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特開2022-160119土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法
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  • 特開-土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160119
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20221012BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221012BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20221012BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/689 Z
C12N15/09 Z
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064659
(22)【出願日】2021-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】根岸 敦規
(72)【発明者】
【氏名】北條 紗也
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR75
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】鉄酸化能を有する細菌を選択的に検出してその菌数を迅速に測定しうる、土壌中の鉄酸化能を有する細菌の検出・測定方法を提供すること
【解決手段】土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法であって、土壌中から微生物群を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出された微生物群に含まれるDNAを鋳型として鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を定量PCR法により定量的に増幅する増幅工程と、前記増幅工程において閾値に達するまでかかったサイクル数(Ct値)を、予め求めた関係式に代入して前記微生物群中の鉄酸化能を有する細菌数を算出する細菌数算出工程と、を有し、前記関係式が、菌数既知の段階希釈試料に含まれるDNAを鋳型として定量PCR法を行い、閾値に達するまでに要したサイクル数(Ct値)と各段階希釈試料に含まれる前記既知の菌数とに基づいて導き出される式である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中から微生物群を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程で抽出された微生物群に含まれるDNAを鋳型として鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を定量PCR法により定量的に増幅する増幅工程と、
前記増幅工程において閾値に達するまでかかったサイクル数(Ct値)を、予め求めた関係式に代入して前記微生物群中の鉄酸化能を有する細菌数を算出する細菌数算出工程と、を有し、
前記関係式が、菌数既知の段階希釈試料に含まれるDNAを鋳型として定量PCR法を行い、閾値に達するまでに要したサイクル数(Ct値)と各段階希釈試料に含まれる前記既知の菌数とに基づいて導き出される式であることを特徴とする、土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法。
【請求項2】
前記抽出工程で使用される抽出溶媒が硫酸および硫酸化合物水溶液から選択される少なくとも1種の酸性抽出溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法。
【請求項3】
前記鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域として、rusticyaninをコードする遺伝子のDNA領域を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法。
【請求項4】
前記増幅工程において、
配列番号1で示される塩基配列を含むヌクレオチドで構成されるフォワードプライマーおよび配列番号2で示される塩基配列を含むヌクレオチドで構成されるリバースプライマーのプライマーセット、ならびに
