(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016086
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】義歯の作製方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/01 20060101AFI20220114BHJP
A61C 13/113 20060101ALI20220114BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20220114BHJP
【FI】
A61C13/01
A61C13/113
A61K6/887
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119362
(22)【出願日】2020-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】瘧師 歩
(72)【発明者】
【氏名】豊田 真奈
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達矢
【テーマコード(参考)】
4C089
4C159
【Fターム(参考)】
4C089AA03
4C089BD01
4C089BE02
4C089BE03
4C089CA03
4C089CA07
4C089CA08
4C159FF18
4C159FF21
(57)【要約】
【課題】 基準義歯の粘膜面上に硬化性義歯床用材料を盛り付けてからこれを患者口腔面と適合化するように形態を整えから硬化させることにより義歯を作製する方法において、光照射器や加熱装置を用いることなく、しかも作業時の操作性が良好で、強度及び靱性が良好な義歯を作製する方法を提供すること。
【解決手段】 上記硬化性義歯床用材料として、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を含んでなる有機充填材〔B〕、及び化学重合開始剤〔C〕を含む重合硬化性組成物であって、当該重合硬化性組成物を調製した直後から弾性が生じるまでの時間で定義される「操作余裕時間」が、例えば5~15分といった所定の時間に調製された重合硬化性組成物からなる化学重合型の硬化性義歯床用材料を使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯床に人工歯が固定された義歯であって、前記義歯床は、前記人工歯が固定される基準義歯床部材と、調整部材とを有し、前記義歯を患者の口腔内に装着した状態において、前記義歯床及び前記基準義歯床部材における、顎堤粘膜側の面を「粘膜面」としたときに、前記義歯の粘膜面の少なくとも一部が前記調整部材で構成されるように前記基準義歯床部材の粘膜面上に前記調整部材が接合されている義歯を作製する方法であって、
(I)基準義歯床部材と人工歯とを備える基準義歯部材であって、当該基準義歯部材を患者の口腔の適切な位置に配置したときに使用上不適切な接触をしない基準義歯を準備する基準義歯部材準備工程;と、
(II)前記調整部材を形成するための工程であって、
(II-1)(メタ)アクリル系モノマー〔A〕、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を含んでなる有機充填材〔B〕、及び化学重合開始剤〔C〕を含む重合硬化性組成物を調製するためのキットであって、これら成分が保存中に重合硬化しないように2つの組成物に分けて包装され、且つ上記2つの組成物を混合してから、弾性が生じるまでの時間で定義される「操作余裕時間」が所定の時間となるように調整されたキットを用い、分包された前記2つの組成物を混合することにより、前記重合硬化性組成物からなる未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料を調製するペースト調製工程と、
(II-2)前記基準義歯部材準備工程で準備された前記基準義歯部材における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記ペースト調製工程で調製された前記未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または前記咬合器内の前記仮想咬合平面上の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料に転写すると共に辺縁形成を行って余剰の前記硬化性義歯床用材料を除去することによって前記調整部材の少なくとも一部を形成する、築盛・転写工程と、を含み、
前記(II-2)築盛・転写工程を前記(II-1)ペースト調製工程における前記混合を開始してから前記操作余裕時間が経過するまでの間に完了させるサイクルを1又は複数回行うことによって、前記調整部材を形成する、調整部材形成工程;と、
を含むことを特徴とする前記義歯の作製方法。
【請求項2】
前記(II-1)ペースト調製工程で調製される前記重合硬化性組成物の操作余裕時間が5~15分であり、前記(II)調整部材形成工程において前記サイクルを複数回繰り返す、ことを特徴とする請求項1に記載の義歯の作製方法。
【請求項3】
前記(II-1)ペースト調製工程で使用する前記キットが、前記成分〔A〕~〔C〕を、
(メタ)アクリル系モノマー〔A1〕及び当該〔A1〕を吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b11)のみを含むか又は当該(b11)並びに非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b21)及び/又は非架橋ポリマー粒子(b31)を含む有機充填材〔B1〕を含有するペースト状の第一組成物と、
(メタ)アクリル系モノマー〔A2〕及び当該〔A2〕を吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b12)、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b22)及び非架橋ポリマー粒子(b32)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む有機充填材〔B2〕を含有するペースト状の第二組成物と、
に分け、且つ前記化学重合開始剤〔C〕の構成成分の各々が、前記第一組成物中及び前記第二組成物中で重合活性を示さないようにして分けて配合されて包装されている、2ペースト型のキットである、
請求項1又は2に記載の義歯の作製方法。
【請求項4】
JIS K5101-13-1:2004に準じて測定される、前記第一組成物に含まれる前記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の単位量:g-B(単位:g)当たりに吸収される前記第一組成物に含まれる(メタ)アクリル系モノマー〔A1〕の量:g-A(単位:g)で定義される吸収量:RAb={(g-A)/(g-B)}が1.5以上である、請求項1乃至3の何れか一項に記載の義歯の作製方法。
【請求項5】
前記第一組成物において、前記(メタ)アクリル系モノマー〔A1〕の単位量(単位:g)当たりの前記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の含有量(単位:g)と、前記吸収量RAbとの積が0.65~1.65である請求項1乃至4の何れか一項に記載の義歯の作製方法。
【請求項6】
前記(II-2)築盛・転写工程において、前記調整部材を形成するための未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料を築盛する前記基準義歯床部材の粘膜面上に、(メタ)アクリル系非架橋ポリマー、(メタ)アクリル系モノマー、及び有機溶媒を含有する液状接着剤を施用する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の義歯の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準義歯部材を用いた義歯の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の急速な高齢化に伴い、義歯の需要が高まっている。通常、義歯は、患者の口腔形状に合わせて1つずつ手作業で細かく調整を行いながら作製される。
【0003】
上述の手作業の労力を低減して義歯を作製する技術として、基準義歯を用いる技術が知られている(特許文献1~2参照)。このような技術に関し、特許文献1には、有歯顎者及び無歯顎者の口腔形状を基に定めた特定の平面形状を有する基準義歯床が開示されている。具体的には、床後縁の左側翼突上顎切痕および左側臼後隆起に相当する第一基準点と右側翼突上顎切痕及び右側臼後隆起に相当する第二基準点とを結ぶ線分の長さを基準長とし、唇側床縁の正中にあたる上(下)唇小帯に相当する第三基準点と、第一基準点及び第二基準点をそれぞれ結ぶ2つの基準線分上の所定の位置に定めた複数のポイントから床縁までの長さを、夫々前記基準長に対する比が所定の範囲となるようにした形状を有する基準義歯床が開示されている。さらに、特許文献1には、上記基準義歯床に人工歯を配列して基準義歯とし、前記基準義歯床に裏装材を築盛してから個別患者の口腔内に試適し、咬合調整を行うことにより、個別患者の口腔形状に合致した義歯が得られる旨が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、基準義歯の位置合わせを行う治具が開示されている。この治具は、基準義歯を患者の口腔内等の適切な位置に配置するためのものであり、基準義歯を保持する基準義歯保持部を有していて、その基準義歯保持部に基準義歯を保持した状態で、口腔内か、または上下無歯顎模型が固定された咬合器に基準義歯を誘導して、前記基準義歯の位置合わせを行うことができる。また、特許文献2には、基準義歯の内面側に裏装材を築盛し、その次に、基準義歯に築盛された裏装材に形状を印記することを特徴とする義歯作製方法についても開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6294706号公報
【特許文献2】国際公開第2018/207867号パンフレット
【特許文献3】特開2002-104912号公報
【特許文献4】特公平4-042364号公報
【特許文献5】特開2000-175941号公報
【特許文献6】WO2015/105103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したように特許文献1には、総義歯タイプの既成の義歯床からなる基準義歯床の粘膜面(基底面)上に裏装材を盛り、患者口腔内粘膜に押し当て、適合化を図るというコンセプトに基づく技術が開示されている。この技術についてもう少し詳しく説明すると、基準義歯とは、義歯の作製を容易化するための材料部材として使用される、既成の義歯状の部材、より具体的には、形状や大きさが所定に規格化され、所定の仕様を満足する部材用製品として工場や技工所などで量産可能な義歯状の部材を意味する。そして、当該基準義歯は、基準義歯床とそれに固定保持される人工歯とからなり、これを部材として用いて義歯を作製した場合、基準義歯の人工歯部分は義歯の人工歯部分となり、基準義歯の義歯床(基準義歯床)は義歯の義歯床の主要部を構成するものとなる。すなわち、基準義歯床は、義歯のベースとなるもので、上記義歯の義歯床の最終的な形態(形状)と比較すると、基準義歯床の粘膜面と(装着者である)個別患者の口腔内粘膜との間に形成される空間又は空隙(当該空間又は空隙を、以下、「基準義歯非適合空間」ともいう。)を裏装材などの硬化性義歯床用材料の硬化体が埋めるようにして基準義歯床の粘膜面に接合することによって(義歯における)義歯床を構成することにより、義歯が個別患者の口腔内粘膜とフィットするようにしている。
【0007】
具体的には、基準義歯床の患者顎堤粘膜と密着する面(粘膜面)上に裏装材等の硬化性義歯床用材料を盛り付けてから、患者の口腔内、或いは患者の口腔内模型を取り付けた咬合器に挿入して、基準義歯の人工歯が正しい咬合平面にあるような位置になるようにして前記硬化性義歯床用材料の形状が患者口腔内粘膜面と適合化するように形態を整え(以下、「粘膜面適合化」ともいう。)てから、上記硬化性義歯床用材料を硬化(以下、前記粘膜面適合化及び当該硬化処理を合わせて「基準義歯床粘膜面適合化処理」ともいう。)させることにより義歯を個別患者の口腔内粘膜とフィットするようにしている。
【0008】
すなわち、上記硬化体で構成される、「基準義歯非適合空間」を埋める部材を「調整部材」と称した場合、前記技術で作製される義歯においては、その義歯床は、基準義歯床と、その粘膜面上に接合する調整部材と、で構成されることになる。
