(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160637
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】乳酸メチルからアクリル酸メチルを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/327 20060101AFI20221012BHJP
C07C 67/48 20060101ALI20221012BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20221012BHJP
C07C 51/09 20060101ALI20221012BHJP
C07C 51/42 20060101ALI20221012BHJP
C07C 57/04 20060101ALI20221012BHJP
C07C 57/07 20060101ALI20221012BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C07C67/327
C07C67/48
C07C69/54 Z
C07C51/09
C07C51/42
C07C57/04
C07C57/07
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127232
(22)【出願日】2022-08-09
(62)【分割の表示】P 2020524292の分割
【原出願日】2018-11-13
(31)【優先権主張番号】17202434.1
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】エカテリーナ ウラジミロヴナ マクシナ
(72)【発明者】
【氏名】ベルト フランス エー. セルス
(72)【発明者】
【氏名】ユディト カナデル アヤツ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ファン クリーケン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アクリル酸メチルの製造方法を提供する。
【解決手段】乳酸メチルが、メタノールの存在下、ZSM-5触媒と接触されるアクリル酸メチルの製造方法。特に溶媒として水の代わりにメタノールが使用される場合、アクリル酸メチルが主要な反応生成物として取得されうる一方、アクリル酸は微量検出されるにすぎない(通常10C%未満、但し多くの場合5C%未満)。メタノールは、プロセス内の唯一の溶媒として使用されうるが、好ましくは溶媒中に少量の水も存在する。存在する溶媒の総量に基づき、1~25wt%の水が、供給原料溶液に導入される。
【選択図】
図3b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸メチルが、メタノールの存在下、ZSM-5触媒と接触される、アクリル酸メチルの製造方法。
【請求項2】
メタノールが溶媒として使用され、好ましくは溶媒の総量に基づき1~25wt%の水が併用される、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記ZSM-5のSiO2/Al2O3比が10~30である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記ZSM-5触媒がカリウム塩イオン交換されたZSM-5触媒である、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記カリウム塩イオン交換の出発物質がナトリウム型ZSM-5触媒である、請求項3記載の製造方法。
【請求項6】
カリウム交換度が0.90より高く、好ましくは0.95より高く、最も好ましくは0.97より高い、請求項3又は4記載の製造方法。
【請求項7】
前記ZSM-5触媒内のブレンステッド酸部位の量が、吸収されたピリジンに基づくFTIRにより測定されて、1マイクロモル/g未満である、請求項1~6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
ルイス酸部位の量が、吸収されたピリジンに基づくFTIRにより測定されて、50~130マイクロモル/g、好ましくは86~100マイクロモル/gである、請求項1~7のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
