(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160220
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】細胞外液量標準化装置、これを備える細胞外液量評価装置及び細胞外液量を標準化するためのコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20221012BHJP
A61B 5/0537 20210101ALI20221012BHJP
【FI】
A61M1/16 117
A61B5/0537 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064846
(22)【出願日】2021-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新里 徹
(72)【発明者】
【氏名】三輪 真幹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正富
(72)【発明者】
【氏名】水野 亘
(72)【発明者】
【氏名】上田 満隆
【テーマコード(参考)】
4C077
4C127
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077EE01
4C077HH02
4C077HH03
4C077HH12
4C077HH15
4C077HH18
4C077HH21
4C127AA06
(57)【要約】
【課題】透析患者の身体内に含まれる水分量の状態を評価するために用いられる細胞外液量を標準化する。
【解決手段】細胞外液量標準化装置は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる。細胞外液量標準化装置は、透析患者の身体内の細胞外液量を取得する細胞外液量取得部と、透析患者の体重を取得する体重取得部と、透析患者の筋肉量を取得する筋肉量取得部と、取得した体重及び筋肉量に基づいて、取得した前記細胞外液量を標準化する標準化部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる細胞外液量標準化装置であって、
前記透析患者の身体内の細胞外液量を取得する細胞外液量取得部と、
前記透析患者の体重を取得する体重取得部と、
前記透析患者の筋肉量を取得する筋肉量取得部と、
取得した体重と取得した筋肉量とに基づいて、取得した前記細胞外液量を標準化する標準化部と、を備える、細胞外液量標準化装置。
【請求項2】
透析患者の透析前後の血清尿素濃度を取得する尿素濃度取得部と、
透析患者の透析前後の血清尿酸濃度を取得する尿酸濃度取得部と、をさらに備え、
前記演算部は、取得した透析前後の血清尿素濃度から算出される尿素分布容積と取得した透析前後の血清尿酸濃度から算出される尿酸分布容積の差に基づいて筋肉量を算出する、請求項1に記載の細胞外液量標準化装置。
【請求項3】
前記透析患者の身長を取得する身長取得部をさらに備えており、
前記体重取得部は、取得した前記身長から理想体重を算出し、
前記標準化部は、算出された前記理想体重を前記透析患者の体重として用いる、請求項1又は2に記載の細胞外液量標準化装置。
【請求項4】
透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価する細胞外液量評価装置であって、
請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞外液量標準化装置と、
前記細胞外液量標準化装置で標準化された細胞外液量に基づいて、前記透析患者の身体内に含まれる水分量の状態を判定する判定部と、を備えている、細胞外液量評価装置。
【請求項5】
透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる細胞外液量を標準化するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
前記透析患者の身体内の細胞外液量を取得する細胞外液量取得部と、
前記透析患者の体重を取得する体重取得部と、
前記透析患者の筋肉量を取得する筋肉量取得部と、
取得した身長から算出される体重と取得した筋肉量とに基づいて、取得した前記細胞外液量を標準化する演算部として機能させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態(すなわち、溢水状態か正常状態か脱水状態か)を評価するために用いられる細胞外液量を標準化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
