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特開2022-160576組織移植片を組み立てるためのシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160576
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】組織移植片を組み立てるためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/322 20060101AFI20221012BHJP
   A61B 17/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A61B17/322
A61B17/00
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124829
(22)【出願日】2022-08-04
(62)【分割の表示】P 2019523001の分割
【原出願日】2017-10-30
(31)【優先権主張番号】62/414,405
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/478,207
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン リチャード ロックス
(72)【発明者】
【氏名】タム ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】フランコ ウォルフレ
(72)【発明者】
【氏名】ファリネッリ ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ワン イン
(72)【発明者】
【氏名】プルシュケ マルティン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複数の組織移植片を組み立てるためのシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】ドナーサイトから複数の微小組織移植片を採取するステップ12と、複数の微小組織移植片を所望の向きに配置するステップ14と、所望の向きに配置された複数の微小組織移植片を含む組織構築物を形成するステップと、レシピエントサイトへ組織構築物を適用するステップ16と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取した複数の微小組織移植片を組み立てるための方法であって、
a)前記複数の微小組織移植片を所望の向きに配置するステップと、
b)所望の向きに配置された前記複数の微小組織移植片を含む組織構築物を形成するステップと、を備え
前記組織構築物は直接レシピエントサイトへ適用できることを特徴とする方法。
【請求項2】
ステップa)は、溶液中に前記複数の微小組織移植片を配置するステップと、前記複数の微小組織移植片を所望の配向で組織化するように誘導するステップと、を備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の微小組織移植片を所望の配向で組織化するように誘導するステップが、溶液中の前記微小組織移植片の流れを制御するステップを備えていることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記流れを制御するステップは、溶液を軌道運動させるステップを備えていることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記流れを制御するステップは、それぞれの流体チャネルを通して前記複数の微小組織移植片のそれぞれを経路指定するステップを備えていることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)の組織構築物が、支持材料内に所望の配向で配置された前記複数の微小組織移植片を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)が、前記支持材料のストリップを巻くステップと、巻く間に間隔をあけて前記ストリップに取り付けられた前記複数の微小組織移植片を組み立てるステップとを備えていることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記支持材料は生体適合性マトリックスであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)は、前記微小組織移植片の上面と連通する材料およびツールのうちの1つを使用して、所望の向きに配置された前記複数の微小組織移植片を維持するステップを備えていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記所望の向きは、実質的に垂直な表皮-真皮向きであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップb)は、前記所望の向きに並べられた前記複数の微小組織移植片を溶液中に配置するステップと、前記溶液を凝固させて前記組織構築物を形成するステップと、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
複数の微小組織移植片を組み立てるためのシステムであって、
針のアレイ、針のそれぞれに対応する孔を有するマトリックス、およびマトリックス上のメッシュを備え、ドナーサイトの上に配置するように構成された装置と、
前記装置上に結合して、組織移植片を前記針のアレイを通して前記マトリックスの前記孔の中に引き込み、前記真空と前記マトリックスの間に前記孔を覆うように配置された前記メッシュが前記孔の中に前記複数の微小組織移植片を捕捉させるように構成された真空と、を備え、
前記メッシュおよび前記針のアレイから前記マトリックスが除去可能で、前記マトリックス内に前記複数の微小組織移植片を含む組織構築物を形成し、前記組織構築物はレシピエントサイトへ適用できることを特徴とするシステム。
【請求項13】
前記マトリックスは2層マトリックスで、
前記2層マトリックスの残りの層内に前記複数の微小組織移植片を含む前記組織構築物を形成するために前記2層マトリックスの1層が除去可能であることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
複数の微小組織移植片を組織構築物に組み立てるための装置であって、
それぞれがドナーサイトからそれぞれの微小組織移植片を採取するような大きさの針のアレイと、
前記針のアレイ上に配置され、針から前記微小組織移植片を受け取るように構成された孔を備えたマトリックスと、
