IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アーの特許一覧

特開2022-160396抑うつ症状を治療又は予防するための、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いる、方法及び組成物
<>
  • 特開-抑うつ症状を治療又は予防するための、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いる、方法及び組成物 図1
  • 特開-抑うつ症状を治療又は予防するための、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いる、方法及び組成物 図2
  • 特開-抑うつ症状を治療又は予防するための、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いる、方法及び組成物 図3
  • 特開-抑うつ症状を治療又は予防するための、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いる、方法及び組成物 図4
  • 特開-抑うつ症状を治療又は予防するための、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いる、方法及び組成物 図5
  • 特開-抑うつ症状を治療又は予防するための、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いる、方法及び組成物 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160396
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】抑うつ症状を治療又は予防するための、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いる、方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/745 20150101AFI20221012BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20221012BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20221012BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20221012BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20221012BHJP
【FI】
A61K35/745
A61P25/24
A61K47/26
A61K47/46
A61K47/44
A61K47/42
A23L33/135
A23L33/125
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022103543
(22)【出願日】2022-06-28
(62)【分割の表示】P 2018506886の分割
【原出願日】2016-08-31
(31)【優先権主張番号】62/212,148
(32)【優先日】2015-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/220,408
(32)【優先日】2015-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/236,639
(32)【優先日】2015-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】バーゴンゼッリ デゴンダ, ガブリエラ
(72)【発明者】
【氏名】アルヴェス ヌーンズ, ティアゴ
(72)【発明者】
【氏名】マルクヮルト, ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】シュミット, ヨルン, アントニウス, ヨハネス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抑うつ症状を治療又は予防する方法を提供する。
【解決手段】治療有効量のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物を個体に投与するステップを含む、治療方法とする。好ましくは、組成物が、脂質、タンパク質、炭水化物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される成分を更に含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物を、抑うつ症状を有する個体に投与するステップを含む、抑うつ症状の治療方法。
【請求項2】
前記抑うつ症状が、基礎疾患又は薬剤により発症したものではない原発性の精神疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抑うつ症状が、神経障害、代謝疾患、内分泌疾患、循環器疾患、肺疾患、がん、自己免疫疾患、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される基礎疾患により発症した二次的疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抑うつ症状が、憂うつな気分、悲しみ、不安、「空虚」感、関心又は楽しみの喪失、易怒性、情動不安、食欲又は体重の変化、睡眠障害、エネルギー不足又はエネルギーの低下、無気力、罪悪感、無力感、怒り及び敵対心、思考困難、集中困難、又は決断困難、絶望感、疲労感、倦怠感、記憶障害、涙ぐむ、気が滅入る、恐怖症、身体的健康に対する過剰な心配、性機能障害、治療に応答しない持続的な身体症状、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、脂質、タンパク質、炭水化物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される成分を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物がプレバイオティクスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プレバイオティクスが、オリゴ糖、食物繊維、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物を、少なくとも6週間の期間にわたって前記個体に毎日投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部が生きている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、該組成物の乾燥重量1g当たり10~1011cfuの前記B.ロンガムATCC BAA-999を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物を、10~1012cfuの前記B.ロンガムATCC BAA-999を含む1日用量で前記個体に投与する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物の前記1日用量を、少なくとも6週間の期間にわたって前記個体に毎日投与する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部が、非増殖性の細胞(non-replicating cells)である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、該組成物の乾燥重量1g当たり10~10の前記B.ロンガムATCC BAA-999の非増殖性の細胞を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物を、10~1010cfuの前記B.ロンガムATCC BAA-999の非増殖性の細胞を含む1日用量で前記個体に投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物の前記1日用量を、少なくとも6週間の期間にわたって前記個体に毎日投与する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
自然療法である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記個体が、臨床的及び潜在的抑うつ状態、DSM-IV分類の「特定不能のうつ病性障害」、DSM-IV診断基準を充足しない抑うつ症状、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、抑うつ状態又はうつ病性障害を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物を、抑うつ症状のリスクのある個体に投与するステップを含む、抑うつ症状を予防する方法。
