(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160031
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】船舶の位置推定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/02 20060101AFI20221012BHJP
G08G 3/00 20060101ALI20221012BHJP
G01S 5/04 20060101ALI20221012BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G01S13/02
G08G3/00 A
G01S5/04
G01S7/02 218
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064515
(22)【出願日】2021-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新井 栄
【テーマコード(参考)】
5H181
5J062
5J070
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181BB04
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF07
5J062AA07
5J062BB02
5J062CC14
5J062FF01
5J070AA02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AC15
5J070AD09
5J070AE02
5J070AE07
5J070AF01
5J070AH25
5J070AK23
5J070BA01
5J070BB02
5J070BB05
5J070BB07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】AISを搭載していない漁船との衝突事故が起きた際や、他船が航路上に当該漁船がいないかどうかを判断する際等、当該漁船の位置情報が必要な場合に、AISを搭載していない船舶の海洋上での位置を推定する。
【解決手段】AISを搭載していない船舶が海洋を漂流している場合の当該船舶の位置情報を取得する船舶位置推定装置において、当該船舶が発する緊急信号を受信し到来方向を推定する複数のレーダ受信部と、海面に電波を発し海面からの反射波から当該海面の表層流の速度と方向を推定する複数のレーダ送受信部と、前記レーダ受信部が推定する船舶の位置情報と前記レーダ送受信部が推定する表層流の速度と方向から、任意の時刻での前記船舶の位置を推定する中央局からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋を漂流するAISを搭載していない船舶の位置情報を取得する装置において、
当該船舶が発する緊急信号を受信し到来方向を推定するレーダ受信部と、
海面の移動を表層流と呼ぶ場合に海面に電波を発し海面からの反射波から表層流の速度と方向を推定するレーダ送受信部と、
前記レーダ受信部が推定する船舶の位置情報と前記レーダ送受信部が推定する表層流の速度と方向から任意の時刻での前記船舶の位置を推定する中央局と、
からなる船舶位置推定装置。
【請求項2】
前記レーダ受信部は、
前記船舶からの信号到来方向を推定するレーダ装置を複数有することで、ベクトル合成法などの幾何学的手法により当該船舶の位置を推定することが出来ることを特徴とする、
請求項1に記載の船舶位置推定装置。
【請求項3】
前記レーダ送受信部は、
前記表層流の速度と方向におけるレーダアンテナ方向の成分を推定し、当該レーダアンテナを複数有することで、ベクトル合成法などの幾何学的手法により当該海面の表層流の速度と方向を推定出来ることを特徴とする、
請求項1に記載の船舶位置推定装置。
【請求項4】
前記中央局は、
前記船舶の位置を推定する複数のレーダ受信部と、前記海面の表層流の速度と方向を推定する複数のレーダ送受信部からなることを特徴とする、
請求項1乃至請求項3に記載の船舶位置推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
海洋上においては今に至ってもAIS(Automatic Identification System: 船舶自動識別装置)や簡易型AISを搭載していない小型船舶が多く、航行不能に陥り緊急事態になった当該小型船舶の位置情報を他船や地上から把握するのが困難な状況である。
【0002】
本発明はこのようなAISを搭載していない船舶の位置情報を第三者が客観的に知ることができるようにするものであり、安全航行や海難救助に資することを目的とするものである。
【背景技術】
【0003】
船舶の安全航行を管理するための従来技術の一つとして、特許文献2に開示された船舶航行監視システムがある。このシステムは、GPSを用い、座礁等によって安全航行が出来なくなった船舶の位置情報を、衛星通信を用いて陸上の監視局に発信し、監視局に備えられたモニターに各船舶の位置を表示するという技術により、複数の船舶の安全航行を一元的に管理することができるとされている。
【0004】
また、別の従来技術として、特許文献1に開示された船舶運航監視システムがある。このシステムは、特にAISや簡易AISを搭載していない船舶を想定し、当該船舶がインターネット接続をする場合に、その接続情報から第三者が当該船舶の位置を知るという技術である。
【0005】
