(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160174
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】マネージャ、電子制御ユニット、システム、制御方法、制御プログラム、及び車両
(51)【国際特許分類】
B60W 30/00 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
B60W30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064757
(22)【出願日】2021-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一城
(72)【発明者】
【氏名】酒井 陽次
(72)【発明者】
【氏名】荒川 俊介
(72)【発明者】
【氏名】森 雄麻
(72)【発明者】
【氏名】青木 淳
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA01
3D241BA11
3D241BA31
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC11
3D241CD07
3D241CD15
3D241CD16
3D241CD22
(57)【要約】
【課題】制御のもたつきの発生を抑制することができるマネージャなどを提供する。
【解決手段】車両に搭載されたマネージャであって、複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付ける受付部と、複数の行動計画を調停する調停部と、調停部による調停結果に基づいて運動要求を算出する算出部と、運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配する分配部と、を備え、受付部は、調停部における調停対象に関する情報をADASアプリケーションから受け付ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたマネージャであって、
複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付ける受付部と、
前記複数の行動計画を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて、運動要求を算出する算出部と、
前記運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配する分配部と、を備え、
前記受付部は、前記調停部における調停対象に関する情報を前記ADASアプリケーションから受け付ける、
マネージャ。
【請求項2】
前記調停対象に関する情報は、前記行動計画が、前記調停部による調停の対象とする優先度が低い低優先行動計画であることを示す情報である、
請求項1に記載のマネージャ。
【請求項3】
前記低優先行動計画には、前記ADASアプリケーションが生成の終了を予定している前記行動計画が含まれる、
請求項2に記載のマネージャ。
【請求項4】
前記ADASアプリケーションが生成の終了を予定している前記行動計画では、縮退処理がなされている、
請求項3に記載のマネージャ。
【請求項5】
前記縮退処理は、前記行動計画を、前記アクチュエータシステムから発生可能な駆動力下限に漸近させる処理である、
請求項4に記載のマネージャ。
【請求項6】
前記調停部は、前記低優先行動計画を除外した残りの前記行動計画を調停する、
請求項2乃至5のいずれか1項に記載のマネージャ。
【請求項7】
前記調停部は、前記受付部によって前記複数のADASアプリケーションから前記低優先行動計画のみが受け付けられた場合、前記低優先行動計画を調停結果として出力し、
前記算出部は、前記調停結果である前記低優先行動計画に基づいて算出した前記運動要求を、ブレーキ制御の実行状態に応じて前記アクチュエータシステムから発生可能な駆動力下限に基づいて制限する、
請求項6に記載のマネージャ。
【請求項8】
前記算出部は、前記ブレーキ制御が実行中である場合に、前記アクチュエータシステムから発生可能な駆動力下限に基づいて前記運動要求を制限する、
請求項7に記載のマネージャ。
【請求項9】
前記駆動力下限は、現在の変速比におけるパワートレインアクチュエータが実現可能な駆動力の下限値であり、
前記少なくとも1つのアクチュエータシステムは、前記パワートレインアクチュエータを含むパワートレインシステムを含む、
請求項5、7、8のいずれか1項に記載のマネージャ。
【請求項10】