透析患者では、腎機能が廃絶しているため、摂取した水はすべて体内の細胞外区画に蓄積される。体内の細胞外区画に蓄積した水は透析療法によって除去されるが、その際、除水は、理論的には細胞外区画に蓄積される水の量(以下、細胞外液量ともいう)が、腎機能が正常な人の細胞外液量と等しくなるまで行う。このため、透析後の細胞外液量を取得することによって、透析後に細胞外区画に残された水分量が適正か否かが評価される。例えば、特許文献1に細胞外液量の算出方法の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、透析後の細胞外液量を取得することによって、透析後に体内の細胞外区画に残された水分量が適正か否か評価する。すなわち、取得した細胞外液量を、多くの患者で浮腫を生じさせず、また透析中に血圧低下も生じさせないとされている細胞外液量である基準細胞外液量と比較する。しかしながら、一部の患者では、取得した細胞外液量が基準細胞外液量と一致していても、浮腫が認められたり、透析中に血圧低下が生じていたりする。すなわち、一部の患者では、取得した透析後のそのままの細胞外液量を基準細胞外液量と比較しても、透析後の体内の水分量が適正であるか否かを判定することが難しかった。これは、筋肉量の多少が細胞外液量に影響し、かつ一部の患者では、標準的な患者よりも筋肉量が著しく多かったり、著しく少なかったりするためであると思われる。
【0005】
本明細書は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態を評価するために用いられる細胞外液量を筋肉量で標準化する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する細胞外液量標準化装置は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる。細胞外液量標準化装置は、透析患者の身体内の細胞外液量を取得する細胞外液量取得部と、透析患者の体重を取得する体重取得部と、透析患者の筋肉量を取得する筋肉量取得部と、取得した体重と取得した筋肉量とに基づいて、取得した前記細胞外液量を標準化する標準化部と、を備える。
【0007】
上記の細胞外液量標準化装置は、細胞外液量の適正量が透析患者それぞれの筋肉量の増減により変化するという知見に基づいて創作された。すなわち、上記の細胞外液量標準化装置では、透析患者の体重と筋肉量を取得し、取得した体重と筋肉量に基づいて細胞外液量を標準化する。このため、透析患者毎に異なる筋肉量の影響を低減することができ、標準化した細胞外液量を用いて透析患者の身体内に含まれる水分量の状態をより正確に評価することができる。
【0008】
また、本明細書に開示する細胞外液量評価装置は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価する。細胞外液量評価装置は、上記の細胞外液量標準化装置と、細胞外液量標準化装置で標準化された細胞外液量に基づいて、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態を判定する判定部と、を備えている。
【0009】
上記の細胞外液量評価装置では、上記の細胞外液量標準化装置で標準化された細胞外液量に基づいて、透析患者の身体内の水分の状態を判定する。このため、上記の細胞外液量標準化装置と同様の作用効果を奏することができる。
【0010】
また、本明細書は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる細胞外液量を標準化するためのコンピュータプログラムを開示する。コンピュータプログラムは、コンピュータを、透析患者の身体内の細胞外液量を取得する細胞外液量取得部と、透析患者の体重を取得する体重取得部と、透析患者の筋肉量を取得する筋肉量取得部と、取得した体重と取得した筋肉量とに基づいて、取得した前記細胞外液量を標準化する演算部として機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例に係る細胞外液量評価装置のシステム構成を示す図。
【
図2】一個の筋肉細胞を模式的に表した円柱状モデルを示す図。
【
図4】透析患者の体内に含まれる水分量の状態を判定する処理の一例を示すフローチャート。
【
図5】筋肉量を算出する処理の一例を示すフローチャート。
【
図6】細胞内区画と細胞外区画に分布する物質を示す模式図。
【
図7】尿素分布容積と尿酸分布容積の差と、クレアチニン産生速度にcreatinine equivalenceの値を掛け合わせて算出した筋肉量と間の相関関係を示す図。
【
図8】浮腫群、無症状群及び透析低血圧群の分類と、透析後の細胞外液量との関係を示す図であり、(a)は筋肉量で補正した透析後の細胞外液量を示し、(b)は補正していない透析後の細胞外液量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0013】
本明細書が開示する細胞外液量標準化装置は、透析患者の透析前後の血清尿素濃度を取得する尿素濃度取得部と、透析患者の透析前後の血清尿酸濃度を取得する尿酸濃度取得部と、をさらに備えていてもよい。演算部は、取得した透析前後の血清尿素濃度から算出される尿素分布容積と取得した透析前後の血清尿酸濃度から算出される尿酸分布容積の差に基づいて筋肉量を算出してもよい。このような構成によると、透析の際に取得可能な数値のみを用いて筋肉量を算出することができる。このため、筋肉量を取得するための装置を用いることなく、透析患者の筋肉量を算出することができる。
【0014】