前記触媒のK/Al比が、好ましくは0.95~1.00であり、より好ましくは0.97~1.00である、請求項1~8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
前記ZSM-5触媒のリン含有量が10ppm未満である、請求項1~9のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項11】
前記ZSM-5触媒のイオウ含有量が10ppm未満である、請求項1~10のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項12】
前記触媒が、ナトリウム型、水素型、又はアンモニウム型のZSM-5とカリウム塩とのイオン交換、イオン交換された触媒の洗浄、乾燥、及びの焼成により調製されたものである、請求項1~11のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項13】
前記イオン交換塩が硝酸カリウム又は塩化カリウムである、請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
不活性気体中に気化された、メタノール中の乳酸メチル溶液が、固定触媒床上に連続的に導かれ、生成物流が単離され、分離され、及び精製される、請求項1~13のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項15】
得られたアクリル酸メチルが、蒸留及び/又は抽出ステップ又はそれらの組み合わせの1以上の手段によって更に処理される、請求項1~14のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項16】
前記アクリル酸メチルがアクリル酸へと加水分解される、請求項1~15のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項17】
前記アクリル酸が、蒸留ステップ又は抽出ステップ又はこれらの組み合わせの1以上の手段によって更に処理される、請求項16記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸メチルからアクリル酸メチルを製造する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
石油由来の原材料の品不足や価格変動及び環境意識は、再生可能な(生物起源の)資源から化学物質を生成する為の代替プロセスの開発に向けた広範囲にわたる努力を主導した。新規グリーンポリマーの探索は難しい。しかしながら、現在の主な活動は、重要なドロップイン型の化学物質及びポリマー構成単位を製造する為の新しい合成経路の発見に注力されている。工業的価値のある化学物質の網羅的なリストのうち、とりわけアクリル酸はその市場規模及び成長見通しに起因して高い関心を引いた。乳酸を触媒的に脱水することは、生物起源のアクリル酸の製造において魅力的な経路である。現在のところ、ほとんどの乳酸転化試験は、この反応に重点が置かれている。熱力学的解析によれば、乳酸及び乳酸エステルのいずれも、アクリレート(酸及び/又はエステル)を製造するのに使用されることができた。しかしながら、脱炭酸/脱カルボニル経路を経由して開始基質をアセトアルデヒド及び炭素酸化物に分解することの方がより好ましいプロセスであり、従って触媒を適切に選択することが、アクリレートの高収率をなおも実現する為には非常に重要である。
【0003】
乳酸及びエステル、例えばホスフェート及びスルフェート、からアクリレートをバルク化合物として製造する為に、多様な固体触媒が触媒として適用されており、また不活性な支持体(例えば、シリカ及び活性炭)、及びゼオライトベースの材料上に支持されている。反応機構の試験に基づけば、表面陽イオンとの中間的な乳酸塩の形成が必須のステップであることが示唆される。このような観点から、触媒としてゼオライトを使用すれば、ゼオライトは、シリカ-アルミナフレームワークの規則的な多孔質構造に起因して、有機基質にとって容易にアクセス可能なイオン交換位置内に多数の陽イオンを有するので、非常に有望と思われる。乳酸からアクリレートを形成する為にゼオライトを適用する試験のほとんどは、NaY及びNaXゼオライトの使用に重点が置かれているが、いくつかの最近の公知文献は、他のゼオライト、例えば、Lゼオライト、ZSM-22、ZSM-35、MCM-22、ZSM-11もまた使用されることができ、但しZSM-5及びβ-ゼオライトが最も有望であることを明らかにした。
