局所麻酔剤もまた、目的部位へ送達される。
【0012】
水溶性高分子としては、ポリビニルピロリドン単独であってもよく、又はポリビニルピロリドンと、ヒアルロン酸及びその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロース、コラーゲン、プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、並びにデキストランからなる群より選ばれる1種または2種以上との混合物であってもよい。ポリビニルピロリドンの水溶性高分子に占める割合は50~100質量%であり、70~100質量%が好ましい。
水溶性高分子は、水溶性かつエタノール溶解性の高分子も含み、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、等があげられる。本発明においては、水溶性かつエタノール溶解性の高分子を用いることも望ましく、具体的には、ポリビニルピロリドン単独、ポリビニルピロリドンとヒドロキシプロピルセルロースとの混合物を用いることが望ましい。
【0013】
ポリビニルピロリドンは、種々の重量平均分子量のものを使用することができるが、重量平均分子量20万以上が好ましく、特に36万程度が好ましい。市販品としては、ポリビニルピロリドンK90(東京化成工業株式会社製、重量平均分子量36万)が望ましい。
【0014】
ポリビニルピロリドン以外の水溶性高分子として、ヒアルロン酸及びその誘導体(例、ナトリウム塩、ポリエチレンオキサイドグラフトヒアルロン酸)は、本発明目的においては、重量平均分子量は5千~200万が好ましい。
【0015】
ヒドロキシプロピルセルロースは、種々の重量平均分子量のものを使用することができるが、重量平均分子量10万以上が好ましく、特に14万程度が好ましい。市販品としては、HPC-SSL(重量平均分子量4万)、HPC-SL(重量平均分子量10万)、HPC-L(重量平均分子量14万)、HPC-M(重量平均分子量70万)、HPC-H(重量平均分子量100万);すべて日本曹達株式会社製、が挙げられるが、HPC-Lが望ましい。
【0016】
コラーゲン、プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、及びデキストランも、重量平均分子量が5千~200万の市販品を使用することができる。
【0017】
マイクロニードルアレイを口腔内に適用する際には、適度な硬度で折れにくく、且つ、局所麻酔薬を浸透しやすくするために、重量平均分子量が10万以上の高分子量高分子物質と重量平均分子量が5万以下の低分子量高分子物質の混合物からマイクロニードルアレイを形成してもよい。上記高分子量高分子物質の重量平均分子量は5万以上であればよく、5万を超えることが好ましく、かつ、200万以下が好ましい。また、低分子量高分子物質の重量平均分子量は5万以下であればよく、5万未満が好ましく、かつ、1000以上が好ましい。尚、本発明において、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値である。
【0018】
高分子量高分子物質と低分子量高分子物質を混合する際の比率は、各高分子物質の種類及び重量平均分子量によっても異なるので、好ましい機械的強度及び硬さになるように適宜決定されればよいが、一般に、高分子量高分子物質1質量%以上、低分子量高分子物質99質量%以下であることが好ましい。
【0019】
麻酔効果を速発揮するために、上記高分子物質に可溶解剤を添加してもよい。可溶解剤としては、トレハロース、グルコースなどの単糖、二糖類、グリセリン、プロピレングリコール(PG)、ブチレングリコール(BG)、ポリエチレングリコール(PEG)など多価アルコールなどが挙げられる。可溶解剤の添加量は、基剤中の濃度として1質量%以上50質量%以下が望ましい。
【0020】
マイクロニードルアレイの基剤は、水溶性高分子以外に水溶性低分子化合物を含有することができる。水溶性低分子化合物としては、上記した可溶解剤として使用される単糖、二糖類、多価アルコールであって、分子量が500以下の化合物である。単糖としては、グルコース、フルクトース等が挙げられ、二糖類としては、シュクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース等が挙げられる。多価アルコールとしては、グリセリン、プロピレングリコール(PG)、ブチレングリコール(BG)、ポリエチレングリコール(PEG)200、PEG400等が挙げられる。
