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特開2022-160608生体信号処理装置およびその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160608
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】生体信号処理装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0245 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
A61B5/0245 100B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126569
(22)【出願日】2022-08-08
(62)【分割の表示】P 2018004885の分割
【原出願日】2018-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 遼太朗
(57)【要約】
【課題】演算量を削減しつつ、ノイズの影響を受けづらい方法で脈波信号から脈拍数を求めることのできる生体信号処理装置およびその制御方法を提供すること。
【解決手段】脈波信号の周波数スペクトルに基づいて脈拍数を求める。周波数スペクトルを求める際、基準値に基づいて定まる周波数の範囲について周波数スペクトルを求めるようにすることで、演算量を削減する。基準値は例えば過去に得られた脈拍数に基づいて定めることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脈波信号の周波数スペクトルを求める信号処理手段と、
前記周波数スペクトルに基づいて脈拍数を求める第1の取得手段と、を有し、
前記信号処理手段は、基準値に基づいて定まる周波数の範囲についての周波数スペクトルを求めることを特徴とする生体信号処理装置。
【請求項2】
前記周波数の範囲が、前記基準値を中心とした特定の大きさを有する範囲であることを特徴とする請求項1に記載の生体信号処理装置。
【請求項3】
前記基準値が、過去に求められた脈拍数に基づくことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の生体信号処理装置。
【請求項4】
前記基準値が、前記第1の取得手段とは異なる手段によって求められた脈拍数に基づくことを特徴とする請求項3に記載の生体信号処理装置。
【請求項5】
前記基準値を更新する更新手段をさらに有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項6】
前記更新手段は、前記第1の取得手段によって求められた脈拍数により、前記基準値を更新することを特徴とする請求項5に記載の生体信号処理装置。
【請求項7】
前記脈波信号の特徴点間距離に基づいて脈拍数を求める第2の取得手段をさらに有し、
前記更新手段は、前記第1の取得手段によって脈拍数が求められない場合に、前記第2の取得手段が求めた脈拍数に基づいて前記基準値を更新する、
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の生体信号処理装置。
【請求項8】
前記更新手段は、前記第2の取得手段が求めた脈拍数の信頼度が低いと判定される場合には、前記第1の取得手段によって脈拍数が求められない場合であっても前記基準値を更新しないことを特徴とする請求項7に記載の生体信号処理装置。
【請求項9】
前記脈波信号の計測と並行して前記脈拍数を順次求めることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項10】
前記脈波信号が、血中酸素飽和度の計測のために計測された脈波信号であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の生体信号処理装置。
【請求項11】
生体信号処理装置が実行する生体信号処理方法であって、
脈波信号の周波数スペクトルを求める信号処理工程と、
前記周波数スペクトルに基づいて脈拍数を求める第1の取得工程と、を有し、
前記信号処理工程では、基準値に基づいて定まる特定の周波数の範囲についての周波数スペクトルを求めることを特徴とする生体信号処理方法。
【請求項12】
