(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160172
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】圧縮機及び圧縮機における油の交換方法
(51)【国際特許分類】
F04C 29/02 20060101AFI20221012BHJP
F04C 29/12 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F04C29/02 341A
F04C29/12 B
F04C29/02 361Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064755
(22)【出願日】2021-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山口 由佳
(72)【発明者】
【氏名】横山 知巳
(72)【発明者】
【氏名】高尾 英伸
(72)【発明者】
【氏名】堤 慧
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA02
3H129AA14
3H129AB03
3H129BB10
3H129BB36
3H129CC22
3H129CC43
(57)【要約】
【課題】油の交換の際に、ケーシングの内部空間の下部に存在する異物が除去されやすい圧縮機、及び、圧縮機の油の交換方法を提供する。
【解決手段】スクロール圧縮機100は、圧縮機構20と、ケーシング10と、第1管212と、第1管とは異なる第2管222と、を備える。ケーシングは、圧縮機構を収容する。第1管は、ケーシングを貫通して配置され、ケーシングの内部空間Sの下部から油を回収する。第2管は、ケーシングを貫通して配置され、ケーシングの内部空間に油を充填する。スクロール圧縮機の油の交換方法では、油の回収に第1管が、油の充填に第2管が利用される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機構(20)と、
前記圧縮機構を収容するケーシング(10)と
前記ケーシングを貫通して配置され、前記ケーシングの内部空間(S)の下部から油を回収する第1管(212)と、
前記ケーシングを貫通して配置され、前記ケーシングの内部空間に油を充填する、前記第1管とは異なる第2管(222,1222)と、
を備える、圧縮機(100)。
【請求項2】
前記ケーシングの前記内部空間の下部から油を汲み上げる汲み上げ機構(87)と、
前記汲み上げ機構の、前記ケーシングの前記内部空間の下部からの油の取り込み口(88a)を覆うフィルタ(89)と、
を更に備え、
前記第2管からの油の充填により、前記フィルタに付着した異物が除去される、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記第2管の油の吐出口(223)は、前記フィルタに面している、
請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記第2管は、前記吐出口に向かって下方に延びる第1部分(226)を含む、
請求項3に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記第2管(222)は、第1端(228a)と、前記吐出口(223)の配置される第2端(228b)との間を延びるノズル部(228)を含み、
前記ノズル部では、前記第1端から前記第2端に向かって、油の流路面積が次第に小さくなる、
請求項3又は4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記第1管の油の吸込口(213)が設けられた端部(212a)は、前記ケーシングの底面(14ba)の近傍に配置される、
請求項1から5のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記第1管の油の吸込口(213)は、前記ケーシングの底面(14ba)に面している、
請求項1から6のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記第2管は、他の圧縮機との均油管として機能する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の圧縮機における油の交換方法であって、
前記ケーシングの内部空間にガスを充填して内部圧力を高める第1工程(S2,S6)と、
前記ケーシングの内部空間と前記ケーシングの外部との圧力差により、前記第1管を介して前記ケーシングの内部空間の下部から油を回収する第2工程(S3,S7)と、
前記ケーシングの内部空間の真空引きを行う第3工程(S4,S8)と、
前記第2管を介して前記ケーシングの内部空間に油を充填する第4工程(S5,S9)と、
を備えた、圧縮機における油の交換方法。
【請求項10】
一連の前記第1工程~前記第4工程が繰り返し実行される、
請求項9に記載の圧縮機における油の交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
圧縮機及び圧縮機における油の交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1(特開2009-103115号公報)のように、圧縮機のケーシングの内部空間の下部に、潤滑用の冷凍機油を溜める圧縮機が知られている。
【0003】
圧縮機で使用される油は、経年劣化する場合がある。また、圧縮機で使用される油には、異物(例えば、油の分解生成物や、圧縮機の摺動部で生じる摩耗粉等)が混入する場合がある。そのため、圧縮機の内部空間から油を回収し、新たな油を充填したり、異物を除去した後に油を再充填したりする場合がある。そこで、特許文献1(特開2009-103115号公報)のように、圧縮機に、油を回収し、かつ、油を充填するための配管が設けられる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1(特開2009-103115号公報)のように圧縮機に単一の配管を設け、この配管で油の回収と充填との両方を行う場合、油の溜められているケーシングの内部空間の下部の異物の除去が十分に図れない可能性を本願開示者は見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1観点の圧縮機は、圧縮機構と、ケーシングと、第1管と、第1管とは異なる第2管と、を備える。ケーシングは、圧縮機構を収容する。第1管は、ケーシングを貫通して配置され、ケーシングの内部空間の下部から油を回収する。第2管は、ケーシングを貫通して配置され、ケーシングの内部空間に油を充填する。
【0006】
