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▶ エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160462
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】抗HLA-G抗体とその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20221012BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221012BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221012BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022113646
(22)【出願日】2022-07-15
(62)【分割の表示】P 2019526599の分割
【原出願日】2017-11-16
(31)【優先権主張番号】16199620.2
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
(71)【出願人】
【識別番号】306021192
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー, イェンス
(72)【発明者】
【氏名】マジェティ, メヘル
(72)【発明者】
【氏名】デングル, シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ティーフェンタラー, ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】クロスターマン, シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】キルステンプファート, クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】ケーニヒスベルガー, エステル
(72)【発明者】
【氏名】ロス, フランチェスカ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抗ヒト白血球抗原G(HLA-G)抗体およびその使用方法を提供する。
【解決手段】ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体であって、特定のアミノ酸配列を含むヒトHLA-Gβ2MMHCI複合体に結合する抗体、該抗体をコードする、単離された核酸、該核酸を含む宿主細胞、および抗体と薬学的に許容される担体とを含む薬学的製剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体であって、配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC I複合体に結合する抗体。
【請求項2】
単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を阻害する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、50%を超えて阻害する、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、50%を超えて阻害する、請求項2に記載の抗体。
【請求項5】
JEG3細胞に対するILT2の結合を阻害する、請求項1から4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体であって、JEG3細胞に結合し、且つJEG3細胞に対するILT2の結合を、抗体なしでの結合と比較したとき50%を超えて阻害する抗体。
【請求項7】
配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応しない、請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない及び/又は配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない、請求項1から7のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体と交差反応しない、請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であって、
A)(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3;又は
B)(a)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む抗体。
【請求項11】
ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であって、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1,(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号3から選択されたアミノ酸配列を含むHVR-H3を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むVLドメイン;又は
B)(a)(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1,(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号11から選択されるアミノ酸配列を含むHVR-H3を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むVLドメイン
を含む抗体。
【請求項12】
ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であって,
A)
i)配列番号7のVH配列及び配列番号8のVL配列;又は
ii)i)の抗体のVH及びVLのヒト化変異体
或いは
B)
i)配列番号15のVH配列及び配列番号16のVL配列;又は
ii)i)の抗体のVH及びVLのヒト化変異体
を含む抗体。
【請求項13】
ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であって,
a)配列番号7のVH配列及び配列番号8のVL配列を含む抗体と同じエピトープに結合する;又は
b)配列番号15のVH配列及び配列番号16のVL配列を含む抗体と同じエピトープに結合する
抗体。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか一項に記載の抗HLA-G抗体であって、
以下の特性:
a)配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応しない;及び/又は
b)配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体と交差反応しない;及び/又は
c)配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない;及び/又は
d)配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない;及び/又は
e)単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を阻害する;及び/又は
f)単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、50%を超えて阻害する;及び/又は
g)単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、50%を超えて阻害する;及び/又は
h)JEG3細胞に対するILT2の結合を阻害する;及び/又は
i)JEG3細胞に結合し、且つJEG3細胞に対するILT2の結合を阻害する;及び/又は
j)ヒトHLA-G β2M MHC I複合体に結合し、且つ単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を60%を超えて阻害し、二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT4の結合を50%を超えて阻害する
ことにより独立に特徴付けられる抗体。
【請求項15】
IgG1アイソタイプのものである、請求項1から14のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項16】
変異L234A、L235A及びP329G(KabatのEUインデックスによる番号付け)を含むIgG1アイソタイプのものである、請求項15に記載の抗体。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体をコードする、単離された核酸。
【請求項18】
請求項17に記載の核酸を含む宿主細胞。
【請求項19】
抗体が生成されるように請求項18に記載の宿主細胞を培養することを含む、抗体生成方法。
【請求項20】
宿主細胞から抗体を回収することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体と、薬学的に許容される担体とを含む薬学的製剤。
【請求項22】
医薬としての使用のための、請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項23】
がんの治療における使用のための、請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項24】
医薬の製造における、請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体の使用。
【請求項25】
医薬ががんの治療のためのものである、請求項23に記載の使用。
【請求項26】
がんを有する個体を治療する方法であって、個体に対し、請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体の有効量を投与することを含む方法。
【請求項27】
抗HLAG抗体(例えば請求項1から4のいずれか一項に記載)を選択するための方法であって:
a)表面プラズモン共鳴アッセイにより、配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC I複合体に対する抗HLAG抗体の結合を決定する工程;
b)それぞれの抗HLAG抗体による、単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合の阻害を決定する工程;並びに
c)単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、抗体なしでの結合と比較したとき50%を超えて阻害する抗HLAG抗体を選択する工程、又は単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、抗体なしでの結合と比較したとき50%を超えて阻害する抗HLAG抗体を選択する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗HLA-G抗体とその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト白血球抗原G(HLA-G)としても知られるヒト主要組織適合複合体、クラスI、6は、ヒトにおいてHLA-G遺伝子によってコードされるタンパク質である。HLA-Gは、HLAの非古典的なクラスI重鎖パラログに属する。このクラスI分子は、重鎖及び軽鎖からなるヘテロ二量体(ベータ-2ミクログロブリン)である。重鎖は、膜内に固定されるが、流出/分泌されることがある。
・重鎖は三つのドメイン、即ちアルファ1、アルファ2及びアルファ3からなる。アルファ1及びアルファ2ドメインは、二つのアルファヘリックスが隣接するペプチド結合溝を形成する。小さなペプチド(概ね9-mers)は、他のMHC Iタンパク質と同様にこの溝に結合することができる。
・第2の鎖は、他のMHC Iタンパク質と同様に重鎖に結合するベータ2ミクログロブリンである。
【0003】
HLA-Gの場合、7つのアイソフォームが存在し、そのうちの3つは分泌形態であり、4つは膜結合形態である(図1に模式的に示す)。
【0004】
HLA-Gは、機能的に活性の複合オリゴマー構造を形成することができる(Kuroki, K et al. Eur J Immunol. 37(2007)1727-1729)。ジスルフィド結合した二量体は、二つのHLA-G分子のCys42間に形成される。(Shiroishi M et al., J Biol Chem 281(2006)10439-10447.三量体及び四量体複合体は、例えばKuroki, K et al. Eur J Immunol. 37(2007)1727-1729, Allan D.S., et al. J Immunol Methods. 268(2002)43-50及びT Gonen-Gross et al., J Immunol 171(2003)1343-1351にも記載されている。)
【0005】
HLA-Gは、胎盤の栄養膜細胞層に優勢に発現される。複数の腫瘍(膵臓、乳房、皮膚、結腸直腸、胃、及び卵巣を含む)は、HLA-Gを発現する(Lin, A. et al., Mol Med. 21(2015)782-791; Amiot, L., et al., Cell Mol Life Sci. 68(2011)417-431)。この発現はまた、炎症性疾患、GvHD及びがんのような病的状態に関連付けられることが報告されている。HLA-Gの発現は、がんの予後不良に関連付けられることが報告されている。腫瘍細胞は、HLA-G発現を介して免疫寛容/抑制を誘導することにより、宿主の免疫監視を逃れる。
【0006】
HLA-Gは、他のMHC I分子と高い相同性(>98%)を共有しており、したがって他のMHC I分子に対する交差活性を有さない真のHLA-G特異性抗体は生成し難い。
【0007】
様々な方法でHLA-Gと相互作用する特定の抗体は、以前にも記載がある:Tissue Antigens, 55(2000)510-518は、モノクローナル抗体、例えば87G、及びMEM-G/9に関し;Neoplasma 50(2003)331-338は、無傷のHLA-Gオリゴマ複合体(例えば87G及びMEM-G9)、及びHLA-Gを有さない重鎖(例えば4H84、MEM-G/1及びMEM-G/2)の両方を認識する特定のモノクローナル抗体に関し;Hum Immunol. 64(2003)315-326は、HLA-G発現JEG3腫瘍細胞上で試験される複数の抗体(例えば天然HLA-G1分子のみと反応するMEM-G/09及び-G/13)に関する。MEM-G/01は、(4H84 mAbと同様に)すべてのアイソフォームの変性されたHLA-G重鎖を認識し、MEM-G/04は、選択的に変性されたHLA-G1、-G2、及び-G5アイソフォームを認識する;Wiendl et al Brain 2003 176-85は、様々なモノクローナルHLA-G抗体、例えば87G、4H84、MEM-G/9に関する。
【0008】
上記文献は、ヒトHLA-G又はヒトHLA-G/β2M MHC複合体に結合する抗体を報告している。しかしながら、HLAファミリーの高い多型性及び高い相同性に起因して、多くの抗体は、いずれかの真に特異性のHLA-G結合特性を欠き、さらには往々にして他のHLAファミリーメンバー(β2MとのMHC複合体として、又はそのβ2Mを有さない形態として)と結合又は交差反応するか、又は単純にHLA-G β2M MH複合体のその受容体ILT2及び/又はILT4への結合を阻害しない(そして非アンタゴニスト抗体とみなされる)。よって、さらに改善された、受容体遮断特性を有する真にHLA-G特異性の抗体を生成及び/又は選択する必要がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、多数の候補の中からHLA-G特異性の抗体を同定する(他のMHCクラスI複合分子に対する交差反応性を避けると同時にHLA-G受容体(例えばILT2)遮断抗体を選択する)ための、個別に最適化されたキメラ抗原及び/又はストリンジェントなスクリーニングアッセイを提供する。
【0010】
本発明は、
・配列番号25を含む単量体の野生型ヒトHLA-G β2M MHC I複合体;及び
・配列番号26を含む単量体の修飾HLA-G β2M MHC I複合体(HLA-G特異性のアミノ酸がすべてのHLA-AのHLAコンセンサスアミノ酸によって置き換えられている);及び
・ILT2
・ILT4
のキットを提供し、これは、他のHLA-Aファミリータンパク質との交差反応性を示さず、その受容体であるILT2及び/又はILT4の一つに対するHLA-Gの結合を阻害するヒトHLA-G β2M MHC複合体特異性の抗体をスクリーニングするためのキットである。
【0011】
本発明は、ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体を提供し、この場合抗体はヒトHLA-Gに特異的に結合し、抗体は配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC I複合体に結合する。
【0012】
好ましい一実施態様では、抗HLA-G抗体は、単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を阻害する。
【0013】
別の好ましい実施態様では、抗HLA-G抗体は、単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を(抗体なしでの結合と比較したとき)50%を超えて阻害する。
【0014】
一実施態様では、抗HLA-G抗体は、単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を(抗体なしでの結合と比較したとき)70%を超えて阻害する。
【0015】
別の好ましい実施態様では、本発明の抗HLA-G抗体は、JEG3細胞上のヒトHLA-Gに結合し、JEG3細胞上のHLA-Gに対するILT2の結合を(抗体なしでの結合と比較したとき)(50%を超えて)阻害する。
【0016】
一実施態様では、抗HLA-G抗体は、配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)。
【0017】
一実施態様では、抗HLA-G抗体は、配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)及び/又は配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)。
【0018】
一実施態様では、抗HLA-G抗体は、配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)。
【0019】
本発明の一実施態様は、ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であり、
A)(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3;又は
B)(a)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む。
【0020】
本発明の一実施態様は、ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であり、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1,(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号3から選択されるアミノ酸配列を含むHVR-H3を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むVLドメイン;又は
B)(a)(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1,(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号11から選択されるアミノ酸配列を含むHVR-H3を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むVLドメイン
を含む。
【0021】
本発明の一実施態様は、ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であり、
A)
i)配列番号7のVH配列及び配列番号8のVL配列;又は
ii)i)の抗体のVH及びVLのヒト化変異体
を含む;或いは
B)
i)配列番号15のVH配列及び配列番号16のVL配列;又は
ii)i)の抗体のVH及びVLのヒト化変異体
を含む。
【0022】
一実施態様では、抗HLA-G抗体は、IgG1アイソタイプである。
【0023】
一実施態様では、抗HLA-G抗体は、変異L234A、L235A及びP329G(KabatのEUインデックスによる番号付け)を含むIgG1アイソタイプである。
【0024】
一実施態様では、本発明による抗HLA-G抗体はモノクローナル抗体である。
【0025】
一実施態様では、本発明による抗HLA-G抗体は、ヒト、ヒト化、又はキメラ抗体である。
【0026】
一実施態様では、本発明による抗HLA-G抗体は、HLA-Gに結合する抗体断片である。
【0027】
一実施態様では、本発明による抗HLA-G抗体はFab断片である。
【0028】
本発明は、上述のいずれかに記載の抗体をコードする単離された核酸を提供する。
【0029】
本発明は、前記核酸を含む宿主細胞を提供する。
【0030】
本発明は、抗体が生成されるように宿主細胞を培養することを含む抗体生成方法を提供する。
【0031】
本発明は、宿主細胞から抗体を回収することをさらに含む、前記抗体生成方法を提供する。
【0032】
本発明は、本明細書に記載される抗体と薬学的に許容される担体とを含む薬学的製剤を提供する。
【0033】
本発明は、医薬としての使用のための本明細書に記載される抗体を提供する。
【0034】
本発明は、がんの治療における使用のための、本明細書に記載される抗体を提供する。
【0035】
本発明は、医薬の製造における、本明細書に記載される抗体の使用を提供する。一実施態様では、医薬はがんの治療を目的とする。
【0036】
本発明は、がんを有する個体に対して本明細書に記載される抗体の有効量を投与することを含む、前記個体の治療方法を提供する。
【0037】
本発明によるスクリーニング方法により、新規の抗HLA-G抗体が選択される。このような抗体は、JEG3細胞上に発現されるHLA-Gに対するILT2の結合の強い阻害、又は単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合の阻害のような、高度に有用な特性を示す。さらに、本発明による抗体は、抑制された免疫応答を回復することができる(即ちHLA-G発現細胞との共培養における単球によるLPS誘導性TNFa生成の回復)。加えて、本抗体は、高度に特異性であり、マウス又はラット起源のHLA-A MHC I複合体又はMHC I複合体との交差反応性を示さない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】HLA-Gの様々なアイソフォームを示している。
図2A】β2Mと会合した分子を有するHLA-Gの模式図である。
図2B】特定の受容体と会合したHLA-G分子の構造:ILT4及びKIR2DL1といった所与の受容体と複合体を形成しているHLA-G構造である。ILT4構造(PDBコード:2DYP)。KIR2DL1構造は、PDBコード1IM9(KIR2DL1:HLA-Cw4複合体構造)から取得され、HLA-Cw4とHLA-G構造とを重ね合わせることによりHLA-Gの上に配置された。受容体は、リボンで表されており、HLA-Gは分子表面で表されている。他のHLAパラログに特有の又はそのようなパラログに保存されているHLA-G残基は、それぞれ白及びグレーで示されている。特有の表面残基が、キメラカウンター抗原中のHLAコンセンサス配列よって置き換えられた。
図3A】HLA-G抗体(HLA-G-0032及びHLA-G-0033)の、組み換えHLA-G(配列番号25)及びコントロール修飾ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体(HLA-G特異性のアミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられている(=HLA-Gデグラフト、配列番号26))に対する結合のSPRセンサーグラムである。
図3B】HLA-G抗体(HLA-G-0036及びHLA-G-0037)の、組み換えHLA-G(配列番号25)及びコントロール修飾ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体(HLA-G特異性のアミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられている(=HLA-Gデグラフト、配列番号26))に対する結合のSPRセンサーグラムである。
図4A】HLA-GとILT2との相互作用/結合を阻害する(又は刺激する)HLA-G抗体である。
図4B】HLA-GとILT4との相互作用/結合を阻害する(又は刺激する)HLA-G抗体である。
図5A】JEG3(HLA-Gを天然に発現する細胞)、SKOV-3細胞(野生型(wt)対HLAGをトランスフェクトされた細胞(HLAG+))、及びPA-TU-8902細胞(野生型(wt)対HLAGをトランスフェクトされた細胞(HLAG+))にHLA-G抗体を用いたHLA-G(HLA-G-0032(#0032))の細胞表面発現のフローサイトメトリー分析を示している。
図5B】JEG3(HLA-Gを天然に発現する細胞)、SKOV-3細胞(野生型(wt)対HLAGをトランスフェクトされた細胞(HLAG+))、及びPA-TU-8902細胞(野生型(wt)対HLAGをトランスフェクトされた細胞(HLAG+))にHLA-G抗体を用いたHLA-G(HLA-G-0033(#0033))の細胞表面発現のフローサイトメトリー分析を示している。
図5C】JEG3(HLA-Gを天然に発現する細胞)、SKOV-3細胞(野生型(wt)対HLAGをトランスフェクトされた細胞(HLAG+))、及びPA-TU-8902細胞(野生型(wt)対HLAGをトランスフェクトされた細胞(HLAG+))にHLA-G抗体を用いたHLA-G(HLA-G-0036(#0036))の細胞表面発現のフローサイトメトリー分析を示している。
図5D】JEG3(HLA-Gを天然に発現する細胞)、SKOV-3細胞(野生型(wt)対HLAGをトランスフェクトされた細胞(HLAG+))、及びPA-TU-8902細胞(野生型(wt)対HLAGをトランスフェクトされた細胞(HLAG+))にHLA-G抗体を用いたHLA-G(HLA-G-0037(#0037))の細胞表面発現のフローサイトメトリー分析を示している。
