(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160829
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】野菜の処理方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/153 20060101AFI20221013BHJP
A23B 7/158 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
A23B7/153
A23B7/158
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065287
(22)【出願日】2021-04-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】521147134
【氏名又は名称】アート食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148895
【弁理士】
【氏名又は名称】荒木 佳幸
(72)【発明者】
【氏名】沖田 徹
(72)【発明者】
【氏名】田島 郁也
【テーマコード(参考)】
4B169
【Fターム(参考)】
4B169AA04
4B169HA01
4B169KA02
4B169KA07
4B169KB03
4B169KC08
4B169KC18
4B169KC19
(57)【要約】
【課題】野菜の酸化を抑制して、長期間に亘って変色を防止することが可能な野菜の処理方法を提供すること。
【解決手段】野菜の処理方法が、処理対象である野菜を喫食サイズにカットする工程Aと、工程Aの実施後に、野菜を収容籠に入れる工程Bと、工程Bの実施後に、収容籠を洗浄液で満たされた洗浄槽に5~10分間完全に沈めた状態で、収容籠を0.15~0.7m/分の移動速度で移動させる、又は洗浄液を3~10L/分の水流で循環させる工程Cと、工程Cの実施後に、収容籠を殺菌液で満たされた殺菌槽に3~10分間完全に沈めた状態で、収容籠を0.15~0.7m/分の移動速度で移動させる、又は殺菌液を3~10L/分の水流で循環させる工程Dと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象である野菜を喫食サイズにカットする工程Aと、
前記工程Aの実施後に、前記野菜を収容籠に入れる工程Bと、
前記工程Bの実施後に、前記収容籠を洗浄液で満たされた洗浄槽に5~10分間完全に沈めた状態で、前記収容籠を0.15~0.7m/分の移動速度で移動させる、又は前記洗浄液を3~10L/分の水流で循環させる工程Cと、
前記工程Cの実施後に、前記収容籠を殺菌液で満たされた殺菌槽に3~10分間完全に沈めた状態で、前記収容籠を0.15~0.7m/分の移動速度で移動させる、又は前記殺菌液を3~10L/分の水流で循環させる工程Dと、
を含む野菜の処理方法。
【請求項2】
前記殺菌液は、アルカリ性食品殺菌剤、中性食品殺菌剤、又は酸性食品殺菌剤のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の野菜の処理方法。
【請求項3】
前記野菜は、クロロフィル含有野菜を含み、
前記殺菌液は、50~300ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であり、
前記野菜が、前記工程Dの前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液によって所定のpH値に調整されることを特徴とする請求項1に記載の野菜の処理方法。
【請求項4】
前記工程Dの実施後に、50~90℃で1~10分間加熱処理する工程をさらに含む、請求項3に記載の野菜の処理方法。
【請求項5】
前記野菜は、クロロフィル含有野菜を含み、
前記殺菌液は、50~300ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であり、
前記工程Dの実施後に、前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液を脱水する工程Eと、
前記工程Eの実施後に、前記野菜の表面に0.2~0.5%の濃度の炭酸水素ナトリウム溶液を付与して前記野菜を所定のpHに調整する工程Fと、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の野菜の処理方法。
【請求項6】
前記工程Fの実施後に、50~90℃で1~10分間加熱処理する工程をさらに含む、請求項5に記載の野菜の処理方法。