第1観点の圧縮機では、油を回収するための第1管と、油を充填するための第2管とを別配管とすることで、油の回収及び充填に単一の配管を利用する場合に比べ、ケーシングの下部の油が溜められている空間に存在する異物の除去率を高めることができる。
【0007】
第2観点の圧縮機は、第1観点の圧縮機であって、汲み上げ機構と、フィルタと、を更に備える。汲み上げ機構は、ケーシングの内部空間の下部から油を汲み上げる。フィルタは、汲み上げ機構の、ケーシングの内部空間の下部からの油の取り込み口を覆う。第2管からの油の充填により、フィルタに付着した異物が除去される。
【0008】
第2観点の圧縮機では、油の回収及び充填に単一配管を利用する場合には除去しにくいフィルタに付着した異物を、第2管からの油の充填の際に除去できる。
【0009】
第3観点の圧縮機は、第2観点の圧縮機であって、第2管の油の吐出口は、フィルタに面している。
【0010】
第3観点の圧縮機では、第2管の油の吐出口がフィルタに向けられているため、第2管から吐出される油でフィルタに付着した異物を除去することが容易である。
【0011】
第4観点の圧縮機は、第3観点の圧縮機であって、第2管は、第1部分を含む。第1部分は、吐出口に向かって下方に延びる。
【0012】
第4観点の圧縮機では、第2管が第1部分を含むことで、第2管の吐出する油で、フィルタに付着した異物を除去することが容易である。
【0013】
第5観点の圧縮機は、第3観点又は第4観点の圧縮機であって、第2管は、ノズル部を含む。ノズル部は、第1端と、吐出口の配置される第2端との間を延びる。ノズル部では、第1端から第2端に向かって、油の流路面積が次第に小さくなる。
【0014】
第5観点の圧縮機では、第2管がノズル部を有することで、第2管から吐出される油の流れで、フィルタに付着した異物を除去することが容易である。
【0015】
第6観点の圧縮機は、第1観点から第5観点のいずれかの圧縮機であって、第1管の油の吸込口が設けられた端部は、ケーシングの底面の近傍に配置される。
【0016】
本開示では、油の充填に、第1管とは別の第2管が用いられるため、第1管の構造や配置に、油の回収に特に適した構造や配置を採用できる。具体的に、第6観点の圧縮機では、第1管の吸込口がケーシングの底面近傍に配置されるので、油の回収時にケーシングの底面に堆積した異物を除去することが容易である。
【0017】
第7観点の圧縮機は、第1観点から第6観点のいずれかの圧縮機であって、第1管の油の吸込口は、ケーシングの底面に面している。
【0018】
第7観点の圧縮機では、第1管の吸込口がケーシングの底面に向けられているため、油の回収時にケーシングの底面に溜まった異物を除去することが容易である。
【0019】
第8観点の圧縮機は、第1観点から第7観点のいずれかの圧縮機であって、第2管は、他の圧縮機との均油管として機能する。
【0020】
第8観点の圧縮機では、第2管を均油管としても利用することで、第1管及び第2管とは別に均油管を更に設ける場合に比べて、部品点数を削減できる。
【0021】
第9観点の圧縮機における油の交換方法は、第1観点から第8観点のいずれかの圧縮機における油の交換方法である。圧縮機における油の交換方法は、第1工程、第2工程、第3工程、及び第4工程を備える。第1工程では、ケーシングの内部空間にガスが充填され、内部圧力が高められる。第2工程では、ケーシングの内部空間とケーシングの外部との圧力差により、第1管を介してケーシングの内部空間の下部から油が回収される。第3工程では、ケーシングの内部空間の真空引きが行われる。第4工程では、第2管を介してケーシングの内部空間に油が充填される。
【0022】
第9観点の圧縮機における油の交換方法では、油の回収及び充填に単一の配管を利用する場合に比べ、ケーシングの内部空間の下部の油が溜められている空間に存在する異物の除去率を高めることができる。
【0023】
第10観点の圧縮機における油の交換方法は、第9観点の油の交換方法であって、第1工程~第4工程が繰り返し実行される。
【0024】
第10観点の圧縮機における油の交換方法では、ケーシングの下部の油が溜められている空間に存在する異物の除去率を特に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本開示の圧縮機の一実施形態に係るスクロール圧縮機の簡略図及びスクロール圧縮機が使用される冷凍サイクル装置の概略構成図である。
【
図2】本開示の圧縮機の一実施形態に係るスクロール圧縮機の概略縦断面図である。
【
図3】本開示の圧縮機の冷媒及び油の交換方法のフローチャートの一例である。
【
図4】変形例Bのスクロール圧縮機の簡略図及びスクロール圧縮機が使用される冷凍サイクル装置の概略構成図である。
【
図5】変形例Cのスクロール圧縮機の使用状態を説明する図である。
【
図6】変形例Dのスクロール圧縮機に使用される第2管の形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示の圧縮機の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
(1)冷凍サイクル装置
図1を参照しながら、本開示の圧縮機を有する冷凍サイクル装置の実施例を説明する。
図1は、スクロール圧縮機100を有する冷凍サイクル装置1の概略構成図である。スクロール圧縮機100は、本開示の圧縮機の一例である。冷凍サイクル装置1は、本開示の圧縮機を有する冷凍サイクル装置の一例である。
【0027】
冷凍サイクル装置1は、蒸気圧縮式冷凍サイクルを利用して、温度調整対象の加熱や冷却を行う装置である。用途を限定するものではないが、冷凍サイクル装置1には、例えば、空気調和装置、給湯装置、床暖房装置を含む。スクロール圧縮機100は、冷凍サイクル装置1の冷媒回路7の一部を構成する。スクロール圧縮機100は、例えば、冷凍サイクル装置1の熱源ユニットに搭載される。熱源ユニットでは、スクロール圧縮機100、熱交換器、膨張機構等が筐体に収容されている。
【0028】
冷凍サイクル装置1の概要について説明する。
【0029】
本実施形態の冷凍サイクル装置1は、冷房専用の空気調和装置である。冷凍サイクル装置1は、主に、スクロール圧縮機100と、第1熱交換器2と、膨張機構3と、第2熱交換器4と、を有している。スクロール圧縮機100、第1熱交換器2、膨張機構3、及び第2熱交換器4は、配管により接続されて、冷媒回路7を構成する。また、冷凍サイクル装置1は、スクロール圧縮機100や膨張機構3の動作を制御する制御部(図示せず)を有する。
【0030】
なお、冷凍サイクル装置1は、ここで例示する以外の構成、例えば、暖房運転を可能とするための冷媒の流れ方向を切り換える流向切換機構や、第1熱交換器2から出た冷媒を過冷却するための熱交換器や、気液分離機能を有するアキュムレータ等を有してもよい。
【0031】
