IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図1
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図2
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図3
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図4
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図5
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図6
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図7
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図8
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図9
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図10
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図11
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図12
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図13
  • 特開-点検システムおよび点検方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160813
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】点検システムおよび点検方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20221013BHJP
【FI】
G05D1/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065259
(22)【出願日】2021-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹川 憲二
(72)【発明者】
【氏名】上田 紘司
(72)【発明者】
【氏名】松崎 謙司
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 直孝
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA01
5H301AA10
5H301BB10
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD06
5H301DD07
5H301DD15
5H301FF11
5H301GG07
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG14
5H301GG16
5H301HH01
(57)【要約】
【課題】点検ロボットの進入を禁止する禁止領域を適切に設定できる点検技術を提供する。
【解決手段】点検システム1は、点検の対象となる対象機器7を点検する点検ロボット2が移動するときに用いる環境地図であり、対象機器7の位置を示す情報を含む環境地図を設定する地図設定部31と、対象機器7が稼働しているか否かを示す稼働状況を識別する稼働状況識別部32と、少なくとも稼働状況に基づいて、環境地図における対象機器7の周囲に点検ロボット2の進入を禁止する禁止領域Nを設定する領域設定部33とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
点検の対象となる対象機器を点検する点検ロボットが移動するときに用いる環境地図であり、前記対象機器の位置を示す情報を含む前記環境地図を設定する地図設定部と、
前記対象機器が稼働しているか否かを示す稼働状況を識別する稼働状況識別部と、
少なくとも前記稼働状況に基づいて、前記環境地図における前記対象機器の周囲に前記点検ロボットの進入を禁止する禁止領域を設定する領域設定部と、
を備える、
点検システム。
【請求項2】
前記稼働状況識別部は、前記点検ロボットに設けられたセンサで取得された情報に基づいて、前記対象機器の前記稼働状況を識別する、
請求項1に記載の点検システム。
【請求項3】
前記対象機器の前記稼働状況を管理する管理サーバを備え、
前記稼働状況識別部は、前記管理サーバが有する前記対象機器の前記稼働状況を示す管理情報に基づいて、前記対象機器の前記稼働状況を識別する、
請求項1または請求項2に記載の点検システム。
【請求項4】
搭載している移動機構により区別され、前記点検ロボットの種別を示す種別情報を登録する種別登録部と、
前記点検ロボットの種別に応じて受ける影響が異なり、かつ前記対象機器が周囲に与える影響を示す属性情報を登録する属性登録部と、
を備え、
前記領域設定部は、前記種別情報と前記属性情報に基づいて、前記禁止領域を設定する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の点検システム。
【請求項5】
前記領域設定部は、稼働している前記対象機器から第1距離の範囲に前記禁止領域を設定し、稼働していない前記対象機器から前記第1距離よりも短い第2距離の範囲に前記禁止領域を設定する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の点検システム。
【請求項6】
前記点検ロボットの移動経路を生成する経路生成部と、
前記移動経路に対応する前記禁止領域が、前記対象機器から前記第1距離の範囲に設定されている場合に、その禁止領域を前記対象機器から前記第2距離の範囲に設定し直す設定変更部と、
を備える、
請求項5に記載の点検システム。
【請求項7】
点検の対象となる対象機器を点検する点検ロボットが移動するときに用いる環境地図であり、前記対象機器の位置を示す情報を含む前記環境地図を、地図設定部が設定するステップと、
稼働状況識別部が、前記対象機器が稼働しているか否かを示す稼働状況を識別するステップと、
領域設定部が、少なくとも前記稼働状況に基づいて、前記環境地図における前記対象機器の周囲に前記点検ロボットの進入を禁止する禁止領域を設定するステップと、
を含む、