【0004】
ゼオライトベースの触媒の存在下で乳酸からアクリル酸を製造することを記載する公知文献の例は、下記に引用されている。例えば、ACS Catal. 7 (2017) 538-550、及び中国特許第104399519号では、触媒の存在下、乳酸からアクリル酸への気相脱水が記載されている。ZSM-5又はβゼオライトが好ましい。上記文献は、シリカ/アルミナ比が低ければ、アクリル酸の選択率がより良好となり、収率がより高まり、安定性が改善することを教示する。使用されるシリカ/アルミナ比は20~50である。水素型又はナトリウム型ゼオライトは、NaNO3を用いて4回イオン交換され、濾過、乾燥、及び焼成される。その後、ナトリウムゼオライトは、KBrを用いてイオン交換され、濾過、乾燥、及び焼成される。
【0005】
Chem. Eng. J. 284 (2016) 934-941では、ZSM-5触媒の存在下、アクリル酸への乳酸転化について試験されている。この目的を達成する為に、HZSM-5がNaOHで処理され、その後それにNa2HPO4が含浸される。NaOH処理は弱酸性部位を低下させると結論される。リン酸処理は酸性度を若干低下させ、選択率をアクリル酸側に増加させる。
【0006】
中国公開第104324746号公報は、Si/Al比が75であり、ナトリウム及び/又は別の陽イオン、例えばカリウム、を用いて改変されているZSM-5を使用する乳酸からアクリル酸への触媒的転化について記載する。ゼオライトは、金属イオン溶液を用いたイオン交換、撹拌、100~140℃での乾燥、及び焼成により改変されている。
【0007】
中国公開第104399515号公報は、80℃において10時間、0.5MのNaOHを用いてアルカリ処理し、その後に陽イオン処理及びリン酸ナトリウム処理することにより改変されているZSM-5を使用する、乳酸からアクリル酸への触媒的転化について記載する。
【0008】
中国特許第101602010号では、ZSM-5のかなり過酷なアルカリ処理が記載されており、その後にリン酸塩の含浸が続く。この触媒は、乳酸をアクリル酸に転化するのに使用される。
【0009】
国際公開第2016/201181号パンフレットは、α-ヒドロキシカルボン酸(例えば乳酸)又はβ-ヒドロキシカルボン酸及びそのエステルから、α、β-不飽和カルボン酸(例えばアクリル酸)及び/又はそのエステルを触媒的に調製することを対象とする。表面酸性度を有する限り、あらゆる種類のゼオライトが触媒として適することを記載する。シリカ/アルミナの比が10~100であるZSM-5が好ましい。非フレームワーク陽イオン(non-framework cations)は、事実上あらゆる公知の陽イオン、例えばH+、Na+、Mg2+、K+、Ca2+等、でありうる。これらの非フレームワーク陽イオンは、イオン交換により導入されうる。実施例及び説明では、H型ゼオライト又はNH4型ゼオライトのナトリウムを用いたイオン交換のみが記載されている。上記NaZSM-5に、その後K2HPO4が含浸されうる。
【0010】
従って、ほとんどの公知文献は、乳酸を転化してアクリル酸を形成することを対象とする。国際公開第2016/201181号パンフレットでは、α-ヒドロキシカルボン酸(例えば乳酸)、又はβ-ヒドロキシカルボン酸及びそのエステルの転化について一般的に言及されているが、乳酸の転化のみが実際に記載されている。本発明の主題は、乳酸メチル(ML)からアクリル酸メチル(MA)を製造する方法である。乳酸(LA)と比較して、乳酸メチルはほとんど試験されていない。しかしながら、乳酸メチル(ML)の使用は、酸と比較して多くの重要な長所を有する。先ず、アルキルエステルは発酵により製造された乳酸の精製期間中に形成されることができ、更に、アルキルエステルは糖から直接的に不均質触媒上で合成されることができる。アクリル酸(AA)の他、アクリル酸メチル(MA)も、全世界の年間生産量が200,000トン/年に及ぶ重要なアクリルモノマーであり、AAのエステル化により主に調製されることも強調されるべきである。アクリル酸メチルは、多くの分野、例えば塗料、エラストマー、接着剤、増粘剤、両性界面活性剤、ファイバー、プラスチック、テキスタイル、及びインクの製造、において用途を見出す。