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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160777
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】低燐鋼の溶製方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20221013BHJP
   C21C 5/30 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
C21C5/28 H
C21C5/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065185
(22)【出願日】2021-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】久志本 惇史
(72)【発明者】
【氏名】小原 丈司
(72)【発明者】
【氏名】北野 遼
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正樹
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070AB03
4K070AB06
4K070AC02
4K070AC14
4K070AC20
4K070BA12
4K070BB02
4K070BC11
(57)【要約】
【課題】脱炭吹錬中の脱燐効率をより向上させた低燐鋼の溶製方法を提供する。
【解決手段】上吹きランスを具備した転炉型精錬装置において、脱燐吹錬を実施して生成した脱燐スラグを分離した後に、CaOまたはCaCO3を含む石灰源を全CaO換算質量で30~70kg/t-steelの範囲で投入して脱炭吹錬を実施し、溶鉄中のC濃度を0.4質量%未満まで低減させる低燐鋼の溶製方法であって、前記脱炭吹錬において、吹錬を開始する時点で前記石灰源を前記全CaO換算質量の60~80%投入し、前記上吹きランスから送酸速度が150~250Nm3/(h・t-steel)の範囲で酸素を吹き付けて吹錬を開始し、吹錬開始時点から総酸素量中の流量割合で80~90%の酸素を供給した時点において、前記石灰源の残りを投入するとともに送酸速度を変更前の40%~85%に下げる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上吹きランスを具備した転炉型精錬装置において、脱燐吹錬を実施して生成した脱燐スラグを分離した後に、CaOまたはCaCO3を含む石灰源を全CaO換算質量で30~70kg/t-steelの範囲で投入して脱炭吹錬を実施し、溶鉄中のC濃度を0.4質量%未満まで低減させる低燐鋼の溶製方法であって、
前記脱炭吹錬において、吹錬を開始する時点で前記石灰源を前記全CaO換算質量の60~80%投入し、前記上吹きランスから送酸速度が150~250Nm3/(h・t-steel)の範囲で酸素を吹き付けて吹錬を開始し、吹錬開始時点から総酸素量中の流量割合で80~90%の酸素を供給した時点において、前記石灰源の残りを投入するとともに送酸速度を(1)式の範囲に変更することを特徴とする、低燐鋼の溶製方法。
0.40≦FO2_after/FO2_before≦0.85 ・・・(1)
ここで、FO2_before:前記石灰源の残りを投入するとともに送酸速度を変更する前の送酸速度(Nm3/(h・t-steel))、FO2_after:前記石灰源の残りを投入するとともに送酸速度を変更した後の送酸速度(Nm3/(h・t-steel))である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱炭吹錬中の脱燐効率を向上させた低燐鋼の溶製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶銑中のPを除去するために脱燐吹錬が行われているが、低燐鋼を溶製する場合には、その後の脱炭吹錬においてもPを効率的に除去することが重要である。また、脱燐スラグからの復燐を防止するために、脱炭吹錬を行う前に脱燐スラグをできるだけ除去する必要がある。ただし、一部の脱燐スラグは持ち越しスラグとして残存するため、復燐防止のために脱炭吹錬を行う前に新規に石灰源を投入してスラグの塩基度を調整した場合、石灰が過剰になりスラグの液相率が低下する。その結果、脱燐速度が過度に遅くなることから、脱炭吹錬中は脱燐効率が低く、十分に脱燐を行うことができない。