冷媒回路7に充填される冷媒(スクロール圧縮機100が圧縮する冷媒)は、例えばHFC冷媒のR32である。なお、R32は冷媒の種類の例示に過ぎず、冷媒回路7に充填される冷媒は、R32以外のHFC冷媒や、HFO冷媒であってもよい。また、冷媒回路7に充填される冷媒は、例えば、二酸化炭素等の自然冷媒であってもよい。
【0032】
スクロール圧縮機100は、第1配管7aから冷凍サイクルにおける低圧(以後、単に低圧と呼ぶ場合がある)の冷媒を吸入して圧縮し、圧縮後の、冷凍サイクルにおける高圧の(以後、単に高圧と呼ぶ場合がある)冷媒を第2配管7bから吐出する装置である。第1配管7aは、第2熱交換器4を出た冷媒を、スクロール圧縮機100の吸入管18aへと導く冷媒配管である。第2配管7bは、スクロール圧縮機100の吐出管18bから吐出される冷媒を第1熱交換器2へと導く冷媒配管である。スクロール圧縮機100の詳細については、後述する。
【0033】
第1熱交換器2は、スクロール圧縮機100の吐出する冷媒を、熱源としての水や空気と熱交換させることで、冷媒の放熱を行う冷媒の放熱器(凝縮器)として機能する。第1熱交換器2の一端には、スクロール圧縮機100の吐出管18bと第1熱交換器2とを連通する第2配管7bが接続されている。第1熱交換器2の他端には、第1熱交換器2と第2熱交換器4とを連通する第3配管7cが接続されている。
【0034】
膨張機構3は、第1熱交換器2で放熱された冷媒の減圧を行う機構である。膨張機構3は、開度可変の電子膨張弁である。ただし、これに限定されるものではなく、膨張機構3は、感温式の自動膨張弁や、キャピラリチューブであってもよい。膨張機構3は、第3配管7cに配置される。
【0035】
第2熱交換器4は、第1熱交換器2で冷却され、膨張機構3で減圧された冷媒と、温度調整対象(ここでは空気)とを熱交換させることで、冷媒の加熱を行う蒸発器として機能する。第2熱交換器4において冷媒が加熱される際、温度調整対象の空気は冷却される。第2熱交換器4の一端には、第1熱交換器2と第2熱交換器4とを連通する第3配管7cが接続されている。第2熱交換器4の他端には、スクロール圧縮機100の吸入管18aと第2熱交換器4とを連通する第1配管7aが接続されている。
【0036】
また、第1配管7aにはサービスポート付の閉鎖弁6(三方弁)が、第3配管7cにはサービスポート付の閉鎖弁5(三方弁)が用いられている。閉鎖弁5,6のサービスポートは、冷媒回路7に冷媒を充填したり、冷媒回路7の冷媒を回収したりする際に用いられる。また、閉鎖弁5,6のサービスポートは、後述するスクロール圧縮機100のケーシング10の内部空間Sを含む、冷媒回路7の少なくとも一部に対して、真空引きをしたり、ガス(窒素ガス)を充填したりする際にも用いられる。なお、これらの用途に利用可能であれば、冷媒回路7の冷媒閉鎖弁5,6の位置や構造は特に限定されない。
【0037】
(2)スクロール圧縮機
以下で、
図1に加え、
図2を参照しながらスクロール圧縮機100について説明する。
図2は、スクロール圧縮機100の概略縦断面図である。
【0038】
以下では、説明の便宜上、位置や向きを説明するために、「上」、「下」等の表現を用いる場合がある。断りの無い場合、「上」、「下」等の表現の表す位置や向きは、図中の矢印に従う。
【0039】
また、以下では、「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」等の表現を用いる場合があるが、これらの表現は、厳密な意味で「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」である場合に限定されない。「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」等の表現は、実質的に「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」である場合を含む意味で用いられる。
【0040】
本開示のスクロール圧縮機100は、全密閉型圧縮機である。スクロール圧縮機100は、
図1及び
図2に示すように、ケーシング10、圧縮機構20、ハウジング50、モータ70、駆動軸80、下部軸受ハウジング90、油回収部210、及び油充填部220を主に有する。
【0041】
(2-1)ケーシング
スクロール圧縮機100は、縦長円筒状のケーシング10を有する(
図2参照)。ケーシング10は、その内部に、内部空間Sを形成する。
【0042】
ケーシング10は、円筒部の一例としての円筒部12と、上蓋14aと、下蓋14bと、を主に有する。
【0043】
円筒部12は、中心軸Oに沿って延びる、両端が開口した円筒状の部材である。本実施形態のスクロール圧縮機100では、中心軸Oは、鉛直方向に延びる。
【0044】
上蓋14aは、円筒部12の上方に設けられ、円筒部12の上方の開口を塞ぐ。下蓋14bは、円筒部12の下方に設けられ、円筒部12の下方の開口を塞ぐ。円筒部12と、上蓋14a及び下蓋14bとは、気密を保つように、例えば溶接により固定されている。
【0045】
ケーシング10は、スクロール圧縮機100を構成する各種の部品や部材を内部に収容する。ケーシング10に収容される部品や部材には、圧縮機構20、ハウジング50、モータ70、駆動軸80、及び下部軸受ハウジング90を含む(
図2参照)。
【0046】
図2のように、ケーシング10内の上部には、圧縮機構20が配置されている。圧縮機構20の下方には、ハウジング50が配置されている。ハウジング50の下方には、モータ70が配置されている。モータ70の下方には、下部軸受ハウジング90が配置されている。ケーシング10の内部空間Sの下部には、油溜空間16が形成されている。油溜空間16には、スクロール圧縮機100の各種摺動部を潤滑するための油(冷凍機油)が溜められている。
【0047】
モータ70は、ケーシング10の内部空間Sのうち、ハウジング50の下方の第1空間S1に配置される。本実施形態のスクロール圧縮機100では、第1空間S1は、圧縮機構20により圧縮された高圧の冷媒が流入する空間である。言い換えれば、本実施形態のスクロール圧縮機100は、いわゆる高圧ドーム型のスクロール圧縮機である。ハウジング50とモータ70との間の空間は、円筒部12と後述するモータ70のステータ72との間の隙間や、後述するモータ70のステータ72とロータ74との間の隙間等を介して、ケーシング10の下部の油溜空間16と連通している(
図2参照)。
【0048】
なお、スクロール圧縮機100は、高圧ドーム型のスクロール圧縮機でなくてもよい。スクロール圧縮機100は、冷凍サイクル装置1の冷媒回路7から低圧の冷媒が流入する空間にモータ70が配置される、いわゆる低圧ドーム型のスクロール圧縮機であってもよい。
【0049】
ケーシング10には、吸入管18a、吐出管18b、油回収部210の第1管212、及び、油充填部220の第2管222が、ケーシング10の内部と外部とを連通するように取り付けられている(
図2参照)。
【0050】
