(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160012
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】予測方法及び予測装置
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20221012BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B3/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019158983
(22)【出願日】2019-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】510136312
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立成育医療研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小枝 達也
(72)【発明者】
【氏名】大羽 沢子
(72)【発明者】
【氏名】前垣 義弘
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA21
4C316AA30
(57)【要約】
【課題】早期に、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測することができる予測方法及び予測装置を実現する。
【解決手段】本発明の一態様に係る予測方法は、対象者が複数の画像毎の特定の領域を見た割合を算出する割合算出ステップ(S12)と、上記対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する予測ステップ(S14)とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者に複数の画像を表示し、当該対象者の視線を検出することにより当該対象者が当該複数の画像の何れの領域を見ているのかを特定する視線検出装置を用いた予測方法であって、
上記対象者が上記複数の画像毎の特定の領域を見た割合を算出する割合算出ステップと、
上記割合と、所定の閾値とから、上記対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する予測ステップと
を含むことを特徴とする予測方法。
【請求項2】
上記複数の画像は、第1の画像を含み、
上記第1の画像は、人間の顔を含む第1の領域と、幾何学的模様を含む第2の領域と、当該人間の顔及び当該幾何学的模様を含まない第3の領域とを含み、
上記割合算出ステップにおいて、上記対象者が上記第1の領域を見た第1の割合、上記第2の領域を見た第2の割合、及び上記第3の領域を見た第3の割合の少なくとも何れかを算出し、
上記予測ステップにおいて、上記第1の割合、上記第2の割合、及び上記第3の割合の少なくとも何れかと、上記所定の閾値とから、上記対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する
ことを特徴とする、請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
上記予測ステップでは、感度を特異度よりも優先して高くする場合と、特異度を感度よりも優先して高くする場合とで、上記所定の閾値を異ならせる
ことを特徴とする、請求項2に記載の予測方法。
【請求項4】
上記複数の画像は、上記第1の画像とは異なる、第2の画像を更に含み、
上記第2の画像は、人間の眼を含む第4の領域と、人間の口を含む第5の領域と、当該人間の眼及び当該人間の口を含まない第6の領域とを含み、
上記割合算出ステップにおいて、上記対象者が上記第4の領域を見た第4の割合、上記第5の領域を見た第5の割合、及び上記第6の領域を見た第6の割合の少なくとも何れかを更に算出し、
上記第1の割合、上記第2の割合、及び上記第3の割合の少なくとも何れかと、上記第4の割合、上記第5の割合、及び上記第6の割合の少なくとも何れかと、に対して重み付けを行った重み付け線形和を用いて加重平均した値を算出する加重平均ステップを更に含み、
上記予測ステップにおいて、上記値と、所定の閾値とから、上記対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する
ことを特徴とする、請求項2に記載の予測方法。
【請求項5】
上記加重平均ステップにおいて、上記第2の割合と、上記第6の割合に対して重み付けを行った重み付け線形和を用いて加重平均した値を算出する
ことを特徴とする、請求項4に記載の予測方法。
【請求項6】
上記第1の画像は、3つの人間の顔を含む領域と第1の幾何学的模様を含む領域とを含む画像、2つの人間の顔を含む領域と第2の幾何学的模様を含む領域とを含む画像、2つの人間の顔を含む領域と第3の幾何学的模様を含む領域とを含む画像、及び1つの人間の顔を含む領域と第4の幾何学的模様を含む領域とを含む画像を含み、
上記第2の画像は、人間の閉じた眼を含む領域と人間の閉じた口を含む領域とを含む画像、人間の開いた眼を含む領域と人間の開いた口を含む領域とを含む画像、及び人間の開いた眼を含む領域と人間の閉じた口を含む領域とを含む画像を含み、