配列番号3で示される塩基配列を含むヌクレオチドで構成されるフォワードプライマーおよび配列番号4で示される塩基配列を含むヌクレオチドで構成されるリバースプライマーのプライマーセットのいずれか一方により前記鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を増幅することを特徴とする請求項3に記載の鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法に関し、特に、定量PCR法により土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場排水、工場跡地などに由来する汚染物質は、PCB、BHC、DDT等の難分解性有機化合物、鉄、クロム、マンガン、亜鉛、水銀等の金属イオン等多岐に渡り種々のものが存在しており、工業排水の浄化および工場跡地からの汚染物質の拡散防止の観点から、それらの汚染物質は除去されなければならない。
【0003】
上記汚染物質に含まれる水銀を除去する従来技術として、水銀耐性鉄酸化細菌を用いた汚染土壌の浄化方法が存在する。この方法によれば、水銀耐性の鉄酸化細菌は鉄の酸化だけでなく、水銀イオン(Hg2+)の金属水銀(Hg)への還元能を有することから、水銀耐性鉄酸化細菌の培養とともに鉄イオンが酸化されることで、水銀イオンが金属水銀に還元されて気化し、水銀化合物および/または水銀イオンで汚染された土壌または汚染水が浄化される。
【0004】
ところで、このように鉄酸化細菌により土壌中の水銀を除去するにあたり、土壌中に添加した菌が少ないと処理効率に影響するため、適切な濃度で鉄酸化細菌が土壌中に存在するか、処理時に確認する必要がある。また、水銀除去処理の終了後には環境中に鉄酸化細菌が残存するとこれもまた問題となるため、処理後の土壌中に鉄酸化細菌が残存していないか確認する必要がある。
【0005】
従来、土壌中の鉄酸化細菌の同定は、土壌に水溶液を混ぜ、上澄みを鉄酸化細菌の培養液である9K培地に導入し、培養液の濁りから細菌の有無を判定していた。また、定量に関しては、さらに希釈法と顕微鏡観察により行っていた。
【0006】
しかし、このような同定方法では、土壌中の鉄酸化細菌を同定し、定量するまでに非常に手間と時間がかかる。
【0007】
また、特許文献1は、耐塩性の新規な鉄酸化細菌の16sリボゾームRNA遺伝子領域内のDNAを増幅することで、鉄酸化細菌を検出することを開示する。この方法によれば、上記の培養法、希釈法および顕微鏡観察よりも迅速に鉄酸化細菌の数を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-73646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の鉄酸化細菌は耐塩性鉄酸化細菌であるから、水銀汚染土壌で生息できる水銀耐性鉄酸化細菌のDNAを効果的に増幅できるかどうかは不明である。一般に16sリボゾームRNAはよく用いられるものの、耐塩性鉄酸化細菌の16sリボゾームRNAの塩基配列が水銀耐性鉄酸化細菌の16sリボゾームRNAにおいてもよく保存されているかは不明であるからである。
【0010】
上記課題を鑑みた本願発明の目的は、鉄酸化能を有する細菌を選択的に検出してその菌数を迅速に測定しうる、土壌中の鉄酸化能を有する細菌の検出・測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的達成に向け鋭意検討を行った。その結果、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子のDNA領域を鋳型としてPCRで増幅すれば、増幅されたDNAを有する細菌は必ず鉄酸化能を有することを着想し、その検証を行い、さらに定量PCR法による菌数の迅速同定・定量手法とを組み合わせた結果、上記課題を全て解決し得ることを見出し、なされたものである。
【0012】
すなわち、上記目的を達成するための請求項1に記載の発明の土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法は、
土壌中から微生物群を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出された微生物群に含まれるDNAを鋳型として鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を定量PCR法により定量的に増幅する増幅工程と、前記増幅工程において閾値に達するまでかかったサイクル数(Ct値)を、予め求めた関係式に代入して前記微生物群中の鉄酸化能を有する細菌数を算出する細菌数算出工程と、を有し、前記関係式が、菌数既知の段階希釈試料に含まれるDNAを鋳型として定量PCR法を行い、閾値に達するまでに要したサイクル数(Ct値)と各段階希釈試料に含まれる前記既知の菌数に基づいて導き出される式であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、土壌中から抽出された微生物群に含まれるDNAを鋳型として、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を増幅することから、鉄酸化酵素系の遺伝子を有する微生物、すなわち、鉄酸化能を有する細菌を選択的に検出することができる。