前記マトリックス上に配置され、適用された真空が空気の通過を可能にし、前記微小組織移植片を前記針を通して前記マトリックス内に引っ張ることを可能にするが、前記マトリックス内に前記微小組織移植片を捕捉するために微小組織移植片が通過するのを防ぐメッシュと、を備えたことを特徴とする装置。
【請求項15】
前記マトリックスは生体適合性材料を含むことを特徴とする請求項14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2016年10月28日に出願された米国仮特許出願第62/414,405号及び2017年3月29日に出願された米国仮特許出願第62/478,207号に対する優先権を主張し、参照により本明細書に組み込む。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究に関する陳述)
本発明は、国防総省によって授与されたW81XWH-13-2-0054に基づく政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
自家移植片は、個体の身体のある部分(例えばドナーサイト)から別の部分(例えばレシピエントサイト)に移植された組織を指すことができる。自家移植片は、例えば、失われた皮膚および他の組織を置換するために、および/または外傷、創傷、火傷、外科手術、および先天性欠損症からの治癒を促進するために使用され得る。一般に、移植手順は、過度の悪影響を引き起こすことなくドナーサイトから除去することができる組織の量によって制限される可能性がある。より具体的には、自家移植のための組織の利用可能性は、必要とされる組織の総面積、ドナーサイトの治癒挙動、ドナーサイトとレシピエントサイトの類似性、審美的考察、および/または候補ドナーサイトおよび/またはレシピエントサイトの他の特性によって制限され得る。
【0004】
シート移植片は自家移植片の一種であり、損傷を受けていないドナーサイトから除去された、または採取された組織片を指す。例えば、シート移植片は、ドナーサイトで皮膚から一片の組織を穏やかに剃るように構成された器具を用いて得ることができる。移植片に使用されるドナー皮膚片の大きさは、損傷を受けたレシピエントサイトとほぼ同じ大きさであり、(例えば、採取後の移植片組織の潜在的な収縮を考慮するため)レシピエントサイトよりわずかに大きいか、または(例えば、網目状にして拡張することができる移植片によって)レシピエントサイトより小さい。一旦採取されると、シート移植片はレシピエントサイトの創傷を覆って適用され、ステープル留めされるかまたは他の方法で所定の位置に固定され、そして治癒することを可能にされ得る。
【0005】
シート移植片は全層または分割層であり得る。例えば、従来の分割層移植片は、ドナーサイトから表皮および上部真皮組織のシートを採取することによって形成することができ、一方、全層皮膚移植片は、可変的な厚さの表皮層全体および真皮成分を含む組織のシートを使用して形成することができる。使用されるシート移植片の種類は、ドナーサイトとレシピエントサイトの両方で治癒に影響を及ぼし得る。
【0006】
例えば、従来の分割層移植片では、皮膚組織は、第二度の熱傷を癒すのと同様の過程でドナーサイトで成長してもよい。したがって、瘢痕化、疼痛、および他の長期的な副作用を伴うことが多いにもかかわらず、ドナーサイトがそれ自体で少なくとも部分的に回復することができるので、分割層移植片は全層移植片より好ましい可能性がある。しかしながら、分割層皮膚自家移植片のためにドナーサイトから除去された皮膚組織は、一般に薄い上皮層のみを含み、これは治癒するとレシピエントサイトにおける構造安定性および通常の外観を改善する真皮の特定の要素を欠くことがある。
【0007】
従来の全層移植片では、移植手順の後に、色、質感、および厚さなどの正常な皮膚のより多くの特徴をレシピエントサイトで維持することができる(すなわち、真皮成分がそのような移植片に保存され得るので)。例えば、全層移植片は、分割層移植片と比較して、より多くのコラーゲン含有量、真皮血管神経叢、および上皮付属物を含み得る。全層移植片はまた、治癒している間に収縮がより少なくなり得る。これらの特性は、顔や手などのより目に見える肌の領域で重要になる可能性がある。加えて、毛髪は、分層移植片よりも全層移植片から成長する可能性が高く、汗腺および皮脂腺は、レシピエントサイトの発汗特性を考慮して、分層移植片よりも全層移植片において再生する可能性が高い。
【0008】
全層移植片はレシピエントサイトにおいて改善された組織品質を提供し得るが、皮膚が再生するために残っている真皮が存在しないのでドナーサイトは完全に犠牲にされる。したがって、潜在的なドナーサイトの利用可能性は非常に限られており、全層移植片用のドナーサイトは外科的に閉じなければならない。さらに、全層移植片は、血管再生を必要とする大量の組織のために、生存のためにより正確な条件を必要とする。このように、従来の全層皮膚移植片は、一般的に、比較的小さく、汚染されておらず、血管新生が良好な創傷に限定されており、分割層移植片ほど多くの種類の移植術には適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に照らして、最小のドナーサイト瘢痕を有する効率的な移植片組織を提供しながら、レシピエントサイトで正常組織の微細解剖学的構造も適切に複製する、組織採取および移植のためのシステムおよび方法を提供することが望ましい。さらに、そのようなシステムおよび方法は、様々なサイズおよび形状のレシピエントサイトで使用するために拡張性がある(scalable)ことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のシステムおよび方法は、完全な厚さの微小組織カラムの形態で、実質的な組織カラムのような実質的に垂直な表皮-真皮配向などの個々の組織カラムの所望の配向を維持する部分組織移植片を提供することによって上記および他の欠点を克服する。複数の固形組織構築物は、所望の大きさおよび幾何学的形状の創傷に適切に適合するように並んで配置された拡張性のあるビルディングブロックとして使用することができる。
【0011】
本開示の一態様によれば、複数の微小組織移植片を組み立てる(assembling)ための方法が提供される。この方法は、ドナーサイトから複数の微小組織移植片を採取するステップと、前記複数の微小組織移植片を所望の向きに配置するステップと、前記所望の向きに配置された前記複数の微小組織移植片を含む組織構築物を形成するステップと、レシピエントサイトへ前記組織構築物を適用するステップと、を備える。
【0012】