【0009】
このような技術は、基準義歯(床)に裏装材を築盛するだけで容易に患者の口腔形状に適合させることができるので、義歯の作製時間を短縮することができ、例えば訪問診療において患者に適合する義歯をその場で提供することも可能となる。
【0010】
このような訪問診療や技工設備のない歯科医院等での義歯の作製を考えた場合、上記裏装材等の硬化性義歯床用材料の硬化も現場で行う必要があり、光重合のための光照射器や加熱重合のための加熱装置を用いずに硬化を行えるようにすることが好ましい。
【0011】
そこで本発明は、光照射器や加熱装置を用いることなく基準義歯を用いて義歯を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、義歯床に人工歯が固定された義歯であって、前記義歯床は、前記人工歯が固定される基準義歯床部材と、調整部材とを有し、前記義歯を患者の口腔内に装着した状態において、前記義歯床及び前記基準義歯床部材における、顎堤粘膜側の面を「粘膜面」としたときに、前記義歯の粘膜面の少なくとも一部が前記調整部材で構成されるように前記基準義歯床部材の粘膜面上に前記調整部材が接合されている義歯を作製する方法であって、
(I)基準義歯床部材と人工歯とを備える基準義歯部材であって、当該基準義歯部材を患者の口腔の適切な位置に配置したときに使用上不適切な接触をしない基準義歯を準備する基準義歯部材準備工程;と、
(II)前記調整部材を形成するための工程であって、
(II-1)(メタ)アクリル系モノマー〔A〕、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を含んでなる有機充填材〔B〕、及び化学重合開始剤〔C〕を含む重合硬化性組成物を調製するためのキットであって、これら成分が保存中に重合硬化しないように2つの組成物に分けて包装され、且つ上記2つの組成物を混合してから弾性が生じるまでの時間で定義される「操作余裕時間」が所定の時間となるように調整されたキットを用い、分包された前記2つの組成物を混合することにより、前記重合硬化性組成物からなる未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料を調製するペースト調製工程と、
(II-2)前記基準義歯部材準備工程で準備された前記基準義歯部材における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記ペースト調製工程で調製された前記未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または前記咬合器内の前記仮想咬合平面上の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料に転写すると共に辺縁形成を行って余剰の前記硬化性義歯床用材料を除去することによって前記調整部材の少なくとも一部を形成する、築盛・転写工程と、を含み、
前記(II-2)築盛・転写工程を前記(II-1)ペースト調製工程における前記混合を開始してから前記操作余裕時間が経過するまでの間に完了させるサイクルを1又は複数回行うことによって、前記調整部材を形成する、調整部材形成工程;と、
を含むことを特徴とする前記義歯の作製方法である。
【0013】
本発明の義歯の作製方法は、前記(II-1)ペースト調製工程で調製される前記重合硬化性組成物の操作余裕時間が5~15分であり、前記(II)調整部材形成工程において前記サイクルを複数回繰り返すことが好ましい。
【0014】
本発明の義歯の作製方法は、前記(II-1)ペースト調製工程で使用する前記キットが、前記成分〔A〕~〔C〕を、(メタ)アクリル系モノマー〔A1〕及び当該〔A1〕を吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b11)のみを含むか又は当該(b11)並びに非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b21)及び/又は非架橋ポリマー粒子(b31)を含む有機充填材〔B1〕を含有するペースト状の第一組成物と、(メタ)アクリル系モノマー〔A2〕及び当該〔A2〕を吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b12)、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b22)及び非架橋ポリマー粒子(b32)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む有機充填材〔B2〕を含有するペースト状の第二組成物と、に分け、且つ前記化学重合開始剤〔C〕の構成成分の各々が、前記第一組成物中及び前記第二組成物中で重合活性を示さないようにして分けて配合されて包装されている、2ペースト型のキットであることが好ましい。
【0015】
本発明の義歯の作製方法は、JIS K5101-13-1:2004に準じて測定される、前記第一組成物に含まれる前記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の単位量:g-B(単位:g)当たりに吸収される前記第一組成物に含まれる(メタ)アクリル系モノマー〔A1〕の量:g-A(単位:g)で定義される吸収量:RAb={(g-A)/(g-B)}が1.5以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の義歯の作製方法は、前記第一組成物において、前記(メタ)アクリル系モノマー〔A1〕の単位量(単位:g)当たりの前記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の含有量(単位:g)と、前記吸収量RAbとの積が0.65~1.65であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の義歯の作製方法は、前記(II-2)築盛・転写工程において、前記調整部材を形成するための未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料を築盛する前記基準義歯床部材の粘膜面上に、(メタ)アクリル系非架橋ポリマー、(メタ)アクリル系モノマー、及び有機溶媒を含有する液状接着剤を施用することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、調整部材を構成するための硬化性義歯床用材料として化学重合触媒を用い、前記粘膜面適合化を行うのに十分な操作余裕時間を有する化学重合型の硬化性義歯床用材料を使用しているため、光照射器や加熱装置を用いることなく基準義歯を用いて義歯を作製することが可能となる。しかも、本発明の方法で使用する化学重合型硬化性義歯床用材料は、ペースト性状が良好で且つ得られる硬化体の強度及び靱性が高いものであるため、粘膜面適合化時の操作性が良好で、得られる義歯も物性が良好で、耐久性が高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で作製した義歯の断面図である。なお、上段の
図1(a)及び下段の
図1(b)は、全部床義歯(総義歯)タイプの上顎用義歯及び下顎用義歯について、夫々表している。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で作製した上顎用義歯と、下顎用義歯とを、患者に装着したイメージを示す図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で使用する上顎用基準義歯を示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で使用する下顎用基準義歯を示す斜視図である。
【
図5】本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で使用する咬合器に患者口腔内模型が取り付けられた状態を示す側面図である。
【
図6】本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法において、咬合器または患者口腔内に上顎用基準義歯および下顎用基準義歯をセットする際に用いられる位置合わせ冶具を示す図であり、(6a)は平面図を示し、(6b)は側面図を示し、(6c)は背面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の義歯の作製方法は、従来の基準義歯を用いた義歯の作製方法において、調整部材を構成するための硬化性義歯床用材料として特定の化学重合型硬化性義歯床用材料、より詳しくは、特定の2種のペースト状組成物に分包された2ペースト型キットを用いて、前記2種のペースト状組成物を混合することにより調製される特定の化学重合型硬化性義歯床用材料、を用いた点に大きな特徴を有する。
【0021】
これまで、調整部材を構成するための硬化性義歯床用材料としては粘膜面適合化作業を行う際における時間的制約がなく、混錬の手間も必要がないと言う理由から光重合型又は熱重合型の硬化性義歯床用材料(特許文献3参照。)が使用されることが多かった。
【0022】
本発明の方法では、光重合型又は熱重合型の硬化性義歯床用材料を用いることによる上記利点よりも、光照射装置などの特殊な装置を使用しないと言うことを優先している。そして、(上記装置を必要とする光重合開始剤や熱重合開始剤を使用することなく)化学重合開始剤を使用し、さらに操作良余裕時間を、例えば5~15分と調整している。こうすることにより、粘膜面適合化作業を行うのに十分で且つ硬化が完了するまでを含めた基準義歯床粘膜面適合化処理全体の時間も長くなり過ぎないようにして、化学重合型硬化性義歯床用材料を実用的に使用できるようにしている。また、上記2ペースト型キットは本発明者等によって提案された新規なものであり、これを構成する2種のペースト状組成物の組成に由来して、両者混合したときの粘度の経時変化を含めたペースト性状が良好で硬化後に得られる硬化体が強度及び靱性が良好であると言う優れた特長を有する。
【0023】
化学重合型硬化性義歯床用材料は、2成分以上からなる化学重合開始剤の全成分が共存すると重合硬化が始まることから、通常はこのような重合硬化が起こらないように2剤に分けた包装形態(2剤型キット)として提供されるものであり、粉液型のもの(特許文献4参照。)や2ペースト型のもの(特許文献5及び6参照。)が知られており、2ペースト型のものについては、優れた操作性及び硬化体物性を示すものも開発されている。たとえば、特許文献6には、操作性に優れ、ペーストの保存安定性及び硬化体の耐着色性にも優れているという特長を有する、(メタ)アクリル系ポリマー、および(メタ)アクリル系ポリマーの溶解度が20質量%未満である含フッ素(メタ)アクリル酸系重合性モノマーを含むペースト(i)と、(メタ)アクリル系ポリマーの溶解度が20質量%以上である(メタ)アクリル系モノマー、および充填材を含むペースト(ii)と、を含み、重合開始剤が少なくとも一方のペーストに含まれる義歯床用裏装材が開示されている。
【0024】
しかしながら、従来の2ペースト型の硬化性義歯床用材料は、得られる硬化体の靭性の点で必ずしも満足できるものではなかった。また、使用するフィラーによってはペースト性状の制御が難しく、得られる硬化体の強度が低くなる場合があった。
【0025】
なお、ペースト性状について補足すると、ペースト型の硬化性義歯床用材料は、その形態の特徴から、グローブを嵌めた手で取り扱うことが多いため、グローブに付着しないようべたつきを抑える必要がある。その一方で、新しい義歯床の作製に使用する場合には(基準)義歯床に粘着する必要がある。つまり、2ペースト型の硬化性義歯床用材料は、グローブには付着しないが(基準)義歯床には粘着するといった適度な粘度を有するペースト性状が求められる。
【0026】
前記したように、本発明で使用する前記化学重合型硬化性義歯床用材料及び前記2ペースト型キットは、従来の2ペースト型化学重合型硬化性義歯床用材料に見られない優れた特長を有するものである。そこで、先ず、本発明で使用する化学重合型硬化性義歯床用材料となる重合硬化性組成物(以下、「本発明の重合硬化性組成物」ともいう。)及び2ペースト型キット(以下、「本発明のキット」ともいう。)について説明した上で本発明の方法について説明することとする。また、本発明の方法は、前記したような基準義歯を用いて義歯を作製する技術に関するものであることから、その説明するに際しては、当該技術に関する一般的な説明を行った上で、本発明の一実施の形態に係る重合硬化性組成物及び義歯の作製方法(夫々、本発明の重合硬化性組成物及び本発明の作製方法ともいう。)について説明することとする。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0027】
なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0028】
1.本発明の重合硬化性組成物
本発明の重合硬化性組成物は、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕(以下、適宜「〔A〕成分」ともいう。)、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)(以下、適宜「(b1)成分」ともいう。)を含んでなる有機充填材〔B〕(以下、適宜「〔B〕成分」ともいう。)〕、及び化学重合開始剤〔C〕(以下、適宜「〔C〕成分」ともいう。)を含む重合硬化性組成物である。また、〔B〕成分として、必要に応じて、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)(以下、適宜「(b2)成分」ともいう。)及び/又は非架橋ポリマー粒子(b3)(以下、適宜「(b3)成分」ともいう。)を含んでも良い。
【0029】
本発明の重合硬化性組成物は、通常、各成分が均一に混合(混錬)されたペースト状を呈する。ここで、「ペースト」とは、非沈降性の非ニュートン流体であり、本明細書における「ペースト状」とは、塑性変形性を有する高粘度ペースト、特に非水系の高粘度ペーストであることを意味する。
【0030】
本発明の重合硬化性組成物は、〔A〕成分及び〔B〕成分の混合物を主成分とするものであることが好ましい。なお、「主成分とする」とは、組成物の全質量を100質量部としたときに、当該成分の合計質量が80質量部以上、好ましくは90質量部以上であることを意味する。
【0031】
特定の論理に拘束されるものではないが、本発明の重合硬化性組成物により前記したような優れた効果が得られる機構は、次のようなものであると本発明者らは推察している。
【0032】
すなわち、硬化体の曲げ強さ(強度)が高くなるのは、有機充填材として弾性率の高い架橋ポリマーを用いたためであると考えている。また、架橋ポリマーを使用しているにもかかわらず靱性が高くなることに関しては、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の細孔内部に(メタ)アクリル系モノマー〔A〕が滲入して硬化することにより発生するアンカー効果によって硬化体におけるマトリックスと有機充填材との界面接合強度が高くなったことによると考えられる。
【0033】
また、良好なペースト性状が実現できた理由としては、以下の理由が考えられる。非架橋ポリマー粒子(b3)を含む系においては、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕との相互作用、具体的には(b3)成分の一部が〔A〕成分に溶解したり、(b3)成分が〔A〕成分で膨潤して柔らかくなったりすることに起因して、良好な状態に調整可能となるが、架橋ポリマーはこのような相互作用に乏しいため、架橋ポリマーを多量に配合すると、通常は、このようなペースト性状の調整範囲は狭まると考えられる。ところが吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を用いた場合には、細孔内に〔A〕成分が滲入することにより上記相互作用と類似の相互作用が発生し、上記調整範囲を広いまま保つことが可能となったため、良好なペースト性状が実現できたものと考えられる。
【0034】
本発明の重合硬化性組成物は化学重合硬化型であるため、通常は、これら成分が保存中に重合硬化しないように2つのペースト状組成物(第一組成物及び第二組成物)に分けて包装された2ペース型キット(本発明のキット)として供給され、上記2つのペースト状組成物を混合することにより調製される。また、「操作余裕時間」が所定の時間となるように調整されている。ここで、「操作余裕時間」とは、上記2つのペースト状組成物(第一組成物及び第二組成物)を混合してから弾性が生じるまでの時間(分)或いは塑性変形可能な時間(分)で定義されるものであり、具体的には次のようにして決定される時間である。第一組成物と第二組成物とを混合した直後においては、重合硬化は進行していないため、混合ペーストの流動性は高く弾性は示さないが、重合硬化が徐々に進行するにつれてある特定の時間が経過すると貯蔵弾性率G´が急激に増大し、弾性を示すようになり、さらに重合が進行し十分に硬化すると、貯蔵弾性率の変化もほぼなくなり一定となる。混合直後から急激に増大するより以前を第一段階、貯蔵弾性率が急激に増大し始めてから変化が小さくなり始めるまでを第二段階、貯蔵弾性率の変化が小さくなり始めた後を第三段階とした時、本発明では、本発明の重合硬化性組成物について室温(23℃)でレオメーターによる粘弾性測定を行って混合直後からの貯蔵弾性率G´の経時変化を測定し、前記第一段階における貯蔵弾性率の経時変化を直線近似した線と、前記第二段階における貯蔵弾性率の経時変化を直線近似した線とが交わる時間、すなわち貯蔵弾性率が急激に増大し始めるまでの時間を「操作余裕時間」とする。
【0035】
操作余裕時間は、粘膜面適合化作業を行うのに十分で且つ硬化が完了するまでを含めた基準義歯床粘膜面適合化処理全体の時間も長くなり過ぎないという理由から5~20分、特に5~15分とすることが好ましい。操作余裕時間は、化学重合触媒の種類や配合量により調整することができ、また、重合禁止剤や、α-メチルスチレンダイマー等の重合調整剤の配合によっても調整することができる。
【0036】
以下、本発明の重合硬化性組成物における各種成分について説明する。なお、前記したように、本発明の重合硬化性組成物は、第一組成物及び第二組成物からなる本発明のキットとして供給されるものであり、本発明の重合硬化性組成物を構成する各成分は上記2つの組成物に分割される。そこで、以下必要に応じて、第一組成物及び第二組成物に含まれる〔A〕成分を夫々〔A1〕及び〔A2〕と、表し、他の成分についてもこれに倣って第一組成物に含まれるものを〔B1〕、(b11)等と表記し、第二組成物に含まれるものを〔B2〕、(b12)等と表記することとする。
【0037】
1-1.(メタ)アクリル系モノマー:〔A〕成分
〔A〕成分としては、歯科用に一般的に使用される(メタ)アクリル系モノマーを特に制限なく使用することができる。(メタ)アクリル系モノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルプロピオネート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリル系モノマー;1,6-ビス((メタ)アクリロイルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリル系モノマー;トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の三官能(メタ)アクリル系モノマー;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル系モノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。特に、単官能の(メタ)アクリル系モノマーと二官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとを併用する場合、単官能の(メタ)アクリル系モノマーよりも二官能以上の(メタ)アクリル系モノマーを多く配合することにより、得られる硬化体の強度、耐久性等の機械的物性も良好なものとすることができるので好ましい。
【0038】
〔A〕成分の含有量は、本発明の重合硬化性組成物の全質量を100質量部としたときに、40~80質量部であることが好ましく、50~70質量部であることがより好ましい。
【0039】
1-2.有機充填材:〔B〕成分
〔B〕成分は、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を含み、更に必要に応じて、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)及び/又は非架橋ポリマー粒子(b3)を含んでも良い。
【0040】
1-2-1.吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子:(b1)成分
吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)としては、常温大気中で粒状又は粉末状(微粒の集合体)の有機材料で構成される架橋を有するポリマーからなり、粒子の内部に外部と連通する細孔を有し、粒子の表面に(メタ)アクリル系モノマー〔A〕が滲入可能な細孔を多数有するものが使用される。特に本実施形態では、高強度化の観点から、JIS K5101-13-1:2004(ISO 787-5:1980)の「精製あまに油法」に準じて(精製あまに油に代えて(メタ)アクリル系モノマー〔A〕を用いて)測定される、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の単位量:g-B(単位 :g)当たりに吸収される(メタ)アクリル系モノマー〔A〕の量:g-A(単位:g)で定義される吸収量:RAb={(g-A)/(g-B)}が1.5以上、好ましくは2.0~5.0であるものが使用することが好ましい。
【0041】
なお、吸収量RAbは、JIS K5101-13-1:2004に記載の「精製あまに油法」において、精製あまに油を用いる代わりに、本発明の重合硬化性組成物で使用される(メタ)アクリル系モノマー〔A〕(複数混合して使用した場合には同一組成のモノマー混合物)を用いて決定される。具体的には、所定量〔MB(g)〕の吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)をガラス板の上に置き、〔A〕成分のモノマーをビュレットから一回に4、5滴ずつ徐々に加え、その都度、パレットナイフでモノマーをポリマーに練り込む。これらを繰り返し、モノマー及びポリマーの塊ができるまで滴下を続け、以後、1滴ずつ滴下し、完全に混練するようにして繰り返す。そして、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、終点までに使用した〔A〕成分のモノマーの量〔MA(g)〕を測定する。その際、終点までの操作に要する時間が25分間以内となるようにする。そして、次式:RAb(g/g)=MA(g)/MB(g)により、吸収量RAbが決定される。
【0042】
上記のようにして決定される吸収量RAbは、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の内部に〔A〕成分のモノマーが浸透して滑らかなペースト状態となり始める臨界的な両者の量比を表すパラメータとして捉えられるものであるが、その操作の簡便性からも理解できるように、厳密な臨界点を意味するものではなく、(b1)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子における〔A〕成分のモノマーに対する吸収性の目安となるものである。事実、本発明の重合硬化性組成物においては、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕の配合量が、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の配合量に吸収量RAbを乗じた積として計算される量(以下、「計算総吸収量」ともいう。)に満たない場合であっても、ペースト状組成物となることが確認されている。
【0043】
計算総吸収量に満たない量の〔A〕成分を用いた場合でもペースト状となる理由の詳細は不明であるが、混錬条件や混錬時間の違いに由来するものと考えられる。すなわち、吸収量の測定時には、パレットナイフを用いて混練し、且つ短時間(25分間以内)で測定を行っているため、一部凝集状態で残っている(b1)成分のポリマー粒子間に保持されているモノマーも存在すると考えられ、吸収量を高めに見積もっている可能性がある。一方、本発明の重合硬化性組成物を調製する際には、乳鉢を用いて混練したり、プラネタリーミキサー、ニーダー等の機械式混錬装置を用いて混練したりすることが多く、混錬時に強い剪断力がかかるため、高度な均一化が可能であり、また、剪断力による押出し効果や発熱又は膨潤による細孔径の拡大等により、一旦細孔内に吸収されたモノマーの一部が放出されることなどにより、ペースト化されると考えられる。
【0044】
吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の材質は特に制限されないが、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕との親和性の観点から、架橋ポリメチルメタクリレート、架橋ポリエチルメタクリレート、架橋ポリメチルアクリレート等の架橋ポリアルキル(メタ)アクリレート;ポリスチレン、ポリ塩化ビニル;などが好ましい。また、特公平4-51522号公報、特開2002-265529号公報等に記載される多孔質架橋ポリマーを使用することもできる。また、「テクノポリマーMBP-8」(積水化成品工業(株))等の市販品を使用することもできる。
【0045】
吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子の平均細孔径は、1~100nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましい。該平均細孔径とは、粒子の凝集によって形成される二次粒子の凝集細孔ではなく、一次粒子の表面に形成される細孔の平均径を意味する。該平均細孔径は、水銀圧入法細孔分布測定装置を用いて測定される粒子の細孔分布から計算によって求めることができる。吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子の平均細孔径が1nm以上であると、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕の細孔内への滲入量の増加に伴って硬化体におけるアンカー効果が増大し、十分な強度が得られ易くなる傾向にある。また、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子の平均細孔径が100nm以下であると、アンカー効果が増大し、十分な強度が得られ易くなる傾向にある。
【0046】
吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子の平均粒子径は、1~50μmであることが好ましく、3~30μmであることがより好ましい。該平均粒子径とは、一次粒子の平均粒子径を意味し、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置を用いて測定される。吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子の平均粒子径が1μm以上であると、硬化前のペーストのべたつきが抑えられ、操作性が向上する傾向にある。また、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子の平均粒子径が50μm以下であると、比表面積が大きくなり、硬化体において十分な強度及び靱性が得られ易くなる傾向にある。なお、粒子形状は特に限定されず、粉砕型粒子であっても球状粒子であってもよい。
【0047】
本発明の重合硬化性組成物における上記吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の好適な配合量は、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕の総質量を基準として、〔A〕成分100質量部に対して20~80質量部である。(b1)成分の配合量が80質量部を越える場合、硬化体が硬く脆くなるばかりでなく、ペーストが硬く賦形し難くなる傾向にある。また、(b1)成分の配合量が20質量部未満の場合には、アンカー効果が低下して十分な強度が得られ難くなる傾向にある。効果の観点から(b1)成分の配合量は、30~70質量部、特に40~60質量部であることが好ましい。
【0048】
なお、本発明の重合硬化性組成物においては、調製目的物の組成が上記配合組成であることに加えて、(b1)成分を含む各組成物において、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕の単位量(単位:g)当たりの吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)の含有量(単位:g)と、吸収量RAbとの積が0.65~1.65であるという条件を更に満足することが好ましい。
【0049】
1-2-2.非多孔質有機架橋ポリマー粒子:(b2)成分
非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)とは、表面に細孔を有しないか、又は細孔の数が少ない粒子であり、上記のようにして決定される吸収量RAbが1.5未満、好ましくは1.0以下である有機架橋ポリマー粒子を意味する。非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)の材質は、架橋されたポリマーであれば特に限定されないが、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕との親和性の観点から、架橋ポリメチルメタクリレート、架橋ポリエチルメタクリレート、架橋ポリメチルアクリレート等の架橋ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等が好ましい。
【0050】
上記非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)の粒子径は特に限定されないが、ペースト性状の観点から、平均粒子径が1~50μmであることが好ましく、3~30μmであることが特に好ましい。なお、粒子形状は特に限定されず、粉砕型粒子、球状粒子のいずれも使用できる。
【0051】
非多孔質有機架橋ポリマー粒子は(メタ)アクリル系モノマー〔A〕に対して溶解、膨潤し難くマトリックスとの相互作用が乏しいため、ペースト内で凝集・沈降し、ペーストが硬くなる場合があるため、これを多量に配合すると、ペースト保管中にその性状が変化し(具体的には硬くなり)、ペーストの操作性が低下してしまうことがある。このため、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b21)又は(b22)を配合する場合には、第一組成物及び第二組成物それぞれのペーストにおいて、その配合量を〔A1〕又は〔A2〕成分100質量部に対してそれぞれ10質量部以下とすることが好ましく、全く配合しないことがより好ましい。
【0052】
1-2-3.非架橋ポリマー粒子:(b3)成分
非架橋ポリマー粒子(b3)としては、歯科用に一般的に使用される、常温大気中で粒状又は粉末状の、非架橋性の(架橋を有しない)(メタ)アクリル系ポリマーが特に制限されず使用できる。好適に使用できるものを例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロキシプロパン、イソブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートの単重合体又は共重合体、ポリ(スチレン-エチルメタクリレート)等の(メタ)アクリル系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体等が挙げることができる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0053】
上記非架橋ポリマー粒子(b3)の平均分子量は、特に制限されるものではないが、ペースト性状の調整のし易さの観点から、質量平均分子量が5万~100万であることが好ましく、10万~70万であることがより好ましい。なお、本明細書における質量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算分子量を意味する。
【0054】
上記非架橋ポリマー粒子(b3)の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、平均粒子径が大きすぎると(メタ)アクリル系モノマー〔A〕へ溶解するのが遅く、製造に時間を要し作業効率が低下するため、100μm以下であることが好ましい。
【0055】
本発明の重合硬化性組成物における上記非架橋ポリマー粒子(b3)の配合量は、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕100質量部に対して、5~40質量部であることが好ましく、15~30質量部であることがより好ましい。
【0056】
1-3.化学重合開始剤:〔C〕成分
化学重合開始剤〔C〕としては、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕を重合、硬化させることができるものであれば何ら制限なく使用可能であり、公知の化学重合開始剤が使用可能である。化学重合開始剤は、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより室温近辺で重合活性種を生じる重合開始剤である。このような化学重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物系のものが代表的である。
【0057】
このような化学重合開始剤として使用される有機過酸化物の代表的なものには、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートなどがあり、具体的には、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノパーオキサイド、P-メタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート等を例示することができる。
【0058】
これら有機過酸化物の好適な使用量は、用いられる有機過酸化物の種類によって異なるため一概に限定できないが、(メタ)アクリル系モノマー〔A〕100質量部に対して、好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部の範囲である。
【0059】
また、これら有機過酸化物と接触してラジカルを発生させるための第3級アミンとしては公知の化合物が特に制限されず使用される。好適に使用される第3級アミン化合物を具体的に例示すると、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジプロピルアニリン、N,N-ジブチルアニリン、N-メチル,N-β-ヒドロキシエチルアニリン等のアニリン類、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジプロピル-p-トルイジン、N,N-ジブチル-p-トルイジン、p-トリルジエタノールアミン、p-トリルジプロパノールアミン等のトルイジン類、N,N-ジメチル-アニシジン、N,N-ジエチル-p-アニシジン、N,N-ジプロピル-p-アニシジン、N,N-ジブチル-p-アニシジン等のアニシジン類、N-フェニルモルフォリン、N-トリルモルフォリン等のモルフォリン類、ビス( N,N-ジメチルアミノフェニル)メタン、ビス(N,N-ジメチルアミノフェニル)エーテル等が挙げられる。これらのアミン化合物は、塩酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸などとの塩として使用してもよい。上記第3級アミン化合物の内、重合活性が高く、なおかつ低刺激、低臭という観点から、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジプロピル-p-トルイジン、p-トリルジエタノールアミン、p-トリルジプロパノールアミンが好適に使用される。
【0060】
第3級アミン化合物の使用量は(メタ)アクリル系モノマー〔A〕100質量部に対して、好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部の範囲である。
【0061】
上記、有機過酸化物と第3級アミン化合物の組合せのうち、好適なものを具体的に例示すると、BPO/N,N-ジエチル-p-トルイジン、BPO/N,N-ジプロピル-p-トルイジン、BPO/p-トリルジエタノールアミン、BPO/p-トリルジプロパノールアミン等の組合せが挙げられる。中でも、第3級アミン化合物をラジカル重合性モノマーと混合した状態で長期保存が必要となる場合には、保存安定性の観点からBPO/N, N-ジエチル-p-トルイジン、BPO/N,N-ジプロピル-p-トルイジンの組合せが最も好ましい。
【0062】
このような有機過酸化物とアミン化合物からなる化学重合開始剤にさらに、ベンゼンスルフィン酸やp-トルエンスルフィン酸及びその塩などのスルフィン酸、或いは5-ブチルバルビツール酸などのバルビツール酸系開始剤を配合しても何ら問題なく使用できる。
【0063】
1-4.その他の成分
