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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160007
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】合成皮革、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06B 3/10 20060101AFI20221012BHJP
   D06N 3/00 20060101ALI20221012BHJP
   D01F 4/02 20060101ALI20221012BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20221012BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20221012BHJP
   D06B 19/00 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
D06B3/10 ZNA
D06N3/00
D01F4/02
D03D15/00 A
D04B1/14
D06B19/00 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019122452
(22)【出願日】2019-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】石 玄
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 本章
【テーマコード(参考)】
3B154
4F055
4L002
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
3B154AA06
3B154AB19
3B154AB27
3B154BA39
3B154BB12
3B154BB32
3B154BE05
3B154DA18
4F055AA01
4F055BA12
4F055BA13
4F055CA14
4F055EA02
4F055EA09
4F055EA22
4F055EA23
4F055FA15
4F055FA20
4F055GA02
4F055GA11
4F055GA32
4L002AA00
4L002AB02
4L002AC02
4L002BA00
4L002BA01
4L002DA00
4L002EA00
4L002EA03
4L002EA05
4L002FA00
4L002FA01
4L035AA04
4L035BB04
4L035BB71
4L035EE04
4L035FF10
4L048AA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】充分な吸湿性を有し、且つ製造に要するエネルギーが低減されると共に、水との接触による寸法変化が可及的に抑えられた合成皮革の提供。
【解決手段】編織体を含む基布層2と基布層2に接合された表皮層1とを備え、編織体がタンパク質繊維を含み、かつ防縮されている合成皮革、及び編織体を含む基布層上に表皮層1を形成する工程を備え、編織体がタンパク質繊維を含み、かつ防縮されている合成皮革の製造方法。望ましくは、タンパク質繊維が改変フィブロインを含み、改変フィブロインが改変クモ糸フィブロインである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
編織体を含む基布層と、前記基布層に接合された表皮層とを備え、
前記編織体がタンパク質繊維を含み、かつ防縮されている、合成皮革。
【請求項2】
下記式Iで定義される繊維密度増加率が20%以上である、請求項1に記載の合成皮革。
繊維密度増加率={(防縮処理後の編織体の繊維密度/防縮処理前の編織体の繊維密度)-1}×100(%) …(式I)
【請求項3】
前記タンパク質繊維は、下記式IIで定義される湿潤時収縮率が2%以上である、請求項1又は2に記載の合成皮革。
湿潤時収縮率={1-(水に接触させて湿潤状態にしたタンパク質繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維の長さ)}×100(%) …(式II)
【請求項4】
前記タンパク質繊維は、下記式IIIで定義される乾燥時収縮率が7%超である、請求項1~3のいずれか一項に記載の合成皮革。
乾燥時収縮率={1-(乾燥状態にしたタンパク質繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維の長さ)}×100(%) …(式III)
【請求項5】
前記タンパク質繊維が、改変フィブロインを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の合成皮革。
【請求項6】
前記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインである、請求項5に記載の合成皮革。
【請求項7】
編織体を含む基布層上に表皮層を形成する工程を備え、
前記編織体がタンパク質繊維を含み、かつ防縮されている、合成皮革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然皮革の代替品として合成皮革が使用されている。合成皮革は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成繊維製の織地又は編地等の基布の表面に、ポリウレタン樹脂又は塩化ビニル樹脂が表皮層としてコーティング等により積層形成されて構成されている。
【0003】
このような合成皮革は、供給に限界がある天然皮革とは異なって、人工的に大量生産が可能なため、近年では、衣料品、靴及びバック等の装飾品、並びに各種のカバー及び家具類等、より広い用途に用いられるようになってきている。
【0004】
ところが、これまでの合成皮革は、基布と表皮層とがいずれも合成樹脂にて構成されているところから、吸湿性に乏しく、しかも、石油由来であるために製造エネルギーが多大なものになることが避けられなかった。かかる状況下、特許文献1には、無溶剤ポリウレタン樹脂が85~95重量%であり、平均直径が1~75μmである大豆タンパク質分離体が5~15重量%を含有することを特徴とするヒト皮膚様の無溶剤ポリウレタン系人工皮革が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-235658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される人工皮革は、水分吸収力が優れているため、触感などの感性が非常に優れており、ヒト皮膚を感じることができるとされている。しかしながら、特許文献1に記載される合成皮革にあっても、基布が合成繊維からなり、且つ表皮層の大部分がポリウレタン樹脂にて構成されているため、製造エネルギーの低減化を到底実現し得るものでなかった。
【0007】
そこで、吸湿性の向上と製造エネルギーの低減化を共に実現させるために、基布と表皮層のうち、少なくとも、合成皮革の主材となる基布をタンパク質材料にて構成することが考えられる。しかしながら、タンパク質材料には、水との接触によって収縮してしまうものがあり、そのようなタンパク質材料を用いてなる人工皮革においては、水との接触によって著しい寸法変化を生じることが懸念される。
【0008】
本発明は、充分な吸湿性を有し、且つ製造に要するエネルギーが低減されると共に、水との接触による寸法変化が可及的に抑えられた合成皮革を提供すること、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
編織体を含む基布層と、上記基布層に接合された表皮層とを備え、
上記編織体がタンパク質繊維を含み、かつ防縮されている、合成皮革。
[2]
下記式Iで定義される繊維密度増加率が20%以上である、[1]に記載の合成皮革。
繊維密度増加率={(防縮処理後の編織体の繊維密度/防縮処理前の編織体の繊維密度)-1}×100(%) …(式I)
[3]
上記タンパク質繊維は、下記式IIで定義される湿潤時収縮率が2%以上である、[1]又は[2]に記載の合成皮革。
湿潤時収縮率={1-(水に接触させて湿潤状態にしたタンパク質繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維の長さ)}×100(%) …(式II)
[4]
上記タンパク質繊維は、下記式IIIで定義される乾燥時収縮率が7%超である、[1]~[3]のいずれかに記載の合成皮革。
乾燥時収縮率={1-(乾燥状態にしたタンパク質繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維の長さ)}×100(%) …(式III)
[5]
上記タンパク質繊維が、改変フィブロインを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の合成皮革。
[6]
上記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインである、[5]に記載の合成皮革。
[7]
編織体を含む基布層上に表皮層を形成する工程を備え、
上記編織体がタンパク質繊維を含み、かつ水収縮されている、合成皮革の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、充分な吸湿性を有し、且つ製造に要するエネルギーが低減されると共に、水との接触による寸法変化が可及的に抑えられた合成皮革を提供すること、及びその製造方法を提供することが可能となる。本発明に係る合成皮革は、主材である編織体(基布層)がタンパク質繊維を含有するため、吸湿性が向上すると共に、製造に要するエネルギーが低減される。また、主材である編織体(基布層)が防縮されているため、水との接触による寸法変化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る合成皮革の模式断面図である。
図2】一実施形態に係る合成皮革の模式断面図である。
図3】一実施形態に係る合成皮革の模式断面図である。
図4】一実施形態に係る合成皮革の模式断面図である。
図5】タンパク質繊維(フィラメント)を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
図6】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図7】天然由来のフィブロインのz/w(%)の値の分布を示す図である。
図8】天然由来のフィブロインのx/y(%)の値の分布を示す図である。
図9】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図10】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図11】乾式法で合成皮革を製造する際の製造装置の一例を示す模式図である。
図12】湿式法で合成皮革を製造する際の製造装置の一例を示す模式図である。
図13】吸湿発熱性試験の結果の一例を示すグラフである。
図14】試験例8で製造した合成皮革の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。便宜上、実質的に同一の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
〔合成皮革〕
本実施形態に係る合成皮革は、編織体を含む基布層と、基布層に接合された表皮層とを備える。そして、編織体がタンパク質繊維を含み、かつ防縮されてなるものである。本実施形態に係る合成皮革は、主材である基布層(編織体)がタンパク質繊維を含むため、吸湿性が向上すると共に、製造に要するエネルギーが低減される。また、本実施形態に係る合成皮革は、主材である基布層(編織体)が防縮されているため、水との接触による寸法変化が抑制されている。
【0014】
図1は、一実施形態に係る合成皮革の模式断面図である。図1に示す合成皮革10は、基布層2と表皮層1とが接合されてなるものである。図1に示す合成皮革10において、表皮層1は、合成皮革の形状を保持するための形状保持層としても機能する。
【0015】