本開示の別の態様によれば、複数の微小組織移植片を組み立てるための方法が提供される。この方法は、針のアレイ、針のそれぞれに対応する孔を有するマトリックス、およびマトリックス上のメッシュを備えた装置を、ドナーサイトの上に配置するステップを備える。この方法はまた、前記装置上に真空を適用して前記複数の微小組織移植片を前記針のアレイを通して前記マトリックスの前記孔の中に引き込み、前記メッシュに前記孔の中に前記複数の微小組織移植片を捕捉させるステップと、前記メッシュおよび前記針のアレイから前記マトリックスを除去して、前記マトリックス内に前記複数の微小組織移植片を含む組織構築物を形成するステップと、レシピエントサイトに前記組織構築物を適用するステップと、を備える。
【0013】
本開示のまた別の態様によれば、複数の微小組織移植片を組織構築物に組み立てるための装置が提供される。この装置は、針のアレイ、マトリックス、およびメッシュを備える。アレイの針はそれぞれドナーサイトからそれぞれの微小組織移植片を採取するような大きさであり、そしてマトリックスは針のアレイの上に配置される。マトリックスは、針から微小組織移植片を受け取るように構成された孔を備える。さらに、メッシュはマトリックス上に配置される。メッシュは、適用された真空が前記微小組織移植片を前記針を通して前記マトリックス内に引っ張れるように空気が通過することを可能にするような寸法であり、前記微小組織移植片を前記マトリックス内に収容するような寸法でもある。
【0014】
本発明の上記および他の利点は、以下の説明から明らかになるであろう。説明では、本明細書の一部を構成する添付の図面を参照し、図面には本発明の好ましい実施形態が例として示されている。そのような実施形態は必ずしも本発明の全範囲を表すものではなく、したがって本発明の範囲を解釈するために特許請求の範囲および本明細書を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】組織移植片を組織化し組み立てるための方法を示すフローチャートである。
図2】組織移植片を配向させるための疎水性コーティング技術を示す図である。
図3】組織移植片を配向させるための疎水性コーティングおよび軌道運動技術を示す図である。
図4A-F】図4A~Dは、図3に示す技術の各ステップにおける溶液内の組織移植片を示す図であり、組織移植片を上から見た図である。図4Eは、図3に示す技術の各ステップにおける溶液内の組織移植片を示す図である。図4Fは、図3に示す技術の各ステップにおける溶液内の組織移植片を示す図であり、組織移植片の等角投影図である。
図5】組織移植片を配向させるための磁気コーティング技術を示す図である。
図6A-C】図6Aは、組織移植片を配向させるための回転技術を示し、間隔を置いて配置された組織移植片と共に巻かれている支持材料の側面図である。図6Bは、組織移植片を配向させるための回転技術を示し、支持材料および配向された組織移植片を含むロール状組織構築物の側面図である。図6Cは、組織移植片を配向させるための回転技術を示し、図6Bのロール状組織構築物の平面図である。
図7】異なる配向技術に従って組み立てられた各場合の、正しく位置合わせされた組織移植片の割合を示すチャートである。
図8A】染色された表皮層を有する組織移植片の上面図および底面図であって、図3の疎水性コーティングおよび軌道運動技術に従って配向された溶液中の組織移植片を示す。
図8B】染色された表皮層を有する組織移植片の上面図および底面図であって、未処置の組織移植片を示す。
図8C】染色された表皮層を有する組織移植片の上面図および底面図であって、軌道運動技術に従って配向した溶液中の組織移植片を示す。
図9A-C】針アレイ、マトリックス、およびメッシュカバーを備えた装置を使用した、組織採取および配向技術の組み合わせの各ステップを示す。
図10A-C】針アレイ、2層マトリックス、およびメッシュカバーを備えた装置を使用した、組織採取および配向技術の組み合わせの各ステップを示す。
図11A-B】図11Aは、構築物中の組織移植片の上面図を示す。図11Bは、構築物中の組織移植片の側面図を示す。
図12A-B】図12Aは、配向された組織移植片を含む構造体を示す上面図であり、組み立てられた構築物を示す図である。図12Bは、配向された組織移植片を含む構造体を示す上面図であり、創傷に適用された構築物を示す図である。
図13A-C】図13Aは、二次的な意図によって治癒した創傷の上面図を示し、時間ゼロにおける創傷を示す。図13Bは、二次的な意図によって治癒した創傷の上面図を示し、時間ゼロの2週間後の創傷を示す。図13Cは、二次的な意図によって治癒した創傷の上面図を示し、時間ゼロから6週間後の創傷を示す。
図14A-C】図14Aは、ランダムに配向した微小組織移植片によって治癒した創傷の平面図を示し、時間ゼロにおける創傷を示す。図14Bは、ランダムに配向した微小組織移植片によって治癒した創傷の平面図を示し、時間ゼロの2週間後の創傷を示す。図14Cは、ランダムに配向した微小組織移植片によって治癒した創傷の平面図を示し、時間ゼロから6週間後の創傷を示す。
図15A-F】図15Aは、表皮-真皮配向で組み立てられた微小組織移植片によって治癒した創傷の上面図を示し、時間ゼロにおける創傷を示す。図15Bは、表皮-真皮配向で組み立てられた微小組織移植片によって治癒した創傷の上面図を示し、時間ゼロの1週間後の創傷を示す。図15Cは、表皮-真皮配向で組み立てられた微小組織移植片によって治癒した創傷の上面図を示し、時間ゼロから3週間後の創傷を示す。図15Dは、表皮-真皮配向で組み立てられた微小組織移植片によって治癒した創傷の上面図を示し、時間ゼロから4週間後の創傷を示す。図15Eは、表皮-真皮配向で組み立てられた微小組織移植片によって治癒した創傷の上面図を示し、時間ゼロから6週間後の創傷を示す。図15Fは、表皮-真皮配向で組み立てられた微小組織移植片によって治癒した創傷の上面図を示し、時間ゼロから8週間後の創傷を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、組織移植片を組織化し組み立てるためのシステムおよび方法を提供する。より具体的には、本システムおよび方法は、個々の組織カラムの所望の配向を維持するように、生物学的微小組織カラムの形態の複数の微小組織移植片をより大きな組織構築物に組み立てることを可能にする。
【0017】
例えば、全層皮膚組織は、ドナーサイトに瘢痕を生じさせることなく、小さいカラム(例えば、直径数百マイクロメートル)の形態でドナーサイトから採取することができる。これらの微小組織カラムは、創傷治癒を改善するための「ランダム」部分移植片として創傷床に適用することができる。しかし、肌は構造的に自然に分極化されているので、創傷床に適切な表皮-真皮配向を有するアレイとして微小組織カラムを移植することは、再上皮化処理を促進し、正常な真皮構造を再現し、そして瘢痕を減らすことによって治癒をさらに改善することができる。このように、本明細書に開示されている方法およびシステムは、微小組織カラムの配向を容易にし、それらを三次元全層構造物に組み立てることを可能にする。本システムおよび方法はまた、様々なサイズおよび形状の創傷治癒を改善するために多数の微小組織カラムを使用するための実用的で拡張性のある解決策を提供する。
