(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160470
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ヘテロ二量体抗体Fc含有タンパク質およびその産生方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20221012BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221012BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022113974
(22)【出願日】2022-07-15
(62)【分割の表示】P 2020044885の分割
【原出願日】2011-04-20
(31)【優先権主張番号】PA201001066
(32)【優先日】2010-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(31)【優先権主張番号】PA201000330
(32)【優先日】2010-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(31)【優先権主張番号】61/326,082
(32)【優先日】2010-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】507316398
【氏名又は名称】ジェンマブ エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラブレイン アラン フランク
(72)【発明者】
【氏名】メーステルス ヨイケ
(72)【発明者】
【氏名】ブレメル エワルト ヴァン デン
(72)【発明者】
【氏名】ネイセン ヨースト ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ベルケル パトリック ヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ゴージ バルト デ
(72)【発明者】
【氏名】フィンク トム
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デ ウィンケル ヤン
(72)【発明者】
【氏名】スールマン ヤニネ
(72)【発明者】
【氏名】パレン パウル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二重特異性抗体などのヘテロ二量体抗体FC含有タンパク質を提供する。
【解決手段】第1のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のポリペプチドと、第2のFc領域が第2のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のポリペプチドとを含むヘテロ二量体タンパク質であって、ここで第1および第2のCH3領域の配列は異なり、かつ第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものである、前記ヘテロ二量体タンパク質を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、ヘテロ二量体タンパク質を作出するためのインビトロの方法:
a) Fc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンのFc領域を含む第1のホモ二量体タンパク質を提供する段階、
b) Fc領域が第2のCH3領域を含む、免疫グロブリンのFc領域を含む第2のホモ二量体タンパク質を提供する段階、
ここで該第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列は異なり、かつ該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、
c) ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合の異性化を起こすことを可能にするのに十分な還元条件の下で、該第1のタンパク質を該第2のタンパク質とともにインキュベートする段階、ならびに
d) 該ヘテロ二量体タンパク質を得る段階。
【請求項2】
第1のホモ二量体タンパク質および第2のホモ二量体タンパク質が、(i) Fc領域、(ii) 抗体、(iii) Fc領域を含む融合タンパク質、および(iv) プロドラッグ、ペプチド、薬物もしくは毒素に結合されたFc領域からなる群より選択される、請求項1記載のインビトロの方法。
【請求項3】
第1のホモ二量体タンパク質が全長抗体である、請求項1記載のインビトロの方法。
【請求項4】
第2のホモ二量体タンパク質が全長抗体である、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項5】
第1および第2のホモ二量体タンパク質がともに抗体であり、異なるエピトープに結合する、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項6】
第1のホモ二量体タンパク質のFc領域が、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプのものであり、かつ第2のホモ二量体タンパク質のFc領域が、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプのものである、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項7】
第1のホモ二量体タンパク質および第2のホモ二量体タンパク質の両方のFc領域がIgG1アイソタイプのものである、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項8】
ホモ二量体タンパク質のFc領域の一方がIgG1アイソタイプのものであり、もう一方がIgG4アイソタイプのものである、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項9】
ホモ二量体相互作用の各々と比較したヘテロ二量体相互作用の強度の増大が、共有結合、システイン残基または荷電残基の導入以外のCH3改変によるものである、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項10】
結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用が、実施例13に記述した条件の下、0.5 mM GSHでFabアーム交換が起こりえないようなものである、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項11】
結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用が、実施例14に記述した条件の下、マウスにおいてインビボでFabアーム交換が起こらないようなものである、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項12】
結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用が、例えば実施例30に記述のように決定した場合、2つのホモ二量体相互作用のうちで最も強いものよりも2倍を超えて強い、例えば3倍を超えて強い、例えば5倍を超えて強い、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項13】
第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列が、実施例30に記述のようにアッセイした場合、結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用の解離定数が0.05マイクロモル未満であるようなものである、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項14】
第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、両方のホモ二量体相互作用の解離定数が0.01マイクロモルを超える、例えば0.05マイクロモルを超える、好ましくは0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものである、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項15】
第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列が、同一でない位置にアミノ酸置換を含む、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項16】
アミノ酸置換基が天然アミノ酸または非天然アミノ酸である、請求項15記載のインビトロの方法。
【請求項17】
野生型CH3領域と比較して、第1のホモ二量体タンパク質がCH3領域中に1つのみアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質がCH3領域中に1つのみアミノ酸置換を有する、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項18】
第1のホモ二量体タンパク質が、366、368、370、399、405、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が、366、368、370、399、405、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、ここで該第1のホモ二量体タンパク質および該第2のホモ二量体タンパク質は同じ位置では置換されない、前記請求項1~16のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項19】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が、366、368、370、399、405および407からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項20】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にPhe以外のアミノ酸を有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項21】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にPhe、ArgまたはGly以外のアミノ酸を有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項22】
第1のホモ二量体タンパク質が位置405にPheを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にPhe以外のアミノ酸および位置409にLysを含む、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項23】
第1のホモ二量体タンパク質が位置405にPheを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にPhe、ArgまたはGly以外のアミノ酸および位置409にLysを含む、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項24】
第1のホモ二量体タンパク質が位置405にPheを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にLeuおよび位置409にLysを含む、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項25】
第1のホモ二量体タンパク質が位置405にPheおよび位置409にArgを含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にPhe、ArgまたはGly以外のアミノ酸および位置409にLysを含む、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項26】
第1のホモ二量体タンパク質が位置405にPheおよび位置409にArgを含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にLeuおよび位置409にLysを含む、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項27】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、位置370にThrおよび位置405にLeuを含む、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項28】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にArgを含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、位置370にThrおよび位置405にLeuを含む、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項29】
第1のホモ二量体タンパク質が位置370にLys、位置405にPheおよび位置409にArgを含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、位置370にThrおよび位置405にLeuを含む、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項30】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerまたはThr以外のアミノ酸を有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項31】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にAla、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、ValまたはTrpを有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項32】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にGly、Leu、Met、AsnまたはTrpを有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項33】
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerまたはThr以外のアミノ酸および位置409にLysを有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項34】
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にAla、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、ValまたはTrpおよび位置409にLysを有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項35】
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にGly、Leu、Met、AsnまたはTrpおよび位置409にLysを有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項36】
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrおよび位置409にArgを有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerまたはThr以外のアミノ酸および位置409にLysを有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項37】
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrおよび位置409にArgを有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にAla、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、ValまたはTrpおよび位置409にLysを有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項38】
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrおよび位置409にArgを有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にGly、Leu、Met、AsnまたはTrpおよび位置409にLysを有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項39】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が
(i) 位置368にPhe、LeuおよびMet以外のアミノ酸、または
(ii) 位置370にTrp、または
(iii) 位置399にAsp、Cys、Pro、GluもしくはGln以外のアミノ酸
を有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項40】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にArg、Ala、HisまたはGlyを有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が
(i) 位置368にLys、Gln、Ala、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Asn、Arg、Ser、Thr、ValもしくはTrp、または
(ii) 位置370にTrp、または
(iii) 位置399にAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、Trp、Phe、His、Lys、ArgもしくはTyr
を有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項41】
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にArgを有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が (i) 位置368にAsp、Glu、Gly、Asn、Arg、Ser、Thr、ValもしくはTrp、または
(ii) 位置370にTrp、または
(iii) 位置399にPhe、His、Lys、ArgもしくはTyr
を有する、前記請求項1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項42】
第1および第2のCH3領域が、指定した変異を除いて、SEQ ID NO:1に記載される配列を含む、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項43】
第1のホモ二量体タンパク質と第2のホモ二量体タンパク質のどちらもヒンジ領域の中にCys-Pro-Ser-Cys配列を含まない、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項44】
第1のホモ二量体タンパク質と第2のホモ二量体タンパク質のどちらもヒンジ領域の中にCys-Pro-Pro-Cys配列を含む、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項45】
第1のホモ二量体タンパク質および第2のホモ二量体タンパク質が、指定した任意の変異を除いて、ヒト抗体である、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項46】
第1のホモ二量体タンパク質および第2のホモ二量体タンパク質が重鎖抗体である、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項47】
第1のホモ二量体タンパク質と第2のホモ二量体タンパク質のどちらも軽鎖をさらに含む、前記請求項1~46のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項48】
軽鎖が異なる、請求項47記載のインビトロの方法。
【請求項49】
第1および/または第2のホモ二量体タンパク質が、Asn結合型グリコシル化のアクセプタ部位を取り除く変異を含む、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項50】
段階a)およびb)において提供される第1および第2のホモ二量体タンパク質が精製される、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項51】
第1および/または第2のホモ二量体タンパク質が薬物、プロドラッグもしくは毒素に結合されるか、またはそれらに対するアクセプタ基を含む、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項52】
第1および/または第2のエピトープが腫瘍細胞上に位置する、前記請求項4~51のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項53】
第1または第2のエピトープが腫瘍細胞上に位置し、かつ他方のエピトープがエフェクタ細胞上に位置する、前記請求項4~52のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項54】
エピトープが、T細胞上に発現されたCD3上のようにT細胞上に位置する、前記請求項4~53のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項55】
第1または第2のエピトープが腫瘍細胞上に位置し、かつ他方のエピトープが、ペプチドもしくはハプテンに任意でカップリングもしくは連結されてもよい、放射性同位体、毒素、薬物またはプロドラッグ上に位置する、前記請求項4~52のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項56】
第1または第2のエピトープが腫瘍細胞上に位置し、かつ他方のエピトープが高電子密度ベシクルまたはミニ細胞上に位置する、前記請求項4~52のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項57】
ホモ二量体タンパク質がともに抗体であり、かつ第1の抗体および第2の抗体が同じ腫瘍細胞上の異なるエピトープに結合する、前記請求項1~52のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項58】
ホモ二量体タンパク質がともに抗体であり、かつ第1の抗体が腫瘍細胞上のエピトープに結合し、かつ他方の抗体が、意図した用途に関連するいかなるインビボ結合活性もない無関係なまたは不活性な抗体である、前記請求項1~52のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項59】
段階c)における還元条件に、還元剤、例えば2-メルカプトエチルアミン、ジチオスレイトールおよびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンまたはその化学的誘導体からなる群より選択される還元剤の添加が含まれる、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項60】
段階c)が、-150~-600 mV、例えば-250~-400 mVの酸化還元電位による還元条件の下で行われる、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項61】
段階c)が、少なくとも25 mMの2-メルカプトエチルアミンの存在下にてまたは少なくとも0.5 mMのジチオスレイトールの存在下にて少なくとも20℃の温度で少なくとも90分間のインキュベーションを含む、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項62】
段階d)が、例えば脱塩による、還元剤の除去を含む、前記請求項のいずれか一項記載のインビトロの方法。
【請求項63】
以下の段階を含む、所望の特性を有する二重特異性抗体の選択のための方法:
a) 第1セットの抗体が同一の第1のCH3領域を含む、異なる可変領域を有する抗体を含んだホモ二量体抗体の第1セットを提供する段階、
b) 第2セットの抗体が同一の第2のCH3領域を含む、異なる可変領域または同一の可変領域を有する抗体を含んだホモ二量体抗体の第2セットを提供する段階、
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、かつ該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、
c) ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合の異性化を起こすことを可能にするのに十分な還元条件の下で、該第1セットのおよび該第2セットの抗体の組み合わせをインキュベートする段階であって、かくして二重特異性抗体のセットを作出する、段階、
d) 任意で条件を非還元条件に戻す段階、
e) 得られた二重特異性抗体のセットを所与の所望の特性についてアッセイする段階、ならびに
f) 所望の特性を有する二重特異性抗体を選択する段階。
【請求項64】
第2セットのホモ二量体抗体が異なる可変領域を有する、請求項63記載の方法。
【請求項65】
第2セットのホモ二量体抗体は同一の可変領域を有するが、抗原結合領域外に異なるアミノ酸または構造変化を有する、請求項63記載の方法。
【請求項66】
以下の段階を含む、ヘテロ二量体タンパク質を産生するための方法:
a) 第1のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のポリペプチドをコードする第1の核酸構築体を提供する段階、
b) 第2のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸構築体を提供する段階、
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、かつ該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、かつ
ここで該第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ該第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405および407からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、
かつ/または
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は、CH3領域の各々のホモ二量体相互作用の解離定数が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものであり、
c) 宿主細胞において該第1および第2の核酸構築体を共発現させる段階、ならびに
d) 細胞培養物から該ヘテロ二量体タンパク質を得る段階。
【請求項67】
第1のCH3領域が位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のCH3領域が位置405にPhe、ArgもしくはGly以外などの、位置405にPhe以外のアミノ酸を有し、
または
第1のCH3領域が位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のCH3領域が位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerもしくはThr以外のアミノ酸を有する、
請求項66記載の方法。
【請求項68】
第1および第2のポリペプチドが、異なるエピトープに結合する2つの抗体の全長重鎖である、請求項66または67記載の方法。
【請求項69】
段階c)が、宿主細胞において軽鎖をコードする1つまたは複数の核酸構築体を共発現させる段階をさらに含む、前記請求項66~68のいずれか一項記載の方法。
【請求項70】
請求項2~58のいずれか一項または複数項の特徴をさらに含む、前記請求項66~69のいずれか記載の方法。
【請求項71】
請求項66~70のいずれか一項に特定されている核酸構築体を含む発現ベクター。
【請求項72】
請求項66~70のいずれか一項に特定されている核酸構築体を含む宿主細胞。
【請求項73】
前記請求項1~72のいずれか一項記載の方法によって得られたまたは得ることができるヘテロ二量体タンパク質。
【請求項74】
第1のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のポリペプチドと、第2のFc領域が第2のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のポリペプチドとを含むヘテロ二量体タンパク質であって、ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、かつ該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、かつ
ここで該第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ該第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405および407からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、
かつ/または
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は、CH3領域の各々のホモ二量体相互作用の解離定数が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものである、
前記ヘテロ二量体タンパク質。
【請求項75】
第1のCH3領域が位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のCH3領域が位置405にPhe、ArgもしくはGly以外のような、位置405にPhe以外のアミノ酸を有し、 または
第1のCH3領域が位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のCH3領域が位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerもしくはThr以外のアミノ酸を有する、
請求項73記載のヘテロ二量体タンパク質。
【請求項76】
第1および第2のポリペプチドが、異なるエピトープに結合する2つの抗体の全長重鎖である、請求項74または75記載のヘテロ二量体タンパク質。
【請求項77】
2つの全長軽鎖をさらに含む、請求項76記載のヘテロ二量体タンパク質。
【請求項78】
請求項2~58のいずれか一項または複数の項の特徴をさらに含む、前記請求項73~77のいずれか一項記載のヘテロ二量体タンパク質。
【請求項79】
医薬として用いるための、請求項74~78のいずれか一項記載のヘテロ二量体タンパク質。
【請求項80】
がんの処置で用いるための、請求項79記載のヘテロ二量体タンパク質。
【請求項81】
請求項74~78のいずれか一項記載のヘテロ二量体タンパク質と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物。
【請求項82】
請求項74~78のいずれか一項記載のヘテロ二量体タンパク質の、それを必要としている個体への投与を含む、腫瘍細胞の成長および/もしくは増殖を阻害するための、ならびに/または腫瘍細胞の死滅化のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、二重特異性抗体などの新規ヘテロ二量体抗体Fc含有タンパク質、および、このようなタンパク質を産生するための新規方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
モノクローナル抗体は近年、特にがんの処置のための、成功裏の治療用分子になった。しかし残念なことに、モノクローナル抗体は単剤療法として用いられる場合、疾患を治癒することができない場合が多い。二重特異性抗体はモノクローナル抗体治療の制約のいくつかを潜在的に克服することができ、例えば、それらを、標的細胞へ薬物もしくは毒性化合物を標的化するためのメディエータとして、疾患関連部位へエフェクタ機構を再標的化するためのメディエータとして、または例えば腫瘍細胞上に排他的に見られる標的分子の組み合わせへの結合により、腫瘍細胞に対する特異性を増大するためのメディエータとして用いることができるであろう。
【0003】
最近になって、Chames and Baty (2009) Curr Opin Drug Disc Dev 12: 276(非特許文献1)により二重特異性抗体の異なる形式および使用が概説されている。二重特異性抗体の開発での主な障害の1つは、ハイブリッドハイブリドーマおよび化学的結合法のような、従来の技術により十分な質および量で材料を産生することの難しさであった(Marvin and Zhu (2005) Acta Pharmacol Sin 26: 649(非特許文献2))。異なる重鎖および軽鎖からなる、2つの抗体の宿主細胞での共発現は、所望の二重特異性抗体のほかに、考えられる抗体産物の混合物をもたらす。
【0004】
いくつかの戦略は、異なる抗体構築体の共発現によるヘテロ二量体の、すなわち二重特異性の、産物の形成に有利に働くことが記述されている。
【0005】
Lindhoferら(1995 J Immunol 155:219)(非特許文献3)は、異なる抗体を産生するラットおよびマウスハイブリドーマの融合が、選択的な種拘束性の重鎖/軽鎖対合のため、機能的な二重特異性抗体の濃縮をもたらすことを記述している。ホモ二量体に比べてヘテロ二量体の形成を促進させるための別の戦略は、「ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)」戦略であり、この戦略では、隆起が第1の重鎖ポリペプチドの界面と、第2の重鎖ポリペプチドの界面における対応する腔の位置に導入され、その結果、ヘテロ二量体形成を促すよう、かつホモ二量体形成を妨げるよう腔内に隆起を位置付けることができる。「隆起」は、第1のポリペプチドの界面由来の小さなアミノ酸側鎖を、もっと大きな側鎖と交換することにより構築される。隆起と同一または類似のサイズの補完性の「腔」は、大きなアミノ酸側鎖を、もっと小さなものと交換することにより、第2のポリペプチドの界面において作出される。EP1870459 (Chugai)(特許文献1)およびWO2009089004 (Amgen)(特許文献2)には、宿主細胞における異なる抗体ドメインの共発現によるヘテロ二量体形成に有利に働くための他の戦略が記述されている。これらの方法において、両方のCH3ドメインにおけるCH3-CH3界面を構成する1つまたは複数の残基は、ホモ二量体化が静電的に不利で、かつヘテロ二量体化が静電的に有利であるような、荷電アミノ酸と交換される。WO2007110205 (Merck)(特許文献3)にはさらに別の戦略が記述されており、その戦略ではIgA CH3ドメインとIgG CH3ドメインとの間の相違を利用して、ヘテロ二量体化を促進している。
【0006】
Dall'acquaら(1998 Biochemistry 37:9266)(非特許文献4)は、CH3ホモ二量体の界面におけるCH3-CH3の接触に関与する5つのエネルギー的に重要なアミノ酸残基(366、368、405、407および409)を特定している。
【0007】
WO2008119353 (Genmab)(特許文献4)では、還元条件下でのインキュベーションにより2つの単一特異性IgG4抗体またはIgG4様抗体間の「Fabアーム」または「半分子」交換(重鎖および付着軽鎖のスワッピング)によって二重特異性抗体が形成される、二重特異性抗体を産生するためのインビトロの方法が記述されている。このFabアーム交換反応は、親(もとは単一特異性)抗体のヒンジ領域における重鎖ジスルフィド結合が還元され、結果として生じる遊離システインが、別の親抗体分子(もとは異なる特異性を有する)のシステイン残基と重鎖間ジスルフィド結合を形成し、と同時に親抗体のCH3ドメインが解離・会合によって遊離かつ再編成される、ジスルフィド結合の異性化反応およびCH3ドメインの解離・会合の結果である。結果として生じる産物は、潜在的に、異なる配列から構成される2つのFabアームを持つ二重特異性抗体である。この過程はしかしながらランダムであり、同一の配列を有する2つの分子間でFabアーム交換が行われることもあり、または2種の二重特異性分子がFabアーム交換に関与して、もとの単一特異性の親抗体の特異性を含む抗体を再生しうることに留意すべきである。
【0008】
今回、驚いたことに、2種の単一特異性の出発タンパク質のCH3領域における非対称変異の導入により、指向性となるように、したがって、極めて安定なヘテロ二量体タンパク質を生じるようにFabアーム交換反応を強いることができるものと分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP1870459
【特許文献2】WO2009089004
【特許文献3】WO2007110205
【特許文献4】WO2008119353
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chames and Baty (2009) Curr Opin Drug Disc Dev 12: 276
【非特許文献2】Marvin and Zhu (2005) Acta Pharmacol Sin 26: 649
【非特許文献3】Lindhoferら(1995 J Immunol 155:219)
【非特許文献4】Dall'acquaら(1998 Biochemistry 37:9266)
【発明の概要】
【0011】
したがって、1つの局面において、本発明は、安定なホモ二量体Fc含有出発材料に基づく極めて安定なヘテロ二量体Fc含有タンパク質の産生のための効率的なインビトロでの方法を提供する。例えば、極めて安定な二重特異性抗体を、出発材料としての2種の安定な単一特異性抗体に基づき高い収量および純度で形成させることができる。
【0012】
したがって、1つの局面において、本発明は、以下の段階を含む、ヘテロ二量体タンパク質を作出するためのインビトロの方法に関する:
a) Fc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンのFc領域を含む第1のホモ二量体タンパク質を提供する段階、
b) Fc領域が第2のCH3領域を含む、免疫グロブリンのFc領域を含む第2のホモ二量体タンパク質を提供する段階、
ここで該第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列は異なり、該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、
c) ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合の異性化を起こすことを可能にするのに十分な還元条件の下で、該第1のタンパク質を該第2のタンパク質とともにインキュベートする段階、ならびに
d) 該ヘテロ二量体タンパク質を得る段階。
【0013】
この方法は、例えば、治療用または診断用などの、さまざまな使用のための、二重特異性抗体のような、ヘテロ二量体タンパク質のインビトロでの産生に用いることができる。このインビトロでの方法の利点は、重鎖/軽鎖対合が反応中にインタクトなままであるため、重鎖および軽鎖の望ましくない組み合わせがその産物中では得られないということである。これは、細胞におけるランダムな重鎖/軽鎖対合による、非機能的な重鎖/軽鎖産物の形成を回避するために、両方の重鎖と機能的な抗体を形成できる共通の軽鎖を見出す必要がある、先行技術(上記参照)において記述されている共発現法のいくつかとは対照的である。さらに、共発現によって可能とされるよりもヘテロ二量体タンパク質の高い制御、柔軟性および収量を可能にする、インビトロでの過程を実験室で行うことができる。
【0014】
本発明のインビトロでの方法は、より大きなサイズの化合物ライブラリを作出するために、例えば特異性の有利な組み合わせを特定するためのスクリーニング方法において、用いることもできる。例えば、抗体標的のいくつかの組み合わせの場合、いずれの二重特異性抗体も機能的であるわけではなく、すなわち、同時に両方の標的に結合し、所望の機能的効果を媒介しうるわけではない。そのような場合、所望の特性、例えば最適な標的結合または細胞死滅を有する二重特異性抗体は、
a) 第1セットの抗体が第1のCH3領域を含む、異なる可変領域を有する第1セットのホモ二量体抗体を提供する段階、
b) 第2セットの抗体が第2のCH3領域を含む、異なる可変領域を有する第2セットのホモ二量体抗体を提供する段階、
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、
c) ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合の異性化を起こすことを可能にするのに十分な還元条件の下で、該第1セットのおよび該第2セットの抗体の組み合わせをインキュベートし、かくして二重特異性抗体のセットを作出する段階、
d) 任意で条件を非還元条件に戻す段階、
e) 得られた二重特異性抗体のセットを所与の所望の特性についてアッセイする段階、ならびに
f) 所望の特性を有する二重特異性抗体を選択する段階
によって特定することができる。
【0015】
さらなる局面において、本発明は、本発明の方法によって得られたまたは得ることができるヘテロ二量体タンパク質に関し、適当な宿主細胞における共発現により本発明のヘテロ二量体タンパク質を産生するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】種間Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出。表示のEGFR (2F8) IgG4抗体とCD20 (7D8) IgG4抗体との間のGSH誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をELISAによって判定した。0~1μg/mLの濃度系列(総抗体)をELISAにおいて分析した。同じ種の2つの抗体間でよりもアカゲザル(Rh) IgG4抗体とヒト(Hu) IgG4抗体との間でのFabアーム交換後に二重特異性の結合が高かった。
【
図2】ヒトおよびアカゲザル抗体アイソタイプのコアヒンジ(すなわち、重鎖間ジスルフィド結合を潜在的に形成する2つのシステイン残基および他のヒトアイソタイプまたは他の種における対応残基を含むヒトIgG1におけるCPPC配列)およびCH3-CH3界面のアミノ酸配列のアライメント。
【
図3】Fabアーム交換に関与する変異体ヒトIgG1を用いた二重特異性抗体の作出。ヒトCD20 (7D8) IgG4抗体と表示のヒトEGFR (2F8) IgG1抗体との間のGSH誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をELISAによって判定した。提示したグラフは、独立した3回のFabアーム交換実験の平均数を示し、この実験においては1μg/mLの総抗体濃度をELISAに用いた。2つのIgG4抗体間でよりもIgG1-2F8-CPSC-ITLとIgG4-7D8との間でのFabアーム交換後に二重特異性の結合が高かった。IgG4-7D8をIgG1-2F8-CPSCまたはIgG1-2F8-ITLのどちらかと組み合わせることでは、用いた条件の下で二重特異性抗体が得られなかった。
