(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160269
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】土砂整形投入用器具、土砂整形投入装置および施工方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/18 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
E02B3/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064918
(22)【出願日】2021-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
(72)【発明者】
【氏名】泉 総
(57)【要約】
【課題】汚濁発生の抑制と、材料分離の抑制とを実現した土砂整形投入用器具、土砂整形投入装置および施工方法を実現する。
【解決手段】本発明の一形態の土砂整形投入用器具(1)は、底に向かって巾が狭くなった溝部(2)と、溝部の両側内壁面である土砂収集整形部(3)と、を備え、土砂整形投入用器具(1)と水平面(H)との間に所定の傾斜角(θ
1)が設けられ、溝部(2)を流下する土砂材料が土砂収集整形部(3)によって所定の大きさの塊となるよう整形される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土砂材料を水中に投入する際に用いる土砂整形投入用器具であって、
底に向かって巾が狭くなった溝部と、
前記溝部の両側内壁面である土砂収集整形部と、
を備え、
前記溝部と前記土砂収集整形部が一軸方向に延設され、
前記両側内壁面間の前記一軸方向に対する垂直断面の角度が所定の角度内に保たれ、
前記土砂整形投入用器具は、前記土砂整形投入用器具と水平面との間に所定の傾斜角が設けられるように、前記水平面に対して傾いて設けられ、
前記溝部を流下する土砂材料が前記土砂収集整形部によって所定の大きさの塊となるよう整形される、
土砂整形投入用器具。
【請求項2】
前記土砂収集整形部である前記両側内壁面を、前記一軸方向に対する垂直断面で見たとき、
前記両側内壁面によって、V字型またはU字型の前記溝部が形成されている、
請求項1に記載の土砂整形投入用器具。
【請求項3】
前記土砂収集整形部である前記両側内壁面を、前記一軸方向に対する垂直断面で見たとき、前記両側内壁面間の角度が60°以上、150°以下である、
請求項1又は2に記載の土砂整形投入用器具。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の土砂整形投入用器具と、
前記土砂整形投入用器具を支持する支持部材を有し、
前記土砂整形投入用器具は、前記支持部材により前記土砂整形投入用器具と水平面との間に所定の傾斜角が設けられる、
土砂整形投入装置。
【請求項5】
前記支持部材は、浮体である、
請求項4に記載の土砂整形投入装置。
【請求項6】
前記土砂整形投入用器具と水平面との間の前記所定の傾斜角が30°以上、60°以下である、
請求項4から5の何れか1項に記載の土砂整形投入装置。
【請求項7】
前記支持部材は、前記土砂整形投入用器具の前記溝部における長手方向の両端部のうちの下方にある端部の少なくとも一部が、水面下に位置するように、当該土砂整形投入用器具を支持する、
請求項4から6の何れか1項に記載の土砂整形投入装置。
【請求項8】
管内を土砂材料が流下するトレミー管を更に有し、
前記溝部を流下する土砂材料が、前記トレミー管の上部の開口に投入される、
請求項4から7の何れか1項に記載の土砂整形投入装置。
【請求項9】
前記トレミー管の上端部には、前記土砂整形投入用器具との接合部である切り欠きが設けられている、
請求項8に記載の土砂整形投入装置。
【請求項10】
前記トレミー管には、管軸方向に沿ってスリットが設けられている、
請求項8または9に記載の土砂整形投入装置。
【請求項11】
水面下に土砂材料が堆積してなる構造物を構築する、構造物の施工方法であって、
請求項1から3の何れか1項に記載の土砂整形投入用器具、または請求項4から10の何れか1項に記載の土砂整形投入装置を設置する設置工程と、
前記土砂収集整形部と前記溝部に、土砂材料を投下する投下工程と、
前記投下工程によって投下され、前記溝部を流下した前記土砂材料を、所定の箇所に投入して、前記構造物を構築する構築工程と、
を有する、
施工方法。
【請求項12】
前記土砂材料は、カルシア改質土、浚渫土、粘性土、PS灰系改質土、石灰系改質土およびセメント改質土からなる群から選択される粘性材料である、ことを特徴とする請求項11に記載の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂整形投入用器具、土砂整形投入装置および施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土砂や浚渫土をリクレーマ船やグラブにより海域に投入する場合や、カルシア改質土やセメント固化処理土を落下混合方式やグラブで水中に投入する場合、濁りの発生が予想される。
【0003】
大量の土砂を水中に投入する方法として、トレミー管を使用した投入方法が知られている。また、土砂投入時の濁りを抑制した二重管トレミー工法(特許文献1~3)が開発されている。
【0004】
また、カルシア改質土(浚渫土と転炉系製鋼スラグの混合材料)の海域投入方法として、直接投入(底開バージ)、グラブ投入、トレミー式ポンプ打設等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-129568号公報
【特許文献2】特開2002-129569号公報
