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特開2022-160797電気音響変換器及び電気音響変換器用ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160797
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】電気音響変換器及び電気音響変換器用ユニット
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/24 20060101AFI20221013BHJP
   H04R 7/04 20060101ALI20221013BHJP
   H04R 9/06 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
H04R1/24 A
H04R7/04
H04R9/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065225
(22)【出願日】2021-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須賀田 弘
【テーマコード(参考)】
5D012
5D016
5D018
【Fターム(参考)】
5D012CA09
5D012DA02
5D012FA02
5D012GA01
5D016AA01
5D018AB01
5D018AB15
(57)【要約】
【課題】小型化を実現しつつ低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧の低下を改善することで高音質の音の再生が可能な電気音響変換器及び電気音響変換器用ユニットを得る。
【解決手段】電気音響変換器10には、第一振動板28から第二振動板38の正面38Aが向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に導くポート36が設けられている。電気音響変換器10は、ポート36を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板38からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板38の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気入力信号に対応して作用部によって反作用部に対する作用力を発生させかつ前記反作用部が前記作用部に反作用力を作用させるように構成されて振動を発生させる駆動部と、
前記作用部及び前記反作用部のうち質量が小さい方に接続された第一振動板と、
前記第一振動板よりも面積が大きく、前記第一振動板が少なくとも第一サスペンションを介して接続されると共に、前記作用部及び前記反作用部のうち質量が大きい方が少なくとも第二サスペンションを介して接続され、前記駆動部が振動を発生させた場合に正面側の外部空間に放音可能な第二振動板と、
を有し、
前記第一振動板から前記第二振動板の正面が向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を前記第二振動板の正面側の外部空間に導くポートを設けることで前記駆動部が振動を発生させた場合の前記第一振動板と前記第二振動板からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が前記第一振動板及び前記第二振動板の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている、電気音響変換器。
【請求項2】
前記第一振動板の正面の向きが前記第二振動板の正面の向きに合わせられて前記第一振動板の正面から前記第二振動板の正面側の外部空間に放音可能に構成され、
前記ポートは、前記第一振動板の背面から当該第一振動板の背面側のキャビティ内に放射された音の一部の周波数帯域の成分を前記第二振動板の正面側の外部空間に導くように構成されている、請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項3】
前記第一振動板の正面の向きが前記第二振動板の正面の向きとは反対方向に設定されると共に、前記第一振動板の背面からの音が前記第二振動板の正面側の外部空間へ放出されないように構成され、
前記ポートは、前記第一振動板の正面から前記第二振動板の正面が向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を前記第二振動板の正面側の外部空間に導くように構成されている、請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項4】
前記第一振動板の背面側のキャビティ内において前記第二サスペンションによって仕切られる2つの空間を連通させる連通部が形成されている、請求項2記載の電気音響変換器。
【請求項5】
前記第二振動板には孔部が貫通形成され、
前記第二振動板の正面側から見て前記第一振動板及び前記ポートの出口が前記孔部の内側に配置され、更に前記駆動部、前記第一振動板、前記第一サスペンション、前記第二サスペンション及び前記ポートを含む構成部がユニット化されて前記第二振動板に対してその正面側に突出しないように配置されている、請求項2又は請求項4に記載の電気音響変換器。
【請求項6】
取付部が設けられた筐体と、
前記筐体に収容され、電気入力信号に対応して作用部によって反作用部に対する作用力を発生させかつ前記反作用部が前記作用部に反作用力を作用させるように構成されて振動を発生させる駆動部と、
前記筐体の内側に設けられて前記作用部及び前記反作用部のうち質量が小さい方に接続された第一振動板と、
前記筐体の内側に設けられて前記第一振動板と前記筐体とを接続する第一サスペンションと、
前記筐体の内側に設けられて前記作用部及び前記反作用部のうち質量が大きい方と前記筐体とを接続する第二サスペンションと、
を有し、
前記第一振動板よりも面積が大きい第二振動板に前記筐体の前記取付部が取り付けられた取付状態でかつ前記駆動部が振動を発生させた場合に前記第二振動板がその正面側の外部空間に放音可能な電気音響変換器に用いられる電気音響変換器用ユニットであって、
前記取付状態で前記駆動部が振動を発生させた場合に前記第一振動板から前記第二振動板の正面が向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を前記第二振動板の正面側の外部空間に導くことが可能なポートが設けられ、前記ポートを設けることで、前記取付状態で前記駆動部が振動を発生させた場合の前記第一振動板と前記第二振動板からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が前記第一振動板及び前記第二振動板の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている、電気音響変換器用ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気音響変換器及び電気音響変換器用ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、エキサイタが開示されている。このエキサイタは、ヨークと磁石とを備えた振動体と、振動体を収容すると共にダンパーを介して振動体を振動可能に支持するフレームと、フレームの内部に設置されると共に一端がフレームに取り付けられて他端が振動体の近傍まで延設されたボイスコイルボビンと、ボイスコイルボビンの前記他端に設けられたボイスコイルと、を備えている。そして、このエキサイタでは、ボイスコイルを流れる音響信号に応じて振動体が振動され、ダンパーを介して振動体の振動がフレームに伝達されることにより、当該フレームが設置される伝達媒体を介して低域音を出力させることが可能となっている。
【0003】
また、このエキサイタにおいては、フレームには開口部が形成されており、ボイスコイルボビンの前記一端側の外周面がフレームの開口部の周縁部に取り付けられている。そして、ボイスコイルボビンの前記一端側の開放部分を覆うように振動部材が設けられている。これにより、ボイスコイルボビンを介して振動部材にボイスコイルの振動が伝わることで振動部材からフレーム外部に向かって高域音を出力することが可能となっている。
【0004】
このように、上記先行技術では、低域音を出力するための振動機能と高域音を出力する機能を一つのドライバで実現することができるので、マルチウェイスピーカシステムと比べて小型化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6325957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記先行技術による場合、低域音と高域音との中間の周波数帯域においては、伝達媒体による音の位相と振動部材による音の位相とが逆になるため、音圧が大きく低下する帯域(ディップ)が生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮して、小型化を実現しつつ低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧の低下を改善することで高音質の音の再生が可能な電気音響変換器及び電気音響変換器用ユニットを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載する本発明の電気音響変換器は、電気入力信号に対応して作用部によって反作用部に対する作用力を発生させかつ前記反作用部が前記作用部に反作用力を作用させるように構成されて振動を発生させる駆動部と、前記作用部及び前記反作用部のうち質量が小さい方に接続された第一振動板と、前記第一振動板よりも面積が大きく、前記第一振動板が少なくとも第一サスペンションを介して接続されると共に、前記作用部及び前記反作用部のうち質量が大きい方が少なくとも第二サスペンションを介して接続され、前記駆動部が振動を発生させた場合に正面側の外部空間に放音可能な第二振動板と、を有し、前記第一振動板から前記第二振動板の正面が向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を前記第二振動板の正面側の外部空間に導くポートを設けることで前記駆動部が振動を発生させた場合の前記第一振動板と前記第二振動板からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が前記第一振動板及び前記第二振動板の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。なお、請求項1記載の「クロスオーバー周波数」は第一振動板からの放射音と第二振動板からの放射音とが同音圧で放射される周波数を指す(以下の本明細書中の「クロスオーバー周波数」においても同じ)。
【0009】
上記構成によれば、駆動部は、電気入力信号に対応して作用部によって反作用部に対する作用力を発生させかつ反作用部が作用部に反作用力を作用させるように構成されて振動を発生させる。作用部及び反作用部のうち質量が小さい方には第一振動板が接続されている。このため、作用部及び反作用部のうち質量が小さい方が振動すると第一振動板が一体的に振動する。第一振動板は第二振動板よりも面積が小さく、第一振動板からは高域音を再生することができる。
【0010】
また、第一振動板が少なくとも第一サスペンションを介して接続される第二振動板には、作用部及び反作用部のうち質量が大きい方が少なくとも第二サスペンションを介して接続されている。そして、この第二振動板は、第一振動板よりも面積が大きく、駆動部が振動を発生させた場合に正面側の外部空間に放音可能になっている。ここで、駆動部が振動を発生させた場合、第二振動板には、作用部及び反作用部のうち質量が小さい方と一体的に振動する第一振動板の振動が少なくとも第一サスペンションを介して入力されると共に、作用部及び反作用部のうち質量が小さい方から質量が大きい方に作用する力が少なくとも第二サスペンションを介して入力される。これにより、駆動部が振動を発生させた場合に第二振動板には低音域の周波数帯の振動が入力されるので、高音域の周波数帯で発生し易い共振音の発生が抑えられ、第二振動板の正面側に低域音を再生できる。