【
図4】ヒトIgG4抗体および変異体IgG1抗体のインビボでのFabアーム交換による二重特異性抗体の作出。ヒトCD20 (7D8) IgG4抗体と表示のヒトEGFR (2F8) IgG1およびIgG4変異体抗体との間の免疫不全マウスにおけるインビボでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をELISAによって判定した。提示したグラフは平均数(n=4)を示す。二重特異反応性は、総IgG濃度に対する二重特異性抗体の濃度(割合)として提示されている。CH3ドメインにおけるR409K変異または安定化ヒンジ(CPPC)を有するヒトIgG4は、Fabアーム交換に関与することができない。ヒンジにおけるCPSC配列もCH3ドメインにおけるR409K変異も有するIgG1は、Fabアーム交換に関与する。(
*) IgG1-2F8、IgG4-2F8-CPPCまたはIgG4-2F8-R409Kのいずれかを含有する混合物に対する二重特異性の結合は、検出限界未満であり、それゆえ、任意によりゼロに設定した。
【
図5】ヒトIgG1抗体とIgG4抗体との間での2-メルカプト-エチルアミン・HCl (2-MEA)誘導性のFabアーム交換を用いた二重特異性抗体の作出。表示のヒトEGFR (2F8)抗体とCD20 (7D8)抗体との間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をELISAによって判定した。希釈系列0~40 mMの2-MEAを試験した。提示したグラフはELISAの結果を示し、ここでは20μg/mLの総抗体濃度を用いた。2-MEAは、安定化されたヒンジ(CPPC)を含む抗体の間でも、Fabアーム交換を効率的に誘導した。CH3ドメインに関して、三重変異T350I-K370T-F405Lを有するヒトIgG1×ヒトIgG4の組み合わせでは、2つの野生型IgG4抗体と比べて、より高いレベルの二重特異反応性が得られた。
【
図6A】ヒトIgG1抗体とIgG4抗体との間での2-MEA誘導性のFabアーム交換を用いた二重特異性抗体の作出。表示のヒトEGFR (2F8)抗体とCD20 (7D8)抗体との間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出を、0~40 mM 2-MEAの濃度系列の全サンプルについて質量分析により判定した。(A) 0 mM、7 mMおよび40 mM 2-MEAでのIgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC間のFabアーム交換反応のサンプルに対する質量分析プロファイルの代表例を示す。IgG4-2F8×IgG4-7D8はおよそ50%の二重特異性抗体を生じた。IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPCはおよそ95%の二重特異性抗体を生じた。
【
図6B】ヒトIgG1抗体とIgG4抗体との間での2-MEA誘導性のFabアーム交換を用いた二重特異性抗体の作出。表示のヒトEGFR (2F8)抗体とCD20 (7D8)抗体との間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出を、0~40 mM 2-MEAの濃度系列の全サンプルについて質量分析により判定した。(B) 質量分析データの定量化の後、二重特異性抗体の割合を計算し、Fabアーム交換反応における2-MEAの濃度に対してプロットした。IgG4-2F8×IgG4-7D8はおよそ50%の二重特異性抗体を生じた。IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPCはおよそ95%の二重特異性抗体を生じた。
【
図7】2-MEA誘導性のFabアーム交換により得られたヘテロ二量体の二重特異性抗体の安定性分析。IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC (A)、またはIgG4-2F8×IgG4-7D8 (B)のどちらかを組み合わせることによって2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性サンプルの安定性を、無関係のIgG4の表示濃度の存在下でのGSH誘導性のFabアーム交換反応の後にELISAにおいてEGFR/CD20二重特異性結合を測定することにより試験した。二重特異性結合を、100%に設定した、出発材料(対照)の二重特異性結合と比べて提示する。(A) IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPCに由来する2-MEA誘導性の二重特異性産物の二重特異性結合は保存されていたことから、GSH条件の下でFabアーム交換に関与しなかった安定な産物であることが示唆された。(B) IgG4-2F8×IgG4-7D8に由来する2-MEA誘導性の二重特異性産物の二重特異性EGFR/CD20結合は損なわれたことから、GSH条件の下で無関係なIgG4とのFabアーム交換に関与していた産物であることが示唆された。
【
図8】2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出されたヘテロ二量体の二重特異性抗体の血漿クリアランス率。3群のマウス(1群あたりマウス3匹)に表示の抗体を注射した: (1) IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC間のインビトロでの2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体100μg; (2) 二重特異性抗体100μg + 無関係なIgG4 1,000μg; (3) IgG1-2F8-ITL 50μg + IgG4-7D8-CPPC 50μg。(A) ELISAによって判定した、経時的な総抗体濃度。総抗体の血漿中濃度の曲線は全ての抗体について同じであった。(B) ELISAによって判定した二重特異性抗体濃度。注射した抗体の二重特異性は、過剰の無関係なIgG4の添加有りでも無しでも同じであった。(
*) IgG1-2F8-ITL + IgG4-7D8-CPPC混合物に対する二重特異性の結合は、検出限界未満であり、それゆえ、対応する記号をこのグラフ中にプロットすることができなかった。2回のELISA実験の平均値を示す。
【
図9A】ヒトIgG1-2F8とIgG4-7D8-CPPCとの間のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体の純度。(A) 還元SDS-PAGE (a)は、二重特異性サンプルおよびIgG1対照サンプルの両方に対する重鎖および軽鎖のバンドを示す。非還元SDS-PAGE (b)。
【
図9B】ヒトIgG1-2F8とIgG4-7D8-CPPCとの間のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体の純度。(B) HP-SEC分析からのピークの結果は、98%超の二重特異性サンプルが均一であり、とりわけ、抗体凝集体を検出できなかったことを示す。
【
図9C-1】ヒトIgG1-2F8とIgG4-7D8-CPPCとの間のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体の純度。(C) 質量分析は、Fabアーム交換がおよそ100%の二重特異性産物を生じたことを示す。
【
図10】ヒトIgG4-7D8とのFabアーム交換による二重特異性抗体の作出での三重変異体(ITL)、二重変異体(IT、IL、TL)および単一変異体(L)ヒトIgG1-2F8間の比較。ヒトIgG1-2F8三重変異体および二重変異体と、CPSCヒンジを有する野生型IgG4-7D8との間(A)のもしくは安定化されたヒンジを有する変異体IgG4-7D8-CPPCとの間(B)の、または単一変異体IgG1-2F8-F405Lと野生型CPSCヒンジもしくは安定化CPPCヒンジを有するIgG4-7D8との間(C)の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をELISAによって判定した。0~20μg/mLまたは0~10μg/mLの濃度系列(総抗体)を、それぞれ、二重変異体および単一変異体を含む実験についてELISAで分析した。二重変異体IgG1-2F8-ILおよびIgG1-2F8-TLとの組み合わせにより、三重変異体IgG1-ITLと同じような二重特異性EGFR/CD20結合が得られる。IgG1-2F8-ITとの組み合わせでは、二重特異性産物が得られない。単一変異体IgG1-2F8-F405Lとの組み合わせにより、二重特異性EGFR/CD20結合が得られる。
【
図11】異なる温度での2-MEA誘導性のFabアーム交換を用いた二重特異性抗体の作出。0℃、20℃および37℃での2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換反応において表示のヒトEGFR (2F8)抗体およびCD20 (7D8)抗体を組み合わせることによる二重特異性抗体の作出を、ELISAにより、決められた時間の中で追跡した。二重特異性結合は37℃で最も効率的であって、20℃でいっそう緩徐であった。0℃で、二重特異性結合の作出は測定されなかった。
【
図12】異なる還元剤により誘導されたインビトロでのFabアーム交換による二重特異性抗体の作出。表示の還元剤の濃度系列での還元反応においてヒトIgG1-2F8-ITLおよびIgG4-7D8-CPPCを組み合わせることによる二重特異性抗体の作出を測定するために、ELISAを用いた。二重特異性結合はDTT (2.5 mM DTTで最大を得た)および2-MEA (25 mM 2-MEAで最大を得た)での反応後に測定されたが、GSHでは測定されなかった。(
*)抗体凝集体の形成のため、10 mM超のGSH濃度のデータは除外された。
【
図13】IgG1-2F8-ITLとIgG1-7D8-K409X変異体との間の2-MEA誘導性のFabアーム交換。IgG1-2F8-ITLと表示のIgG1-7D8-K409X変異体との間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をELISAによって判定した。(A) 0~20μg/mLの濃度系列(総抗体)を分析した。陽性対照は、IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPCに由来する、二重特異性抗体の精製バッチである。(B) 交換は陽性対照(黒棒)に対する20μg/mLでの二重特異性結合として提示されている。濃灰棒はIgG4対照(IgG4-7D8×IgG4-2F8)間、陰性対照(IgG1-2F8×IgG1-7D8-K409R)間およびIgG1-2F8-ITLとIgG4-7D8-CPPCとの間の二重特異性結合を表す。白灰棒は、表示のIgG1-7D8-K409X変異体とIgG1-2F8-ITLとの間で同時に行われたFabアーム交換反応の結果を表す。
【
図14】抗体脱グリコシル化は2-MEA誘導性のFabアーム交換による二重特異性抗体の作出に影響を与えない。表示のEGFR (2F8)抗体とCD20 (7D8)抗体との間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をELISAによって判定した。7D8抗体との交換を、酵素により脱グリコシル化されたその変種と比較した。0~20μg/mLの濃度系列(総抗体)をELISAにおいて分析した。脱グリコシル化(deglyc)抗体を伴うFabアーム交換反応は、それらの抗体が由来するグリコシル化変種と同一の二重特異性結合曲線を示した。
【
図15A】Fabアーム交換に関与する能力は、CH3-CH3相互作用強度と相関がある。(A) 経時的なELISAでの二重特異性結合として提示した、表示の変異を有する、IgG1-2F8とIgG1-7D8構築体(A)との間のGSH誘導性のFabアーム交換による二重特異性抗体の作出。二重特異性は24時間後のIgG4-2F8×IgG4-7D8対照と比べて提示されている。
【
図15B】Fabアーム交換に関与する能力は、CH3-CH3相互作用強度と相関がある。(B) 経時的なELISAでの二重特異性結合として提示した、表示の変異を有する、IgG4-2F8とIgG4-7D8構築体(B)との間のGSH誘導性のFabアーム交換による二重特異性抗体の作出。二重特異性は24時間後のIgG4-2F8×IgG4-7D8対照と比べて提示されている。
【
図15C】Fabアーム交換に関与する能力は、CH3-CH3相互作用強度と相関がある。(C) 経時的なELISAでの二重特異性結合として提示した、表示の変異を有する、IgG4-2F8とIgG4-7D8構築体(C)との間のGSH誘導性のFabアーム交換による二重特異性抗体の作出。二重特異性は24時間後のIgG4-2F8×IgG4-7D8対照と比べて提示されている。
【
図15D】Fabアーム交換に関与する能力は、CH3-CH3相互作用強度と相関がある。(D) IgG1に基づく分子(D)に対する24時間(
図15A/B/C)後の見掛け上のK
D (表2)と二重特異性抗体の作出との間の関係。
【
図15E】Fabアーム交換に関与する能力は、CH3-CH3相互作用強度と相関がある。(E) IgG4に基づく分子(E)に対する24時間(
図15A/B/C)後の見掛け上のK
D (表2)と二重特異性抗体の作出との間の関係。
【
図16】IgG1、IgG4および(部分的な) IgG3主鎖における抗EGFr抗体2F8の配列アライメント。Kabatによるアミノ酸付番およびEUインデックスによるアミノ酸付番を描く(どちらもKabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed . Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)に記述されている)。
【
図17】異なる還元剤により誘導されたインビトロでのFabアーム交換による二重特異性抗体の作出。表示の還元剤の濃度系列での還元反応においてヒトIgG1-2F8-F405LおよびIgG1-7D8-K409Rを組み合わせることによる二重特異性抗体の作出を測定するために、ELISAを用いた。測定されたOD値を、100%に設定した、IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC間の2-MEA誘導性のFabアーム交換に由来する二重特異性対照サンプルのシグナルに対して規準化した。最大の二重特異性結合は濃度範囲0.5~50 mMのDTT、濃度範囲25~50 mMの2-MEAおよび濃度範囲0.5~5.0 mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)での反応後に測定されたが、GSHでは測定されなかった。(
*)抗体凝集体の形成のため、25 mM以上のGSH濃度のデータは除外された。
【
図18】ヒトIgG1-2F8-F405LとIgG1-7D8-K409Rとの間での2-MEA誘導性のFabアーム交換を用いた二重特異性抗体の作出。(A) 2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をELISAによって判定した。提示したグラフは、20μg/mLの総抗体濃度を用いたELISAの結果を示す。2-MEAはFabアーム交換を効率的に誘導した。(B) 2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出を、0~40 mM 2-MEAの濃度系列の全サンプルについて質量分析により判定した。質量分析データの定量化の後、二重特異性抗体の割合を計算し、Fabアーム交換反応における2-MEAの濃度に対してプロットした。IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409Rはおよそ100%の二重特異性抗体を生じ、ELISAのデータを確認するものであった。
【
図19-1】ヒトIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体の純度。質量分析は、Fabアーム交換がおよそ100%の二重特異性産物を生じたことを示す。
【
図20】2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体の血漿クリアランス。2群のマウス(1群あたりマウス3匹)に表示の抗体を注射した: (1) IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間のインビトロでの2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体100μg; (2) 二重特異性抗体100μg + 無関係なIgG4 1,000μg。(A) ELISAによって判定した、経時的な総抗体濃度。総抗体の血漿中濃度の曲線は全ての抗体について同じであった。(B) ELISAによって判定した二重特異性抗体濃度。注射した抗体の二重特異性は、過剰の無関係なIgG4の添加有りでも無しでも同じであった。
【
図21】IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体によるCD20発現細胞のCDC媒介性の細胞死滅。表示した抗体の濃度系列を用いて、Daudi細胞(A)およびRaji細胞(B)に対するCDCを媒介するその能力を試験した。どちらの細胞株もCD20を発現するが、EGFRを発現しない。IgG1-7D8におけるK409Rの導入は、CDCを誘導するその能力に影響を及ぼさなかった。IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性のFabアーム交換に由来する二重特異性抗体はそれでもなお、CDCを誘導することができた。
【
図22】IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体によるEGFR発現細胞のADCC媒介性の細胞死滅。表示した抗体の濃度系列を用いて、A431細胞に対するADCCを媒介するその能力を試験した。IgG1-7D8はCD20陰性A431細胞に結合することができず、その結果、ADCCを誘導しなかった。ADCCは、CH3ドメインにおけるF405L変異の導入後にも、EGFR抗体IgG1-2F8によって誘導された。IgG1-2F8-F405LのADCCエフェクタ機能はIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間のFabアーム交換により得られた二重特異性の形式において保持された。
【
図23】IgG1-2F8-F405X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のFabアーム交換。表示のIgG1-2F8-F405X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をELISAによって判定した。(A) 0~20μg/mLの濃度系列(総抗体)をELISAにおいて分析した。陽性対照は、IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409Rに由来する、二重特異性抗体の精製バッチである。(B) 交換は陽性対照(黒棒)に対する20μg/mLの抗体濃度での二重特異性結合として提示されている。濃灰棒はIgG4対照(IgG4-7D8×IgG4-2F8)間および陰性対照(IgG1-2F8×IgG1-7D8-K409R)間の二重特異性結合を表す。白灰棒は、表示のIgG1-2F8-F405X変異体とIgG1-7D8-K409Rまたは対照との間で同時に行われたFabアーム交換反応の結果を表す。
【
図24】IgG1-2F8-Y407X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のFabアーム交換。表示のIgG1-2F8-Y407X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をELISAによって判定した。(A) 0~20μg/mLの濃度系列(総抗体)をELISAにおいて分析した。陽性対照は、IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409Rに由来する、二重特異性抗体の精製バッチである。(B) 交換は陽性対照(黒棒)に対する20μg/mLの抗体濃度での二重特異性結合として提示されている。濃灰棒はIgG4対照(IgG4-7D8×IgG4-2F8)間および陰性対照(IgG1-2F8×IgG1-7D8-K409R)間の二重特異性結合を表す。白灰棒は、表示のIgG1-2F8-Y407X変異体とIgG1-7D8-K409Rまたは対照との間で同時に行われたFabアーム交換反応の結果を表す。
【
図25】2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体の、非還元条件(
図25(A))および還元条件(
図25(B))下でのSDS-PAGEによる分析。
【
図26】ホモ二量体出発材料IgG1-2F8-F405L (
図26(B))、ホモ二量体出発材料IgG1-7D8-K409R (
図26(A))、両方の二量体の混合物(1:1) (
図26(C))、およびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体(
図26(D))のHP-SECプロファイル。
【
図27】ホモ二量体出発材料IgG1-2F8-F405L (
図27(B))、ホモ二量体出発材料IgG1-7D8-K409R (
図27(A))、両方の二量体の混合物(1:1) (
図27(C))、およびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体(
図27(D))の質量分析(ESI-MS)。
【
図28A】ホモ二量体出発材料IgG1-2F8-F405L (
図28(A))のキャピラリー等電点分画(cIEF)プロファイル。
【
図28B】ホモ二量体出発材料IgG1-7D8-K409R (
図28(B))のキャピラリー等電点分画(cIEF)プロファイル。
【
図28C】両方の二量体の混合物(1:1) (
図28(C))のキャピラリー等電点分画(cIEF)プロファイル。
【
図28D】IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体(
図28(D))のキャピラリー等電点分画(cIEF)プロファイル。
【
図29】ホモ二量体出発材料IgG1-2F8-F405L (
図29(A))、ホモ二量体出発材料IgG1-7D8-K409R (
図29(B))、両方の二量体の混合物(1:1) (
図29(C))、およびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体(
図29(D))のHPLC-CIEXプロファイル。
【
図30】IgG1-7D8-K409RまたはIgG1-2F8-F405の重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターの同時トランスフェクションによって得られたIgGのエレクトロスプレイイオン化質量分析。ヘテロ二量体のピークを
*で示す。ホモ二量体のピークを†で示す。
【
図31】異なる間隔での注入の後に高圧液体クロマトグラフィー陽イオン交換(HPLC-CIEX)によってモニタリングしたときのホモ二量体IgG1-2F8-F405LおよびIgG1-7D8-K409Rの交換反応。
【
図32】CIEX法で検出したときの
図32に示される交換反応の残存ホモ二量体(矢印で示した)。
【
図33A】ELISAによって判定したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図33B】ELISAによって判定したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図33C】ELISAによって判定したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図33D】ELISAによって判定したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図33E】ELISAによって判定したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図33F】ELISAによって判定したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図34A】ELISAによって判定し、100%に任意設定された対照と比較したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図34B】ELISAによって判定し、100%に任意設定された対照と比較したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図34C】ELISAによって判定し、100%に任意設定された対照と比較したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図34D】ELISAによって判定し、100%に任意設定された対照と比較したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図35A】HPLC-CIEXによって分析したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図35B】HPLC-CIEXによって分析したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図35C】HPLC-CIEXによって分析したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図35D】HPLC-CIEXによって分析したときの種々のIgG濃度、2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間での二重特異性抗体の作出。
【
図36】表示のIgG1-2F8-L368X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出を、0~20μg/mLの濃度系列(総抗体)を用いてELISAにより判定した(
図37(A))。陽性対照は、IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409Rに由来する、二重特異性抗体の精製バッチである。
図37(B)は、陽性対照(黒棒)に対する20μg/mLでの二重特異性結合を示す。濃灰棒はIgG4対照(IgG4-7D8×IgG4-2F8)間および陰性対照(IgG1-2F8×IgG1-7D8-K409R)間の二重特異性結合を表す。白灰棒は、表示のIgG1-2F8-L368X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間で同時に行われたFabアーム交換反応の結果を表す。
【
図37】表示のIgG1-2F8-K370X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出を、0~20μg/mLの濃度系列(総抗体)を用いてELISAにより判定した(
図37(A))。陽性対照は、IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409Rに由来する、二重特異性抗体の精製バッチである。
図37(B)は、陽性対照(黒棒)に対する20μg/mLでの二重特異性結合を示す。濃灰棒はIgG4対照(IgG4-7D8×IgG4-2F8)間および陰性対照(IgG1-2F8×IgG1-7D8-K409R)間の二重特異性結合を表す。白灰棒は、表示のIgG1-2F8-D370X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間で同時に行われたFabアーム交換反応の結果を表す。
【
図38】表示のIgG1-2F8-D399X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出を、0~20μg/mLの濃度系列(総抗体)を用いてELISAにより判定した(
図38(A))。
図38(B)は、陽性対照(黒棒)に対する20μg/mLの抗体濃度での二重特異性結合を示す。濃灰棒はIgG4対照(IgG4-7D8×IgG4-2F8)間および陰性対照(IgG1-2F8×IgG1-7D8-K409R)間の二重特異性結合を表す。白灰棒は、表示のIgG1-2F8-D399X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間で同時に行われたFabアーム交換反応の結果を表す。
【
図39】サンドイッチELISAによって判定したときの0、30、60、105および200分のインキュベーション後の15℃での4つの異なるIgG1変異体の組み合わせの間の2-MEA誘導性のFabアーム交換。
【
図40】サンドイッチELISAによって判定したときの15℃で90分間の抗体インキュベーション後の異なるIgG1変異体の組み合わせの間の2-MEA誘導性のFabアーム交換。
【
図41】c-Met特異抗体によるc-Metのリン酸化。A549細胞をHGFまたは異なる抗体のパネルとともに15分間インキュベートする。タンパク質をSDS-pageゲル電気泳動によって分離し、ウエスタンブロッティングによって膜に転写する。リン酸化c-Met、総c-Metおよびβ-アクチンを、リン酸化c-Met、総c-Metまたはβ-アクチンに対する抗体によって検出する。
【
図42】NCI-H441細胞での増殖アッセイ法。NCI-H441細胞を一価の二重特異性IgG1 069/b12、対照抗体(IgG1-069、UniBody-069、IgG1-b12)とともに7日間インキュベートし、未処理のままとした。細胞塊を決定し、未処理サンプル(100%と設定した)の割合としてプロットした。
【
図43】IgG1-7D8-F405LまたはIgG1-2F8-F405LおよびIgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体によるCD20発現細胞のCDC媒介性の細胞死滅。表示した抗体の濃度系列を用いて、Daudi細胞(A)およびRaji細胞(B)に対するCDCを媒介するその能力を試験した。どちらの細胞株もCD20を発現するが、EGFRを発現しない。IgG1-7D8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性のFabアーム交換により作出された二重特異性抗体は、CDC媒介性の細胞死滅の誘導においてIgG1-7D8と同じくらい効果的であった。IgG2-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性のFabアーム交換に由来する二重特異性抗体は、一価CD20結合二重特異性抗体をもたらし、これがCDC媒介性の細胞死滅の誘導にわずかに影響を及ぼした。
【
図44】抗κ-ETA'プレインキュベートHER2×HER2二重特異性抗体により誘導されたA431細胞の死滅。抗κ-ETA'とともにプレインキュベートされたHER2抗体との3日のインキュベーション後のA431細胞の生存性。アラマーブルーを用いて細胞生存性を定量化した。示したデータは、抗κ-ETA'結合HER2抗体およびHER2×HER2二重特異性抗体で処理されたA431細胞での1回の実験の蛍光強度(FI)である。スタウロスポリンを陽性対照として用い、一方でアイソタイプ対照抗体を陰性対照として用いた。
【
図45】HER2×HER2二重特異性分子はHER2受容体の下方制御を誘導した。10μg/mL mAbとの3日のインキュベーション後のAU565細胞溶解物におけるHER2発現レベルの相対的割合。HER2の量を、HER2特異的な捕捉ELISAを用いて定量化し、未処理細胞と比べて%阻害として描いた。示したデータは、2回の実験の平均 + 標準偏差である。
【
図46】リソソームマーカーLAMP1 (Cy5)によるHER2×HER2二重特異性抗体(FITC)の共局在化分析。種々の単一特異性HER2抗体およびHER2×HER2二重特異性抗体に対してCy5と重複するFITCピクセル強度(
図46(B))。3つの異なる画像のLAMP1/Cy5陽性ピクセルのFITCピクセル強度を、試験した各抗体についてプロットした。単一特異性抗体では、二重特異性抗体と比べてLAMP1/Cy5陽性ピクセルのさらに低いFITCピクセル強度が明らかである。
図46(B)は、3つの異なる画像から計算されたLAMP1/Cy5陽性ピクセルあたりのFITCピクセル強度の平均値を表す。総合して、これらの結果から、内部移行後、単一特異性抗体と比べて、さらに高いレベルの二重特異性抗体がLamp1/Cy5陽性ベシクルに局在することが示唆される。
【
図47】HER-2単一特異性抗体および二重特異性抗体による増殖の阻害。AU565細胞を無血清細胞培地中10μg/mLのHER2抗体またはHER2×HER2二重特異性抗体の存在下で播種した。3日後、生細胞の量をアラマーブルーで定量化し、細胞生存性を未処理細胞に対する割合として提示した。アイソタイプ対照抗体を陰性対照として用いた。示したデータは、5倍±標準偏差で測定し、未処理細胞と比べた%AU565生細胞である。
*は、1つのデータポイントしか描かれなかったことを示す。
【
図48A】異なるpHでのヒトおよびマウスFcRnへの単一特異性および二重特異性IgG1抗体ならびにヒンジ欠失IgG1抗体の結合。ヒトおよびマウスFcRnを有するプレートを、異なる単一特異性および二重特異性IgG1抗体またはヒンジ欠失IgG1分子とともにインキュベートした。FcRnへの結合をELISAにより405 nmで分析した。(A) pH 7.4および6.0でのヒトFcRnへの単一特異性および二重特異性IgG1抗体ならびにヒンジ欠失IgG1 (Uni-G1)分子の結合。ヒトFcRnへの結合は中性pHで非常に低い。pH 6.0で、(二重特異性)抗体は、H435A変異を含まなければ、ヒトFcRnに効率的に結合する。ヒンジ欠失IgG1 (Uni-G1)分子は、低い効率でヒトFcRnを結合する。
【
図48B】異なるpHでのヒトおよびマウスFcRnへの単一特異性および二重特異性IgG1抗体ならびにヒンジ欠失IgG1抗体の結合。ヒトおよびマウスFcRnを有するプレートを、異なる単一特異性および二重特異性IgG1抗体またはヒンジ欠失IgG1分子とともにインキュベートした。FcRnへの結合をELISAにより405 nmで分析した。(B) pH 7.4および6.0でのマウスFcRnへの単一特異性および二重特異性IgG1抗体ならびにヒンジ欠失IgG1 (Uni-G1)分子の結合。マウスFcRnへの結合は中性pHで非常に低い。pH 6.0で、(二重特異性)抗体は、両方のFabアームにおいてH435A変異を含まなければ、マウスFcRnに非常に効率的に結合する。片方のFabアームのみにおいてH435A変異を持つ二重特異性分子は、それでもなおマウスFcRnを結合することができる。ヒンジ欠失IgG1 (Uni-G1)分子は、中等の効率でマウスFcRnを結合し、片方のFabアームのみにおいてH435A変異を持つヒンジ欠失IgG1 (Uni-G1)二重特異性分子は、わずかに低い効率である。
【
図49-1】Her2×CD3二重特異性抗体およびHer2×CD3二重特異性抗体のN297Q変異体によるAU565細胞のT細胞媒介性の細胞毒性。
【
図49-2】Her2×CD3二重特異性抗体およびHer2×CD3二重特異性抗体のN297Q変異体によるAU565細胞のT細胞媒介性の細胞毒性。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
定義
「免疫グロブリン」という用語は、2対のポリペプチド鎖、すなわち1対の低分子量軽(L)鎖および1対の重(H)鎖からなる構造的に関連した糖タンパク質のクラスをいい、これら4つは全てジスルフィド結合によって相互に結合している。免疫グロブリンの構造は十分に特徴付けられている。例えば、Fundamental Immunology Ch. 7 (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y. (1989))を参照されたい。簡潔に説明すると、各重鎖は典型的に、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は典型的に、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3から構成される。重鎖はいわゆる「ヒンジ領域」におけるジスルフィド結合によって相互に結合している。各軽鎖は典型的に、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は典型的に、1つのドメイン、CLから構成される。典型的に、定常領域におけるアミノ酸残基の付番は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)に記述されているようにEUインデックスにしたがって行われる。
図16は、抗体2F8の異なるアイソタイプ型に対するEUおよびKabat付番の概略を示す(WO 02/100348)。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が介在する相補性決定領域(CDR)とも称される超可変性の領域(または配列および/もしくは構造的に規定されたループの形態において超可変性でありうる超可変領域)に、さらに細分されうる。各VHおよびVLは典型的に、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置された、3つのCDRおよび4つのFRから構成される(Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196, 901 917 (1987)も参照されたい)。
【0018】
本明細書において用いられる場合、「Fabアーム」という用語は1つの重鎖-軽鎖対をいう。
【0019】
本明細書において用いられる場合、「Fc領域」という用語は、少なくともヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む抗体領域をいう。
【0020】
本発明との関連における「抗体」(Ab)という用語は、少なくとも約30分、少なくとも約45分、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約4時間、少なくとも約8時間、少なくとも約12時間(h)、約24時間もしくはそれ以上、約48時間もしくはそれ以上、約3、4、5、6、7日もしくはそれ以上などといったかなりの期間の、または任意の他の関連する、機能的に規定された期間(抗原に対する抗体結合に付随する生理反応を誘導、促進、増強、および/もしくは調節するのに十分な時間、ならびに/または抗体がエフェクタ活性を動員するのに十分な時間など)の半減期を有して、典型的な生理的条件下で抗原に特異的に結合する能力を有する、免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の断片、またはそれらいずれかの誘導体をいう。免疫グロブリン分子の重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体(Ab)の定常領域は、免疫系のさまざまな細胞(エフェクタ細胞など)、および補体活性化の古典的経路の第1成分であるC1qなどの補体系の成分を含む、宿主の組織または因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介しうる。抗体はまた、二重特異性抗体、二特異性抗体、または類似の分子でもよい。「二重特異性抗体」という用語は、少なくとも2つの異なるエピトープ、典型的には非重複エピトープに対する特異性を有する抗体をいう。上記のように、本明細書における抗体という用語は、特に明記しない限りまたは文脈上明らかに矛盾しない限り、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の断片を含む。そのような断片は酵素的切断、ペプチド合成および組み換え発現技法のような、任意の公知の技法によって提供することができる。抗体の抗原結合機能は全長抗体の断片、例えばF(ab')2断片によって行われうることが示されている。抗体という用語は、特に明記しない限り、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、キメラ抗体およびヒト化抗体などの抗体様ポリペプチドを含むこともまた、理解されるべきである。このようにして作出された抗体は、任意のアイソタイプを有しうる。
【0021】
本明細書において用いられる「全長抗体」という用語は、そのアイソタイプの抗体に通常見られる全ての重鎖および軽鎖の定常ドメインおよび可変ドメインを含む抗体をいう。
【0022】
本明細書において用いられる場合、「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる免疫グロブリンクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgE、またはIgM)をいう。
【0023】
本明細書において用いられる「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことが意図される。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムな、もしくは部位特異的な突然変異誘発によって、またはインビボでの体細胞突然変異によって導入された変異)を含みうる。しかしながら、本明細書において用いられる「ヒト抗体」という用語は、マウスのような別の哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列上に移植された抗体を含まないことが意図される。
【0024】
本明細書において用いられる場合、「重鎖抗体」という用語は、2つの重鎖だけからなり、抗体において通常見られる2つの軽鎖を欠く抗体をいう。例えばラクダ科の動物において天然に存在する、重鎖抗体は、VHドメインしか持たないにもかかわらず抗原に結合することができる。
【0025】
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合しうるタンパク質決定基を意味する。エピトープは、通常はアミノ酸または糖側鎖などの分子の表面基からなり、通常は特異的な三次元構造特性および特異的な電荷特性を有する。高次構造的エピトープと非高次構造的エピトープは、前者に対する結合は変性溶媒の存在下で失われるが、後者に対する結合は失われないという点で識別される。エピトープは、結合に直接関与するアミノ酸残基(エピトープの免疫優性成分とも称される)、および特異的抗原結合ペプチドによって効果的に阻止されるアミノ酸残基のような、結合に直接関与しない他のアミノ酸残基(すなわち、このアミノ酸残基は特異的抗原結合ペプチドのフットプリント内にある)を含みうる。
【0026】
本明細書において用いられる場合、所定の抗原に対する抗体の結合との関連における「結合」という用語は典型的に、例えば、抗原をリガンドとしておよび抗体を分析物として用いて、BIAcore 3000装置において表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって決定した場合の、約10-6 Mもしくはそれ以下、例えば約10-7 Mもしくはそれ以下、例えば約10-8 Mもしくはそれ以下、例えば約10-9 Mもしくはそれ以下、約10-10 Mもしくはそれ以下、または約10-11 Mもしくはさらにそれ以下のKDに対応する親和性での結合であり、所定の抗原または近縁の抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)に対する結合の親和性よりも、少なくとも10倍低い、例えば少なくとも100倍低い、例えば少なくとも1000倍低い、例えば少なくとも10,000倍低い、例えば少なくとも100,000倍低いKDに対応する親和性で、所定の抗原に結合する。親和性がより低い量は抗体のKDに依存し、それゆえ抗体のKDが非常に低い(すなわち、抗体が高度に特異的である)場合、抗原に対する親和性が非特異的抗原に対する親和性よりも低い量は少なくとも10,000倍でありうる。本明細書において用いられる「KD」(M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数をいう。
