(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160214
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】電池セルの制御装置および電池セルの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20221012BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H02J7/00 301E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064839
(22)【出願日】2021-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】山本 嵩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 敏貴
(72)【発明者】
【氏名】永野 裕己
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 孝士
(72)【発明者】
【氏名】安永 亨
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA07
5G503BB02
5G503DA08
5G503FA01
5G503FA06
5G503GB06
5H030AA10
5H030AS20
5H030FF42
(57)【要約】
【課題】使用開始初期における複数の電池セルのハイレート劣化が有る場合にハイレート劣化を抑制することが可能な電池セルの制御装置を提供する。
【解決手段】電池セル62の制御装置110は、充放電可能な二次電池である複数の電池セル62が所定方向Dに重なって配置された電池モジュール60における複数の電池セル62の拘束力を制御する装置であり、複数の電池セル62のそれぞれのハイレート劣化を検出する検出部71と、ハイレート劣化が電池セル62の使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化であるか判定する判定部72と、複数の電池セル62に対して所定方向Dに拘束力を与える拘束力付与部81と、拘束力付与部81を制御する拘束力制御部82とを備える。拘束力制御部82は、判定部72がエージング不足によるハイレート劣化を判定した場合に、複数の電池セル62に与える拘束力を大きくするように拘束力付与部81を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電可能な二次電池である複数の電池セルが所定方向に重なって配置された電池モジュールにおける前記複数の電池セルの拘束力を制御する制御装置であって、
前記複数の電池セルのそれぞれのハイレート劣化を検出する検出部と、
前記ハイレート劣化が前記電池セルの使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化であるか判定する判定部と、
前記複数の電池セルに対して前記所定方向に拘束力を与える拘束力付与部と、
前記拘束力付与部を制御する拘束力制御部と、
を備え、
前記拘束力制御部は、前記判定部がエージング不足によるハイレート劣化を判定した場合に、前記複数の電池セルに与える前記拘束力を大きくするように前記拘束力付与部を制御する、
電池セルの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池セルの制御装置において、
前記拘束力制御部は、前記判定部が前記ハイレート劣化がエージング不足によるハイレート劣化ではないと判定した場合に、前記複数の電池セルが充放電を休止している間は前記複数の電池セルに与える前記拘束力を小さくするように前記拘束力付与部を制御する、
電池セルの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電池セルの制御装置において、
前記判定部は、使用開始初期における前記電池セルの充放電履歴から内部抵抗を推定し、当該内部抵抗をあらかじめ定められた基準の内部抵抗と比較することにより、エージング不足によるハイレート劣化を判定する、
電池セルの制御装置。
【請求項4】
充放電可能な二次電池である複数の電池セルが所定方向に重なって配置された電池モジュールにおける複数の電池セルの拘束力を制御する制御方法であって、
前記複数の電池セルのそれぞれのハイレート劣化を検出する検出工程と、
前記ハイレート劣化が前記電池セルの使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化であるか判定する判定工程と、
前記複数の電池セルに対して前記所定方向に拘束力を与える拘束力付与工程と
を有し、
前記拘束力付与工程では、前記判定工程においてエージング不足によるハイレート劣化が判定された場合に、前記複数の電池セルに与える前記拘束力を大きくする、
電池セルの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電池セルの拘束力の制御を行う制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車やハイブリッド車などに用いられる充放電可能な二次電池である電池セルでは、大電流(ハイレート)による充放電の継続(サイクル)により電池セルの内部抵抗が一時的(すなわち、可逆的)に上昇する現象、いわゆるハイレート劣化(またはハイレートサイクル劣化)が生じる場合がある。ハイレート劣化が生じた場合、電池セルの充放電可能な実効電流を上げることができないため、電気自動車等の電力消費率(電費)の改善が難しくなる。
【0003】