また、予め求めた関係式は段階希釈試料中の菌数と、この段階希釈試料に含まれるDNAを鋳型として定量PCRを行い、一定の閾値に達するまでに要したサイクル数(Ct値)と、の関係式であることから、増幅工程において閾値に達するまでかかったサイクル数(Ct値)をこの関係式に代入することで微生物群中の鉄酸化能を有する細菌の細菌数を算出することができ、且つ、この鉄酸化能を有する細菌の選択的検出および菌数の算出を、抽出工程、増幅工程および細菌数算出工程により迅速に行うことが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法において、前記抽出工程で使用される抽出溶媒が硫酸および硫酸化合物水溶液から選択される少なくとも1種の酸性抽出溶媒であることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、抽出工程で使用される抽出溶媒が硫酸または硫酸化合物水溶液から選択される少なくとも1種の酸性抽出溶媒であることから、抽出時の鉄酸化細菌の活性を高く維持することができ、抽出工程での鉄酸化細菌の抽出率が向上する。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法において、前記鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域として、rusticyaninをコードする遺伝子のDNA領域を用いることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、rusticyaninは鉄酸化酵素をコードする遺伝子であることから、rusticyaninの遺伝子領域を増幅できた場合、鋳型となるDNAを含む微生物が鉄酸化能を有する細菌であると断定することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法において、前記増幅工程において、配列番号1で示される塩基配列を含むヌクレオチドで構成されるフォワードプライマーおよび配列番号2で示される塩基配列を含むヌクレオチドで構成されるリバースプライマーのプライマーセット、ならびに配列番号3で示される塩基配列を含むヌクレオチドで構成されるフォワードプライマーおよび配列番号4で示される塩基配列を含むヌクレオチドで構成されるリバースプライマーのプライマーセットのいずれか一方により前記鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を増幅することを特徴とする。
【0019】
この発明は、請求項3の発明におけるrusticyaninをコードする遺伝子の増幅すべき領域を具体的に特定したものであり、これによれば、rusticyaninの遺伝子の特定の領域をそれぞれ確実に増幅することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、土壌中から抽出された微生物群に含まれるDNAを鋳型として、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を増幅することから、鉄酸化酵素系の遺伝子を有する微生物、すなわち、鉄酸化能を有する細菌を選択的に検出することができる。また、予め求めた関係式は段階希釈試料中の菌数と、この段階希釈試料に含まれるDNAを鋳型として定量PCRを行い、一定の閾値に達するまでに要したサイクル数(Ct値)と、の関係式であることから、増幅工程において閾値に達するまでかかったサイクル数(Ct値)をこの関係式に代入することで微生物群中の鉄酸化能を有する細菌の細菌数を算出することができ、且つ、この鉄酸化能を有する細菌の選択的検出および菌数の算出を、抽出工程、増幅工程および細菌数算出工程により迅速に行うことが可能となる。
【0021】
したがって、鉄酸化細菌により土壌中の水銀を除去する場合には、鉄酸化細菌を水銀汚染土壌に添加後、この水銀除去処理の間に適切な濃度で鉄酸化細菌が土壌中に存在するかを速やかに確認してさらに鉄酸化細菌を添加すべきかどうかを判断することができ、鉄酸化細菌による水銀除去処理の終了後には処理後の土壌中に鉄酸化細菌が残存していないかを速やかに確認できることから、水銀除去処理の工期の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法のフローチャートである。
図2】プライマーセットIを用いた定量PCRにより作成した、Ct値と鉄酸化酵素系に関与する遺伝子を含むプラスミドDNA数(菌数)との関係から算出した関係式を示す図である。
図3】プライマーセットIIを用いた定量PCRにより作成した、Ct値と鉄酸化酵素系に関与する遺伝子を含むプラスミドDNA数(菌数)との関係から算出した関係式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法のフローチャートである。本発明の土壌中からの鉄酸化能を有する細菌の菌数測定方法は、抽出工程と、増幅工程と、細菌数算出工程と、を有する。
【0024】
[抽出工程(S100)]
本工程では、土壌中から微生物群を抽出する。土壌は、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を有する細菌が存在する土壌であれば、どのような土壌であってもよい。この細菌が自然に存在する土壌であっても、例えば、汚染土壌の浄化目的で鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を有する細菌が人為的に添加された土壌であってもよい。