本明細書が開示する細胞外液量標準化装置は、透析患者の身長を取得する身長取得部をさらに備えていてもよい。体重取得部は、取得した身長から理想体重を算出してもよい。標準化部は、算出された理想体重を透析患者の体重として用いてもよい。このような構成によると、標準化部は、理想体重を用いて細胞外液量を標準化することができる。このため、より適切に細胞外液量を標準化することができる。
【実施例0015】
図面を参照して、実施例に係る細胞外液量評価装置10について説明する。細胞外液量評価装置10は、透析患者の体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる。透析患者の体内水分量が過剰になっても(すなわち、患者が溢水状態になっても)、また体内の水分量が不足しても(すなわち、患者が脱水状態に陥っても)、細胞内区画40の水の量はほとんど変化せず、細胞外区画50の水の量だけが増加しあるいは減少することが知られている。したがって、透析による除水で調整する必要があるのは、透析後の細胞外液量である。このため、透析後の透析患者の細胞外液量を求めることによって、透析後に透析患者の細胞外液量が適正量になっているか否かを評価することができる。
【0016】
しかしながら、細胞外液量の適正量は、透析患者毎に異なる。この一因として、細胞外液量の適正量が、筋肉量の増減により変化することが挙げられる。例えば、透析患者が筋肉トレーニングをすれば筋肉組織量が増える。このような体型の変化により、筋肉組織が増えると、これに伴って筋肉組織に蓄積される細胞外液量が増え、その増加した細胞外液量の分だけ全身の細胞外液量も増える。すなわち、その透析患者の適正な細胞外液量が増加することを意味する。同様に、透析患者の筋肉組織が減少した場合には、これに伴って筋肉組織に蓄積される細胞外液量が減少し、その分だけ全身の細胞外液量も減少し、その透析患者の適正な細胞外液量も減少する。そこで、本実施例では、透析患者の筋肉量を考慮して、透析後に透析患者の細胞外液量が適正量になっているか否かを評価する。
【0017】
図1に示すように、細胞外液量評価装置10は、演算装置12と、インターフェース装置30によって構成されている。演算装置12は、例えば、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータによって構成することができる。コンピュータがプログラムを実行することで、演算装置12は、
図1に示す標準化部18、判定部20等として機能する。標準化部18及び判定部20の処理については、後で詳述する。
【0018】
また、
図1に示すように、演算装置12は、患者情報記憶部14と透析情報記憶部16を備えている。患者情報記憶部14は、透析患者に関する各種情報を記憶する。患者情報記憶部14は、インターフェース装置30を介して入力される透析患者の情報や、演算装置12で算出される透析患者に関する情報を記憶する。インターフェース装置30を介して入力される透析患者の情報は、例えば、透析患者の身長、体重、透析前後の尿酸濃度、透析前後の尿素濃度等である。演算装置12で算出される透析患者に関する情報は、インターフェース装置30を介して入力された情報に基づいて算出される尿酸分布容積、尿素分布容積、透析患者の筋肉量である。透析情報記憶部16は、透析に関する各種情報を記憶する。透析情報記憶部16は、インターフェース装置30を介して入力される透析に関する情報や、演算装置12で算出される透析に関する情報を記憶する。演算装置12で算出される透析に関する情報は、例えば、尿素除去量、尿酸除去量等である。
【0019】
ここで、筋肉量を考慮して細胞外液量を標準化する方法について説明する。一個の筋肉細胞(筋肉繊維)は、細長い形状であり、多数の細長い筋肉細胞が束になって筋肉組織を形成している。そこで、
図2に示すように、一個の筋肉細胞(筋肉繊維)を円柱状モデルとしてモデル化する。筋肉量が増減する際には、筋肉細胞の数が増減するのではなく、個々の筋肉細胞の大きさが変化(すなわち、肥大又は委縮)する。したがって、筋肉量が変化する際には、筋肉細胞のモデルである細長い円柱の数が増えるのではなく、円柱の容積が増える。一方、それぞれの筋肉細胞は細胞同士が密着して存在する。これは、例えば、筋肉組織の横断面の顕微鏡像を観察することで確認できることが知られている。本発明者らは、この所見に基づき、細胞外液は密着する筋肉細胞間に分布し、したがって、筋肉組織に蓄積される細胞外液量は筋肉細胞の細胞表面積に比例することを見出した。
【0020】
まず、
図2に示す円柱状モデルを用いて、筋肉組織について説明する。
図2に示すように、円柱状の筋肉細胞の断面の半径をrとし、筋肉細胞の長さをlとする。さらに、全身の筋肉組織を構成している筋肉細胞の数をmとする。すると、全身の筋肉細胞の容積の合計Vは、以下の数1で表す式で示される。
【0021】
【0022】
ここで、個々の筋肉細胞がn倍に肥大したと仮定する。すなわち、個々の筋肉細胞の容積がn倍になったと仮定する。すると、以下の数2で表す式が成立する。なお、Vnは、円柱状モデルで示される筋肉細胞において、個々の筋肉細胞の容積がn倍になった後の全身の筋肉細胞の容積の合計を示し、rnは、個々の筋肉細胞の容積がn倍になった後の個々の円柱状モデルの筋肉細胞の断面の半径を示す。