【請求項20】
前記個体を、前記抑うつ症状のリスクがあるものとして識別するステップ、を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
表れている前記抑うつ症状が、憂うつな気分、悲しみ、不安、「空虚」感、関心又は楽しみの喪失、易怒性、情動不安、食欲又は体重の変化、睡眠障害、エネルギー不足又はエネルギーの低下、無気力、罪悪感、無力感、怒り及び敵対心、思考困難、集中困難、又は決断困難、絶望感、疲労感、倦怠感、記憶障害、涙ぐむ、気が滅入る、恐怖症、身体的健康に対する過剰な心配、性機能障害、治療に応答しない持続的な身体症状、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物を、少なくとも6週間の期間にわたって前記個体に毎日投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
抑うつ症状を治療又は予防するための食用組成物の製造方法であって、脂質、タンパク質、及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む食品製品に、治療有効量又は予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を組み込むステップ、を含む、方法。
【請求項24】
抑うつ症状を治療又は予防するためのレジメンの補助方法であって、前記レジメンが、医薬組成物を必要としている個体又は抑うつ症状のリスクのある個体に前記医薬組成物を投与するステップ、を含み、前記方法が、前記医薬組成物に加えて、治療有効量又は予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物を、前記個体に投与するステップ、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示は、全般的にはプロバイオティクス菌に関する。具体的には、抑うつ症状を治療又は予防するための、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)NCC3001(ATCC BAA-999)を用いる、組成物及び方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
[0002]うつは、クオリティ・オブ・ライフに対し、身体症状及び情動症状を含む顕著に負の影響、を及ぼす。うつは、神経伝達の低下に関連し、例えば、神経伝達物質が低レベルであることに関連する。結果として、神経伝達物質の脳内レベルを増加させて、その伝達を増強する化合物は、抗うつ特性に加えてその他の多様な精神疾患に対する有益な効果を示す。主要な神経伝達物質は、セロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリン、ノルアドレナリン、アセチルコリン、グルタメート、γ-アミノ-酪酸、並びに神経ペプチドである。神経伝達の増大は、シナプス前終末への再取り込みの阻害を介してシナプス間隙における神経伝達物質濃度を増大させて、神経伝達の増強又は持続に神経伝達物質を利用できるようにすることにより達成され、又はモノアミノオキシダーゼA及びB(それぞれMAO A及びMAO B)などの酵素の分解を阻害して、神経伝達物質の代謝を防止することにより達成される。
【0003】
[0003]三環系抗うつ薬化合物(TCA)、例えば、イミプラミン、アミトリプチリン、及びクロミプラミンは、セロトニン及びノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。これらの化合物は、入手可能な抗うつ薬の中でも最も有効なものとして広く認められているものの、コリン作動性受容体などの脳受容体と相互作用することから数多くの不都合を有している。最も重要なことに、TCAの過剰投与に伴うリスクとして急性心毒性が挙げられる。
【0004】
[0004]別の部類の抗うつ薬には、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、及びフルボキサミンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)がある。SSRIは、セロトニン輸送体(SERT)、すなわち高親和性塩化ナトリウム依存性神経伝達物質輸送体を阻害し、セロトニンの取り込みによるセロトニン作動性の神経伝達を終了させ、セロトニン単独の再取り込みを阻害する。これらの化合物は、うつ及び不安の治療において有効であることが実証されており、通常、TCAよりも耐性が高い。これらの薬を、典型的には低用量から投与開始し、投与レベルを、治療レベルに達するまで増加することができる。一般的な副作用には吐き気がある。その他の生じ得る副作用としては、食欲減退、口渇、発汗、感染、便秘、あくび、振戦、眠気、及び性機能障害が挙げられる。
【0005】
[0005]更に、MAO A及びMAO Bを阻害することにより、広範に神経伝達物質の代謝を防止する化合物は、抗うつ効果を示す。MAOは、アミノ基を含有する神経伝達物質、例えば、セロトニン、ノルアドレナリン、及びドーパミンなどの酸化を触媒する。
【0006】
[0006]更に、神経伝達モジュレーターは、精神機能及び認知機能に対し多面発現性の効果を発揮する。
【0007】
[0007]これらの及びその他の向精神薬は、口渇、視界不良、消化管運動の低下、又は便秘、尿閉、認知障害及び/若しくは記憶障害、傾眠、混乱、情動不安、めまい、過敏症、食欲及び体重の変化、性機能障害、吐き気及び嘔吐、低血圧、頻拍、及び場合により不整脈などといったいくつかの副作用を導き得る。幻覚、せん妄、及び昏睡は、過剰投与により生じる中毒作用のうちの一部である。治療により結果を得るためには、典型的には熟練の専門家と、長期療養とを必要とする。
【0008】
[0008]結果として、患者はヘルスケア提供者の関与する高額な治療を受けることとなり、多くの患者は、薬物の大量投与に伴う副作用を最小限に抑えることが可能な、更なる臨床効果が得られる代替療法に関心を寄せるようになる。
【0009】
[0009]同様にして、うつの診断を満たさない抑うつ症状も数が多い。例えば、抑うつ症状及び特定不能のうつ病性障害は、大うつ病よりも一般的である。精神疾患の診断と統計マニュアル第4版(DSM-IV)によると、悲しみ期間(periods of sadness)は、人間の経験する固有の特徴である。診断基準が重症度(すなわち、9種の症状のうち5つ以上)、持続期間(すなわち、少なくとも2週間にわたってほぼ毎日、1日の大半)、並びに臨床的に明らかな苦痛又は障害を充足しない限り、これらの期間を大うつ病エピソードとして診断すべきでない。診断「特定不能のうつ病性障害」は、持続期間又は重症度についての基準に充当しない、臨床的に明らかな障害に伴う抑うつ気分の症状について充当するものであり得る。「特定不能のうつ病性障害」は、大うつ病性障害についての基準には充当せずに抑うつの特徴を有する障害、を含む。「特定不能のうつ病性障害」としては、月経前不快気分障害、小うつ病性障害(minor depressive disorder)、反復性うつ病性障害、及びうつ病性障害が表れているものの、うつ病性障害が原発性のものか、全身の状態に起因するものか、又は導入された物質に起因するものかを決定できないと、臨床医が診断した状態が挙げられる。
【発明の概要】
【0010】
[0010]本発明者らは、驚くべきことに、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999が、かかる細菌を投与された患者における、抑うつ症状を改善すること、及び脳の情動活動を低減すること、を見出した。本明細書において以下に詳述するとおり、本発明者らは、ランダム化、二重盲検プラセボ対照試験を実施した。過敏性腸症候群(IBS)では、(高率で抑うつが発症することから)精神病理学が中心的な役割を果たすため、この状態を臨床試験のモデルとして使用した。結果として、B.ロンガムATCC BAA-999を用いた6週間の治療が、併存(co-morbid)抑うつ症状、全般的な胃腸症状、及びIBS患者のクオリティ・オブ・ライフを改善したことが、実証された。
【0011】
[0011]具体的には、かかる臨床試験により、B.ロンガムATCC BAA-999の投与は、腸から脳へのシグナル伝達を介して、挙動を制御することが示された。これらの効果は、情動の制御に関与する脳領域の下方制御により介在されるものと思われる。
【0012】
[0012]非便秘症(non-constipation)IBS患者をB.ロンガムATCC BAA-999により6週間治療したところ、抑うつスコアが改善され、IBS症状の十分な緩和が達成され、クオリティ・オブ・ライフの身体的スコアが改善され、恐怖刺激への応答における情動及び気分の制御に関与する脳中枢(扁桃体及び大脳辺縁系前縁部(fronto-limbic regions))の機能が下方制御された。B.ロンガムATCC BAA-999の有益な効果は抑うつ症状に対しては治療後1ヶ月維持された一方、IBS症状及びクオリティ・オブ・ライフはベースライン(準備期間)に戻った。