【0027】
本明細書において用いられる場合、「第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用」という用語は、第1のCH3/第2のCH3ヘテロ二量体タンパク質における第1のCH3領域と第2のCH3領域との間の相互作用をいう。
【0028】
本明細書において用いられる場合、「第1のCH3領域と第2のCH3領域のホモ二量体相互作用」という用語は、第1のCH3/第1のCH3ホモ二量体タンパク質における第1のCH3領域と別の第1のCH3領域との間の相互作用、ならびに第2のCH3/第2のCH3ホモ二量体タンパク質における第2のCH3領域と別の第2のCH3領域との間の相互作用をいう。
【0029】
本明細書において用いられる「単離された抗体」は、材料がその本来の環境(例えば、天然に存在しているなら天然の環境または組み換えにより発現されるなら宿主細胞)から取り除かれていることを意味する。抗体が精製された形態であることも好都合である。「精製された」という用語は、絶対的な純度を要するのではなく、むしろ、出発材料と比較した場合の、組成物中の夾雑物の濃度に対する抗体濃度の増加を示す、相対的な定義と意図される。
【0030】
本明細書において用いられる「宿主細胞」という用語は、発現ベクター、例えば本発明の抗体をコードする発現ベクターが導入された細胞をいうように意図される。組み換え宿主細胞は、例えば、CHO細胞、HEK293細胞、NS/0細胞、およびリンパ球細胞のような、トランスフェクトーマを含む。
【0031】
本明細書において用いられる場合、2つまたはそれ以上の核酸構築体の「共発現」という用語は、単一の宿主細胞における2つの構築体の発現をいう。
【0032】
「腫瘍細胞タンパク質」という用語は、腫瘍細胞の細胞表面に位置するタンパク質をいう。
【0033】
本明細書において用いられる場合、「エフェクタ細胞」という用語は、免疫応答の認識期および活性化期とは対照的に、免疫応答のエフェクタ期に関与する免疫細胞をいう。例示的な免疫細胞には、骨髄性またはリンパ系起源の細胞、例えばリンパ球(B細胞、および細胞傷害性T細胞(CTL)を含むT細胞など)、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、単球、好酸球、好中球などの多形核細胞、顆粒球、肥満細胞、および好塩基球が含まれる。一部のエフェクタ細胞は特定のFc受容体を発現し、特定の免疫機能を行う。いくつかの態様において、エフェクタ細胞は、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を誘導しうるナチュラルキラー細胞のように、ADCCを誘導することができる。いくつかの態様において、エフェクタ細胞は、標的抗原または標的細胞を貪食することができる。
【0034】
「還元条件」または「還元環境」という用語は、基質、ここでいう抗体のヒンジ領域内のシステイン残基が、酸化されるより還元された状態になる可能性が高い条件または環境をいう。
【0035】
「ジスルフィド結合の異性化」という用語は、異なるシステイン間のジスルフィド結合の交換、すなわちジスルフィド結合の再編成をいう。
【0036】
本発明のさらなる局面および態様
上記のように、第1の局面において、本発明は、以下の段階を含む、ヘテロ二量体タンパク質を作出するためのインビトロの方法に関する:
a) Fc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンのFc領域を含む第1のホモ二量体タンパク質を提供する段階、
b) Fc領域が第2のCH3領域を含む、免疫グロブリンのFc領域を含む第2のホモ二量体タンパク質を提供する段階、
ここで該第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列は異なり、該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、
c) ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合の異性化を起こすことを可能にするのに十分な還元条件の下で、該第1のタンパク質を該第2のタンパク質とともにインキュベートする段階、ならびに
d) 該ヘテロ二量体タンパク質を得る段階。
【0037】
二重特異的な形式を多くの方法で用いて、二重特異性抗体の所望の組み合わせを作出することができる。非常に選択的な方法で異なる抗原を標的化する抗体を組み合わせられることに加え、それを使って、同じ抗原を標的化する2つの異なる抗体を組み合わせることにより、所望の特性を変化させる、例えばCDCを増大させることができる。さらに、それを使って、アンタゴニスト抗体の部分的アゴニスト活性を除去することができ、またはその二重特異性抗体を無関係の(不活性な)抗体で作出することによりアゴニスト抗体をアンタゴニスト抗体へ変換することができる。
【0038】
1つの態様において、ホモ二量体タンパク質は、(i) Fc領域、(ii) 抗体、(iii) 受容体、サイトカインもしくはホルモンに融合されたFc領域のような、Fc領域を含む融合タンパク質、および(iv) プロドラッグ、ペプチド、薬物もしくは毒素に結合されたFc領域からなる群より選択される。
【0039】
いくつかの態様において、第1および/または第2のホモ二量体タンパク質は、Fc領域に加えて、抗体の他の領域、すなわちCH1領域、VH領域、CL領域および/またはVL領域の1つもしくは複数または全てを含む。したがって、1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は全長抗体である。別の態様において、第2のホモ二量体タンパク質は全長抗体である。
【0040】
重要な態様において、第1および第2のホモ二量体タンパク質はともに抗体であり、好ましくは全長抗体であり、異なるエピトープに結合する。そのような態様において、作出されるヘテロ二量体タンパク質は二重特異性抗体である。該エピトープは異なる抗原上にまたは同じ抗原上に位置することができる。
【0041】
しかしながら、他の態様において、ホモ二量体タンパク質の一方だけが全長抗体であり、もう一方のホモ二量体タンパク質は全長抗体ではない、例えば、受容体、サイトカインもしくはホルモンのような別のタンパク質もしくはペプチド配列とともに発現されるか、またはプロドラッグ、ペプチド、薬物もしくは毒素に結合される、可変領域のないFc領域である。さらなる態様において、ホモ二量体タンパク質のいずれも全長抗体ではない。例えば、どちらのホモ二量体タンパク質も、受容体、サイトカインもしくはホルモンのような別のタンパク質もしくはペプチド配列に融合されるか、またはプロドラッグ、ペプチド、薬物もしくは毒素に結合されるFc領域であることができる。
【0042】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質のFc領域は、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプのものであり、かつ第2のホモ二量体タンパク質のFc領域は、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプのものである。好ましい態様において、第1のホモ二量体タンパク質および第2のホモ二量体タンパク質の両方のFc領域はIgG1アイソタイプのものである。別の好ましい態様において、ホモ二量体タンパク質のFc領域の一方はIgG1アイソタイプのものであり、もう一方はIgG4アイソタイプのものである。後者の態様において、得られるヘテロ二量体はIgG1のFc領域およびIgG4のFc領域を含み、したがってエフェクタ機能の活性化に関して興味深い中間の特性を有することができる。第1および/または第2のホモ二量体タンパク質が、Asn結合型グリコシル化のアクセプタ部位を取り除く変異を含むか、またはそうでなければグリコシル化の特性を変化させるように操作されるなら、類似の産物を得ることができる。
【0043】
さらなる態様において、例えばUS2009317869に記述のようにもしくはvan Berkel et al. (2010) Biotechnol. Bioeng. 105:350に記述のように、抗体産生中の培地への化合物の添加により、または例えばYamane-Ohnuki et al (2004) Biotechnol. Bioeng 87:614に記述のように、FUT8ノックアウト細胞の使用により、フコースを低減させ、したがってADCCを増強させるためにホモ二量体タンパク質の一方または両方を糖遺伝子操作する。あるいは、Umana et al. (1999) Nature Biotech 17:176により記述されている方法を用いてADCCを最適化することができる。
【0044】
さらなる態様において、例えばNatsume et al. (2009) Cancer Sci. 100:2411に記述のように、補体活性化を増強するためにホモ二量体タンパク質の一方または両方を遺伝子操作した。
【0045】
さらなる態様において、新生児Fc受容体(FcRn)への結合を低減または増加させて、ヘテロ二量体タンパク質の血清中半減期を操作するために、ホモ二量体タンパク質の一方または両方を遺伝子操作した。
【0046】
さらなる態様において、ホモ二量体の出発タンパク質の一方がプロテインAに結合しないように遺伝子操作されており、したがって、産物をプロテインAカラムに通すことによって該ホモ二量体の出発タンパク質からヘテロ二量体タンパク質を分離することが可能になる。これは、過剰の一方のホモ二量体タンパク質が出発材料としてのもう一方のホモ二量体タンパク質に対して用いられる態様に特に有用でありうる。そのような態様において、プロテインAに結合する能力を緩めるように過剰にあるホモ二量体タンパク質を遺伝子操作することが有用でありうる。ヘテロ二量体化反応の後に、ヘテロ二量体タンパク質を次に、プロテインAカラムに通すことによって過剰の無交換ホモ二量体タンパク質から分離することができる。
【0047】
さらなる態様において、ホモ二量体タンパク質の一方はFc領域または無関係のエピトープを認識する全長抗体または体細胞超変異を受けておらず、自己抗原に結合しない生殖系列由来配列を含んだ全長抗体である。そのような態様において、ヘテロ二量体タンパク質は一価抗体として機能する。別の態様において、どちらのホモ二量体タンパク質も同じ重鎖を含むが、しかしホモ二量体タンパク質の一方しか、該重鎖と機能的な抗原結合部位を形成する軽鎖を含まず、もう一方のホモ二量体タンパク質は、該重鎖との組み合わせでいずれの抗原にも結合しない、非機能的な軽鎖を含む。そのような態様において、ヘテロ二量体タンパク質は一価抗体として機能する。そのような非機能的な軽鎖は、例えば、体細胞超変異を受けておらず、自己抗原に結合しない生殖系列由来配列であることができる。
【0048】
本発明のホモ二量体出発材料として用いられる抗体は、例えばKohler et al., Nature 256, 495 (1975)によって最初に記述されたハイブリドーマ法によって産生されてもよく、または組み換えDNA法によって産生されてもよい。モノクローナル抗体はまた、例えば、Clackson et al., Nature 352, 624 628 (1991)およびMarks et al., J. Mol. Biol. 222, 581 597 (1991)において記述される技術を用いてファージ抗体ライブラリから単離されてもよい。モノクローナル抗体は、任意の適当な供給源から得てもよい。このように、例えば、モノクローナル抗体は、関心対象の抗原によって免疫したマウスから得られたネズミ脾臓B細胞から調製されたハイブリドーマから、例として表面上に抗原を発現する細胞の形で、または関心対象の抗原をコードする核酸の形で得てもよい。モノクローナル抗体はまた、免疫したヒト、またはラット、イヌ、霊長類などのような非ヒト哺乳動物の抗体発現細胞に由来するハイブリドーマから得てもよい。
【0049】
本発明のホモ二量体出発材料として用いられる抗体は、例えばキメラ抗体またはヒト化抗体であってよい。別の態様において、任意の特定の変異を除けば、ホモ二量体出発タンパク質の一方または両方がヒト抗体である。ヒトモノクローナル抗体は、マウス免疫系ではなくヒト免疫系の部分を保有している、遺伝子導入マウスまたは染色体導入マウス、例えばHuMAbマウスを用いて作出することができる。HuMAbマウスは、内因性のμおよびκ鎖座を不活化する標的化変異とともに、非再配列ヒト重鎖(μおよびγ)およびκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ座を含有する(Lonberg, N. et al., Nature 368, 856 859 (1994))。したがって、マウスはマウスIgMまたはκの発現の低減を示し、免疫に応答して、導入されたヒト重鎖および軽鎖導入遺伝子は、クラススイッチおよび体細胞変異を受けて、高親和性のヒトIgG,κモノクローナル抗体を作出する(Lonberg, N. et al. (1994)、前記:Lonberg, N. Handbook of Experimental Pharmacology 113, 49-101 (1994)、Lonberg, N. and Huszar, D., Intern. Rev. Immunol. Vol. 13 65-93 (1995)、およびHarding, F. and Lonberg, N. Ann. N. Y. Acad. Sci 764 536-546 (1995)において論評)。HuMAbマウスの調製は、Taylor, L. et al., Nucleic Acids Research 20, 6287-6295 (1992)、Chen, J. et al., International Immunology 5, 647-656 (1993)、Tuaillon et al., J. Immunol. 152, 2912-2920 (1994)、Taylor, L. et al., International Immunology 6, 579-591 (1994)、Fishwild, D. et al., Nature Biotechnology 14, 845-851 (1996)において詳細に記述されている。同様にUS 5,545,806、US 5,569,825、US 5,625,126、US 5,633,425、US 5,789,650、US 5,877,397、US 5,661,016、US 5,814,318、US 5,874,299、US 5,770,429、US 5,545,807、WO 98/24884、WO 94/25585、WO 93/1227、WO 92/22645、WO 92/03918、およびWO 01/09187を参照されたい。これらの遺伝子導入マウス由来の脾細胞を用いて、周知の技法によりヒトモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを作出することができる。
【0050】
さらに、本発明のヒト抗体または他の種由来の本発明の抗体は、当技術分野において周知の技法を用いて、ファージディスプレイ、レトロウイルスディスプレイ、リボソームディスプレイ、哺乳動物ディスプレイ、およびその他の技法を含むがこれらに限定されないディスプレイ型の技術を通じて特定することができ、結果として得られる分子は、成熟の技法が当技術分野において周知であるので、親和性成熟などの、さらなる成熟に供することができる。
【0051】
本発明のさらなる態様において、抗体またはその部分、例えば1つまたは複数のCDRは、WO2010001251を参照されたいが、ラクダ(Camelidae)科の種のもの、またはテンジクザメのような、軟骨魚類の種のもの、または重鎖もしくはドメイン抗体である。
【0052】
本発明の方法の1つの態様において、段階a)およびb)において提供される第1および第2のホモ二量体タンパク質は精製される。
【0053】
1つの態様において、第1および/または第2のホモ二量体タンパク質は薬物、プロドラッグもしくは毒素に結合されるか、またはそれらに対するアクセプタ基を含む。そのようなアクセプタ基は、例えば、非天然アミノ酸であってよい。
【0054】
上記のように、ホモ二量体出発タンパク質の第1および第2のCH3領域の配列は異なり、該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものである。
【0055】
1つの態様において、ホモ二量体相互作用の各々との比較でのヘテロ二量体相互作用の強度の増大は、共有結合、システイン残基または荷電残基の導入以外のCH3改変によるものである。
【0056】
いくつかの態様において、本発明の産物は非常に安定であり、インビトロの穏和な還元条件の下でまたは、重要なことには、ヒトへの投与によりインビボでFabアーム交換を受けない。したがって、1つの態様において、結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用は、実施例13に記述した条件の下、0.5 mM GSHでFabアーム交換が起こりえないようなものである。
【0057】
別の態様において、結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用は、実施例14に記述した条件の下、マウスにおいてインビボでFabアーム交換が起こらないようなものである。
【0058】
別の態様において、結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用は、例えば実施例30に記述のように決定した場合、2つのホモ二量体相互作用のうちで最も強いものよりも2倍を超えて強く、例えば3倍を超えて強く、例えば5倍を超えて強い。
【0059】
さらなる態様において、第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列は、実施例30に記述のようにアッセイした場合、結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用の解離定数が0.05マイクロモル未満であるようなものである。
【0060】
さらなる態様において、第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列は、両方のホモ二量体相互作用の解離定数が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、0.01マイクロモルを超える、例えば0.05マイクロモルを超える、好ましくは0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものである。ホモ二量体出発タンパク質が比較的安定である態様では、大量の出発タンパク質を産生することおよび例えば凝集または誤った折り畳みを回避することがさらに容易であるという利点を有することができる。
【0061】
いくつかの態様において、安定なヘテロ二量体タンパク質は、CH3領域の中にほんの少しの、かなり保存的な、非対称変異を含む2つのホモ二量体出発タンパク質に基づき本発明の方法を用いて高い収量で得ることができる。
【0062】
したがって、1つの態様において、第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列は、同一でない位置にアミノ酸置換を含む。
【0063】
アミノ酸置換基は天然アミノ酸または非天然アミノ酸であってよい。非天然アミノ酸の例は、例えば、Xie J and Schultz P. G., Current Opinion in Chemical Biology (2005), 9:548-554、およびWang Q. et al., Chemistry & Biology (2009), 16:323-336に開示されている。
【0064】
1つの態様において、アミノ酸は天然アミノ酸である。
【0065】
1つの態様において、野生型CH3領域との比較で、第1のホモ二量体タンパク質はCH3領域の中にたった1つのアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質はCH3領域の中にたった1つのアミノ酸置換を有する。
【0066】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、その際に該第1のホモ二量体タンパク質および該第2のホモ二量体タンパク質は同じ位置では置換されない。
【0067】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置366にアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質は、368、370、399、405、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有する。1つの態様において、位置366のアミノ酸は、Arg、Lys、Asn、Gln、Tyr、GluおよびGlyより選択される。
【0068】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置368にアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質は、366、370、399、405、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有する。
【0069】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置370にアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、399、405、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有する。
【0070】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置399にアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、405、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有する。
【0071】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置405にアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有する。
【0072】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置407にアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有する。
【0073】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405および407からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有する。
【0074】
したがって、1つの態様において、第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列は非対称変異、すなわち2つのCH3領域における異なる位置での変異、例えばCH3領域の一方では位置405での変異およびもう一方のCH3領域における位置409での変異を含む。
【0075】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405および407からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有する。
【0076】
1つのそのような態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置405にPhe以外のアミノ酸を有する。このさらなる態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置405にPhe、ArgまたはGly以外のアミノ酸を有する。
【0077】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置405にPheおよび位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置405にPhe以外のアミノ酸および位置409にLysを含む。このさらなる態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置405にPheおよび位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置405にPhe、ArgまたはGly以外のアミノ酸および位置409にLysを含む。
【0078】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置405にPheおよび位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置405にLeuおよび位置409にLysを含む。このさらなる態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置405にPheおよび位置409にArgを含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置405にPhe、ArgまたはGly以外のアミノ酸および位置409にLysを含む。
【0079】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置405にPheおよび位置409にArgを含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置405にLeuおよび位置409にLysを含む。
【0080】
さらなる態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、位置370にThrおよび位置405にLeuを含む。
【0081】
さらなる態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にArgを含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、位置370にThrおよび位置405にLeuを含む。
【0082】
さらなる態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置370にLys、位置405にPheおよび位置409にArgを含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、位置370にThrおよび位置405にLeuを含む。
【0083】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置409にLysならびに: a) 位置350にIleおよび位置405にLeu、またはb) 位置370にThrおよび位置405にLeuを含む。
【0084】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にArgを含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置409にLysならびに: a) 位置350にIleおよび位置405にLeu、またはb) 位置370にThrおよび位置405にLeuを含む。
【0085】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置350にThr、位置370にLys、位置405にPheおよび位置409にArgを含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置409にLysならびに: a) 位置350にIleおよび位置405にLeu、またはb) 位置370にThrおよび位置405にLeuを含む。
【0086】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置350にThr、位置370にLys、位置405にPheおよび位置409にArgを含み、第2のホモ二量体タンパク質は位置350にIle、位置370にThr、位置405にLeuおよび位置409にLysを含む。
【0087】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerまたはThr以外のアミノ酸を有する。
【0088】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置407にAla、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、ValまたはTrpを有する。
【0089】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置407にGly、Leu、Met、AsnまたはTrpを有する。
【0090】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置407にTyrおよび位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerまたはThr以外のアミノ酸および位置409にLysを有する。
【0091】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置407にTyrおよび位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置407にAla、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、ValまたはTrpおよび位置409にLysを有する。
【0092】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置407にTyrおよび位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置407にGly、Leu、Met、AsnまたはTrpおよび位置409にLysを有する。
【0093】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置407にTyrおよび位置409にArgを有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerまたはThr以外のアミノ酸および位置409にLysを有する。
【0094】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置407にTyrおよび位置409にArgを有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置407にAla、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、ValまたはTrpおよび位置409にLysを有する。
【0095】
別の態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置407にTyrおよび位置409にArgを有し、第2のホモ二量体タンパク質は位置407にGly、Leu、Met、AsnまたはTrpおよび位置409にLysを有する。
【0096】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、第2のホモ二量体タンパク質は
(i) 位置368にPhe、LeuおよびMet以外のアミノ酸、または
(ii) 位置370にTrp、または
(iii) 位置399にAsp、Cys、Pro、GluもしくはGln以外のアミノ酸
を有する。
【0097】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にArg、Ala、HisまたはGlyを有し、第2のホモ二量体タンパク質は
(i) 位置368にLys、Gln、Ala、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Asn、Arg、Ser、Thr、ValもしくはTrp、または
(ii) 位置370にTrp、または
(iii) 位置399にAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、Trp、Phe、His、Lys、ArgもしくはTyrを有する。
【0098】
1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質は位置409にArgを有し、第2のホモ二量体タンパク質は
(i) 位置368にAsp、Glu、Gly、Asn、Arg、Ser、Thr、ValもしくはTrp、または
(ii) 位置370にTrp、または
(iii) 位置399にPhe、His、Lys、ArgもしくはTyr
を有する。
【0099】
上で指定したアミノ酸置換に加えて、第1および第2のホモ二量体タンパク質は野生型Fc配列と比べてさらなるアミノ酸置換、欠失または挿入を含むことができる。
【0100】
さらなる態様において、第1および第2のCH3領域は指定した変異を除けば、SEQ ID NO:1 (IgG1m(a))に記載される配列を含む。
【0101】
さらなる態様において、第1および第2のCH3領域は指定した変異を除けば、SEQ ID NO:2 (IgG1m(f))に記載される配列を含む。
【0102】
さらなる態様において、第1および第2のCH3領域は指定した変異を除けば、SEQ ID NO:3 (IgG1m(ax))に記載される配列を含む。
【0103】
さらなる態様において、提供されるホモ二量体タンパク質は、Lindhofer et al. (1995) J Immunol 155:21によって記述されているように(上記参照)、好ましい対形成を示す、ラット抗体およびマウス抗体、または米国特許第5,731,168号に記述されているように(上記参照)、いわゆるノブ・イン・ホール変種抗体でありうる。しかしながら、場合によっては、後者のホモ二量体出発タンパク質は、極めて弱いホモ二量体CH3-CH3相互作用のため、産生することがより困難でありうる。したがって、位置350、370、405および409に変異を有する本明細書において記述の変種が好ましいこともある。
【0104】
ホモ二量体出発タンパク質のヒンジ領域の配列は変わることもある。しかしながら、得られるヘテロ二量体タンパク質は、ヒンジ領域がIgG4様でないなら、および、好ましくはIgG1様であるなら、ある状況下ではより安定でありうる。
【0105】
したがって、1つの態様において、第1のホモ二量体タンパク質と第2のホモ二量体タンパク質のどちらも(コア)ヒンジ領域の中にCys-Pro-Ser-Cys配列を含まない。
【0106】
さらなる態様において、第1のホモ二量体タンパク質と第2のホモ二量体タンパク質のどちらも(コア)ヒンジ領域の中にCys-Pro-Pro-Cys配列を含む。
【0107】
第1および第2のホモ二量体タンパク質が抗体である多くの態様において、抗体は軽鎖をさらに含む。上で説明したように、軽鎖は異なってもよく、すなわち配列が異なり、それぞれが重鎖の一方だけと機能的な抗原結合ドメインを形成してもよい。しかしながら、別の態様において、第1および第2のホモ二量体タンパク質は重鎖抗体であり、これは抗原結合のために軽鎖を必要とせず、例えば、Hamers-Casterman (1993) Nature 363:446を参照されたい。
【0108】
上記のように、本発明の方法の段階c)は、ヒンジ領域中のシステインがジスルフィド結合の異性化を受けることを可能とするのに十分な還元条件の下で第1のタンパク質を第2のタンパク質とともにインキュベートする段階を含む。適当な条件の例が本明細書において示される。ヒンジ領域中のシステインがジスルフィド結合の異性化を受けるための最小必要要件は、ホモ二量体出発タンパク質に依って、特に、ヒンジ領域中の的確な配列に依って異なりうる。第1および第2のCH3領域の各ホモ二量体相互作用は、ヒンジ領域中のシステインが所与の条件の下でジスルフィド結合の異性化を受けることを可能とするのに十分に弱いことが重要である。
【0109】
1つの態様において、段階c)における還元条件には還元剤、例えば2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリスリトール(DTE)、グルタチオン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、L-システインおよびβ-メルカプトエタノールからなる群より選択される還元剤、好ましくは、2-メルカプトエチルアミン、ジチオスレイトールおよびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンからなる群より選択される還元剤の添加が含まれる。
【0110】
1つの態様において、制御されたFabアーム交換を可能にする還元条件は、必要とされる酸化還元電位という観点から記述されている。トリペプチドグルタチオン(GSH)は、細胞において主要な低分子量チオールであり、インビボでの通常の酸化還元シグナル伝達に不可欠な、チオール・ジスルフィド酸化還元状態を制御する。細胞の酸化還元バランスの動態は、還元型GSHおよびその酸化型GSSGのチオール対ジスルフィド状態の維持によって達成される。還元電位の値はRost and Rapoport, Nature 201: 185 (1964)およびAslund et al., J. Biol. Chem. 272: 30780-30786 (1997)にあるように測定することができる。1つのGSSGにつき酸化される2つのGSHの化学量論を考慮する酸化還元電位Ehは、酸化還元状態の定量的尺度である。Ehはネルンスト(Nernst)の式: Eh = EO + (RT/nF)ln ([GSSG (ox)]/[GSH (red)]2)によって算出される。Eoは規定のpHでの酸化還元対の標準電位であり、Rは気体定数であり、Tは絶対温度であり、Fはファラデー定数であり、およびnは移動した電子の数である。GSH/GSSG対のEhに対するインビボでの推算値は-260~-200 mVの範囲である(Aw, T., News Physiol. Sci. 18:201-204 (2003))。最終分化した細胞はその結果、ほぼ-200 mV程度でEhを維持する一方で、活発に増殖している細胞はおよそ-260 mVのさらに低減したEhを維持する。
【0111】
DTTの標準的な酸化還元電位は-330 mVである(Cleland et al. Biochemistry 3: 480-482 (1964))。TCEPは溶液中でDTTを低減することが示されており、それゆえ、DTTよりも陰性の酸化還元電位を有する。しかしながら、正確な値は報告されていない。制御されたFabアーム交換条件を可能にする還元条件はそれゆえ、必要とされる酸化還元電位Ehという観点で記述することが可能であり、これはインビボの通常の血漿条件の下で達成される値を最適には下回り、ヒンジ領域に位置するかつ重鎖間ジスルフィド結合の形成に関わるもの以外の抗体ジスルフィド結合を低減する酸化還元電位を上回る。
【0112】
したがって、さらなる態様において、段階c)は、-50 mVを下回る、例えば-150 mVを下回る、好ましくは-150~-600 mV、例えば-200~-500 mV、より好ましくは-250~-450 mV、例えば-250~-400 mV、さらにより好ましくは-260~-300 mVに及ぶ酸化還元電位による還元条件の下で行われる。
【0113】
さらなる態様において、段階c)は、少なくとも25 mMの2-メルカプトエチルアミンの存在下にてまたは少なくとも0.5 mMのジチオスレイトールの存在下にて少なくとも20℃の温度で少なくとも90分間のインキュベーションを含む。インキュベーションは5~8のpHで、例えばpH 7.0でまたはpH 7.4で行うことができる。
【0114】
さらなる態様において、段階d)は、例えば還元剤の除去により、例えば脱塩により、非還元条件または低還元条件になるように条件を戻す段階を含む。
【0115】
いくつかの態様において、本発明の方法は、80%超、例えば90%超、例えば95%超、例えば99%超の抗体分子が所望の二重特異性抗体である抗体産物を生じさせる。
【0116】
産生後技術(post-production)は、共発現に基づく先行技術の方法と比べて、より適応性があり、より制御が容易である。
【0117】
本明細書において開示される(2-MEAの添加によるような)還元条件下でのFab交換により二重特異性抗体を作出することの産生後技術の特性によって、これは、二重特異性抗体の発見に向けた特異性の複数の組み合わせの(高速大量処理)スクリーニングに非常に適した戦略になる。さらに、共発現によって可能とされるよりも高いヘテロ二量体タンパク質の制御、適応性および収量を可能にするインビトロでの工程を研究室で行うことができる。この戦略のさらなる利点は、スクリーニングを最終の治療形式で行え、リード選択時の遺伝子操作の必要性をなくせるということである。
【0118】
上で説明したように、さらなる局面において、本発明の方法は、「マトリックス」スクリーニングのために、すなわち、一方のセットが同一の第1のCH3領域を有し、かつもう一方のセットが同一の第2のCH3領域を有し、該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものである、二つのセットの抗体に基づき多数の異なる組み合わせの結合特異性を作出するために用いることができる。
【0119】
したがって、1つの態様において、本発明は、所望の特性を有するヘテロ二量体タンパク質の選択のための方法であって、以下の段階を含む該方法に関する:
a) ホモ二量体タンパク質が同一の第1のCH3領域を有する、Fc領域を含んだ第1セットのホモ二量体タンパク質を提供する段階、
b) ホモ二量体タンパク質が同一の第2のCH3領域を有する、Fc領域を含んだ第2セットのホモ二量体タンパク質を提供する段階、
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、
c) ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合の異性化を起こすことを可能にするのに十分な還元条件の下で、該第1セットのおよび該第2セットのホモ二量体タンパク質の組み合わせをインキュベートし、かくして二重特異性抗体のセットを作出する段階、
d) 任意で条件を非還元条件に戻す段階、
e) 得られたヘテロ二量体タンパク質のセットを所与の所望の特性についてアッセイする段階、ならびに
f) 所望の特性を有するヘテロ二量体タンパク質を選択する段階。
【0120】
1つの態様において、本発明は、所望の特性を有する二重特異性抗体の選択のための方法であって、以下の段階を含む該方法に関する:
a) 第1セットの抗体が同一の第1のCH3領域を含む、異なる可変領域を有する抗体を含んだホモ二量体抗体の第1セットを提供する段階、
b) 第2セットの抗体が同一の第2のCH3領域を含む、異なる可変領域または同一の可変領域を有する抗体を含んだホモ二量体抗体の第2セットを提供する段階、
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、
c) ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合の異性化を起こすことを可能にするのに十分な還元条件の下で、該第1セットのおよび該第2セットの抗体の組み合わせをインキュベートし、かくして二重特異性抗体のセットを作出する段階、
d) 任意で条件を非還元条件に戻す段階、
e) 得られた二重特異性抗体のセットを所与の所望の特性についてアッセイする段階、ならびに
f) 所望の特性を有する二重特異性抗体を選択する段階。
【0121】
1つの態様において、第2セットのホモ二量体抗体は異なる可変領域を有する。
【0122】
1つの態様において、第2セットのホモ二量体抗体は同一の可変領域を有するが、抗原結合領域外に異なるアミノ酸または構造変化を有する。
【0123】