【0023】
【0024】
上記のVは、個々の筋肉細胞の容積がn倍になる前の全身の筋肉細胞の容積の合計であり、上記のVnは、個々の筋肉細胞の容積がn倍になった後の全身の筋肉細胞の容積の合計である。したがって、以下の数3で表す式が成立する。
【0025】
【0026】
上記の数3で表す式に上記の数1及び数2で表す式を代入すると、以下の数4で表す式が得られる。
【0027】
【0028】
したがって、全身の筋肉細胞の容積(すなわち、筋肉細胞量であり、以下では単に「筋肉量」と称する)がn倍になると、上記の数4で表す式に示されるように、個々の円柱形の筋肉細胞の断面の半径rnは、nの1/2乗(ルートn)倍となる。
【0029】
また、円柱状モデルで示される筋肉細胞に基づいて算出すると、全身の筋肉細胞の表面積の合計は、以下の数5で表す式で示される。なお、Sは全身の筋肉細胞の表面積の合計を示す。
【0030】
【0031】
さらに、筋肉量がn倍になると、円柱状モデルで示される筋肉細胞において、全身の筋肉細胞の表面積の合計は、以下の数6で表す式で示される。なお、Snは筋肉量がn倍になったときの全身の筋肉細胞の表面積の合計を示す。
【0032】
【0033】
上記の数6で表す式に上記の数4で表す式を代入すると、以下の数7で表す式が得られる。
【0034】
【0035】
筋肉量がn倍になったときの円柱状モデルで示される筋肉細胞の表面積の増大倍率は、上記の数7で表す式を上記の数5で表す式で割ることにより、以下の上記の数8で表す式で示される。
【0036】
【0037】
したがって、筋肉量がn倍になると、上記の数8に示されるように、全身の筋肉細胞の表面積の合計Snは、nの1/2乗(ルートn)倍となる。そして、上述したように、筋肉組織の細胞外液量は、筋肉細胞の表面積の合計に比例する。このため、筋肉量がn倍になると、筋肉組織の細胞外液量も、nの1/2乗(ルートn)倍になると言える。
【0038】
次に、筋肉量による細胞外液量の標準化について説明する。以下では、細胞外液量を標準化することを、細胞外液量を補正するともいう。全身の細胞外液量は、筋肉組織の細胞外液量と筋肉組織以外の組織の細胞外液量の和である。
図3に示すように、筋肉組織量は、筋肉組織の細胞外液量と筋肉細胞量の和である。また、一般的な透析患者では、筋肉組織量は理想体重の約25%であることが知られている。そこで、筋肉組織量が理想体重の25%である場合の筋肉組織の細胞外液量を標準の筋肉細胞外液量と定義し、筋肉組織の細胞外液量が標準の筋肉細胞外液量にまで増加あるいは減少した場合の全身の細胞外液量を補正(標準化)後の全身の細胞外液量とする。
【0039】
上述したように、筋肉組織量は、筋肉組織の細胞外液量と筋肉細胞量の和である(
図3参照)。そこで、患者の実際の筋肉組織量をMMとし、この患者の実際の筋肉細胞量をMCとし、この患者の実際の筋肉組織の細胞外液量をECV
mとすると、以下の数9で表す式が成立する。
【0040】
【0041】
同様に、筋肉組織量が理想体重の25%である場合の筋肉組織量をMM25、そのときの筋肉細胞量をMC25、そのときの筋肉組織の細胞外液量をECVm25で表すと、以下の数10で表す式が成立する。
【0042】
【0043】
ここで、患者の実際の筋肉細胞量MCに対する、筋肉組織量が理想体重の25%である場合の筋肉細胞量MC25の比率をnとすると、以下の数11で表す式が成立する。
【0044】
【0045】
上記の数9、数10及び数11で表す式から、以下の数12で表す式が得られる。
【0046】
【0047】
一般的に、標準的な体型の透析患者の場合、筋肉組織の重量は、筋肉組織全体の重量の約20%であることが知られている。そこで、筋肉組織量が理想体重の25%である透析患者の筋肉組織量の細胞外液量ECVm25も、筋肉組織量MM25の20%であると仮定する。すると、以下の数13で表す式が成立する。
【0048】
【0049】
上記の数12で表す式に上記の数13で表す式を代入すると、以下の数14で表す式が得られる。
【0050】
【0051】
上述したように、筋肉量がn倍になると、筋肉組織の細胞外液量は、nの1/2乗(ルートn)倍になる。したがって、患者の実際の筋肉細胞量MCに対する、筋肉組織量が理想体重の25%である場合の筋肉細胞量MC25の比率がnである場合、この患者の実際の筋肉組織の細胞外液量ECVmに対する、筋肉組織量が理想体重の25%である場合の筋肉組織の細胞外液量ECVm25の比率は、nの1/2乗(ルートn)となる。したがって、以下の数15で表す式が成立する。
【0052】
【0053】
上記の数15で表す式に上記の数14で表す式を代入すると、以下の数14で表す式が得られる。
【0054】
【0055】
上記の数16で表す式に上記の数13で表す式を代入すると、以下の数17で表す式が得られる。
【0056】
【0057】
上述したように、MM25は筋肉組織量が理想体重の25%である場合の筋肉組織量である。したがって、上記の数17で表す式は、以下の数18で表す式のように書き換えることができる。なお、IBWは、理想体重を示す。
【0058】
【0059】