【0013】
[0013]理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、現在、B.ロンガムATCC BAA-999の予防機序及び/又は治療機序が、心理的要因と顕著に関連付けられ得る二方向性の微生物-腸-脳軸の制御に関連しているものと考えている。この観点において、IBSは、腸生理の変更と腸-脳軸を介した心理的要因との相互作用の結果生じるものであり、IBSでは、脳及び腸の症状は相互に影響しあっているものと考えられる。腸内微生物叢は、腸及び脳間のこの「対話(dialogue)」において中心的な役割を果たす。本発明者らは、B.ロンガムATCC BAA-999が微生物叢-腸-脳軸に対し作用してIBSにおける抑うつ症状を低減すると考えている。
【0014】
[0014]したがって、通常の実施形態において、本開示は、抑うつ症状を治療する方法、を提供する。「抑うつ症状」は、本明細書において以下に定義され、大うつ病性障害が挙げられるがこれに限定されない。本開示を通して、及び特許請求の範囲において、用語「抑うつ症状」は、臨床的及び潜在的うつに伴う症状も、DSM-IV分類の「特定不能のうつ病性障害」(例えば、大うつ病の基準を充足しない抑うつ特徴を有する患者)も包含する。「抑うつ症状」は、DSM-IVの診断基準を充足しない抑うつ状態に由来する抑うつ症状をも包含する。方法は、治療有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物を、抑うつ症状を有する個体に投与すること、を含む。
【0015】
[0015]一実施形態では、この抑うつ症状は、基礎疾患又は薬物によって発症したものではない原発性の精神疾患である。
【0016】
[0016]一実施形態では、抑うつ症状は、神経障害、代謝疾患、内分泌疾患、循環器疾患、肺疾患、がん、自己免疫疾患、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される基礎疾患により発症した、二次的疾患である。例えば、抑うつ症状は、基礎疾患より生じた1つ以上の抑うつ症状であり得る。
【0017】
[0017]一実施形態では、抑うつ症状は、憂うつな気分、悲しみ、不安、「空虚」感、関心又は楽しみの喪失、易怒性、情動不安、食欲又は体重の変化、睡眠障害、エネルギー不足又はエネルギーの低下、無気力、罪悪感、無力感、怒り及び敵対心、思考困難、集中困難、又は決断困難、絶望感、疲労感、倦怠感、記憶障害、涙ぐむ、気が滅入る、恐怖症、身体的健康に対する過剰な心配、性機能障害、治療に応答しない持続的な身体症状、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0018】
[0018]一実施形態において、組成物は、脂質、タンパク質、炭水化物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される成分を更に含む。
【0019】
[0019]一実施形態において、組成物は、プレバイオティクスを含む。プレバイオティクスは、オリゴ糖、食物繊維、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0020】
[0020]一実施形態において、組成物を、少なくとも6週間の期間中、毎日個体に投与する。
【0021】
[0021]一実施形態において、B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部は生きている。組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり10~1011cfuのB.ロンガムATCC BAA-999を含み得る。組成物を、10~1012cfuのB.ロンガムATCC BAA-999を含む1日用量で個体に投与することができる。組成物の1日用量を、少なくとも6週間の期間中、毎日個体に投与することができる。
【0022】
[0022]一実施形態において、B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部は非増殖性(non-replicating)の細胞である。組成物を、10~1010個のB.ロンガムATCC BAA-999の非増殖性の細胞を含む1日用量で個体に投与することができる。組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり10~10個のB.ロンガムATCC BAA-999の非増殖性の細胞を含み得る。組成物の1日用量を、少なくとも6週間の期間中、毎日個体に投与することができる。
【0023】
[0023]一実施形態において、方法は、自然療法である。
【0024】
[0024]一実施形態では、個体は、潜在的うつ、DSM-IV分類の「特定不能のうつ病性障害」、DSM-IV診断基準を充足しない抑うつ症状、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、抑うつ状態又はうつ病性障害を有する。
【0025】
[0025]別の実施形態において、本開示は、抑うつ症状を予防する方法、を提示する。本方法は、予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物を、抑うつ症状のリスクのある個体に投与すること、を含む。
【0026】
[0026]一実施形態において、方法は、抑うつ症状のリスクがあるものとして個体を識別すること、を含む。
【0027】
[0027]一実施形態では、予防される抑うつ症状は、憂うつな気分、悲しみ、不安、「空虚」感、関心又は楽しみの喪失、易怒性、情動不安、食欲又は体重の変化、睡眠障害、エネルギー不足又はエネルギーの低下、無気力、罪悪感、無力感、怒り及び敵対心、思考困難、集中困難、又は決断困難、絶望感、疲労感、倦怠感、記憶障害、涙ぐむ、気が滅入る、恐怖症、身体的健康に対する過剰な心配、性機能障害、治療に応答しない持続的な身体症状、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0028】
[0028]一実施形態において、組成物を、少なくとも6週間の期間中、毎日個体に投与する。
【0029】
[0029]別の実施形態において、本開示は、抑うつ症状を治療又は予防するための食用組成物、を製造する方法、を提示する。方法は、脂質、タンパク質、及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む食品製品に、治療有効量又は予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を組み込むこと、を含む。
【0030】
[0030]別の実施形態において、本開示は、抑うつ症状を治療又は予防するためのレジメン、を補助する方法、を提示する。補助されたレジメンは、医薬組成物を必要としている個体、又はリスクのある個体に医薬組成物を投与すること、を含む。方法は、治療有効量又は予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物を、かかる組成物を必要としている個体に対し医薬組成物と併せて投与することを含む。
【0031】
[0031]本開示により提供される1つ以上の実施形態の利点は、組成物が、有効であり、入手しやすく、低価格であり、望ましくない副作用なく投与するため安全なものである微生物株を含むことにより、かかる組成物を使用して、抑うつ症状を治療又は予防することができるというものである。
【0032】
[0032]本開示により提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、市販で既に試験済みの、食品製品への添加が許容され得ることが判明している細菌株を使用して、抑うつ症状を治療又は予防するというものである。
【0033】
[0033]本開示により提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、既知の抗うつ薬と比較して良好な安全プロファイルが得られるといものである。
【0034】
[0034]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更なる利点は、既知の抗うつ薬による副作用が、最小限に抑えられる、又は完全に回避されるというものである。
【0035】
[0035]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更なる利点は、本明細書で開示される組成物と同時投与される、1種以上の既知の抗うつ薬の効果が、改善される、及び/又はかかる抗うつ薬の投与量が、低減されるというものである。
【0036】
[0036]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、ヘルスケアの補助に関連する全く不必要なコストを最小限に抑える、又は回避するというものである。
【0037】