図6A】抗HLA-G抗体は、JEG3細胞上に発現されるHLA-GとヒトILT2 Fcキメラとの相互作用をブロック/調節する。新規抗HLA-G抗体による細胞表面HLA-Gの染色を、Alexa488(a)にコンジュゲートした抗ラットIgG二次抗体を用いることにより評価した。FACSヒストグラムに示されているのは、二次抗体のみで染色された細胞(グレーの点線)及び抗HLA-G抗体で染色された細胞(黒の実線)である。下の列(b)には、JEG3細胞上のHLA-Gに結合したヒトILT2-Fc(黒の点線)と二次抗体のみで染色した細胞(グレーの点線)との比較が示されている。HLA-G抗体でJEG3細胞をプレインキュベートすることがILT2 Fcキメラ結合に与えた影響を見ることができる(黒の実線):HLA-G-0032及びHLA-G-0037は、JEG3細胞に対するILT2-Fcキメラの結合のほぼ完全な阻害を示している。
図6B】JEG3細胞上のHLA-GへのILT2 Fcキメラの結合に対する市販/標準の抗HLA-G抗体の影響が示されている:市販/標準の抗HLA-G抗体による細胞表面HLA-Gの染色を、Alexa488(a)にコンジュゲートした種特異性の二次抗体を用いることにより評価した。FACSヒストグラムに示されているのは、二次抗体のみで染色された細胞(グレーの点線)及び抗HLA-G抗体で染色された細胞(黒の実線)である。下の列(b)には、JEG3細胞上のHLA-Gに結合したヒトILT2-Fcキメラ(黒の点線)と二次抗体のみで染色した細胞(グレーの点線)との比較が示されている。標準の抗体でJEG3細胞をプレインキュベートすることがILT2 Fcキメラ結合に与えた影響を見ることができる(黒の実線):試験した参照抗体のうち、JEG3細胞上の細胞表面HLA-GとILT2 Fcキメラとの相互作用をブロックできたものはなかった。
図7A】TNFα生成ドナー#1の回復に対する阻害性抗HLA-G抗体によるHLA-Gのブロックの影響を示している。
図7B】TNFα生成ドナー#2の回復に対する阻害性抗HLA-G抗体によるHLA-Gのブロックの影響を示している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「HLA-G」、「ヒトHLA-G」は、ヒト白血球抗原G(HLA-G)としても知られるHLA-Gヒト主要組織適合複合体、クラスI、Gを指す(例示的配列番号17)。典型的には、HLA-Gは、β2ミクログロブリン(B2M又はβ2m)と共にMHCクラスI複合体を形成する。一実施態様では、HLA-Gは、HLA-Gとβ2ミクログロブリンのMHCクラスI複合体を指す。
【0040】
本明細書において使用される場合、「ヒトHLA-Gに結合する」、「ヒトHLA-Gに特異的に結合する」、「ヒトHLA-Gに対して結合する」抗体又は「抗HLA-G抗体」は、ヒトHLA-G抗原又はその細胞外ドメイン(ECD)に対し、5.0×10-8mol/l以下のK値、一実施態様では、1.0×10-9mol/l以下のK値、一実施態様では、5.0×10-8mol/lから1.0×10-13mol/lのK値の結合親和性で特異的に結合する抗体を指す。結合親和性は、例えばHLA-G細胞外ドメイン(例えばその天然に存在する3次元構造)を含むコンストラクトを用いる表面プラズモン共鳴法(BIAcore(登録商標)、GE-Healthcare Uppsala,Sweden)といった標準の結合アッセイにより決定される。一実施態様では、結合親和性は、配列番号25を含むMHCクラスI複合体を含む例示的可溶型HLA-Gを用いる標準の結合アッセイにより決定される。
【0041】
HLA-Gは、規則的なMHC Iの折り畳みを有し、二つの鎖からなる:鎖1は三つのドメイン、即ちアルファ1、アルファ2及びアルファ3からなる。アルファ1及びアルファ2ドメインは、二つのアルファヘリックスが隣接するペプチド結合溝を形成する。小さなペプチド(概ね9mers)は、他のMHCIタンパク質と同様にこの溝に結合することができる。鎖2は、種々の他のMHCIタンパク質と共有されるベータ2ミクログロブリンである。
【0042】
HLA-Gは、機能的に活性の複合オリゴマー構造を形成することができる(Kuroki, K et al. Eur J Immunol. 37(2007)1727-1729)。ジスルフィド結合二量体は、二つのHLA-G分子のCys42間に形成される。(Shiroishi M et al., J Biol Chem 281(2006)10439-10447.三量体及び四量体複合体は、例えばKuroki, K et al. Eur J Immunol. 37(2007)1727-1729, Allan D.S., et al. J Immunol Methods. 268(2002)43-50及びT Gonen-Gross et al., J Immunol 171(2003)1343-1351にも記載されている。)HLA-Gは、他のMHCクラスI分子の多くとは異なり、複数の遊離システイン残基を有する。Boyson et al., Proc Nat Acad Sci USA, 99: 16180(2002)は、HLA-G5の組み換え可溶形態が、分子間Cys42-Cys42ジスルフィド結合を有するジスルフィド結合した二量体を形成できることを報告した。加えて、HLA-G1の膜結合形態は、Jeg3細胞株の細胞表面上にジスルフィド結合した二量体を形成することもでき、これは、内因的にHLA-Gを発現する。HLA-G1及びHLA-G5のジスルフィド結合した二量体の形態は、トホブラスト細胞の細胞表面にも発見された(Apps, R., Tissue Antigens, 68:359(2006))。
【0043】
HLA-Gは、胎盤の栄養膜細胞層に優勢に発現される。複数の腫瘍(膵臓、乳房、皮膚、結腸直腸、胃、及び卵巣を含む)は、HLA-Gを発現する(Lin, A. et al., Mol Med. 21(2015)782-791; Amiot, L., et al., Cell Mol Life Sci. 68(2011)417-431)。この発現はまた、炎症性疾患、GvHD及びがんのような病的状態に関連付けられることが報告されている。HLA-Gの発現は、がんの予後不良に関連付けられることが報告されている。腫瘍細胞は、HLA-G発現を介して免疫寛容/抑制を誘導することにより、宿主の免疫監視を逃れる。
【0044】
HLA-Gの場合、7つのアイソフォームが存在し、そのうちの3つは分泌形態であり、4つは膜結合形態である(図1に模式的に示す)。HLA-Gの最も重要な機能的アイソフォームには、b2-ミクログロブリン結合HLA-G1及びHLA-G5が含まれる。しかしながら、これらアイソフォームの免疫寛容原性の免疫学的効果は異なっており、且つリガンドの形態(単量体、二量体)及びリガンド-受容体相互作用の親和性によって変化する。
【0045】
HLA-Gタンパク質は、標準の分子生物学の技術を用いて生成することができる。HLA-Gアイソフォームの核酸配列は当技術分野で既知である。例えばGENBANKアクセッション番号AY359818を参照されたい。
【0046】
HLA-G異性型は、ILT、特にILT2、ILT4、又はこれらの組み合わせによるシグナル伝達を促進する。
【0047】
ILT:ILTは、免疫細胞の活性化の調節に関与し、免疫細胞の機能を制御する活性化及び阻害性受容体のIg型を表す(Borges, L., et al., Curr Top Microbial Immunol, 244:123-136(1999))。ILTは、以下の三つのグループに分類される:(i)細胞質の免疫受容体チロシンベース阻害モチーフ(ITIM)を含み、阻害性シグナルを伝達する阻害性のもの(ILT2、ILT3、ILT4、ILT5、及びLIR8);(ii)膜貫通ドメインに短い細胞質尾部と荷電アミノ酸残基とを含み(ILT1、ILT7、ILT8、及びLIR6アルファ)、Fc受容体の結合共通ガンマ鎖の細胞質免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を通して活性化シグナルを送達する活性化型のもの;及び(iii)膜貫通ドメインを欠く可溶型分子ILT6。最近の研究の多くは、抗原提示細胞(APC)の表面上のILTの免疫調節性の役割を強調した。ILT2、ILT3、及びILT4受容体といった、最も特徴付けの済んだ免疫阻害性受容体は、骨髄及び形質細胞腫DCに優勢に発現される。ILT3及びILT4は、未成熟DCを、IL-10、ビタミンD3、又はサプレッサーCD8T細胞を含む既知の免疫抑制因子に曝露することにより上方制御される(Chang, C. C., et al., Nat Immunol, 3:237-243(2002))。DC上におけるILTの発現は、炎症刺激、サイトカイン、及び増殖因子によって厳密に制御され、DC活性化に続いて下方制御される(Ju, X. S., et al., Gene, 331:159-164(2004))。ILT2及びILT4受容体の発現は、ヒストンアセチル化によって高度に調節され、このことは、細胞の骨髄系統に限定的な、厳密に制御された遺伝子発現に寄与する(Nakajima, H., J Immunol, 171:6611-6620(2003))。
【0048】
阻害性受容体ILT2及びILT4の関与は、単球のサイトカイン及びケモカイン分泌特性を変更し、Fc受容体のシグナル伝達を阻害することができる(Colonna, M., et al. J Leukoc Biol, 66:375-381(1999))。DC上でのILT3の役割及び機能は、Suciu-Focaグループにより詳細に記載されている(Suciu-Foca, N., Int Immunopharmacol, 5:7-11(2005))。ILT3のリガンドは未知であるが、ILT4は、HLAクラスI分子(HLA-A、HLA-B、HLA-C、及びHLA-G)の第3のドメインに結合し、MHCクラスIの結合についてCD8と競合することが既知である(Shiroishi, M., Proc Natl Acad Sci USA, 100:8856-8861(2003))。複数の阻害性ILT受容体の優先的リガンドは、HLA-Gである。HLA-Gは、母胎胎児間免疫寛容性と、免疫認識及び破壊から腫瘍細胞が逃れる機序とに潜在的な役割を果たす(Hunt, J. S., et al., Faseb J, 19:681-693(2005))。HLA-G-ILT相互作用によるDC機能の調節がDCの生態学において重要な経路である可能性が極めて高い。ILT2及びILT4受容体を高度に発現するヒト単球由来のDCは、HLA-Gで処理し、同種異系のT細胞で刺激したとき、依然として安定な免疫寛容原性様表現型を維持し(CD80low、CD86low、HLA-DRlow)、T細胞アネルギーを誘導する能力を有することが決定された(Ristich, V., et al., Eur J Immunol, 35:1133-1142(2005))。さらに、ILT2及びILT4受容体を高度に発現するHLA-GとDCとの相互作用は、MHCクラスIIの提示経路に関与する複数の遺伝子の下方制御をもたらした。リソソームのチオール還元酵素である、プロフェッショナルなAPCにより豊富に発現されるIFN-ガンマ誘導型リソソームのチオール還元酵素(GILT)は、HLA-G-修飾DCにおいて大幅に減少した。選択抗原に対するin vivoでのT細胞応答が、標的遺伝子破壊後にGILTを欠く動物において減少したため、プライムされたCD4+ T細胞のレパートリーはGILTのDC発現により影響されうる(Marie, M., et al., Science, 294:1361-1365(2001))。DC上でのHLA-G/ILT相互作用は、細胞表面へのMHCクラスII分子の集合と輸送を妨害し、このことは、構造的に異常なMHCクラスII分子の提示又は発現の効率を低下させうる。HLA-Gが、ILT阻害性受容体を高度に発現するヒト単球由来のDC上での不変鎖(CD74)、HLA-DMA、及びHLA-DMB遺伝子の転写を著しく低減することが決定された(Ristich, V., et al; Eur J Immunol 35:1133-1142(2005))。
【0049】
KIR2DL4はHLA-Gを発現する細胞に結合するため、HLA-Gの別の受容体はKIR2DL4である(米国特許出願公開第2003232051号;Cantoni, C. et al. Eur J Immunol 28(1998)1980; Rajagopalan, S. and E. O. Long. [J Exp Med 191(2000)2027に正誤表]J Exp Med 189(1999)1093; Ponte, M. et al. PNAS USA 96(1999)5674)。KIR2DL4(2DL4とも呼ぶ)は、活性化受容体及び阻害性受容体の両方と構造的特徴を共有するKIRのファミリーメンバー(CD158dとも命名される)である(Selvakumar, A. et al. Tissue Antigens 48(1996)285)。2DL4は、阻害機能を示唆する細胞質ITIMと、活性化KIRに典型的な特徴である、膜貫通領域において正に荷電したアミノ酸とを有する。クローン性に分配された他のKIRとは異なり、2DL4はすべてのNK細胞によって転写される(Valiante, N. M. et al. Immunity 7(1997)739; Cantoni, C. et al. Eur J Immunol 28(1998)1980; Rajagopalan, S. and E. O. Long. [J Exp Med 191(2000)2027] J Exp Med 189(1999)1093に正誤表)。
【0050】
本明細書において使用されるとき、配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体;配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体、配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体、配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体「と交差反応しない」又は「に特異的に結合しない」抗HLA-G抗体は、これらカウンター抗原のいずれにも実質的に結合しない抗HLA-G抗体を指す。一実施態様では、配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体;配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体、配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体、及び/又は配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体「と交差反応しない」又は「に特異的に結合しない」抗HLA-G抗体は、5.0×10-6mol/l以上のK値の結合親和性での非特異性の結合しか示さない抗HLA-G抗体を指す(それ以上の結合親和性が検出不能となるまで)。結合親和性は、それぞれの抗原、即ち、配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体;配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体、配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体、及び/又は配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体に対して、表面プラズモン共鳴法(BIAcore(登録商標)、GE-Healthcare Uppsala,Sweden)といった標準の結合アッセイを用いて決定される。アッセイの設定並びに抗原の構築/調製は、実施例に記載する。
【0051】
本明細書における目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」は、下記に定義されるように、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークから得られる軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含有するフレームワークである。ヒト免疫グロブリンのフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「に由来する」アクセプターヒトフレームワークは、その同一のアミノ酸配列を含んでもよく、又はアミノ酸配列の変化を含んでもよい。いくつかの実施態様において、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下である。いくつかの実施態様において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンのフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。(適切である場合は生殖系列を規定する)
【0052】
用語「抗体」は最も広い意味で用いられ、様々な抗体構造を包含し、限定しないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び、所望の抗原結合活性を示す限り、抗体断片を含む。
【0053】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部分を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例には、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SHは、F(ab’);ダイアボディ;直鎖状抗体;単鎖抗体分子(例えばscFv);及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる。
【0054】
参照抗体として「同一のエピトープに結合する抗体」は、 競合アッセイにおいて50%以上、参照抗体のその抗原への結合をブロックする抗体を指し、逆に参照抗体は、競合アッセイにおいて50%以上、その抗体のその抗原への結合をブロックする。例示的な競合アッセイが、本明細書において提供される。
【0055】
用語「キメラ」抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が特定の起源又は種に由来し、重鎖及び/又は軽鎖の残りが異なる起源又は種に由来する抗体を指す。
【0056】
抗体の「クラス」は、その重鎖が保有する定常ドメイン又は定常領域の種類を指す。抗体には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IGA、及びIgAに分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0057】
本明細書で用いられる「細胞傷害性剤」という用語は、細胞の機能を阻害又は阻止し及び/又は細胞死又は破壊を生ずる物質を指す。細胞傷害性剤は、限定されるものではないが、放射性同位体(例えばAt211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212、及びLuの放射性同位体):化学療法剤又は薬物(例えばメトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤);増殖阻害剤;酵素及びその断片、例えば核酸分解酵素;抗生物質;小分子毒素などの毒素、又は細菌、真菌、植物若しくは動物由来の酵素活性毒素(それらの断片及び/又は変異体を含む)、及び以下に開示される種々の抗腫瘍剤又は抗癌剤を含む。
【0058】
薬剤、例えば、薬学的製剤の「有効量」は、所望の治療的又予防的結果を達成するために必要な用量及び期間での有効な量を指す。
【0059】
本明細書では、用語「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域と変異体Fc領域を含む。一実施態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226又はPro230から重鎖のカルボキシル末端まで延びる。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、又はC末端グリシン(Gly446)とC末端リジン(Lys447)は、存在してもしなくてもよい。特に断らない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991), NIH Publication 91-3242に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。
【0060】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に四つのFRのドメイン、即ちFR1、FR2、FR3、及びFR4で構成される。したがって、HVR及びFR配列は一般にVH(又はVL)の以下の配列に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0061】
用語「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」は、本明細書中で互換的に使用され、天然型抗体構造と実質的に類似の構造を有するか、又は本明細書で定義されるFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0062】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」は、互換的に使用され、外因性の核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」を含み、それには初代形質転換細胞及び、継代の数に関係なく、それに由来する子孫が含まれる。子孫は親細胞と核酸含量が完全に同一ではないかもしれず、突然変異が含まれる場合がある。本明細書には、最初に形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物活性を有する変異型子孫が含まれる。
【0063】
「ヒト抗体」は、ヒト又はヒト細胞により産生されるか、又はヒト抗体のレパートリーや他のヒト抗体をコードする配列を利用した非ヒト起源に由来する抗体のそれに対応するアミノ酸配列を有するものである。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。
【0064】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に存在するアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般的に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからのものである。一般的に、配列のサブグループは、Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Bethesda MD(1991), NIH Publication 91-3242, Vols. 1-3のサブグループである。一実施態様では、VLのサブグループは上掲のKabat et al.にあるサブグループカッパIである。一実施態様では、VHのサブグループは上掲のKabat et al.にあるサブグループIIIである。
【0065】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基、及びヒトFR由来アミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。特定の実施態様において、ヒト化抗体は、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、HVR(例えば、CDR)のすべて又は実質的にすべてが、 非ヒト抗体のものに対応し、FRのすべて又は実質的にすべてが、ヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意選択的に、ヒト抗体由来の抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。抗体の「ヒト化型」、例えば、非ヒト抗体は、ヒト化を遂げた抗体を指す。
【0066】
本明細書で用いられる「超可変領域」又は「HVR」という用語は、配列が超可変である抗体可変ドメインの領域(「相補性決定領域」すなわち「CDR」)及び/又は構造的に既定されるループ(「超可変ループ」)を形成する抗体可変ドメインの領域及び/又は抗原に接触する残基(「抗原コンタクト(antigen contact)」を含有する抗体可変ドメインの領域のそれぞれを指す。一般的に、抗体は、VHに三つ(H1、H2、H3)、VLに三つ(L1、L2、L3)の計六つのHVRを含む。本明細書において、例示的なHVRは、
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)に生じる超可変ループ(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917(1987));
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)、及び95~102(H3)に生じるCDR(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991));
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、及び93-101(H3)に生じる抗原コンタクト(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745(1996));及び
(d)HVRアミノ酸残基46~56(L2)、47~56(L2)、48~56(L2)、49~56(L2)、26~35(H1)、26~35b(H1)、49~65(H2)、93~102(H3)、及び94~102(H3)を含む、(a)、(b)、及び/又は(c)の組み合わせ
を含む。
【0067】
特に断らない限り、可変ドメイン内のHVR残基及び他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では、上掲のKabat et al.に従って番号付けされる。
【0068】
「イムノコンジュゲート」は、細胞傷害性剤を含むがそれに限定されない、一又は複数の異種分子にコンジュゲートした抗体である。
【0069】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウス及びラット)が含まれる。特定の実施態様では、個体又は対象はヒトである。
【0070】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から分離されたものである。いくつかの実施態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)により決定される場合、95%又は99%を上回る純度に精製される。抗体純度の評価法の総説としては、例えばFlatman, S., et al., J. Chromatogr. B 848(2007)79-87を参照のこと。
【0071】
「単離された」核酸とは、その自然環境の成分から分離された核酸分子を指す。単離された核酸は、核酸分子を通常含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、核酸分子は、染色体外又はその自然の染色体上の位置とは異なる染色体位置に存在している。
【0072】