図2は、他の実施形態に係る合成皮革の模式断面図である。図2に示す合成皮革20は、基布層2と表皮層1とが、接着剤層3を介して接合されてなるものである。図2に示す合成皮革20において、表皮層1は、合成皮革の形状を保持するための形状保持層としても機能する。なお、接着剤層3は、基布層2と表皮層1とを接着剤(例えば、ポリウレタン系接着剤)で接合した場合(例えば、乾式法で合成皮革を製造した場合)に形成される層であり、必須ではない。
【0016】
図3は、他の実施形態に係る合成皮革の模式断面図である。図3に示す合成皮革30は、基布層2と多孔質層4とが接合されてなるものである。図3に示す合成皮革30において、多孔質層4は表皮層として機能する。多孔質層4は、例えば、湿式法で合成皮革を製造することにより形成させることができる。図3に示す合成皮革30は、多孔質層4の表面(基布層2と接合している面と反対側の面)にエンボス加工、バフスエード加工、グラビア印刷、フィルムラミネート加工等の表面加工が施されていてもよい。
【0017】
図4は、他の実施形態に係る合成皮革の模式断面図である。図4に示す合成皮革40は、基布層2と、基布層2と接合された多孔質層4と、多孔質層4の基布層2とは反対側の面に接合された表皮層1とを有する。図4に示す合成皮革40は、例えば、図3に示す合成皮革30の多孔質層4の表面(基布層2と接合している面と反対側の面)にグラビア印刷又はフィルムラミネート加工等の表面加工を施すことにより製造することができる。図4に示す合成皮革40において、表皮層1及び多孔質層4は、合成皮革の形状を保持するための形状保持層としても機能する。図4に示す合成皮革40は、多孔質層4と表皮層1とが、接着剤層(図示せず)を介して接合されていてもよい。
【0018】
(基布層)
基布層は、編織体を主に含む。基布層は、編織体からなるものであってよいが、基布層としての機能を損なわない限りにおいて、その他成分を含むことを排除するものではない。本実施形態に係る合成皮革において、編織体は、タンパク質繊維を含み、かつ防縮されてなるものである。
【0019】
編織体とは、編地及び織地の総称である。編地は、横編、丸編等の緯編組織を有する編地(単に「緯編地」ともいう。)、トリコット、ラッセル等の経編組織を有する編地(単に「経編地」ともいう。)のいずれであってもよい。織地は、平織、綾織、又は繻子織のうちのいずれの組織を有する織地であってもよい。編織体は、編成又は織成により得られる未加工の編織体そのものであってもよいし、編成又は織成後に撥水加工等の加工を施した編織体であってもよい。
【0020】
編織体は、原料糸を編成又は織成して得ることができる。編成方法及び織成方法としては公知の方法を利用することができる。使用される編機としては、例えば、丸編機、経編機、横編機などが使用でき、生産性の観点からは、丸編機の使用が好ましい。横編機としては、成型編み機、無縫製編機などがあるが、特に最終製品の形態で編地を製造可能であることから、無縫製編機の使用がより好ましい。使用される織機としては、例えば、有杼織機、及び、グリッパー織機、レピア織機、エアジェット織機等の無杼織機が挙げられる。
【0021】
原料糸は、単独糸であってもよく、複合糸(例えば、混紡糸、混繊糸、カバーリング糸等。)であってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。単独糸及び複合糸は、短繊維を撚り合わせたスパン糸であってもよく、長繊維を撚り合わせたフィラメント糸であってもよい。複合糸は、異なる種類のタンパク質繊維から構成されるものであってもよく、タンパク質繊維とその他繊維から構成されるものであってもよい。その他繊維としては、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート及びポリテトラフルオロエチレン等の合成繊維、キュプラ、レーヨン及びリヨセル等の再生繊維、綿、麻及び絹等の天然繊維が挙げられる。他の繊維と組み合わせて使用する場合には、編織体に占めるタンパク質繊維の割合は、編織体の全質量を基準として、例えば、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。
【0022】
タンパク質繊維は、例えば、タンパク質を溶解可能な溶媒で溶解させてドープ液とし、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して得ることができる。タンパク質を溶解可能な溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、及びヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)等が挙げられる。当該溶媒には、溶解促進剤として無機塩を添加してもよい。
【0023】
図5は、タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。図5に示す紡糸装置1000は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置101と、未延伸糸製造装置102と、湿熱延伸装置103と、乾燥装置104とを有している。
【0024】
紡糸装置1000を使用した紡糸方法を説明する。まず、貯槽107に貯蔵されたドープ液106が、ギアポンプ108により口金109から押し出される。ラボスケールにおいては、ドープ液をシリンダーに充填し、シリンジポンプを用いてノズルから押し出してもよい。次いで、押し出されたドープ液106は、エアギャップ119を経て、凝固液槽120の凝固液111内に供給され、溶媒が除去されて、タンパク質が凝固し、繊維状凝固体が形成される。次いで、繊維状凝固体が、延伸浴槽121内の温水112中に供給されて、延伸される。延伸倍率は供給ニップローラ113と引き取りニップローラ114との速度比によって決まる。その後、延伸された繊維状凝固体が、乾燥装置104に供給され、糸道122内で乾燥されて、タンパク質繊維136が、巻糸体105として得られる。118a~118gは糸ガイドである。
【0025】
(防縮処理)
編織体を防縮する方法としては、例えば、紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維を水と接触させて不可逆的に収縮させる方法(水収縮法)、紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維を加熱し、加熱された状態にあるタンパク質繊維を弛緩して不可逆的に収縮させる方法(乾熱収縮法)等を例示できる。水収縮法及び乾熱収縮法のいずれも、編織体を編成又は織成する前のタンパク質繊維に対して実施してもよく、編成又は織成した後に編織体に対して実施してもよい。
【0026】
タンパク質繊維の不可逆的な収縮は、例えば、以下の理由により生ずると考えられる。すなわち、一つの理由は、タンパク質繊維の二次構造又は三次構造に起因すると考えられ、また別の一つの理由は、例えば、製造工程での延伸等によって残留応力を有するタンパク質繊維において、残留応力が緩和されることで生ずると考えられる。
【0027】
水収縮法は、紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維を水と接触させて不可逆的に収縮させる工程(収縮工程)を備える。当該収縮工程では、水との接触により、外力によらずにタンパク質繊維が収縮する。接触させる水は、液体、気体のいずれの状態の水であってもよい。タンパク質繊維と水を接触させる方法も、特に限定されず、例えば、タンパク質繊維を水中に浸漬する方法、タンパク質繊維に対して、水を常温又は加温したスチーム等の状態で噴霧する方法、タンパク質繊維を水蒸気が充満した高湿度環境下に暴露する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、収縮時間の短縮化が効果的に図れると共に、加工設備の簡素化等が実現できることから、タンパク質繊維を水中に浸漬する方法が好ましい。このタンパク質繊維の水中への浸漬方法としては、具体的には、例えば、タンパク質繊維(又は編織体)を、所定の温度の水が収容された容器内に投入して、水と接触させる方法等がある。
【0028】
タンパク質繊維と接触させる水の温度は、特に限定されないが、例えば沸点未満であることが好ましい。このような温度であれば、取扱性及び収縮工程の作業性等が向上する。また水の温度の上限値は、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。水の温度の下限値は、10℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。タンパク質繊維に接触させる水の温度は、タンパク質繊維を構成する繊維に応じて調整することができる。また、水分をタンパク質繊維に接触させている間、水の温度は一定であってもよく、水の温度を所定の温度になるように変動させてもよい。
【0029】
タンパク質繊維と水を接触させる時間は、特に制限されず、例えば、1分以上であってよい。当該時間は、10分以上であってよく、20分以上であってよく、30分以上であってもよい。また、当該時間の上限に特に制限はないが、製造工程の時間を短縮するという観点、及びタンパク質繊維の加水分解のおそれを排除する等の観点から、例えば、120分以下であってよく、90分以下であってよく、60分以下であってもよい。
【0030】
水収縮法では、収縮工程に引き続き、タンパク質繊維を水と接触させた後に、乾燥させる工程(乾燥工程)を更に含んでいてもよい。
【0031】
乾燥工程における乾燥方法は、特に限定されず、例えば、自然乾燥でもよく、乾燥設備を使用して強制的に乾燥させてもよい。乾燥温度としては、タンパク質が熱的損傷を受けたりする温度より低い温度であれば何ら限定されるものではないが、一般的には、20~150℃の範囲内の温度であり、40~120℃の範囲内の温度であることが好ましく、60~100℃の範囲内の温度であることがより好ましい。このような温度範囲内であれば、タンパク質の熱的損傷等を生ずることなく、タンパク質繊維を、より迅速かつ効率的に乾燥させることができる。乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜選択され、例えば、タンパク質繊維の過乾燥による編織体の品質及び物性等への影響が排除されうる時間が採用される。
【0032】
乾熱収縮法は、紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維を加熱する工程(加熱工程)と、加熱された状態にあるタンパク質繊維を弛緩して不可逆的に収縮させる工程(弛緩収縮工程)とを備える。
【0033】
加熱工程では、加熱温度が、タンパク質繊維に用いられるタンパク質の軟化温度以上であることが好ましい。本明細書におけるタンパク質の軟化温度とは、タンパク質繊維の応力緩和による収縮が開始される温度である。タンパク質の軟化温度以上での加熱弛緩収縮では、単に繊維中の水分が離脱するだけでは得られない程度まで繊維が収縮し、その結果、得られたタンパク質繊維は、水との接触による収縮、すなわち寸法変化が充分に抑制される。加熱温度は、80℃以上が好ましく、180℃~280℃がより好ましく、200℃~240℃が更に好ましく、220℃~240℃が更により好ましい。
【0034】
加熱工程における加熱時間は、加熱処理後の繊維の伸度の観点から、好ましくは60秒以下、より好ましくは30秒以下、更に好ましくは5秒以下である。この加熱時間の長さは、応力には大きな影響を与えないと考えられる。
【0035】
弛緩収縮工程では、弛緩倍率は、好ましくは1倍超であり、より好ましくは1.4倍以上であり、更により好ましくは1.7倍以上であり、特に好ましくは2倍以上である。弛緩倍率とは、例えば、タンパク質繊維の巻取り速度に対する送出し速度の比率として把握される。
【0036】
(タンパク質繊維及びタンパク質)
本実施形態に係る編織体は、上述した防縮処理の実施により防縮されることで、水との接触による寸法変化が抑制されている。したがって、編織体に使用するタンパク質繊維(及びタンパク質)は、本来水との接触により(著しい)寸法変化を生じるものであってもよい。
【0037】
例えば、タンパク質繊維は、湿潤時収縮率が2%以上であってもよい。湿潤時収縮率は、4%以上であってもよく、6%以上であってもよく、8%以上であってもよく、10%以上であってもよく、15%以上であってもよく、20%以上であってもよく、25%以上であってもよく、30%以上であってもよい。湿潤時収縮率の上限は、通常、80%以下である。なお、湿潤時収縮率は、下記式IIで定義される。