[0037]本開示により提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、治療を中断した後でさえ持続的な抗うつ効果を達成するというものである。
【0038】
[0038]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更なる利点は、同様にその他の健康効果が得られる細菌株を使用して、抑うつ症状を治療又は予防するというものである。
【0039】
[0039]追加の特徴及び利点を本明細書に記載する。これらは、以降の発明を実施するための形態及び図面から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本明細書で開示される臨床試験のデザインを示す。
図2】B.ロンガムATCC BAA-999の投与による主要転帰、すなわち抑うつ及び不安の2群に分けた(dichomotous)スコアにおける改善を例示するグラフ、を示す。
図3】B.ロンガムATCC BAA-999の投与による二次転帰、すなわち抑うつ及び不安の継続スコアにおける改善を例示するグラフ、を示す。
図4】B.ロンガムATCC BAA-999の投与が身体的グローバルドメイン並びに身体の全般的な健康(身体機能)及びその他の日常活動による動作(身体的役割)を有意に改善したこと、ひいては活力及び情動的役割に関する精神的サブドメインの改善傾向をもたらしたことを例示するグラフ及び表を示す。
図5】B.ロンガムATCC BAA-999の投与が身体的グローバルドメイン並びに身体の全般的な健康(身体機能)及びその他の日常活動による動作(身体的役割)を有意に改善したこと、ひいては活力及び情動的役割に関する精神的サブドメインの改善傾向をもたらしたことを例示するグラフ及び表を示す。
図6】B.ロンガム投与群ではプラセボ投与群と比較して視覚連合野及び頭頂皮質(parietalcortices)がより機能していたこと、並びにB.ロンガムATCC BAA-999投与群では、プラセボ投与群と比較して情動及び気分(扁桃体及び前頭-辺縁系領域)に関与する脳中枢の機能が低下していたことを示すfMRIイメージ、を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
[0045]本開示及び添付の「特許請求の範囲」において使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈上明らかに別段の定めがない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「微生物株(a bacterial strain)」又は「微生物株(the bacterialstrain)」についての言及は、2種以上の微生物株を含む。
【0042】
[0046]「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含んでいる(comprising)」という用語は、排他的にではなく包含的に解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは包括的なものであると解釈される。
【0043】
[0047]しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「含む(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成成分「から本質的になる/から本質的に構成される(consisting essentially of)」及び「からなる/から構成される(consistingof)」実施形態の開示を含む。同様にして、本明細書で開示される方法は、本明細書において具体的に開示されない任意のステップを含まなくてもよい。したがって、用語「を含む」を用いる実施形態の開示は、特定された工程「から本質的になる/から本質的に構成される」及び「からなる/から構成される」実施形態の開示を含む。
【0044】
[0048]「X及び/又はY」の文脈にて使用される用語「及び/又は」は、「X」又は「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。本明細書において使用する場合、用語「例(example)」及び「などの(such as)」は、特に、後に用語の掲載が続く場合は、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであると判断すべきではない。別途記載のない限り、本明細書で開示される任意の実施形態を、本明細書で開示される任意の別の実施形態と組み合わせることができる。
【0045】
[0049]本明細書で使用するとき、「約」及び「およそ」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照番号の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照番号の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。
【0046】
[0050]更に、本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数(integers,whole)又は分数を含むと理解されるべきである。用語「間(between)」は、特定の範囲の端点を包含する。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数字又は数字の部分集合を対象とする請求項を支持するために与えられていると解釈すべきである。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9等の範囲を支持するものと解釈すべきである。
【0047】
[0051]「動物」としては、齧歯類、水生哺乳類、イヌ及びネコ等の飼育動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマ等の家畜、並びにヒトを含むがこれらに限定されない哺乳類が挙げられるが、これらに限定されない。「動物」、「哺乳類」、又はこれらの複数形が用いられる場合、これらの用語は、本節の文脈により効果が示される、又は示されるように意図されることができる動物にも当てはまる。本明細書で使用するとき、用語「個体」及び「患者」は、本明細書において定義されるとおりの治療を受ける又は治療を受けることが意図される動物、特に哺乳類、及び更にはヒトを含むものと理解される。用語「個体」及び「患者」は、本願において、多くの場合、ヒトを指して使用されるが、本開示においてそのように限定されはしない。したがって、用語「個体」及び「患者」は、治療により効果を得ることのできる任意の動物、哺乳類又はヒトを指す。
【0048】
[0052]用語「治療」及び「治療すること」には、状態又は疾患の改善をもたらす任意の効果、例えば状態又は疾患を和らげること、軽減すること、調節すること、又は解消させることが含まれる。この用語は、対象が完治するまで処置されることを必ずしも意味するものではない。状態又は疾患を「治療すること」又は「その治療」の非限定的な例としては、(1)状態又は疾患を阻害すること、すなわち状態若しくは疾患又はその臨床症状の発症を止めること、及び(2)状態又は疾患を緩和すること、すなわち状態若しくは疾患又はその臨床症状の一時的又は永続的な消退を生じさせることが挙げられる。処置は患者に関連するものであってもよく、又は医師に関連するものであってもよい。
【0049】
[0053]用語「予防」又は「予防すること」は、状態又は障害にさらされ得るか又はそれに罹り易い傾向があり得るが、まだ状態状態又は障害の症状を呈していないか又はそれが現れていない個体において、言及される状態状態又は障害の臨床症状を発症させないこと、を意味する。用語「状態」及び「疾患/障害」は、任意の疾患、状態、症状、又は徴候を意味する。
【0050】
[0054]相対的な用語「改善された(improved)」、「上昇した(increased)」、及び「増強された(enhanced)」などは、B.ロンガムATCC BAA-999は含まないものの他は同一である組成物の効果と比較しての、B.ロンガムATCC BAA-999(本明細書において開示)を含む組成物の効果を表す。
【0051】
[0055]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取、並びにかかる個体に対する少なくとも1種の栄養分の提供を意図された、製品又は組成物を意味する。本明細書に記載の多くの実施形態を含む本開示の組成物は、本明細書に記載の必須成分及び制限に加え、食事療法(diet)に有用な、本明細書に記載の任意の追加の若しくは任意選択的な成分、構成成分、又は制限成分(limitations)を含んでよく、これらから構成されてよく、又は本質的にこれらから構成されてよい。
【0052】
[0056]本明細書で使用されるとき、「完全栄養」は、その組成物が投与される動物にとって、唯一の栄養源とするのに十分な、十分な種類及び濃度の主要栄養素(タンパク質、脂質及び炭水化物)及び微量栄養素を含有する。個体は、このような完全栄養性組成物から、個体が必要とする栄養分の100%を受容可能である。