【0003】
そこで、効率よく脱燐処理を行うために様々な提案がなされている。特許文献1には、吹錬時期に応じて送酸速度を変更したりCaO源を装入したりする技術が開示されている。特許文献2には、酸素の吹込み開始前後に第一スラグ剤を装入し、脱炭吹錬中に第二スラグ剤を、キャリアガスを用いて吹込む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6053570号公報
【特許文献2】特開2020-105562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の技術では、スラグの溶解を優先して、吹錬開始時のスラグ塩基度を通常の低燐向け転炉プロセスの脱炭吹錬におけるスラグ塩基度と比較して過度に下げており、吹錬初期のスラグの脱燐能が大きく低下してしまう。これにより、吹錬中盤で追装するCaO源が過剰となり、吹錬中に十分溶解し切らず、安定した低燐化効果が得られない。特許文献2に記載の技術は、脱炭吹錬にて第二スラグ剤上吹きを実施するための設備改造が必要となる。また、第二スラグ剤上吹き時のキャリアとなる窒素ガスにより溶鉄中のN濃度が高くなるため、低窒素鋼へ適用する際には吹き込み時期の制約がある。
【0006】
本発明は前述の問題点を鑑み、簡便な操作で脱炭吹錬中の脱燐効率をより向上させた低燐鋼の溶製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
脱炭吹錬を行う前に脱燐スラグを分離して新規に石灰源を投入した場合、石灰が過剰となりスラグ液相率が低下する。その結果、脱炭吹錬中期までの脱燐速度が過度に遅くなり、かつ持ち越しスラグからの復燐が生じる。一方で、脱炭吹錬末期では、溶鉄中のC濃度が下がりにくくなってFeOが多量に生成される。FeOが多量に生成されると、スラグの液相率が上昇し、脱燐反応が起こりやすくなる一方で、鉄の歩留まりという観点から脱炭吹錬末期の時間を過度に延ばすことができない。
【0008】
そこで、本発明者らは、脱炭吹錬の末期までの間はスラグの液相率を確保し、歩留まりの低下を抑制しつつ吹錬末期の時間を多く確保できれば脱燐効率が上昇すると考え、吹錬開始時点で石灰源の投入量を抑制し、かつ脱炭吹錬末期に残りの石灰源を投入しつつ、送酸速度を低下させることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は以下の通りである。
(1)
上吹きランスを具備した転炉型精錬装置において、脱燐吹錬を実施して生成した脱燐スラグを分離した後に、CaOまたはCaCO3を含む石灰源を全CaO換算質量で30~70kg/t-steelの範囲で投入して脱炭吹錬を実施し、溶鉄中のC濃度を0.4質量%未満まで低減させる低燐鋼の溶製方法であって、
前記脱炭吹錬において、吹錬を開始する時点で前記石灰源を前記全CaO換算質量の60~80%投入し、前記上吹きランスから送酸速度が150~250Nm3/(h・t-steel)の範囲で酸素を吹き付けて吹錬を開始し、吹錬開始時点から総酸素量中の流量割合で80~90%の酸素を供給した時点において、前記石灰源の残りを投入するとともに送酸速度を(1)式の範囲に変更することを特徴とする、低燐鋼の溶製方法。
0.40≦FO2_after/FO2_before≦0.85 ・・・(1)
ここで、FO2_before:前記石灰源の残りを投入するとともに送酸速度を変更する前の送酸速度(Nm3/(h・t-steel))、FO2_after:前記石灰源の残りを投入するとともに送酸速度を変更した後の送酸速度(Nm3/(h・t-steel))である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脱炭吹錬中の脱燐効率をより向上させた低燐鋼の溶製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】脱炭吹錬中の溶鉄中P濃度の推移を説明するための図である。
図2】脱炭吹錬中の脱炭スラグの液相率の推移を説明するための図である。