湿潤時収縮率={1-(水に接触させて湿潤状態にしたタンパク質繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維の長さ)}×100(%) …(式II)
【0038】
また例えば、タンパク質繊維は、乾燥時収縮率が7%超であってもよい。乾燥時収縮率は、15%以上であってもよく、25%以上であってもよく、32%以上であってもよく、40%以上であってもよく、48%以上であってもよく、56%以上であってもよく、64%以上であってもよく、72%以上であってもよい。乾燥時収縮率の上限は、通常、80%以下である。なお、乾燥時収縮率は、下記式IIIで定義される。
乾燥時収縮率={1-(乾燥状態にしたタンパク質繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前のタンパク質繊維の長さ)}×100(%) …(式III)
【0039】
更に例えば、編織体は、繊維密度増加率が20%以上であってもよい。繊維密度増加率は、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、50%以上であってもよく、100%以上であってもよい。繊維密度増加率は、下記式Iで定義される値である。
繊維密度増加率={(防縮処理後の編織体の繊維密度/防縮処理前の編織体の繊維密度)-1}×100(%) …(式I)
【0040】
タンパク質繊維の原料となるタンパク質には、特に制限はなく、任意のタンパク質を使用することができる。タンパク質としては、天然のタンパク質及び組換えタンパク質(人造タンパク質)を挙げることができる。組換えタンパク質としては、工業規模での製造が可能な任意のタンパク質を挙げることができ、例えば、工業用に利用できるタンパク質、医療用に利用できるタンパク質、構造タンパク質等を挙げることができる。工業用又は医療用に利用できるタンパク質の具体例としては、酵素、制御タンパク質、受容体、ペプチドホルモン、サイトカイン、膜又は輸送タンパク質、予防接種に使用する抗原、ワクチン、抗原結合タンパク質、免疫刺激タンパク質、アレルゲン、完全長抗体又は抗体フラグメント若しくは誘導体を挙げることができる。構造タンパク質の具体例としては、スパイダーシルク(クモ糸)、カイコシルク、ケラチン、コラ-ゲン、エラスチン及びレシリン、並びにこれら由来のタンパク質等を挙げることができる。使用するタンパク質としては、保温性、吸湿発熱性及び/又は難燃性にも優れることから、改変フィブロインが好ましく、改変クモ糸フィブロインがより好ましい。タンパク質繊維が、改変フィブロイン(好ましくは、改変クモ糸フィブロイン)を含むことにより、本実施形態に係る編織体に保温性、吸湿発熱性及び/又は難燃性の性質を更に付与することができる。ひいては、本実施形態に係る合成皮革に保温性、吸湿発熱性及び/又は難燃性の機能性を付与することができ、材料としての価値がより高くなる。
【0041】
本実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0042】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0043】
「改変フィブロイン」は、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0044】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)モチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)モチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)モチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0045】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0046】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0047】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0048】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0049】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、クモ目(Araneae)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。より具体的には、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)、AcSp、PySp、Flag等が挙げられる。
【0050】
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0051】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0052】
本実施形態に係る改変フィブロインは、改変絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。
【0053】
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)モチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、並びにグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
【0054】
第1の改変フィブロインとしては、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインにおいて、(A)モチーフのアミノ酸残基数は、3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0055】
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
【0056】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0057】
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号4(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0058】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0059】
(1-i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0060】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0061】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0062】
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0063】
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0064】
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0065】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、図6に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)モチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0066】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果を図7に示す。図7の横軸はz/w(%)を示し、縦軸は頻度を示す。図7から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。
【0067】
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0068】
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0069】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、フェニルアラニン(F)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0070】
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号6(Met-PRT380)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0071】
(2-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)モチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端に所定のヒンジ配列とHisタグ配列が付加されたものである。
【0072】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
【0073】
(2-i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0074】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0075】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0076】
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0077】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0078】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0079】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0080】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0081】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号12(PRT380)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号12、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0082】
配列番号16(PRT313)、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0083】
(2-iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0084】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0085】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0086】
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0087】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0088】
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)モチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0089】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)モチーフ毎に1つの(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0090】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)モチーフの欠失、及び1つの(A)モチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0091】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0092】