そこで、電池セルのハイレート劣化を抑制するために、特許文献1記載の電池セルの制御装置は、所定方向に重なるように配置された複数の電池セルに対して当該所定方向に拘束力を付与する拘束荷重調整手段を備えている。この制御装置では、電池セルにハイレート劣化が生じた場合には、複数の電池セルに対して拘束荷重調整手段が付与する拘束力を小さくする。これにより、電池セル内部のリチウム塩の濃度分布の偏りを解消し、ハイレート劣化の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の電池セルは、使用開始初期においてハイレート劣化にばらつきが生じる場合がある。このようにハイレート劣化にばらつきがある状態で、上記の拘束荷重調整手段による拘束力を小さくしてもハイレート劣化を解消できないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、使用開始初期における複数の電池セルのハイレート劣化が有る場合にハイレート劣化を抑制することが可能な電池セルの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、使用開始初期における複数の電池セルのハイレート劣化のばらつきは、電池セルのエージング不足(具体的には、エージング不足による負極へのSEI被膜形成不足)によるものであることを発見するとともに、当該エージング不足によるハイレート劣化を解消するためには、電池セルの拘束力を大きくすることによってエージング不足で電池セル内に発生するガスを電池セル外部に排出させればよいことを発見した。このような知見から本発明者は以下の制御装置を創作するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の電池セルの制御装置は、充放電可能な二次電池である複数の電池セルが所定方向に重なって配置された電池モジュールにおける前記複数の電池セルの拘束力を制御する制御装置であって、前記複数の電池セルのそれぞれのハイレート劣化を検出する検出部と、前記ハイレート劣化が前記電池セルの使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化であるか判定する判定部と、前記複数の電池セルに対して前記所定方向に拘束力を与える拘束力付与部と、前記拘束力付与部を制御する拘束力制御部と、を備え、前記拘束力制御部は、前記判定部がエージング不足によるハイレート劣化を判定した場合に、前記複数の電池セルに与える前記拘束力を大きくするように前記拘束力付与部を制御することを特徴とする。
【0009】
本発明の電池セルの制御装置では、複数の電池セルのうちのいずれかにおいて電池セルの使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化が生じたことを判定部が判定した場合には、拘束力制御部が複数の電池セルに与える拘束力を大きくするように拘束力付与部を制御する。エージング不足の電池セルが大きな拘束力を受けることにより、当該電池セル内部で発生しているガスを排出させることが可能である。このため、電池セル内部の負極にガスが付着することによる負極の反応面積の低下を抑制することが可能である。その結果、電池セルの使用開始初期における電池セルのエージング不足によるハイレート劣化を抑制することが可能である。
【0010】
上記の電池セルの制御装置において、前記拘束力制御部は、前記判定部が前記ハイレート劣化がエージング不足によるハイレート劣化ではないと判定した場合に、前記複数の電池セルが充放電を休止している間は前記複数の電池セルに与える前記拘束力を小さくするように前記拘束力付与部を制御するのが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、電池セルの使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化が解消され、かつ、使用開始初期以降においてハイレート劣化が生じている場合に、複数の電池セルが充放電を休止している間は電池セルの拘束力を小さくする。これにより、電池セル内において電解液のイオンの偏りを早期に解消することが可能である。その結果、電池セルのハイレート劣化からの復帰を早めることが可能になる。
【0012】
上記の電池セルの制御装置において、前記判定部は、使用開始初期における前記電池セルの充放電履歴から内部抵抗を推定し、当該内部抵抗をあらかじめ定められた基準の内部抵抗と比較することにより、エージング不足によるハイレート劣化を判定するのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、電池セルの内部抵抗を基準の内部抵抗と比較することによって、エージング不足によるハイレート劣化を容易に判定することが可能である。そのため、電池セル内部のガスの付着を直接検知する必要がなく、制御装置の構成が簡単になる。
【0014】
本発明の電池セルの制御方法は、充放電可能な二次電池である複数の電池セルが所定方向に重なって配置された電池モジュールにおける複数の電池セルの拘束力を制御する制御方法であって、前記複数の電池セルのそれぞれのハイレート劣化を検出する検出工程と、前記ハイレート劣化が前記電池セルの使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化であるか判定する判定工程と、前記複数の電池セルに対して前記所定方向に拘束力を与える拘束力付与工程とを有し、前記拘束力付与工程では、前記判定工程においてエージング不足によるハイレート劣化が判定された場合に、前記複数の電池セルに与える前記拘束力を大きくすることを特徴とする。
【0015】