【特許文献3】特開2011-69076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、浚渫土、カルシア改質土、セメント固化処理土(浚渫土とセメントの混合材料)等の粘性材料を水中にトレミー管を用いて投入する場合には、トレミー管の閉塞が懸念される。また、閉塞せずにトレミー管内を降下した場合であっても、投入材料の塊が大きい場合、投入材料が流下する管に管内で水位の上昇と低下を繰り返す脈動が生じる。この結果、濁りの発生や固化処理土やカルシア改質土の場合には材料分離による強度の低下等の問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明の一態様は、汚濁発生の抑制と、材料分離の抑制とを実現した土砂整形投入用器具、土砂整形投入装置および施工方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る土砂整形投入用器具は、土砂材料を水中に投入する際に用いる土砂整形投入用器具であって、底に向かって巾が狭くなった溝部と、前記溝部の両側内壁面である土砂収集整形部と、を備え、前記溝部と前記土砂収集整形部が一軸方向に延設され、前記両側内壁面間の前記一軸方向に対する垂直断面の角度が所定の角度内に保たれ、前記土砂整形投入用器具は、前記土砂整形投入用器具と水平面との間に所定の傾斜角が設けられるように、前記水平面に対して傾いて設けられ、前記溝部を流下する土砂材料が前記土砂収集整形部によって所定の大きさの塊となるよう整形される。
【0009】
前記の構成によれば、汚濁発生の抑制と、材料分離の抑制とを実現した土砂整形投入用器具を提供できる。前記土砂収集整形部によって形成される前記溝部に土砂材料を流下させることにより、当該土砂材料は所定の大きさの塊に整形される。これにより、水中に投入された土砂材料は水底面に向かって沈降する間に材料分離が生じ難い。そのため、分離に伴った水中の汚濁も生じ難い。
【0010】
本発明の一態様に係る土砂整形投入用器具は、前記の構成に加えて、前記土砂収集整形部である前記両側内壁面を、前記一軸方向に対する垂直断面で見たとき、前記両側内壁面によって、V字型またはU字型の前記溝部が形成されていることが好ましい。
【0011】
前記の構成によれば、溝部を流下する土砂材料を、表面積が比較的小さい形状に整形することができる。例えば、球状、水滴状、楕円体状、ソーセージ状の塊に土砂材料を整形することができる。
【0012】
本発明の一態様に係る土砂整形投入用器具は、前記の構成に加えて、前記土砂収集整形部である前記両側内壁面を、前記一軸方向に対する垂直断面で見たとき、前記両側内壁面間の角度が60°以上、150°以下であることが好ましい。
【0013】
前記の構成によれば、土砂整形投入用器具に土砂材料を投下する際の作業効率を悪化させることなく、且つ土砂材料が四方八方に飛散することなく溝部を流下し所定の大きさの塊に纏まる。なお、両側内壁面が湾曲した面である場合には、前記一軸方向に対する垂直断面で見たとき、湾曲面の平均傾斜角における両側内壁面間の角度が60°以上、150°以下であることが好ましい。
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る土砂整形投入装置は、上述の構成の土砂整形投入用器具と、前記土砂整形投入用器具を支持する支持部材を有し、前記土砂整形投入用器具は、前記支持部材により前記土砂整形投入用器具と水平面との間に所定の傾斜角が設けられる。
【0015】
前記の構成によれば、支持部材によって、土砂材料が土砂整形投入用器具の溝部を流下でき、且つ、流下を終えた段階で土砂材料を所定の大きさの塊にすることができる。
【0016】
本発明の一態様に係る土砂整形投入装置は、前記の構成に加えて、前記支持部材は、浮体であってもよい。
【0017】
前記の構成によれば、浮体によって土砂整形投入用器具を支持するため、水面直上およびその近傍に土砂整形投入用器具を配置することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る土砂整形投入装置は、前記の構成に加えて、前記土砂整形投入用器具と水平面との間の前記所定の傾斜角が30°以上、60°以下であってもよい。
【0019】
前記の構成によれば、土砂材料の流下を滞らせることなく、且つ所定の大きさの塊に整形することができる。
【0020】
本発明の一態様に係る土砂整形投入装置は、前記の構成に加えて、前記支持部材は、前記土砂整形投入用器具の前記溝部における長手方向の両端部のうちの下方にある端部の少なくとも一部が、水面下に位置するように、当該土砂整形投入用器具を支持する構成であってもよい。
【0021】
前記の構成によれば、土砂材料の塊が水面と接触する際の衝撃を緩和することができ、材料分離および汚濁発生の抑制に貢献することができる。なお、水面は波浪などによって上下するため、溝部の下端側の端部が水面上に位置することが単発的にあってもよい。
【0022】
本発明の一態様に係る土砂整形投入装置は、前記の構成に加えて、管内を土砂材料が流下するトレミー管を更に有し、前記溝部を流下する土砂材料が、前記トレミー管の上部の開口に投入される構成であってもよい。
【0023】
前記の構成によれば、トレミー管を用いることで、水中あるいは水底の特定の箇所に土砂材料を投入したい場合、あるいは投入場所の潮流が速い場合などに、土砂材料が堆積する位置をコントロールすることができる。また、前記の構成によれば、土砂整形投入用器具の溝部を流下した土砂材料は所定の大きさの塊に整形され、塊の大きさが制御できるため、トレミー管の内部で塊が流下することに伴う水位の上昇と低下とを繰り返す脈動を生じさせることなく、管内を流下させることができる。
【0024】
本発明の一態様に係る土砂整形投入装置は、前記の構成に加えて、前記トレミー管の上端部には、前記土砂整形投入用器具との接合部である切り欠きが設けられていてもよい。
【0025】
前記の構成によれば、土砂整形投入用器具を、切り欠きに接合させて、土砂整形投入用器具の溝部の下側の端部をトレミー管の開口にしっかりと位置させることができる。
【0026】
本発明の一態様に係る土砂整形投入装置は、前記の構成に加えて、前記トレミー管には、管軸方向に沿ってスリットが設けられていてもよい。
【0027】
前記の構成によれば、スリットを設けることにより、トレミー管内を流下する土砂材料の塊の上部および下部において、スリットを介して水の流出入が生じる。これにより、当該塊の速やかな流下をより促進することができる。また、このように塊が速やかに流下することによって、土砂材料による汚濁発生を抑えることができる。
【0028】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る施工方法は、上述の構成の土砂整形投入用器具または上述の構成の土砂整形投入装置を設置する設置工程と、前記土砂収集整形部と前記溝部に、土砂材料を投下する投下工程と、前記投下工程によって投下され、前記溝部を流下した前記土砂材料を、所定の箇所に投入して、前記構造物を構築する構築工程と、
を有する。
【0029】
前記の構成によれば、水中の汚濁を抑制して、効率的に構造物等を構築(投入)することができる。
【0030】