点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、点検技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発電施設などにおける点検業務は、人による巡視によって日々の点検業務を行っている。しかし、少子高齢化社会による点検員の高齢化または人手不足といった問題がある。そこで、ロボットを用いて点検員の負担を軽減したいという要望がある。近年、ロボットによる自律移動技術は大きく向上し、実用的な自律移動が実現し、各分野でロボットの実用化が進んでいる。今後は発電施設における点検業務もロボットを用いることが想定される。例えば、所定のプラントをドローンなどの自律移動ロボットを用いて点検する技術が知られている。このような点検を行う際には、トラブルまたは外的要因による影響で自律移動ロボットが重要な機器に接触してしまうことを防ぐことが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/176710号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】E. Marder-Eppstein, D.V. Lu, D. Hershberger, “costmap_2d” http://wiki.ros.org/costmap_2d
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自律移動ロボットは、移動エリアの地図情報を保持しており、その地図上で自己位置推定をしながら移動を行う。しかし、ロボット自体のトラブルまたは外的要因によって移動精度にばらつきが生じる可能性がある。また、意図しない移動が行われてしまう可能性がある。そこで、機器または障害物の近傍の領域に安全マージン(禁止領域)を設定し、機器または障害物にロボットが接触してしまうことを回避する技術が知られている。しかし、全ての機器または障害物に対して一律に安全マージンを設定すると、ロボットが通行可能な領域を狭めてしまい、ロボットが通行困難な状況になるおそれがある。また、機器は常に稼働しているものではなく、停止中の機器であればロボットが接触したときのリスクも低い。そのため、停止中の機器に対しては、稼働中の機器と同様の禁止領域を設定しなくても良い場合がある。しかし、機器の稼働または停止の度に、人手によって禁止領域の設定を行うと手間がかかる。そこで、安全性を確保しつつ、人手による手間を抑えた上で禁止領域を適切に設定する技術が求められている。
【0006】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、点検ロボットの進入を禁止する禁止領域を適切に設定できる点検技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る点検システムは、点検の対象となる対象機器を点検する点検ロボットが移動するときに用いる環境地図であり、前記対象機器の位置を示す情報を含む前記環境地図を設定する地図設定部と、前記対象機器が稼働しているか否かを示す稼働状況を識別する稼働状況識別部と、少なくとも前記稼働状況に基づいて、前記環境地図における前記対象機器の周囲に前記点検ロボットの進入を禁止する禁止領域を設定する領域設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、点検ロボットの進入を禁止する禁止領域を適切に設定できる点検技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の点検システムを示す構成図。
図2】第1実施形態の管理サーバを示すブロック図。
図3】第1実施形態の点検ロボットを示すブロック図。
図4】第1実施形態の対象機器管理テーブルを示す説明図。
図5】点検エリアを示す平面図。
図6】第1距離と第2距離の禁止領域を示す斜視図。
図7】カメラで撮影した制御盤の盤面を示す画像図。
図8】サーモカメラで撮影した発電機を示す画像図。
図9】点検ロボットが実行する点検処理を示すフローチャート。
図10】第2実施形態の点検システムを示す構成図。
図11】第2実施形態の管理サーバを示すブロック図。
図12】第2実施形態の点検ロボットを示すブロック図。
図13】第2実施形態の点検ロボット管理テーブルを示す説明図。
図14】第2実施形態の対象機器管理テーブルを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、点検システムおよび点検方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態の点検システムおよび点検方法について図1から図9を用いて説明する。
【0011】
図1の符号1は、第1実施形態の点検システムである。この点検システム1は、点検ロボット2と管理サーバ3と管理用端末4とを備える。これらは所定のネットワーク5(通信回線)を介して互いに接続されている。
【0012】
点検システム1は、発電所などの所定のプラント6に設けられた各種設備の点検を行うために用いられる。所定のプラント6としては、発電プラント、化学プラント、工場などがある。このようなプラント6の点検エリアには、点検の対象となる複数の対象機器7が設けられている。対象機器7としては、例えば、発電機、制御盤、冷却器、分電盤、変電設備などがある。これら対象機器7を点検エリアに配備された点検ロボット2を用いて点検を行う。
【0013】
点検ロボット2は、例えば、車輪などを用いて地面を走行可能である。この点検ロボット2は、自己位置推定機能を有し、自律的に走行して対象機器7の点検を行うことができる無人移動ロボットである。点検ロボット2は、自動走行が可能であるとともに、管理者Mの遠隔操作による手動走行も可能である。
【0014】
通常時は、点検ロボット2がプラント6の点検エリア内を定期的に巡回して対象機器7の点検を行っている。ここで、それぞれの対象機器7は、ネットワーク5を介して管理サーバ3に接続されている。それぞれの対象機器7の稼働状況は、管理サーバ3により管理されている。また、点検ロボット2は、ネットワーク5を介して管理サーバ3に接続されている。点検ロボット2の動作は、管理サーバ3により管理されている。
【0015】
また、対象機器7で異常が生じた場合には、点検ロボット2が急行して対象機器7の点検を行う。そのため、管理サーバ3は、重要な対象機器7の故障または予兆を迅速に把握することができ、その後の悪影響を最小限に抑えることができる。
【0016】
なお、プラント6から見て遠隔地にある管理事務所8に居る管理者Mは、点検ロボット2の遠隔操作を行い、この遠隔操作で対象機器7の点検を行うこともできる。また、管理者Mは、管理サーバ3を介して対象機器7の状態(異常の有無)を把握することができる。
【0017】