ラテックスペイント処方物で使用されるとき、アクリルポリマーは、良好な耐水性、低温柔軟性、並びに優れた対候性及び耐直射日光性を有する。これらの用途において、アクリル酸メチルは、様々なアクリルモノマー及びビニルモノマーとの重合において、コモノマーとして多くの場合使用される。アクリル酸メチルをコモノマーとして使用するとき、得られたアクリル性ペイントは、同種のアクリレートを用いたアクリル性ペイントよりも固く脆弱である。アクリル酸メチルをアクリロニトリルと共にコポリマー化すれば、そのファイバーへの溶融加工適性が改善する。アクリル酸メチルは、カーペットを作成する際に織られるファイバーに対する前駆体である。
【0011】
アクリル酸メチルは、化学合成でも使用される。例えば、MAは、2-ジメチルアミノエチルアセテートの調製で使用される。アクリル酸メチルは、アルキルアルコールとのエステル交換反応により、より炭素数の多いアクリル酸アルキル(例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル)を作成する為の出発物質でありうる。
【0012】
アクリル酸メチルは、加水分解によりアクリル酸へと転化されることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
触媒支援による、乳酸メチルからアクリル酸メチルへの転化について記載するいくつかの公知文献が知られている。しかしながら、本文献で使用される触媒は非常に急速に失活しやすい、又はその収率は低い。例えば、急速に失活しやすい13Xゼオライトを使用する欧州特許第0379691号、最大でも54%の低収率をもたらすLi-モンモリロナイト/NaY触媒の使用について記載する中国公開第102001942号公報、低収率をもたらすKNaYゼオライトの使用について記載するH.F. Shi et al. Chinese Chemical Letters, 18 (2007) 476、又はSiO2上でのリン酸Naの使用(そのプロセスの収率も低い)について記載するZhang, Z. et al. Ind. Eng. Chem. Res. 48 (2009) 9083-9089を参照。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、乳酸メチルをアクリル酸メチルにする反応は、乳酸をアクリル酸にする反応とは完全に異なって挙動し、それ故に異なる触媒及び反応条件を必要とすることを見出した。
【0015】
本発明は、乳酸メチルが、メタノールの存在下、ZSM-5触媒と接触される、アクリル酸メチルの製造方法を対象とする。メタノールの存在は、高収率の選択的プロセスを得るのに不可欠であることが判明した。本発明に従うプロセスを用いれば、特に溶媒として水の代わりにメタノールが使用される場合、アクリル酸メチルが主要な反応生成物として取得されうる一方、アクリル酸は微量検出されるにすぎない(通常10C%未満、但し多くの場合5C%未満)。メタノールは、プロセス内の唯一の溶媒として使用されうるが、好ましくは溶媒中に少量の水も存在する。本発明の1つの側面では、存在する溶媒の総量に基づき、1~25wt%の水が、供給原料溶液に導入されることができる。
【0016】
用語「溶媒」とは、液体供給原料で使用される希釈剤を意味する。
【0017】
本発明の1つの側面では、ZSM-5触媒は、SiO2/Al2O3比10~30を有する。
【0018】
本発明の1つの側面では、ZSM-5触媒は、イオン交換手順により調製されるカリウム型のZSM-5ゼオライトである。好ましくは、カリウム交換度は、0.90よりも高く、好ましくは0.95よりも高く、最も好ましくは0.97よりも高い。
【0019】
触媒の使用は、K-ZSM-5触媒内のブレンステッド酸部位の量が、吸収されたピリジンに基づくFTIRにより測定されて、1マイクロモル/g未満であるのが好ましい。ルイス酸部位の好ましい量は、吸収されたピリジンに基づくFTIRにより測定されて、50~130マイクロモル/g、好ましくは86~100マイクロモル/g、である。触媒のK/Al比は好ましくは0.95~1.00(1.00を含む)、より好ましくは0.97~1.00(1.00を含む)、である。
【0020】
本発明の別の側面では、ZSM-5触媒のリン含有量は、10ppm未満である。リン化合物、例えばリン酸K塩、が含浸された触媒を使用するとき、触媒の活性及び安定性及び選択率は悪影響を受ける。