図3】送酸速度の変更による脱炭吹錬末期の時間の延長を説明するための図である。
図4】脱炭吹錬末期におけるFeOの生成量を説明するための図である。
図5】脱炭吹錬前後での脱燐率と比FO2_after/FO2_beforeとの関係を示す図である。
図6】送酸速度と送酸量原単位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで、本発明で溶製する低燐鋼は、P濃度が0.01質量%以下の鋼である。
【0013】
まず、脱炭吹錬を行う前に溶銑の脱燐吹錬を行い、溶銑中のP濃度を予め低下させておく。脱炭吹錬前の脱燐吹錬では、例えば溶銑中のP濃度を0.04質量%以下にすることが好ましい。脱燐吹錬後は、脱燐吹錬によって生じた脱燐スラグと溶銑とを分離する。脱燐吹錬後の溶銑と脱燐スラグとの分離方法については特に限定しないが、低燐鋼向け転炉吹錬プロセスでは脱燐スラグと溶銑とを可能な限り分離する必要がある。そこで、なるべくスラグを持ち越さない方法として、例えば溶銑を出湯した後に脱燐スラグを排滓し、出湯した溶銑を再びその転炉に装入する方法が挙げられる。これらの方法により脱燐スラグを90%以上分離しておくことが好ましい。
【0014】
そして、脱燐スラグを分離した後に、CaOまたはCaCO3を含む石灰源を転炉に投入して脱炭吹錬を開始する。本実施形態では、詳細は後述するが、脱炭吹錬の中期までは、脱炭スラグの液相率を確保して脱燐反応を促進し、さらにFeOが多く生成する脱炭吹錬末期では、鉄の歩留まりの低下を抑制しつつ脱燐反応の時間をなるべく確保するようにする。
【0015】
図1は、脱炭吹錬中の溶鉄中P濃度の推移を説明するための図である。脱燐吹錬によって生じた脱燐スラグの一部が不可避的に持ち越しスラグとして残存することになる。前述のように脱燐スラグと溶銑とを可能な限り分離するため、脱炭スラグでは持ち越しスラグを含むもののSiO2分が少なくなり、石灰源の過剰投入により脱炭が進行する脱炭吹錬中期までは脱炭スラグの液相率が低下し、脱燐速度が過度に遅くなる。したがって、図1の点線に示す従来例では、脱炭吹錬中期までは、脱燐反応よりも持ち越しスラグを含んだ脱炭スラグからの復燐の方が大きく、溶鉄中のP濃度はわずかに上昇する傾向にある。
【0016】
そこで本実施形態では、脱炭吹錬中の石灰源の全投入量を全CaO換算質量で30~70kg/t-steelの範囲とし、脱炭スラグの液相率を確保するために、脱炭吹錬を開始する時点で、石灰源を全CaO換算質量の60~80%だけ投入する。
【0017】
ここで、上述の石灰源の全投入量は低燐鋼向け脱炭吹錬で一般的に投入される石灰源の量である。石灰源の全投入量が全CaO換算質量で30kg/t-steel未満では、目的とする低燐鋼を溶製することができない。また、石灰源の全投入量が全CaO換算質量で70kg/t-steel超では、脱燐効果が飽和し、スラグ量が増加するとともに石灰源のコストが多くかかってしまう。また、脱炭吹錬を開始する時点で投入する石灰源が全CaO換算質量の60%未満では、脱炭スラグのCaO分が少なくなり、かつ後入れした石灰源の溶解が間に合わず最終的な脱燐量が少なくなってしまう。また、脱炭吹錬を開始する時点で投入する石灰源が全CaO換算質量の80%超では、脱炭吹錬前半の脱炭スラグの液相率が低下し、特に脱炭吹錬中期での脱燐量が低下してしまう。
【0018】
図2は、脱炭吹錬中の脱炭スラグの液相率の推移を説明するための図である。本実施形態においては、脱炭吹錬を開始する時点で、石灰源を全CaO換算質量の60~80%だけ投入することにより脱炭スラグの液相率を確保し、特に脱炭吹錬中期までの脱燐反応効率を上げるようにしている。これにより図1に示すように、従来に比べて、特に脱炭吹錬中期での溶鉄中のP濃度を低く抑えることができる。
【0019】
以上のように脱炭吹錬を開始する時点で石灰源の一部を残し、送酸速度が150~250Nm3/(h・t-steel)の範囲で脱炭吹錬を開始する。そして、吹錬開始時点から総酸素量中の流量割合で80~90%を供給した時点において残りの石灰源を投入し、かつ送酸速度を下記(1)式の範囲に変更する。
0.40≦FO2_after/FO2_before≦0.85 ・・・(1)
【0020】