【0018】
図1は、本開示による微小組織カラム(micro tissue columns、MTCs)を組み立てるための方法10を示す。一般に、図1に示すように、ステップ12でMTCsがドナーサイトから採取される。ステップ14において、いくつかのまたは全てのMTCが所望の向きに配置される(例えば、正常な皮膚の表皮-真皮極性を合わせる)。そしてステップ16で、配向したMTCsがレシピエントサイトに適用される。本明細書では微小組織カラム、すなわちMTCsという用語が使用されているが、この用語は微小組織移植片または微小移植片と交換可能であり得ることに留意されたい。さらに、対象組織が皮膚である場合、MTCsは微小皮膚組織カラム(MSTCs)と呼ばれることがある。
【0019】
ここでステップ12を参照すると、MTCsはドナーサイトから採取することができる。より具体的には、MTCsは、ドナーサイトから組織の細長い実質的に円柱形の部分を除去し、それによってその中に孔を残すことによって形成することができる。いくつかの実施形態では、MTC(micro tissue column)の直径または幅は、約2ミリメートル(mm)未満または約1mm未満であり得る。いくつかの実施形態において、直径または幅は、約0.5mm未満、約0.3mm未満、または約0.2mmであり得る。さらなる実施形態において、直径または幅は、約0.8mmから0.3mmの間であり得る。他の実施形態では、直径または幅は、約0.7mmから0.2mmの間であり得る。
【0020】
各MTCは、ドナーサイトからの表皮組織および真皮組織の両方を含む全層移植片であり得る。一般に、かなりの量の皮下組織または筋肉組織を避けながら、表皮組織および真皮組織を用いてMTCsを採取することが好ましい可能性がある(ただし、いくつかの用途では、MTCsは皮下組織および/または筋肉組織を含み得る)。例えば、各MTCは約3mmの高さとすることができ、これは典型的な皮膚層の全深さに対応することができる(例えば、表皮層と真皮層の両方を含み、真皮層は毛包および汗腺または皮脂腺を含む)。ドナーサイトの特定の皮膚または組織の特徴に基づいて、約2mm~約4mmの間など、異なる高さを使用することができる。さらに、MTCsは真皮組織全体に幹細胞を含み得る(例えば、毛包と汗腺に関連する幹細胞および/または真皮層の下部、たとえば真皮/脂肪層の境界付近の幹細胞)。
【0021】
一般に、MTCsは、ドナーサイトにおける瘢痕化を最小限にするかまたは防止するようにドナーサイトから採取することができる。例えば、それぞれのMTCによって生成されたドナーサイトの孔のサイズは、生成された軽微な損傷が迅速におよび/または瘢痕化なしに治癒するように選択することができる。より具体的には、各ドナーサイトの孔は、再生によって迅速に治癒するのに十分に小さくあり得る。すなわち、採取された組織容積を、瘢痕化を伴わないか最小限の瘢痕化を伴いながら構造および機能の両方において正常な新しい皮膚組織で置き換える。さらに、MTCsによって形成されるドナーサイトの孔のサイズは、移植または成長培地中に配置されたときに生存能力を促進するのに十分小さく、十分な量の移植組織を形成するのにおよび/またはドナー組織に存在し得る組織構造を捕捉するのに十分大きい組織の部分の形成に基づいて選択できる。
【0022】
いくつかの実施形態では、ドナーサイトから除去された表面組織の一部(これは、孔によって占められているドナーサイトの表面積の割合に対応することができる)は、約70%未満、約50%以下、またはより好ましくは約10%~約30%であり得る。除去される組織の割合は、適切な大きさの移植片を形成するのに十分な採取MTCsを提供するのに十分大きいが、残りの損傷を受けていない組織からの成長に基づいてドナーサイトでの迅速な治癒を促進するのに十分小さい。例えばドナーサイトの特定の特性、必要とされる移植片のサイズ、および利用可能なドナーサイト組織の総量などの要因に応じて、他の割合の組織をドナーサイトから除去することができる。
【0023】
いくつかの実施形態によれば、MTCsは、例えば19ゲージのコアリング針などの1つまたは複数の採取用針を使用して採取することができる。さらに、いくつかの実施形態では、MTCsは、1つまたは複数の双頭(double-pointed)皮下注射針を使用して採取され得る。しかしながら、個々にまたはアレイにまとめられた異なる種類またはサイズの針が、本開示の範囲内で企図され得る。例えば、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第9,060,803号に記載されているツールおよび方法のいずれかを使用してMTCsを採取することができる。
【0024】
ステップ12の結果、複数の採取されたMTCsを含む分割(fractional)皮膚移植片が得られる。上記のように、単一の大きなドナーサイト創傷ではなく、上記の分割皮膚移植技術は、最小限の瘢痕形成で治癒することができる小さなドナーサイト創傷を作り出す。さらに、いくつかの実施形態では、ステップ12は、以下でさらに説明するように、ステップ14でMTCの配向を補助するためにMTCsを採取する前にドナーサイトを前処理するステップを含むことができる。
【0025】
ここでステップ14を参照すると、採取されたMTCsは、例えば正常な皮膚の表皮-真皮極性と一致するように、所望の向きに組み立てられる。より具体的には、ステップ14において、MTCsは、適切な表皮-真皮の実質的に垂直の向きを維持する三次元の全層構築物に組み立てられ得る。ステップ14は、全てのまたはほとんどのカラムが自発的に(例えば、水性媒体の上に浮かぶ疎水性コーティングによる)および/または外部要因を使用して(例えば、磁力線に沿ってコーティングを配向させる外部磁石によって、または制御された撹拌もしくは流体の流れによって)所望の配向に組織化するように誘導する物質で各組織カラムの表面をコーティングすることによる自己組織化アプローチによって達成することができる。追加的にまたは代替的に、支持生体材料は、組み立てられた組織コラムの全体構造および所望の配向を維持するのを助け、構造体を形成することができる。これらの支持材料は、例えば、最初に液体形態で導入され、次いで組み立てられた組織コラムの周りに凝固するように誘導されるか、または固体形態で使用され、層またはロールで組織コラムと組み合わされるなど、様々な方法で適用できる。
【0026】
したがって、いくつかの実施形態では、コーティングを用いてMTCsを配向させる。 例えば、ドナーサイトの表面は、ステップ12での移植片採取の前にコーティングで被覆される。コーティングは、疎水性コーティング、親水性コーティング、または溶液中で相分離を示す任意の種類のコーティングであり得る。コーティングは、非毒性および/または生物学的に不活性であり得、そしていくつかの用途においてはシリコーンベースであり得る。一旦コーティングされると、MTCsは抽出され、MTCsを表皮-真皮方向に整列させる溶液に浸され得る。より具体的には、コーティングの特性により、いくつかまたは全てのMTCsのコーティングされた表皮は溶液中で自発的に整列し、それ自体を溶液の頂部に向ける。