車両に搭載され、1つ以上のADASアプリケーションを実装する電子制御ユニットであって、
前記ADASアプリケーションの行動計画と、前記行動計画の調停処理における調停対象に関する情報とを、マネージャに出力する出力部を備える、
電子制御ユニット。
【請求項11】
車両に搭載され、1つ以上の電子制御ユニットに実装された複数のADASアプリケーションとマネージャとを備える、システムであって、
前記1つ以上の電子制御ユニットは、前記複数のADASアプリケーションが要求する複数の行動計画を前記マネージャに出力する出力部を備え、
前記マネージャは、
前記複数のADASアプリケーションから前記複数の行動計画を受け付ける受付部と、
前記複数の行動計画を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて、運動要求を算出する算出部と、
前記運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配する分配部と、を備え、
前記受付部は、前記調停部における調停対象に関する情報を前記ADASアプリケーションから受け付ける、
システム。
【請求項12】
車両に搭載されたマネージャのコンピューターが実行する制御方法であって、
複数のADASアプリケーションから、行動計画と、前記行動計画の調停処理における調停対象に関する情報とを、それぞれ受け付けるステップと、
前記受け付けた複数の前記行動計画を調停するステップと、
前記調停の結果に基づいて、運動要求を算出するステップと、
前記情報に基づいて、前記運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配するステップと、を含む、
制御方法。
【請求項13】
車両に搭載されたマネージャのコンピューターに実行させる制御プログラムであって、
複数のADASアプリケーションから、行動計画と、前記行動計画の調停処理における調停対象に関する情報とを、それぞれ受け付けるステップと、
前記受け付けた複数の前記行動計画を調停するステップと、
前記調停の結果に基づいて、運動要求を算出するステップと、
前記情報に基づいて、前記運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配するステップと、を含む、
制御プログラム。
【請求項14】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のマネージャを搭載した、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載されるマネージャなどに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転や自動駐車などの自動運転機能を実現する先進運転支援アプリケーション(ADAS(Advanced Driver Assistance System)アプリケーション)が、車両に複数実装されている。特許文献1には、これらの複数のADASアプリケーションから出力される要求をそれぞれ受け付けて、この受け付けた複数の要求を調停し、その調停結果に基づいてアクチュエータシステム(パワートレインアクチュエータやブレーキアクチュエータなどを含むシステム)を駆動するための要求を出力する、マネージャ(制御装置)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなマネージャには、車両を最も安全かつ安心に制御するため、複数のADASアプリケーションから複数の要求を受け付けた場合、複数の要求における最小の要求を採択する基本機能を有したものがある。しかしながら、この基本機能においては、複数のADASアプリケーションから今後出力を終えようとしている既存の要求と新たに出力された新規の要求との両方を受け付けた場合、調停の結果によっては既存の要求が終えるまで新規の要求が採択されず、制御のもたつきを発生させてしまう(乗員にもたつき感を与えてしまう)おそれがあった。
【0005】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、制御のもたつきの発生を抑制することができるマネージャなどを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、車両に搭載されたマネージャであって、複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付ける受付部と、複数の行動計画を調停する調停部と、調停部による調停結果に基づいて運動要求を算出する算出部と、運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配する分配部と、を備え、受付部は、調停部における調停対象に関する情報をADASアプリケーションから受け付ける、マネージャである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、今後出力を終えようとしている既存の要求を調停対象から除外するため、新規の要求が調停で採択されやすくなり、制御のもたつきの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係るシステムの構成例を示す概略図