上記加重平均ステップにおいて、上記第2の割合の重み付け係数は、0.38以上、0.45以下であり、上記第6の割合の重み付け係数は、0.95以上、0.99以下である
ことを特徴とする、請求項5に記載の予測方法。
【請求項7】
上記対象者は2歳以下である
ことを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の予測方法。
【請求項8】
対象者に複数の画像を表示し、当該対象者の視線を検出することにより当該対象者が当該複数の画像の何れの領域を見ているのかを特定する視線検出装置からの出力データを取得するデータ取得部と、
上記対象者が上記複数の画像毎の特定の領域を見た割合を算出する割合算出部と、
上記割合と、所定の閾値とから、上記対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する予測部と
を備えることを特徴とする予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測方法及び予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自閉スペクトラム症小児の注視点の選好性を応用した選好性注視点定量計測装置(Gaze Finder(登録商標);JVC KENWOOD社製)が開発されている。また、非特許文献1には、自閉スペクトラム症と診断されている小児は、定型発達児よりも幾何学模様を好んで見るという研究結果が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Fujioka T. et. al.,"Gazefinder as a clinical supplementary tool for discriminating between autism spectrum disorder and typical development in male adolescents and adults." Molecular Autism,2016; 7: 19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術では、既診断の自閉スペクトラム症の特徴を示すにとどまっていて、診断の補助として、又は幼児早期のスクリーニングとして有用であるとの見解は得られていない。
【0005】
本発明の一態様は、早期に、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測することができる予測方法及び予測装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る予測方法は、対象者に複数の画像を表示し、当該対象者の視線を検出することにより当該対象者が当該複数の画像の何れの領域を見ているのかを特定する視線検出装置を用いた予測方法であって、上記対象者が上記複数の画像毎の特定の領域を見た割合を算出する割合算出ステップと、上記割合と、所定の閾値とから、上記対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する予測ステップとを含むことを特徴とする。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る予測装置は、対象者に複数の画像を表示し、当該対象者の視線を検出することにより当該対象者が当該複数の画像の何れの領域を見ているのかを特定する視線検出装置からの出力データを取得するデータ取得部と、上記対象者が上記複数の画像毎の特定の領域を見た割合を算出する割合算出部と、上記割合と、所定の閾値とから、上記対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する予測部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、早期に、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測することができる予測方法及び予測装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態1に係る予測方法を示すフローチャートである。
【
図2】視線検出装置が表示する複数の画像の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係る予測方法を示すフローチャートである。
【
図4】視線検出装置が表示する複数の画像の一例を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態3に係る予測装置の構成要素を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施例に用いた動画を示す模式図である。
【
図7】本発明の実施例に用いた動画の呼称名、意義、及び時間を示す表である。
【
図8A】本発明の実施例(対象群内)において、
図6及び
図7に示す動画1、2、7、8における人間の顔を含む領域を見た割合についてのROC曲線を示すグラフである。
【
図8B】本発明の実施例(対象群内)において、
図6及び
図7に示す動画1、2、7、8における幾何学模様を含む領域を見た割合についてのROC曲線を示すグラフである。
【
図9A】本発明の実施例(対照群)において、
図6及び