【0021】
本発明の別の側面では、ZSM-5触媒のイオウ含有量は10ppm未満である。イオウ化合物、例えば硫酸K塩、が含浸された触媒を使用するとき、触媒の活性及び安定性及び選択率は悪影響を受ける。
【0022】
本発明の1つの側面では、触媒は、塩化カリウム又は硝酸カリウムを用いた、ZSM-5の、ナトリウム型又はアンモニウム型のイオン交換、濾過、洗浄、乾燥、及びイオン交換された触媒の焼成により調製されている。
【0023】
最適には、カリウム塩イオン交換用の出発物質は、ナトリウムベースのZSM-5触媒であるが、水素型又はアンモニウム型も出発物質として使用されうる。
【0024】
本発明に従うプロセスで使用される触媒は安定であり、且つアクリル酸メチルの形成においてきわめて選択的であることが判明した。
【0025】
一実施態様では、不活性気体中に気化された、メタノール中の乳酸メチル溶液は、固定触媒床上に連続的に導かれ、生成物流は単離、分離、及び精製される。
【0026】
得られたアクリル酸メチルは、蒸留及び/又は抽出ステップ又は任意のそれらの組み合わせの1以上の手段によって更に処理される。
【0027】
得られたアクリル酸メチルは、アクリル酸へと加水分解されうる。任意的に、上記このようにして得られたアクリル酸は、蒸留ステップ又は抽出ステップ又は任意のこれらの組み合わせの1以上の手段によって更に処理される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)国際公開第2016/201181号パンフレットに記載されている条件を使用したときの、比較触媒1Aを用いるアクリル酸収率及び乳酸転化率、(b)国際公開第2016/201181号パンフレットに記載されている条件を使用したときの、Na-ZSM5触媒におけるアクリル酸収率及び乳酸転化率を示す。
【
図2】溶媒として水を使用したときの、比較触媒1aの乳酸メチル(ML)転化率及びアクリル酸メチル(MA)収率を示す。
【
図3a1】(a)1及び(a)2 50時間の流通時間におけるKZSM-5触媒の乳酸メチル(ML)転化率及び総アクリレート選択率:生成物分布(収率は、安定したアクリレート(MA+AA)形成期間内の平均値である)を示す。
【
図3a2】(a)3 50時間の流通時間におけるKZSM-5触媒の乳酸メチル(ML)転化率及び総アクリレート選択率:生成物分布(収率は、安定したアクリレート(MA+AA)形成期間内の平均値である)を示す。
【
図3b】KZSM-5触媒の選択率及び安定性に対する水分含有量の影響(35%ML/溶媒供給)を示す。
【
図4】24時間の流通時間におけるKZSM-5触媒上での乳酸メチル(ML)転化率(a)及び総アクリレート選択率(b):プロトン密度の影響を示す。
【
図5】24時間の流通時間におけるKZSM-5触媒上での乳酸メチル(ML)転化率(a)及び総アクリレート選択率(b):K/Al比の影響を示す。
【
図6】KZSM-5触媒上での乳酸メチル(ML)転化率と乳酸転化率(LA)との比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、乳酸メチルが、メタノールの存在下、ZSM-5触媒と接触される、アクリル酸メチルの製造方法を対象とする。副産物の量が少なく、アクリル酸メチルに対する所望の選択率を得るのに、メタノールの存在は不可欠であることが判明した。本発明に従うプロセスを用いれば、アクリル酸メチルが主要な反応生成物として取得されることができ、一方でアクリル酸は微量(通常10C%未満)で検出される。メタノールがプロセス内の唯一の溶媒として使用されうるが、好ましくは溶媒中に少量の水も存在する。本発明の1つの側面では、存在する溶媒の総量に基づき、1~25wt%の水が、液体供給原料に添加されることができる。これは、転化の安定性を高め、アクリル酸メチルへの選択率を若干高めることが判明した。
【0030】
本発明に従うプロセスで使用される触媒は、ZSM-5ゼオライトである。この触媒は、現在想定されるプロセスにとって適正な細孔構造を有する。好ましくは、ZSM-5のSiO2/Al2O3比が10~30である触媒が使用される。ZSM-5ゼオライトの構造的側面の他に、この触媒は、下記で説明されるように、プロセス内の触媒の選択率及び安定性に多大な影響を有する、ルイス酸部位及びブレンステッド酸部位の量を設定する為の最良の起点を有することが判明した。