【0011】
このように、本発明の電気音響変換器では、一つの駆動部で第一振動板及び第二振動板の二つの振動板を振動させることができるので、小型化を図ることができる。さらに、本発明の電気音響変換器は、第一振動板から第二振動板の正面が向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を第二振動板の正面側の外部空間に導くポートを設けることで、駆動部が振動を発生させた場合の第一振動板と第二振動板からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板及び第二振動板の一方のみからの放射音のクロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。これによって低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧の低下を改善することで高音質の音の再生が可能になる。
【0012】
請求項2に記載する本発明の電気音響変換器は、請求項1記載の構成において、前記第一振動板の正面の向きが前記第二振動板の正面の向きに合わせられて前記第一振動板の正面から前記第二振動板の正面側の外部空間に放音可能に構成され、前記ポートは、前記第一振動板の背面から当該第一振動板の背面側のキャビティ内に放射された音の一部の周波数帯域の成分を前記第二振動板の正面側の外部空間に導くように構成されている。
【0013】
上記構成によれば、第一振動板の正面の向きが第二振動板の正面の向きに合わせられて第一振動板の正面から第二振動板の正面側の外部空間に放音可能になっている。一方、ポートは、第一振動板の背面から当該第一振動板の背面側のキャビティ内に放射された音の一部の周波数帯域の成分を第二振動板の正面側の外部空間に導く。これにより、第一振動板の正面からの音と第二振動板の正面からの音とを合成した場合の音圧周波数特性のディップの周波数帯域に、第一振動板の背面からの音が加えられ、低域音と高域音との中間の周波数帯域の音圧が従来技術(上記先行技術)と比べて改善される。
【0014】
請求項3に記載する本発明の電気音響変換器は、請求項1記載の構成において、前記第一振動板の正面の向きが前記第二振動板の正面の向きとは反対方向に設定されると共に、前記第一振動板の背面からの音が前記第二振動板の正面側の外部空間へ放出されないように構成され、前記ポートは、前記第一振動板の正面から前記第二振動板の正面が向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を前記第二振動板の正面側の外部空間に導くように構成されている。
【0015】
上記構成によれば、第一振動板の正面の向きが第二振動板の正面の向きとは反対方向に設定されている。また、第一振動板の背面からの音は、第二振動板の正面側の外部空間へ放出されないようになっている。そして、ポートは、第一振動板の正面から第二振動板の正面が向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を第二振動板の正面側の外部空間に導く。これらにより、電気音響変換器からの音は、第二振動板の正面からの音と、第二振動板の正面とは反対側を向く第一振動板の正面からの音の少なくとも一部とが、合成された音となる。ここで、上記構成によれば、低域音と高域音との中間の周波数帯域においては、第二振動板の正面からの音の位相と第一振動板の正面からの音の位相とは逆にならないので、低域音と高域音との中間の周波数帯域の音圧が従来技術(上記先行技術)と比べて改善される。
【0016】
請求項4に記載する本発明の電気音響変換器は、請求項2記載の構成において、前記第一振動板の背面側のキャビティ内において前記第二サスペンションによって仕切られる2つの空間を連通させる連通部が形成されている。
【0017】
上記構成によれば、第一振動板の背面側のキャビティ内において第二サスペンションによって仕切られる2つの空間のうち第一振動板の背面に接する一方の空間の空気だけでなく他方の空間の空気も有効に利用して第一振動板の背面からの音の共振周波数を調整することができる。
【0018】
請求項5に記載する本発明の電気音響変換器は、請求項2又は請求項4に記載の構成において、前記第二振動板には孔部が貫通形成され、前記第二振動板の正面側から見て前記第一振動板及び前記ポートの出口が前記孔部の内側に配置され、更に前記駆動部、前記第一振動板、前記第一サスペンション、前記第二サスペンション及び前記ポートを含む構成部がユニット化されて前記第二振動板に対してその正面側に突出しないように配置されている。
【0019】
上記構成によれば、第一振動板の正面からの音及びポートの出口からの音が第二振動板の孔部から出力される。また、駆動部、第一振動板、第一サスペンション、第二サスペンション及びポートを含む構成部がユニット化されているので、ユニット化されたものを第二振動板の孔部と連続するように取り付けることで電気音響変換器を容易に製造できる。更に、ユニット化されたものが第二振動板に対してその正面側に突出しないので、すっきりとした形態を実現することができる。
【0020】
請求項6に記載する本発明の電気音響変換器用ユニットは、取付部が設けられた筐体と、前記筐体に収容され、電気入力信号に対応して作用部によって反作用部に対する作用力を発生させかつ前記反作用部が前記作用部に反作用力を作用させるように構成されて振動を発生させる駆動部と、前記筐体の内側に設けられて前記作用部及び前記反作用部のうち質量が小さい方に接続された第一振動板と、前記筐体の内側に設けられて前記第一振動板と前記筐体とを接続する第一サスペンションと、前記筐体の内側に設けられて前記作用部及び前記反作用部のうち質量が大きい方と前記筐体とを接続する第二サスペンションと、を有し、前記第一振動板よりも面積が大きい第二振動板に前記筐体の前記取付部が取り付けられた取付状態でかつ前記駆動部が振動を発生させた場合に前記第二振動板がその正面側の外部空間に放音可能な電気音響変換器に用いられる電気音響変換器用ユニットであって、前記取付状態で前記駆動部が振動を発生させた場合に前記第一振動板から前記第二振動板の正面が向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を前記第二振動板の正面側の外部空間に導くことが可能なポートが設けられ、前記ポートを設けることで、前記取付状態で前記駆動部が振動を発生させた場合の前記第一振動板と前記第二振動板からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が前記第一振動板及び前記第二振動板の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0021】
上記構成によれば、筐体に収容された駆動部は、電気入力信号に対応して作用部によって反作用部に対する作用力を発生させかつ反作用部が作用部に反作用力を作用させるように構成されて振動を発生させる。筐体の内側に設けられた第一振動板は、作用部及び反作用部のうち質量が小さい方に接続されている。このため、作用部及び反作用部のうち質量が小さい方が振動すると第一振動板が一体的に振動する。また、筐体の内側において、第一サスペンションは、第一振動板と筐体とを接続し、第二サスペンションは、作用部及び前記反作用部のうち質量が大きい方と筐体とを接続している。そして、本発明の電気音響変換器用ユニットは、第一振動板よりも面積が大きい第二振動板に筐体の取付部が取り付けられた取付状態でかつ駆動部が振動を発生させた場合に第二振動板がその正面側の外部空間に放音可能な電気音響変換器に用いられる。このように、本発明の電気音響変換器用ユニットは、第一振動板及び第二振動板の二つの振動板を振動させることができる。
【0022】
また、本発明の電気音響変換器用ユニットでは、筐体の取付部が第二振動板に取り付けられた取付状態で駆動部が振動を発生させた場合に第一振動板から第二振動板の正面が向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を、ポートによって、第二振動板の正面側の外部空間に導くことが可能になっている。そして、電気音響変換器用ユニットは、ポートを設けることで、前記取付状態で駆動部が振動を発生させた場合の第一振動板と第二振動板からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板及び第二振動板の一方のみからの放射音のクロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。これによって低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧の低下を改善することで高音質の音の再生が可能になる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、小型化を実現しつつ低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧の低下を改善することで高音質の音の再生が可能になるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器を示す模式的な断面図である。
図2図1の電気音響変換器の振動モデルを示す図である。
図3図1の電気音響変換器及び対比例における音圧周波数特性を示すグラフである。
図4図4(A)は、対比例における高音側放射音及び低音側放射音の音圧周波数特性を示すグラフである。図4(B)は対比例における音圧周波数特性を示すグラフである。
図5】本発明の第2の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器を示す模式的な断面図である。
図6】本発明の第3の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器を示す模式的な断面図である。
図7図6の電気音響変換器用ユニットの第二サスペンションとして適用される板バネ(蝶ダンパー)を示す斜視図である。
図8図6の電気音響変換器及び対比例における音圧周波数特性を示すグラフである。
図9図9(A)は、図6の電気音響変換器の第一振動板の正面、第二振動板の正面、及びポートの各々からの音の音圧周波数特性を示すグラフである。図9(B)は、図6の電気音響変換器から出力される音の全合成音、第一振動板からの放射音(第一振動板の正面からの音とポートからの音との合成音)及び第二振動板の正面からの音における各音圧周波数特性を示すグラフである。
図10】第3の実施形態の第二サスペンションとして適用可能なスパイダー(ダンパー)を示す斜視図である。
図11】本発明の第4の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器を示す模式的な断面図である。
図12】本発明の第5の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器を示す模式的な断面図である。
図13】本発明の第6の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器を示す模式的な断面図である。
図14】本発明の第7の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器を示す模式的な断面図である。
図15】本発明の第8の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器を示す模式的な断面図である。
図16】本発明の第9の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器を一部破断した状態で示す斜視図である。
図17】本発明の第10の実施形態に係る電気音響変換器を一部破断した状態で示す斜視図である。