前記施工方法では、前記土砂材料として、カルシア改質土、浚渫土、粘性土、PS灰系改質土、石灰系改質土およびセメント改質土からなる群から選択される粘性材料であってもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様によれば、汚濁発生の抑制と、材料分離の抑制とを実現した土砂整形投入用器具、土砂整形投入装置および施工方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態に係る土砂整形投入用器具とその設置環境とを模式的に示す図である。
【
図2】
図1に示す土砂整形投入用器具の断面図である。
【
図3】
図1に示す土砂整形投入用器具を具備した本発明の一実施形態に係る土砂整形投入装置の側面図である。
【
図4】
図1に示す土砂整形投入用器具の他の例の断面図である。
【
図5】
図1に示す土砂整形投入用器具の他の例の断面図である。
【
図6】
図1に示す土砂整形投入用器具の他の例の断面図である。
【
図7】
図1に示す土砂整形投入用器具の他の例の断面図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る土砂整形投入装置の模式図である。
【
図11】本発明の他の実施形態に係る土砂整形投入装置の模式図である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係る土砂整形投入装置の模式図である。
【
図13】本発明の他の実施形態に係る土砂整形投入装置の模式図である。
【
図14】
図13の土砂整形投入装置のトレミー管の上端部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、
図1から
図3を用いて説明する。
【0034】
〔1〕土砂整形投入用器具
図1は、本実施形態の土砂整形投入用器具とその設置環境とを模式的に示す図である。
図2は、
図1に示す土砂整形投入用器具1の断面図である。なお、
図1等には、鉛直方向をZ軸方向とし、鉛直方向に対して垂直に広がる、いわゆる水平面をXY方向に規定した三次元座標をしている。このXY平面に平行な面を、以下では水平面Hと称することがある。
【0035】
土砂整形投入用器具1は、土砂材料を水中に投入する際に用いる器具である。なお、水中とは、例えば海中である。
図1等では水面を符号Aで示す。なお、
図1の上側に示す土砂整形投入用器具と、
図1の下側に示す土砂整形投入用器具とは、ベルトコンベアに対する配置が互いに異なるが、土砂整形投入用器具自体の構成は、同一である。
【0036】
土砂整形投入用器具1は、底に向かって巾が狭くなった溝部2と、溝部2の両側内壁面3a,3b(
図2)である土砂収集整形部3と、を備える。土砂整形投入用器具1は、溝部2と土砂収集整形部3が一軸方向(その方向を
図1中にSで示す)に延設される。両側内壁面3a,3b間の一軸方向Sに対する垂直断面の角度は、一定の角度に保たれている。また、土砂整形投入用器具1は、土砂整形投入用器具1と水平面Hとの間に所定の傾斜角θ
1が設けられるように、水平面Hに対して傾いて設けられている。土砂整形投入用器具1は、溝部2を流下する土砂材料が前記土砂収集整形部3(両側内壁面3a,3b)によって所定の大きさの塊200となるよう整形される。
【0037】
土砂整形投入用器具1は、溝部2の長手方向の中央部を中心とした領域に、
図1に示すように、ベルトコンベア500から土砂材料の供給を受ける。なお、ベルトコンベア500は船舶上に設置されるが、土砂材料の投入対象地によっては陸上に設置するようにしてもよい。供給された土砂材料は、溝部2に沿って流下して溝部2の下方側の端部6に至った後に、水中に投入される。土砂整形投入用器具1を用いて土砂材料を水中に投入することにより、水中投入時の土砂材料は、所定の大きさの塊200になっており、水中で土砂材料の分離を抑制し、水中の汚濁の発生を抑制することができる。なお、「整形」とは、土砂材料を集めて所定の大きさの塊にすることを意味するが、好ましくは、溝部2を流下し終わり、水中に投入された時点での塊を球状、水滴状、楕円体状、ソーセージ状の塊にすることを意味する。
【0038】
ここで、土砂整形投入用器具1によって水中に整形投入される土砂材料としては、カルシア改質土、浚渫土、粘性土、PS灰系改質土、石灰系改質土およびセメント改質土からなる群から選択される粘性材料が挙げられる。ただし、これに限定されるものではない。例えば、コンクリートであっても良い。
【0039】
土砂整形投入用器具1は、ベルトコンベア500から落下した土砂材料が、溝部2における長手方向の両端部4,6間の中央付近で、両側内壁面3a,3bの上端部より内側の所定の大きさの落下エリアに落下するように設置することが望ましい。なお、ベルトコンベア500の幅や土砂整形投入用器具1のサイズによって落下エリアの寸法は異なるが、1.5m×1.5m程度となるように設置することが望ましい。
【0040】
このように、土砂整形投入用器具1は、両側内壁面3a,3bの上端部より内側の所定の大きさの落下エリアにベルトコンベア500から落下した土砂材料を受ける点において、傾斜面内にベルトコンベア500から落下した土砂材料を受けて仮り受けするホッパーとは構成および機能が異なる。要するに、漏斗になっているホッパーは、その下端口から、仮り受けしていた土砂材料を投下する構成である。一方で、土砂整形投入用器具1は、一軸方向Sに沿って、一定の角度に保たれた両側内壁面3a,3bによって形作られた溝部2に衝突・飛散した土砂材料を集めて流しながら、土砂材料を所定の大きさの塊200に整形する。
【0041】
図2は、
図1に示す一軸方向Sに垂直な線Pの位置で土砂整形投入用器具1を切断した様子を示す。溝部2は、一軸方向Sに対して垂直な
図2の断面において、V字型を有している。すなわち、内壁面3aと内壁面3bとで、V字型を形成しており、内壁面3aと内壁面3bとが、底において一軸方向Sに沿った境界線上において繋がっている。
【0042】
土砂整形投入用器具1は、例えば板状の部材を二つ折りに加工し、その折り目の谷を底として谷から立ち上がる内面を内壁面3a,3bとすることによって実現できる。具体的には、金属製の板材を二つ折り加工して実現することができる。このように、強度が或る程度ある板状部材を用いて実現すれば、両側内壁面3a,3bの間を所定の角度内に保つことができる。なお、二つ折りに加工する態様に限定されるものではなく、同等の形状を実現できれば、その製造加工方法には特に制限はない。例えば、2枚の金属製や強化プラスチック製の板状部材を、V字型の一方の傾斜体と他方の傾斜体として配置し、V字の底となる位置において板材同士の縁辺を溶接、接着剤、またはボルトで接合することによって実現できる。