【0053】
[0057]本開示の一態様は、個体、好ましくはヒトにおいて、抑うつ症状を治療又は予防するのに有効な量で、B.ロンガムATCC BAA-999を含む、組成物である。B.ロンガムATCC BAA-999は、BL999及びNCC3001としても既知であり、専門の供給業者(specialist suppliers)より、例えば、森永乳業株式会社(日本)より商品名BB536で商業的に入手することができる。用語「B.ロンガムATCC BAA-999」は、細菌、細菌の一部、及び/又は細菌により発酵した増殖培地を含む。一実施形態では、組成物を、一定期間、すなわち少なくとも6週間にわたり毎日個体に投与してよく、好ましくは投与期間後であっても抗うつ効果をもたらす。
【0054】
[0058]いくつかの実施形態では、方法は自然療法である。例えば、組成は天然成分から構成されてよく、好ましくは個体には合成医薬化合物などの人工化合物は全く投与されない。他の実施形態では、組成物は、医薬組成物も投与されるレジメンを補助する。
【0055】
[0059]いくつかの実施形態では、組成物は、原発性の精神疾患として抑うつ症状を治療又は予防し、すなわち、この抑うつ症状は、基礎疾患又は薬物により発症したものではない。例えば、組成物を投与される個体は、胃腸疾患などの基礎疾患を有さずに、抑うつ症状を有し得る。
【0056】
[0060]他の実施形態では、組成物により治療又は予防される抑うつ症状は、基礎症状の結果として生じたものである。二次的疾患として抑うつ症状を招き得る基礎疾患の非限定例としては、神経障害(例えば、認知症)、代謝疾患(例えば、電解質異常)、内分泌疾患(例えば、甲状腺異常)、循環器疾患(例えば、心臓発作)、肺疾患(例えば、慢性閉塞性肺疾患)、がん、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ)が挙げられる。
【0057】
[0061]本明細書で使用するとき、「抑うつ症状」としては、悲しみに関係する何らかの感情、及び関心低下が挙げられ、抑うつ症状は、典型的には1つ以上の神経伝達物質の不均衡に基づく。特定の形態の抑うつ症状の非限定例としては、憂うつな気分、悲しみ、不安、「空虚」感、関心又は楽しみの喪失、易怒性、情動不安、食欲又は体重の変化、睡眠障害、エネルギー不足又はエネルギーの低下、無気力、罪悪感、無力感、怒り及び敵対心、思考困難、集中困難、又は決断困難、絶望感、疲労感、倦怠感、記憶障害、涙ぐむ、気が滅入る、恐怖症、身体的健康に対する過剰な心配、性機能障害、治療に応答しない持続的な身体症状(例えば、頭痛及び慢性疼痛)、並びにこれらの組み合わせ、などといった定型的な又は非定型的な症状が挙げられる。抑うつ症状の「リスクのある」個体としては、抑うつ症状を寛解し、現在では再発が診断されている又は再発傾向があると診断されている個体が挙げられる。
【0058】
[0062]例えば、臨床的及び潜在的抑うつ状態、DSM-IV分類「特定不能のうつ病性障害」、DSM-IV診断基準を充足しない抑うつ症状、大うつ病性及び小うつ病性障害、月経前不快気分障害、閉経後抑うつ症状、加齢に伴う抑うつ障害、うつ病性障害(単一エピソードのもの及び反復性のものを含む)、単極性うつ病、双極性うつ病、急性うつ病、慢性うつ病、気分変調症、閉経期抑うつ症状、治療抵抗性うつ病(treatment-refractory depression、treatment-resistant depression)、季節性情動障害、及びこれらの任意の組み合わせなどといったこれらの抑うつ症状は、抑うつ状態又はうつ病性障害においてしばしばその一部となっており及び/又は観察される。
【0059】
[0063]それにもかかわらず、これらの抑うつ症状は、潜在的なものとして観察される場合があり、又はこれらの抑うつ状態/抑うつ障害とは関連付けられない場合(例えば、症候群又は精神疾患の一部としては見なされない場合)がある。したがって、本開示は、上記の抑うつ状態/抑うつ障害に関連する抑うつ症状に限定されない。
【0060】
[0064]抑うつ症状は、標準的な臨床基準、例えば、DSM-IV-TRシステムを使用して診断され得る。例えば、うつ病性障害を診断するためのDSM-IVシステムは、憂うつな気分又は過敏症、関心又は楽しみの低下、顕著な体重変化(5%)又は食欲の変化、睡眠の変化(例えば、不眠又は過眠症)、活動の変化、倦怠感又はエネルギーの低下、罪悪感又は無価値感、集中力の欠如、及び自殺を含む10とおりの抑うつ症状のうち少なくとも5つが存在している必要がある。更に、症状は、少なくとも2週間表れている必要があり、並びに各症状はほぼ毎日十分に重症なものでなければならない。
【0061】
[0065]概して、抑うつ症状は、例えば、ミニメンタルステート検査(MMSE)、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-28又はHAMD-7)、臨床全般印象評価(CGI)尺度、Montgomery-Asbergうつ病評価尺度(MADRS)、Beckのうつ病調査票(BDI)、Zungの自己評価式抑うつ尺度、Wechslerうつ病評価尺度、Raskinうつ病評価尺度、抑うつ症状尺度(IDS)、及び簡易抑うつ症状尺度(QIDS)などの、DSM-IV又は有効な基準における診断リスト(神経心理学的評価)を使用して臨床医により評価される。例えば、測定可能な抑うつ症状の改善としては、例えば、抑うつ症状についての血中マーカーの測定、例えば、赤血球中葉酸濃度、血清中葉酸濃度、血清中MTHF濃度の測定により測定可能なマーカー、又は抑うつ症状の強度の評価、例えば、神経心理学的な評価の使用における、何らかの臨床的に有意な低下が挙げられる。
【0062】
[0066]例えば、HAMDスコアにおいて、0~7点は典型的には正常であると見なされる。20以上のスコアは、中等度、重症、又は非常に重症の抑うつ症状を示す。質問18~21は、抑うつ症状(例えば、日内変動(diurnal 1 variation)又は妄想症状のいずれかが存在)についての更なる情報を与えるために記録してもよいが、この尺度に必須のパートではない。したがって、症状の低減は、例えば、HAMDスコアが例えば20以下に低下した場合に臨床的に関連すると見なすことができる。
【0063】
[0067]したがって、本明細書で開示される、抑うつ症状を治療又は予防する方法についてのいくつかの実施形態は、例えば、B.ロンガムATCC BAA-999を含む組成物の投与を開始する前に抑うつ症状を有するものとして、又は抑うつ症状を発症するリスクがあるものとして、個体を診断すること、を含む。いくつかの実施形態では、組成物を、例えば、DSM-IV又はICD-10に掲載される基準に準拠して抑うつ症状について選別された個体に(例えば、通常の検診中に)投与する。
【0064】
[0068]DSM-IV及びICD-10は、精神疾患の分類についての共通語及び標準的な基準を提供するものであり、適切な訓練を受けた一般開業医又は精神科医若しくは心理学者により、抑うつ症状を診断する際に一般的に使用されている。抑うつ状態の症状としては、集中力、記憶力、及び/又は決断力の問題、食習慣及び/又は睡眠習慣における変化、楽しめる活動に対する関心の低下、通勤困難又は日常生活に対する対応困難、罪悪感及び/又は絶望感、思考速度及び又は発話速度の低下、死又は自殺についての念慮への没頭、無快楽症、低エネルギーレベル、精神運動遅延、動揺、認知力の低下、又はこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。当業者であれば、DSM-IV又はICD-10に基づき抑うつ症状のスコア又は評価を決定することができる。
【0065】
[0069]追加して又は代替的に、当該技術分野で知られる精神障害の分類についてのその他の尺度又は基準を用いて、例えば、Maierスケール又はHAMD-7スケール、社会機能についての問診表(SFQ)、視覚的アナログスケール(VAS)、及び/又は認知機能及び身体機能についての問診表(CPFQ)を用いて、抑うつ症状の度合いを決定することができる。
【0066】
[0070]抑うつ症状についての診断中、質問者は、患者の診療履歴について評価すること、患者が現在気分を制御するために用いている方法(健康的な方法、又はそれ以外の方法)について、例えばアルコール使用及び薬物使用について話し合うこと、並びに/又は心理状態の診察を行なうこと(すなわち患者のその時の気分及び関心事を評価すること、特に絶望感又は厭世観、自傷又は自殺などのテーマを抱えていること、並びに肯定的な考え若しくは計画を持ち合わせていないことについて評価すること)もできる。更に、質問者は、概して診察を行い、認知以外の原因に由来する抑うつ症状を除外することができる。例えば、TSH及びチロキシンを測定する血液試験を用い甲状腺機能低下症を除外でき、基本的な電解質(basic electrolytes)及び血清カルシウムにより代謝障害を除外でき、ESRを含む全血球数により全身感染症又は慢性疾患を除外できる。テストステロンレベルを評価して、男性における抑うつ症状の原因である性腺機能低下症を評価することもできる。