図7に示す動画1、2、7、8における人間の顔を含む領域を見た割合についてのROC曲線を示すグラフである。
【
図9B】本発明の実施例(対照群を含む)において、
図6及び
図7に示す動画1、2、7、8における人間の顔を含む領域を見た割合についてのROC曲線を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施例において、
図6及び
図7に示す動画1、2、7、8における幾何学的模様を含む領域を見た割合と、
図6及び
図7に示す動画3-2における人間の眼及び人間の口を含まない領域を見た割合と、についての判別分析の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。本実施形態に係る予測方法は、対象者に複数の画像を表示し、当該対象者の視線を検出することにより当該対象者が複数の画像の何れの領域を見ているのかを特定する視線検出装置を用いた予測方法である。
図1は、本実施形態に係る予測方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態に係る予測方法は、データ取得ステップS11、割合算出ステップS12、及び予測ステップS14を含んでいる。
データ取得ステップS11は、視線検出装置からの出力データを取得するステップである。視線検出装置としては、例えば、Gaze Finder(JVC KENWOOD社製)が挙げられる。
【0011】
データ取得ステップS11にて取得するデータには、各時点において、複数の画像の何れの領域を当該対象者が見ているのかに関するデータが含まれている。
【0012】
図2は、視線検出装置が表示する複数の画像の一例を示す模式図である。当該複数の画像は、第1の動画100を含んでいる。また、第1の動画100は、画像101、画像102、画像103、及び画像104を含んでいる。なお、画像101、画像102、画像103、及び画像104をそれぞれ第1の画像とも呼ぶ。第1の動画100は複数の動画であり、画像101、画像102、画像103、及び画像104はそれぞれ複数の動画の一コマを示している。複数の画像としては、例えば、Gaze Finderが表示する複数の動画である。
【0013】
複数の画像は、年齢の低い対象者であっても見続けられる観点から、3分間以下の動画であることが好ましく、2分30秒間以下の動画であることがより好ましく、2分間程度の動画であることがさらに好ましい。また、複数の画像は、予測の感度及び特異度を高める観点から、1分間以上の動画であることが好ましく、1分30秒以上の動画であることがより好ましく、2分間程度の動画であることがさらに好ましい。また、動画は複数の動画の組み合わせである。動画に含まれる各動画は、4秒間以上8秒間以下であることが好ましい。動画は、対象者の視線を検出することにより当該対象者が当該複数の画像の何れの領域を見ているのかを特定するための動画の前に、対象者の視線を正しく検出するための動画が含まれていてもよい。また、対象者の視線を検出することにより当該対象者が当該複数の画像の何れの領域を見ているのかを特定するための各動画の間に、対象者の注意を引き付けるための動画が含まれていてもよい。
【0014】
なお、本発明はこれに限定されず、複数の画像は、複数の静止画であっても、少なくとも1つの静止画と少なくとも1つの動画との組み合わせであってもよい。
【0015】
図2に示すように、画像101は、3つの人間の顔を含む領域1011と第1の幾何学的模様を含む領域1012とを含んでいる。画像102は、2つの人間の顔を含む領域1021と第2の幾何学的模様を含む領域1022とを含んでいる。画像103は、2つの人間の顔を含む領域1031と第3の幾何学的模様を含む領域1032とを含んでいる。画像104は、1つの人間の顔を含む領域1041と第4の幾何学的模様を含む領域1042とを含んでいる。
【0016】
第1の動画100は、人間の顔を含む第1の領域と、幾何学的模様を含む第2の領域と、当該人間の顔及び当該幾何学的模様を含まない第3の領域とを含んでいる。第3の領域は、つまり、当該人間の顔を含む領域及び当該幾何学的模様を含む領域以外の領域である。
【0017】
具体的には、
図2に示すように、画像101は、以下の領域1011~1013を含んでいる。
領域1011:第1の領域として3つの人間の顔を含む領域。
領域1012:第2の領域として第1の幾何学的模様を含む領域。
領域1013:第3の領域として当該3つの人間の顔及び当該第1の幾何学的模様を含まない領域。
【0018】
画像102は、以下の領域1021~1023を含んでいる。
領域1021:第1の領域として2つの人間の顔を含む領域。
領域1022:第2の領域として第2の幾何学的模様を含む領域。
領域1023:第3の領域として当該2つの人間の顔及び当該第2の幾何学的模様を含まない領域。
【0019】
画像103は、以下の領域1031~1033を含んでいる。
領域1031:第1の領域として2つの人間の顔を含む領域。
領域1032:第2の領域として第3の幾何学的模様を含む領域。
領域1033:第3の領域として当該2つの人間の顔及び当該第3の幾何学的模様を含まない領域。
【0020】
画像104は、以下の領域1041~1043を含んでいる。
領域1041:第1の領域として1つの人間の顔を含む領域。
領域1042:第2の領域として第4の幾何学的模様を含む領域。
領域1043:第3の領域として当該1つの人間の顔及び当該第4の幾何学的模様を含まない領域。