【0031】
アクリル酸メチルの製造における触媒の選択率を増加させる為に、カリウム塩でイオン交換されたZSM-5触媒であるZSM-5触媒が使用される。通常、市販のナトリウム型、水素型、又はアンモニウム型のZSM-5ゼオライトは、カリウム交換型ZSM-5触媒を形成する為に、カリウム塩を用いて1つ又はいくつかのイオン交換ステップに付される。好ましくは、出発物質はナトリウム型のZSM-5であるが、その理由はこの出発物質は、高レベルのイオン交換により馴染みやすく、また残留するブレンステッド酸性度のリスクがより低い為である。残留するブレンステッド酸性度(より高いプロトン密度)は、触媒の安定性にとって有害であることが判明した。触媒の安定性とは、収率が極端に低下することなく、長期にわたりプロセスを稼働させる能力を意味する。この文脈における長期とは、24時間~最長60時間又はそれより長い期間を意味する。
【0032】
交換度がアクリル酸メチルに対する選択率を決定すること、が更に見出された。カリウム交換型の触媒を用いれば、75%を上回る選択率が取得されることができたが、カリウム交換度1.00を使用するとき、ストリームが24時間を超えても約80%の一定した選択率さえも有した。交換度は、カリウム及びナトリウムの総量により割り算されたカリウムの量により定義される。好ましくは、0.90よりも高い、好ましくは0.95よりも高い、最も好ましくは0.97よりも高い、カリウム交換度を有する触媒が使用される。一般的に、ルイス酸部位の量は、50~130マイクロモル/g、好ましくは86~100マイクロモル/g、であるのが望ましい。このルイス酸性度は、吸収されたピリジンに基づくFTIRにより測定されうる。
【0033】
上記のように、使用されるZSM-5触媒中のブレンステッド酸部位の量は低いことが望ましい;1マイクロモル/g未満のプロトン密度が望ましい。1マイクロモル/gを上回る数値を用いると、実質的にNaを含まないK-ZSM-5触媒の選択率さえも劇的に低下し、安定性に劣る触媒をもたらす結果となることが判明した。ブレンステッド酸性度は、吸収されたピリジンに基づくFTIRにより測定されうる。
【0034】
例えばリン酸塩の含浸によるリン処理は、アクリル酸メチルを形成する為の触媒の活性及び安定性にとって有害であることが判明した。それ故に、ZSM-5触媒のリン含有量が10ppm未満である触媒が使用されるのが好ましい。
【0035】
同じことは、例えば硫酸塩を用いた、イオウ処理についても言える。ZSM-5触媒のイオウ含有量が10ppm未満である触媒が使用されることが好ましい。
【0036】
一般的に、本発明に従うプロセスで使用される触媒は、ナトリウム型、水素型、又はアンモニウム型のZSM-5とカリウム塩とのイオン交換、イオン交換された触媒の洗浄、乾燥、及び焼成により調製されうる。ナトリウム型ZSM-5触媒を使用するとき、最適な結果が得られる。
【0037】
イオン交換ステップは、任意の従来方式で、例えば、塩の水性溶液中でゼオライト粉末を撹拌し、その後に母液(mater liquor)/母液(mother liquor)の濾過、洗浄、及び乾燥により実施されうる。好ましくは、イオン交換ステップ期間中に維持される温度は、室温、例えば15~25℃、である。イオン交換塩溶液の濃度は、状況に応じて調整されうるが、通常は0.5~1Mの溶液が使用されうる。任意の適する水溶性カリウム塩が使用されうる。KCl、KNO3が好ましい。上記のように、亜リン酸又はイオウ含有塩の使用は推奨されない。上記のように、複数のイオン交換ステップも実施されうる。
【0038】
洗浄ステップは、水を用いて、液体/固体比20~100、好ましくは30~80をもちいて実施される。液体/固体比は、ゼオライト粉末1グラム当たりの液体の量(ml)により定義される。触媒内に塩が残留すると、触媒内に過剰の陽イオンが生ずることとなり、その結果、安定性及びアクリル酸メチルに対する選択率の低下を引き起こすおそれがあるので、適切な洗浄が重要であることが判明した。それ故に、K/Al比が1.00である、又は1.00よりわずかに低い触媒の使用が好ましい。過剰な徹底洗浄も、プロトン化及び1マイクロモル/gを上回るブレンステッド酸性度をもたらすおそれがあるので回避されるべきである。
【0039】
洗浄後、触媒は、高温、すなわち、40~100℃、好ましくは50~70℃、において乾燥される。
【0040】