吸入管18aは、
図2のように、ケーシング10の上蓋14aを貫通して設けられる。吸入管18aの一端(ケーシング10の外部の端部)は、
図2のように、冷凍サイクル装置1の第1配管7aに接続される。吸入管18aの他端(ケーシング10の内部の端部)は、
図2のように、圧縮機構20の固定スクロール30の吸入孔36aに接続される。吸入管18aは、吸入孔36aを介して後述する圧縮機構20の外周側の圧縮室Scと連通する。スクロール圧縮機100は、吸入管18aを介して、冷凍サイクル装置1の冷凍サイクルにおける低圧の冷媒を吸入する。
【0051】
吐出管18bは、
図2のように、円筒部12の上下方向における中央部に、円筒部12を貫通して設けられる。吐出管18bの一端(ケーシング10の外部の端部)は、
図2のように、冷凍サイクル装置1の第2配管7bに接続される。吐出管18bの他端(ケーシング10の内部の端部)は、
図2のように、ハウジング50とモータ70との間の空間に配置される。スクロール圧縮機100は、圧縮機構20による圧縮後の高圧の冷媒を、吐出管18bを介してスクロール圧縮機100外に吐出する。
【0052】
油回収部210の第1管212は、
図2のように、ケーシング10の下蓋14bを貫通して配置される。第1管212は、ケーシング10の内部空間Sの下部(油溜空間16)から油を回収するための配管である。油回収部210については後述する。
【0053】
油充填部220の第2管222は、
図2のように、ケーシング10の下蓋14bを貫通して配置される。第2管222は、ケーシング10の内部空間Sに油を充填するための配管である。油充填部220については後述する。
【0054】
(2-2)圧縮機構
圧縮機構20は、固定スクロール30と、可動スクロール40と、を主に有する。固定スクロール30と可動スクロール40とは、組み合わされて圧縮室Scを形成する。圧縮機構20は、圧縮室Scで冷媒を圧縮し、圧縮後の冷媒を吐出する。
【0055】
(2-2-1)固定スクロール
固定スクロール30は、ハウジング50上に固定されている。
【0056】
固定スクロール30は、
図2に示すように、第1鏡板32と、第1鏡板32の前面32aから可動スクロール40側に突出する第1ラップ34と、第1ラップ34の周囲を取り囲むように配置される周縁部36と、を主に有する。固定スクロール30を下方から見ると、第1ラップ34は、第1鏡板32の中心付近から外周側に向かって渦巻状(インボリュート形状)に形成されている。周縁部36には、吸入孔36aが形成される。吸入孔36aには、吸入管18aの下流端が接続される。
【0057】
固定スクロール30の第1ラップ34と、後述する可動スクロール40の第2ラップ44とは、組み合わされて圧縮室Scを形成する。可動スクロール40が固定スクロール30に対して旋回すると、吸入管18aから吸入孔36aを介して周縁側の圧縮室Scに流入した低圧の冷媒は、中央側の圧縮室Scへと移動するにつれ圧縮されて圧力が上昇する。
【0058】
第1鏡板32の略中心には、圧縮機構20により圧縮された冷媒を吐出する吐出ポート33が、第1鏡板32を厚さ方向(上下方向)に貫通して形成されている(
図2参照)。吐出ポート33は、圧縮機構20の中心側(最内側)の圧縮室Scと連通している。吐出ポート33から吐出される圧縮機構20による圧縮後の冷媒は、冷媒通路を通過してハウジング50の下方の空間に流入する。
【0059】
(2-2-2)可動スクロール
可動スクロール40は、
図2に示すように、第2鏡板42と、第2鏡板42の前面42aから固定スクロール30側に突出する第2ラップ44と、円筒状のボス部46と、を主に有する。可動スクロール40を上方から見ると、第2ラップ44は、第2鏡板42の中心付近から外周側に向かって渦巻状(インボリュート形状)に形成されている。ボス部46は、第2鏡板42の背面42bからモータ70側に突出する円筒状の部分である。
【0060】
ボス部46は、ハウジング50により形成される後述するクランク室52内に配置される。ボス部46の中空部には、軸受メタル47が配置される。ボス部46の中空部には、後述する駆動軸80の偏心部84が挿入される(
図2参照)。
【0061】
(2-3)ハウジング
ハウジング50は、
図2のように、本体部120と、駆動軸80を回転可能に支持する転がり軸受112が内部に配置される上部軸受ハウジング110と、を主に含む。本体部120は、円筒状の部分である。上部軸受ハウジング110も円筒状に形成される。上部軸受ハウジング110は、駆動軸80の軸方向において、本体部120よりモータ70の近傍に配置される。
【0062】
ハウジング50の本体部120は、ケーシング10の円筒部12の内周面12aに固定されている。ハウジング50の本体部120には、固定スクロール30が固定されている。具体的には、固定スクロール30は、固定スクロール30の周縁部36の下面がハウジング50の上面と対向する状態でハウジング50に載置され、図示しない固定部材(例えばボルト)によりハウジング50に固定されている。ハウジング50は、本体部120に固定されている固定スクロール30を支持する。
【0063】
また、ハウジング50は、固定スクロール30とハウジング50の本体部120との間に配置される可動スクロール40を支持する。具体的には、ハウジング50は、可動スクロール40を、ハウジング50の上方に配置されているオルダム継手24を介して下方から支持する。
【0064】
ハウジング50の本体部120は、
図2に示すように、中央に凹むように配置される第1凹部56を有する。第1凹部56は、可動スクロール40のボス部46が配置されるクランク室52の側面を囲む。
【0065】
(2-4)モータ
モータ70は、圧縮機構20を駆動する機構である。
【0066】
モータ70は、主として、ステータ72と、ロータ74とを有する。ステータ72は、ケーシング10の円筒部12の内周面12aに固定されている環状の部材である。ロータ74は、環状のステータ72の内側に配置される円柱形状の部材である。
【0067】
ロータ74は、駆動軸80を介して、圧縮機構20の可動スクロール40と連結されている。具体的には、ロータ74は、駆動軸80を介して、可動スクロール40のボス部46と連結されている(
図2参照)。モータ70は、ステータ72が発生させる回転磁界によりロータ74を回転させることで、可動スクロール40を旋回させる。
【0068】
(2-5)駆動軸
駆動軸80は、モータ70の駆動力を、圧縮機構20に伝達する。具体的には、駆動軸80は、モータ70のロータ74と圧縮機構20の可動スクロール40とを連結し、モータ70の駆動力を圧縮機構20の可動スクロール40に伝達する。
【0069】
駆動軸80は、上下方向に延びる。駆動軸80は、ケーシング10の内部空間Sの下部からクランク室52まで鉛直方向に延びる。
【0070】
駆動軸80は、