2つのセットは必要に応じて多くの異なるやり方で構成することができる。したがって、2つのセットは同じ抗原上の同じエピトープまたは異なるエピトープを標的化してもよい。2つのセットはまた、異なる抗原を標的化してもよく、各セットは、問題の抗原上の同じエピトープまたは異なるエピトープに結合する抗体を含んでもよい。さらに、セットの一方またはセットの両方が、それぞれ、異なる抗原を標的化する抗体を含んでもよい。
【0124】
別の態様において、所望の特性は細胞死滅、細胞溶解、細胞増殖の阻害、または両方の抗原標的を発現する細胞への結合である。
【0125】
スクリーニング戦略にはさまざまな範囲の特異性を含んだ抗体ベクターの2つのパネルが含まれ、ここで1つのパネルは、もう1つのパネルの主鎖との(2-MEAの添加によるような)還元条件下でのFabアーム交換に関わることができる主鎖へクローニングされる。例えば、第1のパネルをIgG1-F405L主鎖へクローニングし、第2のパネルをIgG1-K409R主鎖へクローニングする(他の可能な主鎖の組み合わせは、実施例19、28、29、30、35、36、37、38、および39も参照のこと)。
【0126】
抗体ベクターの2つのパネルの各成員を次に、小規模で個別に発現させる。例えば、全ての抗体ベクターをHEK293細胞に一過性にトランスフェクトし、24ウェルプレートに入れた培養物2.3 mL中で発現させる。あるいは、当技術分野において公知の他の適当な(小規模の)産生系を用いることもできる。
【0127】
2つの抗体パネルの発現抗体を次に、等モルの比率にて縦横に対で混合する。例えば、全ての個々の抗体を小規模のプロテインAクロマトグラフィーによって精製し、抗体濃度を280 nmの波長での吸光度によって測定する。あるいは、当技術分野において公知のタンパク質濃度を決定するための他の適当な(小規模の)精製方法を用いることもできる。別の態様において、発現培地によって下流の適用に影響がないなら、精製段階を省略することができる。その後、適当な容量に等モル量の両抗体が含まれるように抗体濃度を規準化する。例えば、100μlの64種の混合物に80μg/mLの抗体A (F405L)および80μg/mLの抗体B (K409R)が含まれるように、F405L主鎖における8種の抗体のパネルをK409R主鎖における8種の抗体と個別に混合する。あるいは、戦略のなかに二重特異性抗体特異的な下流の精製段階が含まれるなら、抗体量を規準化する段階を省略することもできる。
【0128】
抗体の混合物に、適当な量の還元剤を加え、許容温度で適当な時間インキュベートする。例えば、80μg/mLの抗体A (F405L)および80μg/mLの抗体B (K409R)を含有する100μlに、125 mM 2-MEA 25μlを加え(終濃度25 mMの2-MEA)、25℃で終夜インキュベートする。
【0129】
還元剤をその後すぐに、混合物(この時点では二重特異性抗体を含有する)から除去して、ジスルフィド結合の酸化を促進し、スクリーニングアッセイ法における還元剤の妨害を回避する。例えば、Zeba Spin 96ウェル脱塩プレート(Pierce Biotechnology, #89807)を用いて64種の混合物の緩衝液の交換を行うことにより、2-MEAを除去する。あるいは、当技術分野において公知の還元剤を除去するのに適した他の方法を用いることができる。
【0130】
次に二重特異性抗体を生化学的にまたは機能的に特徴付けて、リード候補を特定する。例えば、64種の二重特異性抗体を適当な細胞株の増殖阻害または適当な細胞株への結合についてアッセイする。特定されたリード候補をその後、さらに大規模で産生し、さらに詳細に特徴付ける。
【0131】
共発現による産生
本発明のヘテロ二量体タンパク質は、第1および第2のポリペプチドをコードする構築体の単一細胞における共発現によって得ることもできる。
【0132】
したがって、さらなる局面において、本発明は、以下の段階を含む、ヘテロ二量体タンパク質を産生するための方法に関する:
a) 第1のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のポリペプチドをコードする第1の核酸構築体を提供する段階、
b) 第2のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸構築体を提供する段階、
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、かつ
ここで該第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、該第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405および407からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、
かつ/または
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は、CH3領域の各々のホモ二量体相互作用の解離定数が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものであり、
c) 宿主細胞において該第1および第2の核酸構築体を共発現させる段階、ならびに
d) 細胞培養物から該ヘテロ二量体タンパク質を得る段階。
【0133】
プロモーター、エンハンサーなどを含む適当な発現ベクター、および抗体の産生に適した宿主細胞は当技術分野において周知である。宿主細胞の例としては、CHOまたはHEK細胞のような、酵母細胞、細菌細胞および哺乳動物細胞が挙げられる。
【0134】
この方法の1つの態様において、第1のCH3領域は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、第2のCH3領域は位置405にPhe以外のアミノ酸を有し、
かつ/または
第1および第2のCH3領域の配列は、CH3領域の各々のホモ二量体相互作用の解離定数が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものである。
【0135】
この方法の別の態様において:
第1のCH3領域は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、第2のCH3領域は位置405にPhe、ArgもしくはGly以外のアミノ酸などの、位置405にPhe以外のアミノ酸を有し、
または
第1のCH3領域は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、第2のCH3領域は位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerもしくはThr以外のアミノ酸を有する。
【0136】
いくつかの態様において、第1および第2のポリペプチドは、異なるエピトープに結合する2つの抗体の全長重鎖であり(すなわち第1および第2の核酸構築体は、異なるエピトープに結合する2つの抗体の全長重鎖をコードし)、かくしてヘテロ二量体タンパク質は二重特異性抗体である。この二重特異性抗体は重鎖抗体であることができ、または宿主細胞は、軽鎖をコードする1つまたは複数の核酸構築体をさらに発現してもよい。1つの軽鎖構築体しか重鎖構築体と共発現されないなら、機能的な二重特異性抗体は、軽鎖配列が重鎖の各々と機能的な抗原結合ドメインを形成できるようなものである場合に形成されるだけである。2つまたは複数の異なる軽鎖構築体が重鎖と共発現されるなら、複数の産物が形成されよう。
【0137】
さらなる態様において、本発明による共発現の方法は、上記のインビトロの方法の下で記述したさらなる特徴のいずれかを含む。
【0138】
さらなる局面において、本発明は、本明細書において上記に指定した第1および第2の核酸構築体を含む発現ベクターに関する。さらなる局面において、本発明は、本明細書において上記に指定した第1および第2の核酸構築体を含む宿主細胞に関する。
【0139】
ヘテロ二量体タンパク質
さらなる局面において、本発明は、本発明の方法によって得られたまたは得ることができるヘテロ二量体タンパク質に関する。
【0140】
さらに、本発明の方法は、非対称分子、Fabアームの各々に関してもしくはCH3ドメインの各々に関して異なる特徴を有する分子、または分子全体に異なる改変を有する分子、例えば結合のために非天然アミノ酸置換を有する分子の形成を可能にする。そのような非対称分子は任意の適当な組み合わせで作出することができる。これをいくつかの非限定的な例によって以下でさらに例示する。
【0141】
二重特異性抗体を用いて、腫瘍細胞を含むがこれに限定されない、関心対象の標的細胞を前標的化することができる。標的細胞の前標的化は画像研究のためにまたは免疫治療の目的のために用いることができよう。
【0142】
本発明の方法の1つの態様において、二重特異性分子の第1のFabアームは、本明細書において記載される腫瘍細胞表面タンパク質の1つなどの、腫瘍細胞表面タンパク質または腫瘍細胞表面糖鎖のような、腫瘍細胞に結合し、第2のFabアームは、ペプチドまたはハプテンに(キレート剤を介して)カップリングまたは連結された放射標識を含むがこれに限定されない、放射性エフェクタ分子を認識する。そのような放射標識ペプチドの1例は、インジウム標識ジエチレントリアミン5酢酸である(anti-DTPA(In) van Schaijk et al. Clin. Cancer Res. 2005; 11 : 7230s-7126s)。別の例は、例えばテクネチウム-99のような放射性核種を保有する重合体ミセルのナノ粒子、リポソームのようなハプテン標識コロイド粒子の使用である(Jestin et al. Q J Nucl Med Mol Imaging 2007; 51:51-60)。
【0143】
別の態様において、毒素のようなハプテンにカップリングされた別の細胞増殖抑制分子が用いられる。
【0144】
本発明の方法のさらなる態様において、二重特異性分子の第1のFabアームは位置N297 (EU付番)でグリコシル化され、二重特異性分子の第2のFabアームはグリコシル化されない(例えば、N297をQまたはAまたはE変異へ変異させることにより非グリコシル化される(Bolt S et al., Eur J Immunol 1993, 23: 403-411))。Fc領域における非対称グリコシル化はFcγ-受容体との相互作用に影響を与え、C1qのような他のエフェクタ機能分子との相互作用に影響を及ぼすだけでなく、抗体の抗体依存性細胞性細胞傷害にも影響を及ぼす(Ha et al., Glycobiology 2011, April 5)。
【0145】
本発明の方法の別の態様において、二重特異性分子の第1のFabアームは新生児Fc受容体FcRnと相互作用し(Roopenian DC, et al. Nat. Rev. Immunol. 2007, 7: 715-725)、第2のFabアームは分子上のFcRn相互作用部位の変異により、例えばH435A変異の作出によりFcRnへの結合が損なわれている(Shields, R.L., et al, J Biol Chem, 2001、Firan, M., et al, Int Immunol, 2001)。
【0146】
本発明の方法の別の態様において、二重特異性分子の第1のFabアームは、抗体の精製のためによく用いられるブドウ球菌プロテインA (プロテインA、Deisenhofer et al, Biochemistry 20, 2361-2370 (1981)および連鎖球菌プロテインG (プロテインG、Derrick et al., Nature 359, 752-754 (1992)と相互作用し、二重特異性分子の第2のFabアームはプロテインAまたはGとの相互作用が損なわれている。結果として、ヘテロ二量体への交換後に残ったプロテインAまたはG結合障害のあるホモ二量体の量の除去は、プロテインAまたはGを用いた二重特異性分子の精製によって容易に得られる。
【0147】
別の態様において、Fcγ-受容体またはFcRnのいずれかへの結合が、二重特異性分子の二つのFabアームの一方で改善または低減される。
【0148】
別の態様において、C1qへの結合が、二重特異性分子の二つのFabアームの一方で改善または低減される。
【0149】
別の態様において、分子の二つのFabアームの一方または両方で補体活性化を増強するようにタンパク質が遺伝子操作されている。
【0150】
別の態様において、二重特異性分子に存在するFabアームの各々が異なるIgGサブクラスに由来する。
【0151】
別の態様において、二重特異性分子に存在するFabアームの各々が異なるアロタイプ変異を保有する(Jefferis & Lefranc, 2009, MABs 1 :332-8)。
【0152】
別の態様において、別の部類の非対称免疫治療分子が免疫活性、刺激性または阻害性サイトカインによる二重特異性分子のFabアームの一方のFabの置き換えによって作出される。そのようなサイトカインの非限定的な例はIL-2、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、TNF-α、G-CSF、GM-CSF、IL-10、IL-4、IL-6、IL-13である。あるいは、(増殖)因子またはホルモン刺激剤もしくは阻害剤が分子の中に含まれる。
【0153】
別の態様において、Fabアームの一方のFabが細胞溶解性ペプチド、すなわち、マゲイニン、メリチン、セクロピン、KLAKKLAKおよびその変種のような抗菌ペプチドを含むがこれらに限定されない、腫瘍細胞、細菌、真菌などを溶解できるペプチド(Schweizer et al. Eur. J. Pharmacology 2009; 625: 190-194、Javadpour, J. Med. Chem., 1996, 39: 3107-3113、Marks et al, Cancer Res 2005; 65:2373-2377、Rege et al, Cancer Res. 2007; 67:6368-6375)または陽イオン性の細胞溶解性ペプチド(CLYP technology, US2009/0269341)によって置き換えられる。
【0154】
別の態様において、FabアームのFabの一方または両方をサイトカインおよび/または増殖因子に対する受容体によって置き換え、いわゆるデコイ受容体を作出し、このうち、TNF-αを標的化するエンブレル(登録商標) (エタネルセプト)およびVEGFを標的化するVEGF-trapが周知の例である。これらの二つのデコイ受容体を組み合わせて一つの分子にすることにより、単一のデコイ受容体に比べて優れた活性が示された(Jung, J.Biol. Chem. 2011; 286: 14410-14418)。
【0155】
別の態様において、別の部類の非対称免疫治療分子が、二重特異性分子に存在するFabアームの一方または両方のN末端またはC末端への免疫活性、刺激性または阻害性サイトカインの融合によって作出される。これは二重特異性分子の抗腫瘍活性にプラスの影響を与えうる。しかしながら、以下のリストに限定されない、そのような分子の例は、IL-2 (Fournier et al., 2011, Int. J. Oncology, doi: 10.3892/ijo.2011.976)、IFN-α、IFN-βまたはIFN-γ (Huan et al., 2007; J. Immunol. 179: 6881-6888、Rossie et al., 2009; Blood 114: 3864-3871)、TNF-αである。あるいは、例えばG-CSF、GM-CSF、IL-10、IL-4、IL-6またはIL-13のような、サイトカインのN末端またはC末端融合は、二重特異性抗体分子エフェクタ機能にプラスの影響を与えうる。あるいは、(増殖)因子またはホルモン刺激剤もしくは阻害剤がN末端またはC末端にて分子の中に含まれる。
【0156】
別の態様において、Fabアームの一方または両方での、例えばマゲイニン、メリチン、セクロピン、KLAKKLAKおよびその変種のような抗菌ペプチドなどの、細胞溶解性ペプチド(Schweizer et al. Eur. J. Pharmacology 2009; 625: 190-194、Javadpour, J. Med. Chem., 1996, 39: 3107-3113、Marks et al, Cancer Res 2005; 65: 2373-2377、Rege et al, Cancer Res. 2007; 67: 6368-6375)または陽イオン性の細胞溶解性ペプチド(CLYP technology, US2009/0269341)のN末端またはC末端融合は、分子の活性を増強しうる。
【0157】
別の態様において、別の部類の非対称免疫治療分子は一価抗体、つまり選択の標的と一方のFabアームで相互作用する分子である。そのような分子において、二重特異性分子に存在するFabアームの一方は選択の標的分子に対して作製され、分子のもう一方のFabアームはFabを保有しないかまたはMetMab (Genentech; WO 96/38557)について記述されているような非結合性/非機能性Fabを有する。あるいは、第VIII因子および第IX因子について記述されているものなどの単量体Fc融合タンパク質(Peters et al., Blood 2010; 115: 2057-2064)を作出することができる。
【0158】
あるいは、上記の非対称分子のいずれかの組み合わせを本発明の方法によって作出することができる。
【0159】
さらなる局面において、本発明は、第1のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のポリペプチド、および第2のFc領域が第2のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のポリペプチドを含むヘテロ二量体タンパク質に関し、ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、かつ
ここで該第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、該第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405および407からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、
かつ/または
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は、CH3領域の各々のホモ二量体相互作用の解離定数が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものである。
【0160】
1つの態様において、第1のCH3領域は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、第2のCH3領域は位置405にPhe以外のアミノ酸を有し、
かつ/または
第1および第2のCH3領域の配列は、CH3領域の各々のホモ二量体相互作用の解離定数が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものである。
【0161】
ヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、
第1のCH3領域は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、第2のCH3領域は位置405にPhe、ArgもしくはGly以外のような、位置405にPhe以外のアミノ酸を有し、
または
第1のCH3領域は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、第2のCH3領域は位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerもしくはThr以外のアミノ酸を有する。
【0162】
さらなる態様において、本発明によるヘテロ二量体タンパク質は産生方法のための上記のさらなる特徴のいずれかを含む。
【0163】
したがって、本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のポリペプチドは抗体、好ましくはヒト抗体の全長重鎖である。
【0164】
本発明のヘテロ二量体タンパク質の別の態様において、第2のポリペプチドは抗体、好ましくはヒト抗体の全長重鎖である。
【0165】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1および第2のポリペプチドはともに、2つの抗体、好ましくはともに、異なるエピトープに結合するヒト抗体の全長重鎖であり、かくして得られるヘテロ二量体タンパク質は二重特異性抗体である。この二重特異性抗体は重鎖抗体、または重鎖に加えて、同一であってもまたは異なってもよい、2つの全長軽鎖を含む抗体でありうる。
【0166】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のポリペプチドのFc領域は、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプのもの(特定の変異を除く)であり、第2のポリペプチドのFc領域は、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプのもの(特定の変異を除く)である。
【0167】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドの両方のFc領域がIgG1アイソタイプのものである。
【0168】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、ポリペプチドのFc領域の一方がIgG1アイソタイプのものであり、もう一方がIgG4アイソタイプのものである。
【0169】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、ホモ二量体相互作用の各々との比較でのヘテロ二量体相互作用の強度の増大は、共有結合、システイン残基または荷電残基の導入以外のCH3改変によるものである。
【0170】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、ヘテロ二量体タンパク質における第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの間のヘテロ二量体相互作用は、実施例13に記述した条件の下、0.5 mM GSHでFabアーム交換が起こりえないようなものである。
【0171】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの間のヘテロ二量体相互作用は、実施例14に記述した条件の下、マウスにおいてインビボでFabアーム交換が起こらないようなものである。
【0172】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のCH3領域は位置405にPheおよび位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、第2のCH3領域は位置405にPhe以外のアミノ酸および位置409にLysを含む。
【0173】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のCH3領域は位置405にPheおよび位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、第2のCH3領域は位置405にLeuおよび位置409にLysを含む。
【0174】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のCH3領域は位置405にPheおよび位置409にArgを含み、第2のCH3領域は位置405にLeuおよび位置409にLysを含む。
【0175】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のCH3領域は位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、第2のCH3領域は位置409にLysならびに: a) 位置350にIleおよび位置405にLeu、またはb) 位置370にThrおよび位置405にLeuを含む。
【0176】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のCH3領域は位置409にArgを含み、第2のCH3領域は位置409にLysならびに: a) 位置350にIleおよび位置405にLeu、またはb) 位置370にThrおよび位置405にLeuを含む。
【0177】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のCH3領域は位置350にThr、位置370にLys、位置405にPheおよび位置409にArgを含み、第2のCH3領域は位置409にLysならびに: a) 位置350にIleおよび位置405にLeu、またはb) 位置370にThrおよび位置405にLeuを含む。
【0178】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のCH3領域は位置350にThr、位置370にLys、位置405にPheおよび位置409にArgを含み、第2のCH3領域は位置350にIle、位置370にThr、位置405にLeuおよび位置409にLysを含む。
【0179】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのどちらもヒンジ領域の中にCys-Pro-Ser-Cys配列を含まない。
【0180】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのどちらもヒンジ領域の中にCys-Pro-Pro-Cys配列を含む。
【0181】
本発明のヘテロ二量体タンパク質のさらなる態様において、第1および/または第2のポリペプチドが、Asn結合型グリコシル化のアクセプタ部位を取り除く変異を含む。
【0182】
標的抗原
上で説明したように、本発明の重要な態様において、ヘテロ二量体タンパク質は、結合特異性が異なる、すなわち異なるエピトープに結合する2つの可変領域を含んだ二重特異性抗体である。
【0183】
原理上は、特異性の任意の組み合わせが可能である。上記のように、単一特異性抗体の制約のいくつかを克服するために二重特異性抗体を潜在的に用いることができる。考えられる単一特異性抗体の制約の1つは、抗体結合が望まれない他の細胞種での標的抗原の発現による、所望の標的細胞に対する特異性の欠如である。例えば、腫瘍細胞上に過剰発現される標的抗原が健常組織において発現されることもあり、これによって、その抗原に対して作製された抗体での処置により望ましくない副作用が起こりうる。標的細胞種上に排他的に発現されるタンパク質に対してさらなる特異性を有する二重特異性抗体は、腫瘍細胞への特異的結合を潜在的に改善することができよう。
【0184】
したがって、本発明の1つの態様において、第1および第2のエピトープは同じ細胞、例えば腫瘍細胞上に位置する。腫瘍細胞上の適当な標的は、限定されるものではないが、以下を含む: erbB1 (EGFR)、erbB2 (HER2)、erbB3、erbB4、MUC-1、CD19、CD20、CD4、CD38、CD138、CXCR5、c-Met、HERV-外被タンパク質、ペリオスチン、Bigh3、SPARC、BCR、CD79、CD37、EGFrvIII、L1-CAM、AXL、組織因子(TF)、CD74、EpCAMおよびMRP3。腫瘍細胞標的の可能な組み合わせは、erbB1 + erbB2、erbB2 + erbB3、erbB1 + erbB3、CD19 + CD20、CD38 + CD34、CD4 + CXCR5、CD38 + RANKL、CD38 + CXCR4、CD20 + CXCR4、CD20 + CCR7、CD20 + CXCR5、CD20 + RANKL、erbB2 + AXL、erbB1 + cMet、erbB2 + c-Met、erbB2 + EpCAM、c-Met + AXL、c-Met + TF、CD38 + CD20、CD38 + CD138を含むが、これらに限定されることはない。
【0185】
さらなる態様において、第1および第2のエピトープは同じ標的抗原上に位置することができ、ここで標的抗原上の二つのエピトープの位置は、一方のエピトープへの抗体の結合がもう一方のエピトープへの抗体の結合を妨害しないようなものである。このさらなる態様において、第1および第2のホモ二量体タンパク質は、同じ標的抗原上に位置する2つの異なるエピトープに結合するが、しかし標的細胞、例えば腫瘍細胞の死滅に対して異なる作用機序を有する抗体である。例えば、1つの態様において、標的抗原はerbB2 (HER2)であり、二重特異性抗体はペルツズマブおよびトラスツズマブの抗原結合部位を組み合わせる。別の態様において、標的抗原はerbB1 (EGFr)であり、二重特異性抗体はザルツムマブおよびニモツズマブの抗原結合部位を組み合わせる。
【0186】
二重特異性抗体は、エフェクタ機構を疾患関連組織、例えば腫瘍に再標的化するためのメディエータとして用いることもできる。したがって、さらなる態様において、第1または第2のエピトープは腫瘍細胞タンパク質または腫瘍細胞糖鎖のような、腫瘍細胞上に位置し、他方のエピトープはエフェクタ細胞上に位置する。
【0187】
1つの態様において、エフェクタ細胞はT細胞である。
【0188】
エフェクタ細胞上の可能な標的には以下が含まれる: 単球およびマクロファージならびに活性化好中球上に発現されるFcgammaRI (CD64); ナチュラルキラーおよびマクロファージ上に発現されるFcgammaRIII (CD16); 循環T細胞上に発現されるCD3; PMN (多形核好中球)、好酸球、単球およびマクロファージ上に発現されるCD89; マクロファージ、好中球、好酸球上に発現されるCD32a; 好塩基球および肥満細胞上に発現されるFcεRI。1つの態様において、エピトープはT細胞上に発現されたCD3上に位置する。
【0189】
別の態様において、第1の抗体は病原微生物に対する結合特異性を有し、第2の抗体はCD3、CD4、CD8、CD40、CD25、CD28、CD16、CD89、CD32、CD64、FcεRIまたはCD1のような、エフェクタ細胞タンパク質に対する結合特異性を有する。
【0190】
さらに、二重特異性抗体を用いて化学療法剤を、薬剤が作用すべき細胞へさらに特異的に標的化することができる。したがって、1つの態様において、ホモ二量体タンパク質の一方は、小さな分子もしくはペプチドを認識するか、または例えばRader et al, (2003) PNAS 100: 5396に記述されている原理にしたがい、そのような分子と共有結合を形成できる抗体である。本発明の方法のさらなる態様において、第1の抗体は腫瘍細胞または腫瘍細胞表面タンパク質、例えばerbB1、erbB2、erbB3、erbB4、EGFR3vIII、CEA、MUC-1、CD19、CD20、CD4、CD38、EPCAM、c-Met、AXL、L1-CAM、組織因子、CD74またはCXCR5に対する結合特異性を有し(すなわちそれらのエピトープに結合し)、第2の抗体は毒素(放射標識ペプチドを含む)、薬物またはプロドラッグのような、化学療法剤に対する結合特異性を有する。
【0191】
二重特異性抗体は毒素、薬物もしくはプロドラッグを含有するベシクル、例えば高電子密度ベシクルまたはミニ細胞を腫瘍へ標的化するために用いることもできる。例えば、MacDiarmid et al. (2009) Nature Biotech 27:643を参照されたい。ミニ細胞は、染色体DNAを含有しない、異常な細胞分裂の産物である染色体のない細胞である。したがって、別の態様において、第1または第2のエピトープは腫瘍細胞タンパク質または腫瘍細胞糖鎖のような、腫瘍細胞上に位置し、他方のエピトープは高電子密度ベシクルまたはミニ細胞上に位置する。
【0192】
さらに、二重特異性抗体の中に血清タンパク質に対する結合特異性を含めることによって抗体の血清中半減期を改変することができる。例えば、二重特異性抗体の中に血清アルブミンに対する結合特異性を含めることによって血清中半減期を引き延ばすことができる。したがって、本発明の方法のさらなる態様において、第1の抗体は腫瘍細胞または腫瘍細胞タンパク質、例えばerbB1 (EGFR)、erbB2 (HER2)、erbB3、erbB4、MUC-1、CD19、CD20、CD4、CD38、CD138、CXCR5、c-Met、HERV-外被タンパク質、ペリオスチン、Bigh3、SPARC、BCR、CD79、CD37、EGFrvIII、L1-CAM、AXL、組織因子(TF)、CD74、EpCAMまたはMRP3、CEAに対する結合特異性を有し、第2の抗体は血中タンパク質、例えば血清アルブミンに対する結合特異性を有する。第2の結合特異性を用いて特定組織、例えば中枢神経系または脳へ(血液脳関門を越えて)抗体を標的化することもできる。したがって、本発明の方法のさらなる態様において、第1の抗体は脳特異的な標的、例えばアミロイド-β(例えばアルツハイマー病の処置の場合)、Her-2 (例えば脳における乳がん転移の処置の場合)、EGFr (例えば原発性脳腫瘍の処置の場合)、Nogo A (例えば脳損傷の処置の場合)、TRAIL (例えばHIVの処置の場合)、α-シヌクレイン(例えばパーキンソンの処置の場合)、Htt (例えばハンチントンの処置の場合)、プリオン(例えば狂牛病の処置の場合)、西ナイルウイルスタンパク質に対する結合特異性を有し、第2の抗体は血液脳関門タンパク質、例えばトランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、メラノトランスフェリン受容体(MTfR)、ラクトフェリン受容体(LfR)、アポリポタンパク質E受容体2 (ApoER2)、LDL-受容体-関連タンパク質1および2 (LRP1およびLRP2)、高度グリコシル化最終産物の受容体(RAGE)、ジフテリア毒素-受容体 = ヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(DTR = HB-EGF)、gp190 (Abbott et al, Neurobiology of Disease 37 (2010) 13-25)に対する結合特異性を有する。
【0193】
血液脳関門タンパク質に対する結合特異性を用いて、別の非抗体分子を、特定組織、例えば中枢神経系または脳へ(血液脳関門を越えて)標的化することもできる。したがって、さらなる態様において、ホモ二量体タンパク質の一方は、血液脳関門タンパク質(TfR、インスリン受容体、MTfR、LfR、ApoER2、LRP1、LRP2、RAGE、DTR (= HB-EGF)またはgp190のような)に対する結合特異性を有する全長抗体であり、もう一方のホモ二量体タンパク質はサイトカイン、可溶性受容体または他のタンパク質、例えばVIP (血管作動性腸管ペプチド)、BDNF (脳由来神経栄養因子)、FGF (線維芽細胞増殖因子)、複数のFGF、EGF (上皮増殖因子)、PNA (ペプチド核酸)、NGF (神経増殖因子)、ニューロトロフィン(NT)-3、NT-4/5、グリア由来神経栄養因子、毛様体神経栄養因子、ニュールツリン、ニューレグリン、インターロイキン、形質転換増殖因子(TGF)-α、TGF-β、エリスロポエチン、肝細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、アルテミン、パーセフィン、ネトリン、カルジオトロフィン-1、幹細胞因子、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質、サポシン、セマフォリン、白血球阻害因子、α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、N-アセチル-ガラクトサミン-6-スルファターゼ、アリールスルファターゼB、酸α-グルコシダーゼまたはスフィンゴミエリナーゼのような、別のタンパク質にN末端またはC末端で連結されたFc領域である(Pardridge, Bioparmaceutical drug targeting to the brain, Journal of Drug Targeting 2010, 1-11; Pardridge, Re-engineering Biopharmaceuticals for delivery to brain with molecular Trojan horses. Bioconjugate Chemistry 2008, 19: 1327-1338)。
【0194】
さらに、第2の結合特異性を用いて、血液凝固因子を特定の所望の作用部位へ標的化することができる。例えば、腫瘍細胞に対する第1の結合特異性および血液凝固因子に対する第2の結合特異性を有する二重特異性抗体は、血液凝固を腫瘍に向け、かくして腫瘍増殖を停止させることができよう。したがって、本発明の方法のさらなる態様において、第1の抗体は腫瘍細胞または腫瘍細胞タンパク質、例えばerbB1、erbB2、erbB3、erbB4、MUC-1、CD19、CD20、CD4またはCXCR5に対する結合特異性を有し、第2の抗体は組織因子のような、血液凝固に関わるタンパク質に対する結合特異性を有する。
【0195】
さらなる特に興味深い結合特異性の組み合わせには、CD3 + HER2、CD3 + CD20、IL-12 + IL18、IL-1a + IL-1b、VEGF + EGFR、EpCAM + CD3、GD2 + CD3、GD3 + CD3、HER2 + CD64、EGFR + CD64、CD30 + CD16、NG2 + CD28、HER2 + HER3、CD20 + CD28、HER2 + CD16、Bcl2 + CD3、CD19 + CD3、CEA + CD3、EGFR + CD3、IgE + CD3、EphA2 + CD3、CD33 + CD3、MCSP + CD3、PSMA + CD3、TF + CD3、CD19 + CD16、CD19 + CD16a、CD30 + CD16a、CEA + HSG、CD20 + HSG、MUC1 + HSG、CD20 + CD22、HLA-DR + CD79、PDGFR + VEGF、IL17a + IL23、CD32b + CD25、CD20 + CD38、HER2 + AXL、CD89 + HLAクラスII、CD38+CD138、TF + cMet、Her2 + EpCAM、HER2 + HER2、EGFR + EGFR、EGFR + c-Met、c-Met + 非結合性アームおよびGタンパク質共役受容体の組み合わせが含まれる。
【0196】
さらなる態様において、本発明による二重特異性抗体を用いて、本質的にはTaylor et al. J. Immunol. 158: 842-850 (1997)およびTaylor and Ferguson, J. Hematother. 4: 357-362, 1995に記述されているように赤血球への標的化によって循環血液から病原体、病原性自己抗体または有害化合物、例えば毒液および毒素を除去することができる。第1のエピトープは、赤血球補体受容体1を含むがこれに限定されない、赤血球タンパク質上に位置し、第2のエピトープは、除去の標的とされる化合物または有機物上に位置する。
【0197】
さらなる態様において、第2のFabアームは、自己抗原または結合部位に当たる融合タンパク質を含み、dsDNAのような自己抗原を付着する。本発明の二重特異性抗体による病原体、自己抗体または有害化合物の標的化と、それに続く赤血球を介した除去はかくして、さまざまな疾患および症候群の処置において治療的有用性を持ちうる。
【0198】
結合
本発明のさらなる態様において、第1および/または第2のホモ二量体タンパク質は、毒素(放射性同位体を含む)、プロドラッグまたは薬物からなる群より選択される化合物に連結される。そのような化合物は、例えばがん治療において、標的細胞の死滅をさらに効果的にすることができる。得られるヘテロ二量体タンパク質はしたがって、免疫結合体である。化合物はあるいは、得られるヘテロ二量体タンパク質へ、すなわちFabアーム交換が行われた後に、カップリングされてもよい。
【0199】
本発明の免疫結合体を形成させるのに適した化合物は、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロ-テストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、代謝拮抗物質(例えばメトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロウラシル、デカルバジン、ヒドロキシウレア、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、クラドリビン)、アルキル化剤(例えばメクロレタミン、チオエパ、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ダカルバジン(DTIC)、プロカルバジン、マイトマイシンC、シスプラチンおよび他のプラチナ誘導体、例えばカルボプラチン)、抗生物質(例えばダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、アントラマイシン(AMC))、ジフテリア毒素および関連分子(例えばジフテリアA鎖およびその活性断片およびハイブリッド分子)、リシン毒素(例えばリシンAまたは脱グリコシル化リシンA鎖毒素)、コレラ毒素、志賀様毒素(SLT-I、SLT-II、SLT-IIV)、LT毒素、C3毒素、志賀毒素、百日咳毒素、破傷風毒素、大豆Bowman-Birkプロテアーゼ阻害剤、緑膿菌外毒素、アロリン、サポリン、モデクシン、ゼラニン、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、α-サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolacca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP-S)、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サパオナリアオフィシナリス(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゼロニン、マイトジェリン、レストリクトシン、フェノマイシン、ならびにエノマイシン毒素を含む。他の適当な結合分子はリボヌクレアーゼ(RNase)、DNase I、ブドウ球菌エンテロトキシン-A、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ジフテリン毒素、緑膿菌内毒素、メイタンシノイド、アウリスタチン(MMAE、MMAF)、カリケアマイシンおよびズオカルマイシン類似体(Ducry and Stump, Bioconjugate Chem. 2010, 21: 5-13)、ドラスタチン-10、ドラスタチン-15、イリノテカンまたはその活性代謝産物SN38、ピロロベンゾジアゼピン(PBD's)を含む。
【0200】
本発明のさらなる態様において、第1および/または第2のホモ二量体タンパク質は、トリウム-227、ラジウム-223、ビスマス-212およびアクチニウム-225を含むがこれらに限定されない、α放射体に連結される。
【0201】
本発明のさらなる態様において、第1および/または第2のホモ二量体タンパク質は、イオジウム-313、イットリウム-90、フッ素-18、レニウム-186、ガリウム-68、テクネチウム-99、インジウム-111、およびルテチウム-177を含むがこれらに限定されない、β放射性核種に連結される。
【0202】
別の態様において、結合される化合物は核酸または核酸関連分子を含む。本発明の1つのそのような様相において、結合される核酸は細胞毒性リボヌクレアーゼ、アンチセンス核酸、阻害RNA分子(例えば、siRNA分子)または免疫刺激核酸(例えば、免疫刺激CpGモチーフ含有DNA分子)である。
【0203】
