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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160603
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】Fc領域改変体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20221012BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20221012BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20221012BHJP
   A61P 37/06 20060101ALN20221012BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20221012BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20221012BHJP
   A61P 9/10 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/00
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/12
A61K39/395 A
A61K39/395 M
A61P43/00 105
A61P37/06
A61P29/00
A61P35/00
A61P9/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126234
(22)【出願日】2022-08-08
(62)【分割の表示】P 2019181333の分割
【原出願日】2014-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2013077239
(32)【優先日】2013-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】味元 風太
(72)【発明者】
【氏名】堅田 仁
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(57)【要約】
【課題】天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγR、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性を減少する、抗体Fc領域改変体を含むポリペプチドを提供する。
【解決手段】EUナンバリング238番目のアミノ酸改変と、他の特定のアミノ酸改変が組み合わされているアミノ酸配列を含む抗体Fc領域改変体を含むポリペプチドを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体のFc領域にアミノ酸改変を導入することで、天然型ヒトIgGのFc領域を含むポリペプチドと比較した場合に、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、かつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減させることが可能なFc領域改変体、該Fc領域改変体を含むポリペプチド及び該ポリペプチドを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は血漿中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている(非特許文献1、および非特許文献2)。一方、第二世代の抗体医薬に適用可能な技術として様々な技術が開発されており、エフェクター機能、抗原結合能、薬物動態、安定性を向上させる、あるいは、免疫原性リスクを低減させる技術等が報告されている(非特許文献3)。抗体医薬は一般に投与量が非常に高いため、皮下投与製剤の作製が困難であること、製造コストが高いこと等が課題として考えられる。抗体医薬の投与量を低減させる方法として、抗体の薬物動態を向上する方法と、抗体と抗原のアフィニティーを向上する方法が考えられる。
【0003】
抗体の薬物動態を向上させる方法として、定常領域の人工的なアミノ酸置換が報告されている(非特許文献4、および非特許文献5)。抗原結合能、抗原中和能を増強させる技術として、アフィニティーマチュレーション技術(非特許文献6)が報告されており、可変領域のCDR領域などのアミノ酸に変異を導入することで抗原への結合活性を増強することが可能である。抗原結合能の増強によりin vitroの生物活性を向上させる、あるいは投与量を低減することが可能であり、さらにin vivo(生体内)での薬効を向上させることも可能である(非特許文献7)。
【0004】
一方、抗体一分子あたりが中和できる抗原量はアフィニティーに依存し、アフィニティーを強くすることで少ない抗体量で抗原を中和することが可能であり、様々な方法で抗体のアフィニティーを強くすることが可能である(非特許文献6)。さらに抗原に共有結合的に結合し、アフィニティーを無限大にすることができれば一分子の抗体で一分子の抗原(二価の場合は二抗原)を中和することが可能である。しかしながら、これまでの方法では一分子の抗体は、一分子の抗原(二価の場合は二抗原)に結合することが限界であった。一方、最近になって抗原に対してpH依存的に結合する抗原結合分子を用いることで、一分子の抗原結合分子が複数分子の抗原に結合することが可能であることが報告された(特許文献1、非特許文献8)。pH依存的抗原結合分子は、抗原に対して血漿中の中性条件下においては強く結合し、エンドソーム内の酸性条件下において抗原を解離する。さらに抗原を解離した後に当該抗原結合分子がFcRnによって血漿中にリサイクルされると再び抗原に結合することが可能であるため、一つのpH依存的抗原結合分子で複数の抗原に繰り返し結合することが可能となる。
【0005】
さらに、中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合を増強するように改変されたpH依存的抗原結合分子は、抗原に繰り返し結合できる効果、および、血漿中から抗原を消失させる効果を有しているため、こうした抗原結合分子の投与によって血漿中から抗原を除去することが可能であることが報告された(特許文献2)。通常のIgG抗体のFc領域を含むpH依存的抗原結合分子は、中性条件下においてFcRnに対してほとんど結合が認められない。そのため、当該抗原結合分子と抗原の複合体が細胞内に取り込まれるのは、主に非特異的な取込みによると考えられる。この報告によれば、中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合を増強するように改変されたpH依存的抗原結合分子は、通常のIgG抗体のFc領域を含むpH依存的抗原結合分子よりも、その抗原消失をさらに加速することが可能である(特許文献2)。
【0006】
抗原の血漿中滞留性は、FcRnを介したリサイクル機構を有する抗体と比較して非常に短いため、抗原は血漿中で当該リサイクル機構を有する(その結合がpH依存的でない)抗体と結合することによって、通常血漿中滞留性が長くなり、血漿中抗原濃度は上昇する。例えば、血漿中抗原が複数種類の生理機能を有する場合、仮に抗体の結合によって一種類の生理活性が遮断されたとしても、当該抗原の血漿中濃度が抗体の結合によって他の生理機能が病因となる症状を増悪することも考えられる。このような観点から血漿中の抗原を消失させることが好ましい場合があるところ、抗原の消失を加速する目的で上記のようなFcRnへの結合を増強するFc領域に対する改変を加える方法が報告されているが、それ以外の方法で抗原の消失を加速する方法はこれまでに報告されていない。
【0007】
加えて、いくつかの抗体医薬においてはIgGとFcγRとの相互作用に由来する副作用が報告されている。例えば、VEGFに対する抗体であるbevacizumabが投与された患者群では血栓塞栓症の頻度が上昇することが知られている(非特許文献9)。また、CD40リガンドに対する抗体の臨床開発試験においても同様に血栓塞栓症が観察され、臨床試験が中止された(非特許文献10)。血小板の細胞上には活性型FcγレセプターであるFcγRIIaが発現している(非特許文献11)が、動物モデルなどを使ったその後の研究により、投与されたいずれの抗体も血小板上のFcγRIIaに対する結合を介して血小板が凝集し、その結果血栓を形成することが示唆されている(非特許文献12、 非特許文献13)。自己免疫疾患の一つである全身性エリテマトーデスの患者においてはFcγRIIa依存的な機構によって血小板が活性化し、血小板の活性化が重症度と相関すると報告されている(非特許文献14)。
また、これまでに動物モデルを用いた研究により、抗体と多価抗原の免疫複合体が活性型FcγRを介してアナフィラキシーを誘導することも報告されている(非特許文献15)。
加えて、活性型のFcγRを介して多価抗原と抗体の免疫複合体が取り込まれることにより、その抗原に対する抗体価の産生が高くなることが報告されている(非特許文献16、非特許文献17)。この結果は多価抗原を認識する抗体医薬品の場合、抗体医薬品自身に対する抗体が産生しやすくなる可能性を示唆している。抗体医薬品に対する抗体が産生された場合、その血中動態が悪化する、あるいは中和抗体が医薬品の効果を減弱させることが考えられる。
このように、抗体が多価抗原と結合することで免疫複合体を形成し、その複合体が活性型FcγRと相互作用することで様々な副作用を誘導することが考えられ、抗体の医薬品としての価値を減じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第WO2009/125825号
【特許文献2】国際公開第WO2011/122011号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Monoclonal antibody successes in the clinic, Janice M Reichert, Clark J Rosensweig, Laura B Faden & Matthew C Dewitz, Nat. Biotechnol. (2005) 23, 1073 - 1078
【非特許文献2】Pavlou AK, Belsey MJ., The therapeutic antibodies market to 2008., Eur. J. Pharm. Biopharm. (2005) 59 (3), 389-396
【非特許文献3】Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies., Mol. Cells. (2005) 20 (1), 17-29
【非特許文献4】Hinton PR, Xiong JM, Johlfs MG, Tang MT, Keller S, Tsurushita N, J. Immunol. (2006) 176 (1), 346-356
【非特許文献5】Ghetie V, Popov S, Borvak J, Radu C, Matesoi D, Medesan C, Ober RJ, Ward ES., Nat. Biotechnol. (1997) 15 (7), 637-640
【非特許文献6】Rajpal A, Beyaz N, Haber L, Cappuccilli G, Yee H, Bhatt RR, Takeuchi T, Lerner RA, Crea R., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (2005) 102 (24), 8466-8471
【非特許文献7】Wu H, Pfarr DS, Johnson S, Brewah YA, Woods RM, Patel NK, White WI, Young JF, Kiener PA., J. Mol. Biol. (2007) 368, 652-665
【非特許文献8】Igawa T, et al., Nat. Biotechnol. (2010) 28, 1203-1207
【非特許文献9】Scappaticci FA, Skillings JR, Holden SN, Gerber HP, Miller K, Kabbinavar F, Bergsland E, Ngai J, Holmgren E, Wang J, Hurwitz H., Arterial thromboembolic events in patients with metastatic carcinoma treated with chemotherapy and bevacizumab., J. Natl. Cancer Inst. (2007) 99 (16), 1232-1239
【非特許文献10】Boumpas DT, Furie R, Manzi S, Illei GG, Wallace DJ, Balow JE, Vaishnaw A, A short course of BG9588 (anti-CD40 ligand antibody) improves serologic activity and decreases hematuria in patients with proliferative lupus glomerulonephritis., Arthritis. Rheum. (2003) 48 (3), 719-727.
【非特許文献11】Mackay M, Stanevsky A, Wang T, Aranow C, Li M, Koenig S, Ravetch JV, Diamond B., Selective dysregulation of the FcgammaIIB receptor on memory B cells in SLE., J. Exp. Med. (2006) 203 (9), 2157-2164
【非特許文献12】Meyer T, Robles-Carrillo L, Robson T, Langer F, Desai H, Davila M, Amaya M, Francis JL, Amirkhosravi A., Bevacizumab immune complexes activate platelets and induce thrombosis in FCGR2A transgenic mice., J. Thromb. Haemost. (2009) 7 (1), 171-181
【非特許文献13】Robles-Carrillo L, Meyer T, Hatfield M, Desai H, Davila M, Langer F, Amaya M, Garber E, Francis JL, Hsu YM, Amirkhosravi A., Anti-CD40L immune complexes potently activate platelets in vitro and cause thrombosis in FCGR2A transgenic mice., J. Immunol. (2010) 185 (3), 1577-1583
【非特許文献14】Duffau P, Seneschal J, Nicco C, Richez C, Lazaro E, Douchet I, Bordes C, Viallard JF, Goulvestre C, Pellegrin JL, Weil B, Moreau JF, Batteux F, Blanco P., Platelet CD154 potentiates interferon-alpha secretion by plasmacytoid dendritic cells in systemic lupus erythematosus., Sci. Transl. Med. (2010) 2 (47), 47-63
【非特許文献15】Bruhns P., Properties of mouse and human IgG receptors and their contribution to disease models. Blood. (2012) 119, 5640-9.
【非特許文献16】Hjelm F, Carlsson F, Getahun A, Heyman B., Antibody-mediated regulation of the immune response. Scand J Immunol. (2006) 64(3), 177-84.
【非特許文献17】Wernersson S, Karlsson MC, Dahlstrom J, Mattsson R, Verbeek JS, Heyman B., IgG-mediated enhancement of antibody responses is low in Fc receptor gamma chain-deficient mice and increased in Fc gamma RII-deficient mice. J Immunol. (1999) 163, 618-22.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、抗体のFc領域にアミノ酸改変を導入することで、抗原の消失を加速させる一方で、活性型FcγRに対する結合に由来する欠点を克服した分子を提供することにある。すなわち、天然型IgG抗体のFc領域を含むポリペプチドと比較した場合に、FcγRIIbに対する結合活性は維持されているが、すべての活性型FcγRに対する結合活性、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減させることが可能なFc領域改変体、該Fc領域改変体を含むポリペプチド及び該ポリペプチドを含有する医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、Fc領域にアミノ酸改変を導入することで、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較した場合に、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγR、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減させることが可能なFc領域改変体、当該Fc領域改変体を含むポリペプチドについて鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸が改変されているFc領域改変体に、他のアミノ酸改変を組み合わせることで、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減させることが可能となることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、以下に関する。
〔1〕Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、並びに、下記の(a)~(k)のいずれかに記載のアミノ酸改変を含むFc領域改変体であって、天然型IgGのFc領域と比較した場合に、該改変体のFcγRIIbに対する結合活性が維持され、かつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少している、改変体。
(a)Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸
(b)Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸
(c) Fc領域のEUナンバリング241番目のアミノ酸
(d) Fc領域のEUナンバリング268番目のアミノ酸
(e) Fc領域のEUナンバリング295番目のアミノ酸
(f) Fc領域のEUナンバリング296番目のアミノ酸
(g) Fc領域のEUナンバリング298番目のアミノ酸
(h) Fc領域のEUナンバリング323番目のアミノ酸
(i) Fc領域のEUナンバリング324番目のアミノ酸
(j) Fc領域のEUナンバリング330番目のアミノ酸
(k) (a)~(j)から選ばれる少なくとも2つのアミノ酸
〔2〕前記〔1〕の(k)で選ばれる少なくとも2つのアミノ酸が、下記(1)~(3)のいずれかに記載のアミノ酸の組合せである、前記〔1〕に記載の改変体。
(1)Fc領域のEUナンバリング241番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸及び324番目のアミノ酸
(2) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸、241番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸及び330番目のアミノ酸
(3) Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、241番目のアミノ酸及び296番目のアミノ酸
〔3〕Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸がAspであり、かつ、下記の(a)~(k)のいずれかに記載のアミノ酸を有するFc領域改変体であって、天然型IgGのFc領域と比較した場合に、該改変体のFcγRIIbに対する結合活性が維持され、かつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少している、改変体。
(a)Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸がPhe
(b) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸がGln又はAsp
(c) Fc領域のEUナンバリング241番目のアミノ酸がMet又はLeu
(d) Fc領域のEUナンバリング268番目のアミノ酸がPro
(e) Fc領域のEUナンバリング295番目のアミノ酸がMet又はVal、
(f) Fc領域のEUナンバリング296番目のアミノ酸がGlu、His、Asn又はAsp、
(g) Fc領域のEUナンバリング298番目のアミノ酸がAla又はMet、
(h) Fc領域のEUナンバリング323番目のアミノ酸がIle、
(i) Fc領域のEUナンバリング324番目のアミノ酸がAsn又はHis
(j) Fc領域のEUナンバリング330番目のアミノ酸がHis又はTyr
(k) (a)~(j)から選ばれる少なくとも2つのアミノ酸
〔4〕Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸がAspであり、かつ、下記(1)~(3)のいずれかに記載のアミノ酸を有するFc領域改変体。
(1)Fc領域のEUナンバリング241番目のアミノ酸がMet、268番目のアミノ酸がPro、296番目のアミノ酸がGlu及び324番目のアミノ酸がHis
(2) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸がGln又はAsp、241番目のアミノ酸がMet、296番目のアミノ酸がGlu及び330番目のアミノ酸がHis
(3) Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸がPhe、237番目のアミノ酸がGln又はAsp、241番目のアミノ酸がMet及び296番目のアミノ酸がGlu
〔5〕Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸及び271番目のアミノ酸、並びに、下記の(a)~(h)のいずれかに記載のアミノ酸改変を含むFc領域改変体であって、天然型IgGのFc領域と比較した場合に、該改変体のFcγRIIbに対する結合活性が維持され、かつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少している、改変体。
(a)Fc領域のEUナンバリング234番目のアミノ酸
(b)Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸
(c)Fc領域のEUナンバリング236番目のアミノ酸
(d)Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸
(e)Fc領域のEUナンバリング239番目のアミノ酸
(f) Fc領域のEUナンバリング265番目のアミノ酸
(g) Fc領域のEUナンバリング267番目のアミノ酸
(h) Fc領域のEUナンバリング297番目のアミノ酸
〔6〕前記アミノ酸改変が、下記の(1)~(3)のいずれかに記載のアミノ酸改変の組合せである、前記〔5〕に記載の改変体。
(1) Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸及び271番目のアミノ酸
(2)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸、297番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び396番目のアミノ酸
(3) Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸及び296番目のアミノ酸
〔7〕Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp及び271番目のアミノ酸がGlyであり、かつ、下記の(a)~(h)のいずれかに記載のアミノ酸を有するFc領域改変体であって、天然型IgGのFc領域と比較した場合に、該改変体のFcγRIIbに対する結合活性が維持され、かつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少している、改変体。
(a)Fc領域のEUナンバリング234番目のアミノ酸がAla、His、Asn、Lys又はArg
(b)Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸がAla
(c)Fc領域のEUナンバリング236番目のアミノ酸がGln
(d)Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸がArg又はLys
(e)Fc領域のEUナンバリング239番目のアミノ酸がLys
(f) Fc領域のEUナンバリング265番目のアミノ酸がLys、Asn、Arg、Ser又はVal
(g) Fc領域のEUナンバリング267番目のアミノ酸がLys、Arg又はTyr
(h) Fc領域のEUナンバリング297番目のアミノ酸がAla
〔8〕Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp及び271番目のアミノ酸がGlyであり、かつ、下記の(1)~(3)のいずれかに記載のアミノ酸を含む、Fc領域改変体。
(1) Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸がAsp、238番目のアミノ酸がAsp、264番目のアミノ酸がIle、267番目のアミノ酸がArg、268番目のアミノ酸がGlu及び271番目のアミノ酸がGly
(2)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸がAsp、237番目のアミノ酸がAsp、238番目のアミノ酸がAsp、264番目のアミノ酸がIle、267番目のアミノ酸がAla、268番目のアミノ酸がGlu、271番目のアミノ酸がGly、296番目のアミノ酸がAsp、297番目のアミノ酸がAla、330番目のアミノ酸がArg及び396番目のアミノ酸がMet
(3) Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸がAsp、238番目のアミノ酸がAsp、264番目のアミノ酸がIle、267番目のアミノ酸がArg、268番目のアミノ酸がPro、271番目のアミノ酸がGly及び296番目のアミノ酸がGlu
〔9〕更に、補体への結合が減少している、前記〔1〕から〔8〕のいずれかに記載のFc領域改変体。
〔10〕補体への結合が減少しているFc領域改変体が、Fc領域のEUナンバリング322番目のアミノ酸改変、又は、Fc領域のEUナンバリング327番目、330番目及び331番目のアミノ酸改変を含む、前記〔9〕に記載のFc領域改変体。
〔11〕Fc領域のEUナンバリング322番目のアミノ酸がAla又はGlu、若しくは、Fc領域のEUナンバリング327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer及び331番目のアミノ酸がSerである、前記〔9〕に記載のFc領域改変体。
〔12〕Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸のアミノ酸改変を含むFc領域改変体であって、天然型IgGのFc領域と比較した場合に、該改変体のFcγRIIbに対する結合活性が維持され、かつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少している、改変体。
〔13〕更に、下記の(a)~(e)のいずれかに記載のアミノ酸改変を含む、前記〔12〕に記載の改変体。
(a)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸
(b)Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸
(c)Fc領域のEUナンバリング264番目のアミノ酸
(d)Fc領域のEUナンバリング267番目のアミノ酸
(e)Fc領域のEUナンバリング268番目のアミノ酸
〔14〕前記アミノ酸改変が、下記の(1)~(4)のいずれかに記載のアミノ酸改変の組合せである、前記〔13〕に記載の改変体。
(1) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
(2)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
(3) Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
(4) Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
〔15〕Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer及び331番目のアミノ酸がSerであるFc領域改変体であって、天然型IgGのFc領域と比較した場合に、該改変体のFcγRIIbに対する結合活性が維持され、かつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少している、改変体。
〔16〕更に、下記の(a)~(h)のいずれかに記載のアミノ酸を有する前記〔15〕に記載の改変体。
(a)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸がAsp
(b)Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸がAsp
(c)Fc領域のEUナンバリング264番目のアミノ酸がIle
(d)Fc領域のEUナンバリング267番目のアミノ酸がAla
(e)Fc領域のEUナンバリング268番目のアミノ酸がAsp又はGlu
〔17〕Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp及び271番目のアミノ酸がGlyであり、かつ、下記の(1)~(4)のいずれかに記載のアミノ酸を含む、Fc領域改変体。
(1) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸がAsp、238番目のアミノ酸がAsp、268番目のアミノ酸がAsp又はGlu、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer及び331番目のアミノ酸がSer
(2)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸がAsp、237番目のアミノ酸がAsp、238番目のアミノ酸がAsp、268番目のアミノ酸がAsp、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer及び331番目のアミノ酸がSer
(3) Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp、267番目のアミノ酸がAla、268番目のアミノ酸がGlu、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer及び331番目のアミノ酸がSer
(4) Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp、264番目のアミノ酸がIle、267番目のアミノ酸がAla、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer及び331番目のアミノ酸がSer
〔18〕FcγRIIbに対する結合活性が、天然型IgGのFc領域の結合量の少なくとも80%を有し、FcγRIIaRに対する結合活性が、天然型IgGのFc領域の結合量の30%以下である、前記〔1〕から〔17〕のいずれかに記載のFc領域改変体。
〔19〕天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドのFcγRIIb に対する結合活性と比較した相対的な結合活性の比が少なくとも0.75であり、すべての活性型FcγRに対する結合活性の比が0.2以下である、前記〔1〕から〔18〕のいずれかに記載のFc領域改変体。
〔20〕更に、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドのFcγRIIa R に対する結合活性と比較した相対的な結合活性の比が0.1以下である、前記〔19〕に記載のFc領域改変体。
〔21〕前記〔1〕から〔20〕のいずれかに記載のFc領域改変体を含むポリペプチド。
〔22〕前記Fc領域改変体を含むポリペプチドがIgG抗体である、前記〔21〕に記載のポリペプチド。
〔23〕前記Fc領域改変体を含むポリペプチドがFc融合タンパク質分子である、前記〔21〕に記載のポリペプチド。
〔24〕前記〔21〕から〔23〕のいずれかに記載のポリペプチド及び医学的に許容し得る担体を含む、医薬組成物。
〔25〕更に、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む、前記〔21〕に記載のポリペプチド。
〔26〕イオン濃度の条件が、カルシウムイオン濃度の条件である、前記〔25〕に記載のポリペプチド。
〔27〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも低い抗原結合ドメインである、前記〔26〕に記載のポリペプチド。
〔28〕イオン濃度の条件が、pHの条件である、前記〔25〕から〔27〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔29〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低い抗原結合ドメインである、前記〔28〕に記載のポリペプチド。
〔30〕前記Fc領域改変体を含むポリペプチドがIgG抗体である、前記〔25〕から〔29〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔31〕前記Fc領域改変体を含むポリペプチドがFc融合タンパク質分子である、前記〔25〕から〔29〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔32〕前記〔25〕から〔31〕のいずれかに記載のポリペプチド及び医学的に許容し得る担体を含む、医薬組成物。
〔33〕医薬用組成物が、前記〔25〕から〔31〕のいずれかに記載のポリペプチドの抗原結合ドメインと結合する血漿中の抗原であって、当該抗原の血漿中からの消失を促進するための、前記〔32〕に記載の医薬組成物。
〔34〕前記〔25〕から〔31〕のいずれかに記載のポリペプチドの抗原結合ドメインと結合する血漿中の抗原であって、当該抗原の血漿中からの消失を促進するための該ポリペプチドの使用。
〔35〕Fc領域を含むポリペプチドにおいて、Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、並びに、Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、241番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、295番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸、298番目のアミノ酸、323番目のアミノ酸、324番目のアミノ酸及び330番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に改変することによる、該ポリペプチドのFcγRIIbに対する結合活性が維持されつつ、すべての活性型FcγRに対する結合を低減する方法。
〔36〕Fc領域のアミノ酸の改変が、EUナンバリング238番目のアミノ酸のAspへの置換、235番目のアミノ酸のPheへの置換、 237番目のアミノ酸のGlnへの置換、241番目のアミノ酸のMet又はLeuへの置換、268番目のアミノ酸のProへの置換、295番目のアミノ酸のMet又はValへの置換、296番目のアミノ酸のGlu、His、Asn又はAspへの置換、298番目のアミノ酸のAla又はMetへの置換、323番目のアミノ酸のIleへの置換、324番目のアミノ酸のAsn又はHisへの置換、330番目のアミノ酸のHis又はTyrへの置換である、前記〔35〕に記載の方法。
〔37〕Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、並びに、Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、241番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、295番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸、298番目のアミノ酸、323番目のアミノ酸、324番目のアミノ酸及び330番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に改変することによる、改変前と比較してFcγRIIbに対する結合活性が維持されつつ、すべての活性型FcγRに対する結合が低減しているFc領域改変体を含むポリペプチドの製造方法。
〔38〕Fc領域のアミノ酸の改変が、EUナンバリング238番目のアミノ酸のAspへの置換、235番目のアミノ酸のPheへの置換、 237番目のアミノ酸のGlnへの置換、241番目のアミノ酸のMet又はLeuへの置換、268番目のアミノ酸のProへの置換、295番目のアミノ酸のMet又はValへの置換、296番目のアミノ酸のGlu、His、Asn又はAspへの置換、298番目のアミノ酸のAla又はMetへの置換、323番目のアミノ酸のIleへの置換、324番目のアミノ酸のAsn又はHisへの置換、330番目のアミノ酸のHis又はTyrへの置換である、前記〔37〕に記載の方法。
〔39〕Fc領域を含むポリペプチドにおいて、FcγRIIbに対する結合活性が天然型IgGのFc領域と比較して2倍以上となるアミノ酸改変と、全てのFcγRに対する結合活性を低減させるアミノ酸改変とを組み合わせて導入することによる、天然型IgGと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を同程度に維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性を低減する方法。
〔40〕FcγRIIbに対する結合活性が天然型IgGのFc領域と比較して2倍以上となるアミノ酸改変が表11に記載のアミノ酸改変である、前記〔39〕に記載の方法。
〔41〕全てのFcγRに対する結合活性を低減させるアミノ酸改変が、Fc領域のEUナンバリング234番目のアミノ酸、235番目のアミノ酸、236番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、239番目のアミノ酸、265番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸及び297番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸の他のアミノ酸への改変である、前記〔39〕または〔40〕に記載の方法。
〔42〕Fc領域のアミノ酸の改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のAla、His、Asn、Lys又はArgへの置換、235番目のアミノ酸のAlaへの置換、236番目のアミノ酸のGlnへの置換、237番目のアミノ酸のArg又はLysへの置換、239番目のアミノ酸のLysへの置換、265番目のアミノ酸のLys、Asn、Arg、Ser又はValへの置換、267番目のアミノ酸のLys、Arg又はTyrへの置換、297番目のアミノ酸のAlaへの置換である、前記〔39〕から〔41〕のいずれかに記載の方法。
〔43〕FcγRIIbに対する結合活性が、天然型IgGのFc領域の結合量の少なくとも80%を維持し、FcγRIIaRに対する結合活性が、天然型IgGのFc領域の結合量の30%以下に低減する、前記〔35〕、〔36〕、および〔39〕から〔42〕のいずれかに記載の方法。
〔44〕天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドのFcγRIIbに対する結合活性と比較した相対的な結合活性の比が少なくとも0.75を維持し、すべての活性型FcγRに対する結合活性の比が0.2以下に低減する、前記〔35〕、〔36〕、および〔39〕から〔43〕のいずれかに記載の方法。
〔45〕更に、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドのFcγRIIa Rに対する結合活性と比較した相対的な結合活性の比が0.05以下に低減する、前記〔44〕に記載の方法。
〔46〕FcγRIIbに対する結合活性が天然型IgGのFc領域と比較して2倍以上となるアミノ酸改変と、全てのFcγRに対する結合活性を低減させるアミノ酸改変とを組み合わせて導入することによる、天然型IgG と比較して、FcγRIIbに対する結合活性を同程度に維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が低減しているFc領域改変体を含むポリペプチドの製造方法。
〔47〕FcγRIIbに対する結合活性が天然型IgGのFc領域と比較して2倍以上となるアミノ酸改変が表11に記載のアミノ酸改変である、前記〔46〕に記載の方法。
〔48〕全てのFcγRに対する結合活性を低減させるアミノ酸改変が、Fc領域のEUナンバリング234番目のアミノ酸、235番目のアミノ酸、236番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、239番目のアミノ酸、265番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸及び297番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸の他のアミノ酸への改変である、前記〔46〕または〔47〕に記載の方法。
〔49〕Fc領域のアミノ酸の改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のAla、His、Asn、Lys又はArgへの置換、235番目のアミノ酸のAlaへの置換、236番目のアミノ酸のGlnへの置換、237番目のアミノ酸のArg又はLysへの置換、239番目のアミノ酸のLysへの置換、265番目のアミノ酸のLys、Asn、Arg、Ser又はValへの置換、267番目のアミノ酸のLys、Arg又はTyrへの置換、297番目のアミノ酸のAlaへの置換である、前記〔46〕から〔48〕のいずれかに記載の方法。
〔50〕FcγRIIbに対する結合活性が、天然型IgGのFc領域の結合量の少なくとも80%を維持し、すべての活性型FcγRに対する結合活性が、天然型IgGのFc領域の結合量の30%以下に低減する、前記〔37〕、〔38〕、および〔46〕から〔49〕のいずれかに記載の方法。
〔51〕天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドのFcγRIIb に対する結合活性と比較した相対的な結合活性の比が少なくとも0.75を維持し、すべての活性型FcγRに対する結合活性の比が0.2以下に低減する、前記〔37〕、〔38〕、および〔46〕から〔50〕のいずれかに記載の方法。
〔52〕更に、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドのFcγRIIa R に対する結合活性と比較した相対的な結合活性の比が0.1以下に低減する、前記〔51〕に記載の方法。
〔53〕更に、補体への結合を減少させる改変を組み合わせて導入する、前記〔37〕、〔38〕、および〔46〕から〔52〕のいずれかに記載の方法。
〔54〕補体への結合を減少させる改変が、Fc領域のEUナンバリング322番目のアミノ酸改変、又は、Fc領域のEUナンバリング327番目、330番目及び331番目のアミノ酸改変である、前記〔53〕に記載の方法。
〔55〕補体への結合を減少させる改変が、Fc領域のEUナンバリング322番目のアミノ酸のAla又はGluへの置換、若しくは、Fc領域のEUナンバリング327番目のアミノ酸のGlyへの置換、330番目のアミノ酸のSerへの置換及び331番目のアミノ酸のSerへの置換である、前記〔53〕に記載の方法。
〔56〕Fc領域を含むポリペプチドにおいて、Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸、若しくは、更に、Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、及び268番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に改変することによる、該ポリペプチドのFcγRIIbに対する結合活性が維持されつつ、すべての活性型FcγRに対する結合を低減する方法。
〔57〕Fc領域のアミノ酸の改変が、Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸のAspへの置換、271番目のアミノ酸のGlyへの置換、327番目のアミノ酸のGlyへの置換、330番目のアミノ酸のSerへの置換、331番目のアミノ酸のSer置換、233番目のアミノ酸のAspへの置換、237番目のアミノ酸のAspへの置換、264番目のアミノ酸のIleへの置換、267番目のアミノ酸のAlaへの置換、268番目のアミノ酸のAsp又はGluへの置換である、前記〔56〕に記載の方法。
〔58〕Fc領域を含むポリペプチドにおいて、Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸、若しくは、更に、Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、及び268番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に改変することによる、改変前と比較してFcγRIIbに対する結合活性が維持され、すべての活性型FcγRに対する結合が低減しつつ、かつ、補体への結合が低減しているFc領域改変体を含むポリペプチドの製造方法。
〔59〕Fc領域のアミノ酸の改変が、Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸のAspへの置換、271番目のアミノ酸のGlyへの置換、327番目のアミノ酸のGlyへの置換、330番目のアミノ酸のSerへの置換、331番目のアミノ酸のSer置換、233番目のアミノ酸のAspへの置換、237番目のアミノ酸のAspへの置換、264番目のアミノ酸のIleへの置換、267番目のアミノ酸のAlaへの置換、268番目のアミノ酸のAsp又はGluへの置換である、前記〔58〕に記載の方法。
【0013】
また本発明は、本発明のFc領域のアミノ酸改変を導入することによる、該Fc領域のFcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、かつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減させる方法に関する。また、本発明のFc領域のアミノ酸改変を導入することによる、該Fc領域を含むポリペプチドに対する抗体の産生を抑制する方法に関する。
さらに本発明は、本発明のFc領域のアミノ酸改変が導入されたFc領域改変体、及び、血漿中に可溶型で存在し病因となる抗原に対して結合活性を有し、イオン濃度の条件によって当該抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含むポリペプチドによる、血漿中の当該抗原の消失を促進する方法に関する。また、本発明のFc領域のアミノ酸改変が導入されたFc領域改変体、及び、血漿中に可溶型で存在し病因となる抗原に対して結合活性を有し、イオン濃度の条件によって当該抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含むポリペプチドの、血漿中の当該抗原の消失を促進させるための使用に関する。
【0014】
また、本発明は、本発明のポリペプチドを含む免疫炎症性疾患の治療又は予防剤に関する。また、本発明のポリペプチドを対象へ投与する工程を含む、免疫炎症性疾患の治療方法または予防方法に関する。また本発明は、本発明のポリペプチドを含む、本発明の免疫炎症性疾患の治療方法または予防方法に用いるためのキットに関する。また本発明は、本発明のポリペプチドの、免疫炎症性疾患の治療剤または予防剤の製造における使用に関する。また本発明は、本発明の免疫炎症性疾患の治療方法または予防方法に使用するための、本発明のポリペプチドに関する。
【0015】
また、本発明は、本発明のポリペプチドを含む、B細胞、マスト細胞、樹状細胞および/または好塩基球の活性化抑制剤に関する。また、本発明のポリペプチドを対象へ投与する工程を含む、B細胞、マスト細胞、樹状細胞および/または好塩基球の活性化抑制方法に関する。また本発明は、本発明のポリペプチドを含む、本発明のB細胞、マスト細胞、樹状細胞および/または好塩基球の活性化抑制方法に用いるためのキットに関する。また本発明は、本発明のポリペプチドの、B細胞、マスト細胞、樹状細胞および/または好塩基球の活性化抑制剤の製造における使用に関する。また本発明は、本発明のB細胞、マスト細胞、樹状細胞および/または好塩基球の活性化抑制方法に使用するための、本発明のポリペプチドに関する。
【0016】
また、本発明は、本発明のポリペプチドを含む生体に必要なタンパク質を欠損する疾患の治療剤に関する。また、本発明のポリペプチドを対象へ投与する工程を含む、生体に必要なタンパク質を欠損する疾患の治療方法に関する。また本発明は、本発明のポリペプチドを含む、本発明の生体に必要なタンパク質を欠損する疾患の治療方法に用いるためのキットに関する。また本発明は、本発明のポリペプチドの、生体に必要なタンパク質を欠損する疾患の治療剤の製造における使用に関する。また本発明は、本発明の生体に必要なタンパク質を欠損する疾患の治療方法に使用するための、本発明のポリペプチドに関する。
【0017】
また、本発明は、本発明のポリペプチドを含む、ウィルスの増殖抑制剤に関する。また、本発明のポリペプチドを対象へ投与する工程を含む、ウィルスの増殖抑制方法に関する。また本発明は、本発明のポリペプチドを含む、本発明のウィルスの増殖抑制方法に用いるためのキットに関する。また本発明は、本発明のポリペプチドの、ウィルスの増殖抑制剤の製造における使用に関する。また本発明は、本発明のウィルスの増殖抑制方法に使用するための、本発明のポリペプチドに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、天然型IgGのFc領域と比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、且つ、すべての活性型FcγRに対する結合活性、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性が低減したFc領域改変体が提供された。該Fc領域改変体を含むポリペプチドを用いることにより、FcγRIIb を介した免疫複合体を消失させる性質が天然型IgGと同程度に維持された状態で、FcγRIIbのITIMのリン酸化を介した炎症性免疫反応の抑制性シグナルを増強することが可能となる。また、FcγRIIbに選択的に結合する性質をFc領域に付与することにより、抗抗体の産生の抑制が可能となる可能性がある。また、活性型FcγRに対する結合を低減することにより、血小板上のFcγRIIaと免疫複合体の相互作用を介した血小板の活性化、活性型FcγRの架橋による樹状細胞の活性化を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ヒトIgEとpH依存的抗IgE抗体であるクローン278がpH依存的に大きな免疫複合体を形成することを確認したゲルろ過クロマトグラフィー分析の結果を示す図である。