「抗HLA-G抗体をコードする単離された核酸」は、抗体の重鎖及び軽鎖(又はその断片)をコードする一又は複数の核酸分子を指し、これには、単一のベクター又は別々のベクター中のこのような核酸分子、及び宿主細胞の一又は複数の位置に存在するこのような核酸分子が含まれる。
【0073】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味し、 即ち、例えば、天然に生じる変異を含むか又はモノクローナル抗体調製物の製造時に発生し、一般的に少量で存在している可能性のある変異体抗体を除き、集団を構成する個々の抗体は同一であり、及び/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の生成を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、限定されるものではないが、ハイブリドーマ法、組み換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含む様々な技術によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのこれらの方法及びその他の例示的な方法は本明細書に記載されている。
【0074】
「ネイキッド抗体」とは、異種の部分(例えば、細胞傷害性部分)又は放射性標識にコンジュゲートしていない抗体を指す。ネイキッド抗体は薬学的製剤中に存在してもよい。
【0075】
「天然型抗体」は、様々な構造を有する天然に生じる免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している二つの同一の軽鎖と二つの同一の重鎖からなる約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各重鎖は、N末端からC末端に、可変重ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)を有し、これには三つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)が続く。同様に、各軽鎖は、N末端からC末端に、可変軽ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)を有し、これには一つの定常軽鎖(CL)ドメインが続く。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる二つのタイプのいずれかに割り当てることができる。
【0076】
「添付文書」という用語は、治療製品の商品包装に通例含まれる説明書を指すのに用いられ、そのような治療製品の適応症、用法、用量、投与、併用療法、使用に関する禁忌及び/又は注意事項についての情報を含む。
【0077】
参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入した後、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした場合の、参照ポリペプチドのアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当分野の技術の範囲内にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成することができる。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、ここでの目的のためには、%アミノ酸配列同一性の値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって作製され、ソースコードは米国著作権庁、ワシントンD.C.,20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている。ALIGN-2は、ジェネンテック社(South San Francisco、California)から公的に入手可能であり、又はそのソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIXのV4.0Dを含む、UNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされるべきである。すべての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され変動しない。
【0078】
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(或いは、所与のアミノ酸配列Bとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む所与のアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
100 × 分率X/Y
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2により、AとBのそのプログラムのアラインメントにおいて同一であるとして一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることは理解されるであろう。特に断らない限り、本明細書で使用されるすべての%アミノ酸配列同一性値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用して、直前の段落で説明したように得られる。
【0079】
用語「薬学的製剤」は、その中に含有される活性成分の生物学的活性が有効になることを可能にするような形態であって、製剤が投与される対象にとって許容できない毒性を有する他の成分を含まない調製物を指す。
【0080】
「薬学的に許容される担体」は、対象に非毒性である、有効成分以外の薬学的製剤の成分を指す。薬学的に許容される担体には、限定されないが、バッファー、賦形剤、安定剤、又は保存剤が含まれる。
【0081】
本明細書で用いられる場合、「治療」(及び「治療する(treat)」又は「治療している(treating)」などの文法的変形)は、治療されている個体の自然経過を変えようと試みる臨床的介入を指し、予防のために又は臨床病理の過程において実行できる。治療の望ましい効果には、限定されないが、疾患の発症又は再発を予防すること、症状の緩和、疾患の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮小、転移を予防すること、疾患の進行の速度を遅らせること、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、疾患の発症を遅延させるか又は疾患の進行を遅くするために使用される。
【0082】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然型抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は一般に、各々が四つの保存されたフレームワーク領域(FR)と三つの超可変領域(HVR)とを含む類似構造を有する。(例えば、Kindt, T.J. et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., N.Y.(2007), page 91参照。)単一のVH又はVLドメインは、抗原-結合特異性を付与するために十分でありうる。さらに、特定の抗原に結合する抗体を、その抗原に特異的に結合する抗体に由来するVHドメイン又はVLドメインを用いて単離し、相補的なVLドメイン又はVHドメインそれぞれのライブラリーをスクリーニングすることができる。例えば、Portolano, S. et al., J. Immunol. 150(1993)880-887; Clackson, T. et al., Nature 352(1991)624-628)を参照。
【0083】
本明細書で使用される用語「ベクター」は、結合する別の核酸を伝播することができる核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、並びに導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。ある種のベクターは、それらが動作可能なように結合されている核酸の発現を指示することができる。このようなベクターを、本明細書では「発現ベクター」と言う。
【0084】
I.組成物及び方法
一態様では、本発明は、本発明の選択された抗HLA-G抗体が、HLA-Gの特定のエピトープに結合し、HLA-Gに対するILT2及び/又はILT4の結合を阻害する能力を有するという発見に部分的に基づいている。これらは、例えばHLA-Gに対するILT2の結合を阻害し、適切な刺激によりTNFアルファのような免疫調節サイトカインの分泌を増大させることにより、HLA-G媒介性の免疫抑制を元に戻す。
【0085】
特定の実施態様では、HLA-Gに結合する抗体が提供される。本発明の抗体は、例えばがんの診断又は治療に有用である。
【0086】
A.例示的抗HLA-G抗体
一態様において、本発明は、ヒトHLA-G(抗HLA-G抗体)に結合する単離された抗体を提供する。
【0087】
特定の実施態様では、配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC I複合体に結合する、ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体が提供される(実施例3参照)。
【0088】
特定の実施態様では、配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC I複合体に結合し、単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を阻害する、ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体が提供される(例えば実施例4a及び4b参照)。
【0089】
特定の実施態様では、ヒトHLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に結合し、単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を50%を超えて(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する、ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体が提供される(例えば実施例4b参照)。
【0090】
特定の実施態様では、ヒトHLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に結合し、単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を50%を超えて(一実施態様では70%を超えて)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する、ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体が提供される(例えば実施例4b参照)。
【0091】
特定の実施態様では、ヒトHLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に結合し、単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、60%を超えて(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害し、二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT4の結合を、50%を超えて(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する、ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体が提供される(例えば実施例4b参照)。
【0092】
特定の実施態様では、配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC I複合体に結合し、HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2及びILT4の結合を阻害する、ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体が提供される(例えば実施例4参照)。
【0093】
特定の実施態様では、ヒトHLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に結合し、JEG3細胞(上のHLA-G)(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を(50%を超えて(一実施態様では80%を超えて))(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する、ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体が提供される(実施例6参照)。
【0094】
特定の実施態様では、JEG3細胞(上のHLA-G)(ATCC No.HTB36)に結合し(実施例5参照)、JEG3細胞上のHLA-G(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を(50%を超えて(一実施態様では80%を超えて))(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する、ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体が提供される(実施例6参照)。
【0095】
特定の実施態様では、本明細書に記載される抗HLA-G抗体は、配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)。
【0096】
特定の実施態様では、本明細書に記載される抗HLA-G抗体は、配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)及び/又は配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)。
【0097】
特定の実施態様では、本明細書に記載される抗HLA-G抗体は、配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)。
【0098】
本発明の一実施態様は、ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であり、この抗体は、
A)(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3;又は
B)(a)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む。
【0099】
本発明の一実施態様は、ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であり、この抗体は、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1,(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号3から選択されるアミノ酸配列を含むHVR-H3を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むVLドメイン;又は
B)(a)(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1,(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号11から選択されるアミノ酸配列を含むHVR-H3を含むVHドメイン;及び(b)(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むVLドメイン
を含む。
【0100】
本発明の一実施態様は、ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であり、この抗体は、
A)
i)配列番号7のVH配列及び配列番号8のVL配列;又は
ii)i)の抗体のVH及びVLのヒト化変異体を含む;或いは
B)
i)配列番号15のVH配列及び配列番号16のVL配列;又は
ii)i)の抗体のVH及びVLのヒト化変異体
を含む。
【0101】
本発明の一実施態様は、本明細書に記載される抗HLA-G抗体であり、この抗体は以下の特性により独立して特徴付けられる:即ち、抗HLA-G抗体は、
a)HLA-Gに対する結合について、配列番号7アミノ酸配列を含むVHと配列番号8のアミノ酸配列を含むVLとを含む抗HLA-G抗体と競合する、及び/又は
b)配列番号7アミノ酸配列を含むVHと配列番号8のアミノ酸配列を含むVLとを含む抗HLA-G抗体と同じエピトープに結合する、及び/又は
c)配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC I複合体に結合する;及び/又は
d)配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応しない(に対して特異的に結合しない);及び/又は
e)配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体と交差反応しない(に対して特異的に結合しない);及び/又は
f)配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない(に対して特異的に結合しない);及び/又は
g)配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない(に対して特異的に結合しない);及び/又は
h)単量体HLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に対するILT2の結合を阻害する;及び/又は
i)単量体HLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に対するILT2の結合を、50%を超えて(一実施態様では70%を超えて)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する;及び/又は
j)単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に対するILT2の結合を、50%を超えて(一実施態様では70%を超えて)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する;及び/又は
k)JEG3細胞(上のHLA-G)(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を(50%を超えて(一実施態様では80%を超えて))(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する(実施例6参照);及び/又は
l)JEG3細胞(上のHLA-G)(ATCC No.HTB36)に結合し(実施例5参照)、且つJEG3細胞(上のHLA-G)(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を(50%を超えて(一実施態様では80%を超えて))(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する(実施例6参照);及び/又は
m)ヒトHLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に結合し、且つ単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、60%を超えて(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害し、二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT4の結合を、50%を超えて(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する(例えば実施例4b参照)。
【0102】
本発明の一実施態様は、ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であり、この抗体は、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1,(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号3から選択されるアミノ酸配列を含むHVR-H3を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むVLドメイン;又は
B)(a)(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1,(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号11から選択されるアミノ酸配列を含むHVR-H3を含むVHドメイン;及び(b)(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むVLドメイン
を含み、
A)又はB)の抗体は、以下の特性により独立して特徴付けられる:即ち、抗HLA-G抗体は、
a)配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC I複合体に結合する;及び/又は
b)配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない);及び/又は
c)配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない);及び/又は
d)配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない);及び/又は
e)配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない);及び/又は
f)単量体HLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に対するILT2の結合を阻害する;及び/又は
g)単量体HLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に対するILT2の結合を、50%を超えて(一実施態様では70%を超えて)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する;及び/又は
h)単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に対するILT2の結合を、50%を超えて(一実施態様では70%を超えて)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する;及び/又は
i)JEG3細胞上のHLA-G(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を(50%を超えて(一実施態様では80%を超えて))(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する(実施例6参照);及び/又は
j)JEG3細胞上のヒトHLA-G(ATCC No.HTB36)に結合し(実施例5参照)、JEG3細胞上のHLA-G(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を(50%を超えて(一実施態様では80%を超えて))(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する(実施例6参照);及び/又は
k)ヒトHLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に結合し、単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、60%を超えて(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害し、二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT4の結合を、50%を超えて(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する(例えば実施例4b参照)。
【0103】
本発明の一実施態様では、抗体はIgG1アイソタイプである。本発明の一実施態様では、抗体は、変異L234A、L235A及びP329G(KabatのEUインデックスによる番号付け)を含むIgG1アイソタイプである。
【0104】
さらなる態様において、上記のいずれかの実施態様による抗HLA-G抗体は、以下のセクション1~7に記載されているようにして、任意の機能を単独で又は組み合わせて組み込むことができる。
【0105】
1.抗体親和性
特定の実施態様では、本明細書において提供される抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば10-8M以下、例えば10-8Mから10-13M、例えば10-9Mから10-13M)の解離定数KDを有する。
【0106】
好ましい一実施態様では、KDは、~10の反応単位(RU)に固定された抗原CM5チップを有するBIACORE(登録商標)を25℃で用いる表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定される。簡潔には、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIACORE,Inc.)を、供給業者の指示書に従って、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシニミド(NHS)で活性化する。抗原を、10mMの酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/ml(~0.2μM)に希釈した後、結合したタンパク質の反応単位(RU)がおよそ10になるように5μl/分の流速で注入する。抗原の注入後、未反応基をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入する。動力学的な測定のために、Fabの2倍の段階希釈(0.78nMから500nM)を、25℃、及び約25μl/分の流速で、0.05%のポリソルベート20(TWEEN-20TM)界面活性剤(PBST)を含むPBSに注入する。会合センサーグラム及び解離センサーグラムを同時にフィットさせることによる単純1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluation Softwareバージョン3.2)を使用して、会合速度(kon又はka)及び解離速度(koff又はkd)を計算する。平衡解離定数(KD)をkd/ka(koff/kon)比として計算する。例えば、Chen, Y. et al., J. Mol. Biol. 293(1999)865-881を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによる会合速度が10-1-1を上回る場合、会合速度は、分光計、例えば流動停止を備えた分光光度計(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズSLM-AMINCOTM分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される漸増濃度の抗原の存在下において、25℃、及びPBS(pH7.2)中20nMの抗抗原抗体(Fab型)の蛍光放出強度(励起=295nm;放出=340nm、帯域通過=16nm)における増加又は減少を測定する蛍光消光技術を用いて測定することができる。