図18】本発明の第11の実施形態に係る電気音響変換器を前後に二分してかつ一部破断した状態で示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器について図1図4を用いて説明する。図1には、第1の実施形態に係る電気音響変換器用ユニット(「ドライバ」ともいう。)12を含む電気音響変換器10の模式的な断面図が示されている。なお、図1に示される矢印FRは電気音響変換器10が放音する側である前方向(聴取位置側)を示している。以下、単に前後の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、電気音響変換器10を基準にして見た場合の前後方向の前後を示すものとする。また、以下において、電気音響変換器用ユニット12について前後の方向を用いて説明する場合は、電気音響変換器用ユニット12が電気音響変換器10の一部を構成するように設置された状態での前後の方向を示すものとする。
【0026】
図1に示されるように、電気音響変換器用ユニット12は、筐体14を備えている。筐体14は、前側に配置される前壁部14Fと、前壁部14Fと対向して後側に配置される後壁部14Rと、前壁部14Fの外周端部と後壁部14Rの外周端部とを繋ぐ筒状の周壁部14Sと、を備える。また、筐体14には、他部材への取り付け用とされた取付部14Aが設けられている。取付部14Aは、一例として、後壁部14Rと周壁部14Sとが交わる部位から前後方向と直交するようにフランジ状に張り出している。
【0027】
筐体14には駆動部16が収容されている。筐体14に対する駆動部16の取り付けについては後述する。駆動部16は、作用部としての磁気回路部20と、反作用部としてのボイスコイル部18と、を備える。本実施形態では、磁気回路部20は、ボイスコイル部18よりも質量が大きい。
【0028】
ボイスコイル部18は、フィルムを円筒状にしたボイスコイルボビン18Aと、ボイスコイルボビン18Aの外周面前部に巻回されたボイスコイル本体18Bと、を備えている。なお、図中では、ボイスコイルボビン18Aの断面は便宜上太線で示し、ボイスコイル本体18Bの断面は簡略化して図示している。ボイスコイルボビン18Aの材料には、例えば、ポリイミド(PI)等の樹脂材料、クラフト紙等の紙材料を適用できる他、例えばアルミニウム合金等の金属材料を適用することもできる。ボイスコイル本体18Bは、線状の導体である電線(一例として銅線)をエナメルの被膜によって被覆したエナメル線で構成されており、一例として二層となるようにボイスコイルボビン18Aに巻回されている。
【0029】
磁気回路部20は、ヨーク22、マグネット24及びプレート26によって構成されている。本実施形態の磁気回路部20は、駆動部16を小型化できる内磁型の磁気回路部とされる。ヨーク22は、強磁性体であって有底筒状に形成されており、底部22Aと筒部22Bとを備えている。ヨーク22は、その中心軸方向が前後方向(矢印FR方向及びその反対方向)に沿うようにかつ底部22Aが前方側となるように配置されている。ヨーク22の底部22Aには、その後面側のうち外周部を除く部分に台座部22A1が形成されている。マグネット24は、円盤状に形成され、ヨーク22の台座部22A1の後面側に固定されている。このマグネット24は、ヨーク22の台座部22A1よりも小径に形成されている。プレート26は、強磁性体であって円盤状に形成され、マグネット24の後面側に固定されている。このプレート26は、ヨーク22の台座部22A1及びマグネット24よりも大径に形成されている。
【0030】
ヨーク22の筒部22Bの内周面後部とプレート26の外周面との間には磁気空隙20Aが形成されている。この磁気空隙20Aにはボイスコイル本体18Bがボイスコイルボビン18Aと共に挿入されている。そして、磁気回路部20は、ボイスコイル本体18Bへの電気入力信号に基づきローレンツ力を利用してボイスコイル部18を前後方向に振動させる。すなわち、駆動部16は、電気入力信号に対応して磁気回路部20によってボイスコイル部18に対する作用力を発生させかつボイスコイル部18が磁気回路部20に反作用力を作用させるように構成されて振動を発生させる。本実施形態の電気音響変換器10に適用されるボイスコイル部18の前後方向の寸法は、磁気回路部20が前後方向に振動することを考慮に入れて長めに設定されている。
【0031】
ボイスコイル部18のボイスコイルボビン18Aの後端には、第一振動板28が接続されている。第一振動板28は、筐体14の内側に設けられており、第一振動板28の背面28B側にはキャビティS2が形成されている。第一振動板28は、ボイスコイルボビン18Aが隣接される側とは反対側(言い換えれば筐体14の後壁部14Rと対向する側)が正面28Aとされる。第一振動板28の正面28Aの向きは、電気音響変換器10の前方側(矢印FR方向参照)とは反対方向に設定される。なお、図中では、便宜上、第一振動板28は簡略化して模式的に示している。また、図中では、第一振動板28からの音が伝播する方向を簡略化して白抜き矢印aで示す。
【0032】
第一振動板28には、一例として、紙コーン(パルプ繊維等を含む材料から成るコーン)を適用できる。なお、第一振動板28の材料には、例えば、パルプ繊維等の抄紙材料、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネイト(PC)等の樹脂材料を適用できる他、例えばアルミニウム合金等の金属材料を適用することもできる。また、第一振動板28には、フィルム状のもの(厚みが薄いもの)を適用できる。
【0033】
第一振動板28と筐体14とは第一サスペンション30によって接続されている。第一サスペンション30は、筐体14の内側に設けられて正面視で環状に形成されており、第一振動板28の外周部に接合されると共に筐体14の内面側の部位に接合されている。この第一サスペンション30は、低域振動を通過させて高域振動を遮断する機能を有するメカニカルフィルタとして把握できる要素である。
【0034】
第一サスペンション30に該当する部材としては、例えば、周知のエッジが挙げられる。エッジの材質及び形状は、第一振動板28の前後の空間を音響的に遮断できる材質及び形状とされている。なお、エッジについては、後述する第9の実施形態の図16にエッジで構成された第一サスペンション120の一部を図示しているので、そちらを参照されたい。電気音響変換器用ユニット12は、第一振動板28の背面28Bからの音が筐体14の外側の空間(詳細後述する第二振動板38の正面38A側の外部空間S1)へ放出されないように構成されている。
【0035】
図1に示されるように、筐体14の内側には、第一サスペンション30よりも前方側に第二サスペンション32が設けられている。第二サスペンション32は、正面視で環状に形成されており、磁気回路部20の一部であるヨーク22の筒部22Bと筐体14の内面側の部位とを接続している。この第二サスペンション32は、低域振動を通過させて高域振動を遮断する機能を有するメカニカルフィルタとして把握できる要素である。第二サスペンション32に該当する部材としては、例えば、公知のスパイダー、金属製の板バネ(「蝶ダンパー」ともいう)が挙げられる。なお、板バネについては、後述する第3の実施形態の図7に板バネ(第二サスペンション33)を図示しているので、そちらを参照されたい。
【0036】
図1に示されるように、電気音響変換器10は、第二振動板38を有する。第二振動板38の正面38Aの向きは、電気音響変換器10の前方側(矢印FR方向参照)と同じである。前述した電気音響変換器用ユニット12の筐体14は、第二振動板38の正面38A側に配置され、筐体14の取付部14Aは、第二振動板38に取り付けられる。このように筐体14の取付部14Aが第二振動板38に取り付けられることで、第一振動板28が第一サスペンション30及び筐体14を介して第二振動板38に接続されると共に、磁気回路部20が第二サスペンション32及び筐体14を介して第二振動板38に接続される。
【0037】
第二振動板38は、第一振動板28よりも面積が大きく、第一振動板28よりも広範囲で前後方向に振動可能になっている。第二振動板38に該当するものとしては、例えば、テーブル、並びに、車両のダッシュボード及びAピラー等が挙げられる。
【0038】
以上についてまとめると、電気音響変換器用ユニット12は、第二振動板38に筐体14の取付部14Aが取り付けられた取付状態でかつ駆動部16が振動を発生させた場合に第二振動板38がその正面38A側の外部空間S1に放音可能な電気音響変換器10に用いられる。なお、図中では、第二振動板38の正面38Aからの音の伝播方向を簡略化して白抜き矢印bで示す。
【0039】
一方、電気音響変換器用ユニット12には、筐体14の取付部14Aが第二振動板38に取り付けられた取付状態で駆動部16が振動を発生させた場合に第一振動板28の正面28Aから第二振動板38の正面38Aが向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に導くことが可能なポート(「音道」ともいう)36が設けられている。そして、電気音響変換器用ユニット12は、ポート36を設けることで、筐体14の取付部14Aが第二振動板38に取り付けられた取付状態で駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板38からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板38の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0040】
言い換えれば、電気音響変換器10は、第一振動板28の正面28Aから第二振動板38の正面38Aが向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に導くポート36を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板38からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板38の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0041】
ポート36は、本実施形態では一例として、周壁部14Sにおける後端部側の部位に形成されて周壁部14Sの周方向を長手方向とする貫通孔で構成されている。ポート36は、周壁部14Sの周方向に並ぶように多数形成されており、第一振動板28の正面28Aからの放射音の極力全部を第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に導くことを意図した設定となっている。
【0042】
ここで、電気音響変換器10の音圧周波数特性のシミュレーションについて、図2を参照しながら補足説明する。図2には、図1の電気音響変換器10の振動モデルが示されている。言い換えると、図1に示される電気音響変換器10は、図2に示される機械要素からなる振動モデルに置き換えられる。
【0043】
図2において、符号380は、第二振動板38の固定部に相当する。K3は、第二振動板38の固定部の硬さに相当し、R2は、第二振動板38の固定部の制動抵抗に相当し、M2は、第二振動板38側の質量に相当する。K1は、第一サスペンション30の硬さに相当し、K2は、第二サスペンション32の硬さに相当する。M3は、磁気回路部20の質量(駆動部16における磁気回路部20及びボイスコイル部18のうち質量が大きい方の質量)に相当し、Fは、駆動部16による駆動力に相当し、R1は、駆動部16に発生する制動抵抗に相当する。M1は、第一振動板28側の質量に相当する。
【0044】
図2に示される振動モデルに基づいて作成された電気回路(等価回路)から第一振動板28及び第二振動板38の振動速度特性を求めることができる。そして、第一振動板28及び第二振動板38の振動速度に基づいて所定の聴取位置での電気音響変換器10の音圧周波数特性を求めることができる。
【0045】
次に、第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0046】
図1に示される電気音響変換器10では、駆動部16は、電気入力信号に対応して磁気回路部20によってボイスコイル部18に対する作用力を発生させかつボイスコイル部18が磁気回路部20に反作用力を作用させるように構成されて振動を発生させる。磁気回路部20及びボイスコイル部18のうち質量が小さい方であるボイスコイル部18には第一振動板28が接続されている。このため、電気入力信号に対応してボイスコイル部18が振動すると第一振動板28が一体的に振動する。第一振動板28は第二振動板38よりも面積が小さく、第一振動板28からは高域音が再生される。
【0047】