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0093】
x/yの算出方法を図6を参照しながら更に詳細に説明する。図6には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)モチーフ-第1のREP(50アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第2のREP(100アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第3のREP(10アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第4のREP(20アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第5のREP(30アミノ酸残基)-(A)モチーフという配列を有する。
【0094】
隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)モチーフ-REP]ユニットが存在してもよい。図6には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0095】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0096】
図6中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる[(A)モチーフ-REP]ユニットの組を実線で示した。本明細書中、この比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)モチーフ-REP]ユニットの組は破線で示した。
【0097】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。図6に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0098】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0099】
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0100】
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0101】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。ギザ比率が1:1.9~4.1の場合の結果を図8に示す。
【0102】
図8の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。図8から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
【0103】
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)モチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)モチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0104】
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号17(Met-PRT399)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号17、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0105】
(3-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列は、第2の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0106】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号17で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号10、配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0107】
(3-i)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0108】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0109】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0110】
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0111】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号18(PRT399)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-iv)配列番号18、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0112】
配列番号18、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0113】
(3-iii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0114】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0115】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0116】
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0117】
第4の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述した第2の改変フィブロインと、第3の改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0118】
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)、配列番号9(Met-PRT799)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4-ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0119】
第5の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0120】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0121】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0122】
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0123】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0124】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0125】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【0126】
【表1】
【0127】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0128】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、図9に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、図9に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)モチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。図9の場合28/170=16.47%となる。
【0129】
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0130】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0131】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0132】
第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5-i)配列番号19(Met-PRT720)、配列番号20(Met-PRT665)若しくは配列番号21(Met-PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0133】
(5-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号7(Met-PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末のドメイン配列を除いて、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号8(Met-PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0134】
(5-i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0135】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0136】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0137】
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0138】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号22(PRT720)、配列番号23(PRT665)若しくは配列番号24(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0139】
配列番号22、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0140】
(5-iii)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0141】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0142】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0143】
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0144】
第6の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0145】
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0146】
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0147】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0148】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0149】