図2のように、モータ70のロータ74に連結される主軸82と、主軸82の中心軸に対して偏心している偏心部84と、を主に有する。主軸82は、転がり軸受112、及び、後述する下部軸受ハウジング90に配置された軸受メタル91により、回転自在に支持される。
【0071】
駆動軸80の内部には、油通路86が形成されている。油通路86は、主経路86aと、分岐経路(図示せず)と、を有する。主経路86aは、駆動軸80を軸方向に、駆動軸80の下端から上端まで延びる。分岐経路は、主経路86aから、駆動軸80の軸方向と交差する方向に延びる。主経路86aを流れて駆動軸80の上端から流出する油や、主経路86aから分岐経路に流入し、分岐経路から流出する油は、例えば、軸受メタル47と偏心部84との摺動部、転がり軸受112及び軸受メタル91と主軸82との摺動部、及び圧縮機構20の摺動部等に供給される。摺動部に供給された油は、図示しない経路を通って油溜空間16に回収される。
【0072】
駆動軸80の主軸82の下端には、汲み上げ機構87が設けられている。汲み上げ機構87は、ケーシング10の内部空間Sの下部の油溜空間16から、容積ポンプ作用によって油を汲み上げる。汲み上げ機構87は、吸入ノズル88の取り込み口88aから油溜空間16の油を取り込む。取り込み口88aから取り込まれた油は、油通路86の主経路86aの一端(下端)に供給され、主経路86aの他端(上端)まで流れる。
【0073】
汲み上げ機構87は、フィルタ89により覆われている。フィルタ89は、少なくとも吸入ノズル88の取り込み口88aを覆う。フィルタ89は、例えば、メッシュ状の部材である。フィルタ89は、油溜空間16に存在する油に混入している固形の異物、例えば、固形状の油の分解生成物や、圧縮機の摺動部で生じる摩耗粉等が、油と共に取り込み口88aから取り込まれることを抑制する。
【0074】
(2-6)下部軸受ハウジング
下部軸受ハウジング90(
図2参照)は、モータ70の下方に配置されている。
【0075】
下部軸受ハウジング90は、下部軸受ハウジング90は、内部に駆動軸80を回転可能に支持する軸受メタル91が設けられる本体部92と、本体部92からケーシング10の円筒部12の径方向に延びるアーム94と、を主に有する。アーム94の端部は、ケーシング10の円筒部12の内周面12aに取り付けられている。
【0076】
(2-7)油回収部
油回収部210は、ケーシング10の内部空間Sの油を、ケーシング10の内部空間Sの下部から油を回収するための機構である。油回収部210は、第1管212と、第1弁214と、を含む。
【0077】
第1管212は、ケーシング10を貫通して配置される、油の流路を形成する部材である。ケーシング10の内部空間Sの下部の油溜空間16の油は、第1管212を介して回収される。第1管212は、単一の部材であってもよいし、油の流路を形成する複数の部材を含んでもよい。本実施形態では、第1管212は、ケーシング10の下蓋14bを貫通して配置されているが、これに限定されるものではなく、ケーシング10の円筒部12を貫通して配置されていてもよい。
【0078】
第1管212の一端(第1端212a)は、
図2のように、ケーシング10内の油溜空間16の内部に配置されている。第1管212の第1端212aには、油溜空間16の油を取り込むための吸込口213が設けられている(
図2参照)。第1管212の他端(第2端212b)は、
図2のように、第1弁214に接続されている。形状を限定するものではないが、第1管212は、第1部分212cと、第2部分212dと、を含む。第1部分212cは、第1端212aから斜め上方に延びる。第2部分212dは、第1部分212cと接続され、第1部分212cから第2端212bへと水平方向に延びる。ただし、第1管212の形状は、
図2に描画された形状に限定されるものではなく、L字形状や、直管形状であってもよい。
【0079】
油の回収時に、油と共にケーシング10の底面に堆積している異物が回収されやすいように、第1管212の第1端212aは、ケーシング10の底面の近傍(下蓋14bの底面14baの近傍)に配置されることが好ましい。また、油の回収時に、油と共にケーシング10の底面に堆積している異物が回収されやすいように、第1管212の油の吸込口213は、ケーシング10の底面(下蓋14bの底面14ba)に面していることが好ましい。言い換えれば、第1管212の油の吸込口213は、下蓋14bの底面14baに対向していることが好ましい。さらに好ましくは、第1管212の油の吸込口213は、下蓋14bの底面14baであって、フィルタ89の直下又は直下近傍に向けられている。
【0080】
第1弁214は、油の回収時以外には、スクロール圧縮機100の内部の油や冷媒が、第1管212を通過してスクロール圧縮機100の外部に流出しないように閉じられている。油の回収時には、第1弁214に、図示を省略する油回収用容器と第1弁214との間を接続するためのチューブ(図示省略)が接続される。チューブが接続された状態で第1弁214が開かれると、スクロール圧縮機100の内部の油がチューブを通過して油回収用容器に回収される。油の交換方法(回収及び充填の方法)に関しては後述する。
【0081】
(2-8)油充填部
油充填部220は、ケーシング10の内部空間Sに油を充填するための機構である。油充填部220は、第2管222と、第2弁224と、を含む。
【0082】
第2管222は、ケーシング10を貫通して配置される、油の流路を形成する部材である。ケーシング10の内部空間Sには、第2管222を介して油が充填される。第2管222は、単一の部材であってもよいし、油の流路を形成する複数の部材を含んでもよい。本実施形態では、第2管222は、ケーシング10の下蓋14bを貫通して配置されているが、これに限定されるものではなく、ケーシング10の円筒部12を貫通して配置されていてもよい。
【0083】
第2管222の一端(第1端222a)は、
図2のように、ケーシング10内の油溜空間16の内部に配置されている。第2管222の第1端222aには、ケーシング10に油を供給するための吐出口223が設けられている。第2管222の他端(第2端222b)は、第2弁224に接続されている。形状を限定するものではないが、第2管222は、第1部分226と、第2部分222dと、を含む。第1部分226は、第1端222aから斜め上方に延びる。言い換えれば、第1部分226は、吐出口223に向かって下方に延びる。具体的には、第1部分226は、吐出口223に向かって斜め下方に延びる。第2部分222dは、第1部分226と接続され、第1部分226から第2端222bへと水平方向に延びる。
【0084】
第2管222の吐出口223の位置や、吐出口223の向けられる方向は、油の充填の際に、油溜空間16において堆積している異物の移動が促進されやすいように決定されることが好ましい。
【0085】