【0043】
土砂収集整形部3の両側内壁面3a,3bを、一軸方向Sに対する垂直断面で見たとき、すなわち、
図2に示す状態としたとき、前記両側内壁面3a,3b間の角度θab(
図2)は、60°以上、150°以下で一軸方向Sに沿って、一定の角度に保たれている。角度θabは小さすぎると、両側内壁面3a,3b間の開きを大きくする必要があり、土砂整形投入用器具1が巨大化することになる。その観点から、角度θabは、60°以上が好ましく、90°以上がより好ましい。また、角度θabは広すぎると、ベルトコンベア500から両側内壁面3a,3bに落下した土砂材料が四方八方に飛散して溝部2を流下している間の土砂材料を纏めることができない。その観点から、角度θabは、150°以下が好ましく、120°以下がより好ましい。
【0044】
ここで、
図2に示すように、一方の内壁面3aの水平面Hに対する傾斜角θa、および他方の内壁面3bの水平面Hに対する傾斜角θbは、それぞれ15°以上、60°以下である。なお、傾斜角θaと、傾斜角θbとは、完全一致していなくてもよく、差があってもよい。
【0045】
このように土砂収集整形部3がV字型の溝部2を具備することによって、ベルトコンベア500から一方の内壁面3a(または他方の内壁面3b)に落下した土砂材料が落下の衝撃によって飛散したとしても他方の内壁面3b(または一方の内壁面3a)に向かって飛散し、他方の内壁面3b(または一方の内壁面3a)を両側内壁面3a,3b間の下方にある底に向かって流下するので土砂材料を効率的に所定の大きさの塊200に纏めることができる。
【0046】
溝部2の上方側の端部4から下方側の端部6に向かって土砂材料を流下させるために、土砂整形投入用器具1は、
図1に示すように、溝部2と土砂収集整形部3の延設方向(一軸方向S)の軸が、水平面Hに対して傾くようにして用いられる。具体的には、土砂整形投入用器具1は、溝部2と土砂収集整形部3の延設方向(一軸方向S)の軸が、水平面Hに対して、所定の傾斜角θ
1を有するように設置されることが望ましい。所定の傾斜角θ
1は、30°以上、60°以下である。一例としては、後述する支持部材30(
図3)による支持を受けて、土砂整形投入用器具1は、溝部2と土砂収集整形部3の延設方向(一軸方向S)の軸と水平面Hとの間を、所定の傾斜角θ
1になるようにしている。
【0047】
ここで、傾斜角θ1が小さすぎると土砂材料が流下しないという観点から、傾斜角θ1が30°以上が好ましく、40°以上がより好ましい。また、傾斜角θ1が大きすぎると土砂材料が塊に纏まる前に端部6より水中に落下してしまうという観点から、また落下範囲をカバーするためには土砂整形投入用器具1が巨大化する必要があることから、傾斜角θ1は60°以下が好ましく、50°以下がより好ましい。
【0048】
なお、先述のように、
図1等には、XYZ三次元座標軸系を示しており、水平面Hとは、XY平面に平行な面である。なお、水平面Hは、所定の大きさの塊になった土砂材料が溝部2の下方側の端部6から水中に投入する位置において規定される水平な面とみなすことができる。ここで、水面Aは、特に海面の場合において波やうねり等の影響によって傾斜したり上下したりして、水平面と平行とならない場合がある。そのため、水面Aは、水平面Hと完全一致するものではない。
【0049】
土砂整形投入用器具1は、
図1に示すように、土砂材料を投入する位置、すなわち土砂材料が溝部2の下方側の端部6から水中に落下する位置が、水中にある。具体的には、溝部2の下方側の端部6が、水面A下に位置している。例えば、後述の支持部材30が、土砂整形投入用器具1を、溝部2の下方側の端部6の少なくとも一部が水面A下に位置するように支持する。
【0050】
溝部2の下方側の端部6の少なくとも一部が水中にあることにより、土砂材料の塊が水面Aと接触する際の衝撃を緩和することができ、材料分離および汚濁発生の抑制に貢献することができる。なお、先述のように水面Aは天候などによって上下するため、溝部2の下方側の端部6が水面A上に位置することが単発的にあってもよいが、土砂材料の投入時には、溝部2の下方側の端部6の少なくとも一部は水面A下(すなわち水中)にあることが望ましい。
【0051】
また、溝部2の一部が斜め方向に延設した状態で水中に挿入していることから、溝部2を流下した土砂材料の塊が所定の傾斜角θ1で入水し、塊が水面Aから受ける衝撃を緩和し、水面衝突時の濁りの発生を抑制することができる。なお、水面Aは水平面Hと略平行であることが好ましい。
【0052】
以上の構成の土砂整形投入用器具1を用いることにより、溝部2を流下する土砂材料が土砂収集整形部3によって所定の大きさの塊となるよう整形されるため、水中に投入された土砂材料は、単位体積あたりの表面積が小さくなり、材料の粘性によって分離が生じ難く、汚濁の発生を抑えて、水底面に向けて沈降する。特に、上述のように所定の角度θabを有するV字型の溝部2を使用することにより、ベルトコンベア500から落下した土砂材料が溝部2の底に集まり、流下するに従って球状、水滴状、楕円体状、ソーセージ状の塊に整形される。これらの形状は、表面積が小さいため、水との接触領域が小さい。よって、分離しにくく、汚濁を発生し難い塊を、水中に投入することができる。
【0053】
土砂整形投入用器具1のサイズについては特に制限はなく、ベルトコンベア500のサイズ、ベルトコンベア500から土砂整形投入用器具1までの距離、溝部2を流下させる土砂材料の量(単位時間あたりの体積)等によって適宜設定する。例えば、ベルトコンベア500の幅が1mで、ベルトコンベア500から土砂整形投入用器具1までの距離が1~2m、投入予定水域の環境(天候、潮流)が穏やかであれば、土砂整形投入用器具1の両側内壁面3a,3bへの落下エリアを1m×2m程度と想定し、上面視において3m四方程度の土砂整形投入用器具1を設置すればよい。一方で、ベルトコンベア500の幅が1mであっても、ベルトコンベア500から土砂整形投入用器具1までの距離が6m程度と比較的離れていたり、風が強かったり、ベルトコンベア500を設置している船舶の揺れが大きかったりする場合には、上面視において4~5m四方程度の土砂整形投入用器具1を設置する。
【0054】