【0107】
2.抗体断片
特定の実施態様において、本明細書に提供される抗体は、抗体断片である。抗体断片は、限定されないが、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、Fv,及びscFv断片と、下記の他の断片とを含む。特定の抗体断片の総説については、Hudson, P.J. et al., Nat. Med. 9(2003)129-134を参照。scFv断片の総説については、例えば、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore(eds.), Springer-Verlag, New York(1994), pp. 269-315を参照;また、国際公開第93/16185号;及び米国特許第5571894号及び第5587458号も参照。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、且つin vivo半減期を増加させたFab及びF(ab’)断片の議論については、米国特許第5869046号を参照のこと。
【0108】
ダイアボディは、二価又は二重特異性でありうる二つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、EP0404097号;国際公開第1993/01161号;Hudson, P.J. et al., Nat. Med. 9(2003)129-134; and Holliger, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90(1993)6444-6448を参照。トリアホ゛テ゛ィ及びテトラホ゛テ゛ィもHudson, P.J. et al., Nat. Med.9(20039 129-134)に記載されている。
【0109】
単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべて又は一部、或いは軽鎖可変ドメインのすべて又は一部を含む抗体断片である。特定の実施態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis、Inc.、Waltham, MA;例えば、米国特許第6248516B1号参照)。
【0110】
抗体断片は様々な技術で作製することができ、限定されないが、本明細書に記載されるように、インタクトな抗体のタンパク分解、並びに組み換え宿主細胞(例えば、大腸菌又はファージ)による生成を含む。
【0111】
3.キメラ及びヒト化抗体
特定の実施態様において、本明細書に提供される抗体はキメラ抗体である。特定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4816567号、及びMorrison, S.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81(1984)6851-6855)に記載されている。一例において、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、又はサルなどの非ヒト霊長類由来の可変領域)とヒト定常領域とを含む。さらなる例において、キメラ抗体は、クラス又はサブクラスが親抗体のものから変更されている「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0112】
特定の実施態様では、キメラ抗体はヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、ヒトに対する免疫原性を低減するために、親の非ヒト抗体の特異性と親和性を保持したままヒト化されている。一般に、ヒト化抗体は、HVR(例えばCDR)(又はその一部)が非ヒト抗体に由来し、FR(又はその一部)がヒト抗体配列に由来する、一又は複数の可変ドメインを含む。ヒト化抗体はまた、場合によってヒト定常領域の少なくとも一部を含むであろう。いくつかの実施態様では、ヒト化抗体のいくつかのFR残基は、例えば、抗体特異性又は親和性を回復又は改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)由来の対応する残基で置換される。
【0113】
ヒト化抗体及びそれらの製造方法については、例えば、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13(2008)1619-1633に総説が、さらに、例えばRiechmann, I. et al., Nature 332(1988)323-329; Queen, C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86(1989)10029-10033;米国特許第5821337号、同第7527791号、同第6982321号、及び同第7087409号;Kashmiri, S.V. et al., Methods 36(2005)25-34(SDR(a-CDR)グラフティングを記述);Padlan, E.A., Mol. Immunol. 28(1991)489-498(「リサーフェイシング」を記述);Dall'Acqua, W.F. et al., Methods 36(2005)43-60(「FRシャッフリング」を記述);並びにOsbourn, J. et al., Methods 36(2005)61-68及びKlimka, A. et al., Br. J. Cancer 83(2000)252-260(FRシャッフリングへの「誘導選択」アプローチを記述)に記載がある。
【0114】
ヒト化に用いられ得るヒトフレームワーク領域は、限定されないが、「ベストフィット」法を用いて選択されるフレームワーク領域(例えば、Sims, M.J. et al., J. Immunol. 151(1993)2296-2308を参照);軽鎖又は重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carter, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89(1992)4285-4289; 及びPresta, L.G. et al., J. Immunol. 151(1993)2623-2632を参照);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域又はヒトの生殖細胞系フレームワーク領域(例えば、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13(2008)1619-1633を参照);及びFRライブラリスクリーニング由来のフレームワーク領域(例えば、Baca, M. et al., J. Biol. Chem. 272(1997)10678-10684 and Rosok, M.J. et al., J. Biol. Chem. 271(19969 22611-22618を参照)を含む。
【0115】
4.ヒト抗体
特定の実施態様において、本明細書に提供される抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体は、当技術分野において既知の様々な技術を用いて生産することができる。ヒト抗体は、van Dijk, M.A. and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Pharmacol. 5(2001)368-374及びLonberg, N., Curr. Opin. Immunol. 20(2008)450-459に概説がある。
【0116】
ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答してインタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を有するインタクトな抗体を生成するように改変されたトランスジェニック動物に、免疫原を投与することによって調製することができる。このような動物は、典型的には内因性免疫グロブリン遺伝子座を置換するか、又は染色体外に存在するか若しくは動物の染色体にランダムに組み込まれているヒト免疫グロブリン遺伝子座のすべて又は一部を含む。このようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般的に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の概説については、Lonberg, N., Nat. Biotech. 23(2005)1117-1125を参照のこと。また、例えばXENOMOUSETM技術を記載している米国特許第6075181号及び第6150584号、HuMab(登録商標)技術を記載している米国特許第5770429号、K-M MOUSE(登録商標)技術を記載している米国特許第7041870号、及びVelociMouse(登録商標)技術を記載している米国特許出願公開第2007/0061900号も参照されたい。このような動物により生成されるインタクトな抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることにより、さらに改変されうる。
【0117】
ヒト抗体は、ハイブリドーマに基づく方法によって作製することもできる。ヒトモノクローナル抗体の生成のためのヒト骨髄腫及びマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株が記述されている。(例えば、Kozbor, D., J. Immunol. 133(1984)3001-3005; Brodeur, B.R. et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, Marcel Dekker, Inc., New York(1987), pp. 51-63;及びBoerner, P. et al., J. Immunol. 147(1991)86-95)を参照のこと)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体は、Li, J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103(2006)3557-3562にも記載されている。さらなる方法は、例えば、米国特許第7189826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載)及びNi, J., Xiandai Mianyixue 26(2006)265-268(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載)に記載されるものを含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)も、Vollmers, H.P. and Brandlein, S., Histology and Histopathology 20(2005)927-937及びVollmers, H.P. and Brandlein, S., Methods and Findings in Experimental及びClinical Pharmacology 27(2005)185-191に記載されている。
【0118】
ヒト抗体は、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって生成することもできる。このような可変ドメイン配列は、次いで所望のヒト定常ドメインと組み合わされてもよい。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択するための技術が、以下に記載される。
【0119】
5.ライブラリー由来の抗体
本発明の抗体は、一又は複数の所望の活性を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。例えば、ファージディスプレイライブラリーを生成し、所望の結合特性を有する抗体についてそのようなラリーをスクリーニングするための様々な方法が、当技術分野で知既知である。そのような方法は、例えば、Hoogenboom, H.R. et al., Methods in Molecular Biology 178(2001)1-37に総説が、さらに、例えば、McCafferty, J. et al., Nature 348(1990)552-554; Clackson, T. et al., Nature 352(1991)624-628; Marks, J.D. et al., J. Mol. Biol. 222(1992)581-597; Marks, J.D. and Bradbury, A., Methods in Molecular Biology 248(2003)161-175; Sidhu, S.S. et al., J. Mol. Biol. 338(2004)299-310; Lee, C.V. et al., J. Mol. Biol. 340(2004)1073-1093; Fellouse, F.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(2004)12467-12472; 及びLee, C.V. et al., J. Immunol. Methods 284(2004)119-132に記載がある。
【0120】
特定のファージディスプレイ法において、VH及びVL遺伝子のレパートリーを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により個別にクローニングし、ファージライブラリーにランダムに再結合させ、その後、Winter, G. et al., Ann. Rev. Immunol. 12(1994)433-455に記載されるように、抗原結合ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは、典型的には単鎖Fv(scFv)断片又はFab断片のいずれかとして抗体断片を提示する。免疫化された供給源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要なしに、免疫原に対して高親和性の抗体を提供する。代替的に、Griffiths, A.D. et al., EMBO J. 12(1993)725-734に記載されるように、ナイーブなレパートリーを、いかなる免疫感作も無く、広範囲の非自己抗原及び自己抗原に対し、抗体の単一起源を提供するために、(例えば、ヒトから)クローニングすることができる。最後に、ナイーブなライブラリーは、幹細胞由来の再配置されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含むPCRプライマーを用いて高度に可変のCDR3領域をコードし、Hoogenboom, H.R. and Winter, G., J. Mol. Biol. 227(1992)381-388により記載されるようにin vitroでの再配置を達成することにより、合成的に作製することもできる。ヒト抗体ファージライブラリーを記述する特許公報は、例えば、米国特許第5750373号、及び米国特許出願公開第2005/0079574号、同第2005/0119455号、同第2005/0266000号、同第2007/0117126号、同第2007/0160598号、同第2007/0237764号、同第2007/0292936号及び同第2009/0002360号を含む。
【0121】
ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体又は抗体断片は、本明細書でヒト抗体又はヒト抗体の断片とみなされる。
【0122】
6.多重特異性抗体
特定の実施態様では、本明細書に提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも二つの異なる部位に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。特定の実施態様では、結合特異性の一つはHLA-Gに対するものであり、他は他のいずれかの抗原に対するものである。特定の実施態様では、二重特異性抗体は、HLA-Gの二つの異なるエピトープに結合しうる。二重特異性抗体は、HLA-Gを発現する細胞に細胞傷害性剤を局在化させるために使用することもできる。二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片として調製することができる。
【0123】
多重特異性抗体を作製するための技術には、限定されないが、異なる特異性を有する二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組み換え共発現(Milstein, C. and Cuello, A.C., Nature 305(1983)537-540、国際公開第93/08829号、及びTraunecker, A. et al., EMBO J. 10(1991)3655-3659を参照)及び「knob-in-hole」エンジニアリング(例えば米国特許第5731168号を参照)が含まれる。多重特異抗体はまた、抗体のFc-ヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果を操作すること(国際公開第2009/089004号);二つ以上の抗体又は断片を架橋すること(例えば米国特許第4676980号、及びBrennan, M. et al., Science 229(1985)81-83を参照);二重特異性抗体を生成するためにロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelny, S.A. et al., J. Immunol. 148(1992)1547-1553を参照);二重特異性抗体断片を作製するため、「ダイアボディ」技術を使用すること(例えば、Holliger, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90(1993)6444-6448を参照);単鎖Fv(sFv)ダイマーを使用すること(例えば、Gruber, M et al., J. Immunol. 152(1994)5368-5374を参照);及び、例えば、Tutt, A. et al., J. Immunol. 147(1991)60-69に記載されているように、三重特異性抗体を調製することによって作製することができる。
【0124】
「オクトパス抗体(Octopus antibody)」を含む三つ以上の機能的抗原結合部位を有する操作抗体も本明細書に含まれる(例えば米国特許出願公開第2006/0025576号を参照)。
【0125】
本明細書中の抗体又は断片はまた、HLA-G及び別の異なる抗原に結合する抗原結合部位を含む、「二重作用(Dual Acting)Fab」又は「DAF」を含む(例えば米国特許出願公開第2008/0069820号参照)。
【0126】
本明細書における抗体又は断片はまた、国際公開第2009/080251号、国際公開第2009/080252号、国際公開第2009/080253号、国際公開第2009/080254号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号、及び国際公開第2010/145793号、国際公開第2011/117330号、国際公開第2012/025525号、国際公開第2012/025530号、国際公開第2013/026835号、国際公開第2013/026831号、国際公開第2013/164325号、又は国際公開第2013/174873号に記載される多重特異性抗体を含む。
【0127】
7.抗体変異体
特定の実施態様では、本明細書に提供される抗体のアミノ酸配列変異体が企図される。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を改善することが望まれる。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な改変を導入することにより、又はペプチド合成によって調製することができる。このような修飾は、例えば抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、及び/又はそれへの挿入、及び/又はそれの置換を含む。最終コンストラクトが所望の特性、例えば、抗原結合を有していることを条件として、欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせを、最終構築物に到達させるために作ることができる。
【0128】
置換変異体、挿入変異体、及び欠失変異体
特定の実施態様では、一又は複数のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換突然変異の対象となる部位は、HVRとFRを含む。例示的な変更を「例示的置換」と題して表1に示し、アミノ酸側鎖のクラスを参照して下記にさらに説明する。保存的置換は、「好ましい置換」と題して表1に示される。アミノ酸置換は、目的の抗体に導入することができ、その産物は、所望の活性、例えば、抗原結合の保持/改善、免疫原性の低下、又はADCC若しくはCDCの改善についてスクリーニングされる。
【0129】
【0130】
アミノ酸は共通の側鎖特性に従ってグループ化することができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe
【0131】
非保存的置換は、これらのクラスの一つのメンバーを別のクラスと交換することを必要とするであろう。
【0132】
置換変異体の一つの種類は、親抗体(例えばヒト化又はヒト抗体)の一又は複数の超可変領域残基を置換することを伴う。一般的には、結果として得られ、さらなる研究のために選択された変異体は、親抗体と比較して、特定の生物学的特性に修飾(例えば、改善)(例えば、親和性の向上、免疫原性の低下)を有し、及び/又は親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持するであろう。例示的な置換型変異体は、親和性成熟抗体であり、例えば、本明細書に記載されるようなファージディスプレイに基づく親和性成熟技術を用いて、簡便に生成される。簡潔に言えば、一又は複数のHVR残基が変異し、変異体抗体は、ファージ上に表示され、特定の生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0133】
変更(例えば、置換)は、例えば抗体の親和性を向上させるために、HVRで行うことができる。このような変更は、HVRの「ホットスポット」、即ち、体細胞成熟過程中に高頻度で変異を受けるコドンによりコードされた残基(例えばChowdhury, P.S., Methods Mol. Biol. 207(2008)179-196を参照)、及び/又はSDR(a-CDR)で行うことができ、得られた変異体VH又はVLが結合親和性について試験される。二次ライブラリから構築し選択し直すことによる親和性成熟が、例えばHoogenboom, H.R. et al. in Methods in Molecular Biology 178(2002)1-37に記載されている。親和性成熟のいくつかの実施態様において、多様性が、種々の方法(例えば、エラープローンPCR、鎖シャッフリング、又はオリゴヌクレオチドを標的とした突然変異誘発)のいずれかにより、成熟のために選択された可変遺伝子中に導入される。次いで、二次ライブラリーが作成される。次いで、このライブラリーは、所望の親和性を持つ任意の抗体変異体を同定するためにスクリーニングされる。多様性を導入する別の方法は、複数のHVR残基(例えば、一度に4から6残基)がランダム化されたHVR指向のアプローチを伴う。抗原結合に関与するHVR残基は、例えばアラニンスキャニング突然変異誘発、又はモデリングを用いて、特異的に同定することができる。特にCDR-H3及びCDR-L3がしばしば標的にされる。
【0134】
特定の実施態様では、置換、挿入又は欠失は、 これらの改変が抗原に結合する抗体の能力を実質的に低下させない限り、一又は複数のHVR内で生じうる。例えば、実質的に結合親和性を低下させない保存的変更(例えば本明細書において提供される保存的置換)をHVR内で行うことができる。このような変更は、HVR「ホットスポット」又はSDRの外側であってもよい。上記に与えられた変異体VH又はVL配列の特定の実施態様では、各HVRは不変であるか、又は多くとも一つ、二つ又は三つのアミノ酸置換しか含まない。
【0135】
変異誘発のために標的とすることができる抗体の残基又は領域を同定するための有用な方法は、Cunningham, B.C. and Wells, J.A., Science 244(1989)1081-1085により記載されるように「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれる。この方法では、標的残基の残基又はグループ(例えば、arg、asp、his、lys及びgluなどの荷電残基)が同定されて、抗原と抗体との相互作用が影響を受けるかどうかを決定するために、中性又は負に帯電したアミノ酸(例えば、アラニン又はポリアラニン)により置換される。さらなる置換が、最初の置換に対する機能的感受性を示すアミノ酸の位置に導入されうる。代替的に又は追加的に、抗体と抗原の接点を同定するための抗原-抗体複合体の結晶構造。そのような接触残基及び隣接残基は、置換の候補として標的とされうる又は排除されうる。変異体は、それらが所望の特性を含むかどうかを決定するためにスクリーニングされる。
【0136】
アミノ酸配列挿入物は、 1残基から、100以上の残基を有するポリペプチドの長さに及ぶアミノ-及び/又はカルボキシル末端融合体、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入物を含む。末端挿入の例には、N末端メチオニン残基を有する抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入変異体は、抗体の血清半減期を延ばす酵素(例えばADEPTのための)又はポリペプチドに対する抗体のN末端又はC末端への融合物を含む。
【0137】
b)Fc領域変異体
特定の実施態様において、一又は複数のアミノ酸修飾を、本明細書で提供される抗体のFc領域に導入し、それによりFc領域変異体を生成することができる。Fc領域変異体は、一又は複数のアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4 Fc領域)を含みうる。
【0138】