【
図2】マネージャが実行する調停処理の手順を示すフローチャート
【
図3】複数の要求加速度(行動計画)の調停処理例を説明する図
【
図4】複数の要求加速度(行動計画)の調停処理例を説明する図
【
図5】マネージャが実行する制限処理の手順を示すフローチャート
【
図6】駆動力(運動要求)の制限処理例を説明する図
【
図7】駆動力(運動要求)の他の制限処理例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示のマネージャは、アプリケーションからの要求が複数競合して発生している場合において、その複数の行動計画の中に今後要求を終了する予定である行動計画が含まれている場合には、この終了予定の行動計画を除外して調停を行う。これにより、終了予定の行動計画の要求が終えるまで他の行動計画の要求が採択されないといったことを回避することができる。
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る車両に搭載されるシステム1の構成例を示す概略図である。
図1に例示したシステム1は、マネージャ10と、運転支援システム20と、複数のアクチュエータシステム30及び40と、を備えている。システム1が備える各構成は、車載ネットワーク100を介して通信可能に接続されている。車載ネットワーク100は、CAN(Controller Area Network)やイーサネット(登録商標)などを例示できる。
【0011】
運転支援システム20は、実装されるアプリケーションを実行することにより、少なくとも車両の駆動制御及び制動制御を含む車両の運転を支援するための様々な機能を実現するための構成である。運転支援システム20が実装するアプリケーションとしては、自動運転の機能を実現する自動運転アプリケーション、自動駐車の機能を実現する自動駐車アプリケーション、及び先進運転支援の機能を実現するADASアプリケーションなどを例示できる。ADASアプリケーションには、衝突回避支援(PCSなど)の機能を実現するアプリケーション、前走車との車間距離を一定に保ちながら走行する前車追従走行(ACCなど)の機能を実現するアプリケーション、走行する車線の維持を行う車線維持支援(LKA、LTAなど)の機能を実現するアプリケーション、衝突の被害を軽減させるために自動的に制動をかける衝突被害軽減ブレーキ(AEBなど)の機能を実現するアプリケーション、車両の走行車線の逸脱を警告する車線逸脱警報(LDW、LDAなど)の機能を実現するアプリケーションなど、がある。
【0012】
この運転支援システム20の各アプリケーションは、図示しない各種センサなどから取得(入力)する車両の情報(認識センサ情報など)に基づいて、アプリケーションの要求として、アプリケーション単独での機能性(商品性)を担保した行動計画の要求を、マネージャ10にそれぞれ出力する。この行動計画には、車両に発生させる前後加速度/減速度に関する要求などが含まれる。また、運転支援システム20の各アプリケーションは、行動計画と共に、自身のアプリケーションを一意に特定することができる識別情報(アプリID)を、マネージャ10にそれぞれ出力することができる。このアプリIDは、アプリケーションごとに予めユニークに定められている。
【0013】
さらに、運転支援システム20の各アプリケーションは、現在要求している行動計画の生成の終了を予定していることを示す情報を、マネージャ10にそれぞれ出力する。この情報には、例えばフラグを用いることができ、行動計画の生成を終了するまでの所定の期間にフラグをON状態にすることで、マネージャ10に対して行動計画の生成終了を事前に通知することができる。このような生成終了を予定している行動計画は優先度が低い行動計画と考えられるため、以降これらに付されるフラグを「低優先フラグ」と記すことにする。一例として、行動計画として加速度を出力しているACCアプリケーションは、自らの要求を今後終えるために要求する加速度をアクチュエータシステム30及び40から発生可能な駆動力の下限値に漸近させる縮退処理を実施するような場合、この縮退処理を開始した直後から加速度の要求を停止するまでの期間中は、上述した低優先フラグをON状態にしてマネージャ10に出力することができる。