本発明の重合硬化性組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他の成分を更に含有していてもよい。その他の成分としては、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化アルミニウム、硅石粉末、ガラス粉末、珪藻土、シリカ、珪酸カルシウム、タルク、アルミナ、マイカ、石英ガラス等の無機フィラー;無機粒子に重合性モノマーを添加してペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機無機複合フィラー;ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の重合禁止剤;4-メトキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-(2-ベンゾトリアゾール)-p-クレゾール等の紫外線吸収剤;α-メチルスチレンダイマー等の重合調整剤;色素、顔料、香料;などが挙げられる。
【0064】
2.本発明のキット
本発明のキットは、本発明の重合硬化性組成物を調製するためのキットであって、これら成分が保存中に重合硬化しないように2つの組成物に分けて包装されている。本発明のキットは、以下に示す第一組成物と第二組成物からなるキットであることが好ましい。
【0065】
第一組成物:(メタ)アクリル系モノマー〔A1〕及び当該〔A1〕を吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b11)のみを含むか又は当該(b11)並びに非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b21)及び/又は非架橋ポリマー粒子(b31)を含む有機充填材〔B1〕を含有するペースト状組成物。
第二組成物:(メタ)アクリル系モノマー〔A2〕及び当該〔A2〕を吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b12)、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b22)及び非架橋ポリマー粒子(b32)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む有機充填材〔B2〕を含有するペースト状組成物。
但し、化学重合開始剤〔C〕の構成成分の各々は、前記第一組成物中及び前記第二組成物中で重合活性を示さないようにして分けて配合されて包装されている。なお、第一組成物及び第二組成物はそれぞれ、〔A1〕成分及び〔B1〕成分並びに〔A2〕成分及び〔B2〕成分の混合物を主成分とするものであることが好ましい。また、第一組成物に含まれる〔A1〕及び〔B1〕並びに〔A2〕及び〔B2〕は、それぞれ互いに異なっていても同一でもよい。
【0066】
また、上記キットにおいては、第一組成物と第二組成物を混合時、粉液型の義歯床用材料と同程度前後の経時粘度上昇を得るためには、第二組成物において、有機充填材〔B2〕として非架橋ポリマー粒子(b32)を含むと共に、前記(メタ)アクリル系モノマー〔A2〕に対する前記(b32)の溶解度は20質量%未満であることが好ましい。また、第一組成物において、(メタ)アクリル系モノマー〔A1〕は、前記(b32)の溶解度が20質量%以上である(メタ)アクリル系モノマーを含んでなることが好ましく、前記(メタ)アクリル系モノマー〔A1〕に対する前記(b32)の溶解度は20質量%以上であることが特に好ましい。
【0067】
ここで、溶解度とは、ポリマーが重合性モノマーへ溶解可能な濃度の上限であり、簡易的には、重合性モノマーへポリマーを所定質量%となる量を添加して23℃において溶解するかを目視で評価することができる。例えば、ポリマー添加量が5質量%、20質量%、50質量%と順次高くなるように添加し、各添加量について23℃において溶解するかを目視で評価したときに、5質量%のポリマーの一部が溶解せずに残存すれば溶解度5質量%未満となり、全てが溶解すれば溶解度5質量%以上となる。同様に20質量%のポリマーの一部が溶解せずに残存すれば溶解度20質量%未満となり、全てが溶解すれば溶解度20質量%以上となり、更に50質量%のポリマーの一部が溶解せずに残存すれば溶解度50質量%未満となり、全てが溶解すれば溶解度50質量%以上となる。
【0068】
前記(メタ)アクリル系モノマー〔A1〕に対する前記(b32)の溶解度が20質量%以上である場合、本発明の重合硬化性組成物における前記非架橋ポリマー粒子(b32)と、当該〔A1〕との配合比((b32)/〔A1〕)は0.9~3.0であることが好ましく、1.2~2.5がより好ましく、1.4~2.0が最も好ましい。配合比((b32)/〔A1〕)を0.9~3.0の範囲内に設定した場合、第一組成物及び第二組成物の混和時に前記(b32)が溶解した際に、溶解速度を小さすぎず且つ大きすぎない範囲でより適度なものとすることが容易となる。即ち、一般的な粉液型の義歯床用材料と同程度前後の経時粘度上昇が得られ、細かい形状を転写することがより容易になり、後述のウォッシュ工程でも好適に使用することができる。
【0069】
なお、本発明の重合硬化性組成物においては、化学重合開始剤に代えて光重合開始剤や熱重合開始剤を使用した場合でも良好なペースト性状を有し、得られる硬化体の物性も優れたものとなる。このため、本発明のキットにおいて、第一組成物及び/又は第二組成物に光重合開始剤や熱重合開始剤を含有することも可能である。しかし、重合に要する光照射の程度や加熱の程度にもよるが、別途携行する光照射装置や加熱装置が必要となる場合には、これら装置が不要となるという本発明の効果が得られなくなるので、第一組成物及び第二組成物に光重合開始剤又は熱重合開始剤を含有しないことが好ましい。
【0070】
第一組成物及び第二組成物の包装形態は特に限定されるものではないが、棒、シート、球、角柱等に成型したものを容器に収容しても良いし、或いは、成型せずチューブやボトル等に収容しても良い。
【0071】
また、本発明の重合硬化性組成物において、第一組成物と第二組成物との混合比は、特に制限されるものではないが、第一組成物と第二組成物の割合に大きく差があると均一に混合しにくくなる場合がある。そのため、二つのペーストの混合比は、少ない方のペーストを1として、10/1~1/1であることが好ましく、5/1~1/1であることがより好ましい。
【0072】
3.義歯の一般的特徴
義歯(有床義歯)とは、天然歯牙並びに歯肉及び歯槽骨などの周囲組織を喪失した場合に、咀嚼等の口腔機能を回復すると共に顔面の形態変化および歯牙の欠損や周囲組織の喪失によって生じる障害を予防する、着脱自在な補綴装置を意味する。義歯は、一般に、欠損歯牙を補う人工歯と、喪失した歯肉及び歯槽骨などの周囲組織を補う義歯床と、からなる。そして、前記義歯床の患者顎堤粘膜と密着する面(義歯作製において適合性の観点から研磨をしない面)は「粘膜面」(或いは基底面)と呼ばれ、その反対側の頬粘膜や舌と接することがある面(義歯作製において研磨をする面)は「研磨面」と呼ばれ、両者の境界となる部分は「床縁」と呼ばれている。また、義歯床の歯茎相当部と人工歯の境界部は「歯頸部」、当該歯頸部を基端とし、前記床縁を先端とする翼状の形態をなす部分は「床翼」、義歯床の人工歯が固定される部分は「歯槽部」と呼ばれている。
【0073】
義歯は、上顎用の上顎義歯と下顎用の下顎義歯とに分類され、両者の義歯床は、患者口腔内の唇側及び頬側(本明細書では、唇側及び頬側に向いた方向を前方とする。)の顎堤粘膜を被覆する部分である「唇側床翼部」及び「頬側床翼部」と呼ばれる部分を有するという点では共通しているが、上顎及び下顎の機能と形状の違いに起因して、患者口腔内の喉側(本明細書では、喉側に向いた方向を後方とする。)の粘膜を被覆する部分の形状が大きく異なっている。すなわち、上顎用義歯床の後方部分は、上顎口蓋粘膜を被覆する「口蓋床部」と呼ばれる部分であるのに対し、下顎用義歯床の後方部分は、下顎の舌側の顎堤粘膜を覆う「舌側床翼部」と呼ばれる部分であり、この舌側床翼部と唇側床翼部及び頬側床翼部との間で、顎堤を挟み込むようになっている。
【0074】
上記義歯床の材料としては、一般に、次のような樹脂が使用されている。すなわちポリ(メタ)アクリレート系樹脂;ポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリエーテル系樹脂;ポリニトリル系樹脂;ポリビニル系樹脂;セルロース系樹脂;フッ素系樹脂;イミド系樹脂等が使用されている。これら樹脂材料は、樹脂材料のみで使用されることが多いが、有機フィラー、無機フィラー、有機-無機複合フィラー等のフィラーを添加して用いることもある。また、義歯床の一部に金属材料を使用することも有る。
【0075】
上記義歯床に配列固定される人工歯は、目的とする義歯に応じて、配列される人工歯の種類及び数が適宜決定される。その数は1であっても良いが、通常は複数の人工歯が固定される。かかる人工歯としては、樹脂製やセラミック製の公知の人工歯を用いることができる。樹脂製の人工歯としては、上述のポリ(メタ)アクリレート系樹脂、並びにポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、シリコン系樹脂等を材質とする人工歯が例示される。人工歯の固定方法としては、嵌合、接着等従来公知の方法が何等制限なく使用できる。
【0076】
4.基準義歯の一般的特徴
基準義歯は、基準義歯床とそれに固定保持される人工歯とからなり、これを部材として用いて義歯を作製した場合、基準義歯の人工歯部分は義歯の人工歯部分となり、基準義歯の義歯床(基準義歯床)は義歯の義歯床の主要部を構成するものとなる。すなわち、基準義歯床は、義歯のベースとなるもので、上記義歯の義歯床の最終的な形態(形状)と比較すると、基準義歯床の粘膜面と(装着者である)個別患者の口腔内粘膜との間に形成される空間又は空隙(基準義歯非適合空間)を裏装材などの硬化性義歯床用材料が埋めて、両者がフィットするようになっている。そして、「調整代(ちょうせいしろ)」とも言える前記基準義歯非適合空間の分だけ、小さいものの、その基本的な構造や形状は、義歯と同様である。
【0077】
基準義歯床は、たとえば、射出成形、圧縮成形、切削加工、三次元プリンタを用いた光造形等、種々の手法を用いて作製することができる。また、基準義歯床と人工歯(列)とを一体的に作製しても良く、基準義歯床と人工歯(列)とを別個に作製した後に、基準義歯床の歯槽部に人工歯(列)を取り付ける構成としても良い。前者には、大量生産による量産化が容易であり、生産コストを大幅に低減することができると言うメリットがあり、後者には、個別の患者にフィットする人工歯(列)を形成することができると言うメリットがある。
【0078】
基準義歯は、一般に、その使用目的から、多くの臨床データや、多くの有歯顎者及び無歯顎者の口腔形状に関するデータに基づいて、基準義歯床の平面形状が、多くの患者に適合するような(いわば最大公約数的な共通部となるような)形状に設計されることが多い(特許文献1参照)。
【0079】
5.基準義歯を用いた義歯の一般的な作製方法
前記したように、基準義歯を用いた義歯の作製は、患者に適したサイズの基準義歯を選定し、必要に応じて微調整してから、その基準義歯床の粘膜面上に硬化性義歯床用材料を盛り付け、粘膜面適合化してから硬化性義歯床用材料を硬化させる「基準義歯床粘膜面適合化処理」を行うというものである。
【0080】
ここで、上記の粘膜面適合化は、粘膜面上に前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛した基準義歯を(1)患者口腔内に基準義歯を挿入するか、又は(2)患者口腔内模型を取り付けた咬合器内に挿入して行うのが通常である。また、前記したように従来使用されている硬化性義歯床用材料は光硬化性及び/又は熱硬化性のものであることが多いため、基準義歯床粘膜面適合化処理における粘膜面適合化と重合硬化とは、別の工程として行われるのが一般的である。したがって、基準基準義歯を用いた義歯の一般的作製方法は、基本的な工程として、下記(i)~(iii)に示す工程を含む。
【0081】
(i)基準義歯床部材と人工歯とを備える基準義歯部材であって、患者口腔内の適切な位置に配置したときに使用上、不適切な接触をしない基準義歯部材を準備する基準義歯部材準備工程。
【0082】
(ii)前記基準義歯部材準備工程で準備された前記基準義歯部材における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または患者口腔内模型を取り付けた咬合器内の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料へ転写すると共に余剰の前記硬化性義歯床用材料の除去を行う、粘膜面適合化工程。