【0021】
割合算出ステップS12は、対象者が複数の画像毎の特定の領域を見た割合を算出するステップである。割合算出ステップS12では、対象者が第1の領域を見た第1の割合、第2の領域を見た第2の割合、及び第3の領域を見た第3の割合の少なくとも何れかを算出する。中でも、第2の割合を算出することが好ましい。なお、割合とは、時間の割合である。
【0022】
予測ステップS14は、割合算出ステップS12において算出した第1の割合、第2の割合、及び第3の割合の少なくとも何れかと、所定の閾値Th1とから、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測するステップである。
【0023】
所定の閾値Th1は、ROC(receiver operating characteristic)解析に基づいて決定することが好ましい。ROC解析は、最も優れている単一の指標を用いて、対象者が将来的に自閉スペクトラム症と診断される可能性があるか否かを予測することに最も適している感度及び特異度を見つける解析法である。最も優れている単一の指標は、t検定によってt値が最も高いものである。最も予測に適している感度及び特異度は、「(感度)+(特異度)-1」が最大となるもの(Youden Index)である。これは、感度及び特異度の両方のバランスを考慮したものである。所定の閾値Th1は、感度及び特異度の両方のバランスが重要と考える場合、ROC解析に基づくYouden Indexの値とすることが好ましい。
【0024】
また、予測ステップS14では、感度を特異度よりも優先して高くする場合と、特異度を感度よりも優先して高くする場合とで、所定の閾値Th1を異ならせてもよい。例えば、感度を特異度よりも優先して高くする場合、単一の指標の割合を用いてROC解析を行い、感度が十分高くなる値を所定の閾値Th1とすることが好ましい。感度が高いほど、対象者が将来的に自閉スペクトラム症と診断される可能性の見逃しを低減することができる。また、特異度を感度よりも優先して高くする場合、単一の指標の割合を用いてROC解析を行い、特異度が十分高くなる値を所定の閾値Th1とすることが好ましい。特異度が高いほど、将来的に自閉スペクトラム症であると診断されない対象者に対して、将来的に自閉スペクトラム症と診断される可能性があると誤って予測する確率を低減することができる。そのため、対象者の養育者に対して不安を与えなくてすむ。
【0025】
例えば、第1の割合と所定の閾値Th1とから、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する場合を一例として説明する。感度を特異度よりも優先して高くする場合(偽陰性が少なくなるような設定Aにおいて)、所定の閾値Th1を0.47以上、0.51以下とすることが好ましく、0.489とすることがより好ましい。特異度を感度よりも優先して高くする場合(偽陽性が少なくなるような設定Bにおいて)、所定の閾値Th1を0.42以上、0.46以下とすることが好ましく、0.439とすることがより好ましい。第1の割合が所定の閾値Th1よりも低い場合に、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があると予測する。
【0026】
また、第2の割合と所定の閾値Th1とから、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する場合を一例として説明する。感度を特異度よりも優先して高くする場合、所定の閾値Th1を0.17以上、0.21以下とすることが好ましく、0.189とすることがより好ましい。特異度を感度よりも優先して高くする場合、所定の閾値Th1を0.3以上、0.34以下とすることが好ましく、0.323とすることがより好ましい。第2の割合が所定の閾値Th1よりも高い場合に、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があると予測する。
【0027】
本発明の一態様に係る予測方法は、対象者は2歳以下である。本発明の一態様に係る予測方法は、従来の5歳以上を対象とした予測方法よりも、より早期に、将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測することができる。本発明の一態様に係る予測方法によって、早期に、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測することができることにより、早期に自閉スペクトラム症のための療育を開始することを促すことができる。療育の開始は早いほど効果的であるため、より早期に自閉スペクトラム症の全体的な症状を軽くすることができることが期待できる。
【0028】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0029】
図3は、本実施形態に係る予測方法を示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施形態に係る予測方法は、加重平均ステップS13を更に含んでいる以外は実施形態1に係る予測方法と同様である。
【0030】