図2】ヒトIgE単独投与群、ヒトIgE+クローン278抗体投与群、および、ヒトIgE+クローン278抗体投与群のノーマルマウス血漿中ヒトIgEの濃度推移を示す図である。
図3】ヒトIgE+クローン278投与群およびヒトIgE+Xolair抗体投与群のノーマルマウス血漿中抗体濃度推移を示す図である。
図4】ヒトIgE単独投与群、ヒトIgE+278-IgG1抗体投与群、および、ヒトIgE+278-F760抗体投与群のノーマルマウス血漿中ヒトIgEの濃度推移を示す図である。
図5】ヒトIgE+278-IgG1抗体投与群、および、ヒトIgE+278-F760抗体投与群のノーマルマウス抗体濃度推移を示す図である。
図6】Fc改変体によるDCの活性化をIL-8の発現量を指標にして評価した結果の図である。
図7】Fc改変体を加えた際の洗浄血小板膜表面のCD62p (p-selectin)の発現を確認した図である。実線は5c8-F648を添加しADP刺激を加えた場合、塗りつぶしは5c8-P600を添加しADP刺激を加えた場合を表す。
図8】Fc改変体を加えた際の洗浄血小板膜表面の活性型インテグリン(PAC-1)の発現を確認した図である。実線は5c8-F648を添加しADP刺激を加えた場合、塗りつぶしは5c8-P600を添加しADP刺激を加えた場合を表す。
図9】pH依存的結合抗体が繰り返し可溶型抗原に結合することを示す図である。(i) 抗体が可溶型抗原と結合する、(ii) 非特異的に、ピノサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる、(iii) エンドソーム内で抗体はFcRnと結合し、可溶型抗原は抗体から解離する、(iv) 可溶型抗原はライソソームに移行し分解される、(v) 可溶型抗原が解離した抗体はFcRnにより血漿中にリサイクルされる、(vi) リサイクルされた抗体は、再び可溶型抗原へ結合することが可能となる。
図10】中性条件下でFcRnへの結合を増強することによって、pH依存的結合抗体が抗原に繰り返し結合できる効果をさらに向上させることを示す図である。(i) 抗体が可溶型抗原と結合する、(ii) FcRnを介して、ピノサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる、(iii) エンドソーム内で可溶型抗原は抗体から解離する、(iv) 可溶型抗原はライソソームに移行し分解される、(v) 可溶型抗原が解離した抗体はFcRnにより血漿中にリサイクルされる、(vi) リサイクルされた抗体は、再び可溶型抗原へ結合することが可能となる。
図11】Biacoreを用いた抗ヒトIgA抗体のpH7.4およびpH5.8、Ca2+1.2 mM およびCa2+ 3μM におけるヒトIgAへの相互作用を示すセンサーグラムを示す図である。
図12】ノーマルマウスにおけるGA2-IgG1およびGA2-F1087の血漿中抗体濃度推移を示した図である。
図13】hIgA単独、GA2-IgG1およびGA2-F1087が投与されたノーマルマウスにおける血漿中hIgA濃度推移を示した図である。
図14】Fv4-mIgG1、マウスFcγRIIb、マウスFcγRIIIに対する結合が増強されたFv4-mIgG1の改変体であるFv4-mIgG1-mF44、および更にマウスFcγRIIb、マウスFcγRIIIに対する結合が増強されたFv4-mIgG1の改変体であるFv4-mIgG1-mF46が、ノーマルマウスに投与されたときの当該マウスの血漿中のヒトIL-6レセプター濃度推移を示す図である。
図15】Fv4-mIgG1、マウスFcγRIIb、マウスFcγRIIIに対する結合が増強されたFv4-mIgG1の改変体であるFv4-mIgG1-mF44、および更にマウスFcγRIIb、マウスFcγRIIIに対する結合が増強されたFv4-mIgG1の改変体であるFv4-mIgG1-mF46が、FcγRIII欠損マウスに投与されたときの当該マウスの血漿中のヒトIL-6レセプター濃度推移を示す図である。
図16】Fv4-mIgG1、マウスFcγRIIb、マウスFcγRIIIに対する結合が増強されたFv4-mIgG1の改変体であるFv4-mIgG1-mF44、および更にマウスFcγRIIb、マウスFcγRIIIに対する結合が増強されたFv4-mIgG1の改変体であるFv4-mIgG1-mF46が、Fc受容体γ鎖欠損マウスに投与されたときの当該マウスの血漿中のヒトIL-6レセプター濃度推移を示す図である。
図17】Fv4-mIgG1、マウスFcγRIIb、マウスFcγRIIIに対する結合が増強されたFv4-mIgG1の改変体であるFv4-mIgG1-mF44、および更にマウスFcγRIIb、マウスFcγRIIIに対する結合が増強されたFv4-mIgG1の改変体であるFv4-mIgG1-mF46が、FcγRIIb欠損マウスに投与されたときの当該マウスの血漿中のヒトIL-6レセプター濃度推移を示す図である。
図18】IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4の定常領域を構成するアミノ酸残基と、EUナンバリング(本明細書においてEU INDEXとも呼ばれる)との関係を表す図である。
図19】単量体抗原に存在する2つ以上のエピトープを認識し大きな免疫複合体を形成するのに適切なmultispecific pH/Ca依存性抗体の、抗体1分子あたりの抗原を消失させる効率を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、天然型IgG抗体のFc領域を含むポリペプチドと比較した場合に、FcγRIIbに対する結合活性は維持されているが、すべての活性型FcγRに対する結合活性、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減させることが可能なFc領域改変体、当該Fc領域改変体を含むポリペプチドを提供する。
【0021】
より具体的には、EUナンバリング238番目のアミノ酸改変と、他の特定のアミノ酸改変が組み合わされているアミノ酸配列を含むFc領域改変体、及び、当該Fc領域改変体を含むポリペプチドを提供する。さらに本発明は、Fc領域に該アミノ酸改変を導入することで、天然型IgG抗体のFc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減する方法、及び、Fc領域に該アミノ酸改変を導入することで、天然型IgG抗体のFc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性が低減されたFc領域改変体を含むポリペプチドの製造方法を提供する。またFc領域に該アミノ酸改変が導入されたFc領域改変体、及び、血漿中に可溶型で存在し病因となる抗原に対して結合活性を有し、イオン濃度の条件によって当該抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含むポリペプチド、当該ポリペプチドによる、血漿中の当該抗原の消失を促進する方法を提供する。
【0022】
本発明における「ポリペプチド」とは、通常、10アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、およびタンパク質を指す。また、通常、生物由来のポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。
【0023】
本発明のポリペプチドの好ましい例として、抗体を挙げることができる。更に好ましい例として、天然型IgG、特に天然型ヒトIgGを挙げることができる。天然型IgGとは、天然に見出されるIgGと同一のアミノ酸配列を包含し、免疫グロブリンガンマ遺伝子により実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。例えば天然型ヒトIgGとは天然型ヒトIgG1、天然型ヒトIgG2、天然型ヒトIgG3、天然型ヒトIgG4などを意味する。天然型IgGにはそれから自然に生じる変異体等も含まれる。
【0024】
抗体の軽鎖定常領域にはIgK(Kappa、κ鎖)、IgL1、IgL2、IgL3、IgL6、IgL7 (Lambda、λ鎖)タイプの定常領域が存在しているが、いずれの軽鎖定常領域であってもよい。ヒトIgK(Kappa)定常領域とヒトIgL7 (Lambda)定常領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。さらに、本発明において軽鎖定常領域は、アミノ酸の置換、付加、欠損、挿入および/または修飾などの改変が行われた軽鎖定常領域であってもよい。抗体のFc領域としては、例えばIgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgMタイプのFc領域が存在している。本発明の抗体のFc領域は、例えばヒトIgG抗体のFc領域を用いることができ、好ましくはヒトIgG1抗体のFc領域である。本発明のFc領域として、例えば、天然型IgGの定常領域、具体的には、天然型ヒトIgG1を起源とする定常領域(配列番号:31)、天然型ヒトIgG2を起源とする定常領域(配列番号:32)、天然型ヒトIgG3を起源とする定常領域(配列番号:33)、天然型ヒトIgG4を起源とする定常領域(配列番号:34)由来のFc領域を用いることができる。図18には天然型IgG1、IgG2、IgG3、IgG4の定常領域の配列を示す。天然型IgGの定常領域にはそれから自然に生じる変異体等も含まれる。ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4抗体の定常領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。特にヒトIgG1の配列としては、EUナンバリング356-358番目のアミノ酸配列がDELであってもEEMであってもよい。
【0025】
Fcγ受容体(本明細書ではFcγレセプター、FcγRまたはFcgRと記載することがある)とは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得る受容体をいい、実質的にFcγ受容体遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131(H型)およびR131(R型)を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒトFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。また、ヒトFcγRIIbにはスプライシングバリアントとしてFcγRIIb1とFcγRIIb2とが報告されている。また、それ以外にもFcγRIIb3というスプライシングバリアントも報告されている(J. Exp. Med, 1989, 170: 1369)。ヒトFcγRIIbにはこれのスプライシングバリアント、加えて、NCBIに登録されているNP_001002273.1、NP_001002274.1、NP_001002275.1、NP_001177757.1、NP_003992.3のスプライシングバリアントを全て含む。また、ヒトFcγRIIbには既存の報告されたあらゆる遺伝子多型を含み、FcγRIIb(Arthritis Rheum, 2003, 48: 3242-52, Hum Mol Genet, 2005, 14: 2881-92、Arthritis Rheum. 2002 May;46(5):1242-54.)も含まれ、また今後報告されるあらゆる遺伝子多型も含まれる。
FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサル由来のものが含まれるが、これらに限定されず、いかなる生物由来でもよい。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIII-2(CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウスFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。こうしたFcγ受容体の好適な例としてはヒトFcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16)及び/又はFcγRIIIB(CD16)が挙げられる。
【0026】
FcγRIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:35(NM_000566.3)及び36(NP_000557.1)に、
FcγRIIAのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:37(BC020823.1)及び38(AAH20823.1)に、
FcγRIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:39(BC146678.1)及び40(AAI46679.1)に、
FcγRIIIAのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:41(BC033678.1)及び42(AAH33678.1)に、及び
FcγRIIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:43(BC128562.1)及び44(AAI28563.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。
【0027】
尚、FcγRIIaには、FcγRIIaの131番目のアミノ酸がヒスチジン(H型)あるいはアルギニン(R型)に置換された2種類の遺伝子多型が存在する(J. Exp. Med, 172, 19-25, 1990)。
FcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)を含むFcγRIII(CD16)は、IgGのFc部分と結合するα鎖と細胞内に活性化シグナルを伝達するITAMを有する共通γ鎖が会合する。FcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)はGPIアンカータンパク質である。一方、アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32)の自身の細胞質ドメインにはITAMが含まれている。これらのレセプターは、マクロファージやマスト細胞、抗原提示細胞等の多くの免疫細胞に発現している。これらのレセプターがIgGのFc部分に結合することによって伝達される活性化シグナルによって、マクロファージの貪食能や炎症性サイトカインの産生、マスト細胞の脱顆粒、抗原提示細胞の機能亢進が促進される。上記のように活性化シグナルを伝達する能力を有するFcγレセプターは、本発明においても活性型Fcγレセプターと呼ばれる。
一方、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)の自身の細胞質内ドメインには抑制型シグナルを伝達するITIMが含まれている。B細胞ではFcγRIIbとB細胞レセプター(BCR)との架橋によってBCRからの活性化シグナルが抑制される結果BCRの抗体産生が抑制される。マクロファージでは、FcγRIIIとFcγRIIbとの架橋によって貪食能や炎症性サイトカインの産生能が抑制される。上記のように抑制化シグナルを伝達する能力を有するFcγレセプターは、本発明においても抑制型Fcγレセプターと呼ばれる。
【0028】
本発明において「Fc領域改変体」は、本発明のアミノ酸改変が導入されていないFc領域に、本発明の少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に改変されているFc領域を意味する。ここで「少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に改変されている」ことには、当該アミノ酸改変が導入されたFc領域及びそれと同一のアミノ酸配列からなるFc領域が含まれる。
【0029】
天然型IgGとは天然に見出されるIgGと同一のアミノ酸配列を包含し、免疫グロブリンガンマ遺伝子により実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。例えば天然型ヒトIgGとは天然型ヒトIgG1、天然型ヒトIgG2、天然型ヒトIgG3、天然型ヒトIgG4などを意味する。天然型IgGにはそれから自然に生じる変異体、FcγRに対する結合活性に実質的な影響を与えない改変が導入されたIgG等も含まれる。
【0030】
天然型IgGのFc領域とは、天然に見出されるIgGを起源とするFc領域と同一のアミノ酸配列を包含するFc領域を意味する。天然型IgGの重鎖定常領域は図18(配列番号:31~34)に示しているが、例えば図18の天然型ヒトIgG1を起源とする重鎖定常領域中のFc領域、天然型ヒトIgG2を起源とする重鎖定常領域中のFc領域、天然型ヒトIgG3を起源とする重鎖定常領域中のFc領域、天然型ヒトIgG4を起源とする重鎖定常領域中のFc領域を意味する。天然型IgGのFc領域にはそれから自然に生じる変異体、FcγRに対する結合活性に実質的な影響を与えない改変が導入されたFc領域等も含まれる。
【0031】
本発明において、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチド又はFc領域改変体が各種FcγRに対する結合活性が増強した、あるいは、結合活性が維持あるいは減少したかどうかは、例えば本実施例又は参考実施例に示されるように、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用した相互作用解析機器であるBIACOREを用いて、抗体をセンサーチップ上に固定化あるいはProteinA、ProteinL、ProteinA/G、ProteinG、抗lamda鎖抗体、抗kappa鎖抗体、抗原ペプチド、抗原タンパク質等でキャプチャーしたセンサーチップに対して各種FcγRをアナライトとして相互作用させたセンサーグラムの解析結果から得られる解離定数(KD)の値が低下した、あるいは増加したかどうかで判断可能である。または、センサーチップ上に固定化したあるいはProteinA、ProteinL、ProteinA/G、ProteinG、抗lamda鎖抗体、抗kappa鎖抗体、抗原ペプチド、抗原タンパク質等でキャプチャーしたセンサーチップ上の抗体に対して、各種FcγRをアナライトとして相互作用させた前後でのセンサーグラム上のレゾナンスユニット(RU)値の変化量を、センサーチップに抗体を固定化又はキャプチャーさせた前後でのレゾナンスユニット(RU)の変化量で割った値が低下した、あるいは増加したかどうかでも判断可能である。また、FcγRをセンサーチップに直接固定化した、あるいは抗タグ抗体などを介して固定化したセンサーチップを使って、評価したい抗体等の試料をアナライトとして相互作用させたセンサーグラムの解析から得られる解離定数(KD)の値が低下した、あるいは増加したかどうかで判断可能である。または、FcγRをセンサーチップに直接固定化した、あるいは抗タグ抗体などを介して固定化したセンサーチップに対して評価したい抗体等の試料をアナライトとして相互作用させた前後でのセンサーグラムの値の変化量が低下した、あるいは増加したかどうかでも判断可能である。
【0032】
具体的には、Fc領域改変体のFcγ受容体に対する結合活性はELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)の他、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって測定することができる(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0033】
ALPHAスクリーンは、ドナーとアクセプターの2つのビーズを使用するALPHAテクノロジーによって下記の原理に基づいて実施される。ドナービーズに結合した分子が、アクセプタービーズに結合した分子と生物学的に相互作用し、2つのビーズが近接した状態の時にのみ、発光シグナルが検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ内のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素はドナービーズ周辺に拡散し、近接しているアクセプタービーズに到達するとビーズ内の化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子が相互作用しないときは、ドナービーズの産生する一重項酸素がアクセプタービーズに到達しないため、化学発光反応は起きない。
【0034】
例えば、ドナービーズにビオチン標識されたポリペプチド会合体が結合され、アクセプタービーズにはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ化されたFcγ受容体が結合される。競合するFc領域改変体を含むポリペプチド会合体の非存在下では、野生型Fc領域を含むポリペプチド会合体とFcγ受容体とは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていない変異Fc領域を含むポリペプチド会合体は、野生型Fc領域を含むポリペプチド会合体とFcγ受容体間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合活性が決定され得る。抗体等のポリペプチド会合体をSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。Fcγ受容体をGSTでタグ化する方法としては、Fcγ受容体をコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子を発現可能なベクターに保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウエアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。
【0035】
相互作用を観察する物質の一方(リガンド)をセンサーチップの金薄膜上に固定し、センサーチップの裏側から金薄膜とガラスの境界面で全反射するように光を当てると、反射光の一部に反射強度が低下した部分(SPRシグナル)が形成される。相互作用を観察する物質の他方(アナライト)をセンサーチップの表面に流しリガンドとアナライトが結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加し、センサーチップ表面の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に結合が解離するとシグナルの位置は戻る)。Biacoreシステムは上記のシフトする量、すなわちセンサーチップ表面での質量変化を縦軸にとり、質量の時間変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムからセンサーチップ表面に捕捉したリガンドに対するアナライトの結合量が求められる。また、センサーグラムのカーブからカイネティクス:結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)が、当該定数の比から解離定数(KD)が求められる。BIACORE法では阻害測定法も好適に用いられる。阻害測定法の例はProc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010において記載されている。
【0036】
FcγRIIbに対する結合活性が維持されたFc領域又は当該Fc領域を含むポリペプチドとは、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチド(親Fc領域を含むポリペプチド又は親ポリペプチドともいう)と、当該Fc領域に本発明のアミノ酸改変を含むポリペプチド(Fc領域改変体を含むポリペプチド)の量を本質的に同じにしてアッセイを行った時に、親ポリペプチドと本質的に変化のない、同等の結合活性でFcγRIIbと結合するものをいう。具体的には、親Fc領域を含むポリペプチドのFcgRIIbへの結合を少なくとも55.5%維持しているFc領域改変体をいう。
【0037】
また、活性型FcγRに対する結合活性が減少、低減、あるいは減弱したFc領域又は当該Fc領域を含むポリペプチドとは、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチド(親Fc領域を含むポリペプチド又は親ポリペプチドともいう)と、当該Fc領域に本発明のアミノ酸改変を含むポリペプチド(Fc領域改変体を含むポリペプチド)の量を本質的に同じにしてアッセイを行った時に、親Fc領域を含むポリペプチドよりも本質的により弱い結合活性で活性型FcγRと結合するFc領域改変体又は当該Fc領域改変体を含むポリペプチドをいう。
本発明のFc領域改変体が、天然型IgGのFc領域のFcγRIIbに対する結合活性を維持しているかどうかは、例えば、上記例に従って求めた、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドのFcγRIIbに対するKD値と天然型IgGのFc領域を含むポリぺプチドのFcγRIIbに対するKD値とを比較することによって判断することが可能である。具体的には、親Fc領域を含むポリペプチドに比べて本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドのKD値が同等かそれ以下の値である場合、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、親Fc領域改変体を含むポリペプチドに比べて、FcγRIIbに対する結合活性を維持したと判断することができる。また、本発明のFc領域改変体が、天然型IgGのFc領域の活性型FcγRに対する結合活性より減少しているかどうかについても、例えば、同様に、上記例に従って求めた、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドの活性型FcγRに対するKD値と天然型IgGのFc領域を含むポリぺプチドの活性型FcγRに対するKD値とを比較することによって判断することが可能である。具体的には、親Fc領域を含むポリペプチドに比べて本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドのKD値が増大している場合、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、親Fc領域改変体を含むポリペプチドに比べて、活性型FcγRに対する結合活性が減少したと判断することができる。特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性は、他の活性型FcγRに対するものよりも、FcγRIIbに対する結合活性と相関しやすいため、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、FcγRIIa(R型)に対する結合活性を減少できるアミノ酸改変を見出すことが、FcγRIIb以外の他の活性型FcγRに対する結合活性を選択的に減少させる上で最も困難な課題である。
【0038】
FcγRIIbに対する結合活性が同等、あるいは維持されているとは、例えば、上記の測定法で測定したKD値において、〔親Fc領域を含むポリペプチドのFcγRIIbに対するKD値〕/〔Fc領域改変体を含むポリペプチドのFcγRIIbに対するKD値〕のKD値比が、好ましくは少なくとも0.75、より好ましくは、少なくとも0.8、さらにより好ましくは、少なくとも0.9を有する。また、当該KD値比は5程度あれば十分であり、FcγRIIbに対する結合活性が同等、あるいは維持されているというためにはそれ以上高い必要はない。
【0039】
活性型FcγRに対する結合活性が減少、低減、あるいは減弱とは、例えば、上記の測定法で測定したKD値において、〔親Fc領域を含むポリペプチドの活性型FcγRに対するKD値〕/〔Fc領域改変体を含むポリペプチドの活性型FcγRに対するKD値〕のKD値比が、好ましくは0.2以下、より好ましくは、0.15以下、さらにより好ましくは0.1以下である。
【0040】
特に、FcγRIIaは、FcγRIIbと細胞外領域の配列が93%一致し、極めて構造が類似するため、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、結合活性を減少させることが困難なFcγRIIa Rに対する結合については、〔親Fc領域を含むポリペプチドのFcγRIIa Rに対するKD値〕/〔Fc領域改変体を含むポリペプチドのFcγRIIa Rに対するKD値〕のKD値比が 0.1以下が好ましく、0.05であることがより好ましい。
【0041】
また本発明のポリペプチドの各種FcγRに対する結合活性が維持、増強、あるいは減少したかどうかは、上記例に従って求めた各種FcγRの本発明のポリペプチドに対する結合量の増減により判断することもできる。ここで、各種FcγRのポリペプチドに対する結合量は、各ポリペプチドに対してアナライトである各種FcγRを相互作用させた前後で変化したセンサーグラムにおけるRU値の差を、センサーチップにポリペプチドを捕捉させた前後で変化したセンサーグラムにおけるRU値の差で割った値を意味する。
また、FcγRIIbに対する選択性が向上したFc領域又は当該Fc領域を含むポリペプチドとは、あるいは活性型FcγRに対する結合活性が選択的に低減されたFc領域又は当該Fc領域を含むポリペプチドとは、FcγRIIbに対する結合活性は維持しつつも、活性型FcγRに対する結合活性が減少、低減、あるいは減弱したFc領域又は当該Fc領域を含むポリペプチドをいう。
【0042】
また本発明のFc領域改変体としては、FcγRIIbおよび活性型FcγRに対するKD値(mol/L)に特に制限はないが、例えばFcγRIIb に対する値が7.0×10-6以下であってよく、好ましくは6.0×10-6以下、より好ましくは5.0×10-6以下であり、活性型FcγRに対する値が2.5×10-9以上であってよく、好ましくは3.0×10-9以上、より好ましくは3.5×10-9以上、特にFcγRIIa(R型)に対する値が2.0×10-5以上であることが好ましい。
【0043】
「Fc領域」は、抗体分子中の、ヒンジ部若しくはその一部、CH2、CH3ドメインからなるフラグメントのことをいう。IgGクラスのFc領域は、EU ナンバリング(本明細書ではEU INDEXとも呼ばれる)(図18参照)で、例えば226番目のシステインからC末端、あるいは230番目のプロリンからC末端までを意味するが、これに限定されない。
【0044】
Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、プロテインA、プロテインGカラムに吸着された画分を再溶出することによって好適に取得され得る。かかる蛋白分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することにより制限的にFabやF(ab')2を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやパパイン等が例示できる。
【0045】
本発明は、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のFc領域に対して、EUナンバリング238番目のアミノ酸の他のアミノ酸への改変と、下記の(a)~(k)のいずれかに記載のアミノ酸の他のアミノ酸への改変を組み合わせたアミノ酸改変を含むFc領域改変体を提供する。当該改変をFc領域に導入することにより、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少したFc領域改変体を含むポリペプチドを提供することが可能である。
(a)Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸
(b)Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸
(c) Fc領域のEUナンバリング241番目のアミノ酸
(d) Fc領域のEUナンバリング268番目のアミノ酸
(e) Fc領域のEUナンバリング295番目のアミノ酸
(f) Fc領域のEUナンバリング296番目のアミノ酸
(g) Fc領域のEUナンバリング298番目のアミノ酸
(h) Fc領域のEUナンバリング323番目のアミノ酸
(i) Fc領域のEUナンバリング324番目のアミノ酸
(j) Fc領域のEUナンバリング330番目のアミノ酸
(k) (a)~(j)から選ばれる少なくとも2つのアミノ酸
【0046】
上記(k)で選ばれる少なくとも2つのアミノ酸の組合せとしては、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性に対する結合活性が減少するかぎり特に限定されないが、下記の(1)~(3)の組合せが好ましい。
(1)Fc領域のEUナンバリング241番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸及び324番目のアミノ酸
(2) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸、241番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸及び330番目のアミノ酸
(3) Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、241番目のアミノ酸及び296番目のアミノ酸
【0047】
改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸は、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較してFcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少するものであれば特に限定されないが、EUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp、235番目のアミノ酸がPhe、237番目のアミノ酸がGln又はAsp、241番目のアミノ酸がMet又はLeu、268番目のアミノ酸がPro、295番目のアミノ酸がMet又はVal、296番目のアミノ酸がGlu、His、Asn又はAsp、298番目のアミノ酸がAla又はMet、323番目のアミノ酸がIle、324番目のアミノ酸がAsn又はHis、330番目のアミノ酸がHis又はTyrであることが好ましい。また、上述の(1)から(3)で改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸としては、
(1)Fc領域のEUナンバリング241番目のアミノ酸がMet、268番目のアミノ酸がPro、296番目のアミノ酸がGlu及び324番目のアミノ酸がHis
(2) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸がGln又はAsp、241番目のアミノ酸がMet、296番目のアミノ酸がGlu及び330番目のアミノ酸がHis
(3) Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸がPhe、237番目のアミノ酸がGln又はAsp、241番目のアミノ酸がMet及び296番目のアミノ酸がGlu
が好ましい。
【0048】
また、本発明は、ヒトIgGのFc領域に対して、EUナンバリング238番目のアミノ酸及び271番目のアミノ酸の他のアミノ酸への改変と、下記の(a)~(h)のいずれかに記載のアミノ酸の他のアミノ酸への改変を組み合わせたアミノ酸改変を含むFc領域改変体を提供する。当該改変をFc領域に導入することにより、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少したFc領域改変体を含むポリペプチドを提供することが可能である。
(a)Fc領域のEUナンバリング234番目のアミノ酸
(b)Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸
(c)Fc領域のEUナンバリング236番目のアミノ酸
(d)Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸
(e)Fc領域のEUナンバリング239番目のアミノ酸
(f) Fc領域のEUナンバリング265番目のアミノ酸
(g) Fc領域のEUナンバリング267番目のアミノ酸
(h) Fc領域のEUナンバリング297番目のアミノ酸
【0049】
EUナンバリング238番目のアミノ酸及び271番目のアミノ酸の他のアミノ酸への改変と組みあわせるアミノ酸改変としては、上記(a)から(h)に記載のアミノ酸に加えてさらに別のアミノ酸を組み合わせることもできる。そのようなアミノ酸の組合せは、特に限定されないが、下記の(1)から(3)から選ばれる改変の組合せが好ましい。
(1) Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸及び271番目のアミノ酸
(2)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸、297番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び396番目のアミノ酸
(3) Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸及び296番目のアミノ酸
【0050】
改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸は、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較してFcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少するものであれば特に限定されないが、EUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp、271番目のアミノ酸がGly、234番目のアミノ酸がAla、His、Asn、Lys又はArg、235番目のアミノ酸がAla、236番目のアミノ酸がGln、237番目のアミノ酸がArg又はLys、239番目のアミノ酸がLys、265番目のアミノ酸がLys、Asn、Arg、Ser又はVal、267番目のアミノ酸がLys、Arg又はTyr、297番目のアミノ酸がAlaであることが好ましい。
【0051】
また、上述の(1)から(3)で改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸としては、
(1) Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸がAsp、238番目のアミノ酸がAsp、264番目のアミノ酸がIle、267番目のアミノ酸がArg、268番目のアミノ酸がGlu及び271番目のアミノ酸がGly
(2)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸がAsp、237番目のアミノ酸がAsp、238番目のアミノ酸がAsp、264番目のアミノ酸がIle、267番目のアミノ酸がAla、268番目のアミノ酸がGlu、271番目のアミノ酸がGly、296番目のアミノ酸がAsp、297番目のアミノ酸がAla、330番目のアミノ酸がArg及び396番目のアミノ酸がMet
(3) Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸がAsp、238番目のアミノ酸がAsp、264番目のアミノ酸がIle、267番目のアミノ酸がArg、268番目のアミノ酸がPro、271番目のアミノ酸がGly及び296番目のアミノ酸がGlu
が好ましい。
【0052】
また、本発明は、ヒトIgGのFc領域に対して、EUナンバリング238番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸の他のアミノ酸への改変を含むFc領域改変体を提供する。当該改変体には、更に、下記の(a)~(e)のいずれかに記載のアミノ酸の他のアミノ酸への改変を組み合わせたアミノ酸改変を含むFc領域改変体を提供する。当該改変をFc領域に導入することにより、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少したFc領域改変体を含むポリペプチドを提供することが可能である。
(a)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸
(b)Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸
(c)Fc領域のEUナンバリング264番目のアミノ酸
(d)Fc領域のEUナンバリング267番目のアミノ酸
(e)Fc領域のEUナンバリング268番目のアミノ酸
【0053】
EUナンバリング238番目のアミノ酸及び271番目のアミノ酸の他のアミノ酸への改変と組みあわせるアミノ酸改変としては、上記(a)から(e)に記載のアミノ酸に加えてさらに別のアミノ酸を組み合わせることもできる。そのようなアミノ酸の組合せは、特に限定されないが、下記の(1)から(4)から選ばれる改変の組合せが好ましい。
(1) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
(2)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
(3) Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
(4) Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
【0054】
改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸は、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較してFcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少するものであれば特に限定されないが、EUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer、331番目のアミノ酸がSer、233番目のアミノ酸がAsp、237番目のアミノ酸がAsp、264番目のアミノ酸がIle、267番目のアミノ酸がAla、268番目のアミノ酸がAsp又はGluであることが好ましい。
【0055】
また、上述の(1)から(4)で改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸としては、
(1) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸がAsp、238番目のアミノ酸がAsp、268番目のアミノ酸がAsp又はGlu、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer及び331番目のアミノ酸がSer
(2)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸がAsp、237番目のアミノ酸がAsp、238番目のアミノ酸がAsp、268番目のアミノ酸がAsp、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer及び331番目のアミノ酸がSer
(3) Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp、267番目のアミノ酸がAla、268番目のアミノ酸がGlu、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer及び331番目のアミノ酸がSer
(4) Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp、264番目のアミノ酸がIle、267番目のアミノ酸がAla、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer及び331番目のアミノ酸がSer
が好ましい。
【0056】
本発明は、これらの改変に加えて、さらに別の少なくとも一つのFc領域に対する改変を加えることが可能である。FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、活性型FcγRに対する結合活性を減少させるものであれば特に限定されない。
そのような改変としては、例えば、補体に対する結合活性を減少させる改変が挙げられる。具体的には、例えば、Fc領域のEUナンバリング322番目のアミノ酸改変、或いは、Fc領域のEUナンバリング327番目、330番目及び331番目のアミノ酸改変の組合せが挙げられる。改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸は、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較してFcγRIIbに対する結合活性が維持され、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少されつつ、補体に対する結合活性を減少させるものでれば特に限定されないが、EUナンバリング322番目のアミノ酸がAla又はGlu、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer、331番目のアミノ酸がSerであることが好ましい。
【0057】
本発明において、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチド又はFc領域改変体が補体に対する結合活性が減少したかどうかは、上述のFcγRに対する結合活性が減少したかどうかを確認する方法と同様の方法にて確認することができる。具体的には、例えば本実施例に示されるように、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用した相互作用解析機器であるBIACOREを用いて、評価したい抗体をセンサーチップ上に固定化あるいはProteinA、ProteinL、ProteinA/G、ProteinG、抗lamda鎖抗体、抗kappa鎖抗体、抗原ペプチド、抗原タンパク質等でキャプチャーしたセンサーチップに対して、補体をアナライトとして相互作用させたセンサーグラムの解析結果から得られる解離定数(KD)の値が増加したかどうかで判断可能である。または、センサーチップ上に固定化したあるいはProteinA、ProteinL、ProteinA/G、ProteinG、抗lamda鎖抗体、抗kappa鎖抗体、抗原ペプチド、抗原タンパク質等でキャプチャーしたセンサーチップ上の評価したい抗体に対して、補体をアナライトとして相互作用させた前後でのセンサーグラム上のレゾナンスユニット(RU)値の変化量を、センサーチップに抗体を固定化又はキャプチャーさせた前後でのレゾナンスユニット(RU)の変化量で割った値が増加したかどうかでも判断可能である。また、補体をセンサーチップに直接固定化した、あるいは抗タグ抗体などを介して固定化したセンサーチップを使って、評価したい抗体等の試料をアナライトとして相互作用させたセンサーグラムの解析から得られる解離定数(KD)の値が増加したかどうかで判断可能である。または、補体をセンサーチップに直接固定化した、あるいは抗タグ抗体などを介して固定化したセンサーチップに対して評価したい抗体等の試料をアナライトとして相互作用させた前後でのセンサーグラムの値の変化量が増加したかどうかでも判断可能である。または、抗原を介して、あるいは直接評価したい抗体を固相化したプレートに対して補体を添加し、その後ペルオキシダーゼなどで標識された抗ヒトC1q抗体を加えるELISAによって結合量を評価することでも判断可能である。
【0058】
また本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドには他の目的で行われるアミノ酸改変を組み合わせることもできる。例えばFcRnに対する結合活性を向上させるアミノ酸置換(J Immunol. 2006 Jan 1;176(1):346-56、J Biol Chem. 2006 Aug 18;281(33):23514-24.、Int Immunol. 2006 Dec;18(12):1759-69.、Nat Biotechnol. 2010 Feb;28(2):157-9.、WO/2006/019447、WO/2006/053301、WO/2009/086320)、抗体のヘテロジェニティーや安定性を向上させるためのアミノ酸置換(WO/2009/041613)を加えてもよい。あるいは、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドに、WO2011/122011、PCT/JP2011/072550に記載の抗原の消失を促進するための性質を付与したポリペプチドや、WO2009/125825、PCT/JP2011/077619に記載の複数分子の抗原に繰り返し結合するための性質を付与したポリペプチドも本発明に含まれる。あるいは、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドに、血中滞留性を高める目的で定常領域のpIを低下させるアミノ酸改変(WO/2012/016227)を組み合わせてもよい。あるいは、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドに、使って他の抗原に対する結合能を持たせる目的でCH3にEP1752471、EP1772465に記載のアミノ酸改変を組み合わせてもよい。
【0059】
本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドが、抗体のような抗原結合ドメインを含む場合には、当該ポリペプチドの血漿中からの抗原消失効果を高めるために、イオン濃度条件によって抗原に対する結合活性を変化させるためのアミノ酸改変を組み合わせることができる。
【0060】
本明細書において、「抗原結合ドメイン」は目的とする抗原に結合するかぎりどのような構造のドメインも使用され得る。そのようなドメインの例として、例えば、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域、生体内に存在する細胞膜タンパクであるAvimerに含まれる35アミノ酸程度のAドメインと呼ばれるモジュール(国際公開WO2004/044011、WO2005/040229)、細胞膜に発現する糖たんぱく質であるfibronectin中のタンパク質に結合するドメインである10Fn3ドメインを含むAdnectin(国際公開WO2002/032925)、ProteinAの58アミノ酸からなる3つのヘリックスの束(bundle)を構成するIgG結合ドメインをscaffoldとするAffibody(国際公開WO1995/001937)、33アミノ酸残基を含むターンと2つの逆並行ヘリックスおよびループのサブユニットが繰り返し積み重なった構造を有するアンキリン反復(ankyrin repeat:AR)の分子表面に露出する領域であるDARPins(Designed Ankyrin Repeat proteins)(国際公開WO2002/020565)、好中球ゲラチナーゼ結合リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL))等のリポカリン分子において高度に保存された8つの逆並行ストランドが中央方向にねじれたバレル構造の片側を支える4つのループ領域であるAnticalin等(国際公開WO2003/029462)、ヤツメウナギ、ヌタウナギなど無顎類の獲得免疫システムとしてイムノグロブリンの構造を有さない可変性リンパ球受容体(variable lymphocyte receptor(VLR))のロイシン残基に富んだリピート(leucine-rich-repeat(LRR))モジュールが繰り返し積み重なった馬てい形の構造の内部の並行型シート構造のくぼんだ領域(国際公開WO2008/016854)が好適に挙げられる。本発明の抗原結合ドメインの好適な例として、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域を含む抗原結合ドメインが挙げられる。こうした抗原結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