【0083】
(iii)前記粘膜面適合化工程を経た前記硬化性義歯床用材料を硬化させる硬化工程。
【0084】
なお、上記工程(i)及び(ii)における“適切な位置”とは、患者口腔内において医学的に存在すべき位置と想定される歯牙の咬合面を平面で近似した「仮想咬合平面」の位置と、前記基準義歯部材における前記人工歯の咬合面を平面で近似した「人工歯咬合平面」の位置と、が一致又は実質的に一致する位置を意味する。また、前記工程(i)において実用上不適切な接触をしないことは、必ずしも患者口腔内に挿入して確認する必要はなく、工程(ii)と同様に、患者口腔内模型を取り付けた咬合器を用いて行うこともできる。作製に手間や時間を要する患者口腔内模型を作製する必要が無いという観点からすると、患者口腔内に挿入することが好ましいが、技工所などで多数の患者の義歯を作製する場合には、患者口腔内模型作製の手間や時間はかかるものの、一度に並行して多数の義歯を作製できるので、患者口腔内模型を装着した咬合器を使用することが好ましい。この場合、咬合器としては、模型上で顎運動や咬合のさまざまな位置を再現する装置であれば特に限定されない。たとえば、顎運動時の下顎頭が示す運動経路を再現する顆路型咬合器、顆路型咬合器の中でも非調節性咬合器(平均値咬合器)や調節性咬合器(全調節性咬合器、半調節性咬合器)、下顎頭に相当する顆頭球の位置が異なり、顆頭球が下弓に連結するアルコン型や、顆頭球が上弓に連結するコンダイラ―型、下顎頭が示す運動経路は再現しないが上下開閉可能な非顆路型咬合器、等が咬合器として使用できる。また、患者口腔内模型は、印象材を用いて患者口腔内の印象を採得し、それを用いて石膏模型を作製する、といった一般的な方法で作製することができる。
【0085】
6.本発明の作製方法
本発明の作製方法は、前「5.基準義歯を用いた義歯の一般的な作製方法」で作製される義歯と同様に、“義歯床に人工歯が固定された義歯であって、前記義歯床は、前記人工歯が固定される基準義歯床部材と、調整部材とを有し、前記義歯の粘膜面の少なくとも一部が前記調整部材で構成されるように前記基準義歯床部材の粘膜面上に前記調整部材が接合されている義歯”を作製する方法である。そして前記工程(i)~(iii)を含む方法をベースとしている。しかしながら、本発明の方法では、化学重合型硬化性義歯床用材料を使用することから、基準義歯床粘膜面適合化処理における粘膜面適合化と重合硬化とを別の工程として行うことができない。そのため、本発明のキットを用いて本発明の重合硬化性組成物を調製してから操作余裕時間が経過するまでの間に粘膜面適合化を行うようにしている。但し、基準義歯床粘膜面適合化処理は必ずしも1回で行う必要はなく、複数回に分けて行うことを許容している。
【0086】
すなわち、本発明の方法は、
(I)基準義歯床部材と人工歯とを備える基準義歯部材であって、当該基準義歯部材を患者の口腔の適切な位置に配置したときに使用上不適切な接触をしない基準義歯を準備する基準義歯部材準備工程;と、
(II)前記調整部材を形成するための工程であって、
(II-1)(メタ)アクリル系モノマー〔A〕、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を含んでなる有機充填材〔B〕、及び化学重合開始剤〔C〕を含む重合硬化性組成物を調製するためのキットであって、これら成分が保存中に重合硬化しないように2つの組成物に分けて包装され、且つ上記2つの組成物を混合してから、弾性が生じるまでの時間(塑性変形可能な時間)で定義される「操作余裕時間」が所定の時間となるように調整されたキットを用い、分包された前記2つの組成物を混合することにより、前記重合硬化性組成物からなる未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料を調製するペースト調製工程と、
(II-2)前記基準義歯部材準備工程で準備された前記基準義歯部材における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記ペースト調製工程で調製された前記未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または前記咬合器内の前記仮想咬合平面上の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料に転写すると共に辺縁形成を行って余剰の前記硬化性義歯床用材料を除去することによって前記調整部材の少なくとも一部を形成する、築盛・転写工程と、を含み、
前記(II-2)築盛・転写工程を前記(II-1)ペースト調製工程における前記混合を開始してから前記操作余裕時間が経過するまでの間に完了させるサイクルを1又は複数回行うことによって、前記調整部材を形成する、調整部材形成工程;と、
を含むことを特徴とする前記義歯の作製方法である。
【0087】
以下、図面を参照して上記各工程につて詳しく説明する。
【0088】
6-1.(I)基準義歯部材準備工程
(I)基準義歯部材準備工程は、前記工程(i)に相当するものであり、基準義歯床部材と人工歯とを備える基準義歯部材であって、当該基準義歯部材を患者の口腔の適切な位置に配置したときに使用上不適切な接触をしない基準義歯を準備する。すなわち、先ず患者に適合するサイズの基準義歯を選定する。そして、これを(1)患者口腔内の適切な位置に配置して接触状態を確認するか、又は(2)患者口腔内模型を取り付けた咬合器内の適切な位置に配置して接触状態を確認するか、により、使用上不適切な接触をすると判断される場合には、当該不適切な接触を起こさない別の形状を有する基準義歯を選択するか、又は接触しないように前記基準義歯における前記基準義歯床部材の形状を微調整することにより、使用する基準義歯を準備する。
【0089】
なお、当該工程で準備される基準義歯は、前記した一般的な特徴を有するものであれば特に限定されないが、個別患者の口腔形状に合致した義歯が得られ易いと言う理由から、前記特許文献1に記載された(平面的な)形状を有する基準義歯を使用することが好ましい。
【0090】
以下、それぞれ、このような好ましい平面的形状を有する全部床義歯(総義歯)に対応する上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯をセットで用いて上顎用義歯及び下顎用義歯をセットで作製する場合を例に、工程(I)、(II)について、図を参照して詳しく説明するが、本発明の作製方法は、このような例に限定されるものではない。
【0091】
たとえば、以下の説明では、
図5に示すような咬合器100及び、
図6に示すような位置合わせ冶具200を用いて作製する例を説明しているが、それぞれ対応する工程において、直接的に患者口腔内で行っても良く、位置合わせ冶具200を用いずに行っても良い。
【0092】
具体的には、
図3に示すような上顎用基準義歯10Aおよび/または
図4に示すような下顎用基準義歯10Bを患者の口腔内で医学的に存在すべき位置と想定される仮想咬合平面PA上の適切な位置に配置させるようにして、
図5に示すような咬合器100を用いて、患者口腔内模型150と上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bとの接触状態を確認する(以下、このような咬合器を用いた接触状態の確認を「挙上確認」ともいう。)。
【0093】
図5には、咬合器100に患者口腔内模型150、具体的には上顎模型151と下顎模型152とから構成される患者口腔内模型150が取り付けられた状態が示されている。
図5に示す患者口腔内模型150を取り付けた状態の咬合器100内に、上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bを挿入して、患者口腔内模型150と上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bとの接触状態を確認する(挙上確認をする)場合には、
図6に示すような位置合わせ冶具200を用いることが好ましい。
【0094】
この位置合わせ冶具200には、基準義歯保持部201と、当該基準義歯保持部201に連結されている柄部202とが設けられている。基準義歯保持部201には、上顎用基準義歯10Aを保持する上顎義歯保持凹部201Aと、下顎用基準義歯10Bを保持する下顎義歯保持凹部201Bとが設けられている。また、柄部202は、歯科技工士や歯科医等が咬合器100の外、または患者の口腔外から上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bをセットする際に容易に操作できるように、ある程度の長さを有している。このため、技工士等の作業者は、柄部202を用いて、容易に上顎用基準義歯10Aおよび/または下顎用基準義歯10Bを仮想される咬合平面PA上の適切な位置に配置させることができる。なお、患者の口腔内に挿入して接触状態の確認する場合にも、同様の理由から、位置合わせ冶具200を使用することが好ましい。
【0095】
上記挙上確認では、上顎用基準義歯10Aと下顎用基準義歯10Bを仮想咬合平面PA(
図5参照)で噛み合うようにして、これら上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bを静止させたときの、咬合器100の指導ピン101の浮き上がり量(「挙上値」ともいう。)で接触状態を評価することができる。具体的には、上記の浮き上がり量(挙上値)が0mm以下であれば、不適切な接触が無いと評価され研削調整が不要であり、研削のための作業時間を削減できる。一方、挙上値が0mmを越える場合には不適切な接触が存在し、その値が大きいほど研削による研削調整量が大きいと評価される。このことから、指導ピン101の浮き上がり量(挙上値)が0mm以下のものを合格とし、次工程に進む。なお、上記量(挙上値)が0mm未満であるとは、指導ピン101の位置が下がるわけではなく、基準義歯と模型との間に隙間が存在する場合を意味する。このときの隙間は後の工程で調整部材によって埋められることになる。
【0096】
また、この(I)基準義歯部材準備工程では、上述したような接触状態の確認において、実際の咬合面が適切な位置からずれる場合には、基準義歯(上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10B)を研削する調整を行うことで適切な位置に配置するようにしてもよく、また、上記位置ずれを起こさない別の基準義歯を選択してもよい。
【0097】
6-2.(II)調整部材形成工程
(II)前記調整部材を形成するための工程であり、(II-1)ペースト調製工程と、(II-2)築盛・転写工程と、を含み、前記(II-2)築盛・転写工程を前記(II-1)ペースト調製工程における前記混合を開始してから前記操作余裕時間が経過するまでの間に完了させるサイクルを1又は複数回行うことによって、前記調整部材を形成する。
【0098】
6-3.(II-1)ペースト調製工程
(II-1)ペースト調製工程では、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を調製する工程であり、本発明のキットを用いて本発明の重合硬化性組成物を調製する。
【0099】
6-4.(II-2)築盛・転写工程
(II-2)築盛・転写工程は、前記工程(ii)に相当するものであり、前記基準義歯部材準備工程(I)で準備された前記基準義歯部材の粘膜面上に、前記ペースト調製工程(II-1)で調製された本発明の重合硬化性組成物(未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料)を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または前記咬合器内の前記仮想咬合平面上の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料に転写すると共に辺縁形成を行って余剰の前記硬化性義歯床用材料を除去することによって前記調整部材の少なくとも一部を形成する。
【0100】
このとき、得られる義歯における基準義歯床と調整部材との接着性を良好なものとするために、本発明の重合硬化性組成物を築盛する前記基準義歯床部材の粘膜面上に、(メタ)アクリル系非架橋ポリマー、(メタ)アクリル系モノマー、及び有機溶媒を含有する液状接着剤を施用することが好ましい。
【0101】