管理事務所8には、管理者Mが扱う管理用端末4が設けられている。この管理用端末4は、例えば、デスクトップPC、ノートPC、またはタブレット型PCなどの所定のコンピュータで構成される。本実施形態では、デスクトップPCを例示する。管理用端末4には、管理者Mが視認を行うディスプレイ9と、点検ロボット2の遠隔操作時に管理者Mが用いる遠隔操作端末10が接続されている。なお、遠隔操作端末10には、管理者Mが点検ロボット2を操作するときに用いる操縦桿が設けられている。
【0018】
管理用端末4が備える入力部には、管理用端末4を使用する管理者Mの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が管理用端末4に入力される。さらに、この管理用端末4を介して所定の情報が点検ロボット2に入力される。
【0019】
管理用端末4が備える出力部は、所定の情報の出力を行う。例えば、この出力部は、ディスプレイ9に表示される画像の制御を行う。
【0020】
なお、本実施形態では、画像の表示を行う装置としてディスプレイ9を例示するが、その他の態様であっても良い。例えば、ヘッドマウントディスプレイまたはプロジェクタを用いて情報の表示を行っても良い。さらに、紙媒体に情報を印字するプリンタをディスプレイ9の替りとして用いても良い。つまり、出力部が制御する対象として、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクタまたはプリンタが含まれても良い。
【0021】
管理用端末4は、ネットワーク5を介して点検ロボット2および管理サーバ3に接続されている。管理者Mが点検ロボット2の遠隔操作を行う際には、管理用端末4と点検ロボット2で遠隔操作用の信号を送受するための通信が確立する。そして、管理者Mは、遠隔操作端末10を用いて点検ロボット2の手動操作を行うことができる。なお、管理サーバ3を介して管理用端末4と点検ロボット2の通信が確立し、この管理サーバ3を介して点検ロボット2の遠隔操作が行われても良い。
【0022】
所定のネットワーク5は、インターネットを例示する。なお、このネットワーク5は、LAN(Local Area Network)でも良いし、WAN(Wide Area Network)ででも良いし、移動体(携帯電話)通信ネットワークでも良い。なお、点検ロボット2は、無線通信でネットワーク5に接続される。また、対象機器7は、無線通信または有線通信でネットワーク5に接続される。
【0023】
点検ロボット2は、自己位置および自己姿勢を測定することができる。例えば、公知のGPS(Global Positioning System)などの衛星測位システムを用いて自己位置を測定できる。点検ロボット2は、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)、または、VSLAM(Visual Simultaneous Localization and Mapping)を用いて自己位置および自己姿勢を測定することができる。また、SfM(Structure from Motion)などを用いて自己位置および自己姿勢を測定しても良い。
【0024】
図5は、プラント6の点検エリアの平面図であるとともに、点検エリアのレイアウト図面11でもある。このレイアウト図面11は、環境地図として点検ロボット2に記憶される。なお、本実施形態では、点検エリアの平面図としてのレイアウト図面11を例示しているが、このレイアウト図面11は、点検エリアを3次元的に記録した3Dデータであっても良い。
【0025】
このレイアウト図面11に示すように、プラント6の点検エリアには、多数の対象機器7が配置されている。この点検エリアには、点検ロボット2の進入(通行)を許可する許可領域Eが設定される。また、それぞれの対象機器7の周囲には、点検ロボット2の進入を禁止する禁止領域Nが設定される。なお、禁止領域Nは、対象機器7の周辺近傍の平面領域(2次元領域)となっている。
【0026】
点検ロボット2を用いて対象機器7の自動点検を行う場合において、管理者Mは、管理用端末4を用いて、点検ロボット2が到着する位置を任意に設定することができる。例えば、管理者Mは、レイアウト図面11において、点検ロボット2を到着させたい到着位置を指定する。点検ロボット2は、現在位置から到着位置までの移動経路Rを自動的に生成する。そして、この移動経路Rに沿って到着位置まで自律的に移動する。
【0027】
次に、禁止領域Nについて説明する。本実施形態では、点検ロボット2がそれぞれの対象機器7の稼働状況を識別する。そして、稼働状況に応じて禁止領域Nの範囲が設定される。例えば、点検ロボット2が接触した際にプラント6に対する悪影響が大きくなると推定される稼働中の対象機器7と、点検ロボット2が接触しても悪影響が小さいと推定される非稼働中の対象機器7とで異なる範囲の禁止領域Nを設定する。
【0028】
図6に示すように、稼働中の対象機器7Aと、非稼働中の対象機器7Bとが存在するものとする。ここで、稼働中の対象機器7Aの表面から第1距離L1の範囲に禁止領域Nが設定される。かつ非稼働中の対象機器7Bの表面から第2距離L2の範囲に禁止領域Nが設定される。この場合に第1距離L1よりも第2距離L2の方が短くなるように設定される。
【0029】
つまり、非稼働中の対象機器7Bの禁止領域Nよりも、稼働中の対象機器7Aの禁止領域Nの方が広くなるように設定される。このようにすれば、点検ロボット2が接触した際に悪影響が生じると推定される稼働中の対象機器7Aに対して広い範囲の禁止領域Nを設定することができる。その分、点検ロボット2が接触される可能性を低減させることができる。
【0030】
また、非稼働中の対象機器7Bの禁止領域Nの範囲を狭めることで、点検ロボット2が通行可能な許可領域Eを広げることができる。なお、非稼働中の対象機器7Bの禁止領域Nを無くしても良い。つまり、第2距離L2をゼロとしても良い。
【0031】
このように、本実施形態では、対象機器7の稼働状況に応じて禁止領域Nを適切に設定できる。また、稼働状況に応じて禁止領域Nが自動的に設定されるため、管理者Mが対象機器7の禁止領域Nを個々に設定する手間が省ける。また、稼働状況に応じて禁止領域Nの範囲が設定されるため、安全性を考慮した適切な許可領域Eが設定され、その許可領域Eを点検ロボット2が通行できるようになる。
【0032】
なお、稼働中の対象機器7Aには、点検ロボット2の巡回点検の開始前に、運転中の対象機器7Aのみならず、点検ロボット2の巡回点検中に、運転を開始する予定がある対象機器7Aが含まれる。
【0033】
次に、点検システム1のシステム構成を図2から図3に示すブロック図を参照して説明する。
【0034】
図2に示すように、管理サーバ3は、記憶部13と通信部14とサーバ制御部15とを備える。この管理サーバ3は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の点検方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0035】