コンピュータを、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の生体信号処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体信号処理装置およびその制御方法に関し、特には脈波信号から脈拍数を求める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
脈波信号は心臓や血管に関する様々な情報を含む生体信号であり、計測が容易であることから、広く利用されている。脈波信号は様々な方法で計測することができるが、カフのエアバッグの内圧の変化を脈波信号として計測したり、人体組織の透過または反射光量の変化を脈波信号として計測したりする方法が知られている。
【0003】
また、脈波信号から脈拍数を求める方法として、脈波信号の特徴点に基づく方法と、脈波信号の周波数スペクトルに基づく方法が知られている。前者は、脈波信号の特徴点(例えばピークやボトム)を検出し、隣接する特徴点間の時間tを求め、脈拍数=60/t(回/分(bpm)とする方法である。また、後者は、脈波信号を周波数解析して求めた周波数スペクトルから、脈動による周波数を選択し、1Hzを60bpmとして脈拍数に換算する方法である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5655721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特徴点に基づく方法は簡便であるが、体動などによって脈波信号にノイズが混入した場合、特徴点の検出精度が低下しやすい。そのため、脈拍数の精度がノイズに影響を受けやすいという問題がある。一方、周波数スペクトルに基づく方法はノイズの影響を受けづらいが、周波数スペクトルを求めるための演算量が大きい。そのため、例えば脈拍数を毎秒更新する必要があるような用途では、処理能力の大きなプロセッサや容量の大きなメモリを用いる必要があり、消費電力や製造コストの増加、機器の大型化などの要因となる。
【0006】
本発明はこのような従来技術の課題に鑑みてなされたものである。本発明は、演算量を削減しつつ、ノイズの影響を受けづらい方法で脈波信号から脈拍数を求めることのできる生体信号処理装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的は、脈波信号の周波数スペクトルを求める信号処理手段と、周波数スペクトルに基づいて脈拍数を求める第1の取得手段と、を有し、信号処理手段は、基準値に基づいて定まる周波数の範囲についての周波数スペクトルを求めることを特徴とする生体信号処理装置によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
このような構成により、本発明によれば、演算量を削減しつつ、ノイズの影響を受けづらい方法で脈波信号から脈拍数を求めることのできる生体信号処理装置およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る生体信号処理装置の一例としての動脈血酸素飽和度計測装置の機能構成例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係るノイズ混入有無の判定動作を説明するためのフローチャートである。
図3】安静時の脈波信号および周波数スペクトルの例を示す図である。
図4】体動ノイズが混入した脈波信号および周波数スペクトルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の例示的な実施形態について詳細な説明する。なお、ここでは本発明に係る生体信号処理装置の一例としての動脈血酸素飽和度(SpO)計測装置に関して説明する。しかし、本発明は、脈波信号を取得可能な任意の電子機器に適用可能である。このような電子機器には、生体情報モニタ、睡眠評価装置(ポリグラフィー)、血圧計、脈波計といった医療機器だけでなく、生体信号処理アプリケーションを実行可能な一般的なコンピュータ機器(スマートフォン、タブレット端末、メディアプレーヤ、スマートウォッチ、ゲーム機など)が含まれるが、これらに限定されない。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るSpO計測装置の機能構成例を示すブロック図である。