また、第一振動板28が少なくとも第一サスペンション30を介して接続される第二振動板38には、磁気回路部20及びボイスコイル部18のうち質量が大きい方である磁気回路部20が少なくとも第二サスペンション32を介して接続されている。そして、この第二振動板38は、第一振動板28よりも面積が大きく、駆動部16が振動を発生させた場合に正面38A側の外部空間S1に放音可能になっている。ここで、駆動部16が振動を発生させた場合、第二振動板38には、ボイスコイル部18と一体的に振動する第一振動板28の振動が第一サスペンション30等を介して入力されると共に、ボイスコイル部18から磁気回路部20に作用する反作用力が第二サスペンション32等を介して入力される。これにより、駆動部16が振動を発生させた場合に第二振動板38には低音域の周波数帯の振動が入力されるので、高音域の周波数帯で発生し易い共振音の発生が抑えられ、第二振動板38の正面38A側に低域音を再生できる。
【0048】
このように、本実施形態の電気音響変換器では、一つの駆動部16で第一振動板28及び第二振動板38の二つの振動板を振動させることができるので、小型化(省スペース化)及び低コスト化を図ることができる。また、電気音響変換器用ユニット12は、他部材への取り付け用である取付部14Aを備えているので、種々の部材に取り付けることができ、種々の部材を第二振動板とすることができる。
【0049】
さらに、本実施形態の電気音響変換器10は、第一振動板28から第二振動板38の正面38Aが向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に導くポート36を設けることで、駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板38からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板38の一方のみからの放射音のクロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。これによって低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧の低下を改善することで高音質の音の再生が可能になる。
【0050】
より詳細に説明すると、本実施形態では、第一振動板28の正面28Aの向きが第二振動板38の正面38Aの向きとは反対方向に設定されている。また、第一振動板28の背面28Bからの音は、第二振動板38の正面38A側の外部空間S1へ放出されないようになっている。そして、前述したポート36は、第一振動板28の正面28Aから第二振動板38の正面38Aが向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部の周波数帯域の成分を第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に導く。
【0051】
これらにより、電気音響変換器10からの音は、第二振動板38の正面38Aからの音と、第二振動板38の正面38Aとは反対側を向く第一振動板28の正面28Aからの音の少なくとも一部とが、合成された音となる。ここで、低域音と高域音との中間の周波数帯域においては、第二振動板38の正面38Aからの音の位相と第一振動板28の正面28Aからの音の位相とは逆にならないので、低域音と高域音との中間の周波数帯域の音圧が従来技術(上記先行技術)と比べて改善される。
【0052】
この点について、図3及び図4を参照しながら補足説明する。図3及び図4において、各横軸は周波数を対数表示したものであり、各縦軸は音圧を示す。図3は、本実施形態の電気音響変換器10及び対比例における音圧周波数特性を示すグラフである。図3のグラフ中の実線は本実施形態の電気音響変換器10の音圧周波数特性を示し、破線は対比例の音圧周波数特性を示す。図4(A)は、対比例における高音側放射音及び低音側放射音の音圧周波数特性を示すグラフであり、図4(B)は対比例における音圧周波数特性を示すグラフである。
【0053】
対比例は、振動板付きエキサイタを平板に設置したものであり、図1に示される電気音響変換器10における電気音響変換器用ユニット12の前後を逆に配置して筐体14のうち第一振動板28との対向側にのみ放音用の開口部を貫通形成したような構成とされている。図4(A)のグラフ中の点線(・・・)は、エキサイタの振動板の振動による音圧(言い換えれば高音側放射音の音圧)を示し、破線(---)は、エキサイタによって加振された平板の振動による音圧(言い換えれば、低音側放射音の音圧)を示す。
【0054】
対比例では、エキサイタの振動板の振動によって高域音が再生され(図4(A)の点線参照)、エキサイタによって加振された平板の振動によって低域音が再生される(図4(A)の破線参照)。ここで、エキサイタの振動板の正面からの音においては、周波数が振動板の低域限界周波数よりも小さくなるに従って、音圧が小さくなると共に印加した電圧の位相を基準とした場合の音圧の位相が進んでいく。これに対して、エキサイタによって加振された平板の正面からの音においては、周波数が振動板の高域限界周波数よりも大きくなるに従って、音圧が小さくなると共に印加した電圧の位相を基準とした場合の音圧の位相が遅れてくる。その結果、低域音と高域音との中間の周波数帯域(言い換えればクロスオーバー周波数付近)においては、エキサイタの振動板の正面からの音の位相と、エキサイタによって加振された平板の正面からの音の位相とが逆になる。このため、図4(B)に示されるように、音圧が大きく低下する帯域(ディップ)が生じてしまう。なお、図4(B)では、音圧が大きく低下している部分を破線で囲んでいる。
【0055】
これに対して、本実施形態の電気音響変換器10では、低域音と高域音との中間の周波数帯域において、図1に示される第一振動板28からの音の位相と第二振動板38からの音の位相とが逆にならないように、第二振動板38の正面38Aからの音と、第二振動板38の正面38Aとは反対側を向く第一振動板28の正面28Aからの音の少なくとも一部とを、合成して放音している。このため、本実施形態の電気音響変換器10では、図3において実線の線図で示されるように、低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧が対比例と比べて改善される。
【0056】
以上説明したように、本実施形態によれば、小型化を実現しつつ低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧の低下を改善することで高音質の音の再生が可能になる。
【0057】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器について、図5を用いて説明する。図5には、第2の実施形態に係る電気音響変換器用ユニット42を含む電気音響変換器40の模式的な断面図が示されている。第2の実施形態において、第1の実施形態と実質的に同様の構成部については、適宜同一符号を付して説明を省略する。なお、第一振動板28の背面28B側のキャビティS2については、便宜上、第1の実施形態と同一符号を付す(第3~第9の実施形態においても同様)。
【0058】
電気音響変換器用ユニット42は、第1の実施形態の電気音響変換器用ユニット12の筐体14(いずれも図1参照)に代えて、筐体44を備える。筐体44は、前側に配置される前壁部44Fと、前壁部44Fと対向して後側に配置される後壁部44Rと、前壁部44Fの外周端部と後壁部44Rの外周端部とを繋ぐ筒状の周壁部44Sと、を備える。周壁部44Sには、第1の実施形態の周壁部14S(図1参照)と同様に、第一サスペンション30の外周部及び第二サスペンション32の外周部が接合されている。
【0059】
筐体44には、他部材への取り付け用とされた取付部44Aが設けられている。取付部44Aは、一例として、前壁部44Fと周壁部14Sとが交わる部位から前後方向と直交するようにフランジ状に張り出している。筐体44は、第二振動板41の背面41B側に配置され、筐体44の取付部44Aは、第二振動板41に取り付けられる。第二振動板41は、第一振動板28よりも面積が大きい。筐体44の取付部44Aが第二振動板41に取り付けられることで、第一振動板28が第一サスペンション30及び筐体44を介して第二振動板41に接続されると共に、磁気回路部20が第二サスペンション32及び筐体44を介して第二振動板41に接続される。そして、第二振動板41は、駆動部16が振動を発生させた場合に正面41A側の外部空間S1に放音可能になっている(矢印b参照)。
【0060】
電気音響変換器用ユニット42における筐体44の取付部44Aが上記の状態で第二振動板41に取り付けられることで、電気音響変換器40が構成されている。電気音響変換器40は、第一振動板28の正面28Aの向きが第二振動板41の正面41Aの向きとは反対方向に設定されると共に、第一振動板28の背面28Bからの音が第二振動板41の正面41A側の外部空間S1へ放出されないように構成されている。
【0061】
一方、電気音響変換器用ユニット42における筐体44の後壁部44Rには、第一振動板28の正面28Aの中央部に対応して孔部46Hが貫通形成されている。また、後壁部44Rの後面側には孔部46Hの周囲部において後方側に突出した短円筒状のホーン取付部44Zが形成されている。ホーン取付部44Zの外周部には、電気音響変換器用ユニット42の一部を構成するホーン46Dの一端部が取り付けられている。ホーン46Dは、略J字状に形成されている。ホーン46Dの前部は、第二振動板41側の端部側に向けて徐々に拡径される形状に形成されている。ホーン46Dの前端部は、第二振動板41に形成された孔部41Hに一例として圧入により接続されている。なお、ホーン46Dの前端部側の部位に第二振動板41への取付部が別途設けられてもよい。第二振動板41において、孔部41Hは、電気音響変換器用ユニット42が設置される部位の近傍に貫通形成されている。
【0062】
筐体44の孔部46H及びホーン46Dは、本実施形態のポート46を構成している。ポート46は、第一振動板28の正面28Aから第二振動板41の正面41Aが向く方向とは反対方向に放射された音の少なくとも一部(一例として全部)の周波数帯域の成分を第二振動板41の正面41A側の外部空間S1に導くように構成されている。電気音響変換器40は、ポート46を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板41からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板41の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0063】
以上説明した第2の実施形態の構成によっても、上述した第1の実施形態と概ね同様の作用及び効果を得ることができる。また、本実施形態では、第二振動板41よりも前方側に凸となる部分を設けずに済むので、すっきりとした形態を実現することができる。
【0064】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器について、図6図9を用いて説明する。図6には、第3の実施形態に係る電気音響変換器用ユニット52を含む電気音響変換器50の模式的な断面図が示されている。なお、第1の実施形態と実質的に同様の構成部については、適宜同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
電気音響変換器用ユニット52は、第1の実施形態の電気音響変換器用ユニット12の筐体14(いずれも図1参照)に代えて、筐体54を備える。筐体54は、後側に配置された後壁部54Rと、後壁部54Rの外周部から立設された筒状の周壁部54Sと、を備える。筐体54の後壁部54Rは、第1の実施形態の筐体14の後壁部14R(いずれも図1参照)と実質的に同様の構成部である。
【0066】
また、筐体54には、他部材への取り付け用とされた取付部54Aが設けられている。取付部54Aは、一例として、後壁部54Rと周壁部54Sとが交わる部位から前後方向と直交するようにフランジ状に張り出している。筐体54は、第二振動板38の正面38A側に配置され、筐体54の取付部54Aは、第二振動板38に取り付けられる。これにより、電気音響変換器用ユニット52が第二振動板38に取り付けられることで、電気音響変換器50が構成されている。