かかる特徴によれば、判定工程において、複数の電池セルのうちのいずれかにおいて電池セルの使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化が生じたことを判定した場合には、拘束力付与工程では、複数の電池セルに与える拘束力を大きくする。エージング不足の電池セルが大きな拘束力を受けることにより、当該電池セル内部で発生しているガスを排出させることが可能である。このため、電池セル内部の負極にガスが付着することによる負極の反応面積の低下を抑制することが可能である。その結果、電池セルの使用開始初期における電池セルのエージング不足によるハイレート劣化を抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電池セルの制御装置および制御方法によれば、使用開始初期における複数の電池セルに発生するエージング不足によるハイレート劣化を抑制することができる。
抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る電池セルの制御装置を備えたハイブリッド車の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1の拘束機構および電池モジュールの断面説明図であって、(a)は電池セルの拘束前の状態、(b)は電池セルの拘束後の状態を示す。
【
図4】エージング不足によって電池セル内部で発生したガスが負極に付着した状態を示す説明図である。
【
図5】エージング不足によるハイレート劣化のばらつきを説明するために、電池モジュールにおけるエンドプレート側および中央側のそれぞれ電池セルについて使用開始初期における積算容量と抵抗上昇率との関係を示すグラフである。
【
図6】エージング不足によるハイレート劣化のばらつきを解消するために複数の電池セルの拘束力を大きくした場合のエンドプレート側および中央側のそれぞれ電池セルについて使用開始初期における積算容量と抵抗上昇率との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の電池セルの制御方法の一実施形態に係る電池使用開始初期におけるIG-ON時の制御フローチャートである。
【
図8】本発明の電池セルの制御方法の一実施形態に係る電池使用開始初期におけるIG-OFF時の制御フローチャートである。
【
図9】本発明の電池セルの制御方法の一実施形態に係る電池使用開始中期以降におけるIG-ON時の制御フローチャートである。
【
図10】本発明の電池セルの制御方法の一実施形態に係る電池開始中期以降におけるIG-OFF時の制御フローチャートである。
【
図11】
図7の制御フローチャートで用いられる限界積算電流量値を示すマップである。
【
図12】
図8の制御フローチャートに用いられるハイレート劣化の評価値であるイオン偏り評価値と休止時間との関係を示すマップである。
【
図13】
図9の制御フローチャートに用いられるハイレート劣化の評価値であるイオン偏り評価値と休止時間との関係を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0019】
本発明に係る電池セルの制御装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る電池セルの制御装置を備えたハイブリッド車の全体構成を示す斜視図である。
【0021】
図1に示されるハイブリッド車100は、車輪10,10と、車軸12と、エンジン20と、トランスミッション30と、モータ40と、インバータ50と、複数の電池セル62(
図2~3参照)を有するバッテリ(電池)モジュール(以下、バッテリという)60と、電池セル62のハイレート劣化の検出と判定およびバッテリ60の電流制御をする制御装置70と、複数の電池セル62の拘束力を調整する拘束機構80と、電池セル62の温度を検出する温度センサ90とを備えている。
【0022】
ハイブリッド車100は、いわゆるパラレル式のハイブリッド車である。エンジン20とモータ40とは車両の駆動力を出力する駆動源として機能し、このハイブリッド車100では、運転条件に応じて、エンジン20のみによる走行、エンジン20とモータ40の双方による走行、あるいは、モータ40のみによる走行が実現される。
【0023】
エンジン20は、トランスミッション30を介して車軸12に連結されている。エンジン20は、例えばガソリンエンジンである。
【0024】
モータ40は、車軸12に連結されているとともに、インバータ50を介してバッテリ60に接続されている。モータ40には、バッテリ60の電力がインバータ50にて交流電力に変換された後供給される。モータ40は、電力供給を受けて電動機として機能して、車軸12を回転させる。モータ40は、減速時に回生動作を行うことにより、発電機としても機能することも可能である。モータ40で発電された電気はバッテリ60に充電される。
【0025】
バッテリ60は、
図2~3に示されるように、充放電可能な二次電池である複数の電池セル62が所定の配列方向D(本実施形態では水平方向)に重なって配置された構成を有する。具体的には、バッテリ60は、配列方向Dに延びる直方体の箱体であるケーシング61と、当該ケーシング61に収容され、配列方向Dに重なって配置された複数の電池セル62と、隣接する2つの電池セル62の電極端子63同士を接続するバスバー64と、隣接する2つの電池セル62の間に介在するばね65と、複数の電池セル62の配列方向Dの両端とケーシング61の縦壁との間に配置された一対のエンドプレート66とを備えている。
【0026】
バスバー64は、各電池セル62の電極端子63に電気的に接続される一対の接続部64aと、一対の接続部64a間を接続し、かつ、複数の電池セル62が所定の配列方向Dから拘束力を受けたときにたわむ配線部64bとを有する。
【0027】
ケーシング61内部の複数の電池セル62のそれぞれの温度は、温度センサ90によって検出される。
【0028】
制御装置70は、
図1に示されるように、複数の電池セル62のハイレート劣化を検出する検出部71と、エージング不足によるハイレート劣化であるか判定する判定部72とを備えている。