センサ部100は、第1の波長の光を発する第1発光部101と、第2の波長の光を発する第2発光部102と、受光量に応じた電気信号を出力する受光部103とを有する。受光部103は第1発光部101が発した光および第2発光部102が発した光の透過光または反射光を受光するように配置されている。
【0012】
第1および第2発光部101、102としては、SpO計測装置では一般的に赤色光と赤外光とを発するLEDが用いられる。ただし、波長や光源の種類についてはこれらに限定されず、波長λ1、λ2における酸化ヘモグロビンの吸光度をa1λ1、a1λ2、還元ヘモグロビンの吸光度をa2λ1、a2λ2とすると、a1λ1とa1λ2、a2λ1とa2λ2がそれぞれ有意に異なる任意の波長λ1、λ2の光を発生する任意の光源を用いることができる。本実施形態では一例として、第1発光部101に波長660nmの赤色光を発生するLEDを、第2発光部102に波長900nmの赤外光を発生するLEDを用いるものとする。
【0013】
透過光量を検出する構成の場合、測定部位(耳朶や指尖など)を挟んで第1および第2発光部101、102と対向する位置に受光部103が配置される。また、反射光量を検出する構成の場合、第1発光部101、と受光部103、第2発光部102が近接して配置される。なお、透過光量を検出するか反射光量を検出するかによらず、第1および第2発光部101、102は近接して配置され、また受光部103は第1および第2発光部から同様の条件(例えば距離や角度)で透過光または反射光を受光するように配置される。
【0014】
受光部103は、第1発光部101および第2発光部102が発した光の透過光または反射光を受光し、受光量に応じた電気信号を出力する。受光部103は、検出する透過光または反射光の波長を感度波長とする受光センサ、例えばフォトダイオードやフォトトランジスタであってよい。受光部103により、第1および第2の波長の光についての、計測部位による透過光量あるいは反射光量の変化として、第1および第2の脈波信号が検出される。
【0015】
制御部110は例えばプログラマブルプロセッサ、不揮発性メモリ(ROM)、および揮発性メモリ(RAM)を有し、ROMに記憶されたプログラムをRAMに読み込んで実行することによって各部を制御し、SpO計測装置の機能を実現する。なお、制御部110の動作のうち少なくとも一部はプログラマブルロジックアレイなどのハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0016】
駆動部120は制御部110の指令による発光量および発光タイミングに従い、第1および第2発光部101、102を駆動する。制御部110は、1つの受光部103を用いて2つの波長についての透過光量または反射光量を検出するため、第1発光部101と第2発光部とを交互に所定時間ずつ発光させるように発光タイミングを制御する。
【0017】
信号処理部130は、受光部103が出力する信号に増幅やA/D変換などの信号処理を適用し、脈波信号として制御部110に出力する。信号処理部130は、第1発光部101と第2発光部102の発光タイミングに従って、受光部130が出力信号を、第1発光部101が発した光の透過または反射光量を示す第1脈波信号と、第2発光部101が発した光の透過または反射光量を示す第2脈波信号として出力する。
【0018】
なお、第1発光部101と第2発光部102とは同時に発光しないため、厳密には第1脈波信号と第2脈波信号の取得タイミングは異なる。しかし、発光部101と第2発光部102の発光周波数を脈波の周波数成分よりも十分高くすることで、第1脈波信号および第2脈波信号を同じタイミングでサンプリングされた計測値群として取り扱うことができる。従って、以下では第1脈波信号および第2脈波信号を同じタイミングで取得したものとして説明する。
【0019】
制御部110は第1および第2脈波信号を記録部140に記録する。記録部140は例えば不揮発性メモリであり、また、メモリカードのような着脱可能な記録媒体であってもよい。
表示部150は例えば液晶ディスプレイであり、制御部110の制御に従い、SpO計測値および、SpO計測装置の動作状態や設定メニュー画面などを表示する。
【0020】
操作部160はユーザがSpO計測装置に指示を入力するためのボタン、スイッチ、キーなどを含む。表示部150がタッチディスプレイの場合、タッチパネル部分は操作部160に含まれる。
外部インタフェース(I/F)170は外部機器と有線または無線によって通信するための通信インタフェースである。