【請求項7】
前記所定のpH値が、7.0~9.5であることを特徴とする請求項3から請求項6のいずれか一項に記載の野菜の処理方法。
【請求項8】
前記収容籠は、多数の貫通孔を有する金属製の有底筒状の本体部と、多数の貫通孔を有し、前記本体部の開口部を塞ぐように配置される金属製の蓋体部と、を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の野菜の処理方法。
【請求項9】
前記本体部の貫通孔の直径及び前記蓋体部の貫通孔の直径が、前記喫食サイズよりも小さいことを特徴とする請求項8に記載の野菜の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜の処理方法に関し、特に、喫食サイズにカットされた野菜を洗浄、殺菌する処理を含む野菜の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭内での調理が簡便になることから、カット野菜やミールキットなど、生野菜をそのまま加工した加工品の需要が急増している。
【0003】
このような加工品(カット野菜)の製造工程は、一般に、トリミング、洗浄、切断、殺菌処理(アルカリ性食品殺菌剤(例えば、次亜塩素酸ナトリウム等)、中性食品殺菌剤(例えば、次亜塩素酸水等)、酸性食品殺菌剤(例えば、過酢酸製剤等)による処理)、洗浄(殺菌剤特有の臭いがとれるまでの入念な洗浄)、脱水、秤量、パック化の手順で行われるが、一般に加工された野菜表皮の微細な傷等には微生物が残存し、しかも傷によっては殺菌剤溶液が接触できない部分(つまり、殺菌処理できない部分)が残ってしまうことがあるため、菌が繁殖し、可食域とされる菌数を短期間内に越えてしまうのが現状である。
かかる問題を解決するため、本発明者らは、先の特許文献1において、経済的、殺菌効果の面から多用されているアルカリ性食品殺菌剤の生鮮食品の残存塩素臭がほとんどなく、付着している残存生菌数(初発菌数)が顕著に低く、長期保存しても、雑菌の繁殖を抑えて生鮮食品の鮮度が維持できる生鮮食品の殺菌方法を提案した。
また、本発明者らは、先の特許文献2において、処理から長時間が経過しても、収穫時と同程度の色調や硬度が維持されると共に、害虫卵も効果的に除去され、更に、雑菌の繁殖も有利に抑制される野菜の処理方法を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-10349号公報
【特許文献2】特許5903459号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが先に提案した処理方法を含む、従来の処理方法(殺菌方法)にあっては、殺菌(雑菌の繁殖防止)や変色の抑制に関して、ある程度の効果が認められるものの、傷、加熱、紫外線に起因よる変色や退色を防止することができず、処理から時間が経過すると(例えば、処理から3日~5日経過すると)、変色や退色が発生してしまうため、さらなる改善が求められていた。
また、傷、加熱、紫外線による変色や退色は、クロロフィルを含有する緑色野菜において顕著であり、また緑色野菜が変色や退色すると、商品価値が著しく低下してしまうため、特に緑色野菜の変色や退色を抑制することが求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、野菜の傷の発生を抑制して、長期間に亘って変色や退色を防止することが可能な野菜の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明者らが上記目的を達成するために鋭意検討したところ、現在流通するカット野菜の変色や退色の主な原因が、従来の洗浄工程や殺菌工程で用いられるバブリング等の激しい水流等によって生成される、カット野菜の表面の傷に由来することを見出した。そして、カット野菜を所定の収容籠に入れ、静かな水流で洗浄、殺菌すると、野菜の表面に傷が入らず、変色や退色が抑えられることを見出した。
また、本発明者らは、さらに検討を行ったところ、pH調整のみで、加熱による変色や退色を防止し、長期保存が可能であることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明の野菜の処理方法は、処理対象である野菜を喫食サイズにカットする工程Aと、工程Aの実施後に、野菜を収容籠に入れる工程Bと、工程Bの実施後に、収容籠を洗浄液で満たされた洗浄槽に5~10分間完全に沈めた状態で、収容籠を0.15~0.7m/分の移動速度で移動させる、又は洗浄液を3~10L/分の水流で循環させる工程Cと、工程Cの実施後に、収容籠を殺菌液で満たされた殺菌槽に3~10分間完全に沈めた状態で、収容籠を0.15~0.7m/分の移動速度で移動させる、又は殺菌液を3~10L/分の水流で循環させる工程Dと、を含むことを特徴とする。