エフェクター機能が低下した抗体は、一又は複数のFc領域残基238、265、269、270、297、327及び329の置換を含むものを含む(米国特許第6737056号)。そのようなFc変異体は、残基265及び297のアラニンへの置換を有するいわゆる「DANA」Fc突然変異体を含め、アミノ酸位265、269、270、297、及び327のうちの二以上に置換を有するFc突然変異体を含む(米国特許第7332581号)。
【0139】
FcRへの結合が改善又は減少した特定の抗体変異体が記載されている。(例えば、米国特許第6737056号;国際公開第2004/056312号、及びShields, R.L. et al., J. Biol. Chem. 276(2001)6591-6604を参照)。
【0140】
本発明の一実施態様では、このような抗体は、変異L234A及びL235A、又は変異L234A、L235A及びP329Gを含むIgG1である。別の実施態様では、このような抗体は、変異S228P及びL235E、又はS228P、L235E又は/及びP329Gを含むIgG4である (番号付けは、Kabat et al, Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991のEUインデックスによる)。
【0141】
半減期が延長され、胎児への母性IgGの移送を担う(Guyer, R.L. et al., J. Immunol. 117(1976)587-593, and Kim, J.K. et al., J. Immunol. 24(1994)2429-2434)、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合性が改善された抗体は、米国特許出願公開第2005/0014934号に記載されている。これらの抗体は、FcRnに対するFc領域の結合を改善する一又は複数の置換を伴うFc領域を含む。このようなFc変異体は、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424又は434のうちの一又は複数に置換、例えば、Fc領域残基434の置換を含むものを含む(米国特許第7371826号)。
【0142】
また、Fc領域変異体の他の例に関するDuncan, A.R. and Winter, G., Nature 322(1988)738-740;米国特許第5648260号;同第5624821号;及び国際公開第94/29351号も参照のこと。
【0143】
c)システイン操作抗体変異体
特定の実施態様では、システイン操作抗体、例えば、抗体の一又は複数の残基がシステイン残基で置換されている「チオMab」を作製することが望ましい。特定の実施態様では、置換された残基は、抗体のアクセス可能な部位に生じる。それらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基は、それによって抗体のアクセス可能な部位に配置され、本明細書中でさらに記載されるように、イムノコンジュゲートを生成するために、例えば薬物部分又はリンカー-薬剤部分などの他の部分に抗体をコンジュゲートするために使用される。特定の実施態様では、以下の残基のうちのいずれかの一又は複数がシステインで置換される:軽鎖のV205(Kabatの番号付け);重鎖のA118(EU番号付け);及び重鎖Fc領域のS400(EU番号付け)。システイン改変抗体は、例えば、米国特許第7521541号に記載のように生成されうる。
【0144】
d)抗体誘導体
特定の実施態様において、本明細書で提供される抗体は、当技術分野で知られ、容易に入手可能な追加の非タンパク質部分を含むようにさらに改変することができる。抗体の誘導体化に適した部分は、限定しないが、水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーの非限定的な例は、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマーのいずれか)及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、プロリプロピレン(prolypropylene)オキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール並びにこれらの混合物を含むがこれらに限定されない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドはその水中での安定性のために製造上の利点を有しうる。ポリマーはいずれかの分子量のものであってよく、分枝鎖又は未分枝鎖であってよい。抗体に付着するポリマーの数は変化してもよく、一を超えるポリマーが付着する場合、それらは同じか又は異なる分子であってよい。一般的に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/又は種類は、改善されるべき抗体の特定の特性又は機能、その抗体誘導体が限定条件の下での治療に使用されるかどうかを含めた(但しこれらに限定されない)考慮事項に基づいて決定することができる。
【0145】
他の実施態様では、放射線への曝露によって選択的に加熱されうる非タンパク質部分と抗体とのコンジュゲートが提示される。一実施態様では、非タンパク質部分はカーボンナノチューブである(Kam, N.W. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102(2005)11600-11605)。放射線は、任意の波長であってよく、通常の細胞に害を与えないが抗体-非タンパク質部分の近位細胞を死滅させる温度に非タンパク質部分を加熱する波長を含むが、これに限定されない。
【0146】
B.組み換え方法及び組成物
抗体は、例えば米国特許第4816567号に記載されているような組み換え方法及び組成物を用いて生成することができる。一実施態様では、本明細書に記載される抗-HLA-G抗体をコードする単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列、及び/又は抗体のVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードしうる。さらなる実施態様では、そのような核酸を含む一又は複数のベクター(例えば発現ベクター)が提供される。さらなる実施態様では、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。一実施態様では、宿主細胞は:(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1ベクター及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2ベクターを含む(例えば、同ベクターで形質転換されている)。一実施態様では、宿主細胞は、真核生物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞又はリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施態様では、上述のように、抗体の発現に適した条件下で、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養することと、任意選択的に宿主細胞(又は宿主細胞培地)から抗体を回収することとを含む、抗HLA-G抗体を作製する方法が提供される。
【0147】
抗HLA-G抗体の組み換え生産のために、例えば上述のような、抗体をコードする核酸が単離され、宿主細胞内でのさらなるクローニング及び/又は発現のために、一又は複数のベクターに挿入される。このような核酸は、容易に単離することができ、一般的な手順を用いて(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)配列決定することができる。
【0148】
抗体をコードするベクターのクローニング又は発現に適した宿主細胞は、本明細書に記載の原核生物細胞又は真核細胞を含む。例えば、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要ない場合には、抗体は、細菌内で生成されうる。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5648237号、同第789199号、及び同第5840523号を参照のこと(大腸菌中の抗体断片の発現を記載しているCharlton, K.A., In: Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C.(ed.), Humana Press, Totowa, NJ(2003), pp. 245-254も参照)。発現の後、抗体を、可溶性画分において細菌の細胞ペーストから単離し、さらに精製することができる。
【0149】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母のような真核微生物は、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング宿主又は発現宿主であり、これには、グリコシル化経路が「ヒト化」され、部分的又は完全なヒトのグリコシル化パターンを有する抗体の産生をもたらす真菌及び酵母の株が含まれる。Gerngross, T.U., Nat. Biotech. 22(2004)1409-1414;及びLi, H. et al., Nat. Biotech. 24(2006)210-215を参照のこと。
【0150】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物と脊椎動物)からも得られる。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウイルス株が同定されており、これらは特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞と組み合わせて使用することができる。
【0151】
植物細胞培養物を宿主として利用することもできる。例えば、米国特許第5959177号、同第6040498号、同第6420548号、同第7125978号及び同第6417429号(トランスジェニック植物における抗体生成に関するPLANTIBODIESTM技術を記載)を参照。
【0152】
脊椎動物細胞も宿主として用いることができる。例えば、懸濁液中で増殖するように適合された哺乳動物細胞株は有用でありうる。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS-7)で形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(例えば、Graham, F.L. et al., J. Gen Virol. 36(1977)59-74)に記載された293細胞又は293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスのセルトリ細胞(例えば、Mather, J.P., Biol. Reprod. 23(1980)243-252)に記載されるTM4細胞);サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76);ヒト子宮頚癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(HepG2);マウス乳腺腫瘍細胞(MMT060562);例えばMather, J.P. et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383(1982)44-68に記載されるTRI細胞;MRC5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR CHO細胞を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77(1980)4216-4220);並びにY0、NS0及びSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体生成に適した特定の哺乳動物宿主細胞株の概説については、例えば、Yazaki, P. and Wu, A.M., Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C.(ed.), Humana Press, Totowa, NJ(2004), pp. 255-268を参照。
【0153】
C.アッセイ
本明細書で提供される抗HLA-G抗体が同定されて、当技術分野で既知の様々なアッセイによってその物理的/化学的性質及び/又は生物学的活性についてスクリーニングされる又は特徴づけられる。
【0154】
1.結合アッセイ及びその他のアッセイ
一態様において、本発明の抗体は、例えばELISA、ウエスタンブロットなどの既知の方法により、その抗原結合活性について試験される。
【0155】
別の態様では、HLA-Gに対する結合についてHLA-G-0032(配列番号7のVH配列と配列番号8のVL配列とを含む)と競合する抗体を同定するために競合アッセイを使用することができる。本発明の一実施態様は、ヒトHLA-Gに対する結合について、配列番号7のVH配列の3つすべてのHVRと配列番号8のVL配列の3つすべてのHVRとを含む抗HLA-G抗体と競合する抗体である。特定の実施態様では、このような競合抗体は、抗HLA-G抗体HLA-G-0032によって結合される同じエピトープ(例えば直鎖状又は立体構造エピトープ)に結合する。一実施態様では、HLA-G上において配列番号7のVH配列及び配列番号8のVL配列を含む抗体と同じエピトープに結合する抗HLA-G抗体が提供される。別の態様では、HLA-Gに対する結合についてHLA-G-0037(配列番号15のVH配列と配列番号16のVL配列を含む)と競合する抗体を同定するために競合アッセイを使用することができる。本発明の一実施態様は、ヒトHLA-Gに対する結合について、配列番号15のVH配列の3つすべてのHVRと配列番号16のVL配列の3つすべてのHVRとを含む抗HLA-G抗体と競合する抗体である。特定の実施態様では、このような競合抗体は、抗HLA-G抗体HLA-G-0037によって結合される同じエピトープ(例えば直鎖状又は立体構造エピトープ)に結合する。一実施態様では、HLA-G上において配列番号15のVH配列と配列番号16のVL配列とを含む抗体と同じエピトープに結合する抗HLA-G抗体が提供される。抗体が結合するエピトープをマッピングするための例示的な方法の詳細が、Morris, G.E.(ed.), Epitope Mapping Protocols, In: Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Humana Press, Totowa, NJ(1996)に提供されている。
【0156】
例示的な競合アッセイにおいて、固定化されたHLA-Gは、HLA-G(例えば、抗HLA-G抗体HLA-G-0032又はHLA-G.0037)に結合する第1の標識化抗体と、HLA-Gに対する結合について第1の抗体と競合する能力を試験されている第2の未標識抗体とを含む溶液中でインキュベートされる。第2の抗体は、ハイブリドーマの上清中に存在しうる。コントロールとして、固定化HLA-Gが、第1の標識抗体を含むが第二の非標識抗体は含まない溶液中でインキュベートされる。第1の抗体のHLA-Gへの結合を許容する条件下でインキュベートした後、過剰な未結合抗体が除去され、固定化されたHLA-Gに結合した標識の量が測定される。固定化HLA-Gに結合した標識の量が、コントロールサンプルと比較して試験サンプル中で実質的に減少している場合、それは、第二の抗体が、HLA-Gに対する結合について第1の抗体と競合していることを示す。Harlow, E. and Lane, D., Antibodies: A Laboratory Manual, Chapter 14, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY(1988)を参照。別の例示的競合アッセイに関し、実施例2(エピトープマッピングELISA/結合競合アッセイ)を参照されたい。
【0157】
2.活性のアッセイ
一態様において、生物活性を有するその抗HLA-G抗体を同定するためのアッセイが提供される。生物活性は、例えば、T細胞を含む様々な免疫細胞の活性化及び/又は増殖を亢進させる能力を含みうる。例えばそれは、免疫調節性サイトカイン(例えばインターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)及び/又は腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ))の分泌を高める。亢進される又は亢進されうる他の免疫調節性サイトカインは、例えば様々な細胞型に結合するIL1β、IL6、IL12、グランザイムBなどである。また、in vivo及び/又はin vitroでこのような生物活性を有する抗体が提供される。
【0158】
特定の実施態様において、本発明の抗体は、例えば以下の実施例に記載されるような生物活性について試験される。
【0159】
D.イムノコンジュゲート(がんのみ又は標的用に修飾)
本発明はまた、化学療法剤又は薬、成長阻害剤、毒素(例えば、タンパク毒素、細菌、真菌、植物、又は動物起源の酵素的に活性の毒素、若しくはその断片)、又は放射性同位体といった一又は複数の細胞傷害性剤にコンジュゲートする本明細書の抗HLA-G抗体を含むイムノコンジュゲートを提供する。
【0160】
一実施態様において、イムノコンジュゲートは、抗体が、メイタンシノイド(米国特許第5208020号、同第5416064号及びEP特許第0425235号を参照);アウリスタチン、例えば、モノメチルアウリスタチン薬物部分DE及びDF(MMAE及びMMAF)(米国特許第5635483号、同第5780588号及び同第7498298号を参照);ドラスタチン;カリケアマイシン又はその誘導体(米国特許第5712374号、同第714586号、同第5739116号、同第5767285号、同第770701号、同第5770710号、同第5773001号及び同第5877296号;Hinman, L.M. et al., Cancer Res. 53(1993)3336-3342;及びLode, H.N. et al., Cancer Res. 58(1998)2925-2928を参照);アントラサイクリン、例えば、ダウノマイシン又はドキソルビシン(Kratz, F. et al., Curr. Med. Chem. 13(2006)477-523; Jeffrey, S.C. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 16(2006)358-362; Torgov, M.Y. et al., Bioconjug. Chem. 16(2005)717-721; Nagy, A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97(2000)829-834; Dubowchik, G.M. et al., Bioorg. & Med. Chem. Letters 12(2002)1529-1532; King, H.D. et al., J. Med. Chem. 45(20029 4336-4343;及び米国特許第6630579号を参照);メトトレキサート;ビンデシン;タキサン、例えばドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル、及びオルタタキセル;トリコテセン;並びにCC1065を含むがこれらに限定されない一又は複数の薬物にコンジュゲートしている抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。
【0161】
他の実施態様において、イムノコンジュゲートは、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、(緑膿菌からの)外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、シナアブラギリタンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウタンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、ニガウリ阻害剤、クルシン、クロチン、サポンソウ阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(エノマイシン)、及びトリコテセン(tricothecenes)を含む(ただし、これらに限定されない)酵素的に活性な毒素又はその断片にコンジュゲートしている、本明細書に記載の抗体を含む。
【0162】
他の実施態様では、イムノコンジュゲートは、放射性原子にコンジュゲートして放射性コンジュゲートを形成する、本明細書に記載の抗体を含む。種々の放射性同位体が、放射性コンジュゲートの製造のために入手可能である。例には、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212、及びLuの放射性同位体が含まれる。放射性コンジュゲートは、検出用に使用される場合、シンチグラフ検査のための放射性原子、例えばTC99m若しくはI123、又は核磁気共鳴(NMR)画像法(磁気共鳴画像法、MRIとしても知られる)のためのスピン標識、例えば、再びヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン又は鉄を含みうる。
【0163】
抗体と細胞傷害性剤とのコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCl)、活性エステル(例えばジスクシンイミジルスベレート)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えばビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えばビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトルエン 2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。例えば、リシンイムノトキシンは、Vitetta, E.S. et al., Science 238(1987)1098-1104に記載されているようにして調製することができる。炭素-14-標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、放射性ヌクレオチドの抗体へのコンジュゲーションのためのキレート剤の例である。国際公開第94/11026を参照されたい。リンカーは、細胞内で細胞傷害性薬物の放出を容易にする「切断可能なリンカー」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari, R.V. et al., Cancer Res. 52(1992)127-131;米国特許第5208020号)が使用されうる。
【0164】
本明細書に記載のイムノコンジュゲート又はADCは、限定されるものではないが、市販(例えばPierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL., U.S.Aより)のBMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、スルホ-SMPB、及びSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート)などの架橋試薬を用いて調製したものが特に考えらえる。
【0165】
E.診断及び検出のための方法並びに組成物
特定の実施態様では、本明細書において提供される抗HLA-G抗体のいずれもが、生物学的試料中のHLA-Gの存在を検出するために有用である。本明細書において使用される「検出」という用語は、定量的又は定性的検出を包含する。特定の実施態様では、生物学的試料は、免疫細胞又はT細胞浸潤物及び/又は腫瘍細胞といった細胞又は組織を含む。
【0166】
一実施態様では、診断又は検出方法に使用される抗HLA-G抗体が提供される。さらなる態様では、生物学的試料中におけるHLA-Gの存在を検出する方法が提供される。特定の実施態様では、本方法は、生物学的試料を、HLA-Gに対する抗HLA-G抗体の結合を許容する条件下において本明細書に記載される抗HLA-G抗体と接触させること、及び抗HLA-G抗体とHLA-Gとの間に複合体が形成されるかどうかを検出することを含む。このような方法はin vitro又はin vivoの方法とすることができる。一実施態様では、抗HLA-G抗体は、抗HLA-G抗体を用いた療法に適した対象を選択するために使用され、例えばHLA-Gは患者の選択のためのバイオマーカーである。
【0167】
特定の実施態様では、標識された抗HLA-G抗体が提供される。標識は、限定されないが、(例えば、蛍光標識、発色団標識、高電子密度標識、化学発光標識、放射性標識などの)直接検出される標識又は部分、並びに、例えば、酵素反応又は分子間相互作用を介して間接的に検出される酵素又はリガンドのような部分が含まれる。このような標識の例には、限定されないが、ラジオアイソトープ32P、14C、125I、H、及び131I、フルオロフォア、例えば希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシェフェラーゼ、例えばホタルルシェフェラーゼ及び細菌ルシェフェラーゼ(米国特許第4737456号)、ルシェフェリン、2,3-ジヒドロフタルジネジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖オキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘテロサイクリックオキシダーゼ、例えばウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼを、色素前駆体、例えばHRP、ラクトペルオキシダーゼ、又はマイクロペルオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、スピンラベル、バクテリオファージラベル、安定な遊離ラジカルなどを酸化するために過酸化水素を利用する酵素とカップリングさせたもの、などが含まれる。
【0168】
F.薬学的製剤
