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特開2022-160135リグノセルロース系バイオマス分解促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160135
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】リグノセルロース系バイオマス分解促進剤
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/10 20160101AFI20221012BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20221012BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20221012BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K10/30
A23K10/16
C12P19/14 A
C12N1/20 D
C12N1/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064695
(22)【出願日】2021-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000127879
【氏名又は名称】株式会社エス・ディー・エス バイオテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冷牟田 修一
(72)【発明者】
【氏名】疋田 千枝
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
2B005BA01
2B150AA02
2B150AC16
2B150BB05
2B150CA11
2B150CA22
2B150CA31
2B150CE25
2B150DD40
2B150DD42
2B150DD45
4B064AF11
4B064CA01
4B064CA21
4B064CB07
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AC14
4B065CA19
4B065CA31
4B065CA55
(57)【要約】
【課題】本発明は、リグノセルロース系バイオマスを効率よく分解させるための資材を提供することを課題とする。
【解決手段】1)リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、2)カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを含む、リグノセルロース系バイオマス分解促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、2)カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを含む、リグノセルロース系バイオマス分解促進剤。
【請求項2】
リグニン分解酵素がマンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、フェノールオキシダーゼ、又はこれらの混合物である、請求項1に記載のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤。
【請求項3】
前記微生物が反芻動物のルーメン内在微生物である、請求項1又は2に記載のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤。
【請求項4】
リグノセルロース系バイオマスに、1)リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、2)カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを作用させることを特徴とする、リグノセルロース系バイオマス分解促進方法。
【請求項5】
カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを有効成分とする、反芻動物のルーメン内でのリグノセルロース系バイオマス分解促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業分野、自然資源分野、環境分野等に関し、具体的には、リグノセルロース系バイオマスの分解を促進するための資材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策や廃棄物の有効活用の観点から植物資源を原料とするバイオマスの利用が注目されている。一般に、バイオマスからエタノール等の化合物を製造するための原料としては、サトウキビ等の糖質やトウモロコシ等の可食デンプン以外に、リグノセルロース系バイオマスを用いることが検討されている。リグノセルロース系バイオマスはリグノセルロースを主成分として含むが、リグノセルロースはセルロース、ヘミセルロース、リグニンが強固に結合した構造をしており、発酵に使用可能である五炭糖又は六炭糖やオリゴ糖に分解するのは容易ではない。通常、リグノセルロース系バイオマスからエタノール等の化合物を製造する場合には、酵素による糖化が必要であるために、主成分であるリグノセルロースを分解するための前処理が必要である。前処理方法としては、例えば、粉砕、爆砕、蒸煮、マイクロ波照射、ガンマ線照射、電子線照射、希硫酸処理、アルカリ処理、ソルボリシス処理等が挙げられるが、これらの前処理方法は、エネルギーの投入量が大きい、前処理による糖の損失が大きい、有害物質による環境負荷が大きい、発酵阻害物質が副産物として生成される、等の問題点がある。一方、前処理方法として、リグノセルロース中のリグニンを分解できる酵素や当該酵素を保持する微生物を用いる方法が知られている(例えば、特許文献1、2)が、その分解効率は十分ではない。