【0061】
本明細書における「イオン濃度」とは、例えば、金属イオン濃度を挙げることができる。「金属イオン」とは、水素を除くアルカリ金属および銅族等の第I族、アルカリ土類金属および亜鉛族等の第II族、ホウ素を除く第III族、炭素とケイ素を除く第IV族、鉄族および白金族等の第VIII族、V、VIおよびVII族の各A亜族に属する元素と、アンチモン、ビスマス、ポロニウム等の金属元素のイオンをいう。金属原子は原子価電子を放出して陽イオンになる性質を有しており、これをイオン化傾向という。イオン化傾向の大きい金属は、化学的に活性に富むとされる。
【0062】
本発明で好適な金属イオンの例としてカルシウムイオンが挙げられる。カルシウムイオンは多くの生命現象の調節に関与しており、骨格筋、平滑筋および心筋等の筋肉の収縮、白血球の運動および貪食等の活性化、血小板の変形および分泌等の活性化、リンパ球の活性化、ヒスタミンの分泌等の肥満細胞の活性化、カテコールアミンα受容体やアセチルコリン受容体を介する細胞の応答、エキソサイトーシス、ニューロン終末からの伝達物質の放出、ニューロンの軸策流等にカルシウムイオンが関与している。細胞内のカルシウムイオン受容体として、複数個のカルシウムイオン結合部位を有し、分子進化上共通の起源から由来したと考えられるトロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等が知られており、その結合モチーフも数多く知られている。例えば 、カドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、Protein kinase Cに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質FactorIXに含まれるGlaドメイン、アシアログライコプロテインレセプターやマンノース結合レセプターに含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメインおよびEGF様ドメインがよく知られている。
【0063】
本発明においては、金属イオンがカルシウムイオンの場合には、カルシウムイオン濃度の条件として低カルシウムイオン濃度の条件と高カルシウムイオン濃度の条件が挙げられる。カルシウムイオン濃度の条件によって結合活性が変化するとは、低カルシウムイオン濃度と高カルシウムイオン濃度の条件の違いによって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化することをいう。例えば、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合が挙げられる。また、高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合もまた挙げられる。
【0064】
本明細書において、高カルシウムイオン濃度とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適には100μMから10 mMの間から選択される濃度であり得る。また、別の態様では、200μMから5 mMの間から選択される濃度でもあり得る。また、異なる態様では400μMから3 mMの間から選択される濃度でもあり得るし、ほかの態様では200μMから2 mMの間から選択される濃度でもあり得る。さらに400μMから1 mMの間から選択される濃度でもあり得る。特に生体内の血漿中(血中)でのカルシウムイオン濃度に近い500μMから2.5 mMの間から選択される濃度が好適に挙げられる。
【0065】
本明細書において、低カルシウムイオン濃度とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適には0.1μMから30μMの間から選択される濃度であり得る。また、別の態様では、0.2μMから20μMの間から選択される濃度でもあり得る。また、異なる態様では0.5μMから10μMの間から選択される濃度でもあり得るし、ほかの態様では1μMから5μMの間から選択される濃度でもあり得る。さらに2μMから4μMの間から選択される濃度でもあり得る。特に生体内の早期エンドソーム内でのイオン化カルシウム濃度に近い1μMから5μMの間から選択される濃度が好適に挙げられる。
【0066】
本発明において、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低いとは、抗原結合分子の0.1μMから30μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、100μMから10 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。好ましくは、抗原結合分子の0.5μMから10μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、200μMから5 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のカルシウムイオン濃度における抗原結合活性が、生体内の血漿中のカルシウムイオン濃度における抗原結合活性より弱いことを意味し、具体的には、抗原結合分子の1μMから5μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、500μMから2.5 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。
【0067】
金属イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化しているか否かは、例えば前記の結合活性の項で記載されたような公知の測定方法を使用することによって決定され得る。例えば、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高く変化することを確認するためには、低カルシウムイオン濃度および高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性が比較される。
【0068】
さらに本発明において、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い」という表現は、抗原結合分子の高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性が低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性よりも高いと表現することもできる。なお本発明においては、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い」を「低カルシウムイオン濃度条件下における抗原結合能が高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合能よりも弱い」と記載する場合もあり、また、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合活性を高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低下させる」を「低カルシウムイオン濃度条件下における抗原結合能を高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
【0069】
抗原への結合活性を測定する際のカルシウムイオン濃度以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、HEPESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合分子と抗原との結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合活性を評価することが可能である。
【0070】
本発明の抗原結合分子において、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性よりも弱い限り、低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性と高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対する低カルシウムイオン濃度の条件におけるKD(Dissociation constant:解離定数)と高カルシウムイオン濃度の条件におけるKDの比であるKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が40以上である。KD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
【0071】
抗原に対する結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
【0072】
また、本発明の抗原結合分子の低カルシウム濃度の条件における抗原に対する結合活性と高カルシウム濃度の条件における抗原に対する結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)もまた好適に用いられ得る。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対する低カルシウム濃度の条件におけるkd(解離速度定数)と高カルシウム濃度の条件におけるkd(解離速度定数)の比であるkd(低カルシウム濃度の条件)/kd(高カルシウム濃度の条件)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。Kd(低カルシウム濃度の条件)/kd(高カルシウム濃度の条件)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
【0073】
抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。なお本発明において、異なるカルシウムイオン濃度における抗原結合分子の抗原に対する結合活性を測定する際は、カルシウム濃度以外の条件は同一とすることが好ましい。
【0074】
例えば、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗体のスクリーニングによって取得され得る。
(a) 低カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(b) 高カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(c) 低カルシウム濃度の条件における抗原結合活性が、高カルシウム濃度の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を選択する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子もしくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) 高カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を低カルシウム濃度条件下に置く工程、
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を単離する工程。
【0075】
また、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子若しくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) 低カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を高カルシウム濃度条件下で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0076】
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムに高カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を低カルシウム濃度条件下でカラムから溶出する工程、
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0077】
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムに低カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を高カルシウム濃度条件下で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0078】
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 高カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を低カルシウム濃度条件下に置く工程、
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0079】
なお、前記の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明によって、上述のスクリーニング方法において、(a)~(c)あるいは(a)~(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含むスクリーニング方法によって取得された低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子が提供される。(a)~(c)あるいは(a)~(d)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0080】
上記スクリーニング方法において、低カルシウム濃度条件下における抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、イオン化カルシウム濃度が0.1μM~30μMの間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいイオン化カルシウム濃度として、0.5μM~10μMの間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいイオン化カルシウム濃度として、生体内の早期エンドソーム内のイオン化カルシウム濃度が挙げられ、具体的には1μM~5μMにおける抗原結合活性を挙げることができる。また、高カルシウム濃度条件下における抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、イオン化カルシウム濃度が100μM~10 mMの間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいイオン化カルシウム濃度として200μM~5 mMの間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいイオン化カルシウム濃度として、生体内の血漿中でのイオン化カルシウム濃度を挙げることができ、具体的には0.5 mM~2.5 mMにおける抗原結合活性を挙げることができる。
【0081】
また、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子をスクリーニング方法としてWO2012/073992等(例えば段落0200-0213)に記載された方法も例示され得る。
【0082】
抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、イオン化カルシウム濃度以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度定数)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度定数)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
【0083】
本発明において、高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程は、低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より低い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程と同じ意味である。
【0084】
高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より高い限り、高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性と低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくは高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
【0085】
前記のスクリーニング方法によりスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子はいかなる抗原結合ドメイン又は抗原結合分子でもよく、例えば上述の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をスクリーニングすることが可能である。例えば、天然の配列を有する抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をスクリーニングしてもよいし、アミノ酸配列が置換された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をスクリーニングしてもよい。
【0086】
例えば、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子のスクリーニング方法としてWO2012/073992等(例えば段落0200-0213)に記載された方法が例示され得る。
【0087】
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明のカルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性を変化させる抗原結合ドメインまたは抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、金属イオンがカルシウムイオン濃度である場合には、あらかじめ存在している抗原結合ドメインまたは抗原結合分子、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体またはライブラリ、これらの抗体やライブラリにカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体またはライブラリ(カルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)または非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所にカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)または非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である。
【0088】
前記のようにイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸の例として、例えば、金属イオンがカルシウムイオンである場合には、カルシウム結合モチーフを形成するアミノ酸であれば、その種類は問わない。カルシウム結合モチーフは、当業者に周知であり、詳細に記載されている(例えばSpringerら(Cell (2000) 102, 275-277)、KawasakiおよびKretsinger(Protein Prof. (1995) 2, 305-490)、Moncriefら(J. Mol. Evol. (1990) 30, 522-562)、Chauvauxら(Biochem. J. (1990) 265, 261-265)、BairochおよびCox(FEBS Lett. (1990) 269, 454-456)、Davis(New Biol. (1990) 2, 410-419)、Schaeferら(Genomics (1995) 25, 638~643)、Economouら(EMBO J. (1990) 9, 349-354)、Wurzburgら(Structure. (2006) 14, 6, 1049-1058))。すなわち、ASGPR, CD23、MBR、DC-SIGN等のC型レクチン等の任意の公知のカルシウム結合モチーフが、本発明の抗原結合分子に含まれ得る。このようなカルシウム結合モチーフの好適な例として、上記のほかには配列番号:45に記載される抗原結合ドメインに含まれるカルシウム結合モチーフも挙げられ得る。
【0089】
また、本発明の抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインのカルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性を変化させるアミノ酸の例として、金属キレート作用を有するアミノ酸も好適に用いられ得る。金属キレート作用を有するアミノ酸の例として、例えばセリン(Ser(S))、スレオニン(Thr(T))、アスパラギン(Asn(N))、グルタミン(Gln(Q))、アスパラギン酸(Asp(D))およびグルタミン酸(Glu(E))等が好適に挙げられる。
【0090】
前記のアミノ酸が含まれる抗原結合ドメインの位置は特定の位置に限定されず、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる限り、抗原結合ドメインを形成する重鎖可変領域または軽鎖可変領域中のいずれの位置でもあり得る。非限定な一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が重鎖の抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。また、非限定な別の一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が重鎖のCDR3に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が重鎖のCDR3のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/または101位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
【0091】
また、本発明の非限定な一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が軽鎖の抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。また、非限定な別の一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が軽鎖のCDR1に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が軽鎖のCDR1のKabatナンバリングで表される30位、31位および/または32位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
【0092】
また、別の非限定な一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの非限定な一態様では、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2のKabatナンバリングで表される50位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリが提供される。
【0093】
さらに別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3のKabatナンバリングで表される92位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
【0094】
また、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が、前記に記載された軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3から選択される2つまたは3つのCDRに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから本発明の異なる態様として取得され得る。さらに、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のKabatナンバリングで表される30位、31位、32位、50位および/または92位のいずれかひとつ以上に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
【0095】
特に好適な実施形態では、抗原結合分子の軽鎖および/または重鎖可変領域のフレームワーク配列は、ヒトの生殖細胞系フレームワーク配列を有していることが望ましい。したがって、本発明の一態様においてフレームワーク配列が完全にヒトの配列であるならば、ヒトに投与(例えば疾病の治療)された場合、本発明の抗原結合分子は免疫原性反応を殆どあるいは全く引き起こさないと考えられる。上記の意味から、本発明における「生殖細胞系列の配列を含む 」とは、本発明におけるフレームワーク配列の一部が、いずれかのヒトの生殖細胞系フレームワーク配列の一部と同一であることを意味する。例えば、本発明の抗原結合分子の重鎖FR2の配列が複数の異なるヒトの生殖細胞系フレームワーク配列の重鎖FR2配列が組み合わされた配列である場合も、本発明における「生殖細胞系列の配列を含む」抗原結合分子である。
【0096】
フレームワークの例としては、例えばV-Base(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)等のウェブサイトに含まれている、現在知られている完全にヒト型のフレームワーク領域の配列が好適に挙げられる。 これらのフレームワーク領域の配列が本発明の抗原結合分子に含まれる生殖細胞系列の配列として適宜使用され得る。生殖細胞系列の配列はその類似性にもとづいて分類され得る(Tomlinsonら(J. Mol. Biol. (1992) 227, 776-798)WilliamsおよびWinter(Eur. J. Immunol. (1993) 23, 1456-1461)およびCoxら(Nat. Genetics (1994) 7, 162-168))。 7つのサブグループに分類されるVκ、10のサブグループに分類されるVλ、7つのサブグループに分類されるVHから好適な生殖細胞系列の配列が適宜選択され得る。
【0097】
完全にヒト型のVH配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVH1サブグループ(例えば、VH1-2、VH1-3、VH1-8、VH1-18、VH1-24、VH1-45、VH1-46、VH1-58、VH1-69)、VH2サブグループ(例えば、VH2-5、VH2-26、VH2-70)、VH3サブグループ(VH3-7、VH3-9、VH3-11、VH3-13、VH3-15、VH3-16、VH3-20、VH3-21、VH3-23、VH3-30、VH3-33、VH3-35、VH3-38、VH3-43、VH3-48、VH3-49、VH3-53、VH3-64、VH3-66、VH3-72、VH3-73、VH3-74)、VH4サブグループ(VH4-4、VH4-28、VH4-31、VH4-34、VH4-39、VH4-59、VH4-61)、VH5サブグループ(VH5-51)、VH6サブグループ(VH6-1)、VH7サブグループ(VH7-4、VH7-81)のVH配列等が好適に挙げられる。これらは公知文献(Matsudaら(J. Exp. Med. (1998) 188, 1973-1975))等にも記載されており、当業者はこれらの配列情報をもとに本発明の抗原結合分子を適宜設計することが可能である。これら以外の完全にヒト型のフレームワークまたはフレームワークの準領域も好適に使用され得る。
【0098】
完全にヒト型のVκ配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVk1サブグループに分類されるA20、A30、L1、L4、L5、L8、L9、L11、L12、L14、L15、L18、L19、L22、L23、L24、O2、O4、O8、O12、O14、O18、Vk2サブグループに分類されるA1、A2、A3、A5、A7、A17、A18、A19、A23、O1、O11、Vk3サブグループに分類されるA11、A27、L2、L6、L10、L16、L20、L25、Vk4サブグループに分類されるB3、Vk5サブグループに分類されるB2(本明細書においてはVk5-2とも指称される))、Vk6サブグループに分類されるA10、A14、A26等(Kawasakiら(Eur. J. Immunol. (2001) 31, 1017-1028)、SchableおよびZachau(Biol. Chem. Hoppe Seyler (1993) 374, 1001-1022)およびBrensing-Kuppersら(Gene (1997) 191, 173-181))が好適に挙げられる。
【0099】
完全にヒト型のVλ配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVL1サブグループに分類されるV1-2、V1-3、V1-4、V1-5、V1-7、V1-9、V1-11、V1-13、V1-16、V1-17、V1-18、V1-19、V1-20、V1-22、VL1サブグループに分類されるV2-1、V2-6、V2-7、V2-8、V2-11、V2-13、V2-14、V2-15、V2-17、V2-19、VL3サブグループに分類されるV3-2、V3-3、V3-4、VL4サブグループに分類されるV4-1、V4-2、V4-3、V4-4、V4-6、VL5サブグループに分類されるV5-1、V5-2、V5-4、V5-6等(Kawasakiら(Genome Res. (1997) 7, 250-261))が好適に挙げられる。
【0100】
通常これらのフレームワーク配列は一またはそれ以上のアミノ酸残基の相違により互いに異なっている。これらのフレームワーク配列は本発明における「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」と共に使用され得る。本発明における「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」と共に使用される完全にヒト型のフレームワークの例としては、これだけに限定されるわけではないが、ほかにもKOL、NEWM、REI、EU、TUR、TEI、LAY、POM等が挙げられる(例えば、前記のKabatら (1991)およびWuら(J. Exp. Med. (1970) 132, 211-250))。
【0101】
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、生殖細胞系の配列の使用がほとんどの個人において有害な免疫反応を排除すると期待されている一つの理由は、以下のとおりであると考えられている。通常の免疫反応中に生じる親和性成熟ステップの結果、免疫グロブリンの可変領域に体細胞の突然変異が頻繁に生じる。これらの突然変異は主にその配列が超可変的であるCDRの周辺に生じるが、フレームワーク領域の残基にも影響を及ぼす。これらのフレームワークの突然変異は生殖細胞系の遺伝子には存在せず、また患者の免疫原性になる可能性は少ない。一方、通常のヒトの集団は生殖細胞系の遺伝子によって発現されるフレームワーク配列の大多数にさらされており、免疫寛容の結果、これらの生殖細胞系のフレームワークは患者において免疫原性が低いあるいは非免疫原性であると予想される。免疫寛容の可能性を最大にするため、可変領域をコード化する遺伝子が普通に存在する機能的な生殖細胞系遺伝子の集合から選択され得る。
【0102】
本発明の、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が前記の可変領域配列の配列、重鎖可変領域または軽鎖可変領域の配列、もしくはCDR配列またはフレームワーク配列に含まれる抗原結合分子を作製するために部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。
【0103】
例えば、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が予め含まれているフレームワーク配列として選択された軽鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域と組み合わせることによって本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:45(Vk5-2)に記載された軽鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。
【0104】
また、前記のカルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が予め含まれているフレームワーク配列として選択された軽鎖可変領域の配列に、当該アミノ酸残基以外の残基として多様なアミノ酸が含まれるように設計することも可能である。本発明においてそのような残基は、フレキシブル残基と指称される。本発明の抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、配列番号:45(Vk5-2)に記載された軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表1または表2に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
本明細書においては、フレキシブル残基とは、公知のかつ/または天然抗体または抗原結合ドメインのアミノ酸配列を比較した場合に、その位置で提示されるいくつかの異なるアミノ酸を持つ軽鎖および重鎖可変領域上のアミノ酸が非常に多様である位置に存在するアミノ酸残基のバリエーションをいう。非常に多様である位置は一般的にCDR領域に存在する。一態様では、公知のかつ/または天然抗体の非常に多様な位置を決定する際には、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institute of Health Bethesda Md.) (1987年および1991年)が提供するデータが有効である。また、インターネット上の複数のデータベース(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/、http://www.bioinf.org.uk/abs/index.html)では収集された多数のヒト軽鎖および重鎖の配列とその配置が提供されており、これらの配列とその配置の情報は本発明における非常に多様な位置の決定に有用である。本発明によると、アミノ酸がある位置で好ましくは約2から約20、好ましくは約3から約19、好ましくは約4から約18、好ましくは5から17、好ましくは6から16、好ましくは7から15、好ましくは8から14、好ましくは9から13、好ましくは10から12個の可能な異なるアミノ酸残基の多様性を有する場合は、その位置は非常に多様といえる。いくつかの実施形態では、あるアミノ酸位置は、好ましくは少なくとも約2、好ましくは少なくとも約4、好ましくは少なくとも約6、好ましくは少なくとも約8、好ましくは約10、好ましくは約12の可能な異なるアミノ酸残基の多様性を有し得る。
【0108】
また、前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによっても、本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:46(Vk1)、配列番号:47(Vk2)、配列番号:48(Vk3)、配列番号:49(Vk4)等の生殖細胞系列の特定の残基が、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基に置換された軽鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として軽鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。
【0109】
前記のように、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR1中のEUナンバリングで表される30位、31位、および/または32位のアミノ酸残基が挙げられる。また、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位のアミノ酸残基が挙げられる。さらに、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される92位のアミノ酸残基が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、カルシウム結合モチーフを形成し、および/または、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。また、複数個のカルシウムイオン結合部位を有し、分子進化上共通の起源から由来したと考えられるトロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等が知られており、その結合モチーフが含まれるように軽鎖CDR1、CDR2および/またはCDR3を設計することも可能である。例えば、上記の目的でカドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、Protein kinase Cに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質FactorIXに含まれるGlaドメイン、アシアログライコプロテインレセプターやマンノース結合レセプターに含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメインおよびEGF様ドメインが適宜使用され得る。
【0110】
前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該軽鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表1または表2に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。
【0111】
組み合わされる重鎖可変領域の例として、ランダム化可変領域ライブラリが好適に挙げられる。ランダム化可変領域ライブラリの作製方法は公知の方法が適宜組み合わされる。本発明の非限定な一態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者やワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、癌患者、自己免疫疾患のリンパ球由来の抗体遺伝子をもとに構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。
【0112】
また、本発明の非限定な一態様では、ゲノムDNA におけるV 遺伝子や再構築され機能的なV遺伝子のCDR配列が、適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、重鎖のCDR3の遺伝子配列の多様性が観察されることから、CDR3の配列のみを置換することもまた可能である。抗原結合分子の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す基準は、抗原結合分子の表面に露出した位置のアミノ酸残基に多様性を持たせることである。表面に露出した位置とは、抗原結合分子の構造、構造アンサンブル、および/またはモデル化された構造にもとづいて、表面露出が可能、かつ/または抗原との接触が可能と判断される位置のことをいうが、一般的にはそのCDRである。好ましくは、表面に露出した位置は、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗原結合分子の3次元モデルからの座標を使って決定される。表面に露出した位置は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、LeeおよびRichards(J.Mol.Biol. (1971) 55, 379-400)、Connolly(J.Appl.Cryst. (1983) 16, 548-558))を使用して決定され得る。表面に露出した位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が好適に挙げられる。一般的に、また好ましくは、アルゴリズムがユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した表面に露出した領域およびエリアの決定法が、Pacios(Comput.Chem. (1994) 18 (4), 377-386およびJ.Mol.Model. (1995) 1, 46-53)に記載されている。
【0113】
さらに、本発明の非限定な一態様では、健常人のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列からなるナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして特に好適に使用され得る(Gejimaら(Human Antibodies (2002) 11,121-129)およびCardosoら(Scand. J. Immunol. (2000) 51, 337-344))。本発明で記載されるナイーブ配列を含むアミノ酸配列とは、このようなナイーブライブラリから取得されるアミノ酸配列をいう。
【0114】
本発明の一つの態様では、「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が予め含まれているフレームワーク配列として選択された重鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域とを組み合わせることによって本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリから、本発明の抗原結合ドメインが取得され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:50(6RL#9-IgG1)または配列番号:51(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。また、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域の代わりに、生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域の中から適宜選択することによって作製され得る。例えば、配列番号:50(6RL#9-IgG1)または配列番号:51(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列と生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。
【0115】
また、前記の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が予め含まれているフレームワーク配列として選択された重鎖可変領域の配列に、フレキシブル残基が含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、配列番号:50(6RL#9-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、重鎖CDR1およびCDR2の全てのアミノ酸残基のほか重鎖CDR3の95位、96位および/または100a位以外のCDR3のアミノ酸残基が挙げられる。または配列番号:51(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、重鎖CDR1およびCDR2の全てのアミノ酸残基のほか重鎖CDR3の95位および/または101位以外のCDR3のアミノ酸残基もまた挙げられる。
【0116】
また、前記の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された重鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせることによっても、複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、重鎖可変領域の特定の残基が、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基に置換された重鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。当該アミノ酸残基の非限定な例として重鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として重鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として重鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。当該アミノ酸残基が重鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、重鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/または101位のアミノ酸が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、カルシウム結合モチーフを形成し、および/または、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。
【0117】
前記の、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された重鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該重鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。また、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基以外の重鎖可変領域のCDR1、CDR2および/またはCDR3のアミノ酸配列としてランダム化可変領域ライブラリも好適に使用され得る。軽鎖可変領域として生殖細胞系列の配列が用いられる場合には、例えば、配列番号:46(Vk1)、配列番号:47(Vk2)、配列番号:48(Vk3)、配列番号:49(Vk4)等の生殖細胞系列の配列が非限定な例として挙げられ得る。
【0118】
前記の、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸としては、カルシウム結合モチーフを形成する限り、いずれのアミノ酸も好適に使用され得るが、そのようなアミノ酸としては具体的に電子供与性を有するアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸が好適に例示される。
【0119】
また、本発明の「イオン濃度の条件」として、例えば「pHの条件」を挙げることもできる。pHの条件は、水素イオン濃度の条件ということもできる。本発明で、プロトンすなわち水素原子の原子核の濃度の条件は、水素指数(pH)の条件とも同義に取り扱われる。水溶液中の水素イオンの活動量をaH+で表すと、pHは-log10aH+と定義される。水溶液中のイオン強度が(例えば10-3より)低ければ、aH+は水素イオン強度にほぼ等しい。例えば25℃、1気圧における水のイオン積はKw=aH+aOH=10-14であるため、純水ではaH+=aOH=10-7である。この場合のpH=7が中性であり、pHが7より小さい水溶液は酸性、pHが7より大きい水溶液はアルカリ性である。
【0120】
本発明においては、イオン濃度の条件としてpHの条件が用いられる場合には、pHの条件として高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件が挙げられる。本発明の抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性がpHの条件によって結合活性が変化するとは、高水素イオン濃度または低pH(pH酸性域)と低水素イオン濃度または高pH(pH中性域)の条件の違いによって抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性が変化することをいう。例えば、pH酸性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH中性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合が挙げられる。また、pH中性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH酸性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合もまた挙げられる。
【0121】
本明細書において、pH中性域とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適にはpH6.7からpH10.0の間から選択され得る。また、別の態様では、pH6.7からpH9.5の間から選択され得る。また、異なる態様ではpH7.0からpH9.0の間から選択され得るし、ほかの態様ではpH7.0からpH8.0の間から選択され得る。特に生体内の血漿中(血中)でのpHに近いpH7.4が好適に挙げられる。
【0122】
本明細書において、pH酸性域とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適にはpH4.0からpH6.5の間から選択され得る。また、別の態様では、pH4.5からpH6.5の間から選択され得る。また、異なる態様ではpH5.0からpH6.5の間から選択され得るし、ほかの態様ではpH5.5からpH6.5の間から選択され得る。特に生体内の早期エンドソーム内でのイオン化カルシウム濃度に近いpH5.8が好適に挙げられる。
【0123】
本発明において、高水素イオン濃度または低pH(pH酸性域)の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pH(pH中性域)の条件下における抗原に対する結合活性より低いとは、本発明の抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子のpH4.0からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH10.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。好ましくは、本発明の抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子のpH4.5からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH9.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味し、より好ましくは、抗原結合分子のpH5.0からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH7.0からpH9.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。また、好ましくは抗原結合分子のpH5.5からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH7.0からpH8.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHにおける抗原結合活性が、生体内の血漿中のpHにおける抗原結合活性より弱いことを意味し、具体的には、抗原結合分子のpH5.8での抗原に対する結合活性が、pH7.4での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。