管理サーバ3の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、ネットワーク5で互いに接続された複数のコンピュータを用いて1つのシステムを実現しても良い。
【0036】
記憶部13は、対象機器7の点検を行うときに必要な各種情報を記憶する。例えば、点検ロボット2で撮影された画像、または点検ロボット2で取得したデータなどを記憶する。なお、記憶部13は、データベースを備えても良い。データベースは、メモリまたはHDDに記憶され、検索または蓄積ができるよう整理された情報の集まりである。
【0037】
通信部14は、ネットワーク5を介して点検ロボット2および管理用端末4と通信を行う。また、通信部14を用いて対象機器7と通信を行うことができる。
【0038】
サーバ制御部15は、管理サーバ3を統括的に制御する。このサーバ制御部15は、対象機器管理部16とロボット管理部17とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0039】
対象機器管理部16は、プラント6の点検エリアに設けられた対象機器7の管理を行う。例えば、対象機器7の運転または停止などの稼働の制御を行う。さらに、対象機器7のセンサ(図示略)で検出した検出信号を含むデータを受信し、このデータに基づいて対象機器7の状態を記録することもできる。
【0040】
ロボット管理部17は、プラント6の点検エリアに設けられた点検ロボット2の管理を行う。例えば、対象機器7の位置を示す情報を含む環境地図を設定する。なお、ロボット管理部17で設定された環境地図と同一のものが点検ロボット2に設定される。
【0041】
図3に示すように、点検ロボット2は、カメラ20とサーモカメラ21とマイクロフォン22と磁気センサ23と3次元測定センサ24とモーションセンサ25と移動機構部26と記憶部27と通信部28とロボット制御部30とを備える。
【0042】
カメラ20とサーモカメラ21とマイクロフォン22と磁気センサ23は、点検ロボット2に搭載され、対象機器7の点検に用いるセンサである。これらのセンサを用いて、対象機器7の温度、振動などを検出する。そして、これらのセンサを用いて対象機器7に生じる事象を検出し、その検出結果に基づいて対象機器7の異常の有無を把握する。なお、点検ロボット2は、これらのセンサ以外のセンサを搭載していても良い。例えば、温度計、振動計、圧力計などを搭載しても良い。
【0043】
カメラ20は、点検ロボット2の近傍の対象機器7を可視光または赤外線により撮影する。このカメラ20は、RGBカメラまたは赤外線カメラで構成されている。なお、カメラ20で撮影された画像は、記憶部27に記憶されるとともに管理サーバ3に送られる。
【0044】
サーモカメラ21は、点検ロボット2の近傍の対象機器7の温度分布を示す画像を撮影する。なお、サーモカメラ21で撮影された画像は、記憶部27に記憶されるとともに管理サーバ3に送られる。
【0045】
マイクロフォン22は、点検ロボット2の周囲の集音を行う。このマイクロフォン22で検出される音には、点検ロボット2の近傍にある対象機器7から発せられる音が含まれている。その音により、対象機器7の振動または異常を把握することができる。例えば、対象機器7から音が発せられているか否かに基づいて、その対象機器7が稼働中であるか非稼働中であるかを把握することができる。なお、マイクロフォン22で検出された音は、記憶部27に記憶されるとともに管理サーバ3に送られる。
【0046】
磁気センサ23は、点検ロボット2の周囲の磁気の検出を行う。この磁気センサ23で検出される磁気には、対象機器7から発せられる磁気が含まれている。例えば、対象機器7が発電機または電動機である場合には、磁気が発せられる磁気により稼働中であるか非稼働中であるかを把握することができる。なお、磁気センサ23で検出された磁気の値は、記憶部27に記憶されるとともに管理サーバ3に送られる。
【0047】
3次元測定センサ24は、点検ロボット2に搭載され、点検ロボット2の周辺の物体の3次元形状を測定する。3次元測定センサ24としては、例えば、深度センサが用いられる。なお、3次元測定センサ24として赤外線センサまたはLiDARなどのレーザセンサを用いても良い。
【0048】
3次元測定センサ24は、例えば、物体にレーザを投光してその反射光を受光素子により受光することで、点検ロボット2から周辺の物体までの距離を測定することができる。また、カメラ20による撮影方向と3次元測定センサ24による測定方向は一致している。さらに、3次元測定センサ24は、投光パルスに対する受光パルスの遅れ時間を距離に換算するToF(Time of Flight)方式を用いて、点検ロボット2から周辺の物体までの距離を測定する。3次元測定センサ24を用いることで、点検ロボット2から周辺の物体までの距離および形状の情報を含む3次元点群データを生成することができる。
【0049】
モーションセンサ25は、慣性センサ(3軸加速度センサと3軸角速度センサ)と3軸地磁気センサを組み合わせた9軸センサとなっている。このモーションセンサ25は、点検ロボット2に搭載され、この点検ロボット2が移動したときに生じる加速度を検出する。また、このモーションセンサ25により重力加速度の検出も行える。さらに、モーションセンサ25は、この点検ロボット2の姿勢(機体の向き)が変化したときに生じる角速度を検出する。なお、地磁気により点検ロボット2の姿勢を把握することもできる。モーションセンサ25で検出された加速度の値と角速度の値は、ロボット制御部30に入力される。点検ロボット2は、このモーションセンサ25を用いて自己位置および自己姿勢を測定することができる。
【0050】
移動機構部26は、点検ロボット2の走行に必要な車輪の回転駆動を行う。移動機構部26は、例えば、車輪を駆動するモータ、または、車輪の向きを変更するアクチュエータなどで構成される。
【0051】
記憶部27は、対象機器7の点検を行うために必要な各種情報を記憶する。例えば、カメラ20で撮影した画像、または各種センサで取得したデータなどを記憶する。
【0052】
また、記憶部27には、対象機器7に関する対象機器情報、点検ロボット2の移動に関する移動計画情報、巡回点検に関する巡回点検計画情報などが記憶される。なお、移動計画情報には、点検ロボット2の移動速度と移動範囲に関する情報が含まれる。
【0053】
本実施形態では、点検ロボット2に記憶されている情報と同一の情報が、管理サーバ3にも記憶される。点検ロボット2に記憶されている情報と管理サーバ3に記憶されている情報は、互いに同期されている。管理者Mは、管理サーバ3を介して点検ロボット2の管理をすることもできる。