【0003】
一方、カシューナッツ殻油は動物用飼料の成分として利用され、その健康増進効果や疾病防除効果が知られている(例えば、特許文献3~6)が、これまでに、カシューナッツ殻油のリグニン分解に対する効果は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-37469号公報
【特許文献2】特開2012-175911号公報
【特許文献3】WO2008/149992号パンフレット
【特許文献4】WO2008/149994号パンフレット
【特許文献5】WO2009/139468号パンフレット
【特許文献6】WO2010/053085号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスを効率よく分解するための資材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、カシューナッツ殻油(以下、CNSLと略すこともある)、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールをリグニン分解酵素またはそれを含む微生物に配合することで、リグノセルロース系バイオマス中のリグニンの分解が顕著に促進されることを見出した。本発明者らは、このような知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
<1>
1)リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、2)カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを含む、リグノセルロース系バイオマス分解促進剤。
<2>
リグニン分解酵素がマンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、フェノールオキシダーゼ、又はこれらの混合物である、<1>に記載のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤。
<3>
前記微生物が反芻動物のルーメン内在微生物である、<1>又は<2>に記載のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤。
<4>
リグノセルロース系バイオマスに、1)リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、2)カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを作用させることを特徴とする、リグノセルロース系バイオマス分解促進方法。
<5>
カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを有効成分とする、反芻動物のルーメン内でのリグノセルロース系バイオマス分解促進剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールをリグニン分解酵素またはそれを含む微生物と組み合わせてリグノセルロース系バイオマスに作用させることで、リグノセルロース系バイオマス表面のリグニンの構造変化と分解が促進し、内部のセルロースやヘミセルロースの利用が容易になる。これにより、リグノセルロース系バイオマスの利用効率を向上させることができる。また、反芻動物のルーメン内でのリグノセルロース系バイオマスの分解を促進し、飼料効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ウシルーメン液中でのティモシーの繊維質消化率とリグニン含量を示すグラフ。コントロールとCNSL添加時を比較した。
図2】ウシルーメン液中でインキュベートされたティモシーのモイレ染色の結果を示す写真。コントロールとCNSL添加時を比較した。
図3】ウシルーメン液中でインキュベートされたティモシーのウィスナー染色の結果を示す写真。コントロールとCNSL添加時を比較した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリグノセルロース分解促進剤は、1)リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、2)カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを含むことを特徴とする。
【0011】
リグノセルロースは植物細胞壁の成分であり、主にセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンからなる。リグノセルロース中のセルロースはβ-1,4グルコースからなる直鎖状のポリマーが水素結合で束になった強固な結晶構造をとっている。
本発明において、「リグノセルロース系バイオマス」とは、主成分としてリグノセルロースを含むものである。リグノセルロース系バイオマスとしては、例えば、針葉樹(例えば、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジ
アータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック及びこれらの関連樹種等)、広葉樹(例えば、アスベン、アメリカンブラックチェリー、イエローポプラ、ウォールナット、カバザクラ、ケヤキ、シカモア、シルバーチェリー、タモ、チーク、チャイニーズエルム、チャイニーズメープル、ナラ、ハードメイプル、ヒッコリー、ピーカン、ホワイトアッシュ、ホワイトオーク、ホワイトバーチ、レッドオーク及びこれらの関連樹種等)、イネ、ムギ、トウモロコシ、パイナップル、オイルパーム、キャッサバ、サトウキビ等の農産物及びその廃棄物;ケナフ、綿等の工業植物及びその廃棄物; アルファルファ、ティモシー等の飼料作物; エリエンサス、タケ、ササ等が挙げられ、これらに限定されない。これらのリグノセルロース系バイオマスは単独であってもよく、複数種類の混合物であってもよい。
【0012】
リグニン分解酵素としてはリグニンを分解できる限り特に制限されないが、マンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、フェノールオキシダーゼ又はこれらの混合物が挙げられる。リグニン分解酵素はそれを保持する微生物等から精製(粗精製でもよい)された酵素でもよいし、遺伝子組換え酵素でもよい。また、野生型でも変異型でもよい。
【0013】
なお、本発明のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤には、リグニン分解酵素に加えて、セルラーゼ、βグルコシダーゼ、セロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼ等の酵素が含まれてもよい。
【0014】
リグニン分解酵素を産生する微生物としては上記いずれか1種以上のリグニン分解酵素を産生する限り特に制限はなく、土壌等の自然環境中に存在する微生物でもよいし、腸内細菌やルーメン内在菌などの体内常在菌でもよい。微生物は細菌、酵母、糸状菌などが挙げられ、具体的には、アスペルギルス フミガーツス(Aspergillus fumigatus)(特開2009-77645号公報)、白色腐朽菌(特許文献1)、オクロバクトラム(Ochrobactrum sp.)(特開2020-141632号公報)、ラルストニア・ピッケティ(Ralstonia pickettii)、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、ストレプトマイセス・シュードグリセオラス(Streptomyces pseudogriseolus)またはキラトコッカス・アサッカロボランス(Chelatococcus asaccharovorans)(特開2011-193848号公報)などが例示される。また、フィブロバクター・スクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、ルミノコッカス・フラベファシエンス(Ruminococcus flavefaciens)、ブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)、ユーバクテリウム・セルロソルベンス(Eubacterium cellulosolvens)、プレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)、ユーバクテリウム・ルミナンチウム(Eubacterium ruminantium)などのルーメン微生物が線維分解能を有することが知られている(北畜会報43 : 1-9, 2001)。微生物は、1種以上のリグニン分解酵素をコードする遺伝子で形質転換された組換え微生物でもよい。
【0015】
本発明のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤におけるリグニン分解酵素の量は分解対象のリグノセルロース系バイオマスの量によるが、使用時に、リグノセルロース系バイオマスの重量1gあたり、0.001~10000ユニット、好ましくは0.01~1000ユニットのリグニン分解酵素が供給される量とすることが好ましい。
本発明のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤がリグニン分解酵素を産生する微生物を含む場合には、当該微生物の含有量は、上記の範囲のリグニン分解酵素を産生できる菌数であればよいが、例えば、使用時に、リグノセルロース系バイオマスの重量1gあたり、1×10~1×1013、好ましくは1×10~1×1010の数の微生物が供給される量とすることが好ましい。
【0016】
カシューナッツ殻油は、カシューナッツ ツリー(Anacardium occidentale L.)の実の殻に含まれる油状の液体である。カシューナッツ殻油は、その成分として、アナカルド酸、カルダノール、カルドールを含むものである。アナカルド酸は加熱処理することによりカルダノールに変換するが、加熱処理によりカルダノールとカルドールのみになったカシューナッツ殻油(加熱カシューナッツ殻油)を使用することもできる。
【0017】
例えば、カシューナッツの殻を圧搾することにより抽出したカシューナッツ殻油(非加熱)は、J.Agric.Food Chem. 2001, 49, 2548-2551に記載されるように、アナカルド酸を55~80質量%、カルダノールを5~20質量%、カルドールを5~30質量%含むものである。
非加熱カシューナッツ殻油を加熱処理(例えば、70℃以上、好ましくは130℃以上)した加熱カシューナッツ殻油は、非加熱カシューナッツ殻油の主成分のアナカルド酸が脱炭酸しカルダノールに変換され、アナカルド酸を0~10質量%、カルダノールを55~80質量%、カルドールを5~30質量%含むものとなる。
【0018】