【0021】
SpO計測装置は、例えばLambert-Beerの法則を用いて、血液中のヘモグロビン(酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビン)のモル吸光係数と、ヘモグロビンによる吸光度の異なる2波長の光の透過光量とからSpOを計測することができる。なお、これらのパラメータに基づくSpOの計測方法は公知であるため、その詳細についての説明は省略する。
【0022】
次に、本発明における脈拍数の計測方法に関して図2のフローチャートを用いて説明する。本発明は、第1脈波信号および第2脈波信号の少なくとも一方に対して実施することができる。
【0023】
S101で制御部110は脈波信号データを取得する。制御部110は、記録部140に記録された脈波信号データを取得してもよいし、外部装置から外部I/F170を通じて脈波信号データを取得してもよい。あるいは、信号処理部130から供給される脈波信号データを用いてもよい。脈波信号データの取得先に特に制限はない。制御部110は内部のRAMの一部を、直近の所定時間分の脈波信号データを蓄積するバッファとして用い、バッファ内の脈波信号データに対して脈拍数の計測処理を適用することができる。
【0024】
本実施形態では脈波の特徴点の距離に基づく脈拍数の計測も行うため、少なくとも2拍分の脈波信号データがバッファに含まれるようにする。また、周波数解析には周波数の逆数の倍の時間分の脈波信号データが必要である。本実施形態では一例として直近10秒分の脈波信号データをRAMに蓄積するものとする。なお、バッファに蓄積する脈波信号データの時間が長いほど分解能を高めることができるが、機器の仕様(計測可能な脈拍数の範囲)や、機器のメモリ容量などに応じて適切な時間を定めることができる。
【0025】
なお、周波数解析を適用する脈波信号データのサンプリング周波数は、記録用の脈波信号データを生成するためのサンプリング周波数よりも低くてよい。例えば脈波の上限を300bpmまでとした場合、脈波の周波数帯域の上限は5Hzである。従って、20~30Hz程度のサンプリング周波数があれば十分である。一方、記録用の脈波信号データについては、100~300Hz程度のサンプリング周波数とする場合が多いため、制御部110は必要に応じて脈波信号データをダウンサンプリングしてRAMに蓄積する。
【0026】
S103で制御部110は、脈波信号の特徴点に基づいて脈拍数を計測する処理を開始する。制御部110は、脈波信号から予め定められた特徴点(例えばピークまたはボトム)を検出し、隣接する特徴点間の距離(サンプル数)とサンプリング周期とに基づいて、1拍の周期を求める。そして、制御部110は、60秒を1拍分の周期で除算することにより、脈拍数(回/分またはbpm)を求める。制御部110は、直近の2つの特徴点に基づいて、1拍ごとに脈拍数を求める。
【0027】
S105で制御部110は、周波数解析によって周波数スペクトルを求める周波数の範囲を決定する。本実施形態では、周波数スペクトルを求める周波数の範囲を、脈拍数の基準値に基づく特定の範囲に限定することにより、周波数解析の演算負荷を軽減する。本実施形態では基準値の初期値を、S103で開始した、特徴点に基づいて計測した脈拍数とする。なお、脈波信号の特徴点に基づいて計測した脈拍数を、周波数スペクトルを求める周波数の範囲を決定する際の基準値として用いる場合、体動などによって発生するノイズの影響を受けていない、信頼性が高いと考えられる脈拍数を用いるようにする。
【0028】
例えば、制御部110は、特徴点に基づいて計測した脈拍数の直近の所定複数回におけるばらつきを算出し、ばらつきが予め定められた閾値未満である場合に、その平均値を基準値として用いることができる。なお、これは特徴点に基づいて計測した脈拍数の信頼性を評価するための手法の単なる一例であり、他の方法によって信頼性を評価してもよい。なお、特徴点に基づいて計測した脈拍数の信頼性が低く、初期値が定まらない場合には、予め定めた脈拍数を基準値の初期値として用いてもよい。また、周波数解析の分解能および基準値の有効桁数は脈拍数に要求される精度を満たすように定める。例えば、脈拍数を1bpm単位の精度で求める必要があれば、周波数解析の分解能を1bpm相当の周波数より細かくする。また、基準値の有効桁数も1bpm単位より細かくする。
【0029】