【0027】
図2は、例示的なコーティング技術20を示す。図2に示すように、ステップ22において、ドナーサイト24を選択することができる。ステップ26において、ワセリンまたは他の適切なコーティングなどの疎水性コーティング28をドナーサイト24の表面30に(例えば、ドナーサイトの表皮層32を覆うように)塗布することができる。ステップ33において、MTCs34が上記のステップ12に従ってドナーサイト24から採取される。例えば、MTCs34は、表皮層32ならびに真皮層36、および任意選択で真皮/脂肪層境界38の一部を含む全層移植片であり得る。ステップ40で、MTCs34を溶液42(例えばウェルプレート)に入れる。コーティング28の疎水性のために、いくつかのまたは全てのMTCs34のコーティングされた表皮32は一般に、表皮-真皮配向で溶液42内で垂直に整列する。ステップ44において、溶液42(または異なる溶液)が、組み立てられたMTCs34の周りで固化するように誘導されて、配向MTCs34の構築物48を作り出す。
【0028】
いくつかの実施形態では、溶液42は、生理食塩水、または、ある期間後に(例えばポリマーは混合後一定期間凝固し得る)または誘導に応答して(例えば、架橋剤の適用による)凝固することができる生体適合性および/または生分解性ポリマーなどの別の適切な溶液であり得る。さらに、いくつかの実施形態では、ステップ44で異なる解決策を使用することができる。例えば、この他の溶液は、インキュベーション後に固化することができる生体適合性マトリックスまたはコラーゲン溶液などの支持生体材料であり得る。コーティング28は、いくつかの用途では位置合わせ後に洗い落とされてもよいが、他の用途では必要ではないかもしれない。(例えば、コーティング28は、創傷適用後にドナーサイト24上に残り、表皮の自然な代謝回転中に剥がれ落ちることが可能になる)。
【0029】
いくつかの実施形態では、上記のコーティング技術を撹拌工程と組み合わせてもよい。例えば、揺動(agitation)は、溶液に沈んでしまった可能性のあるMTCsを攪拌する(stir)のに役立ち、流体表面に浮遊する可能性を高める。一旦流体表面に達すると、疎水性コーティングはMTCsを所望の配向に留める。さらに、揺動は表面に浮かぶMTCsが互いに密集するために十分接近する可能性を高める(すなわち、「Cheerios効果」としても知られる小さな浮遊物の周りの表面張力の影響による)。
【0030】
例えば図3は、コーティングおよび軌道運動技術50を示す。図3に示すように、ステップ52および54で、ドナーサイト24がそれぞれ選択され、疎水性コーティング28で被覆され、ステップ56で被覆MTCs34が採取される。図3のステップ52~56は、図2の上記ステップ22、26、33と略等しい。しかしながら、ステップ56に続いて、ステップ58において、採取されたMTCs34を溶液42に浸し、そしてMTCs34の互いの方向への(例えば、ウェルプレートの中心への方向への)クラスタ化を強化するために揺動することができる。そのような揺動は、例えば、軌道シェーカー(図示せず)を用いて軌道運動を加えることによって達成することができる。1つの特定の用途では、揺動は軌道シェーカーを用いて毎分150回転(RPM)で約30秒間で達成することができる。 しかしながら、他の用途では他の軌道シェーカーパラメータを使用することができる。さらに、ステップ60において、表皮-真皮配向のMTCs34を支持生体適合性材料46に配置することができる。例えば、表皮-真皮配向MTCsを、液体コラーゲン溶液または他の生体適合性マトリックスなどの支持生体材料46を含む新しい培養プレートに移し、再び軌道運動させることができる(例えば、200RPMで約30秒間、または他のRPMおよびタイミングパラメータで軌道シェーカーを使用する)。ステップ62において、適切に配向されたMTCs34を含むコラーゲン溶液46を誘導して固体構造体48を形成することができる。例えば、ある用途では、コラーゲン溶液46を37℃で約45分間インキュベートして固体構造体48を形成することができる。
【0031】
図4A図4Fは、図3の上記技術によるMTCs34を示し、 ここでは、ドナーサイトの表皮32が、配向を示すためにMTC採取前にインクで染色されている。図4Aは、いくつかの表皮層32が上を向いた状態で、疎水性コーティングでコーティングされ、ウェルプレート64内の溶液42中に浮遊するMTCs34を示す(例えば、上記のステップ40に対応する)。図4Bは、軌道運動が適用された後にMTCs34(それらの染色された表皮層32によって示される)がウェルプレート64の中心に向かって集まっていることを示す(例えば、上記のステップ58に対応する)。図4Cおよび図4Dは、それぞれ、コラーゲン溶液46中の新しい培養プレート66に移された軌道運動の前後のMTCs34を示す(例えば、上記のステップ60に対応する)。したがって 図4Dは、軌道運動が加えられた後にMTCs34がウェルプレート66の中心に向かって集まっていることを示している。図4Eおよび4Fは、凝固部分皮膚移植片構築物48内で正しく配向されたMTCs34の上面図および等角図をそれぞれ示す(例えば、凝固させるためにコラーゲン溶液46が誘導された上記ステップ62に対応する)。
【0032】
いくつかの実施形態では上述の軌道運動を使用してMTCを配向させることができるが、他の実施形態では他のタイプの撹拌または流体流を使用することができる。例えば、一実施形態では、採取されたMTCsは、それらの表皮-真皮配向を抽出から維持するために、採取針から、マイクロ流体チャネルまたはテーパ形状(図示せず)を有するフローチャネルを通って送られる。チャネルはまた、MTCs間のより密接なグループ分けを容易にするような方法で方向付けられてもよい。すなわち、チャネルは、ドナーサイトから抽出されたときにそれらの元の間隔と比較してMTCs間の間隔を減少させるように配向されてもよい。これらのチャネルから、表皮-真皮配向MTCsを(コラーゲン溶液などの)生体適合性マトリックスを含む培養プレートに移し、インキュベートして固体構築物を形成することができる。いくつかの実施形態では、これらの追加の揺動および流体の流れの例はまた、本明細書に記載されるコーティング技術のうちの任意のものと組み合わせることができる。
【0033】