【0029】
検出部71は、電池セル62のハイレート劣化を検出するように構成されている。ここで、ハイレート劣化は、過大な電流(ハイレート)による充放電の継続(サイクル)により電池セルの内部抵抗が一時的(すなわち、可逆的)に上昇する現象である。このようなハイレート劣化を検出するために、本実施形態の検出部71は、後述の
図7のフローチャートのステップS1~S9に示されるように、温度センサ90で検出された電池セル62の温度(例えば、複数の電池セル62の温度の平均温度)および電池セル62の実効電流からハイレート劣化評価値Nを算出し、当該評価値Nが目標値より大きいか否かを判別することにより、ハイレート劣化を検出する。
【0030】
判定部72は、検出部71で検出されたハイレート劣化が電池セル62の使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化であるか判定する。本実施形態の判定部72は、
図7のステップS12~S14に示されるように、ハイブリッド車100のIG-ON中(すなわちハイブリッド車100の運転中にバッテリ60が充放電している間)の充放電履歴から推定される電池セル62の抵抗値(内部抵抗)を算出し、IG-ON中に推定された抵抗値が予め制御装置70に記憶しておいた抵抗値よりも所定割合X%小さいか否か判定し、所定割合X%小さくない場合(X%以上の場合)には、エージング不足によるハイレート劣化有りと判定する。
【0031】
ここで、エージング不足によるハイレート劣化とは、電池セル62の使用開始初期に起こる現象であり、複数の電池セル62を有するバッテリモジュール60を組み立てた後もエージング不足により、
図4に示されるように電池セル62内部の電解液にガスが発生することに起因する。すなわち、リチウム塩を含む電解液で発生したガスが負極を構成する負極合材層の表面に付着すると付着部分でリチウム(Li)が析出するとともに負極の反応面積が低下する。そのため、電解液内部で電流が流れにくくなり、電池セル62の内部抵抗が上昇する。これが、エージング不足のハイレート劣化となる。
【0032】
エージングのハイレート劣化は、複数の電池セル62のうち、
図3に示される中央の電池セル62Aよりも当該複数の電池セル62の両端に位置するエンドプレート66(
図2参照)側の電池セル62Bの方が大きい傾向がある(この原因として、エンドプレート66側の電池セル62Bの方が中央の電池セル62Aよりもガスの膨張が少なく内部抵抗が上がりやすいためと考えられる。)。例えば、
図5に示される電池セルの積算容量C(kAh)と抵抗上昇率Rr(%)の関係を示すグラフを用いて比較したとき、中央の電池セル62A(曲線I)よりもエンドプレート66側の電池セル62B(曲線II)の方が、積算容量Cが5kAhより大きい範囲(すなわち、積算容量Cが5kAh以上になった時間以降)では、抵抗上昇率Rrが急激に大きくなっていることが分かる。この点を見ても複数の電池セル62ではエージングのハイレート劣化によってハイレート劣化のばらつきが生じていることが理解される。
【0033】
さらに、制御装置70は、
図1に示されるように、インバータ50を介してバッテリ60における複数の電池セル62の電流制御をする構成として、電流設定部73と、電流制御部74とを備えている。
【0034】
電流設定部73は、電池セル62のハイレート劣化に基づき上限電流値を設定する。電流制御部74は、複数の電池セル62全体(バッテリ60)の実効電流値を上流電流値以下に制限する。上記の「上限電流値」とは、ハイレート劣化が生じない上限の電流値であり、ハイレートサイクル(すなわち、大電流による充放電のサイクル)の許容値として定義付けられる。
【0035】
拘束機構80は、
図2(a)~(b)に示されるように、複数の電池セル62の拘束力を調整することが可能な構成を有する。具体的には、拘束機構80は、拘束力付与部81と、拘束力制御部82とを備えている。
【0036】
拘束力付与部81は、複数の電池セル62に対して圧縮する方向に拘束力を与える構成を有する。
図2(a)、(b)では、複数の電池セル62が所定の配列方向Dに沿って直線的に配列された構成において、拘束力付与部81は、所定の配列方向Dから各々の電池セル62へ同時に拘束力を付与するように構成されていれば、種々の構成を採用することが可能である。
【0037】
例えば、
図2(a)、(b)に示される拘束力付与部81は、バッテリ60一方のエンドプレート66を押圧する押圧ギア84と、当該押圧ギア84に噛み合って押圧ギア84をケーシング61内部に押し出すように回転する駆動ギア86と、駆動ギア86を回転駆動するモータ85とを備えている。拘束力付与部81は、
図2(a)、(b)に示されるように、モータ85の駆動力を受けた駆動ギア86が順方向に回転して押圧ギア84をケーシング61内部に押し出すことにより、エンドプレート66を介してケーシング61内部の水平方向に並べられた複数の電池セル62を水平方向に拘束力を与えるとともに電池セル62間のばね65を縮める。また、駆動ギア86を逆方向に回転させることにより、複数の電池セル62への拘束力を小さくすることが可能である。
【0038】
拘束力制御部82は、拘束力付与部81のモータ85に対して拘束力を調整するように制御する。
【0039】
拘束力制御部82は、電池使用開始初期において上記の検出部71で検出されたハイレート劣化が判定部72によってエージング不足によるハイレート劣化が判定された場合には、複数の電池セル62が充放電を休止している時(IG-OFF時)では電池セル62に対しての拘束力を大きくするように(すなわち、
図2(a)の状態から
図2(b)の状態に移行するように)拘束力付与部81を制御する(
