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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160036
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】船舶の航行システム
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/21 20060101AFI20221012BHJP
   B63H 25/04 20060101ALI20221012BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B63H21/21
B63H25/04 H
B63H25/42 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064528
(22)【出願日】2021-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】石坂 仁
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 光男
(57)【要約】
【課題】船舶航行の安全性を向上させる船舶の航行システムを提供する。
【解決手段】船舶10は、船体12の左側に設けられた左側スクリュープロペラ14Aと、左側スクリュープロペラ14Aを回転させる左側エンジン13Aと、船体12の右側に設けられた右側スクリュープロペラ14Aと、右側スクリュープロペラ14Aを回転させる右側エンジン13Bと、船体12の移動方向を調整する舵機構であるラダー15および転舵アクチュエータ16とを備える。船舶10を制御する制御部は、舵機構の故障を検出する故障検出部560と、舵機構の故障が検出された場合、船体12が所望の方向に移動するように左右のエンジン13A、13Bの出力をそれぞれ調整するとともに、左右のスクリュープロペラ14A、14Bの回転方向をそれぞれ調整する移動制御部564とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の左側に設けられた第1のスクリュープロペラと、前記第1のスクリュープロペラを回転させる第1の駆動部と、前記船体の右側に設けられた第2のスクリュープロペラと、前記第2のスクリュープロペラを回転させる第2の駆動部と、前記船体の移動方向を調整する舵機構と、を備える船舶の航行システムであって、
前記舵機構の故障を検出する故障検出部と、
前記舵機構の故障が検出された場合、前記船体が所望の方向に移動するように前記第1の駆動部および前記第2の駆動部の出力をそれぞれ調整するとともに、前記第1のスクリュープロペラおよび前記第2のスクリュープロペラの回転方向をそれぞれ調整する移動制御部と、
を備えることを特徴とする船舶の航行システム。
【請求項2】
前記移動制御部は、前記船体が直進するように前記第1の駆動部および前記第2の駆動部の通常時出力それぞれ決定し、前記船体を左右いずれかに旋回させる際は、前記第1の駆動部または前記第2の駆動部のいずれかの出力を前記通常時出力から増減させる、
ことを特徴とする請求項1記載の船舶の航行システム。
【請求項3】
前記移動制御部は、前記船体を左右いずれかに旋回させる際は、前記通常時出力の小さい側の駆動部の出力を増減させる、
ことを特徴とする請求項2記載の船舶の航行システム。
【請求項4】
前記移動制御部は、前記通常時出力を前記駆動部の最大出力の50%以下に設定する、
ことを特徴とする請求項2または3記載の船舶の航行システム。
【請求項5】
前記船体の進行方向前方に位置する障害物を検出する障害物検出部を更に備え、
前記移動制御部は、前記船体の進行方向前方に前記障害物が検出された場合、前記第1のスクリュープロペラおよび前記第2のスクリュープロペラを前進時と逆方向に回転させ、前記船体と前記障害物との距離が所定距離以上となった後に前記障害物を迂回するように前記船体を移動させる、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の船舶の航行システム。
【請求項6】
前記舵機構は、前記第1のスクリュープロペラおよび前記第2のスクリュープロペラの向きを前記船体に対して揺動させることによって前記船体の移動方向を調整し、
前記移動制御部は、前記第1のスクリュープロペラまたは前記第2のスクリュープロペラのいずれかが移動できなくなる故障が検出された場合、故障した側のスクリュープロペラを回転させる駆動部を停止させ、故障していない側のスクリュープロペラおよび駆動部のみを用いて前記船体を移動させる、
ことを特徴とする請求項1記載の船舶の航行システム。
【請求項7】
前記船舶は、
操縦者によって操作される前記船舶の航行を行なうための複数の操作部材をそれぞれ操作する複数のアクチュエータと、
遠隔操作司令情報を受信する船舶側通信部と、
前記船舶側通信部で受信された前記遠隔操作司令情報に基づいて前記複数のアクチュエータをそれぞれ操作する操作部材制御部と、を更に備え、
前記複数のアクチュエータは、操船席に着座した前記操縦者による前記操作部材の手動操作を妨げない箇所に設けられ、
前記操作部材制御部は、前記遠隔操作司令情報に基づいて前記複数のアクチュエータをそれぞれ制御して前記複数の操作部材をそれぞれ操作する遠隔操作モードと、前記複数の操作部材の前記操縦者による手動操作をそれぞれ可能とする手動操作モードとに選択可能に構成されている、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項船舶の航行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の航行システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶は内燃機関(エンジン)や電動機(モータ)などの駆動部によりスクリューを回転させて船体を推進させるとともに、船尾に設けられた舵部材(ラダー)またはスクリューの向きを調整することにより船体の進行方向を変更している。
例えば、下記特許文献1には、内燃機関を動力源とする推進器と、電動モータを動力源とする推進器とを併用する船舶推進システム及び船舶が開示されている。船舶推進システムは、内燃機関の動力をスクリューに伝達する第1動力伝達装置と、電動モータの動力をスクリューに伝達し、第1動力伝達装置とは独立して上下回動可能に船体に取り付けられる第2動力伝達装置と、第2動力伝達装置を上下回動するためのアクチュエータと、制御装置とを備える。制御装置は、内燃機関を駆動し且つ電動モータを駆動しない第1駆動モードと、内燃機関を駆動せず且つ電動モータを駆動する第2駆動モードとを選択可能に構成されており、第1駆動モードが選択された場合に、第2動力伝達装置が上方に回動するようにアクチュエータを作動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-199148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、何らかの原因により舵部材またはスクリューの向きの調整ができなくなった場合、すなわち舵機構が故障した場合、船体の進行方向がコントロールできなくなり、船舶の航行に支障が生じる。よって、船舶の舵機構が故障した際に備えた構成を設けるのが望ましい。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、船舶航行の安全性を向上させるための船舶の航行システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、船体の左側に設けられた第1のスクリュープロペラと、前記第1のスクリュープロペラを回転させる第1の駆動部と、前記船体の右側に設けられた第2のスクリュープロペラと、前記第2のスクリュープロペラを回転させる第2の駆動部と、前記船体の移動方向を調整する舵機構と、を備える船舶の航行システムであって、前記舵機構の故障を検出する故障検出部と、前記舵機構の故障が検出された場合、前記船体が所望の方向に移動するように前記第1の駆動部および前記第2の駆動部の出力をそれぞれ調整するとともに、前記第1のスクリュープロペラおよび前記第2のスクリュープロペラの回転方向をそれぞれ調整する移動制御部と、を備えることを特徴とする。
本発明の一実施形態は、前記移動制御部は、前記船体が直進するように前記第1の駆動部および前記第2の駆動部の通常時出力それぞれ決定し、前記船体を左右いずれかに旋回させる際は、前記第1の駆動部または前記第2の駆動部のいずれかの出力を前記通常時出力から増減させる、ことを特徴とする。