さらに、他の実施形態では、MTCsを配向させるために磁性または強磁性コーティングが使用される。この例では、ドナーサイトの表面は、磁性塗料または酸化鉄粒子などで、移植片採取前にコーティングすることができる。次いで、MTCsを抽出し、溶液(食塩水、生体適合性マトリックス、コラーゲン溶液、または他の支持生体材料など)に浸す。そして、外部磁石を使用して、溶液内でMTCsを配向させることができる。コーティングの磁気特性のために、いくつかまたは全てのMTCsのコーティングされた表皮は、磁石によって生成された磁力線に従って整列し、したがってそれ自体を溶液の上部に向ける。したがって、外部磁石を使用してMTCsのパターニングを非常に正確に制御することができる。さらに、いくつかの用途では、例えば、同じ組織構造内に異なるパターンまたは異なる密度のMTCsの領域を作り出すために、磁石のアレイ(すなわち、単一の磁石ではなく)を使用することができる。
【0034】
図5は、例示的な部分被覆技術68を示す。図5に示すように、ステップ70において、ドナーサイト24を選択することができる。ステップ72で、オストミー(ostomy)接着剤または他の適切な接着剤などの接着剤コーティング74をドナーサイト24の表面30に塗布することができる。ステップ76において、酸化鉄粒子78が接着剤に塗布される。ステップ80において、スプレー式包帯のような追加のコーティング82が酸化鉄粒子78の上に塗布される。図5には示されていないが、ステップ80に続いて、MTCsを(例えば、ステップ12に従って上述したように)ドナーサイトから採取し、溶液に入れることができる。次いで、いくつかまたは全てのMTCsが表皮-真皮配向で溶液内で垂直に整列するように、外部磁石を溶液上に配置することができる。すなわち、コーティングの磁気特性のために、いくつかのまたは全てのMTCsのコーティングされた表皮は、磁石によって生成された磁力線に従って整列し、それ自体を溶液の頂部に向ける。次いで、溶液を、組み立てられたMTCsの周囲で固化するように誘導して、配向MTCの構築物を作製する。
【0035】
上記のように、支持生体材料(コラーゲン溶液または生体適合性マトリックスなど)は、MTCを配向させるためにおよび/または構築物中のMTC配向を維持するために使用される。より具体的には、上述の支持材料を使用して、組み立てられた組織カラムの全体的な構造および配向を維持する構築物を作り出すことができる。結果として、これらの構築物はより容易に取り扱われる移植片を作り出し、そしていくつかの用途において、医師が必要に応じて薬物、他の成分、または他の細胞型を加えることを可能にし得る。
【0036】
したがって、上記の技術と一致して、MTCsを液体形態の支持材料に導入し、次いで(例えば、インキュベーションまたは他の適切な技術によって)材料を組織カラムの周りで固化するように誘導することができる。
【0037】
しかしながら、他の実施形態では、支持生体適合性材料を固体形態で使用し、層状またはロール状にMTCsと組み合わせることができる。例えば、支持材料は、MTCsの配向を保存するローリング技術と共に使用され得る。より具体的には、図6Aに示すように、支持材料84(マトリックスまたは他の種類の生体材料ストリップなど)は、配向されたMTCs86が間隔を空けて材料84上に配置されている状態で、巻き取ることができる。このローリング技術は、図6Bおよび図6Cに示されるように、ゼリーロール配置を有する構成体88をもたらすことができる。構成体88のサイズは、所望の創傷の直径および/または形状に従って(例えば、より少ないまたはより多くのローリングによって)より小さくまたはより大きくすることができる。いくつかの実施形態では、ローリング装置(図示せず)を使用して支持材料84を実質的に垂直方向に支持しながら、ローリング装置が支持材料84を巻き上げつつ、オペレータがMTCs86を互いに所定の距離で支持材料84上に置くことを許容する。あるいは、ピックアンドプレースガントリー(gantry)マシン(図示せず)を使用して、MTC86がその上に配置されるにつれて転がるマトリックス材料84の垂直に配置されたストリップに対してMTC86を自動的に配置することができる。
【0038】
上記の例は支持材料中にMTCsを有する構築物を作製するステップを含むが、いくつかの実施形態では、構築物は別の方法で一緒に(所望の配向で)形成されたMTCsを含む。このように、これらの構築物は、適切に配向されているがMTCs間に分散された外因性物質によって支持されていないMTCsを含むことができる。したがって、いくつかの実施形態では、固体構造物は、MTCsの上面と接触または連絡することによってMTCsを配置および配向させる材料または道具によって形成されてもよい。例えば、MTCsを配向させた後、接着性包帯剤を表皮表面に適用して、配向されたMTCsの全てを固体構造物として「ピックアップ」することができる。別の例では、上述のようにMTCsを磁性層で被覆することができ、次いで磁石を用いて配向したMTCsの全てを固体構造物としてピックアップすることができる。これらの用途では、配向したMTCsがピックアップされて構築物が形成されると、(ステップ16に関して以下でさらに説明するように)構築物をレシピエントサイトに直接適用することができる。
【0039】
いくつかの実施形態では、MTCsを配向するために、上記の例のうちの1つまたは複数を組み合わせるか、または完全にもしくは部分的に交換することができる。いくつかの用途では、技術を組み合わせることによって、適切に配向されたMTCsの量を増やすことができる。例えば、図7は、正しく整列したMTCsの割合を示すチャート90を提供し、疎水性コーティングと軌道運動92を使用して組み立てた場合、約80%~90%正しく整列し;疎水性コーティング単独94の場合、約55%~65%正しく整列し;酸化鉄と外部磁石96の場合、約35%正しく整列し;磁性塗料と外部磁石98の場合、約30%~40%正しく整列し;鉱物油の界面100の場合、約10%~15%正しく整列した。鉱物油の界面は、水性流体(例えば、通常の生理食塩水)と有機流体(例えば、鉱物油)との混合物を含んでいた。混合物が層(または相)に分離するにつれて、この界面はMTCsをそれに応じて配向させることができる。なぜならMTCsは、本来2つの疎水性部分(すなわち一方の端部の表皮およびもう一方の端部の皮下脂肪)の間に挟まれた大部分親水性の部分(すなわち真皮)からなるのが普通であるためである。
【0040】