図8のフローチャートのステップS21~23参照)。例えば、複数の電池セル62が充放電を休止している時(IG-OFF時)以外の初期状態では、電池セル62を所定の大きさの初期拘束力で拘束しておき、複数の電池セル62が充放電を休止している時(IG-OFF時)でエージング不足によるハイレート劣化が判定された場合には、電池セル62に対しての拘束力を初期拘束力よりも大きくするようにすればよい。
【0040】
一方、拘束力制御部82は、電池使用開始初期において検出部71によってハイレート劣化が検出されたが、当該ハイレート劣化が判定部72によってエージング不足によるハイレート劣化であると判定されない場合には、複数の電池セル62が充放電を休止している時(IG-OFF時)では電池セル62に対しての拘束力を小さくするように(すなわち、
図2(b)の状態から
図2(a)の状態に戻るように)拘束力付与部81を制御する(
図8のステップS22およびS24参照)。また、電池使用開始中期以降においても、ハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セル62の劣化評価値が所定値よりも小さい場合(例えば、N<1)も、複数の電池セル62が充放電を休止している時(IG-OFF時)では、拘束力制御部82は、電池セル62に対しての拘束力を小さくするように拘束力付与部81を制御する(
図10のステップS61~S62参照)。電池セル62に対しての拘束力を小さくする場合も、例えば、上記の初期拘束力よりも小さくするようにすればよい。
【0041】
上記
図1~2のように構成された本発明の実施形態に係る電池セル62の制御装置110は、必須構成要件として、検出部71と、判定部72と、拘束力付与部81と、拘束力制御部82とを備えていればよい。なお、本発明の電池セル62の制御装置110は、上記のようにハイブリッド車100だけでなく、電気自動車(EV)にも適用可能である。
【0042】
(電池セル62の制御方法)
つぎに、本発明の電池セル62の制御方法について、4つの場合の制御、すなわち、
I.電池使用開始初期のIG-ON時の場合、
II.電池使用開始初期のIG-OFF時の場合、
III.電池使用開始中期以降のIG-ON時の場合、
IV.電池使用開始中期以降のIG-OFF時の場合
についての制御について順に説明する。
【0043】
<I.電池使用開始初期のIG-ON時の場合>
電池使用開始初期のIG-ON時(電池セル62の充放電をしている時)の場合における電池セル62の制御方法について、
図7に示されるフローチャートを用いて説明する。
【0044】
図7に示されるフローチャートでは、ハイブリッド車100のイグニッションをオン(IG―ON)にすることによってスタートする。
【0045】
ステップS1では、走行スタート時にハイレート劣化評価値N=1を取得し、ついで、電池温度(複数の電池セル62の平均温度または複数の電池セル62のうち最も温度が低い電池セル62の温度)を検出する(ステップS2)。
【0046】
ついで、ステップS3において、温度センサ90によって検出された電池温度(例えば、複数の電池セル62の温度の平均温度)が目標値に達したか否かを判別する。目標温度は、ハイレート劣化しにくい比較的高い温度であって、かつ、ドライバーの運転に適した温度が設定される。
【0047】
電池温度が目標温度に達した場合には、ステップS4に進み、バッテリ60(すなわち、複数の電池セル62全体)の実効電流を検出する。電池温度が目標温度に達していない場合には、ステップS5に進み、電池温調をONにした後ステップS4に進む。電池温調では、具体的には、複数の電池セル62を温調装置(図示せず)で温度調整(加熱または冷却)して目標温度に近づける(なお、目標温度に到達しなくてもよい)。
【0048】
ついで、制御装置70(具体的には検出部71)は、実効電流が閾値より大きいか否か判別する(ステップS6)。
【0049】
実効電流が閾値より大きい場合にはステップS7に進み、限界積算電流値をマップにより取得し、ついで実効電流値を用いて評価値Nを算出する(ステップS7)。一方、実効電流が所定値より小さい場合にはステップS7をスキップしてステップS8へ進む。
【0050】
ステップS7の限界積算電流値の求め方は、
図11の実効電流、電池温度、および限界積算量の3つのパラメータによって示される曲線を示すマップに基づいて求める。具体的には、まず、
図11のマップに実効電流値(例えば、80A)および電池温度を入力し、実効電流値(40~95A)および電池温度T(℃)に対応する曲線上の積算電流値を限界積算電流値IS(Ah)として求める。
【0051】
ステップS8では、評価値Nを、実効電流値Ie(A)、経過時間t(秒)、ステップS7で求められた限界積算電流値IS(Ah)を以下の(式1)に代入して求める。
N=1-(Ie×t/3600)/IS (式1)
例えば、実効電流値Ieが80A、経過時間tが10秒、限界積算電流値ISが239Ahを上記の(式1)に入力すれば、ハイレート劣化評価値Nは、
N=1-(80×10/3600)/239=0.999073
のように求められる。
【0052】
ついで、評価値Nが目標値より大きいか否か判別する(ステップS9)。目標値は、任意の数値であり、例えば、0から1間の範囲で任意に設定される。
【0053】
評価値Nが目標値より大きい場合には、ステップS10に進み、評価値Nを制御装置70に記録する。一方、評価値Nが目標値より小さい場合にはステップS11に進み、電流制御部74が実効電流を所定値以下(具体的には、電流設定部73が定めた上限電流値以下)に制限した後に、上記のステップS10に進む。
【0054】
ついで、ステップS12では、制御装置70(具体的には、判定部72)は、ハイブリッド車100のIG-ON中(すなわちハイブリッド車100の運転中にバッテリ60が充放電している間)の充放電履歴から推定される電池セル62の抵抗値(内部抵抗)を算出する。
【0055】