周波数スペクトルを求める周波数の範囲を限定できれば、脈拍数の基準値に基づく周波数の範囲の決定方法には特に制限はない。ここでは一例として、脈拍数の基準値を中心とした所定範囲の脈拍数に対応する周波数の範囲を、周波数スペクトルを求める周波数の範囲として決定するものとする。例えば、基準値±8bpmに対応する周波数の範囲を、周波数スペクトルを求める周波数の範囲として決定することができる。
【0030】
S107で制御部110は、RAMに蓄積されている脈波信号データに対し、S105で決定した周波数の範囲で周波数解析を行う。対象とする周波数の範囲を定めることが可能であれば、任意の方法で周波数解析を行うことができる。ここでは一例としてウェーブレット変換を用いるものとするが、フーリエ変換など、他の方法を用いてもよい。
【0031】
S109で制御部110は、周波数解析によって得られた周波数スペクトルにピークが存在するか否か判定し、存在すると判定されればS111に、存在すると判定されなければS117に、それぞれ処理を進める。ピークの存在有無の判定は、公知の任意の方法で実行することができる。
【0032】
なお、周波数解析した周波数の範囲の上限または下限で周波数スペクトルのパワーが最大となった場合、ピークであるか否かを判定するために、周波数解析の範囲を拡大してもよい。例えば、周波数の範囲の上限で周波数スペクトルのパワーが最大となった場合、現在より一拍多い脈拍数の範囲まで周波数解析を行うようにしてもよい。実際には、制御部110は、周波数解析した周波数の範囲の上限または下限で周波数スペクトルのパワーが最大となった場合、S107に処理を戻し、より高い(または低い)周波数についての周波数解析を追加して実行する。そして、制御部110は、S109で再度ピーク有無の判定を実行する。
【0033】
S111で制御部110は、周波数スペクトルのピークに基づいて脈拍数を決定する。具体的には、制御部110は、周波数スペクトルのピークに対応する脈拍数を、現在の脈拍数の計測値として決定する。
【0034】
S113で制御部110は、S111で決定した脈拍数によって基準値を更新する。このように、最新の脈拍数を基準値として、次に周波数解析を適用する周波数の範囲を更新する。
【0035】
S115で制御部110は、計測終了条件を満たしたか否か判定し、満たしたと判定されれば計測処理を終了し、満たしたと判定されなければ処理をS105に戻す。計測終了条件は例えば操作部160からの終了指示入力の検出や、脈波信号データの最後まで計測が終了したことなどであってよいが、これらに限定されない。
【0036】
一方、S109で周波数スペクトルでピークが検出されなかった場合、周波数スペクトルに基づいて脈拍数を求めることができない。この場合、S117で制御部110は、並行して実行している、特徴点に基づいて脈拍数を計測する処理において、信頼性の高い計測値が得られているか否かを判定する。例えば制御部110は、直近の複数の計測値のばらつきが予め定められた閾値未満であれば、特徴点に基づいて計測した脈拍数の信頼性が高いと判定することができる。ただし、他の方法で信頼性を評価してもよい。
【0037】
特徴点に基づいて計測した脈拍数の信頼性が高いと判定された場合、制御部110はS119で、特徴点に基づいて計測した脈拍数によって基準値を更新し、処理をS115に進める。一方、特徴点に基づいて計測した脈拍数の信頼性が高いと判定されなかった場合、制御部110は基準値を更新せずに処理をS115に進める。
【0038】
周波数スペクトルにおいてピークが検出できないのは、周波数解析範囲に対応する脈拍数の範囲から実際の脈拍数が外れた場合だけではない。周波数解析では分解能に応じた離散的な周波数についての周波数スペクトルを求めているため、分解能が粗いとピークが見つからないことが起こりうる。また、ノイズの影響により、ノイズのピークと脈拍数のピークとの差が小さくなった場合にも明確なピークが見つからないことが起こりうる。
【0039】
ノイズの影響でピークが見つからない場合、特徴点に基づいて計測した脈拍数のばらつきも大きくなり、信頼性が低下する。そのため、特徴点に基づいて計測した脈拍数の信頼性が高いとS117で判定されない場合には、周波数スペクトルにおいてピークが見つからない場合であっても基準値を更新しない。
【0040】
一方、特徴点に基づいて計測した脈拍数の信頼性が高いとS117で判定された場合には、周波数解析範囲に対応する脈拍数の範囲から実際の脈拍数が外れた場合が考えられる。そのため、S119で制御部110は、特徴点に基づいて計測した脈拍数に基づいて基準値を設定し直す(基準値を見直す)。