【0009】
このような野菜の処理方法によれば、0.15~0.7m/分の収納籠の移動、又は3~10L/分の洗浄液の水流によって野菜の一片一片が洗浄され、また0.15~0.7m/分の収納籠の移動、又は3~10L/分の殺菌液の水流によって野菜の一片一片が殺菌される。このため、十分な洗浄と殺菌を行いつつも、野菜表皮への傷の発生を抑制し、野菜の変色や退色を抑えることができる。
【0010】
また、殺菌液は、アルカリ性食品殺菌剤、中性食品殺菌剤、又は酸性食品殺菌剤のいずれかであることが望ましい。
【0011】
また、野菜は、クロロフィル含有野菜を含み、殺菌液は、50~300ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であり、野菜が、工程Dの次亜塩素酸ナトリウム水溶液によって所定のpH値に調整されることが望ましい。また、この場合、工程Dの実施後に、50~90℃で1~10分間加熱処理する工程をさらに含むことができる。
【0012】
また、野菜は、クロロフィル含有野菜を含み、殺菌液は、50~300ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であり、工程Dの実施後に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を脱水する工程Eと、工程Eの実施後に、野菜の表面に0.2~0.5%の濃度の炭酸水素ナトリウム溶液を付与して野菜を所定のpHに調整する工程Fと、をさらに含むことが望ましい。また、この場合、工程Fの実施後に、50~90℃で1~10分間加熱処理する工程をさらに含むことができる。
【0013】
また、所定のpH値が、7.0~9.5であることが望ましい。
【0014】
また、収容籠は、多数の貫通孔を有する金属製の有底筒状の本体部と、多数の貫通孔を有し、本体部の開口部を塞ぐように配置される金属製の蓋体部と、を有することが望ましい。また、この場合、本体部の貫通孔の直径及び蓋体部の貫通孔の直径が、喫食サイズよりも小さいことが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の野菜の処理方法によれば、静かな水流で洗浄、殺菌するため、野菜の表面の傷の発生が抑制され、変色や退色が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る野菜の処理方法の工程Bを説明する図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る野菜の処理方法の工程Cを説明する図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る野菜の処理方法の工程Dを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、現在流通するカット野菜の変色や退色の原因が、従来の洗浄処理及び殺菌処理によって発生する、カット野菜の表面の傷に由来することを見出した。
一般に、従来の洗浄処理及び殺菌処理は、洗浄槽及び殺菌槽に処理対象のカット野菜を入れ、バブリング等によって激しい水流を発生させることによって行われる。本発明者らは、洗浄処理前のカット野菜の表面と、殺菌処理後のカット野菜の表面を比較することによって、洗浄処理及び殺菌処理によってカット野菜の表面に微細な傷が発生することを見出した。これは、バブリング等による激しい水流や缶壁への衝突等によって発生するものと考えられる。
このようにカット野菜の表面に傷が付いた状態でパックされると、野菜の呼気量が増大する。ちなみにホール野菜を1/2カットすることにより、呼気量は約2倍に増えるといわれている。そして、パックされた状態で野菜の呼気量が増大すると、パック内の酸素量が減少し炭酸ガスが増え、冷蔵による冷却効果が損なわれ、エチレンガスの誘引につながる。そして、エチレンガスの発生により、変色や退色が進むものと考えられる。
本発明は、このようなカット野菜の表面の傷に着目してなされたものであり、カット野菜の表面に傷が付かないように処理することで、野菜の変色や退色を抑えられる。
また、本発明者らは、pH調整のみで、加熱による変色や退色を防止し、長期保存が可能であることを見出した。
一般に市販されているクロロフィルの変色、退色防止剤には、アスコルビン酸塩等の酸化防止剤やマグネシウムの補強材で構成される製剤があるが、本発明は、pH調整のみで、加熱による変色や退色を防止するものである。