【0014】
この運転支援システム20は、CPUなどのプロセッサ、メモリ、及び入出力インターフェイス(出力部)を有する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)などのコンピューターによって実現される。なお、運転支援システム20を構成するECUの数や、ECUが実装するアプリケーションの数は、特に限定されない。また、運転支援システム20として、アプリケーションごとにそれぞれのECUが設けられてもよい。例えば、自動運転アプリケーションが実装された自動運転ECU、自動駐車アプリケーションが実装された自動駐車ECU、及び先進運転支援アプリケーションが実装されたADAS-ECUによって、運転支援システム20が構成されてもよい。また、ACC機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、LKA機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、及びAEB機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECUのように、複数のADASアプリケーションが複数のECUに実装されてもよい。
【0015】
複数のアクチュエータシステム30及び40は、運転支援システム20が出力する行動計画の要求を実現するための実現システムの1つである。一例として、アクチュエータシステム30は、車両に制駆動力を発生させることが可能なパワートレインアクチュエータ(エンジンやトランスミッションなど)を含み、パワートレインアクチュエータの動作を制御することによって、行動計画の要求を実現させるパワートレインシステムである。また、一例として、アクチュエータシステム40は、車両に制動力を発生させることが可能なブレーキアクチュエータ(油圧ブレーキ、電動パーキングブレーキなど)を含み、ブレーキアクチュエータの動作を制御することによって、行動計画の要求を実現させるブレーキシステムである。なお、車両に搭載されるアクチュエータシステムの数は、特に限定されない。
【0016】
マネージャ10は、運転支援システム20から受け付ける行動計画の要求に基づいて、車両の運動に関する制御内容を決定し、この決定した制御内容に基づいてアクチュエータシステム30及び/又は40に対して必要な要求を出力する。また、マネージャ10は、運転支援システム20から行動計画の要求と共に取得した低優先フラグに基づいて、複数のアクチュエータシステム30及び/又は40に運動要求の分配を行う。
【0017】
このマネージャ10は、いわゆる車両の運動に関わるADAS-MGRやVehicle-MGRなどとして、あるいはADAS-MGRやVehicle-MGRの一部として機能し、車両の動きを制御する。マネージャ10は、受付部11と、調停部12と、算出部13と、分配部14と、を含む。
【0018】
受付部11は、運転支援システム20の複数のアプリケーションが出力する行動計画の要求及び低優先フラグを受け付ける。本実施形態における行動計画としては、車両の前後方向(縦方向)運動に関する加速度を例示することができる。また、受付部11は、パワートレインアクチュエータを含むアクチュエータシステム30から、発生可能な駆動力下限(アベイラビリティ下限)を受け付ける。この駆動力下限とは、パワートレインアクチュエータが現在の変速比(ギア段)においてアクセルペダルを踏み込まないアクセル全閉状態で実現可能な駆動力の下限値(最小駆動力)である。受付部11が受け付けた行動計画の要求、低優先フラグ、及び駆動力下限は、調停部12に出力される。
【0019】
調停部12は、受付部11が運転支援システム20の各アプリケーションから受け付けた複数の行動計画の要求を調停する。この調停の処理としては、所定の選択基準(例えば、Min選択)に基づいて複数の行動計画の中から1つの行動計画を選択することが例示できる。また、他の調停処理として、複数の行動計画に基づいて新たな行動計画を設定することもできる。このとき、調停部12は、受付部11が各アプリケーションから受け付けた低優先フラグと、マネージャ10がアクチュエータシステム30から取得する発生可能な駆動力下限とに基づいて、複数の行動計画の要求を調停する。この調停については、後述する。
【0020】
なお、受付部11が各アプリケーションから受け付ける行動計画について、調停に関する優先順位が予め定められている場合がある。このような場合、調停部12は、行動計画の調停に際して、この優先順位よりも先に低優先フラグを適用して複数の行動計画を調停したり、低優先フラグに基づいて優先順位を一時的に変更させてから複数の行動計画を調停したり、してもよい。