【0067】
[0071]抑うつ症状の診断には、当該技術分野で既知の何らかの遺伝的又はバイオマーカーによる方法を使用することもできる。例えば、米国特許公開第2010/0273153号(その全容が、参照により本明細書に組み込まれる。)は、TG7ATハプロタイプの存在を大うつ病性障害についての素因の指標とすることができる。抑うつ症状には、例えば、ATP2A2、SCYA5、STIP1、EEF1A1、GRB10、CASP6、TSSC1、RAB9、NFATC3、TPR、及び例えば、米国特許公開第2005/0239110号(その全容が、参照により本明細書に組み込まれる。)に掲載されている任意のその他のものなどの、抑うつ症状についての追加の遺伝子マーカーも使用できる。
【0068】
[0072]いくつかの実施形態では、個体は、大うつ病性障害を有している、若しくは発症していると診断されている、又はそう疑われている。大うつ病エピソードは、重度に憂うつな気分が少なくとも2週間持続していることを特徴とする。エピソードは、技能を有する実務者により軽度(幾つかの症状しか基準の最低ラインを超えていない)、中等度、又は重度(社会的機能又は職業的機能に顕著な影響がある)であるとして分類され得る単独のものであっても、又は反復性のものであってもよい。
【0069】
[0073]B.ロンガムATCC BAA-999は、本願の譲受人によりNCC 3001として2001年1月29日にInstitut Pasteur,28 rue du Docteur Roux,F-75024 Paris Cedex 15,Franceに寄託された。この寄託物に対する好適な利用についての全ての制限は、本願の特許の付与をもとに取り消し不能な状態で排除され、生存活性のあるサンプルが受託者により頒布不能になった場合には、寄託物は新たに補充されることになる。
【0070】
[0074]B.ロンガムATCC BAA-999は、任意の好適な方法により培養され得る。B.ロンガムATCC BAA-999は、例えば、組成物を形成するにあたり凍結乾燥形態又は噴霧乾燥形態で食品製品に添加され得る。
【0071】
[0075]組成物を、例えば、乳又は水で再構成するための粉末形態で経口的に及び/又は経腸的に投与することができる。組成物は、食品組成物、ペットフード組成物、ダイエタリーサプリメント、機能性食品、栄養処方、飲料、及び医薬組成物からなる群から選択され得る。好ましい実施形態では、組成物は、ヒト成人などの成体を対象とした食品製品である。
【0072】
[0076]食品組成物は、かかる組成物を薬局及びドラッグストアだけでなくスーパーマーケットにも流通させることができるという利点を有する。一般に好ましい味わいの食品組成物は、製品の受け入れに更に関係することになるだろう。好適な食品組成物の非限定例としては、ヨーグルト、乳、フレーバーミルク、アイスクリーム、レディ・トゥ・イート・デザート、麦芽飲料、レディ・トゥ・イート・ディッシュ(dishes)、インスタントディッシュ(instant dishes)、ヒト用飲料、及び食品を完全に又は一部代替する食品組成物が挙げられる。
【0073】
[0077]組成物は、以下の、保護親水コロイド(例えば、ガム、タンパク質、変性デンプン)、バインダー、膜形成剤、カプセル化剤、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(例えば、油、脂質、ワックス、レシチン)、吸着材、キャリア、充填剤、協働化合物(co-compound)、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒など)、流動剤、味マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、抗酸化物質、又は抗菌剤のうちの1つ以上を更に含有し得る。組成物は、水、任意の素材由来のゼラチン、植物ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアゴム、植物油、ポリアルキレングリコール、着香料、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、潤滑剤、又は着色剤が挙げられるがこれらに限定されない標準的な医薬品添加剤、アジュバント、賦形剤又は希釈剤、も含有し得る。このような更なる成分は、目的とするレシピエントに対する適合性を考慮して好ましく選択される。一実施形態において、組成物は、栄養学的に完全な処方である。
【0074】
[0078]組成物はタンパク質を含んでよい。好適なタンパク質の非限定例としては、動物性タンパク質(例えば、乳タンパク質、肉タンパク質、又は卵タンパク質)、植物性タンパク質(例えば、大豆タンパク質、コムギタンパク質、コメタンパク質、又はピーナッツタンパク質)、遊離アミノ酸の混合物、又はそれらの組み合わせが挙げられる。カゼイン、ホエイタンパク質等の乳タンパク質及びダイズタンパク質が特に好ましい。
【0075】
[0079]タンパク質は、無処置のもの、加水分解物、又は無処置のものと加水分解物との混合物であってよい。部分加水分解タンパク質(加水分解度2~20%)は、牛乳アレルギーを発症するリスクのあるヒト対象及び/又は動物にとって有利なものであり得る。更に、予め加水分解したタンパク質源は、概して、障害のある胃腸管により比較的容易に消化吸収される。
【0076】
[0080]加水分解タンパク質が使用される場合、要望通りの、当該技術分野で既知の加水分解プロセスが実施される。例えば、ホエイタンパク質加水分解物は、1工程以上でホエイ画分を酵素により加水分解することにより調製することもできる。出発材料として使用されるホエイ画分が実質的にラクトースフリーである場合、加水分解プロセス中にタンパク質が受けるリジンブロックを、大幅に減少させることができる。これにより、約15重量%の全リジンから、約10重量%未満のリジンにまで、リジンブロックの程度を低減することができ、例えば、約7重量%のリジンにより、タンパク質源の栄養価は大幅に改善される。
【0077】
[0081]組成物は、炭水化物及び/又は脂質源も含有し得る。組成物が脂質を含有する場合、かかる脂質は、好ましくは組成物のエネルギーのうち5%~40%をもたらし、例えば、エネルギーのうち20%~30%をもたらす。好適な脂質プロファイルは、ナタネ油、トウモロコシ油、及び高オレイン酸ヒマワリ油を使用して得ることもできる。
【0078】
[0082]炭水化物は、好ましくは組成物のエネルギーのうち40%~80%をもたらす。好適な炭水化物の非限定例としては、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ固形物、マルトデキストリン、及びこれらの混合物が挙げられる。更に又は代替的に、食物繊維を添加してもよい。食物繊維は、酵素によって消化されずに小腸を通過し、天然膨張性薬剤及び緩下剤として機能する。食物繊維は、可用性又は不溶性のものであってよく、概して2種類のブレンドが好ましい。好適な食物繊維の非限定例としては、大豆、ピーナッツ、オーツ麦、ペクチン、グアーガム、部分加水分解されたグアーガム、アラビアガム、フラクトオリゴ糖、酸性オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、シアリルラクトース、及び動物乳に由来するオリゴ糖が挙げられる。好ましい繊維ブレンドは、イヌリンと比較的短鎖フルクトオリゴ糖との混合物である。一実施形態において、繊維含量は組成物の2~40g/Lであり、例えば4~10g/Lである。
【0079】
[0083]組成物は、USRDAなどの政府機関の推奨に準拠して微量元素及びビタミンなどのミネラル及び/又は微量栄養素を含み得る。例えば、組成物は、1日用量当たり、好ましくは所定の範囲で以下の微量栄養素、すなわち、300~500mgのカルシウム、50~100mgのマグネシウム、150~250mgのリン、5~20mgの鉄、1~7mgの亜鉛、0.1~0.3mgの銅、50~200μgのヨウ素、5~15μgのセレン、1000~3000μgのβ-カロテン、10~80mgのビタミンC、1~2mgのビタミンB1、0.5~1.5mgのビタミンB6、0.5~2mgのビタミンB2、5~18mgのナイアシン、0.5~2.0μgのビタミンB12、100~800μgの葉酸、30~70μgのビオチン、1~5μgのビタミンD、及び/又は3~10μgのビタミンEのうちの1種以上を含み得る。
【0080】
[0084]モノ及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、レシチン、並びに/又はモノ及びジグリセリドなどといった、1種以上の、食品等級の乳化剤を組成物中に組み込むことができる。好適な塩類及び安定化剤を含めることができる。
【0081】