カシューナッツ殻油は、カシューナッツの殻を圧搾することにより抽出した植物油として得ることができる。また、カシューナッツ殻を乾留または溶剤抽出して得ることもできる。また、例えば、カシューナッツ殻油は、特開平8-231410号公報に記載されている方法によって得ることもできる。カシューナッツ殻油は、市販品を用いることもできる。
【0019】
本発明のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤は、カシューナッツ殻油の代わりに、その成分であるアナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールそのものを含んでいてもよい。
【0020】
アナカルド酸としては、天然物アナカルド酸、合成アナカルド酸、それらの誘導体が挙げられる。また、市販のアナカルド酸を用いてもよい。アナカルド酸は、特開平8-231410号公報に記載されるように、カシューナッツの殻を有機溶剤で抽出処理して得られたカシューナッツ油を、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いてn-ヘキサン、酢酸エチルおよび酢酸の混合溶媒の比率を変えて溶出することによって得ることができる(特開平3-240721号公報、特開平3-240716号公報など)。
【0021】
カルダノールとしては、天然物カルダノール、合成カルダノール、それらの誘導体が挙げられる。また、本発明において使用されるカルダノールは、カシューナッツ殻油の主成分のアナカルド酸を脱炭酸することにより、得ることができる。
【0022】
カルドールとしては、天然物カルドール、合成カルドール、それらの誘導体が挙げられる。また、本発明において使用されるカルドールは、カシューナッツ殻油から精製することにより、得ることができる。
【0023】
本発明のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤に含まれるカシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールの量は分解対象のリグノセルロース系バイオマスの量によるが、使用時に、リグノセルロース系バイオマスの重量1gあたり、1~10000ppm、好ましくは10~1000ppmのカシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールまたはカルドールが供給される量とすることが好ましい。
【0024】
本発明のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤は、リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを別々に含んでもよい。そして、使用時に別々に投与されてもよいし、使用時に
混合したのち、投与されてもよい。
【0025】
また、本発明のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤は、あらかじめ、リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールとが混合されていてもよい。
【0026】
本発明のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤は、リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドール以外の成分(その他の成分)を含んでもよい。その他の成分としては、酵素の安定化剤、吸油剤、賦形剤などが挙げられるが特に限定はされない。
【0027】
また、本発明のリグノセルロース系バイオマス分解促進剤にカシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを配合する際には、酸化マグネシウム、ステアリン酸塩、タルク、ゼオライト、珪藻土及びシリカなどの吸油剤を含んでいてもよく、吸油剤は粒子状であることが好ましい。
【0028】
本発明のリグノセルロース系バイオマス分解促進方法は、リグノセルロース系バイオマスに、1)リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、2)カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを作用させることを特徴とする。
【0029】
リグノセルロース系バイオマスの形状は特に制限されず、例えば、粉末状、チップ状、角材状、丸太状、フレーク状、繊維状等が挙げられるが、酵素や微生物によって効率的に分解されるためには、粉末状、チップ状、フレーク状、又は繊維状であることが好ましい。
【0030】
1)リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物と、2)カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールは、リグノセルロース系バイオマスに対して協奏的に分解作用を引き起こすと考えられるので、これらは同時にリグノセルロース系バイオマスに作用させることが好ましい。ただし、リグノセルロース系バイオマスを含む反応系に添加する順序はいずれが先でもよいし、両方同時でもよい。これらを直接リグノセルロース系バイオマスに添加してもよいし、リグノセルロース系バイオマスの懸濁液中に添加してもよい。
【0031】
反応条件としては、リグニン分解酵素またはそれを産生する微生物が機能する温度であればよく、例えば、20℃~40℃が挙げられる。反応時間はリグノセルロース系バイオマスの分解に十分な時間であればよく、リグノセルロース系バイオマスの量によって適宜調整すればよい。