図10は、改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図10を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図10に示した改変フィブロインのドメイン配列(「[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図10中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図10中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、図10の改変フィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0150】
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0151】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図10の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0152】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0153】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
【0154】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0155】
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0156】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図10の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0157】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0158】
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0159】
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-i)配列番号25(Met-PRT888)、配列番号26(Met-PRT965)、配列番号27(Met-PRT889)、配列番号28(Met-PRT916)、配列番号29(Met-PRT918)、配列番号30(Met-PRT699)、配列番号31(Met-PRT698)、配列番号32(Met-PRT966)、配列番号41(Met-PRT917)若しくは配列番号42(Met-PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6-ii)配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41若しくは配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0160】
(6-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号25で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。配列番号27で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0161】
配列番号30で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met-PRT525)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0162】
配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中に存在する20個のドメイン配列の領域を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0163】
配列番号41で示されるアミノ酸配列(Met-PRT917)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てLIに置換し、かつ残りのQをVに置換したものである。配列番号42で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1028)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てIFに置換し、かつ残りのQをTに置換したものである。
【0164】
配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
【0165】
【表2】
【0166】
(6-i)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0167】
(6-ii)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0168】
(6-ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0169】
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0170】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(6-iii)配列番号33(PRT888)、配列番号34(PRT965)、配列番号35(PRT889)、配列番号36(PRT916)、配列番号37(PRT918)、配列番号38(PRT699)、配列番号39(PRT698)、配列番号40(PRT966)、配列番号43(PRT917)若しくは配列番号44(PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6-iv)配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0171】
配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
【0172】
【表3】
【0173】
(6-iii)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0174】
(6-iv)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0175】
(6-iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0176】
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0177】
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
【0178】
改変フィブロインとしては、親水性改変フィブロインであってもよく、疎水性改変フィブロインであってもよい。本明細書において、「親水性改変フィブロイン」とは、改変フィブロインを構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0以下である改変フィブロインである。疎水性指標は表1に示したとおりである。また、「疎水性改変フィブロイン」とは、平均HIが0超である改変フィブロインである。親水性改変フィブロインは、特に難燃性に優れている。疎水性改変フィブロインは、特に吸湿発熱性及び保温性に優れている。
【0179】
親水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
【0180】
疎水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
【0181】
本実施形態に係るタンパク質は、当該タンパク質をコードする核酸を使用して、常法により製造することができる。当該タンパク質をコードする核酸は、塩基配列情報に基づいて、化学合成してもよく、PCR法等を利用して合成してもよい。
【0182】
基布層は、単層であってもよく、複数の編織体からなる多層構造であってもよい。基布層の厚みは、特に制限はないが、例えば、100~2000μmであってよく、100~1000μmであってよく、500~1000μmであってよく、500~750μmであってよい。
【0183】
編織体は、下記式Aに従って求められる最高吸湿発熱度が0.025℃/g超であってよい。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)-(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
なお、式A中、低湿度環境は、温度20℃及び相対湿度40%の環境を意味し、高湿度環境は、温度20℃及び相対湿度90%の環境を意味する。
【0184】
編織体は、最高吸湿発熱度が0.026℃/g以上であってもよく、0.027℃/g以上であってもよく、0.028℃/g以上であってもよく、0.029℃/g以上であってもよく、0.030℃/g以上であってもよく、0.031℃/g以上であってもよく、0.035℃/g以上であってもよく、0.040℃/g以上であってもよい。最高吸湿発熱度の上限に特に制限はないが、通常、0.060℃/g以下である。
【0185】
編織体は、限界酸素指数(LOI)値が、18以上であってよく、20以上であってもよく、22以上であってもよく、24以上であってもよく、26以上であってもよく、28以上であってもよく、29以上であってもよく、30以上であってもよく、31以上であってもよく、32以上であってもよく、33以上又は33超であってもよい。本明細書において、LOI値は、消防庁危険物規制課長 消防危50号平成7年5月31日の粉粒状又は融点の低い合成樹脂の試験方法に準拠して測定される値である。
【0186】
編織体は、下記式Bに従って求められる保温性指数が0.18超であってよい。
式B:保温性指数=保温率(%)/試料の目付け(g/m
ここで、本明細書において、保温率は、サーモラボII型試験機(30cm/秒の有風下)を用いたドライコンタクト法で測定した保温率を意味し、後述する実施例に記載の方法により測定される値である。
【0187】
編織体の保温性指数は、0.20以上であってよく、0.22以上であってよく、0.24以上であってよく、0.26以上であってよく、0.28以上であってよく、0.30以上であってよく、0.32以上であってよい。保温性指数の上限に特に制限はないが、例えば、0.60以下、又は0.40以下であってよい。
【0188】
(表皮層)
表皮層は、主に樹脂(高分子)で形成される層である。表皮層は、多孔質樹脂(高分子)で形成されていてもよく(多孔質層)、無孔質樹脂(高分子)で形成されていてもよい。多孔質層は、例えば、後述する湿式法を利用して合成皮革を製造することにより、形成することができる。
【0189】
表皮層を形成する樹脂(高分子)としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系高分子、アクリロニトリル系高分子等の合成樹脂、並びにタンパク質が挙げられる。表皮層を形成する樹脂(高分子)として、合成樹脂とタンパク質との複合材料を用いてもよい。ポリウレタンとしては、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタンを挙げることができ、これらを1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0190】
表皮層は、タンパク質を含むことが好ましい。タンパク質としては、改変フィブロインを含むことが好ましく、改変クモ糸フィブロインを含むことがより好ましい。改変フィブロイン(好ましくは、改変クモ糸フィブロイン)を含むことにより、表皮層に保温性、吸湿発熱性及び/又は難燃性の機能性を付与することができる。ひいては、本実施形態に係る合成皮革に保温性、吸湿発熱性及び/又は難燃性の機能性を付与することができ、材料としての価値がより高くなる。改変フィブロインの好ましい態様は後述する。
【0191】