【0021】
算出部13は、調停部12における行動計画の要求の調停結果に基づいて、運動要求を算出する。この運動要求は、アクチュエータシステム30/又は40を制御するための物理量であり、行動計画の要求の物理量とは異なる。例えば、行動計画の要求が加速度である場合には、運動要求として駆動力や駆動トルクを算出することができる。これにより、加速度の要求が駆動力や駆動トルクの要求に変換される。
【0022】
また、算出部13は、各アプリケーションから受け付けた低優先フラグと、マネージャ10がアクチュエータシステム30から取得する発生可能な駆動力下限とに基づいて、自らが算出した運動要求に対して所定の制限処理を施すことができる。この制限処理については、後述する。
【0023】
分配部14は、算出部13によって算出された運動要求又は算出後に制限処理が施された運動要求を、少なくとも1つのアクチュエータシステム30及び/又は40に分配する。例えば、ブレーキを用いない場合には、分配部14は、パワートレインアクチュエータを含むアクチュエータシステム30のみに運動要求を分配する。また例えば、エンジンとブレーキとを併用する場合には、分配部14は、パワートレインアクチュエータを含むアクチュエータシステム30と、ブレーキアクチュエータを含むアクチュエータシステム40とに、運動要求を適切に分配する。
【0024】
なお、以上説明した、車両に搭載されたマネージャ10、運転支援システム20、及びアクチュエータシステム30及び40の構成は一例であって、適宜、追加、置換、変更、省略などが可能である。また、各機器の機能は適宜1つの機器に統合したり複数の機器に分散したりして実装することが可能である。
【0025】
[制御]
図2乃至
図7をさらに参照して、本実施形態に係るマネージャ10が実行する制御を説明する。
【0026】
(1)調停/算出処理
図2は、マネージャ10の調停部12及び算出部13が実行する調停/算出処理の手順を説明するフローチャートである。この
図2に示す調停/算出処理は、マネージャ10の受付部11が、運転支援システム20のアプリケーションから行動計画の要求を受け付けた場合に開始される。行動計画としては、加速度を例示できる。
【0027】
(ステップS201)
調停部12は、受付部11がアプリケーションから受け付けた行動計画の数を確認する。行動計画が2つ以上である場合は(ステップS201、2つ以上)、ステップS202に処理が進み、行動計画が1つのみである場合は(ステップS201、1つ)、ステップS206に処理が進む。
【0028】
(ステップS202)
調停部12は、受付部11がアプリケーションから受け付けた2つ以上の行動計画の中に、低優先フラグがONとなっている行動計画があるか否かを判断する。すなわち、調停部12は、各アプリケーションから要求された複数の行動計画の中に、縮退しながら出力を終了しようとしている優先度が低い行動計画が含まれているか否かを判断する。以下、この低優先フラグがONとなっている行動計画を「低優先行動計画」という。低優先フラグがONとなっている低優先行動計画が1つ以上ある場合は(ステップS202、はい)、ステップS203に処理が進む(パターン[A])。一方、低優先フラグがONとなっている低優先行動計画が全くない場合は(ステップS202、いいえ)、ステップS204に処理が進む(パターン[B])。
【0029】
(ステップS203)
調停部12は、受付部11がアプリケーションから受け付けた2つ以上の行動計画のうち低優先フラグがONとなっている低優先行動計画を除外し、この低優先行動計画を除外した残りの行動計画を対象として調停を実施する。調停処理としては、調停対象となる行動計画のうち最小値を要求する行動計画を採択する手法を例示できる。行動計画の調停が実施されると、ステップS205に処理が進む。
【0030】
(ステップS204)
調停部12は、受付部11がアプリケーションから受け付けた全ての行動計画を対象として調停を実施する。調停処理としては、全ての行動計画のうち最小値を要求する行動計画を採択する手法を例示できる。行動計画の調停が実施されると、ステップS205に処理が進む。
【0031】
(ステップS205)
算出部13は、調停部12の調停結果に基づいて運動要求を算出する。運動要求としては、駆動力を例示できる。この算出した運動要求は、少なくとも1つのアクチュエータシステム30及び/又は40に分配する運動要求として、マネージャ10の分配部14に出力される。運動要求が算出されると、本調停/算出処理が終了する。
【0032】
(ステップS206)