【0124】
pHの条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の結合活性が変化しているか否かは、例えば前記の結合活性の項で記載されたような公知の測定方法を使用することによって決定され得る。例えば、当該測定方法に際して異なるpHの条件下での結合活性が測定される。例えば、pH酸性域の条件下における抗原に対する抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の結合活性よりもpH中性域の条件下における抗原に対する前記ドメインまたは前記の結合活性の方が高く変化することを確認するためには、pH酸性域およびpH中性域の条件下における抗原に対する前記ドメインまたは前記分子の結合活性が比較される。
【0125】
さらに本発明において、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性より低い」という表現は、抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性よりも高いと表現することもできる。なお本発明においては、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性より低い」を「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合能よりも弱い」と記載する場合もあり、また、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性より低下させる」を「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
【0126】
抗原に対する結合活性を測定する際の水素イオン濃度またはpH以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、HEPESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子と抗原との結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合活性を評価することが可能である。
本発明の抗原結合分子において、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも弱い限り、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対する高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件におけるKD(Dissociation constant:解離定数)と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件におけるKDの比であるKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が40以上である。KD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
【0127】
また、本発明の抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)もまた好適に用いられ得る。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対する高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件におけるkd(解離速度定数)と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件におけるkd(解離速度定数)の比であるkd(pH酸性域の条件における)/kd(pH中性域の条件における)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。Kd(pH酸性域の条件における)/kd(pH中性域の条件における)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
【0128】
抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。なお本発明において、異なる水素イオン濃度すなわちpHにおける抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の抗原に対する結合活性を測定する際は、水素イオン濃度すなわちpH以外の条件は同一とすることが好ましい。
【0129】
例えば、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子のスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH酸性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(b) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(c) pH酸性域の条件における抗原結合活性が、pH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を選択する工程。
【0130】
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子もしくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗原結合分子をpH酸性域の条件に置く工程、
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を単離する工程。
【0131】
また、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子若しくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0132】
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(c)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムにpH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH酸性域の条件でカラムから溶出する工程、
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0133】
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムにpH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0134】
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)~(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) pH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH酸性域の条件に置く工程、
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
【0135】
なお、前記の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明によって、上述のスクリーニング方法において、(a)~(c)あるいは(a)~(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含むスクリーニング方法によって取得されたpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子が提供される。(a)~(c)あるいは(a)~(d)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0136】
本発明のスクリーニング方法において、高水素イオン濃度条件または低pHすなわちpH酸性域における抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、pHが4.0~6.5の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとして、pHが4.5~6.6の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが5.0~6.5の間の抗原結合活性、さらにpHが5.5~6.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の早期エンドソーム内のpHが挙げられ、具体的にはpH5.8における抗原結合活性を挙げることができる。また、低水素イオン濃度条件または高pHすなわちpH中性域における抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、pHが6.7~10の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとしてpHが6.7~9.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが7.0~9.5の間の抗原結合活性、さらにpHが7.0~8.0の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の血漿中でのpHを挙げることができ、具体的にはpHが7.4における抗原結合活性を挙げることができる。
【0137】
抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、イオン化カルシウム濃度以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度定数)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度定数)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
【0138】
本発明において、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程は、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程と同じ意味である。
【0139】
低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い限り、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性と高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくは低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
【0140】
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の水素イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性を変化させる抗原結合ドメイン又は抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗原結合分子、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリに側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリ(側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である。
【0141】
動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗原結合ドメインまたは抗原結合分子から、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を取得する方法として、例えば、国際公開WO2009/125825で記載されるような抗原結合ドメインまたは抗原結合分子中のアミノ酸の少なくとも一つが、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異に置換されているもしくは抗原結合ドメインまたは抗原結合分子中に、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入されている抗原結合分子または抗原結合分子が好適に挙げられる。
【0142】
側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異が導入される位置は特に限定されず、置換または挿入前と比較してpH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より弱くなる(KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値が大きくなる、又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなる)限り、如何なる部位でもよい。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域やCDRなどが好適に挙げられる。側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸に置換されるアミノ酸の数、又は挿入されるアミノ酸の数は当業者が適宜決定することができ、側鎖のpKaが4.0-8.0である1つのアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸によって置換され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である1つのアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である2つ以上の複数のアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸によって置換され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である2つ以上のアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入され得る。又、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換又は側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の挿入以外に、他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換などが同時に行われ得る。側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換又は側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の挿入は、当業者の公知のアラニンscanningのアラニンをヒスチジン等に置き換えたヒスチジン等scanning等の方法によってランダムに行われ得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換または挿入の変異がランダムに導入された抗原結合ドメインまたは抗体の中から、変異前と比較してKD(pH酸性域)/KD(pH中性域)又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなった抗原結合分子が選択され得る。
【0143】
前記のようにその側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異が行われ、かつpH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい例として、例えば、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異後のpH中性域での抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異前のpH中性域での抗原結合活性と同等である抗原結合分子が好適に挙げられる。本発明において、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後の抗原結合分子が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前の抗原結合分子と同等の抗原結合活性を有するとは、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前の抗原結合分子の抗原結合活性を100%とした場合に、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後の抗原結合分子の抗原結合活性が少なくとも10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることをいう。その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後のpH7.4での抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前のpH7.4での抗原結合活性より高くなってもよい。その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換または挿入により抗原結合分子の抗原結合活性が低くなった場合には、抗原結合分子中の1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などによって、抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換又は挿入前の抗原結合活性と同等にされ得る。本発明においては、そのような側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換又は挿入後に1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入を行うことによって結合活性が同等となった抗原結合分子も含まれる。
【0144】
本発明の一つの態様として、「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによっても、本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。
【0145】
当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として軽鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。
【0146】
前記のように、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR1中のKabatナンバリングで表される24位、27位、28位、31位、32位および/または34位のアミノ酸残基が挙げられる。また、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位、51位、52位、53位、54位、55位および/または56位のアミノ酸残基が挙げられる。さらに、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される89位、90位、91位、92位、93位、94位および/または95A位のアミノ酸残基が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。
【0147】
前記の「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該軽鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、水素イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表3または表4に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。また、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基やフレキシブル残基以外の軽鎖可変領域のアミノ酸配列としては、非限定な例としてVk1(配列番号:46)、Vk2(配列番号:47)、Vk3(配列番号:48)、Vk4(配列番号:49)等の生殖細胞系列の配列が好適に使用され得る。
【0148】
【表3】
【0149】
【表4】
【0150】
前記の、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基としては、いずれのアミノ酸残基も好適に使用され得るが、そのようなアミノ酸残基としては、具体的に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、ヒスチジンまたはグルタミン酸等の天然のアミノ酸のほか、ヒスチジンアナログ(US2009/0035836)もしくはm-NO2-Tyr(pKa 7.45)、3,5-Br2-Tyr(pKa 7.21)または3,5-I2-Tyr(pKa 7.38)等の非天然のアミノ酸(Bioorg. Med. Chem. (2003) 11 (17), 3761-3768が好適に例示される。また、当該アミノ酸残基の特に好適な例としては、側鎖のpKaが6.0-7.0であるアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、ヒスチジンが好適に例示される。
【0151】
組み合わされる重鎖可変領域の例として、ランダム化可変領域ライブラリが好適に挙げられる。ランダム化可変領域ライブラリの作製方法は公知の方法が適宜組み合わされる。本発明の非限定な一態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者やワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、癌患者、自己免疫疾患のリンパ球由来の抗体遺伝子をもとに構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。
【0152】
また、本発明の非限定な一態様では、前記と同様に、ゲノムDNAにおけるV遺伝子や再構築され機能的なV遺伝子のCDR配列が、適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、重鎖のCDR3の遺伝子配列の多様性が観察されることから、CDR3の配列のみを置換することもまた可能である。抗原結合分子の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す基準は、抗原結合分子の表面に露出した位置のアミノ酸残基に多様性を持たせることである。表面に露出した位置とは、抗原結合分子の構造、構造アンサンブル、および/またはモデル化された構造にもとづいて、表面に露出が可能、かつ/または抗原との接触が可能と判断される位置のことをいうが、一般的にはそのCDRである。好ましくは、表面に露出した位置は、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗原結合分子の3次元モデルからの座標を使って決定される。表面に露出した位置は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、LeeおよびRichards(J. Mol. Biol. (1971) 55, 379-400)、Connolly(J. Appl. Cryst. (1983) 16, 548-558))を使用して決定され得る。表面に露出した位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が好適に挙げられる。一般的に、また好ましくは、アルゴリズムがユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した表面に露出した領域およびエリアの決定法が、Pacios(Comput. Chem. (1994) 18 (4), 377-386およびJ. Mol. Model. (1995) 1, 46-53)に記載されている。
【0153】
さらに、本発明の非限定な一態様では、健常人のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列からなるナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして特に好適に使用され得る(Gejimaら(Human Antibodies (2002) 11,121-129)およびCardosoら(Scand. J. Immunol. (2000) 51, 337-344))。
【0154】
また、更にpH酸性域の条件下におけるヒトFcRn結合活性を増強させるためのアミノ酸改変を組み合わせることができる。より具体的には、例えば、pH酸性域の条件下におけるヒトFcRn結合活性を増強させるために用いられる改変としては、IgG抗体のEUナンバリングで表される428位のMetをLeuに置換し、434位のAsnをSerに置換する方法(Nat Biotechnol, 2010 28:157-159.)、434位のAsnをAlaに置換する方法(Drug Metab Dispos. 2010 Apr;38(4):600-5.)、252位のMetをTyrに置換し、254位のSerをThrに置換し、256位のThrをGluに置換する方法(J Biol Chem, 2006, 281:23514-23524)、250位のThrをGlnに置換し、428位のMetをLeuに置換する方法(J Immunol. 2006, 176(1):346-56)、434位のAsnをHisに置換する方法(Clinical Pharmacology & Therapeutics (2011) 89(2):283-290.)、ならびにWO2010106180、WO2010045193、WO2009058492、 WO2008022152、WO2006050166、WO2006053301、WO2006031370、WO2005123780、WO2005047327、WO2005037867、WO2004035752、WO2002060919などにおいて記載されるような改変を用いることによっても実施が可能であると考えられる。
【0155】
また、近年、ヒト化抗CD4抗体に対して、pH酸性域の条件下においてヒトFcRnに対する結合活性を増強し、血漿中滞留性を向上させるために、EUナンバリングで表される434位のAsnをHisに置換した抗体分子が、リウマチ因子(Rheumatiod factor、RF)に対して結合することが報告された(Clin Pharmacol Ther. 2011 Feb;89(2):283-90)。この抗体はヒトIgG1のFc領域を有しているが、FcRnに対する結合部位に位置する434位のAsnをHisに置換することにより、その置換箇所を認識するリウマチ因子が結合することが示されている。
【0156】
上述の通り、pH酸性域の条件下においてヒトFcRnに対する結合活性を増強するための改変として、様々なものが報告されているが、これらの改変をFc領域の中のFcRn結合部位に導入することによって、当該部位を認識するリウマチ因子に対する結合性を増強してしまう可能性がある。
しかしながら、Fc領域の当該部位に、FcRnに対する結合活性を低下させることなく、リウマチ因子に対する結合活性のみを低下させる改変を導入することにより、リウマチ因子に対する結合性を持たずにpH酸性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を増強させた抗原結合分子を作製することが可能である。
【0157】
そのような、リウマチ因子に対する結合活性を低下させる改変としては、EUナンバリングによって表される248-257, 305-314, 342-352, 380-386, 388, 414-421, 423, 425-437, 439, 441-444位への改変が用いられる。好ましくは、387, 422, 424, 426, 433, 436, 438, 440位への改変が好ましく用いられる。特に好ましくは、422位のValをGluまたはSerに置換する改変、424位のSerをArgに置換する改変、433位のHisをAspに置換する改変、436位のTyrをThrへ置換する改変、438位のGlnをArgまたはLysに置換する改変、440位のSerをGluまたはAspに置換する改変が用いられる。これらの改変は、単独で用いられても良いし、複数箇所を組み合わせて用いても良い。
【0158】
あるいは、リウマチ因子に対する結合活性を低下させるために、当該部位にN型糖鎖の付加配列を導入しても良い。具体的には、N型糖鎖付加配列としてAsn-Xxx-Ser/Thr(XxxはProを除く任意のアミノ酸)が知られているが、この配列をFc領域の当該部位に導入することによりN型糖鎖を付加させ、N型糖鎖の立体障害によってRFとの結合を阻害することが可能である。N型糖鎖を付加するための改変として、好ましくは、248位のLysをAsnに置換する改変、424位のSerをAsnに置換する改変、436位のTyrをAsnに置換し438位のGlnをThrに置換する改変、438位のGlnをAsnに置換する改変が用いられる。特に好ましくは、424位のSerをAsnに置換する改変が用いられる。
【0159】
本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドの好ましい例として、IgG抗体のように少なくとも1つの会合している2つのFc領域改変体が含まれるポリペプチドを挙げることができる。抗体としてIgG抗体を用いる場合、その定常領域の種類は限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのアイソタイプ(サブクラス)のIgGを用いることが可能である。本発明のIgG抗体は、好ましくはヒトIgGであり、さらに好ましくはヒトIgG1、ヒトIgG4であり、ヒトIgG1及びヒトIgG4の重鎖定常領域のアミノ酸配列は公知である。ヒトIgG1定常領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。
【0160】
本発明においてアミノ酸の改変とは、置換、欠損、付加、挿入あるいは修飾のいずれか、又はそれらの組み合わせを意味する。本発明においては、アミノ酸の改変はアミノ酸の変異と言い換えることが可能であり、同じ意味で使用される。
アミノ酸残基を置換する場合には、別のアミノ酸残基に置換することで、例えば次の(a)~(c)のような点について改変することを目的とする。
(a) シート構造、若しくは、らせん構造の領域におけるポリペプチドの背骨構造;
(b) 標的部位における電荷若しくは疎水性、または
(c) 側鎖の大きさ。
【0161】
アミノ酸残基は一般の側鎖の特性に基づいて以下のグループに分類される:
(1) 疎水性: ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2) 中性親水性: cys、ser、thr、asn、gln;
(3) 酸性: asp、glu;
(4) 塩基性: his、lys、arg;
(5) 鎖の配向に影響する残基: gly、pro;及び
(6) 芳香族性: trp、tyr、phe。
【0162】
これらの各グループ内でのアミノ酸残基の置換は保存的置換と呼ばれ、一方、他グループ間同士でのアミノ酸残基の置換は非保存的置換と呼ばれる。本発明における置換は、保存的置換であってもよく、非保存的置換であってもよく、また保存的置換と非保存的置換の組合せであってもよい。
【0163】
アミノ酸配列の改変は、当分野において公知の種々の方法により調製される。これらの方法には、次のものに限定されるわけではないが、部位特異的変異誘導法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)、PCR変異法、カセット変異法等の方法により行うことができる。
【0164】
本発明のアミノ酸の修飾には、翻訳後修飾が含まれる。具体的な翻訳後修飾として、糖鎖の付加あるいは欠損を示すことができる。たとえば、配列番号:31に記載のアミノ酸配列からなるIgG1定常領域において、EUナンバリングの297番目のアミノ酸残基は、糖鎖で修飾されたものであることができる。修飾される糖鎖構造は限定されない。一般的に、真核細胞で発現される抗体は、定常領域に糖鎖修飾を含む。したがって、以下のような細胞で発現される抗体は、通常、何らかの糖鎖で修飾される。
・哺乳動物の抗体産生細胞
・抗体をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換された真核細胞
【0165】
ここに示した真核細胞には、酵母や動物細胞が含まれる。たとえばCHO細胞やHEK293H細胞は、抗体をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換するための代表的な動物細胞である。他方、当該位置に糖鎖修飾が無いものも本発明の定常領域に含まれる。定常領域が糖鎖で修飾されていない抗体は、抗体をコードする遺伝子を大腸菌などの原核細胞で発現させて得ることができる。
【0166】
より具体的には、例えばFc領域の糖鎖にシアル酸を付加したものであってもよい(MAbs. 2010 Sep-Oct;2(5):519-27.)。
【0167】
さらに、本発明は上述のいずれかに記載のFc領域改変体を含む抗体を提供する。
【0168】
本発明における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、抗体変異体、抗体断片、多特異性抗体(多重特異性抗体)(例えば、二特異性抗体(二重特異性抗体))、キメラ抗体、ヒト化抗体等、如何なる抗体も含まれる。
【0169】
本発明の抗体は、抗原の種類、抗体の由来などは限定されず、いかなる抗体でもよい。抗体の由来としては、特に限定されないが、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体などを挙げることができる。
【0170】
抗体を作製する方法は当業者によく知られているが、例えばモノクローナル抗体の場合ハイブリドーマ法(Kohler and Milstein, Nature 256:495 (1975))、組換え方法(米国特許第4,816,567号)により製造してもよい。また、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい(Clackson et al., Nature 352:624-628 (1991) ; Marks et al., J.Mol.Biol. 222:581-597 (1991))。
【0171】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。
【0172】
3つのCDRと4つのFRが連結された抗体可変領域をコードするDNAとヒト抗体定常領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト化抗体発現用ベクターが作成できる。該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP 239400、国際公開WO1996/002576参照)。
【0173】
必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。
【0174】
ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。
【0175】
さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
【0176】
本発明の抗体を構成する可変領域は、任意の抗原を認識する可変領域であることが出来る。
【0177】
本明細書において抗原は特に限定されず、どのような抗原でもよい。抗原の例としては、例えば、リガンド(サイトカイン、ケモカインなど)、受容体、癌抗原、MHC抗原、分化抗原、免疫グロブリンおよび免疫グロブリンを一部に含む免疫複合体が好適に挙げられる。
【0178】
サイトカインの例としては、インターロイキン1~18、コロニー刺激因子(G-CSF、M-CSF、GM-CSFなど)、インターフェロン(IFN-α、IFN-β、IFN-γ、など)、成長因子(EGF、FGF、IGF、NGF、PDGF、TGF、HGFなど)、腫瘍壊死因子(TNF-α、TNF-β)、リンホトキシン、エリスロポエチン、レプチン、SCF、TPO、MCAF、BMPを挙げることができる。
ケモカインの例としては、CCL1~CCL28などのCCケモカイン、CXCL1~CXCL17などのCXCケモカイン、XCL1~XCL2などのCケモカイン、CX3CL1などのCX3Cケモカインを挙げることができる。
【0179】
受容体の例としては、例えば、造血因子受容体ファミリー、サイトカイン受容体ファミリー、チロシンキナーゼ型受容体ファミリー、セリン/スレオニンキナーゼ型受容体ファミリー、TNF受容体ファミリー、Gタンパク質共役型受容体ファミリー、GPIアンカー型受容体ファミリー、チロシンホスファターゼ型受容体ファミリー、接着因子ファミリー、ホルモン受容体ファミリー、等の受容体ファミリーに属する受容体などを挙げることができる。これら受容体ファミリーに属する受容体、及びその特徴に関しては、多数の文献、例えば、Cooke BA., King RJB., van der Molen HJ. ed. New Comprehesive Biochemistry Vol.18B "Hormones and their Actions Part II" pp.1-46 (1988) Elsevier Science Publishers BV.、Patthy(Cell (1990) 61 (1), 13-14)、Ullrichら(Cell (1990) 61 (2), 203-212)、Massague(eにはアキュート・アクセント記号が付く)(Cell (1992) 69 (6), 1067-1070)、Miyajimaら(Annu. Rev. Immunol. (1992) 10, 295-331)、Tagaら(FASEB J. (1992) 6, 3387-3396)、Fantlら(Annu. Rev. Biochem. (1993), 62, 453-481)、Smithら(Cell (1994) 76 (6) 959-962)、Flower DR.(Biochim. Biophys. Acta (1999) 1422 (3) 207-234)等に記載されている。
【0180】
上記受容体ファミリーに属する具体的な受容体としては、例えば、ヒト又はマウスエリスロポエチン(EPO)受容体(Blood (1990) 76 (1), 31-35、Cell (1989) 57 (2), 277-285)、ヒト又はマウス顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1990) 87 (22), 8702-8706、mG-CSFR、Cell (1990) 61 (2), 341-350)、ヒト又はマウストロンボポイエチン(TPO)受容体(Proc Natl Acad Sci U S A. (1992) 89 (12), 5640-5644、EMBO J. (1993) 12(7), 2645-53)、ヒト又はマウスインスリン受容体(Nature (1985) 313 (6005), 756-761)、ヒト又はマウスFlt-3リガンド受容体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1994) 91 (2), 459-463)、ヒト又はマウス血小板由来増殖因子(PDGF)受容体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1988) 85 (10) 3435-3439)、ヒト又はマウスインターフェロン(IFN)-α、β受容体(Cell (1990) 60 (2), 225-234.及びCell (1994) 77 (3), 391-400)、ヒト又はマウスレプチン受容体、ヒト又はマウス成長ホルモン(GH)受容体、ヒト又はマウスインターロイキン(IL)-10受容体、ヒト又はマウスインスリン様増殖因子(IGF)-I受容体、ヒト又はマウス白血病抑制因子(LIF)受容体、ヒト又はマウス毛様体神経栄養因子(CNTF)受容体等が好適に例示される。
【0181】
癌抗原は細胞の悪性化に伴って発現する抗原であり、腫瘍特異性抗原とも呼ばれる。又、細胞が癌化した際に細胞表面やタンパク質分子上に現れる異常な糖鎖も癌抗原であり、癌糖鎖抗原とも呼ばれる。癌抗原の例としては、例えば、上記の受容体としてGPIアンカー型受容体ファミリーに属するが肝癌を初めとする幾つかの癌において発現しているGPC3(Int J Cancer. (2003) 103 (4), 455-65)、肺癌を初めとする複数の癌で発現するEpCAM(Proc Natl Acad Sci U S A. (1989) 86 (1), 27-31)、CA19-9、CA15-3、シリアルSSEA-1(SLX)等が好適に挙げられる。
【0182】
MHC抗原は、主にMHC class I抗原とMHC class II抗原に分類され、MHC class I抗原には、HLA-A、-B、-C、-E、-F、-G、-Hが含まれ、MHC class II抗原には、HLA-DR、-DQ、-DPが含まれる。
【0183】
分化抗原には、CD1、CD2、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15s、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD23、CD25、CD28、CD29、CD30、CD32、CD33、CD34、CD35、CD38、CD40、CD41a、CD41b、CD42a、CD42b、CD43、CD44、CD45、CD45RO、CD48、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD51、CD54、CD55、CD56、CD57、CD58、CD61、CD62E、CD62L、CD62P、CD64、CD69、CD71、CD73、CD95、CD102、CD106、CD122、CD126、CDw130が含まれ得る。
【0184】
免疫グロブリンにはIgA、IgM、IgD、IgG、IgEが含まれる。また免疫複合体は少なくとも免疫グロブリンのいずれかの成分を含む。
その他の抗原としては下記のような分子;17-IA、4-1BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1 アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン、aFGF、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、アルファ-1-アンチトリプシン、アルファ-V/ベータ-1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF-1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7-1、B7-2、B7-H、B-リンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE-1、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、BMP、BMP-2 BMP-2a、BMP-3 オステオゲニン(Osteogenin)、BMP-4 BMP-2b、BMP-5、BMP-6 Vgr-1、BMP-7(OP-1)、BMP-8(BMP-8a、OP-2)、BMPR、BMPR-IA(ALK-3)、BMPR-IB(ALK-6)、BRK-2、RPK-1、BMPR-II(BRK-3)、BMP、b-NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE-DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD-8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、癌関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7-1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、ボツリヌス菌毒素、ウェルシュ菌毒素、CKb8-1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、COX、C-Ret、CRG-2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、補体制御因子(Decay accelerating factor)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR(ErbB-1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E-セレクチン、ET-1、ファクターIIa、ファクターVII、ファクターVIIIc、ファクターIX、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF3、FGF-8、FGFR、FGFR-3、フィブリン、FL、FLIP、Flt-3、Flt-4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas6、GCP-2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa-1、GFR-アルファ1、GFR-アルファ2、GFR-アルファ3、GITR、グルカゴン、Glut4、糖タンパク質IIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、GM-CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP-capまたはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCMV gBエンベロープ糖タンパク質、HCMV gHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her2、Her2/neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV) gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV gp120、HIV IIIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I-309、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1R、IGFBP、IGF-I、IGF-II、IL、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-18R、IL-23、インターフェロン(INF)-アルファ、INF-ベータ、INF-ガンマ、インヒビン、iNOS、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インスリン様増殖因子1、インテグリンアルファ2、インテグリンアルファ3、インテグリンアルファ4、インテグリンアルファ4/ベータ1、インテグリンアルファ4/ベータ7、インテグリンアルファ5(アルファV)、インテグリンアルファ5/ベータ1、インテグリンアルファ5/ベータ3、インテグリンアルファ6、インテグリンベータ1、インテグリンベータ2、インターフェロンガンマ、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF-1)、潜在的TGF-1、潜在的TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティ、ルイス-Y抗原、ルイス-Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺表面、黄体形成ホルモン、リンホトキシンベータ受容体、Mac-1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK-2、MCP、M-CSF、MDC、Mer、METALLOPROTEASES、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA-DR)、MIF、MIG、MIP、MIP-1-アルファ、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管抑制物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N-Cアドヘリン、NCA 90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン-3、-4、または-6、ニュールツリン、神経成長因子(NGF)、NGFR、NGF-ベータ、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG-3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PDGF、PDGF、PDK-1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤性アルカリホスファターゼ(PLAP)、PlGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロレラキシン、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、レラキシンA鎖、レラキシンB鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマイド因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF-1、SERINE、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP-II、TACE、TACI、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質-72)、TARC、TCA-3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体アルファ/ベータ)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、睾丸PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、TGF-ベータRI(ALK-5)、TGF-ベータRII、TGF-ベータRIIb、TGF-ベータRIII、TGF-ベータ1、TGF-ベータ2、TGF-ベータ3、TGF-ベータ4、TGF-ベータ5、トロンビン、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55-60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TRF、Trk、TROP-2、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、腫瘍関連抗原発現ルイスY関連炭水化物、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-Cadherin、VE-cadherin-2、VEFGR-1(flt-1)、VEGF、VEGFR、VEGFR-3(flt-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィレブランド因子、WIF-1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、HMGB1、IgA、Aβ、CD81, CD97, CD98, DDR1, DKK1, EREG、Hsp90, IL-17/IL-17R、IL-20/IL-20R、酸化LDL, PCSK9, prekallikrein , RON, TMEM16F、SOD1, Chromogranin A, Chromogranin B、tau, VAP1、高分子キニノーゲン、IL-31、IL-31R、Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3、Nav1.4、Nav1.5、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9、EPCR、C1, C1q, C1r, C1s, C2, C2a, C2b, C3, C3a, C3b, C4, C4a, C4b, C5, C5a, C5b, C6, C7, C8, C9, factor B, factor D, factor H, properdin、sclerostin、fibrinogen, fibrin, prothrombin, thrombin, 組織因子, factor V, factor Va, factor VII, factor VIIa, factor VIII, factor VIIIa, factor IX, factor IXa, factor X, factor Xa, factor XI, factor XIa, factor XII, factor XIIa, factor XIII, factor XIIIa, TFPI, antithrombin III, EPCR, トロンボモデュリン、TAPI, tPA, plasminogen, plasmin, PAI-1, PAI-2、GPC3、Syndecan-1、Syndecan-2、Syndecan-3、Syndecan-4、LPA、S1Pならびにホルモンおよび成長因子のための受容体が例示され得る。