また、第2管222の吐出口223は、フィルタ89に付着した異物が、フィルタ89から除去されやすいように配置及び構成されることが好ましい。例えば、第2管222の吐出口223は、フィルタ89に面していることが好ましい。言い換えれば、第2管222の油の吐出口223は、フィルタ89に対向していることが好ましい。また、他の例として、第2管222の吐出口223の位置や、吐出口223が形成されている第1部分226の延びる向きは、吐出口223が下蓋14bの底面14baに対向し、かつ、吐出口223が吐出する油が底面14baに当たって向きを変えることでフィルタ89に油がかかるように設計されてもよい。吐出口223の位置や、第1部分226の延びる向きがこのように設計されることで、第2管222から油を充填する際の油の流れによって、フィルタ89に付着した異物の除去が促進されやすい。
【0086】
第2弁224は、油の充填時以外には、スクロール圧縮機100の内部の油や冷媒が、第2管222を通過してスクロール圧縮機100の外部に流出しないように閉じられている。油の充填時には、第2弁224には、図示を省略する油が収容されている油容器と第2弁224との間を接続するためのチューブ(図示省略)が接続される。チューブが接続された状態で第2弁224が開かれると、油容器内の油が、チューブを通過してスクロール圧縮機100の内部に充填される。油の交換方法(回収及び充填の方法)に関しては後述する。
【0087】
(3)スクロール圧縮機の動作
スクロール圧縮機100の動作について説明する。なお、ここでは、定常状態(運転を開始して、運転が安定した状態)のスクロール圧縮機100の動作について説明する。
【0088】
モータ70が駆動されると、ステータ72の発生させる回転磁界によりロータ74が回転し、ロータ74と連結された駆動軸80も回転する。駆動軸80が回転すると、オルダム継手24の働きにより、可動スクロール40は、自転せずに固定スクロール30に対して公転する。そして、吸入管18aから流入した冷凍装置の冷凍サイクルにおける低圧の冷媒は、吸入孔36aを介して圧縮機構20の周縁側の圧縮室Scに吸入される。そして、可動スクロール40が公転し、圧縮室Scの容積が減少するのに伴って、圧縮室Scの圧力が上昇する。冷媒が、周縁側(外側)の圧縮室Scから、中央側(内側)の圧縮室Scへ移動するに連れて冷媒の圧力は上昇し、最終的に冷凍装置の冷凍サイクルにおける高圧となる。圧縮機構20によって圧縮された冷媒は、第1鏡板32の中央付近に位置する吐出ポート33から吐出され、固定スクロール30及びハウジング50に形成されている図示しない冷媒経路を通過してハウジング50とモータ70との間の空間に流入する。また、圧縮機構20によって圧縮され、固定スクロール30及びハウジング50に形成されている図示しない冷媒経路を通過した冷媒は、ステータ72と円筒部12との隙間等を通過して油溜空間16にも流入する。油溜空間16に流入した冷媒ガスは、ステータ72とロータ74との間の隙間や、ステータ72と円筒部12との間の隙間を通過してハウジング50とモータ70との間の空間に流入する。ハウジング50とモータ70との間の空間に流入した冷凍サイクルにおける高圧の冷媒は、最終的に吐出管18bから吐出される。
【0089】
(4)油の交換処理
スクロール圧縮機100における油の交換方法について、
図3のフローチャートを参照しながら説明する。
図3は、本開示の圧縮機の油の交換方法のフローチャートの一例である。説明の前提として、油の交換の開始時点では、第1弁214及び第2弁224は閉じられている。
【0090】
以下で説明する方法では、全ての操作(例えば弁の開閉操作や、各種機器の起動及び停止の操作)が手動で行われてもよい。あるいは、一部又は全部の操作が、コンピュータを含む制御部により自動で実行されてもよい。なお、弁が自動で制御される場合には、弁には電動弁又は電磁弁や、空気圧で駆動される弁等が利用される。
【0091】
限定するものではないが、スクロール圧縮機100のケーシング10の内部空間Sから油を回収する前に、例えば、ケーシング10の内部空間Sの冷媒の回収と、ケーシング10の内部空間Sの真空引きと、が行われる。
【0092】
油の交換では、初めにスクロール圧縮機100のケーシング10の内部空間Sにガスが充填され、内部空間Sの圧力が高められる(ステップS1)。具体的には、冷凍サイクル装置1の閉鎖弁6のサンプリングポートに、ガスの充填されたガスボンベ(図示省略)が図示しないチューブを介して接続される。ケーシング10の内部空間Sに充填されるガスは、例えば不活性ガスの窒素である。窒素は、ケーシング10の内部空間Sの圧力が所定の圧力になるまで充填される。所定の圧力は、大気圧よりも高い圧力である。その後、ガスボンベと閉鎖弁6とのサンプリングポートとの接続が解除される。なお、ここでの接続の解除とは、閉鎖弁6のサンプリングポートから、ガスボンベと閉鎖弁6のサンプリングポートとを接続するチューブを外すことに限定されず、弁等を用いて、ガスボンベと閉鎖弁6のサンプリングポートとを非連通とする場合を含む。
【0093】
次に、スクロール圧縮機100のケーシング10の内部空間Sの下部から、油回収部210の第1管212を介して油が回収される(ステップS2)。具体的には、油回収部210の第1弁214に、図示を省略する油回収用容器が、図示を省略するチューブを介して接続される。そして、第1弁214に油回収用容器が接続された状態で、第1弁214が開けられる。その結果、ガスの充填されたケーシング10の内部空間Sとケーシング10の外部との圧力差により、第1管212を介して、ケーシング10の内部空間Sの下部から油回収用容器に油が回収される。この際、油と共に、油に混入している異物も油回収用容器に回収される。なお、第1管212と油回収用容器との間を接続するチューブに図示しないフィルタを配置し、異物をフィルタで除去してもよい。油の回収後、第1弁214は閉じられる。
【0094】
次に、スクロール圧縮機100のケーシング10の内部空間Sの真空引きが行われる(ステップS3)。具体的には、冷凍サイクル装置1の閉鎖弁5,6のサンプリングポートに、図示しない真空ポンプが、図示しないチューブを介して接続される。真空ポンプが運転されると、スクロール圧縮機100のケーシング10の内部空間Sを含む、冷凍サイクル装置1の冷媒回路7の少なくとも一部は真空状態となる。ケーシング10の内部空間Sの真空引きが完了すると、閉鎖弁5,6と真空ポンプとの接続が解除される。なお、ここでの接続の解除とは、閉鎖弁5,6のサンプリングポートから、真空ポンプと閉鎖弁5,6のサンプリングポートとを接続するチューブを外すことに限定されず、弁等を用いて、真空ポンプと閉鎖弁5,6のサンプリングポートとを非連通とする場合を含む。
【0095】