図4は、視線検出装置が表示する複数の画像の一例を示す模式図である。複数の動画300(複数の画像)は、第1の動画100、及び第1の動画100とは異なる第2の動画200を含んでいる。第2の動画200は、画像201、画像202、及び画像203を含んでいる。画像201、画像202、及び画像203は、それぞれ画像101、画像102、画像103、及び画像104とは異なる。なお、画像201、画像202、及び画像203をそれぞれ第2の画像とも呼ぶ。第2の動画200は動画であり、画像201、画像202、及び画像203は動画の一コマを示している。
【0031】
図4に示すように、画像201は、人間の閉じた眼を含む領域2011と人間の閉じた口を含む領域2012とを含んでいる。画像202は、人間の開いた眼を含む領域2021と人間の開いた口を含む領域2022とを含んでいる。画像203は、人間の開いた眼を含む領域と人間の閉じた口を含む領域とを含んでいる。
【0032】
第2の動画200は、人間の眼を含む第4の領域と、人間の口を含む第5の領域と、当該人間の眼及び当該人間の口を含まない第6の領域とを含んでいる。第6の領域は、つまり、当該人間の眼を含む領域及び当該人間の口を含む領域以外の領域である。
【0033】
具体的には、
図4に示すように、画像201は、以下の領域2011~2013を含んでいる。
領域2011:第4の領域として人間の閉じた眼を含む領域。
領域2012:第5の領域として人間の閉じた口を含む領域。
領域2013:第6の領域として当該人間の閉じた眼及び当該人間の閉じた口を含まない領域。
【0034】
画像202は、以下の領域2021~2023を含んでいる。
領域2021:第4の領域として人間の開いた眼を含む領域。
領域2022:第5の領域として人間の開いた口を含む領域。
領域2023:第6の領域として当該人間の開いた眼及び当該人間の開いた口を含まない領域。
【0035】
画像203は、以下の領域2031~2033を含んでいる。
領域2031:第4の領域として人間の開いた眼を含む領域。
領域2032:第5の領域として人間の閉じた口を含む領域。
領域2033:第6の領域として当該人間の開いた眼及び当該人間の閉じた口を含まない領域。
【0036】
複数の動画300は、第1の動画100及び第2の動画200以外に、第1の動画100及び第2の動画200とは異なる動画を更に含んでいてもよい。例えば、複数の動画300は、点の動きを同調させて人間等の生き物のように見せる動画等を含んでいてもよい。
【0037】
割合算出ステップS12では、対象者が第4の領域を見た第4の割合、第5の領域を見た第5の割合、及び第6の領域を見た第6の割合の少なくとも何れかを更に算出する。中でも、第6の割合を算出することが好ましい。
【0038】
加重平均ステップS13は、第1の割合、第2の割合、及び第3の割合の少なくとも何れかと、第4の割合、第5の割合、及び第6の割合の少なくとも何れかと、に対して重み付けを行った重み付け線形和を用いて加重平均した値を算出するステップである。加重平均ステップS13では、第2の割合と、第6の割合と、に対して重み付けを行った重み付け線形和を用いて加重平均した値を算出することが好ましい。
【0039】
加重平均ステップS13では、第2の割合と、第6の割合に対して重み付けを行った重み付け線形和を用いて加重平均した値を算出する。これにより、感度を高く、かつ、特異度を高く、早期に、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測することができる。
【0040】
なお、加重平均ステップS13では、第2の割合の重み付け係数と、第6の割合の重み付け係数とを、統計解析ソフトウェアを用いたステップワイズ法によって算出してもよい。統計解析ソフトウェアとして、例えば、SPSS(登録商標)ver21(SPSS社製)を用いればよい。
【0041】
加重平均ステップS13では、第2の割合の重み付け係数は、0.38以上、0.45以下であることが好ましく、中でも0.417であることがより好ましい。また、第6の割合の重み付け係数は、0.95以上、0.99以下であることが好ましく、中でも0.971であることがより好ましい。第2の割合の重み付け係数及び第6の割合の重み付け係数が上記範囲であることにより、より感度を高く、かつ、より特異度を高く、早期に、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測することができる。
【0042】
予測ステップS14では、加重平均ステップS13で算出した値と、所定の閾値Th2とから、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する。
【0043】
所定の閾値Th2は、例えば0.8以上、1.2以下であることが好ましく、1であることがより好ましい。予測ステップS14では、以下の式(1)を満たすときに、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があると予測することが好ましい。また、式(1)を満たさないときに、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性がないと予測することが好ましい。
【0044】
0.417×(第2の割合)+0.971×(第6の割合)≧1 …(1)
これにより、より感度を高く、かつ、より特異度を高く、早期に、対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測することができる。