算出部13は、受付部11がアプリケーションから受け付けた1つの行動計画に基づいて運動要求を算出する。この1つの行動計画は、調停部12によって調停結果として採択される行動計画である。運動要求としては、駆動力を例示できる。運動要求が算出されると、ステップS207に処理が進む。
【0033】
(ステップS207)
算出部13は、運動要求を算出した1つの行動計画の低優先フラグがONであるか否かを判断する。すなわち、算出部13は、1つの行動計画の要求が縮退しながら終了しようとしている状態であるか否かを判断する。1つの行動計画の低優先フラグがOFFである場合は(ステップS207、いいえ)、上記ステップS206で算出した運動要求が少なくとも1つのアクチュエータシステム30及び/又は40に分配する運動要求として分配部14に出力されて、本調停/算出処理が終了する(パターン[C])。一方、1つの行動計画の低優先フラグがONである場合は(ステップS207、はい)、ステップS208に処理が進む(パターン[D])。
【0034】
(ステップS208)
算出部13は、上記ステップS206で算出した運動要求に対して所定の制限処理を施す。この制限処理については、後述する。上記ステップS206で算出した運動要求に制限処理が施された新たな運動要求が、少なくとも1つのアクチュエータシステム30及び/又は40に分配する運動要求として分配部14に出力されて、本調停/算出処理が終了する。
【0035】
このように、各アプリケーションから受け付けた複数の行動計画の中に今後要求を終了する予定である低優先行動計画がある場合には、この低優先行動計画を調停の対象から除外する。これにより、低優先行動計画以外の行動計画が採択されるようになるので、制御のもたつきの発生を抑制することができる。
【0036】
なお、上記実施形態では、行動計画の低優先フラグがONであるか否かの判断を、調停部12及び算出部13がそれぞれ行う例を説明した。しかし、この判断を別の構成(例えば、フラグ判断部など)が行って、その判断結果を調停部12及び算出部13にそれぞれ出力するようにしてもよい。
【0037】
図3及び
図4を参照して、マネージャ10が実行する調停/算出処理を具体的に説明する。この具体例では、運転支援システム20の各アプリケーションから行動計画として前後方向の加速度が要求され、調停処理においては複数の加速度の中から最小の加速度が採択される場合(Min選択)を説明する。
【0038】
図3は、アプリケーションAから要求される行動計画(以下「アプリA要求」という)とアプリケーションBから要求される行動計画(以下「アプリB要求」という)との両方が発生した後で、アプリA要求の低優先フラグがON状態となる例を示している。
【0039】
アプリA要求のみである時間T<t1の期間では、アプリケーションAの行動計画で要求される加速度(以下「アプリA要求加速度」という)が調停によって採択される(
図2のパターン[C])。
【0040】
アプリA要求とアプリB要求とが競合して調停が行われる時間t1≦T<t3の期間のうち時間t1≦T<t2の期間では、アプリA要求の低優先フラグがまだOFF状態であるため、最小値であるアプリA要求加速度が調停によって採択される(
図2のパターン[B])。
【0041】
アプリA要求とアプリB要求とが競合して調停が行われる時間t1≦T<t3の期間のうち時間t2≦T<t3の期間では、アプリA要求の低優先フラグがON状態になり、アプリA要求加速度が調停の対象から除外されるため、アプリケーションBの行動計画で要求される加速度(以下「アプリB要求加速度」という)が調停によって採択される(
図2のパターン[A])。
【0042】
アプリA要求が終了してアプリB要求のみである時間t3≦Tの期間では、アプリB要求加速度が調停によって採択される。
【0043】
図4は、アプリB要求が発生する前に、既に発生しているアプリA要求の低優先フラグがON状態となっている例を示している。
【0044】
アプリA要求のみである時間T<t2の期間のうち時間T<t1の期間では、アプリA要求加速度が調停によって採択される(
図2のパターン[C])。
【0045】
アプリA要求のみである時間T<t2の期間のうち時間t1≦T<t2の期間では、時間T<t1の期間と同様にアプリA要求加速度が調停によって採択されるが、アプリA要求の低優先フラグがON状態であるため、アプリA要求加速度に基づいて算出される駆動力(運動要求)に後述する制限処理が施される(
図2のパターン[D])。
【0046】
アプリA要求とアプリB要求とが競合して調停が行われる時間t2≦T<t3の期間では、アプリA要求の低優先フラグがON状態であるためアプリA要求加速度が調停の対象から除外されて、アプリB要求加速度が調停によって採択される(
図2のパターン[A])。