【0185】
可変領域を構成するアミノ酸配列は、その抗原結合活性が維持される限り、1または複数のアミノ酸残基の改変が許容される。可変領域のアミノ酸配列を改変する場合、改変される部位や改変されるアミノ酸の数は特に限定されない。例えば、CDRおよび/またはFRに存在するアミノ酸を適宜、改変することができる。可変領域のアミノ酸を改変する場合、特に限定されないが、結合活性が維持されていることが好ましく、例えば、改変前と比較して50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%以上の結合活性を有していることが好ましい。又、アミノ酸改変により結合活性が上昇していてもよく、例えば結合活性が改変前と比較して2倍、5倍、10倍等になっていてもよい。本発明の抗体において、アミノ酸配列の改変とは、アミノ酸残基の置換、付加、欠損、および修飾の少なくとも1つであることができる。
【0186】
例えば、可変領域のN末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である。したがって、本発明の抗体は、その重鎖のN末端がグルタミンの場合には、それがピログルタミン酸に修飾された可変領域を含む。
【0187】
本発明の抗体の可変領域は、任意の配列であってよく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体、および、これらの非ヒト抗体をヒト化したヒト化抗体、および、ヒト抗体など、どのような由来の抗体の可変領域でもよい。「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。また、これらの抗体の可変領域に対して、抗原への結合、薬物動態、安定性、抗原性を改善するために、様々なアミノ酸置換を導入したものであってもよい。本発明の抗体の可変領域は抗原に対する結合にpH依存性を有することで、抗原に対して繰り返し結合することができてもよい(WO2009/125825)。
【0188】
抗体の軽鎖定常領域にはκ鎖とλ鎖タイプの定常領域が存在しているが、いずれの軽鎖定常領域であってもよい。さらに、本発明において軽鎖定常領域は、アミノ酸の置換、欠損、付加および/または挿入などの改変が行われた軽鎖定常領域であってもよい。
【0189】
本発明の抗体の重鎖定常領域としては、例えばヒトIgG抗体の重鎖定常領域を用いることができ、好ましくはヒトIgG1抗体、ヒトIgG4抗体の重鎖定常領域である。
【0190】
また、本発明のFc領域改変体は、他のタンパク質、生理活性ペプチドなどと結合させてFc融合タンパク質分子とすることが可能である。ここで、融合タンパク質とは、天然ではそれが自然に連結しない少なくとも2つの異なるポリペプチドを含むキメラポリペプチドをいう。他のタンパク質、生理活性ペプチドとしては、例えば受容体、接着分子、リガンド、酵素が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0191】
本発明のFc融合タンパク質分子の好ましい例として、標的に結合するレセプタータンパク質にFc領域を融合したタンパク質が挙げられ、例えば、TNFR-Fc融合タンパク、IL1R-Fc融合タンパク、VEGFR-Fc融合タンパク、CTLA4-Fc融合タンパク等(Nat Med. 2003 Jan;9(1):47-52、BioDrugs. 2006;20(3):151-60.)が挙げられる。また、本発明のポリペプチドに融合させるタンパク質は標的分子に結合する限り如何なる分子であってもよく、例えばscFv分子(WO2005/037989)、単ドメイン抗体分子(WO2004/058821, WO2003/002609)、抗体様分子(Current Opinion in Biotechnology 2006, 17:653-658、Current Opinion in Biotechnology 2007, 18:1-10、Current Opinion in Structural Biology 1997, 7:463-469、Protein Science 2006, 15:14-27)、例えば、DARPins(WO2002/020565)、Affibody(WO1995/001937)、Avimer(WO2004/044011, WO2005/040229)、Adnectin(WO2002/032925)等が挙げられる。また、抗体およびFc融合タンパク質分子は、複数種類の標的分子あるいはエピトープに結合する多重特異性抗体であってもよい。
【0192】
また本発明の抗体には、抗体の修飾物も含まれる。抗体の修飾物の例としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)や細胞障害性物質等の各種分子と結合させた抗体を挙げることができる。このような抗体修飾物は、本発明の抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0193】
さらに、本発明の抗体は二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体とは、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいうが、当該エピトープは異なる分子中に存在していてもよいし、同一の分子中に存在していてもよい。
【0194】
本発明のポリペプチドは当業者に公知の方法により製造することができる。例えば、抗体は以下の方法で作製することができるが、これに限定されるものではない。
【0195】
抗体の重鎖をコードするDNAであって、Fc領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNA、および抗体の軽鎖をコードするDNAを発現させる。Fc領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNAは、例えば、天然型の重鎖をコードするDNAのFc領域部分を取得し、該Fc領域中の特定のアミノ酸をコードするコドンが目的の他のアミノ酸をコードするよう、適宜置換を導入することによって得ることが出来る。
【0196】
また、あらかじめ、天然型重鎖のFc領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたタンパク質をコードするDNAを設計し、該DNAを化学的に合成することによって、Fc領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNAを得ることも可能である。アミノ酸の置換部位、置換の種類としては、特に限定されるものではない。また置換に限られず、欠損、付加、挿入のいずれか、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0197】
また、Fc領域中において1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNAは、部分DNAに分けて製造することができる。部分DNAの組み合わせとしては、例えば、可変領域をコードするDNAと定常領域をコードするDNA、あるいはFab領域をコードするDNAとFc領域をコードするDNAなどが挙げられるが、これら組み合わせに限定されるものではない。軽鎖をコードするDNAもまた、同様に部分DNAに分けて製造することができる。
【0198】
上記DNAを発現させる方法としては、以下の方法が挙げられる。例えば、重鎖可変領域をコードするDNAを、重鎖定常領域をコードするDNAとともに発現ベクターに組み込み重鎖発現ベクターを構築する。同様に、軽鎖可変領域をコードするDNAを、軽鎖定常領域をコードするDNAとともに発現ベクターに組み込み軽鎖発現ベクターを構築する。これらの重鎖、軽鎖の遺伝子を単一のベクターに組み込むことも出来る。
【0199】
目的とする抗体をコードするDNAを発現ベクターへ組み込む際、発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。その際には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
【0200】
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などを用いることができる。
【0201】
本発明のポリペプチドを生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(QIAGEN社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0202】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4397、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えばリポフェクチン法、リン酸カルシウム法、DEAE-Dextran法を用いて行うことができる。
【0203】
大腸菌発現ベクターの他、例えば、本発明のポリペプチドを製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0204】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、MMTV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、CAGプロモーター(Gene. (1991) 108, 193、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、形質転換細胞を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0205】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0206】
抗体の回収は、例えば、形質転換した細胞を培養した後、分子形質転換した細胞の細胞内又は培養液より分離することによって行うことが出来る。抗体の分離、精製には、遠心分離、硫安分画、塩析、限外濾過、1q、FcRn、プロテインA、プロテインGカラム、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0207】
また本発明のFc領域改変体と、血漿中に可溶型で存在し病因となる抗原に対して結合活性を有し、イオン濃度の条件によって当該抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含むポリペプチドを用いることで、血漿中の当該抗原の消失を促進する方法を提供する。
国際公開第WO2011/122011号に記載されているように、pH依存的抗原結合分子をさらに中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合を増強するように改変されたpH依存的抗原結合分子は、抗原に繰り返し結合できる効果、および、血漿中から抗原を消失させる効果を有しているため、こうした抗原結合ドメインを有するポリペプチドの投与によって血漿中から抗原を除去することが可能であることが報告されている(国際公開第WO2011/122011号)。しかし、これまでに中性条件下でのFcRn結合を増強させる以外の方法で、抗原の除去を加速する方法は報告されていない。
【0208】
本実施例では、pHの条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含むポリペプチドが、pH中性域におけるFcRnに対する結合を増強していない天然型IgG1由来のFc領域を含むにも関わらず、FcγRとの結合を介して、血漿中の抗原の消失を抗原単独よりも加速することが確認された。特定の理論に拘束されるものではないが、このようなことがクローン278等において起こる理由として以下のメカニズムが例示される。
【0209】
sIL-6R等のように抗原結合ドメインが結合できる部位が1つ(すなわちホモ単量体)である場合、二価の抗原結合ドメインを含む一分子の抗体に対して二分子の抗原が結合し、一分子の抗sIL-6R抗体と二単位の抗原結合単位を含む二分子の抗原分子と複合体を形成する。そのため、このような抗原と抗体の複合体は、図9に示すように一つのFc領域(天然型IgG1のFc領域)しか有しない。当該複合体は一つのFc領域を介して一分子のFcγR、または二分子のFcRnに結合するため、これらの受容体に対する親和性は通常のIgG抗体と同様であり、細胞内への取込みは主に非特異的に起こると考えられ得る。
【0210】
一方、抗原がヒトIgE等のように重鎖および軽鎖のヘテロ複合体の二量体のように、抗原結合ドメインが結合するエピトープが二ヶ所存在する場合、一分子の抗IgE抗体に含まれる二価の個々の抗原結合ドメインが、一分子のIgE分子に存在する二単位のエピトープに各々結合することはエピトープの配置等の点から困難であることが考えられる。その結果、一分子の抗IgE抗体中に存在する二価の抗原結合ドメインに結合する二分子のIgE中に存在する二単位の抗原結合単位には、別の抗IgE抗体分子が結合することによって、少なくとも四分子(すなわち抗原分子であるIgEの二つの分子と抗原結合ドメインを含むポリペプチドである抗IgE抗体の二つの分子)を含む抗原抗体複合体(免疫複合体)を形成すると考えられる。
【0211】
そのため、抗原結合ドメインが結合できる部位を二以上含む抗原分子に結合する抗体等の抗原結合ドメインを含むポリペプチドが少なくとも四量体の大きな免疫複合体を形成する場合、当該免疫複合体はFcγR、FcRn、補体レセプター等に対して少なくとも二つ以上の多価のFc領域を介してavidityで強固に結合することが可能である。しかしながら、抗原結合ドメインが結合できる部位が1つである抗原分子の場合、抗原結合ドメインを含むポリペプチドと抗原分子との免疫複合体は、これらのレセプターに対するFc領域を介した親和性は、上記免疫複合体を形成する場合と比べると十分ではない。そうすると、当該免疫複合体は、これらのレセプターを発現する細胞に高い効率で取り込まれる。
【0212】
抗原分子が二以上の抗原結合ドメインに結合する部位を含む場合、本発明のポリペプチドがpH依存的結合等のようにイオン濃度の条件によって抗原に対する結合が変化する抗原結合ドメインを有することで、当該ポリペプチドが例えば抗体の場合には、血漿中で少なくとも四分子(二分子の抗原および二分子の抗体)以上からなる抗原抗体複合体(免疫複合体)を形成し、当該免疫複合体が細胞内に取り込まれると、そのイオン濃度の条件が血漿中の条件とは異なることから、エンドソーム内で抗原が当該抗体から解離する。そのため、当該免疫複合体が取り込まれた細胞のエンドソーム内では、当該免疫複合体の形成が解消される。解離した抗原はエンドソーム内でFcRnに結合することができないため、ライソソームに移行した後に分解される。一方、抗原を解離した抗体は、エンドソーム内でFcRnに結合した後に血漿中にリサイクルされると考えられる。本実施例のpH条件以外のイオン濃度の条件によって同様のリサイクルは可能であり、参考実施例3~6では、pH依存の条件の代わりに、カルシウム濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを用いて、血漿中の抗原の消失を加速することが可能であることが示されている。
【0213】
したがって、抗原と当該抗原に対する抗原結合ドメインを有するポリペプチドが形成する複合体が、当該免疫複合体はFcγR、FcRn、補体レセプター等に対して二つ以上の多価のFc領域を有することで、当該抗原の消失を加速することが可能である。
【0214】
加えて、参考実施例7~9の検討から、FcγRを介した抗原の除去には、FcγRの中でも、抑制型FcγRであるFcγRIIBの寄与が最も大きいことが示されている。すなわち、仮に、FcγRに対する結合を低下させたとしても、FcγRIIBに対する結合を維持することができれば、抗体のFcγRを介した抗原の消失能を維持することが可能である。
【0215】
これまでに、いくつかの抗体医薬においてはIgGとFcγRとの相互作用に由来する副作用が報告されている。例えば、VEGFに対する抗体であるbevacizumabが投与された患者群では血栓塞栓症の頻度が上昇することが知られている(J. Natl. Cancer Inst. (2007) 99 (16), 1232-1239)。また、CD40リガンドに対する抗体の臨床開発試験においても同様に血栓塞栓症が観察され、臨床試験が中止された(Arthritis. Rheum. (2003) 48 (3), 719-727.)。血小板の細胞上には抑制型FcγレセプターであるFcγRIIbではなく活性型FcγレセプターであるFcγRIIaが発現している(J. Exp. Med. (2006) 203 (9), 2157-2164)が、動物モデルなどを使ったその後の研究により、投与されたいずれの抗体も血小板上のFcγRIIaに対する結合を介して血小板が凝集し、その結果血栓を形成することが示唆されている(J. Thromb. Haemost. (2009) 7 (1), 171-181、 J. Immunol. (2010) 185 (3), 1577-1583)。自己免疫疾患の一つである全身性エリテマトーデスの患者においてはFcγRIIa依存的な機構によって血小板が活性化し、血小板の活性化が重症度と相関すると報告されている(Sci. Transl. Med. (2010) 2 (47), 47-63)。
【0216】
また、これまでに動物モデルを用いた研究により、抗体と多価抗原の免疫複合体が活性型FcγRを介してアナフィラキシーを誘導することも報告されている(Bruhns P., Blood. (2012) 119(24):5640-9.)。
【0217】
加えて、活性型のFcγRを介して多価抗原と抗体の免疫複合体が取り込まれることにより、その抗原に対する抗体価の産生が高くなることが報告されている(Scand J Immunol. (2006)64(3):177-84.; J Immunol. (1999) 163:618-22.)。多価抗原を認識する抗体医薬品の場合、抗体医薬品自身に対する抗体が産生しやすくなる可能性を示唆している。抗体医薬品に対する抗体が産生された場合、その血中動態が悪化し、効果が減弱することが考えられる。
【0218】
このように、抗体が多価抗原と結合することで免疫複合体を形成し、その免疫複合体が活性型FcγRと相互作用することで様々な副作用を誘導することが考えられ、抗体の医薬品としての価値を減じてしまう。多価抗原(多量体抗原)としてはGDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、VEGF、IgE、IgA、IgG、IgM、RANKL、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、またはIL-8などが例として挙げられる。
【0219】
これらの問題を解決するための方法としては、FcγRに対する結合を減弱する方法が考えられる。しかし、すべてのFcγRに対する結合を減じてしまった場合、その抗体を用いてもFcγRを介した抗原の除去を加速することはできないと考えられる。
【0220】
先に述べたように、抗体のFcγRを介した抗原の除去には、FcγRのうち、FcγRIIBが主な役割を担っていること、FcγRとの相互作用に由来する副作用は活性型FcγRとの相互作用に起因することから、FcγRIIBに対する結合は維持しつつ、他の活性型FcγRに対する結合を選択的に減弱することによって、抗原消失能を失わせることなく、活性型FcγRに由来する副作用を低減した優れた抗体を作製可能である。
【0221】
そのため、本発明のFc領域改変体とイオン濃度の条件によって当該抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含むポリペプチドによって、血漿中に可溶型で存在し病因となる抗原の血漿中からの消失に対して、優れた促進効果を得ることが可能である。
【0222】
また、本発明のポリペプチドを利用することで、当該ポリペプチドが結合する抗原が、抗原結合ドメインが結合することができる部位を1つしか有していない抗原(単量体抗原)であっても同様の効果を得ることができる。
そのような例として、抗原結合ドメインを有するポリペプチドのカクテルを用いた単量体抗原の血漿中からの消失を促進する方法を挙げることができる。
【0223】
上述したように、抗原が多量体抗原(例えば、非限定な一例としてIgA, IgE等のイムノグロブリン、もしくは、TNFまたはCD154等のTNFスーパーファミリー)であるときは、二以上の抗原結合分子および二以上の抗原結合単位を含む大きな免疫複合体が形成される場合があると考えられる。一方、抗原が単量体抗原の場合でも、当該単量体抗原に存在する異なるエピトープに各々結合する適切な二以上の抗原結合ドメインを含むポリペプチドであって、(pHまたはCa等の)イオン濃度の条件によって当該エピトープに対する結合が変化するポリペプチドの混合物もまた、二以上の抗原結合ドメインを含むポリペプチドおよび二以上の抗原結合ドメインに対する結合部位(単量体抗原)を含む大きな免疫複合体を形成することが可能であると考えられる。本明細書において、単量体抗原に存在する異なるエピトープに各々結合する適切な二以上の抗原結合ドメインを含むポリペプチドであって、(pHまたはCa等の)イオン濃度の条件によって当該エピトープに対する結合が変化する抗原結合分子の混合物を抗原結合分子カクテルと呼ぶ。このうち抗原結合ドメインを含むポリペプチドのうち、免疫複合体を形成する少なくとも一つのポリペプチド(に含まれる抗原結合ドメイン)がイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインであればよい。
また、その他の例として、多重特異性または多重パラトピックな抗原結合ドメインを含むポリペプチドを用いた単量体抗原の血漿中からの消失を促進する方法を挙げることができる。
【0224】
また、抗原が単量体抗原の場合でも、抗原結合ドメインを含むポリペプチドに含まれる各抗原結合ドメインが当該単量体抗原に存在する異なるエピトープに各々結合する特徴を有し、個々の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合が(pHまたはCa等の)イオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子もまた、二以上の抗原結合ドメインを含むポリペプチドおよび二以上の抗原結合単位(単量体抗原)を含む大きな免疫複合体を形成することが可能であると考えられる。上記のようなポリペプチドの非限定な一態様として、単量体抗原に存在する互いに異なるエピトープに結合する適切な可変領域を含む多重特異性(multispecific)抗体、または多重パラトピックな(multiparatopic)抗体が例示される。そのような多重特異性(multispecific)抗体、または多重パラトピックな(multiparatopic)抗体の非限定な一態様として、その可変領域がpHまたはCa依存的な結合抗体(図19に示すようなエピトープAを認識する右腕の可変領域とエピトープBを認識する左腕の可変領域を含む、二重特異性(bispecific)抗体あるいは二重パラトピック(biparatopic)抗体)もまた、二以上の抗体、および二以上の抗原結合単位(単量体抗原)を含む大きな免疫複合体を形成することが可能であると考えられる。
【0225】
単量体抗原の異なるエピトープに対する抗原結合ドメインであって、当該各エピトープに対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化し、上述されるレセプターに対してavidityで結合することが可能な抗原結合ドメインの組合せをスクリーニングすることによって、単量体抗原の血漿中からの消失をさらに加速させる抗原結合分子を取得することが可能である。多重特異性または多重パラトピックな抗原結合ドメインの、各エピトープに対する結合活性を変化させるイオン濃度の条件は同一のイオン濃度の条件であってもよいし、異なるいイオン濃度の条件であってもよい。例えば、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインの、一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性がpHの条件、またはCaイオン濃度等の金属イオン濃度の条件によって変化する、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインを含む抗原結合分子は、本発明の抗原結合分子の非限定な一態様として例示される。さらに、例えば、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインの、一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性がpHの条件によって変化し、もう一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性がCaイオン濃度等の金属イオン濃度の条件によって変化する、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインを含む抗原結合分子は、本発明の抗原結合分子の非限定な一態様として例示される。また、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインの、一方の抗原結合ドメインのエピトープ対する結合活性がpHの条件によって変化し、もう一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性もpHの条件によって変化する、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインを含む抗原結合分子もまた、本発明の抗原結合分子の非限定な一態様として例示される。さらに、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインの、一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性がCaイオン濃度等の金属イオン濃度の条件によって変化し、もう一方の抗原結合ドメインのエピトープに対する結合活性がCaイオン濃度等の金属イオン濃度の条件によって変化する、二重特異性または二重パラトピックな抗原結合ドメインを含むポリペプチド抗原結合分子もまた、本発明の抗原結合分子の非限定な一態様として例示される。
【0226】
本発明の多重特異性抗原結合ドメインを含むポリペプチド、または多重パラトピックな抗原結合ドメインを含むポリペプチド分子としては、その少なくとも一つの抗原結合ドメインが抗原分子中の第一のエピトープに結合し、その少なくとも一つの別の抗原結合ドメインが抗原分子中の第二のエピトープに結合する特徴を有する、少なくとも二つの抗原結合ドメインを含むポリペプチドは、その反応の特異性という観点から多重特異性抗原結合分子と呼ばれる。一分子の抗原結合分子に含まれる二種類の抗原結合ドメインによって当該抗原結合分子が、二つの異なるエピトープに結合する場合、当該抗原結合分子は二重特異性抗原結合分子と呼ばれる。また、一分子の抗原結合分子に含まれる三種類の抗原結合ドメインによって当該抗原結合分子が、三つの異なるエピトープに結合する場合、当該抗原結合分子は三重特異性抗原結合分子と呼ばれる。
【0227】
抗原分子中の第一のエピトープに結合する抗原結合ドメイン中のパラトープと、第一のエピトープと構造の異なる第二のエピトープに結合する抗原結合ドメイン中のパラトープとはその構造が互いに異なる。ゆえに、その少なくとも一つの抗原結合ドメインが抗原分子中の第一のエピトープに結合し、その少なくとも一つの別の抗原結合ドメインが抗原分子中の第二のエピトープに結合する特徴を有する、少なくとも二つの抗原結合ドメインを含む抗原結合分子は、その構造の特異性という観点から多重パラトピック抗原結合分子と呼ばれる。一分子の抗原結合分子に含まれる二種類の抗原結合ドメインによって当該抗原結合分子が、二つの異なるエピトープに結合する場合、当該抗原結合分子は二重パラトピック抗原結合分子と呼ばれる。また、一分子の抗原結合分子に含まれる三種類の抗原結合ドメインによって当該抗原結合分子が、三つの異なるエピトープに結合する場合、当該抗原結合分子は三重パラトピック抗原結合分子と呼ばれる。
【0228】
一つまたは複数の抗原結合ドメインを含む多価の多重特異性または多重パラトピック抗原結合分子とその調製方法は、Conrathら(J.Biol.Chem. (2001) 276 (10) 7346-7350)、Muyldermans(Rev. Mol. Biotech. (2001) 74, 277-302)およびKontermann R.E. (2011) Bispecific Antibodies(Springer-Verlag)等の非特許文献、ならびに国際公開WO1996/034103またはWO1999/023221等の特許文献等にも記載されている。これらに記載された多重特異性または多重パラトピック抗原結合分子とその調製方法を用いることによって、本発明の抗原結合分子を作製することが可能である。
【0229】
前記のような多重特異性または多重パラトピック抗原結合分子とその調製方法の一態様として、二重特異性抗体とその作製方法が下記に例示される。二重特異性抗体とは、異なるエピトープに対して特異的に結合する二種類の可変領域を含む抗体である。IgG型の二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが可能である(Milsteinら(Nature (1983) 305, 537-540)。
【0230】
二重特異性抗体を前記の抗体の項で記載されたような組換え手法を用いて製造する場合、目的の二種の可変領域を含む重鎖をコードする遺伝子を細胞に導入しそれらを共発現させる方法が採用され得る。しかしながら、こうした共発現させる方法における重鎖の組合せを考慮するだけでも、(i) 第一のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖と第二のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖が一対となった重鎖の組合せ、(ii) 第一のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖のみが一対となった重鎖の組合せ、(iii) 第二のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖のみが一対となった重鎖の組合せが、2:1:1の分子数の割合で存在する混合物となる。これら三種類の重鎖の組合せの混合物から目的の重鎖の組合せを含む抗原結合分子を精製することは困難である。
【0231】
こうした組換え手法を用いて二重特異性抗体を製造する際に、重鎖を構成するCH3ドメインに適当なアミノ酸置換の改変を加えることによってヘテロな組合せの重鎖を含む二重特異性抗体が優先的に分泌され得る。具体的には、一方の重鎖のCH3ドメインに存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob(「突起」の意))に置換し、もう一方の重鎖のCH3ドメインに存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole(「空隙」の意))に置換することによって、突起が空隙内に配置され得るようにして異種の重鎖形成の促進および同種の重鎖形成の阻害を引き起こす方法である(国際公開WO1996/027011、Ridgwayら(Protein Engineering (1996) 9, 617-621)、Merchantら(Nat. Biotech. (1998) 16, 677-681))。
【0232】
また、ポリペプチドの会合、またはポリペプチドによって構成される異種多量体の会合の制御方法を、重鎖の会合に利用することによって二重特異性抗体を作製する技術も知られている。即ち、重鎖内の界面を形成するアミノ酸残基を改変することによって、同一配列を有する重鎖の会合が阻害され、配列の異なる二つの重鎖が形成されるように制御する方法が二重特異性抗体の作製に採用され得る(国際公開WO2006/106905)。
さらに、二種類のモノクローナル抗体をそれぞれ取得し、それらをin vitroで還元剤存在下混合することで二重特異性抗体を取得する技術も報告されている(国際公開WO2008/119353)。本手法は二種類のモノクローナル抗体が還元剤によって半分子ずつに開裂し、これらが再会合することによって一定の割合で二重特異性抗体を得るものである。またCH3ドメインに存在するアミノ酸を置換することで半分子の再会合を制御し、より効率良く二重特異性抗体を得る方法も報告されている(国際公開WO2011/131746)。このような方法も二重特異性抗体を製造する際に、採用され得る。
【0233】
本発明において、「抗原の血漿中からの消失を促進」とは、抗原結合ドメインを含むポリペプチド(以下、抗原結合分子ともいう)が生体内に投与された、あるいは、抗原結合分子の生体内への分泌が生じた際に、血漿中に存在する抗原を血漿中から消失させる能力が向上することをいう。従って、抗原結合分子を投与した際に、抗原に対する結合活性がイオン濃度によって変化しない抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有しないFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子、またはFcγレセプターに対する選択的な結合活性を有しないFcγレセプター結合ドメインを含む抗原結合分子を投与したときと比較して、血漿中から抗原が消失する速さが速くなっていればよい。抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加したか否かは、例えば、可溶型抗原と抗原結合分子とを生体内に投与し、投与後の可溶型抗原の血漿中濃度を測定することにより判断することが可能である。抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン、およびFcγレセプターに対する選択的な結合活性を有するFcγレセプター結合ドメイン(選択的FcγR結合ドメイン)を含む抗原結合分子と可溶型抗原を投与した後の血漿中の可溶型抗原の濃度が低下している場合には、抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加したと判断することができる。ここで選択的FcγR結合ドメインとはFcγRIIbに対する結合は維持しつつ、活性型FcγRに対する結合は低減したドメインをいう。可溶型抗原は、血漿中において抗原結合分子に結合する抗原であっても、または抗原結合分子が結合しない抗原であってもよく、その濃度はそれぞれ「血漿中抗原結合分子結合抗原濃度」および「血漿中抗原結合分子非結合抗原濃度」として決定することができる(後者は「血漿中遊離抗原濃度」と同義である)。「血漿中総抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原と抗原結合分子非結合抗原とを合計した濃度、または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」を意味することから、可溶型抗原濃度は「血漿中総抗原濃度」として決定することができる。「血漿中総抗原濃度」または「血漿中遊離抗原濃度」を測定する様々な方法が、本明細書において以下に記載するように当技術分野において周知である。
【0234】
本発明において、「薬物動態の向上」、「薬物動態の改善」、および「優れた薬物動態」は、「血漿中(血中)滞留性の向上」、「血漿中(血中)滞留性の改善」、「優れた血漿中(血中)滞留性」、「血漿中(血中)滞留性を長くする」と言い換えることが可能であり、これらの語句は同じ意味で使用される。
【0235】
本発明において「薬物動態が改善する」とは、抗原結合分子がヒト、またはマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌなどの非ヒト動物に投与されてから、血漿中から消失するまで(例えば、細胞内で分解される等して抗原結合分子が血漿中に戻ることが不可能な状態になるまで)の時間が長くなることのみならず、抗原結合分子が投与されてから分解されて消失するまでの間に抗原に結合可能な状態(例えば、抗原結合分子が抗原に結合していない状態)で血漿中に滞留する時間が長くなることも含む。天然型Fc領域を有するヒトIgGは、非ヒト動物由来のFcRnに結合することができる。例えば、天然型Fc領域を有するヒトIgGはヒトFcRnよりマウスFcRnに強く結合することができることから(Int. Immunol. (2001) 13 (12), 1551-1559)、本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、好ましくはマウスを用いて投与を行うことができる。別の例として、本来のFcRn遺伝子が破壊されており、ヒトFcRn遺伝子に関するトランスジーンを有して発現するマウス(Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)もまた、以下に記載する本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、投与を行うために用いることができる。具体的には、「薬物動態が改善する」とはまた、抗原に結合していない抗原結合分子(抗原非結合型抗原結合分子)が分解されて消失するまでの時間が長くなることを含む。抗原結合分子が血漿中に存在していても、その抗原結合分子にすでに抗原が結合している場合は、その抗原結合分子は新たな抗原に結合できない。そのため抗原結合分子が抗原に結合していない時間が長くなれば、新たな抗原に結合できる時間が長くなり(新たな抗原に結合できる機会が多くなり)、生体内で抗原が抗原結合分子に結合していない時間を減少させることができ、抗原が抗原結合分子に結合している時間を長くすることが可能となる。抗原結合分子の投与によって血漿中からの抗原の消失を加速することができれば、抗原非結合型抗原結合分子の血漿中濃度が増加し、また、抗原が抗原結合分子に結合している時間が長くなる。つまり、本発明における「抗原結合分子の薬物動態の改善」とは、抗原非結合型抗原結合分子のいずれかの薬物動態パラメーターの改善(血漿中半減期の増加、平均血漿中滞留時間の増加、血漿中クリアランスの低下のいずれか)、あるいは、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間の延長、あるいは、抗原結合分子による血漿中からの抗原の消失が加速されること、を含む。抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の血漿中濃度を測定し、各パラメーターを算出し、血漿中半減期が長くなった又は平均血漿中滞留時間が長くなった場合等には、抗原結合分子の薬物動態が改善したといえる。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いノンコンパートメント(Noncompartmental)解析することによって適宜評価することができる。抗原に結合していない抗原結合分子の血漿中濃度の測定は当業者公知の方法で実施することが可能であり、例えば、Clin. Pharmacol. (2008) 48 (4), 406-417において測定されている方法を用いることができる。
【0236】
本発明において「薬物動態が改善する」とは、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が延長されたことも含む。抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が延長されたか否かは、遊離抗原の血漿中濃度を測定し、遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合が上昇してくるまでの時間により判断することが可能である。
【0237】
抗原結合分子に結合していない遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合は当業者公知の方法で決定され得る。例えば、Pharm. Res. (2006) 23 (1), 95-103において使用されている方法を用いて決定され得る。また、抗原が何らかの機能を生体内で示す場合、抗原が抗原の機能を中和する抗原結合分子(アンタゴニスト分子)と結合しているかどうかは、その抗原の機能が中和されているかどうかで評価することも可能である。抗原の機能が中和されているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内マーカーを測定することによって評価され得る。抗原が抗原の機能を活性化する抗原結合分子(アゴニスト分子)と結合しているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内マーカーを測定することによって評価され得る。
【0238】
遊離抗原の血漿中濃度の測定、血漿中の総抗原量に対する血漿中の遊離抗原量の割合の測定、生体内マーカーの測定などの測定は特に限定されないが、抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後に行われることが好ましい。本発明において抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後とは、特に限定されず、投与された抗原結合分子の性質等により当業者が適時決定することが可能であり、例えば抗原結合分子を投与してから1日経過後、抗原結合分子を投与してから3日経過後、抗原結合分子を投与してから7日経過後、抗原結合分子を投与してから14日経過後、抗原結合分子を投与してから28日経過後などが挙げられる。本発明において、「血漿中抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原と抗原結合分子非結合抗原とを合計した濃度である「血漿中総抗原濃度」、または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」のいずれも含まれる概念である。
【0239】
血漿中総抗原濃度は、抗原結合分子として、抗原に対する結合活性がイオン濃度非依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、または、FcγRに対する結合活性が損なわれたFc領域を含む抗原結合分子、を投与した場合と比較して、または本発明の抗原結合分子を投与しない場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減し得る。
【0240】
抗原/抗原結合分子モル比は、以下に示す通りに算出され得る:
A値=各時点での抗原のモル濃度
B値=各時点での抗原結合分子のモル濃度
C値=各時点での抗原結合分子のモル濃度あたりの抗原のモル濃度(抗原/抗原結合分子モル比)
C=A/B。
【0241】
C値がより小さい場合は、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより高いことを示し、C値がより大きい場合は、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより低いことを示す。
【0242】
抗原/抗原結合分子モル比は、上記のように算出され得る。
【0243】
抗原/抗原結合分子モル比は、抗原結合分子として、抗原に対する結合活性がイオン濃度によって変化しない抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有しないFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子、またはFcγレセプターに対する選択的な結合活性を有しないFcγレセプター結合ドメインを含む抗原結合分子、を投与した場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減しうる。
【0244】
本発明において、本発明の抗原結合分子と比較する参照抗原結合分子として、抗原に対する結合活性がイオン濃度によって変化しない抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有しないFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子、またはFcγレセプターに対する選択的な結合活性を有しないFcγレセプター結合ドメインを含む抗原結合分子、が用いられる。
【0245】
pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインの影響を評価する場合において、血漿中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の減少は、抗原結合分子がマウスカウンターパート抗原と交差反応しないときは、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories, Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)を用い、抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかによって評価することもできる。抗原結合分子がマウスカウンターパートと交差反応するときは、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories)に抗原結合分子を単に注射することによって評価することもできる。同時注射モデルでは、抗原結合分子と抗原の混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の血漿中抗原濃度を達成するためにマウスに抗原溶液を充填した注入ポンプを埋め込んで、次に抗原結合分子をマウスに注射する。試験抗原結合分子を同じ用量で投与する。血漿中総抗原濃度、血漿中遊離抗原濃度、および血漿中抗原結合分子濃度を、当業者公知の方法を用いて適切な時点で測定する。
【0246】
Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有するFcγレセプター結合ドメインの影響を評価する場合において、血漿中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の減少は、抗原結合分子がマウスカウンターパート抗原と交差反応しない場合は、通常用いられるC57BL/6Jマウス(Charles River Japan)を用い、抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかによって評価することもできる。抗原結合分子がマウスカウンターパートと交差反応する場合は、通常用いられるC57BL/6Jマウス(Charles River Japan)に抗原結合分子を単に注射することによって評価することもできる。
【0247】
同時注射モデルでは、抗原結合分子と抗原の混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の血漿中抗原濃度を達成するためにマウスに抗原溶液を充填した注入ポンプを埋め込んで、次に抗原結合分子をマウスに注射する。試験抗原結合分子を同じ用量で投与する。血漿中総抗原濃度、血漿中遊離抗原濃度、および血漿中抗原結合分子濃度を、当業者公知の方法を用いて適切な時点で測定する。
【0248】
投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の長期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、長期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。本発明に記載の抗原結合分子によって血漿中抗原濃度または抗原/抗原結合分子モル比の減少が達成されるか否かは、先に記載した任意の1つまたは複数の時点でその減少を評価することにより決定され得る。
【0249】
投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に、血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の短期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、短期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。
【0250】
本発明の抗原結合分子の投与経路は、皮内注射、静脈内注射、硝子体内注射、皮下注射、腹腔内注射、非経口注射、および筋肉内注射から選択することができる。
【0251】
本発明においては、ヒトにおける抗原結合分子の薬物動態が改善することが好ましい。ヒトでの血漿中滞留性を測定することが困難である場合には、マウス(例えば、正常マウス、ヒト抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)またはサル(例えば、カニクイザルなど)での血漿中滞留性をもとに、ヒトでの血漿中滞留性を予測することができる。
【0252】
本発明における「抗原結合分子の薬物動態の改善、血漿中滞留性の向上」とは抗原結合分子を生体に投与した際のいずれかの薬物動態パラメーターが改善されていること(血漿中半減期の増加、平均血漿中滞留時間の増加、血漿中クリアランスの低下、バイオアベイラビリティのいずれか)、あるいは、投与後の適切な時間における抗原結合分子の血漿中濃度が向上していることを意味する。抗原結合分子の血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス、バイオアベイラビリティ等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス(ノーマルマウスおよびヒトFcRnトランスジェニックマウス)、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、抗原結合分子の血漿中濃度を測定し、各パラメーターを算出し、血漿中半減期が長くなった又は平均血漿中滞留時間が長くなった場合等には、抗原結合分子の薬物動態が改善したといえる。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いノンコンパートメント(Noncompartmental)解析することによって適宜評価することができる。
【0253】