【0054】
点検ロボット2は、記憶部27に記憶された情報に基づいて、自律的に移動を行い、無人で点検エリアのそれぞれの対象機器7の点検を行う。
【0055】
通信部28は、ネットワーク5を介して管理サーバ3および管理用端末4と通信を行う。管理者Mは、ネットワーク5を介して点検ロボット2の操作または管理を行うことができる。そのため、管理者Mがプラント6の点検エリアに出向く必要がなく、労力および管理コストの削減ができる。
【0056】
ロボット制御部30は、点検ロボット2を統括的に制御する。このロボット制御部30は、地図設定部31と稼働状況識別部32と領域設定部33と経路生成部34と設定変更部35と自律移動制御部36とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0057】
地図設定部31は、対象機器7の位置を示す情報を含む環境地図(地図情報)を設定する。この環境地図は、記憶部27に記憶され、点検ロボット2が自律移動するときに用いられる。例えば、この環境地図は、移動経路の生成に用いられる。また、点検ロボット2が有する環境地図と同様のものが、管理サーバ3に記憶されている。
【0058】
稼働状況識別部32は、カメラ20、サーモカメラ21、マイクロフォン22または磁気センサ23で取得された情報に基づいて、対象機器7が稼働しているか否かを示す稼働状況を識別する。このようにすれば、点検ロボット2に搭載された各種のセンサにより自律的に対象機器7の稼働状況を識別することができる。
【0059】
対象機器7は、稼働中と非稼働中とでその態様が異なる。例えば、非稼働中の対象機器7は、可動部が停止している。また、稼働中は活線状態であり、磁場を生じさせるが、非稼働中は非活線状態となり、磁場を生じさせない対象機器7もある。また、稼働中は高温になるが、非稼働中は低温になる対象機器7もある。
【0060】
例えば、点検ロボット2の停止位置において、稼働中と非稼働の音声レベルの差分により、その近傍にある対象機器7が稼働しているか否かを識別することができる。また、点検ロボット2の停止位置において、磁気センサ23の値により高電圧の活線状態と非活線状態の検出を行うことができる。その近傍にある対象機器7が稼働しているか否かを識別することができる。
【0061】
図7に示すように、点検ロボット2は、カメラ20で対象機器7としての制御盤40の盤面を撮影したとする。この制御盤40の盤面には、表示部41とメータ42と表示灯43とが設けられている。表示部41には、運転中か停止中かを示す文字が表示される。メータ42には、所定の計測値が表示される。表示灯43は、制御盤40が運転中であるときと停止中であるときとで発光色が異なる。稼働状況識別部32は、画像に含まれる制御盤40の盤面の態様を、所定の画像処理技術を用いて認識する。例えば、稼働中の制御盤40の盤面の画像と、非稼働中の制御盤40の盤面の画像とを比較し、これらの画像の差分を検出する。そして、制御盤40(対象機器7)が稼働中であるか否かを識別する。
【0062】
図8に示すように、点検ロボット2は、サーモカメラ21で対象機器7としての発電機44を撮影したとする。このサーモカメラ21の画像には、他の部分よりも高温になっている発熱部45が他の部分と異なる色で表示される。例えば、発電機44が稼働している場合には、発熱部45が出現し、発電機44が稼働していない場合には、発熱部45が出現しない。稼働状況識別部32は、画像に含まれる発熱部45の有無またはその温度に基づいて、発電機44(対象機器7)が稼働中であるか否かを識別する。また、稼働中の発電機44の画像と、非稼働中の発電機44の画像とを比較し、これらの画像の差分を検出する。そして、発電機44(対象機器7)が稼働中であるか否かを識別する。
【0063】
なお、本実施形態のロボット制御部30(稼働状況識別部32)には、機械学習を行う人工知能(AI:Artificial Intelligence)を備えるコンピュータが含まれても良い。また、ロボット制御部30には、深層学習に基づいて、複数のパターンから特定のパターンを抽出する深層学習部が含まれても良い。そして、機械学習により生成された識別器により対象機器7の稼働状況を識別しても良い。
【0064】
本実施形態のコンピュータを用いた解析には、人工知能の学習に基づく解析技術を用いることができる。例えば、ニューラルネットワークによる機械学習により生成された学習モデル、その他の機械学習により生成された学習モデル、深層学習アルゴリズム、回帰分析などの数学的アルゴリズムを用いることができる。また、機械学習の形態には、クラスタリング、深層学習などの形態が含まれる。
【0065】
本実施形態のシステムは、機械学習を行う人工知能を備えるコンピュータを含む。例えば、ニューラルネットワークを備える1台のコンピュータでシステムを構成しても良いし、ニューラルネットワークを備える複数台のコンピュータでシステムを構成しても良い。
【0066】
ここで、ニューラルネットワークとは、脳機能の特性をコンピュータによるシミュレーションによって表現した数学モデルである。例えば、シナプスの結合によりネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)が、学習によってシナプスの結合強度を変化させ、問題解決能力を持つようになるモデルを示す。さらに、ニューラルネットワークは、深層学習(Deep Learning)により問題解決能力を取得する。
【0067】
例えば、ニューラルネットワークには、6層のレイヤーを有する中間層が設けられる。この中間層の各レイヤーは、300個のユニットで構成されている。また、多層のニューラルネットワークに学習用データを用いて予め学ばせておくことで、回路またはシステムの状態の変化のパターンの中にある特徴量を自動で抽出することができる。なお、多層のニューラルネットワークは、ユーザインターフェース上で、任意の中間層数、任意のユニット数、任意の学習率、任意の学習回数、任意の活性化関数を設定することができる。
【0068】
なお、学習対象となる各種情報項目に報酬関数が設定されるとともに、報酬関数に基づいて価値が最も高い情報項目が抽出される深層強化学習をニューラルネットワークに用いても良い。
【0069】
例えば、画像認識で実績のあるCNN(Convolution Neural Network)を用いる。このCNNでは、中間層が畳み込み層とプーリング層で構成される。畳み込み層は、前の層で近くにあるノードにフィルタ処理を施すことで特徴マップを取得する。プーリング層は、畳込み層から出力された特徴マップを、さらに縮小して新たな特徴マップとする。この際に特徴マップにおいて着目する領域に含まれる画素の最大値を得ることで、特徴量の位置の多少のずれも吸収することができる。