【0047】
アプリB要求のみである時間t3≦Tの期間では、アプリB要求加速度が調停によって採択される。
【0048】
上述した例のように、アプリケーションからの要求が複数競合して発生している場合では、低優先フラグがON状態であるアプリケーションの要求を調停の対象から除外する。このため、例えば縮退処理によって極端に低い加速度を要求しているアプリケーションの行動計画が調停で採択されることを回避できるので、制御のもたつきの発生を抑制することができる。
【0049】
(2)制限処理
次に、
図5を参照して、上述した調停/算出処理においてマネージャ10の算出部13が運動要求に施す制限処理(
図2のステップS208)を説明する。
図5は、マネージャ10が実行する制限処理の手順を説明するフローチャートである。
【0050】
(ステップS501)
マネージャ10は、車両がブレーキ制御を実行している最中(実行中)であるか否かを判断する。ブレーキ制御が実行中であるか否かは、アクチュエータシステム40がブレーキアクチュエータを動作させているか否かによって判断可能である。ブレーキ制御が実行中である場合は(ステップS501、はい)、ステップS502に処理が進む。一方、ブレーキ制御が実行中ではない場合は(ステップS501、いいえ)、ステップS503に処理が進む。
【0051】
(ステップS502)
マネージャ10は、ブレーキ制御の実行状態を保持する。すなわち、マネージャ10の分配部14は、ブレーキアクチュエータによるブレーキ制御がそのまま継続して実行されるように、運動要求をアクチュエータシステム40に適切に分配する。ブレーキ制御の実行状態が保持されると、ステップS504に処理が進む。
【0052】
(ステップS503)
マネージャ10は、ブレーキ制御を実行しない状態を保持する。すなわち、マネージャ10の分配部14は、ブレーキアクチュエータによるブレーキ制御が新たに発生しないように、アクチュエータシステム40への運動要求の分配を制限(又は禁止)する。ブレーキ制御を実行しない状態が保持されると、ステップS505に処理が進む。
【0053】
(ステップS504)
マネージャ10の算出部13は、行動計画の調停結果に基づいて算出した運動要求を所定の下限値に基づいて制限する。この所定の下限値は、運動要求が駆動力である場合、現在の変速比におけるパワートレインアクチュエータが実現可能な駆動力の下限値(駆動力下限)とすることができる。マネージャ10は、パワートレインアクチュエータを含むアクチュエータシステム30からフィードバック入力することで、駆動力下限を取得することができる。駆動力下限に基づいて制限された運動要求は、分配部14によってアクチュエータシステム30及び/又は40に分配される。運動要求が駆動力下限に基づいて制限されると、ステップS506に処理が進む。
【0054】
(ステップS505)
マネージャ10の算出部13は、行動計画の調停結果に基づいて算出した運動要求に制限を施さない。すなわち、制限がされていない運動要求が、分配部14によってアクチュエータシステム30及び/又は40に分配される。その後、ステップS506に処理が進む。
【0055】
(ステップS506)
マネージャ10は、受付部11がアプリケーションから受け付けていた既存の行動計画の要求が終了したか否か、又は受付部11が他のアプリケーションから新たな行動計画の要求を受け付けたか否かを、判断する。既存の行動計画の要求が終了した場合又は新たな行動計画の要求があった場合は(ステップS506、はい)、ステップS508に処理が進む。一方、既存の行動計画の要求が終了せずかつ新たな行動計画の要求もない場合は(ステップS506、いいえ)、ステップS507に処理が進む。
【0056】
(ステップS507)
マネージャ10は、受付部11がアプリケーションから受け付けていた既存の行動計画の要求における低優先フラグがOFFになったか否かを判断する。既存の行動計画の要求における低優先フラグがOFFになった場合は(ステップS507、はい)、ステップS508に処理が進む。一方、既存の行動計画の要求における低優先フラグがONのままである場合は(ステップS507、いいえ)、ステップS506に処理が進む。
【0057】
(ステップS508)
マネージャ10は、上記ステップS502又はS503で行ったブレーキ制御の保持状態、及び上記ステップS504で行った運動要求の制限状態を、それぞれ解除する。保持及び制限の状態が解除されると、本制限処理が終了する。
【0058】