本発明の一実施形態は、前記移動制御部は、前記船体を左右いずれかに旋回させる際は、前記通常時出力の小さい側の駆動部の出力を増減させる、ことを特徴とする。
本発明の一実施形態は、前記移動制御部は、前記通常時出力を前記駆動部の最大出力の50%以下に設定する、ことを特徴とする。
本発明の一実施形態は、前記船体の進行方向前方に位置する障害物を検出する障害物検出部を更に備え、前記移動制御部は、前記船体の進行方向前方に前記障害物が検出された場合、前記第1のスクリュープロペラおよび前記第2のスクリュープロペラを前進時と逆方向に回転させ、前記船体と前記障害物との距離が所定距離以上となった後に前記障害物を迂回するように前記船体を移動させる、ことを特徴とする。
本発明の一実施形態は、前記舵機構は、前記第1のスクリュープロペラおよび前記第2のスクリュープロペラの向きを前記船体に対して揺動させることによって前記船体の移動方向を調整し、前記移動制御部は、前記第1のスクリュープロペラまたは前記第2のスクリュープロペラのいずれかが移動できなくなる故障が検出された場合、故障した側のスクリュープロペラを回転させる駆動部を停止させ、故障していない側のスクリュープロペラおよび駆動部のみを用いて前記船体を移動させる、ことを特徴とする。
本発明の一実施形態は、前記船舶は、操縦者によって操作される前記船舶の航行を行なうための複数の操作部材をそれぞれ操作する複数のアクチュエータと、遠隔操作司令情報を受信する船舶側通信部と、前記船舶側通信部で受信された前記遠隔操作司令情報に基づいて前記複数のアクチュエータをそれぞれ操作する操作部材制御部と、を更に備え、前記複数のアクチュエータは、操船席に着座した前記操縦者による前記操作部材の手動操作を妨げない箇所に設けられ、前記操作部材制御部は、前記遠隔操作司令情報に基づいて前記複数のアクチュエータをそれぞれ制御して前記複数の操作部材をそれぞれ操作する遠隔操作モードと、前記複数の操作部材の前記操縦者による手動操作をそれぞれ可能とする手動操作モードとに選択可能に構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、船舶の舵機構が故障した場合には、左右の駆動部の出力およびスクリュープロペラの回転方向を変更することによって船舶の進行方向を調整するので、舵機構が故障した際にも船舶の方向転換を行うことができ、船舶の安全性を向上させる上で有利となる。
本発明の一実施形態によれば、船体が直進するように左右の駆動部の出力(通常時出力)を決定し、船体を左右いずれかに旋回させる際は、左右の駆動部の出力を通常時出力から増減させるので、舵機構が故障した際の操舵状況に関わらず船体の進行方向を調整することができる。
本発明の一実施形態によれば、船体を左右いずれかに旋回させる際は、通常時出力の小さい側の駆動部の出力を増減させるので、通常時出力の大きい側の駆動部の出力を増減させるのと比較して駆動部の消費エネルギーを低減する上で有利となる。
本発明の一実施形態によれば、通常時出力を駆動部の最大出力の50%以下に設定するので、駆動部の消費エネルギーを定常的に低減する上で有利となる。
本発明の一実施形態によれば、船体の進行方向前方に障害物が検出された場合、左右のスクリュープロペラを前進時と逆方向に回転させ、船体と障害物との距離が所定距離以上となった後に障害物を迂回するように船体を移動させるので、障害物と船体との接触を確実に回避する上で有利となる。
本発明の一実施形態によれば、左右のスクリュープロペラの向きを船体に対して揺動させることによって舵を取る形式の船舶において、舵機構の故障(スクリュープロペラが移動できなくなる)が検出された場合、故障した側のスクリュープロペラを回転させる駆動部を停止させ、故障していない側のスクリュープロペラおよび駆動部のみを用いて船体を移動させるので、駆動部における消費エネルギーを低減しつつ船体の進行方向を調整する上で有利となる。
また、本発明の一実施形態によれば、船舶の航行を行なうための複数の操作部材をそれぞれ操作する複数のアクチュエータを、操船席に着座した操船者による複数の操作部材の手動操作を妨げない箇所に設け、操作部材制御部の遠隔操作モードを選択することで、遠隔操作指令情報に基いて複数のアクチュエータを制御して複数の操作部材を操作することによって、船舶を遠隔操作することができるようにし、操作部材制御部の手動操作モードを選択することで、複数の操作部材を手動操作できるようにした。したがって、遠隔操作を行なうために船舶の改造を行なう必要がなく、船舶を遠隔操作可能とすることができ、船舶を元の状態に戻すことなく操船席に座って手動操縦することができ、使い勝手の向上を図る上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態に係る船舶の航行システムが適用される船舶の構成を模式的に示す平面図である。
図2】船舶の推進機構を示すブロック図である。
図3】船舶の制御系の構成を示すブロック図である。
図4】遠隔操作装置の構成を示すブロック図である。
図5】船舶のイグニッションスイッチの操作を行なう第1アクチュエータの説明図であり、(A)はイグニッションスイッチと第1アクチュエータとの係合が解除された状態を側面視した図、(B)は(A)のB-B線矢視図、(C)はイグニッションスイッチと第1アクチュエータとが係合された状態を側面視した図、(D)は(C)のD-D線矢視図である。
図6】船舶のハンドルの操作を行なう第2アクチュエータの説明図であり、(A)はハンドルを正面から見た正面図、(B)は(A)のX-X線矢視図である。
図7】船舶のスロットルレバーの操作を行なう第3アクチュエータの説明図であり、スロットルレバーを小型船舶の船体幅方向から見た側面図である。
図8】(A)は表示部に船舶の周辺を示す画像情報が表示された状態を示す図、(B)は表示部に地図情報に重ね合わされて船舶の位置を示すアイコンが表示された状態を示す図である。
図9】舵機構の故障時における左右のエンジンの出力を模式的に示す図である。
図10】舵機構の故障時における左右のエンジンの出力を模式的に示す図である。
図11】舵機構の故障時における左右のエンジンの出力を模式的に示す図である。
図12】舵機構の故障時における左右のエンジンの出力を模式的に示す図である。
図13】船舶の他の構成を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<システム構成>
以下、本発明の実施の形態に係る船舶の航行システムを図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態では、船舶が遠隔操作により無人航行される船舶10である場合について説明する。船舶10は、例えば釣り船などの小型船舶、観光船やクルーザなどであり、船舶の種類、総トン数、用途は任意である
【0009】
図1図3に示すように、船舶10は、船体12と、エンジン13(13A,13B)と、スクリュープロペラ14(14A,14B)と、ラダー15(15A,15B)と、転舵アクチュエータ16(16A,16B)と、操船制御装置18と、複数の操作部材を構成するイグニッションスイッチ20、ハンドル22、スロットルレバー24と、複数のアクチュエータを構成する第1アクチュエータ26、第2アクチュエータ28、第3アクチュエータ30と、船舶側制御装置32と、前方カメラ68A、後方カメラ68B、左方カメラ68C、右方カメラ68Dの4つのカメラと、測位部70とを含んで構成されている。
【0010】
図1に示すように、船体12は、船体12の前部寄りの箇所に設けられた操作台1202と、操作台1202の後方に配置され操縦者が着座する操船席1204と、船体12の船尾を仕切り船体幅方向に延在するトランサム(船尾板)1206とを備えている。
【0011】
エンジン13およびスクリュープロペラ14は、船体12を推進させる推進機構として機能する。
本実施の形態では、エンジン13およびスクリュープロペラ14は、船体12の左右にそれぞれ1つずつ設けられている。すなわち、船舶10は、船体12の左側に設けられた第1のスクリュープロペラである左側スクリュープロペラ14Aと、左側スクリュープロペラ14Aを回転させる第1のエンジンである左側エンジン13Aと、船体12の右側に設けられた第2のスクリュープロペラである右側スクリュープロペラ14Bと、右側スクリュープロペラ14Bを回転させる第2のエンジンである右側エンジン13Bとを備えている。本実施の形態では、スクリュープロペラ14をエンジン13(内燃機関)で回転させるものとするが、例えばモータ(電動機)で回転させてもよい。エンジン13またはモータのようにスクリュープロペラ14を回転させる駆動源を駆動部と呼ぶ。