本明細書に記載される抗HLA-G抗体の薬学的製剤は、所望の度合いの純度を有するこのような抗体を、一又は複数の任意選択的な薬学的に許容される担体と混合することによって(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A.(ed.)(1980))、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態に調製される。通常、薬学的に許容される担体は、用いられる用量及び濃度で受容者に対して非毒性であり、限定されるものではないが、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(例えばオクタデシルジメチオルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、フェノール、ブチル又はベンジルアルコール、メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及びその他の糖質;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。本明細書における例示的な薬学的に許容される担体は、可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)などの介在性薬物分散剤、例えばrhuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質をさらに含む。特定の典型的なsHASEGP及び使用法は、rhuPH20を含み、米国特許出願公開第2005/0260186号及び同第2006/0104968に記載されている。一態様において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの一又は複数のさらなるグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0169】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6267958号に記載されている。水性抗体製剤は、米国特許第6171586号及び国際公開第2006/044908号に記載されているものを含み、後者T製剤はヒスチジン-酢酸緩衝液を含む。
【0170】
本明細書中の製剤はまた、治療される特定の適応症に必要な一を超える活性成分、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有するものを含有してもよい。例えば、さらに提供することが望ましい。そのような活性成分は、適切には、意図する目的に有効な量の組み合わせで存在する。
【0171】
活性成分は、例えばコアセルベーション技術又は界面重合法によって調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセル又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート(methylmethacylate))マイクロカプセルに、コロイド薬物送達システム(例えばリポソーム、アルブミンミクロスフィア、ミクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)に、又はマクロエマルジョンに封入することができる。これらの技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A.(ed.)(1980)に開示されている。
【0172】
持続放出性調製物が調製されてもよい。徐放性調製物の好適な例は、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスを含み、このマトリックスは成形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。
【0173】
in vivo投与に使用される製剤は、一般的に滅菌されていなければならない。滅菌状態は、例えば、滅菌濾過膜を通して濾過することにより、容易に達成される。
【0174】
G.治療方法及び組成物
本明細書において提供される抗HLA-G抗体(又は抗原結合タンパク質)はいずれも、治療法に使用することができる。
【0175】
一態様において、医薬としての使用のための抗HLA-G抗体が提供される。さらなる態様では、がんの治療における抗HLA-G抗体又は使用が提供される。特定の実施態様では、治療法における使用のための抗HLA-G抗体が提供される。特定の実施態様では、本発明は、がんを有する個体の治療方法における使用のための抗HLA-G抗体を提供し、この方法は、そのような個体に対して有効量の抗HLA-G抗体を投与することを含む。
【0176】
さらなる実施態様では、本発明は、免疫調節剤としての使用/例えばTNFアルファ(TNFa)及びIFNガンマ(IFNg)のような免疫刺激性サイトカインの分泌又は免疫細胞のさらなる動員による増殖、活性化を直接的又は間接的に誘導するための使用のための、抗HLA-G抗体を提供する。特定の実施態様では、本発明は、個体における、免疫調節剤の方法/例えばTNFa及びIFNガンマのような免疫刺激性サイトカインの分泌又は免疫細胞のさらなる動員による、増殖、活性化を直接的又は間接的に誘導するための方法であって、個体に対し、免疫調節のための/又は例えばTNFa及びIFNガンマのような免疫刺激性サイトカインの分泌又は免疫細胞のさらなる動員により、直接的又は間接的に増殖、活性化を誘導するための、有効量の抗HLA-G抗体を投与することを含む方法における使用のための、抗HLA-G抗体を提供する。
【0177】
さらなる実施態様では、本発明は、免疫刺激性剤としての使用/又は腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ)分泌を刺激するための抗HLA-G抗体を提供する。特定の実施態様では、本発明は、個体における、例えばTNFa及びIFNgのような免疫刺激性サイトカインの分泌又は免疫細胞のさらなる動員による、増殖、活性化を直接的又は間接的に誘導するための免疫調節方法であって、個体に対し、例えばTNFa及びIFNgのような免疫刺激性サイトカインの分泌又は免疫細胞のさらなる動員により、直接的又は間接的に増殖、活性化を誘導するための、有効量の抗HLA-G抗体免疫調節を投与することを含む方法における使用のための、抗HLA-G抗体を提供する。
【0178】
上記のいずれの実施態様に記載の「個体」も、好ましくはヒトである。さらなる実施態様では、本発明は、医薬の製造又は調製における抗HLA-G抗体の使用を提供する。一実施態様では、医薬はがんの治療を目的とする。さらなる一実施態様では、本医薬は、がんを有する個体に、本医薬の有効量を投与することを含む、がんの治療方法における使用のためのものである。さらなる一実施態様では、医薬は、がん細胞の細胞媒介性溶解を誘導することを目的としている。さらなる一実施態様では、医薬は、がんに罹患した個体に対し、がん細胞にアポトーシスを誘導する/又はがん細胞の増殖を阻害するための有効量の医薬を投与することを含む、前記個体にがん細胞の細胞媒介性溶解を誘導する方法における使用を目的としている。上記のいずれの実施態様に記載の「個体」も、ヒトであってよい。
【0179】
さらなる態様において、本発明は、がんを治療するための方法を提供する。一実施態様では、方法は、がんを有する個体に対し、有効量の抗HLA-Gを投与することを含む。上記いずれの実施態様に記載の「個体」も、ヒトであってよい。
【0180】
さらなる態様において、本発明は、がんに罹患した個体にがん細胞の細胞媒介性溶解を誘導するための方法を提供する。一実施態様では、方法は、がんに罹患した個体にがん細胞の細胞媒介性溶解を誘導するために、前記個体に対して有効量の抗HLA-Gを投与することを含む。一実施態様では、「個体」はヒトである。
【0181】
さらなる態様において、本発明は、例えば上述の治療方法のいずれかにおける使用のための、本明細書において提供される抗HLA-G抗体のいずれかを含む薬学的製剤を提供する。一実施態様では、薬学的製剤は、本明細書において提供される抗HLA-G抗体のいずれかと薬学的に許容される担体とを含む。
【0182】
本発明の抗体(及び任意の追加の治療剤)は、非経口、肺内、及び鼻腔内を含む任意の適切な手段により投与することができ、また、局所治療が望まれるのであれば、病巣内投与であってもよい。非経口点滴は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与を含む。投薬は、その投与が短期間か又は長期であるかどうかに部分的に依存して、任意の適切な経路、例えば、静脈内又は皮下注射などの注射により行うことができる。限定されないが、様々な時間点にわたる、単回又は複数回投与、ボーラス投与、及びパルス注入を含む様々な投薬スケジュールが本明細書において考慮される。
【0183】
本発明の抗体は、医療実施基準に合致した様式で製剤化され、投薬され、投与される。この観点において考慮すべき因子は、治療される特定の障害、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤送達部位、投与方法、投与日程及び医療従事者が知る他の因子を包含する。本発明の抗体は、必要ではないが任意で、問題の疾患の予防又は治療のために現在使用されている一又は複数の薬剤とともに製剤化される。そのような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗体の量、疾患又は治療の種類、及び上記以外の因子によって決まる。これらは一般的には本明細書に記載されるのと同じ投薬量及び投与経路において、又は本明細書に記載された用量の1%から99%で、又は経験的に/臨床的に妥当であると決定された任意の投薬量及び任意の経路により、使用される。
【0184】
疾患の予防又は治療に適した本発明の抗体の用量は、(単独で又は一若しくは複数の追加の治療剤との併用で用いられる場合)治療される疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体の投与が予防的目的か治療的目的か、治療歴、患者の病歴及び抗体に対する応答、並びに主治医の裁量に依存するであろう。本発明の抗体は、単回又は一連の治療にわたって患者へ適切に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば一回以上の個別投与によるか、連続注入によるかに関わらず、約1μg/kg~15mg/kg(例えば0.5mg/kg~10mg/kg)の抗体又はイムノコンジュゲートが患者への投与のための初期候補用量となりうる。一つの典型的な一日あたり用量は、上記因子に応じて約1μg/kg~100mg/kg又はそれ以上の範囲である。数日間以上にわたる反復投与の場合には、状態に応じて、治療は疾患症状の望まれる抑制が起こるまで持続されるであろう。抗体の一の例示的投薬量は、約0.05mg/kg~約10mg/kgであろう。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg又は10mg/kgの一又は複数の用量(又はこれらのいずれかの組み合わせ)を患者に投与してよい。このような用量は断続的に、例えば毎週又は三週毎に(例えば患者が約2から約20、例えば抗体の約6用量を受けるように)投与してよい。初期の高負荷用量の後、一以上の低用量を投与してよい。例示的投与レジメンは、約4mg/kgの初回負荷用量に続き、毎週約2mg/kgの抗体を維持投与することを含む。しかしながら、他の投与レジメンも有用でありうる。この治療法の進行は、従来の技術及びアッセイにより容易に監視される。
【0185】
上記の製剤又は治療方法はいずれも、抗HLA-G抗体の代わりに又はそれに加えて本発明のイムノコンジュゲートを用いて行うことができる。
【0186】
上記の製剤又は治療方法はいずれも、抗HLA-G抗体の代わりに又はそれに加えて本発明のイムノコンジュゲートを用い、行うことができる。
【0187】
II.製造品
本発明の別の態様では、上述した障害の治療、予防、及び/又は診断に有用な材料を含む製造品が提供される。製造品は、容器と容器上の又は容器に付随するラベル又はパッケージ挿入物を含む。好適な容器は、例としてボトル、バイアル、シリンジ、IV輸液バッグなどを含む。容器はガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成されうる。容器は、状態の治療、予防、及び/又は診断に有効な、単独の又はその他の組成物と併用される化合物を収容し、無菌のアクセスポートを有することができる(例えば、容器は皮下注射針により穿孔可能なストッパーを有する静脈内溶液のバッグ又はバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも一の活性剤は、本発明の抗体である。ラベル又は添付文書は、組成物が選択された状態の治療のために使用されることを示している。さらに、製造品は、(a)本発明の抗体を含む組成物をその中に収容する第1の容器、及び(b)さらなる細胞傷害性剤又はその他の治療剤含む組成物を中に収容する第二の容器を含んでもよい。本発明のこの実施態様における製造品は、組成物が特定の状態を治療するために使用できることを示す添付文書をさらに含んでいてもよい。代替的に又は追加的に、製造品は、薬学的に許容されるバッファー、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液を含む第二(又は第三)の容器をさらに含んでもよい。製造品は、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針及びシリンジを含む、商業的観点及び使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含むことができる。
【0188】
以下の実施例及び図面は、本発明の理解を助けるために提供されるものであり、本発明の真の範囲は特許請求の範囲に規定される。本発明の精神から逸脱することなく、記載された手順に改変を加えることが可能である。
【0189】
アミノ酸配列の説明
配列番号1 重鎖HVR-H1、HLA-G-0032
配列番号2 重鎖HVR-H2、HLA-G-0032
配列番号3 重鎖HVR-H3、HLA-G-0032
配列番号4 軽鎖HVR-L1、HLA-G-0032
配列番号5 軽鎖HVR-L2、HLA-G-0032
配列番号6 軽鎖HVR-L3、HLA-G-0032
配列番号7 重鎖可変ドメインVH、HLA-G-0032
配列番号8 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0032
配列番号9 重鎖HVR-H1、HLA-G-0037
配列番号10 重鎖HVR-H2、HLA-G-0037
配列番号11 重鎖HVR-H3、HLA-G-0037
配列番号12 軽鎖HVR-L1、HLA-G-0037
配列番号13 軽鎖HVR-L2、HLA-G-0037
配列番号14 軽鎖HVR-L3、HLA-G-0037
配列番号15 重鎖可変ドメインVH、HLA-G-0037
配列番号16 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0037
配列番号17: 例示的ヒトHLA-G
配列番号18: 例示的ヒトHLA-G細胞外ドメイン(ECD)
配列番号19: 例示的ヒトβ2M
配列番号20: 修飾ヒトHLA-G(HLA-G特異性のアミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられている(=デグラフトHLA-G、図1も参照)のECD)
配列番号21: 例示的ヒトHLA-A2
配列番号22: 例示的ヒトHLA-A2のECD
配列番号23: 例示的マウスH2KdのECD
配列番号24: 例示的ラットRT1AのECD
配列番号25: 例示的ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体
配列番号26: 例示的な修飾ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体(HLA-G特異性のアミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられている(=デグラフトHLA-G)図1も参照)
配列番号27: 例示的マウスH2Kd β2M MHCクラスI複合体
配列番号28: 例示的ヒトHLA-G/マウスH2Kd β2M MHCクラスI複合体(ヒトHLA-Gに特異的な位置がマウスH2Kdフレームワーク上に移植されている)
配列番号29: 例示的ラットRT1A β2M MHCクラスI複合体
配列番号30: 例示的ヒトHLA-G/ラットRT1A β2M MHCクラスI複合体(ヒトHLA-Gに特異的な位置がラットRT1Aフレームワーク上に移植されている)
配列番号31: リンカー及びhisタグ
配列番号32: ペプチド
配列番号33: ヒトカッパ軽鎖定常領域
配列番号34: ヒトラムダ軽鎖定常領域
配列番号35: ヒト重鎖定常領域に由来するIgG1
配列番号36: ヒト変異L234A、L235A及びP329Gを含む、ヒト重鎖定常領域に由来するIgG1
配列番号37: ヒト重鎖定常領域に由来するIgG4
配列番号38: 重鎖可変ドメインVH、HLA-G-0033
配列番号39: 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0033
【0190】
以下に、本発明の特定の実施態様を列挙する:
1.ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体であって、配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC I複合体に結合する抗体。
2.単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を阻害する、実施態様1による抗体。
3.単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、50%を超えて(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する、実施態様2による抗体。
4.単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、50%を超えて(一実施態様では70%を超えて)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する、実施態様2による抗体。
5.JEG3細胞(上のヒトHLA-G)(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を、50%を超えて(一実施態様では80%を超えて)((蛍光標識細胞分取を用いる)フローサイトメトリーアッセイ(FACSアッセイ)において測定した場合)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する、実施態様1から4のいずれか一つによる抗体。
6.ヒトHLA-Gに特異的に結合する単離された抗体であって、JEG3細胞(上のヒトHLA-G)(ATCC No.HTB36)に結合し、JEG3細胞(上のヒトHLA-G)(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を、抗体なしでの結合と比較したとき、50%を超えて(一実施態様では80%を超えて)((蛍光標識細胞分取を用いる)フローサイトメトリーアッセイ(FACSアッセイ)において測定した場合)阻害する抗体。
7.配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)実施態様1から6のいずれか一つによる抗体。
8.配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)及び/又は配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)、実施態様1から7のいずれか一つによる抗体。
9.配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない)、実施態様1から8のいずれか一つによる抗体。
10.ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であって、
A)(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3;又は
B)(a)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む抗体。
11.ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であって、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1,(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号3から選択されたアミノ酸配列を含むHVR-H3を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むVLドメイン;又は
B)(a)(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1,(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号11から選択されるアミノ酸配列を含むHVR-H3を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むVLドメイン
を含む。
12.ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であって、
A)
i)配列番号7のVH配列及び配列番号8のVL配列;又は
ii)i)の抗体のVH及びVLのヒト化変異体
を含む;或いは
B)
i)配列番号15のVH配列及び配列番号16のVL配列;又は
ii)i)の抗体のVH及びVLのヒト化変異体
を含む抗体。
13.ヒトHLA-Gに結合する単離された抗体であって,
a)配列番号7のVH配列及び配列番号8のVL配列を含む抗体と同じエピトープに結合する;又は
b)配列番号15のVH配列及び配列番号16のVL配列を含む抗体と同じエピトープに結合する
抗体。
14.実施態様10から13のいずれか一つによる抗HLA-G抗体であって、以下の特性:
a)配列番号26を含む修飾ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない);及び/又は
b)配列番号21及び配列番号19を含むヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない);及び/又は
c)配列番号27を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない);及び/又は
d)配列番号29を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない(同複合体に特異的に結合しない);及び/又は
e)単量体HLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に対するILT2の結合を阻害する;及び/又は
f)単量体HLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に対するILT2の結合を、50%を超えて(一実施態様では70%を超えて)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する;及び/又は
g)単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に対するILT2の結合を、50%を超えて(一実施態様では70%を超えて)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する;及び/又は
h)JEG3細胞(の上のヒトHLA-G)(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を(50%を超えて(一実施態様では80%を超えて))(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する(実施例6参照);及び/又は
i)JEG3細胞(上のヒトHLA-G)(ATCC No.HTB36)に結合し(実施例5参照)、JEG3細胞(上のヒトHLA-G)(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を(50%を超えて(一実施態様では80%を超えて))(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する(実施例6参照);及び/又は
j)ヒトHLA-G β2M MHC I複合体(配列番号25を含む)に結合し、単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、60%を超えて(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害し、二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT4の結合を、50%を超えて(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する(例えば実施例4b参照)
ことによって独立に特徴付けられる抗体。
15.IgG1アイソタイプのものである、実施態様1から14のいずれか一つによる抗体。
16.変異L234A、L235A及びP329G(KabatのEUインデックスによる番号付け)を含むIgG1アイソタイプのものである、実施態様15による抗体。
17.実施態様1から16のいずれか一つによる抗体をコードする、単離された核酸。
18.実施態様17の核酸を含む宿主細胞。
19.抗体が生成されるように実施態様18による宿主細胞を培養することを含む、抗体生成方法。
20.宿主細胞から抗体を回収することをさらに含む、実施態様19の方法。
21.実施態様1から16のいずれか一つによる抗体と、薬学的に許容される担体とを含む薬学的製剤。
22.医薬としての使用のための、実施態様1から16のいずれか一つによる抗体。
23.がんの治療における使用のための、実施態様1から16のいずれか一つによる抗体。
24.医薬の製造における、実施態様1から16のいずれか一つによる抗体の使用。
25.医薬ががんの治療のためのものである、実施態様24の使用。
26.がんを有する個体を治療する方法であって、個体に対し、実施態様1、6又は10から13の抗体の有効量を投与することを含む方法。
27. 抗HLAG抗体(例えば実施態様1から4による)を選択するための方法であって:
a)表面プラズモン共鳴アッセイにより、配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC I複合体に対する抗HLAG抗体の結合を決定する工程;
b)それぞれの抗HLAG抗体による単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合の阻害を決定する工程;並びに
c)単量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、50%を超えて(一実施態様では80%を超えて)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する抗HLAG抗体を選択する工程、又は単量体及び/又は二量体及び/又は三量体HLA-G β2M MHC I複合体に対するILT2の結合を、50%を超えて(一実施態様では70%を超えて)(抗体なしでの結合と比較したとき)阻害する抗HLAG抗体を選択する工程
を含む方法。
28. 抗HLAG抗体(例えば実施態様6による)を選択するための方法であって:
a)(蛍光標識細胞分取を用いる)フローサイトメトリーアッセイ(FACSアッセイ)において、JEG3細胞(ATCC No.HTB36)に対する抗HLAG抗体の結合を決定する工程
b)(蛍光標識細胞分取を用いる)フローサイトメトリーアッセイ(FACSアッセイ)において、それぞれの抗HLAG抗体によるJEG3細胞(ATCC No.HTB36)に対するILT2の阻害を決定する工程;並びに
c)JEG3(ATCC No.HTB36)細胞に結合し、且つJEG3細胞(ATCC No.HTB36)に対するILT2の結合を、抗体なしでの結合と比較したとき、50%を超えて(一実施態様では80%を超えて)阻害する抗HLAG抗体を選択する工程