水溶性低分子化合物の添加量は、基剤中の濃度として2質量%以上50質量%以下であり、好ましくは2質量%以上35質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上30質量%以下である。
【0021】
マイクロニードルアレイの形状
マイクロニードルの高さは、50μm以上300μm以下であることが望ましく、100μm以上250μm以下が好ましい。50μm未満では、局所麻酔剤の送達に不利である。
また、マイクロニードルの高さは、50μm以上500μm以下であってもよく、100μm以上350μm以下がより好ましい。50μm未満では、局所麻酔剤の送達に不利である。500μmを超えると、適用時に痛みや出血を伴うことがある。
マイクロニードルの針密度は、20本/cm2以上2000本/cm2以下であることが望ましく、100本/cm2以上1500本/cm2以下がより好ましい。20本/cm2未満では、局所麻酔剤の送達量において不利である。2000本/cm2を超えると、針密度が高すぎて適用時に針が粘膜表面に留まり、マイクロニードルとしての特徴を発揮しがたい。
【0022】
マイクロニードルの先端は、直径1μm以上の円形あるいはそれと同面積を有する平面であることが望ましい。マイクロニードルの先端は、直径50μm以下の円形あるいはそれと同面積を有する平面であることが望ましい。この範囲内であると、局所麻酔薬の送達に有利である。針形状は、棒状、円錐台形状又はコニーデが挙げられ、円錐台又はコニーデ形状が望ましい。
【0023】
マイクロニードルアレイの基板の厚さは、柔軟な基板部となるように、5μm以上100μm以下であることが望ましく、10μm以上50μm以下がより好ましい。
【0024】
マイクロニードルアレイの基板の形状は、適用部位に応じて適宜設定することができ、円形、楕円形、三角形、四角形、多角形等が挙げられる。形状の大きさは、直径(長径)又は一辺(長辺)の長さで代表して表すと、通常2mm以上100mm以下であり、5mm以上50mm以下が好ましい。また、マイクロニードルアレイの大きさを面積で表すと、通常5mm2以上1000mm2以下であり、10mm2以上500mm2以下が好ましい。
【0025】
局所麻酔剤
本発明のマイクロニードルアレイに含まれる有効成分は、局所麻酔剤である。本発明における局所麻酔剤は、アミノ安息香酸エチル(ベンゾカイン)である。
本発明においては、局所麻酔剤を2種以上混合して使用することができる。好ましい組み合わせとしては、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、ジブカイン、ブピバカイン及びそれらの塩からなる群より選ばれる1又は複数とアミノ安息香酸エチルとの組み合わせ(混合物)である。
【0026】
上記局所麻酔剤の外に、医薬品として通常含まれる添加剤を含んでいてもよい。本発明のマイクロニードルアレイに含まれる添加剤の濃度は、添加剤の種類及び添加目的等に応じて、適切な範囲に設定することができる。
【0027】
局所麻酔剤の基剤中の濃度は、1質量%以上50質量%以下であり、5質量%以上30質量%以下が好ましい。上記範囲内であれば、麻酔の効果が発揮され、結晶析出の蓋然性は低い。ここで、局所麻酔剤の基剤中の濃度とは、マイクロニードルアレイの総重量中の質量(水など適当な溶媒でマイクロニードルアレイを溶解し局所麻酔剤の含有量を定量分析し、マイクロニードルアレイの固形質量中の薬物含有量)である。
局所麻酔剤のマイクロニードルアレイ中の濃度は、本発明の歯科局所麻酔製剤がマイクロニードルアレイからなるものである限り、上記濃度が適用される。
【0028】
本発明のマイクロニードルアレイの製造方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法で製造されればよく、例えば、マイクロニードルの形状が穿設された型に、上記水溶性高分子及び局所麻酔剤、必要に応じてその他の成分を溶媒に溶解した溶解液を流延し、乾燥した後剥離する方法が挙げられる。ここで、溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒、及びこれらの混合溶媒等が挙げられるが、基剤とアミノ安息香酸エチルの溶解性の観点から、エタノール、又は水とエタノールの混合溶媒が好ましい。上記製造方法では、アミノ安息香酸エチルとポリビニルピロリドンとを共存させたエタノールを含む溶液を用いて鋳型充填法により製造されることが好ましい。上記製造方法は、アミノ安息香酸エチルとポリビニルピロリドンとを共存させたエタノールを含む溶液を調製する工程、及び上記溶液をマイクロニードルアレイ成型用鋳型に流延し、乾燥した後剥離する工程を含むことが好ましい。