【0018】
本発明の対象とする野菜としては、特に限定されるものではないが、傷、加熱、紫外線による変色が著しい、クロロフィル含有野菜類に適用するのが好ましい。クロロフィル含有野菜類としては、緑色野菜(例えば、キャベツ、小松菜、ホウレンソウ、アスパラガス、ピーマン、インゲン、春菊、チンゲン菜、行者菜、ブロッコリー、大根の葉、万能葱、おかひじき、ししとう、明日葉、クレソン、えんどう豆、青菜、大葉、ケール、高菜、せり、なずな、よもぎ、ニラ、野沢菜、ニンニクの芽、パセリ、わけぎ、モロヘイヤ、みつば、芽キャベツ、バジルなど)が挙げられる。
【0019】
また、本発明において「カット野菜」とは、サラダやミールキットに利用する野菜を千切り、角切り等、任意のサイズ(つまり、喫食サイズ)にカットした加工物のことである。
【0020】
(野菜の処理方法)
本発明の野菜の処理方法の一態様(以下、「本実施形態」という。)は、野菜を喫食サイズにカットする工程Aと、カットした野菜を収容籠10に入れる工程Bと、野菜を洗浄する工程Cと、野菜を殺菌する工程Dと、野菜を脱水する工程Eと、を含むものであり、これによってサラダ等に利用されるカット野菜が得られる。
【0021】
(工程A)
工程Aは、処理対象となる野菜(例えば、キャベツ)を喫食サイズにカットする工程である。工程Aでは、野菜の外葉や皮や芯を予め取り除いた上で、刃物によって、角切り、千切り、短冊切り、銀杏切り、拍子切り、輪切り等にカットしたり、手による「ちぎり」によってカットする。喫食サイズとしては、幅1.0~5.0mm前後の千切り、又は1~4cmの角切りとしたものが、調理のし易さや食べやすさの点で好ましい。
【0022】
(工程B)
工程Bは、工程Aの実施後に、カットした野菜Tを収容籠10に入れる工程である。
図1は、工程Bを説明する図であり、
図1(a)は、カットした野菜Tが収容籠10に入る様子を示す斜視図であり、
図1(b)は、工程Bの実施後(つまり、カットした野菜Tが収容籠10に入っている状態)の収容籠10を示す斜視図である。
図1に示すように、工程Bで用いる収容籠10は、多数の貫通孔12aを有する金属製(例えば、ステンレス)の有底筒状(バケツ型)の本体部12と、多数の貫通孔14aを有し、本体部12の開口部を塞ぐように配置される金属製(例えば、ステンレス)の円板状の蓋体部14と、で構成されている。
工程Bでは、3~5kgのカットした野菜Tを収容籠10の本体部12に入れ、蓋体部14を本体部12の開口部に配置して固定する。
なお、本体部12の貫通孔12aの直径と蓋体部14の貫通孔14aの直径は、野菜Tが出ないように、野菜Tのサイズ(喫食サイズ)よりも小さく設定されている。
【0023】
(工程C)
工程Cは、工程Bの実施後に、収容籠10を洗浄液CL(例えば、水、特許文献2に記載の洗浄液等)で満たされた洗浄槽20に完全に沈めた状態で、野菜Tを洗浄する工程である。
図2は、工程Cを説明する模式図である。
図2に示すように、工程Cでは、カットした野菜Tが入った収容籠10を洗浄液CLで満たされた洗浄槽20に完全に沈める(a1)。収容籠10を洗浄槽20に完全に沈めると、洗浄液CLが収容籠10の本体部12の貫通孔12a、及び蓋体部14の貫通孔14aから収容籠10内に入り、収容籠10は洗浄液CLが満たされた状態で沈下する。そして、収容籠10が沈下すると、洗浄槽20の底面から所定の距離(例えば、10cm)をおいて上方に設置されたレール22上に配置される(a1)。
次いで、工程Cでは、収容籠10をレール22に沿って、0.15~0.7m/分の移動速度で移動させ、5~10分間かけてa1、a2、a3の位置に移動させ、その後、収容籠10を洗浄槽20から取り出す(a4)。
このように、工程Cでは、収容籠10を洗浄液CLに対して相対的にゆっくり移動させることによって、野菜Tの表面を洗浄液CLが流れ、これによって野菜Tの一片一片をムラなく均一に洗浄している。なお、工程Cで使用する洗浄槽20には、不図示の洗浄液供給装置から常時一定量の洗浄液CLが供給されるようになっており、外壁よりも若干低く形成された洗浄槽20の内壁22上端部から洗浄液CLが溢れるように(つまり、オーバーフローするように)なっている。
従って、野菜Tに付着している比較的軽い異物(例えば、虫など)は、収容籠10の本体部12の貫通孔12a、及び蓋体部14の貫通孔14aを通って洗浄液CL内に取り出され、浮上し、洗浄液CLのオーバーフローによって外部に排出される。また、野菜Tに付着している比較的重い異物(例えば、砂など)は、収容籠10の本体部12の貫通孔12a、及び蓋体部14の貫通孔14aを通って洗浄液CL内に取り出され、洗浄槽20の底面に沈殿する。つまり、工程Cによって、野菜Tの洗浄を行いながら、効率よく異物を除去している。