上記の数18で表す式を整理すると、以下の数19で表す二次方程式に書き換えることができる。
【0060】
【0061】
上記の数19で表す二次方程式を解くと、以下の数20で表す式が得られる。
【0062】
【0063】
したがって、患者の実際の筋肉組織の細胞外液量ECVmは、上記の数20で表す式に理想体重IBWと患者の実際の筋肉組織量MMを代入することによって算出することができる。
【0064】
ここで、患者の筋肉組織量が変化して、理想体重の25%になったと仮定すると、筋肉組織の細胞外液量もそれに伴い変化する。すると、以下の数21で表す式が成立する。なお、ΔECVmは患者の筋肉組織の細胞外液量の変化量を示す。
【0065】
【0066】
上述したように、全身の細胞外液量は、筋肉組織の細胞外液量と筋肉組織以外の組織の細胞外液量の和である。このため、筋肉組織の細胞外液量が変化すると、その変化量の分だけ全身の細胞外液量も変化する。したがって、以下の数22で表す式が成立する。なお、ECV25は筋肉組織量が理想体重の25%である場合の全身の細胞外液量を示し、ECVは患者の実際の全身の細胞外液量を示す。
【0067】
【0068】
上記の数22で表す式に上記の数21で表す式を代入すると、以下の数23で表す式が得られる。
【0069】
【0070】
上記の数23で表す式に上記の数13で表す式を代入すると、以下の数24で表す式が得られる。
【0071】
【0072】
上述したように、MM25は筋肉組織量が理想体重の25%である場合の筋肉組織量である。したがって、上記の数24で表す式は、以下の数25で表す式のように書き換えることができる。
【0073】
【0074】
また、理想体重IBWは、以下の数26で表す式を用いて算出できることが知られている。
【0075】
【0076】
理想体重IBWは、上記の数26で表す式に患者の身長を代入することによって算出することができる。また、患者の実際の筋肉組織の細胞外液量ECVmは、上記の数20で表す式に理想体重IBWと患者の実際の筋肉組織量MMを代入することによって算出することができる。したがって、患者の身長と、患者の実際の筋肉組織量MMを取得すれば、上記の数25で表す式を用いて、全身の細胞外液量を標準化(補正)することができる。
【0077】
次に、細胞外液量評価装置10を用いて、透析患者の体内に含まれる水分量の状態を判定する処理について説明する。
図4に示すように、まず、演算装置12は、透析患者の透析後の細胞外液量を取得する(S12)。演算装置12は、インターフェース装置30から入力された各種情報を用いて透析患者の透析後の細胞外液量を算出してもよいし、例えば、従来公知のインピーダンス法等を用いて外部装置(図示省略)等で測定された透析患者の透析後の細胞外液量を、インターフェース装置30を介して取得してもよい。演算装置12によって透析患者の透析後の細胞外液量を算出する方法としては、例えば、国際公開第2019/138917号公報等に開示されている細胞外液量の算出方法を用いることができる。
【0078】
次いで、演算装置12は、透析患者の身長を取得する(S14)。さらに、演算装置12は、透析患者の筋肉量を取得する(S16)。演算装置12は、インターフェース装置30から入力された各種情報を用いて透析患者の筋肉量を算出してもよいし、例えば、従来公知のMRI法、DEXA法、インピーダンス法等を用いて外部装置(図示省略)等で測定された透析患者の筋肉量を、インターフェース装置30を介して取得してもよい。以下に、透析患者の筋肉量を取得する方法の一例として、演算装置12によって透析患者の筋肉量を算出する処理について説明する。
【0079】
図5に示すように、演算装置12は、透析患者の筋肉量を算出するために用いる各種情報を取得する(S112)。本実施例では、透析患者の筋肉量を算出するために用いる各種情報は、透析患者の透析前後の尿素濃度と、透析患者の透析前後の尿酸濃度と、透析患者の透析による尿素除去量と、透析患者の透析による尿酸除去量である。
【0080】
透析前後の尿酸濃度と尿素濃度は、実測値として取得可能である。例えば、透析前後の尿酸濃度は、以下の手順で取得する。まず、透析前と透析後に透析患者の血液をそれぞれ採取する。そして、採取した透析前の血液を血球と血漿に遠心分離し、分離された血漿中の尿酸濃度を測定する。血漿中の尿酸濃度の測定方法は特に限定しない。作業者は、測定した透析前後の血漿尿酸濃度をインターフェース装置30に入力する。入力された透析前後の血漿尿酸濃度は、インターフェース装置30から演算装置12に出力され、患者情報記憶部14に記憶される。また、透析による尿酸除去量と尿素除去量は、透析による各種情報から算出可能である。例えば、透析による尿酸除去量は、透析後の透析液排液の尿酸濃度を測定し、測定した尿酸濃度と透析液排液量との積によって尿酸除去量を算出することができる。あるいは、透析によって取得可能な他の情報を用いて算出することもできる。透析によって取得可能な他の情報を用いて尿酸除去量や尿素除去量を算出する方法については、例えば、国際公開第2019/138917号公報等に開示されているため、詳細な説明は省略する。
【0081】