を含む方法。
【実施例0191】
組み換えDNA技術
標準的な方法を使用して、Sambrook, J. et al., Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載されているようにDNAを操作した。分子生物学的試薬を、製造元の指示に従って使用した。
【0192】
遺伝子とオリゴヌクレオチドの合成
所望の遺伝子分節を、Geneart GmbH(Regensburg,Germany)において化学合成により調製した。合成された遺伝子断片を、伝播/増幅のために大腸菌プラスミド中にクローニングした。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列を、DNA配列決定によって確認した。代替的に、短い合成DNA断片を、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドをアニーリングすることにより、又はPCRを介して構築した。それぞれのオリゴヌクレオチドを、metabion GmbH(Planegg-Martinsried,Germany)により集合させた。
【0193】
基本的な/標準の哺乳動物発現プラスミドの説明
所望の遺伝子/タンパク質(例えば完全長抗体重鎖、完全長抗体軽鎖、又はMHCクラスI分子、例えばHLA-G、又はペプチド及びベータ-2ミクログロブリンに融合したMHCクラスI分子、例えばHLA-G結合ペプチドに融合したHLA-G及び/又はベータ-2ミクログロブリン)の発現のために、以下の機能的要素を含む転写ユニットが使用される:
-イントロンAを含むヒトサイトメガロウイルス(P-CMV)からの前早期エンハンサー及びプロモーター、
-ヒト重鎖免疫グロブリン 5’-非翻訳領域(5’UTR),
-マウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列,
-発現される遺伝子/タンパク質(例えば完全長抗体重鎖又はMHCクラスI分子)、及び
-ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)。
【0194】
発現される所望の遺伝子を含む発現ユニット/カセットの他に、基本的な/標準の哺乳動物発現プラスミドは、
-大腸菌においてこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18由来の複製開始点、及び
-大腸菌にアンピシリン耐性を付与するベータ-ラクタマーゼ遺伝子
を含む。
【0195】
タンパク質定量
精製されたポリペプチドのタンパク質濃度を、ポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて計算されたモル吸光係数を用いて、280nmにおける光学濃度(OD)を測定することにより決定した。
【0196】
実施例1
スクリーニング及びカウンタースクリーニングのためのHLA-G キメラ分子の生成
他のMHC I分子との高い相同性(>98%)に起因して、HLA-G分子による免疫化の結果、MHC-I交差反応性抗体と真にHLA-G特異性の抗体との混合物から構成されるポリクローナル血清が生成される。
【0197】
これまでのところ、他のヒトMHC-I(例えばHLA-A)に対する交差反応性を有さない真にHLA-G特異性の抗体を選択し、さらには受容体遮断機能を有するものを選択するためのツールは提供されていない。
【0198】
本発明者らは、構造的な整合及び受容体の相互作用に必要な位置と組み合わせて特有のHLA-G位置を同定した(ILT2/4及びKIR2DL4)。
【0199】
次いで、ヒトHLA-Gの固有且つ近位の位置を、様々なげっ歯動物の種由来のMHCクラスI複合分子(例えばラットRT1A及びマウスH2kd)上に「移植」し、「キメラ」免疫原/スクリーニング抗原を生成した。
【0200】
生成された抗体は、結合/特異性に関して(及びカウンター抗原に対する結合/特異性がないことに関して)ストリンジェントなスクリーニングに供された。
スクリーニング抗原:
-配列番号25を含むヒトHLA-G β2M MHC複合体として発現されたrec. HLA-G
-ラットRT-1及びマウスH2kd上に移植されたHLA-G特異性配列(配列番号28:ヒトHLA-Gに特異的な位置がマウスH2Kdフレームワーク上に移植されている、ヒトHLA-G/マウスH2Kd β2M MHCクラスI複合体、及び配列番号30:ヒトHLA-Gに特異的な位置がラットRT1Aフレームワーク上に移植されている、ヒトHLA-G/ラットRT1A β2M MHCクラスI複合体)
-天然HLA-G MHCクラスI複合体発現細胞(例えばJEG3細胞)、又はヒトHLA-Gがトランスフェクトされた細胞株SKOV3であるHLA-G+及びPA-TU-8902 HLA-G+。
スクリーニングカウンター抗原:
-様々なペプチドと組み合わされた他のHLA-A配列(HLA-A2及びHLA-GHlA-Aコンセンサス配列によるデグラフト)を含むカウンター抗原(MHCクラスI複合体)(例えばHLA-Gフレームワーク上の配列番号22(HLA-A2)及び配列番号26のHLA-Aコンセンサス配列参照)
-ラットRT-1及びマウスH2kd(配列番号27及び配列番号29)といった他の種由来のカウンター抗原(MHCクラスI複合体)
-HLA-G発現が存在しないことを特徴とする、非修飾腫瘍細胞株であるSKOV3及びPA-TU-8902。
【0201】
HLA特異性の抗体の生成のための免疫化及びスクリーニングにおける使用のためのキメラHLA-G抗原の設計(図1参照):
野生型(wt)及びトランスジェニックラット、又はウサギ及びマウスなどの免疫化における使用のため、及び/又はスクリーニングアッセイにおける使用のためのHLA-G特有の位置(配列番号30)を担持するキメララットMHC I分子(RT1-A)の設計:
HLA-G特有の位置を、IMGT(2014年2月6日に入手可能であったもの)の2579 HLA-A、3283 HLA-B、2133 HLA-C、15 HLA-E、22 HLA-F、及び50 HLA-G配列のアラインメントにより同定した。3つの配列セットHLA-A、HLA-B、及びHLA-C+HLA-E+HLA-Fを組み合わせたセットのいずれかの配列の1%未満(多くの場合~0%)に存在するHLA-Gのそれら残基を、HLA-G特有の位置と呼ぶ。
【0202】
4つのコアとなるHLA-G特有の位置(アルファ-1に2つ、及びアルファ-3に2つ)は、HLA-G配列のセットに多型を示さず、他のHLA遺伝子でこれらの位置にHLA-G特異性の残基を含むものはない(M100の場合1×HLA-A、Q103の場合1×HLA-B、及びQ103の場合1×HLA-Cを除く)。
【0203】
ラットRT1-Aの結晶構造(Rudolph, M.G. et al. J.Mol.Biol. 324: 975-990(2002);PDBコード:1KJM)を、ヒトHLA-Gの結晶構造に重ね合わせた(Clements, C.S. et al. PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 102: 3360-3365(2005);PDBコード:1YDP)。アルファ鎖の構造及び関連するベータ-2-ミクログロブリンの全体構造は保存されている。
【0204】
HLA-G特有の位置を、配列及び構造アラインメンの比較によりRT1-A構造において同定した。第1の工程において、HLA-G及びRT1-Aの分子表面上に曝露されているために抗体が到達可能である特有のHLA-G位置を同定した。折り畳まれたタンパク質の内部に埋設される特有の位置を、エンジニアリングから除外した。第2の工程では、対応する領域「HLA-G様」を作製するため、即ち、人工的であろうHLA-G/ラットRT1-Aキメラエピトープを生成するのではなく、特有の位置を含む本物のHLA-Gエピトープを生成するためにはやはり交換されなければならない、構造的に近位の残基を同定した。変異のためにこのように選択されたすべての位置を、変異時の分子構造の局在的な攪乱の可能性を回避するために、HLA-G由来のそれぞれの残基の構造的な一致について分析した。
【0205】
免疫化における使用のため及び/又はスクリーニングアッセイにおける使用のための、HLA-G特有の位置を担持するキメラマウスMHC I分子(H2Kd)(配列番号28)を同様に生成した。
【0206】
スクリーニングにカウンター抗原として使用されるHLA-Aコンセンサス配列(配列番号26)に向けてHLA-G特有の位置を「デグラフトすること(de-grafting)」による、HLA-Aベースのカウンター抗原の設計
複数の配列アラインメント由来の特有の位置を、ヒトHLA-G(PDBコード:1YDP)の結晶構造中において分析した。まず、HLA-G表面上に露出しておらず、したがって抗体が到達できない位置を、エンジニアリングのために除外した。次に、表面に露出した残基を、アミノ酸交換の実現可能性について分析した(即ち関連する位置が変異した時の分子構造の局所的攪乱の可能性の排除)。合計で、14の位置を交換について検証した。検証された位置におけるアミノ酸を、IMGT(2014年2月6日に入手可能であったもの)からダウンロードされた、2579個のHLA-A配列の複数の配列アラインメントから誘導されるHLA-Aコンセンサス配列へと変異させた。
【0207】
可溶型古典的及び非古典的MHCクラスI分子の発現プラスミドの生成
組み換えMHCクラスI遺伝子は、それぞれのMHCクラスI分子、ベータ-2ミクログロブリン、及びそれぞれのMHCクラスI分子が結合することが知られているペプチドからなるN末端伸長融合分子をコードする。
【0208】
可溶型MHCクラスI分子の一過性発現のための発現プラスミドは、可溶型MHCクラスI分子の発現カセットに加えて、大腸菌においてこのプラスミドの複製を可能にする、ベクターpUC18由来の複製開始点、及び大腸菌におけるアンピシリン耐性を付与するベータ-ラクタマーゼ遺伝子を含んでいた。
【0209】
可溶型MHCクラスI分子の転写ユニットは、以下の機能的要素を含んでいた:
-イントロンAを含むヒトサイトメガロウイルス(P-CMV)からの前早期エンハンサー及びプロモーター、
-ヒト重鎖免疫グロブリン 5’-非翻訳領域(5’UTR),
-マウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列,
-N末端切断型黄色ブドウ球菌ソルターゼAコード化核酸、及び
-ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)。
【0210】
様々な種に由来する成熟可溶型MHCクラスI分子のアミノ酸配列は以下の通りである:
配列番号25: 例示的ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体
配列番号26: 例示的な修飾ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体(HLA-G特異性のアミノ酸がHLAコンセンサスアミノ酸によって置き換えられている(=デグラフトHLA-G、図1も参照))
配列番号27: 例示的マウスH2Kd β2M MHCクラスI複合体
配列番号28: 例示的ヒトHLA-G/マウスH2Kd β2M MHC複合体(ヒトHLA-Gに特異的な位置がマウスH2Kdフレームワーク上に移植されている)
配列番号29: 例示的ラットRT1A β2M MHCクラスI複合体
配列番号30: 例示的ヒトHLA-G/ラットRT1A β2M MHC複合体(ヒトHLA-Gに特異的な位置がラットRT1Aフレームワーク上に移植されている)
【0211】
スクリーニングに使用される例示的なHLA-A2 β2M MHCクラスI複合体のために、以下の成分が使用され、複合体が大腸菌に発現され、精製された。
【0212】
MHCI複合体HLA-A2/b2M(配列番号22及び19)(共にさらなるN末端メチオニンを有する)+VLDFAPPGAペプチド(配列番号32)+リンカー及びhisタグ(配列番号31)
【0213】
実施例2
免疫化キャンペーン
a.キメラタンパク質(非特異性MHC-I/HLAに対する耐性及び特有のHLA-G位置への方向)
免疫化には、Charles River Laboratories International,Inc.から取得されたBalb/Cマウスを使用した。動物は、AAALACi(国際実験動物ケア評価認証協会)の付録A「Guidelines for accommodation and care of animals」に従って収容した。すべての動物免疫化プロトコール及び実験は、Government of Upper Bavariaによって承認され(許可番号55.2-1-54-2531-19-10及び55.2-1-54-2532-51-11)、ドイツ動物保護法及び欧州会議及び理事会の指示2010/63に従って実施された。
【0214】
Balb/Cマウス(n=5)(週齢6~8)は、4週間の過程において、キメラH2Kd/HLA-G分子(配列番号28(「HLA-G-0006」))による5回の免疫化を受けた。マウスは、各免疫化の前に酸素とイソフルランの気体混合物により麻酔した。一回目の免疫化では、20mMのHis/HisCl、140mMのNaCl(pH6.0)に溶解した15μgのタンパク質を、等容積のCFA(BD Difco、#263810)と混合し、マウスの背中に沿って、排出リンパ節近位の六つの部位、即ち首筋の二つの部位と鼠径部及び腓腹の両側のそれぞれ二つの部位とに皮下(s.c.)投与した。RIBIアジュバント(Sigma-Aldrich、#S6322)に乳化させたさらに15μgのタンパク質を、腹部に沿って並ぶ六つの部位、即ち腋窩、鼠径部、及び大腿部の両側のそれぞれ二つの部位に投与した。追加免疫の抗原を、用量を漸減させながら、7日目(10μg)、14日目(5μg)、21日目(5μg)、及び28日目(5μg)に同じように与え、但し、RIBIアジュバントを、全体を通して、腹部に沿ってのみ使用した。最後の免疫化の三日後、マウスを安楽死させ、両側の膝窩、浅鼠径、腋窩、及び鰓器官のリンパ節を無菌的に単離し、ハイブリドーマ生成のために調製した。血清を、第3及び第5の免疫化の後で、ELISAによる組み換えヒトHLA-G及び免疫原特異性全IgG抗体生成のために試験した。
【0215】
Balb/Cマウス(n=5),(週齢6~8)の別のセットは、3カ月の過程において、キメラH2Kd/HLA-G分子(HLA-G-0006)による三回の免疫化を受けた。一回目の免疫化のために、20mMのHis/HisClに溶解した100μgのタンパク質、140のmM NaCl(pH6.0)を、等容積のCFA(BD Difco、#263810)と混合し、腹腔内(i.p.)投与した。追加免疫が、28日目と56日目に同じ方式で、但し完全フロイントアジュバント(BD DifcoからのIFA、#DIFC263910)を使用して、実施された。最後の免疫化の四から五週間後、滅菌PBS中、約25μgの免疫原をマウスに静脈内(i.v.)投与し、その72時間後、脾臓を無菌的に摘出し、ハイブリドーマ生成のために調製した。血清を、組み換えヒトHLA-G(配列番号25(「HLA-G-0003」))、及び免疫原特異性のキメラH2Kd/HLA-G分子(配列番号28(「HLA-G-0006」))について試験し、三回目の免疫化後、コンセンサスHLA-A特異性の位置(配列番号26(「HLA-G-0007」))及びマウスH2kdタンパク質(配列番号27「HLA-G-0009」))総IgG抗体生成を含む「デグラフト」ヒトHLA-Gを用いて、ELISAによりカウンタースクリーニングした。
【0216】
b.野生型HLA-Gタンパク質
免疫化には、Charles River Laboratories International,Inc.から取得されたCDラットを使用した。動物は、AAALACi(国際実験動物ケア評価認証協会)の付録A「Guidelines for accommodation and care of animals」に従って収容した。すべての動物免疫化プロトコール及び実験は、Government of Upper Bavariaによって承認され(許可番号55.2-1-54-2532-51-11)、ドイツ動物保護法及び欧州会議及び理事会の指示2010/63に従って実施された。
【0217】
CDラット(n=4),(週齢6~8)は、4カ月の過程において、組み換えヒトHLA-Gタンパク質(配列番号25(「HLA-G-0003」))による4回の免疫化を受けた。一回目の免疫化のために、20mMのHis/HisClに溶解した100μgのタンパク質、140mMのNaCl(pH6.0)を、等容積のCFA(BD Difco、#263810)と混合し、腹腔内投与した。追加免疫が、28日目、56日目、及び84日目に同じ方式で、但し全体を通して完全フロイントアジュバント(BD DifcoからのIFA、#DIFC263910)を使用して、実施された。最後の免疫化の三から四週間後、滅菌PBS中、約75μgの免疫原をラットにi.v.投与し、その72時間後、脾臓を無菌的に摘出し、ハイブリドーマ生成のために調製した。血清を、三回目及び四回目の免疫化後に、ELISAにより、組み換えHLA-G(配列番号25(「HLA-G-0003」))特異性のIgG1、IgG1a、IgG2b及びIgG2c抗体生成について試験し、コンセンサスHLA-Aに特異性の位置(配列番号26(「HLA-G-0007」))を有する「デグラフト」ヒトHLA-Gを用いてカウンタースクリーニングした。
【0218】
c.JEG3細胞(ATCC No.HTB36)(天然発現HLA-G)
免疫化には、Charles River Laboratories International,Inc.から取得されたCDラットを使用した。動物は、AAALACi(国際実験動物ケア評価認証協会)の付録A「Guidelines for accommodation and care of animals」に従って収容した。すべての動物免疫化プロトコール及び実験は、Government of Upper Bavariaによって承認され(許可番号AZ.55.2-1-542531-83-13)、ドイツ動物保護法及び欧州会議及び理事会の指示2010/63に従って実施された。
【0219】
二組のCDラット(n=2),(週齢6~8)は、それぞれ五カ月(A)から七カ月(B)の過程において、JEG-3細胞(ATCC HTB36)を用いた5回(A組)又は7回(B組)の免疫化を受けた。一回目の免疫化のために、滅菌PBSに溶解した1x10^7個の細胞を、等容積のCFA(BD Difco、#263810)と混合し、腹腔内投与した。追加免疫が、28日目、56日目、84日目、112日目、140日目(B組のみ)、及び168日目(B組のみ)に、同じ方式で、但し全体を通して完全フロイントアジュバント(BD DifcoからのIFA、#DIFC263910)を使用して、実施された。最後の免疫化の三週間後、滅菌PBS中、100μgの組み換えヒトHLA-Gタンパク質(配列番号25(「HLA-G-0003」))をラットにi.v.投与し、その72時間後、脾臓を無菌的に摘出し、ハイブリドーマ生成のために調製した。血清を、それぞれ三回目、五回目及び七回目の免疫化後に、ELISAにより、組み換えHLA-G(配列番号25(「HLA-G-0003」))特異性のIgG1、IgG1a、IgG2b及びIgG2c抗体生成-特異性のIgG1、IgG1a、IgG2b及びIgG2c抗体生成について試験し、コンセンサスHLA-Aに特異性の位置(配列番号26(「HLA-G-0007」))を有する「デグラフト」ヒトHLA-Gを用いてカウンタースクリーニングした。
【0220】
d.JEG3/DNA IMS(追加免疫効果のため)
免疫化には、Charles River Laboratories International,Inc.から取得されたCDラットを使用した。動物は、AAALACi(国際実験動物ケア評価認証協会)の付録A「Guidelines for accommodation and care of animals」に従って収容した。すべての動物免疫化プロトコール及び実験は、Government of Upper Bavariaによって承認され(許可番号AZ.55.2-1-542531-83-13)、ドイツ動物保護法及び欧州会議及び理事会の指示2010/63に従って実施された。
【0221】
CDラット(n=5)(週齢6~8)には、三カ月の過程において、プラスミドDNAと細胞ベースの免疫化を交互に実施した。単鎖分子としてヒトHLA-GをコードするプラスミドDNA HLA-G-0030(p17747)と、天然にHLA-Gを発現するJEG-3細胞(ATCC HTB36)を、それぞれこの目的のために使用した。
【0222】
一回目の免疫化のために、動物を、イソフルラン麻酔し、動物の尾部近傍の、背中の毛を剃った一の部位に適用した滅菌H2O中100μgのプラスミドDNAで皮内(i.d.)免疫した。i.d.適用後、その部位を、ECM 830エレクトロポレーションシステム(BTX Harvard Apparatus)に以下のパラメータを使用して、即ち:それぞれ0.1msにわたり1000V/cmで、125msの間隔を空けて二回、続いて10msにわたり287.5V/cmで、やはり125msの間隔を空けて四回、電気穿孔した。14日目における二回目の免疫化のために、動物に、滅菌PBSに溶解した1x10^7個の細胞を投与し、これを等容積のCFA(BD Difco、#263810)と混合し、安定なエマルションの生成後、腹腔内投与した。追加免疫が、28日目(DNA)、42日目(細胞)、56日目(DNA)、70日目(細胞)に、同じ方式で、但し完全フロイントアジュバント(BD DifcoからのIFA、#DIFC263910)を全体を通して細胞免疫化に使用して、実施された。最後の免疫化から四週間後、滅菌PBS中、100μgの安定な組み換えヒトHLA-G MHCクラスIタンパク質(配列番号25(「HLA-G-0003」))をラットにi.v.投与し、その72時間後、脾臓を無菌的に摘出し、ハイブリドーマ生成のために調製した。血清を、それぞれ三回目、五回目及び六回目の免疫化後に、ELISAにより、安定な組み換えヒトHLA-G MHCクラスIタンパク質(配列番号25(「HLA-G-0003」))特異性のIgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG2c抗体生成について試験し、コンセンサスHLA-Aに特異性の位置(配列番号26(「HLA-G-0007」))を有する「デグラフト」ヒトHLA-Gを用いてカウンタースクリーニングした。
【0223】
すべての免疫化戦略において、高度に他反応性体液性免疫応答が誘導され、免疫化された動物由来のポリクローナル血清を用いてELISAフォーマットにおいて分析したところ、HLA-G、並びにカウンタースクリーニングに使用されたタンパク質(例えば組み換え「デグラフト」ヒトHLA-G、キメラ H2Kd/HLA-G分子又は関連ヒトHLA-A2分子)を認識した(データは示さない)。
【0224】
得られた抗HLA-G特異性の抗体の結合特性及び生物活性を、以下の実施例に記載されるように決定し、既知の参照抗体と比較した。
【0225】
実施例3
A)可溶型ヒトHLA-G、HLA-A特異性の配列を有する可溶型デグラフトヒトHLA-G、ヒトHLA-A2、及び/ラットマウスH2-Kdに対する抗HLA-G抗体の結合
免疫化により得た抗体を、ヒト、ラット及びマウスHLA-G、キメラ、デグラフトHLA-G及びHLA-Aに対するそれらの結合特性についてスクリーニングした。それぞれのアッセイについて以下に記載する。ヒトHLA-Gの試験のために、単量体と、二量体及び三量体の形態が使用された(以下の調製を参照)。
【0226】
ヒトHLA-G MHCクラスIタンパク質の二量体化/三量体化
単量体のHisタグ付き可溶型ヒトHLA-G MHCクラスIタンパク質(配列番号23)を含む上清を、AKTA-FPLCを用いて、5mlのNi-セファロースを有するHisTrap HPカラム(GE Healthcare#17-5248-02)に0,2ml/分の流速で一晩室温でロードした。次いでカラムを0.5Mのイミダゾールを含む2% DPBS(Merck#8.14223.025)でベースラインに到達するまで洗浄した。次いでカラムを、0.5Mのイミダゾールを含む2% DPBS中10mMのDTTで平衡化し、室温で30分間インキュベートした。PBS/10mMのイミダゾールを用いてカラムからDTTを洗い流し、0.5mMのイミダゾールを含む2~100%の勾配のDPBSでタンパク質を溶出した。Amicon-Ultra 15M/Ultracel 10Kを用いて溶出液を濃縮した後、タンパク質を24時間室温でインキュベートし、続いて48時間4℃でインキュベートして、二量体化/多量体化させた。次いで、二量体と三量体の分離をSuperdex 200 HiLoad 16/60(GE Healthcare#17-5175-01)で実施し、0.5MのNaOHで一晩洗浄した。カラムをPBSで均衡化し、続いて10mg/mlのBSAで飽和させた。次いで二量体(画分A9)と三量体(画分A8)とを収集し、分注し、後で使用するまで-80℃で保存した。
【0227】
ヒト野生型HLA-G結合ELISA
ストレプトアビジンでコーティングしたプレート(Nunc、MicroCoat#11974998001)を、25μl/ウェルの、濃度250ng/mlのビオチン化ヒト野生型HLA-Gでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)した後、25μlの抗HLA-G試料(OSEPバッファー中で1:3に希釈)又は参照抗体(G233、Thermo/Pierce#MA1-19449、500ng/ml)を加え、1時間室温でインキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)の後、25μl/ウェルのヤギ-抗マウスH+L-POD(Biorad#170-6561、OSEP中1:2000)又はロバ-抗ウサギIgG POD(GE#NA9340V、OSE中1:5000)を加え、シェーカーで1時間室温でインキュベートした。ラットIgGの検出のために、ヤギ-抗ラットIgG1-POD(Bethyl#A110-106P)、ヤギ-抗ラットIgG2a-POD(Bethyl#A110-109P)及びヤギ-抗ラットIgG2b-POD(Bethyl#A110-111P)をOSEP中1:10000で加え、シェーカーで1時間室温でインキュベートした。洗浄(6x90μl/ウェルのPBSTバッファー)の後、25μl/ウェルのTMB基質(Roche、11835033001)を加え、OD2~3までインキュベートした。測定は、Tecan Safire 2機器において、370/492nmで行った。
【0228】
HLA-A特異性配列を有するヒトデグラフトHLA-G結合ELISA
ストレプトアビジンでコーティングしたプレート(Nunc、MicroCoat#11974998001)を、25μl/ウェルの、濃度250ng/mlのビオチン化ヒトデグラフトHLA-Gでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、25μlの抗HLA-G試料(OSEPバッファー中で1:3に希釈)又はラット血清(OSEP中で1:600に希釈)を加え、1時間室温でインキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、ヤギ-抗ラットIgG1-POD(Bethyl#A110-106P)、ヤギ-抗ラットIgG2a-POD(Bethyl#A110-109P)及びヤギ-抗ラットIgG2b-POD(Bethyl#A110-111P)の混合物25μl/ウェルを、OSEP中1:10000で加え、シェーカーで1時間室温でインキュベートした。洗浄(6x90μl/ウェルのPBSTバッファー)の後、25μl/ウェルのTMB基質(Roche、11835033001)を加え、OD2~3までインキュベートした。測定は、Tecan Safire 2機器において、370/492nmで行った。