図7に示すように、(図3の技術に従って)疎水性コーティングと軌道運動を用いたものが、図示した他の方法と比較して、正しく整列したMTCsの割合が著しく増加する。これらの結果をさらに示すために、図8Aは、疎水性コーティングおよび軌道運動で処理された、染色された表皮を有する、MTCs106を含む培養プレートの上面図102および底面図104を示す。図8Bは、 未処理のMTCs106を含む(すなわち、疎水性コーティングも軌道運動もしない)培養プレートの上面図108および底面図110を示し、図8Cは、軌道運動のみで処理されたMTCs106を含む培養プレートの上面図112および底面図114を示す。図8A~8Cに示されるように、疎水性コーティングおよび軌道運動で処理されたMTCs106のかなり多くが、(図8Aの上面図に複数の染色された表皮によって示されるように)図8Bおよび図8Cに示されるMTCs106と比較してそれらの表皮を上に向けて配向される。しかしながら、上述のように、ここに開示された技術は相互に排他的ではなく、正しく整列したMTCsのトータルパーセンテージをさらに増加させるためおよび/または所望の特性を達成するために1つ以上の技術を組み合わせまたは完全にまたは部分的に交換できる。例えば、ある用途では、磁性粒子を疎水性コーティングに適用して、大量の適切に配向したMTCs(すなわち、疎水性コーティング技術によって引き起こされる)ならびにMTCsの正確なパターンを作成する能力(すなわち、 磁気技術を使用して)が提供される。
【0041】
上記の技術は、MTCsをステップ12で採取した後に、自発的におよび/または外部因子を使用して配向させる。しかしながら、いくつかの実施形態では、MTCsの採取および配向が単一のステップで完了するようにステップ12および14を組み合わせてもよい。例えば、図9Aに示すように、採取および組み立て装置116は、コアリング針118アレイ、予備成形マトリックス120、およびメッシュ材料122を備えることができる。コアリング針118アレイは、ドナーサイトからMTCsを採取するようにサイズ決めおよび配置することができ、マトリックス120は、コアリング針118アレイ上に配置されてもよく、複数の孔121を含んでもよく、各孔はそれぞれのコアリング針118と位置合わせされ、コアリング針118の内径に略等しい直径を備える。メッシュ材料122は、例えば、マトリックス120を介して吸引することを可能にしながらマトリックス孔121を覆うカバーとして作用するように、マトリックス120を覆うように配置することができる。
【0042】
動作中、図9Aに示すように、コアリング針118がドナーサイト組織内に配置され、MTCs 126をコアリング針118を通してマトリックス120の中に引っ張るためにメッシュ材料122の上から真空124が適用される。図9Bに示すように、メッシュ材料122は、真空がメッシュ材料122を通過することを依然として可能にしながら、マトリックス120内にMTCs126を捕捉することができる。その結果、MTCs126はマトリックス120内に留まり、表皮-真皮配向に正しく整列される。次いで、図9Cに示すように、マトリックス120をコアリング針118アレイおよびメッシュ材料122から取り外すことができ、 その結果、組織構築物128が得られる。言い換えれば、マトリックス材料120は、組み立てられたMTCs126の全体構造および所望の配向を維持する支持生体材料として働く。
【0043】
したがって、マトリックス120は生体適合性であり得、その結果、マトリックス構造体128全体が(以下でさらに説明されるように、ステップ16に従って)創傷内に直接配置され得る。生体適合性マトリックスの例としては、脱細胞化組織(例えば、皮膚、腸、羊膜、またはすべての生細胞を除去するために処理された他の組織、したがって元の組織の残りは細胞外成分である)、天然の生体分子(コラーゲン、フィブリン、ヒアルロナンなど、単独でまたは組み合わせて使用)のさまざまな形態(ゲルまたは繊維に紡糸)、生分解性で特定の生体模倣特性を持つ合成材料(例えば、 細胞接着部分で官能化された生分解性ポリマー)、およびコラーゲン、ヒドロゲル、フィブリンゲル、またはカーボンスキャホルド(carbon scaffolds)を含むマトリックスが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、上記の例のいずれも、成長因子および/または酸素濃度増強材料(たとえばCaO 2)および/または他の物質を含むことができる。
【0044】
さらに、いくつかの実施形態では、図10A図10Cに示すように、採取および組み立て装置130は、上層134および下層136を含む2層マトリックス132を備えることができる。このような実施形態では、図10Aに示すように、MTCs126をドナーサイトから2層マトリックス132内に引き込むために吸引力を加えることができ、 その結果、図10Bに示すように、MTCs126が2層マトリックス132内に捕捉される。その後、針118アレイと、メッシュ材料122と、下層136などのマトリックス層のうちの1つと、を除去することができる。結果として、MTCs126は、各真皮の下端部が露出された状態で、それらの適切な表皮-真皮配向で上層134内に留まり、図10Cに示されるように構築物138を形成する。この種の構築物は、創傷に適用されると(以下にさらに記載されるように)、露出した真皮層が創傷床と直接接触することを可能にし、これは、創傷床からMTCへの血流の良好な再確立の可能性を増大させる(これは長期の組織生存にとって重要であり得る)。
【0045】
図2の方法を再び参照すると、MTCsが採取されかつ上記の技術のいずれかに従ってステップ12および14で配向されると、それらはステップ16でレシピエントサイト(創傷など)に適用される。より具体的には、ステップ12および14に続いて、創傷治癒のために1つまたは複数の三次元全層構築物48(または88、128、138)が利用可能となり、そして図11Aおよび図11Bに示すように、これらの構築物は、実質的に垂直の表皮-真皮配向のMTCs34(または86、106、126)を含む。これらの構築物は、それらが使用可能な幅、長さ、および高さを有するので三次元であり、それらが表皮および真皮層32、36を含むので全層である(図11Aおよび11Bに示されるように)。いくつかの実施形態では、図12Aに示すように、構築物48は円形であり得る。しかしながら、他の実施形態では、構築物は長方形、正方形、または他の適切な形状であり得る。
【0046】
ステップ16によれば、創傷を完全にまたは少なくとも部分的に覆うために、MTCs34を創傷内または創傷上に配置することができる。いくつかの実施形態において、図12Bに示されるように、単一の構築物48がレシピエントサイト142において創傷140を完全に覆ってもよい。他の実施形態では、創傷の幾何学的形状に合うように、それぞれ複数のMTCsを含む複数の構築物を並べて配置することができる。例えば、(例えば、上述のローリング技術によって形成される)単一のMTCロール構築物88は、創傷の幾何学的形状に適合することができる。あるいは、複数のMTCロール構築物88を、創傷の形状に合うように並べて配置することができる。したがって、本方法は、それぞれが複数のMTCで形成され、レシピエントサイトに並んで配置される1つまたは複数の固体構築物を提供することによって、大きなおよび/または非対称の創傷での使用に合わせて拡張可能であり得る。
【0047】