【0045】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0046】
図5は、本実施形態に係る予測装置の構成要素を示すブロック図である。
図5に示すように、本実施形態に係る予測装置1000は、データ取得部11、割合算出部12、加重平均部13、及び予測部14を備えている。
【0047】
データ取得部11は、対象者に複数の画像を表示し、当該対象者の視線を検出することにより当該対象者が当該複数の画像の何れの領域を見ているのかを特定する視線検出装置2000からの出力データを取得する。データ取得部11が取得するデータには、各時点において、複数の画像の何れの領域を当該対象者が見ているのかに関するデータが含まれている。データ取得部11は、データ取得ステップS11の処理を行う。処理の詳細は上記実施形態にて説明した通りである。
【0048】
割合算出部12は、上記対象者が上記複数の画像毎の特定の領域を見た割合を算出する。割合算出部12は、割合算出ステップS12の処理を行う。処理の詳細は上記実施形態にて説明した通りである。
【0049】
加重平均部13は、第1の割合、第2の割合、及び第3の割合の少なくとも何れかと、第4の割合、第5の割合、及び第6の割合の少なくとも何れかと、に対して重み付けを行った重み付け線形和を用いて加重平均した値を算出する。加重平均部13は、加重平均ステップS13の処理を行う。処理の詳細は上記実施形態にて説明した通りである。
【0050】
予測部14は、上記割合と、所定の閾値Th1とから、上記対象者が将来的に自閉スペクトラム症であると診断される可能性があるか否かを予測する。予測部14は、予測ステップS14の処理を行う。処理の詳細は上記実施形態にて説明した通りである。
【0051】
〔ソフトウェアによる実現例〕
予測装置1000の制御ブロック(データ取得部11、割合算出部12、加重平均部13、及び予測部14)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0052】
後者の場合、予測装置1000は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0053】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0054】
1歳6か月児健診において発達上の問題を呈した幼児を対象に、ASDのスクリーニングに関するコホート調査を実施した。
【0055】
〔対象群〕
対象は、日本国内のある地域にて1歳6か月児健診を受けた2482名のうち、言葉の遅れ、視線の合いにくさ、著しい多動、顕著な怖れにより2歳での二次健診を受診した126名のうち、本研究への参加に同意した116名とした。研究デザインはコホート研究とした。
【0056】
〔対照群〕
対照群は、定型発達の2歳児127名である。本実施例では2歳でK式発達検査を実施し、発達指数(Developmental Quotient; DQ)70未満となる明らかな遅れはないこと、及び4歳までの健康に関する質問紙にて明らかな発達上の問題はないことを確認済である。また、2歳の時点で以下に説明する選好性注視点定量計測装置による注視点計測を実施した。
【0057】
〔方法〕
(2歳及び5歳における視覚選好性検査)
対象者の2歳及び5歳における視覚選好性検査を行った。視覚選好性検査は、選好性注視点定量計測装置(Gaze Finder;JVC KENWOOD社製、以下GFとも称する)を用いて、注視点(視線)の計測を測定することにより行った。対象者は、2歳の時点では養育者に抱っこをされた状態で検査を受けた。GFは、対象者が2分間モニターを見つめることで、注視点を自動的に検出し、画面上で好んで見る映像を分析できる装置である。視覚選好性検査は、2歳及び5歳の時点で行った。
図6は、視覚選好性検査に用いた動画を示す模式図である。
図7は、当該動画の呼称名、意義、及び時間を示す表である。
【0058】
(5歳時点での診断)
5歳で小児神経科医による診察をして、国際疾病分類第10版(ICD-10)に基づいてASDの有無について診断を行い、ASDと非ASDとに分類した。
【0059】
さらに、ICD-10に基づく診断においてASDに分類された小児に対して、5歳での言語発達及び認知発達の状態を知るために、単語の定義の検査、及びじゃんけんの勝ち負けの検査を行った。単語の定義の検査は、DENVER II デンバー発達判定法を参照とした。単語の定義の検査は、5つの単語について定義付けできるか否かを検査した。単語の定義ができた数が5つであった小児は、じゃんけんの勝ち負けの検査に依らず、言語発達に遅れのないASD(以下ASD2群)に分類した。単語の定義ができた数が、3つ以下であった小児は、じゃんけんの勝ち負けの検査に依らず、言語発達に遅れがあるASD(以下ASD1群)に分類した。単語の定義ができた数が4つであった小児の中で、じゃんけんの勝ち負けが分かった小児はASD2群に分類し、じゃんけんの勝ち負けが分からなかった小児はASD1群に分類した。
【0060】
〔結果〕
対象者116名のうち5歳での診察に参加したのは94名(81.0%)であった。ICD-10によるASDの基準を満たしたのは20名で、ASD1群は7名、ASD2群は13名であった。74名が非ASDであった。非ASDのうち、定型発達児は35名、ADHDと判断された幼児が12名、ASDはなく言語発達に明らかな遅れがある幼児が19名、場面緘黙と判断された幼児が8名であった。