【0229】
ラットMHC I(RT1-A)結合ELISA
ストレプトアビジンでコーティングしたプレート(Nunc、MicroCoat#11974998001)を、25μl/ウェルの、濃度250ng/mlのビオチン化ラットMHC I(RT1-A)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、25μlの抗HLA-G試料(OSEPバッファー中で1:3に希釈)又はラット血清(OSEP中で1:600に希釈)を加え、1時間室温でインキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、ヤギ-抗ラットIgG1-POD(Bethyl#A110-106P)、ヤギ-抗ラットIgG2a-POD(Bethyl#A110-109P)及びヤギ-抗ラットIgG2b-POD(Bethyl#A110-111P)の混合物25μl/ウェルを、OSEP中1:10000で加え、シェーカーで1時間室温でインキュベートした。洗浄(6x90μl/ウェルのPBSTバッファー)の後、25μl/ウェルのTMB基質(Roche、11835033001)を加え、OD2~3までインキュベートした。測定は、Tecan Safire 2機器において、370/492nmで行った。
【0230】
HLA-A2結合ELISA
ストレプトアビジンでコーティングしたプレート(Nunc、MicroCoat#11974998001)を、25μl/ウェルの、濃度250ng/mlのビオチン化ヒトHLA-A2でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、25μlの抗HLA-G試料(OSEPバッファー中で1:3に希釈)又はラット血清(OSEP中で1:600に希釈)を加え、1時間室温でインキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、ヤギ-抗ラットIgG1-POD(Bethyl#A110-106P)、ヤギ-抗ラットIgG2a-POD(Bethyl#A110-109P)及びヤギ-抗ラットIgG2b-POD(Bethyl#A110-111P)の混合物25μl/ウェルを、OSEP中1:10000で加え、シェーカーで1時間室温でインキュベートした。洗浄(6x90μl/ウェルのPBSTバッファー)の後、25μl/ウェルのTMB基質(Roche、11835033001)を加え、OD2~3までインキュベートした。測定は、Tecan Safire 2機器において、370/492nmで行った。
【0231】
抗HLA-G抗体の結合キネティクス
ヒトHLA-G、ヒトHLA-Gデグラフト及びヒトHLA-A2に対する抗HLA-G抗体の結合キネティクスを、BIACORE T200機器(GE Healthcare)を用いる表面プラズモン共鳴により調査した。すべての実験を、PBSバッファー(pH7.4+0.05% Tween20)をランニングバッファーとして、及びPBSバッファー(+ 0,1% BSA)を希釈バッファーとして用いて、25℃で実施した。抗ヒトFc(JIR009-005-098、Jackson)又は抗ラットFc(JIR112-005-071、Jackson)又は抗マウスFc(JIR115-005-071、Jackson)抗体を、GE Healthcareによって供給されるアミンカップリングキットを用いることにより、Series S CM5 Sensor Chip(GE Healthcare)上にpH5.0で固定化した。抗HLA-G抗体は表面上に捕捉され、50~200RUの捕捉応答をもたらした。HLA-G分子を、2.5から800nMの濃度で(2x1:2及び4x1:3の希釈系列)表面上に180秒間にわたって30μl/分で注入した(会合相)。ランニングバッファーで洗浄することにより、解離相を300~600秒間監視した。表面を、抗ヒトFc捕捉抗体についてはH3PO4(0.85%)を60+30秒間にわたって注入することにより、抗ラットFc捕捉抗体についてはグリシン(pH1.5)を60秒間にわたって及びグリシン(pH2.0)を60秒間にわたって注入することにより、抗マウスFc捕捉抗体についてはH3PO4(0.85%)を80+60秒間にわたって注入することにより、再生した。バルク屈折率の差異は、モック面から得られた応答を差し引くことにより修正された。ブランク注入が差し引かれた(二重参照)。 得られた曲線を、BIAevaluationソフトウェアを用いて1:1ラングミュア結合モデルにフィッティングした。
【0232】
抗HLA-G抗体のクロスブロッキング
ヒトHLA-Gに対する抗HLA-G抗体の結合のクロスブロッキング実験を、BIACORE T200又はB4000機器(GE Healthcare)を用いる表面プラズモン共鳴により調査した。すべての実験を、PBSバッファー(pH7.4+0.05% Tween20)をランニングバッファーとして用いて、25℃で実施した。
【0233】
抗ヒトFab(GE-Healthcare、28-9583-25)抗体を、供給者のプロトコールに従ってSeries S CM5 Sensor Chip(GE Healthcare)に固定化し、ヒトCkドメインを含むOMTラットから抗体を捕捉した。抗HLA-G抗体は、15μg/mlの濃度で70秒間捕捉した。野生型HLA-Gを、500又は1000nMの濃度で60秒間注入した(30μl/分)。次いで野生型ラット抗体を、30μg/mlの濃度で90秒間注入した。ランニングバッファーで洗浄することにより、解離相を60又は240秒間監視した。グリシン(pH1.5)を60秒間にわたって注入し、追加の安定化期間を90秒間おくことにより、表面を再生した。
【0234】
別のアッセイ設定では、抗ヒトFab(GE-Healthcare、28-9583-25)抗体を、供給者のプロトコールに従ってSeries S CM5 Sensor Chip(GE Healthcare)に固定化し、ヒトCkドメインを含むOMTラットから抗体を捕捉した。抗HLA-G抗体は、30μg/mlの濃度で90秒間捕捉した。捕捉抗体上の占有されていない結合部位を、4×120秒間にわたり濃度500μg/ml及び流速30μl/分でヒトIgG(JIR009-000-003)を注入することによりブロックした。野生型HLA-Gを、500nMの濃度で90秒間注入した(30μl/分)。次いでOMTラット(ヒトCkドメイン)からの第2の抗体を、30μg/mlの濃度で90秒間注入した。ランニングバッファーで洗浄することにより、解離相を240秒間監視した。グリシン(pH1.5)を60秒間にわたって注入し、追加の安定化期間を90秒間おくことにより、表面を再生した。
【0235】
【0236】
上の表は、野生型タンパク質IMS由来の様々なラット抗ヒトHLA-Gモノクローナル抗体の結合をまとめたものである。ELISAによって評価された、rec野生型単量体、二量体及び三量体のHLA-Gタンパク質に対するそれぞれの結合の相対的なEC50値[ng/ml]が示されている。ELISAは、ストレプトアビジン(strepdavidin)プレートにビオチン化野生型HLA-G抗原をコーティングすることにより設定された。インキュベーション及び洗浄工程の後、1:2の希釈工程においてそれぞれの抗体を10から0μgの濃度範囲で結合させた。結合した抗体の検出を、抗Fc-抗体-POD コンジュゲートにより実施した。その結果得られた結合曲線から、最大半量シグナルを生成する抗体濃度においてEC50値を決定した。非ビオチン化HLA-G二量体及び三量体抗原の場合、固定化は、アッセイプレート上をランダムにコーティングすることにより実施した。
【0237】
HLA-G抗体の、組み換えHLA-G(配列番号25)及びコントロール修飾ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体(HLA-G特異性のアミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられている(=デグラフトHLA-G、配列番号26)に対する結合親和性。(「-」は検出可能な結合が存在しないことを示す)
【0238】
上の表は、表面プラズモン共鳴(Biacore)分析によって評価された、野生型及びデグラフトHLA-Gに対する抗体親和性及びt1/2値をまとめたものである。ヒトHLA-G、ヒトHLA-Gデグラフト及びヒトHLA-A2に対する抗HLA-G抗体の結合キネティクスを、BIACORE T200機器(GE Healthcare)を用いる表面プラズモン共鳴により調査した。すべての実験を、PBSバッファー(pH7.4+0.05% Tween20)をランニングバッファーとして、及びPBSバッファー(+ 0,1% BSA)を希釈バッファーとして用いて25℃で実施した。抗ヒトFc(JIR009-005-098、Jackson)又は抗ラットFc(JIR112-005-071、Jackson)又は抗マウスFc(JIR115-005-071、Jackson)抗体を、GE Healthcareによって供給されるアミンカップリングキットを用いることにより、Series S CM5 Sensor Chip(GE Healthcare)上にpH5.0で固定化した。抗HLA-G抗体は表面上に捕捉され、50~200RUの捕捉応答をもたらした。HLA-G分子を、2.5から800nMの濃度で(2x1:2及び4x1:3の希釈系列)表面上に180秒間にわたって30μl/分で注入した(会合相)。ランニングバッファーで洗浄することにより、解離相を300~600秒間監視した。表面を、抗ヒトFc捕捉抗体についてはH3PO4(0.85%)を60+30秒間にわたって注入することにより、抗ラットFc捕捉抗体についてはグリシン(pH1.5)を60秒間にわたって及びグリシン(pH2.0)を60秒間にわたって注入することにより、抗マウスFc捕捉抗体についてはH3PO4(0.85%)を80+60秒間にわたって注入することにより、再生した。バルク屈折率の差異は、モック面から得られた応答を差し引くことにより修正された。ブランク注入が差し引かれた(二重参照)。得られた曲線を、BIAevaluationソフトウェアを用いて1:1ラングミュア結合モデルにフィッティングした(-上の表は、検出可能な結合が存在しなかったことを示している)。
【0239】
対応するSPRセンサーグラムを図3に示す。
【0240】
さらなる実験において、以下の参照抗体(様々な商業的ベンダーから取得)を、単量体のヒトHLA-G MHC I(配列番号23(「HLA-G-0003」))及びコンセンサスHLA-A特異性の位置を有する「デグラフト」ヒトHLA-G(配列番号24(「HLA-G-0007」))に対する結合について比較した:
MEM/G9、87G、G233、2A12、4H84、5A6G7、6D463、9-1F10、MEM-G/1、MEM-G/11、MEM-G/2及びMEM-G/4(「-」は検出可能な結合が存在しないことを示す)。
【0241】
興味深いことに、測定された抗体の多くは、抗体87Gも含めて、単量体のヒトHLA-G MHC I(配列番号25(「HLA-G-0003」))に対する特異的結合をまったく示さなかった。文献に記載されているようなオリゴマー形態のHLA-Gに対する結合は、オリゴマー形態の結合部位の増加に起因して生じた結合活性でありうる。
【0242】
7.7E-09Mの結合親和性のKD値を有する抗体MEM/G9、2.0E-08MのKD値を有する抗体G233及び1.2E-08Mの結合親和性のKD値を有するMEM-G/11のみが、単量体の野生型ヒトHLA-G MHC I複合体に対する結合を示した。しかしながら、これら抗体の一つであるMEM-G/11は、HLA-Gデグラフト(配列番号26)上のHLA-Aコンセンサスに対してもいくらかの結合/交差反応性を示した。加えて、別の抗体(MEM/G9)も、HLA-Gデグラフト(配列番号26)上のHLA-Aコンセンサスに対するより強い非特異的結合を示した。
【0243】
実施例4
受容体の遮断(単量体、二量体、及び三量体のHLA-Gによる)
a)ILT2及び-4の遮断特性に関する抗HLA-G抗体の生化学的比較
ストレプトアビジンでコーティングしたプレート(Nunc、MicroCoat#11974998001)を、25μl/ウェルの、濃度500ng/mlのビオチン化ヒト野生型HLA-Gでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、25μlの抗HLA-G試料を8μg/mlから濃度を徐々に低下させながら加え、次いで1:3に段階希釈し、1時間室温でインキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、25μl/ウェルのc-myc-タグ付け組み換えILT-2受容体を150ng/mlの濃度で加え、1時間室温でインキュベートした。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、25μl/ウェルのヤギ-抗c-myc-POD(Bethyl#A190-104P、OSE中1:7000)を加え、シェーカーで1時間室温でインキュベートした。洗浄(6x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、25μl/ウェルのTMB基質(Roche、11835033001)を加え、OD2~3までインキュベートした。測定は、Tecan Safire 2機器において370/492nmで行った。
【0244】
【0245】
上の表は、ELISAによって評価した、recHLA-Gタンパク質(単量体及びオリゴマー)とその受容体ILT2及びILT4との間の相互作用の遮断をまとめたものである。HLA-G/受容体の相互作用(ILT2及びILT4に対する)の %阻害と、(単量体(M)、二量体(D)又は三量体(T)のHLA-Gタンパク質が使用された場合の)HLA-G/受容体の相互作用の中和に関する相対的IC50値[nM]が示されている。それほど顕著でないILT4の阻害は、この受容体の主要なβ-2M依存的相互作用によるものである。
【0246】
ELISAは、ストレプトアビジン(strepdavidin)プレートにビオチン化抗原野生型HLA-Gをコーティングすることにより設定された。インキュベーション及び洗浄工程の後、1:3の希釈工程においてそれぞれの抗体を8から0μgの濃度範囲で結合させた。C-mycタグ付けILT-2又は-4受容体を、HLA-G-抗体複合体に付加した。インキュベーション及び洗浄工程の後、結合した受容体の検出を、抗cmyc-抗体-PODコンジュゲートにより実施した。その結果得られた阻害曲線から、最大半量阻害を生成する抗体濃度においてIC50値を決定した。非ビオチン化HLA-G二量体及び三量体抗原の場合、固定化は、アッセイプレート上をランダムにコーティングすることにより実施した。
【0247】
b)様々なアッセイ設定を用いたILT2及び-4の遮断特性に関する抗HLA-G抗体の生化学的比較
Maxisorpマイクロタイタープレートに対してFcタグ付きILT2及びILT4をそれぞれコーティングすることにより、ELISAを設定した。インキュベーション及び洗浄工程の後、それぞれの抗体を100nMの濃度で加えた。可溶型Hisタグ付き単量体、二量体又は三量体のHLA-Gをウェルに加えた。インキュベーション及び洗浄工程の後、結合した受容体の検出を、抗His-抗体-PODコンジュゲートにより実施した。阻害率(%)は、ILT2/4+HLA-G(単量体、二量体、又は三量体)を含み、抗HLA-G又はILT2/4抗体を含まないウェルから得られた値との比較において計算された(100%結合=0%阻害)。
【0248】
【0249】
上の表は、ELISAによって評価した、recHLA-Gタンパク質(単量体及びオリゴマー)とその受容体ILT2及びILT4との間の相互作用の遮断をまとめたものである。HLA-G/受容体の相互作用の%阻害が示されている(ILT2及びILT4に関して)。それほど顕著でないILT4の阻害は、この受容体の主要なβ-2M依存的相互作用によるものである。
【0250】
以下の棒グラフは、グラフに示されるように、市販の抗体との比較において、本明細書に記載の抗HLA-G抗体によって達成された%阻害を示している。市販のHLA-G抗体87G、MEM/G09及びG233は、本明細書に記載の抗体ほど効率的にはHLA-G/ILT2又は ILT4の相互作用をブロックしない。さらに、市販の抗体は、場合によっては、結合するとILT2又はILT4に対するHLA-Gの結合の増大を招く。
【0251】
実施例5
細胞に対する抗HLA-G抗体の結合
a)細胞表面HLA-G結合ELISA
25μl/ウェルのJEG3細胞(HLA-Gを天然に発現、20000細胞/ウェル)、Skov-3細胞、又は細胞表面上に組み換えHLA-Gを発現するSkov-3細胞(共に10000個の細胞/ウェル)を、組織培養処理した384ウェルプレート(Corning、3701)に播種し、37℃で一晩インキュベートした。翌日、12.5μlの抗HLA-G試料(最終希釈1:3)を加え、2時間にわたり4℃でインキュベートした。50μl/ウェルのグルタルアルデヒドを最終濃度0.05%(Sigma Cat.No:G5882;Lot No.:056K5318)になるように加えることにより細胞を固定した。洗浄(3x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、25μl/ウェルのヤギ-抗マウスH+L-POD(Biorad#170-6561、OSEP中1:2000)又はロバ-抗ウサギIgG POD(GE#NA9340V、OSE中1:5000)を加え、シェーカーで1時間室温でインキュベートした。ラットIgGの検出のために、ヤギ-抗ラットIgG1-POD(Bethyl#A110-106P)、ヤギ-抗ラットIgG2a-POD(Bethyl#A110-109P)及びヤギ-抗ラットIgG2b-POD(Bethyl#A110-111P)をOSEP中1:10000で加え、シェーカーで1時間室温でインキュベートした。洗浄(4x90μl/ウェルのPBSTバッファー)後、25μl/ウェルのTMB基質(Roche、11835033001)を加え、OD2~3までインキュベートした。測定は、Tecan Safire 2機器において370/492nmで行った。
【0252】
【0253】
上の表は、FACS分析によって評価された、様々な細胞及び細胞株上に発現されたHLA-Gに対する様々なラット抗ヒトHLA-Gモノクローナル抗体の結合をまとめたものである。天然にHLA-Gを発現するJEG3腫瘍細胞又はSkov3若しくはPA-TU-8902トランスフェクタント及びそれぞれの親の、トランスフェクトされていない細胞に対するいずれかの結合が記載されている。
【0254】
b)細胞上に発現される天然又は組み換えHLA-Gに対するHLA-G抗体の結合(FACS分析により評価)
フローサイトメトリー分析のために、細胞を、4℃において抗HLA-G mAbsで染色した。簡潔には、25μl/ウェルの各細胞懸濁液(5x10細胞/ウェル)を、ポリプロピレンの96ウェルV底プレートに移し、冷蔵庫内において5℃で10分間事前冷蔵した。抗HLA-G試料を染色バッファーで2倍の開始濃度80μg/mlに希釈した。抗体の4倍の段階希釈を実施し、25μl/ウェルの抗体溶液を調製された細胞に加え、1時間にわたり5℃でインキュベートした。細胞を200μl/ウェルの染色バッファーで二回洗浄し、300gで3間遠心分離した。検出のために、Alexa 488(Life technologies# A11006)、又はヤギ抗マウスIgG(H+L)(Life technologies# A11001)にコンジュゲートした蛍光標識抗種抗体(ヤギ抗ラットIgG(H+L))を、染色バッファーで20μg/mlに希釈し、細胞ペレットを50μl/ウェルの検出抗体に再懸濁した。5℃で1時間のインキュベーションの後、細胞を再び染色バッファーで二回洗浄し、70μlの染色バッファーに再懸濁し、FACS Canto IIで測定した。
【0255】
クローンHLA-G#0032-0037の例示的FACS染色が、図5のFACSオーバーレイに示されている。
【0256】
実施例6
抗HLA-G抗体は、組み換えILT2と、JEG3細胞上に天然に発現されるHLA-Gとの相互作用を阻害/調節する。
分析のために、JEG3細胞(ATCC HTB36)を、様々な抗HLA-G抗体と共にプレインキュベーションした又はしていないILT2-Fc融合タンパク質で染色した(コントロール=阻害なし)。抗HLA-G抗体を用いたプレインキュベーションのために、25μl/ウェルの細胞懸濁液をポリプロピレンの96ウェルV底プレートに移し、4℃で10分間事前冷却した。抗HLA-G抗体又は参照抗体(G233、MEM-G/9又は87G)を、染色バッファーで2倍の濃度20μg/mlに希釈し、25μl/ウェルの抗体溶液を調製された細胞に加え、1時間5℃でインキュベートした。細胞を200μl/ウェルの染色バッファーで二回洗浄し、300gで3分間遠心分離して、最後に25μl/ウェルの染色バッファーに再懸濁した。
【0257】
a)抗HLA-G mAbと共にプレインキュベートしたJEG3細胞又はb)参照としての未処理のJEG3細胞に対するヒトILT2-Fcキメラタンパク質(RD#2017-T2-050)の検出を、以下のようにして決定した。簡潔には、ILT2-Fc又はコントロールヒトIgG(Jackson-Immuno-Research# 009-000-003)を染色バッファーで(ILT2)の2倍の濃度20μg/mlに希釈し、25μl/ウェルのILT2-Fcタンパク質溶液を調製された細胞に加え、2時間5℃でインキュベートした。細胞を再び、200μl/ウェル染色バッファーで二回洗浄し、ヒトILT2-Fcタンパク質を、染色バッファー中10μg/mlの蛍光標識抗ヒトIgG Fc-ガンマ特異性抗体(F(ab’)断片ヤギ抗ヒトIgG、Fcγ断片特異性FITC、Jackson-Immuno-Research# 109-096-008)を用いて検出した。細胞ペレットを、50μl/ウェルの検出抗体に再懸濁した。5℃での1時間のインキュベーション後、細胞を染色バッファーで二回洗浄し、70μlに再懸濁し、FACS Canto IIにおいて測定して、JEG3細胞に対するILT2の結合を決定した。
【0258】
コントロールとして、JEG-3プレインキュベート細胞に結合した抗HLA-G抗体は、抗種抗体(Alexa 488にコンジュゲートした(ヤギ抗ラットIgG(H+L)(Life technologies、# A11001)、又はヤギ-抗マウスIgG(H+L)-Alexa 488(Life technologies# A11006)を濃度10μg/mlで使用することにより検出された。
【0259】
図6のグラフは、異なるHLA-G抗体の、JEG3腫瘍細胞に天然に発現されるHLA-Gに対する組み換えILT2の相互作用及び結合を修飾するそれぞれの能力を示す。
【0260】
以下の表は、実験結果をまとめたものである。JEG3細胞に対する抗HLA-G抗体の結合は、+(=弱い結合)~+++(=強い結合)で示されている。抗HLA-G抗体の能力は、HLA-Gを発現するJEG3細胞に対するILT2の結合を、阻害/ブロックする又は増大させる。最後のカラムには、細胞に対する組み換えILT2の結合又はその阻害/ブロックが示され/定量化されている(抗HLA-G抗体の非存在下でのILT2-Fcの染色を、100%結合、即ち0%阻害に設定した。負の値は結合の増大を示す。染色シグナルの5%未満の相違は有意でないため「効果なし」に分類した。):
【0261】
【0262】
実施例7
単球サイトカイン修復(restoration)アッセイ(HLA-G媒介性抑制後)
様々なラット抗ヒトHLA-Gモノクローナル抗体の機能的特徴付けのために、単球を用いたHLA-G発現細胞の以下の共培養アッセイを使用した。抹消ヒト単球を、健常なドナーの血液から単離した。簡潔には、血液を、抗凝固剤を含む管に収集し、PBSで1:2に希釈した。末梢血単核細胞(PBMC)を単離するために、30mlの混合物を、分離媒体を事前充填した各Leucosep管に移した。PBMC特異性のバンドを、12分の遠心分離(制動なしで1200xg)後収集し、PBSで三回洗浄し、10分間300xgで遠心分離した。最後に、細胞ペレットを、MiltenyiからのMACSバッファーに再懸濁し、製造者の指示に従ってMiltenyiのヒトMonocyte Isolation Kit II(#130-091-153)による磁気選別を介してヒト単球をPBMCから単離した(負の選別)。単離された単球を初代細胞培養培地(RPMI 1640、10%のFCSを補充したPAN#P04-17500、Gibco#10500;2mMのL-グルタミン、Sigma#G7513;1mMのピルビン酸ナトリウム、Gibco#11360;MEM非必須アミノ酸、Gibco#11140;0,1mMの2-メルカプトエタノール、Gibco#31350;MEMビタミン、Gibco#11120;ペニシリンストレプトマイシン、Gibco#15140)に5x10e5個の細胞/mlの密度で再懸濁した。CD14 CD16細胞の濃縮を、フローサイトメトリーにより監視し、細胞のILT2及びILT4の発現を分析した。HLA-G発現細胞を用いた濃縮単球の共培養アッセイのために、JEG-3細胞を、アッセイの前日に、JEG-3培養培地(EBSS及びL-グルタミンを含むMEM Eagle、10%のFCSを補充したPAN#P04-00509、Gibco#10500;1mMのピルビン酸ナトリウム、Gibco#11360;MEM非必須アミノ酸 Gibco#11140)において100μl中8x10e3個の細胞/ウェルで、96ウェル平底組織培養プレートに播種し、アッセイ当日に培養密度層を形成しした。接着性のJEG-3細胞を、初代細胞培養培地において、4倍に段階希釈した抗HLA-G抗体と共にプレインキュベートした。したがって、接着性JEG-3細胞由来の上清を除去し、50μl/ウェルの調製済み抗体溶液を付加し、加湿雰囲気中で1時間にわたり37℃及び5% CO2でインキュベートした。ヒト単球を、50μlの初代細胞培養培地中において、2,5x10e4個のヒト単球/ウェルで、抗HLA-G抗体と共にプレインキュベートしたJEG-3細胞に加え、共培養物を、加湿雰囲気中で一晩(概ね18~20時間)37℃及び5% CO2でインキュベートした。翌日、50ng/ml LPSによるLPS刺激を7時間にわたって実施し、その後共培養物の上清を回収した。共培養物上清のTNFアルファの濃度を、eBioscience(#88-7346-88)のヒトTNFアルファELISA Ready-SET-Go!(登録商標)を用いて決定した。
【0263】
下の表は、与えられたHLA-G抗体候補の機能的特性をまとめたものである。
【0264】
機能的抗HLA-G抗体は、抑制された免疫応答を回復することができる(即ち、HLA-G発現細胞との共培養において単球によりLPS誘導性TNFa生成を回復する)。
【0265】
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
【配列表】
2022160462000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2022-08-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の一の発明。
【外国語明細書】