このように、工程Cでは、収容籠10を洗浄液CLに対して相対的にゆっくり移動させて野菜Tを洗浄するため(つまり、従来のようなバブリング等を行わないため)、野菜Tの表面に傷がつかない。なお、収容籠10を移動させる構成に代えて、収容籠10を洗浄槽20に完全に沈めた状態で、洗浄液CLを3~10L/分のゆっくりした水流で循環させてもよい。なお、収容籠10の移動速度を0.7m/分よりも速くしたり、洗浄液CLの水流を10L/分よりも速くすると、野菜Tが収容籠10内で収容籠10の内面に衝突し、表面に傷が発生し易くなる。また、収容籠10の移動速度を0.15m/分よりも遅くしたり、洗浄液CLの水流を3L/分よりも遅くすると、野菜Tの洗浄が不十分になり易い。また、洗浄時間については、5分よりも短いと野菜Tの洗浄が不十分になり易く、10分よりも長いと洗浄工程がボトルネックとなり生産能力が低下する。
【0024】
(工程D)
工程Dは、工程Cの実施後に、収容籠10を殺菌液BS(本実施形態においては、50~300ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液)で満たされた殺菌槽30に完全に沈めて、野菜Tを殺菌する工程である。
図3は、工程Dを説明する模式図である。
図3に示すように、工程Dでは、カットした野菜Tが入った収容籠10を殺菌液BSで満たされた殺菌槽30に完全に沈める(b1)。収容籠10を殺菌槽30に完全に沈めると、殺菌液BSが収容籠10の本体部12の貫通孔12a、及び蓋体部14の貫通孔14aから収容籠10内に入り、収容籠10は殺菌液BSが満たされた状態で沈下する。そして、収容籠10が沈下すると、殺菌槽30の底面から所定の距離(例えば、10cm)をおいて上方に設置されたレール32上に配置される(b1)。
次いで、工程Dでは、収容籠10をレール32に沿って、0.15~0.7m/分の移動速度で移動させ、3~10分間かけてb1、b2、b3の位置に移動させ、その後、収容籠10を殺菌槽30から取り出す(b4)。
このように、工程Dでは、収容籠10を殺菌液BSに対して相対的にゆっくり移動させることによって、野菜Tの表面を殺菌液BSが流れ、これによって野菜Tの一片一片をムラなく均一に殺菌している。このため(つまり、従来のようなバブリング等を行わないため)、野菜Tの表面に傷がつかない。なお、収容籠10を移動させる構成に代えて、収容籠10を殺菌槽30に完全に沈めた状態で、殺菌液BSを3~10L/分のゆっくりした水流で循環させてもよい。なお、収容籠10の移動速度を0.7m/分よりも速くしたり、殺菌液BSの水流を10L/分よりも速くすると、野菜Tが収容籠10内で収容籠10の内面に衝突し、表面に傷が発生し易くなる。また、収容籠10の移動速度を0.15m/分よりも遅くしたり、殺菌液BSの水流を3L/分よりも遅くすると、野菜Tの殺菌が不十分になり易い。また、洗浄時間については、3分よりも短いと野菜Tの殺菌が不十分になり易く、10分よりも長いと殺菌工程がボトルネックとなり生産能力が低下する。また、殺菌液BSとして次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いる場合、濃度を300ppmよりも濃くすると経済的に不利になり、50ppmよりも薄くすると、野菜Tの殺菌が不十分になり易い。
【0025】
(工程E)
工程Eは、工程Dの実施後に、収容籠10を回転させて殺菌液BSを遠心脱水する工程である。工程Eの実施後、収容籠10から野菜Tを取り出してパックすることにより加工品が完成する。
【0026】
このように、本実施形態の野菜の処理方法においては、工程Bから工程Eに至るまで、野菜Tを収容籠10に入れた状態で処理される。従って、工程Bから工程Eに至るまで連続生産(一貫生産)が可能であり、多品種同時生産も可能となる。
また、収容籠10は蓋体部14を有し、野菜Tが収容籠10で常に覆われているため、工程B、Cにおいて野菜Tが収容籠10から漏れ出すこともなく、浮上してしまうこともなく、均一な洗浄と殺菌が可能である。
また、本実施形態の野菜の処理方法においては、工程Cにおいて、収容籠10を洗浄液CLに対して相対的にゆっくり移動させることによって野菜Tを洗浄している。従って、従来のような、大量の洗浄液を供給しながら攪拌したりバブリングする洗浄工程と比較して、洗浄液CLの使用量が格段に抑えられると共に、バブリング装置が不要となるため、生産コストが大幅に抑えられる。
また、野菜Tの表面の傷の発生が抑えられるため、雑菌の繁殖が少ない。