Hunter et al., Nature 144, 945 (1962)、David et al., Biochemistry 13, 1014 (1974)、Pain et al., J. Immunol. Meth. 40, 219 (1981)およびNygren, J. Histochem. and Cytochem. 30, 407 (1982)によって記述されている方法を含め、結合させるための当技術分野において公知の任意の方法を利用することができる。結合体は、他の成分をタンパク質のN末端側またはC末端側に化学的に結合させることによって作出することができる(例えば、Antibody Engineering Handbook、Osamu Kanemitsuにより編集、Chijin Shokanにより刊行(1994)を参照のこと)。そのような結合抗体誘導体は適切な場合、内部の残基または糖での結合によって作出されてもよい。薬剤が本発明のタンパク質に直接的にまたは間接的にカップリングされてもよい。第2の薬剤の間接的なカップリングの1例は、スペーサー部分によるカップリングである。薬物-結合体の連結技術が最近、Ducry and Stump (2010) Bioconjugate Chem. 21: 5によって要約されている。
【0204】
組成物および使用
さらなる主な局面において、本発明は、本明細書において記述の本発明によるヘテロ二量体タンパク質および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物に関する。
【0205】
薬学的組成物は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 19th Edition, Gennaro, Ed., Mack Publishing Co., Easton, PA, 1995に開示されているものなどの、従来技術にしたがって製剤化することができる。本発明の薬学的組成物は、例えば、希釈剤、増量剤、塩、緩衝液、界面活性剤(例えば、非イオン性界面活性剤、例えばTween-20もしくはTween-80)、安定剤(例えば、糖またはタンパク質を含まないアミノ酸)、保存剤、組織固定剤、可溶化剤、および/または薬学的組成物の中に含めるのに適した他の材料を含むことができる。
【0206】
薬学的に許容される担体には、本発明の化合物と生理学的に適合する任意のおよび全ての適当な溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、抗酸化剤ならびに吸収遅延剤などが含まれる。本発明の薬学的組成物において利用されうる適当な水性および非水性担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、エタノール、デキストロース、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)が挙げられる。薬学的に許容される担体には、無菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製用の無菌の水溶液または分散液および無菌の粉末が含まれる。例えば、レシチンなどの、コーティング材料の使用によって、分散液の場合には必要とされる粒子サイズの維持によって、および表面活性剤の使用によって適切な流動性を維持してもよい。
【0207】
本発明の薬学的組成物はまた、薬学的に許容される抗酸化剤、例えば(1) アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムなどのような、水溶性抗酸化剤; (2) パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、レシチン、プロピルガレート、α-トコフェロールなどのような、油溶性抗酸化剤; ならびに(3) クエン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などのような、金属キレート剤を含んでもよい。
【0208】
本発明の薬学的組成物はまた、糖、マンニトール、ソルビトール、グリセロールなどのポリアルコールまたは塩化ナトリウムのような、等張剤を組成物の中に含んでもよい。
【0209】
本発明の薬学的組成物はまた、薬学的組成物の有効期限または有効性を増強しうる、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、保存剤または緩衝液のような選択の投与経路に適した1つまたは複数のアジュバントを含むこともできる。本発明の化合物は、インプラント、経皮パッチおよびマイクロカプセル化送達系を含む、制御放出製剤のような、化合物の速やかな放出を防ぐ担体で調製されてもよい。そのような担体は、ゼラチン、モノステアリン酸グリセリン、ジステアリン酸グリセリン、単独のもしくはロウと一緒のエチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸などの、生体分解性で、生体適合性の重合体、または当技術分野において周知の他の材料を含むことができる。そのような製剤の調製のための方法は通常、当業者に公知である。
【0210】
無菌の注射可能な溶液は、必要な量の活性化合物を適切な溶媒に、必要に応じて、例えば上に列挙した、1つの成分または複数の成分の組み合わせとともに組み入れ、引き続き精密ろ過滅菌することによって調製することができる。
【0211】
薬学的組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、患者にとって有毒ではないようにして、特定の患者、組成物、および投与様式に望まれる治療応答を達成するのに有効な活性成分の量を得るように変化させることができる。選択される投与量レベルは、利用される本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与時間、利用される特定の化合物の排泄速度、処置の継続時間、利用される特定の組成物と組み合わせて用いられる他の薬物、化合物および/または材料、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康状態および過去の病歴、ならびに医学分野において周知の同様な要因を含む、種々の薬物動態要因に依るであろう。
【0212】
薬学的組成物は任意の適当な経路および様式によって投与することができる。1つの態様において、本発明の薬学的組成物は非経口的に投与される。本明細書において用いられる「非経口的に投与される」は、経腸および局所投与以外の、普通は注射による投与様式を意味し、これは表皮、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、関節包内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外および胸骨内注射および点滴を含む。
【0213】
1つの態様において、薬学的組成物は、静脈内もしくは皮下注射または点滴により投与される。
【0214】
主な局面において、本発明は、医薬として用いるための、本発明による二重特異性抗体のような、本発明によるヘテロ二量体タンパク質に関する。本発明のヘテロ二量体タンパク質はいくつかの目的のために用いることができる。特に、上で説明したように、本発明のヘテロ二量体タンパク質は、転移性がんおよび難治性がんを含む、さまざまな形態のがんの処置のために用いることができる。
【0215】
したがって、1つの局面において、本発明は、本明細書において記述の本発明によるヘテロ二量体タンパク質の、それを必要としている個体への投与を含む、腫瘍細胞の成長および/もしくは増殖を阻害するための、ならびに/または腫瘍細胞の死滅化のための方法に関する。
【0216】
別の態様において、本発明のヘテロ二量体タンパク質は免疫疾患および自己免疫疾患、炎症性疾患、感染性疾患、心血管疾患、CNSならびに筋骨格疾患の処置のために用いられる。
【0217】
上記の処置および使用の方法における投与量計画は、最適な所望の応答(例えば、治療応答)を提供するように調整される。例えば、単一の巨丸薬が投与されてもよく、時間をかけていくつかの分割用量が投与されてもよく、または治療状況の危急によって示されるように用量が比例的に低減もしくは増大されてもよい。
【0218】
ヘテロ二量体タンパク質に効率的な投与量および投与量計画は、処置される疾患または状態に依り、当業者によって判定されうる。本発明の二重特異性抗体の治療的有効量の例示的な、限定するものではない範囲は、約0.1~100 mg/kg、例えば約0.1~50 mg/kg、例えば約0.1~20 mg/kg、例えば約0.1~10 mg/kg、例えば約0.5 mg/kg、例えば約0.3 mg/kg、約1 mg/kg、約3 mg/kg、約5 mg/kg、または約8 mg/kgである。
【0219】
当技術分野における通常の技術を有する医師または獣医師は、必要とされる薬学的組成物の有効量を容易に判定および処方することができる。例えば、医師または獣医師は、薬学的組成物において利用されるヘテロ二量体タンパク質の用量を、所望の治療効果を達成するために必要とされるレベルよりも低いレベルから始めて、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることができよう。一般に、本発明の組成物の適当な日用量は、治療効果をもたらすのに有効な最小の用量である化合物の量であろう。投与は、例えば、静脈内、筋肉内または皮下のような、非経口の投与であってよい。
【0220】
本発明のヘテロ二量体タンパク質はまた、がんのような、疾患を発症するリスクを低減するために、疾患進行における事象の発生の始まりを遅延させるために、および/またはがんのような疾患が寛解期にある場合には再発のリスクを低減するために予防的に投与することもできる。
【0221】
本発明の、二重特異性抗体のような、ヘテロ二量体タンパク質はまた、併用療法において投与することもでき、すなわち、処置される疾患または状態に適している他の治療剤と組み合わせることもできる。したがって、1つの態様において、ヘテロ二量体タンパク質を含有する医薬は、細胞毒性剤、化学療法剤または血管新生阻害剤のような、1つまたは複数のさらなる治療剤との組み合わせに向けられる。そのような併用投与は同時、別々または逐次であってよい。さらなる態様において、本発明は、がんのような、疾患を処置または予防するための方法であって、放射線治療および/または外科手術との組み合わせでの、本発明の二重特異性抗体のような、ヘテロ二量体タンパク質の治療的有効量の、それを必要としている対象への投与を含む該方法を提供する。
【0222】
本発明の、二重特異性抗体のような、ヘテロ二量体タンパク質はまた、診断目的で用いることもできる。
【実施例0223】
実施例1: ヒトIgG1-2F8およびIgG1-7D8の発現のための発現ベクター
HuMab 2F8 (WO 02/100348)およびHuMab 7D8 (WO 04/035607)のVHおよびVLコード領域を、ヒトIgG1重鎖の産生のために発現ベクターpConG1f (ヒトIgG1fアロタイプ定常領域のゲノム配列を含有(Lonza Biologics))およびκ軽鎖の産生のためにpConKappa (ヒトκ軽鎖定常領域を含有、Lonza Biologics)にクローニングした。IgG4抗体の場合、VH領域をpTomG4ベクター(pEE12.4ベクターの中にヒトIgG4定常領域のゲノム配列を含有(Lonza Biologics))に挿入した。あるいは、構築体の追跡的検討(follow-up)において、pEE12.4ベクターの中に重鎖(IgG1もしくはIgG4)またはpEE6.4ベクター(Lonza Biologics)の中にHuMab 2F8もしくはHuMab 7D8のヒトκ軽鎖の完全にコドン最適化されたコード領域を含有するベクターを用いた。
【0224】
実施例2 ヒンジ欠失IgG1-2F8、ならびに特異的変異を含有するヒトIgG1およびIgG4 CH2-CH3断片の発現のための発現ベクター
抗体重鎖のヒンジ領域およびCH3領域に変異を導入するために、Quickchange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene, La Jolla, CA)を製造元の推奨にしたがって用いた。あるいは、構築体を完全に合成し、またはVH領域を、特異的アミノ酸をコードする置換を既に含んだベクターにクローニングした。
【0225】
CH2およびCH3断片をコードする構築体を、PCRまたは完全合成により構築し、コドン最適化した。これらの構築体はN末端シグナルペプチドおよび6アミノ酸のHisタグを有し、ヒトIgG1/4定常領域のアミノ酸番号341-447を含んだ。構築体をpEE12.4にクローニングした。
【0226】
ヒンジ欠失IgG1 (Uni-G1)分子を構築するために、EGFR特異性を有するヒトIgG1アイソタイプのUni-G1形式をコードする合成DNA構築体を作出した。この構築体において、天然のヒンジ領域(ヒンジエクソンによって規定される)を欠失させた。IgG1構築体において位置158でのSerからCysへの追加の変異を作出して、このサブタイプにおけるHC鎖とLC鎖との間のCys結合を利用した。タンパク質配列を以下に示す。構築体をpEE6.4ベクターに挿入し、pHG1-2F8と名付けた。
【0227】
実施例3: アカゲザルIgG4-2F8およびIgG4-7D8の発現のための発現ベクター
中国アカゲザルのIgG4重鎖およびκ軽鎖ならびにHumab 2F8および7D8のVHおよびVL領域のコード領域を含有するベクターを合成し、完全にコドン最適化し、pEE12.4 (重鎖)およびpEE6.4 (軽鎖)に挿入した。使われた重鎖定常領域の配列(Scinicariello et al., Immunology 111: 66-74, 2004によって記述されている配列に基づく)は、以下であった(ヒト配列に対して整列されている)。
【0228】
使用したアカゲザルの軽鎖定常領域(CL)配列は以下であった。
【0229】
実施例4: HEK-293F細胞での一過性発現による抗体産生
293fectin (Invitrogen)を製造元の使用説明書にしたがって用い、HEK-293F細胞(Invitrogen)において関連する重鎖および軽鎖発現ベクターを同時にトランスフェクトすることにより、無血清条件の下で、抗体を産生した。
【0230】
実施例5: IgG1およびIgG4抗体の精製
IgG1およびIgG4抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。細胞培養上清を0.20μMのデッドエンド・フィルタ上でろ過し、引き続いて5 mLのプロテインAカラム(rProtein A FF, GE Healthcare, Uppsala, Sweden)に対する負荷および0.1 Mクエン酸-NaOH, pH 3によるIgGの溶出を行った。溶出液を2 M Tris-HCl, pH 9ですぐに中和し、12.6 mMリン酸ナトリウム, 140 mM NaCl, pH 7.4 (B. Braun, Oss, The Netherlands)に対して終夜透析した。透析後、サンプルを0.20μMのデッドエンド・フィルタ上で滅菌ろ過した。精製されたIgGの濃度を比濁法および280 nmでの吸光度によって判定した。精製タンパク質をSDS-PAGE、IEF、質量分析および糖分析によって分析した。
【0231】
実施例6: CH2-CH3断片の精製
Hisタグ付きCH2-CH3タンパク質を固定化金属イオン(Ni2+)アフィニティークロマトグラフィー(Macherey-Nagel GmbH, Duren, Germany)によって精製し、PBSで平衡化されたPD-10カラム(GE Healthcare)を用いて脱塩し、0.2μMのデッドエンド・フィルタ上でろ過滅菌した。精製タンパク質の濃度を280 nmでの吸光度によって判定した。精製タンパク質の質をSDS-PAGEによって分析した。
【0232】
実施例7: ヒトIgG4抗体とアカゲザルIgG4抗体との間のGSH誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出
上記のように、WO 2008119353 (Genmab)では、二重特異性抗体が還元条件下でのインキュベーションにより2つの単一特異性IgG4抗体またはIgG4様抗体間の「Fabアーム」または「半分子」交換(重鎖および付着軽鎖のスワッピング)によって形成される、二重特異性抗体を産生するためのインビトロの方法が記述されている。このFabアーム交換反応は、単一特異性抗体のヒンジ領域における重鎖間ジスルフィド結合が還元され、結果として生じる遊離システインが、異なる特異性を有する別の抗体分子のシステイン残基と新しい重鎖間ジスルフィド結合を形成する、ジスルフィド結合の異性化反応の結果である。結果として生じる産物は、異なる配列を有する2つのFabアームを持つ二重特異性抗体である。
【0233】
ヒトIgG4抗体とアカゲザルIgG4抗体との間のFabアーム交換について試験するために、ヒトIgG4-2F8 (抗EGFR)、ヒトIgG4-7D8 (抗CD20)、アカゲザルIgG4-2F8およびアカゲザルIgG4-7D8を用いて、二抗体の可能な全ての組み合わせを作出した。インビトロでのFabアーム交換のため、0.5 mMの還元型グルタチオン(GSH)を含むPBS 0.5 mL中4μg/mLの終濃度で各抗体を含有する抗体混合物を37℃で24時間インキュベートした。還元反応を停止させるために、PBS/0.05% Tween 20 (PBST) 0.5 mLを反応混合物に加えた。
【0234】
サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)法を用いた二重特異性結合の判定により、二重特異性抗体の存在について試験した。ELISAプレート(Greiner bio-one, Frickenhausen, Germany)を4℃にてPBS中2μg/mL (100μL/ウェル)のEGFRの組み換え細胞外ドメインで終夜コーティングした。プレートをPBSTで1回洗浄した。PBST/0.2% BSA (PBSTB)中の抗体サンプルの希釈系列(3倍希釈にて0~1μg/mL)をコーティング済のELISAプレート(100μL/ウェル)に移入し、プレート振盪機(300 rpm)にて、室温(RT)で60分間インキュベートした。サンプルを捨て、プレートをPBS/0.05% Tween 20 (PBST)で1回洗浄した。次に、プレートをプレート振盪機(300 rpm)上にて、PBTB中2μg/mLのマウス抗イディオタイプ・モノクローナル抗体2F2 SAB1.1 (7D8に対して作製された; Genmab) (100μL/ウェル)とともに60分間インキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween 20 (PBST)で1回洗浄した。次に、プレートをプレート振盪機(300 rpm)上にて、PBSTB中のHRP結合ヤギ抗マウスIgG (15G; Jackson ImmunoResearch Laboratories, Westgrove, PA, USA; 1:5.000) (100μL/ウェル)とともにRTで60分間インキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween 20 (PBST)で1回洗浄した。ABTS (50 mg/mL; Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)を加え(100μL/ウェル)、RTで30分間遮光してインキュベートした。反応を2%シュウ酸(100μL/ウェル; Riedel de Haen Seelze, Germany)で停止させた。RTで10分の後、405 nmでの吸光度をELISAプレート読取機の中で測定した。
【0235】
図1は、ヒトおよびアカゲザルIgG4の組み合わせがその同じ種のIgG4分子の組み合わせの各々と比べてさらに高い二重特異性の結合(より高いOD 405 nm)を生じたことを示す。これらのデータは、Fabアーム交換がヒトIgG4とアカゲザルIgG4との間で行われることを示す。さらに、より高い二重特異性の結合は、ヒトIgG4半分子がアカゲザルIgG4半分子との選択的な二量体化(ヘテロ二量体化)を示し、50%ヘテロ二量体と50%ホモ二量体との確率的な交換に代えて二重特異性ヘテロ二量体の方へ移行するFabアーム交換反応の平衡をもたらすことを示唆している。
【0236】
実施例8: ヒトおよびアカゲザルIgG4の配列分析
抗体がFabアーム交換に関与する能力には、活性化されるのに還元環境しか必要とされない、いわゆる許容的な(例えばCPSCを含んだ)ヒンジ領域に加えて第3の定常ドメイン(CH3)を要することが記述されている(Van der Neut Kolfschoten, 2007, Science)。ヒト抗体の場合、Fabアーム交換は、CH3ドメインにおける位置409のアルギニン(R)および許容的なヒンジ(226-CPSC-229)によって特徴付けられる、IgG4に固有の特徴であることが分かった(WO 2008145142 (Genmab)を参照のこと)。対照的に、Fabアーム交換に関与しないヒトIgG1は、位置409にリジン(K)および安定な(すなわち、非許容的な)ヒンジ(226-CPPC-229) (EU付番、
図16も参照のこと)を有する。
【0237】
同じ種のIgG4分子間のFabアーム交換と比べてヒトIgG4とアカゲザルIgG4との間のFabアーム交換が高いことを解明しようとして、ヒトおよびアカゲザル抗体のコアヒンジおよびCH3-CH3界面アミノ酸を分析した(例えばヒトCH3-CH3界面の残基の全体像はDall'Acqua, et al (1998) Biochemistry 37:9266を参照のこと)。
図2は、中国アカゲザルIgG4におけるコアヒンジ配列が226-CPAC-229であること、およびCH3ドメインが位置409にリジン(K)を含むことを示す。さらに、配列アライメントにより、アカゲザルIgG4がヒトIgG4と比べてCH3-CH3界面におけるさらに3つのアミノ酸置換: アカゲザルでは位置350にイソロイシン(I)に対してヒトではスレオニン(T); アカゲザルでは位置370にスレオニン(T)に対してヒトではリジン(K); およびアカゲザルでは位置405にロイシン(L)に対してヒトではフェニルアラニン(F)により特徴付けられることが示された。
【0238】
実施例9: ヒトIgG4とアカゲザルIgG4 CH3配列を含有するヒトIgG1との間のGSH誘導性Fabアーム交換を用いた二重特異性抗体の作出
IgG1分子においてFabアーム交換を行わせるため、P228S置換によりIgG1コアヒンジ配列(CPPC)をヒトIgG4配列(CPSC)と交換することは影響がなかったこと、しかしFabアーム交換活性にはCH3をIgG4様の配列に変異させることが必要であったことがヒト抗体について記述されている(Van der Neut Kolfschoten, 2007, Science)。
【0239】
実施例7に記述されているヒトIgG4とアカゲザルIgG4との間のFabアーム交換に基づき、中国アカゲザルのIgG4 CH3配列がヒトIgG1をFabアーム交換に関与させうるかどうか分析した。それゆえ、ヒンジ配列CPSCをもたらすP228S変異に加え、三重変異T350I-K370T-F405L (以後、ITLという)をヒトIgG1-2F8に導入した。インビトロでのGSH誘導性Fabアーム交換のためにヒトIgG1-2F8変異体をヒトIgG4-7D8と組み合わせた。0.5 mM GSHを有するPBS 0.5 mL中4μg/mLの終濃度で各抗体を含有する抗体混合物を、37℃で0~3~6~24時間インキュベートした。還元反応を停止させるために、PBS/0.05% Tween 20 (PBST) 0.5 mLを反応混合物に加えた。ELISAにおける二重特異性結合の測定を実施例7に記述されているように行った。
【0240】
図3から、CPSCヒンジのみの導入では、ヒトIgG4-7D8と組み合わせた場合のGSH誘導性Fabアーム交換にヒトIgG1-2F8を関与させないことが確認される。また、アカゲザルIgG4特異的CH3界面アミノ酸(ITL)のヒトIgG1-2F8への導入では、野生型IgG1ヒンジを保っていたとはいえ、これらの条件の下でヒトIgG4-7D8と組み合わせた場合のFabアーム交換への関与を生じなかった。対照的に、ヒンジ中のCPSC配列もアカゲザルIgG4特異的CH3界面アミノ酸(ITL)もともに持つ変種ヒトIgG1-2F8主鎖配列は、2つのヒトIgG4抗体と比べてヒトIgG4-7D8とのGSH誘導性Fabアーム交換後に二重特異性結合の増大を示した。これらのデータは、CPSCを含んだヒンジが、位置350、370および405に、それぞれ、I、TおよびLを含んだCH3ドメインとの組み合わせで、ヒトIgG1をGSH誘導性Fabアーム交換に関与させるのに十分であること、ならびに交換反応の平衡がヒトIgG4と組み合わせた場合に、交換された二重特異性産物の方へ移行することを示す。
【0241】
実施例10: ヒトIgG4とIgG1またはIgG4変異体との間のインビボでのFabアーム交換による二重特異性抗体の作出
Fabアーム交換への関与に必要な特徴をさらに特定するために、ヒトIgG4およびIgG1変種をインビボで分析した。1群あたり4匹の雌性SCIDマウス(Charles River, Maastricht, The Netherlands)に、300μLの総容量中600μgの抗体(500μg 7D8 + 100μg 2F8)を含有する抗体混合物をi.v.注射した。注射から3、24、48および72時間後に伏在静脈から血液サンプルを採血した。血液をヘパリン含有バイアル中に集め、10,000 gで5分間遠心分離して細胞から血漿を分離した。実施例7に記述されているようにPBSTB中で連続希釈された血漿サンプルを用いELISAにてCD20およびEGFR二重特異性反応を評価することにより、二重特異性抗体の作出を追跡した。参照基準としてインビトロで交換された抗体混合物を用い、非線形回帰曲線適合(GraphPad Software, San Diego, CA)により血漿サンプル中の二重特異性抗体を定量化した。
【0242】
図4は、ヒンジ配列またはCH3配列のどちらかがその対応するヒトIgG1配列(それぞれCPPCまたはR409K)に変換されているヒトIgG4-2F8が、インビボでもはやFabアーム交換に関与しないことを示す。逆に、ヒンジ領域もCH3界面配列もともにその対応するヒトIgG4配列(CPSCおよびK409R)に変換されているヒトIgG1は、インビボでFabアーム交換に関与することができる。これらのデータは、CPSCを含んだヒンジ(位置228にS)が位置409にアルギニン(R)を含んだCH3ドメインとの組み合わせで、インビボでのヒトIgG1によるFabアーム交換を可能とするのに十分であることを示す。
【0243】
実施例11: 2-MEA誘導性Fabアーム交換: 安定化ヒンジの迂回/破壊による二重特異性抗体の作出
2-メルカプトエチルアミン・HCl (2-MEA)は、重鎖と軽鎖との間のジスルフィド結合を保ちながらも、抗体のヒンジ領域中のジスルフィド結合を選択的に切断することが記述されている温和な還元剤である。それゆえ、2-MEAの濃度系列を、それが、CPSCまたはCPPCヒンジ領域を含んだ2つの抗体間のFabアーム交換による二重特異性抗体の作出を誘導する能力について試験した。0.5 mg/mLの終濃度で各抗体を含有する抗体混合物を、TE 100μLの総容量中の2-MEAの濃度系列(0、0.5、1.0、2.0、5.0、7.0、10.0、15.0、25.0および40.0 mM)とともに37℃で90分間インキュベートした。還元反応を停止させるため、製造元の推奨にしたがいスピンカラム(Microcon遠心分離フィルタ, 30k, Millipore)を用いてサンプルを脱塩することにより還元剤2-MEAを除去した。実施例7に記述されているようにELISAにて二重特異性結合を測定した。
【0244】
2-MEA誘導性Fabアーム交換を、CPSCヒンジ領域を含んだ、かつGSH誘導性Fabアーム交換に関与することが分かった、組み合わせIgG4-2F8×IgG4-7D8について、および安定化されたヒンジ領域によってGSH誘導性Fabアーム交換に関与しなかった(実施例9、
図3に記述した)組み合わせIgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPCについて試験した。驚いたことに、2-MEAは非還元SDS-PAGEによって判定した場合に重鎖からの軽鎖の分離を誘導することが分かった(データは示されていない)。それにもかかわらず、
図5に示されるように機能的な二重特異性抗体が作出された。野生型ヒトIgG4-2F8とIgG4-7D8との間のFabアーム交換後の二重特異性結合の最大レベルは、2.0 mM 2-MEAの濃度で達成され、実施例9 (
図3)に記述されているように0.5 mM GSHで達成されたレベルに匹敵していた。しかしながら、2-MEAは用量依存的にヒト抗体IgG1-2F8-ITLとIgG4-7D8-CPPC (安定化されたヒンジ領域を有する)との間のFabアーム交換を誘導することができた。おそらく両抗体のヒンジ領域におけるCPPC配列の存在により、低い2-MEA濃度では二重特異性抗体がほとんどまたは全く形成されなかったものの、より高い2-MEA濃度では二重特異性抗体の作出は非常に効率的であった。最大の二重特異性結合は25 mM 2-MEAで達成され、2つの野生型IgG4抗体間のFabアーム交換後の最大結合を超えた。これらの最大結合レベルは、CPSCヒンジを有する対応抗体(IgG1-2F8-CPSC-ITL)のGSH処理について実施例9 (
図3)に記述されているものに匹敵していた。IgG1-2F8-ITLおよびIgG4-7D8-CPPCはともにCPPCヒンジを含むので、これらのデータは、2-MEAがインビトロでのFabアーム交換のためのCPSCヒンジの要件を回避できたことを示唆する。
【0245】
実施例12: 2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出を追跡するための質量分析
2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出は実施例11に記述されており、そこではELISA (
図5)によって二重特異性結合が示された。二重特異性抗体が形成されることを確認するために、サンプルをエレクトロスプレイイオン化質量分析(ESI-MS)により分析して、分子量を決定した。最初に、PBS 180μL中0.005 UのN-グリカナーゼ(カタログ番号GKE-5006D; Prozyme)とともに37℃で終夜、抗体200μgをインキュベートすることによりサンプルを脱グリコシル化した。サンプルを、BEH300 C18, 1.7μm, 2.1×50 mmのカラムの付いたAquity UPLC(商標) (Waters, Milford, USA)にて60℃で脱塩し、0.05%のギ酸(Fluka Riedel-de Haen, Buchs, Germany)を含有する、MQ水(溶出液A)およびLC-MS等級のアセトニトリル(溶出液B) (Biosolve, Valkenswaard, The Netherlands)の混合液の勾配で溶出させた。飛行時間エレクトロスプレイイオン化質量スペクトルをmicrOTOF(商標)質量分析計(Bruker, Bremen, Germany)に、陽イオンモードで動作させ、オンラインで記録した。分析の前に、500~4000 m/zのスケールをESチューニングミックス(Agilent Technologies, Santa Clara, USA)で較正した。DataAnalysis(商標)ソフトウェアv. 3.4 (Bruker, Bremen, Germany)が備えられたMaximal Entropyを用いることにより、質量スペクトルをデコンボリュートした。この実験においてFabアーム交換に使われた抗体の分子量に基づき、二重特異性抗体を元の抗体と識別することができた(IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPCについては実施例15、
図9Cにも記述されている)。二重特異性抗体のピークについては、曲線下の面積を決定し、曲線下の総面積で除して、各サンプルにおける二重特異性抗体の割合を算出した。
図6Aは、0 mM 2-MEA (親抗体に対応する2つのピーク)、7 mM 2-MEA (親抗体および二重特異性抗体に対応する3つのピーク)、ならびに40 mM 2-MEA (二重特異性抗体に対応する1つのピーク)でのIgG1-2F8-ITLとIgG4-7D8-CPPCとの間のFabアーム交換反応の代表的な3つの質量分析プロファイルを示す。二重特異性産物の均一なピークから、細分されたピークを生じたはずの、軽鎖の誤対合は起こらなかったことが示唆される。定量化されたデータは
図6Bに提示されており、IgG1-2F8-ITLとIgG4-7D8-CPPCとの間のFabアーム交換がほぼ100%の二重特異性抗体を生じたことを示す。対照的に、野生型IgG4抗体間のFabアーム交換は50%未満の二重特異性産物を生じた。これらのデータは、実施例11 (
図5)に記述した二重特異性結合ELISAの結果を確認するものである。
【0246】
実施例13: 2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体の安定性
2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換により作出された二重特異性抗体の安定性を試験した。それゆえ、(実施例11、
図5に記述されているように) 7.0 mM 2-MEAでIgG1-2F8-ITLおよびIgG4-7D8-CPPCから作出された二重特異性サンプル2μgを、二重特異性試験サンプル2μgと比べて0倍、1倍、10倍、50倍過剰のIgG4-MGに相当する、濃度系列(0、2、20、100μg)の無関係なIgG4 (アセチルコリン受容体に対するIgG4-MG)の存在下でGSH誘導性Fabアーム交換反応に用いた。この反応におけるFabアーム交換は二重特異性EGFR/CD20結合の喪失を引き起こすであろう。GSH還元反応の条件は、実施例7に記述したのと同じ(PBS/0.5 mM GSH 0.5 mL中37℃で24時間)であった。還元反応を停止させるために、PBSTB 0.5 mLを反応混合物に加えた。実施例7に記述されているようにELISAにて二重特異性結合を測定した。GSH還元反応後の二重特異性結合を、100%に設定した、出発材料(対照)において測定された二重特異性結合と比べて提示する。
【0247】
図7Aは、IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC由来の二重特異性サンプルについて、無関係なIgG4の存在下においてGSH誘導性Fabアーム交換の後にEGFR/CD20二重特異性結合は著しく変化しないことを示す。これは、二重特異性産物が安定である、すなわち、GSH誘導性Fabアーム交換に関与しないことを示唆している。対照として、
図7Bから、IgG4-2F8×IgG4-7D8由来のサンプルは無関係なIgG4の存在下においてGSH誘導性Fabアーム交換の後にEGFR/CD20二重特異性結合の低下を示すことが示され、この産物が安定ではないことが示唆される。これらのデータから、CH3ドメインの中に三重変異T350I-K370T-F405Lを含んだヒトIgG1重鎖、および安定化されたヒンジ(CPPC)を生ずるS228P置換を含んだヒトIgG4重鎖からなるヘテロ二量体が安定であることが示される。
【0248】
実施例14: 2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体の薬物動態および安定性のインビボ分析
IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC間のインビトロでの2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体をSCIDマウスに注射して、その安定性(インビボでのFabアーム交換)および薬物動態特性(血漿クリアランス率)を親抗体のIgG1-2F8-ITLおよびIgG4-7D8-CPPCとの比較で分析した。3群のマウス(1群あたりマウス3匹)の尾静脈に精製抗体200μL: (1) 二重特異性抗体100μg; (2) 二重特異性抗体100μg + 無関係なIgG4 (ナタリズマブ、抗α4-インテグリン) 1,000μg; (3) IgG1-2F8-ITL 50μg + IgG4-7D8-CPPC 50μgを静脈内注射した。血液サンプル(50~100μL)を抗体投与後の所定の時間間隔(10分、3時間、1日、2日、7日、14日、21日)で頬部穿刺により集めた。血液をヘパリン含有バイアル中に集め、14,000 gで10分間遠心分離した。血漿をさらなる分析の前に-20℃で保存した。
【0249】
血漿サンプル中の総IgG濃度をELISAによってアッセイした。続く段階のアッセイ条件は実施例7に記述したELISAの場合と同じであった。総IgG測定に用いた特定化合物は以下であった: 2μg/mLのマウス抗ヒトIgG (クローンMH16-1; CLB; カタログ番号M1268)でコーティング; 血清サンプル希釈(群1および群3の場合500分の1および2,500分の1)ならびに(群2の場合2,500分の1および10,000分の1); 結合体: HRP結合ヤギ抗ヒトIgG (クローン11H; Jackson; カタログ番号109-035-098; 10,000分の1)。血漿サンプル中の二重特異性抗体の存在を、実施例10に記述したようにELISAでのCD20およびEGFRの二重特異反応性によってアッセイし、定量化した。
【0250】
図8Aは総抗体血漿濃度を示す。血漿クリアランス曲線の形状は全ての群において同一であり、二重特異性抗体の血漿クリアランスが、分析した時間間隔にわたって親抗体IgG1-2F8-ITLおよびIgG4-7D8-CPPCの場合と同じであったことが示唆された。
図8Bは経時的な二重特異性抗体の血漿濃度を示す。二重特異性抗体への10倍過剰の無関係なIgG4の添加は、二重特異性抗体濃度に影響を与えず、インビボでFabアーム交換が行われなかったことが示唆された。親抗体(IgG1-2F8-ITL + IgG4-7D8-CPPC)の注射後、二重特異性抗体は血漿中に検出できず、これらの抗体がインビボでFabアーム交換に関与しないことが確認された。これらのデータは、IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC間のインビトロでの2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された、二重特異性抗体産物は、インビボにおいて安定であり(Fabアーム交換がなく)、親の一価抗体と同程度の薬物動態特性(血漿クリアランス率)を示したことを示唆している。
【0251】
実施例15: 2つの抗体間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体の純度
ヒトIgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体のバッチをPD-10脱塩カラム(カタログ番号17-0851-01; GE Healthcare)にて精製した。次に、二重特異性産物の純度をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、高性能サイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)および質量分析によって分析した。作出された二重特異性抗体の機能性をELISAでの二重特異性結合によって確認した(データは示されていない)。
【0252】
改変したLaemliの方法(Laemli 1970 Nature 227(5259): 680-5)を用い、サンプルを中性pHで泳動させ、4~12% NuPAGE Bis-Trisゲル(Invitrogen, Breda, The Netherlands)にて還元条件および非還元条件の下でSDS-PAGEを行った。SDS-PAGEゲルをクマシーで染色し、GeneGenius (Synoptics, Cambridge, UK)を用いてデジタル処理画像を取得した。
図9Aは、非還元ゲル上にて検出できる半分子(H1L1)がわずかであり、Fabアーム交換後の抗体サンプルがインタクトなIgGからなることを示す(
図9A-b)。
【0253】
HP-SEC分画を、TSK HP-SECカラム(G3000SW
XI; Toso Biosciences, via Omnilabo, Breda, The Netherlands)およびWaters 2487デュアルλ吸光度検出器(Waters)に接続されたWaters Alliance 2695分離装置(Waters, Etten-Leur, The Netherlands)を用いて行った。サンプルを1 mL/分で泳動させた。結果を、Empowerソフトウェア2002年版を用いて処理し、ピークごとに全ピーク高さの割合として表した。
図9Bは、凝集体が実質的に形成されず、98%超のサンプルがインタクトなIgGからなることを示す。
【0254】
実施例12に記述されているように質量分析を行った。
図9Cは、出発材料IgG1-2F8-ITLおよびIgG4-7D8-CPPCならびにIgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC間のFabアーム交換により作出された二重特異性産物の質量分析プロファイルを示す。Fabアーム交換サンプルにおける産物は145,901 kDaであり、これは、IgG1-2F8-ITL (146,259.5/2=73,130) + IgG4-7D8-CPPC (145,542.0/2=72,771)に由来する二重特異性産物と完全に適合する。さらに、二重特異性抗体産物は均一なピークを示し、細分されたピークを生じたはずの、軽鎖の誤対合は起こらなかったことを示唆していた。これらのデータは、Fabアーム交換が100%の二重特異性抗体を生じたことを示す。IgG4-7D8-CPPCおよび二重特異性サンプルの主要なピーク(K0)に加えて検出された小さなピークは、1つ(K1)または2つ(K2)のC末端リジンの存在に起因しうる。
【0255】
これらのデータは、約100%の機能的な二重特異性抗体サンプルがIgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出されたことを示す。
【0256】
実施例16: ヒトIgG1のFabアーム交換の関与のためのT350I、K370TおよびF405L置換の要件の解明
IgG1がFabアーム交換に関与するために必要とされるIgG1 CH3ドメインにおける決定基をさらに特定するために、三重変異T350I-K370T-F405L (ITL)を含むIgG1を、二重変異体T350I-K370T (IT)、T350I-F405L (IL)およびK370T-F405L (TL)と比較した。また、単一変異体F405L (L)を試験した。2-MEAを還元剤として用い、インビトロでのFabアーム交換を誘導した(PBS/25 mM 2-MEA 100μL中にて各抗体50μgを37℃で90分間)。単一変異体F405L抗体の場合、一過性トランスフェクションの上清由来の未精製抗体を、Amicon Ultra遠心分離器具(30k, Millipore, カタログ番号UFC803096)を用いてPBSへの緩衝液交換後に用いた。還元反応を停止させるため、実施例11に記述されているようにスピンカラムを用いてサンプルを脱塩することにより、還元剤2-MEAを除去した。二重特異性抗体の作出は、実施例7に記述されているようにELISAにて測定された二重特異性結合により判定した。
【0257】
三重変異(ITL)、二重変異(IT、ILおよびTL)ならびに単一変異(L)をIgG1-2F8に導入した。これらの変異体を、37℃で90分間25 mM 2-MEAを用いたFabアーム交換のため、CPSCヒンジを含有するIgG4-7D8 (野生型)、または安定化されたヒンジを含有するIgG4-7D8 (IgG4-7D8-CPPC)と組み合わせた。
図10A~Bは、IgG1-2F8-IL変異体およびIgG1-2F8-TL変異体が、組み合わされたIgG4-7D8 (CPSCまたはCPPCヒンジ)に関係なく、三重変異体ITLと同じレベルまでFabアーム交換を示したことを示す。対照的に、IgG1-2F8-IT変異体との組み合わせでは二重特異性結合が見られなかった。
図10Cは、同様にIgG1-2F8-F405L変異体が、組み合わされたIgG4-7D8 (CPSCまたはCPPCヒンジ)に関係なく、Fabアーム交換を示したことを示す。これらのデータは、上記の条件の下でFabアーム交換にヒトIgG1を関与させるのにF405L変異で十分なことを示唆する。
【0258】
実施例17: 異なる温度での2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出