このように、アプリケーションから受け付けた行動計画が1つのみであった場合、この行動計画が縮退を経て要求を終えようとしている低優先行動計画であれば、行動計画に基づいて算出される運動要求を所定の下限値に制限する。これにより、例えば、駆動力である運動要求をパワートレインアクチュエータが発生可能な駆動力の下限値(駆動力下限)に制限することで、要求駆動力が駆動力下限を跨いで変化することがなくなり、ブレーキアクチュエータの動作/非動作の状態が頻繁に切り替わって車両の乗り心地が悪化してしまうといった現象を抑制することができる。
【0059】
次に、
図6及び
図7を参照して、マネージャ10が実行する制限処理を具体的に説明する。この具体例では、マネージャ10の算出部13によって運動要求として駆動力が算出される場合を説明する。
【0060】
図6は、ブレーキアクチュエータによるブレーキ制御が実行されていない状態(未実行)で、アプリケーションAから要求される行動計画(以下「アプリA要求」という)の低優先フラグがON状態となる例を示している。
【0061】
図6の例では、低優先フラグがON状態になった時点(時間t1)でブレーキアクチュエータによるブレーキ制御が実行されていないため、そのブレーキ制御が実行されていない状態が保持される。よって、その後、要求駆動力(実線)がパワートレインアクチュエータの駆動力下限(一点鎖線)を下回ったとしても(時間t2≦T≦t3)、ブレーキ制御が実行されない(ブレーキアクチュエータが非動作)。つまり、アプリA要求がなくなる又は低優先フラグがOFF状態になる時点(時間t4)まで、アプリケーションAから要求されるがまま(成り行き)の駆動力がパワートレインアクチュエータに分配されることとなる。
【0062】
図7は、ブレーキアクチュエータによるブレーキ制御が実行されている状態(実行中)で、アプリA要求の低優先フラグがON状態となる例を示している。
【0063】
図7の例では、アプリA要求の駆動力(実線)がパワートレインアクチュエータの駆動力下限(一点鎖線)を下回った時点(時間t1)で、ブレーキ制御が実行される。その後、低優先フラグがON状態になった時点(時間t2)で、ブレーキ制御が実行中の状態が保持される。さらに、要求駆動力が駆動力下限を超えないように制限される。この制限により、アプリA要求が駆動力下限を超える駆動力(点線)を要求する内容だったとしても、ブレーキ制御の実行を継続するように、駆動力がブレーキアクチュエータとパワートレインアクチュエータとに適切に分配される。従って、アプリA要求がなくなる又は低優先フラグがOFF状態になるまで(時間t4)、実行しているブレーキ制御が停止する(ブレーキアクチュエータが非動作に切り替わる)ことがなくなる。
【0064】
<作用・効果>
以上のように、本開示の一実施形態に係るシステムでは、アプリケーションから行動計画の要求が複数競合して発生している場合において、その複数の行動計画の中に今後要求を終了する予定である行動計画(低優先行動計画)が含まれている場合には、この終了予定の行動計画を除外して調停を行う。これにより、終了予定の行動計画(例えば、縮退処理によって極端に低い加速度を要求しているアプリケーションの行動計画)以外の行動計画が採択されやすくなる。よって、終了予定の行動計画の要求が終えるまで他の行動計画の要求が採択されないといったことを回避し、制御のもたつきの発生を抑制することができる。
【0065】
また、本実施形態に係るシステムでは、アプリケーションから受け付けた行動計画が1つのみであった場合でも、この1つの行動計画が低優先行動計画であるならば、低優先行動計画に基づいて算出される運動要求を所定の下限値に制限する。これにより、例えば、駆動力である運動要求をパワートレインアクチュエータから発生可能な駆動力下限に制限することで、運動要求が下限値を跨いで変化することがなくなり、ブレーキアクチュエータの動作/非動作の状態が頻繁に切り替わって車両の乗り心地が悪化してしまうといった現象を抑制することができる。
【0066】
以上、本開示技術の一実施形態を説明したが、本開示は、車両に搭載されるマネージャだけでなく、電子制御ユニット、電子制御ユニットとマネージャとを含むシステム、プロセッサとメモリを備えたマネージャが実行する制御方法、制御プログラム、制御プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的な記憶媒体、あるいはマネージャを備えた車両など、として捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示は、車両などに搭載されるマネージャなどに有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 システム
10 マネージャ
11 受付部
12 調停部
13 算出部
14 分配部
20 運転支援システム
30、40 アクチュエータシステム
100 車載ネットワーク