表1は、従来の処理方法(洗浄、トリミング、切断、殺菌処理(次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌)、洗浄(殺菌剤特有の臭いがとれるまでの入念な洗浄)、脱水)で処理した野菜(レタス、キャベツ)の生菌数と、本実施形態の野菜の処理方法で処理した野菜(レタス、キャベツ)の生菌数の比較表である。
【0027】
【0028】
表1の「D+4」は「加工日+4日後」の生菌数の数を示し、「D+8」は「加工日+8日後」の生菌数の数を示し、「D+11」は「加工日+11日後」の生菌数の数を示している。
表1に示すように、本実施形態の野菜の処理方法で処理した野菜(レタス、キャベツ)の生菌数・大腸菌群は、従来の処理方法で処理した野菜(レタス、キャベツ)の生菌数・大腸菌群と比較して格段に少なく、処理から時間が経過しても低く維持されているのが分かる。
これは、本実施形態の野菜の処理方法で処理した野菜の方が、従来の処理方法で処理した野菜よりも表面の微細な傷が少なく、洗浄、殺菌がムラなく均一に行われることに加え、傷内に残存する生菌数が少ないことに因るものと考えられる。
このように、本実施形態の野菜の処理方法によれば、野菜の表面の傷の発生が抑制され、処理から時間が経過しても生菌数が極めて低く維持される。
従って、その結果、野菜の変色や退色が抑えられることとなる。
【0029】
ここで、一般に、緑色野菜の加熱時における変色は、クロロフィルの熱、酸化、紫外線による分解が原因で、クロロフィルを形成するマグネシウムの分解によりクロロフィルがフェオフィチンに変化することに起因していることが知られている。また、フェオフィチンの変化率は、pHによって異なることも報告されている(例えば、「吉田優子,外1名,“クロロフィルの色調に及ぼす加熱とpHの影響”,帯広大谷短期大学紀要,1992年,第29巻,p.7-10」を参照)。
そこで、本発明者らは、野菜Tの変色を抑制する方法について、pH値に着目して検討したところ、本実施形態の野菜の処理方法で処理した野菜TのpH値を7.0~9.5に制御すると、加熱や紫外線による変色や退色も抑えられることを見出した。
【0030】
(pH値の検討)
表2は、本発明者らが行ったpH値の検討結果を示す表であり、試料A、B、Cについて、「紫外線がある」環境と、「紫外線がない」環境とで、野菜Tの変色や退色の有無を評価した。
【0031】
【0032】
試料Aは、ピーマン30gとキャベツ30gを野菜Tとし、上記工程A~工程Eによって処理した結果である。工程Eの実施後、収容籠10から野菜Tを取り出して真空パックし、65~70°で3分間湯せん加熱し、その後、冷蔵庫(5~10℃)で保管したものである。
試料Bは、ピーマン30gとキャベツ30gを野菜Tとし、上記工程A~工程Dによって(つまり、工程Eを省略して)処理した結果である。工程Dの実施後、収容籠10から野菜Tを取り出して真空パックし、65~70°で3分間湯せん加熱し、その後、冷蔵庫(5~10℃)で保管したものである。
試料Cは、ピーマン30gとキャベツ30gを野菜Tとし、上記工程A~工程Eによって処理し、工程Eの実施後、収容籠10から野菜Tを取り出して、野菜Tの表面に0.3%の濃度の炭酸水素ナトリウム溶液を噴霧してpH調整を行い、真空パックし、65~70°で3分間湯せん加熱し、その後、冷蔵庫(5~10℃)で保管したものである。
表2の「D+5」は「加工日+5日後」の色調変化(変色や退色)の度合いを目視で評価した結果を示し、「D+10」は「加工日+10日後」の色調変化(変色や退色)の度合いを目視で評価した結果を示している。なお、表2において、「×」は「明らかに変色や退色が認められる」ことを意味し、「△」は「変色や退色が認められる」ことを意味し、「〇」は「若干の変色や退色が認められるが許容範囲内である」ことを意味し、「◎」は「殆ど変色や退色が認められない」ことを意味する。
【0033】
表2に示すように、本実施形態の工程A~工程Eで処理すると(つまり、試料Aの場合)、紫外線のない環境下では「加工日+5日後」まで野菜Tの変色は抑えられたが、「加工日+10日後」では変色や退色が認められた。また、紫外線のある環境下では「加工日+5日後」の時点で野菜Tの変色や退色が認められた。
一方、試料Bでは、工程Eを省略した結果、野菜Tの表面に工程Dの次亜塩素酸ナトリウム水溶液が付着した状態となり、pH=9.4となったため、紫外線のない環境下では「加工日+10日後」でも野菜Tの変色や退色は許容範囲内となり、紫外線のある環境下であっても「加工日+5日後」までは野菜Tの変色や退色は殆ど認められなかった。
また、試料Cでは、野菜Tの表面に0.3%の濃度の炭酸水素ナトリウム溶液を噴霧した結果、pH=8.4となったため、紫外線のない環境下では「加工日+10日後」でも野菜Tの変色や退色は殆ど認められず、紫外線のある環境下であっても「加工日+10日後」まで許容範囲内となった。