前記液状接着剤としては、上記成分を含有するものであれば特に制限されない。このうち(メタ)アクリル系非架橋ポリマー及び(メタ)アクリル系モノマーとしては、それぞれ(b3)成分、及び〔A〕成分として上述した成分を特に制限なく使用することができる。また、有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン等の炭化水素化合物;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物;エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール化合物;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert-ブチルメチルエーテル等のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン化合物;ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル化合物;などの非ハロゲン系有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。また、上記液状接着剤は、重合開始剤を更に含有していてもよい。重合開始剤としては、〔C〕成分として前記したものが特に制限なく使用できる。
【0102】
(II-2)築盛・転写工程では、前記(I)基準義歯部材準備工程で準備した基準義歯における前記基準義歯床部材、たとえば上顎用基準義歯10Aの上顎用基準義歯床20Aの粘膜側表面上に、本発明の重合硬化性組成物を築盛する。当該築盛は、通常、上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bを前記位置合わせ冶具200から取り外して行われるが、位置合わせ治具200にセットしたままで行っても良い。
【0103】
また、築盛に際しては、以下に示す様な専用の義歯作製用治具(図示せず。)を使用することが好ましい。すなわち、前記基準義歯床部材の唇側床縁近傍および頬側床縁近傍の領域を囲うように収容可能な前方溝部、および、前記基準義歯床部材の喉側床縁近傍の領域を囲うように収容可能な後方溝部を有する義歯作製用治具を用いることが好ましい。たとえばショアD硬さが80以下であるシリコーン樹脂等の、本発明の重合硬化性組成物に対して剥離性(非粘着性)を有する可撓性材料で構成された上記義歯作製用治具の各溝部に、本発明の重合硬化性組成物を収容し、これを基準義歯床の粘膜面に密着させてから冶具を剥離することにより、溝部の幅および深さに対応した所定の築盛量の未硬化状態の硬化性義歯床用材料が、床縁に沿って築盛されることになる。このため、床縁に沿って本発明の重合硬化性組成物を築盛する際に、適正な築盛量を見積もることが困難な経験の浅い作業者でも、前記義歯作製用治具を用いれば適正な築盛量を安定して再現でき、作業者の経験度に関係無く作業効率・品質の低下を抑制できるようになる。
【0104】
このようにして築盛を行った後に、築盛された本発明の重合硬化性組成物を、前記調整部材の形状とする。たとえば、本発明の重合硬化性組成物を築盛した上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bを前記位置合わせ冶具200に再びセットし、これを咬合器100内の適切な位置に配置する。その後に、本発明の重合硬化性組成物を上顎模型151および下顎模型152に押し当てて、上顎模型151および下顎模型152を噛み合わせた状態で、これらの形状を、本発明の重合硬化性組成物に転写する。かかる転写後に、位置合わせ冶具200に上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bをセットしたままの状態で、咬合器100内から一度、上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bを外に出す。その後に、余剰の本発明の重合硬化性組成物を、上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bから除去する。
【0105】
(II-2)築盛・転写工程は、以下に示す各工程(II-2a)、(II-2b)及び(II-2c)の、多段階に分けて行うことが好ましい。
(II-2a)前記基準義歯床部材のベース中央領域に本発明の重合硬化性組成物を築盛して、前記患者口腔内または前記患者口腔内模型の形状を転写する中央築盛・転写工程。
(II-2b)前記基準義歯床部材の前記ベース前方領域に本発明の重合硬化性組成物を築盛して、前記患者口腔内または前記患者口腔内模型の形状を転写すると共に、床縁より延長させて辺縁形成を行う前方築盛・転写工程。
(II-2c)前記基準義歯床部材の前記ベース後方領域に本発明の重合硬化性組成物を築盛して、前記患者口腔内または前記患者口腔内模型の形状を転写すると共に、床縁より延長させて辺縁形成を行う後方築盛・転写工程。
【0106】
最初に工程(II-2a)でベース中央領域の粘膜面の適合化を行うことにより大まかな位置決めを行い、次に、工程(II-2b)及び工程(II-2c)において、変動幅が少ない状況で前方部(ベース前方領域)及び後方部(ベース後方領域)の粘膜面の適合化並びに辺縁(床縁)の形成及び適合化を行うことで、熟練した手技を有さない者でも容易に高精度の位置決めができるようになっている。しかも基準義歯床の前方床翼部の高さや、基準義歯床の後方部の長さを裏装材等の硬化性義歯床用材料で補いながら(延長しながら)患者粘膜との境界が自然な状態となるように境界の適合化を図るこができる。
【0107】
(II-2a)から(II-2c)の各工程において、患者口腔内の粘膜形状または患者口腔内模型の形状を転写する際には、未硬化状態の硬化性義歯床用材料が築盛された基準義歯を咬合平面と想定される平面上の適切な位置に配置する必要がある。最初に行う(II-2a)工程においては、ベース中央領域の粘膜面は、曲率半径が小さいことに起因して、位置決めし易いというメリットを有する反面、僅かな力を加えただけでこの部分を支点にして前後が上下にブレ易い。このため、このようなブレの発生を抑制して精度良く、前記適切な位置に配置するためには、前記したような
図6に示すような位置合わせ冶具200を用いることが好ましい。
【0108】
なお、上顎用義歯と下顎用義歯をセットで作製する場合には、上顎用又は下顎用のどちらか一方のベース中央領域の粘膜面に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、硬化性義歯床用材料を築盛した基準義歯を位置合わせ冶具200に保持してから前記患者口腔内または前記咬合器内に挿入して、前記適正な位置に保持して工程(II-2a)の転写を行うことが好ましい。上下の顎間の関係を再現するという観点からすると、先に上顎用義歯を作製する場合は上顎用基準義歯のみを位置合わせ冶具200に保持して転写を行い、次に行う下顎用基準義歯の転写においては上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯を同時に(セットで)位置合わせ治具200に保持して転写を行うことがより好ましい。なお、上顎用義歯と下顎用基準義歯はどちらを先に作製しても構わない。
【0109】
工程(II-2a)終了後の工程(II-2b)及び/又は工程(II-2c)における位置合わせ(適切な位置での保持)は、ブレが少なく容易化されるので、熟練者であれば位置合わせ冶具を用いることなく上顎用、下顎用別々に行うこともできる。また、熟練者でなくとも、前記位置合わせ冶具200を用いることにより、容易に高精度の転写を行うことができる。このとき、上顎用又は下顎用の何れか一方の基準義歯を保持して工程(II-2b)及び/又は工程(II-2c)を行っても良いが、より確実に高精度の転写を行うためには、両方の基準義歯を位置合わせ冶具200に保持して行うことが好ましい。(II-2b)の前方築盛・転写工程と、(II-2c)の後方築盛・転写工程は、同時に行っても良く、個別に行っても良い。また、(II-2a)から(II-2c)を複数回繰り返して行ってもよい。
【0110】
ところで、本発明の方法では、硬化性義歯床用材料として化学重合型の本発明の重合硬化性組成物を使用するため(調製直後から重合・硬化反応が進行するため)、調整部材形成工程(II)において、築盛・転写工程(II-2)をペースト調製工程(II-1)における前記混合を開始してから前記操作余裕時間が経過するまでの間に完了させるサイクルを1又は複数回行うことによって、前記調整部材を形成する。工程(II-2)を(II-2a)、(II-2b)及び(II-2c)の、多段階に分けて行う場合には、操作余裕時間を少し長めに調整して複数の工程を1サイクルで行うことが好ましく、全工程を上記サイクル1回で行うことが最も好ましい。しかし、時間を然程気にせずに操作を行いたい場合には、各工程を1若しくは2サイクルで行うようにすることが好ましい。なお、各サイクル終了後は、患者口腔又は患者口腔内模型に押しつけて転写した後は、操作余裕時間が経過するまでその状態を保持して塑性変形を起こし難い状態まで硬化を進行されることが、転写精度の観点から好ましいが、取り外して硬化させてもよい。また、1サイクル終了後、次サイクルに移る場合には、完全に硬化してから次のサイクルを行っても良く、完全に硬化する前に次のサイクルを行っても良い。
【0111】
6-5.付加的工程
本発明の義歯の作製方法では、前記(II)調整部材形成工程終了後に、前記基準義歯床の粘膜面側の表面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を追加して当該粘膜面側表面の形状を修正するウォッシュ工程を更に含んでも良い。
【0112】
上記ウォッシュ工程は、前記基準義歯床の粘膜面側の表面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を微量追加して、より良い適合性が得られるように形状を微修正してから硬化させることによって行うことができる。
【0113】
以上のような各工程を経ることで、上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bを用いた義歯を作製することができる。
【実施例0114】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
まず、各実施例及び各比較例で使用した各種成分の名称、特性、略号(略号を用いた場合)等を示す。
【0115】
[(メタ)アクリル系モノマー〔A〕]:接着剤の成分ともなる。
・HPr:2-メタクリロイルオキシエチルプルピオネート(単官能重合性モノマー)
FMA1:1H,1H,3H-ヘキサフルオロブチルメタクリレート(単官能重合性モノマー)
FMA2:パーフルオロオクチルエチルメタクリレート(単官能重合性モノマー)
・ND:ノナメチレンジオールジメタクリレート(二官能重合性モノマー)
・UDMA:1,6-ビス(メタクリロイルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン(二官能重合性モノマー)
・TT:トリメチロールプロパントリメタクリレート(三官能重合性モノマー)
・TMMT:テトラメチロールメタンテトラメタクリレート(四官能重合性モノマー)。
【0116】
[有機充填材〔B〕]
<吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)>
使用したポリマー(何れも、積水化成品工業社製)の略称、成分、平均粒子径、及び平均細孔径を表1に示す。
【0117】
【0118】
[非多孔質有機架橋ポリマー(b2)]
・PMMA-X:ポリメチルメタクリレート(平均粒子径:8μm、積水化成品工業(株)製)
・AC-X:ポリアクリル酸エステル(平均粒子径:8μm、積水化成品工業(株)製)。
【0119】
[(メタ)アクリル系非架橋ポリマー(b3)]:接着剤の成分ともなる。
・PEMA:ポリエチルメタクリレート(平均粒子径:35μm、質量平均分子量:50万)
・P(EMA-MMA):ポリエチルメタクリレート-メチルメタクリレート共重合体(エチルメタクリレート/メチルメタクリレート=50/50、平均粒子径:40μm、質量平均分子量:100万)。
【0120】
[重合開始剤〔C〕]:接着剤の成分ともなる。
・BPO:過酸化ベンゾイル
・DEPT:N,N-ジエチル-p-トルイジン
・DMPT:N,N-ジメチル-p-トルイジン。
【0121】
[有機溶媒]:接着剤の成分
・アセトン
・酢酸エチル。
【0122】
[その他の成分]
・BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール
・シリカ:球状シリカ(3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、平均粒子径:1μm)。
【0123】
次に、各実施例及び各比較例における評価項目の測定方法を以下に示す。