表皮層は、必要に応じて、公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、着色剤、平滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、充填剤、架橋剤、艶消し剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0192】
表皮層の厚みは、特に制限はないが、例えば、1~500μmであってよく、1~400μmであってよく、5~300μmであってよく、50~200μmであってよい。
【0193】
表皮層の表面(基布層と接合している面とは反対側の面)は、表面加工が施されていてもよい。表面加工は、公知の方法を適用することができる。表面加工としては、例えば、エンボス加工、バフスエード加工、フィルムラミネート加工、グラビア加工(グラビア印刷)が挙げられる。
【0194】
表皮層は、下記式Aに従って求められる最高吸湿発熱度が0.025℃/g超であってよい。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)-(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
なお、式A中、低湿度環境は、温度20℃及び相対湿度40%の環境を意味し、高湿度環境は、温度20℃及び相対湿度90%の環境を意味する。
【0195】
表皮層は、最高吸湿発熱度が0.026℃/g以上であってもよく、0.027℃/g以上であってもよく、0.028℃/g以上であってもよく、0.029℃/g以上であってもよく、0.030℃/g以上であってもよく、0.031℃/g以上であってもよく、0.035℃/g以上であってもよく、0.040℃/g以上であってもよい。最高吸湿発熱度の上限に特に制限はないが、通常、0.060℃/g以下である。
【0196】
表皮層は、限界酸素指数(LOI)値が、18以上であってよく、20以上であってもよく、22以上であってもよく、24以上であってもよく、26以上であってもよく、28以上であってもよく、29以上であってもよく、30以上であってもよく、31以上であってもよく、32以上であってもよく、33以上又は33超であってもよい。
【0197】
表皮層は、下記式Bに従って求められる保温性指数が0.18超であってよい。
式B:保温性指数=保温率(%)/試料の目付け(g/m
ここで、本明細書において、保温率は、サーモラボII型試験機(30cm/秒の有風下)を用いたドライコンタクト法で測定した保温率を意味し、後述する実施例に記載の方法により測定される値である。
【0198】
表皮層の保温性指数は、0.20以上であってよく、0.22以上であってよく、0.24以上であってよく、0.26以上であってよく、0.28以上であってよく、0.30以上であってよく、0.32以上であってよい。保温性指数の上限に特に制限はないが、例えば、0.60以下、又は0.40以下であってよい。
【0199】
(合成皮革)
本実施形態に係る合成皮革は、必要に応じて、基布層及び表皮層以外の層(例えば、接着剤層、多孔質層等)を1層又は2層以上更に積層したものであってもよい。
【0200】
本実施形態に係る合成皮革は、下記式Aに従って求められる最高吸湿発熱度が0.025℃/g超であってよい。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)-(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
なお、式A中、低湿度環境は、温度20℃及び相対湿度40%の環境を意味し、高湿度環境は、温度20℃及び相対湿度90%の環境を意味する。
【0201】
本実施形態に係る合成皮革は、最高吸湿発熱度が0.026℃/g以上であってもよく、0.027℃/g以上であってもよく、0.028℃/g以上であってもよく、0.029℃/g以上であってもよく、0.030℃/g以上であってもよく、0.031℃/g以上であってもよく、0.035℃/g以上であってもよく、0.040℃/g以上であってもよい。最高吸湿発熱度の上限に特に制限はないが、通常、0.060℃/g以下である。
【0202】
本実施形態に係る合成皮革は、限界酸素指数(LOI)値が、18以上であってよく、20以上であってもよく、22以上であってもよく、24以上であってもよく、26以上であってもよく、28以上であってもよく、29以上であってもよく、30以上であってもよく、31以上であってもよく、32以上であってもよく、33以上又は33超であってもよい。
【0203】
本実施形態に係る合成皮革は、下記式Bに従って求められる保温性指数が0.18超であってよい。
式B:保温性指数=保温率(%)/試料の目付け(g/m
ここで、本明細書において、保温率は、サーモラボII型試験機(30cm/秒の有風下)を用いたドライコンタクト法で測定した保温率を意味し、後述する実施例に記載の方法により測定される値である。
【0204】
本実施形態に係る合成皮革の保温性指数は、0.20以上であってよく、0.22以上であってよく、0.24以上であってよく、0.26以上であってよく、0.28以上であってよく、0.30以上であってよく、0.32以上であってよい。保温性指数の上限に特に制限はないが、例えば、0.60以下、又は0.40以下であってよい。
【0205】
(合成皮革の製造方法)
本実施形態に係る合成皮革は、タンパク質繊維を含み、かつ防縮された基布層(編織体)を使用すること以外は、常法に従って製造することができる。本実施形態に係る合成皮革は、例えば、編織体を含む基布層上に表皮層を形成する工程を備える方法により製造することができる。本実施形態に係る合成皮革は、例えば、乾式法及び湿式法のいずれの方法によっても製造することができる。
【0206】
乾式法では、例えば、離型紙上に表皮層樹脂を塗布する工程と、表皮層樹脂の離型紙とは反対側の面に接着剤樹脂を塗布する工程と、接着剤樹脂の表皮層樹脂とは反対側の面に基布(編織体)を重ね、熱圧着する工程とを備える方法により、合成皮革を製造することができる。図11は、乾式法で合成皮革を製造する際の製造装置の一例を示す模式図である。図11に示す製造装置100を使用した製造方法では、まず、離型紙を巻き取ったロールから離型紙50を引き出し、離型紙50上に表皮層樹脂(高分子)51を塗布し、乾燥機60で乾燥させる。次いで、表皮層樹脂(高分子)51の表面(離型紙50と接している面とは反対側の面)に接着剤層樹脂52を塗布し、乾燥機60で乾燥させる。そして、編織体を巻き取ったロールから編織体(基布)53を引き出し、接着剤層樹脂52の表面(表皮層樹脂(高分子)51と接している面とは反対側の面)に重ね、熱プレスロール70により熱圧着して接合させ、編織体(基布)53と、接着剤層樹脂52と、表皮層樹脂(高分子)51と、離型紙50とがこの順に積層した合成皮革54をロールに巻き取ることで、合成皮革を製造することができる。なお、表皮層樹脂及び基布を与える材料の種類等により、表皮層樹脂を基布に対して、例えば、熱圧着等だけで一体的に接合できる場合には、接着剤層樹脂を省略することも可能である。
【0207】
接着剤層樹脂52としては、特に制限はなく、従来の合成皮革に使用されている接着剤を使用することができる。接着剤としては、例えば、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等の合成樹脂を挙げることができる。
【0208】
接着剤層樹脂52により形成される接着剤層の厚みは、特に制限はないが、例えば、1~50μmであってよく、1~40μmであってよく、5~30μmであってよく、5~20μmであってよい。
【0209】
湿式法では、例えば、基布(編織体)上に表皮層樹脂を含む液を塗布する工程と、表皮層樹脂を含む液を塗布した基布を凝固液に浸漬し、表皮層を形成させる工程とを備える方法により、合成皮革を製造することができる。図12は、湿式法で合成皮革を製造する際の製造装置の一例を示す模式図である。図12に示す製造装置200を使用した製造方法では、まず、編織体を巻き取ったロールから編織体(基布)53を引き出し、コーティングヘッド55から表皮層樹脂(高分子)を編織体(基布)53上に塗布する。次いで、凝固液を含む凝固槽80中で表皮層樹脂(高分子)を凝固させ、編織体(基布)53上に表皮層を形成させる。そして、洗浄液を含む湯洗槽90を通して洗浄した後、乾燥機60で乾燥させて、編織体(基布)53上に表皮層が接合した合成皮革54をロールに巻き取ることで、合成皮革を製造することができる。湿式法では、多孔質の表皮層を形成することも可能である。例えば、基布に、表皮層樹脂として高分子樹脂を主体とする溶剤溶液を塗工する。次いで、例えば、水を主体とした凝固液中に浸漬すると、表皮層樹脂中の溶剤が凝固液へ溶出すると同時に、水を主体とした凝固液が表皮層樹脂に浸透、拡散し、表皮層樹脂は湿式凝固される。その結果、多孔質表皮層を形成できる。なお、表皮層樹脂を含む溶液の溶媒の種類(例えば、低沸点のもの等)によっては、表皮層樹脂を含む液を塗布した基布を、凝固液に接触させることなく、表皮層樹脂を含む溶液の溶媒を揮発させる等して脱溶媒を行うことで表皮層用樹脂を凝固させて表皮層を形成してもよい。
【0210】
凝固液の種類は、表皮層樹脂(高分子)及び表皮層樹脂を溶解又は分散させる溶媒の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、表皮層樹脂(高分子)がポリウレタンである場合、例えば、溶媒としてジメチルホルムアミド、凝固液として水(湯)を採用することができる。また、例えば、表皮層樹脂(高分子)がタンパク質である場合、例えば、溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、及びヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)並びにこれらに溶解促進剤としての無機塩を添加したもの、凝固液としてメタノール、エタノール及び2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール、アセトン、並びに水を採用することができる。凝固液には必要に応じて種々の添加剤が添加されていてもよい。
【0211】
なお、図11若しくは図12に示される製造装置等を用いることなく、又はそれらとは別の装置を用いて本実施形態に係る合成皮革を非連続的に製造することもできる。例えば、巻き取られていない所定大きさの基布の表面に表皮層樹脂を積層を塗布し、凝固液を用いて、又は用いることなく、表皮層樹脂を凝固させる。その後、必要に応じて、洗浄及び乾燥を行うことで目的とする合成皮革を得ることができる。
【0212】
(合成皮革の用途)
本実施形態に係る合成皮革は、従来の合成皮革(例えば、合成樹脂にて構成される合成皮革)が用いられていた用途に使用することができる。本実施形態に係る合成皮革は、例えば、衣料品、靴及び鞄等の装飾品、各種のカバー及び家具類等、並びに自動車内装材等の用途に使用することができる。
【実施例0213】
以下、試験例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
【0214】
〔試験例1:改変フィブロインの製造〕
配列番号18で示されるアミノ酸配列を有する改変クモ糸フィブロイン(PRT399)、配列番号12で示されるアミノ酸配列を有する改変クモ糸フィブロイン(PRT380)、配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する改変クモ糸フィブロイン(PRT410)、配列番号37で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT918)、配列番号40で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT966)、及び配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT799)を設計した。設計した改変フィブロインをコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。この核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0215】
得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0216】
【表4】
【0217】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0218】