[0085]一実施形態において、組成物は、追加の、食品等級の微生物を含む(すなわち、B.ロンガムATCC BAA-999に追加する)。「食品等級」の微生物は、食品への使用が安全な微生物である。食品等級の微生物は、食品等級の酵母を含み得る。食品等級の細菌は、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌、及びこれらの混合物からなる群から選択され得る。好適な食品等級の酵母の非限定例としては、サッカロミセスセレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)及び/又はサッカロミセス・ブラウディ(Saccharomycesboulardii)が挙げられる。
【0082】
[0086]食品等級の細菌は追加のプロバイオティクス菌を含み得るものの、いくつかの実施形態ではB.ロンガムATCC BAA-999が組成物中の唯一のプロバイオティクス菌である。「プロバイオティクス」は、ホストの健康又は幸福(well-being)に有益に働く微生物細胞の調製物又は微生物細胞の成分を意味する。(Salminen S.,Ouwehand A.,Benno Y.et al”Probiotics:how should they be defined”Trends Food Sci.Technol.1999:10 107-10)。
【0083】
[0087]プロバイオティクス細菌は、好ましくは、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌、及びこれらの混合物からなる群から選択される。プロバイオティクス菌は、確立されたプロバイオティクス特性を有する任意の乳酸菌又はビフィズス菌であってよい。例えば、プロバイオティクス菌は、ビフィズス菌増殖促進製腸管微生物叢の発達を促進することができる。
【0084】
[0088]好適なプロバイオティクス菌の非限定例としては、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、サッカロミセス(Saccharomyces)、及びこれらの混合物が挙げられ、特にビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(Bifidobacteriumlactis)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillusacidophilus)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillusparacasei)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillussalivarius)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、サッカロミセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、及びラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillusreuteri)、及びこれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、ラクトバチルス・ジョンソンニ(Lactobacillusjohnsonii)(NCC533、CNCM1-1225)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(NCC490、CNCM1-2170)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(NCC2705、CNCM1-2618)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(2818、CNCM1-3446)、ラクトバチルス・パラカゼイ(NCC2461、CNCM1-2116)、ラクトバチルス・ラムノサスGG(ATCC53103)、ラクトバチルス・ラムノサス(NCC4007、CNCMCC1.3724)、エンテロコッカス・フェシウムSF68(NCIMB10415)、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0085】
[0089]好ましい実施形態では、組成物は、少なくとも1種のプレバイオティクスを含む。「プレバイオティクス」は、腸内のプロバイオティクス細菌の成長を促進させることを目的とした食物である。プレバイオティクスは、腸管内で、ある種の食品等級の細菌の増殖、特にプロバイオティクス菌の増殖を促進することができ、ひいてはB.ロンガムATCC BAA-999及び任意の追加のプロバイオティクス菌の効果を増強することができる。好ましいプレバイオティクスは、オリゴ糖、及び任意選択的にフルクトース、ガラクトース、マンノース、大豆及び/又はイヌリン、食物繊維、又はこれらの混合物からなる群から選択される。
【0086】
[0090]B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部は生菌であってよい。追加的に又は代替的に、B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部は不活化された非増殖性の細菌であってよい。
【0087】
[0091]「非増殖性」は、古典的な平板培養法によって検出され得る生菌及び/又はコロニー形成単位が存在しないことを意味する。このような古典的な平板法は、微生物学の書籍、James Monroe Jay,Martin J.Loessner,David A.Golden.2005.Modern food microbiology.7th edition,Springer Science,New York,N.Y.790pに要約されている。典型的には、生細胞が存在しないことは、以下の、異なる濃度の細菌調製物(「非増殖性」試料)を接種し、適切な条件下で(好気的及び/又は嫌気的雰囲気で少なくとも24時間)インキュベーションした後に、寒天プレート上に目に見えるコロニーがないこと、又は液体増殖培地に濁りがないこと、として示すことができる。特別な無菌の食品製品又は医薬品などのいくつかの実施形態では、非増殖性の形態のB.ロンガムATCC BAA-999が好ましい場合がある。例えば、組成物において、B.ロンガムATCC BAA-999のうち少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%が非増殖性であってよい。
【0088】
[0092]一実施形態において、B.ロンガムATCC BAA-999のうち少なくとも一部は組成物中で生きており、好ましくは生きたまま腸内にたどり着く。例えば、組成物において、B.ロンガムATCC BAA-999のうち少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%が生菌であってよい。結果として、B.ロンガムATCC BAA-999の生菌は腸内にとどまり、増殖することにより有効性を増強し得る。B.ロンガムATCC BAA-999の生菌は、共生細菌及び/又は宿主と相互作用することによってもまた有効なものになり得る。
【0089】
[0093]治療用途において、組成物を、状態及び合併症の症状のうち少なくとも一部を治癒する、又は進行を阻む(arrest)するのに十分な量で投与する。この目的を達成するのに適した量を、「治療有効用量」として定義する。この目的のための有効量は、状態の重症度並びに患者の体重及び全身状態など、当業者に公知のいくつもの要因によって異なり得る。
【0090】
[0094]予防用途において、組成物を、特定の状態の疑いのある、又はかかるリスクのある患者に対し、かかる状態の発症リスクを少なくとも一部低減するのに十分な量で投与することができる。かかる量が「予防有効用量」である。ここでも、正確な量は、患者の健康状態及び体重などの患者に固有のいくつもの要因によって異なる。
【0091】
[0095]組成物を、好ましくは、治療有効用量及び/又は予防有効用量のB.ロンガムATCC BAA-999を提供する量で、投与する。B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部が生菌形態で存在する場合、B.ロンガムATCC BAA-999は腸内でコロニーを形成し、増殖することができることから、B.ロンガムATCC BAA-999は任意の濃度で治療に有効である。
【0092】
[0096]それでもなお、組成物の1日用量としては、好ましくは10~1012cfu(コロニー形成単位)、より好ましくは10~1011cfu、最も好ましくは10~1010cfuのB.ロンガムATCC BAA-999を準備する。組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり10~1010cfu、好ましくは10~10cfu、より好ましくは10~10cfuのB.ロンガムATCC BAA-999を含み得る。
【0093】
[0097]不活性化された、及び/又は非増殖性のB.ロンガムATCC BAA-999の場合、組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり10~1010、好ましくは組成物の乾燥重量1g当たり10~10、より好ましくは組成物の乾燥重量1g当たり10~10の非増殖性の、B.ロンガムATCC BAA-999細菌を含んでよい。