【0012】
エンジン13は、スクリュープロペラ14を回転させ、船体12を推進させる推進力を発生させる駆動源(駆動部)である。
図2に示すように、エンジン13は、スロットルバルブ1304Aと、スロットルアクチュエータ1304Bと、ECU(Engine Control Unit)1304Cとを含んで構成されている。
スロットルバルブ1304Aは、エンジン13に吸引される空気量を調整するものである。
スロットルアクチュエータ1304Bは、スロットルバルブ1304Aの開度を調整するものである。
ECU1304Cは、後述する操船制御装置18から与えられるスロットルレバー24の傾倒角度信号に基づいて、スロットルアクチュエータ1304Bと、後述する動力伝達機構130のシフトアクチュエータ1306Bとを制御するものである。
【0013】
動力伝達機構130(130A、130B)は、左右のエンジン13A、13Bに対応して設けられており、エンジン13の駆動力を入力するドライブシャフト1302と、ドライブシャフト1302に伝達された駆動力をスクリュープロペラシャフト1410(図1参照)に切り替えて伝達するシフト機構1306Aと、シフト機構1306Aから伝達される駆動力を、水中で回転することにより船体12に推進力を発生させるスクリュープロペラ14に伝達するスクリュープロペラシャフト1410と、シフト機構1306Aを作動させるシフトアクチュエータ1306Bとを含んで構成されている。
シフト機構1306Aは、シフトアクチュエータ1306Bによって、スクリュープロペラシャフト1410を正転させる前進位置と、スクリュープロペラシャフト1410を反転させる後進位置と、スクリュープロペラシャフト1410の回転を停止させる中立位置とに切り替えられる。
シフト機構1306Aが前進位置に切り替えられることでスクリュープロペラシャフト1410が正転されることによりスクリュープロペラ14によって船体12を前進させる推進力が発生する。
シフト機構1306Aが後進位置に切り替えられることでスクリュープロペラシャフト1410が反転されることによりスクリュープロペラ14によって船体12を後進させる推進力が発生する。
シフト機構1306Aが中立位置に切り替えられることでスクリュープロペラシャフト1410の回転が停止されることによりスクリュープロペラ14による推進力の発生が停止される。
【0014】
ラダー15および転舵アクチュエータ16は、船体12の移動方向を調整する舵機構として機能する。
ラダー15は、スクリュープロペラ14の船体後方側に配置された板状の部材である。本実施の形態では、ラダー15は、船体12の左側に設けられた左側スクリュープロペラ14Aの船体後方側に隣接して設けられた左側ラダーである左側ラダー15Aと、船体12の右側に設けられた右側スクリュープロペラ14Bの船体後方側に隣接して設けられた右側ラダー15Bとを備える。ラダー15は、その断面形状が流線形に形成されるとともに、船体12の上下方向に所定の長さに延在する。ラダー15は、船体12の上下方向に延在する転舵軸Zを中心に揺動可能に船体12から延びるアーム1502に取り付けられている。
【0015】
転舵アクチュエータ16は、後述する操船制御装置18から与えられるハンドル22の操作角信号に基づいて、ラダー15を転舵軸Z周りに揺動させることでラダー15の転舵角(船体12の前後方向に対してラダー15の舵面方向XLがなす角)を変更させるものである。本実施の形態では、左側ラダー15Aを揺動させる第1の転舵アクチュエータである左側転舵アクチュエータ16Aと、右側ラダー15Bを揺動させる第2の転舵アクチュエータである右側転舵アクチュエータ16Bとが設けられている。
【0016】
なお、本実施の形態では、2つのスクリュープロペラ14A、14Bに対応して2つのラダー15A、15Bを設けているが、例えばトランサム1206の中央に1つのラダー15のみを設けてもよい。
【0017】
図1および図2に示すように、操船制御装置18は、複数の操作部材20、22、24の操作に応じてエンジン13やラダー15の制御を行なうものであり、具体的には、エンジン13の始動、停止、回転数の調整、ラダー15の転舵角の調整等を行なうものである。
【0018】
図1および図3に示す複数の操作部材20、22、24は、航行(操船)を行なうために操縦者によって操作される部材である。
本実施の形態では、操作台1202に船体幅方向に間隔をおいてイグニッションスイッチ20、ハンドル22、スロットルレバー24の3つの操作部材が並べられて配置されている。
イグニッションスイッチ20はエンジン13の始動、停止を行なうためのものである。
図5(A)~(D)に示すように、イグニッションスイッチ20は、キーシリンダ2002とイグニッションキー2004とを有している。
イグニッションスイッチ20は、キーシリンダ2002に挿入されたイグニッションキー2004がオフ位置、オン位置、始動位置のそれぞれに回動されることで、操船制御装置18にオフ信号、オン信号、始動信号を与え、これにより操船制御装置18がエンジン13に対するバッテリ(図示なし)からの電力の供給停止、供給を行ない、また、エンジン13の始動を行なわせるものである。
【0019】
図6(A)、(B)に示すように、ハンドル22は、船舶10の操舵を行なうために回転されるものである。
ハンドル22は、断面が円形状で円環状に延在するハンドル本体2202と、ハンドル本体2202のハンドルシャフト2204と、ハンドルシャフト2204とハンドル本体2202とを接続するスポーク2206とを備えている。
本実施の形態では、ハンドルシャフト2204は、ほぼ船体12の前後方向に沿って延在している。
操作角センサ(不図示)によって検出されたハンドル22の操作角を示す操作角信号が操船制御装置18に供給され、これにより操船制御装置18が転舵アクチュエータ16を駆動して転舵角の調整がなされる。
【0020】
図7に示すように、スロットルレバー24は、エンジン13の出力調整を行なうためのものである。
スロットルレバー24は、操作台1202から船体12の前後方向に揺動可能に設けられた揺動軸2404と、揺動軸2404の先端に設けられ手により把持される被把持部2406とを備えている。
スロットルレバー24は、不図示のレバー位置センサによって検出されたスロットルレバー24の傾倒角度を示す傾倒角度信号が操船制御装置18を介してエンジン13のECU1304Cに供給され、ECU1304Cによりスロットルアクチュエータ1304Bおよびシフトアクチュエータ1306Bが駆動されエンジン13の制御がなされる。
すなわち、スロットルレバー24は、中立範囲と、中立範囲よりも船体12の前方の範囲の前進範囲と、中立範囲よりも船体12の後方の範囲の後進範囲とに傾倒可能に設けられている。
【0021】
スロットルレバー24が中立範囲に位置した場合、ECU1304Cは、シフトアクチュエータ1306Bにより動力伝達機構130を中立位置に切り替えると共に、スロットルアクチュエータ1304Bによってスロットルバルブ1304Aを閉じ、これによりエンジン13が停止し船舶10が停止する。
スロットルレバー24が前進範囲に位置した場合、ECU1304Cは、シフトアクチュエータ1306Bによって動力伝達機構130を前進位置に切り替えると共に、スロットルレバー24の前方への傾倒角度が大きくなるほどスロットルアクチュエータ1304Bによりスロットルバルブ1304Aの開度を大きく調整することでエンジン13の回転数を上昇させ、船舶10を前進させると共に航行速度を調整する。
スロットルレバー24が後進範囲に位置した場合、ECU1304Cは、シフトアクチュエータ1306Bによって動力伝達機構130を後進位置に切り替えると共に、スロットルレバー24の後方への傾倒角度が大きくなるほどスロットルアクチュエータ1304Bによりスロットルバルブ1304Aの開度を大きく調整することでエンジン13の回転数を上昇させ、船舶10を後進させると共に航行速度を調整する。
【0022】
図1および図3に示す複数のアクチュエータ26、28、30は、複数の操作部材20、22、24を操作するものである。
本実施の形態では、イグニッションスイッチ20を操作する第1アクチュエータ26と、ハンドル22を操作する第2アクチュエータ28と、スロットルレバー24を操作する第3アクチュエータ30の3つのアクチュエータが複数のアクチュエータとして設けられている。
【0023】
図5(A)~(D)に示すように、第1アクチュエータ26は、モータ33と、回転部材34とを含んで構成されている。