【0025】
抽出は、微生物群を土壌中の砂、シルト、粘土などから微生物群を抽出可能な溶媒であればどのような溶媒であってもよい。抽出時の微生物群の活性低下や死滅を避ける観点から、水系の溶媒が好ましい。また、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を有する細菌の代表的なものとしては、Acidithiobacillus ferrooxidans(以下、A.ferrooxidansともいう)が挙げられ、A.ferrooxidansがpH2.0から3.5の酸性条件化で最も生育することから、pH5以下、好ましくはpH3.5以下の酸性溶媒がさらに好ましく、さらに栄養源としての硫黄を含むことから、硫酸および硫酸化合物水溶液から選択される少なくとも一種の酸性抽出溶媒であることが特に好ましい。
【0026】
抽出操作は、上記溶媒に土壌を添加し、混和攪拌することにより行う。混和攪拌時間は、例えば、1時間以上10時間以下であり、好ましくは2時間以上9時間以下、特に好ましくは3時間以上8時間以下である。抽出操作の間の温度は、例えば、5℃以上40℃以下であり、好ましくは15℃以上35℃以下であり、好ましくは25℃以上30℃以下である。
【0027】
その後、土壌の固形物と液体成分が分離するまで静置し、上澄み液を微生物群として採取する(以上、抽出工程(S100))。
【0028】
[増幅工程(S110)]
本工程では、抽出工程(S100)で抽出された微生物群に含まれるDNAを鋳型として鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を定量PCR法により定量的に増幅する。
【0029】
鉄酸化酵素系に関与する遺伝子としては、鉄酸化酵素系をコードする遺伝子であればどのようなものであってもよいが、例えば、A.ferrooxidansのJCM17309株から発見された高ポテンシャルの鉄硫黄タンパク質Iroをコードする遺伝子、同標準株ATCC33020株から発見されたHipをコードする遺伝子、同ATCC23270株(および同ATCC33020株)の青色の銅たんぱく質rusticyanin(RusA)、シトクロムc(Cyc1、Cyc2)をコードする遺伝子、同JCM17309株の青色の銅たんぱく質rusticyanin(RusB)をコードする遺伝子が挙げられる。
【0030】
中でも、選択性の観点から、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子が、A.ferrooxidansのrusticyanin(RusAおよびRusB)をコードする遺伝子からなる群から選択されることが好ましい。
上記鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域をPCRにより増幅するために、プライマーセットを設計する。プライマーセットは、フォワードプライマーおよびリバースプライマーからなる一組の鋳型DNAの特定領域増幅反応用プライマーペアである。
【0031】
フォワードプライマーは、上記鉄酸化酵素系に関与する遺伝子の開始コドンを含むセンス鎖側の塩基配列を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーは、上記鉄酸化酵素系に関与する遺伝子の3’末端付近のアンチセンス鎖側の塩基配列の一部を含むヌクレオチドからなる。
【0032】
プライマーセットとしては、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域をPCRにより特異的に増幅できるプライマーセットであればどのようなものであってもよいが、好ましくは、配列番号1で示される塩基配列(5’-GATGGCCGGTACTCTGGATA-3’)を含むヌクレオチドで構成されるフォワードプライマーおよび配列番号2で示される塩基配列(5’-AATCTCCAAGGTCGGGTTCT-3’)を含むヌクレオチドで構成されるリバースプライマーのプライマーセット、ならびに配列番号3で示される塩基配列(5’-CATATGTATACACAGAACACGATGAAAA-3’)を含むヌクレオチドで構成されるフォワードプライマーおよび配列番号4で示される塩基配列(5’-CTTGACAACGATCTTACCGAACATA-3’)を含むヌクレオチドで構成されるリバースプライマーのプライマーセットのいずれか一方が選択される。
【0033】
定量PCR法は、その産物を迅速に定量できるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の改良型であり、核酸の増幅が行われる前の総量を間接的に測る方法である。
【0034】
定量PCR法としては、例えば、アガロースゲル電気泳動法やリアルタイムPCR法が挙げられるが、菌数の迅速同定・定量の観点から、リアルタイムPCR法を採用することが好ましい。リアルタイムPCR法は、PCRによる増幅を経時的(リアルタイム)に測定することで、増幅率に基づいて鋳型となるDNAの定量を行なう手法である。