マウスにおいて、FcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIVの、4種類のFcγRがこれまでに見出されている。ヒトにおいてもそれらに対応するFcγRとして、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIa、FcγRIIIbが見出されている。これらのFcγRの中で唯一抑制型と考えられているFcγRIIbはヒト、マウスのいずれにおいても保存されている。他のFcγRはFcγRIIIbを除いてImmunoreceptor tyriosine-based activating motif (ITAM)を介して活性化シグナルを伝達するが、FcγRIIbは細胞内に有するimunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif(ITIM)を介して抑制シグナルを伝達している(Nat. Rev. Immunol. (2008) 8, 34-47)。
【0254】
FcγRIIbのスプライシングバリアントとしてFcγRIIb1とFcγRIIb2とが報告されている。ヒトおよびマウスのいずれにおいてもFcγRIIb1はFcγRIIb2に比べて長い細胞内ドメインを有しており、FcγRIIb1はB細胞で発現することが確認され、FcγRIIb2はマクロファージ、肥満細胞、樹状細胞、好塩基球、好中球、好酸球で発現することが確認されている(J. Clin. Immunol. (2005) 25 (1), 1-18)。
【0255】
これまでに、ヒトにおいてFcγRIIbの機能不全、発現低下は自己免疫疾患の発症と相関があることが報告されている。例えば、SLE患者の中にはFcγRIIbの発現プロモーター領域にある遺伝子多型の影響によって転写活性化因子の結合が弱まり、FcγRIIbの発現が低下している例が報告されている(Hum. Genet. (2005) 117, 220-227、J. Immunol. (2004) 172, 7192-7199、J. Immunol. (2004) 172, 7186-7191)。また、SLE患者の中にはFcγRIIbの233番目のアミノ酸がIleまたはThrという二種類の遺伝子多型が報告されている。この部位はFcγRIIbの細胞膜貫通領域に存在し、233番目のアミノ酸がThrの場合、Ileの場合と比べて、FcγRIIbがリピッドラフトに存在しにくくなり、結果としてFcγRIIbのシグナル伝達機能が低下することが報告されている(Nat. Med. (2005) 11, 1056-1058、Hum. Mol. Genet., (2005) 14, 2881-2892)。マウスにおいても、C57BL/6マウスのFcγRIIb遺伝子が破壊されたノックアウトマウスは、自己抗体の産生や糸球体腎炎等のSLE様の症状を呈することが報告されている(Immunity 13 (2000) 277-285、J. Exp. Med. (2002) 195, 1167-1174)。また、これまでにSLEの自然発症モデルと考えられてきているマウスにおいてもFcγRIIbの発現量の低下などが報告されている(Immunogenetics (2000) 51, 429-435、Int. Immunol. (1999) 11, 1685-1691、Curr. Biol. (2000) 10, 227-230、J. Immunol. (2002) 169, 4340-4346)。これらのことから、マウスにおいても、ヒト同様にFcγRIIbは液性免疫を制御していると考えられる。
【0256】
本発明のFcを有する抗体がFcγRIIbを介して抗原を消失させる際には、FcγRIIbの機能のうち、FcγRIIbのエンドサイトーシスの機能が最も重要な寄与をしていると考えられる。上述したようにFcγRIIbのスプライシングバリアントとしてFcγRIIb1とFcγRIIb2が存在するが、抗体と抗原の免疫複合体のエンドサイトーシスには後者が主に関与していることが報告されている(J. Immunol. (1994), 152 574-585、Science (1992) 256, 1808-1812、Cell (1989) 58, 317-327)。これまでにマウスのFcγRIIb2はクラスリン被覆ピットに取り込まれて、エンドサイトーシスを起こすことが報告されている(Cell (1989) 58, 317-327)。また、FcγRIIb2を介したエンドサイトーシスにはdileucine motifが必要と報告されているが、ヒトおよびマウスのいずれにおいてもdileucine motifは保存されている(EMBO J. (1994) 13 (13), 2963-2969)。このことからも、ヒトにおいてもマウス同様にFcγRIIb2はエンドサイトーシス能を有すると考えられる。
【0257】
その一方で、FcγRIIb1はFcγRIIb2と異なり、エンドサイトーシスを起こさないことが報告されている。FcγRIIb1はFcγRIIb2にはみられない、細胞内ドメイン中の挿入配列が存在する。この配列がFcγRIIb1のクラスリン被覆ピットへの取り込みを阻害し、その結果としてエンドサイトーシスが阻害されると考えられている(J. Cell. Biol. (1992) 116, 875-888、J. Cell. Biol. (1989) 109, 3291-3302)。ヒトにおいても、マウス同様にFcγRIIb1にはFcγRIIb2の同様の部分に挿入配列が存在するため、類似のメカニズムでFcγRIIb1とFcγRIIb2のエンドサイトーシス能の違いが生じていると予想される。また、ヒトにおいても、マウスにおいても20分間に細胞表面上の約40%の免疫複合体が細胞内へ取り込まれることが報告されている(Mol. Immunol. (2011) 49, 329-337、Science (1992) 256, 1808-1812)。このことから、ヒトにおいてもFcγRIIb2はマウス同様の速度で免疫複合体を細胞内に取り込んでいると予想される。
【0258】
FcγR familyのうちFcγRIIbはヒトでもマウスでも唯一細胞内にITIMを有し、発現細胞の分布も同一であることから、免疫の制御における機能も同様であると推測できる。またヒトでもマウスでも同様の速度で免疫複合体が細胞内へ取り込まれるという事実を考慮すると、マウスを用いることで、ヒトにおけるFcγRIIbを介した抗体による抗原の消失効果が予測可能であると考えられる。実際に、参考実施例7において、pH依存的に可溶性抗原に結合する性質を有する抗原結合分子であるmIgG1と比較して、pH依存的に可溶性抗原に結合する性質を有しマウスFcγRIIbおよびFcγRIIIに対するaffiityが増強した抗原結合分子であるmF44およびmF46がノーマルマウスに投与されたときに、mIgG1が投与された場合と比べて抗原のクリアランスを増加することが示された。
【0259】
また、後述される参考実施例8においてFc受容体γ鎖欠損マウスを使って同様の実験が実施された。マウスの場合、FcγRIIb以外のFcγRはgamma chainの共存在下でしか発現しないことが報告されているため、Fc受容体γ鎖欠損マウスではFcγRIIbしか発現していない。Fc受容体γ鎖欠損マウスにpH依存的に可溶性抗原に結合する性質を有する抗原結合分子であるmF44、mF46を投与することで、FcγRIIb選択的に結合を増強した際の、抗原消失を加速する効果を考察することが可能である。参考実施例8の結果から、Fc受容体γ鎖欠損マウスに投与されたpH依存的に可溶性抗原に結合する性質を有する抗原結合分子であるmF44およびmF46は、同マウスに投与されたpH依存的に可溶性抗原に結合する性質を有する抗原結合分子であるmIgG1と比べて、抗原のクリアランスを増加することが示された。また、参考実施例8の結果から、mF44およびmF46はFc受容体γ鎖欠損マウスに投与された場合でもノーマルマウスに投与された場合とほぼ同程度に抗原を消失させることが明らかとなった。
【0260】
参考実施例8においてFcγRIII欠損マウスを使って同様の実験が実施された。mIgG1およびmF44、mF46はmFcγRのうちFcγRIIbおよびFcγRIIIにのみ結合することから、FcγRIII欠損マウスにこれらの抗体を投与することで、FcγRIIb選択的に結合を増強した際の、抗原消失を加速する効果を考察することが可能である。参考実施例8の結果から、FcγRIII欠損マウスに投与されたmF44およびmF46は同マウスに投与されたmIgG1と比べて、抗原のクリアランスを増加することが示された。また、参考実施例8の結果から、mF44およびmF46はFcγRIII欠損マウスに投与された場合でもノーマルマウスに投与された場合、およびFc受容体γ鎖欠損マウスに投与された場合とほぼ同程度に抗原を消失させることが明らかとなった。
【0261】
これらの結果から、活性型FcγRに対する結合は増強せず、FcγRIIbにだけ選択的に結合を増強することで、抗原消失を加速することが可能であることが明らかとなった。すなわちFcγRを介した免疫複合体の除去には主にFcγRIIbが関与していることを示しており、FcγRのうちFcγRIIbに対する結合を維持しておきさえすれば、その抗体のFcγRを介した免疫複合体の除去する効率も維持されると推察された。
【0262】
先に考察したこれまでの文献報告に加えて、上記のマウスを使った検証結果から、ヒトの生体中においても、マウスと同様にFcγRIIbを介した免疫複合体の細胞内への取り込みが生じ、その結果ヒトFcγRIIbに対して選択的に結合を増強したFcを有する抗体はその抗原の消失を速めることが可能であると考えられる。また、先に考察したように、マウスとヒトとではFcγRIIbを介した免疫複合体の細胞内への取り込みが同程度の速度で生じると考えられることから、マウスFcγRIIbに対するaffinityを増強したFcを有する抗体の抗原消失を速める効果と同程度の効果が、ヒトFcγRIIbに対するaffinityを同程度に増強したFcを用いることでヒトの生体内においても達成することが可能であると考えられた。
【0263】
また本発明は、抗体Fc領域改変体を含むポリペプチドにおいて、該Fc領域改変体に少なくとも一つのアミノ酸改変を加えることを含む、親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、活性型FcγRに対する結合活性が減少したFc領域改変体を含むポリペプチドの製造方法を提供する。
例えば以下の工程を含む製造方法を挙げることができる;
(a)Fc領域を含むポリペプチドにおいて、該Fc領域に少なくとも一つのアミノ酸改変を加える工程、
(b)前記工程(a)で改変されたポリペプチドの、FcγRIIbに対する結合活性及び活性型FcγRに対する結合活性を測定する工程、および
(c)親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、活性型FcγRに対する結合活性が減少したFc領域改変体を含むポリペプチドを選択する工程。
【0264】
好ましい態様としては、Fc領域改変体を含むポリペプチドの製造方法であって、
(a)親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、活性型FcγRに対する結合活性が減少するように、当該ポリペプチドをコードする核酸を改変する工程、
(b)宿主細胞に当該核酸を導入し発現するように培養する工程、
(c)宿主細胞培養物から当該ポリペプチドを回収する工程、を含む方法である。
さらに当該製造方法によって製造される抗体及びFc融合タンパク質分子も本発明に含まれる。
【0265】
また本発明は、抗体Fc領域改変体を含むポリペプチドにおいて、該Fc領域改変体に少なくとも一つのアミノ酸改変を加えることを含む、親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγR、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減する方法、或いは、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドの製造方法を提供する。
例えば、以下の工程を含む方法を挙げることができる;
(a)Fc領域を含むポリペプチドにおいて、該Fc領域に少なくとも一つのアミノ酸改変を加える工程、
(b)前記工程(a)で改変されたポリペプチドの、FcγRIIaに対する結合活性およびFcγRIIbに対する結合活性を測定する工程、および
(c)親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、FcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少したFc領域改変体を含むポリペプチドを選択する工程。
【0266】
好ましい態様としては、親Fc領域を含むポリペプチドのFcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγR、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減する方法、或いは、Fc領域改変体を含むポリペプチドの製造方法であって、
(a)親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、FcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少するように、当該ポリペプチドをコードする核酸を改変する工程、
(b)宿主細胞に当該核酸を導入し発現するように培養する工程、
(c)宿主細胞培養物から当該ポリペプチドを回収する工程、を含む方法である。
さらに当該製造方法によって製造される抗体及びFc融合タンパク質分子も本発明に含まれる。
【0267】
また本発明は、Fc領域を含むポリペプチドにおいて、該Fc領域に少なくとも一つのアミノ酸改変を加えることを含む、生体に投与された場合に、親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、該ポリペプチドに対する抗体の産生を抑制する方法、或いは、該ポリペプチドに対する抗体の産生が抑制されたポリペプチドの製造方法を提供する。
例えば以下の工程を含む方法を挙げることができる;
(a)Fc領域を含むポリペプチドにおいて、該Fc領域に少なくとも一つのアミノ酸改変を加える工程、および
(b)前記工程(a)で改変されたFc領域を含むポリペプチドが生体に投与された場合に、親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、抗体の産生が抑制されることを確認する工程。
【0268】
そのようなポリペプチドは、活性型FcγRを活性化することなく、抗体の産生を抑制することができるため、医薬品として有用であると考えられる。
【0269】
上記方法においては、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγR、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性を減少させるようにすることが好ましい。
【0270】
上記方法における好ましい態様としては、例えばヒトIgGのFc領域において、EUナンバリング238番目のアミノ酸の他のアミノ酸への改変と、Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、241番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、295番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸、298番目のアミノ酸、323番目のアミノ酸、324番目のアミノ酸及び330番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸の他のアミノ酸への改変とが導入されるよう、当該Fc領域を改変する。EUナンバリング238番目のアミノ酸改変と組み合わされる他のアミノ酸改変としては、上記の中から2以上のアミノ酸を選択して組み合わせてもよい。好ましい組合せとしては、下記の(1)から(3)が挙げられる。
(1)Fc領域のEUナンバリング241番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸及び324番目のアミノ酸
(2) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸、241番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸及び330番目のアミノ酸
(3) Fc領域のEUナンバリング235番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、241番目のアミノ酸及び296番目のアミノ酸
【0271】
改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸は、改変前と比較してFcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγR、中でもFcγRIIa(R)に対する結合選択性が減少するものであれば特に限定されないが、EUナンバリング238番目のアミノ酸がAspであり、更に、EUナンバリング235番目のアミノ酸がPhe、237番目のアミノ酸がGln又はAsp、241番目のアミノ酸がMet又はLeu、268番目のアミノ酸がPro、295番目のアミノ酸がMet又はVal、296番目のアミノ酸がGlu、His、Asn又はAsp、298番目のアミノ酸がAla又はMet、323番目のアミノ酸がIle、324番目のアミノ酸がAsn又はHis、330番目のアミノ酸がHis又はTyr であることが好ましい。
【0272】
また、上記方法における好ましい態様としては、例えばヒトIgGのFc領域において、FcγRIIbに対する結合活性が天然型IgGのFc領域と比較して2倍以上となるアミノ酸改変が導入されたFc領域改変体と、全てのFcγRに対する結合活性を低減させるアミノ酸改変とが組み合わされて導入されるよう、当該Fc領域を改変する。
本発明において、「FcγRIIbに対する結合活性が天然型IgGのFc領域と比較して2倍以上となるアミノ酸改変」としては、特に限定されないが、例えば、表11に記載のアミノ酸改変が挙げられる。
【0273】
また、本発明において、「全てのFcγRに対する結合活性を低減させるアミノ酸改変」としては、特に限定されないが、例えば、Fc領域のEUナンバリング234番目のアミノ酸、235番目のアミノ酸、236番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、239番目のアミノ酸、265番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸及び297番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸が挙げられる。
好ましい組合せとしては、例えば、FcγRIIbに対する結合活性が天然型IgGのFc領域と比較して2倍以上となるアミノ酸改変が、Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸及び271番目のアミノ酸であり、全てのFcγRに対する結合活性を低減させるアミノ酸改変が、Fc領域のEUナンバリング234番目のアミノ酸、235番目のアミノ酸、236番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、239番目のアミノ酸、265番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸及び297番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸が挙げられる。
【0274】
具体的には、下記の(1)~(3)に記載のアミノ酸改変の組合せを好ましい改変の組合せとして挙げることができる。
(1) Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸及び271番目のアミノ酸
(2)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、296番目のアミノ酸、297番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び396番目のアミノ酸
(3) Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸及び296番目のアミノ酸
【0275】
改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸は、改変前と比較してFcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγR、中でもFcγRIIa(R)に対する結合選択性が減少するものであれば特に限定されないが、EUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp、271番目のアミノ酸がGlyであり、EUナンバリング234番目のアミノ酸がAla、His、Asn、Lys又はArg、235番目のアミノ酸がAla、236番目のアミノ酸がGln、237番目のアミノ酸がArg又はLys、239番目のアミノ酸がLys、265番目のアミノ酸がLys、Asn、Arg、Ser又はVal、267番目のアミノ酸がLys、Arg又はTyr、297番目のアミノ酸がAlaであることが好ましい。
【0276】
また、上記方法における好ましい態様としては、例えばヒトIgGのFc領域において、EUナンバリング238番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸の他のアミノ酸への改変が導入されるよう、当該Fc領域を改変する。更に、233番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸及び268番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸の他のアミノ酸への改変とが導入されるよう、当該Fc領域を改変する。組み合わされる他のアミノ酸改変としては、上記の中から2以上のアミノ酸を選択して組み合わせてもよい。好ましい組合せとしては、下記の(1)から(4)が挙げられる。
(1) Fc領域のEUナンバリング237番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
(2)Fc領域のEUナンバリング233番目のアミノ酸、237番目のアミノ酸、238番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
(3) Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、268番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
(4) Fc領域のEUナンバリング238番目のアミノ酸、264番目のアミノ酸、267番目のアミノ酸、271番目のアミノ酸、327番目のアミノ酸、330番目のアミノ酸及び331番目のアミノ酸
【0277】
改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸は、改変前と比較してFcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、すべての活性型FcγR、中でもFcγRIIa(R)に対する結合選択性が減少するものであれば特に限定されないが、EUナンバリング238番目のアミノ酸がAsp、271番目のアミノ酸がGly、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer、331番目のアミノ酸がSer、233番目のアミノ酸がAsp、237番目のアミノ酸がAsp、264番目のアミノ酸がIle、267番目のアミノ酸がAla、268番目のアミノ酸がAsp又はGluであることが好ましい。
【0278】
さらに本発明は、親Fc領域を含むポリペプチドに比べて、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ活性型FcγR、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少したポリペプチドを作製するための、ポリペプチドを改変する方法を提供する。また本発明は、親Fc領域を含むポリペプチドに比べて、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、活性型FcγR、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少したポリペプチドを作製するための、ポリペプチドを改変する方法を提供する。
また本発明は、生体に投与された場合に、親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、抗体の産生が抑制されたポリペプチドを作製するための、ポリペプチドを改変する方法を提供する。
【0279】
好ましい態様としては、例えば、上述のFcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、活性型FcγR、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少したFc領域改変体を含むポリペプチドの製造方法に記載のアミノ酸改変の組み合わせが挙げられる。
また、上述の各種方法には、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較してFcγRIIbに対する結合活性が維持され、かつ、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少されていれば、他のアミノ酸改変を組み合わせて用いることができる。そのような改変としては、例えば、補体に対する結合活性を減少させる改変が挙げられる。具体的には、例えば、Fc領域のEUナンバリング322番目のアミノ酸改変、或いは、Fc領域のEUナンバリング327番目、330番目及び331番目のアミノ酸改変の組合せが挙げられる。改変後のアミノ酸として選択されるアミノ酸は、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較してFcγRIIbに対する結合活性が維持され、すべての活性型FcγRに対する結合活性が減少されつつ、補体に対する結合活性を減少させるものでれば特に限定されないが、EUナンバリング322番目のアミノ酸がAla又はGlu、327番目のアミノ酸がGly、330番目のアミノ酸がSer、331番目のアミノ酸がSerであることが好ましい。
【0280】
さらに本発明は、Fc領域を含むポリペプチドであって、少なくとも一つのアミノ酸が改変され、親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、活性型FcγR、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少したFc領域改変体を含むポリペプチドをコードする核酸を提供する。また本発明は、Fc領域を含むポリペプチドであって、少なくとも一つのアミノ酸が改変され、親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、活性型FcγR、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性に対する結合活性が減少したFc領域改変体を含むポリペプチドをコードする核酸を提供する。本発明の該核酸はDNA、RNAなど、如何なる形態でもよい。
【0281】
さらに本発明は、上記本発明の核酸を含むベクターを提供する。ベクターの種類はベクターが導入される宿主細胞に応じて当業者が適宜選択することができ、例えば上述のベクターを用いることができる。
【0282】
さらに本発明は、上記本発明のベクターにより形質転換された宿主細胞に関する。宿主細胞は当業者が適宜選択することができ、例えば上述の宿主細胞を用いることができる。 具体的には例えば、以下のような宿主細胞が挙げられる。
真核細胞が宿主細胞として使用される場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が適宜使用され得る。具体的には、動物細胞としては、次のような細胞が例示され得る。
(1)哺乳類細胞、:CHO(Chinese hamster ovary cell line)、COS(Monkey kidney cell line)、ミエローマ(Sp2/O、NS0等)、BHK (baby hamster kidney cell line)、Hela、Vero、HEK293(human embryonic kidney cell line with sheared adenovirus (Ad)5 DNA)、Freestyle 293,PER.C6 cell (human embryonic retinal cell line transformed with the Adenovirus Type 5 (Ad5) E1A and E1B genes)など(Current Protocols in Protein Science (May, 2001, Unit 5.9, Table 5.9.1))
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
【0283】
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
【0284】
更に真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
-酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces )属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
-糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus )属
【0285】
さらに本発明は、Fc領域を含むポリペプチドにおいて、該Fc領域に少なくとも一つのアミノ酸改変を加えることを含む、親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、活性型FcγR、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性を減少する方法を提供する。
また本発明は、Fc領域を含むポリペプチドにおいて、該Fc領域に少なくとも一つのアミノ酸改変を加えることを含む、生体に投与された場合に、親Fc領域を含むポリペプチドと比較して、該ポリペプチドに対する抗体の産生を抑制する方法を提供する。
【0286】
好ましい態様としては、例えば、上述のFcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、活性型FcγR、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少したFc領域改変体を含むポリペプチドの製造方法に記載のアミノ酸改変の組み合わせが挙げられる。
また、上記のいずれかの方法により製造されたポリペプチドも本発明に含まれる。
【0287】
本発明は、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドを含有する医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物は、本発明の上記抗体又はFc融合タンパク質分子に加えて医薬的に許容し得る担体を導入し、公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0288】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0289】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0290】
投与は好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与剤型などが挙げられる。注射剤型は、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0291】
また本発明の医薬組成物は、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。抗体または抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000 mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0292】
上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、B細胞、マスト細胞、樹状細胞および/または好塩基球の活性化を抑制する薬剤の有効成分として有用である。本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、活性型FcγRを活性化することなく、FcγRIIbに選択的に作用して、B細胞、マスト細胞、樹状細胞および/または好塩基球の活性化を抑制することが可能である。B細胞の活性化とは、増殖、IgE産生、IgM産生、IgA産生などを含む。上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、FcγRIIbとIgEを架橋することでB細胞のIgE産生を抑制し、IgMと架橋することでB細胞のIgM産生を抑制し、IgAと架橋することでIgA産生を抑制する。それ以外にも、BCR、CD19、CD79b、等のB細胞上に発現している分子でITAMドメインを細胞内に含むあるいはITAMドメインと相互作用する分子とFcγRIIbとを直接的又は間接的に架橋することで、上記と同様な抑制作用を発揮する。また、マスト細胞の活性化とは、増殖、IgE等による活性化、脱顆粒などを含む。上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、マスト細胞においては、IgE受容体であるFcεRI、DAP12、CD200R3等のマスト細胞上に発現しているITAMドメインを含むあるいはITAMドメインと相互作用する分子とFcγRIIbとを直接的、間接的に架橋することで、増殖、IgE等による活性化、脱顆粒の抑制をすることが可能である。また、好塩基球の活性化とは、増殖、脱顆粒などを含む。上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、好塩基球においても、FcγRIIbと細胞膜上の分子でITAMドメインを細胞内に含むあるいはITAMドメインと相互作用する分子とを直接的又は間接的に架橋することにより活性化、脱顆粒、増殖を抑制することが可能である。また、樹状細胞の活性化とは、増殖、脱顆粒などを含む。上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、樹状細胞においても、細胞膜上の分子でITAMドメインを細胞内に含むあるいはITAMドメインと相互作用する分子とFcγRIIbとを直接的又は間接的に架橋することで、活性化、脱顆粒、増殖を抑制することが可能である。
【0293】
本発明においては、上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、免疫炎症性疾患の治療剤又は予防剤の有効成分として有用である。上述のように、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、B細胞、マスト細胞、樹状細胞および/または好塩基球の活性化を抑制することができるので、その結果として、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドを投与することにより、免疫炎症性疾患を治療又は予防することが可能である。「免疫炎症性疾患」は、次のものを包含するが、但しそれらだけには限定されない:関節リウマチ、自己免疫性肝炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性水疱症、自己免疫性副腎皮質炎、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少性紫斑病、巨赤血球性貧血、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性好中球減少症、自己免疫性精巣炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性レセプター病、自己免疫不妊、慢性活動型肝炎、糸球体腎炎、間質性肺腺維症、多発性硬化症、パジェット病、オステオポローシス、多発性骨髄腫、ブドウ膜炎、急性及び慢性脊椎炎、痛風性関節炎、炎症性腸疾患、成人呼吸促進症候群(ARDS)、乾癬、クローン病、バセドウ病、若年性糖尿病、アジソン病、重症筋無力症、水晶体性ブドウ膜炎、全身性エリテマトーデス、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、過敏症、筋肉変性、悪液質、全身性強皮症、限局性強皮症、シェーグレン症候群、ベーチェット病、ライター症候群、I型及びII型糖尿病、骨吸収疾患、移植片対宿主反応、虚血性再灌流外傷、アテローム硬化症、脳トラウマ、大脳マラリア、敗血症、敗血性ショック、トキシックショック症候群、発熱、染色によるマルギアス(malgias)、再生不良性貧血、溶血性貧血、突発性血小板減少症、グッドパスチャー症候群、ギラン・バレー症候群、橋本病、天疱瘡、IgA腎症、花粉症、抗リン脂質抗体症候群、多発性筋炎、ウェゲナー肉芽腫症、結節性動脈炎、混合性結合組織病、線維筋痛症、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性萎縮性胃炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性膵炎、大動脈炎症候群、急速進行性糸球体腎炎、巨赤芽球性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、原発性甲状腺機能低下症、特発性アジソン病、インスリン依存性糖尿病、慢性円板状エリテマトーデス、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、尋常性白斑、サットン後天性遠心性白斑、原田病、自己免疫性視神経症、特発性無精子症、習慣性流産、低血糖症、慢性蕁麻疹、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、腸疾患性関節炎、反応性関節炎、脊椎関節症、腱付着部炎、過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、皮膚筋炎、封入体筋炎、シュミット症候群、グレーブス病、悪性貧血、ルポイド肝炎、初老期痴呆、アルツハイマー病、脱髄性疾患、筋萎縮性側索硬化症、副甲状腺機能低下症、ドレスラー症候群、イートン-ランバート症候群、疱疹状皮膚炎、脱毛症、進行性全身性硬化症、CREST症候群(石灰沈着症、レイノー現象、食道運動障害、強指症および毛細血管拡張症)、サルコイドーシス、リウマチ熱、多形性紅斑、クッシング症候群、輸血反応、ハンセン病、高安動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、側頭動脈炎、巨細胞動脈炎、湿疹、リンパ腫様肉芽腫症、川崎病、心内膜炎、心内膜心筋線維症、眼内炎、胎児赤芽球症、好酸球性筋膜炎、フェルティ症候群、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、移植拒絶反応、ムンプス、心筋症、化膿性関節炎、家族性地中海熱、マックル-ウェルズ症候群、高IgD症候群。
【0294】
また、上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、自己抗原に対する抗体(自己抗体)の産生が疾患の原因と考えられる自己免疫疾患において、その自己抗体の産生を抑制して、当該自己免疫疾患を治療又は予防する薬剤の有効成分として有用である。重症筋無力症の自己抗原であるAchRと抗体のFc部分とを融合した分子を用いることで、AchRを認識するBCRを発現するB細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導することが報告されている (J Neuroimmunol, 227, 35-43, 2010)。自己抗体が認識する抗原と本発明に記載の抗体Fc領域との融合タンパク質を使うことで、その自己抗原に対するBCRを発現するB細胞のBCRとFcγRIIbとを架橋し、自己抗原に対するBCRを発現するB細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導することが可能である。このような自己免疫疾患には、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、慢性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性膵炎、大動脈炎症候群、グッドパスチャー症候群、急速進行性糸球体腎炎、巨赤芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、バセドウ病、橋本病、原発性甲状腺機能低下症、特発性アジソン病、インスリン依存性糖尿病、慢性円板状エリテマトーデス、限局性強皮症、天疱瘡、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、尋常性白斑、サットン後天性遠心性白斑、原田病、自己免疫性視神経症、特発性無精子症、習慣性流産、二型糖尿病、低血糖症、慢性蕁麻疹が含まれるが、これらだけには限定されない。
【0295】
また、上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、生体に必要なタンパク質を欠損する疾患の治療剤の有効成分として有用である。生体に必要なタンパク質を欠損する疾患に対して、そのタンパク質を薬剤として投与し補充する治療法が用いられるが、患者は元来そのタンパク質を欠損しているため、外部から補充されたそのタンパク質は異物として認識され、そのタンパク質に対する抗体が産生されてしまう。その結果として、そのタンパク質が除去されやすくなってしまい、薬剤としての効果が減弱してしまう。そのようなタンパク質と本発明に記載の抗体Fc領域との融合タンパク質を使うことで、当該タンパク質を認識するB細胞上においてBCRとFcγRIIbとを架橋し、当該タンパク質に対する抗体産生を抑制することが可能である。補充するタンパク質としてはFactor VIII、Factor IX、TPO、EPO、α-iduronidase、iduronate sulfatase、A型heparan N-sulfatase,B型α-N-acetylglucosaminidase, C型acetyl CoA:α-glucosaminidase acetyltransferase,D型N-acetylglucosamine 6-sulfatase、galactose 6-sulfatase、N-acetylgalactosamine 4-sulfatase、β-glucuronidase、α-galactosidase、acidic α-galactosidase、glucocerebrosidaseが含まれる。また、これらのタンパク質を補充する疾患としては、血友病、特発性血小板減少性紫斑病、腎性貧血、ライソソーム病(ムコ多糖症、ファブリー病、ポンペ病、ゴーシェ病)等が含まれる。ただし、これらに限定されない。
【0296】
また、上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、抗ウィルス剤の有効成分として有用である。ウィルスに対する抗体であって本発明に記載のFc領域を含む抗体は、ウィルスに対する抗体に見られる抗体依存性感染増強 (antibody-dependent enhancement) を抑制することが可能である。抗体依存性感染増強とは、ウィルスが、そのウィルスに対する中和抗体を利用して、活性型FcγRを介して貪食されFcγR発現細胞に感染することで、感染を拡大する現象である。デングウィルスに対する中和抗体のFcγRIIbに対する結合が、抗体依存性感染増強を抑制するのに重要な役割を果たしていることが報告されている(Proc Natl Acad Sci USA, 108, 12479-12484, 2011)。デングウィルスに対する中和抗体が形成するデングウィルスとの免疫複合体がFcγRIIbを架橋することで、FcγRを介した貪食を阻害し、その結果として抗体依存性感染増強を抑制する。ウィルスにはデングウィルス(DENV1、DENV2、DENV4)やHIVが含まれる。ただし、これらだけに限定されない。
【0297】
また、上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、動脈硬化予防剤または治療剤の有効成分として有用である。動脈硬化の原因である酸化LDLに対する抗体であって、本発明に記載のFc領域を含む抗体はFcγRIIa依存的な炎症性細胞の接着を防ぐことが可能である。抗酸化LDL抗体は酸化LDLとCD36の相互作用を阻害するが、抗酸化LDL抗体が内皮細胞に対して結合し、そのFc部分をモノサイトがFcγRIIaやFcγRI依存的に認識し、接着することが報告されている (Immunol Lett, 108, 52-61, 2007)。このような抗体に、本発明に記載のFc領域を含む抗体を利用することで、FcγRIIa依存的な結合は阻害され、かつFcγRIIbを介した抑制シグナルによってモノサイトの接着を抑制することが考えられる。
【0298】
本発明においては、上記本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドは、癌に対する治療剤又は予防剤の有効成分として有用である。上述のように、FcγRIIbに対する結合を維持し、かつ、すべての活性型FcγRに対する結合を低減することで、アゴニスト抗体のアゴニスト活性を維持しつつ、FcγRIIaに依存的な機構による血小板の活性化を抑制し、血栓塞栓症等のリスクを低減することが可能である。そのため、本発明に記載のFc領域改変体を用いたアゴニスト抗体は、癌の治療又は予防に有用である。具体的には、本発明に記載のFc領域改変体は、例えば、Aliases、CD120a、CD120b、Lymphotoxin β receptor、CD134、CD40、FAS、TNFRSF6B、CD27、CD30、CD137、TNFRSF10A、TNFRSF10B、TNFRSF10C、TNFRSF10D、RANK、Osteoprotegerin、TNFRSF12A、TNFRSF13B、TNFRSF13C、TNFRSF14、Nerve growth factor receptor、TNFRSF17、TNFRSF18、TNFRSF19、TNFRSF21、TNFRSF25、Ectodysplasin A2 receptor等のTNF受容体ファミリーに対するアゴニスト抗体のアゴニスト活性を増強し、癌の治療又は予防に利用することができる。また、上記以外にも、そのアゴニスト活性にFcγRIIbとの相互作用が必要とされる分子に対するアゴニスト抗体のアゴニスト活性も増強する。加えて、Receptor Tyrosine kinase(RTK)の一つであるKitのように、FcγRIIbと架橋されることで、細胞の増殖が抑制されるような分子に対して結合活性を有するポリペプチドに、本発明のFc領域改変体を含ませることで、当該分子を発現した細胞に対する抑制作用を増強することが可能となる。癌は次のものを包含するが、但しそれらだけには限定されない:肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌および肺扁平上皮癌を含む)、大腸癌、直腸癌、結腸癌、乳癌、肝癌、胃癌、膵癌、腎癌、前立腺癌、卵巣癌、甲状腺癌、胆管癌、腹膜癌、中皮腫、扁平上皮癌、子宮頸癌、子宮体癌、膀胱癌、食道癌、頭頚部癌、鼻咽頭癌、唾液腺腫瘍、胸腺腫、皮膚癌、基底細胞腫、悪性黒色腫、肛門癌、陰茎癌、精巣癌、ウィルムス腫瘍、急性骨髄性白血病(急性骨髄球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病および急性単球性白血病を含む)、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(バーキットリンパ腫、慢性リンパ球性白血病、菌状息肉腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、毛様細胞白血病形質細胞腫、末梢性T細胞リンパ腫および成人T細胞白血病/リンパ腫)、ランゲルハンス細胞組織球症、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、脳腫瘍(神経膠腫、星細胞腫、グリア芽細胞腫、髄膜腫および上衣腫を含む)、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、骨肉腫、カポジ肉腫、ユーイング肉腫、血管肉腫、血管外皮細胞腫。
【0299】
また本発明は、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドもしくは本発明の製造方法により製造されたFc領域改変体を含むポリペプチドを対象(患者)へ投与する工程を含む、免疫炎症性疾患の治療方法または予防方法に関する。
【0300】
また本発明は、少なくとも本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドもしくは本発明の製造方法により製造されたFc領域改変体を含むポリペプチド、または本発明の医薬組成物を含む、本発明の治療方法または予防方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、薬学的に許容される担体、媒体、使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。また本発明は、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドもしくは本発明の製造方法により製造されたFc領域改変体を含むポリペプチドの、免疫炎症性疾患の治療剤または予防剤の製造における使用に関する。また本発明は、本発明の治療方法または予防方法に使用するための、本発明のFc領域改変体を含むポリペプチドまたは本発明の製造方法により製造されたFc領域改変体を含むポリペプチドに関する。
【0301】
なお本明細書で用いられているアミノ酸の3文字表記と1文字表記の対応は以下の通りである。
アラニン:Ala:A
アルギニン:Arg:R
アスパラギン:Asn:N
アスパラギン酸:Asp:D
システイン:Cys:C
グルタミン:Gln:Q
グルタミン酸:Glu:E
グリシン:Gly:G
ヒスチジン:His:H
イソロイシン:Ile:I
ロイシン:Leu:L
リジン:Lys:K
メチオニン:Met:M
フェニルアラニン:Phe:F
プロリン:Pro:P
セリン:Ser:S
スレオニン:Thr:T
トリプトファン:Trp:W
チロシン:Tyr:Y
バリン:Val:V
【0302】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例0303】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、下記の実施例に限定されるものではない。
【0304】
〔実施例1〕pH依存的抗IgE抗体の取得
(1-1)抗ヒトIgE抗体の取得
pH依存的抗ヒトIgE抗体を取得するために、抗原であるヒトIgE(重鎖配列番号:13、軽鎖配列番号:14)(可変領域は抗ヒトGlypican3抗体からなる)をFreeStyle293(Life Technologies)を用いて発現させた。発現したヒトIgEは当業者公知の一般的なカラムクロマトグラフィー法により精製して、調製された。
【0305】
取得された多数の抗体の中から、ヒトIgEにpH依存的に結合し、且つ、二分子の抗IgE抗体および二分子のIgE以上からなる大きな免疫複合体を形成する抗体が選抜された。選抜された抗ヒトIgE抗体をヒトIgG1重鎖定常領域、および、ヒト軽鎖定常領域を用いて発現、精製した。作製された抗体はクローン278(IgG1)(重鎖配列番号:10、軽鎖配列番号:11)と命名された。
【0306】
(1-2)抗ヒトIgE抗体の結合活性およびpH依存的結合活性の評価
エンドソーム内で抗原を解離することができる抗体は、抗原に対してpH依存的に結合するだけでなく、Ca依存的に結合する抗原に結合することによっても創製することが可能である。そこで、クローン278およびコントロールとなるpH依存的IgE結合能を有さないXolair (omalizumab, Novartis)の、ヒトIgE(hIgE)に対するpH依存的結合能およびpH/Ca依存的結合能が評価された。
【0307】