【0041】
なお、S109で見つかったピークは、ノイズのピークである可能性もあるが、周波数解析の範囲を基準値に基づく範囲に限定しているため、実際の脈拍数のピークも周波数解析の範囲に含まれている可能性が高い。仮にノイズのピークに基づいて脈拍数を決定しても、実際の脈拍数との差は小さい可能性が高いため、本実施形態ではS109で見つかったピークに基づいて脈拍数を決定している。
【0042】
図3(a)は、安静時における脈波信号の例を示している。また、図3(b)および(c)は、図3(a)に示した脈波信号の周波数スペクトルを示している。なお、便宜上、図3(b)では生体信号処理装置が計測可能な脈拍数の範囲(20~300bpmとする)の全体に対応する周波数の範囲についての周波数スペクトルを示している。また、図3(c)は、本実施形態の方法により、基準値(ここでは65bpm)±9bpmに対応する周波数の範囲に限定して求めた周波数スペクトルを示している。
【0043】
図3(b)および(c)に示す例では、いずれも66bpm(に対応する周波数)が周波数スペクトルのピークとして検出されている。例えばウェーブレット変換によって周波数スペクトルを求める場合、周波数の範囲、分解能、および周波数の逆数に比例した量の演算が必要となる。したがって、20~300bpmの範囲を対象とする場合に対し、65±9bpmの範囲を対象とすることで、演算量は約10分の1に削減できる。
【0044】
図4(a)は、体動によるノイズが重畳した脈波信号の例を示している。この脈波信号について、図3と同様に求めた周波数スペクトルを図4(b)および(c)に示す。図4(a)に示すような脈波信号の場合、特徴点に基づいて計測した脈拍数はノイズの影響によって値が大きくばらつき、信頼性が低くなる。一方で、周波数スペクトルでは63bpmにピークが現れており、脈拍数を正しく計測できる。
【0045】
なお、ノイズが重畳した場合、図4(b)に示すように、周波数スペクトルにもノイズのピークが現れる(100bpm付近のピーク)。そのため、ノイズのピークが大きい場合には、ピークの誤検出によって脈拍数の計測値が大きく変動することが起こりうる。一方、また、本実施形態では周波数スペクトルを求める範囲を限定しているため、図4(c)に示すように、周波数スペクトルにはノイズのピークが含まれない。つまり、周波数スペクトルを求める範囲を限定することにより、演算量を削減できるだけでなく、周波数解析の範囲外の周波数におけるノイズの影響を排除できるという効果もある。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、脈波信号の周波数スペクトルに基づいて脈拍数を求める生体情報処理装置において、周波数スペクトルを求める周波数の範囲を、基準値に基づく範囲に限定するようにした。そのため、広範な周波数の範囲に対して周波数スペクトルを求める場合よりも大幅に演算負荷を軽減することができる。
【0047】
(他の実施形態)
なお、上述の実施形態では、脈波信号の特徴点に基づいて計測した脈拍数を用いて、基準値の初期値(見直し処理後の初期値を含む)を決定する構成について説明した。しかし、他の方法で求めた脈拍数または心拍数を用いてもよい。
【0048】
なお、本発明に係る生体信号処理装置は、一般的に入手可能な、パーソナルコンピュータのような汎用情報処理装置に、上述した動作を実行させるプログラム(アプリケーションソフトウェア)として実現することもできる。従って、このようなプログラムおよび、プログラムを格納した記録媒体(CD-ROM、DVD-ROM等の光学記録媒体や、磁気ディスクのような磁気記録媒体、半導体メモリカードなど)もまた本発明を構成する。
【符号の説明】
【0049】
100…センサ、101…第1発光部、102…第2発光部、103…第1受光部、110…制御部、120…駆動部、130…信号処理部
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-08-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脈波信号の周波数スペクトルを求める信号処理手段と、
前記周波数スペクトルに基づいて脈拍数を求める第1の取得手段と、を有し、
前記信号処理手段は、基準値に基づいて定まる周波数の範囲についての周波数スペクトルを求めることを特徴とする生体信号処理装置。