モータ33と回転部材34は、操船席1204に着座した操縦者によるイグニッションスイッチ20(イグニッションキー2004)の手動操作を妨げない箇所(操作台1202)に設けられている。
モータ33は、操作台1202に不図示のブラケットを介して着脱可能に設けられている。
回転部材34は、モータ33の駆動軸3302に連結されている。
回転部材34には、イグニッションスイッチ20のキーシリンダ2002に挿入されたイグニッションキー2004の頭部2004Aに係脱可能な係合凹部3402が設けられている。
すなわち、回転部材34は、イグニッションキー2004に係脱可能で一体回転可能に結合され回転操作可能となっている。
【0024】
図5(A)、(B)に示すように、イグニッションキー2004の頭部2004Aに回転部材34の係合凹部3402が対向するように位置決めしたのち、図5(C)、(D)に示すように、回転部材34およびモータ33をイグニッションキー2004方向に移動させることで、頭部2004Aが係合凹部3402に挿入されて係合され、その状態で不図示のブラケットを介して第1アクチュエータ26が操作台1202に取り付けられる。
頭部2004Aに係合凹部3402が係合した状態で、後述する船舶側制御装置32から駆動信号がモータ33に供給されることによりモータ33を駆動し、イグニッションキー2004をオフ位置、オン位置、始動位置のそれぞれに回動させることができる。
これにより操船制御装置18がエンジン13に対するバッテリからの電力の供給停止、供給を行い、また、エンジン13を始動させる。
また、頭部2004Aに係合凹部3402が係合した状態で、船舶側制御装置32によってモータ33に供給される駆動信号がオフとされることでモータ33はサーボフリーとなり、操船席1204に着座した操縦者は、回転部材34を把持することで回転部材34を介してイグニッションキー2004を手動で操作することができる。
なお、キーシリンダ2002からのイグニッションキー2004を取り外す際には、モータ33を操作台1202から取り外し、頭部2004Aから係合凹部3402を離間させればよい。
【0025】
図6(A)、(B)に示すように、第2アクチュエータ28は、モータ39と駆動ローラ40とを含んで構成されている。
モータ39と駆動ローラ40は、操船席1204に着座した操縦者によるハンドル22の手動操作を妨げない箇所(操作台1202)に不図示のブラケットを介して着脱可能に設けられている。
モータ39は、操作台1202に取着された状態でその駆動軸3902をハンドル22のハンドルシャフト2204とほぼ直交させるように配置されている。
駆動ローラ40は、駆動軸3902の先端に取着されている。
駆動ローラ40は、ハンドル本体2202の周方向の一部の船体12の前方で斜め下方に配置され、ハンドル本体2202に係合し、駆動ローラ40が回転されることによりハンドル本体2202の回動を可能とする。
駆動ローラ40は、ハンドル本体2202のうち船体12の前方で斜め下方に向いた面に係合する凹溝4002を備え、モータ39の回転駆動力が駆動ローラ40の凹溝4002を介してハンドル本体2202に効率よく伝達されるように図られている。
【0026】
モータ39は、船舶側制御装置32から駆動信号が供給されることにより駆動軸3902、駆動ローラ40を介してハンドル22を正逆回転させる。
したがって、モータ39が正逆回転することにより駆動ローラ40によりハンドル本体2202が正逆方向に回転され、操作角センサで生成された操作角信号が操船制御装置18に供給されることで転舵アクチュエータ16が駆動され転舵角の調整がなされる。
また、船舶側制御装置32によってモータ39に供給される駆動信号がオフとされることでモータ39はサーボフリーとなり、操船席1204に着座した操縦者は、ハンドル22の手動操作が可能となっている。
【0027】
図7に示すように、第3アクチュエータ30は、直動式シリンダ(直動式電気シリンダ)30Aで構成され、シリンダ本体3002と、シリンダ本体3002に組み込まれたモータ(不図示)と、シリンダ本体3002に組み込まれたピストンロッド3004とを備えている。
直動式シリンダ30Aは、操船席1204に着座した操縦者によるスロットルレバー24の手動操作を妨げない箇所(操作台1202)に不図示のブラケットを介して着脱可能に設けられている。
シリンダ本体3002は、ピストンロッド3004の出没方向を船体12の前後方向に合致させて配置されている。
ピストンロッド3004の先端は、スロットルレバー24の揺動軸2404の長手方向の中間部に連結部42の不図示の球面軸受を介して連結されている。
したがって、船舶側制御装置32によってモータに駆動信号が供給されることで、シリンダ本体3002に対してピストンロッド3004が出没し、スロットルレバー24が前進範囲、中立範囲、後進範囲にわたって傾倒され、これにより、エンジン13の出力が調整され、船舶10の前進、停止、後進、および、航行速度が調整される。
また、船舶側制御装置32によってモータに供給される駆動信号がオフとされることでモータはサーボフリーとなり、操船席1204に着座した操縦者は、スロットルレバー24の手動操作が可能となっている。
【0028】
図3に示すように、前方カメラ68Aは、船体12の前方を撮像して画像情報を生成するものである。
後方カメラ68Bは、船体12の後方を撮像して画像情報を生成するものである。
左方カメラ68Cは、船体12の左方を撮像して画像情報を生成するものである。
右方カメラ68Dは、船体12の右方を撮像して画像情報を生成するものである。
それら4つの画像情報は、船舶側通信部60から遠隔操作装置44(図4参照)の遠隔操作側通信部58に無線回線を介して送信される。
なお、画像情報は、動画であっても一定の時間間隔で生成された静止画であってもよい。
【0029】
測位部70は、測位衛星から受信した測位信号に基づいて小型船舶の位置を測位し測位情報を生成するものである。
このような測位衛星は、GPS、GLONASS、Galileo、準天頂衛星(QZSS)等のGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)で用いられるものであり、それら測位システムで使用される測位衛星の1つを用いてもよく、あるいは、2つ以上の測位衛星を組み合わせて用いても良い。
測位部70で生成された測位情報は、船舶側通信部60から遠隔操作装置44(図4参照)の遠隔操作側通信部58に無線回線を介して送信される。
【0030】
なお、本実施の形態では、複数のカメラ68A~68Dと、測位部70との双方を設けた場合について説明したが、いずれか一方のみを設けてもよい。しかしながら、本実施の形態のようにすると、船舶10の周辺の状態と船舶10の現在位置との双方を把握できるため、船舶10を的確に遠隔操作する上でより有利となる。
また、本実施の形態では、前方カメラ68A、後方カメラ68B、左方カメラ68C、右方カメラ68Dの4台のカメラを設けた場合について説明したが、カメラの数や配置は任意である。また、複数のカメラを設ける代わりに、撮像範囲が広範囲である全天球カメラや半天球カメラを用いるなど任意である。
【0031】
図1に示すように、船舶側制御装置32は、船体12に搭載され、遠隔操作装置44(図4参照)から送信される遠隔操作司令情報に基づいて第1、第2、第3アクチュエータ26、28、30を制御するものである。船舶側制御装置32については後で詳述する。
【0032】
次に、図4を参照して、遠隔操作装置44について詳細に説明する。
遠隔操作装置44は、船舶10から離間した箇所に位置する操作者が操作するものであり、操作者の操作により生成した遠隔操作司令情報を船舶側制御装置32に無線回線を介して送信するものである。本実施の形態では、遠隔操作を行なう操縦者から船舶10が視認できない範囲でも遠隔操作を行なうことを可能とした。すなわち、本実施の形態では、船舶10の周辺の画像情報と船舶10の測位情報を取得し、それら画像情報と測位情報とに基づいて遠隔操作装置44側で画像情報を表示させると共に、船舶10の地図上での測位情報を表示させるようにした。
【0033】
遠隔操作装置44は、第1~第3遠隔操作レバー46、48、50と、角度センサ52A、52B、52Cと、モード切替スイッチ54と、操作部72と、地図データベース74と、表示部76と、遠隔操作側制御部56と、遠隔操作側通信部58とを含んで構成されている。
【0034】
第1~第3遠隔操作レバー46、48、50は、イグニッションスイッチ20(イグニッションキー2004)、ハンドル22、スロットルレバー24を遠隔操作するための揺動操作がなされる遠隔操作用の操作部材(ジョイスティック)で構成されている。
【0035】