(1)モノマー吸収量
モノマー吸収量RAbは、JIS K5101-13-1:2004に記載の「精製あまに油法」において、精製あまに油を用いる代わりに、各実施例又は各比較例で使用する(メタ)アクリル系モノマー〔A〕(複数混合して使用した場合には同一組成のモノマー混合物)を用いて決定した。具体的には、所定量〔MB(g)〕の吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)をガラス板の上に置き、〔A〕成分のモノマーをビュレットから一回に4、5滴ずつ徐々に加え、その都度、パレットナイフでモノマーをポリマーに練り込んだ。これらを繰り返し、モノマー及びポリマーの塊ができるまで滴下を続け、以後、1滴ずつ滴下し、完全に混練するようにして繰り返した。そして、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、終点までに使用した〔A〕成分のモノマーの量〔MA(g)〕を測定した。なお、終点までの操作に要する時間は25分間以内となるようにした。そして、次式:RAb(g/g)=MA(g)/MB(g)
により、モノマー吸収量RAbを決定した。
【0124】
(2)曲げ強さ、弾性率、及び破断エネルギー
所定の量の第一組成物と第二組成物とを均一になるまで混和して得られたペーストを、30mm×30mm×2mmのポリテトラフルオロエチレン製モールドにペーストを充填した。そして、両面をポリエチレンフィルムで圧接した状態で硬化させ、次いで、#800及び#1500の耐水研磨紙にて硬化体を研磨した後、4mm×30mm×2mmの角柱状に切断した。得られた硬化体を水中浸漬し、37℃にて24時間放置した。この試験片を試験機(オートグラフAG-1、(株)島津製作所製)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ試験を行い、曲げ強さ、弾性率、及び破断エネルギーを測定した。
【0125】
(3)ペースト粘着性
グローブを装着し、ペーストの粘着性を以下の判定基準に従って評価した。
A:グローブには付着しないが、義歯床には粘着する。
B:グローブに付着するが、義歯床及び石膏に粘着させるとグローブから剥離できる。
C:グローブに付着し、義歯床に粘着しない。
【0126】
(4)1か月後のペースト性状
ペーストを23℃で1か月間保管し、以下の判定基準に従ってペースト性状を評価した。
A:ペースト調製直後と変化なし。
B:ペースト調製直後から、軽微な粘度変化がある。
C:ペースト調製直後から、顕著な粘度変化がある。
【0127】
(5)溶解度の測定方法
重合性モノマーに対して、5質量%、20質量%、50質量%となるように非架橋ポリマー粒子(b3)を添加し、23℃において溶解するかを目視で評価し、下記基準で判断した。
5質量%未満:ポリマー5質量%が溶解しない
5質量%以上、20質量%未満:ポリマー5質量%は全て溶解するが、ポリマー20質量%は溶解しない
20質量%以上、50質量%未満:ポリマー20質量%は全て溶解するが、ポリマー50質量%は溶解しない
50質量%以上:ポリマー50質量%全てが溶解する。
【0128】
(6)複素弾性率維持時間の測定方法
モジュラーコンパクトレオメータMCR302(アントンパール社製)を用いて、直径20mmのパラレルプレートを使用し、周波数1Hz、測定温度37℃、せん断ひずみ(振動)0.1%の条件で、貯蔵弾性率の経時変化を測定した。所定の量の第一組成物と第二組成物とを均一になるまで混和し、混和開始から1分後に測定を開始した。複素弾性率が103Paから104Paまで変化するのに要する時間、及び、104Paから106Paまで変化するのに要する時間を求め、複素弾性率維持時間とした。
【0129】
なお、臨床上、粉/液又はペースト/ペーストを混和させて得られるペーストの複素弾性率が103Paから104Pa程度の状態が口腔内に挿入して賦形させる段階に適しており、104Paから106Pa程度の状態が、口腔内から取り出しトリミングする段階に適している。それぞれの作業を十分に余裕を持って行うためには、複素弾性率が103Paから104Paまで変化するのに30秒以上、104Paから106Paまで変化するのに2分以上要するような粘度上昇パターンが好ましい。
【0130】
(7)接着強さ
義歯床用レジン(アクロン、(株)ジーシー製)の板(15mm×15mm×2mm)を作製し、該板を耐水研磨紙#800で研磨したものを被着体とした。被着体に筆を用いて接着剤を塗布し、接着剤中の溶媒成分が揮発するまで放置して乾燥させた後、直径3mmの孔を有する両面テープを貼り付け、次いで直径8mmの孔を有するパラフィンワックスを上記孔上に同一中心となるように貼り付けた。所定の量の第一組成物と第二組成物とを均一になるまで混和して得られたペーストを孔に充填し、ポリエチレンフィルムで圧接した状態で硬化し、接着試験片を作製した。上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、金属アタッチメントを硬化体上に取り付け、引張り試験機(オートグラフ、(株)島津製作所製)を用いて、クロスヘッドスピード2mm/分にて引張ることにより、接着強さを測定した。5個の試験片の平均値を接着強さ(初期)とした。また、上記と同様にして作製した試験片を、熱衝撃試験機((株)東京技研製)を用いて、5℃の水中に30秒間浸漬、55℃の温水中に30秒間浸漬を1サイクルとし、10000回のサイクルを繰り返す熱衝撃試験を行った。熱衝撃試験後の試験片について上記と同様にして接着強さを測定し、5個の試験片の平均値を接着強さ(耐久試験後)とした。
【0131】
(8)操作余裕時間
モジュラーコンパクトレオメータMCR302(アントンパール社製)を用いて、直径20mmのパラレルプレートを使用し、周波数1Hz、測定温度23℃、せん断ひずみ(振動)0.1%の条件で、貯蔵弾性率の経時変化を測定した。所定の量の第一組成物と第二組成物とを均一になるまで混和し、混和開始から1分後に測定を開始した。混合直後から貯蔵弾性率が急激に増大するより以前を第一段階、貯蔵弾性率が急激に増大し始めてから変化が小さくなり始めるまでを第二段階とし、第一段階における貯蔵弾性率変化を直線近似した線と、前記第二段階における貯蔵弾性率を直線近似した線とが交わる時間を混合開始からの時間として算出し、「操作余裕時間」とした。
【0132】
<1.重合硬化性組成物>
実施例1
表2及び表3に示す組成でペーストを調製すると共に、表4に示す組成で接着剤を調製し、上記各物性の評価を行った。表2及び表3における各成分の量は質量部である。結果を表5に示す。なお、これら表中の「↑」は、「同上」を意味する。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
表5に示すとおり、実施例1のペーストを硬化させた硬化体は、曲げ強さが80[MPa]、破断エネルギーが93[N・mm]と両者共に高く、高い強度及び靱性を有していた。また、実施例1のペーストは操作余裕時間が7分50秒と、築盛・転写を行うのに十分な操作余裕時間を有していた。実施例1のペーストは、グローブにはやや付着するが、義歯床に粘着するとグローブからは容易に剥離可能という良好なペースト操作性を示し、1か月後のペースト性状も調製直後から殆ど変化はなく、保存安定性にも優れていた。更に、実施例1のペーストは、接着剤を用いて被着体に強固に接着させることができ、接着耐久性にも優れていた。
【0138】
実施例2~24
ペーストの組成を表2及び3に示すように変更し、接着剤の組成を表4に示すように変更した他は、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表5に示した。
実施例2~24はいずれも、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合されたものであり、いずれの場合においても、硬化させた硬化体は高い強度及び靱性を有し、十分な操作余裕時間を維持し、ペーストの操作性及び保存安定性も優れていた。さらに、実施例2~24のペーストは、接着剤を用いて被着体に強固に接着させることができ、接着耐久性にも優れていた。
【0139】
実施例25~26
ペーストの組成を表2及び3に示すように変更し、接着剤の組成を表4に示すように変更した他は、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表6に示した。
【0140】
【0141】
実施例25~26はいずれも、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合されたものであり、いずれの場合においても、硬化させた硬化体は高い強度及び靱性を有し、十分な操作余裕時間を維持し、ペーストの操作性及び保存安定性も優れていた。また、複素弾性率維持時間も十分に保持され、従来の粉と液とから構成される義歯床用材料と同程度前後の適度な粘度上昇が確認された。さらに、実施例25~26のペーストは、接着剤を用いて被着体に強固に接着させることができ、接着耐久性にも優れていた。
【0142】
比較例1~3
有機充填材〔B〕として吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)を使用せず、充填材として表7及び表8に示すものに変更し、接着剤の組成を表9に示すように変更した他は、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表10に示した。
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
比較例1、2は吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)ではなく、非多孔質有機架橋ポリマー粒子(b2)を充填材として配合しており、硬化体の強度は低く、1ヵ月後のペースト性状は、調製直後から大きく変化していた。また、比較例1、2のペーストは、接着剤を用いて被着体に接着させたときの接着強さが低く、接着耐久性にも劣っていた。
【0148】
比較例3は、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー粒子(b1)ではなく、シリカを充填材として配合しており、硬化体の強度は高いものの、靱性が低く、ペーストがグローブに付着し操作性も悪いペースト性状であった。また、比較例3のペーストは、接着剤を用いて被着体に接着させたときの接着強さが低く、接着耐久性にも劣っていた。
【0149】
<2.義歯の作製方法>
実施例27
実施例1の重合硬化性組成物および接着剤を用いて、下記の本発明の作製方法により義歯を作製し、評価を行った。
まず、
図3に示す上顎用基準義歯を、
図6に示す位置合わせ冶具に保持し、
図5に示す咬合器に挿入して不適切接触の有無を確認し、不適切接触が認められたとき(不適と判断された場合)には、それがなくなるまで(適となるまで)ハンディ研削機を用いて研削調整を行った。その後、
図4に示す下顎用基準義歯についても同様に行った{(I)基準義歯部材準備工程}。
次いで、上顎用基準義歯の粘膜面上に実施例1の接着剤を塗布後、実施例1の第一組成物と第二組成物を混合し{(II-1)ペースト調製工程}、得られた未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料を築盛し、前記位置合わせ冶具に保持してから前記咬合器内に挿入して、前記適切な位置に保持して、患者口腔内模型の形状を転写すると共に辺縁形成を行い、余剰の硬化性義歯床用材料は除去した。その後、下顎用基準義歯も同様に築盛・転写を行った{(II-2)築盛・転写工程}。
全ての硬化性義歯床用材料が硬化していることを確認し、上顎・下顎一組の義歯を作製した。さらに他の患者口腔内模型についてもこのような作業を繰り返し、最終的に20組の全ての患者口腔内模型に適合する上顎・下顎用20組の義歯を、本発明の作製方法により作製した。
【0150】
その結果、20組の義歯全てにおいて、適合も良好であり、重合器を使用する必要もなく義歯を効率的に作製することができた。
【0151】
実施例28
実施例3の第一組成物と第二組成物を混合し{(II-1)ペースト調製工程}、得られた未硬化状態のペースト状硬化性義歯床用材料および実施例3の接着剤を用い、(II-2)築盛・転写工程において、前記基準義歯床部材の唇側床縁近傍および頬側床縁近傍の領域を囲うように収容可能な前方溝部、および、前記基準義歯床部材の喉側床縁近傍の領域を囲うように収容可能な後方溝部を有する義歯作製用治具を用いて築盛した他は、実施例27と同様の手順で義歯を作製し、評価を行った。
【0152】
その結果、20組の義歯全てにおいて、適合も良好であり、重合器を使用する必要もなく義歯を効率的に作製することができた。