【0061】
視覚選好性検査については、GFのデータ取得率が0.6以上の場合に解析の対象とした。なお、データの取得率とは、動画再生の総時間に対する、動画への視線を検出できた時間の割合である。5歳での診察に参加した94名中85名が解析の対象に該当し、内訳はASD1群が7名、ASD2群が11名、非ASD群67名であった。GFによる視覚選好性検査の実施成功率は90.4%であった。対照群ではデータ取得率が0.6以上であったのは114名であり、実施成功率は89.8%であった。ASDの診断はICD-10に基づいて行った。診察には5歳児健診の診察項目を行い、その基準に従って判定した。
【0062】
〔1.対象群内での検討〕
(1)一元配置分散分析
まず、対象児群内でASD1群、ASD2群、非ASD群の3群に分けて一元配置分散分析を行った。人物と幾何学図形の画像で非ASD群がASD2群よりも人物を好んで見るという結果であった(p<0.01)。逆にASD2群が非ASD群よりも幾何学図形を好んで見るという結果であった(p<0.001)。共同注視を意図した動画にて、共同注視すべき画像以外を見ていた割合が、ASD2群では非ASD群よりも多い(p<0.05)という結果であった。ASD1群では、他の2群との間に有意差がある動画は一つもなかった。
【0063】
(2)ROC解析
対象群の中でASD2群をアウトカムとしたROC解析を行った。
図8Aは、
図6及び
図7に示す動画1、2、7、8における人間の顔を含む領域を見た割合についてのROC曲線を示すグラフである。
図8Bは、実施例(対象群内)において、
図6及び
図7に示す動画1、2、7、8における幾何学的模様を含む領域を見た割合についてのROC曲線を示すグラフである。
図9Aは、
図6及び
図7に示す動画1、2、7、8における人間の顔を含む領域を見た割合についてのROC曲線を示すグラフである。
図9Bは、実施例(対照群を含む)において、
図6及び
図7に示す動画1、2、7、8における人間の顔を含む領域を見た割合についてのROC曲線を示すグラフである。
【0064】
対象群について、AUC(area under the curve)が0.8以上であったのは、人間の顔及び幾何学的模様を含む動画1、2、7、8(呼称名:好みA~D)における人間の顔を見た割合(AUC=0.827)及び幾何学的模様を見た割合(AUC=0.807)であった。人間の顔を見た割合(好み1)を指標として偽陰性が少なくなるような(感度を特異度よりも優先して高くする)設定Aにおいて、動画1、2、7、8における人間の顔を見た割合が閾値0.439よりも低いとASDであると予測し、感度は81.8%(11名中9名が的中)、特異度は85.1%(67名中57名が的中)であった。人間の顔を見た割合(好み1)を指標として偽陽性が少なくなるような(特異度を感度よりも優先して高くする)設定Bにおいて、動画1、2、7、8における人間の顔を見た割合が閾値0.398よりも低いとASDであると予測し、感度は72.7%(11名中9が的中)、特異度は89.4%(67名中60名が的中)であった。
【0065】
幾何学的模様を見た割合(好み2)を指標として偽陰性が少なくなるような設定Aにおいて、動画1、2、7、8における幾何学的模様を見た割合が閾値0.189よりも高いとASDであると予測し、感度は81.8%(11名中9名が的中)、特異度は73.1%(67名中49名が的中)であった。幾何学的模様を見た割合(好み2)を指標として偽陽性が少なくなるような設定Bにおいて、動画1、2、7、8における幾何学的模様を見た割合が閾値0.323よりも高いとASDであると予測し、感度は72.7%(11名中8名が的中)、特異度は92.5%(67名中62名が的中)であった。
【0066】
(3)判別分析
ステップワイズ法にてASDの各群と非ASD群の判別分析を行った。統計解析ソフトウェアとして、SPSS ver21を用いた。ASD1群と非ASD群の判別率は67.6%で、ASD1群の正判別率は57.1%、非ASD群の正判別率は68.7%であった。判別に使われた指標は、動画4及び動画10における全く無関係な領域を見る割合であった。動画4における全く無関係な領域は、人間、果物、及び図形を含まない領域である。動画10における全く無関係な領域は、人間、図形、及び動物を含まない領域である。
【0067】
ASD2群と非ASD群の判別率は88.5%で、ASD2群の正判別率は72.7%、非ASD群の正判別率は91.0%であった。判別に用いられた指標は、動画1、2、7、8における幾何学的模様を見た割合であった。
【0068】
〔2.対照群との比較〕
(1)一元配置分散分析
対象群に対照群(114名)を加えて一元配置分散分析を行ったところ、人間の顔及び幾何学的模様を含む動画1、2、7、8において、非ASD群と対照群がASD2群よりも人間の顔を好んで見るという結果であった(p<0.01)。逆にASD2群が非ASD群と対照群よりも幾何学的模様を好んで見るという結果であった(p<0.01)。そのほかには有意差は認められなかった。
【0069】
(2)ROC解析
ASD2群と対照群からASD2群をアウトカムとしたROC解析を行った。AUCが0.8以上であったのは、動画1、2、7、8における人間の顔を見る割合(AUC=0.827)、及び幾何学的模様を見る割合(AUC=0.809)の2つであった。
【0070】