2つの異なる抗体間のFabアーム交換による二重特異性抗体の作出を誘導する2-MEAの能力を異なる温度で試験した。0℃、20℃ (RT)または37℃のいずれかでPBS/25 mM 2-MEA 320μl中にてIgG4-7D8-CPPC 160μgとともにヒトIgG1-2F8-ITL 160μg (各抗体に対して0.5 mg/mLの終濃度)をインキュベートすることにより、Fabアーム交換反応を開始した。これらの反応から、サンプル20μLをさまざまな時点(0、2.5、5、10、15、30、45、60、75、90、120、150、180および240分)で採取した。Zeba 96ウェルスピン脱塩プレート(7k, カタログ番号89808 Thermo Fisher Scientific)を製造元の推奨にしたがって用いサンプルを脱塩することによって還元剤2-MEAを除去する前にPBS 20μlを各サンプルに加えた。Nanodrop ND-1000分光光度計(Isogen Life Science, Maarssen, The Netherlands)を用い280 nmの波長で吸光度を測定することにより、総抗体濃度を決定した。抗体サンプルの希釈系列(25倍希釈にて総抗体濃度0~20μg/mL)を、実施例7に記述されているようにELISAにて用い、二重特異性結合を測定した。
【0259】
図11は、ヒトIgG1-2F8-ITLとIgG4-7D8-CPPCとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出が、45分後に最大の二重特異性結合に到達し、37℃で最も効率的であることが分かったことを示す。室温で、二重特異性抗体の作出はいっそう低く、240分後に最大の二重特異性結合に到達した。0℃で、分析した時間的経過の間に二重特異性結合の作出は認められなかった。
【0260】
実施例18: さまざまな還元剤がインビトロでのFabアーム交換による二重特異性抗体の作出を誘導する能力の分析
0.5 mM GSHはインビトロでのFabアーム交換をヒトIgG4とIgG1-CPSC-ITLとの間で誘導できるが、ヒトIgG4と安定なヒンジを含んだIgG1-ITLとの間では誘導できないことが上記で示された(
図3)。さらに、2-MEAはIgG1-ITL×IgG4-CPPCのような、安定化されたヒンジ領域を有する抗体間のFabアーム交換を誘導できることが分かった(
図5)。他の濃度のGSHもしくは2-MEAまたは他の還元剤が2つの異なる抗体間のインビトロでのFabアーム交換を誘導できるかどうか試験するために、2-MEA、GSHおよびDTT (ジチオスレイトール)の濃度系列を試験した。それゆえ、PBS 20μl中でヒトIgG1-2F8-ITL 10μgおよびIgG4-7D8-CPPC 10μg (各抗体に対して0.5 mg/mLの終濃度)の組み合わせを、異なる還元剤の濃度系列とともに(0.0、0.04、0.1、0.2、0.5、1.0、2.5、5.0、12.5、25.0および50.0 mM) 37℃でインキュベートした。90分後、PBS 20μlを各サンプルに加え、実施例17に記述されているようにスピン脱塩プレートを用いてサンプルを脱塩することにより還元剤を除去した。総抗体濃度を実施例17に記述されているように決定した。抗体サンプルの希釈系列(3倍希釈にて総抗体濃度0~20μg/mL)を、実施例7に記述されているようにELISAにて用い、二重特異性結合を測定した。
【0261】
図12から、2-MEAは25 mM 2-MEAの濃度で最大の二重特異性結合を誘導することが確認される。DTTは、2.5 mM DTTで最大の二重特異性結合に到達し、二重特異性抗体の作出において非常に有効であることが分かった。0~5 mM範囲のGSH濃度では、安定化されたヒンジ領域をともに含んだ、IgG1-ITL抗体とIgG4-CPPC抗体との間のFabアーム交換による二重特異性抗体の作出を誘導することができなかった。より高いGSH濃度(12.5~50 mM)では、非還元SDS-PAGEによって判定した場合に、抗体凝集体の形成が引き起こされた(データは示されていない)。それゆえ、これらのサンプルは分析から除外された。これらのデータは、2つの異なる抗体間のFabアーム交換による二重特異性抗体の作出をさまざまな還元剤によって誘導できることを示す。
【0262】
実施例19: IgG1-ITLとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与のためのIgG1 409位の決定基
2-MEAは実施例11 (
図5)に記述されているように、ヒトIgG1-ITLとIgG4-CPPCとの間のFabアーム交換を誘導することができる。ヒトIgG1およびIgG4のCH3界面残基は、位置409でだけ異なる: IgG1ではリジン(K)およびIgG4ではアルギニン(R) (実施例8、
図2に記述されている)。それゆえ、位置409でのアルギニンまたは他の任意のアミノ酸によるリジンの置換(K409X)が、IgG1をIgG1-ITLとの2-MEA誘導性Fabアーム交換に関与させられるかどうかについて試験した。PBS/25 mM 2-MEA 20μl中でヒトIgG1-2F8-ITL 10μgおよびIgG1-7D8-K409X 10μg (各抗体に対して0.5 mg/mLの終濃度)の組み合わせを、37℃で90分間インキュベートした。一過性トランスフェクションの上清由来の未精製抗体を、Amicon Ultra遠心分離器具(30k, Millipore, カタログ番号UFC803096)を用いてPBSへの緩衝液交換後に用いた。Fabアーム交換反応の後に、PBS 20μlを各サンプルに加え、実施例17に記述されているようにスピン脱塩プレートを用いてサンプルを脱塩することにより還元剤を除去した。抗体サンプルの希釈系列(3倍希釈にて総抗体濃度0~20μg/mL)を、実施例7に記述されているようにELISAにて用い、二重特異性結合を測定した。
【0263】
図13Aは、IgG1-2F8-ITL×IgG1-7D8-K409X間の2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性結合の結果を示す。
図13Bにおいては、交換が、100%に設定した、IgG1-2F8-ITLおよびIgG4-7D8-CPPC間の2-MEA誘導性Fabアーム交換に由来する二重特異性抗体の精製バッチに対しての二重特異性結合として提示されている。これらのデータをまた、表1に提示されているように、(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換または(++) 高いFabアーム交換としてスコア化した。IgG1-7D8における409位がK (= 野生型IgG1)、LまたはMであった場合に、Fabアーム交換はない(-)と認められた。Fabアーム交換は、IgG1-7D8における409位がF、I、NまたはYであった場合には中等(+)であることが分かり、IgG1-7D8における409位がA、D、E、G、H、Q、R、S、T、VまたはWであった場合には高い(++)ことが分かった。
【0264】
(表1)IgG1-2F8-ITL変異体とIgG1-7D8-K409X変異体との間の2-MEA誘導性Fabアーム交換
IgG1-2F8-ITL変異体とIgG1-7D8-K409X変異体との間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をサンドイッチELISAによって判定した。(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換、(++) 高いFabアーム交換。
【0265】
実施例20: 抗体脱グリコシル化は2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出に影響を与えない
PBS 180μL中0.005 UのN-グリカナーゼ(カタログ番号GKE-5006D; Prozyme)とともに37℃で終夜、抗体200μgをインキュベートすることによってIgG4-7D8およびIgG4-7D8-CPPCサンプルを脱グリコシル化した。これらのサンプルをFabアーム交換反応において直接用いた。Fabアーム交換は、37℃で90分間PBS/25 mM 2-MEA 100μl中にて各抗体50μg (各抗体に対して0.5 mg/mLの終濃度)をインキュベートすることにより行われた。実施例11に記述されているようにスピンカラムを用いてサンプルを脱塩することにより、還元剤2-MEAを除去した。抗体サンプルの希釈系列(3倍希釈にて総抗体濃度0~20μg/mL)を、実施例7に記述されているようにサンドイッチELISAにて用い、二重特異性結合を測定した。
【0266】
質量分析から、脱グリコシル化反応が100%の脱グリコシル化抗体産物を生じることが示された(データは示されていない)。
図14は、脱グリコシル化抗体を伴うFabアーム交換が、対応するグリコシル化抗体とのFabアーム交換とは異ならなかったことを示す(IgG4-2F8×IgG4-7D8-脱グリコシル化 vs IgG4-2F8×IgG4-7D8およびIgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC-脱グリコシル化 vs IgG1-2F8-ITL×IgG4-7D8-CPPC)。これらのデータは、脱グリコシル化が2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出に影響を与えなかったことを示唆する。
【0267】
実施例21: 非共有結合性CH3-CH3相互作用の定量化
CH3界面での相互作用の強度は、親抗体における両方の重鎖がFabアーム交換反応において解離すること、およびそれらがその後、ヘテロ二量体化反応において会合することが可能なようなものであるはずである。それゆえ、Fabアーム交換に関与する能力と非共有結合性CH3-CH3相互作用の強度との間の相関関係(解離定数、K
D)を分析した。GSH誘導性Fabアーム交換を以下のヒト抗体の組み合わせについて実施例9に記述したように(0.5 mM GSH 37℃で)行った:
二重特異性抗体の作出を、実施例7に記述されているようにサンドイッチELISAでの二重特異性結合の判定により測定した。
図15A/B/Cは、Fabアーム交換反応後の二重特異性結合の結果を示す。
【0268】
上記のCH3変異がCH3-CH3相互作用の強度に及ぼす影響を測定するために、CH2-CH3ドメインのみから構成される断片を作出した。これらの断片におけるヒンジ領域の欠如により、共有結合性の重鎖間ジスルフィド結合が阻止された。断片を非変性質量分析によって分析した。10 kDa MWCOのスピン・フィルタカラムを用いて、サンプルを100 mM酢酸アンモニウムpH 7へ緩衝液交換した。連続希釈サンプル(20μM~25 nM; 単量体当量)のアリコット(およそ1μL)をLCT質量分析計(Waters)での分析のために金めっきのホウケイ酸キャピラリへ負荷した。単量体シグナルMsは、スペクトルにおける全ピーク面積の割合としての単量体ピーク面積(MS/(MS+DS)、式中Ds = 二量体シグナル)と定義した。平衡にある単量体の濃度[M]eqは、MS.[M]0と定義し、式中[M]0は単量体を単位としての全タンパク質濃度である。平衡にある二量体濃度[D]eqは、([M]0-[M]eq)/2と定義した。次いでKDを、[D]eq vs [M]eq
2のプロットの勾配から抽出した。非共有結合性のCH3-CH3相互作用のKDを、表2に提示する。
【0269】
Fabアーム交換に関与する能力と非共有結合性CH3-CH3相互作用の強度との間の相関関係を分析した。
図15D/Eは、対応するCH2-CH3断片の測定K
Dに対してプロットされたFabアーム交換後の二重特異性結合の割合を示す(IgG1の場合には
図15D; IgG4の場合には
図15E)。これらのデータから、試験した条件の下で、効率的なFabアーム交換を可能にするCH3-CH3相互作用の見掛け上のK
D値の特定範囲があることが示唆される。
【0270】
(表2)非共有結合性CH3-CH3相互作用のK
D
*野生型IgG1またはIgG4の対応するCH2-CH3断片と比較した
【0271】
実施例22: さまざまな還元剤がIgG1-2F8-F405LとIgG1-7D8-K409Rとの間のインビトロでのFabアーム交換による二重特異性抗体の作出を誘導する能力についての分析
2-MEAおよびDTTは、ヒトIgG1-ITLとIgG4-CPPCとの間のインビトロでのFabアーム交換を誘導することが分かった(
図12)。これらの還元剤が同様に、ヒトIgG1-2F8-F405LとIgG1-7D8-K409Rとの間のインビトロでのFabアーム交換を誘導できるかどうか試験した。2-MEA、DTT、GSHおよびTCEP (トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)の濃度系列を試験した。Fabアーム交換を実施例18に記述したように行った。試験した濃度系列のさまざまな還元剤は、次の通りであった: 0.0、0.04、0.1、0.2、0.5、1.0、5.0、25.0、50.0 mMの2-MEA、GSH、DTTまたはTCEP。
【0272】
図17から、2-MEAが25 mM 2-MEAの濃度で最大のFabアーム交換を誘導することが確認され、これはさらに高い50.0 mM 2-MEAの濃度で持続した。DTTは、0.5 mM DDTで最大のFabアーム交換に到達し、二重特異性抗体の作出において非常に有効であることが分かり、これもさらに高いDTT濃度(1.0~50.0 mM)にわたって持続した。同様に、TCEPは、0.5 mMで最大のFabアーム交換に到達し、二重特異性抗体の作出において非常に有効であることが分かった。25.0 mM以上の濃度で、TCEPによるFabアーム交換は妨害された。0.0~5.0 mM範囲のGSH濃度では、Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出を誘導することができなかった。さらに高いGSH濃度(25.0~50.0 mM)では、抗体凝集体の形成が引き起こされた(データは示されていない)。それゆえ、これらのサンプルは分析から除外された。これらのデータは、2つの異なる抗体間のFabアーム交換による二重特異性抗体の作出をさまざまな還元剤によって誘導できることを示す。
【0273】
実施例23: IgG1-2F8-F405LとIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出
ヒトIgG1-2F8-F405LとIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の形成を確認するために、2-MEAの濃度系列によるFabアーム交換反応からのサンプルの分子量をESI-MSによって決定した。試験した濃度系列は、次の通りであった: 0.0、0.5、1.0、2.0、5.0、7.0、10.0、15.0、25.0および40.0 mMの2-MEA。Fabアーム交換(PBS中)およびサンドイッチELISAを実施例11に記述したように行った。ESI-MSは実施例12に記述したように行った。
【0274】
図18Aは、用量依存的にIgG1-2F8-F405LとIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換が二重特異性抗体の作出を効率的にもたらし、15.0 mM 2-MEAの濃度で二重特異性結合のレベルが最大になることを示す。定量化されたESI-MSデータは、
図18Bに提示されており、IgG1-2F8-F405LとIgG1-7D8-K409Rとの間のFabアーム交換がほぼ100%の二重特異性抗体を生じたことを示し、二重特異性結合ELISAの結果を確認するものであった。
【0275】
実施例24: ヒトIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体の純度
ヒトIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換によって作出された、二重特異性抗体のバッチを、PD-10脱塩カラム(カタログ番号17-0851-01; GE Healthcare)を用いて精製した。次に、二重特異性産物の純度を実施例12に記述したように質量分析によって分析した。
【0276】
図19は、出発材料IgG1-2F8-F405LおよびIgG1-7D8-K409RならびにIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間のFabアーム交換により作出された二重特異性産物の質量分析プロファイルを示す。Fabアーム交換サンプルにおける産物は146,160.7 kDaであり、これは、IgG1-2F8-F405L (146,606.8/2 = 73,303.3)×IgG1-7D8-K409R (146,312.2/2 = 73,156.1)に由来する二重特異性産物=146,459.4 kDaと適合する。さらに、二重特異性抗体産物は均一なピークを示し、細分されたピークを生じたはずの、軽鎖の誤対合は起こらなかったことを示唆していた。これらのデータは、Fabアーム交換がおよそ100%の二重特異性抗体を生じたことを示す。
【0277】
実施例25: 2-MEA誘導性Fabアーム交換によりIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409Rから作出された二重特異性抗体の安定性および薬物動態のインビボでの分析
IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間のインビトロでの2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体をSCIDマウスに注射して、実施例14に記述したようにその安定性(インビボでのFabアーム交換)および薬物動態特性を分析した。2群のマウス(1群あたりマウス3匹)を分析した: (1) 二重特異性抗体100μg; (2) 二重特異性抗体100μg + 無関係なIgG4 (IgG4-637、WO2007068255に記述されている) 1,000μg。この例で、HRP-結合ヤギ抗ヒトIgG (Jackson, カタログ番号109-035-098, 10,000分の1)を検出用の結合体として用いたことを除いては、実施例14に記述したようにELISAによって血漿サンプル中の総IgG濃度をアッセイした。血漿サンプル中の二重特異性抗体の存在を、実施例14に記述したようにサンドイッチELISAでのCD20およびEGFRの二重特異反応性によってアッセイし、定量化した。
【0278】
図20Aは経時的な総抗体血漿濃度を示す。血漿クリアランス曲線の形状は両群において同一であった。
図20Bは経時的な二重特異性抗体の血漿濃度を示す。二重特異性抗体への10倍過剰の無関係なIgG4の添加は、二重特異性抗体濃度に影響を与えず、インビボでFabアーム交換が行われなかったことが示唆された。これらのデータは、IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間のインビトロでの2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された、二重特異性抗体産物が、インビボにおいて安定であった(Fabアーム交換がなかった)ことを示唆している。
【0279】
実施例26: ヒトIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体によるCDC媒介性の細胞死滅
CD20抗体IgG1-7D8は、補体依存性細胞傷害(CDC)によってCD20発現細胞を効率的に死滅させることができる。対照的に、EGFR抗体IgG1-2F8は、EGFRを発現している標的細胞に対するCDCを媒介しない。変異体IgG1-7D8-K409RおよびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体が依然として、CD20発現細胞に対してCDCを誘導できるかどうか試験した。105個のDaudi細胞またはRaji細胞を、0.1% BSAを補充したRPMI培地80μL中の抗体の濃度系列とともに室温にて振盪機中で15分間プレインキュベートした。正常ヒト血清(NHS) 20μLを補体の供給源として加え(20% NHS終濃度)、37℃で45分間インキュベートした。0.1% BSAを補充した氷冷RPMI培地30μLを加えて、CDC反応を停止させた。10μg/mLのヨウ化プロピジウム(PI) 10μL (1μg/mLの終濃度)を加え、FACS分析によって死細胞および生細胞を識別した。
【0280】
図21は、IgG1-7D8によるCD20発現Daudi細胞(
図21A)およびCD20発現Raji細胞(
図21B)のCDC媒介性の細胞死滅がK409R変異の導入によって影響を受けなかったことを示す。Daudi細胞もRaji細胞もEGFRを発現せず、IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体の一価結合を引き起こす。それにもかかわらず、二重特異性抗体は依然として、CD20発現細胞のCDC媒介性の細胞死滅を誘導した。これらのデータから、親抗体のCDC能力が二重特異性の形式で維持されたことが示唆される。
【0281】
実施例27: ヒトIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体によるADCC媒介性の細胞死滅
EGFR抗体IgG1-2F8は抗体依存性細胞傷害(ADCC)により、A431のような、EGFR発現細胞を死滅させることができる。A431細胞はCD20を発現せず、それゆえ、CD20抗体IgG1-7D8はこれらの細胞に対してADCCを誘導しない。変異体IgG1-2F8-F405LおよびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体が依然として、A431細胞に対してADCCを誘導できるかどうか試験した。エフェクタ細胞の単離のため、Leucosep(登録商標)試験管(Greiner Bio-one, カタログ番号227290)を製造元の推奨にしたがって用い健常ドナーの全血から末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。0.1% BSAを補充したRPMI培地1 mL中5×106個のA431細胞に100μCi 51Crを加え、37℃の振盪水浴中で60分間インキュベートすることによって、標的細胞を標識化した。標識細胞を洗浄し、0.1% BSAを補充したRPMIに再懸濁した。0.1% BSAを補充したRPMI中5×104個の標識された標的細胞を100μL中、抗体濃度系列(3倍希釈にてADCCアッセイ法で範囲0~10μg/mLの終濃度)とともに室温で15分間プレインキュベートした。ADCCアッセイ法は、エフェクタ細胞(細胞5×106個) 50μLをE:T比100:1で加えることによって始めた。37℃で4時間後、三つ組の実験からの51Cr放出をシンチレーションカウンタにてカウント毎分(cpm)として測定した。以下の式: 特異的溶解の割合 = (実験cpm - 基礎cpm)/(最大cpm - 基礎cpm)×100を用いて細胞毒性の割合を計算した。5% Triton X-100 50μLを標的細胞50μL (細胞5×104個)に加えることによって最大の51Cr放出を決定し、感作抗体およびエフェクタ細胞の非存在下において基礎放出を測定した。
【0282】
図22は、CD20特異抗体IgG1-7D8がCD20陰性A431細胞に対してADCCを誘導しなかったことを示す。IgG1-2F8も変異体IgG1-2F8-F405LもともにA431細胞に対してADCCを誘導することが可能であり、IgG1-2F8におけるF405L変異の導入がそのADCCエフェクタ機能に影響を与えないことを示唆していた。また、IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409Rに由来する二重特異性抗体はA431細胞に対してADCCを用量依存的に誘導し、ADCCエフェクタ機能が二重特異性の形式で維持されたことを示唆していた。
【0283】
実施例28: IgG1-K409Rとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与のためのIgG1 405位の決定基
実施例16において、F405L変異はIgG4-7D8と組み合わせた場合、ヒトIgG1をFabアーム交換に関与させることを可能とするのに十分であることを記述した。ヒトIgG1-K409Rとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与のためのIgG1 405位の決定基をさらに調べるために、可能な全てのIgG1-2F8-F405X変異体(CおよびPを除いて)をIgG1-7D8-K409Rと組み合わせた。手順は実施例19に記述したように精製抗体で行った。
【0284】
図23は、IgG1-2F8-F405X×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性結合の結果を示す。これらのデータをまた、表3に提示されているように、(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換または(++) 高いFabアーム交換としてスコア化した。IgG1-2F8における405位がF (= 野生型IgG1)であった場合に、Fabアーム交換はない(-)と認められた。Fabアーム交換は、IgG1-2F8における405位がGまたはRであった場合には低い(+/-)ことが分かった。Fabアーム交換は、IgG1-2F8における405位がA、D、E、H、I、K、L、M、N、Q、S、T、V、WまたはYであった場合には高い(++)ことが分かった。これらのデータから、IgG1-K409Rと組み合わせた場合にIgG1 405位の特定の変異が、2-MEA誘導性Fabアーム交換にIgG1を関与させることが示唆される。
【0285】
(表3)IgG1-2F8-F405X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換
IgG1-2F8-F405X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をサンドイッチELISAによって判定した。(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換、(++) 高いFabアーム交換。
【0286】
実施例29: IgG1-K409Rとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与のためのIgG1 407位の決定基
実施例28において、位置F405でのある種の単一の変異はIgG1-K409Rと組み合わせた場合、ヒトIgG1をFabアーム交換に関与させることを可能とするのに十分であることを記述した。CH3ドメインにおけるFc:Fc界面の位置に関与する他の決定基が同様に、Fabアーム交換機構を媒介しえたかどうか調べるために、IgG1 407位での突然変異誘発を行い、この変異体をヒトIgG1-K409Rとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与について調べた。可能な全てのIgG1-2F8-Y407X変異体(CおよびPを除いて)をIgG1-7D8-K409Rと組み合わせた。手順は実施例19に記述したように精製抗体で行った。
【0287】
図24は、IgG1-2F8-Y407X×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性結合の結果を示す。これらのデータをまた、表4に提示されているように、(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換または(++) 高いFabアーム交換としてスコア化した。IgG1-2F8における407位がY (= 野生型IgG1)、E、K、QまたはRであった場合に、Fabアーム交換はない(-)と認められた。Fabアーム交換は、IgG1-2F8における407位がD、F、I、SまたはTであった場合には低く(+/-)、IgG1-2F8における407位がA、H、NまたはVであった場合には中等(+)で、IgG1-2F8における407位がG、L、MまたはWであった場合には高い(++)ことが分かった。これらのデータから、IgG1-K409Rと組み合わせた場合にIgG1 407位の特定の単一の変異が、2-MEA誘導性Fabアーム交換にIgG1を関与させることが示唆される。
【0288】
(表4)IgG1-2F8-Y407X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換
IgG1-2F8-Y407X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をサンドイッチELISAによって判定した。(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換、(++) 高いFabアーム交換。
【0289】
実施例30: IgG1ヘテロ二量体における非共有結合性のCH3-CH3相互作用の定量化
効率的なFabアーム交換を可能にするCH3-CH3ホモ二量体の相互作用の強度には特定の範囲があることを実施例21において記述した。CH3界面での相互作用の強度は、親抗体(ホモ二量体)における両方の重鎖がFabアーム交換反応において解離すること、およびそれらがその後、ヘテロ二量体化反応において会合することが可能であるようなものでなければならない。安定なヘテロ二量体を作出するためには、ヘテロ二量体相互作用の強度は、ホモ二量体相互作用の強度よりも高くなければならず、ホモ二量体化よりもヘテロ二量体化に有利に働くようなものでなければならない。これを確認するために、ヘテロ二量体におけるCH3-CH3相互作用の強度を測定し、ホモ二量体における強度と比較した。IgG1-K409R、IgG1-F405LおよびIgG1-ITLホモ二量体に由来するCH2-CH3断片のKDを実施例21に記述したように測定した。ヘテロ二量体におけるKDの決定のため、CH2-CH3ドメイン断片(G1-F405LおよびG1-ITL)を、ヒンジを除く全ての抗体ドメインを含むIgG1-7D8-K409RのIgG1Δヒンジ断片と混合した。両方の断片におけるヒンジ領域の欠如によって、共有結合性の重鎖間ジスルフィド結合が阻止された。断片を混合し、実施例21に記述したように非変性質量分析によって24時間後に分析した。表示されているCH2-CH3断片またはIgG1Δヒンジを有するCH2-CH3断片の混合物における非共有結合性のCH3-CH3相互作用のKD値を表5に提示する。これらのデータから、試験した条件の下で、ヘテロ二量体相互作用の強度は、対応するホモ二量体相互作用よりも高い(低いKD)であることが示唆される。
【0290】
【0291】
実施例31: 2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体の生化学分析
ヒトIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体のバッチをPD-10脱塩カラム(カタログ番号17-0851-01; GE Healthcare)にて精製した。次に、二重特異性産物の純度をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、高性能サイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)、質量分析、HPLC陽イオン交換クロマトグラフィー(HPLC-CIEX)、キャピラリー等電点分画(cIEF)によって分析した。
【0292】
SDS-PAGEは実施例15に記述したように非還元条件(
図25A)および還元条件(
図25B)の下で行った。
図25Aは、非還元ゲル上にて検出できる半分子(H1L1)がわずかであり、2-MEA誘導性Fabアーム交換後の抗体サンプルがインタクトなIgGからなることを示す。
【0293】
HP-SECは実施例15に記述したように行った。
図26(B)および
図26(A)は、それぞれ、出発材料IgG1-2F8-F405LおよびIgG1-7D8-K409RのHP-SECプロファイルを示す。両抗体の混合物(1:1)およびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性産物を、それぞれ、
図26Cおよび
図26Dに示す。さらに、
図26Dは、凝集体が実質的に形成されず、99%超のサンプルがインタクトなIgGからなることを示す。
【0294】
実施例12に記述されているように質量分析(ESI-MS)を行った。
図27(B)および
図27(A)は、それぞれ、出発材料IgG1-2F8-F405LおよびIgG1-7D8-K409Rの質量分析プロファイルを示す。両抗体の混合物(1:1)およびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性産物を、それぞれ、
図27Cおよび
図27Dに示す。2-MEA誘導性Fabアーム交換サンプルにおける産物は146,159.7 kDaであり、これは、IgG1-2F8-F405L (146,289.0/2=73,145) × IgG1-7D8-K409R (146,028.0/2=73,014)に由来する二重特異性産物と完全に適合する。さらに、二重特異性抗体産物は均一なピークを示し、細分されたピークを生じたはずの、軽鎖の誤対合は起こらなかったことを示唆していた。これらのデータは、2-MEA誘導性Fabアーム交換が二重特異性IgGを生じたことを示す。(
*)で示される小さなピークは、分析の前の不完全な脱グリコシル化から生じた。これらのデータは、二重特異性抗体サンプルがIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出されたことを示す。
【0295】
キャピラリー等電点分画(cIEF)はiCE280分析機(Convergent Biosciences)を用いて行った。
図28Aおよび
図28Bは、それぞれ、出発材料IgG1-2F8-F405LおよびIgG1-7D8-K409RのcIEFプロファイルを示す。両抗体の混合物(1:1)およびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間のFabアーム交換により作出された二重特異性産物を、それぞれ、
図28Cおよび
図28Dに示す。全てのサンプルを使用の前に脱塩した。アッセイ混合物における終濃度は0.3 mg/mL IgG (0.35%メチルセルロース; 2%キャリアアンホライト3-10; 6%キャリアアンホライト8-10.5; 0.5% pIマーカー7.65および0.5% pIマーカー10.10)であった。等電点分画を3000 Vで7分間行い、全キャピラリー吸収像を電荷結合素子カメラによって捕捉した。ピークプロファイルの較正の後、データをEZChromソフトウェアによって解析した。pIマーカーを(
*)で示す。これらのデータは、二重特異性抗体サンプルがIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出されたことを示す。
【0296】
モノクローナル抗体の荷電アイソフォームを調べるための別の技術は、高圧液体クロマトグラフィー陽イオン交換(HPLC-CIEX)である。
図29Aおよび
図29Bは、それぞれ、出発材料IgG1-2F8-F405LおよびIgG1-7D8-K409RのHPLC-CIEXプロファイルを示す。両抗体の混合物(1:1)およびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性産物を、それぞれ、
図29Cおよび
図29Dに示す。サンプルをHPLCに注入するために、移動相A (10 mM NaPO4, pH 7.0)中で1 mg/mLに希釈した。ProPac(登録商標) WCX-10, 4 mm×250 mmの分析カラムを1 mL/分の流速で用いることにより、差次的に荷電されたIgG分子を分離した。移動相Aから移動相B (10 mM NaPO
4, pH 7.0, 0.25 M NaCl)の勾配で溶出を行い、280 nmで検出を行った。これらのデータは、二重特異性抗体サンプルがIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出されたことを示す。陽イオン交換がヘテロ二量体から残りのホモ二量体を分離するための強力なツールであることも示す。陽イオン交換クロマトグラフィーの別の用途はそれゆえ、二重特異性ヘテロ二量体の最終精製(polishing)、すなわち、交換後に残存する任意のホモ二量体を精製除去することである。
【0297】
実施例32: 両ホモ二量体の同時共発現によるヘテロ二量体の組み換え発現
2つのホモ二量体が組み換えによって共発現される場合にヘテロ二量体形成も行われることを例証するために、IgG1-7D8-K409RおよびIgG1-2F8-F405の重鎖および軽鎖をコードする4つの発現ベクターを1 : 1 : 1 : 1の比率でHEK-293F細胞に同時にトランスフェクトした(実施例1を参照のこと)。抗体を実施例4に記述したように無血清条件の下で一過性に産生させた。次に、IgGを実施例5に記述したようにプロテインAクロマトグラフィーによって精製した。精製したIgGを脱グリコシル化し、その後、実施例12に記述したようにエレクトロスプレイイオン化質量分析によって分析した。
【0298】
IgG1-7D8-K409RおよびIgG1-2F8-F405の重鎖および軽鎖の理論的質量を表6に示す。
【0299】
(表6)IgG1-7D8-K409RおよびIgG1-2F8-F405の重鎖および軽鎖の理論的質量
【0300】
これらの質量に基づいて、以下のIgG分子を理論的に検出することができた(表7)。測定した質量(
図30)を最終列に示す。
【0301】
(表7)IgG1-7D8-K409RおよびIgG1-2F8-F40の重鎖および軽鎖の理論的検出
【0302】
146345 Daおよび146159 Daの2つの最も豊富なピークは、それぞれ、片方の(IgG1-7D8-K409R由来の)軽鎖または両方の軽鎖が組み入れられたヘテロ二量体に相当していた。IgG1-7D8-K409RまたはIgG1-2F8-F405の両重鎖のホモ二量体が検出されたが、少量でしかなかった。これらのデータは、2つのホモ二量体が共発現される場合にもヘテロ二量体化が起こることを示す。
【0303】
実施例33: 2-MEA誘導性Fabアーム交換の動態のモニタリングおよびHPLC-CIEXの使用による交換後に残存するホモ二量体の定量化
2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出を実施例11に記述した。この実施例においては、交換反応中のさまざまな時点で高圧液体クロマトグラフィー陽イオン交換(HPLC-CIEX; 実施例31に記述したように)を行うことによって交換反応をモニタリングした。
【0304】
ホモ二量体IgG1-2F8-F405LおよびIgG1-7D8-K409Rを、各1 mg/mLの濃度でモル比1:1にて混合した。25 mM 2-MEAの添加後、サンプルを、25℃で予め加温された、HPLCオートサンプラの中に置いた。
図31A~31Hは2-MEA添加後の、それぞれ、t = 0分 ~ t = 450分に及ぶHPLC-CIEXにより得られた異なる時間間隔での8つの連続注入を示す。このデータから、二重特異性IgGがかなり迅速に形成され、ホモ二量体の大部分が135分後に交換されたことが示される。45分後に現れている不均一なヘテロ二量体ピークは、およそ180分後にいっそう均一なピークに分解し、異なる相で交換が行われていることを示唆していた。さらに、
図32Aは、およそ3%の残存ホモ二量体がCIEX法で検出されたことを示す(矢印で表示)。示したように、この方法は、交換反応がほぼ完了した時点で残存しているホモ二量体の含量を定量化するのに適している(ホモ二量体の溶出を
図32Bに示す)。
【0305】
実施例34: さまざまな2-MEA濃度、温度およびインキュベーション時間で、高い抗体濃度での2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性抗体の作出
2-MEA誘導性Fabアーム交換を高いIgG濃度で行った。交換の量に及ぼす2-MEA濃度、インキュベーション温度および時間の影響について調べた。
【0306】
IgG1-7D8-K409R×IgG1-2F8-F405Lの組み合わせを用いて交換過程を行った。プロテインAを用いたアフィニティークロマトグラフィーで両材料を精製した。材料を20 mg/mL超にまで濃縮した後に、HiPrep Q FF 16/10 (GE Health Care, #28-9365-43)を用いて(素通りモードで)連続的な陰イオン交換段階を行った。最終精製した材料をPBSへ緩衝液交換した。
【0307】
二重特異性交換をPBS中20 mg/mL (各ホモ二量体10 mg/mLの終濃度で)および10 mg/mL (各ホモ二量体5 mg/mLの終濃度で)の最終IgG濃度で調べた。10、25、50および100 mMの終濃度で2-MEAを含む両方のIgG濃度用に別個の混合物を調製した。混合物をエッペンドルフ試験管中、100μlのアリコットに分け、15、25および37℃で保存した。各温度で90分、5時間および24時間の異なるインキュベーション時間用に別個の試験管を用いた。
【0308】
また、混合物を両方のIgG濃度用に2-MEAなしで調製し、未処理対照として4℃で保存した。適切なインキュベーション時間の後、90分および5時間のサンプルを脱塩用に収集して、2-MEAを除去した(90分のサンプルは最初、氷上に置いて交換反応を停止させた)。Zeba 96ウェル脱塩プレート(7k, カタログ番号89808, Thermo Fisher Scientific)を用いてサンプルを脱塩した。24時間のサンプルは24時間のインキュベーション後に別個に脱塩した。
【0309】
抗体サンプルの連続希釈液(総抗体濃度は90分および5時間のサンプルの場合3倍希釈にて10~0.123μg/mL; 24時間のサンプルの場合3倍希釈にて10~0.041μg/mL)をサンドイッチELISAにて用い、実施例7に記述したように二重特異性結合を測定した。プレートごとに、(実施例15に記述したように) IgG1-2F8-ITLとIgG4-7D8-CPPCとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換に由来する二重特異性抗体の精製バッチの対照を含めた。
図34(A)~(F)は、個々のELISAプレートにおいて測定された二重特異性結合の結果を示す。最も高いOD405値(ELISAにて10μg/mLの濃度に対して決定された)を用い、100%に任意設定された、対照との比較で二重特異性結合を計算した。これにより、各2-MEA濃度に対して
図34(A)~(D)に示されているように対照と比べて制御されたFabアーム交換の割合(% cFAE)が得られた。
【0310】
データから、二重特異性結合の最大レベル(対照に対して89~109%)に、全ての温度-時間条件で両方のIgG濃度に対して100 mM 2-MEAの濃度で到達したことが示される。50 mM 2-MEAで、最大の結合(88~107%)に、25℃および37℃で、ならびにまた24時間のインキュベーション後には15℃で到達した。25 mMおよび10 mM 2-MEAのさらに低い濃度の場合、交換は、より高い温度でより効率的であって、インキュベーション時間の延長で増大し、25 mM 2-MEAの24時間のインキュベーションによって37℃で最大の交換に至った。10 mM 2-MEAで試験した条件のどれでも100%の二重特異性産物は作出されなかった。交換過程は20 mg/mLの総IgGと比べて10 mg/mLのIgG濃度でわずかに速かった。
【0311】
二重特異性抗体が形成されたことを確認するために、および二重特異性産物をより詳細に調べるために、サンプルを陽イオン交換(HPLC-CIEX)分析で分析した。5時間および24時間のインキュベーション後20 mg/mLのIgG濃度ならびに全ての2-MEA濃度でサンプルに対して実施例31に記述したようにHPLC-CIEX分析を行った。
【0312】
