(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016005
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】洗浄・抗菌・除菌方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
C12N1/14 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119243
(22)【出願日】2020-07-10
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
(71)【出願人】
【識別番号】519367935
【氏名又は名称】ピコテクバイオ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520146525
【氏名又は名称】Zigen.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳則
(72)【発明者】
【氏名】大野 剛嗣
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA57X
4B065BA14
4B065BB37
4B065BC06
4B065BC07
4B065BC41
4B065CA54
(57)【要約】
【課題】アルコールや次亜塩素水を使用することなく洗浄・抗菌・除菌を行なうための方法を提供する。
【解決手段】洗浄・抗菌・除菌方法は、マイクロバルブを保持する高粘性溶液を対象位置に存在させておくことにより、前記対象位置における汚れの除去、菌の除去又は菌の増殖の抑制を行なうことを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロバルブを保持した高粘性溶液を対象位置に存在させておくことにより、前記対象位置における汚れの除去、菌の除去又は菌の増殖の抑制を行なう、洗浄・抗菌・除菌方法。
【請求項2】
前記マイクロバブルは二酸化炭素からなる、請求項1に記載の洗浄・抗菌・除菌方法。
【請求項3】
前記マイクロバブルは酸素からなる、請求項1に記載の洗浄・抗菌・除菌方法。
【請求項4】
前記高粘性溶液は24時間以上にわたって前記マイクロバブルを保持するものである、請求項1から3のいずれか一項に記載の洗浄・抗菌・除菌方法。
【請求項5】
前記高粘性溶液は水溶性のポリマー高分子である、請求項1から4のいずれか一項に記載の洗浄・抗菌・除菌方法。
【請求項6】
前記高粘性溶液はポリエチレングリコールである、請求項5に記載の洗浄・抗菌・除菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体に付着した微生物やウイルスなどの菌を除去したりその物体での菌の増殖を抑制したりする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物体に付着した一般的な汚れ(有機物、油脂、タンパク質汚れ)を除去する方法として、研磨剤を含有する薬剤を用いた洗浄が一般的である。しかし、研磨剤を含有する薬剤を用いて洗浄すると、その洗浄部分にミクロの傷が発生し、その傷に汚れが入り込んで除去しにくくなったり、傷の内側に菌が付着して増殖したりするなどの問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
物体に付着した微生物やウイルスを除去するためにアルコールを含む薬液を使用することが一般的である。しかし、ウイルス等の種類によってアルコールで無毒化できないといった問題や、アルコールが人体に悪影響を与えるといった問題がある。また、アルコールは揮発性であるため、物体にアルコールを噴霧していても、アルコールによる抗菌作用を長時間にわたって持続させることはできない。
【0004】
また、次亜塩素水を利用した除菌については、その除菌液による皮膚表面の有効細菌やカビの無作為殺菌の効果により、皮膚の炎症を併発したり、ミストを吸い込むことによって消化器や肺に機能障害をもたらしたりするなどの問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、アルコールや次亜塩素水を使用することなく洗浄・抗菌・除菌を行なうための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る洗浄・抗菌・除菌方法は、マイクロバルブを保持した高粘性溶液を対象位置に存在させておくことにより、前記対象位置における汚れの除去、菌の除去又は菌の増殖の抑制を行なうことを特徴とするものである。
【0007】
ここで、高粘性溶液とは、架橋点のあるポリマー溶液、架橋点のないポリマー溶液、水和によるジェル溶液などに代表される溶液であって、マイクロバルブを内包した状態を液体よりも長時間にわたって維持することができるものを意味する。
【0008】
マイクロバブルを利用した洗浄装置は既に知られている(例えば、特開2013-086089号公報)。特開2013-086089号公報では、洗浄槽内で洗浄液を循環させる際に、マイクロバルブ発生装置によって洗浄液にマイクロバルブを混入させることで、洗浄槽内での洗浄効果を高めることが提案されている。このような装置は、大掛かりである上、洗浄対象の物体は洗浄槽に入れられるものである必要がある。
【0009】
本発明において、高粘性溶液に混入させるマイクロバブルは二酸化炭素又は酸素からなるものであってよい。
【0010】
また、本発明における前記高粘性溶液は、24時間以上にわたって前記マイクロバブルを保持するものであることが好ましい。そのような高粘性溶液を使用することにより、洗浄・抗菌・除菌の効果を長時間にわたって維持することができ、高粘性溶液に対してマイクロバブルを供給し続ける必要がない。
【0011】
前記高粘性溶液として水溶性の高分子ポリマーを用いることができる。