次に、演算装置12は、ステップS12で取得した各種情報を用いて、尿素分布容積を算出する(S114)。以下に、尿素分布容積の算出方法の一例について説明する。尿素分布容積は、尿素除去量を透析前後の尿素濃度差で割ることにより算出することができる。したがって、以下の数27で表す式が成立する。なお、ureaVは尿素分布容積を示し、ureaEは尿素除去量を示し、ureaCsは透析前の尿素濃度を示し、ureaCeは透析後の尿素濃度を示す。
【0082】
【0083】
演算装置12は、ステップS112で取得した透析前の尿素濃度ureaCsと、透析後の尿素濃度ureaCeと、尿素除去量ureaEを上記の数27で表す式に代入することによって、尿素分布容積ureaVを算出する。
【0084】
なお、本実施例では、透析前の尿素濃度
ureaCsと、透析後の尿素濃度
ureaCeと、尿素除去量
ureaEから尿素分布容積を算出したが、このような構成に限定されない。尿素分布容積は、透析によって取得可能な他の情報を用いて算出してもよい。なお、透析によって取得可能な他の情報を用いて尿素分布容積を算出する方法については、例えば、国際公開第2019/138917号公報等に開示されている。
図6に示すように、尿素は、細胞膜42も毛細血管膜56も通過するため、体内の水分区画全域(細胞内区画40と細胞外区画50を合わせた範囲)に分布する。したがって、尿素分布容積は、総体液量に相当する。このため、例えば、国際公開第2019/138917号公報等に開示されている総体液量の算出方法を用いることによっても、尿素分布容積を算出することができる。
【0085】
図5に示すように、次に、演算装置12は、ステップS112で取得した各種情報を用いて、尿酸分布容積を算出する(S116)。以下に、尿酸分布容積の算出方法の一例について説明する。尿酸分布容積は、尿酸除去量を透析前後の尿酸濃度差で割ることにより算出することができる。したがって、以下の数28で表す式が成立する。なお、
acidVは尿酸分布容積を示し、
acidEは尿酸除去量を示し、
acidCsは透析前の尿酸濃度を示し、
acidCeは透析後の尿酸濃度を示す。
【0086】
【0087】
演算装置12は、ステップS112で取得した透析前の尿酸濃度acidCsと、透析後の尿酸濃度acidCeと、尿酸除去量acidEを上記の数28で表す式に代入することによって、尿酸分布容積acidVを算出する。
【0088】
なお、本実施例では、透析前の尿酸濃度
acidCsと、透析後の尿酸濃度
acidCeと、尿酸除去量
acidEから尿酸分布容積を算出したが、このような構成に限定されない。尿酸分布容積は、透析によって取得可能な他の情報を用いて算出してもよい。なお、透析によって取得可能な他の情報を用いて尿酸分布容積を算出する方法については、例えば、国際公開第2019/138917号公報等に開示されている。
図6に示すように、尿酸は、細胞膜42を通過しない一方で、毛細血管膜56を通過するため、体内の水分区画のうち細胞外区画50にのみ分布し、細胞内区画40には分布しない。したがって、尿酸分布容積は、細胞外液量に相当する。このため、例えば、国際公開第2019/138917号公報等に開示されている細胞外液量の算出方法を用いることによっても、尿酸分布容積を算出することができる。
【0089】
図5に示すように、尿素分布容積と尿酸分布容積が算出されると、演算装置12は、ステップS114で算出された尿素分布容積と、ステップS116で算出された尿酸分布容積と、演算装置12のメモリ(図示省略)に記憶される相関式を用いて、筋肉量を算出する(S118)。ここで、相関式について説明する。
【0090】
相関式は、尿素分布容積と尿酸分布容積の差と、筋肉量との間の相関を示す式である。上述したように、尿素分布容積は総体液量に相当し、尿酸分布容積は細胞外液量に相当する。したがって、尿素分布容積から尿酸分布容積を差し引いた値は、総体液量から細胞外液量を差し引いた値、すなわち、透細胞内液量の値と一致する。細胞内液量は、筋肉量と相関することが知られている。したがって、尿素分布容積と尿酸分布容積の差と、筋肉量との間には、相関があると言える。以下に、相関式の算出方法について説明する。
【0091】
本実施例では、クレアチニン産生速度に着目して、相関式における筋肉量を算出する。体内のクレアチンは、約98%が筋肉に分布している。クレアチンは、1日あたり約2%がクレアチニンに非可逆的に非酵素的に変換される。したがって、1日にクレアチンがクレアチニンに変換される量(すなわち、クレアチニン産生速度)は、体内のクレアチンの量に比例する。すなわち、クレアチニン産生速度は、体内の筋肉量に比例する。このように、1日に産生されるクレアチニン量(クレアチニン産生速度)と筋肉量の比率は、creatinine equivalenceと称されており、例えば、Picouらにより、クレアチニン産生速度の単位をmg/日、筋肉量の単位をkgとした時、creatinine equivalenceは、0.0186であると報告されている。すなわち、mg/日単位のクレアチニン産生速度にcreatinine equivalenceの値(0.0186)を掛け合わせると、kg単位の筋肉量が算出される。したがって、クレアチニン産生速度を取得できれば、筋肉量を算出することができる。
【0092】