図35(A)~(D)中のCIEXクロマトグラムは、二重特異性産物の最も高い収量が50および100 mM 2-MEAで得られたことを示し、二重特異性ELISAの結果を確認するものであった。しかしながら、少量の残存ホモ二量体が依然として、50および100 mM 2-MEAで検出された(25℃および37℃でインキュベートされたサンプルでは各ホモ二量体2~3.5%)。より高い濃度、より長い(24時間の)インキュベーション時間および漸増2-MEA濃度での交換は、CIEXプロファイルにおいて22~24分でのさらなるピークの出現をもたらす。
【0313】
交換が5時間以内で完了した場合には最少量のさらなるピークが得られた。これらのピークの性質を特定するために、SDS-PAGE分析およびHP-SEC分析を行った。HP-SECから、凝集体の量は全ての条件について1%未満であったことが示され、さらなるピークが凝集体に相当しないことが示唆された。しかしながら、非還元SDS-PAGEから、追加のピークが、1つまたは2つの軽鎖を欠いているヘテロ二量体に相当しうることが示唆された。少量の半分子が同様に検出された。
【0314】
実験から、交換反応が高いホモ二量体濃度で行われ、これがこの過程を商業規模で魅力的にすること、ならびに二重特異性抗体の収量が2-MEA濃度、温度およびインキュベーション時間に依ることが示される。
【0315】
実施例35: IgG1-K409Rとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与のためのIgG1 368位の決定基
実施例28および29では、位置F405およびY407でのある種の単一の変異はIgG1-K409Rと組み合わせた場合、ヒトIgG1をFabアーム交換に関与させることを可能とするのに十分であることを示す。本実施例において例証されるように、CH3ドメインにおけるFc:Fc界面の位置に関与するさらなる決定基が同様に、Fabアーム交換機構を媒介しうる。この趣旨で、IgG1 368位での突然変異誘発を行い、この変異体をヒトIgG1-K409Rとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与について調べた。可能な全てのIgG1-2F8-L368X変異体(CおよびPを除いて)をIgG1-7D8-K409Rと組み合わせた。手順は実施例19に記述したように精製抗体で行った。
【0316】
図36は、IgG1-2F8-L368X×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性結合の結果を示す。これらのデータをまた、表8に提示されているように、(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換または(++) 高いFabアーム交換としてスコア化した。IgG1-2F8における368位がL (= 野生型IgG1)、FまたはMであった場合に、Fabアーム交換はない(-)と認められた。Fabアーム交換は、IgG1-2F8における368位がYであった場合には低い(+/-)ことが分かった。Fabアーム交換は、IgG1-2F8における368位がKであった場合には中等(+)で、IgG1-2F8における368位がA、D、E、G、H、I、N、Q、R、S、T、VまたはWであった場合には高い(++)ことが分かった。これらのデータから、IgG1-K409Rと組み合わせた場合にIgG1 368位の特定の変異が、2-MEA誘導性Fabアーム交換にIgG1を関与させることが示唆される。
【0317】
(表8)IgG1-2F8-L368X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換
IgG1-2F8-L368X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をサンドイッチELISAによって判定した。(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換、(++) 高いFabアーム交換。
【0318】
実施例36: IgG1-K409Rとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与のためのIgG1 370位の決定基
実施例28、29および35では、位置F405、Y407またはL368でのある種の単一の変異はIgG1-K409Rと組み合わせた場合、ヒトIgG1をFabアーム交換に関与させることを可能とするのに十分であることを示す。本実施例において例証されるように、CH3ドメインにおけるFc:Fc界面の位置に関与するさらなる決定基が同様に、Fabアーム交換機構を媒介しうる。この趣旨で、IgG1 370位での突然変異誘発を行い、この変異体をヒトIgG1-K409Rとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与について調べた。可能な全てのIgG1-2F8-K370X変異体(CおよびPを除いて)をIgG1-7D8-K409Rと組み合わせた。手順は実施例19に記述したように精製抗体で行った。
【0319】
図37は、IgG1-2F8-K370X×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性結合の結果を示す。これらのデータをまた、表9に提示されているように、(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換または(++) 高いFabアーム交換としてスコア化した。IgG1-2F8における370位がK (= 野生型IgG1)、A、D、E、F、G、H、I、L、M、N、Q、R、S、T、VまたはYであった場合に、Fabアーム交換はない(-)と認められた。K370をWで置換するだけで中等のFabアーム交換(+)が起きた。これらのデータから、IgG1-K409Rと組み合わせた場合にIgG1 370位の1つの変異(K370W)だけで2-MEA誘導性Fabアーム交換にIgG1を関与させられることが示唆される。
【0320】
(表9)IgG1-2F8-K370X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換
IgG1-2F8-K370X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をサンドイッチELISAによって判定した。(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換、(++) 高いFabアーム交換。
【0321】
実施例37: IgG1-K409Rとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与のためのIgG1 399位の決定基
実施例28、29、35および36では、位置F405、Y407、L368またはK370でのある種の単一の変異はIgG1-K409Rと組み合わせた場合、ヒトIgG1をFabアーム交換に関与させることを可能とするのに十分であることを示す。本実施例において例証されるように、CH3ドメインにおけるFc:Fc界面の位置に関与するさらなる決定基が同様に、Fabアーム交換機構を媒介しうる。この趣旨で、IgG1 399位での突然変異誘発を行い、この変異体をヒトIgG1-K409Rとの組み合わせでの2-MEA誘導性Fabアーム交換における関与について調べた。可能な全てのIgG1-2F8-D399X変異体(CおよびPを除いて)をIgG1-7D8-K409Rと組み合わせた。手順は実施例19に記述したように精製抗体で行った。
【0322】
図38は、IgG1-2F8-D399X×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換による二重特異性結合の結果を示す。これらのデータをまた、表10に提示されているように、(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換または(++) 高いFabアーム交換としてスコア化した。IgG1-2F8における399位がD (= 野生型IgG1)、EおよびQであった場合に、Fabアーム交換はない(-)と認められた。Fabアーム交換は、IgG1-2F8における399位がVであった場合には低く(+/-)、IgG1-2F8における399位がG、I、L、M、N、S、TまたはWであった場合には中等(+)であることが分かった。Fabアーム交換は、IgG1-2F8における399位がA、F、H、K、RまたはYであった場合には高い(++)ことが分かった。これらのデータから、IgG1-K409Rと組み合わせた場合にIgG1 399位の特定の変異が、2-MEA誘導性Fabアーム交換にIgG1を関与させることが示唆される。
【0323】
(表10)IgG1-2F8-D399X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換IgG1-2F8-D399X変異体とIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性のインビトロでのFabアーム交換後の二重特異性抗体の作出をサンドイッチELISAによって判定した。(-) Fabアーム交換なし、(+/-) 低いFabアーム交換、(+) 中等のFabアーム交換、(++) 高いFabアーム交換。
【0324】
実施例38: 2-MEA誘導性Fabアーム交換が最適下限に行われて高効率IgG1変異体を識別する、条件範囲の決定
2-MEA誘導性Fabアーム交換の過程は、25 mM 2-MEAを用いる場合、37℃で効率的に行われる。これらの条件の下で、許容的なIgG1変異体(実施例19、28、29および35~37に記述されているように位置368、370、399、405および407ならびに/または409にある種の単一の変異を有するIgG1)の大部分は、高いレベルの2-MEA誘導性Fabアーム交換(80%~100%)を示す。最も高い効率を有するIgG1変異体間の識別を可能にしうる実験条件を特定するため、4つの異なる変異体の組み合わせ(IgG1-2F8-F405S×IgG1-7D8-K409A、IgG1-2F8-D399R×IgG1-7D8-K409G、IgG1-2F8-L368R×IgG1-7D8-K409HおよびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R)に対する2-MEA誘導性Fabアーム交換を、それぞれ、15℃および20℃で経時的に調べた。温度、期間および抗体希釈(20、2、0.2および0.02μg/mL)の変化は別として、手順は実施例19に記述したように行った。
【0325】
20℃で、4つの変異体の組み合わせの2-MEA誘導性Fabアーム交換は、最大の交換(陽性対照)と比べてさまざまな割合で行われた。105分のインキュベーション後、IgG1-2F8-L368R×IgG1-7D8-K409Hは最大の交換レベルに到達し、その一方でIgG1-2F8-F405S×IgG1-7D8-K409A、IgG1-2F8-D399R×IgG1-7D8-K409GおよびIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409Rは200分後に、それぞれ、最大90%、85%および85%に到達した。
【0326】
15℃での異なるIgG1変異体の組み合わせのインキュベーションにより、(
図39に示した)交換率の最も顕著な差異が示された。60分および105分のインキュベーションの後、2-MEA誘導性Fabアーム交換、4つの変異体の組み合わせの間の差異は最も極端であった。200分のインキュベーション後のFabアーム交換により、陽性対照と比べて100%の効率(IgG1-2F8-L368R×IgG1-7D8-K409H)、85%の効率(IgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409RおよびIgG1-2F8-D399R×IgG1-7D8-K409G)または65%の効率(IgG1-2F8-F405S×IgG1-7D8-K409A)が示された。
【0327】
実施例39: 最適以下の条件での変異体の2-MEA誘導性Fabアーム交換効率の分析
2-MEA誘導性Fabアーム交換の過程は、25 mM 2-MEAを用いる場合、37℃で効率的に行われる。これらの条件の下で、許容的なIgG1変異体(実施例19、28、29および35~37に記述されているように位置368、370、399、405および407ならびに/または409にある種の単一の変異を有するIgG1)の大部分は、高いレベルの2-MEA誘導性Fabアーム交換(80~100%)を示す。実施例38で、2-MEA誘導性Fabアーム交換効率の差異はいわゆる最適下限の条件での、すなわち60~105分間15℃でのインキュベーション後に最も顕著であることを記述した。IgG1-7D8-K409Rと90%超の2-MEA誘導性Fabアーム交換を示すL368、D399、F405およびY407での全部で24種のIgG1-2F8変異体(表11参照) (実施例28、29、および35~37)を選択し、(実施例19において報告した結果に基づき) IgG1-7D8-K409A、G、HまたはRでのFabアーム交換分析に供した。二重特異性抗体を作出する効率によってこれらの変異体の組み合わせを分類するために、2-MEA誘導性Fabアーム交換を90分間15℃ (最適下限の条件)で行った。IgG1-7D-K409Rとのインキュベーション後に弱い2-MEA誘導性Fabアーム交換を示した2つのIgG1-2F8変異体Y407QおよびD399Q (実施例29および37)を、さらなる陰性対照として取り入れ、使用して、K409位での別のアミノ酸(G、H、またはW)とのインキュベーションが異なる結果をもたらすかどうか調べた。温度の変化および抗体希釈(20、2、0.2および0.02 ug/mL)の変化は別として、手順は実施例19に記述したように行った。
【0328】
(表11から明らかになるように) 90分間15℃での異なる全てのIgG1変異体の組み合わせのインキュベーションによって、異なる2-MEA誘導性Fabアーム交換効率の範囲が示された。20μg/mLの抗体濃度での二重特異性結合の結果を表11に示す。下記表11の説明文に明記されているように、結果を4つの部類に分類した; ゼロの(-)、低い(+/-)、中等の(+)および高い(++)二重特異性結合効率。これらの結果から、最適下限の条件の下で、IgG1分子におけるアミノ酸変異のいくつかの組み合わせは2-MEA誘導性Fabアーム交換に有利に働くことが明らかになる。
【0329】
(表11)90分間15℃での許容的なIgG1変異体(20μg/mL)間の二重特異性結合(陽性対照に対する%)
【0330】
試験した変異IgG1-2F8分子(表11)から、6つを二次分析のために選択して、先に得られた結果(表11)を確認した。いくつかの変異体をその高い2-MEA誘導性Fabアーム交換効率(IgG1-2F8-L368R)ならびに中等の2-MEA誘導性Fabアーム交換効率(IgG1-2F8-L368W、IgG1-2F8-F405I、IgG1-2F8-F405LおよびIgG1-2F8-Y407W)のために選択した。また、二度目にIgG1-2F8-Y407Qを分析した。というのは、これが、IgG1-7D8-K409Hと予想外の、陽性の2-MEA誘導性Fabアーム交換反応を示したからである。概して、
図40に提示されたこれらの結果から、一次分析(表11)が確認され、IgG1-7D8-K409Hとの変異IgG1-2F8分子の2-MEA誘導性Fabアーム交換反応が最も高い効率を示したことが示される。さらに、実施例28、29および35~37において陰性と報告されているIgG1-7D8-K409Rとの変異IgG1-2F8分子間の2-MEA誘導性Fabアーム交換反応はそれでも、IgG1の2-MEA誘導性Fabアーム交換を潜在的に促進するので、興味深い。
【0331】
実施例40: アンタゴニストc-Met抗体の望ましくないアゴニスト活性を取り除いて、それらを一価の、二重特異性の形式へ変換するための二重特異性の形式の使用
モノクローナル抗体療法用に開発されたいくつかの二価抗体は、その標的への結合によって望ましくないアゴニスト活性を示す。これは、受容体チロシンキナーゼc-Metを標的化する大部分のIgG1に基づく抗体の事例にもある。これらのアゴニスト抗体は受容体の二量体化を誘導し、その後にいくつかの下流のシグナル伝達経路の活性化が行われる。結果として、(腫瘍)細胞の増殖および分化が誘導される。一価抗体の形式を用いることで、受容体の二量体化の誘導を阻止することができる。抗c-Met抗体Fabアームと無関係の抗体のFabアームとの組み合わせによって、機能的に一価の、それゆえ、完全に拮抗性の二重特異性抗体が得られる。ここで、本発明者らは、二重特異性抗体において一部(IgG1-069)または全部(IgG1-058)のアゴニスト抗体を、IgG1-b12 (Burton DR, et al,「Efficient neutralization of primary isolates of HIV-1 by a recombinant human monoclonal antibody」, Science. 1994 Nov 11; 266(5187):1024-1027において最初に記述されている)と組み合わせた。IgG1-b12は、ウイルスタンパク質(HIV-gp120)に対して作製されているため、無関係の非結合抗体と見なされた。本実施例において用いた抗c-Met抗体は、遺伝子導入マウスにおいて作出された完全にヒトのモノクローナル抗体である。IgG1-058およびIgG1-069はc-Met上の異なるエピトープに結合する。
【0332】
用いた2つの抗c-Met抗体は、さらに開示されるように、Fc領域が改変されているIgG1,κ抗体である。それらは以下の重鎖および軽鎖可変配列を有する。
【0333】
受容体リン酸化
一価の二重特異性c-Met抗体を、25 mM 2-MEAを用いて実施例23に記述したようにIgG1-058-F405LまたはIgG1-069-F405LおよびIgG1-b12-K409RとのFabアーム交換反応によって作出した。c-Metリン酸化に及ぼす二重特異性抗体の効果を評価した。天然リガンドHGFによるまたはアゴニスト二価抗体による2つの隣接したc-Met受容体の二量体化で、c-Metの細胞内ドメインにおける3つのチロシン残基(位置1230、1234および1235)は交差リン酸化される。これは、c-Metの細胞内ドメインにおけるいくつかの他のアミノ酸のリン酸化およびいくつかのシグナル伝達カスケードの活性化をもたらす。c-Metの二量体化および活性化は、抗c-Met抗体の潜在的な受容体活性化作用に対する読み出しとして機能する、これらの位置でリン酸化された受容体に特異的な抗体を用いることによりモニタリングすることができる。
【0334】
A549細胞、つまりATCCから入手したCCL-185を、70%の集密度に達するまで、血清を含有するDMEM培地中で増殖させた。細胞をトリプシン処理し、洗浄し、血清を含有する培地中にて細胞1
*10e6個/ウェルで6ウェル培養プレートにプレーティングした。終夜のインキュベーション後、細胞をHGF (R&D systems; カタログ番号294-HG) (50 ng/mL)または抗体のパネル(30μg/mL)で処理し、37℃で15分間インキュベートした。細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche; カタログ番号11836170001)を補充した溶解用緩衝液(Cell Signaling; カタログ番号9803)で溶解した。細胞溶解物サンプルを-80℃で保存した。受容体活性化を、ホスホc-Met特異抗体を用いウエスタンブロットでのc-Metリン酸化の検出により判定した。細胞溶解物中に存在するタンパク質を、4~12% SDS-PAGEゲルにて分離し、ニトロセルロース膜へ転写し、これをその後、リン酸化されたc-Met (Y1234/1235)に特異的な抗体(Cell Signaling, カタログ番号: 3129)で染色した。ゲル負荷の対照として、抗c-Met抗体(Cell Signaling, カタログ番号3127)および抗β-アクチン抗体(Cell Signaling, カタログ番号4967)を用いて総β-アクチンおよびc-Metレベルを判定した。ウエスタンブロットの結果を
図41に示す。
【0335】
組織培地対照ならびに抗体5D5 (Genentech; WO 96/38557)の一価の形式UniBody (登録商標) (Genmab, WO2007059782およびWO2010063785)で処理された細胞は、少しもc-Met受容体リン酸化を示さなかった。本明細書において用いられる一価UniBodyの形式は、ヒンジ領域が欠失された、かつCH3領域が位置405および407で変異された、IgG4である。対照的に、陽性対照HGFまたはアゴニスト抗体IgG1-058で処理された細胞のウエスタンブロット分析から、リン酸化c-Metの、予想された高さに明瞭なバンドが示された。部分的アゴニスト抗体IgG1-069は、より低い、しかし検出可能な受容体リン酸化を示し、受容体のいくらかの架橋結合が起きることを示唆していた。しかしながら、二重特異性IgG1 058/b12抗体も二重特異性069/b12抗体もともに、c-Metリン酸化を全く誘導せず、親抗体と関連するアゴニスト活性が完全に欠けていることを示していた(
図41)。
【0336】
インビトロでのNCI-H441の増殖に及ぼすc-Met抗体の効果
c-Met抗体の潜在的な増殖性のアゴニスト活性を肺腺がん細胞株NCI-H441 (ATCC, HTB-174(商標))においてインビトロで試験した。この細胞株は高レベルのc-Metを発現するが、そのリガンドHGFを産生しない。NCI-H441細胞を血清不含RPMI (Lonza)中で、96ウェル組織培養プレート(Greiner bio-one, Frickenhausen, Germany) (細胞5,000個/ウェル)に播種した。抗c-Met抗体を血清不含RPMI中で66,7 nMに希釈し、細胞に添加した。37℃/5% CO2で7日のインキュベーションの後、生細胞の量をアラマーブルー(BioSource International, San Francisco, US)により、製造元の使用説明書にしたがって定量化した。EnVision 2101 Multilabel読取機(PerkinElmer, Turku, Finland)を標準的なアラマーブルーの設定で用いて、蛍光をモニタリングした。
【0337】
IgG1-069とは反対に、
図42に示されるように、二重特異性IgG1-069/b12とのNCI-H441細胞のインキュベーションにより増殖は誘導されなかった。また、UniBody-069対照では増殖が誘導されず、これは処理なしまたはIgG1-b12処理に匹敵していた。
【0338】
実施例41: ヒトIgG1-2F8-F405LまたはIgG1-7D8-F405LとIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体によるCDC媒介性の細胞死滅
CD20抗体IgG1-7D8は、補体依存性細胞傷害(CDC)によってCD20発現細胞を効率的に死滅させることができる。対照的に、EGFR抗体IgG1-2F8は、EGFRを発現している標的細胞に対するCDCを媒介しない。IgG1-7D8-K409RもIgG1-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体もともに、(実施例26に記述されるように) CD20発現細胞に対してCDCを誘導することができる。IgG1-7D8-F405LおよびIgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体が同様に、CD20発現細胞に対してCDCを誘導できるかどうか試験した。105個のDaudi細胞またはRaji細胞を、0.1% BSAを補充したRPMI培地100μL中の抗体の濃度系列とともに室温にて振盪機中で15分間プレインキュベートした。正常ヒト血清(NHS) 25μLを補体の供給源として加え(20% NHS終濃度)、37℃で45分間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを氷上に置いて、CDC反応を停止させた。10μg/mLのヨウ化プロピジウム(PI) 10μL (0.6μg/mLの終濃度)を加え、FACS分析によって死細胞および生細胞を識別した。
【0339】
図43は、IgG1-7D8およびIgG1-7D8-F405LとIgG1-7D8-K409Rとの間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性産物が、CD20発現Daudi (
図43A)およびCD20発現Raji (
図43B)のCDC媒介性の細胞死滅を誘導する同じ効力を有することを示す。Daudi細胞もRaji細胞もEGFRを発現せず、IgG2-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出された二重特異性抗体の一価結合を引き起こす。この二重特異性産物はまた、わずかに低い効率であったが、CDC媒介性の細胞死滅を誘導した。これらのデータから、親抗体のCDC能力が二重特異性の形式で維持されたことが示唆される。二価の二重特異性産物(IgG1-7D8-F405L×IgG1-7D8-K409R)によるCDC媒介性の細胞死滅の誘導は、一価の二重特異性産物(IgG2-2F8-F405L×IgG1-7D8-K409R)と比べてわずかに高い効率であった。CD20を標的化する11B8抗体は、CDC媒介性の細胞死滅を誘導することができず、陰性対照として機能する。
【0340】
実施例42: インビトロでのκを標的としたETA'死滅アッセイ法で試験したHER2×HER2二重特異性抗体
実施例から、HER2×HER2二重特異性抗体が、κを標的とした緑膿菌外毒素A (抗κ-ETA')を用いた汎用のインビトロでの細胞に基づく死滅アッセイ法で内部移行後に腫瘍細胞へ細胞毒性剤を送達できることが示される。このアッセイ法では、緑膿菌外毒素Aの切断型に結合された高親和性抗κドメイン抗体を利用する。抗体結合タンパク質(連鎖球菌プロテインAまたはプロテインG由来のIgG結合モチーフ)およびジフテリア毒素または緑膿菌外毒素Aの類似の融合タンパク質が既述されている(Mazor Y. et al., J. Immunol. Methods 2007; 321: 41-59); Kuo SR. et al., 2009 Bioconjugate Chem. 2009; 20:1975-1982)。これらの分子は抗κ-ETA'とは対照的に、完全な抗体のFc部分を結合した。内部移行およびエンドサイトーシスの選別によって、抗κ-ETA'ドメイン抗体はタンパク質分解およびジスルフィド結合の還元を起こし、触媒ドメインを結合ドメインから分離する。触媒ドメインは次いで、KDEL保持モチーフによりゴルジから小胞体へ輸送され、その後、細胞質ゾルへ移動され、そこで、タンパク質合成を阻害して、アポトーシスを誘導する(Kreitman RJ . et. al., BioDrugs 2009; 23: 1-13)。
【0341】
本実施例および以下の実施例43~45において用いた抗HER2抗体は、遺伝子導入マウスにおいて作出された完全にヒトのモノクローナル抗体である。それらはHER2上の異なるエピトープに結合する。
【0342】
それらは全て、さらに開示されるように、そのFc領域が改変されているIgG1,κ抗体である。それらは以下の重鎖および軽鎖可変配列を有する。
【0343】
HER2×HER2二重特異性抗体をA431細胞とのインキュベーションの前に抗κ-ETA'とプレインキュベートした。A431細胞は、細胞1個につきおよそ15,000個のHER2抗体を発現し(Qifi分析によって判定された)、「裸の」HER2抗体による処理に感受性がない。
【0344】
初めに、各細胞株について抗κ-ETA'の最適濃度、すなわち、非特異的な細胞死の誘導をもたらさない最大耐用量を判定した。A431細胞(細胞2500個/ウェル)を96ウェル組織培養プレート(Greiner bio-one)中の正常細胞培地に播種し、少なくとも4時間接着させた。これらの細胞を正常細胞培地中で抗κ-ETA'の希釈系列100、10、1、0.1、0.01、0.001および0μg/mLとともにインキュベートした。3日後、生細胞の量をアラマーブルー(BioSource International, San Francisco, US)により、製造元の使用説明書にしたがって定量化した。EnVision 2101 Multilabel読取機(PerkinElmer, Turku, Finland)を標準的なアラマーブルーの設定で用いて、蛍光をモニタリングした。抗κ-ETA'のみで細胞を死滅させなかった抗κ-ETA'の最大濃度(A431細胞の場合には1μg/mL)を以下の実験に用いた。
【0345】
次に、抗κ-ETA'とともにプレインキュベートされたHER2×HER2二重特異性抗体およびHER2単一特異性抗体の効果を、細胞死滅を誘導するその能力について試験した。A431細胞を上記のように播種した。HER2特異抗体(単一特異性抗体および二重特異性抗体)の希釈系列を作出し、所定の濃度の抗κ-ETA'とともに30分間プレインキュベートした後に、それらを細胞に加えた。37℃で3日のインキュベーションの後、生細胞の量を上記のように定量化した。抗体とともにプレインキュベートされた抗κ-ETA'で処理した細胞のアラマーブルーシグナルを、抗体処理なしの処理細胞と比べてプロットした。GraphPad Prism 5ソフトウェアを用いてEC50値および最大の細胞死を計算した。スタウロスポリン(23.4μg/mL)を細胞死滅の陽性対照として用いた。アイソタイプ対照抗体(IgG1/κ; IgG1-3G8-QITL)を陰性対照として用いた。
【0346】
図44は、全ての抗κ-ETA'プレインキュベートHER2二重特異性抗体が用量依存的にA431細胞を死滅できたことを示す。これらの結果は、試験した大部分のHER2二重特異性抗体が、この抗κ-ETA'アッセイ法において組み合わせの中に含まれる単一特異性抗体よりも有効であったことを実証する。さらに、二重特異性抗体005X169、025X169および153X169の効力から、このインビトロでのκを標的としたETA'死滅アッセイ法において活性を欠く単一特異性抗体、つまりHER2特異抗体169の効力を、別のHER2特異抗体との二重特異性の組み合わせを通じて増大できることが示された。
【0347】
実施例43: 異なるHER2エピトープを標的化する二重特異性抗体とのインキュベーションによるHER2受容体の抑制的調節
HER2×HER2二重特異性抗体は、2つの空間的に異なるHER2受容体上の2つの異なるエピトープを結合することができる。これによって、他のHER2×HER2二重特異性抗体を、これらの受容体上の残りのエピトープに結合させることができる。これにより、(一価抗体により誘導される二量体化と比べて)多価受容体架橋結合を引き起こすことができ、その結果、受容体の抑制的調節を増強することができた。HER2×HER2二重特異性抗体がHER2の抑制的調節の増強を誘導するかどうか調べるために、AU565細胞を抗体および二重特異性抗体とともに3日間インキュベートした。全体のHER2レベルおよび抗体結合HER2レベルを判定した。
【0348】
AU565細胞を正常細胞培地中で24ウェル組織培養プレートに播種し(細胞100.000個/ウェル)、10μg/mLのHER2抗体またはHER2×HER2二重特異性抗体の存在下にて37℃で3日間培養した。PBSで洗浄した後に、Surefire Lysis緩衝液(Perkin Elmer, Turku, Finland) 25μLとともに室温で30分間細胞をインキュベートすることによって細胞を溶解した。ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイ試薬(Pierce)を製造元のプロトコルにしたがって用い、総タンパク質レベルを定量化した。HER2特異的なサンドイッチELISAを用いて溶解物中のHER2タンパク質レベルを分析した。ウサギ抗ヒトHER2細胞内ドメイン抗体(Cell Signaling)を用いてHER2を捕捉し、ビオチン化ヤギ抗ヒトHER2ポリクローナル抗体(R&D systems, Minneapolis, USA)、引き続きストレプトアビジン-ポリ-HRPを用いて、結合したHER2を検出した。反応を2,2'-アジノ-ビス3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS錠1錠をABTS緩衝液50 mL中で希釈[Roche Diagnostics, Almere, The Netherlands])によって可視化させ、シュウ酸(Sigma-Aldrich, Zwijndrecht, The Netherlands)で停止させた。405 nmでの蛍光をマイクロタイタープレート読取機(Biotek Instruments, Winooski, USA)にて測定し、HER2の量を未処理細胞に対する割合として表した。
【0349】
結果を
図45に示す。図から、試験した全てのHER2×HER2二重特異性抗体が40%以上のHER2の抑制的調節を誘導したことが実証される。興味深いことに、全てのHER2×HER2二重特異性抗体がその単一特異性の対応物の両方と比べてHER2の抑制的調節の増大を実証した。
【0350】
実施例44: 共焦点顕微鏡検査により分析されたHER2×HER2二重特異性抗体とリソソームマーカーLAMP1との共局在化
実施例43に記述したようにHER2抑制的調節アッセイから、HER2×HER2二重特異性抗体がHER2のリソソーム分解を増大できることが示唆された。これらの所見を確認するために、共焦点顕微鏡検査技術を適用した。AU565細胞を37℃で3日間標準的な組織培地中で、ガラスカバースリップ(厚さ1.5ミクロン, Thermo Fisher Scientific, Braunschweig, Germany)にて増殖させた。細胞をロイペプチン(Sigma)とともに1時間プレインキュベートしてリソソーム活性をブロックし、その後、10 ug/mLのHER2単一特異性抗体またはHER2×HER2二重特異性抗体を加えた。細胞を37℃でさらに3時間または18時間インキュベートした。その後、それらをPBSで洗浄し、4%ホルムアルデヒド(Klinipath)とともに室温で30分間インキュベートした。スライドをブロッキング用緩衝液(0.1%サポニン[Roche]および2% BSA [Roche]を補充したPBS)で洗浄し、20 mM NH4Clを含有するブロッキング用緩衝液とともに20分間インキュベートして、ホルムアルデヒドをクエンチした。スライドを再び、ブロッキング用緩衝液で洗浄し、マウス抗ヒトCD107a (LAMP1) (BD Pharmingen)とともに室温で45分間インキュベートしてリソソームを染色した。ブロッキング用緩衝液で洗浄した後に、スライドを二次抗体のカクテル; ヤギ抗マウスIgG-Cy5 (Jackson)およびヤギ抗ヒトIgG-FITC (Jackson)とともに室温で30分インキュベートした。スライドを再び、ブロッキング用緩衝液で洗浄し、封入剤20μLを用いて顕微鏡スライド上に終夜マウントした(グリセロール[Sigma] 6グラムおよびMowiol 4-88 [Omnilabo] 2.4グラムを蒸留水6 mLに溶解し、これに0.2 M Tris [Sigma] pH 8.5 12 mLを加え、その後に50~60℃で10分間のインキュベーションを行った。封入剤は分注し、-20℃で保存した)。スライドを、63×1.32-0.6油浸対物レンズおよびLAS-AFソフトウェアを備えたLeica SPE-II共焦点顕微鏡(Leica Microsystems)で撮像した。重複するピクセル強度の定量化を可能とするために、ピクセルの飽和を回避するべきである。それゆえ、FITCレーザー強度を10%に減少させ、スマートゲインを830 Vに設定し、スマートオフセットを-9.48%に設定した。これらの設定を用いることにより、二重特異性抗体はピクセル飽和なく明瞭に可視化されたが、単一特異性抗体は検出することが困難なこともあった。単一特異性抗体と二重特異性抗体との間でリソソーム共局在化を比較するために、これらの設定を、分析する全ての共焦点スライドについて同じに保った。
【0351】
MetaMorph (登録商標)ソフトウェア(Meta Series 6. 1版, Molecular Devices Inc, Sunnyvale California, USA)を用い共局在化について12ビット画像を分析した。FITCおよびCy5画像をスタックとして取り込み、バックグラウンドを差し引いた。全てのFITC画像および全てのCy5画像について同一の閾値設定を用いた(手動で設定した)。共局在化を重複領域(ROI)におけるFITCのピクセル強度として描写した。ここで、ROIは全てのCy5陽性領域から構成される。いくつかのHER2抗体またはHER2×HER2二重特異性抗体で染色された異なるスライドを比較するために、Cy5のピクセル強度を用いて画像を規準化した。ヤギ抗マウスIgG-Cy5を用いて、リソソームマーカーLAMP1 (CD107a)を染色した。LAMP1のピクセル強度は、試験した種々のHER2抗体またはHER2×HER2二重特異性抗体の間で異ならないはずである(1個の細胞がおよそ200.000のCy5ピクセル強度を有していた)。
【0352】
FITCおよびCy5の共局在化に対する規準化値 =
[(TPI-FITC×%FITC-Cy5共局在化)/100]×[200.000/TPI-Cy5]
【0353】
この式において、TPIは総ピクセル強度を表す。
【0354】
上式はさまざまな単一特異性HER2抗体およびHER2×HER2二重特異性抗体に対して、Cy5と重複しているFITCピクセル強度により測定したときの、生細胞の割合を表す。描写される抗体または二重特異性分子ごとに、異なる3つの画像を、およそ1、3または5個を超える細胞を含有する1枚のスライドから分析した。各スライド内の異なる画像の間で顕著な差異が認められた。しかしながら、全てのHER2×HER2二重特異性抗体が、その単一特異性の対応物と比較した場合に、リソソームマーカーLAMP1との共局在化の増大を示すことが明らかであった。これらの結果は、HER2×HER2二重特異性抗体が、内部移行されたら、リソソーム区画の方へ効率的に局在化され、それらが、二重特異性抗体薬結合体による手法に適することを示唆している。
【0355】
実施例45: HER2単一特異性抗体またはHER2×HER2二重特異性抗体とのインキュベーションによるAU565細胞の増殖の阻害
HER2二重特異性抗体を、インビトロでAU565細胞の増殖を阻害するその能力について試験した。AU565細胞上の高いHER2発現レベル(Qifiキットで判定した場合に細胞1個あたりおよそ1.000.000コピー)により、HER2はこれらの細胞において構成的に活性であり、かくして、リガンド誘導性のヘテロ二量体化に依存しない。96ウェル組織培養プレート(Greiner bio-one, Frickenhausen, Germany)の中に、無血清細胞培地中10μg/mLのHER2抗体またはHER2×HER2二重特異性抗体の存在下で1ウェルあたり9.000個のAU565細胞を播種した。対照として、抗体または二重特異性抗体なしの無血清培地中に細胞を播種した。3日後、アラマーブルー(BioSource International, San Francisco, US)を製造元の使用説明書にしたがい用いて生細胞の量を定量化した。EnVision 2101 Multilabel読取機(PerkinElmer, Turku, Finland)を標準的なアラマーブルーの設定で用いて、蛍光をモニタリングした。抗体処理細胞のアラマーブルーシグナルを未処理細胞に対する割合としてプロットした。
【0356】
図47は、HER2抗体およびHER2×HER2二重特異性抗体とのインキュベーション後のAU565細胞のアラマーブルーの蛍光強度を描く。ハーセプチン(登録商標) (トラスツズマブ)は陽性対照として含まれ、Juntilla TT. et al., Cancer Cell 2009; 15: 429-440によって記述されているように増殖の阻害を実証した。全てのHER2×HER2二重特異性抗体がAU565細胞の増殖を阻害することができた。二重特異性抗体: IgG1-005-ITL×IgG1-169-K409RおよびIgG1-025-ITL×IgG1-005-K409Rはこのアッセイ法において、その単一特異性抗体の対応物と比べて有効であった。
【0357】
実施例46: Fc領域において1つまたは2つのFcRn部位を含んだヒンジ欠失IgG1二重特異性抗体および二重特異性IgG1抗体によるFcRn結合のインビトロおよびインビボでの分析
本実施例では、非対称二重特異性分子、すなわち、本発明による各Fabアームにおいて異なる特徴を有する分子の作出を例証する。
【0358】
新生児Fc受容体(FcRn)は、IgGを分解から保護することによりIgGの長い血漿中半減期に関与する。抗体の内部移行後、FcRnはエンドソームにおいて抗体Fc領域に結合し、そこでは弱酸性の環境(pH 6.0)において相互作用が安定である。環境が中性(pH 7.4)である、原形質膜への再利用により、内部移行が失われ、抗体は循環血液中にもう一度放出される。抗体のFc領域は、CH2-CH3界面にある各重鎖に1つの、FcRn結合部位2つを含む。抗体のFc領域におけるH435A変異は、FcRnへの結合を抑止し(Shields, R. L., et al, J Biol Chem, 2001, Firan, M., et al, Int Immunol, 2001)、また、ヒンジ領域はFcRn結合に影響を与えるものと考えられる(Kim, J. K., et al., Mol Immunol., 1995)。さらに、FcRnへの一価抗体の結合を上回る二価抗体の結合の役割が効率的な再利用において示唆されている(Kim, J. K., et al., Scand J Immunol., 1994)。
【0359】
本実施例では、単一のFcRn結合部位を含む、非対称二重特異性IgG1分子によってFcRn結合価の影響について評価する。非対称二重特異性ヒンジ欠失IgG1 (Uni-G1)分子によってヒンジ領域のさらなる寄与について評価する。
【0360】
ゼロ、1または2個のFcRn結合部位を含む二重特異性IgG1分子またはヒンジ欠失IgG1 (Uni-G1)分子のFcRn結合をヒトおよびマウスFcRn ELISAによって測定した。抗体IgG1-2F8-ITL、IgG1-7D8-K409RおよびIgG1-7D8-K409R-H435A単一特異性分子は、実施例2、3、4および5に記述したように作出した。ヒンジ欠失IgG1分子Uni-G1-2F8-ITL、Uni-G1-7D8-K409RおよびUni-G1-7D8-K409R-H435A単一特異性分子は、実施例11に記述したように作出した。二重特異性IgG1分子はIgG1-2F8-ITL分子およびIgG1-7D8-K409R分子またはIgG1-7D8-K409R-H435A分子間の2-MEA誘導性Fabアーム交換により作出した。二重特異性ヒンジ欠失IgG1分子はUni-G1-2F8-ITLとUni-G1-7D8-K409RまたはUni-G1-7D8-K409R-H435Aとのインキュベーションによって作出した。3倍希釈系列の単一特異性および二重特異性IgG1分子およびヒンジ欠失IgG1分子を、ストレプトアビジンでコーティングされたelisaプレート上に捕捉されたビオチン化ヒトまたはマウスFcRnに加え、その後、1時間pH 6.0および7.4でのインキュベーションを行った。結合した抗体およびヒンジ欠失IgG1分子を、コンジュゲートとして西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒト(Fab')2および基質としてABTSを用い可視化した。EL808-Elisa読取機を用い405 nmの波長での光学密度として結果を測定した。
【0361】
図48は、pH 6.0およびpH 7.4でのヒトFcRn (A)およびマウスFcRn (B)への単一特異性または二重特異性IgG1分子およびヒンジ欠失IgG1分子の結合結果を示す。予想通り、試験した全ての抗体、つまり(二重特異性) IgG1分子もヒンジ欠失IgG1分子も、pH 7.4でFcRn (ヒトおよびマウスの両方)に効率的に結合しない。弱酸性の条件(pH 6.0)で、単一特異性IgG1-2F8-ITLならびにIgG1-2F8-ITLおよびIgG1-7D8-K409Rから作出された二重特異性IgG1は、マウスFcRnの場合にはヒトと比べて3倍高いとはいえ、FcRnへの二価の結合効率を示し、これはFcRn結合に対する陽性対照(IgG1-2F8)を再現している。これは、ITL変異およびK409RがFcRnへの結合を妨害しないことを示唆している。