溝部2を流下することによって形成される土砂材料の塊の大きさ(所定の大きさ)は、特に制限はなく、ベルトコンベア等での土砂供給速度(1日あたりの施工量)や土砂整形投入用器具1を用いて投入される土砂材料の性状等によって決まる。ただし、先述のV字型の溝部2の所定の角度θab、または溝部2の傾斜角θ1 によって、あるいは後述する変形例1の底面3cの大きさや変形例2の溝部2の底部の大きさによって多少の調整は可能である。なお、後述するトレミー管を具備した態様であれば、トレミー管の内径との関係も考慮する。
【0055】
また、溝部2を流下することによって形成される土砂材料の塊の大きさは、土砂整形投入用器具1のS軸方向の長さ、すなわち溝部2の長手方向の長さによっても、多少の調整が可能である。
【0056】
なお、土砂整形投入用器具1への土砂材料の投入方法は、船舶等に設置したベルトコンベアの他、グラブバケット、バックホウのバケット等がある。
【0057】
土砂整形投入用器具1によって水中に投入される土砂材料としては、カルシア改質土、浚渫土、粘性土、PS灰系改質土、石灰系改質土およびセメント改質土からなる群から選択される粘性材料であってよい。
【0058】
〔2〕土砂整形投入装置
図3は、上述の土砂整形投入用器具1を具備した土砂整形投入装置100と、その設置環境とを模式的に示す図である。
【0059】
土砂整形投入装置100は、土砂整形投入用器具1の他に、土砂整形投入用器具1を支持する支持部材30を有する。土砂整形投入用器具1は、支持部材30により土砂整形投入用器具と水平面との間に所定の傾斜角θ1が設けられる。更に、土砂整形投入装置100は、土砂整形投入用器具1が土砂材料を水中に投入する位置の周囲を囲む汚濁防止膜40を有することが望ましい。
【0060】
支持部材30は、土砂整形投入用器具1の溝部2における長手方向(一軸方向S)の両端部4,6のうちの下方側にある端部6が、土砂材料を投入する位置での水面A下に位置するように、土砂整形投入用器具1を支持する。
【0061】
具体的には、支持部材30は、浮体31と、架台32と、固定部33とを有する。浮体31はフロートである。水に浮くことで、水面A近傍において土砂整形投入用器具1を支持できる。具体的には、浮体31の上面に、固定部33を備えた架台32が取り付けられており、固定部33を介して、土砂整形投入用器具1が、浮体31に固定される。土砂整形投入用器具1は、支持部材30によって支持されることで、土砂整形投入用器具1と水平面Hとの間に所定の傾斜角θ1を有して傾斜した状態を維持することができる。
【0062】
なお、浮体31がフロート場合、ベルトコンベア500より土砂材料を土砂整形投入用器具1に投入する際に、波等による海面上でのフロートの位置変位が一定の範囲内となるよう、ベルトコンベア500を設置している船舶から支持材(図示せず)で制御することが望ましい。
【0063】
ここで、浮体31はフロートでなく、台船であってもよい。台船である場合、ベルトコンベア500を設置した船舶、例えばリクレーマ船等の落下混合船(土砂材料を運搬して土砂整形投入用器具1に落下させるための船)とは別の台船として配備することができる。しかし、これに限定されず、他の態様として、落下混合船を、浮体31としてもよい。
【0064】
汚濁防止膜40は、水中に投入された土砂材料の塊から、一部の土砂材料が分離して水中に汚濁を発生させた場合であっても、拡散を防ぐことができる。汚濁防止膜40に代えて、汚濁防止枠を配備してもよい。
【0065】
以上の構成の土砂整形投入装置100によれば、土砂整形投入用器具1の溝部2の下方側の端部6の少なくとも一部を水面下に位置させた状態で、溝部2から、所定の大きさの塊に整形された土砂材料を水中に投下できる。
【0066】
〔3〕構造物の施工方法
以上の土砂整形投入装置100を用いて、水面下に土砂材料が堆積してなる構造物を構築する。なお、構造物の対象としては、埋立、浅場・干潟の中詰、護岸の裏込め、潜堤だけでなく、深堀の埋戻しを含む。なお、埋立は陸化前の水中内での投入が対象となる。
【0067】
構造物の施工方法としては、土砂整形投入用器具1または土砂整形投入装置100を設置する設置工程と、前記土砂収集整形部と前記溝部に、土砂材料を投下する投下工程と、前記投下工程によって投下され、前記溝部を流下した前記土砂材料を、所定の箇所に投入して、前記構造物を構築する構築工程と、を有する。
【0068】
設置工程では、土砂材料を投入する予定水域において、土砂整形投入装置100の土砂整形投入用器具1を、
図1や
図3に示すように所定の角度内で溝部2の下方側の端部6の少なくとも一部が水面A下に位置するように設置する。
【0069】
投入工程では、土砂材料を、土砂整形投入用器具1の溝部2の上方にベルトコンベア500で搬送し、溝部2の中央付近に近い領域に向けてベルトコンベア500から落下させる。好ましくは、ベルトコンベア500からの落下位置が、両側内壁面3a,3bの境界部分を中心とした落下エリアになるようにする。
【0070】
構築工程では、土砂材料を土砂整形投入用器具1の溝部2を流下させることによって、所定の大きさの塊に整形し、整形された土砂材料の塊を、水中に投下する。
【0071】
以上の各工程を有する構築方法により、水中の汚濁を抑制して、効率的に構造物を構築(投入)することができる。
【0072】
〔変形例1〕
図2に示す本実施形態の土砂整形投入用器具1の断面形状は、溝部2の底が、傾斜している内壁面3a,3b同士が一軸方向Sに沿って交わってなるV字型を有する。しかしながら、この形状に限定されず、例えば、
図4に示す土砂収集整形部3Aであってもよい。
【0073】
図4に示す土砂収集整形部3Aは、
図2と同じく、
図1に示す一軸方向Sに垂直な面Pで土砂整形投入用器具1を切断した様子を示す断面図である。土砂収集整形部3Aの断面は、底に向かって両側内壁面間の巾が狭くなっているが、底では、傾斜する両側内壁面3aと3bとが離間しており、離間部分を水平方向に渡る底面3cが設けられている。すなわち、断面形状は、V字型の底に変形がある変形V字型である。なお、この変形V字型は、変形コの字型と称しても良い。コの字の開口側が斜め上方に開口するように向いて、対向する一対の線(実際には内壁面)が下方に向かって距離が近づいた形である。
【0074】
土砂収集整形部3Aにおいて、Y軸方向に沿った底面3cの長さは、例えば0.5mとすることができる。
【0075】
〔変形例2〕
更に別の変形例として、
図5に示す2つの例の土砂収集整形部3B、3B´であってもよい。
【0076】
図5の上側に示す土砂収集整形部3Bは、
図2と同じく、
図1に示す一軸方向Sに垂直な面Pで土砂整形投入用器具1を切断した様子を示す断面図である。土砂収集整形部3Bの断面は、底に向かって巾が狭くなっているが、両側内壁面3a,3bは湾曲した面を有しており、全体としてU字型の断面をもつ。