クレアチニン産生速度を算出する方法について説明する。本実施例では、クレアチニンのキネティックモデルを解析してクレアチニン産生速度を算出する。例えば、1週間に3回透析を行う透析患者では、週3回の透析によって除去されたクレアチニン除去量の合計が、1週間で産生されたクレアチニンの総量と一致する。そこで、週3回の透析によるクレアチニン除去量の合計から1日当たりのクレアチニン産生量(すなわち、クレアチニン産生速度)を算出する。
【0093】
まず、1回の透析によるクレアチニン除去量を算出する方法について説明する。1回の透析によるクレアチニン除去量は、透析前に体内の存在していたクレアチニン量から透析後に体内に存在しているクレアチニン量を差し引いた値と等しい。透析前に体内の存在していたクレアチニン量は、クレアチニン分布容積と透析前の血清クレアチニン濃度の積と等しく、透析後に体内に存在しているクレアチニン量は、クレアチニン分布容積と透析後の血清クレアチニン濃度の積と等しい。したがって、以下の数29で表す式が成立する。なお、Rは1回の透析によるクレアチニン除去量を示し、Vはクレアチニン分布容積を示し、Cpreは透析前の血清クレアチニン濃度を示し、Cpostは透析後の血清クレアチニン濃度を示す。
【0094】
【0095】
クレアチニン分布容積は、通常、体重の約49%であることが統計的に知られている。したがって、クレアチニン分布容積は、透析後の体重に0.49を掛け合わせることによって推定することができる。以上から、透析前の血清クレアチニン濃度と、透析後の血清クレアチニン濃度と、透析後の体重から、1回の透析によるクレアチニン除去量を算出することができる。そして、週3回のクレアチニン除去量をそれぞれ算出し、算出されたクレアチニン除去量を合計すると、1週間のクレアチニン除去量が算出される。これを7で割ることで、1日当たりのクレアチニン除去量、すなわち、クレアチニン産生速度を算出できる。
【0096】
上述したように、クレアチニン産生速度にcreatinine equivalenceの値を掛け合わせると、筋肉量を算出できる。しかし、クレアチニン産生速度は、筋肉量以外の多くの因子の影響も受ける。例えば、クレアチニン産生速度を示す尿中へのクレアチニンの排泄量は、通常でも4~8%の変動があり、激しい運動によって5~10%増加し、さらに、野菜だけの食事から肉や魚を中心とする食事に切り替えると、10~30%増加する。したがって、クレアチニン産生速度にcreatinine equivalenceの値を掛け合わせて算出した筋肉量は日々、大きく変動する。
【0097】
一方、身体の細胞な中で肥大し、あるいは委縮し得るのは筋肉細胞だけである。これは細胞内液と筋肉量とは比例関係にあることを示唆している。ところで、尿素分布容積は体内の全水分量に一致し、尿酸分布容積は細胞外液量と一致することが知られている。そこで、尿素分布容積から尿酸分布容積を差し引いた値は、細胞内液量と一致すると考えられる。これは、尿素分布容積から尿酸分布容積を差し引いた値は、筋肉量と相関することを示唆している。
【0098】
本発明者らの調べたところでは、尿素分布容積から尿酸分布容積を差し引いた値(x)、とクレアチニン産生速度にcreatinine equivalenceの値を掛け合わせて算出した筋肉量(y)との間は、
図7に示すように相関関係があった。具体的には、本発明者らは、74名の患者について、尿素分布容積と尿酸分布容積を算出し、次に、尿素分布容積と尿酸分布容積の差を算出した。また、74名の患者について、クレアチニン産生速度を算出し、次に、クレアチニン産生速度にcreatinine equivalenceの値を掛け合わせて筋肉量を算出した。
図7に示すように、尿素分布容積と尿酸分布容積の差と、クレアチニン産生速度にcreatinine equivalenceの値を掛け合わせて算出した筋肉量との間には、以下の数30で表す回帰式で示される関係が認められた。なお、Dは尿素分布容積と尿酸分布容積の差(L)を示し、SMMはクレアチニン産生速度(mg/日)にcreatinine equivalenceの値(0.0186)を掛け合わせて算出した筋肉量(kg)を示す。
【0099】
【0100】
図7において、クレアチニン産生速度にcreatinine equivalenceの値を掛け合わせて算出した筋肉量は、回帰直線の上下にズレ(残差)の合計が最小となるように分布している。ところで、算出されたクレアチニン産生速度には、食事において摂取した肉や魚に含まれていたクレアチニンや運動の際に筋肉から漏れ出したクレアチニンが含まれている。したがって、このズレは、クレアチニン産生速度の測定誤差だけでなく、食事や運動によるクレアチニン産生速度の変動および自然のクレアチニン産生速度の変動によるものでもある。以上より、回帰直線上の値は、食事における蛋白質摂取量のバラつきや運動量のバラつきが平均化された値であると考えられる。すなわち、この回帰直線を用いて、尿素分布容積と尿酸分布容積の差から筋肉量を算出する場合には、食事や運動による誤差が含まれない筋肉量が算出される。
【0101】