このように、本実施形態の野菜の処理方法で処理した野菜TのpH値を7.0~9.5に制御すると、加熱後、さらに紫外線のある環境下であっても、少なくとも「加工日+5日後」まで、条件によっては「加工日+10日後」まで野菜Tの変色や退色が抑えられることが分かった。
そこで、本実施形態においては、工程Eの実施後に、pH調整を行う工程Fを追加して、加熱や紫外線による野菜Tの変色や退色を抑えている。
換言すると、緑色野菜の加熱時における変色や退色を抑えるためには、一般的に、アスコルビン酸塩等の酸化防止剤やマグネシウムの補強材で構成される製剤を使用するが、本実施形態においては、野菜TへのpH調整液の添加のみで同様の対策を行っている。
【0034】
(工程F)
より具体的には、工程Fは、上記試料Cに対応するものであり、工程Eの実施後に、野菜Tの表面に0.2~0.5%の濃度の炭酸水素ナトリウム溶液を付与して(例えば、噴霧して)野菜TをpH=8.4に調整する工程である。また、別の態様(実施形態)としては、上記試料Bとして説明したように、工程Dにおいて、pH=9.4の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用しているため、工程Eの脱水処理を省略して、工程Dの次亜塩素酸ナトリウム水溶液でpH調整してもよい。この場合、工程Dの実施後、収容籠10から野菜Tを取り出してパックすることにより加工品が完成する。
【0035】
以上が本発明の実施形態の説明であるが、本発明は、上記の実施形態の構成に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で様々な変形が可能である。
【0036】
例えば、本実施形態の野菜の処理方法においては、殺菌液BSとして、50~300ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(つまり、アルカリ性食品殺菌剤)を使用したが、このような態様に限定されるものではない。殺菌液BSとしては、処理対象となる野菜の種類に応じて、中性食品殺菌剤(例えば、次亜塩素酸水等)、酸性食品殺菌剤(例えば、過酢酸製剤等)を使用することもできる。
【0037】
また、本実施形態の野菜の処理方法においては、工程Aから工程Fによるものを説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、工程Fの実施後に、さらに加熱処理の工程Gを追加することによって、ミールキット用の加工品ができる。
【0038】
(工程G)
より具体的には、工程Gは、工程Fの実施後に、50~90℃で1~10分間加熱処理する工程である。このように、工程Fの実施後に、工程Gを追加すると、ミールキット用の加工品ができる。
近年のミールキットの商品開発における最も重要な要素として加熱調理における簡便性が不可欠である。例えば、中華料理の回鍋肉等において加熱済みカット野菜、調理済み畜肉類及び調味タレの3点を1セットとして提供した場合、調理時間としては2~3分程度で、家庭で簡単に調理が可能となり、熱エネルギー及び労力の軽減化を図ることができる。
このように、上記工程Aから工程Eからなる本発明の野菜の処理方法をベースとし、それに工程F、Gを追加することにより、ミールキット用の加工品が得られるため、本発明はさらなる消費者の利益につながる。
【0039】
なお、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
10 :収容籠
12 :本体部
12a :貫通孔
14 :蓋体部
14a :貫通孔
20 :洗浄槽
22 :レール
30 :殺菌槽
32 :レール
【手続補正書】
【提出日】2021-10-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象である野菜を喫食サイズにカットする工程Aと、
前記工程Aの実施後に、前記野菜を収容籠に入れる工程Bと、
前記工程Bの実施後に、前記収容籠を洗浄液で満たされた洗浄槽に5~10分間完全に沈めた状態で、前記収容籠を0.15~0.7m/分の移動速度で移動させる、又は前記洗浄液を3~10L/分の水流で循環させる工程Cと、
前記工程Cの実施後に、前記収容籠を殺菌液で満たされた殺菌槽に3~10分間完全に沈めた状態で、前記収容籠を0.15~0.7m/分の移動速度で移動させる、又は前記殺菌液を3~10L/分の水流で循環させる工程Dと、
を含む野菜の処理方法。
【請求項2】