【0070】
畳み込み層は、画像の局所的な特徴を抽出し、プーリング層は、局所的な特徴をまとめる処理を行う。これらの処理では、入力画像の特徴を維持しながら画像を縮小処理する。つまり、CNNでは、画像の持つ情報量を大幅に圧縮(抽象化)することができる。そして、ニューラルネットワークに記憶された抽象化された画像イメージを用いて、入力される画像を認識し、画像の分類を行うことができる。
【0071】
なお、深層学習には、オートエンコーダ、RNN(Recurrent Neural Network)、LSTM(Long Short-Term Memory)、GAN(Generative Adversarial Network)などの各種手法がある。これらの手法を本実施形態の深層学習に適用しても良い。
【0072】
図4に示すように、点検ロボット2の記憶部27には、対象機器管理テーブルが記憶されている。稼働状況識別部32は、識別した対象機器7の稼働状況を示す情報を、この対象機器管理テーブルに登録する。なお、この対象機器管理テーブルは、管理サーバ3にも記憶されている。それぞれの対象機器管理テーブルは、互いに同期される。
【0073】
対象機器管理テーブルには、対象機器IDに対応付けて、対象機器7の稼働状況の項目と、対象機器7の周囲に設定される禁止領域の項目とが設けられている。
【0074】
対象機器IDの項目には、それぞれの対象機器7を個々に識別可能な識別情報である対象機器IDが登録される。それぞれの対象機器7に固有の対象機器IDが付与される。これら対象機器IDが対象機器管理テーブルの主キーとなっている。
【0075】
例えば、点検ロボット2がカメラ20で対象機器7を撮影したときに、その対象機器7の位置は、環境地図と自己位置に基づいて取得することができる。稼働状況識別部32は、この対象機器7の位置に基づいて、対象機器7の対象機器IDを取得する。
【0076】
稼働状況の項目には、点検ロボット2が点検中に識別した対象機器7の稼働状況に基づいて、その対象機器7の現在の稼働状況が登録される。つまり、対象機器7が稼働中であるか非稼働中であるかを示す情報が登録される。
【0077】
なお、この稼働状況の項目には、予め点検ロボット2が点検を行う時間帯に予定されている稼働状況が登録されても良い。この稼働状況の項目に登録される情報は、点検ロボット2の点検中に適宜変更されても良い。さらに、前回の点検中に識別した対象機器7の稼働状況が登録されても良い。そして、次の点検において、これら登録された稼働状況が用いられても良い。
【0078】
禁止領域の項目には、対象機器7の周囲に設定される禁止領域Nの範囲が登録される。例えば、稼働中の対象機器7の対象機器IDに対応付けて「第1距離」が登録される。また、非稼働中の対象機器7の対象機器IDに対応付けて「第2距離」が登録される。なお、所定の条件により、稼働中の対象機器7の対象機器IDに対応付けて「第2距離」が登録される場合がある。
【0079】
なお、対象機器管理テーブルには、対象機器IDに対応付けて、環境地図における対象機器7の位置(座標)を示す情報、対象機器7の形状、サイズ、容積に関する情報などが登録されても良い。
【0080】
図3に示すように、領域設定部33は、少なくとも対象機器7の稼働状況に基づいて、環境地図における対象機器7の周囲に点検ロボット2の進入を禁止する禁止領域Nを設定する。この領域設定部33は、対象機器管理テーブルの禁止領域の項目に登録された情報に基づいて、環境地図における対象機器7の周囲に点検ロボット2の進入を禁止する禁止領域Nを設定する。
【0081】
例えば、領域設定部33は、図6に示すように、稼働中の対象機器7Aの表面から第1距離L1の範囲に禁止領域Nを設定する。一方、非稼働中の対象機器7Bの表面から第2距離L2の範囲に禁止領域Nを設定する。このようにすれば、点検ロボット2が接触した際に悪影響が生じると推定される稼働している対象機器7Aに対して、広い範囲の禁止領域Nを設定することができる。また、稼働していない対象機器7Bの禁止領域Nの範囲を狭めることで、点検ロボット2が通行可能な許可領域Eを広げることができる。
【0082】
領域設定部33は、予め点検ロボット2が点検を行う時間帯に予定されている稼働状況に基づいて、禁止領域Nを設定しても良いし、点検ロボット2の点検中に変更された稼働状況に基づいて、禁止領域Nを設定しても良い。つまり、禁止領域Nの設定は、点検ロボット2の点検中に変更されても良い。
【0083】
経路生成部34は、対象機器7を順次点検する際の点検ロボット2の移動経路Rを生成する。この移動経路Rは、環境地図に設定される。そして、この移動経路Rに従って点検ロボット2が移動される。
【0084】
なお、移動経路Rは、管理サーバ3で生成されても良い。つまり、管理サーバ3が経路生成部34を備えていても良い。そして、管理サーバ3から受信した移動経路Rが点検ロボット2の記憶部27に設定される。この設定された移動経路Rに沿って点検ロボット2が自律移動を行っても良い。
【0085】
設定変更部35は、禁止領域Nの範囲を適切な範囲に設定し直す処理を行う。例えば、移動経路Rに対応する禁止領域N’が、対象機器7’から第1距離L1の範囲に設定されている場合に、その禁止領域N’を対象機器7’から第2距離L2の範囲に設定し直す処理を行う。
【0086】
例えば、図5に示すように、移動経路Rが設定されたときに、この移動経路Rの近傍に禁止領域N’が存在したとする。移動経路Rを挟むように配置されたそれぞれの禁止領域N’に対応する対象機器7’が稼働中である場合には、禁止領域N’が対象機器7’から第1距離L1の範囲に設定されることになる。しかし、このような禁止領域N’があると、移動経路Rの領域が狭められてしまい、点検ロボット2が走行し難くなる。そこで、設定変更部35は、これらの禁止領域N’を対象機器7’から第2距離L2の範囲に設定し直す処理を行う。このようにすれば、禁止領域N’が点検ロボット2の移動経路Rに干渉し難くなる。さらに、禁止領域N’により移動経路Rの領域が狭められてしまう事態を回避することができる。
【0087】
自律移動制御部36は、点検ロボット2による自律移動の制御を行う。自律移動制御部36は、点検ロボット2の自己位置を推定するとともに環境地図を参照し、点検ロボット2を移動させる制御を行う。
【0088】
次に、点検ロボット2が実行する点検処理について図9のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。以下のステップは、点検処理に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが点検処理に含まれても良い。
【0089】