ここで、FO2_beforeは、送酸速度を変更する前の送酸速度(Nm3/(h・t-steel))を表し、FO2_afterは、残りの石灰源を投入した段階で送酸速度を変更した後の送酸速度(Nm3/(h・t-steel))である。
【0021】
ここで、上述の吹錬開始時における150~250Nm3/(h・t-steel)の送酸速度の範囲は、脱炭吹錬で一般的に吹き込まれる酸素の送酸速度である。この時の送酸速度が150Nm3/(h・t-steel)未満では、脱炭が十分に行われず、無駄に多くの時間がかかってしまう。また、送酸速度が250Nm3/(h・t-steel)超に増加させることは、設備仕様上困難であったり、溶鉄飛散や耐火物損耗など操業上の問題が生じる場合があったりする。
【0022】
また、上述の条件で脱炭吹錬を行った場合に、総酸素量の流量割合で80~90%を供給すると、溶鉄中のCが概ね除去され、FeOが生成しやすくなる。FeOが生成されると図2に示したように脱炭スラグの液相率が上昇し、脱燐反応が起こりやすくなる。吹錬開始時点から総酸素量中の流量割合で80%未満の段階で残りの石灰源を投入して送酸速度を(1)式の範囲に変更すると、追加で投入した石灰源により脱炭スラグの液相率が過度に低下してしまい、脱燐効率が低下する。さらに、脱炭反応がまだ顕著に生じている段階(FeOがまだあまり生成されない段階)で送酸を抑えることになるため、Feの過剰酸化が生じ、鉄の歩留まりが低下してしまう。また、吹錬開始時点から総酸素量中の流量割合で90%超の段階で残りの石灰源を投入して送酸速度を(1)式の範囲に変更すると、脱炭スラグ中においてFeOの割合が高い脱炭吹錬末期での時間を十分に確保できず、追加で投入した石灰源の滓化が不十分となり、脱燐効果が十分に得られない。
【0023】
図3は、送酸速度の変更による脱炭吹錬末期の時間の延長を説明するための図である。図3において、II期とは、脱炭反応が顕著に進行している脱炭吹錬中期を表し、III期は、脱炭反応が低下してFeOの生成が増加する脱炭吹錬末期を表している。例えば、脱炭吹錬中期まで送酸速度を60000Nm3/hとし、追加で石灰源を投入した時に送酸速度を下げると、総酸素量を同じにした場合に脱炭吹錬末期の時間を延ばすことができる。
【0024】
また、図4に示すように、送酸速度を下げると、送酸速度を下げなかった場合に比べて脱炭スラグ中のFeO濃度は小さくなるが、脱炭吹錬末期の脱燐反応は酸素供給律速ではなく、溶鉄中と脱炭スラグ中とのPの物質移動律速となる。したがって、送酸速度を低下させたとしても単位時間あたりの脱燐量は殆ど変わらないため、総酸素量が同じであれば送酸速度を下げて時間を延ばすほど溶鉄中のP濃度が低下する。よって、総酸素量の増加による過度なFeの酸化(鉄歩留まりの低下)や大幅な時間延長を回避して脱燐効率を改善できる。
【0025】
図5は、脱炭吹錬前後での脱燐率と比FO2_after/FO2_beforeとの関係を示す図である。図5に示すように、(1)式を満たすように送酸速度を調整することによって脱燐率が75%以上となることがわかる。比FO2_after/FO2_beforeを0.85超に調整すると、脱燐反応が起こりやすい脱炭吹錬末期の時間確保が不十分となり脱燐効果が得られない。一方、比FO2_after/FO2_beforeを0.40未満に調整すると、脱燐反応の駆動力であるP濃度の実績値と平衡値との差が小さくなり、脱炭吹錬末期の時間を延ばしたことによる脱燐効果が飽和する。また、上吹き酸素ジェットが過度にソフトブローとなり、FeO生成速度に対する底吹き攪拌による脱炭スラグ中のFeO還元反応速度が大きくなり、脱炭スラグ中のFeO濃度の増加が鈍化してしまうため、脱燐効率が寧ろ低下してしまう。
【0026】
また、追加で石灰源を投入する前または後の段階においても送酸速度を適宜変更してもよい。図6は、送酸速度と送酸量原単位との関係を示す図である。追加で石灰源を投入する段階で送酸速度を変更する前に送酸速度を変更した場合は、その期間に供給した酸素量を吹錬時間で除した平均の送酸速度をFO2_beforeとする。追加で石灰源を投入する段階で送酸速度を変更した後に送酸速度を変更した場合も同様に、平均の送酸速度をFO2_afterとする。
【0027】