【0012】
高分子ポリマーからなる前記高粘性溶液の一例は、ポリエチレングリコールである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る洗浄・抗菌・除菌方法によれば、アルコールや次亜塩素水を使用することなく洗浄・抗菌・除菌を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】二酸化炭素のマイクロバブルを混入したPEGの洗浄効果の検証画像である。
【
図2】酸素のマイクロバブルを混入したPEGの洗浄効果の検証画像である。
【
図6】酸素のマイクロバブルを含むPEGの抗菌・除菌効果の検証画像である。
【
図7】二酸化炭素のマイクロバブルを含むPEGの抗菌・除菌効果の検証画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る洗浄・抗菌・除菌方法について説明する。
【0016】
図1~
図4は、パイレックスガラスに塗布したインク(3種の油性マーカ、2種の顔料マーカ)に対するマイクロバブル含有の高粘性溶液の洗浄効果の検証画像であり、各画像のパイレックスガラスの〇付き1~5はそれぞれ、マッキー(zebra社製の油性マーカ)、マイネーム(サクラ社製)、マッキーPRO(zebra社製の油性マーカ)、マジックインキ(寺西化学社製)、マッキーケア(zebra社製の油性マーカ)によって描かれたものである。
図1~
図4の上側画像は溶液に浸漬する前の状態であり、下側画像は溶液に浸漬した後の状態である。
図1の下側画像は、二酸化炭素のマイクロバブルを混入したPEG(ポリエチレングリコール)にパイレックスガラスを24時間浸漬した後の状態、
図2の下側画像は、酸素のマイクロバブルを混入したPEGにパイレックスガラスを24時間浸漬した後の状態、
図3はマイクロバブルが混入されていないPEGにパイレックスガラスを24時間浸漬した後の状態、
図4はマイクロバブルが混入されていない超純水にパイレックスガラスを24時間浸漬した後の状態である。マイクロバブルは、特開2016-097329号公報に開示されている技術を使用することによって、PEGなどの高粘性溶液に混入させることができる。
【0017】
図5は、
図1~
図4の溶液浸漬前と溶液浸漬後の画像の1~5が描かれているそれぞれの部分の30か所についてインクの濃さを画像解析によって数値化(RGB強度)して平均値を求め、溶液浸漬前の各インクの濃さと溶液浸漬後の各インクの濃さとの差分に基づいて各溶液による洗浄率を求めてグラフ化したものである。洗浄率は、洗浄前と洗浄後のインクの位置の画像のRGB強度を測定し、次式を用いた計算により求めることができ、2以上で洗浄効果があると評価することができる。
洗浄率=(洗浄前の各部分のRGB強度の和)/(洗浄後の各部分のRGB強度の和)
【0018】
図5の検証結果によれば、二酸化炭素のマイクロバブル又は酸素のマイクロバブルを含むPEGは、マッキー(zebra社製の油性マーカ)、マッキーPRO(zebra社製の油性マーカ)、マジックインキ(寺西化学社製)、マッキーケア(zebra社製の油性マーカ)に対して洗浄効果があることを示している。一方で、マイクロバブルを含まないPEGや超純水は、マッキーPRO(zebra社製の油性マーカ)に対してのみある程度の洗浄効果があることを示しているものの、それ以外のインクに対しては洗浄効果を示していない。この結果から、PEGのような高粘性溶液にマイクロバブルを混入させることによって、洗浄効果が向上することがわかる。
【0019】
なお、洗浄液にマイクロバブルを混入させることによって洗浄効果が向上することは知られている。しかし、洗浄液が高い洗浄効果を維持するためには、洗浄液に対してマイクロバブルを供給し続ける必要があり、洗浄中も大掛かりな装置が必要となる。一方、PEGのような高粘性溶液は、混入させたマイクロバブルを長時間(例えば、24時間)にわたって保持することが可能であるため、洗浄中にマイクロバブルを供給し続ける必要がない。
【0020】
図6~
図8はそれぞれ、真菌の24時間後の増殖状況を示す検証画像である。
図6~
図8のそれぞれの左側画像は標準寒天培地(サニスペック生内地(アズワン))に真菌を配置して24時間放置した画像である。
図6の右側画像は酸素のマイクロバブルを含むPEGを混ぜ込んだ培地に真菌を配置して24時間放置した画像であり、
図7の右側画像は二酸化炭素のマイクロバブルを含むPEGを混ぜ込んだ培地に真菌を配置して24時間放置した画像であり、
図8の右側画像はマイクロバブルを含まないPEGを混ぜ込んだ培地に真菌を配置して24時間放置した画像である。
【0021】
図9は、
図6~
図8の検証画像の各容器内において真菌により形成されたコロニー数(個/cm
2)と培地との関係性を示すグラフである。
図9のグラフから、培地にPEGを混ぜ込むことによって真菌の増殖が抑制されており、培地に混ぜ込まれたPEGがマイクロバブルを含んでいることによって真菌の増殖がさらに抑制されていることがわかる。このことから、マイクロバブルを含むPEGなどの高粘性溶液には、菌の除去及び増殖の抑制効果があることが示された。
【0022】
既述のように、PEGなどの高粘性溶液はマイクロバブルを長時間にわたって保持することができるので、マイクロバブルを混入させた高粘性溶液を存在させておくことで、長時間にわたって抗菌・除菌効果を維持することができる。
【0023】
上記の説明では、PEGを高粘性溶液の例として挙げて説明したが、ヒドロキシエチルセルロース(Hydroxyethyl Cellulose, HEC)、ポリアクリルアミドなどの水溶性高分子ポリマー、又は、天然由来のセルロースやゼラチンなどの天然ポリマー水溶液にマイクロバブルを混入しても同様の効果が得られる。また、酸素ガス、二酸化炭素ガスのほか、窒素ガス又はこれらの混合ガスのマイクロバブルを高粘性溶液に混入させても同様の効果が得られる。