次に、スクロール圧縮機100のケーシング10の内部空間Sに、油充填部220の第2管222を介して油が充填される(ステップS4)。具体的には、油充填部220の第2弁224に、図示を省略する油の収容されている油容器と第2弁224との間を接続するためのチューブ(図示省略)が接続される。そして、チューブが接続された状態で、第2弁224が開けられる。その結果、ガスの充填されたケーシング10の内部空間Sとケーシング10の外部との圧力差により、第2管222を介して、ケーシング10の内部空間Sに油が流入する。
【0096】
第2弁224を通って油がケーシング10内に流入することで、ケーシング10の底面14ba等に堆積している異物の移動が促進される。また、第2管222の吐出口223がフィルタ89に面している場合には、油はフィルタ89に直接当たる。その結果、第2管222の吐出口223から吐出される油により、フィルタ89に付着している異物の少なくとも一部が、フィルタ89から除去される。ステップS4では、ケーシング10の内部空間Sに所定量の油が充填される。所定量の油が充填された後、第2弁224は閉じられる。
【0097】
その後、ステップS5~ステップS8では、ステップS1~ステップS4と同様の工程が実行される。要するに、本実施形態の油の交換方法では、ステップS1~ステップS4の一連の工程が繰り返し実行される。
【0098】
ステップS8が終了後に、例えば、ケーシング10の内部空間Sの真空引きと、ケーシング10の内部空間Sへの冷媒充填と、が行われる。
【0099】
なお、
図3のフローチャートでは図示は省略されているが、冷凍サイクル装置1の運転再開までには、閉鎖弁5,6のサンプリングポートや、油回収部210の第1弁214及び油充填部220の第2弁224から、接続されている不要なチューブが取り外される。
【0100】
(5)特徴
(5-1)
本実施形態のスクロール圧縮機100は、圧縮機構20と、ケーシング10と、第1管212と、第1管212とは異なる第2管222と、を備える。ケーシング10は、圧縮機構20を収容する。第1管212は、ケーシング10を貫通して配置され、ケーシング10の内部空間Sの下部から油を回収する。第2管222は、ケーシング10を貫通して配置され、ケーシング10の内部空間Sに油を充填する。
【0101】
本実施形態のスクロール圧縮機100では、第1管212と第2管222とを別の配管とすることで、第1管212に油の回収に適した構造を、第2管222に油の充填や異物の除去に適した構造を、それぞれ採用できる。そのため、油の回収及び充填に単一配管を利用する場合に比べ、ケーシング10の下部の油が溜められている空間に存在する異物の除去率を高めることができる。
【0102】
(5-2)
本実施形態のスクロール圧縮機100は、汲み上げ機構87と、フィルタ89と、を備える。汲み上げ機構87は、ケーシング10の内部空間Sの下部の油溜空間16から油を汲み上げる。フィルタ89は、汲み上げ機構87の、ケーシング10の内部空間Sの下部の油溜空間16からの油の取り込み口88aを覆う。第2管222からの油の充填により、フィルタ89に付着した異物が除去される。
【0103】
本実施形態のスクロール圧縮機100では、油の回収及び充填に単一配管を利用する場合には除去しにくいフィルタ89に付着した異物を、第2管222からの油の充填の際に除去できる。
【0104】
(5-3)
本実施形態のスクロール圧縮機100では、第2管222の油の吐出口223は、フィルタ89に面している。
【0105】
本実施形態のスクロール圧縮機100では、第2管222の油の吐出口223がフィルタ89に向けられているため、第2管222から吐出される油でフィルタに付着した異物を除去することが容易である。
【0106】
(5-4)
本実施形態のスクロール圧縮機100では、第2管222は、第1部分226を含む。第1部分226は、吐出口223に向かって下方に延びる。
【0107】
本実施形態のスクロール圧縮機100では、第2管222が第1部分226を含むことで、第2管222の吐出する油で、フィルタ89に付着した異物を除去することが容易である。
【0108】
(5-5)
本実施形態のスクロール圧縮機100では、第1管212の油の吸込口213が設けられた端部(第1端212a)は、ケーシング10の底面14ba(ケーシング10の下蓋14bの底面14ba)の近傍に配置される。
【0109】
本開示では、油の充填に、第1管212とは別の第2管222が用いられるため、第1管212の構造や配置に、油の回収に特に適した構造や配置を採用できる。本実施形態のスクロール圧縮機100では、第1管212の吸込口213がケーシング10の底面14ba近傍に配置されるので、油の回収時にケーシング10の底面14baに堆積した異物を除去することが容易である。
【0110】
(5-6)
本実施形態のスクロール圧縮機100では、第1管212の油の吸込口213は、ケーシング10の底面14baに面している。
【0111】
本実施形態のスクロール圧縮機100では、第1管212の吸込口213がケーシング10の底面14baに向けられているため、油の回収時にケーシング10の底面14baに溜まった異物を除去することが容易である。
【0112】
(5-7)
本実施形態の圧縮機(本実施形態ではスクロール圧縮機100)における油の交換方法は、第1工程、第2工程、第3工程、及び第4工程を備える。第1工程(ステップS1,S5)では、ケーシング10の内部空間Sに、ガス(本実施形態では窒素)が充填され、内部圧力が高められる。第2工程(ステップS2,S6)では、ケーシング10の内部空間Sとケーシング10の外部との圧力差により、第1管212を介してケーシング10の内部空間Sの下部から油が回収される。第3工程(ステップS3,S7)では、ケーシング10の内部空間Sの真空引きが行われる。第4工程(ステップS4,S8)では、第2管222を介してケーシング10の内部空間Sに油が充填される。
【0113】
本実施形態の油の交換方法では、油の回収及び充填に単一の配管を利用する場合に比べ、ケーシング10の内部空間の下部の油が溜められている空間に存在する異物の除去率を高めることができる。
【0114】
(5-8)
本実施形態の圧縮機における油の交換方法は、上記の第1工程~第4工程が繰り返し実行される。
【0115】
本実施形態の圧縮機における油の交換方法では、ケーシング10の下部の油が溜められている空間に存在する異物の除去率を特に高めることができる。
【0116】
(6)変形例
以下に上記実施形態の変形例を示す。なお、以下の変形例は、互いに矛盾しない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【0117】
(6-1)変形例A
上記実施形態では、本開示の圧縮機を、スクロール圧縮機100を例に説明したが、本開示の圧縮機の種類はスクロール圧縮機に限定されるものではない。本開示の構成は、ケーシングの内部空間の下部に油が貯留される圧縮機に広く適用可能である。例えば、本開示の圧縮機は、ロータリ圧縮機であってもよい。
【0118】