焼成は、500~600℃、好ましくは500~550℃、の温度で約3~6時間実施される。
【0041】
プロセスは、好適には、連続気相反応器内で、不活性気体、例えば窒素気体中に気化された、供給原料としてのメタノール中乳酸メチル溶液を、固定触媒床上で使用し、生成物を単離、分離、及び精製して、実施されうる。最も好都合な精製方法は、蒸留、抽出、又はその1以上の併用ステップを含む。また、他の従来式の精製技術、例えばアルミナ、シリカ、又は炭素カラム上での吸着、が単独で、又はこれまでに記載された精製方法と組み合わせて使用されうる。一般的な不純物、例えばアクリル酸やアセトアルデヒド、の沸点の差異を考慮すれば、蒸留が最も好ましい精製技術である。好ましい反応温度は、大気圧を使用するとき300~400℃である。
【0042】
得られたアクリル酸メチルは、アクリル酸へと加水分解されうる。任意的に、上記このようにして得られたアクリル酸は、1以上の蒸留ステップ又は抽出ステップ又は任意のこれらの組み合わせによって更に処理される。
【0043】
本発明は、下記の実施例により更に例証される。これらの実施例は、本発明を例証する役割を果たすに過ぎず、決して制限的と解釈してはならない。
【実施例0044】
比較例1~2の触媒試験で使用される触媒試験の手順:
水中、20wt%の乳酸が基質として使用された。乳酸の触媒的転化が、固定床式の連続的ダウンストリーム流通反応器(downstream flow reactor)内で実施された。反応は、330℃及び大気圧で実施された。典型的には、0.25~0.5mmのフラクションにペレット化された触媒1g(1.65ml)が使用された。反応器内の基質及び生成物の熱分解を回避する為に、石英反応器管が、触媒床より下は石英ウールで、触媒床より上はガラスビーズで充填された。触媒を用いない反応温度でのブランク試験が実施され、この試験期間中に有意なレベルの転化は検出されなかった。供給溶液が、HPLCポンプ(Waters社515HPLCポンプ、供給流速0.05ml/分)を使用してシステム内にポンプ搬送され、完全な蒸発を確保する為にN2と混合された(窒素ガスのガス流量27.5ml/分)。液空間速度(LHSV)は、1.8時間-1に設定された。
【0045】
気体混合物は冷却され、Stabilwax-DAカラム(30m×0.32mmID×0.10μm df、Restek社)、コールドオンカラムインジェクター、及びTCDディテクターを備えたガスクロマトグラフィー(GC)により、液体ストリームがオフラインで分析された。
【0046】
総転化率(TC、供給されたMLに基づくC%)が式:
【数1】
に従い計算された。生成物の収率(Yi)が、式:
【数2】
に従い計算された。i-生成物に対する選択率(S)は、下記:
【数3】
に従い計算された。
(式中、
【数4】
は、i-生成物のモル量であり、TCはLA転化率である)
【0047】
比較例3及び比較例2~6の為の触媒試験
98wt%のメチル(S)-乳酸(Purasolv ML/ex Corbion社)が基質として使用された。メタノール、水-メタノール、又は水が、乳酸メチル(ML)希釈用の溶媒として使用された。乳酸メチルからアクリル酸メチルへの触媒的転化は、固定床式の連続的ダウンストリーム流通反応器(downstream flow reactor)内で実施された。反応は320~340℃及び大気圧で実施された。典型的には、0.25~0.5mmのフラクションにペレット化された触媒1g(1.7ml)が使用された。反応器内の基質及び生成物の熱分解を回避する為に、石英反応器管が、触媒床より下は石英ウールで、及び触媒床より上はガラスビーズで充填された。触媒を用いない反応温度でのブランク試験が実施され、この試験期間中に有意なレベルの転化は検出されなかった。乳酸メチル溶液が、HPLCポンプ(Waters社515HPLCポンプ)を使用してシステム内にポンプ搬送され、完全な蒸発を確保する為にN2と混合された。
【0048】
生成物は、CPWAX52CBカラム(20m×0.25mm×0.20μm)及びFIDディテクターを備えたオンラインガスクロマトグラフ(GC)により分析された。炭素バランスが、供給された炭素の総量で割り算された、分析された生成物中の総炭素量として計算された。総転化率(TC、供給されたMLに基づくC%)が式:
【数5】
に従い計算された。生成物の収率(Yi)が、式:
【数6】
に従い計算された。i-生成物に対する選択率(S)が以下:
【数7】
に従い計算された。
(式中、
【数8】
は、i-生成物の炭素モル量(Cモル)である)
【0049】
特性決定方法
IR実験が、DTGSディテクターを備えたNicolet6700分光光度計上で実施された(スキャン回数128回;分解能2cm-1)。測定前に、自己支持式のウェファーが、真空中、400℃ Kにおいて1時間(5℃/分)事前処理された。触媒の酸性度が、プローブとしてピリジンを使用して分析された。400Kにおいて事前処理した後、試料は、約28mbarのピリジン蒸気を用いて50℃で20分間飽和された。吸着ピリジンを含有する排気された試料が最高150℃まで加熱され、20分間保持され、次にIRスペクトルが記録された。酸性度の定量化で使用される、統合された(integrated)モル吸光係数は、ブレンステッド酸部位に特徴的な1545cm-1バンド、及びルイス酸部位に特徴的な1455cm-1バンドについて、それぞれ1.67cm/マイクロモル、及び2.22cm/マイクロモルであった(C.A. Emeis, J. Catal. 141 (1993) 347-354で報告されたデータに基づく)。
【0050】
元素組成が、IPC AESにより測定された。100mgの乾燥粉末が、500mgのホウ酸リチウム(LiBO3)と混合された。粉末混合物は、次にグラファイト溶融ポットに移され、1000℃のマッフルオーブン内に10分間配置された。得られた溶融物は、0.42MのHNO3を50ml含有するプラスチックビーカーに直ちに移され、更に10分間、激しく撹拌された状態に保たれた。次に、プローブは3wt%のHNO3水性溶液を用いて1/10に希釈され、IPC AES(Varian720-ES)により測定された。SRM(GeoReM, http://georem.mpch-mainz.gwdg.de/において規定されるように、AGV-1、PRI-1、BCS-267、及びBCS-269のコードが付与された目的の元素について認証濃度を有する標準参照物質(Standard Reference Material))粉末が標準として使用された。SRM粉末は、ゼオライト粉末と同様の蒸解手順が施され、調製された溶液が校正曲線用として使用された。
Cat8が、Yan et al. [ACS Catal. 7 (2017) 538-550]に記載されるように、高温にて、4段階の交換手順により調製された。空気乾燥ゼオライト粉末が、0.5MのNaNO3の水性溶液中、液体と固体との比20を使用して80℃で1時間撹拌された。次に、ゼオライトは濾過され、ミリポア水で洗浄され、60℃で終夜乾燥された。同一の手順が4回反復された。最終的に、試料は、500℃のマッフルオーブン内、静止空気中、3℃/分の勾配で3時間焼成された。
触媒Cat7~8の特性は表1に記載されている。Na塩を用いたイオン交換は、全ての残留プロトンを取り除くには有効ではないことを示している。マルチステップのイオン交換は、おそらくは複数の洗浄ステップの間にプロトン化することにより、ブレンステッド酸性度の増加を引き起こす。
Cat11が、実施例1でCat6について記載された手順に従い調製されたが、但し親ゼオライト(parent zeolite)は、NaZSM-5(SN27、Alsi Penta社)に代わり、NH4ZSM-5(Alsi Penta社より供給されたSM27)であった。
Cat12がCat9と同一の手順に従い調製されたが、洗浄で使用されるミリポアQ水の量は、液体と固体との比60から10まで減らされた。乾燥及び焼成手順はCat6で使用された手順と同一であった。
Cat13がCat10と同一の手順に従い調製されたが、KOHの添加は洗浄ステップの間に実施された。洗浄が適用されたが、但し2回目の交換ステップの後に限定された。母液の除去の後、初めに1容量のミリポアQ水(液体と固体との比20を使用)が添加され、次に液体と固体の比40を使用して次の容量の0.01MのKOH溶液が添加された。乾燥及び焼成手順はCat6で使用された手順と同一であった。
触媒Cat12及びCat13の特性は表2に記載されており、適切な洗浄手順の重要性を示している。洗浄が不十分であると、ゼオライト材料の細孔内又は表面に残留する塩が蓄積する(この場合、K/Al比は1を上回る)。
触媒試験は、Myriant社出願の反応条件に基づき実施された。触媒は、非常に不良な性能、すなわち低乳酸転化率(初期70%)及び安定性不良という結果をもたらした。