【0032】
また、本発明の一態様は、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを有効成分とする、反芻動物のルーメン内でのリグノセルロース系バイオマス分解促進剤に関する。すなわち、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールもしくはカルドールまたはそれらを含む飼料を反芻動物に投与することにより、反芻動物のルーメン内で、リグニン分解酵素を保持する微生物と、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールもしくはカルドールとの協奏作用により、リグノセルロース系バイオマス分解が促進される。したがって、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールはリグノセルロース系バイオマスを含む飼料の飼料効率向上剤として利用することができる。
【実施例0033】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明の態様は以下の実施
例には限定されない。
【0034】
<方法>
1.ウシルーメン液中でのティモシー分解試験
1-1.フィステルを装着したホルスタイン雄牛のフィステルよりルーメン液を採取した後,二重ガーゼで大きな夾雑物を除く。
1-2.250 mL容量のメディウム瓶にろ過したルーメン液10 mL,pH 6.2に調製した人工だ液 40 mLおよびレサズリン溶液を分注する。
1-3.目開き0.4 μmのナイロンメッシュをヒートシーラーを用いて袋状にし,その中にティモシー乾草粉末を300 mg,配合飼料粉末150 mgそれぞれ測り取り,封入の上、1-2のメディウム瓶内に入れる。
1-4.CNSL(終濃度50ppm)を添加した群と未添加の群を作成する。
1-5.嫌気条件にて培養するため,レサズリンの赤色が無色になるまで二酸化炭素をバブリングの上,メディウム瓶を閉じ,37℃にて48時間培養する(往復振とう培養)。
1-6.培養終了後,ナイロンメッシュを水洗した後に回収し,乾燥させルーメン液処理したティモシー乾草サンプルを得た。
1-7.残存しているティモシーを回収し、洗浄乾燥後、秤量して繊維質の消化率を算出した。
【0035】
2.ウシルーメン液中で分解処理されたティモシー検体におけるリグニン測定
検体を真空乾燥機により60℃にて乾燥後、適量を天秤でビーカーにはかり取り、72%硫酸3mlを加え、30℃で時々攪拌しながら1時間放置した。これを純水84mlと混釈しながら耐圧瓶に完全に移した後、120℃で一時間オートクレーブで加水分解した。加水分解後、分解液と残渣を濾別し、ロ液と残渣の洗液を加えて100mlに定容したものを検液とした。
【0036】
2-1.リグニン含量測定
以下の分画操作によって得られた画分をリグニンとした。
a) 酸不溶性リグニン 前処理で濾別して得られた残渣を105℃で乾燥し、重量を測り分解残渣率を算定した。さらに、残渣中の灰分を測定し補正することで酸不溶性リグニン濃度を算定した。
b) 酸可溶性リグニン 前処理で濾別し得られた液を、吸光度計を用いて210nmの波長で測定し、酸可溶性リグニンの吸光係数(110L・g-1・cm-1)を用いて濃度を算出した。
a),b)の和をリグニン含量とした。
【0037】
2-2.リグニン染色(モイレ染色法)
検体(乾燥済み)を蒸留水で処理したのちOCTコンパウンド(ケニス社製)に包埋し、凍結ブロックを作製した。さらにミクロトームにより凍結切片40μmを作製し、スライドグラス上に切片を貼付した。その後、1%過マンガン酸カリウムに5分間浸漬し、水洗、12%塩酸水溶液に5分浸漬し、水洗を行った。さらに14%アンモニア水を切片上に滴下し1分間処理した。水溶性封入剤で封入したのち、顕微鏡観察、写真撮影を行った。
【0038】
2-3.リグニン染色(ウィスナー染色法)
モイレ染色で用いた凍結切片(40μm)をスライドグラスに貼付し、乾燥した。PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で水洗した後、ウィスナー試薬を滴下し、カバーグラスで封入後顕微鏡観察し、写真を撮影した。(ウィスナー試薬:フルオログルシンを95%エタノールに2%濃度で溶かしたものと、50%硫酸水を顕微鏡観察の直前に1:1の割合で混合)
【0039】
<結果>
(1)繊維質消化率とリグニン含量を図1に示した。
CNSLの添加により消化率は向上するが、リグニン含量に大きな変化はみられなかった。
(2)モイレ染色の結果を図2に示した。
(3)ウィスナー染色の結果を図3に示した。
【0040】
モイレ染色はリグンニンの構造解析に使用されるものであり赤く染まった部分がシリンギル型リグニンであり褐色に染まった部分がグアイアシル型リグニンである。CNSLを添加した群で未添加の群に比し、赤い部分(シリンギル型リグニン)の割合が増加し、褐色部分(グアイアシル型リグニン)の割合が低減している。このことからCNSL添加によりリグニンの構造変化が起きていることがわかる。
【0041】
また、ウィスナー染色はリグニンを赤紫色に染色するものであるが、CNSL添加により赤紫部分が低減していることから、繊維質表面のリグニンの分解が促進されていることが示された。
【0042】
以上より、繊維質の微生物分解において、CNSL添加により表面リグニンの構造変化と分解促進が起こり、内部のセルロース、ヘミセルロースの分解が亢進する。結果として図1に示すように、繊維質の消化は促進し、リグニン含量(対セルロース、ヘミセルロース)は微増することが示された。
図1
図2
図3