剥離したマイクロニードルアレイシートは、口腔内の適用部位の形状に則して裁断して用いる。
【0029】
本発明のマイクロニードルアレイは、単独で歯科用局所麻酔製剤として使用することができる。1つの実施態様において、歯科局所麻酔製剤は、マイクロニードルアレイ中のアミノ安息香酸エチルの含有量は5~30質量%であり、マイクロニードルアレイ中にアミノ安息香酸エチルとポリビニルピロリドンとが共存し、アミノ安息香酸エチルはマイクロニードルアレイ中に溶解又は均一分散している。
ポリビニルピロリドンとアミノ安息香酸エチルの含有量の比は1:1(質量部)以上であり、好ましくは2:1(質量部)~10:1(質量部)である。このように、本発明の歯科用局所麻酔製剤は、水に難溶性のアミノ安息香酸エチルを高濃度で含むことができるが、ポリビニルピロリドンが共存するために溶解又は均一分散した状態を長期間維持し、安定性に優れる。
あるいは、本発明のマイクロニードルアレイは、口腔内適用の便宜に供するために、下記マイクロニードルパッチとすることもできる。
【0030】
マイクロニードルパッチ
本発明のマイクロニードルパッチは、前記マイクロニードルアレイと、該マイクロニードルアレイの背面に備えられた支持体とからなる。ここで、マイクロニードルアレイの背面とは、マイクロニードルが突出している面とは反対側の基板部である。支持体は必須ではないが、支持体があれば扱いやすく、貼付部位から滑る又は口唇の内側に移ることを防止することができる。マイクロニードルアレイの背面に疎水性または非溶解フィルムを支持体として裏打ちしたマイクロニードルパッチは、歯科局所麻酔製剤の一実施形態である。
【0031】
本発明における製剤剤形は様々な様態が可能である。それらを順次説明する。
1.上記マイクロニードルアレイの製造方法によって製造された乾燥したマイクロニードルアレイの背面に、支持体として高分子フィルムが裏打ちされたマイクロニードルパッチ。その製法は種々ある。例えば、マイクロニードルアレイを乾燥させ、型から剥離する前にその背面に水もしくは低沸点有機溶媒に溶解させた高分子を塗布、スプレー等により積層し、乾燥させる。ここで高分子とは、ポリビニルアルコール、高分子量のポリビニルピロリドン、高分子量のヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸、のような水溶性高分子であって、口腔内で瞬時に溶解しない高分子である。より具体的には、支持体として高分子フィルムが裏打ちされていることによって、少なくとも貼付後30分以内、マイクロニードル基板が溶解しない、形状が崩れないことが必要である。支持体としては、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ナイロン、等の有機溶媒可溶な高分子あるいはそれらを可塑剤により柔軟にしたものであっても良い。これらは、疎水性または非溶解フィルムの好適な具体例である。
2.上記マイクロニードルアレイの製造方法によって製造された乾燥したマイクロニードルアレイの背面に、高分子フィルムが支持体として裏打ちされたマイクロニードルパッチ。本製剤は、高分子フィルムとマイクロニードルアレイの背面に接着剤もしくは粘着剤により一体化されている。マイクロニードルアレイと高分子フィルムとのサイズは同等でもよく、また高分子フィルムがより大きくフィルム面に口腔内接着性を有するような処理をしてもよい。高分子フィルムは多孔性あるいは織り布、のような水透過性であっても良い。典型的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)等のプラスチックシート又はフィルム;滅菌紙、セロハン、不織布、織布等の紙シート、スプレーまたは塗布によるシリコン樹脂薄膜、スプレーまたは塗布によるフッ素オイル薄膜、等が挙げられる。
【0032】