【0067】
筐体54の内側の構成部は、後壁部54Rを基準にして見た場合、第1の実施形態の筐体14(図1参照)の内側の構成部とは前後逆に設けられているが、その他の点は、第二サスペンション32(図1参照)に代えて第二サスペンション33が設けられている点を除いて、第1の実施形態の筐体14の内側の構成部と実質的に同様となっている。よって、筐体54の内側の構成部は、第二サスペンション33を除き、便宜上、第1の実施形態の筐体14(図1参照)の内側の構成部と同一符号を付して適宜説明を省略する。
【0068】
電気音響変換器50は、第一振動板28の正面28Aの向きが第二振動板38の正面38Aの向きに合わせられて第一振動板28の正面28Aから第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に放音可能に構成されている。第一サスペンション30は、第一振動板28の外周部と筐体54とを接続している。これにより、電気音響変換器50において、第一振動板28は、第一サスペンション30及び筐体54を介して第二振動板38に接続されている。また、駆動部16は、第一振動板28に対してその背面28B側に配置されている。
【0069】
第二サスペンション33は、磁気回路部20の外周部と筐体54とを接続している。これにより、電気音響変換器50において、磁気回路部20は、第二サスペンション33及び筐体54を介して第二振動板38に接続されている。第二振動板38は、駆動部16が振動を発生させた場合に正面38A側の外部空間S1に放音可能になっている。
【0070】
図7には、第二サスペンション33として適用される板バネ(蝶ダンパー)が斜視図で示されている。図7に示される第二サスペンション33の材料には、例えば、ステンレス鋼等の金属材料、ベークライト等の合成樹脂材料を適用することができる。図7に示されるように、第二サスペンション33は、正面視で環状に形成されると共に、複数の連通部としての連通孔33Hが貫通形成されている。複数の連通孔33Hは、一例として第二サスペンション33の周方向に沿って延在されている。連通孔33Hは、図6に示される第一振動板28の背面28B側のキャビティS2内において第二サスペンション33によって仕切られる2つの空間S21、S22を連通させる。
【0071】
筐体54の周壁部54Sにおける後端部側の部位にはポート56が連続して設けられている。ポート56は、一例として、筐体54の周壁部54Sにおける後端部側の部位に形成された貫通孔56Hと、貫通孔56Hに連続して形成されて前後方向と直交する方向に沿って延出された筒状のダクト56Dと、で形成されている。
【0072】
ポート56は、第一振動板28の背面28Bから当該第一振動板28の背面28B側のキャビティS2内に放射された音(言い換えれば第一振動板28の背面28Bから第二振動板38の正面38Aが向く方向とは反対方向に放射された音)の一部の周波数帯域の成分を第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に導くように構成されている。
【0073】
図9(B)には、電気音響変換器50から出力される音の全合成音、第一振動板28からの放射音(第一振動板28の正面28Aからの音とポート56からの音との合成音)及び第二振動板38の正面38Aからの音における各音圧周波数特性を示すグラフが示されている。図9(B)において、横軸は周波数を対数表示したものであり、各縦軸は音圧を示す。図9(B)のグラフ中の実線は、電気音響変換器50から出力される音の全合成音の音圧を示し、一点鎖線は、第一振動板28からの放射音(第一振動板28の正面28Aからの音とポート56からの音との合成音)の音圧を示し、破線は、第二振動板38の正面38Aからの音の音圧を示す。図9(B)に示すグラフから読み取れるように、電気音響変換器50は、ポート56を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板38からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板38の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧(図9(B)では一点鎖線と破線との交点における音圧)以上になるように(より具体的には前記一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧より大きくなるように)構成されている。
【0074】
補足説明すると、図6に示されるポート56は、第一振動板28の背面28B側のキャビティS2内の空気ばねとポート56の内部の空気の質量とによる共振を利用して、低域音と高域音との中間の周波数帯域の音を出力できるように設定されている。なお、所定の周波数帯域の音を出力するための原理及び設定は、公知のバスレフポートの場合と同様であるため、詳細説明は省略する。
【0075】
次に、第3の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0076】
図6に示される電気音響変換器50では、電気入力信号に対応して駆動部16が振動を発生させると、第一振動板28がボイスコイル部18と一体的に振動する。これによって、第一振動板28の正面28Aから前方側に高域音が再生される。このとき、電気音響変換器用ユニット52が振動すると、これに応じて第二振動板38が振動する。これによって、第二振動板38の正面38Aから前方側に低域音が再生される。
【0077】
また、筐体54に連続して設けられたポート56は、第一振動板28の背面28Bから当該第一振動板28の背面28B側のキャビティS2内に放射された音の一部の周波数帯域の成分を第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に導く。これにより、第一振動板28の正面28Aからの音と第二振動板38の正面38Aからの音とを合成した場合の音圧周波数特性のディップの周波数帯域に、第一振動板28の背面28Bからの音が加えられ、低域音と高域音との中間の周波数帯域の音圧が従来技術(上記先行技術)と比べて改善される。
【0078】
この点について、図8及び図9(A)を参照しながら補足説明する。図8及び図9(A)において、各横軸は周波数を対数表示したものであり、各縦軸は音圧を示す。図8は、本実施形態の電気音響変換器50及び対比例における音圧周波数特性を示すグラフである。図8において、実線は本実施形態の電気音響変換器50の音圧周波数特性を示し、破線は対比例の音圧周波数特性を示す。対比例は図3の説明において既述した対比例と同様である。図9(A)は、電気音響変換器50の第一振動板28の正面28A、第二振動板38の正面38A、及びポート56の各々からの音の音圧周波数特性を示すグラフである。図9(A)のグラフ中の点線は、第一振動板28の正面28Aからの音の音圧を示し、細かい破線は、第二振動板38の正面38Aからの音の音圧を示し、粗い破線は、ポート56からの音の音圧を示す。
【0079】
図9(A)に示されるように、低域音と高域音との中間の周波数帯域にはポート56からの音が加えられている。そして、このポート56からの音の位相は、第二振動板38の正面38Aからの音の位相とは逆にならない。これにより、電気音響変換器50の第一振動板28の正面28A、第二振動板38の正面38A、及びポート56の各々からの音が合成されると、図8に示されるように、低域音と高域音との中間の周波数帯域の音圧が対比例と比べて改善される。
【0080】
また、図6に示される第一振動板28の背面28B側のキャビティS2内には第二サスペンション33によって仕切られる2つの空間S21、S22を連通させる連通孔33H(図7参照)が形成されている。このため、第一振動板28の背面28B側のキャビティS2内において第二サスペンション33によって仕切られる2つの空間S21、S22のうち第一振動板28の背面28Bに接する一方の空間S21の空気だけでなく他方の空間S22の空気も有効に利用して第一振動板28の背面28Bからの音の共振周波数を調整することができる。
【0081】
以上説明したように、第3の実施形態によっても、小型化を実現しつつ低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧の低下を改善することで高音質の音の再生が可能になる。
【0082】
なお、第3の実施形態の第二サスペンション33(図7参照)に代えて、第二サスペンションとして図10に示されるスパイダー(「ダンパー」ともいう)34が適用されてもよい。図10に示されるように、スパイダー34は、正面視で環状に形成されると共に波紋状(同心円状の波形状)に形成されている。スパイダー34には、例えば綿、化学繊維等の織布に熱硬化性樹脂を含浸した材料を熱プレス成形したものが用いられる。スパイダー34は、織布の糸と糸の間に隙間を有しており、通気性を有する。なお、図10では、スパイダー34における隙間の図示を省略している。
【0083】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器について、図11を用いて説明する。図11には、第4の実施形態に係る電気音響変換器用ユニット62を含む電気音響変換器60の模式的な断面図が示されている。なお、第3の実施形態と実質的に同様の構成部については、適宜同一符号を付して説明を省略する。
【0084】
電気音響変換器用ユニット62は、第3の実施形態の電気音響変換器用ユニット52の筐体54(いずれも図6参照)に代えて、筐体64を備える。筐体64は、後側に配置された後壁部64Rと、後壁部64Rの外周部から立設された筒状の筒壁部64Bと、を備える。また、筐体64には、他部材への取り付け用とされた取付部64Aが設けられている。取付部64Aは、一例として、筐体64の外周面における前部側の部位から前後方向と直交するようにフランジ状に張り出している。
【0085】
一方、電気音響変換器用ユニット62が取り付けられる第二振動板61は、第一振動板28よりも面積が大きい。この第二振動板61には孔部61Hが貫通形成されている。筐体64の取付部64Aは、第二振動板61の背面61B側かつ孔部61Hの周囲部に配置され、第二振動板61に取り付けられる。電気音響変換器用ユニット62が第二振動板61に取り付けられることで、電気音響変換器60が構成されている。そして、第二振動板61は、駆動部16が振動を発生させた場合に正面61A側の外部空間S1に放音可能になっている。
【0086】
筐体64の内側の構成部は、第3の実施形態の筐体54(図6参照)の内側の構成部と実質的に同様となっている。電気音響変換器60は、第3の実施形態と同様に、第一振動板28の正面28Aの向きが第二振動板61の正面61Aの向きに合わせられて第一振動板28の正面28Aから第二振動板61の正面61A側の外部空間S1に放音可能に構成されている。第一サスペンション30は、第一振動板28の外周部と筐体64の筒壁部64Bとを接続している。これにより、電気音響変換器60において、第一振動板28は、第一サスペンション30及び筐体64を介して第二振動板61に接続されている。また、駆動部16は、第3の実施形態と同様に、第一振動板28に対してその背面28B側に配置されている。
【0087】
第二サスペンション33は、磁気回路部20の外周部と筐体64の筒壁部64Bとを接続している。これにより、電気音響変換器60において、磁気回路部20は、第二サスペンション33及び筐体64を介して第二振動板61に接続されている。
【0088】
筐体64の筒壁部64Bの一部にはポート66が連続して設けられている。ポート66は、一例として、筐体64の筒壁部64Bにおける後端部側の部位に形成された貫通孔66Hと、貫通孔66Hに連続して形成されたダクト部66Dと、で形成されている。ダクト部66Dは、その内部空間が前後方向に沿って延在されるように形成されている。ダクト部66Dの後端部は閉塞部66D1とされ、ダクト部66Dの前端部はポート66の出口66Eとされる。また、一例として、ダクト部66Dの一部は筒壁部64Bの一部で構成されている。
【0089】