上記に照らして、本発明の方法は、所望の配向で複数のMTCsを固体の三次元組織構築物に組み立てることを可能にする。さらに、上述の方法を完全にまたは部分的に実行するために1つまたは複数のシステムを提供することができる。そのような構築物がレシピエントサイトに適用されると、全層MTCsが成長して、汗腺および採取された組織の他の複雑な特徴が完成する。したがって、これらのMTCsは、レシピエントサイト(創傷など)での組織治癒を補助および改善するために使用され得る。より具体的には、適切に配向されたMTCsは、治療されていない未治療創傷および無作為に配向されたMTCsで治療された治療創傷と比較して、再上皮化処理を促進し、正常な皮膚構造を再現する、および/または瘢痕化を軽減することによって治療を改善できる。
【0048】
特に、採取したMTCsを無作為に、すなわち皮膚の正常な表皮-真皮極性を維持することなく創傷床に適用することができるが、明確な表皮-真皮配向で組織化されたMTCsは、より効率的な細胞および組織増殖ならびに正常組織の微細解剖学的構造のより忠実な複製を提供することによって創傷治癒を促進するのに有利であり得る(例えば、毛嚢のような全層組織移植片における複雑な構造は、決まった極性を有し、そして一般に誤った配向で移植されることに対する耐性が低い)。したがって、無作為に配向されたMTCsは(例えば、より少ない収縮でより迅速に治癒することによって)未治療の創傷と比較して治癒を改善することが示されているが、上記のシステムおよび方法に従って組み立ておよび配向されたMTCsはさらに治癒時間、収縮反応、皮膚外観、および/または構造的な構成を改善し得る。
【0049】
例えば、 図13A図13Cは、それぞれ、0、2週間、および6週間の時点における未治療の皮膚創傷144の典型的な二次的意図的治癒過程を示す。図14A図14Cは、それぞれ0、2週間、および6週間の時点でランダムに配向されたMTCs147で治療された皮膚創傷146の治癒過程を示す。図13Cに示すように、6週間後、未治療の創傷144は、主に収縮によって、創傷144の一部148が依然として開いたままでゆっくり治癒した。一方、図14Cに示すように、6週間で、ランダムに配向されたMTCsで治療された創傷146は閉鎖されて完治し、未治療の創傷144より速くそしてより少ない収縮で治癒した。
【0050】
ランダム配向MTCsと比較して、表皮-真皮配向で配置されたMTC構築物は、より少ない収縮反応でより速い治癒時間を提供することができ、そして正常組織着色および構造によりよくマッチする(例えば、それはレシピエントサイトを囲む組織の外観および構造によりよく一致する)治癒創傷をもたらす。例えば、 図15A図15Fは、上述の方法に従って(例えば、適切に配向されたMTCs152の固体構築物を使用して)適切に配向されたMTCs152を使用して治療された、それぞれ0、1週間、3週間、4週間、6週間および8週間の時点における皮膚創傷150の治癒過程を示す。一般に、適切に配向されたMTCsを用いて再構築された創傷は、(例えば、図15D図15Fに示されるように)より楕円形または円形に見える傾向がある。適切に配向されたMTC創傷のより丸い外観は、それほど厳しくない収縮反応を示し得る。
【0051】
別の例として、未治療の、ランダムMTC治療された、および配向MTC治療された皮膚創傷のコラーゲン染色を比較する研究は、本開示のシステムおよび方法に従って、配向MTC治療創傷が正常組織によりよくマッチするように治癒することを示す。例えば、未治療(すなわち、二次的意図的治癒創傷)およびランダムMTC治療創傷のコラーゲン染色の比較は、両方のタイプの創傷の治癒領域が周囲の正常組織とは明らかに異なる色であることを示している。さらに、ランダムMTC治療創傷は、二次的意図的に閉鎖された創傷と比較して、より起伏のある表皮真皮(DE)接合部を有し、正常な皮膚により類似し、二次的意図的に閉鎖された創傷はDE接合部の消失を示した(瘢痕との一致)。そのような比較は、二次的意図的治癒により、創傷のコラーゲン構造が破壊され、そしてコラーゲン繊維が細くそしてでたらめに組織化されていることを示した。ランダムに配向したMTCsでは、いくらかのコラーゲン構造が見られたが、周囲の組織と比較して異常であった。
【0052】
しかしながら、適切に配向されたMTCsで治療された創傷では、DE接合部は正常な皮膚のそれと非常に似ており、ランダムなMTCsまたは二次的意図的治療創傷と比較して真皮染色色(例えばHeroviciの染色によって与えられる)ははるかに正常な皮膚に近い。さらに、適切に配向されたMTCsで治療された創傷では、コラーゲン線維は太く、正常なコラーゲン線維の染色によく一致し、ランダムMTCまたは二次的意図的創傷と比較して正常な皮膚にはるかに近い方法で組織化される。
【0053】
上記に照らして、全層皮膚組織の小さなカラムを採取することができ、各ドナー創傷は、最小限の瘢痕化を伴うことなく再生によって迅速に治癒するのに十分小さい。そのようなカラムは創傷治癒を促進するために創傷床にランダムに適用することができるが、明確な表皮-真皮配向で組織化された組織カラムを使用することは、より効率的な細胞および組織成長および正常組織微小解剖のより忠実な複製を提供することによって有利であり得る。さらに、MTCsを移植し組み立てるための上記の方法およびシステムは、シンプルかつ無毒であり、生体適合性支持材料を使用してレシピエントサイトの所望のサイズおよび幾何学形状に適切にフィットし得る拡張性ビルディングブロックとして使用され得る固体構築物を形成する。
【0054】
上記の方法およびシステムは、火傷、擦過傷、および外科的創傷などの、これらに限定されない、様々な創傷治癒用途、または白斑など、これらに限定されない他の移植用途に使用することができる。さらに、上記の方法およびシステムは皮膚移植片に関して記載されているが、本明細書に記載される原理は他の組織型にも同様に適用され得る。例えば、上記の方法およびシステムは、肝臓、腎臓、または心臓の組織などの、これらに限定されないが、他の種類の組織と共に使用して、所望の向きに配置された微小組織カラムを提供することができる。
【0055】
本発明を1つまたは複数の好ましい実施形態に関して説明してきたが、明示的に述べたもの以外にも、本発明の範囲内で多くの均等物、代替物、変形物、および変形物が可能である。さらに、本明細書で使用される「約」という用語は、規定値に対して±20%、より好ましくは±10%、さらにより好ましくは±5%、最も好ましくは±2%の範囲を意味する。あるいは、当技術分野で知られているように、「約」という用語は、所与の測定ツールを用いたそのような値の測定プロセス中に利用可能な測定値の最小増分の半分に等しい、指定値からの偏差を示す。
図1
図2
図3
図4A-F】
図5
図6A-C】
図7
図8A
図8B
図8C
図9A-C】
図10A-C】
図11A-B】
図12A-B】
図13A-C】
図14A-C】
図15A-F】