角度センサ52A、52B、52Cは、各遠隔操作レバー46、48、50に対応して設けられ、各遠隔操作レバー46、48、50の操作位置に対応する角度を示す検知信号を出力するものである。
【0036】
モード切替スイッチ54は、後述する遠隔操作モードと、手動操作モードとを切り替える際に切り替え操作されるものである。
【0037】
操作部72は、操縦者の操作に応じて、後述する報知部56Bに対して表示部76で表示する情報の切り替えなどを指示するものである。操作部72は、例えば、表示部76の表示面に設けられたタッチパネルや表示部76とは独立して設けられたキースイッチで構成されている。
地図データベース74は、船舶10が航行する場所を含む地図情報を格納しており、地図情報は地球上の測位情報(位置情報)と関連付けられている。
表示部76は、後述する報知部56Bの制御に基づいて、船舶10の周辺の画像情報を表示し、また、船舶10の現在位置を地図情報上に表示するものである。
【0038】
遠隔操作側制御部56は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、各角度センサ52A、52B、52C、モード切替スイッチ54、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成される。
【0039】
遠隔操作側制御部56は、上記制御プログラムを実行することにより指令情報生成部56A、報知部56B、故障時制御部56Cとして機能する。
指令情報生成部56Aは、各角度センサ52A、52B、52Cから供給される検知信号に基いて遠隔操作指令情報を生成するものである。
また、指令情報生成部56Aは、モード切替スイッチ54から供給される操作信号に基いてモード切替司令情報を生成するものである。
【0040】
報知部56Bは、船舶側通信部60から無線回線を介して送信された画像情報を表示部76に表示させ、また、船舶側通信部60から無線回線を介して送信された測位情報に基づいて地図データベース74から地図情報を読み出し、測位情報に基づいてその地図情報上に船舶10の現在位置を示すアイコンを重ね合わせて表示部76に表示させる。
また、報知部56Bは、操作部72の操作に応じて画像情報と地図情報とを切り替えて表示部76に表示させる。あるいは、船体12の前方、後方、左方、右方の画像情報を選択的に表示部76に表示させる。
例えば、図8(A)は、表示部76の表示画面7602に、前方カメラ68Aで撮像された船体12の前方の画像情報が表示された状態を示しており、この例では、水平線2、陸地4が表示されている。
また、図8(B)は、表示部76の表示画面7602に、陸地4や海6を示す地図情報上に船舶10の現在位置を示すアイコン8が重ね合わされて表示された状態を示している。
【0041】
故障時制御部56Cは、船舶10に故障が生じた際に指令情報生成部56Aに代わって遠隔操作指令情報を生成する。故障時制御部56Cは、指令情報生成部56Aの一機能であってもよい。
本実施の形態では、故障時制御部56Cは、船舶10の舵機構(ラダー15または転舵アクチュエータ16の少なくともいずれか、またはその周辺部)が故障した際に、指令情報生成部56Aに代わって遠隔操作指令情報を生成する。
故障時制御部56Cについては後で詳述する。
【0042】
遠隔操作側通信部58は、船舶側通信部60と無線回線を介して通信可能に構成され、指令情報生成部56Aで生成された遠隔操作指令情報、モード切替司令情報を船舶側通信部60に無線回線を介して送信するものである。
【0043】
つぎに、船舶側制御装置32の詳細について説明する。
図3に示すように、船舶側制御装置32は、船舶側通信部60と、第1~第3検出部62A~62Cと、サーボ制御部64と、制御部66とを含んで構成されている。
船舶側通信部60は、遠隔操作側通信部58から無線回線を介して送信される遠隔操作指令情報を受信するものである。
第1~第3検出部62A~62Cは、第1~第3アクチュエータ26、28、30によるイグニッションスイッチ20(イグニッションキー2004)、ハンドル22、スロットルレバー24の操作量を検出するものである。
具体的に説明すると、第1検出部62Aは、第1アクチュエータ(モータ)26の駆動軸2602の回転量(角度)を操作量として検出する。
第2検出部62Bは、第2アクチュエータ(モータ)28の駆動軸2802の回転量(角度)を操作量として検出する。
第3検出部62Cは、第3アクチュエータ(直動式の電気シリンダ)30のピストンロッド3004の移動量を操作量として検出する。
サーボ制御部64は、操作部材制御部66Aの制御により第1~第3検出部62A、62B、62Cでそれぞれ検出された操作量に基づいて第1アクチュエータ26(モータ33)、第2アクチュエータ28(モータ39)、第3アクチュエータ30(直動式シリンダ30A)のサーボ制御をそれぞれ行なう。
【0044】
制御部66は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、第1~第3の検出部62A~62C、サーボ制御部64、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成される。
制御部66は、上記制御プログラムを実行することにより操作部材制御部66Aとして機能する。
操作部材制御部66Aは、船舶側通信部60を介して受信した遠隔操作指令情報に基いて、第1~第3検出部62A~62Cの検出結果を監視しつつ、サーボ制御部64を制御することで第1~第3アクチュエータ26、28、30を駆動制御してイグニッションスイッチ20(イグニッションキー2004)、ハンドル22、スロットルレバー24を動かすものである。
また、操作部材制御部66Aは、遠隔操作装置44のモード切替スイッチ54の操作によって、遠隔操作側制御部56で生成されたモード切替指令情報を、遠隔操作側通信部58、船舶側通信部60を介して受信することで、遠隔操作モードと、手動操作モードとに選択可能に構成されている。
操作部材制御部66Aは、モード切替指令情報に応じて遠隔操作モードに設定された場合は、遠隔操作装置44に対する操作に応じて遠隔操作を行う。
すなわち、操作部材制御部66Aは、遠隔操作指令情報に基いて第1~第3アクチュエータ26、28、30を制御してイグニッションスイッチ20(イグニッションキー2004)、ハンドル22、スロットルレバー24を操作する。
また、操作部材制御部66Aは、モード切替指令情報に応じて手動操作モードに設定された場合は、サーボ制御部64を制御して第1アクチュエータ26のモータ33、第2アクチュエータ28のモータ39、第3アクチュエータのモータへの駆動信号をオフとすることで、すなわち、サーボ制御64のサーボ制御を無効とすることで、第1~第3アクチュエータ26、28、30をサーボフリーとしてイグニッションスイッチ20(イグニッションキー2004)、ハンドル22、スロットルレバー24の手動操作を可能とする。
なお、モード切替スイッチ54を船舶側制御装置32に設け、モード切替スイッチ54の操作を受け付けた操作部材制御部66Aが遠隔操作モードと、手動操作モードとを選択するようにしてもよい。
【0045】
<通常時の制御>
次に、本実施の形態の船舶の航行システムにおける通常時(舵機構が故障していない場合)の制御について説明する。
まず、操縦者が遠隔操作装置44を介して船舶10を遠隔操作する場合について説明する。
予め、イグニッションキー2004の頭部2004Aに回転部材34の係合凹部3402が係合した状態とされ、船舶側制御装置32はモード切替スイッチ54により遠隔操作モードに設定されているものとする。
なお、操縦者による船舶10の遠隔操作は、操縦者が船舶10を監視しながら行なうものとする。すなわち、操縦者は、表示部76に表示された画像情報によって(船舶10が操縦者の視認可能な位置にある場合は、操縦者が船舶10を直接目視してもよい)船舶10の周辺の状況、具体的には、他の船舶の有無やそれら船舶と船舶10との位置関係や、船舶10と陸地との位置関係などを把握しながら船舶10を遠隔操作する。
また、表示部76に表示された地図情報に基づいて、船舶10の現在位置を把握しながら、船舶10から離れた箇所から船舶10を的確に遠隔操作することができる。
【0046】
操縦者が遠隔操作装置44の第1~第3遠隔操作レバー46、48、50を操作することにより、各角度センサ52A、52B、52Cで検出された検知信号に基いて指令情報生成部56Aが遠隔操作指令情報を生成する。遠隔操作指令情報は、無線回線を介して遠隔操作側通信部58から船舶側通信部60に無線回線を介して送信される。