すなわち、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、クローン278およびXolairのhIgEに対する結合活性(解離定数KD (M))が評価された。ランニングバッファーとして以下3種を用いて測定が行われた。
・1.2 mmol/l CaCl2 /0.05% tween20, 20 mmol/l ACES, 150 mmol/l NaCl, pH7.4
・1.2 mmol/l CaCl2 /0.05% tween20, 20 mmol/l ACES, 150 mmol/l NaCl, pH5.8
・3 μmol/l CaCl2 /0.05% tween20, 20 mmol/l ACES, 150 mmol/l NaCl, pH5.8
【0308】
適当量添加された化学合成されたヒトグリピカン3タンパク質由来配列(配列番号:12)のC末端に存在するLysにビオチンが付加されたペプチド(以下「ビオチン化GPC3ペプチド」と記載する)が、ストレプトアビジンとビオチンの親和性を利用してSensor chip SA(GE Healthcare)上に固定化された。適切な濃度のヒトIgEをインジェクトして、ビオチン化GPC3ペプチドに捕捉させることで、ヒトIgEがチップ上に固定化された。アナライトとして適切な濃度のクローン278をインジェクトして、センサーチップ上のヒトIgEと相互作用させた。その後、10 mmol/L Glycine-HCl, pH1.5をインジェクトして、センサーチップが再生された。相互作用は全て37℃で測定された。Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いた、カーブフィッティングによる測定結果の解析により、結合速度定数ka (1/Ms)及び解離速度定数kd (1/s)が算出された。これらの定数を元に解離定数KD (M)が算出された。さらに、pH5.8, 1.2 mM Ca条件とpH7.4, 1.2 mM Ca条件の下での各抗体のKD比を算出してpH依存性結合が、pH5.8, 3μM Ca条件とpH7.4, 1.2 mM Ca条件の下での各抗体のKD比を算出してpH/Ca依存性結合が評価された。その結果を表5に示した。
【0309】
【表5】
【0310】
(1-3)クローン278、Xolairの免疫複合体の形成評価
クローン278がヒトIgEと中性条件下(pH7.4)において二分子の抗IgE抗体および二分子のIgE以上からなる大きな免疫複合体を形成すること、またその免疫複合体が酸性条件下(pH5.8)において解離することがゲルろ過クロマトグラフィーにより評価された。100 mM NaClに透析処理されたクローン278は、中性条件下のサンプルとして20mM Tris-HCl, 150mM NaCl, 1.2mM CaCl2, pH7.4のバッファー、酸性条件下のサンプルとして20mM Bis-tris-HCl, 150mM NaCl, 3μM CaCl2, pH5.8のバッファーを用いて希釈された。ヒトIgEであるhIgE(Asp6)100μg/mL(0.60μM)とクローン278が1:1、1:6のモル比で混合された混合液が、室温または25℃オートサンプラー中で2時間以上放置後、ゲルろ過クロマトグラフィーで分析された。中性条件下では20mM Tris-HCl, 300mM NaCl, 1.2mM CaCl2, pH7.4の移動相、酸性条件下では20mM Bis-tris-HCl, 300mM NaCl, 3uM CaCl2, pH5.8の移動相がそれぞれ用いられた。カラムはG4000SWxl (TOSOH)を用い、流速0.5mL/min、25℃の条件下で分析された。その結果を図1に示した。図1に示すとおり、クローン278とヒトIgEは、中性条件下において、見かけの分子量670kDa程度からなる(抗体一分子を一量体と仮定した場合における)4量体およびそれ以上の多量体からなる大きな免疫複合体を形成したことが確認された。さらに、酸性条件下においては、このような免疫複合体は認められなかったことから、上述のBiacoreを用いた結合の評価と同様、pH依存的にこれらの免疫複合体は解離することが確認された。
【0311】
〔実施例2〕クローン278とXolairのin vivo評価
(2-1)In vivo評価用のヒトIgE(hIgE(Asp6))の調製
重鎖(配列番号:15)および軽鎖(配列番号:14)からなるin vivo評価用のヒトIgEであるhIgE (Asp6)(可変領域は抗ヒトGlypican3抗体)は、実施例1と同様の方法で調製された。hIgE(Asp6)は、ヒトIgEのN型糖鎖のヘテロジェニティーが、抗原であるヒトIgEの血漿中濃度推移の影響を受けないようにするために、ヒトIgEの6か所のN型糖鎖結合サイトのアスパラギンがアスパラギン酸に改変された分子である。
【0312】
(2-2)ノーマルマウスを用いたクローン278とXolairのヒトIgEの消失加速効果の検証
C57BL/6Jマウス(Charles river Japan)にhIgE(Asp6)を単独投与、もしくはhIgE(Asp6)および抗hIgE抗体(クローン278またはXolair)を同時投与した後のhIgE(Asp6)および抗ヒトIgE抗体の体内動態が評価された。hIgE(Asp6)(20μg/mL)もしくはhIgE(Asp6)および抗ヒトIgE抗体の混合溶液(濃度は表6に記載)が尾静脈から10mL/kgで単回投与された。このとき、hIgE(Asp6)に対して各抗体は十分量過剰に存在することから、hIgE(Asp6)はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与後5分間、2時間、7時間、1日間、2日間、4日間もしくは5日間、7日間、14日間、21日間、28日間で当該マウスから血液が採血された。採取された血液をただちに4℃、15,000 rpmで5分間遠心分離して、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで、-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0313】
【表6】
【0314】
(2-3)ノーマルマウスの血漿中hIgE(Asp6)濃度の測定
マウス血漿中hIgE(Asp6)濃度はELISA法にて測定された。血漿中濃度として192、96、48、24、12、6、3 ng/mLの検量線試料が調製された。hIgE(Asp6)と抗hIgE抗体の免疫複合体を均一にするため、検量線およびマウス血漿測定試料には、10μg/mLとなるようにXolair(Novartis)を添加し、室温で30分静置させた。静置後の検量線およびマウス血漿測定試料をanti-human IgEが固相化されたイムノプレート(MABTECH)もしくは、anti-human IgE(clone 107、MABTECH)が固相化されたイムノプレート(Nunc F96 MicroWell Plate(Nalge nunc International))に分注し、室温で2時間静置もしくは4℃で一晩静置させた。その後、human GPC3 core protein(配列番号:16)、NHS-PEG4-Biotin(Thermo Fisher Scientific)でbiotin化された抗GPC3抗体(社内調製)、Sterptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)をそれぞれ1時間順次反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応を1 N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で反応停止後、当該発色をマイクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定する方法、もしくはSuperSignal(r) ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)を基質として発光反応を行い、マイクロプレートリーダーにて発光強度を測定する方法によってマウス血漿中濃度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度もしくは発光強度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後の血漿中hIgE(Asp6)濃度推移を図2に示した。図中でクローン278は278-IgG1、XolairはXolair-IgG1と表記された。
【0315】
(2-4)ノーマルマウスの血漿中抗ヒトIgE抗体濃度の測定
マウス血漿中の抗hIgE抗体濃度はELISA法にて測定された。血漿中濃度として0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125、0.00625μg/mLの検量線試料が調製された。hIgE(Asp6)と抗hIgE抗体の免疫複合体を均一にするため、検量線およびマウス血漿測定試料は、1μg/mLとなるようにhIgE(Asp6)が添加された後、室温で30分静置した。静置後の検量線およびマウス血漿測定試料をAnti-Human Kappa Light Chain Antibody(Bethyl Laboratories)が固相化されたイムノプレート(Nunc-Immuno Plate, MaxiSorp(Nalge nunc International))に分注し、室温で2時間静置もしくは4℃で一晩静置させた。その後、Rabbit anti-Human IgG (Fc) Secondary antibody, Biotin conjugate(Pierce Biotechnology)およびStreptavidin-Poly HRP80(Stereospecific Detection Technologies)をそれぞれ1時間順次反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応を1 N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で反応停止後、当該発色をマクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定する方法によってマウス血漿中濃度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後の血漿中IgE抗体濃度推移を図3に示した。図中でクローン278は278-IgG1、XolairはXolair-IgG1と表記された。
【0316】
その結果、ヒトIgE単独の消失に対して、ヒトIgEとコントロール抗IgE抗体であるXolairを同時に投与した場合は、ヒトIgEの消失は遅くなった。それに対して、ヒトIgEに対してpH依存的な結合活性を有するクローン278を同時に投与した場合は、ヒトIgEの消失をヒトIgE単独と比較して大幅に加速することが確認された。
国際公開第WO2011/122011号においてヒトIL-6レセプター (hsIL-6R)に対して結合する抗体とhsIL-6Rとを用いて同様の実験が実施されているが、その結果は本実施例の結果と異なっていた。国際公開第WO2011/122011号の実施例3においては、ヒトIL-6レセプター (hsIL-6R)に対して結合するが、その結合がpH依存的ではない抗体(H54L28-IgG1)のIgG1抗体を抗原と同時にノーマルマウス(C57BL/6Jマウス)に投与した場合には、抗原単独を投与した場合と比較して、抗原であるヒトIL-6レセプターの消失は加速されておらず、むしろ遅くなっていた。pH依存的に抗原に結合する抗体(Fv4-IgG1)を抗原と同時に投与した場合も、H54L28-IgG1を投与した場合と比較して抗原の消失は加速されているものの、抗原単独で投与した場合よりは抗原の消失は遅くなっていた。これは抗体を投与することにより、抗体が抗原に結合した結果、抗原が抗体とともに挙動することにより、抗体同様にFcRnを介してリサイクルされ、血中から消失されにくくなるためであると考えられる。
【0317】
本実施例で得られた結果は、抗原と同時に抗体を投与することにより、抗原単独を投与した場合よりも、抗原の消失が加速するという結果であり、過去の報告と一見矛盾するようである。しかし、本実施で用いた抗原であるIgEは二価抗原であり、hsIL-6Rは一価抗原であるという点が異なる。IgEに対して抗IgE抗体を加えると、一つの抗原に対して二つの抗体が結合することが可能であり、実施例(1-3)で観察されたような複数の抗原と抗体から成る免疫複合体を形成する。抗体単独であれば、IgGの受容体であるFcγRに対して一価(affinity)で結合することしかできないが、上述のような複数の抗原と抗体から成る免疫複合体の場合には、FcγRに対して複数価(avidity)で結合することが可能である。一方、hsIL-6Rの場合は一つの抗原に対して一つの抗体しか結合できず、したがってその抗原と抗体からなる免疫複合体はFcγRと一価(affinity)でしか結合できず、avidityで結合した場合と比較してその相互作用は極めて弱い。すなわち、IgEとその抗体から形成される免疫複合体はFcγRに対してavidityで強く結合し、その結果FcγRが発現する肝臓等を介して血中から速やかに除去されたと考えられた。
さらに、抗体がpH依存的に抗原であるIgEに結合する場合は、抗原と抗体の免疫複合体が細胞内に取り込まれた後に、エンドソーム内で抗原が解離される。その後、抗原は抗体とともにFcRnを介してリサイクルされず、解離した抗原はライソソーム内で分解される。その結果、抗体が抗原に対する結合がpH依存的ではない場合と比較して、抗原が速やかに消失させられたと考えられた。
【0318】
〔実施例3〕FcγR結合を低減させたクローン278とXolairのin vivo評価
(3-1)FcγR結合を低減させた抗ヒトIgE抗体の取得
次に、実施例2で観察された抗原の消失の加速が免疫複合体とFcγRとの相互作用に由来するものであるか検証するために、pH依存的にヒトIgEに結合する278-IgG1に対してマウスFcγRに対する結合が低減された改変体が作製された。マウスFcγRに対する結合を低減させることを目的に、278-IgG1のEUナンバリングで表される235位のLeuがArgに、239位のSerがLysに置換された278-F760(軽鎖配列番号:11)が作製された。これらの遺伝子をコードするDNA配列が当業者に公知の方法で動物発現用プラスミドに組み込まれた。当該プラスミドが導入された動物細胞を用いて、上述の方法で発現したこれらの抗体改変体の濃度が、その精製後に測定された。
【0319】
(3-2)ノーマルマウスを用いたFcγR結合を低減させたクローン278とXolairのヒトIgEの消失加速効果の検証
(2-2)と同様の方法でノーマルマウスを用いて、マウスFcγRに対する結合を低減させた278-F760(軽鎖配列番号:11)を投与した際のIgEの消失効果を検証した。
【0320】
(3-3)ノーマルマウスの血漿中hIgE(Asp6)濃度の測定
(2-3)と同様の方法でノーマルマウスの血漿中hIgE濃度を測定した。この方法で測定された静脈内投与後の血漿中hIgE濃度推移を図4に示した。比較のために、図中には(2-3)で得られた278-IgG1投与時の血漿中hIgE濃度推移も示した。
【0321】
(3-4)ノーマルマウスの血漿中抗ヒトIgE抗体濃度の測定
(2-4)と同様の方法でノーマルマウスの血漿中抗hIgE抗体濃度を測定した。
この方法で測定された静脈内投与後の血漿中抗体濃度推移を図5に示した。比較のために、図中には(2-3)で得られた278-IgG1の血漿中抗体濃度推移も示した。
【0322】
本実施例の結果では、抗体とFcγRの結合を低減することによって、血漿中の抗体濃度の推移に大きな変化は観察されなかったが、実施例2で観察されたクローン278のIgG1抗体投与時の抗原の消失を加速させる効果が著しく減弱することが示された。すなわち、実施例2で観察された抗IgE抗体の同時投与時に観察されたIgEの消失の加速は、投与した抗体とFcγRとの相互作用に由来することが示された。
これらのことから、抗体を用いて、標的とする抗原を効率的に除去させるためには、複数の抗原と抗体か成る免疫複合体を形成させること、その抗体のFcγR結合が天然型IgG1抗体と同程度に維持していること、好ましくは抗体が抗原に対してpH依存的に結合すること(pH酸性条件下における抗原に対する結合が、中性条件下における結合よりも低下していること)が必要であることが考えられる。
【0323】
〔実施例4〕FcgRIIbへの結合を天然型と同程度に維持し、その他のFcgRへの結合を減弱させた改変体の作製
【0324】
(4-1)P238D改変と組み合わせることでFcgRIIbへの結合を維持し、FcgRIIaRへの結合を低減させる改変の検討
FcgRIIbへの結合を天然型IgG1のそれと同程度に維持しつつ、活性型FcgRへの結合のみを選択的に低減した抗体を作製するにあたり、最も困難と考えられる課題はアミノ酸配列の相同性が極めて高いFcgRIIaをFcgRIIbと区別して、選択的に結合活性を低減させることであると考えられた。FcgRIIaには131番目のアミノ酸がArgである遺伝子多型とHisである遺伝子多型とが存在する。この残基に対応する残基がFcgRIIbではArgであるため、FcgRIIbはFcgRIIa R型により配列が類似している。そのため、FcgRIIaのうちでも、FcgRIIa R型をFcgRIIbと区別することが特に困難な課題であると考えられた。このFcgRIIaRに対するFcgRIIbへの結合選択性を向上させるための改変として、EUナンバリング238番目のProをAspに置換する改変がWO2012/115241において報告されている。本検討ではこの改変を含む抗体を鋳型にしてFcgRIIbへの結合を天然型IgG1と同程度に維持したまま他のFcgRへの結合を可能な限り減弱させた改変体の作製を目指した。
【0325】
WO2012/115241の実施例5で得られたFc (P238D)とFcγRIIb細胞外領域との複合体のX線結晶構造解析の結果に基づき、EUナンバリング238番目のProをAspに置換した改変Fc上で、FcγRIIbとの相互作用に影響を与えることが予測される部位(EUナンバリング233番目、234番目、235番目、236番目、237番目、239番目、240番目、241番目、263番目、265番目、266番目、267番目、268番目、271番目、273番目、295番目、296番目、298番目、300番目、323番目、325番目、326番目、327番目、328番目、330番目、332番目、334番目の残基)に対して網羅的な改変を導入し、各FcγRとの相互作用を評価した。
【0326】
抗体H鎖可変領域としてWO2009/125825に開示されているヒトインターロイキン6レセプターに対する抗体の可変領域であるIL6R-Hの可変領域(配列番号:17)を、抗体H鎖定常領域としてヒトIgG1のC末端のGlyおよびLysを除去したG1dを有するIL6R-G1d(配列番号:3)を作製した。次に、参考実施例1の方法に従い、IL6R-G1dのEUナンバリング238番目のProをAspに置換したIL6R-F648を作製した。網羅的改変を導入する鋳型H鎖としては、IL6R-F648に対してM252YおよびN434Yを導入したIL6R-F652(配列番号:1)と、IL6R-F648に対してK439Eを導入したIL6R-BF648(配列番号:2) の二種類を用意した。IL6R-F652あるいはIL6R-BF648の上記の部位に対して、元のアミノ酸とCysを除く18種類のアミノ酸を導入した。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:6)を共通に用い、それぞれのH鎖と共に参考実施例1の方法に従って抗体を発現、精製した。これらの改変体を参考実施例1の方法に従い、抗体を発現、精製し、参考実施例2の方法により各FcγR(FcγRIa、 FcγRIIa H型、FcγRIIa R型、FcγRIIb、FcγRIIIa V型)に対する結合を網羅的に評価した。
【0327】
その結果、この中でL235F, G237Q, F241M, F241L, H268P, Q295M, Q295V, Y296E, Y296H, Y296N, Y296D, S298A, S298M, V323I, S324N, S324H, A330H, A330YがP238D改変と組み合わせることで、FcgRIIbへの結合を大きく低下させることなくFcgRIIaRに対する結合を低減させる改変として見出された(表7および表8)。
表7はIL6R-F652/IL6R-Lに対して、表8はIL6R-BF648/IL6R-Lに対して行った網羅的改変導入により見出された改変のFcgRIIaRおよびFcgRIIbへの相対的結合活性を示した。これは、各改変体のFcgRIIaRあるいはFcgRIIbに対する結合量の値を、IL6R-F652/IL6R-L、あるいはIL6R-BF648/IL6R-Lの各FcgRへの結合量の値で割り、100倍した値である。
【0328】
【表7】
【0329】
【表8】
【0330】
表7および表8に示した結果から、これらの改変はいずれも、改変導入前と比較してFcgRIIbへの結合を少なくとも55.5%以上に維持しつつも、FcgRIIaRへの結合を低減させる改変であることが見出された。
【0331】
そこで本検討では、更にこれらの改変を組み合わせることにより、FcgRIIbへの結合をIgG1と同程度に維持したままFcgRIIaRへの結合を可能な限り低減した改変体の作製を検討した。具体的には、表7および表8中で改変導入前と比較して、活性型FcgRに対する結合を選択的に低減していると考えられる改変、あるいはそれらを組み合わせてIL6R-F648に導入した。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:6)を共通に用い、それぞれのH鎖と共に参考実施例1の方法に従って抗体を発現、精製した。得られた改変体のFcgRIa, FcgRIIaR, FcgRIIaH, FcgRIIb, FcgRIIIaVに対する結合は参考実施例2の方法に従って評価した。ここで表9には、各改変体のFcgRIIaRおよびFcgRIIbに対する相対的結合活性を示した。これは、各改変体のFcgRIIaRあるいはFcgRIIbに対する結合量の値を、IL6R-G1d/IL6R-LのFcgRIIaRあるいはFcgRIIbへの結合量の値で割り、100倍した値である。
【0332】
【表9】
【0333】
表9に示した改変体の中から、FcgRIIbへの結合がIL6R-G1d/IL6R-Lのそれと比較して80%以上を維持し、FcgRIIaRへの結合が30%以下に低減されている改変体について、各FcgRへのKD値を表10に示した。表中の相対的結合活性とは、IL6R-G1d/IL6R-LのKD値を各改変体のKD値で割った値であり、IL6R-G1d/IL6R-Lの各FcgRに対するKD値を1としたときの各改変体の相対的結合活性を示す。表中のKD値のうち、灰色で塗りつぶされた値は、FcgRの各改変体に対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例2に記載の
〔式2〕
を利用して算出した値である。
【0334】
【表10】
【0335】
本検討で導入された改変のうち、Y296Eを導入したP589、F241Mを導入したP590、F241Lを導入したP594、Q295Vを導入したP595、 Y296Hを導入したP597、S298Aを導入したP600、S298Mを導入したP601、H268Pを導入したP718、S324Nを導入したP719、S324Hを導入したP720、A330Hを導入したP721、A330Yを導入したP722、L235Fを導入したP723、G237Qを導入したP724、Y296Dを導入したP725は、FcgRIIbへの結合をG1dと同程度かそれ以上に維持したまま、FcgRIIaRへの結合を改変導入前のF648よりも低減する効果があることが示された。これらの中で、最もFcgRIIaRへの結合を低減していたのはS298Aを導入したP600で、FcgRIIbへの結合をG1dの1.2倍に維持したままFcgRIIaRへの結合を0.026倍に低減していた。
活性型FcgRに対する結合を選択的に低減する効果のあった改変同士を組み合わせて検討した結果、FcgRIIbへの結合がG1dと比較して1.0倍以上であり、かつFcgRIIaRへの結合が最も低減されていたのは、P727であった。P727はFcgRIIbへの結合がG1dの1.1倍に維持され、FcgRIIaRへの結合が0.012倍に減弱されていた。またFcgRIaに対する結合がG1dの0.0014倍に、FcgRIIaHへの結合が0.007倍に、FcgRIIIaVへの結合が0.005倍に減弱されており、FcgRIIb以外の、活性型FcgRに対して極めて選択的に結合を減弱する優れた改変体であった。
【0336】
(4-2)FcgRIIbへの結合を増強した改変体に対するFcgRIIaRへの結合低減検討
次に、FcgRIIbへの結合を選択的に増強し、他のFcgRに対する結合は増強しないか、あるいは低減した改変体を鋳型にして、FcgRIIbも含む全FcgRに対する結合を低減させる改変を導入することで、FcgRIIbに対する結合はIgG1と同程度に維持する一方で、他のFcgRに対する結合がIgG1と比較して低減している改変体が得られることが期待された。
【0337】
そこでまず、IL6R-G1d(配列番号:3)に対してK439Eを導入したIL6R-B3 (配列番号:4)が作製された。IL6R-B3に対してFcgRIIb選択的結合を組み合わせて導入することにより、FcgRIIbへの結合を選択的に増強した改変体が作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:6)を共通に用い、それぞれのH鎖と共に参考実施例1の方法に従って抗体を発現、精製した。得られた改変体のFcgRIa, FcgRIIaR, FcgRIIaH, FcgRIIb, FcgRIIIaVに対する結合は参考実施例2の方法に従って評価した。作製された改変体の各FcgRに対する結合活性を表11に示す。表中の相対的結合活性とは、IL6R-B3/IL6R-LのKD値を各改変体のKD値で割った値であり、IL6R-B3/IL6R-Lの各FcgRに対するKD値を1としたときの各改変体の相対的結合活性を示す。「KD(IIaR)/KD(IIb)」とは、各改変体のFcgRIIaRに対するKD値をFcgRIIbに対するKD値で割った値であり、この値が大きければ大きいほどFcgRIIbに対する選択性が高いことを示す。表中のKD値のうち、灰色で塗りつぶされた値は、FcgRの各改変体に対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例2に記載の
〔式2〕
を利用して算出した値である。
【0338】
【表11】
【0339】
表11に記載した改変体はいずれもFcgRIIbへの結合がIL6R-B3/IL6R-Lと比較して増強されており、そのFcgRIIbへの結合の増強の程度はIL6R-B3/IL6R-Lの2.6倍から3090倍であった。またIL6R-B3/IL6R-L のKD(IIaR)/KD(IIb)が0.3であったのに対し、表11に記載した改変体は8.7から64.4と、いずれの改変体もFcgRIIbに対する選択性(KD(IIaR)/KD(IIb))がIL6R-B3/IL6R-Lと比較して向上していた。
これらのFcgRIIbに対して選択的に結合増強した改変体に対し、全FcgRに対する結合を低減させる改変を導入することで、FcgRIIbに対する結合はIgG1と同程度に維持する一方で、他の活性型FcgRに対する結合がIgG1と比較して選択的に低減している改変体が得られると予測された。そこで、実際に、IL6R-BP568/IL6R-LおよびIL6R-BP489/IL6R-Lに導入された2種類のFcgRIIb選択的結合増強改変体を用いて、上述の予測通りの改変体が得られるかを確認した。具体的には上記2つのFcgRIIb選択的結合増強改変を導入した改変体を鋳型として用い、FcgRIIbに対する結合はIgG1と同程度に維持する一方で、他の活性型FcgRに対する結合がIgG1と比較して選択的に低減している改変体を得ることが可能であることを確認した。具体的には、IL6R-BP568/IL6R-LおよびIL6R-BP489/IL6R-Lに用いられたFcgRIIb結合増強改変をIL6R-G1dに導入することで、二種類のFcgRIIbに対する結合を選択的に増強する改変体IL6R-P577およびIL6R-P587が作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:6)を共通に用い、それぞれのH鎖と共に参考実施例1の方法に従って抗体を発現、精製した。これら二つの改変体の各FcgRに対するKD値を表12に示す。
【0340】
【表12】
【0341】
P577のFcgRIIaRへの結合はG1dと比較して21.9倍、FcgRIIbへの結合は3370.7倍であった。またP587のFcgRIIaRへの結合はG1dと比較して1.4倍、FcgRIIbへの結合は255.6倍であった。
【0342】
作製された二種類のFcgRIIb結合増強改変体に対し、全FcgRに対する結合を低減させる改変を導入することで、FcgRIIbへの結合を天然型IgG1と同程度に維持しながら、他のFcgR、特にFcgRIIaRに対する結合を可能な限り減弱した改変体の作製を検討した。FcgRIIaRに対する結合を大幅に低減する改変は、FcgRとの相互作用残基に網羅的に改変を導入する検討を実施することで見出された。実施例4-1で示したIL6R-F652/IL6R-LのEUナンバリング234番目、235番目、236番目、237番目、239番目に対する網羅的改変導入に加えて、FcgRIIb選択的増強改変体に対する網羅的改変導入が実施された。
【0343】
WO2012/115241において報告されているFcgRIIb増強改変 (E233D/G237D/H268E/P271G) をIL6R-BF648 (配列番号:2) に導入し、IL6R-BP267 (配列番号:5) が作製された。IL6R-BP267のEUナンバリング265番目、266番目、267番目、269番目を元のアミノ酸とCysを除く18種類のアミノ酸に置換した改変体が作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L (配列番号:6) を共通に用い、それぞれのH鎖と共に参考実施例1の方法に従って抗体を発現、精製した。これらの改変体を参考実施例1の方法に従い、抗体を発現、精製し、参考実施例2の方法により各FcγR(FcγRIa、 FcγRIIa H型、FcγRIIa R型、FcγRIIb、FcγRIIIa V型)に対する結合を網羅的に評価した。表13はIL6R-F652/IL6R-Lに対して、表14はIL6R-BP267/IL6R-Lに対して行った網羅的改変導入により見出された改変のFcgRIIaRおよびFcgRIIbへの相対的結合活性を示した。これは、各改変体のFcgRIIaRあるいはFcgRIIbに対する結合量の値を、IL6R-F652/IL6R-L、あるいはIL6R-BP267/IL6R-Lの各FcgRへの結合量の値で割り、100倍した値である。
【0344】
【表13】
【0345】
【表14】
【0346】
表13および表14の結果から、これらの改変は、改変導入前と比較してFcgRIIaRへの結合を少なくとも67%以下に低減し、中にはその結合を完全に失わせる改変も含まれることが示された。
【0347】
次に、これらの改変をFcgRIIb選択的結合増強改変体に導入、検討した。具体的には、表13および表14に示した17改変が参考実施例1の方法に従ってIL6R-P577、IL6R-P587に対して導入された。また、抗体はFc領域のEUナンバリング297番目のAsnに付加されたN型糖鎖を取り除くことにより、FcgRに対する結合が著しく低減されることが報告されている(The Journal of Biological Chemistry, 2000, 276, 6591-6604)。そのため、本実施例では上述の17改変に加えて、Asn297に付加されているN型糖鎖を取り除くためにN297Aが参考実施例1の方法に従ってIL6R-P577、IL6R-P587に対して導入された。抗体L鎖としてはIL6R-L (配列番号:6) を共通に用い、それぞれのH鎖と共に参考実施例1の方法に従って抗体を発現、精製した。得られた改変体のFcgRIa, FcgRIIaR, FcgRIIaH, FcgRIIb, FcgRIIIaVに対する結合は参考実施例2の方法に従って評価した。ここで表15には、各改変体のFcgRIIaRおよびFcgRIIbに対する相対的結合活性を示した。これは、各改変体のFcgRIIaRあるいはFcgRIIbに対する結合量の値を、IL6R-G1d/IL6R-LのFcgRIIaRあるいはFcgRIIbへの結合量の値で割り、100倍した値である。
【0348】
【表15】
【0349】
表15に示すようにS239Kを導入した改変体P606、P607、D265Kを導入したP630、P645、D265Rを導入したP632、P647、D265Vを導入したP634、P649はFcgRIIaR、FcgRIIbへの結合がほとんど確認されなかった。つまりこれらの改変はFcgRIIbに対する結合を増強した改変体に導入したとしても、FcgRIIbに対する結合活性も著しく減じてしまう改変である。一方で、P587に対してS267Rを導入したP636や、P577に対してN297Aを導入したP665は、FcgRIIbへの結合がG1dとほぼ同程度であり、その一方でFcgRIIaRに対する結合が大幅に低減されていた。
【0350】
表15に示した改変体のうち、FcgRIIbへの結合がG1dの80%以上を維持し、FcgRIIaRへの結合がG1dの30%以下に抑えられている改変体の各FcgRへのKDを表16に示した。表中の相対的結合活性とは、IL6R-G1d/IL6R-LのKD値を各改変体のKD値で割った値であり、IL6R-G1d/IL6R-Lの各FcgRに対するKD値を1としたときの各改変体の相対的結合活性を示す。表中のKD値のうち、灰色で塗りつぶされた値は、FcgRの各改変体に対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例2に記載の
〔式2〕
を利用して算出した値である。
【0351】
【表16】
【0352】
これらの改変体の中で、FcgRIIaRへの結合が最も低減されていたのは、P587に対してS267Rを導入したP636であった。P636はFcgRIIaRに対するKDがG1dの0.023倍であったが、FcgRIIbへのKDはG1dの1.8倍を維持していた。またFcgRIaに対する結合がG1dの0.0007倍に、FcgRIIaHに対する結合が0.006倍に、FcgRIIIaVへの結合が0.008倍に抑制されていた。以上の結果からFcgRIIbに対して選択的に結合増強した改変体に対し、全FcgRへの結合を低減する改変を導入することでFcgRIIbに対する結合はIgG1と同程度を維持しつつ、他のFcgRに対する結合をIgG1よりも低減した改変体が得られることが示された。
【0353】
(4-3)FcgRIIaRへの結合低減効果のある改変の組み合わせ検討
4-1、4-2において見出されたFcgRIIbへの結合をG1dと同程度に維持しつつ、FcgRIIaRへの結合が低減された改変を組み合わせ、より優れた改変体の作製を検討した。
表17に組み合わせ検討結果を示す。表中の相対的結合活性とは、IL6R-G1d/IL6R-LのKD値を各改変体のKD値で割った値であり、IL6R-G1d/IL6R-Lの各FcgRに対するKD値を1としたときの各改変体の相対的結合活性を示す。表中のKD値のうち、表中のKD値のうち、灰色で塗りつぶされた値は、FcgRの各改変体に対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例2に記載の
〔式2〕
を利用して算出した値である。
【0354】
【表17】
【0355】
表17に記載した改変体のうち、FcgRIIaRに対する結合を最も低減していたのは、FcgRIIb選択的結合増強改変体P587に対して、S267R、H268P、Y296Eを組み合わせて導入したP712であり、FcgRIIbへの結合がG1dと比較して1.5倍に維持されたままFcgRIIaRへの結合がG1dと比較して0.017倍に低減されていた。またFcgRIaに対する結合はG1dと比較して0.0005倍に、FcgRIIaHに対する結合が0.003倍に、FcgRIIIaVに対する結合が0.004倍に抑制されていた。
【0356】
〔実施例5〕 FcgRIIbへの結合を天然型と同程度に維持し、その他のFcgRへの結合を減弱させ、かつ補体への結合を減弱させた改変体の作製
CDC (complement-dependent cytotoxicity)はADCC同様、免疫反応を惹起するエフェクター機能である。ここまでで作製した改変体はいずれもFcgRIIb以外の活性型レセプターに対する結合活性が大きく低減されており、ADCC活性は大きく減弱されていると考えられる。しかしながら抗体と補体との結合部位は抗体とFcgRとの結合部位とは異なるため、補体に対する結合活性は維持されている可能性がある。そこで各改変体の補体への結合活性を評価し、補体への結合を低減させる改変を組み合わせることで、補体への結合についても減弱させた改変体を作製することとした。
【0357】
抗体とヒトC1qとの相互作用解析は、Biacore T200(GEヘルスケア)を用いて行った。ランニングバッファーにはHBS-EP+(GEヘルスケア)を用い、測定温度は25℃とした。Series S sensor Chip CM4(GEヘルスケア)に、アミンカップリング法によりProtein L(ACTIGENまたはBioVision)を固定化したチップを用いた。
これらのセンサーチップに目的の抗体をキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈したhuman complement C1q(PROSPECあるいはCalbiochem)を相互作用させ、抗体に対する結合量を測定し、抗体間で比較した。ただし、C1qの結合量はキャプチャーした抗体の量に依存するため、各抗体のキャプチャー量でC1qの結合量を除した補正値で比較した。また、10 mM glycine-HCl、pH1.5を反応させることで、センサーチップにキャプチャーした抗体を洗浄し、センサーチップを再生して繰り返し用いた。
C1qへの結合を低減させる改変としては、先行文献(J. Immunol, 2003, 164, 4178-4184)に記載のK322Aを用いた。さらに、EUナンバリング322番目のLysを逆の電荷を有するGluに置換することでもC1qとの結合が低減されると期待されたため、K322Eについても検討した。また、IgG4はIgG1と比較してCDC活性が著しく低く、これはCH2ドメインC末端の配列の違いに起因することが報告されている(J. Exp. Med., 1991, 173, 1025-1028)。そこで、IgG1のEUナンバリング327番目のAlaをGlyに、330番目のAlaをSerに、331番目のProをSerとし、IgG4型の配列とすることでC1qへの結合を低減する検討についてもあわせて行った。
【0358】
具体的には、FcgRIIbへの結合を増強した改変体、あるいはFcgRIIbへの結合を維持したまま他のFcgRへの結合を低減した改変体のヒトC1qへの結合を評価した。また、それらに対してC1qへの結合を低減させる改変を組み合わせた改変体を作製し、評価した。また全ての改変体に対して、参考実施例2の方法に従って作製した改変体の各FcgRへの結合を評価した。C1qへの結合評価におけるネガティブコントロールとして、ヒトIgG4を用いた。ヒトIgG4 のEUナンバリング228番目のSerをProに置換し、C末端のGlyおよびLysを除去したG4dを有するIL6R-G4d(配列番号:52)を作製した。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:6)を共通して用いた。
【0359】
表18は、作製した改変体とヒトC1qへの結合を評価した結果である。表中の「G1dを100としたときのC1qに対する結合量」とは、各改変体に対するC1qの結合量を各改変体のキャプチャー量で除したもので、それをIL6R-G1d/IL6R-LのC1qへの結合量をIL6R-G1d/IL6R-Lのキャプチャー量で除した値で割り、さらに100倍した値である。すなわち、IL6R-G1d/IL6R-Lと比較してどの程度C1qに結合するかを示すものである。
【表18】
【0360】
天然型の配列を有するG1dを100とした場合、ネガティブコントロールであるG4dは15.5であった。また、C1qへの結合を低減する改変をG1dに導入したG1dK322A, G1dK322E, G1dGSSのC1qへの結合はそれぞれ、20.5、2.3、15.2でG4dと同等以下であり、改変導入前と比較してC1qへの結合が大きく低減されていることが分かった。また、FcgRIIBに対して選択的に結合を増強するP238D改変を導入したF648はC1qへの結合低減改変を用いなくともC1qへの結合がG4dと同程度であることが明らかとなった。またこれに対してさらにC1q結合低減改変を導入したP741, P742, P743のC1qへの結合能は、いずれもG4dと同等以下であった。
【0361】
FcgRIIbへの結合を天然型と同程度に維持し、その他のFcgRへの結合能を減弱させた改変体であるP600, P691, P727, P729, P733, P737のうち、P600, P691, P729, P733はいずれもG4dと同程度のC1q結合活性であった。一方でP727, P737は、G1dと比較すると大きく減弱されているものの、G4dと比較して2倍以上の結合能を示した。両改変体には共通してA330Hの改変が導入されており、これによってC1qへの結合が増強されたものと考えられる。しかしながらいずれの改変体においても、C1q結合低減改変であるK322AあるいはK322Eを導入することでC1qへの結合活性がG4d以下に抑制された。
【0362】
FcgRIIbへの結合を増強した改変体であるP587, P588, P769, P112, P555, P556, P559, P562, P763, P764, P765のうち、P587およびP588はC1qへの結合がG1dと同等以上であることが明らかとなった。またP769, P556, P559, P562, P763, P765はG1dと比較すると大きく減弱されているものの、G4dと比較して2倍程度の結合能を示した。一方でP112, P764はG4dと同程度のC1q結合活性であった。またいずれの改変体においてもC1q結合低下改変を導入することによりC1qへの結合活性がG4dと同等以下に抑制されることが示された。
【0363】
表19には、各改変体のFcgRIIaRおよびFcgRIIbに対する相対的結合活性を示した。これは、各改変体のFcgRIIaRあるいはFcgRIIbに対する結合量の値を、IL6R-G1d/IL6R-LのFcgRIIaRあるいはFcgRIIbへの結合量の値で割り、100倍した値である。
【表19】
【0364】
表19に示された補体への結合を低減する改変を含む改変体は、FcgRIIaRに対する相対的結合活性がG1dと比較して105%以下に、またFcgRIIbへの相対的結合活性がG1dと比較して48%以上を維持していた。
【0365】
表20にはこれらの改変体の各FcgRへの結合を示した。表中の相対的結合活性とは、IL6R-G1d/IL6R-LのKD値を各改変体のKD値で割った値であり、IL6R-G1d/IL6R-Lの各FcgRに対するKD値を1としたときの各改変体の相対的結合活性を示す。表中のKD値のうち、表中のKD値のうち、灰色で塗りつぶされた値は、FcgRの各改変体に対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例2に記載の
〔式2〕
を利用して算出した値である。
【表20】
【0366】
C1q結合低減改変のFcgRIIbに対する結合能への影響を比較すると、G1dに対してK322Aを導入したG1dK322AではG1dと比較して1.0倍、K322Eを導入したG1dK322Eでは1.1倍、A327G/A330S/P331Sを導入したG1dGSSでは0.9倍と、いずれのC1q結合低減改変もFcgRIIbへの結合にほとんど影響しない。FcgRIIbへの結合を選択的に増強するP238D改変を含むF648に対してK322Aを導入したP741、あるいはK322Eを導入したP742では、改変導入前のF648と比較してhFcgRIIbへの結合がほとんど変わらないのに対し、A327G/A330S/P331Sを導入したP743ではFcgRIIbへの結合能が若干低下し、G1dの0.6倍となった。以上の結果からP238D改変と組み合わせた場合、K322AやK322E改変はFcgRIIbへの結合能を低下させることなくC1qへの結合能を減弱させるが、A327G/A330S/P331S改変はFcgRIIbへの結合能を若干低下させることが明らかになった。この結果はその他のP238D改変を含む改変体に対して導入した場合であっても同様である。例えばP600に対してK322Aを導入したP744ではFcgRIIbへの結合はG1dと比較して0.7倍、K322Eを導入したP745では0.7倍であるが、A327G/A330S/P331Sを導入したP781では0.2倍と若干低下している。
【0367】
一方で免疫原性という観点からは、K322AやK322Eを導入するよりも天然型ヒトIgG4の配列であるA327G/A330S/P331Sを導入する方が好ましいと考えられる。そのため、FcgRIIbへの結合を増強する改変が導入された改変体にC1q結合低減するための改変を導入する場合は、A327G/A330S/P331S改変がより好ましい場合がある。例えばP781に対してE233DとG237Dを組み合わせたP787では、A327G/A330S/P331S改変の導入によってC1q結合が低減されている一方で、活性型FcgRへの結合は大きく増強することなく、FcgRIIbへの結合が0.2倍から0.5倍へと向上している。
【0368】
本検討で作製したFcgRIIbへの結合を増強、あるいは維持し、かつ補体への結合を低減した改変体は、いずれもFcgRIIbへの結合がG1dの0.2倍以上でFcgRIIaRへの結合がG1dの1.0倍以下に抑えられていた。またFcgRIaへの結合はG1dの0.85倍以下に、FcgRIIaHへの結合は0.036倍以下に、 FcgRIIIaVへの結合は0.012倍以下に抑制されていた。これらの中でも、A327G/A330S/P331S改変を導入した改変体のうちP756, P757, P758, P759, P760, P761, P762, P766, P767, P768, P770, P784はいずれもFcgRIIbへの結合がG1dよりも増強されており、FcgRIIaRへの結合がG1dの1.0倍以下であった。
【0369】
以上の結果から、FcgRIIbへの結合を増強あるいはFcgRIIbへの結合を天然型と同程度に維持し、他のFcgRへの結合を減弱させた改変体に補体への結合を低減させる改変を導入することで、FcgRIIbへの結合選択性に優れ、かつC1qへの結合が減弱された改変体が作製可能であることが示された。
【0370】
〔実施例6〕Fc改変体の樹状細胞(DC)の活性化能の評価
(6-1)Fc改変体の樹状細胞(DC)の活性化能の評価
これまでに、抗体のFc部分を介して細胞表面上に発現している活性型FcγR、特にFcγRIIaが架橋されることで、樹状細胞が活性化されることが報告されている (The Journal of Clinical Investigation, 2005, 115, 2914-2923, The Journal of Immunology, 2003, 170, 3963-3970)。実施例4で作製した活性型FcγRに対する結合を選択的に低減したFc改変体について、抗体のFc部分を介した樹状細胞活性化能が低減されているかを検証した。
【0371】
(6-2)Fc改変体の調製
参考実施例1の方法に従い、XolairH-G1d (配列番号:18), XolairH-G1dのEUナンバリング238番目のProをAspに置換したXolairH-F648、XolairH-G1dのEUナンバリング238番目のProをAspに、298番目のSerをAlaに置換したXolairH-P600を作製した。抗体L鎖としてはXolairL-k0 (配列番号:7) を共通に用い、それぞれのH鎖と共に参考実施例1の方法に従って抗体を発現、精製した。各Fc改変体はそれぞれG1d,F648,P600と表記する。
【0372】
(6-3)monocyteの単離と樹状細胞への分化誘導
ヒト全血と等量のRPMI培地を混合し、ficolで白血球層を分離する。白血球層から、Monocyte Isolation Kit II (Miltenyi Biotec)を用いてmonocyteを単離した。MonocyteをRPMI培地(10% FBS, 100ng/ml hIL-4 (R&D systems), 250ng/ml hGM-CSF (R&D systems))で5×105 cells/ mLに調製し、37度で7日間培養し、DCへ分化誘導した。
【0373】
(6-4)プレートコートとDCの刺激
96well plate (maxisorp, nunc) にPBSで希釈した各Fc改変体(G1d,F648,P600)が含まれる溶液 (50ug/ml)またはPBSを100ul/wellで添加し、室温で1時間振盪した。PBSで3回洗浄し、DCを2×105 cells/ wellで播種した。37度で4時間インキュベートした後に細胞を回収し、RNeasy 96 Kit (QIAGEN) を用いてRNAを抽出した。
【0374】
(6-5)IL-8発現の評価
QuantiTect Probe RT-PCR(QIAGEN) を用い、GAPDHおよびIL-8のmRNAの発現量をreal-time PCR (Applied Biosystems 7900HT Fast Real Time PCR System) により測定した。IL-8の発現量はGAPDHの発現量で補正した。この評価系において、ポジティブコントロールであるG1dを用いた場合には、IL-8の発現量が8.2に上がり、抗体溶液の代わりにPBSを加えた場合にはIL-8の発現量が0.03であることが確認された。
本評価系において、Fc改変体であるF648とP600をそれぞれ加えた場合の、DCのIL-8の発現量を比較したところ、図6の結果が得られた。
【0375】
この結果から、P600はF648と比較して、DCのIL-8発現量を抑制すること、すなわち、DCを活性化する性質が低減されることが見出された。P600はF648と比較して、活性型FcγRであるFcγRIIaに対する結合が低減している。これらのことから、P600は特にFcγRIIaに対する結合が低減した結果として、DCのIL-8発現量を低減、DCの活性化を抑制したことが考えられた。
すなわち、FcγRIIaを含む活性型FcγRに対してより選択的に結合を低減した本発明のFc領域を含む抗原結合分子は、抗原の血漿中濃度を速やかに低減するという天然型IgG1の性質を損なうことなく、免疫細胞を活性化するという問題点を克服した優れた分子である可能性が示された。
【0376】
〔実施例7〕FcγRIIbに対する結合を増強する既存の改変が加えられたFc領域を含む抗体の血小板凝集能の評価
(7-1)IgG1抗体の血小板活性化、凝集の背景
これまでにいくつかのIgG1抗体がFcγRとの相互作用を介して、血小板活性化を誘導し、副作用を呈することが報告されている。例えば、VEGFに対する抗体であるbevacizumabが投与された患者群では血栓塞栓症のリスクが上昇することが知られている(J. Natl. Cancer Inst. (2007) 99 (16), 1232-1239)。また、CD40リガンド(CD154)に対する抗体の臨床開発試験においても同様に血栓塞栓症が観察され、臨床試験が中止された(Arthritis. Rheum. (2003) 48 (3), 719-727.)。血小板の細胞上には抑制型FcγレセプターであるFcγRIIbではなく活性型FcγレセプターであるFcγRIIaが発現している(J. Exp. Med. (2006) 203 (9), 2157-2164)が、動物モデルなどを使ったその後の研究により、投与されたいずれの抗体も血小板上のFcγRIIaに対する結合を介して血小板が凝集し、その結果血栓を形成することが示唆されている(J. Thromb. Haemost. (2009) 7 (1), 171-181、 J. Immunol. (2010) 185 (3), 1577-1583)。自己免疫疾患の一つである全身性エリテマトーデスの患者においてはFcγRIIa依存的な機構によって血小板が活性化し、血小板の活性化が重症度と相関すると報告されている(Sci. Transl. Med. (2010) 2 (47), 47-63)。このように天然に存在するIgG1抗体であっても、血小板を活性化し、重篤な副作用を呈する可能性がある。
【0377】