支持体の大きさは、マイクロニードルアレイと同型同大であってもよいが、マイクロニードルアレイの口腔内での密着力を背面から補強するため、マイクロニードルアレイより大きいことが好ましい。支持体は、適用部位に応じて、取り扱い易い大きさと形状に設定することができ、例えば、マイクロニードルアレイの外縁から3~20mm程度大きくすることが適当である。支持体の厚さは、マイクロニードルアレイ基板の厚さと同等であっても、それよりも厚くても薄くてもよく、柔軟で薄いマイクロニードルアレイを支持することができ、かつ、取り扱い易い厚さに適宜設定することができる。マイクロニードルアレイの端に手で持つための耳のような形状でもよい(
図2、ポリエチレン粘着フィルム6)。支持体の一部または全面を着色してもよい、医師が麻酔終了後、着色の目付きがあれば忘れず剥がすことが容易である。
【0033】
支持体は、マイクロニードルアレイの口腔内での密着力を背面から補強するために、口腔内粘着性を有することが望ましい。
【0034】
支持体の口腔内粘着性を確保するための1つの態様として、支持体に粘着性物質がコーティングされている、すなわち、粘着剤を塗布した支持体が挙げられる。ここで、粘着性物質としては、パッチ製剤に通常使用される粘着剤が挙げられ、例えば、アクリル系、シリコン系、ゴム系粘着剤の湿潤面接着性があるグレードが好ましい。
【0035】
支持体の口腔内粘着性を確保するための別の態様として、支持体が水溶性であることが挙げられる。ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)などの低分子量水溶性フィルムを用い、口腔内の水分で自粘着性があるものも好ましい。この場合は、適用する口腔面の反対側口腔面へ接着しないように、水溶性支持体の反対側口腔面に対峙する面は非水溶性高分子フィルムをさらに積層することが望ましい。
背面に積層するフィルムは、それがないとマイクロニードルアレイの背面が貼付部粘膜の反対側の口腔粘膜に付着しがちであるが故に有効ではある。しかしながら、それは本発明の必須要件ではなく、本発明の必須要件はマイクロニードルによる粘膜深部への薬物送達である。マイクロニードル基剤が水溶性であるがその水溶解速度が遅い場合、マイクロニードル部での薬物溶解が遙かに背面に比べて早いので、裏打ち剤がなくても目的にはかなう。すなわち、本発明のマイクロニードルアレイそのものが歯科局所麻酔製剤として提供される。
【0036】
フィルム状支持体の場合、一部にフィルムを含まない欠損部分を有していてもよい。例えば、
図1Aに示すように、欠損部分はフィルム状支持体の中央部に設けることができ、この場合、マイクロニードル部の背面はフィルムで覆われていない(マイクロニードルアレイの背面は、フィルムで覆われていない部分を有する)。欠損部分は中央部に限定されるものではなく、本発明のマイクロニードルパッチを適用した部位に注射針を刺す場合に、針の侵入を妨げない程度にフィルムを含まない部分を確保すればよい。マイクロニードルアレイの中央部に支持体を設けないことにより、プレ麻酔の場合マイクロニードルパッチを剥がさずそのまま背面から注射することができる。また、麻酔効果が十分であるかどうか、背面から試すことができる。
【0037】
同様に、支持体が滅菌紙の場合、支持体がマイクロニードルアレイを内包する外枠を形成していてもよい。例えば、
図1Bに示すように、滅菌紙の中央部に穴を設け、マイクロニードル部の背面が滅菌紙で覆われておらず、滅菌紙がマイクロニードルアレイの外枠を形成している(マイクロニードルアレイの背面は、滅菌紙で覆われていない部分を有する)。外枠は、本発明のマイクロニードルパッチを適用した部位に注射針を刺す場合に、滅菌紙がマイクロニードルアレイの基板の背面全面を覆って針の侵入を妨げない程度に設ければよい。
【0038】
本発明のマイクロニードルパッチは、前記マイクロニードルアレイの背面を支持体で覆うことにより、製造することができる。
【0039】
本発明のマイクロニードルアレイ及びマイクロニードルパッチは、口腔粘膜又は歯茎に貼付後、マイクロニードル部の背面を押圧することで、局所麻酔剤が投与される。本発明のマイクロニードルアレイ及びマイクロニードルパッチは、水溶性高分子を基剤として用いているので高湿度環境下で迅速に溶解し、口腔粘膜内又は歯茎内に麻酔剤を効率的に送達できるため、短時間(1~10分以内)に局所麻酔の効果を発揮することができる。製剤の評価はボランティアの歯茎に貼付し、5~10分後に剥離した後、爪楊枝あるいは注射針を貼付部位に刺して痛みを感じるか否かの試験により確認できる。その際、爪楊枝あるいは注射針の先端部から1mmの位置にストッパーとしてゴムリングをかぶせることによって、強く推しても爪楊枝あるいは注射針が歯茎内1mmより深部に入り込まないようにすることもできる。