【0035】
リアルタイムPCR法としては、例えば、二本鎖DNAの間に挿入(インターカレーション)する蛍光分子を用いてDNA増幅量を調べるインターカレーション法(SYBR Green法)や、FRET(蛍光共鳴エネルギー)を利用してDNA増幅の測定を行うTaqMan Probe法(加水分解プローブ法)などが挙げられる。
【0036】
リアルタイムPCR法を行うための試薬類は市販されており、それらの市販試薬を用い、説明書きに従ってリアルタイムPCR法を実施することができる。
【0037】
例えば、SYBR Green法であれば、SYBR Premix Ex Taq II(Tli RNaseH Plus)(Takara Bio,Japan)を用いることができ、TaqMan Probe法であれば、Custom TaqMan MGB プロ―ブ(Thermo Fisher Scientific)を用いることができる。
【0038】
また、リアルタイムPCR法を用いる場合、その条件は、PLOS ONE,第8巻9号第1~9頁,2014年8月21日発行(Shunsuke Takahashiら著)を参考に設定することができる(以上、増幅工程(S110))。
【0039】
[細菌数算出工程(S120)]
本工程では、増幅工程(S110)において閾値(一定の増幅量)に達するまでかかったサイクル数(Ct値)を、予め求めた関係式に代入して前記微生物群中の鉄酸化能を有する細菌数を算出する。
【0040】
関係式は、菌数既知の段階希釈試料に含まれるDNAを鋳型として定量PCR法を行い、閾値に達するまでに要したサイクル数(Ct値)と各段階希釈試料に含まれる前記既知の菌数とに基づいて導き出される式である。以下に関係式の求め方の一例を説明する。
【0041】
まず、鋳型DNAとして、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を含むプラスミドを用意する。これは、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を、適当なプラスミドベクターにクローニングすることにより得られる。
【0042】
鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域は、例えば、A.ferrooxidansのJCM17309株、同ATCC33020株、同ATCC23270株のゲノムDNAを鋳型とし、これを上記鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を増幅させるプライマーを適宜に設計し、このプライマーを用いてPCRを行うことで、増幅されたDNA断片として得ることができる。なお、JCM17309株、ATCC33020株、ATCC23270株は、菌株分譲機関より入手することができる。
一方、プラスミドベクターは、pET系プラスミドベクター、pUCプラスミドベクターなど、種々の市販品を任意に選択し、このプラスミドベクターの説明書きに従い、増幅されたDNA断片をクローニングすることができる。
【0043】
得られた鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を含むプラスミドは、大腸菌のコンピテントセルを用いてこの大腸菌内に導入し、このプラスミドを含む大腸菌を増殖させ、プラスミドDNAを抽出する。
【0044】
抽出された鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を含むプラスミドDNAを定量し、定量されたプラスミドDNAの質量を、クローニングされたDNA断片(鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域)を有するプラスミドの分子量で除し、さらにアボガドロ定数(6.03×1023)を乗ずることで、プラスミドDNAの数を求めることができる。そして、A.ferrooxidansの上記鉄酸化酵素系に関与する遺伝子のコピー数が1であることが判明しているので、A.ferrooxidansを用いる場合、このプラスミドDNA数を菌数とみなすことができる。
【0045】
次に、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子領域を含むプラスミドDNAを段階希釈して複数の段階希釈試料を作成し、この複数の段階希釈試料についてそれぞれ定量PCRを行い、各試料のCt値を求める。定量PCRは、例えば、リアルタイムPCR法により行うことができ、その場合、PCR条件はPLOS ONE,第8巻9号第1~9頁,2014年8月21日発行(Shunsuke Takahashiら著)を参考に設定することができる。
【0046】
各試料のCt値および菌数を、Ct値を縦軸、菌数を横軸としてグラフにプロットし、最小二乗法により得られた回帰式を上記関係式とすることができる。なお、得られた関係式の信頼性は、例えば、決定係数(R)が0.9以上であること、好ましくは0.99以上であることをもって判断する。