【0077】
このようにU字型の溝部2によっても、溝部2を流下する過程で、土砂材料が両側内壁面3a,3bによって所定の大きさの塊に整形される。なお、土砂収集整形部3Bの両側内壁面3a,3bは湾曲した面となっているため、前記一軸方向に対する垂直断面で見たとき、湾曲面の平均傾斜角における両側内壁面間の角度が60°以上、150°以下であればよい。
【0078】
また、
図5の土砂収集整形部3Bように、両側内壁面3a,3bは、湾曲した面の上部に、上方(Z軸正方向)に向かって立ち上がった鉛直面を有する立ち上がり部3d,3dを有していることにより、土砂材料が溢れ出ることや材料が飛散することを回避することができる。
【0079】
また、
図5の下側に示す土砂収集整形部3B´は、湾曲した面の上部の立ち上がり部3d´,3d´が、
図5の上側の立ち上がり部3d,3dと異なり、上方に向かって互いが離間する向きで設けられている。これにより、ベルトコンベア500からの土砂材料の落下場所を十分に確保することができる。
【0080】
〔変形例3〕
また、別の態様として、
図6に示す土砂整形投入用器具1であってもよい。
図6に示す土砂整形投入用器具1は、溝部2の上方側の端部4近傍にガード部材8を有する点において、上述の実施形態の土砂整形投入用器具1と相違する。
【0081】
ガード部材8は、両側内壁面3a,3b上に接着剤等を用いて固定されている。ガード部材8は、
図6に示すようにブロック体であってもよく、板状の金属製や強化プラスチック製の部材であってもよい。ガード部材8によって、ベルトコンベア500(
図1)から供給された直後の土砂材料が溝部2を逆流し、土砂材料が上方側の端部4を超えて飛散することを防ぐことができる。
【0082】
〔変形例4〕
上述の実施形態の土砂整形投入用器具1では、溝部2の下方側の端部6のうちの底近傍の一部のみが水面A下に位置している態様について説明したが、この位置に限定されるものではない。以下、異なる位置にある態様を説明する。
【0083】
図7には、土砂整形投入用器具1の最も水底Bに近い部分と、水面Aとの位置関係が互いに異なる3つの態様を並べて示す。なお、土砂整形投入用器具1の水底Bに最も近い部分は、ここでは、溝部2の下方側の端部6の底近傍の部分と同一とみなす。また、
図7の何れの態様も、比較のために、溝部2の下方側の端部6の底近傍の部分の位置を、破線で明示している。
【0084】
図7の左端(i)に示す土砂整形投入用器具1が、上述の実施形態と同一で、水面Aの下には、溝部2の下方側の端部6のうちの底近傍のみ(端部6の少なくとも一部)が位置する。
【0085】
図7の中央(ii)に示す土砂整形投入用器具1は、
図7の左端の態様に比べ、溝部2の下方側の端部6が全て、水面Aの下に位置している。溝部2の流下経路長のうち水面A下に入っている長さが、
図7の左端の土砂整形投入用器具1のそれに比べて長い。また、
図7の中央(ii)に示す土砂整形投入用器具1は、水面Aの上に位置している土砂整形投入用器具1の長さ(溝部2の流下経路長)が、
図7の左端(i)に示す土砂整形投入用器具1の水面Aの上に位置している土砂整形投入用器具1の長さと略等しい。これは、ベルトコンベア500(
図1)からの土砂材料の落下範囲を十分確保するためである。以上のような
図7の中央(ii)の土砂整形投入用器具1によっても、溝部2を流下する土砂材料は、溝部2の下方側の端部6に至るまでに所定の大きさの塊に整形される。
【0086】
図7の右端(iii)に示す土砂整形投入用器具1は、水面A下に位置している部分がなく、溝部2の下方側の端部6のうちの底近傍が、水面Aとほぼ同じ位置にある。この土砂整形投入用器具1によっても、溝部2を流下して所定の大きさの塊に整形された土砂材料は、下方側の端部6から徐々に水中に侵入し、端部6から離れて水中に投入される。このように土砂整形投入用器具1の先端が水面Aと略同じ位置なので塊が受ける着水時の衝撃は小さい。したがって、塊の分解は抑制され、汚濁発生も抑制することができる。
【0087】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0088】
図8は、本実施形態の土砂整形投入装置100Aを、その設置環境とともに模式的に示す図である。
図8は、
図3に対応している。本実施形態の土砂整形投入装置100Aは、
図3に示す実施形態1の汚濁防止膜40に代えて、トレミー管60を有する点において、実施形態1の土砂整形投入装置100と相違する。なお、トレミー管60の周辺に汚濁防止膜40を設置してもよい。
【0089】
トレミー管60は、水中あるいは水底の特定の箇所に土砂材料を投入したい場合、あるいは水底までの水深が深い場合や投入対象海域の潮流が速い場合などに、土砂材料の投入位置をコントロールすることができる。溝部2を流下して所定の大きさの塊となった土砂材料は、トレミー管60の上部開口部61から投入される。トレミー管60は、支持部材30の例えば浮体31によって支持される。あるいは、土砂整形投入用器具1に連結されていてもよいし、ベルトコンベア500を設置している船舶上からワイヤー等で吊固定してもよい。
【0090】
図9は、本実施形態の土砂整形投入装置100Aの上面図である。
図9に示すように、土砂整形投入用器具1の土砂収集整形部3の下方側の端部6は、上面視において、トレミー管60の上部開口部61の開口領域に重畳している。これにより、トレミー管60に投入される土砂材料の塊を、トレミー管60の内壁への接触を抑制して管内に投入し、濁りの発生を抑える。
【0091】
図10は、土砂整形投入装置100Aを、
図8とは水平面内で90°回転した箇所から見たときの正面図である。
図10の正面図では、溝部2が正面に位置する。
図10に示すように、土砂収集整形部3の下方側の端部6の少なくとも一部は、上述の実施形態と同じく水面A下に位置しており、更に、端部6の先端は、トレミー管60の上部開口部61の縁よりも管内に挿入されている。これは、土砂整形投入用器具1が水平面に対して所定の傾斜角θ
1(
図8)で傾斜していることから実現できる態様である。
【0092】
トレミー管60は、
図10に示すように、上部開口部61が水面A下(つまり水中)に位置している。これにより、土砂材料の塊が上部開口部61からトレミー管60内に投入された直後に、水(海水)が流入し、塊の流下を促進させることができる。
【0093】
なお、トレミー管60、単一の管体から構成されてもよいし、複数の管を管軸方向に繋げてなるものであってもよい。
【0094】