まず、ステップS1において、ロボット制御部30の地図設定部31は、環境地図設定処理を実行する。この環境地図設定処理では、対象機器7の位置を示す情報を含む環境地図が設定される。この環境地図が、点検ロボット2が移動するときに用いられる。なお、同じ環境地図が管理サーバ3にも設定される。
【0090】
次のステップS2において、ロボット制御部30の経路生成部34は、経路生成処理を実行する。この経路生成処理では、点検ロボット2の移動経路Rが生成される。この移動経路Rが環境地図上に設定される。そして、点検ロボット2の点検が開始されると、この移動経路Rに従って点検ロボット2が移動される。点検ロボット2は、点検中に、カメラ20、サーモカメラ21、マイクロフォン22または磁気センサ23で各種情報を取得する。
【0091】
次のステップS3において、ロボット制御部30の稼働状況識別部32は、稼働状況識別処理を実行する。この稼働状況識別処理では、カメラ20、サーモカメラ21、マイクロフォン22または磁気センサ23で取得された情報に基づいて、対象機器7が稼働しているか否かを示す稼働状況を識別する。また、稼働状況識別部32は、識別した対象機器7の稼働状況を示す情報を対象機器管理テーブル(図4)に登録する。
【0092】
次のステップS4において、ロボット制御部30の領域設定部33は、領域設定処理を実行する。この領域設定処理では、対象機器管理テーブル(図4)に登録された対象機器7の稼働状況と禁止領域Nの範囲に基づいて、環境地図における対象機器7の周囲に点検ロボット2の進入を禁止する禁止領域N(図5)を設定する。なお、点検ロボット2の点検前に、予定される対象機器7の稼働状況に応じて禁止領域Nを設定しておいても良い。そして、点検ロボット2の点検中に識別した対象機器7の稼働状況に基づいて、禁止領域Nの範囲を設定しても良い。
【0093】
次のステップS5において、ロボット制御部30の設定変更部35は、設定変更処理を実行する。この設定変更処理では、移動経路Rに対応する禁止領域N’が、対象機器7’から第1距離L1の範囲に設定されている場合に、その禁止領域N’を対象機器7’から第2距離L2の範囲に設定し直す処理を行う。この設定変更処理は、点検ロボット2の点検中に実行される。なお、点検ロボット2の点検開始前に、移動経路Rに対応する禁止領域N’の存在が予測される場合には、点検ロボット2の点検開始前に、この設定変更処理を実行し、禁止領域N’の範囲を適切な範囲に設定し直しても良い。
【0094】
そして、点検ロボット2が点検処理を終了する。なお、この点検処理は、一定時間毎に繰り返される処理である。この処理が繰り返されることで、点検ロボット2で点検方法が実行される。なお、点検ロボット2が他のメイン処理を実行中に、この処理を割り込ませて実行しても良い。
【0095】
稼働中であるか非稼働中であるかに応じて、点検ロボット2が接触した際のリスクが変わる。本実施形態では、このようなリスクの変動に合わせて禁止領域Nを設定することで、点検ロボット2が通過可能な領域を広げることができる。そのため、多くの箇所の点検または巡視を行うことができる。
【0096】
第1実施形態では、点検ロボット2に搭載された各種センサを用いて対象機器7の稼働状況を判定し、これらの稼働状況に応じて適切な禁止領域Nを設定する。そのため、管理者Mが対象機器7の稼働状況に応じて禁止領域Nを設定する手間を省きつつ、安全を考慮して点検ロボット2が通行可能な許可領域Eを拡大させることができる。
【0097】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の点検システム1Aおよび点検方法について図10から図14を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0098】
図10に示すように、第2実施形態の点検システム1Aには、走行型の点検ロボット2に加えて、飛行型の点検ロボット2Aが設けられている。この飛行型の点検ロボット2Aは、プロペラなどの飛行機構を備えたドローンなどで構成される。この点検ロボット2Aが空中を移動して対象機器7の点検を行う。その場合の移動経路R(図5)は、点検ロボット2Aの飛行経路となる。また、禁止領域N(図6)は、対象機器7の周辺近傍の3次元空間となる。
【0099】
点検システム1Aでは、走行型の点検ロボット2と飛行型の点検ロボット2Aが混在した状態で点検を行う。それぞれの点検ロボット2,2Aに応じて、適切な禁止領域Nが設定される。つまり、1つの対象機器7に設定される禁止領域Nが、点検ロボット2,2Aに応じて異なっている。
【0100】
第2実施形態では、管理サーバ3がそれぞれの対象機器7の稼働状況を示す管理情報を点検ロボット2,2Aに送信する。点検ロボット2,2Aは、受信した管理情報に基づいて、対象機器7の稼働状況を識別し、禁止領域Nを設定する。
【0101】
図11に示すように、管理サーバ3のサーバ制御部15は、前述の第1実施形態の構成に加えて、種別登録部50と属性登録部51とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0102】
種別登録部50は、搭載している移動機構により区別される点検ロボット2,2Aの種別を示す種別情報を登録する。
【0103】
属性登録部51は、点検ロボット2,2Aの種別に応じて受ける影響が異なる対象機器7の属性を示す情報であって、対象機器7が周囲に与える影響を示す属性情報を登録する。
【0104】
図13に示すように、管理サーバ3の記憶部13には、点検ロボット管理テーブルが記憶されている。点検ロボット管理テーブルには、ロボットIDに対応付けて、点検ロボット2,2Aの種別の項目が設けられている。種別登録部50は、種別情報を点検ロボット管理テーブルに登録する。
【0105】
ロボットIDの項目には、それぞれの点検ロボット2,2Aを個々に識別可能な識別情報であるロボットIDが登録される。それぞれの点検ロボット2,2Aに固有のロボットIDが付与される。これらロボットIDが点検ロボット管理テーブルの主キーとなっている。
【0106】
図12に示すように、点検ロボット2,2Aのロボット制御部30は、前述の第1実施形態の構成に加えて、状況情報取得部52を備える。これは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0107】
状況情報取得部52は、管理サーバ3から送られる対象機器7の稼働状況を示す管理情報を取得する。この管理情報には、それぞれの対象機器7の対象機器IDに対応付けて、対象機器7が稼働中であるか非稼働中であるかを示す情報が含まれている。
【0108】
第2実施形態の稼働状況識別部32は、管理情報に基づいて、対象機器7の稼働状況を識別する。このようにすれば、管理サーバ3から送られる管理情報に基づいて、対象機器7の稼働状況を識別できるため、稼働状況の識別精度を高めることができる。そして、稼働状況識別部32は、識別した対象機器7の稼働状況を示す情報を、対象機器管理テーブル(図14)に登録する。