【0047】
以上のようにして予め求めた関係式に増幅工程(S110)において閾値に達するまでかかったCt値を代入することで、微生物群中の鉄酸化能を有する細菌数を算出する。
【0048】
なお、仮に鉄酸化酵素系に関与する遺伝子のコピーがn個存在する鉄酸化細菌が存在し、微生物群中の、鉄酸化酵素系に関与する遺伝子のコピーがn個存在する鉄酸化細菌を検出する場合、算出された細菌数を1/nとする補正を行えばよい。
【実施例0049】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
<1.関係式の作成>
1-1.rusticyanin遺伝子領域を導入したプラスミドの作成
rusticyanin遺伝子を有する鉄酸化能を有する細菌(Acidithiobacillus ferridurans ATCC33020株)を理化学研究所から入手し、これをpH=3に調整した9K培地で30℃、24時間振とうの条件で培養した。なお、9K培地の組成は以下のとおりである。
【0051】
9K培地の組成
HPO 0.5g
(NHSO 3.0g
KCl 0.1g
MgSO・7HO 0.5g
FeSO・7HO 50.0g
Ca(NO 10.0mg
10N HSO 1.0ml
蒸留水 1.0L
【0052】
培養液からISOIL for Beads Beating(Nippon Gene,Japan)を用いてDNAを抽出し、この抽出したDNAを鋳型として、rusticyanin遺伝子領域(それぞれ、配列番号5で示す領域、配列番号6で示す領域)をPCR法によりそれぞれ増幅した。
【0053】
PCR条件
各PCR反応混合物(25μL)は、20ngのゲノムDNA、2×MightyAmp Buffer Ver.2(Takara)、0.25μMの各プライマー、および1.25ユニットのMightyAmp DNAポリメラーゼ(Takara)を含み、サイクル条件は、98℃2分の初期変性と、これに続く98℃10秒、55℃15秒および68℃1分の35サイクルとした。
【0054】
増幅産物(3μL)を1μL EZ-Vision One DNA Dye(Amresco Inc.、USA)と混合し、2%アガロースゲルでの電気泳動により分離して、予想される分子量の単一産物の生成を確認した。
【0055】
PCR産物は、Econo Spin IIa(Gene Design、Japan)を使用して精製し、SIID31972(プラスミド)にクローニングし、E.coli HST08 Premium Competent Cells(Takara)に導入した。
【0056】
そして、アンピシリン(100μg/ml)を添加したLB寒天培地で陽性形質転換体を選択し、予想される挿入DNAを持つプラスミドを含むことがPCRによって確認された単一のコロニーをアンピシリン(100μg/ml)を添加した5mLのLB培地で一晩増殖させた。
【0057】
培養物を7,6106×gで遠心分離して細胞をペレット化し、QIAprep Spin miniprepキットを製造者(Qiagen)の説明書に従って使用し、プラスミドDNAを細胞から抽出した。精製されたプラスミドを、ND-1000装置(Thermo Fisher Scientific)を用いて定量した。抽出したプラスミドDNAに存在するrusticyanin遺伝子の数は、定量したDNA濃度および挿入されたDNA断片を有するSIID31972の分子量に基づき算出した。
【0058】
1-2.配列番号1,2のプライマーセットを用いた関係式の作成
「1-1.rusticyanin遺伝子領域を導入したプラスミドの作成」で得られたプラスミドのうち配列番号5で示す領域を含むものを段階的に希釈した希釈試料1~5を各2個ずつ作成した。それぞれ、希釈濃度は、以下の表1のとおりである。
【0059】
【表1】
【0060】
これらの希釈試料1~5のプラスミドDNAを鋳型として、配列番号1のフォワードプライマーおよび配列番号2のリバースプライマーからなるプライマーセット(以下、プライマーセットIともいう)を用い、リアルタイムPCRを行った。
【0061】
各プライマーの配列およびPCR条件は以下のとおりである。
【0062】
各プライマーの配列(5’-3’)
配列番号1(fw):GATGGCCGGTACTCTGGATA
配列番号2(rev):AATCTCCAAGGTCGGGTTCT
【0063】
PCR条件
リアルタイムPCRは、SYBR Premix Ex Taq II(Tli RNaseH Plus)(Takara Bio,Japan)を使用してRotor-GeneQ定量サーマルサイクラー(QIAGEN)で実行した。
【0064】
各反応混合物(20μl)は、上記各試料2.0μlと0.2mMの各プライマーを含んでいた。
リアルタイムPCRのサイクル条件は、95℃30秒の初期変性、続く95℃5秒、60℃20秒および72℃20秒の35サイクルである。
【0065】
この結果から、各希釈段階における増殖曲線(図示せず)を作成し、蛍光増加が確認されなかったサイクル間にベースラインを設定し、閾値と増幅曲線の交わる点をThreshold cycle(Ct値)として縦軸にとり、上記各希釈試料のプラスミドDNA数(菌数)を横軸としてプロットし、検量線1(関係式)を作成した。この検量線1を図2に示す。