ステップS118において、演算装置12は、演算装置12のメモリ(図示省略)に記憶される相関式に、ステップS114で算出された尿素分布容積からステップS116で算出された尿酸分布容積を差し引いた値を代入する。これにより、筋肉量を精度よく算出することができる。
【0102】
なお、上記の例では、Picouらが報告したcreatinine equivalenceの値を用いて相関式を作成した。しかし、creatinine equivalenceの値は、これに限定しない。他の研究者が報告したcreatinine equivalenceの値を用いて相関式を作成してもよい。また、上記の例では、演算装置12は、上記の相関式を求める分析機能を有していてもよい。演算装置12がこのような分析機能を有することによって、尿素分布容積と尿酸分布容積の間の差Dと筋肉量との間の相関関係について誤差が小さくなり、尿素分布容積と尿酸分布容積の間の差Dから筋肉量を算出する精度を向上させることができる。
【0103】
図4に示すように、ステップS16で透析患者の筋肉量を取得すると、標準化部18は、ステップS12で取得した透析患者の透析後の細胞外液量を標準化(補正)する(S18)。透析患者の透析後の細胞外液量は、上記の数20、25及び26で表す式を用いて標準化することができる。具体的には、標準化部18は、上記の数26で表す式に、ステップS14で取得した透析患者の身長を代入して、理想体重IBWを算出する。次いで、標準化部18は、上記の数20で表す式に、算出された理想体重IBWとステップS16で取得した透析患者の筋肉量MMを代入して、患者の筋肉組織の細胞外液量ECV
mを算出する。そして、標準化部18は、上記の数25で表す式に、算出された理想体重IBW及び患者の筋肉組織の細胞外液量ECV
mを代入して、透析患者の透析後の細胞外液量を標準化する。
【0104】
最後に、判定部20は、ステップS18で標準化した透析後の細胞外液量を用いて、透析患者の体内の水分量の状態を判定する(S20)。ステップS18で標準化した透析後の細胞外液量は、理想体重の25%まで筋肉組織量が変化(増加又は減少)した場合における全身の細胞外液量である。このため、透析患者の体格に関わらず、所定の閾値を用いて透析患者の体内の水分量の状態を判定することができる。詳細には、標準化した透析後の細胞外液量が所定の範囲内である場合、判定部20は、透析患者が正常状態であると判定する。一方、標準化した透析後の細胞外液量が所定の範囲より多い場合、判定部20は、透析患者が溢水状態であると判定し、標準細胞外液量が所定の範囲より少ない場合、判定部20は、透析患者が脱水状態であると判定する。判定結果(すなわち、溢水状態、正常状態、脱水状態のいずれであるのか)は、インターフェース装置30に表示される。
【0105】
なお、本発明者が行った検証では、筋肉量を用いて補正した細胞外液量に基づいて、透析患者の体内の水分量の状態を判定できることが確認されている。検証では、39名の透析患者を、浮腫群(溢水状態)と、透析低血圧群(脱水状態)と、無症状群(正常状態)に分類した。浮腫群は、透析後に浮腫が見られた患者を分類した群であり、10名が浮腫群に分類された。透析低血圧群は、透析中に血圧が低下した患者を分類した群であり、5名が透析低血圧群に分類された。無症状群は、透析後の浮腫も、透析中の血圧低下もなかった患者を分類した群であり、24名が無症状群に分類された。
【0106】
図8(a)は、上述の筋肉量を用いて補正した透析後の細胞外液量を示すグラフを示す。また、
図8(b)は、比較例として、補正していない透析後の細胞外液量を示すグラフを示す。
図8(b)に示すように、補正していない比較例の透析後の細胞外液量では、浮腫群(溢水状態)と無症状群(正常状態)については区別することができたが、無症状群(正常状態)と透析低血圧群(脱水状態)を区別することはできなかった。一方、
図8(a)に示すように、筋肉量を用いて補正した細胞外液量では、浮腫群(溢水状態)と無症状群(正常状態)だけでなく、無症状群(正常状態)と透析低血圧群(脱水状態)についても区別することができた。このように、筋肉量を用いて細胞外液量を補正することによって、透析患者の体内の水分量が溢水状態と脱水状態と正常状態のいずれであるのかを正確に判定できることが確認できた。
【0107】
なお、上記の実施例では、透析患者の身長から算出される理想体重を用いて透析後の細胞外液量を補正したが、このような構成に限定されない。例えば、透析患者の透析後の体重を取得し、理想体重の代わりに取得した透析後の体重を用いて透析後の細胞外液量を補正してもよい。この場合、ステップS18において、標準化部18は、上記の数20で表す式に、理想体重IBWの代わりに透析後の体重を代入すると共に、ステップS16で取得した透析患者の筋肉量MMを代入して、患者の筋肉組織の細胞外液量ECVmを算出する。そして、標準化部18は、上記の数25で表す式に、理想体重IBWの代わりに透析後の体重を代入すると共に、患者の筋肉組織の細胞外液量ECVmを代入して、透析患者の透析後の細胞外液量を標準化する。このような場合であっても、補正前の透析後の細胞外液量と比較して、透析患者の体内の水分量の状態を正確に判定することができる。
【0108】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。