【0109】
図14に示すように、点検ロボット2,2Aの記憶部27には、対象機器管理テーブルが記憶されている。
【0110】
第2実施形態の対象機器管理テーブルには、対象機器IDに対応付けて、対象機器7の稼働状況の項目と、対象機器7の詳細状況の項目と、対象機器7の運転開始時刻の項目と、点検予定時間の項目と、対象機器7の周囲に設定される禁止領域の項目と、対象機器7の属性の項目とが設けられている。属性登録部51は、属性情報を対象機器管理テーブルに登録する。
【0111】
詳細状況の項目には、対象機器7の詳細な情報が登録される。現在の稼働状況のみならず、予定される稼働状況も登録される。例えば、現在は停止中であっても、点検ロボット2,2Aの点検中に運転を行う予定がある場合、または運転準備中である場合には、その旨が登録される。
【0112】
運転開始時刻の項目には、現在非稼働中の対象機器7の運転開始時刻が登録される。
【0113】
点検予定時間の項目には、点検ロボット2,2Aの点検予定時間が登録される。例えば、点検ロボット2,2Aが巡回点検を行う時間帯が登録される。
【0114】
現在非稼働中の対象機器7であっても、点検ロボット2,2Aの点検中に稼働が開始される場合がある。この場合に、対象機器7の禁止領域Nが、非稼働中に対応する第2距離L2の範囲に設定されていると、点検ロボット2,2Aが対象機器7に近接または接触してしまう懸念がある。
【0115】
そこで、領域設定部33は、運転開始時刻と点検予定時間とを参照し、現在非稼働中の対象機器7であっても、点検ロボット2,2Aの点検中に稼働される予定がある場合には、その対象機器7の対象機器IDに対応付けて「第1距離」を登録する。このようにすれば、点検ロボット2,2Aの点検中に稼働状況が変化する場合でも、禁止領域Nを適切に設定できる。そして、点検ロボット2,2Aが対象機器7に近接または接触してしまうリスクを低減することができる。
【0116】
なお、現在非稼働中の対象機器7であっても、点検ロボット2,2Aの点検中に稼働されるおそれがない場合、つまり、対象機器7の運転開始時刻まで余裕がある場合には、禁止領域Nの設定を変更する必要はない。
【0117】
属性の項目には、対象機器7の属性を示す属性情報が登録される。例えば、対象機器7が「換気扇」を備える場合には、その旨が登録される。また、対象機器7の稼働中に「強磁界」を発生させる場合には、その旨が登録される。
【0118】
点検ロボット2,2Aは、その移動機構により性能が異なる。例えば、点検ロボット2,2Aは、その種別により周囲の環境から受ける影響が異なる。第2実施形態の領域設定部33は、種別情報と属性情報に基づいて、禁止領域Nを設定する。
【0119】
例えば、換気扇を備える対象機器7の場合には、稼働中に換気扇から風が発生する。そのため、その対象機器7の近傍を飛行型の点検ロボット2Aが通過するとその影響を受けるおそれがある。特に、飛行型の点検ロボット2Aは、周辺環境に移動精度が左右される。対象機器7の付近では、ホバリングして姿勢を整えるための高度な制御が要求される。そのため、対象機器7の禁止領域Nを広い範囲(第1距離L1)に設定する。一方、走行型の点検ロボット2の場合は、換気扇から発生する風の影響を受け難いため、対象機器7の禁止領域Nを狭い範囲(第2距離L2)に設定しても良い。
【0120】
また、稼働中に高電圧を用いて強磁界を発生させる対象機器7の場合には、飛行型の点検ロボット2Aが影響を受けるおそれがある。この場合にも、対象機器7の禁止領域Nを広い範囲(第1距離L1)に設定する。一方、走行型の点検ロボット2の場合は、強磁界の影響を受け難いため、対象機器7の禁止領域Nを狭い範囲(第2距離L2)に設定しても良い。このようにすれば、点検ロボット2,2Aの種別に応じて異なる態様の禁止領域Nを設定することができる。
【0121】
なお、点検ロボット2,2Aの種別によらずに、対象機器7の禁止領域Nの設定を同一にしても良い。
【0122】
点検システムおよび点検方法を第1実施形態から第2実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0123】
例えば、稼働状況識別部32は、複数の対象機器7のうち、一部の対象機器7の稼働状況の識別を点検ロボット2に設けられたセンサで取得された情報に基づいて行い、他の対象機器7の稼働状況の識別を管理サーバ3が有する管理情報に基づいて行っても良い。
【0124】
なお、前述の実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0125】
前述の実施形態のシステムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0126】
なお、前述の実施形態のシステムで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0127】
また、このシステムで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0128】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも稼働状況に基づいて、環境地図における対象機器の周囲に点検ロボットの進入を禁止する禁止領域を設定する領域設定部を備えることにより、点検ロボットの進入を禁止する禁止領域を適切に設定できる。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0130】
1(1A)…点検システム、2(2A)…点検ロボット、3…管理サーバ、4…管理用端末、5…ネットワーク、6…プラント、7(7A,7B,7’)…対象機器、8…管理事務所、9…ディスプレイ、10…遠隔操作端末、11…レイアウト図面、13…記憶部、14…通信部、15…サーバ制御部、16…対象機器管理部、17…ロボット管理部、20…カメラ、21…サーモカメラ、22…マイクロフォン、23…磁気センサ、24…3次元測定センサ、25…モーションセンサ、26…移動機構部、27…記憶部、28…通信部、30…ロボット制御部、31…地図設定部、32…稼働状況識別部、33…領域設定部、34…経路生成部、35…設定変更部、36…自律移動制御部、40…制御盤、41…表示部、42…メータ、43…表示灯、44…発電機、45…発熱部、50…種別登録部、51…属性登録部、52…状況情報取得部、E…許可領域、L1…第1距離、L2…第2距離、M…管理者、N(N’)…禁止領域、R…移動経路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14