本実施形態の土砂整形投入装置100Aによれば、トレミー管60に投入される土砂材料の塊は、土砂整形投入用器具1によって所定の大きさの塊に整形されたものである。そのため、トレミー管60を閉塞させることなく、スムーズな土砂材料の流下を実現することができる。また、土砂材料の塊の大きさが土砂整形投入用器具1の両側内壁面間の角度やS軸方向に沿った溝部2の長さによって多少の調整が可能であるため、例えば、塊の大きさを、トレミー管60の内径よりも十分に小さくすることができる。また、塊の大きさに応じた適切な管径や構造のトレミー管を使用することにより、塊と管内との接触を抑制し、脈動や濁りの発生・材料分離や強度低下を抑制した投入が可能となる。一例として、トレミー管に複数のスリットが延設されているスリット付きのトレミー管の場合には、塊の直径の1.0倍以上の内径を有するトレミー管を使用することが望ましい。また、一例として、トレミー管の上部に開口部が設けられ、当該開口部を介して大量の水が管内に流入(管内に塊が投入された直後に流入)するような態様のトレミー管の場合には、塊の直径の1.5倍以上の内径を有するトレミー管を使用することが好ましい。
【0095】
トレミー管60の内径は、例えば800mm~2500mmとすることができる。なお、土砂整形投入用器具1に対して、バケットで土砂材料を投入する態様においては、土砂材料の流動性に応じて、トレミー管60の内径から計算される球状の土砂材料の塊の体積の0.8倍~1.5倍とすることができる。
【0096】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0097】
図11は、本実施形態の土砂整形投入装置100Bを、その設置環境とともに模式的に示す図である。
図11は、
図3に対応している。
【0098】
本実施形態の土砂整形投入装置100Bは、
図11に示すように、実施形態1の汚濁防止膜40に代えてトレミー管60を有する点において、実施形態1の土砂整形投入装置100と相違する。
【0099】
更に、
図11に示す左右2つの土砂整形投入装置100Bは、水平面Hに対する土砂整形投入用器具1の傾斜角θ
1が互いに異なる。本実施形態では、この傾斜角θ
1の大きさを、土砂整形投入用器具1の傾きを可変させて所望の傾斜角θ
1に調整することができる点において、
図8の土砂整形投入装置100Aと異なる。
【0100】
土砂整形投入装置100Bは、土砂整形投入用器具1を支持する支持部材30Aが、浮体31と、架台32と、可動式の固定部33Aとを有する。また、土砂整形投入装置100Bは、土砂整形投入用器具1の傾きを可変させる傾斜角調整部70を有する。
【0101】
傾斜角調整部70は、ベルトコンベア500を搭載した船舶72上に設置される。(ベルトコンベア500が陸上に設置される際には陸上に設置される。)傾斜角調整部70は、ウインチ71と、土砂整形投入用器具1の土砂収集整形部3の上方側の端部4近傍とを繋ぐワイヤー73を有する。ウインチ71によってワイヤー73が巻き上げられたり、下ろしたりすることで、土砂収集整形部3が、溝部2の下方側の端部6における水底面側の角を凡その中心として、水平面Hに対する傾斜角θ1を可変する。
【0102】
図11の左側の土砂整形投入装置100Bと、右側の土砂整形投入装置100Bとを比較すれば、右側の土砂整形投入装置100Bの傾斜角θ
1(2)、すなわち水平面Hに対する一軸方向S1が成す角度のほうが、左側の土砂整形投入装置100Bの傾斜角θ
1(1)、すなわち水平面Hに対する一軸方向S0が成す角度よりも傾斜角θ
1が小さくなっている(傾斜角θ
1(1)>傾斜角θ
1(2))。このように傾斜角θ
1を変化させる際には、支持部材30の可動式の固定部33Aが、架台32に対する位置を移動させる。
【0103】
傾斜角θ
1が小さいほど一軸方向Sと平行である溝部2の傾斜(勾配)は緩くなる(
図11中でS0からS1に可変)。土砂材料の粘性が予定より高い場合には、溝部2の傾斜が緩やかであると流下せず投入作業効率が悪い。その場合には、傾斜角θ
1を大きくするように変更する。このように、投入する土砂材料の性質によって傾斜角θ
1を調整することができることにより、多種の土砂材料に対して適用することができる。
【0104】
一例としては、標準的な流動性を有する土砂材料に適用する場合には、傾斜角θ1は45°とする。そして、流動性が予定より小さい場合には、傾斜角θ1を45°よりも急勾配に、流動性が予定より大きい場合には45°よりも緩勾配にする。投入材料の性状によって、傾斜角θ1を変えても良い。なお、流動性の指標としては、シリンダーフロー(NEXCO 試験法 313)や、ベーンせん断強さ試験等を用いる。
【0105】
なお、トレミー管60については、実施形態2において説明しているため、此処での説明は省略する。
【0106】
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0107】
図12は、本実施形態の土砂整形投入装置100Cの側面図である。説明の便宜上、
図12には、土砂整形投入装置100Cの一部分のみを示す。本実施形態の土砂整形投入装置100Cは、複数のスリット62が設けられたトレミー管60Aを、土砂整形投入用器具1の下方に具備している点において、
図3の土砂整形投入装置100と異なる。
【0108】
土砂整形投入装置100Cは、
図3に示した支持部材30によって土砂整形投入用器具1が支持されており、土砂整形投入用器具1の下方にトレミー管60Aを配設している。
【0109】
トレミー管60Aは、管軸方向を鉛直方向にして、水中に配置されている。トレミー管60Aには、管軸方向に延設されたスリット62が設けられている。複数のスリット62は、管の周方向に沿って並んで設けられている。
【0110】
トレミー管60Aは、実施形態2において説明したトレミー管60と同じく、水中あるいは水底の特定の箇所に土砂材料を投入したい場合、あるいは水底までの水深が深い場合や投入対象海域の潮流が速い場合などに、土砂材料の投入位置をコントロールすることができる。トレミー管60Aは、支持部材30の例えば浮体31によって支持することができる。あるいは、土砂整形投入用器具1に連結されていてもよいし、ベルトコンベア500を設置している船舶上からワイヤー等で吊固定してもよい。
【0111】