船舶10では、船舶側通信部60を介して受信された遠隔操作指令情報が操作部材制御部66Aに供給され、操作部材制御部66Aは、遠隔操作指令情報に基いて、第1~第3検出部62A~62Cの検出結果を監視しつつ、サーボ制御部64を制御することで第1~第3アクチュエータ26、28、30を駆動制御してイグニッションスイッチ20(イグニッションキー2004)、ハンドル22、スロットルレバー24を操作させる。
すなわち、第1アクチュエータ26によってイグニッションスイッチ20が操作されることにより、イグニッションスイッチ20がオフ位置、オン位置、始動位置に切り替えられることにより、エンジン13のエンジン13の停止、始動がなされる。
また、第2アクチュエータ28によってハンドル22が操作されることによって、ラダー15の転舵角の調整が行なわれ、船舶10が操舵される。
また、第3アクチュエータ30によってスロットルレバー24が操作されることによって、エンジン13による推進力の調整が行なわれ、船舶10の前進、後退、停止の切り替え、および、航行速度の調整が行なわれる。
通常時においては、遠隔操作時および次に説明する手動操作時いずれの場合にも、左右のエンジン13A、13Bの出力は等しくなるように制御される。
【0047】
次に、船舶10に搭乗した操縦者が手動操作する場合について説明する。
予め、船舶側制御装置32はモード切替スイッチ54により手動操作モードに設定されているものとする。
操船席1204に着座した操縦者の手動操作によって、イグニッションスイッチ20がオフ位置、オン位置、始動位置に切り替えられることによって、エンジン13のエンジン13の停止、始動がなされる。
また、操縦者の手動操作によって、ハンドル22が操作されることによって、ラダー15の転舵角の調整が行なわれ、船舶10が操舵される。
また、操縦者の手動操作によって、スロットルレバー24が操作されることによって、エンジン13による推進力の調整が行なわれ、船舶10の前進、後退、停止の切り替え、および、航行速度の調整が行なわれる。
この際、第1~第3アクチュエータ26、28、30はサーボフリーとされているため、イグニッションスイッチ20(イグニッションキー2004)、ハンドル22、スロットルレバー24の手動操作は妨げられない。
【0048】
このように、本実施の形態では、操船者によって操作される船舶10の航行(操船)を行なうための操作部材を操作する第1~第3アクチュエータ26、28、30を、操船席1204に着座した操船者による操作部材の手動操作を妨げない箇所に着脱可能に設け、操作部材制御部66Aの遠隔操作モードを選択することで、遠隔操作指令情報に基いて第1~第3アクチュエータ26、28、30を制御してイグニッションスイッチ20(イグニッションキー2004)、ハンドル22、スロットルレバー24を操作することによって、船舶10を遠隔操作することができるようにし、操作部材制御部66Aの手動操作モードを選択することで、第1~第3アクチュエータ26、28、30をサーボフリーとしてイグニッションスイッチ20(イグニッションキー2004)、ハンドル22、スロットルレバー24を操船席1204に着座した操縦者が手動操作できるようにした。
これにより、船舶10を元の状態に戻すことなく操縦者が操船席に着座して船舶10を操縦することも、また、操縦者が乗船せずに遠隔操作することもでき、船舶10の使い勝手の向上を図る上で有利となる。
【0049】
<故障時の制御>
次に、船舶10の舵機構が故障した場合の制御について説明する。
図4に示すように、故障時制御部56Cは、故障検出部560と、障害物検出部562と、移動制御部564とを備える。
故障検出部560は、舵機構(ラダー15または転舵アクチュエータ16の少なくともいずれか、またはその周辺部)の故障を検出する。故障検出部560は、例えば第2遠隔操作レバー48の操作に基づくハンドル22の操作量に対応した船舶10の進行方向を推定し、推定した進行方向と船舶10の実際の進行方向とのずれが許容値以上となった場合、すなわち船舶10の進行方向が操縦者の操縦通りに調整されない場合に、舵機構が故障していると判断する。なお、船舶10の進行方向は、例えば測位部70の測位データを用いて検出する。
また、故障検出部560は、例えば転舵アクチュエータ16の電流値等を検出したり、ラダー15に転舵角センサを設けて転舵角を検出したりして、指令情報生成部56Aの指令情報通りに転舵アクチュエータ16やラダー15が稼働しているかを監視し、指令情報通りに稼働していない場合に、舵機構が故障していると判断してもよい。
【0050】
障害物検出部562は、船体12の進行方向前方に位置する障害物を検出する。障害物検出部562は、例えば船舶10に設けられたカメラ68A~68Dで撮影した画像を解析して船体12の進行方向前方に位置する障害物、例えばブイや流木、岩などの物体、他の船舶や水上バイク等を検出する。
また、障害物検出部562は、例えば船舶10に設けられたレーダー(図示なし)により障害物を検出したり、他の船舶から発振される無線信号から他の船舶が船体12の進行方向前方に位置するかを検出してもよい。
【0051】
移動制御部564は、舵機構の故障が検出された場合、船体12が所望の方向に移動するように左側エンジン13Aおよび右側エンジン13Bの出力をそれぞれ調整するとともに、左側スクリュープロペラ14Aおよび右側スクリュープロペラ14Bの回転方向をそれぞれ調整する。すなわち、本実施の形態では、船舶10の舵機構が故障した場合には、左右のエンジン13の出力比およびスクリュープロペラ14の回転方向によって船舶10の進行方向を調整する。
【0052】
より詳細に移動制御部564による制御を説明する。
舵機構の故障が検出された場合、移動制御部564は、まず図9Aに模式的に示すように左右のエンジン13A、13Bの出力を等しくして、船体12が直進するか否かを判断する。なお、図9の矢印Aは左側エンジン13Aの出力の大きさを模式的に示し、矢印Bは右側エンジン13Bの出力の大きさを模式的に示す。また、矢印の方向はスクリュープロペラ14の回転により得られる推進力の方向、すなわちスクリュープロペラ14の回転方向を示す。
この時、左右のエンジン13A、13Bの出力は、例えば最大出力の50%とする。これは、エンジン13の出力を増加させる方向にも減少させる方向にも等しく余地を残しておいた方が進行方向を調整しやすいためである。この場合、後述する左右のエンジン13の通常時出力は、いずれもエンジン13の最大出力の50%以下に設定される。
【0053】
左右のエンジン13A、13Bの出力を等しくして船体12が直進する場合、移動制御部564は、船体12の旋回が指示されるまではそのままの出力比を継続する。すなわち、左右のエンジン13A、13Bの出力が等しい状態(例えばいずれも最大出力の50%)を通常時出力(言い換えると直進時出力)とする。
【0054】
一方、左右のエンジン13A、13Bの出力を等しくすると船体12が左右のいずれかに旋回する場合、移動制御部564は、船体12が旋回する側の反対側にあるエンジン13の出力を相対的に小さくする。
例えば、図9Aの点線矢印に示すように、左右のエンジン13A、13Bの出力を等しくすると船体12が右方向に旋回する場合、図9Bに示すように、船体12が旋回する側と反対にある左側エンジン13Aの出力を小さくする。これにより、船体12の右方向への推力が抑えられ、左右のバランスが取れた場合に船体12は直進する。移動制御部564は、船体12が直進する際の左右のエンジン13の出力を通常時出力とする。例えば図9Aで左右のエンジン13A、13Bの出力を最大出力の50%とすると、図9Bでは左側エンジン13Aの出力は最大出力の50%未満(例えば30%など)、右側エンジン13Bの出力は最大出力の50%となり、いずれも最大出力の50%以下となる。
なお、左右のエンジン13A、13Bの出力を等しくすると船体12が左右のいずれかに旋回するのは、例えば舵機構の故障が生じた時点でラダー15の方向が左右いずれかに傾いていたり、その地点の海流などが影響すると考えられる。
【0055】
その後の航行中(通常時出力での航行中)に、船体12を左右いずれかに旋回させる場合、移動制御部564は、船体12が旋回する側にあるエンジン13の出力を相対的に小さくする。この時、移動制御部564は、例えば通常時出力の小さい側のエンジン13の出力を増減させることにより、左右のエンジン13の出力に差が生じるようにする。これは、通常時出力の大きい側のエンジン13の出力を増減させるのと比較して燃料消費量が抑えられるためであるとともに、出力を増減させるエンジン13を決めた方が走行速度が安定するためである。