ついで、ステップS13において、制御装置70(判定部72)は、IG-ON中に推定された抵抗値が予め制御装置70に記憶しておいた基準の抵抗値よりも所定割合X%小さいか否か判定する。所定割合X%小さい場合には、電池セル62の一連の制御を終了する。一方、所定割合X%小さくない場合(X%以上の場合)には、ステップS14に進み、ステップS14においてエージング不足によるハイレート劣化有りと判定した後に制御を終了する。
【0056】
<II.電池使用開始初期のIG-OFF時の場合>
電池使用開始初期のIG-OFF時(電池セル62の充放電を休止している時)の場合における電池セル62の制御方法について、
図8に示されるフローチャートを用いて説明する。
【0057】
図8に示されるフローチャートでは、ハイブリッド車100のイグニッションをオフ(IG―OFF)にすることによってスタートする。
【0058】
ステップS21では、制御装置70(具体的には、判定部72)は、複数の電池セル62においてハイレート劣化が有るか判定する。ハイレート劣化が有る場合にはステップS22に進み、無い場合には
図8に示される一連の制御を終了する。
【0059】
ついで、ステップS22では、電池セル62のハイレート劣化が有る場合において、制御装置70(判定部72)は、エージング不足によるハイレート劣化が有るか判定する。
【0060】
エージング不足によるハイレート劣化が有る場合には、ステップS23に進み、拘束機構80の拘束力制御部82は、拘束力付与部81に対して、複数の電池セル62の拘束力を大きくするように制御する。これにより、エージング不足の電池セル62内部で発生しているガス(
図4参照)を電池セル62の外部に排出させることが可能である。このため、電池セル62内部の負極にガスが付着することによる負極の反応面積の低下を抑制することが可能である。その結果、電池セル62の使用開始初期における電池セル62のエージング不足によるハイレート劣化を抑制することが可能である。
【0061】
このように、エージング不足によるハイレート劣化が有る場合に複数の電池セル62の拘束力を大きくすることにより、
図6のグラフに示されるように、積算容量Cが23kAhより大きい範囲(すなわち、積算容量Cが23kAh以上になった時に拘束力を大きくした後)では、
図5の拘束力を大きくしない場合のグラフと比較することにより、エンドプレート66側の電池セル62B(曲線II)の抵抗上昇率Rrが中央側の電池セル62A(曲線I)と同程度まで低下し、ハイレート劣化のばらつき無くなり、エージングによるハイレート劣化を抑制していることが理解される。
【0062】
一方、エージング不足によるハイレート劣化が無い場合には、ステップS24に進み、拘束機構80の拘束力制御部82は、拘束力付与部81に対して、複数の電池セル62の拘束力を小さくするように制御する。
【0063】
ステップS23の電池セル62の拘束力を大きくする工程の後またはステップS24の電池セル62の拘束力を小さくする工程の後ステップS25に進み、制御装置70は、ハイレート劣化評価値と休止時間のマップを読み出す。具体的には、
図12に示されるように、ハイレート劣化評価値としてのイオン偏り評価値Nと休止時間tr(h)のグラフであって、休止中の拘束力が小さい曲線L1、および休止中の拘束力が大きい曲線L2を示すグラフを読み出す。
【0064】
ついで、ステップS26では、休止時間からハイレート劣化評価値を算出する。具体的には、ステップS23の電池セル62の拘束力を大きくする工程の後では、休止中の拘束力が大きい曲線L2から休止時間に対応するハイレート劣化評価値としてのイオン偏り評価値Nを算出する。一方、ステップS24の電池セル62の拘束力を小さくする工程の後では、
図12のグラフの休止中の拘束力が小さい曲線L1上から休止時間に対応するハイレート劣化評価値としてのイオン偏り評価値Nを算出する。
【0065】
ついで、ステップS27において、制御装置は、イグニッションオン(IG-ON)しないか否か判別する。IG-ONしない場合にはステップS28に進み、IG-ONする場合にはステップS29に進む。
【0066】
ステップS28では、ハイレート劣化評価値Nが1に達している(N≧1)か否か判別する。評価値Nが1に達している場合にはステップS29に進み、達していない場合にはステップS26に戻って評価値Nを再度算出する。
【0067】
ステップS29では、拘束力制御部82は、拘束力付与部81に対して、電池セル62の拘束力をステップS23~24の拘束力を大きくする工程または小さくする工程の前の初期状態に戻すように制御する。
【0068】
ついで、ステップS30では、評価値Nを制御装置70に記録して一連の制御を終了する。
【0069】
<III.電池使用開始中期以降のIG-ON時の場合>
電池使用開始中期以降のIG-ON時(電池セル62の充放電をしている時)の場合における電池セル62の制御方法について、
図9に示されるフローチャートを用いて説明する。
【0070】
図9に示されるフローチャートでは、ハイブリッド車100のイグニッションをオン(IG―ON)にすることによってスタートする。
【0071】
ステップS41では、制御装置70(
図1参照)は、前回の走行時(すなわち、前回のIG-ONからIG-OFFの間)の最も悪いハイレート劣化評価値Nを検出する。具体的には、ハイレート劣化が最もしやすい電池セル62についてのハイレート劣化への移行状態を示す劣化評価値として、前回の走行時におけるハイレート劣化評価値Nを制御装置70のメモリから呼び出す。ハイレート劣化が最もしやすい電池セル62を特定する方法については、本発明では特に限定しないが、例えば、複数の電池セル62の各温度のうち最も低い温度の電池セル62を見つけるなどの方法で特定すればよい。
【0072】