ポート66は、第一振動板28の背面28Bから当該第一振動板28の背面28B側のキャビティS2内に放射された音(言い換えれば第一振動板28の背面28Bから第二振動板61の正面61Aが向く方向とは反対方向に放射された音)の一部の周波数帯域の成分(より具体的には低域音と高域音との中間の周波数帯域の音)を第二振動板61の正面61A側の外部空間S1に導くように構成されている。そして、電気音響変換器60は、ポート66を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板61からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板61の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0090】
また、第二振動板61の正面61A側から見て第一振動板28及びポート66の出口66Eは孔部61Hの内側に配置されている。更に、駆動部16、第一振動板28、第一サスペンション30、第二サスペンション33及びポート66を含む構成部がユニット化された電気音響変換器用ユニット62は、第二振動板61に対してその正面61A側に突出しないように配置されている。
【0091】
次に、第4の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0092】
図11に示される電気音響変換器60では、第二振動板61の正面61Aから放音されると共に、第一振動板28の正面28Aからの音及びポート66の出口66Eからの音が第二振動板61の孔部61Hから出力される。これによって、第3の実施形態と概ね同様の作用及び効果を得ることができる。
【0093】
また、第4の実施形態では、電気音響変換器用ユニット62を第二振動板61の孔部61Hと連続するように取り付けることで電気音響変換器60を容易に製造できるうえ、電気音響変換器用ユニット62が第二振動板61に対してその正面61A側に突出しないので、すっきりとした形態を実現することができる。
【0094】
[第5の実施形態]
次に、本発明の第5の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器について、図12を用いて説明する。図12には、第5の実施形態に係る電気音響変換器用ユニット72を含む電気音響変換器70の模式的な断面図が示されている。図12に示されるように、電気音響変換器70は、第3の実施形態におけるポート56(図6参照)に代えて、ポート76を備える点で、第3の実施形態に係る電気音響変換器50とは異なる。他の構成は、第3の実施形態と実質的に同様の構成となっている。よって、第3の実施形態と実質的に同様の構成部については、適宜同一符号を付して説明を省略する。
【0095】
電気音響変換器用ユニット72は、第3の実施形態の電気音響変換器用ユニット52の筐体54(いずれも図6参照)に代えて、筐体74を備える。筐体74は、後側に配置された後壁部74Rと、後壁部74Rの外周部から立設された筒状の周壁部74Sと、を備える。筐体74には、第二振動板38に取り付けられる取付部74Aが設けられている。取付部74Aは、第3の実施形態の取付部54A(図6参照)と同様の構成部である。筐体74は、以下に説明する点を除いて第3の実施形態における筐体54(図6参照)と実質的に同様の構成となっている。また、図12において、両向き矢印Bは、第二サスペンション33の通気性を模式的に示したものである。
【0096】
筐体74の周壁部74Sにおいて、第一サスペンション30が取り付けられる部位よりも後方側の部位でかつ第二サスペンション33が取り付けられる部位よりも前方側の部位には、ポート76が連続して設けられている。ポート76は、一例として、筐体74の周壁部74Sに形成された貫通孔76Hと、貫通孔76Hに連続して形成されて前後方向と直交する方向に沿って延出された筒状のダクト76Dと、で形成されている。
【0097】
ポート76は、第一振動板28の背面28Bから当該第一振動板28の背面28B側のキャビティS2内に放射された音(言い換えれば、第一振動板28の背面28Bから第二振動板38の正面38Aが向く方向とは反対方向に放射された音)の一部の周波数帯域の成分(より具体的には低域音と高域音との中間の周波数帯域の音)を第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に導くように構成されている。そして、電気音響変換器70は、ポート76を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板38からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板38の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0098】
以上説明した第5の実施形態の構成によっても、上述した第3の実施形態と概ね同様の作用及び効果を得ることができる。
【0099】
[第6の実施形態]
次に、本発明の第6の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器について、図13を用いて説明する。図13には、第6の実施形態に係る電気音響変換器用ユニット82を含む電気音響変換器80の模式的な断面図が示されている。図13に示されるように、電気音響変換器80は、第4の実施形態におけるポート66(図11参照)に代えて、ポート86を備える点で、第4の実施形態に係る電気音響変換器60とは異なる。他の構成は、第4の実施形態と実質的に同様の構成となっている。第4の実施形態等と実質的に同様の構成部については、適宜同一符号を付して説明を省略する。
【0100】
なお、図13に示される本実施形態の第二振動板81は、第4の実施形態の第二振動板61(図11参照)と実質的に同様の構成部であるが、第二振動板81に貫通形成されている孔部81Hが第4の実施形態の第二振動板61に貫通形成されている孔部61H(いずれも図11参照)と若干形状が異なるため、別符号を付している。
【0101】
本実施形態の電気音響変換器用ユニット82は、第4の実施形態の電気音響変換器用ユニット62の筐体64(いずれも図11参照)に代えて、筐体84を備える。筐体84は、後側に配置された後壁部84Rと、後壁部84Rの外周部から立設された筒状の周壁部84Sと、を備える。周壁部84Sは、第4の実施形態の筒壁部64B(図11参照)とほぼ同様の構成部である。また、筐体84には、第二振動板81の後面81B側かつ孔部81Hの周囲部に取り付けられる取付部84Aが設けられている。筐体84は、以下に説明する点を除いて第4の実施形態における筐体64(図11参照)と実質的に同様の構成となっている。
【0102】
筐体84の周壁部84Sにおいて、第一サスペンション30が取り付けられる部位よりも後方側の部位でかつ第二サスペンション33が取り付けられる部位よりも前方側の部位には、ポート86が連続して設けられている。ポート86は、一例として、筐体84の周壁部84Sに形成された貫通孔86Hと、貫通孔86Hに連続して形成された筒状のダクト86Dと、で形成されている。ダクト86Dは、貫通孔86Hから前後方向と直交する方向に沿って延出され、延出方向の先端部が閉塞されると共に延出方向の先端部側の前部がポート86の出口86Eになっている。
【0103】
ポート86は、第一振動板28の背面28Bから当該第一振動板28の背面28B側のキャビティS2内に放射された音(言い換えれば第一振動板28の背面28Bから第二振動板81の正面81Aが向く方向とは反対方向に放射された音)の一部の周波数帯域の成分(より具体的には低域音と高域音との中間の周波数帯域の音)を第二振動板81の正面81A側の外部空間S1に導くように構成されている。そして、電気音響変換器80は、ポート86を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板81からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板81の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0104】
また、第二振動板81の正面81A側から見て第一振動板28及びポート86の出口86Eは第二振動板81の孔部81Hの内側に配置されている。更に、駆動部16、第一振動板28、第一サスペンション30、第二サスペンション33及びポート86を含む構成部がユニット化された電気音響変換器用ユニット82は、第二振動板81に対してその正面81A側に突出しないように配置されている。
【0105】
以上説明した第6の実施形態の構成によっても、上述した第4の実施形態と概ね同様の作用及び効果を得ることができる。
【0106】
[第7の実施形態]
次に、本発明の第7の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器について、図14を用いて説明する。図14には、第7の実施形態に係る電気音響変換器用ユニット92を含む電気音響変換器90の模式的な断面図が示されている。図14に示されるように、電気音響変換器90は、第5の実施形態の第二サスペンション33(図12参照)に代えて第二サスペンション98を備える点、及び第5の実施形態のポート76(図12参照)に代えてポート96を備える点で、第5の実施形態に係る電気音響変換器70とは異なる。他の構成は、第5の実施形態と実質的に同様の構成となっている。第5の実施形態等と実質的に同様の構成部については、適宜同一符号を付して説明を省略する。
【0107】
電気音響変換器用ユニット92の第二サスペンション98は、通気性を有さない点を除いて、第5の実施形態の第二サスペンション33(図12参照)と実質的に同様となっている。この第二サスペンション98には、前後方向の通気性を遮断するために一例として目止め用のコーテイングが施されている。また、電気音響変換器用ユニット92の筐体94は、第5の実施形態の筐体74のポート76(いずれも図12参照)に代えてポート96が設けられる点を除いて、第5の実施形態の筐体74と同様の構成とされる。よって、筐体94において第5の実施形態の筐体74(図12参照)と同様の構成部については、筐体74の対応する各構成部(具体的には、後壁部74R、周壁部74S、取付部74A及び貫通孔76H)の符号の先頭に「1」を付した符号を図中に示し、それらの説明を省略する。
【0108】
また、ポート96は、筐体94の周壁部174Sに形成された貫通孔176Hと、貫通孔176Hに連続して形成されて前後方向と直交する方向に沿って延出された筒状のダクト96Dと、で形成されている。このポート96は、第5の実施形態と実質的に同様の効果を得られるように長さが設定されており、第5の実施形態のポート76よりも長く設定されている点を除いて、第5の実施形態のポート76と同様の構成とされる。そして、電気音響変換器90は、ポート96を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板38からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板38の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0109】
ここで、本実施形態の構成について補足説明する。本実施形態のように、第二サスペンション98に通気性がない場合、ポート96は、第一サスペンション30と第二サスペンション98との間の内部空間に通じるように設ける必要が生じる。このような構成では、第5の実施形態のように第二サスペンション33(図12参照)が通気性を有する場合と比較すると、ポートに接するキャビティの容積は小さくなる。一方、ポートに接するキャビティ容積をV、ポート断面直径(円形の場合)をDp、ポート長をlpとした場合、空気ばね硬さK∝Dp/V、ポート質量M∝Dp×lpとなり、ポートからの音の共振周波数fは、下記の数式1によって求められる。
【0110】
【数1】
【0111】
このため、第二サスペンションに通気性がない構成では、第二サスペンションが通気性を有する構成と比べ、ポートに接するキャビティの空気ばねが硬くなり、ポートからの音の共振周波数は高くなり易い。そのため、共振周波数を所望の周波数にするには、第二サスペンションに通気性がある場合よりも、ポートの通路断面積を小さくするか、ポートの長さを長くするか、或いはポートの通路断面積を小さくしてポートの長さを長くする必要がある。このような観点から、第7の実施形態においては、前述したように、ポート96が第5の実施形態のポート76(図12参照)よりも長く設定されている。