対照群について、AUCが0.8以上であったのは、人間の顔及び幾何学的模様を含む動画1、2、7、8(呼称名:好みA~D)における人間の顔を見た割合(AUC=0.831)及び幾何学的模様を見た割合(AUC=0.825)であった。人間の顔を見た割合(好み1)を指標として偽陰性が少なくなるような(感度を特異度よりも優先して高くする)設定Aにおいて、動画1、2、7、8における人間の顔を見た割合が閾値0.439よりも低いとASDであると予測し、感度は81.8%(11名中9名が的中)、特異度は85.1%(114名中97名が的中)であった。人間の顔を見た割合(好み1)を指標として偽陽性が少なくなるような(特異度を感度よりも優先して高くする)設定Bにおいて、動画1、2、7、8における人間の顔を見た割合が閾値0.489よりも低いとASDであると予測し、感度は90.9%(11名中10名が的中)、特異度は77.2%(114名中88名が的中)であった。
【0071】
幾何学的模様を見た割合(好み2)を指標として偽陰性が少なくなるような設定Aにおいて、動画1、2、7、8における幾何学的模様を見た割合が閾値0.193よりも高いとASDであると予測し、感度は81.8%(11名中9名が的中)、特異度は72.8%(114名中83名が的中)であった。幾何学的模様を見た割合(好み2)を指標として偽陽性が少なくなるような設定Bにおいて、動画1、2、7、8における幾何学的模様を見た割合が閾値0.323よりも高いとASDであると予測し、感度は72.7%(11名中8名が的中)、特異度は93.9%(114名中107名が的中)であった。
【0072】
(3)判別分析
ステップワイズ法にてASD2群と対照群の判別分析を行った。判別分析には、上述した式(1)を用いた。
図10は、
図6及び
図7に示す動画1、2、7、8における幾何学的模様を含む領域を見た割合と、
図6及び
図7に示す動画3-2における人間の眼及び人間の口を含まない領域を見た割合と、についての判別分析の結果を示す表である。ASD2群と対照群の判別率は87.2%で、ASD2群の正判別率は90.9%、対照群の正判別率は86.8%であった。判別に用いられた指標は人物画と幾何学模様の動画における幾何学模様を見る割合と人物の顔画像において無関係な領域を見ている割合の組み合わせであった。
【0073】
〔考察〕
1.GFの実行性について
GFによる注視点計測は、1歳6か月児健診で発達上や成長上に問題がある群でも、対象群でも約90%と高く、2歳という年齢において十分の実施可能な検査であると考えられた。実施にかかる時間も2分間程度であり、十分な実用性を備えている検査であると考えられる。
【0074】
2.視覚選好性について
GFには人物対幾何学図形という設定以外に、共同注視の成立を見る画像や人物の顔の眼と口のどちらを好んで注視するかなどを調べる画像が設定してある。本研究の結果では、人物対幾何学図形において、ASD2群が幾何学図形を好んで見ること、逆に非ASD群や対照群では人を好んで見ることが示された。これらの所見は先行研究と一致する知見であった。
【0075】
一方で、ASD1群では、非ASD群および対照群ともに、いずれの画像においても有意差がなかったことより、幾何学図形を好んで見るという特性は、ASD2群に限定した特有の行動である可能性が示された。先行研究ではいずれも発達が良好なASDを対象としているため、発達に明らかな遅れがあるASDについての知見はないが、これは知的な遅れのあるASDでは、検査の実施が困難であることが多いためと考えられる。GFは発達に遅れがあるASDの2歳児でも検査が実施できており、それゆえ新しく得られた知見であると考えられる。
【0076】
3.スクリーニングとしての有用性
上述したように、ASD2群のスクリーニングの感度は、非ASD群に対して81.8%と良好であった。これは1歳6か月児健診で発達上での問題を指摘された2歳児の二次健診においてGFによる視覚選好性を調べることで、早期にスクリーニングが可能であることを示している。また対照群に対しても感度は81.8%であった。対照群は、エコチル調査に参加している幼児で地域住民をベースとした集団であることより、1歳6か月児健診でGFによる視覚選好性を調べてもスクリーニングが可能であると考えられる。一方で特異度は非ASD群に対しては73.1%であり、対照群に対しては85.1%であった。このことより、発達上の問題を指摘された2歳児の二次健診ではやや偽陽性が多く、1歳6か月児健診でGFを実施したほうが偽陽性は少ないであろうと推測される。ただ、非ASD群に対しても偽陽性が少なくなる設定は可能で、感度は72.7%と低下するが、特異度は92.5%と高く設定することが可能である。このため、これらを組み合わせた判定方法が望ましい。
【0077】
これまで言語発達に遅れのないASD幼児をスクリーニングすることは困難であるとされているが、本研究の結果が示したように、ハイリスクの2歳児に対して、視覚選好性注視点計測を行うことで早期に気づく道筋が得られたと考えられる。
【0078】
4.脳機能との関係
ASDで言語発達に遅れのない小児では、顔の認知に対する脳の反応低下が報告されている。本研究でもASD2群では、顔への反応が不良で、それを応用することで高精度にスクリーニングすることが可能であるという結果が得られた。これは小児期におけるASDの右紡錘状回の顔認知への反応が低いという所見を支持するものであり、脳の反応低下というバイオマーカーの候補と言えると考えられる。