【表5】
【0219】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変フィブロインサイズのバンドの出現により、目的とする改変フィブロインの発現を確認した。
【0220】
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、改変フィブロイン(PRT399、PRT380、PRT410、PRT918、PRT966及びPRT799)を得た。
【0221】
〔試験例2:改変フィブロイン繊維の製造及び収縮性評価(1)〕
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに改変フィブロイン(PRT399、PRT380、PRT410又はPRT799)の凍結乾燥粉末を、濃度18質量%又は24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液を得た。
【0222】
得られた改変フィブロイン溶液をドープ液(紡糸原液)とし、図5に示す紡糸装置1000に準じた紡糸装置を用いた乾湿式紡糸によって、紡糸及び延伸された改変クモ糸フィブロイン繊維を製造した。用いた紡糸装置は、図5に示す紡糸装置1000において、未延伸糸製造装置102(第1浴)及び湿熱延伸装置103(第3浴)の間に、更に第2の未延伸糸製造装置(第2浴)を備えるものである。乾湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
押出しノズル直径:0.2mm
凝固浴温度:2~15℃
総延伸倍率:1~4倍
乾燥温度:60℃
【0223】
(収縮性評価)
得られた改変フィブロイン繊維(製造例1~19)について、収縮率を評価した。すなわち、各改変フィブロイン繊維(紡糸後、水と接触する前の繊維)に対して、水に接触させて湿潤状態にし(接触ステップ)、その後乾燥させる(乾燥ステップ)収縮工程を実施し、湿潤状態にした改変フィブロイン繊維の収縮率、並びに湿潤状態にした後、乾燥させた改変フィブロイン繊維の収縮率を求めた。
【0224】
<接触ステップ>
各改変フィブロイン繊維の巻回物から、それぞれ、長さ30cmの複数本の試験用の改変フィブロイン繊維を切り出した。それら複数本の改変フィブロイン繊維を束ねて、繊度150デニールの改変フィブロイン繊維束を得た。各改変フィブロイン繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で各改変フィブロイン繊維束を表6~9に示す温度の水に10分間浸漬した。その後、水中で各改変フィブロイン繊維束の長さを測定した。測定は、改変フィブロイン繊維束の縮れを無くすために、改変フィブロイン繊維束に0.8gの鉛錘を取り付けたまま実施した。次いで、湿潤状態にした改変フィブロイン繊維の収縮率(湿潤時収縮率)を、下記式Vに従って算出した。式V中、L0は水に浸漬する前の改変フィブロイン繊維束の長さ(30cm)を示し、Lwは水に浸漬して湿潤状態にした改変フィブロイン繊維束の長さを示す。
湿潤時収縮率(%)={1-(Lw/L0)}×100 …(式V)
【0225】
<乾燥ステップ>
接触ステップの後、改変フィブロイン繊維束を水中から取り出した。取り出した改変フィブロイン繊維束を、0.8gの鉛錘を取り付けたまま、室温で2時間おいて乾燥させた。乾燥後、各改変フィブロイン繊維束の長さを測定した。次いで、湿潤状態にした後、乾燥させた改変フィブロイン繊維の収縮率(乾燥時収縮率)を、下記式VIに従って算出した。式VI中、L0は水に浸漬する前の改変フィブロイン繊維束の長さ(30cm)を示し、Lwdは水に浸漬して湿潤状態にした後、乾燥させた改変フィブロイン繊維束の長さを示す。
乾燥時収縮率(%)={1-(Lwd/L0)}×100(%) …(式VI)
【0226】
結果を表6~9に示す。なお、表6~9中、「総延伸倍率」は、紡糸工程における総延伸倍率を示す。
【0227】
【表6】
【0228】
【表7】
【0229】
【表8】
【0230】
【表9】
【0231】
改変フィブロイン繊維は、湿潤時収縮率及び乾燥時収縮率共に高かった。一方、上述した収縮性評価(収縮工程)を経た改変フィブロイン繊維は、再度水と接触させたときの収縮率が充分に低減されていた。上述の収縮工程により、紡糸の際の延伸等による残留応力が緩和されたものと考えられる。
【0232】
〔試験例3:改変フィブロイン繊維の製造及び収縮性評価(2)〕
ギ酸に、改変フィブロイン(PRT799)を濃度24質量%となるよう添加し、室温撹拌にて1時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液を得た。
【0233】
得られた改変フィブロイン溶液をドープ液(紡糸原液)とし、図5に示す紡糸装置1000に準じた紡糸装置を用いた乾湿式紡糸を行い、改変フィブロイン繊維を得た。乾湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
凝固液(メタノール)の温度:5~10℃
延伸倍率:6倍
乾燥温度:80℃
【0234】
得られた改変フィブロイン繊維を用いて加熱弛緩収縮処理を行った。改変フィブロイン繊維を、所定の温度に加熱した乾燥熱板に接触させながら、乾燥熱板上を通過させた。巻取り速度に対して送出し速度を速くし、改変フィブロイン繊維を弛緩させた。弛み分を熱により収縮させることで、乾式弛緩処理を行った。送出し速度を巻取り速度で割った値を弛緩倍率とした。本試験では、過剰の送出しによって生じる改変フィブロイン繊維の弛み分が、弛緩により相殺される限界の収縮倍率(最大収縮率)となるように、弛緩倍率を調整した。弛緩倍率の調整は、送出し側のローラおよび巻取り側のローラの少なくともいずれか一方を調整することにより行った。
【0235】
水収縮評価は、次の手順で行った。加熱弛緩収縮処理後の繊維(試験片)を300mmに切断し、40℃の水に荷重無しで10分間浸漬した。その後すぐに試験片の長さ(湿潤時長さ)を測定すると共に、室温で2時間乾燥させた。その後、試験片の長さ(乾燥後の繊維長さ)を測定し、水収縮率を測定した。水収縮率は、以下の式(1)で算出される数値である。
水収縮率=(1-乾燥後の繊維長さ/浸漬前の繊維長さ)×100・・・(1)
【0236】
(試験例3-1)
加熱温度と弛緩倍率の関係を確認した。この試験例3-1では、実施例1~5と比較例1のすべてにおいて、水浸漬前長さを300mmとすると共に、他の条件を変化させて試験を行った。具体的には、加熱温度、弛緩倍率、及び滞在時間を変化させて試験を行った。温度条件及び弛緩条件と、収縮率の測定結果とを表10に示す。表10に示されるように、加熱温度が高くなるほど、また、弛緩倍率が高くなるほど、水収縮率が低減した。実施例3、4、5の結果に示されるように、220℃以上の加熱で、4%以下の水収縮率が得られた。なお、加熱温度280℃とした実施例5では、繊維に着色が見られた。この試験の結果、最適な加熱温度は240℃であると考えられた。
【0237】
【表10】
【0238】
(試験例3-2)
次に、弛緩倍率と水収縮率の関係を確認した。この試験例3-2では、実施例6~10及び比較例3のすべてにおいて、水浸漬前長さを300mmとし、加熱温度を240℃とし、滞在時間を1分(60sec)とすると共に、他の条件を変化させて試験を行った。具体的には、弛緩倍率(送出し速度)を変化させて試験を行った。弛緩条件と収縮率の測定結果を表11に示す。表11に示されるように、弛緩倍率の上昇に伴って、水収縮率が低減した。実施例8、9、10の結果に示されるように、弛緩倍率を1.4倍~2.0倍とすることで、16%以下の水収縮率が得られた。
【0239】
【表11】
【0240】
(試験例3-3)
各種の加熱温度、加熱時間、及び弛緩倍率と、水収縮率との関係を確認した。この試験例3-3では、実施例11~19と比較例4のすべてにおいて、水浸漬前長さを300mmとすると共に、他の条件を変化させて試験を行った。具体的には、加熱温度、加熱時間(滞在時間)、及び弛緩倍率(送出し速度/巻取り速度)を変化させて試験を行った。温度条件及び弛緩条件と、収縮率の測定結果とを表12に示す。比較例4では、試験片の水への浸漬及び乾燥のみを行っており、弛緩及び加熱は行っていない。実施例14~19の結果に示されるように、加熱温度を200℃以上とすることで、15%未満の水収縮率が得られた。加熱温度を220℃以上とすることで、4%以下の低い水収縮率が得られた。収縮に必要な滞在時間は、5secで十分であり、滞在時間を伸ばしても、収縮率はさほど変化しなかった。
【0241】
【表12】
【0242】
〔試験例4:改変フィブロイン繊維を使用した編織体に対する防縮処理及び評価〕
[編地の製造、防縮処理及び評価]
(試験例4-1)
紡糸工程での総延伸倍率を4.55倍とした以外、試験例2と同様にして得た改変フィブロイン繊維を用いて、無縫製編機により丸編みにて編地を編成した。ここで、改変フィブロイン繊維の番手は58.1Nmであり、無縫製編機のゲージ数は18であった。
【0243】
上記で得られた編地のウェール方向、コース方向、それぞれの方向に1辺の長さが1cmの正方形しるしを付けた。その後、編地を20℃の水に10分間浸漬した。水に浸漬後の編地を乾燥させることにより、防縮処理を施した。
【0244】
<寸法変化率の測定>
防縮処理を施した編地の寸法変化率(%)を、ウェール方向、コース方向それぞれについて、下記式に従って算出した。式中、L0fは水と接触させる前の編地上に記載した1辺の長さを示し、Lwfは防縮処理を施した編地上に記載された正方形の1辺の長さを示す。結果を表13に示す。
式:寸法変化率={(Lwf/L0f)-1}×100(%)
【0245】
<ループ個数の増加率の測定>
上記で得られた編地及び防縮処理を施した編地について、ウェール方向、コース方向のそれぞれの方向における1cmあたりのループ個数を数え、ループ個数の増加率を下記式に従って算出した。式中、N0は水と接触させる前の編地のループ個数を示し、Nwは防縮処理を施した編地のループ個数を示す。結果を表13に示す。
式:ループ個数の増加率={(Nw/N0)-1}×100(%)
【0246】
<編み密度の増加率の測定>
上記で得られた編地及び防縮処理を施した編地について1cmあたりのループ個数を数え、編み密度の増加率を下記式に従って算出した。式中、M0は水と接触させる前の編地の編み密度を示し、Mwは防縮処理を施した編地の編み密度を示す。結果を表13に示す。
式:編み密度の増加率={(Mw/M0)-1}×100(%)
【0247】
<破裂強さの増加率の測定>
上記で得られた編地及び防縮処理を施した編地についてJIS L 1096 B法に則して破裂強さを測定し、破裂強さの増加率を下記式に従って算出した。式中、R0は水と接触させる前の編地の破裂強さを示し、Rwは防縮処理を施した編地の破裂強さを示す。結果を表13に示す。
式:破裂強さの増加率={(Rw/R0)-1}×100(%)
【0248】
(試験例4-2)
改変フィブロイン繊維に代えて、天然の絹フィブロイン繊維(天然の絹糸)を用い、無縫製編機により横編みにて編地を編成した。ここで、天然絹フィブロイン繊維は、番手が29Nmの糸を2本束ねたものを用いた。また、無縫製編機のゲージ数は18であった。得られた編地を用いて、試験例4-1と同様にして防縮処理を施した。得られた編地及び防縮処理を施した編地について、寸法変化率、ループ個数の増加率、及び編み密度の増加率を求めた。結果を表13に示す。
【0249】
(試験例4-3)
改変フィブロイン繊維に代えてポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を使用した以外は試験例4-1と同様にして編地を得た。得られた編地について、試験例4-1と同様の条件で防縮処理を施した。得られた編地及び防縮処理を施した編地について、寸法変化率、ループ個数の増加率、編み密度の増加率、及び破裂強さを求めた。結果を表13に示す。
【0250】
(試験例4-4)
改変フィブロイン繊維に代えてポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を使用し、編成方法を丸編みから平編みに変更した以外は試験例4-1と同様にして編地を得た。得られた編地について、試験例4-1と同様の条件で防縮処理を施した。得られた編地及び防縮処理を施した編地について、寸法変化率、ループ個数の増加率、編み密度の増加率、及び破裂強さを求めた。結果を表13に示す。
【0251】
【表13】