ついで、ステップS42では、制御装置70は、前回の走行時から所定時間経過しているか否かを判別する。所定時間は、評価値Nが1に戻るのに十分な時間である。所定時間を経過している場合にはステップS43に進み、走行スタート時の評価値N=1を取得し、ついで、電池温度(複数の電池セル62の平均温度またはハイレート劣化が最もしやすい電池セル62の温度(例えば、複数の電池セル62のうち最も温度が低い電池セル62の温度))を検出する(ステップS44)。
【0073】
一方、所定時間経過していない場合にはステップS45に進み、
図13に示される評価値Nと休止時間のマップより現在の評価値Nを取得した後ステップS44に進む。
図13に示されるマップは、ハイレート劣化評価値としてのイオン偏り評価値Nと休止時間trとの関係を示す。例えば、休止時間trが1.2時間の場合にイオン偏り評価値Nが0.7、休止時間8時間の場合には評価値Nが0.97になる。
図13によれば、ステップS42における「所定時間」は、評価値Nが1に戻る休止時間である11時間が相当する。
【0074】
なお、以下のステップS46~S54は、上記の
図7の制御フローチャートにおけるステップS3からS11までの動作と基本的には同じ動作を行う。
【0075】
まず、ステップS46において、検出された電池温度が目標値に達したか否かを判別する。目標温度は、例えば、ハイレート劣化しにくい比較的高い温度であって、かつ、ドライバーの運転に適した温度が設定される。
【0076】
電池温度が目標温度に達した場合には、ステップS47に進み、バッテリ60(すなわち、複数の電池セル62全体)の実効電流を検出する。電池温度が目標温度に達していない場合には、ステップS48に進み、電池温調をONにした後ステップS47に進む。電池温調では、具体的には、複数の電池セル62を温調装置で温度調整(加熱または冷却)して目標温度に近づける(なお、目標温度に到達しなくてもよい)。
【0077】
ついで、制御装置70(検出部71)は、実効電流が閾値より大きいか否か判別する(ステップS49)。
【0078】
実効電流が閾値より大きい場合には、上記
図7のステップS7と同様に、ステップS50に進み、限界積算電流値を
図11のマップにより取得し(ステップS50)、実効電流値を用いて評価値Nを算出する(ステップS51)。一方、実効電流が所定値より小さい場合にはステップS50をスキップしてステップS51へ進む。
【0079】
ステップS51では、上記
図7のステップS8と同様に、評価値Nを、実効電流値Ie(A)、経過時間t(秒)、ステップS50で求められた限界積算電流値IS(Ah)から上記の(式1)から求める。
【0080】
ついで、評価値Nが目標値より大きいか否か判別する(ステップS52)。目標値は、任意の数値であり、例えば、0から1間の範囲で任意に設定される。
【0081】
評価値Nが目標値より大きい場合には、ステップS53に進み、評価値Nを制御装置70に記録して一連の電流制御を終了する。
【0082】
一方、評価値Nが目標値より小さい場合にはステップS54に進み、上記
図7のステップS11と同様に、電流制御部74が実効電流を所定値以下(例えば、上限電流値以下)に制限する。その後、ステップS53に進んで終了する。
【0083】
以上の一連の制御フローチャートを実行することにより、ハイレート劣化し易い電池セル62について実効電流を制限してハイレート劣化を抑制することが可能になる。
【0084】
<IV.電池使用開始中期以降のIG-OFF時の場合>
電池使用開始中期以降のIG-OFF時(電池セル62の充放電を休止している時)の場合における電池セル62の制御方法について、
図10に示されるフローチャートを用いて説明する。
【0085】
図10に示されるフローチャートでは、ハイブリッド車100のイグニッションをオフ(IG―OFF)にすることによってスタートする。
【0086】
ステップS61では、制御装置70(
図1参照)は、IG-OFFの直前においてもっとも悪いハイレート劣化評価値Nが1より小さいか否か(N<1)を判別する。ここで、もっとも悪いハイレート劣化評価値Nとは、ハイレート劣化が最もしやすい電池セル62(例えば、最も低い温度の電池セル62)についてのIG-OFFの直前の走行時におけるハイレート劣化評価値Nのことである。
【0087】
上記のハイレート劣化評価値Nが1より小さい場合にはステップS62に進み、拘束力制御部82は、拘束力付与部81に対して、電池セル62の拘束力を小さくするように制御する。なお、評価値Nが1以上の場合には、後述するステップS68に進んだ後に終了する。
【0088】
ステップS62の電池セル62の拘束力を小さくする工程の後ステップS63に進む。
【0089】
なお、以下のステップS63~68は、上記の
図8の制御フローチャートにおけるステップS25からS30までの動作と基本的には同じ動作を行う。
【0090】
ステップS63では、制御装置70は、上記
図8のステップS25と同様に、ハイレート劣化評価値と休止時間の
図12に示されるマップを読み出す。
【0091】
ついで、ステップS64では、上記
図8のステップS26と同様に、休止時間からハイレート劣化評価値を算出する。具体的には、
図12のグラフの休止中の拘束力が小さい曲線L1上から休止時間に対応するハイレート劣化評価値としてのイオン偏り評価値Nを算出する。ここで、
図12のグラフを見れば、休止中の拘束力が小さい曲線L1では、休止時間t1が7時間の場合にイオン偏り評価値Nが1に復帰するのに対し、休止中の拘束力が大きい曲線L2では、休止時間t2が11時間になるまでイオン偏り評価値Nが1に復帰しないことが分かる。
【0092】
ついで、ステップS65において、制御装置は、イグニッションオン(IG-ON)しないか否か判別する。IG-ONしない場合にはステップS66に進み、IG-ONする場合にはステップS67に進む。
【0093】
ステップS66では、ハイレート劣化評価値Nが1に達している(N≧1)か否か判別する。評価値Nが1に達している場合にはステップS67に進み、達していない場合にはステップS64に戻って評価値Nを再度算出する。