例えば図9Bのように、左側エンジン13Aの出力を相対的に小さくすると船体12が直進する場合、通常時出力の小さい側のエンジン13は左側エンジン13Aとなる。このような航行状態で、例えば図10Aに示すように船体12を左旋回させたい場合、移動制御部564は、旋回する側にある左側エンジン13Aの出力を通常時出力よりも小さくする。これにより、右側エンジン13Bの出力が相対的に大きくなり、船体12が左旋回する。
また、例えば図10Bに示すように、船体12を右旋回させたい場合、移動制御部564は、旋回する側と反対にある左側エンジン13Aの出力を通常時出力よりも大きくして、旋回する側にある右側エンジン13Bの出力を相対的に小さくする。図10Bでは、例えば左側エンジン13Aと右側エンジン13Bとの出力が等しくなり、図9Aのような状態となることにより船体12が右旋回する。
【0056】
すなわち、移動制御部564は、船体12が直進するように第1の駆動部である左側エンジン13Aおよび第2の駆動部である右側エンジン13Bの通常時出力それぞれ決定し、船体12を左右いずれかに旋回させる際は、左側エンジン13Aおよび右側エンジン13Bのいずれかの出力を通常時出力から増減させる。
また、移動制御部564は、船体12を左右いずれかに旋回させる際は、通常時出力の小さい側のエンジン13(図10の例では左側エンジン13A)の出力を増減させる。
【0057】
なお、上述した説明では、通常時出力を決める際に、船体12が旋回する側の反対側にあるエンジン13の出力を小さくするようにしたが、これに限らず、船体12が旋回する側にあるエンジン13の出力を大きくすることにより、船体12が旋回する側の反対側にあるエンジン13の出力を相対的に小さくするようにしてもよい。
具体的には、例えば左右のエンジン13A、13Bの出力を等しくすると船体12が右方向に旋回する場合に、図9Cに示すように、船体12が旋回する側にある右側エンジン13Aの出力を大きくしてもよい。
一方で、エンジン13の出力を大きくすると燃料の使用量も多くなるため、図9Bのように船体12の旋回方向と反対側にあるエンジン13の出力を抑えて左右のバランスを取り、通常時出力とした方が好ましいと考えられる。
【0058】
同様に、図10では、船体12を左右いずれかに旋回させる際は、通常時出力の小さい側のエンジン13(図10の例では左側エンジン13A)の出力を増減させることにより、船体12が旋回する側にあるエンジン13の出力を相対的に小さくしたが、通常時出力の大きい側のエンジン13(図10の例では右側エンジン13B)の出力を増減させることにより、船体12が旋回する側にあるエンジン13の出力を相対的に小さくしてもよい。
具体的には、図9Bのように左側エンジン13Aの出力を相対的に小さくすることにより船体12を直進している場合、船体12を左旋回させたい時には右側エンジン13Bの出力を通常時出力よりも大きくし、右旋回させたい時には右側エンジン13Bの出力を通常時出力よりも小さくするようにしてもよい。
【0059】
<障害物との接触回避制御>
つぎに、船舶10の進行方向前方に障害物が検出された場合について説明する。
障害物検出部562により船舶10の進行方向前方に障害物が検出された場合、船舶10は、障害物との接触を避けるように航行する必要がある。
本実施の形態では、移動制御部564は、障害物と船舶10との間の距離に応じて、以下の2種類の方法で船舶10を航行させる。
【0060】
(方法1)障害物と船舶10との間の距離が所定距離L0以上離れている場合
方法1は、障害物と船舶10との間の距離が大きく開いており、比較的緊急度が低い場合である。障害物が漂流物である場合など、障害物が移動しない、または移動速度が比較的遅い場合なども方法1を適用してもよい。
図11Aに示すように、紙面上方向に向かって航行する船舶10の前方の距離L1(≧L0)の地点に障害物80が検出されたものとする。この場合、移動制御部564は、左右のエンジン13A、13Bを最大出力とするとともに、左右のスクリュープロペラ14A、14Bの回転方向を反転させて船体12を後進させる。それまで前進していた船体12には慣性力が働くため、左右のスクリュープロペラ14A、14Bを反転させても即座には後進とならないが、一定時間後には船体12が後進し始める。
船体12が後進し始めると、移動制御部564は、船舶10の進行方向が障害物80を向かないように船体12の向きを左右のいずれかにずらす。例えば、海上衝突予防法では、2隻の船が真向かいに行き会う場合で衝突のおそれがあるときは、互いに相手船の左げん側(船の左側)を通過する、と規定されているので、ここでは船体12を左側に向けることにより障害物80を回避する場合を考える。一般に、船舶10の左右のスクリュープロペラ14A、14Bをそれぞれ逆の推進方向に回転させると、非常に小さい範囲で方向転換が可能なことが知られている。この方法で船体12を左側に向けたい場合には、図11Bに示すように、左側エンジン13Aを後進方向に、右側エンジン13Bを前進方向に回転させると、船尾を中心に船体12全体を左に回転させようとする力が働き、船首が左側を向く。
このように方向転換を行った上で、移動制御部564は、図11Cに示すように障害物80を回避しつつ、元の進路に戻って航行するように適宜方向転換を行いながら船舶10を航行させる。
【0061】
(方法2)障害物と船舶10との間の距離が所定距離未満の場合
方法2は、障害物と船舶10との間の距離が小さく、比較的緊急度が高い場合である。例えば船舶10の進行方向を横切るように他の船舶が航行してきた場合など、障害物の移動速度が比較的早い場合なども方法2を適用してもよい。
図12Aに示すように、紙面上方向に向かって航行する船舶10の前方の距離L2(<L0)の地点に障害物80が検出されたものとする。この場合、移動制御部564は、方法1と同様に左右のエンジン13A、13Bを最大出力とするとともに、左右のスクリュープロペラ14A、14Bの回転方向を反転させて船体12を後進させる。それまで前進していた船体12には慣性力が働くため、左右のスクリュープロペラ14A、14Bを反転させても即座には後進とならないが、一定時間後には船体12が後進し始める。
船体12が後進し始めると、移動制御部564は、そのまま船体12の後進を継続させる。このとき、左右のエンジン13A、13Bの出力を不均衡にすることによって船体12を直進させていた場合、船体12は後進しながら左右いずれかに旋回することが予測される。例えば、図9Bのように左側エンジン13Aの出力を相対的に小さくしながら前方向に直進していた場合、左右のエンジン13A、13Bを共に最大出力にして後進すると、図12Bのように船首が左方向を向くように旋回する。すなわち、船体12の進行方向を制御していない状態となる。しかしながら、障害物80との距離が距離L3になるまでは、障害物80から離れることを優先する。
障害物80との距離が距離L3になると、移動制御部564は、図12Cに示すように障害物80を回避しつつ、元の進路に戻って航行するように適宜方向転換を行いながら船舶10を航行させる。具体的には、例えば障害物80の左側に回り込む経路W1のように航行してもよいし、障害物80の右側に回り込む経路W2のように航行してもよい。なお、距離L3は、所定距離L0と等しくしてもよいし、所定距離L0よりも長く設定してもよい。
【0062】
すなわち、移動制御部564は、船体12の進行方向前方に障害物が検出された場合、左側スクリュープロペラ14Aおよび右側スクリュープロペラ14Bを前進時と逆方向に回転させ、船体12と障害物との距離が所定距離L0以上となった後に障害物を迂回するように船体12を移動させる。
【0063】
<船舶10に推進機が搭載されている場合>
図13に、船舶の他の構成例を示す。
図13に示す船舶10Aは、エンジン13とスクリュープロペラ14とが一体となった推進機17(17A、17B)を2台を備えている。船体12の左側に設けられているのが左側スクリュープロペラ14Aおよび左側エンジン13Aを備える左側推進機17Aであり、船体12の右側に設けられているのが右側スクリュープロペラ14Bおよび右側エンジン13Bを備える右側推進機17Bである。
【0064】
推進機17は、エンジン13と、動力伝達機構130(図2参照)と、スクリュープロペラ14とを含んで構成されている。エンジン13、動力伝達機構130およびスクリュープロペラ14の機能は、図1および図2を用いて説明したものと同様である。
また、これらの構成のうち、エンジン13および動力伝達機構130は、カバー1702内に収容されており、スクリュープロペラ14はカバー1702外に配置されている。
カバー1702は、上述したようにエンジン13と動力伝達機構130を収容するとともに、トランサム1206の船体幅方向の中央に船体12の上下方向に延在する転舵軸Zを中心に揺動可能に結合されている。