単位面積当たりのマイクロニードルアレイに含まれる局所麻酔剤の量及びマイクロニードルアレイの大きさを適宜設定することで、歯科用局所麻酔製剤として使用することができる。また、歯科用局所麻酔注射液を投与する前に、投与部位の痛みを軽減するためのプレ麻酔薬としても使用可能である。この場合、本発明のマイクロニードルアレイ及びマイクロニードルパッチを口腔粘膜又は歯茎に貼付した後、続けて、貼付部位に歯科用局所麻酔注射を施すことができる。
【実施例0040】
以下に実施例を例示して本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1-4、比較例1-3
アミノ安息香酸エチル含有マイクロニードルパッチの製造
アミノ安息香酸エチル(和研薬(株)より購入)1g、及びポリビニルピロリドン(PVP K90)4gをエタノールにて溶解し、鋳型に充填後乾燥させ、直径1cmのマイクロニードルアレイを製造した(実施例1)。本マイクロアレイにおけるマイクロニードルの高さは300μmであり、針密度は260本/cm2であった。マイクロニードルアレイ中のアミノ安息香酸エチル含量は、20質量%であった。次に、マイクロニードルアレイの背面に穴あきポリエチレン粘着フィルムを接着させてマイクロニードルパッチとした。
実施例2-4及び比較例1-3のマイクロニードルアレイは、表1に示す組成にて、実施例1と同様に製造し、実施例1と同様にマイクロニードルパッチとした。実施例1-4の製造直後のマイクロニードルアレイにおいて、アミノ安息香酸エチルの結晶析出は観察されなかった。
【0042】
安定性試験
実施例1-4及び比較例1-3で製造したマイクロニードルパッチに対して、ヒートサイクル(10℃~50℃の低温・高温環境下を3日ごとに繰り返す)試験を実施し、3か月後の薬物含量の減少及び結晶析出に関して評価した。結果を表1に示す。
PVPが基剤の50質量%以上である実施例製剤においては、薬物の安定性はほぼ良好であった。また、3か月後、試験したすべての製剤に結晶析出は観察されなかった。
比較例製剤は、ヒートサイクル試験後に結晶析出が観察された。
【0043】
【0044】
効能試験
実施例1、2、3、4のマイクロニードルパッチを直径2cmのアクリル粘着剤塗布ポリエチレンフィルムからなる支持体で裏打ちし、ボランティア2名の歯茎に密着させて貼付し、2分後にパッチを剥離した。貼付部を針で刺激しても痛みを感じなかった。表面麻酔効果が確認できた。
【0045】
実施例5、6
マイクロニードルの機械的強度と基剤の平均分子量との関係
表2に記載の基剤及び麻酔剤を含むマイクロニードル製剤を、実施例1に記載の方法に準じて製造した(実施例5,6)。得られたマイクロニードルアレイを顕微鏡観察して比較した。結果を表2に示す。
【0046】
【0047】
表2より、基剤のポリビニルピロリドンの重量平均分子量が低くなるとマイクロニードルアレイの機械的強度が低下することがわかった。
【0048】
実施例7、8及び比較例4
角質除去ラット皮膚を口腔内粘膜のモデルとして用いる薬物皮膚浸透量の評価
表3に記載の基剤及び麻酔剤を含むマイクロニードル製剤を、実施例1に記載の方法に準じて製造した。マイクロニードルの高さは350μm、針密度は1070本/cm
2であり、直径1cmのパッチに成型した。本パッチの顕微鏡写真を
図3に示す。得られたマイクロニードル製剤を、角質除去ラット皮膚に指先で10秒強く押しつけた後、5分間放置し薬物を皮膚浸透させた。5分間の放置後、製剤を取り除き、皮膚表面をふき取った後、製剤適用部を切り取ってホモジナイズし薬物をエタノール抽出し、HPLCで抽出液中の薬物を定量し、薬物の皮膚浸透量を定量した。比較として、市販のアミノ安息香酸エチル含有ゲル(ハリケインゲル)を用いて、マイクロニードル製剤適用と同面積(1cm
2)に薬物量が同量になるゲル量を皮膚適用し、5分後皮膚表面をふき取り、製剤適用部を切り取ってホモジナイズし、薬物をエタノール抽出し、HPLCで抽出液中の薬物を定量し、薬物の皮膚浸透量を定量した。
以上の結果を表3にまとめる。
【0049】
【0050】
HPLC条件
装置:日立L-7000シリーズ HPLC
カラム:5μmODS充填カラム 4.6Φx250mm カラム温度:40℃
移動相:アセトニトリル:0.2%酢酸酸性水(28:72) 流速:0.8ml/min
検出波長:310nm