【0112】
以上説明した第7の実施形態の構成によっても、上述した第5の実施形態と概ね同様の作用及び効果を得ることができる。
【0113】
なお、第7の実施形態の変形例として、第5の実施形態のポート76(図12参照)よりも通路断面積が小さいポートが設けられてもよいし、第5の実施形態のポート76(図12参照)よりも通路断面積が小さくかつ長さが長いポートが設けられてもよい。
【0114】
[第8の実施形態]
次に、本発明の第8の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器について、図15を用いて説明する。図15には、第8の実施形態に係る電気音響変換器用ユニット102を含む電気音響変換器100の模式的な断面図が示されている。図15に示されるように、電気音響変換器100は、第6の実施形態の第二サスペンション33(図13参照)に代えて第7の実施形態の第二サスペンション98を備える点、及び第6の実施形態のポート86(図13参照)に代えてポート106を備える点で、第6の実施形態に係る電気音響変換器80とは異なる。他の構成は、第6の実施形態と実質的に同様の構成となっている。第6の実施形態等と実質的に同様の構成部については、適宜同一符号を付して説明を省略する。
【0115】
なお、図15に示される本実施形態の第二振動板101は、第6の実施形態の第二振動板81(図13参照)と実質的に同様の構成部であるが、第二振動板101に貫通形成されている孔部101Hが第6の実施形態の第二振動板81に貫通形成されている孔部81H(いずれも図13参照)と若干形状が異なるため、別符号を付している。また、符号101Aは第二振動板101の正面を示し、符号101Bは第二振動板101の背面を示す。
【0116】
電気音響変換器用ユニット102の筐体104は、第6の実施形態の筐体84のポート86(いずれも図13参照)に代えてポート106が設けられる点を除いて、第6の実施形態の筐体84と同様の構成とされる。よって、筐体104において第6の実施形態の筐体84(図13参照)と同様の構成部については、対応する筐体84の各構成部(具体的には、後壁部84R、周壁部84S、取付部84A及び貫通孔86H)の符号の先頭に「1」を付した符号を図中に示し、それらの説明を省略する。
【0117】
また、ポート106は、筐体104の周壁部184Sに形成された貫通孔186Hと、貫通孔186Hに連続して形成されたダクト106Dと、で形成されている。ダクト106Dは、貫通孔186Hから前後方向と直交する方向に沿って延出され、延出方向の先端部が閉塞されると共に延出方向の先端部側の前部がポート106の出口106Eになっている。ポート106は、第6の実施形態と実質的に同様の効果を得られるように長さが設定されており、第6の実施形態のポート86(図13参照)よりも長く設定されている点を除いて、第6の実施形態のポート86と同様の構成とされる。そして、電気音響変換器100は、ポート106を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板101からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板101の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0118】
以上説明した第8の実施形態の構成によっても、上述した第6の実施形態と概ね同様の作用及び効果を得ることができる。
【0119】
なお、第8の実施形態の変形例として、第6の実施形態のポート86(図13参照)よりも通路断面積が小さいポートを設けてもよいし、第6の実施形態のポート86(図13参照)よりも通路断面積が小さくかつ長さが長いポートが設けられてもよい。
【0120】
[第9の実施形態]
次に、本発明の第9の実施形態に係る電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器について、図16を用いて説明する。図16には、第9の実施形態に係る電気音響変換器用ユニット112を含む電気音響変換器110の斜視図が一部破断した状態で示されている。図16に示されるように、第9の実施形態の電気音響変換器110は、第一サスペンション120、122及び第二サスペンション124、126がそれぞれ一つではなくそれぞれ二つ(広義には複数)設けられている点で、第3の実施形態の電気音響変換器50(図6参照)とは異なる。他の構成は、第3の実施形態と実質的に同様の構成となっている。第3の実施形態と実質的に同様の構成部については、適宜同一符号を付して説明を省略する。
【0121】
第一振動板28は、正面視で環状に形成され、前面が中央部側に向けて徐々に凹んだコーン形状を有する。第一振動板28の前面中央部側にはドーム形状のセンターキャップ27が接合されている。第一振動板28の外周部28Dには、ゴム等の弾性材料で形成された第1の第一サスペンション120が全周に亘って接合されている。第1の第一サスペンション120は、エッジと称され、正面視で環状に形成され、全周に亘って筐体54の前端部側の環状取付部54Bに接合されている。
【0122】
なお、一例として、筐体54は、その前部及び前後方向中間部を構成するフレーム54Xと、フレーム54Xの後端部に取り付けられて筐体54の後部を構成するケース54Yと、を含んで構成されている。フレーム54Xの後端部にはフレーム54Xの半径方向内側に延出された棚状部54Zが形成されている。また、筐体54の前後方向中間部の内周面には、円筒状の内筒部材55の外周面が全周に亘って接した状態で固定されている。さらに、棚状部54Zの前面と内筒部材55の後端面とは前後方向に若干離れている。
【0123】
一方、第一振動板28の中央部には後方側に曲げられた短筒状の内周端部28Cが設けられている。この内周端部28Cは、ボイスコイルボビン18Aの前端部側の外周部に接合されている。また、第一振動板28の内周端部28Cには第2の第一サスペンション122の内周部が接合されている。第2の第一サスペンション122は、図10に示されるスパイダー34と若干形状は異なるが実質的に同様の部材とされる。図16に示されるように、第2の第一サスペンション122の外周部側には、後方側に曲げられた短筒状の周壁部122Aが形成されると共に、周壁部122Aの後端から鍔状に張り出したフランジ部122Bが形成されている。第2の第一サスペンション122のフランジ部122Bは、他部材(具体的には後述する第1の第二サスペンション124及び前述した内筒部材55)を介して筐体54の内周側の部位に接続されている。
【0124】
以上により、第1の第一サスペンション120と第2の第一サスペンション122とは前後方向(第一振動板28及びボイスコイル部18の振動方向)に間隔をあけて配置されている。そして、第一振動板28は、第1の第一サスペンション120及び筐体54を介して第二振動板38に接続されると共に、第2の第一サスペンション122及び筐体54を含む複数部材を介して第二振動板38に接続されている。
【0125】
また、ヨーク22の筒部22Bにおける前端面部には、第1の第二サスペンション124の内周部が全周に亘って接合されている。第1の第二サスペンション124は、正面視で環状に形成されて連通部としての連通孔124Hが貫通形成されており、図7に示される第二サスペンション33と実質的に同様の部材とされる。図16に示されるように、第1の第二サスペンション124の外周部の後面は、内筒部材55の前面に接合されている。すなわち、第1の第二サスペンション124の外周部は、内筒部材55を介して筐体54の内周側の部位に接続されている。なお、第1の第二サスペンション124の外周部の前面には、前述した第2の第一サスペンション122のフランジ部122Bが重ね合わせられて接合されている。
【0126】
また、ヨーク22の後面における外周部には、第2の第二サスペンション126の内周部が全周に亘って接合されている。第2の第二サスペンション126は、正面視で環状に形成されて連通部としての連通孔126Hが貫通形成されており、第1の第二サスペンション124と実質的に同様の部材とされる。第2の第二サスペンション126の外周部は、内筒部材55の後面と筐体54の棚状部54Zの前面との間に配置されて筐体54に接合されている。
【0127】
以上により、第1の第二サスペンション124と第2の第二サスペンション126とは前後方向(磁気回路部20の振動方向)に間隔をあけて配置されている。そして、磁気回路部20は、第1の第二サスペンション124、内筒部材55及び筐体54を介して第二振動板38に接続されると共に、第2の第二サスペンション126及び筐体54を介して第二振動板38に接続されている。
【0128】
以上説明した第9の実施形態の構成によっても、小型化を実現しつつ、上述した第3の実施形態と実質的に同様の作用によって低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧の低下を改善することで高音質の音の再生が可能になる。
【0129】
また、第9の実施形態では、第1の第一サスペンション120と第2の第一サスペンション122とは、第一振動板28及びボイスコイル部18の振動方向に間隔をあけて設けられているので、第一振動板28及びボイスコイル部18は、基本的にはローリング(首振り)しないで前後方向に振動することができる。また、第1の第二サスペンション124と第2の第二サスペンション126とは、磁気回路部20の振動方向に間隔をあけて設けられているので、磁気回路部20は、基本的にはローリングしないで前後方向に振動することができる。このように、第一振動板28、ボイスコイル部18及び磁気回路部20のローリングが抑えられることで、ボイスコイル部18において磁気回路部20の磁気空隙20Aに配置された部位が磁気回路部20に接触するのを防止又は効果的に抑制することができる。
【0130】
ちなみに、例えば、電気音響変換器用ユニットの前後方向の長さを短くしなければならない場合等のように、スペース上の制約等のために第一サスペンション及び第二サスペンションをそれぞれ複数設けることができない場合が考えられる。このような場合は、ボイスコイル部(18)及び磁気回路部(20)についてローリングを想定し、想定したローリングが発生してもボイスコイル部(18)において磁気回路部(20)の磁気空隙(20A)に配置された部位が磁気回路部(20)に接触しないように、磁気回路部(20)の磁気空隙(20A)の幅を大きく設定すればよい。但し、この場合は、駆動力の点で不利となる。
【0131】
[第10の実施形態]
次に、本発明の第10の実施形態に係る電気音響変換器について、図17を用いて説明する。図17には、第10の実施形態に係る電気音響変換器130を一部破断した状態の斜視図が示されている。第10の実施形態に係る電気音響変換器130は、第3の実施形態の電気音響変換器50における駆動部16及び第一振動板28(いずれも図6参照)と実質的に同様の構成部を有する。第10の実施形態において、第3の実施形態の電気音響変換器50(図6参照)と実質的に同様の構成部については、同一符号を付して説明を省略する。
【0132】
図17に示されるように、第一振動板28の背面28B側には、第一サスペンション132が配置されている。第一サスペンション132は、円筒状かつ蛇腹状に形成されており、筒軸方向が前後方向となるように配置されている。第一サスペンション132における筒軸方向の一方側の開口端部は、第一振動板28の背面28Bの外周部に接合されている。また、第一サスペンション132における筒軸方向の他方側の開口端部は、第二振動板138の正面138Aに接合されている。すなわち、第一振動板28は、第一サスペンション132を介して第二振動板138に接続されている。
【0133】
第一サスペンション132の内側には、駆動部16が配置されている。駆動部16の後方側には、第二サスペンション134が配置されている。第二サスペンション134は、円筒状かつ蛇腹状に形成されており、第一サスペンション132よりも小径でかつ筒軸方向の長さが短く設定されている。また、第二サスペンション134は、筒軸方向が前後方向となるように配置され、第一サスペンション132と中心軸(図示省略)が揃えられている。第二サスペンション134における筒軸方向の一方側の開口端部は、ヨーク22の後面22Rの外周部に接合されている。また、第二サスペンション134における筒軸方向の他方側の開口端部は、第二振動板138の正面138Aに接合されている。すなわち、磁気回路部20は、第二サスペンション134を介して第二振動板138に接続されている。