また、内海や沿岸であれば携帯電話網の利用が可能であるため、船舶から当該携帯電話網を利用することによって紐づけられる発信者情報や受信者情報を用いて、第三者が当該船舶の位置情報を取得する技術も研究されている。
【0006】
さらに、船舶搭乗者のスマートホンに搭載されたGPS機能を利用することで当該スマートホンの位置を海域地図に示すモバイル端末向けアプリケーションの開発も進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-163765
【特許文献2】特開2000-182199
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
操業中の漁船は通信活動が滞ることがあり、現状においては操業中の漁船の位置が正確に把握されていないというのが実情である。また漁民の多くは自営業者であるということも関係して、一般に自船の位置など操業に関する情報はできるだけ秘匿して活動したいという傾向もあり、当該自営業者による漁船においては、漁業協同組合に対し必要最小限の情報しか提供しないという実情もある。
【0009】
しかるに、衝突事故が起きた際の位置情報、他船が航路上に漁船がいないかどうかの判断を要する場合の位置情報、自動運航する場合の情報収集等、前記漁船の位置情報が必要になる場合はますます増加しており、AISを搭載していないからといって位置情報が第三者に全く知らされないというのは危険な状況である。
【0010】
このようなAISを搭載していない漁船の位置情報取得方法として、前記に示したようなインターネット通信や携帯電話網を使った通信の発着信者情報を利用する手段も研究されているが、前者は通信速度の遅さから、また後者は内海に限定されるなど、利用に際しては問題が多い。
【0011】
また、スマートホンのアプリケーションを使った位置情報表示に関しても、通信エリア外であれば機能しない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
海洋を漂流するAISを搭載していない船舶の位置情報を取得する装置において、当該船舶が発する緊急信号を受信し到来方向を推定するレーダ受信部と、海面の移動を表層流と呼ぶ場合に、海面に電波を発し海面からの反射波から表層流の速度と方向を推定するレーダ送受信部と、前記レーダ受信部が推定する船舶の位置情報と前記レーダ送受信部が推定する表層流の速度と方向から任意の時刻での前記船舶の位置を推定する中央局と、からなる船舶位置推定装置とする。
【0013】
前記レーダ受信部は、前記船舶からの信号到来方向を推定するレーダ装置を複数有することで、ベクトル合成法などの幾何学的手法により当該船舶の位置を推定することが出来ることを特徴とする、船舶位置推定装置とする。
【0014】
前記レーダ送受信部は、前記表層流の速度と方向におけるレーダアンテナ方向の成分を推定し、当該レーダアンテナを複数有することで、ベクトル合成法などの幾何学的手法により当該海面の表層流の速度と方向を推定出来ることを特徴とする、船舶位置推定装置とする。
【0015】
前記中央局は、前記船舶の位置を推定する複数のレーダ受信部と、前記海面の表層流の速度と方向を推定する複数のレーダ送受信部と、からなることを特徴とする船舶位置推定装置とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1によれば、AISを搭載していない船舶がエンジンの停止や航行不能状態に陥り緊急救助信号を発した際に、任意の時刻における当該船舶の位置を推定することが可能になる。
【0017】
本発明の請求項2によれば、前記緊急救助信号を発した際の前記船舶の位置を推定することが可能になる。
【0018】
本発明の請求項3によれば、海面の表層流の方向と速度を推定することが可能になる。
【0019】
本発明の請求項4によれば、前記緊急救助信号を発した際の前記船舶の推定位置と、前記海面の表層流の方向と速度の推定により、任意の時刻での船舶の位置を推定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例0022】
図1は本発明の全体模式図である。船舶101は無線信号による救助信号を発出している小型漁船等である。本発明は当該船舶101の位置情報を推定することを目的とするものである。従って当該船舶101がAISを搭載し、正常に動作している場合は、送信するAIS情報に位置情報が含まれるため発明の対象とはならない。
【0023】
アンテナ103とアンテナ107は前記救助信号を受信し、それぞれ信号処理部105、109により当該救助信号の到来方向を算出する。なお、1つのアンテナの受信信号から到来方向を算出する信号処理は固有値解析によるMUSIC法や適応的に指向性制御するDBF法、アレーアンテナのメインローブを走査して電力最大方向を探索するビームフォーマ法等が知られているが、これらは既知な一般的手段であるので説明を省略する。
【0024】
ただし当該各種の既知の手段によれば、到来方向は推定できるものの、座標を得ることはできない。本発明によれば、アンテナ103、107の受信信号は信号処理部105、109に伝送され、前記のような既知の手段で到来方向を推定したら、当該推定方向を中央局111に伝送し、中央局111において前記2つの到来方向の交点を幾何学的に算出し、船舶101の位置座標を得ることが出来る。
【0025】
前記のように無線救助信号を発出している船舶101の位置情報を2個のアンテナ103と107の無線信号到来方向推定により中央局111にて特定出来るが、実際の海洋においては表層流と呼ばれる海面の流れが存在するため、当該船舶101は当該表層流に乗って水面上を漂流することになる。次に当該船舶の漂流への対処について説明する。