【0094】
[0098]非増殖性の微生物はコロニーを形成せず、そのため、用語「細菌細胞(cells)」は、特定量の増殖制生菌細胞から得られた、ある量の非増殖性微生物を指す。この量は、不活性化された菌、非生菌若しくは死菌である、又はDNA若しくは細胞壁材料などの断片として存在する微生物を含む。
【0095】
[0099]組成物は、0.2未満、好ましくは0.15未満の水分活性を有する粉末であり得る。組成物は、常温保存可能な粉末であり得る。低水分活性により、常温保存安定性を得ることができ、並びにB.ロンガムATCC BAA-999及び任意の追加のプロバイオティクス微生物について、長期保管期間後であっても活性を確実に維持し得る。水分活性(a)は、系に含まれる水のエネルギー状態の測定値であり、水蒸気圧を同一温度下での純粋の水蒸気圧により除したものとして定義される。したがって、純粋な蒸留水の有する水分活性はちょうど1である。
【0096】
[0100]追加的に又は代替的に、B.ロンガムATCC BAA-999及び任意の追加のプロバイオティクス微生物は、カプセル化された形態で提供され得る。細菌のカプセル化は、治療上及び技術上の利点を有し得る。例えば、カプセル化は、細菌の生存率を上昇させ、ひいては腸内にたどり着く生菌数を増加させることができる。更に、細菌を徐々に放出させることにより、対象の健康に対する細菌の作用を持続的なものとすることが可能となる。例えば、細菌は、凍結又は噴霧乾燥されてゲル中に組み込まれたものであってよい。
【0097】
[0101]本開示の別の態様は、抑うつ症状を治療又は予防するための、食用組成物の製造方法である。方法は、タンパク質、脂質、又は炭水化物のうちの少なくとも1つを含む食品製品に、治療有効量又は予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を組み込むこと、を含み得る。食品製品は栄養学的に完全なものであってよい。
【実施例0098】
[0103]以下の非限定例は、B.ロンガムATCC BAA-999が抑うつ症状を改善することを示す、ランダム化、二重盲検プラセボ対照試験である。
【0099】
[0104]序 特定のプロバイオティクス菌は、腸のIBS症状を改善し得るものの、この集団における併発不安又は抑うつ症状の治療に対する、かかる菌の有効性は不明である。B.ロンガムATCC BAA-999により、軽度腸炎のマウスモデルにおいて、不安様の挙動及び海馬のニューロトロフィンレベルが正常化することが、これまでに示された。本発明者らは、マウスの抑うつモデルにおける未公開のデータも有しており、マウスにおいても睡眠パターンの改善が示されている。
【0100】
[0105]目的及び方法 IBS患者における不安及び抑うつ症状に対するB.ロンガムATCC BAA-999の効果を評価するため、並びに機序を試験するため、本発明者らは、軽度~中等度の不安及び/又は抑うつ症状を有する下痢型又は混合型(Rome III分類)の成人IBS患者においてランダム化、二重盲検、プラセボ対照の、単施設試験(single center study)を実施した。B.ロンガム群ではHAD-Dスコアが高かったことを除き(p=0.046)、2群間でデモグラフィック及びベースライン(準備期間)データにおける差はなかった。
【0101】
[0106]B.ロンガムATCC BAA-999(1日当たり1.0E+10CFU)又はプラセボ(マルトデキストリン)を6週間にわたり毎日投与した。投与前、投与後、及び治療から1ヶ月後(追跡期間)の不安及び抑うつ症状(HADスコア(病院不安及びうつ尺度)及びSTAI(状態-特性不安尺度))、IBS症状(適切な緩和についての問診表(adequate relief question)、IBSについてのバーミンガム大学及びブリストル大学の尺度)、クオリティ・オブ・ライフ(SF-36)並びに身体化(PHQ-15)の評価には、認証済みの問診表を使用した。この試験デザインを図1に示す。
【0102】
[0107]本発明者らは、背景を隠した恐怖パラダイム(fMRI)、認知機能(記憶力及び集中力)、血清BDNF及び炎症マーカー、及び腸微生物叢プロファイル(16S rRNA Illumina)を用い、脳の活動パターンを評価した。fMRIパラダイムでは、淡々とした表情に隠された情動刺激(恐怖の表情及び幸福そうな表情)の表出に応じた血中酸素濃度依存(BOLD)活性化を利用し、スキャナで4つの連続的fMRIスキャン取得により測定した。先験的関心領域には扁桃体を選択した。この解析を全ての患者に対し実施した。
【0103】
[0108]結果 本発明者らは44名の患者を、ランダム化し、うち38名(B.ロンガムATCC BAA-999=18名、プラセボ=20名)で試験を完遂した。結果を図2図6に示す。B.ロンガムATCC BAA-999で治療した患者群では、6週の時点でプラセボ群と比較して抑うつスコアが改善されており(RR 2.94、95% CI 1.05-8.23、p=0.01)、この有益な効果は追跡期間で維持された。B.ロンガムATCC BAA-999で治療した患者では、プラセボで治療した患者よりも総合的なIBS症状全般が十分に改善されている報告が多かったが(RR2.1、95% CI 1.15-3.83、p=0.02)、バーミンガム大学によるIBSスコアでは統計的に有意な変化は見られなかった。B.ロンガムATCC BAA-999による治療群では、プラセボ群と比較して、活力及び情動的役割機能(role functioning)の精神的サブドメインにおける改善傾向を有するとともに、クオリティ・オブ・ライフに関係する身体サブドメイン(physical subdomain)が改善されていた(p=0.03、マンホイットニーのU検定=228.5)。
【0104】
[0109]B.ロンガムATCC BAA-999の有益な効果は抑うつ症状に対しては治療後1ヶ月維持された一方、IBS症状及びクオリティ・オブ・ライフは準備期間に戻った。
【0105】
[0110]具体的には、図2は、B.ロンガムATCC BAA-999による治療により、治療企図分析(ITT)及び治験実施計画書に適合した対象分析(PP)のいずれにおいても抑うつスコアが改善したことを示す。B.ロンガムATCC BAA-999の有益な効果は、治療から1ヶ月間の時点でも持続していた(術後ITT分析及びPP分析)。
【0106】
[0111]図3は、連続変数(continuousvariable)としての抑うつの改善がB.ロンガムATCC BAA-999群では達成された(ANCOVA、p=0.049)ことを、ベースラインについて補正して示す。この有益な効果は治療後1ヶ月の時点では維持されていなかった。連続変数として分析した場合、B.ロンガムATCC BAA-999による治療では、不安スコアが改善されなかった。
【0107】
[0112]図4及び図5は、B.ロンガムATCC BAA-999群で、プラセボ群と比較して、SF-36の身体的グローバルドメイン(physical global domain)、並びに全般的な身体の健康(身体機能)及び作業若しくはその他の日常活動についての課題(身体的役割)において、統計的に有意な改善があったことを示す。SF-36メンタルグローバルドメインでは、治療群間で有意ではない差が観察された。しかしながら、精神的サブドメインを分析した場合、B.ロンガムATCC BAA-999治療群では、活力及び情動的役割において統計的に有意ではない改善傾向が観察された。
【0108】
[0113]図6は、機能MRIにより、脳の扁桃体、前頭領域及び側頭領域(p<0.001)を含む、情動の処理(processing)に関与する複数の脳領域において、B.ロンガムATCC BAA-999で治療した患者では、プラセボで治療した患者と比較して、否定的な情動刺激への応答が、ベースラインから有意に低下したことが明らかになったことを示す。具体的には、治療前には、プラセボ群及びB.ロンガム群間では、B.ロンガム群において視覚連合野及び頭頂皮質(parietal cortices)がより機能していたことを除き、恐怖刺激と強迫観念とを比較して応答に大きな違いはなかった。しかしながら治療の終了時には、プラセボ群においては、扁桃体、前頭皮質及び側頭皮質の機能が増しており、後頭部の機能は低減していた。
【0109】
[0114]不安、認知機能、炎症マーカー、血中BDNFレベル、又は腸内微生物叢に関しては、B.ロンガムATCC BAA-999により治療した患者群とプラセボ群とを比較して統計学的に有意な差は観察されなかった。
【0110】
[0115]結論 試験結果から、B.ロンガムATCC BAA-999による6週間の治療により、IBS患者における併存抑うつ症状、全般的な胃腸症状、及びクオリティ・オブ・ライフは改善されることが、示される。この効果は、扁桃体及び前頭-辺縁系領域における脳活動パターンの変化と関連付けられ、辺縁系の反応性の低下は、B.ロンガムATCC BAA-999の有益な効果によるものであり得ることが、示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】