前記殺菌液は、アルカリ性食品殺菌剤、中性食品殺菌剤、又は酸性食品殺菌剤のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の野菜の処理方法。
【請求項3】
前記野菜は、クロロフィル含有野菜を含み、
前記殺菌液は、50~300ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であり、
前記野菜が、前記工程Dの前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液によって所定のpH値に調整されることを特徴とする請求項1に記載の野菜の処理方法。
【請求項4】
前記所定のpH値が、7.0~9.5であることを特徴とする請求項3に記載の野菜の処理方法。
【請求項5】
前記工程Dの実施後に、前記収容籠から前記野菜を取り出して、洗浄することなくパックする工程を含む、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の野菜の処理方法。
【請求項6】
前記パックする工程の実施後に、50~90℃で1~10分間加熱処理する工程をさらに含む、請求項5に記載の野菜の処理方法。
【請求項7】
前記野菜は、クロロフィル含有野菜を含み、
前記殺菌液は、50~300ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であり、
前記工程Dの実施後に、前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液を脱水する工程Eと、
前記工程Eの実施後に、前記野菜の表面に0.2~0.5%の濃度の炭酸水素ナトリウム溶液を付与して前記野菜を所定のpHに調整する工程Fと、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の野菜の処理方法。
【請求項8】
前記所定のpH値が、7.0~9.5であることを特徴とする請求項7に記載の野菜の処理方法。
【請求項9】
前記工程Fの実施後に、前記収容籠から前記野菜を取り出して、洗浄することなくパックする工程を含む、請求項7又は請求項8に記載の野菜の処理方法。
【請求項10】
前記パックする工程の実施後に、50~90℃で1~10分間加熱処理する工程をさらに含む、請求項9に記載の野菜の処理方法。
【請求項11】
前記収容籠は、多数の貫通孔を有する金属製の有底筒状の本体部と、多数の貫通孔を有し、前記本体部の開口部を塞ぐように配置される金属製の蓋体部と、を有することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の野菜の処理方法。
【請求項12】
前記本体部の貫通孔の直径及び前記蓋体部の貫通孔の直径が、前記喫食サイズよりも小さいことを特徴とする請求項11に記載の野菜の処理方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
また、野菜は、クロロフィル含有野菜を含み、殺菌液は、50~300ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であり、野菜が、工程Dの次亜塩素酸ナトリウム水溶液によって所定のpH値に調整されることが望ましい。また、この場合、所定のpH値が、7.0~9.5であることが望ましい。
また、工程Dの実施後に、収容籠から野菜を取り出して、洗浄することなくパックする工程を含むことができる。また、この場合、パックする工程の実施後に、50~90℃で1~10分間加熱処理する工程をさらに含むことができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
また、野菜は、クロロフィル含有野菜を含み、殺菌液は、50~300ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であり、工程Dの実施後に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を脱水する工程Eと、工程Eの実施後に、野菜の表面に0.2~0.5%の濃度の炭酸水素ナトリウム溶液を付与して野菜を所定のpHに調整する工程Fと、をさらに含むことが望ましい。また、この場合、所定のpH値が、7.0~9.5であることが望ましい。
また、工程Fの実施後に、収容籠から野菜を取り出して、洗浄することなくパックする工程を含むことができる。また、この場合、パックする工程の実施後に、50~90℃で1~10分間加熱処理する工程をさらに含むことができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】削除
【補正の内容】