(6-2)変形例B
上記実施形態の第2管222の形状は例示に過ぎず、他の形状であってもよい。
【0119】
例えば、第2管222は、
図4のような形状であってもよい。
図4の第2管222は、第2端222bから水平方向に延びた後、一旦斜め上方に延び、更に向きを変えて吐出口223の形成されている第1端222aに向かって斜め下方に延びる。第2管222の吐出口223は、フィルタ89に向けられている。
図4の第2管222は、吐出口223に向かって、
図2の第2管222の第1部分226より急な角度に延びる(鉛直方向に近い方向に延びる)第1部分226aを有する。第1部分226aは、鉛直方向に延びるフィルタ89の側面に概ね沿う方向に延びる。第2管222がこのような形状を有することで、吐出口223からフィルタ89の側面に沿って吐出される油で、フィルタ89に付着した異物の除去の促進を図ることができる。
図4の変形例Bのスクロール圧縮機100は、第2管222の形状以外は、上記実施形態のスクロール圧縮機100と同様であるので、他の点の説明は省略する。
【0120】
また、第2管222は、曲がり部を有するものでなくてもよく、水平方向又は斜め方向に延びる直管状の部材であってもよい。
【0121】
(6-3)変形例C
上記実施形態では、第2管222は、油の充填のために用いられるが、これに限定されるものではなく、油の充填の用途以外にも利用されてもよい。例えば、第2管222は、他の圧縮機との均油管としても利用されてもよい。第2管222を均油管としても利用することで、第1管212及び第2管222とは別に均油管を更に設ける場合に比べて、部品点数を削減できる。
図5を参照しながら、具体例を説明する。
【0122】
図5の例では、スクロール圧縮機100Aの第2管222は、スクロール圧縮機100Aへの油の充填に用いられる。また、スクロール圧縮機100Bの第2管222は、スクロール圧縮機100Bへの油の充填に用いられる。さらに、スクロール圧縮機100A,100Bの第2管222は、スクロール圧縮機100Aとスクロール圧縮機100Bとの均油管としても用いられる。スクロール圧縮機100A及びスクロール圧縮機100Bは、上記実施形態のスクロール圧縮機100と同様の構造であるため、説明は省略する。
図5の例では、スクロール圧縮機100Aの油充填部220の第2弁224とスクロール圧縮機100Bの油充填部220の第2弁224とは、配管232で接続される。2つの第2弁224の間を延びる配管232は、2つの第2弁224の間で分岐し、配管232の分岐部分には弁234が設けられている。
【0123】
スクロール圧縮機100A及びスクロール圧縮機100Bの運転時には、スクロール圧縮機100A,100Bの油充填部220の第2弁224は両方とも開かれている。弁234は閉じられている。
【0124】
一方、例えば、スクロール圧縮機100Aの油の回収及び充填を行う際には、スクロール圧縮機100Aの油充填部220の第2弁224は開かれ、スクロール圧縮機100Bの油充填部220の第2弁224は閉じられる。そして、スクロール圧縮機100Aの油の回収及び充填を行う際には、弁234の開閉は、上記実施形態における油の回収及び充填の際の第2弁224と同様に制御されればよい。
【0125】
(6-4)変形例D
上記実施形態では、第2管222の流路面積は、第1端222aから第2端222bまでの全域にわたって一定である。しかし、これに限定されるものではなく、第2管222の流路面積は位置により変化してもよい。
【0126】
例えば、
図6のように、スクロール圧縮機100に使用される第2管1222は、吐出口223に向かって流路面積が次第に小さくなるノズル部228を有する。第2管1222では、吐出口223に向かって下方に延びる第1部分226にノズル部228が設けられる。ノズル部228は、第1端228aと、吐出口223の配置される第2端228bとの間を延びる。ノズル部228では、第1端228aから第2端228bに向かって、油の流路面積が次第に小さくなる。第2管1222がノズル部228を有することで、第2管1222から吐出される油の流速を速め、油の流れで、フィルタ89に付着した異物を除去したりすることが容易である。
【0127】
(6-5)変形例E
上記実施形態では、駆動軸80の軸方向が鉛直方向である縦型のスクロール圧縮機を例に説明しているが、本開示の圧縮機は、駆動軸80の軸方向が水平方向である横型の圧縮機であってもよい。
【0128】
(6-6)変形例F
上記実施形態の油の交換方法では、スクロール圧縮機100内の油が、新しい油と交換されることを想定している。ただし、これに限定されるものではなく、ここでの油の交換には、スクロール圧縮機100の内部空間Sから一旦取り出した油を、異物の除去後に再充填する場合を含む。
【0129】
(6-7)変形例G
上記実施形態で説明した油の交換方法は一例に過ぎず、種々の変更が可能である。
【0130】
例えば、上記実施形態では、第1工程~第4工程が2回繰り返し実行されるが、第1工程~第4工程は1度だけ実行されてもよい。この場合でも、油の充填の際にフィルタ89等から異物を除去して、次回の油回収の際に、油と共にフィルタ89等から除去された異物を回収することができる。
【0131】
また、第1工程~第4工程は、3回以上繰り返し実行されてもよい。
【0132】
また、例えば、ステップS4で充填される油の量と、ステップS8で充填される油の量とは異なってもよい。
【0133】
また、例えば、ステップS1~ステップS3は省略して、ステップS4の油充填を行って油溜空間16の油の攪拌やフィルタ89からの異物の除去を行い、その後にステップS5~ステップS8の工程が実行されてもよい。油溜空間16の油の攪拌等を行うことで、ケーシング10の底面14baに堆積している異物やフィルタ89に付着している異物を動かし、ステップS6において異物を油と共に除去することが容易である。
【0134】
また、例えば、上記実施形態では、ケーシング10の内外の圧力差を利用して油の回収や充填が行われるが、これに限定されるものではなく、例えば、油の回収及び充填の少なくとも一方には、ポンプが用いられてもよい。
【0135】
<付記>
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本開示は、ケーシングの内部空間に油を貯留する圧縮機に広く適用でき有用である。
【符号の説明】
【0137】
10 ケーシング
14ba 底面
20 圧縮機構
87 汲み上げ機構
88a 取り込み口
89 フィルタ
100 スクロール圧縮機(圧縮機)
212 第1管
212a 第1端(端部)
213 吸込口
222,1222 第2管
223 吐出口
226 第1部分
228 ノズル部
228a 第1端
228b 第2端
S 内部空間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0138】