【0026】
海洋レーダ113は一例として海面で電波を反射しやすいHFレーダの送受信を行っている。当該海洋レーダは海面に向けて電波を放射し、当該海面にて反射した放射波を受信するが、その際、表層流に基づくドップラー効果によって反射前の周波数と反射後の周波数では変動が生じるため、送信波と受信波の周波数の差から表層流の移動速度を知ることができる。つまり周波数の差から波長の差が一意に求まり、海面の単位時間あたりの移動量、つまり速度が求まるのである。
【0027】
図1では簡単のために海洋レーダを1基のみ表示しているが、実際の動作においては2基以上の海洋レーダによって表層流の速度と方向を調べるものである。つまり1基の海洋レーダでは船舶から見て当該海洋レーダ方向の成分の移動速度が判明するのみであるが、複数の海洋レーダを用いることによって、ベクトル合成法などの幾何学的手法により海面の移動方位が定まるのである。
【0028】
緊急救助信号を送信している船舶101はアンテナ103、107が当該信号を受信してから一定時間後には前記表層流により海上を漂流しているため、位置の補正が必要になる。つまり、前記海洋レーダの送受信波の周波数差を中央局111に伝送し、既に推定している船舶101の位置に対して前記漂流量を推定し、位置を補正するのである。なお、当該補正をするための計算は中央局で行うに限定するものではなく、海洋レーダに演算部を併設し、そこで処理しても良い。
【0029】
次にフローチャート図を参照しながら処理フローを説明する。
図2は位置推定に関する処理フローである。船舶が発した緊急信号を2つのアンテナ部が受信し、それぞれのアンテナの信号処理部が前記のようにMUSIC法やDBF法などによって当該緊急信号の発生源の方位を特定する。
【0030】
この方位情報を中央局の発信源位置推定部に伝送し、ベクトル合成法、つまり、幾何学的に2つの方位の交点を算出することで前記緊急信号の発生源の位置座標を得ることが出来る。なお、信号処理部はアンテナに併設されているとして説明したが、これを中央局に置いてもかまわない。
【0031】
図3は表層流を解析する処理フローである。観測局の海洋レーダは一般に水深50cmほどで電波の反射をするHFレーダが用いられることが多いが、本発明においてはレーダの種類については特定するものではない。
【0032】
前記海洋レーダが電波を放射し、海面で反射した反射波を受信することで表層流の速度と方向のレーダアンテナ方向の成分を観測することが出来るが、当該レーダを2基用いることにより、前記各アンテナ方向の表層流の速度と方向の成分が求まり、これにベクトル合成法などの幾何学的解析をすることにより表層流の速度の方向を決定することが出来る。実際にはレーダの分解能や表示方法などの影響により、一定間隔のメッシュ状に表層流の方向と速度を得る場合が多い。
【0033】
図4は本発明にかかる緊急信号発信源の位置特定にあたり表層流の影響を考慮した場合の処理フローである。
図2の処理フローに示した方法で緊急信号発信源であるところの船舶が情報発信した時刻での位置を推定し、
図3の処理フローに示した方法で表層流の速度と方向を推定し、漂流する船舶がこの表層流によって移動をするものとし、中央局において任意の時刻での船舶の位置を推定する。
【0034】
図5はここまで説明したことを一枚の図にまとめたものである。
【0035】
海洋上でAISを搭載していない船舶521が座礁しているものとする。当該船舶は例えばVHF帯などの緊急救難信号509、511を発している。レーダアンテナ501、503は当該信号を受信し、演算処理部にてMUSIC法やDBF法といった既知の手段により当該信号の発信源方向をそれぞれ計算する。
【0036】
前記2つのアンテナが得た発信源方向情報を中央局527に伝送し、当該中央局にてベクトル合成法、つまり、幾何学的手段であるところの2つの方位の交点を求める手段により船舶521の位置を推定する。なお、レーダアンテナの演算処理部を中央局内においてもかまわない。
【0037】
一方、例えばHF帯などのレーダ送受信機505、507はそれぞれ513、515の範囲、517、519の範囲にレーダを送信し、海面にて当該送信波が反射され、再びレーダ送受信機505、507で当該反射波を受信する。ここで海面とは、例えばHF帯であれば水深50cmほどであり、周波数によって深度は変動する。
【0038】
海面は表層流と呼ばれる移動をしており、前記反射波は当該表層流によりドップラー効果を受け、送信波に比べて周波数が変動する。このドップラー効果の量により前記表層流のレーダアンテナ方向成分の速度がわかり、当該レーダアンテナを2機用いることにより中央局527にて前記ベクトル合成法などの幾何学的手段により当該表層流の速度と方向を計算することができる。
【0039】
なお、表層流の速度と方向は、2つのレーダ送受信機の送信範囲に挟まれた閉じた領域525の内部をメッシュ状にした範囲の分解能で得るのが一般的である。
【0040】
前記緊急救難信号を発した漂流している船舶521は、当該信号を発してから一定時間後には前記表層流により523の位置に移動していることになる。海面の流れと速度は前記のような処理により既知のものとなっているため、中央局527は任意の時刻での船舶の位置を推定することが出来る。
【0041】
本発明は前記のように、船舶の緊急救難信号を受信する複数のレーダアンテナによる発信源の位置推定と、ドップラー効果による反射波の周波数変動を測定する複数の送受信レーダによる表層流の速度と方向の推定をすることで、AISを搭載していない船舶の任意の時刻における位置を推定する装置に関するものである。