また、本実施形態における脱炭吹錬では、溶鉄中C濃度を0.4質量%未満にまで低減するものとする。C濃度が0.4質量%以上の高炭素鋼を溶製する場合には、FeOが生成されにくい段階で酸素の吹込みを止める必要があるからである。さらに、攪拌条件については特に限定しないが、底吹きガスの種類、羽口形状に応じて一般的な脱炭吹錬の条件で行うものとする。
【0028】
以上のように、脱炭吹錬開始時において石灰源を全CaO換算質量の60~80%だけ投入し、吹錬開始時点から総酸素量中の流量割合で80~90%を供給した時点において残りの石灰源を投入し、かつ送酸速度を(1)式の範囲に変更することにより、脱炭吹錬中期までにおいても脱燐反応を促進させ、かつ脱燐反応が起こりやすい脱炭吹錬末期を延ばし、鉄歩留まりを低下させずに脱燐効率を高めることができる。
【実施例0029】
次に、本発明の実施例について説明するが、この条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一条件例であり、本発明は、この実施例の記載に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する種々の手段にて実施することができる。
【0030】
高炉から出銑した後の溶銑を転炉に装入し、脱燐吹錬を実施して溶銑中のP濃度が0.040質量%以下になるまでPを除去した。その後、溶銑の出湯および脱燐スラグの排滓により溶銑と脱燐スラグとを分離し、320tの予備処理済の溶銑を得た。その後、処理済みの溶銑を転炉に戻し、昇熱材としての炭材、FeSi、および石灰源(CaO)を投入して溶銑の脱炭吹錬を実施し、C濃度を0.03質量%以上0.4質量%未満まで低減させた。この時の脱炭吹錬前の溶銑中P濃度は0.02~0.04質量%の範囲、脱炭吹錬で新規に投入した石灰源の全投入量は全CaO換算質量で溶銑1tあたり50~60kg、送酸速度変更前の平均の送酸速度FO2_beforeは191~213Nm3/(h・t-steel)とした。
【0031】
本発明の効果は、溶銑の脱燐率、スラグ中のFeO濃度で評価した。脱炭吹錬前後に採取したメタルサンプルの化学分析で得たP濃度から以下の(2)式で脱燐率を算出し、脱炭吹錬後のスラグ化学分析からFeO濃度を分析した。本実施例では、脱燐率が75%以上、FeO濃度が30質量%未満をともに満たした条件で発明の効果が得られたと判断した。
脱燐率=100*([P]脱C前-[P]脱C後)/[P]脱C前 ・・・(2)
なお、[P]脱C前は脱炭吹錬前の溶銑中P濃度を表し、[P]脱C後は脱炭吹錬後の溶鋼中P濃度を表す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示すように、実施例No.1~No.4においては、いずれも脱燐率が75%以上で、かつ脱炭スラグ中のFeO濃度が30質量%未満であった。
【0034】
一方で、比較例No.5は、石灰源を分割投入せず、送酸速度も変更しなかったため、脱炭吹錬中期までの脱炭スラグの液相率が低く、さらに脱燐反応が進行しやすい脱炭吹錬末期も延ばすことができなかった。その結果、脱燐率が低かった。比較例No.6では、脱炭吹錬開始時点での石灰源の投入量が少なかったため、脱炭吹錬末期に投入した石灰源が多くなり、その結果、追加で投入した石灰源が完全に溶解せず脱燐率が低かった。比較例No.7では、脱炭吹錬開始時点での石灰源の投入量が多すぎたため、脱炭吹錬中期までの脱炭スラグの液相率が低かった。その結果、脱燐率が低かった。
【0035】
比較例No.8では、残りの石灰源の投入および送酸速度の変更が早すぎたため、脱炭吹錬中期での脱炭スラグの液相率が低くなり、脱燐率が低かった。さらに、Feの過剰酸化が生じたことから、脱炭スラグ中のFeO濃度も高かった。比較例No.9では、残りの石灰源の投入および送酸速度の変更が遅すぎたため、脱炭吹錬末期での時間を十分に確保できず、追加で投入した石灰源の滓化が不十分となり、脱燐率が低かった。
【0036】
比較例No.10では、残りの石灰源の投入時に送酸速度を下げ過ぎたため、脱炭スラグ中のFeO濃度の増加が鈍化して脱炭スラグの液相率の上昇が緩やかになり過ぎ、脱燐率が低かった。比較例No.11では、残りの石灰源の投入時の送酸速度の下げ幅が小さ過ぎたため、脱炭吹錬末期の時間の延長効果があまり得られず、脱燐率が低かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6