【0134】
第二サスペンション134には、その内方側の空間と外方側の空間とを連通するための連通孔134Hが貫通形成されている。連通孔134Hは、第一振動板28の背面28B側のキャビティS3内において第二サスペンション134によって仕切られる2つの空間S31、S32を連通させる。連通孔134Hは、第二サスペンション134の周方向に並ぶように複数形成されている。
【0135】
第二振動板138は、第一振動板28よりも面積が大きく、駆動部16が振動を発生させた場合に正面138A側の外部空間S1に放音可能になっている。第二振動板138には、正面視で第二サスペンション134の内側の部位に第一孔部138Cが貫通形成されると共に、正面視で第一サスペンション132の外側の部位に第二孔部138Dが貫通形成されている。第一孔部138Cにはポート136の一端部が接続され、第二孔部138Dにはポート136の他端部が接続されている。ポート136は略C字状に曲げられている。
【0136】
ポート136は、第一振動板28の背面28Bから当該第一振動板28の背面28B側のキャビティS3内に放射された音(言い換えれば第一振動板28の背面28Bから第二振動板138の正面138Aが向く方向とは反対方向に放射された音)の一部の周波数帯域の成分(より具体的には低域音と高域音との中間の周波数帯域の音)を第二振動板138の正面138A側の外部空間S1に導くように構成されている。そして、電気音響変換器130は、ポート136を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板138からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板138の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0137】
以上説明した第10の実施形態の構成によっても、小型化を実現しつつ、上述した第3の実施形態と概ね同様の作用によって低域音と高域音との中間の周波数帯域における音圧の低下を改善することで高音質の音の再生が可能になる。
【0138】
なお、第10の実施形態の変形例として、第二振動板(138)における第一孔部(138C)に代えて第二振動板(138)において正面視で第二サスペンション(134)の外側かつ第一サスペンション(132)の内側の部位に第一孔部が貫通形成されると共にこの第一孔部と第二孔部(138D)とをポートで繋ぐ、という構成も採り得る。また、そのような変形例の更なる変形例として、第二サスペンション(134)に連通孔(134H)を設けない、という構成も採り得る。なお、これらの変形例では、第10の実施形態と実質的に同様の効果が得られるようにポートの寸法が設定されることは言うまでもない。
【0139】
[第11の実施形態]
次に、本発明の第11の実施形態に係る電気音響変換器について、図18を用いて説明する。図18には、第11の実施形態に係る電気音響変換器140を前後に二分してかつ一部破断した状態の分解斜視図が示されている。図18に示されるように、第11の実施形態の電気音響変換器140は、ポート156が設けられたケース154Yが第二振動板38に対して予め取り付けられた状態で、ポート156を備えないドライバユニット142がケース154Yに取り付けられる点で第9の実施形態の電気音響変換器110(図16参照)とは異なる。他の構成は、第9の実施形態のポート56(図16参照)に代えてポート156を備える点及び第9の実施形態の取付部54A(図16参照)を備えないで後壁部154Rが第二振動板38に取り付けられる点の二点を除いて、第9の実施形態と実質的に同様の構成となっている。第9の実施形態と実質的に同様の構成部については、適宜同一符号を付して説明を省略する。
【0140】
ドライバユニット142は、図16に示される第9の実施形態の電気音響変換器用ユニット112からケース54Yを取り外した構成と実質的に同様の構成とされる。なお、図18に示されるドライバユニット142のフレーム154Xは、第9の実施形態のフレーム54X(図16参照)と実質的に同様の構成であるが、便宜上、第9の実施形態のフレーム54Xとは別符号を付している。フレーム154Xにおける環状取付部154Bは第9の実施形態の環状取付部54B(図16参照)と同様の構成部であり、フレーム154Xにおける棚状部154Zは第9の実施形態の棚状部54Z(図16参照)と同様の構成部である。また、フレーム154Xにおける筒状の周壁部154Cは、図16に示される第9の実施形態の筐体54の周壁部54Sのうちフレーム54Xによって構成されている部分と同様の構成部である。図18に示されるように、周壁部154Cの後端面154Mは、ケース154Yの前端面154Fに取り付けられる部位となっている。
【0141】
ケース154Yは、後側に配置された後壁部154Rと、後壁部154Rの外周部から立設された筒状の周壁部154Dと、を備える。周壁部154Dは、図16に示される第9の実施形態の筐体54の周壁部54Sのうちケース54Yによって構成されている部分と実質的に同様の構成部である。言い換えれば、図18に示されるケース154Yの周壁部154Dは、フレーム154Xの周壁部154Cと共に、前後方向に延在された周壁部154Sを構成する。そして、フレーム154Xとケース154Yとで構成された収容体154によって、第一振動板28の背面28B側にキャビティS2が形成される。なお、図18では、便宜上、フレーム154X側に収容体を示す符号154を付すと共に、ケース154Yの周壁部154Dの内方側にキャビティを示す符号S2を付している。
【0142】
ケース154Yの周壁部154Dにはポート156が連続して設けられている。ポート156は、一例として、周壁部154Dから前後方向と直交する方向に沿って周壁部154Dの内側に延出された筒状のダクト156Dと、周壁部154Dにおいてダクト156Dの内側空間と連続するように形成された図示しない貫通孔と、で形成されている。
【0143】
ポート156は、第一振動板28の背面28Bから当該第一振動板28の背面28B側のキャビティS2内に放射された音(言い換えれば第一振動板28の背面28Bから第二振動板38の正面38Aが向く方向とは反対方向に放射された音)の一部の周波数帯域の成分を第二振動板38の正面38A側の外部空間S1に導くように構成されている。そして、電気音響変換器140は、ポート156を設けることで駆動部16が振動を発生させた場合の第一振動板28と第二振動板38からの放射音のクロスオーバー周波数付近における合成音の音圧が第一振動板28及び第二振動板38の一方のみからの放射音の前記クロスオーバー周波数における音圧以上になるように構成されている。
【0144】
以上説明した第11の実施形態によっても、第9の実施形態と実質的に同様の作用及び効果を得ることができる。
【0145】
[実施形態の補足説明]
なお、図1図18に示される上記第1~第11の実施形態では、磁気回路部20は内磁型の磁気回路部とされており、駆動部16の小型化の観点からはこのような構成が好ましいが、磁気回路部を外磁型の磁気回路部とする構成も採り得る。
【0146】
また、上記第1~第11の実施形態の変形例として、作用部としての磁気回路部(20)が反作用部としてのボイスコイル部(18)より質量が小さくかつ磁気回路部(20)に第一振動板(28)が接続されると共にボイスコイル部(18)が少なくとも第二サスペンション(32,33,98,124,126,134)を介して第二振動板(38,41,61,81,101,138)に接続される構成も採り得る。
【0147】
また、上記第1~第11の実施形態では、駆動部16が作用部としての磁気回路部20と反作用部としてのボイスコイル部18を備えてローレンツ力を利用した構成を例に挙げて説明したが、上記実施形態の変形例として、駆動部は、例えば作用部及び反作用部の2つの質量体を備えて振動を発生させることが可能な公知のリニアアクチュエータ等のように、ローレンツ力を利用した構成以外の駆動部であってもよい。なお、作用部及び反作用部の2つの質量体を備えたリニアアクチュエータは、例えば、特開2003-235232号公報等で公知であるため、詳細説明を省略する。
【0148】
ちなみに、上記特開2003-235232号公報に開示された構成以外の駆動部について付言すると、ローレンツ力を利用しないで作用部及び反作用部の2つの質量体を備えて振動を発生させることが可能な駆動部を備えたスピーカは、例えば、特許第3749662号公報で公知となっており、同公報に開示された駆動部を本発明の駆動部に適用することもできる。また、ローレンツ力を利用した構成ではあるが、上記第1~第10の実施形態の駆動部16とは異なる構成の駆動部は、例えば、特許第2936009号公報(ムービングマグネット型の例)、実公昭61-45745号公報(磁気回路部が作用部と反作用部に分かれている例)、特開平10-285689号公報(駆動コイルに電流を供給すると二次コイルに二次電流が誘起されて駆動力を生じる例)で公知となっており、これらの公報に開示された駆動部を本発明の駆動部に適用することもできる。
【0149】
また、第1、第3、第5、第7、第9の実施形態の変形例として、例えば、電気音響変換器用ユニットの筐体が図1図6図12図14及び図16に示される後壁部14R,54R,74R,174Rに相当する構成部及びフランジ状の取付部14A,54A,74A,174Aに相当する構成部をいずれも有しないで周壁部14S,54S,74S,174Sの後端部に相当する部分を第二振動板38への取付部とするような構成も採り得る。このような変形例では、一層の小型化を図ることができる。
【0150】
なお、電気音響変換器用ユニットの筐体と第二振動板との接合部分は、外れない程度の接合強度を有すること、及び、筐体から第二振動板に振動を伝えられる程度の接合面積を有することが必須である。筐体から第二振動板に振動を伝えられる程度の接合面積は、第二振動板の剛性によって異なる。また、電気音響変換器用ユニットを含む電気音響変換器は、筐体と第二振動板との接合状態で、キャビティと、キャビティに通じるポートと、が構成されるものであり、筐体の形状は、そのようなことを前提としているが、筐体において第二振動板に重ねられて接合される部分の形状は種々の形状を採り得る。一例を挙げて補足説明すると、筐体において第二振動板に重ねられて接合される部分は、例えば、第二振動板の厚み方向に見てキャビティの外周に沿って断続的に並ぶ円弧形状部等であってもよい。
【0151】
また、上記第1~第11の実施形態の変形例として、第一振動板と第一サスペンション(一例としてエッジ)とは一体に接続されていてもよい。
【0152】
なお、上記第1~第11の実施形態及び上述の複数の変形例は、適宜組み合わされて実施可能である。
【0153】
以上、本発明の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0154】
10,40,50,60,70,80,90,100,110,130,140 電気音響変換器
12,42,52,62,72,82,92,102,112 電気音響変換器用ユニット
14,44,54,64,74,84,94,104 筐体
14A,44A,54A,64A,74A,84A,174A,184A 取付部
16 駆動部
18 ボイスコイル部(反作用部)
20 磁気回路部(作用部)
28 第一振動板
28A 第一振動板の正面
28B 第一振動板の背面
30,120,122,132 第一サスペンション
32,33,98,124,126,134 第二サスペンション
33H,124H,126H,134H 連通孔(連通部)
36,46,56,66,76,86,96,106,136,156 ポート
38,41,61,81,101,138 第二振動板
38A,41A,61A,81A,101A,138A 第二振動板の正面
61H,81H,101H 孔部
S1 外部空間
S2,S3 キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18