(7-2)抗CD154抗体を用いた血小板活性化の評価
血小板の活性化は血小板上に発現するFcγRIIaとIgG1のFcとの相互作用に由来するとの報告があることから、IgG1のFcγRIIaに対する結合を低減した抗体を用いることにより、この血小板活性化が回避できるかを検証した。
参考実施例2の方法を用いて、CD40リガンドに対するIgG1抗体である5c8-G1d(重鎖配列番号:8、軽鎖配列番号:9)を用意した。次に、参考実施例2の方法を用いて、FcγRIIaに対する結合を低減させた既存の技術である5c8-G1dのFc領域におけるEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換されたFc 領域を含む抗体5c8-F648(軽鎖配列番号:9)を用意した。加えて、参考実施例2の方法を用いて、既存技術よりもさらにFcγRIIaに対する結合を低減させた5c8-G1dのFc領域におけるEUナンバリングで表される238位のProがGluに、298位のSerがAlaに置換されたFc 領域を含む抗体5c8-P600(軽鎖配列番号:9)を用意した。5c8-G1d、5c8-F648、5c8-P600はそれぞれ以下でG1d、F648、P600として示した。これらのFc改変体の血小板凝集能が評価された。
【0378】
血小板の活性化は以下の方法で評価した。まず、FcγRIIaの遺伝子多型(R131/R131)のドナー由来の約50 mLの全血を、0.5 mLの3.2%クエン酸ナトリウムを含む4.5 mL真空採血管に一定分量ずつ採取された約50 mLの全血を200 gで15分間、遠心分離することによって回収された上清がPlatelet Rich Plasma(PRP)として使用された。緩衝液A(137 mM NaCl、2.7 mM KCl、12 mM NaHCO3、0.42 mM NaH2PO4、2 mM MgCl2、5 mM HEPES、5.55 mM dextrose、1.5 U/mL apyrase、0.35 % BSA)を用いて洗浄されたPRPは、さらに緩衝液B(137 mM NaCl、2.7 mM KCl、12 mM NaHCO3、0.42 mM NaH2PO4、2 mM MgCl2、5 mM HEPES、5.55 mM dextrose、2 mM CaCl2、0.35 % BSA)に置換された。その結果、約300,000/μLの密度の洗浄血小板が調製された。血小板凝集能測定装置に設置された、攪拌棒を含む測定用キュベットに168 μLの洗浄血小板が分注された。当該装置内で37.0℃に維持されたキュベット内で、血小板は攪拌棒により1000 rpmで攪拌された。そこに最終濃度が抗体120 μg/mL、抗原111 μg/mLとなるように調製された各抗体と抗原の免疫複合体を42 μL加え、血小板と当該免疫複合体を5分間反応させた。さらに、二次凝集を起こさない濃度のアデノシン2リン酸(ADP、SIGMA)が反応液に加えられ、活性化が増強されるかが確認された。
【0379】
血小板の活性化は、CD62p(p-selectin)もしくは活性型インテグリン(PAC-1)といった活性化マーカーの血小板膜表面における発現増加によって測定することができる。先述の方法により調製された洗浄血小板8μLの洗浄血小板に免疫複合体を2μL添加し室温で5分間反応させた後、さらに軽微な活性化を誘導する濃度のADPを添加して活性化が惹起され、免疫複合体によってADPによる活性化が増強されるかが確認された。陰性対照には免疫複合体の代わりにリン酸緩衝液(pH7.4)(Gibco)を添加したサンプルが用いられた。反応後の各サンプルにPE標識抗CD62抗体(BECTON DICKINSON)、PerCP標識抗CD61抗体、FITC標識PAC-1抗体(BD bioscience)を加えることによって染色された。各染色の蛍光強度がフローサイトメーター(FACS CantoII、 BD bioscience)を用いて測定された。このアッセイ系でポジティブコントロールの5c8-G1dを添加した場合、血小板のCD62pおよびPAC-1の発現が亢進することが確認された。
このアッセイ系を用いてF648およびP600の血小板活性化能を比較した。各Fc改変体添加時のCD62p発現の結果を図7に、活性化インテグリン発現の結果を図8に示した。ADP刺激により血小板膜表面に発現誘導されるCD62p及び活性型インテグリンは、F648を加えた場合では発現の亢進が観察されたが、P600を加えた場合では観察されなかった。
【0380】
これらの結果から、IgG1のFc領域のEUナンバリングで表される238位のProがAsp 、298位のSerがAlaに置換されたヒトFcγRIIaに対する結合を低減した改変が加えられたFc領域を含む抗体は既存技術のFcγRIIbに対する結合を選択的に増強したFc改変体と比較して抑制することが明らかとなった。
すなわち、FcγRIIaに対してより選択的に結合を低減した本発明のFc領域を含む抗原結合分子は、抗原の血漿中濃度を速やかに低減するという天然型IgG1の性質を損なうことなく、血小板を活性化するという問題点を克服した優れた分子である可能性が示された。
【0381】
〔参考実施例1〕抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
抗体の可変領域のH鎖およびL鎖の塩基配列をコードする全長の遺伝子の合成は、Assemble PCR等を用いて、当業者公知の方法で作製した。アミノ酸置換の導入はPCR等を用いて当業者公知の方法で行った。得られたプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、H鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製したプラスミドをヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen社)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、抗体の発現を行った。得られた培養上清を回収した後、0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)、または0.45μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して培養上清を得た。得られた培養上清から、rProtein A Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)またはProtein G Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE等の方法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0382】
〔参考実施例2〕FcγRの調製方法および改変抗体とFcγRとの相互作用解析方法
FcγRの細胞外ドメインを以下の方法で調製した。まずFcγRの細胞外ドメインの遺伝子の合成を当業者公知の方法で実施した。その際、各FcγRの配列はNCBIに登録されている情報に基づき作製した。具体的には、FcγRIについてはNCBIのアクセッション番号NM_000566.3の配列、FcγRIIaについてはNCBIのアクセッション番号NM_001136219.1の配列、FcγRIIbについてはNCBIのアクセッション番号NM_004001.3の配列、FcγRIIIaについてはNCBIのアクセッション番号NM_001127593.1の配列、FcγRIIIbについてはNCBIのアクセッション番号NM_000570.3の配列に基づいて作製し、C末端にHisタグを付加した。またFcγRIIa、FcγRIIIa、FcγRIIIbについては多型が知られているが、多型部位についてはFcγRIIaについてはJ. Exp. Med., 1990, 172: 19-25、FcγRIIIaについてはJ. Clin. Invest., 1997, 100 (5): 1059-1070, FcγRIIIbについてはJ. Clin. Invest., 1989, 84, 1688-1691を参考にして作製した。
【0383】
得られた遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、発現ベクターを作製した。作製した発現ベクターをヒト胎児腎癌細胞由来FreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、目的タンパク質を発現させた。なお、結晶構造解析用に用いたFcγRIIbについては、終濃度10 μg/mLのKifunesine存在下で目的タンパク質を発現させ、FcγRIIbに付加される糖鎖が高マンノース型になるようにした。培養し、得られた培養上清を回収した後、0.22μmフィルターを通して培養上清を得た。得られた培養上清は原則として次の4ステップで精製した。第1ステップは陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(SP Sepharose FF)、第2ステップはHisタグに対するアフィニティカラムクロマトグラフィー(HisTrap HP)、第3ステップはゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200)、第4ステップは無菌ろ過、を実施した。ただし、FcγRIについては、第1ステップにQ sepharose FFを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを実施した。精製したタンパク質については分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE等の方法により算出された吸光係数を用いて精製タンパク質の濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0384】
Biacore T100(GEヘルスケア)、Biacore T200(GEヘルスケア)、Biacore A100、Biacore 4000を用いて、各改変抗体と上記で調製したFcγレセプターとの相互作用解析を行った。ランニングバッファーにはHBS-EP+(GEヘルスケア)を用い、測定温度は25℃とした。Series S Sensor Chip CM5(GEヘルスケア)またはSeries S sensor Chip CM4(GEヘルスケア)に、アミンカップリング法により抗原ペプチド、ProteinA(Thermo Scientific)、Protein A/G(Thermo Scientific)、Protein L(ACTIGENまたはBioVision)を固定化したチップ、あるいはSeries S Sensor Chip SA(certified)(GEヘルスケア)に対して予めビオチン化しておいた抗原ペプチドを相互作用させ、固定化したチップを用いた。
【0385】
これらのセンサーチップに目的の抗体をキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈したFcγレセプターを相互作用させ、抗体に対する結合量を測定し、抗体間で比較した。ただし、Fcγレセプターの結合量はキャプチャーした抗体の量に依存するため、各抗体のキャプチャー量でFcγレセプターの結合量を除した補正値で比較した。また、10 mM glycine-HCl、pH1.5を反応させることで、センサーチップにキャプチャーした抗体を洗浄し、センサーチップを再生して繰り返し用いた。
【0386】
また、各改変抗体のFcγRに対するKD値を算出するため速度論的な解析は以下の方法にしたがって実施した。まず、上記のセンサーチップに目的の抗体をキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈したFcγレセプターを相互作用させ、得られたセンサーグラムに対してBiacore Evaluation Softwareにより測定結果を1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせることで結合速度定数ka (L/mol/s)、解離速度定数kd(1/s)を算出し、その値から解離定数KD (mol/L) を算出した。
【0387】
また、各改変抗体とFcγRとの相互作用が微弱で、上記の速度論的な解析では正しく解析できないと判断された場合、その相互作用についてはBiacore T100 Software Handbook BR1006-48 Edition AEに記載の以下の1:1結合モデル式を利用してKDを算出した。
1:1 binding modelで相互作用する分子のBiacore上での挙動は以下の式1によって表わすことができる。
〔式1〕
Req:a plot of steady state binding levels against analyte concentration
C: concentration
RI:bulk refractive index contribution in the sample
Rmax:analyte binding capacity of the surface
この式を変形すると、KDは以下の式2のように表わすことができる。
〔式2〕
この式にRmax、RI、Cの値を代入することで、KDを算出することが可能である。RI、Cについては測定結果のセンサーグラム、測定条件から値を求めることができる。Rmaxの算出については、以下の方法にしたがった。その測定回に同時に評価した比較対象となる相互作用が十分強い抗体について、上記の1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせた際に得られたRmaxの値を、比較対象となる抗体のセンサーチップへのキャプチャー量で除し、評価したい改変抗体のキャプチャー量で乗じて得られた値をRmaxとした。
【0388】
〔参考実施例3〕カルシウム依存的にヒトIgAに結合する抗体の調製
(3-1)ヒトIgA(hIgA)の調製
抗原であるヒトIgA(以下hIgAとも呼ばれる)は以下のような組換え技術を用いて調製された。H (WT)-IgA1(配列番号:19)とL (WT)(配列番号:20)を含む組み組換えベクターを含む宿主細胞を培養することによって発現されたhIgAが、当業者公知の方法によってイオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製された。
【0389】
(3-2)カルシウム依存的結合抗体について
国際公開WO2009/125825に記載されているH54/L28-IgG1はヒト化抗IL-6レセプター抗体であり、Fv4-IgG1は、H54/L28-IgG1に対して可溶型ヒトIL-6レセプターに対してpH依存的に結合する(中性条件下において結合し、酸性条件下において解離する)特性を有するヒト化抗IL-6レセプター抗体である。国際公開WO2009/125825に記載されているマウスのin vivo試験では、H54/L28-IgG1と抗原である可溶型ヒトIL-6レセプターの混合物を投与した群と比較して、Fv4-IgG1と抗原である可溶型ヒトIL-6レセプターの混合物を投与した群において、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失が大幅に加速されていることが示された。
【0390】
通常の可溶型ヒトIL-6レセプターに結合する抗体に結合した可溶型ヒトIL-6レセプターは、抗体とともにFcRnによって血漿中にリサイクルされる。これに対して、pH依存的に可溶型ヒトIL-6レセプターに結合する抗体は、エンドソーム内の酸性条件下において抗体に結合した可溶型ヒトIL-6レセプターを解離する。解離した可溶型ヒトIL-6レセプターはライソソームによって分解されるため、可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中からの消失を大幅に加速することが可能となり、さらにpH依存的に可溶型ヒトIL-6レセプターに結合する抗体は可溶型ヒトIL-6レセプターを解離した後FcRnによって血漿中にリサイクルされ、リサイクルされた抗体は再び可溶型ヒトIL-6レセプターに結合することができる。上記のサイクル(抗原を結合した抗体の細胞内への取込>抗体からの抗原の解離>抗原の分解と抗体の血漿中への再循環)が繰り返されることによって、ひとつの抗体分子が複数回繰り返して可溶型ヒトIL-6レセプターに結合することが可能となる(図9)。
【0391】
さらに、国際公開WO2011/122011に記載されているように、H54/L28-IgG1はヒト化抗IL-6レセプター抗体であり、Fv4-IgG1は、H54/L28-IgG1に対して可溶型ヒトIL-6レセプターへpH依存的に結合する(中性条件下において結合し、酸性条件下において解離する)特性を有するヒト化抗IL-6レセプター抗体であり、Fv4-IgG1-v2は、Fv4-IgG1に対してpH中性の条件下においてFcRnへの結合が増強されたヒト化抗IL-6レセプター抗体である。国際公開WO2011/122011に記載されているマウスのin vivo試験では、Fv4-IgG1と抗原である可溶型ヒトIL-6レセプターの混合物を投与した群と比較して、Fv4-IgG1-v2と抗原である可溶型ヒトIL-6レセプターの混合物を投与した群において、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失が大幅に加速されていることが示された。すなわち、pH依存的に抗原に結合する抗体の、pH中性の条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を増強することによって、増強された改変抗体が抗原に繰り返し結合できる効果、および、抗原の血漿中からの消失を促進する効果がさらに向上し、当該抗体を投与することによって血漿中からの抗原を消失することが可能であることが報告された(図10)。
【0392】
図9および図10に示されたpH依存的に抗原に結合する抗体による作用では、血漿中とエンドソーム内の環境の相違、すなわちpHの相違(血漿中:pH7.4、エンドソーム内:pH6.0)を利用して、血漿中では抗原に強く結合させ、エンドソーム内では抗原を解離する抗体の性質が活用されている。血漿中とエンドソーム内でpH依存的に結合する抗体の抗原への結合能にこのような差異を活用するためには、血漿中とエンドソーム内の環境因子の性質とその相違の大きさが重要である。pHの相違はすなわち水素イオン濃度の相違である。すなわち、pH7.4の血漿中の水素イオン濃度は約40 nMである一方で、pH6.0のエンドソーム内の水素イオン濃度は約1000 nMであることから、血漿中とエンドソーム内での環境因子の一つとして考えられる水素イオン濃度の相違は約25倍の大きさである。
【0393】
さらに、図9および図10に示した作用を異なる態様で達成するため、または、これらの態様を併せて達成するするために、血漿中とエンドソーム内の水素イオン濃度の相違以外で、その相違が大きい環境因子に依存して抗原に結合する抗体を使用すれば良いと考えられた。血漿中とエンドソーム内で濃度の相違が大きい環境因子が探索された結果、カルシウムが見出された。血漿中のイオン化カルシウム濃度は1.1-1.3 mM程度である一方で、エンドソーム内のイオン化カルシウム濃度は3μM程度であることから、血漿中とエンドソーム内での環境因子の一つとして考えられるカルシウムイオン濃度の相違は約400倍の大きさであって、その大きさは水素イオン濃度差(25倍)よりも大きいことが見出された。すなわち、高カルシウム濃度条件下(1.1-1.3 mM)で抗原に結合し、低カルシウム濃度条件下(3μM)で抗原を解離するイオン化カルシウム濃度依存的に抗原に結合する抗体を用いることによって、pH依存的に抗原に結合する抗体と同等またはそれ以上にエンドソーム内で抗原を抗体から解離することが可能であると考えられた。
【0394】
(3-3)hIgAに結合する抗体の発現と精製
GA1-IgG1(重鎖配列番号:21、軽鎖配列番号:22)、GA2-IgG1(重鎖配列番号:23、軽鎖配列番号:24)はhIgAに結合する抗体である。GA1-IgG1(重鎖配列番号:21、軽鎖配列番号:22)およびGA2-IgG1(重鎖配列番号:23、軽鎖配列番号:24)をコードするDNA配列が動物細胞発現用プラスミドに当業者公知の方法で組み込まれた。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)をFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁させた細胞懸濁液が、1.33 x 106個/mLの細胞密度で6 well plateの各ウェルへ3 mLずつ播種された。次に、リポフェクション法により調製されたプラスミドが細胞へ導入された。当該細胞はCO2インキュベーター(37℃、8%CO2, 90 rpm)で4日間培養され、単離されたその培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で抗体が精製された。精製された抗体溶液の吸光度(波長:280nm)が、分光光度計を用いて測定された。得られた測定値からPACE法によって算出された吸光係数を用いて抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
【0395】
(3-4)取得された抗体のhIgAに対するカルシウム依存的結合能の評価
Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、(1-3)で単離された抗体のhIgA結合活性(解離定数KD (M))が評価された。ランニングバッファーとして3μMまたは1.2 mM CaCl2を含有する0.05% tween20、20 mmol/L ACES、150 mmol/L NaCl(pH7.4またはpH5.8)、または0.1μMもしくは10 mM CaCl2を含有する0.05% tween20、20 mmol/L ACES、150 mmol/L NaCl、pH8.0を用いて測定が行われた。
【0396】
アミノカップリング法で適切な量の組換え型プロテインA/G(Thermo Scientific)が適当量固定化されたSensor chip CM5(GE Healthcare)に、抗体を結合させた。次に、アナライトとして適切な濃度のhIgA((1-1)に記載)をインジェクトすることによって、hIgAとセンサーチップ上の抗体を相互作用させた。測定は37℃で行われた。測定後、10 mmol/L Glycine-HCl、 pH1.5をインジェクトすることによって、センサーチップが再生された。Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて、カーブフィッティングによる解析および平衡値解析により、測定結果から解離定数KD(M)が算出された。その結果を表21に示した。また、得られたセンサーグラムを図11に示した。GA2-IgG1はCa2+濃度が1.2 mMにおいてはhIgAに強く結合するが、Ca2+濃度が3μMにおいてはhIgAに弱く結合することが示された。また、GA2-IgG1はCa2+濃度が1.2 mMの条件下で、pH7.4においてはヒトIgAに強く結合するが、pH5.8においてはヒトIgAに弱く結合することが示された。すなわち、GA2-IgG1は、ヒトIgAに対して、pH依存的、および、カルシウム依存的に結合することが明らかとなった。
【0397】
【表21】
【0398】
〔参考実施例4〕カルシウム依存的にhIgAに結合する抗体の改変体の調製
さらに、血漿中からの抗原(hIgA)の消失をさらに増大させるために、カルシウム依存的にhIgAに結合するGA2-IgG1に対してマウスFcRnに対するpH7.4における結合を増強するためにN434Wのアミノ酸置換を導入したGA2-N434W(軽鎖配列番号:24)を作製した。また、GA2-IgG1に対してFcγRに対する結合を欠損させるためにL235R、S239Kのアミノ酸置換を導入したGA2-FcγR(-)(軽鎖配列番号:24)を作製した。GA2-N434W(軽鎖配列番号:24)およびGA2-FcγR(-)(軽鎖配列番号:24)をコードするDNA配列が当業者に公知の方法で組み込まれた動物発現用プラスミドを用いて、上述の方法で発現したこれらの抗体改変体の濃度が、精製後に測定された。GA2-FcγR(-)の各種マウスFcγR(mFcγRI、mFcγRII、mFcγRIII、mFcγRIV)に対する結合を評価した結果、いずれのレセプターに対しても結合が認められなかった。
【0399】
〔参考実施例5〕カルシウム依存的にhIgAに結合する抗体の改変体の調製
次に、血漿中からの抗原(hIgA)の消失をさらに増大させることを目的に、カルシウム依存的にhIgAに結合するGA2-IgG1に対してマウスFcγRに対する結合を増強するためにGA2-IgG1のEUナンバリングで表される328位のLeuがTyrに置換されたGA2-F1087が作製された。GA2-F1087(軽鎖配列番号:24)をコードするDNA配列が当業者に公知の方法で組み込まれた動物発現用プラスミドを用いて、上述の方法で発現したこれらの抗体改変体の濃度が、精製後に測定された。この改変を含む抗体は参考実施例5に示されるように、マウスFcγRに対する結合が大幅に増強していた。
【0400】
〔参考実施例6〕Ca依存性hIgA結合抗体が投与されたノーマルマウスにおける抗原の血漿中滞留性への影響の評価
(6-1)ノーマルマウスが用いられたin vivo試験
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)に対してhIgA(ヒトIgA:参考実施例(3-1)にて作製)が単独で投与された、またはhIgAおよび抗hIgA抗体が同時に投与された後の、hIgAおよび抗hIgA抗体の体内動態が評価された。hIgA溶液(80μg/mL)、または、hIgAと抗hIgA抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgの用量で単回投与された。抗hIgA抗体としては、上述のGA2-IgG1およびGA2-F1087が使用された。
【0401】
混合溶液中のhIgA濃度は全て80μg/mLであり、抗hIgA抗体濃度は2.69 mg/mLであった。このとき、hIgAに対して抗hIgA抗体は十分量過剰に存在することから、hIgAは大部分が抗体に結合していると考えられた。GA-IgG1が投与された群では、投与後5分間、7時間、1日間、2日間、3日間、7日間でマウスから採血が行われた。またGA-F1087が投与された群では、投与後5分間、30分間、1時間、2時間、1日間、3日間、7日間でマウスから採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0402】
(6-2)ELISA法によるノーマルマウス血漿中の抗hIgA抗体濃度測定
マウス血漿中の抗hIgA抗体濃度はELISA法にて測定された。まずAnti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)がその各ウェルに分注されたNunc-Immuno Plate, MaxiSorp(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度の標準液として0.5、0.25、0.125、0.0625、0.03125、0.01563、0.007813μg/mLに調製された抗hIgA抗体の検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が、前記のAnti-Human IgG固相化プレートに分注された後、当該プレートが25℃で1時間インキュベーションされた。その後、Goat Anti-Human IgG (γ chain specific) Biotin (BIOT) Conjugate(Southern Biotechnology Associats Inc.)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。さらに、Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を用いて停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が測定された。マウス血漿中の抗hIgA抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおけるGA2-IgG1およびGA2-F1087の血漿中抗体濃度推移を図12に示した。その結果、hIgAと強いpHおよびCa依存的な結合活性を有するクローンGA2-IgG1はFcγRとの結合を増強したとしても、その血漿中抗体濃度が大きく低下しないことが確認された。
【0403】
(6-3)ELISA法による血漿中hIgA濃度測定
マウスの血漿中hIgA濃度はELISA法にて測定された。まずGoat anti-Human IgA Antibody(BETHYL)がその各ウェルに分注されたNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgA固相化プレートが作成された。血漿中濃度の標準液として0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125、0.00625μg/mLに調製されたhIgAの検量線試料が用いられた。検量線試料および100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料の各100μLに対し、500ng/mLhsIL6Rを200μL加えて混合し、室温で1時間静置した。その後、混合溶液100μLが分注された前記のAnti-Human IgA固相化プレートプレートは室温で1時間静置された。次に、Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを室温で1時間反応させた。更にStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)が前記プレートの各ウェルに分注された後、当該プレートを室温で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を用いて停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定した静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中hIgA濃度推移を図13に示した。
【0404】
その結果、hIgA単独の消失に対して、hIgA と100倍以上のCa依存的な結合活性を有するGA2-IgG1が同時に投与されたマウスでは、hIgA の消失がhIgA単独と比較して加速された。さらに、hIgAとFcγRに対して結合が増強されたGA2-F1087が投与されたマウスの血漿中では、投与一日後に測定範囲(0.006μg/mL以上)よりhIgAの濃度が低下し、GA-IgG1が投与されたマウスの血漿中よりも大幅にhIgAの消失が加速された。以上から、免疫複合体を形成するhIgAと抗hIgA抗体が投与されたマウスにおいて、FcγRに対する結合が増強された抗体による抗原(hIgA)の血漿中からの除去効果が、FcγRに対する結合の増強された抗体のもととなる抗体による抗原(hIgA)の除去効果と比較して増強されていることが示された。
【0405】
〔参考実施例7〕FcγRに対する結合活性が天然型マウスIgGのFc領域の結合活性より高い抗原結合分子の血漿中からの抗原消失効果
(7-1)FcγRに対する結合活性を増強したマウス抗体の抗原消失効果
マウスFcRnを有するノーマルマウスにおいて、マウス抗体のFc領域を有し、pH依存的にヒトIL-6レセプターに結合する性質を有する抗原結合分子が、当該マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプターの消失を早める効果を有するかどうかが、以下に示す方法によって検証された。
【0406】
(7-2)FcγRに対する結合活性を増強したマウス抗体の作製
pH依存的にヒトIL-6レセプターに結合する性質を有するマウスIgG1抗体の重鎖としてVH3-mIgG1(配列番号:25)、軽鎖としてVL3-mk1(配列番号:26)が参考実施例1の方法を用いて作製された。また、VH3-mIgG1のマウスFcγRに対する結合活性を増強するために、EUナンバリングで表される327位のAlaがAspに置換されたVH3-mIgG1-mF44が作製された。同様に、VH3-mIgG1のEUナンバリングで表される239位のSerがAspに置換され、327位のAlaがAspに置換されたVH3-mIgG1-mF46が作製された。VH3-mIgG1、VH3-mIgG1-mF44あるいはVH3-mIgG1-mF46を重鎖として含み、VL3-mk1を軽鎖として含む、Fv4-mIgG1、Fv4-mIgG1-mF44あるいはFv4-mIgG1-mF46が、参考実施例1の方法を用いて作製された。
【0407】
(7-3)マウスFcγRに対する結合活性の確認
VH3-mIgG1、VH3-mIgG1-mF44あるいはVH3-mIgG1-mF46を重鎖として含み、L (WT)-CK(配列番号:27)を軽鎖として含むVH3/L (WT)-mIgG1、VH3/L (WT)-mIgG1-mF44あるいはVH3/L (WT)-mIgG1-mF46が参考実施例1の方法で作製された。これらの抗体のマウスFcγRに対する結合活性が、参考実施例2の方法で評価された。その結果を表22に示した。また、それぞれの改変体のマウスFcγRに対する結合活性が、改変を加える前のmIgG1に比較して何倍増強しているかを表23に示した。なお、表中では、VH3/L (WT)-mIgG1はmIgG1、VH3/L (WT)-mIgG1-mF44はmF44、VH3/L (WT)-mIgG1-mF46はmF46と表記した。
【0408】
【表22】
【0409】
【表23】
【0410】
天然型マウスIgG1抗体のFc領域を有するVH3/L (WT)-mIgG1は、マウスFcγRIおよびマウスFcγRIVに対しては結合を示さず、マウスFcγRIIb およびマウスFcγRIIIに対してのみ結合を示した実施例4の検討結果から、抗原濃度を低下させるのに重要なマウスFcγRはマウスFcγRIIおよび、あるいはマウスFcγRIIIであることが示唆されている)。また、VH3/L (WT)-mIgG1のFcγRに対する結合活性を増強すると考えられる改変が導入されたVH3/L (WT)-mIgG-mF44およびVH3/L (WT)-mIgG1-mF46のマウスFcγRIIbおよびマウスFcγRIIIに対する結合活性はいずれも増強していることが示された。
【0411】
(7-4)ノーマルマウスにおける血漿中可溶型IL-6レセプター濃度の低減効果の確認
抗ヒトIL-6レセプター抗体としてFv4-mIgG1、Fv4-mIgG1-mF44あるいはFv4-mIgG1mF46が投与されたノーマルマウスの血漿中可溶型IL-6レセプターの消失効果が以下のように検証された。
【0412】
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の背部皮下に可溶型ヒトIL-6レセプターが充填されたinfusion pump(MINI-OSMOTIC PUMP MODEL2004、alzet)を埋め込むことで、血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度が定常状態に維持される動物モデルが作製された。その動物モデルに抗ヒトIL-6レセプター抗体を投与した後の可溶型ヒトIL-6レセプターの体内動態が評価された。可溶型ヒトIL-6レセプターに対する抗体の産生を抑制するため、モノクローナル抗マウスCD4抗体が尾静脈に20 mg/kgで単回投与された。その後、92.8μg/mLの可溶型ヒトIL-6レセプターが充填されたinfusion pumpがマウス背部皮下へ埋め込まれた。Infusion pumpが埋め込まれた3日後に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで尾静脈に単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体投与後15分、7時間、1日、2日、4日、7日、14日(あるいは15日)、21日(あるいは22日)が経過した後に当該マウスから採血された。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0413】
血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は、マウスの血漿中hsIL-6R可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調製されたhsIL-6R可溶型ヒトIL-6レセプター検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料を、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびTocilizumabと混合することによって37℃で1晩反応させた。Tocilizumabの終濃度は333μg/mLとなるように調製された。その後、反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに室温で1時間反応させた反応液を洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。その後ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。hsIL-6R可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。その結果を図14に示した。
【0414】
驚くべきことに、mIgG1(天然型マウスIgG1)のマウスFcγRIIbおよびマウスFcγRIIIに対する結合活性を増強する改変が導入されたmF44およびmF46が投与されたマウスでは、mIgG1が投与されたマウスに比較して血漿中IL-6レセプター濃度の顕著な低下がいずれも確認された。特に、mF44の投与後21日目においても、mF44投与群の血漿中IL-6レセプター濃度は抗体非投与群の血漿中IL-6レセプター濃度に比べて約6倍、mIgG1投与群に比較すると約10倍低下していた。一方、mF46の投与後7日目において、mF46投与群の血漿中IL-6レセプター濃度は抗体非投与群の血漿中IL-6レセプター濃度に比べて約30倍、mIgG1投与群に比較すると約50倍と、顕著に低下していた。
【0415】
以上のことから、ヒトIgG1抗体のFc領域を有する抗原結合分子のマウスFcγRに対する結合活性が増強している抗体と同様に、マウスIgG1抗体のFc領域を有する抗原結合分子のマウスFcγRに対する結合活性が増強している抗体が投与されたマウスにおいても、血漿中可溶型IL-6レセプターの消失が加速していることが示された。特定の理論に拘束されるものではないが、ここでみられた現象は以下のように説明することも可能である。
【0416】
pH依存的に可溶型抗原に結合し、かつFcγRに対する結合活性を増強している抗体がマウスに投与されると、主に細胞膜上にFcγRを発現している細胞に積極的に取り込まれる。取り込まれた抗体はエンドソーム内の酸性pHの条件下において可溶型抗原を解離した後にFcRnを介して血漿中にリサイクルされる。そのため、このような抗体による血漿中の可溶型抗原を消失させる効果をもたらす要素の一つとしては、当該抗体のFcγRに対する結合活性の強さが挙げられる。すなわち、FcγRに対する結合活性が強いほど、より積極的にFcγR発現細胞へと取り込まれ、血漿中の可溶型抗原を速く消失させることが可能であると考えられる。また、そのような効果は、抗体に含まれるFc領域の由来がヒトIgG1であってもマウスIgG1であっても、FcγRに対する結合活性が増強している限りは、同様に検証できると考えられる。つまり、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4、マウスIgG1、マウスIgG2a、マウスIgG2b、マウスIgG3、ラットIgG、サルIgG、ウサギIgGなど、いかなる動物種のFc領域であっても、投与される動物種のFcγRに対する結合活性が増強している限りは、いずれを用いても検証することが可能であると考えられる。
【0417】
〔参考実施例8〕FcγRIIb選択的に結合を増強した抗体による抗原消失効果
(8-1)FcγRIIbに対する結合活性を選択的に増強した抗体の抗原消失効果
FcγRIII欠損マウス(B6.129P2-FcgrR3tm1Sjv/J mouse, Jackson Laboratories)は、マウスFcγRI、マウスFcγRIIb、マウスFcγRIVを発現しているが、マウスFcγRIIIを発現しないマウスである。一方、Fc受容体γ鎖欠損マウス(Fcer1g mouse, Taconic, Cell (1994) 76, 519-529)は、マウスFcγRIIbのみを発現し、マウスFcγRI、マウスFcγRIII、マウスFcγRIVを発現しないマウスである。
【0418】
参考実施例7において、天然型マウスIgG1に対してFcγRへの結合活性を増強させたmF44およびmF46は、マウスFcγRIIbおよびマウスFcγRIIIに対して選択的に結合が増強されていることが示された。この選択的に増強された抗体の結合活性を利用し、マウスFcγRIIIを発現しない、マウスFcγRIII欠損マウスまたはFc受容体γ鎖欠損マウスにmF44およびmF46を投与することにより、マウスFcγRIIbに対する結合が選択的に増強された抗体を投与する状況を模倣することが可能であると考えられた。
【0419】
(8-2)FcγRIII欠損マウスを用いたマウスFcγRIIb選択的結合増強による抗原消失効果の検証
抗ヒトIL-6レセプター抗体としてFv4-mIgG1、Fv4-mIgG1-mF44あるいはFv4-mIgG1-mF46が投与されたFcγRIII欠損マウスの血漿中可溶型IL-6レセプターの消失効果が、実施例5の方法と同様に検証された。当該マウスの血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は、上記参考実施例(7-4)の方法で測定された。その結果を図15に示した。
【0420】
驚くべきことに、mIgG1(天然型マウスIgG1)のマウスFcγRIIbに対する結合活性が選択的に増強された状況が模倣されたmF44およびmF46が投与されたFcγRIII欠損マウスの血漿中IL-6レセプター濃度は、いずれも、mIgG1が投与されたマウスの血漿中IL-6レセプター濃度に比較していずれも顕著に低下したことが確認された。特に、mF44の投与群の血漿中IL-6レセプター濃度は、mIgG1投与群のそれに比較して約3倍程度に低下させ、抗体投与によって起こる抗原濃度の蓄積が抑制されていた。一方、mF46の投与群の血漿中IL-6レセプター濃度は、投与後3日目において、抗体非投与群の血漿中IL-6レセプター濃度に比べて約6倍、mIgG1投与群の血漿中IL-6レセプター濃度に比較すると約25倍と、顕著に低下した。この結果から、pH依存的に抗原に結合する抗ヒトIL-6レセプター抗体のマウスFcγRIIbに対する結合活性が高いほど、それが投与されたときにマウスの血漿中IL-6レセプター濃度をより低下させることが可能であることが示された。
【0421】
(8-3)Fc受容体γ鎖欠損マウスを用いたマウスFcγRIIb選択的結合増強による抗原消失効果の検証
抗ヒトIL-6レセプター抗体としてFv4-mIgG1、Fv4-mIgG1-mF44またはFv4-mIgG1mF46が投与されたFc受容体γ鎖欠損マウスの血漿中可溶型IL-6レセプターの消失効果が、実施例6の方法と同様に検証された。当該マウスの血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は、上記参考実施例(7-4)の方法で測定された。その結果を図16に示した。
【0422】
FcγRIII欠損マウスにmF44およびmF46が投与されたときと同様に、mIgG1(天然型マウスIgG1)に対してマウスFcγRIIbに対する結合活性のみが選択的に増強された状況が模倣されたmF44およびmF46が投与されたFc受容体γ鎖欠損マウスの血漿中IL-6レセプター濃度は、いずれも、mIgG1が投与されたFc受容体γ鎖欠損マウスの血漿中IL-6レセプター濃度に比較して顕著に低下したことが確認された。特に、mF44の投与群の血漿中IL-6レセプター濃度は、mIgG1投与群の血漿中IL-6レセプター濃度に比較して約3倍程度に低下し、抗体投与によって起こる抗原濃度の蓄積が抑制されていた。一方、mF46の投与群の血漿中IL-6レセプター濃度は投与後3日目において、抗体非投与群の血漿中IL-6レセプター濃度に比べて約5倍、mIgG1投与群の血漿中IL-6レセプター濃度に比較すると約15倍と、顕著に低下した。
【0423】
参考実施例(8-2)および(8-3)の結果から、pH依存的に可溶型抗原に結合し、マウスFcγRIIbに対する結合活性が選択的に増強した抗体の投与群の血漿中の可溶型抗原濃度は大幅に低下する可能性が示された。
【0424】
〔参考実施例9〕FcγRIII選択的に結合を増強した抗体による抗原消失効果
(9-1)FcγRIIIに対する結合活性を選択的に増強した抗体の抗原消失効果
FcγRIIb欠損マウス(Fcgr2b(FcγRII) mouse, Taconic)(Nature (1996) 379 (6563), 346-349)は、マウスFcγRI、マウスFcγRIII、マウスFcγRIVは発現するが、マウスFcγRIIbを発現しないマウスである。実施例5において、天然型マウスIgG1のFcγRへの結合活性を増強させたmF44およびmF46は、マウスFcγRIIbおよびマウスFcγRIIIに対して選択的に結合が増強していることが示された。この選択的に増強された抗体の結合活性を利用し、マウスFcγRIIbを発現しないマウスFcγRIIb欠損マウスにmF44およびmF46を投与することにより、マウスFcγRIIIに対する結合が選択的に増強された抗体を投与する状況を模倣することが可能であると考えられた。
【0425】
参考実施例8において、マウスFcγRIIbに対する結合活性が選択的に増強された抗体が投与された状況が模倣されたFcγRIII欠損マウスの血漿中の可溶型抗原濃度が低下することが示された。一方で、マウスFcγRIIIに対する結合活性が選択的に増強した抗体が投与された状況が模倣されたFcγRIIb欠損マウスの血漿中の可溶型抗原濃度が低下するかどうかが以下の試験によって確認された。
(9-2)FcγRIIb欠損マウスを用いたマウスFcγRIII選択的結合増強による抗原消失効果の検証
FcγRIIb欠損マウスに抗ヒトIL-6レセプター抗体としてFv4-mIgG1、Fv4-mIgG1-mF44あるいはFv4-mIgG1mF46が投与されたFcγRIIb欠損マウスの血漿中可溶型IL-6レセプターの消失効果が、実施例5の方法と同様に検証された。血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は、上記参考実施例(7-4)の方法で測定された。その結果を図17に示した。
【0426】
驚くべきことに、mIgG1(天然型マウスIgG1)のマウスFcγRIIIに対する結合活性が選択的に増強したことが模倣されたmF44およびmF46の投与群では、血漿中IL-6レセプター濃度は低下したが参考実施例8で示されたほどの顕著な低下は確認されなかった。
【0427】
特定の理論に拘束されるものではないが、参考実施例7、8および9の結果から、以下のように考察することも可能である。mIgG1(天然型マウスIgG1)のマウスFcγRIIbおよびマウスFcγRIIIに対する結合活性が選択的に増強されたmF44およびmF46が投与されたマウスFcγRIIbおよびマウスFcγRIIIの両方を発現するノーマルマウスの血漿中可溶型IL-6レセプターの消失は顕著に加速することが確認された。また、マウスFcγRIIbは発現するものの、マウスFcγRIIIを発現していないマウス(FcγRIII欠損マウス、および、Fc受容体γ鎖欠損マウス)に、mF44およびmF46が投与された場合でも当該マウスの血漿中可溶型IL-6レセプターの消失は顕著に加速することが確認された。一方で、マウスFcγRIIIは発現するものの、マウスFcγRIIbを発現していないマウス(FcγRII欠損マウス)に、mF44およびmF46が投与された場合には、当該マウスの血漿中可溶型IL-6レセプターの消失は顕著には加速されなかった。
【0428】
以上のことから、mIgG1(天然型マウスIgG1)のマウスFcγRIIbおよびマウスFcγRIIIに対する結合活性が選択的に増強された抗体であるmF44およびmF46は、主にマウスFcγRIIbを介してFcγRを発現する細胞に取り込まれることによって、当該抗体に結合する血漿中の可溶型抗原が消失していると考えられる。一方で、FcγRIIIを介した抗体抗原複合体のFcγR発現細胞への取込みは、血漿中の可溶型抗原の消失に対して大きく寄与していないと考えられる。
【0429】
また、マウスFcγRIIbおよびマウスFcγRIIIに対する結合活性が向上しているFv4-IgG1-F1087(重鎖配列番号:28、軽鎖配列番号:29)が投与されたマウスの血漿中可溶型IL-6レセプター濃度は顕著に低下した一方で、マウスFcγRIおよびマウスFcγRIVに対する結合活性が向上しているFv4-IgG1-F1182が投与されたマウスの血漿中可溶型IL-6レセプターの消失効果は、Fv4-IgG1-F1087のそれと比較すると小さいことも確認された。
【0430】
さらに、低フコース型糖鎖を有するためにマウスFcγRIVに対する結合活性が大幅に増強されている(Science (2005) 310 (5753) 1510-1512)Fv4-IgG1-Fuc(フコーストランスポーター遺伝子を欠損させたCHO細胞(WO2006/067913)を宿主細胞として用いてFv4-IgG1(重鎖配列番号:30、軽鎖配列番号:29)を発現することにより作製)が投与されたマウスの血漿中可溶型IL-6レセプター濃度は、Fv4-IgG1が投与されたマウスの血漿中可溶型IL-6レセプター濃度と比較すると低下したものの、その低下の効果は2倍程度と小さいことが確認された。そのため、マウスFcγRIVを介した抗体のFcγR発現細胞への取り込みは、血漿中の可溶型抗原の消失に対して大きく寄与していないと考えられる。
【0431】
これらのことから、マウスにおいて抗体のFcγR発現細胞への取込みには、複数あるマウスFcγRの中で、マウスFcγRIIbが主な役割を発揮していることが見出された。そのため、特に限定されるものではないが、マウスFcγR結合ドメインに導入される変異としては、マウスFcγRIIbに対する結合を増強する変異が特に好ましいとも考えられ得る。
【0432】
本検討によって、pH依存的に可溶型抗原に結合し、FcγRに対する結合活性が増強された抗原結合分子を投与することによって、抗体が投与された生体の血漿中の可溶型抗原の消失を早めることが可能であることが示された。このFcγRを介した血漿中の可溶型抗原の消失が、FcγRの中でも主にFcγRIIbを介して起きていることがマウスにおいて示された。すなわち、抗体と抗原の複合体とFcγRとの相互作用を利用して血漿中の可溶型抗原の消失を早めるためには、FcγRの中でもFcγRIIbが特に重要であり、FcγRIIbに対する結合を維持しさえすれば、その消失効果は維持される。これにより、pH依存的に可溶型抗原に結合し、FcγRIIbに対する結合活性を増強させた抗原結合分子は、生体内に投与された場合に、血漿中の可溶型抗原の消失を早めて、血漿中の可溶型抗原濃度を効果的に低下させることが可能であり、極めて有効な作用を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0433】
本発明によって、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドと比較して、FcγRIIbに対する結合活性を維持しつつ、且つ、すべての活性型FcγRに対する結合活性、特にFcγRIIa(R型)に対する結合活性が低減したFc領域改変体、該Fc領域改変体を含むポリペプチドが提供された。該ポリペプチドを用いることにより、FcγRIIbのITIMのリン酸化を介した炎症性免疫反応の抑制性シグナルを伝達することが可能となる。また、FcγRIIbに選択的に結合する性質を抗体のFcに付与することにより、FcγRIIbを介した免疫抑制的な作用を通じて、抗抗体の産生を抑制できる可能性がある。
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【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2022-09-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
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