【0065】
このような推進機17を有する船舶10において、転舵アクチュエータ16A、16Bはそれぞれ、操船制御装置18から与えられるハンドル22の操作角信号に基づいて、推進機17A、17Bをケース1702ごと転舵軸Z周りに揺動させることで推進機17の転舵角(船体12の中心線CLに対してプロペラシャフト1410の軸心XLがなす角)を変更させ、船体12の進行方向を調整する。すなわち、図1に示した船舶10では、ラダー15を揺動させることにより船体12の進行方向を調整するが、図13に示した船舶10では、エンジン13やスクリュープロペラ14を備える推進機17をケース1702ごと揺動させることにより船体12の進行方向を調整する。
言い換えると、推進機17の舵機構は、左側スクリュープロペラ14Aおよび右側スクリュープロペラ14Bの向きを船体12の向き(中心線CL)対して揺動させることによって船体12の移動方向を調整する。
【0066】
なお、図13に示すような推進機17の形式としては、例えばエンジン13、動力伝達機構130およびスクリュープロペラ14を共に船体12の外側に取り付ける形式である船外機、船体12の内部にエンジン13を設置するとともにスクリュープロペラ14を船体12の外部に設置して動力伝達機構130でこれらをつなぐ形式である船内外機(スターンドライブ)などが知られているが、本実施の形態はこれらいずれにも適用可能である。
【0067】
このような2つの推進機17が設けられた船舶10で一方の推進機17の舵機構が故障した場合、以下の2つの方法がとり得る。
なお、このような推進機17が設けられた船舶10で舵機構の故障とは、例えば転舵アクチュエータ16Aが故障した場合、推進機17のケースと船体12とを接続する接続機構に物理的な欠損が生じた場合などが考えられる。
【0068】
(方法1)舵機構が故障した側の推進機17のエンジン13を停止し、故障していない側の推進機17のみを用いて航行する。
舵機構が故障した推進機17のエンジン13を駆動すると、舵機構が故障した時点における推進機17の向きの方向に推進力が発生することになる。故障していない側の推進機17の向きを調整することによって船体12の進行方向は調整可能であるものの、故障した推進機17が発生した推進力によって効率が悪くなる。よって、方法1では、舵機構が故障した側の推進機17のエンジン13を停止し、故障していない側の推進機17のみを用いて航行する。
すなわち、方法1では、移動制御部564は、左側スクリュープロペラ14Aおよび右側スクリュープロペラ14Bを船体の向きに対して揺動させることによって船体12の移動方向を調整する船舶10A、すなわち推進機17を利用する船舶10において、左右いずれかの推進機17の舵機構が故障し、左側スクリュープロペラ14Aまたは右側スクリュープロペラ14Bのいずれかが移動できなくなった場合、故障した側のスクリュープロペラ14を回転させる駆動部(エンジン13)を停止させ、故障していない側のスクリュープロペラ14およびこれに対応するエンジン13のみを用いて船体12を移動させる。
【0069】
(方法2)舵機構が故障していない側の推進機17についても舵機構を停止し、左右のエンジン13の出力比を調整することによって船舶10の進行方向を調整する。
方法2では、舵機構が故障した側の推進機17のエンジン13も駆動を継続する一方で、舵機構が故障していない側の推進機17の舵機構も使用を停止し、図9図12を用いて説明したように左右のエンジン13の出力比を調整することによって船舶10の進行方向を調整する。
このようにすることによって、左右両方のエンジン13を用いて航行を継続できるので、より迅速に目的地点に到達することが可能となる。
【0070】
以上説明したように、実施の形態にかかる船舶の航行システムによれば、船舶10の舵機構が故障した場合には、左右の駆動部(エンジン13A、13B)の出力およびスクリュープロペラ14A、14Bの回転方向を変更することによって船舶10の進行方向を調整するので、舵機構が故障した際にも船舶10の方向転換を行うことができ、船舶10の安全性を向上させる上で有利となる。
また、実施の形態にかかる船舶の航行システムによれば、船体12が直進するように左右のエンジン13A、13Bの出力(通常時出力)を決定し、船体12を左右いずれかに旋回させる際は、左右のエンジン13A、13Bの出力を通常時出力から増減させるので、舵機構が故障した際の操舵状況に関わらず船体12の進行方向を調整することができる。
また、実施の形態にかかる船舶の航行システムにおいて、船体12を左右いずれかに旋回させる際は、通常時出力の小さい側のエンジン13の出力を増減させるようにすれば、通常時出力の大きい側のエンジン13の出力を増減させるのと比較してエンジン13の消費エネルギーを低減する上で有利となる。
また、実施の形態にかかる船舶の航行システムにおいて、通常時出力をエンジン13の最大出力の50%以下に設定すれば、エンジン13の消費エネルギーを定常的に低減する上で有利となる。
また、実施の形態にかかる船舶の航行システムによれば、船体12の進行方向前方に障害物が検出された場合、左右のスクリュープロペラ14A、14Bを前進時と逆方向に回転させ、船体12と障害物との距離が所定距離以上となった後に障害物を迂回するように船体12を移動させるので、障害物と船体12との接触を確実に回避する上で有利となる。
また、実施の形態にかかる船舶の航行システムによれば、左右のスクリュープロペラ14A、14Bの向きを船体12に対して揺動させることによって舵を取る形式の船舶において、舵機構の故障(スクリュープロペラ14が移動できなくなる等)が検出された場合、故障した側のスクリュープロペラ14を回転させるエンジン13を停止させ、故障していない側のスクリュープロペラ14およびエンジン13のみを用いて船体12を移動させるので、エンジン13における消費エネルギーを低減しつつ船体12の進行方向を調整する上で有利となる。
また、実施の形態にかかる船舶の航行システムによれば、船舶10の航行を行なうための複数の操作部材20、22、24をそれぞれ操作する複数のアクチュエータ26、28、30を、操船席1204に着座した操船者による複数の操作部材20、22、24の手動操作を妨げない箇所に設け、操作部材制御部66Aの遠隔操作モードを選択することで、遠隔操作指令情報に基いて複数のアクチュエータ26、28、30を制御して複数の操作部材20、22、24を操作することによって、船舶10を遠隔操作することができるようにし、操作部材制御部66Aの手動操作モードを選択することで、複数の操作部材20、22、24を手動操作できるようにした。したがって、遠隔操作を行なうために船舶10の改造を行なう必要がなく、船舶10を遠隔操作可能とすることができ、船舶10を元の状態に戻すことなく操船席1204に座って手動操縦することができ、使い勝手の向上を図る上で有利となる。
【0071】
本実施の形態では、遠隔操作側制御部56が故障時制御部56Cとして機能するものとしたが、例えば船舶10が遠隔操作ではなく、自律的に自動航行している場合には、船舶10に搭載された制御部(本実施の形態における操船制御装置18)が故障時制御部56Cとして機能するようにしてもよい。
【0072】
また、本実施の形態において船舶10は、左右に1つずつ駆動部(エンジン13)を備えるものとしたが、左右にそれぞれ同数の駆動部を備える船舶であれば本発明を適用可能である。左右にそれぞれ2つ以上の駆動部が設けられた船舶に本発明を適用する場合、上述した実施の形態における「左側エンジン13Aの出力」を「左側に設けられた駆動部の出力の和」に、「右側エンジン13Bの出力」を「右側に設けられた駆動部の出力の和」に、それぞれ置き換えればよい。
【0073】
10 船舶
12 船体
13(13A、13B) エンジン
14(14A、14B) スクリュープロペラ
15(15A、15B) ラダー
16(16A、16B) 転舵アクチュエータ
17(17A、17B) 推進機
18 操船制御装置
20 イグニッションスイッチ
22 ハンドル
24 スロットルレバー
26 第1アクチュエータ
28 第2アクチュエータ
30 第2アクチュエータ
32 船舶側制御装置
44 遠隔操作装置
46 第1遠隔操作レバー
48 第2遠隔操作レバー
50 第3遠隔操作レバー
54 モード切替スイッチ
56 遠隔操作側制御部
56A 指令情報生成部
56B 報知部
56C 故障時制御部
560 故障検出部
562 障害物検出部
564 移動制御部
58 遠隔操作側通信部
60 船舶側通信部
66 制御部
66A 操作部材制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13