【0094】
ステップS67では、拘束力制御部82は、拘束力付与部81に対して、電池セル62の拘束力をステップS62の拘束力を小さくする工程の前の初期状態に戻すように制御する。
【0095】
ついで、ステップS68では、評価値Nを制御装置70に記録して一連の制御を終了する。
【0096】
これにより、休止時間において、電池セル62の拘束力を小さくすることにより、ハイレート劣化から早期に復帰することが可能になる。
【0097】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の電池セル62の制御装置110は、
図1に示されるように、充放電可能な二次電池である複数の電池セル62が所定方向Dに重なって配置された電池モジュール(バッテリ60)における前記複数の電池セル62の拘束力を制御する制御装置である。制御装置110は、複数の電池セル62のそれぞれのハイレート劣化を検出する検出部71と、ハイレート劣化が電池セル62の使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化であるか判定する判定部72と、複数の電池セル62に対して所定方向Dに拘束力を与える拘束力付与部81と、拘束力付与部81を制御する拘束力制御部82とを備える。
【0098】
拘束力制御部82は、判定部72がエージング不足によるハイレート劣化を判定した場合に、複数の電池セル62に与える拘束力を大きくするように拘束力付与部81を制御する(
図2(a)、(b)および
図8のステップS21~23参照)。
【0099】
本実施形態の電池セル62の制御装置110では、複数の電池セル62のうちのいずれかにおいて電池セル62の使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化が生じたことを判定部72が判定した場合には、拘束力制御部82が複数の電池セル62に与える拘束力を大きくするように拘束力付与部81を制御する。エージング不足の電池セル62が大きな拘束力を受けることにより、当該電池セル62内部で発生しているガスを排出させることが可能である。このため、電池セル62内部の負極にガスが付着することによる負極の反応面積の低下を抑制することが可能である。その結果、電池セル62の使用開始初期における電池セル62のエージング不足によるハイレート劣化を抑制することが可能である。
【0100】
(2)
本実施形態の電池セル62の制御装置110では、拘束力制御部82は、ハイレート劣化がエージング不足によるハイレート劣化ではないと判定部72が判定した場合に、複数の電池セル62が充放電を休止している間は複数の電池セル62に与える拘束力を小さくするように拘束力付与部81を制御する(
図8のステップS22およびS24参照)。
【0101】
かかる構成によれば、電池セル62の使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化が解消され、かつ、使用開始初期以降においてハイレート劣化が生じている場合に、複数の電池セル62が充放電を休止している間は電池セル62の拘束力を小さくする。これにより、電池セル62内において電解液のイオンの偏りを早期に解消することが可能である。その結果、電池セル62のハイレート劣化からの復帰を早めることが可能になる。
【0102】
(3)
本実施形態の電池セル62の制御装置では、判定部72は、使用開始初期における電池セル62の充放電履歴から内部抵抗を推定し、当該内部抵抗をあらかじめ定められた基準の内部抵抗と比較することにより、エージング不足によるハイレート劣化を判定する(
図7のステップS12~S14)。
【0103】
かかる構成によれば、電池セル62の内部抵抗を基準の内部抵抗と比較することによって、エージング不足によるハイレート劣化を容易に判定することが可能である。そのため、電池セル62内部のガスの付着を直接検知する必要がなく、制御装置の構成が簡単になる。
【0104】
(4)
本実施形態の電池セル62の制御方法は、充放電可能な二次電池である複数の電池セル62が所定方向Dに重なって配置された電池モジュールにおける複数の電池セル62の拘束力を制御する制御方法である。この制御方法は、複数の電池セル62のそれぞれのハイレート劣化を検出する検出工程(
図7のステップS1~S9参照)と、ハイレート劣化が電池セル62の使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化であるか判定する判定工程(
図7のステップS12~S14)と、複数の電池セル62に対して所定方向Dに拘束力を与える拘束力付与工程(
図8のステップS21~23参照)とを有する。
【0105】
拘束力付与工程では、判定工程においてエージング不足によるハイレート劣化が判定された場合に、複数の電池セル62に与える拘束力を大きくする。
【0106】
かかる特徴によれば、判定工程において、複数の電池セル62のうちのいずれかにおいて電池セル62の使用開始初期におけるエージング不足によるハイレート劣化が生じたことを判定した場合には、拘束力付与工程では、複数の電池セル62に与える拘束力を大きくする。エージング不足の電池セル62が大きな拘束力を受けることにより、当該電池セル62内部で発生しているガスを排出させることが可能である。このため、電池セル62内部の負極にガスが付着することによる負極の反応面積の低下を抑制することが可能である。その結果、電池セル62の使用開始初期における電池セル62のエージング不足によるハイレート劣化を抑制することが可能である。
【符号の説明】
【0107】
60 バッテリモジュール(電池モジュール)
62 電池セル
80 拘束機構
81 拘束力付与部
82 拘束力制御部
70 制御装置
71 検出部
72 判定部
100 ハイブリッド車
110 制御装置
D 配列方向