スリット62は、トレミー管60Aの管壁に設けられた開口である。スリット62のスリット幅は流入水量および土砂材料の塊の落下速度などを勘案して設定すればよいが、管1の内側から土砂材料の塊の一部が分離して漏れ出ることを抑制する観点より、幅20mm以下であることが好ましい。スリット62を設けることにより、トレミー管60A内を流下する土砂材料の塊の上部および下部において、スリット62を介して水の流出入が生じる。これにより、当該塊の速やかな流下をより促進することができる。また、このように塊がスムーズに流下することによって、土砂材料による汚濁発生を抑えることができる。
【0112】
スリット62のスリット長は、特に限定されないが、一例として1スリット長はトレミー管60Aの全長の約85%としている。これにより、トレミー管60Aに比較的長くスリット状の開口部が形成されており、塊をスムーズに流下させることに寄与できる。ただし、これらの数値に限定されるものではない。例えば、スリット62のそれぞれのスリット長が、トレミー管60Aの全長の少なくとも20%の長さを有しているようにしてもよい。
【0113】
なお、以上のようにトレミー管60Aにスリット62を設ける場合、スリット62の本数は特に限定されない。スリット62の長さがトレミー管60Aの内径以上の長さである場合、少なくとも1か所以上にスリットを設ければよい。スリットが2ヶ所以上設ける場合、設けられたスリットのうち、少なくとも2つのスリットは、管の周方向に沿って異なる位置に設けられていることが望ましい。スリットの本数は管径および材料の大きさなどに応じて適宜変更してもよい。例えば、管径が大きい場合または材料が大きい場合は、スリットの本数を増やしてもよい。
【0114】
また、土砂整形投入装置100Cは、トレミー管60Aの上部開口部61が水面A下(つまり水中)に位置している。これにより、土砂材料の塊が上部開口部61からトレミー管60A内に投入された直後に、水(海水)が流入し、塊の流下を促進させることができる。
【0115】
また、土砂整形投入装置100Cは、汚濁防止膜40を具備している。汚濁防止膜40は、先述した汚濁防止膜40と同一の構成を採用することができる。汚濁防止膜40を具備することにより、仮に、トレミー管60Aの管内で土砂材料の塊の一部が分離して汚濁が発生し、その汚濁がスリット62からトレミー管60A外に流出したとしても、汚濁防止膜40によって汚濁の拡散を防ぐことができる。
【0116】
〔実施形態5〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0117】
図13は、本実施形態の土砂整形投入装置100Dの側面図である。また、
図14は、土砂整形投入装置100Dに具備されるトレミー管60Bの上部開口部61近傍の側面図であり、土砂整形投入用器具1とトレミー管60Bの接合部に近接した側の側面図である。
【0118】
本実施形態の土砂整形投入装置100Dと、先述の
図12に示した土砂整形投入装置100Cとは、トレミー管の上部形状に相違点がある。
【0119】
具体的には、
図13に示す土砂整形投入装置100Dのトレミー管60Bには、
図14に示すように、トレミー管60Bの上部開口部61側の端部(上端部)に、土砂整形投入用器具1との接合部である切り欠き63が設けられている。
【0120】
トレミー管60Bは、上部開口部61が水面Aから気中に出た状態で配備されている。
土砂整形投入用器具1(土砂収集整形部3)は、切り欠き63に接合していることによって、溝部2の下方側の端部6を水面A下に安定して位置させることができる。
【0121】
切り欠き63は、トレミー管60Bの上端壁部に土砂整形投入用器具1を嵌めることができるよう、土砂整形投入用器具1との接合形状と合致した形状を有する。土砂整形投入用器具1は、先述のように板状の部材をV字型やU字型や変形V字型(コの字型)に加工して構成したものであるため、土砂整形投入用器具1(土砂収集整形部3)の断面形状は、溝部2の断面形状に倣ってほぼ同じ形状を有している。そのため、V字型の溝部2および土砂整形投入用器具1(土砂収集整形部3)であれば、切り欠き63も傾斜角θ1に沿ってV字型を有している。このように、切り欠き63と土砂整形投入用器具1とを嵌め合せることにより、トレミー管60Bと、土砂整形投入用器具1との位置合わせが容易となり、土砂材料の投入作業中に両者が位置ずれすることを防ぐことができる。
【0122】
トレミー管60Bは、複数のスリット62を有している。スリット62の構成については、上述の
図12のスリット62と同じ構成である。
図12のスリット62と相違する点は、
図13では、各スリット62が水面Aを跨ぐように位置している点にある。すなわち、スリット62は、気中において開口している領域と、水中において開口している領域とを有する。これにより、土砂材料の塊がトレミー管60Bに投入された直後に、スリット62における気中において開口している領域から管内の空気を排気することができる。また、土砂材料の塊がトレミー管60Bに投入された直後に、スリット62における水中において開口している領域から、水を管内に流入させることができる。なお、スリットを有していないトレミー管に切り欠け63を設けて使用してもよい。
【0123】
本発明は上述した各実施形態および変形例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態および変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0124】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0125】
アクリル水槽(0.5m×0.5m×H1.5m)に水深1.4mになるように水道水を入れ、含水比を調整した浚渫土(液性限界wL=74.5%)を使用し実施形態1で説明した土砂整形投入用器具を用いて水中投入を行った。
【0126】
比較例として、土砂整形投入用器具に代えて、スリットが無い通常のトレミー管(内径80mm×水中部分の長さ700mm)を用いて、含水比を調整した浚渫土(液性限界wL=74.5%)の水中投入を行った。
【0127】
スクイズポンプを使用し、20L/分の速度で30秒、約10Lの浚渫土を投入した際の濁度の最大値を表1に示す。なお、濁度の測定は水深0.7mの位置で行った。
【表1】
【0128】
表1に示すように、比較例(通常のトレミー管)では、水面へ10cmの高さからの落下時とトレミー管内での降下時の脈動により濁りが発生していることが示された。
【0129】
これに対し、実施例では、投入時に土砂材料の水面への落下の衝撃が小さく、水底面に向かって沈降する間に土砂材料の脈動が生じないため、1.5wLの浚渫土、1.7wLの浚渫土ともに濁りが大きく抑制されることが示された。