【0252】
[織地の製造、防縮処理及び評価]
改変フィブロイン繊維からなる撚糸を用い、レピア織機(Evergreen Automatic Sampling Loom:CCI製)により平織にて、下記表14に示すような互いに異なる織り密度を有する4種類の織物を織成した(試験例4-5~試験例4-8)。ここで、改変フィブロイン繊維からなる撚糸の繊度は190dであり、撚数は450T/mであった。
【0253】
上記で得られた4種類の織物をそれぞれ40℃の水に10分間浸漬した後、乾燥させることにより、防縮処理を施した。その後、試験例4-5~試験例4-8の織物の密度を調べた。その結果を下記表14に示す。表中、織り密度は、経糸密度かける緯糸密度の形で示す。例えば、織り密度「26×26」は、経糸密度26(本/in)及び緯糸密度26(本/in)を意味する。
【0254】
改変フィブロイン繊維からなる撚糸に代えてポリアミド繊維からなる撚糸を用いたこと以外は上記と同様にして、下記表14に示すような互いに異なる密度を有する4種類の織物を織成した(試験例4-9~試験例4-12)。ここで、ポリアミド繊維からなる撚糸の繊度は150dであり、撚数は150T/mであった。
【0255】
試験例4-9~試験例4-12の織物に対して、上記と同様にして、防縮処理を施した。その後、試験例4-9~試験例4-12の織物の密度を調べた。その結果を下記表14に併せて示す。
【0256】
【表14】
【0257】
〔試験例5:改変フィブロイン編地の難燃性評価〕
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに改変フィブロイン(PRT799)の凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。
【0258】
調製した紡糸原液を90℃にて目開き5μmの金属フィルターで濾過し、次いで30mLのステンレスシリンジ内で静置し、脱泡させた後に、ニードル径0.2mmのソリッドノズルから100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出温度は90℃であった。凝固後、得られた原糸を巻き取り、自然乾燥させて改変フィブロイン繊維(原料繊維)を得た。
【0259】
得られた原料繊維(撚り合せたフィラメント糸)を使用して、丸編機を使用した丸編みで編地を製造した。編地は、太さ180デニール、ゲージ数18とした。得られた編地から20g切り出して試験片とした。
【0260】
燃焼性試験は、消防庁危険物規制課長 消防危50号平成7年5月31日の粉粒状又は融点の低い合成樹脂の試験方法に準拠した。試験は、温度22℃、相対湿度45%、気圧1021hPaの条件下で実施した。測定結果(酸素濃度(%)、燃焼率(%)、換算燃焼率(%))を表15に示す。
【表15】
【0261】
難燃性試験の結果、改変フィブロイン(PRT799)繊維で編んだ編地の限界酸素指数(LOI)値は27.2であった。一般にLOI値が26以上あれば難燃性があるとされる。改変フィブロインは、難燃性に優れていることが分かる。
【0262】
〔試験例6:改変フィブロイン編地の吸湿発熱性評価〕
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに改変フィブロインの凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。
【0263】
調製した紡糸原液を60℃にて目開き5μmの金属フィルターで濾過し、次いで30mLのステンレスシリンジ内で静置し、脱泡させた後に、ニードル径0.2mmのソリッドノズルから100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出温度は60℃であった。凝固後、得られた原糸を巻き取り、自然乾燥させて改変フィブロイン繊維(原料繊維)を得た。
【0264】
比較のため、原料繊維として、市販されているウール繊維、コットン繊維、テンセル繊維、レーヨン繊維及びポリエステル繊維を用意した。
【0265】
各原料繊維を使用して、横編機を使用した横編みで編地を製造した。原料繊維としてPRT918繊維を使用した編地は、太さ:1/30N(毛番手単糸)、ゲージ数:18とした。原料繊維としてPRT799繊維を使用した編地は、太さ:1/30N(毛番手単糸)、ゲージ数:16とした。その他の原料繊維を使用した編地は、PRT918繊維及びPRT799繊維を使用した編地とほぼ同一のカバーファクターとなるように太さ及びゲージ数を調整した。具体的には、以下のとおりである。
ウール 太さ:2/30N(双糸)、ゲージ数:14
コットン 太さ:2/34N(双糸)、ゲージ数:14
テンセル 太さ:2/30N(双糸)、ゲージ数:15
レーヨン 太さ:1/38N(単糸)、ゲージ数:14
ポリエステル 太さ:1/60N(単糸)、ゲージ数:14
【0266】
10cm×10cmに裁断した編地を2枚合わせにし、四辺を縫い合わせて試験片(試料)とした。試験片を低湿度環境(温度20±2℃、相対湿度40±5%)で4時間以上放置した後、高湿度環境(温度20±2℃、相対湿度90±5%)に移し、試験片内部中央に取り付けた温度センサーにより30分間、1分間隔で温度の測定を行った。
【0267】
測定結果から、下記式Aに従って、最高吸湿発熱度を求めた。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)-(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
【0268】
図13は、吸湿発熱性試験の結果の一例を示すグラフである。グラフの横軸は、試料を低湿度環境から高湿度環境に移した時点を0とし、高湿度環境での放置時間(分)を示す。グラフの縦軸は、温度センサーで測定した温度(試料温度)を示す。図13に示したグラフ中、Mで示した点が、試料温度の最高値に対応している。
【0269】
最高吸湿発熱度の算出結果を表16に示す。
【表16】
【0270】
表16に示すとおり、改変フィブロイン(PRT918及びPRT799)は、既存の材料と比べて、最高吸湿発熱度が高く、吸湿発熱性に優れていることが分かる。
【0271】
〔試験例7:改変フィブロイン編地の保温性評価〕
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに改変フィブロインの凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。
【0272】
調製した紡糸原液を60℃にて目開き5μmの金属フィルターで濾過し、次いで30mLのステンレスシリンジ内で静置し、脱泡させた後に、ニードル径0.2mmのソリッドノズルから100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出温度は60℃であった。凝固後、得られた原糸を巻き取り、自然乾燥させて改変フィブロイン繊維(原料繊維)を得た。
【0273】
比較のため、原料繊維として、市販されているウール繊維、シルク繊維、綿繊維、レーヨン繊維及びポリエステル繊維を用意した。
【0274】
各原料繊維を使用して、横編機を使用した横編みで編地を製造した。原料繊維としてPRT966繊維を使用した編地は、番手:30Nm、撚り本数:1、ゲージ数:18GG、目付け:90.1g/mとした。原料繊維としてPRT799繊維を使用した編地は、番手:30Nm、撚り本数:1、ゲージ数GG:16、目付け:111.0g/mとした。その他の原料繊維を使用した編地は、PRT966繊維及びPRT799繊維を使用した編地とほぼ同一のカバーファクターとなるように太さ及びゲージ数を調整した。具体的には、以下のとおりである。
ウール 番手:30Nm、撚り本数:2、ゲージ数:14GG、目付け:242.6g/m
シルク 番手:60Nm、撚り本数:2、ゲージ数:14GG、目付け:225.2g/m
綿 番手:34Nm、撚り本数:2、ゲージ数:14GG、目付け:194.1g/m
レーヨン 番手:38Nm、撚り本数:1、ゲージ数:14GG、目付け:181.8g/m
ポリエステル 番手:60Nm、撚り本数:1、ゲージ数:14GG、目付け:184.7g/m
【0275】
保温性は、カトーテック株式会社製のKES-F7サーモラボII試験機を使用し、ドライコンタクト法(皮膚と衣服が乾燥状態で直接触れた時を想定した方法)を用いて評価した。20cm×20cmに裁断した編地1枚を試験片(試料)とした。試験片を、一定温度(30℃)に設定した熱板にセットし、風洞内風速30cm/秒の条件で、試験片を介して放散された熱量(a)を求めた。試験片をセットしない状態で、上記同様の条件で放散された熱量(b)を求め、下記の式に従い保温率(%)を算出した。
保温率(%)=(1-a/b)×100
【0276】
測定結果から、下記式Bに従って、保温性指数を求めた。
式B:保温性指数=保温率(%)/試料の目付け(g/m
【0277】
保温性指数の算出結果を表17に示す。保温性指数が高いほど、保温性に優れる材料と評価することができる。
【0278】
【表17】
【0279】
表17に示すとおり、改変フィブロイン(PRT966及びPRT799)は、既存の材料と比べて、保温性指数が高く、保温性に優れていることが分かる。
【0280】
〔試験例8:合成皮革の製造〕
(基布(織布)の製造)
改変フィブロイン(PRT966)の凍結乾燥粉末を、ギ酸に濃度28質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。得られた改変クモ糸フィブロイン溶液をドープ液(紡糸原液)とし、公知の乾湿式紡糸装置を用いた乾湿式紡糸によって改変クモ糸フィブロイン繊維を製造した。次いで、得られた改変フィブロイン繊維から公知の方法により撚糸を得た後、この撚糸をレピア織機(Evergreen Automatic Sampling Loom:CCI製)により平織して、織布を織成した。なお、乾湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
凝固浴温度:2~15℃
総延伸倍率:1~4倍
乾燥温度:100℃
【0281】
(表皮層樹脂の調製)
S-705(ポリカーボネート系乾式加工用ポリウレタン,DIC株式会社製)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)及び顔料を100/25/25/10の組成で混合し、脱泡を行なって、表皮層用樹脂を調製した。
【0282】
(接着剤層樹脂の調製)
TA-465(2液型ドライ接着加工用ポリウレタン,DIC株式会社製)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、T-81(2液架橋反応用触媒、DIC株式会社製)及びDN-950(2液架橋反応用架橋剤、DIC株式会社製)を100/60/12/1の組成で混合し、脱泡を行なって、接着剤層樹脂を調製した。
【0283】
(合成皮革の製造)
離型紙をガラス板上に貼り付けた後、市販のフィルムアプリケーターを用いて、離型紙上に表皮層樹脂を0.127mmの厚さで塗布した。その後、これを120℃で2分間乾燥させた。次いで、市販のフィルムアプリケーターを用いて、表皮層樹脂の離型紙側とは反対側の面に接着剤層樹脂を0.127mmの厚さで塗布した。その後、これを120℃で2分間乾燥させた。引き続き、接着剤層樹脂上に基布を積層して積層体を得た後、市販のラミネーターを用いて、積層体を80℃で15秒間ラミネート加熱加圧した後、80℃で24時間エージングを行った。これにより、目的とする合成皮革を製造した。得られた合成皮革の写真を図14に示した。
【符号の説明】
【0284】
1…表皮層、2…基布層、3…接着剤層、4…多孔質層、10,20,30,40…合成皮革、50…離型紙、51…表皮層樹脂(高分子)、52…接着剤層樹脂、53…編織体(基布)、54…合成皮革、55…コーティングヘッド、60…乾燥機、70…熱プレスロール、80…凝固槽、90…湯洗槽、100,200…製造装置、101…押出し装置、102…未延伸糸製造装置、103…湿熱延伸装置、104…乾燥装置、105…巻糸体、106…ドープ液、120…凝固液槽、121…延伸浴槽、136…改変フィブロイン繊維、1000…紡糸装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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