【0066】
1-3.配列番号3,4のプライマーセットを用いた関係式の作成
「1-1.rusticyanin遺伝子領域を導入したプラスミドの作成」で得られたプラスミドのうち配列番号6で示す領域を含むものを段階的に希釈した希釈試料1~5を各2個ずつ作成した。それぞれ、希釈濃度は、以下の表2のとおりである。
【0067】
【表2】
【0068】
表2の希釈試料1~5のプラスミドDNAを鋳型として、配列番号3のフォワードプライマーおよび配列番号4のリバースプライマーからなるプライマーセット(以下、プライマーセットIIともいう)を用い、リアルタイムPCRを行った。
【0069】
各プライマーの配列およびPCR条件は以下のとおりである。
【0070】
各プライマーの配列(5’-3’)
配列番号3(fw):CATATGTATACACAGAACACGATGAAAA
配列番号4(rev):CTTGACAACGATCTTACCGAACATA
なお、PCR条件は検量線1の製造時の条件と同一である。
【0071】
この結果から、検量線1同様、Ct値を縦軸、上記各希釈試料のプラスミドDNA数(菌数)を横軸としてプロットし、検量線2(関係式)を作成した。この検量線を図3に示す。
【0072】
図2および図3に示すように、配列番号5で示す領域を含むものおよび配列番号6で示す領域を含むものについて、それぞれ対応するプライマーセットを用い、信頼性の高いそれぞれの関係式を求めることができた。
【0073】
<2.土壌中の鉄酸化細菌の定量>
A.ferrooxidansのMON-1株(受領機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター、受領日:2021年3月25日、受領番号:NITE AP-03451)を土壌に添加・混合し、30℃の恒温室内で2週間放置した。2週間後、この土壌10gを採取し、0.05%硫酸酸性溶液に投入し、6時間混和攪拌後、上澄み液を採取した。なお、A.ferrooxidansのMON-1株は、日本の温泉地の土壌から採取されたA.ferrooxidansのSUG 2-2株をHg2+濃度を増加させた培地で培養し、単離した水銀耐性菌であって、20μMのHg2+を含む二価鉄無機塩培地でも生育する高度水銀耐性能を示す株である。
【0074】
採取した上澄み液を10,000rpm以上で10分間遠心分離し、沈殿物を採取した。採取した沈殿物を2区分に分け、土壌サンプルNo.1、No.2とした。
【0075】
この各土壌サンプルからISOIL for Beads Beating kit(Nippon Gene,Japan)を用いてその説明書きに従い抽出した。
【0076】
得られた抽出物をDNeasy PowerClean Pro Cleanup Kit(QIAGEN,GER)を用いてその説明書きに従い精製し、PCR用のDNAの精製物を得た。
次に、土壌サンプルNo.1から得られたDNA精製物を鋳型とし、配列番号1,2のプライマーセットを用いてリアルタイムPCRを行った。
【0077】
リアルタイムPCRは、SYBR Premix Ex Taq II(Tli RNaseH Plus)(Takara Bio,Japan)を使用してRotor-GeneQ定量サーマルサイクラー(QIAGEN)で実行した。
【0078】
PCR条件は以下のとおりである。
【0079】
反応混合物(20μl)は、土壌サンプルNo.1から得られたDNA精製物2.0μlと0.2mMの配列番号1,2の各プライマーを含んでいた。
【0080】
リアルタイムPCRのサイクル条件は、95℃30秒の初期変性、続く95℃5秒、60℃20秒および72℃20秒の35サイクルである。
【0081】
この結果から、増殖曲線(図示せず)を作成し、閾値(Threshold Line)と増幅曲線が交わる点をThreshold cycle(Ct値)として求めた。
【0082】
このCt値を検量線1の関係式(図2参照)に代入し、遺伝子コピー数(菌数)を求めた。
【0083】
同じく、土壌サンプルNo.2から得られたDNA精製物を鋳型とし、配列番号3,4のプライマーセットを用いてリアルタイムPCRを行った。PCR条件は土壌サンプルNo.1を用いた場合とプライマーセットが異なることを除き同一であるから、その記載は省略する。
【0084】
リアルタイムPCRの結果から求めたCt値を検量線2の関係式(図3参照)に代入し、rusticyanin遺伝子の数(菌数)を求めた。
【0085】
結果を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表3中、初期値は土壌にA.ferrooxidansのMON-1株を添加した直後の添加菌数である。表2に示すように、プライマーセットI、IIのそれぞれの関係式を用いて菌体数を算出した場合の相互の誤差が10%以内であり、高い精度で菌体数を定量できたことがわかる。
図1
図2
図3
【配列表】
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