【0362】
ヒトおよびマウスFcRnへのIgG1分子の結合をpH 6.0で比較した場合、FcRn相互作用部位2個 vs 1個 vs 0個の明らかな影響を認めることができる(
図XXAおよびB, pH 6, 左パネル)。IgG1-2F8-ITL、IgG1-7D8-K409RおよびIgG1-2F8-ITL/IgG1-7D8-K409R (2つのFcRn結合部位)は対照(IgG1-2F8)と同等に結合する。FcRn結合部位が0個の分子IgG1-7D8-K409R-H435Aは、結合を全く示さない。FcRn結合部位が1個の分子IgG1-2F8-ITL/IgG1-7D8-K409R-H435Aは、FcRn結合部位が2個の分子と比べた場合、中等の結合を示す。
【0363】
図48(A), pH 6.0, 右パネルはヒンジ欠失IgG1分子(Uni-G1)のヒトFcRnへの結合を示す。全てのヒンジ欠失分子は、対照IgG1分子(IgG1-2F8)と比べた場合、ヒトFcRnとのその相互作用が損なわれており、FcRn結合ELISAにおいて評価した場合にヒンジが、実際、FcRnとの相互作用に影響することを示唆している。FcRn相互作用部位2個 vs 1個 vs 0個の明らかな影響は、pH 6.0でのヒトFcRnへの結合がこれらのヒンジ欠失分子から構成される場合、認めることができない。
【0364】
しかしながら、マウスFcRnへのヒトIgGの結合は、より強力なため、pH 6.0でのマウスFcRnへのこれらのヒンジ欠失IgG分子の結合を比較した場合、FcRn相互作用部位2個 vs 1個 vs 0個の明らかな影響を認めることができる(
図48(B), pH 6.0, 右パネル)。Uni-G1-7D8-K409R-H435A/Uni-G1-2F8-ITL (FcRn結合部位1個)の結合は、Uni-G1-2F8-ITL、Uni-G1-7D8-409RおよびUni-G1-2F8-ITL/Uni-G1-7D8-K409R (FcRn結合部位2個)、ならびにUni-G1-2F8-ITL-H435A (FcRn結合部位0個、結合なし)の結合と比較した場合、中等である。
【0365】
実施例47: インビトロ細胞毒性アッセイ法において試験したHer2×CD3二重特異性抗体
CD3は、成熟T細胞上に発現されるT細胞受容体複合体における共受容体である。二重特異性抗体におけるCD3特異抗体Fabアームと腫瘍抗原特異抗体Fabアームとの組み合わせによって、腫瘍細胞へのT細胞の特異的な標的化が起こり、T細胞媒介性の腫瘍細胞溶解に至るであろう。同様に、CD3陽性T細胞を体内の他の脱線細胞へ、感染細胞へまたは直接病原体へ標的化することができよう。
【0366】
Her2×CD3二重特異性抗体を作出した。Her2特異的Fabアームの重鎖および軽鎖の可変領域配列は、実施例42において抗体153および169の場合に示した通りであった。CD3特異的Fabアームに対する以下の重鎖および軽鎖の可変領域配列を用いた:
YTH12.5 (Routledge et al., Eur J Immunol. 1991, 21(11):2717-25により記述されている配列。)
huCLB-T3/4 (Parren et al., Res Immunol. 1991, 142(9):749-63により記述されている配列。わずかなアミノ酸置換を導入して、配列を、最も近いヒト生殖細胞系列に似させた。)
【0367】
全ての抗体は、以下に記述されるように、そのFc領域が改変されているIgG1,κとして発現された:IgG1-Her2-153-K409RおよびIgG1-Her2-153-N297Q-K409R、IgG1-Her2-169-K409R、IgG1-hu-CLB-T3/4-F405LおよびIgG1-hu-CLB-T3/4-N297Q-F405L、IgG1-YTH12.5-F405LおよびIgG1-YTH12.5-N297Q-F405L。
【0368】
これらのHer2およびCD3特異抗体由来の二重特異性抗体を、実施例11に記述したように作出し、AU565細胞を用いてインビトロ細胞毒性アッセイ法において試験した。
【0369】
AU565細胞をほぼ集密まで培養した。細胞をPBSで2回洗浄し、37℃で5分間トリプシン処理した。培地12 mLを加えてトリプシンを不活化し、細胞を800 rpmで5分間遠心沈殿した。細胞を培地10 mLに再懸濁し、細胞ろ過器に細胞を通すことによって単個細胞懸濁液を作出した。細胞5×105個/mLの懸濁液100μLを96ウェル培養プレートの各ウェルに加え、細胞を37℃、5% CO2で少なくとも3時間インキュベートして、プレートに接着させた。
【0370】
Leucosep 30 mL試験管を製造元のプロトコル(Greiner Bio-one)にしたがって用い、末梢血単核細胞(PBMC)を健常ボランティアの血液から単離した。Untouched Human T-cells Dynabeadキット(Dynal)を用いて陰性選択によりPBMC調製物からT細胞を単離した。単離細胞を細胞7×106個/mLの終濃度まで培地に再懸濁した。
【0371】
培地を接着AU565細胞から除去し、50μl/ウェルの2×濃縮抗体-希釈液および50μl/ウェルのT細胞7×106個/mL (エフェクタ:標的の比率 = 7 : 1)と交換した。プレートを37℃、5% CO2で3日間インキュベートした。上清を除去し、プレートをPBSで2回洗浄した。各ウェルに培地150μLおよびアラマーブルー15μLを加えた。プレートを37℃、5% CO2で4時間インキュベートし、吸光度を測定した(Envision, Perkin Elmer)。
【0372】
図49から、対照抗体(Her2単一特異性IgG1-ハーセプチン、CD3単一特異性IgG1-YTH12.5および単一特異性IgG1-huCLB-T3/4、無関係な抗原単一特異性IgG1-b12、ならびにCD3×b12二重特異性抗体)はT細胞媒介性の細胞傷害を誘導しなかったが、二重特異性(二つ組)のHer2×CD3抗体huCLB/Her2-153、huCLB/Her2-169、YTH12.5/Her2-153およびYTH12.5/Her2-169はAU565細胞の用量依存的なT細胞媒介性の細胞傷害を誘導したことが示される。Her2-169を含んだ二重特異性抗体は、Her2-153を含んだものよりも強力であった。
【0373】
グリコシル化部位を除去するためにN297Q変異を含んだIgG1-hu-CLB-T3/4、IgG1-YTH12.5およびHer2-153の変異体を作出した; この部位でのグリコシル化はIgG-Fcγ受容体相互作用に重要である(Bolt S et al., Eur J Immunol 1993, 23:403-411)。
図49は、Her2×CD3二重特異性抗体YTH12.5/Her2-153およびhuCLB/Her2-153のN297Q変異、それゆえ、Fcグリコシル化の欠如が、AU565細胞の用量依存的なT細胞媒介性の細胞傷害を誘導する潜在性に影響を与えなかったことを示す。
第1のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のポリペプチドと、第2のFc領域が第2のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のポリペプチドとを含むヘテロ二量体タンパク質であって、ここで前記第1および第2のCH3領域の配列は異なり、かつ前記第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が前記第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、かつ
前記第1のCH3領域は位置409にA、D、E、F、G、H、I、Q、S、T、V、WまたはYを有し、かつ前記第2のCH3領域は位置405におけるFのLによるアミノ酸置換を有し、ここでアミノ酸付番はEUインデックスに従うものであるか、または
前記第1のCH3領域は位置409にA、GまたはHを有し、かつ前記第2のCH3領域は位置405におけるFのI、K、L、S、T、VまたはWによるアミノ酸置換を有し、ここでアミノ酸付番はEUインデックスに従うものである、前記ヘテロ二量体タンパク質。
前記第1および第2のポリペプチドが、2つの抗体の全長重鎖であり、前記第1のポリペプチドは第1のエピトープに対して結合特異性を有し、かつ前記第2のポリペプチドは第2のエピトープに対して結合特異性を有する、請求項1に記載のヘテロ二量体タンパク質。
第1のFc領域が、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプのものであり、かつ第2のFc領域が、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプのものである、請求項1~3のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
野生型CH3領域と比較して、前記第1のCH3領域が1つ以下のアミノ酸置換を有し、かつ前記第2のCH3領域が1つ以下のアミノ酸置換を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
前記ヘテロ二量体タンパク質が、指定した任意の変異を除いて、二重特異性抗体であり、好ましくはヒトまたはヒト化二重特異性抗体である、請求項1~5のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
前記第1および/または第2のFc領域が、薬物、プロドラッグまたは毒素に結合しているか、またはそれに対するアクセプタ基を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
前記ヘテロ二量体タンパク質が、第1および第2のエピトープに対する結合特異性を有する二重特異性抗体であり、前記第1または第2のエピトープが腫瘍細胞上に位置し、かつ他方のエピトープがエフェクタ細胞上に位置する、請求項1~5のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
前記ヘテロ二量体タンパク質が、第1および第2のエピトープに対する結合特異性を有する二重特異性抗体であり、前記第1または第2のエピトープが、T細胞上に、例えばT細胞上に発現したCD3上に位置する、請求項1~8のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
前記ヘテロ二量体タンパク質が、第1および第2のエピトープに対する結合特異性を有する二重特異性抗体であり、前記第1および第2のエピトープが、同じ腫瘍細胞上の異なるエピトープである、請求項1~7のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
前記ヘテロ二量体タンパク質が、第1および第2のエピトープに対する結合特異性を有する二重特異性抗体であり、前記第1および第2のエピトープが、腫瘍細胞上に位置し、かつ前記二重特異性抗体が、erbB1 (EGFR)、erbB2 (HER2)、erbB3、erbB4、MUC-1、CD19、CD20、CD4、CD38、CD138、CXCR5、c-Met、HERV-外被タンパク質、ペリオスチン、Bigh3、SPARC、BCR、CD79、CD37、EGFrvIII、L1-CAM、AXL、組織因子(TF)、CD74、EpCAMおよびMRP3からなる群から選択される標的に対する結合特異性を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
前記ヘテロ二量体タンパク質が、第1および第2のエピトープに対する結合特異性を有する二重特異性抗体であり、前記第1および第2のエピトープが、腫瘍細胞上に位置し、かつ前記二重特異性抗体が、erbB1 + erbB2、erbB2 + erbB3、erbB1 + erbB3、CD19 + CD20、CD38 + CD34、CD4 + CXCR5、CD38 + RANKL、CD38 + CXCR4、CD20 + CXCR4、CD20 + CCR7、CD20 + CXCR5、CD20 + RANKL、erbB2 + AXL、erbB1 + cMet、erbB2 + c-Met、erbB2 + EpCAM、c-Met + AXL、c-Met + TF、CD38 + CD20、およびCD38 + CD138からなる群から選択される標的の組み合わせに対する結合特異性を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
前記ヘテロ二量体タンパク質が、第1および第2のエピトープに対する結合特異性を有する二重特異性抗体であり、前記第1または第2のエピトープが腫瘍細胞上に位置し、かつ他方のエピトープがエフェクタ細胞上に位置し、前記二重特異性抗体が、FcgammaRI (CD64)、FcgammaRIII (CD16)、CD3、CD89、CD32aおよびFcεRIからなる群から選択される標的に対する結合特異性を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
前記ヘテロ二量体タンパク質が、第1および第2のエピトープに対する結合特異性を有する二重特異性抗体であり、前記二重特異性抗体が、CD3 + HER2、CD3 + CD20、IL-12 + IL18、IL-1a + IL-1b、VEGF + EGFR、EpCAM + CD3、GD2 + CD3、GD3 + CD3、HER2 + CD64、EGFR + CD64、CD30 + CD16、NG2 + CD28、HER2 + HER3、CD20 + CD28、HER2 + CD16、Bcl2 + CD3、CD19 + CD3、CEA + CD3、EGFR + CD3、IgE + CD3、EphA2 + CD3、CD33 + CD3、MCSP + CD3、PSMA + CD3、TF + CD3、CD19 + CD16、CD19 + CD16a、CD30 + CD16a、CEA + HSG、CD20 + HSG、MUC1 + HSG、CD20 + CD22、HLA-DR + CD79、PDGFR + VEGF、IL17a + IL23、CD32b + CD25、CD20 + CD38、HER2 + AXL、CD89 + HLAクラスII、CD38 + CD138、TF + cMet、Her2 + EpCAM、HER2 + HER2、EGFR + EGFR、EGFR + c-Met、c-Met + 非結合性アームおよびGタンパク質共役受容体の組み合わせからなる群から選択される標的の組み合わせに対する結合特異性を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のヘテロ二量体タンパク質。
請求項1~6のいずれか一項記載のヘテロ二量体タンパク質を含む、腫瘍細胞の成長および/もしくは増殖を阻害するための、ならびに/または腫瘍細胞の死滅化のための医薬。
さらなる局面において、本発明は、本発明の方法によって得られたまたは得ることができるヘテロ二量体タンパク質に関し、適当な宿主細胞における共発現により本発明のヘテロ二量体タンパク質を産生するための方法に関する。
本発明はまた以下に関する。
[項目1]
以下の段階を含む、ヘテロ二量体タンパク質を作出するためのインビトロの方法:
a) Fc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンのFc領域を含む第1のホモ二量体タンパク質を提供する段階、
b) Fc領域が第2のCH3領域を含む、免疫グロブリンのFc領域を含む第2のホモ二量体タンパク質を提供する段階、
ここで該第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列は異なり、かつ該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、
c) ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合の異性化を起こすことを可能にするのに十分な還元条件の下で、該第1のタンパク質を該第2のタンパク質とともにインキュベートする段階、ならびに
d) 該ヘテロ二量体タンパク質を得る段階。
[項目2]
第1のホモ二量体タンパク質および第2のホモ二量体タンパク質が、(i) Fc領域、(ii) 抗体、(iii) Fc領域を含む融合タンパク質、および(iv) プロドラッグ、ペプチド、薬物もしくは毒素に結合されたFc領域からなる群より選択される、項目1記載のインビトロの方法。
[項目3]
第1のホモ二量体タンパク質が全長抗体である、項目1記載のインビトロの方法。
[項目4]
第2のホモ二量体タンパク質が全長抗体である、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目5]
第1および第2のホモ二量体タンパク質がともに抗体であり、異なるエピトープに結合する、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目6]
第1のホモ二量体タンパク質のFc領域が、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプのものであり、かつ第2のホモ二量体タンパク質のFc領域が、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプのものである、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目7]
第1のホモ二量体タンパク質および第2のホモ二量体タンパク質の両方のFc領域がIgG1アイソタイプのものである、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目8]
ホモ二量体タンパク質のFc領域の一方がIgG1アイソタイプのものであり、もう一方がIgG4アイソタイプのものである、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目9]
ホモ二量体相互作用の各々と比較したヘテロ二量体相互作用の強度の増大が、共有結合、システイン残基または荷電残基の導入以外のCH3改変によるものである、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目10]
結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用が、実施例13に記述した条件の下、0.5 mM GSHでFabアーム交換が起こりえないようなものである、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目11]
結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用が、実施例14に記述した条件の下、マウスにおいてインビボでFabアーム交換が起こらないようなものである、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目12]
結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用が、例えば実施例30に記述のように決定した場合、2つのホモ二量体相互作用のうちで最も強いものよりも2倍を超えて強い、例えば3倍を超えて強い、例えば5倍を超えて強い、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目13]
第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列が、実施例30に記述のようにアッセイした場合、結果として得られるヘテロ二量体タンパク質における第1のタンパク質と第2のタンパク質との間のヘテロ二量体相互作用の解離定数が0.05マイクロモル未満であるようなものである、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目14]
第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、両方のホモ二量体相互作用の解離定数が0.01マイクロモルを超える、例えば0.05マイクロモルを超える、好ましくは0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものである、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目15]
第1のCH3領域および第2のCH3領域の配列が、同一でない位置にアミノ酸置換を含む、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目16]
アミノ酸置換基が天然アミノ酸または非天然アミノ酸である、項目15記載のインビトロの方法。
[項目17]
野生型CH3領域と比較して、第1のホモ二量体タンパク質がCH3領域中に1つのみアミノ酸置換を有し、第2のホモ二量体タンパク質がCH3領域中に1つのみアミノ酸置換を有する、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目18]
第1のホモ二量体タンパク質が、366、368、370、399、405、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が、366、368、370、399、405、407および409からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、ここで該第1のホモ二量体タンパク質および該第2のホモ二量体タンパク質は同じ位置では置換されない、前記項目1~16のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目19]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が、366、368、370、399、405および407からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目20]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にPhe以外のアミノ酸を有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目21]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にPhe、ArgまたはGly以外のアミノ酸を有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目22]
第1のホモ二量体タンパク質が位置405にPheを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にPhe以外のアミノ酸および位置409にLysを含む、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目23]
第1のホモ二量体タンパク質が位置405にPheを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にPhe、ArgまたはGly以外のアミノ酸および位置409にLysを含む、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目24]
第1のホモ二量体タンパク質が位置405にPheを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にLeuおよび位置409にLysを含む、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目25]
第1のホモ二量体タンパク質が位置405にPheおよび位置409にArgを含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にPhe、ArgまたはGly以外のアミノ酸および位置409にLysを含む、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目26]
第1のホモ二量体タンパク質が位置405にPheおよび位置409にArgを含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置405にLeuおよび位置409にLysを含む、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目27]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、位置370にThrおよび位置405にLeuを含む、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目28]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にArgを含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、位置370にThrおよび位置405にLeuを含む、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目29]
第1のホモ二量体タンパク質が位置370にLys、位置405にPheおよび位置409にArgを含み、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、位置370にThrおよび位置405にLeuを含む、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目30]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerまたはThr以外のアミノ酸を有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。[項目31]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にAla、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、ValまたはTrpを有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目32]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にGly、Leu、Met、AsnまたはTrpを有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目33]
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerまたはThr以外のアミノ酸および位置409にLysを有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目34]
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にAla、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、ValまたはTrpおよび位置409にLysを有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目35]
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrを、および位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にGly、Leu、Met、AsnまたはTrpおよび位置409にLysを有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目36]
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrおよび位置409にArgを有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerまたはThr以外のアミノ酸および位置409にLysを有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目37]
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrおよび位置409にArgを有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にAla、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、ValまたはTrpおよび位置409にLysを有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目38]
第1のホモ二量体タンパク質が位置407にTyrおよび位置409にArgを有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が位置407にGly、Leu、Met、AsnまたはTrpおよび位置409にLysを有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目39]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にLys、LeuまたはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が
(i) 位置368にPhe、LeuおよびMet以外のアミノ酸、または
(ii) 位置370にTrp、または
(iii) 位置399にAsp、Cys、Pro、GluもしくはGln以外のアミノ酸
を有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目40]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にArg、Ala、HisまたはGlyを有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が
(i) 位置368にLys、Gln、Ala、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Asn、Arg、Ser、Thr、ValもしくはTrp、または
(ii) 位置370にTrp、または
(iii) 位置399にAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、Trp、Phe、His、Lys、ArgもしくはTyr
を有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目41]
第1のホモ二量体タンパク質が位置409にArgを有し、かつ第2のホモ二量体タンパク質が (i) 位置368にAsp、Glu、Gly、Asn、Arg、Ser、Thr、ValもしくはTrp、または
(ii) 位置370にTrp、または
(iii) 位置399にPhe、His、Lys、ArgもしくはTyr
を有する、前記項目1~18のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目42]
第1および第2のCH3領域が、指定した変異を除いて、SEQ ID NO:1に記載される配列を含む、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目43]
第1のホモ二量体タンパク質と第2のホモ二量体タンパク質のどちらもヒンジ領域の中にCys-Pro-Ser-Cys配列を含まない、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目44]
第1のホモ二量体タンパク質と第2のホモ二量体タンパク質のどちらもヒンジ領域の中にCys-Pro-Pro-Cys配列を含む、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目45]
第1のホモ二量体タンパク質および第2のホモ二量体タンパク質が、指定した任意の変異を除いて、ヒト抗体である、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目46]
第1のホモ二量体タンパク質および第2のホモ二量体タンパク質が重鎖抗体である、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目47]
第1のホモ二量体タンパク質と第2のホモ二量体タンパク質のどちらも軽鎖をさらに含む、前記項目1~46のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目48]
軽鎖が異なる、項目47記載のインビトロの方法。
[項目49]
第1および/または第2のホモ二量体タンパク質が、Asn結合型グリコシル化のアクセプタ部位を取り除く変異を含む、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目50]
段階a)およびb)において提供される第1および第2のホモ二量体タンパク質が精製される、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目51]
第1および/または第2のホモ二量体タンパク質が薬物、プロドラッグもしくは毒素に結合されるか、またはそれらに対するアクセプタ基を含む、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目52]
第1および/または第2のエピトープが腫瘍細胞上に位置する、前記項目4~51のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目53]
第1または第2のエピトープが腫瘍細胞上に位置し、かつ他方のエピトープがエフェクタ細胞上に位置する、前記項目4~52のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目54]
エピトープが、T細胞上に発現されたCD3上のようにT細胞上に位置する、前記項目4~53のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目55]
第1または第2のエピトープが腫瘍細胞上に位置し、かつ他方のエピトープが、ペプチドもしくはハプテンに任意でカップリングもしくは連結されてもよい、放射性同位体、毒素、薬物またはプロドラッグ上に位置する、前記項目4~52のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目56]
第1または第2のエピトープが腫瘍細胞上に位置し、かつ他方のエピトープが高電子密度ベシクルまたはミニ細胞上に位置する、前記項目4~52のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目57]
ホモ二量体タンパク質がともに抗体であり、かつ第1の抗体および第2の抗体が同じ腫瘍細胞上の異なるエピトープに結合する、前記項目1~52のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目58]
ホモ二量体タンパク質がともに抗体であり、かつ第1の抗体が腫瘍細胞上のエピトープに結合し、かつ他方の抗体が、意図した用途に関連するいかなるインビボ結合活性もない無関係なまたは不活性な抗体である、前記項目1~52のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目59]
段階c)における還元条件に、還元剤、例えば2-メルカプトエチルアミン、ジチオスレイトールおよびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンまたはその化学的誘導体からなる群より選択される還元剤の添加が含まれる、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目60]
段階c)が、-150~-600 mV、例えば-250~-400 mVの酸化還元電位による還元条件の下で行われる、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目61]
段階c)が、少なくとも25 mMの2-メルカプトエチルアミンの存在下にてまたは少なくとも0.5 mMのジチオスレイトールの存在下にて少なくとも20℃の温度で少なくとも90分間のインキュベーションを含む、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目62]
段階d)が、例えば脱塩による、還元剤の除去を含む、前記項目のいずれか一項記載のインビトロの方法。
[項目63]
以下の段階を含む、所望の特性を有する二重特異性抗体の選択のための方法:
a) 第1セットの抗体が同一の第1のCH3領域を含む、異なる可変領域を有する抗体を含んだホモ二量体抗体の第1セットを提供する段階、
b) 第2セットの抗体が同一の第2のCH3領域を含む、異なる可変領域または同一の可変領域を有する抗体を含んだホモ二量体抗体の第2セットを提供する段階、
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、かつ該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、
c) ヒンジ領域内のシステインがジスルフィド結合の異性化を起こすことを可能にするのに十分な還元条件の下で、該第1セットのおよび該第2セットの抗体の組み合わせをインキュベートする段階であって、かくして二重特異性抗体のセットを作出する、段階、
d) 任意で条件を非還元条件に戻す段階、
e) 得られた二重特異性抗体のセットを所与の所望の特性についてアッセイする段階、ならびに
f) 所望の特性を有する二重特異性抗体を選択する段階。
[項目64]
第2セットのホモ二量体抗体が異なる可変領域を有する、項目63記載の方法。
[項目65]
第2セットのホモ二量体抗体は同一の可変領域を有するが、抗原結合領域外に異なるアミノ酸または構造変化を有する、項目63記載の方法。
[項目66]
以下の段階を含む、ヘテロ二量体タンパク質を産生するための方法:
a) 第1のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のポリペプチドをコードする第1の核酸構築体を提供する段階、
b) 第2のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸構築体を提供する段階、
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、かつ該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、かつ
ここで該第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ該第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405および407からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、
かつ/または
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は、CH3領域の各々のホモ二量体相互作用の解離定数が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものであり、
c) 宿主細胞において該第1および第2の核酸構築体を共発現させる段階、ならびに
d) 細胞培養物から該ヘテロ二量体タンパク質を得る段階。
[項目67]
第1のCH3領域が位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のCH3領域が位置405にPhe、ArgもしくはGly以外などの、位置405にPhe以外のアミノ酸を有し、
または
第1のCH3領域が位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のCH3領域が位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerもしくはThr以外のアミノ酸を有する、
項目66記載の方法。
[項目68]
第1および第2のポリペプチドが、異なるエピトープに結合する2つの抗体の全長重鎖である、項目66または67記載の方法。
[項目69]
段階c)が、宿主細胞において軽鎖をコードする1つまたは複数の核酸構築体を共発現させる段階をさらに含む、前記項目66~68のいずれか一項記載の方法。
[項目70]
項目2~58のいずれか一項または複数項の特徴をさらに含む、前記項目66~69のいずれか記載の方法。
[項目71]
項目66~70のいずれか一項に特定されている核酸構築体を含む発現ベクター。
[項目72]
項目66~70のいずれか一項に特定されている核酸構築体を含む宿主細胞。
[項目73]
前記項目1~72のいずれか一項記載の方法によって得られたまたは得ることができるヘテロ二量体タンパク質。
[項目74]
第1のFc領域が第1のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のポリペプチドと、第2のFc領域が第2のCH3領域を含む、免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のポリペプチドとを含むヘテロ二量体タンパク質であって、ここで該第1および第2のCH3領域の配列は異なり、かつ該第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用が該第1のCH3領域および第2のCH3領域のホモ二量体相互作用の各々よりも強いようなものであり、かつ
ここで該第1のホモ二量体タンパク質は位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ該第2のホモ二量体タンパク質は、366、368、370、399、405および407からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を有し、
かつ/または
ここで該第1および第2のCH3領域の配列は、CH3領域の各々のホモ二量体相互作用の解離定数が、実施例21に記述のようにアッセイした場合、0.01~10マイクロモル、例えば0.05~10マイクロモル、より好ましくは0.01~5マイクロモル、例えば0.05~5マイクロモル、さらにより好ましくは0.01~1マイクロモル、例えば0.05~1マイクロモル、0.01~0.5マイクロモルまたは0.01~0.1マイクロモルであるようなものである、
前記ヘテロ二量体タンパク質。
[項目75]
第1のCH3領域が位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のCH3領域が位置405にPhe、ArgもしくはGly以外のような、位置405にPhe以外のアミノ酸を有し、 または
第1のCH3領域が位置409にLys、LeuもしくはMet以外のアミノ酸を有し、かつ第2のCH3領域が位置407にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、SerもしくはThr以外のアミノ酸を有する、
項目73記載のヘテロ二量体タンパク質。
[項目76]
第1および第2のポリペプチドが、異なるエピトープに結合する2つの抗体の全長重鎖である、項目74または75記載のヘテロ二量体タンパク質。
[項目77]
2つの全長軽鎖をさらに含む、項目76記載のヘテロ二量体タンパク質。
[項目78]
項目2~58のいずれか一項または複数の項の特徴をさらに含む、前記項目73~77のいずれか一項記載のヘテロ二量体タンパク質。
[項目79]
医薬として用いるための、項目74~78のいずれか一項記載のヘテロ二量体タンパク質。[項目80]
がんの処置で用いるための、項目79記載のヘテロ二量体タンパク質。
[項目81]
項目74~78のいずれか一項記載のヘテロ二量体タンパク質と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物。
[項目82]
項目74~78のいずれか一項記載のヘテロ二量体タンパク質の、それを必要としている個体への投与を含む、腫瘍細胞の成長および/もしくは増殖を阻害するための、ならびに/または腫瘍細胞の死滅化のための方法。