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特開2022-160869セルロースエステル組成物および成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160869
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】セルロースエステル組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/10 20060101AFI20221013BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
C08L1/10
C08K5/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065352
(22)【出願日】2021-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】荻原 剛之
(72)【発明者】
【氏名】上田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 昭彦
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB021
4J002EH086
4J002EH087
4J002FD026
4J002FD027
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】流動性が良く、それから得られる成形品が水滴痕の発生を抑制できるものであるセルロースエステル組成物の提供。
【解決手段】(A)セルロースエステル100質量部、(B)水への溶解度が2g/100ml以下であるクエン酸エステル系化合物19~45質量部、(C)アジピン酸エステル系化合物1~9質量部を含有するセルロースエステル組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロースエステル100質量部、
(B)水への溶解度が2g/100ml以下であるクエン酸エステル系化合物19~45質量部、
(C)アジピン酸エステル系化合物1~9質量部を含有するセルロースエステル組成物。
【請求項2】
(B)成分のクエン酸エステル系化合物がクエン酸アセチルトリエチルである、請求項1記載のセルロースエステル組成物。
【請求項3】
(B)成分のアジピン酸エステル系化合物が、下記式(I)、(II)、(III)で示されるアジピン酸エステルから選ばれる少なくとも一種を含んでいる、請求項1記載のセルロースエステル組成物。
【化1】
【請求項4】
(A)成分100質量部に対して、(B)成分と(C)成分の合計含有量が20~45質量部である請求項1~3のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物。
【請求項5】
(B)成分と(C)成分の合計100質量%中、(B)成分の含有量は79~95質量%(C)成分の含有割合は5~21質量%である、請求項1~3のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物。
【請求項6】
(A)成分のセルロースエステルが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートから選ばれるものである請求項1~5のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物からなる成形品。
【請求項8】
メガネフレームである、請求項7記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セルロースエステル組成物とそれから得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテートなどのセルロースエステルは一般的に熱可塑性が乏しいため、通常は可塑剤を含む組成物として使用されている。
特許文献1は、セルロースエステル100質量部に対して式(I)~(III)で表されるアジピン酸エステル1~50質量部を配合できることが記載されている。
特許文献2は、(A)セルロースエステル100質量部に対して、(B)アジピン酸エステル系化合物5~50質量部、(C)一般式(I)で表されるクレジル基を有するリン酸エステル1~50質量部を含有するセルロースエステル組成物が記載されており、可塑剤のブリードアウトが抑制されている。
特許文献3は、(A)セルロースエステル100質量部に対して、(B)一般式(I)で表されるナフチル基を有するリン酸エステル5~50質量部、(D)前記(B)を除くエステル系可塑剤5~40質量部を含有するセルロースエステル組成物が記載されており、高い熱可塑性を有し、機械的強度の良い樹脂成形体が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5798640号公報
【特許文献2】特許第6038639号公報
【特許文献3】特許第6170654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、流動性の良いセルロースエステル組成物と、それから得られる水滴痕の発生を抑制できる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、(A)セルロースエステル100質量部、(B)水への溶解度が2g/100ml以下であるクエン酸エステル系化合物19~45質量部、(C)アジピン酸エステル系化合物1~9質量部を含有するセルロースエステル組成物を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本開示のセルロースエステル組成物は流動性が良く、前記組成物から得られる成形品は、曲げ弾性率が良く、水滴が付着した場合でも水滴痕の発生が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(組成物)
<(A)成分>
(A)成分のセルロースエステルは公知のものであり(例えば、特開2005-194302号公報に記載されているもの)、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートを挙げることができる。
その他、ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテート、アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロース、アセチルヒドロキシエチルセルロース、アセチルヒドロキシプロピルセルロースなども挙げることができる。
これらの中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが好ましい。
【0008】
(A)成分のセルロースエステルは、平均置換度が2.7以下のものが好ましい。
(A)成分のセルロースエステルは、粘度平均重合度100~1000のものが好ましく、100~500のものがより好ましい。
【0009】
<(B)成分>
(B)成分の水への溶解度(25℃)が2g/100ml以下であるクエン酸エステル系化合物は、(C)成分と併用することで、組成物の流動性を高めると共に、特に水滴痕の発生を抑制するように作用する成分である。(B)成分の水への溶解度は1.5g/100ml以下が好ましい。
(B)成分としては、例えばクエン酸アセチルトリエチルなどを挙げることができる。
(B)成分は市販品を使用することができ、例えば商品名「シトロフレックスA-2」(水への溶解度0.72g/100ml[25℃])(森村商事株式会社)を使用することができる。
【0010】
<(C)成分>
(C)成分のアジピン酸エステル系化合物は、(B)成分と併用することで、組成物の流動性を高めると共に、特に曲げ弾性率や衝撃強度を高めるように作用する成分である。
(C)成分のアジピン酸エステル系化合物は、特許第5798640号公報に記載の下記式(I)、(II)、(III)で示されるアジピン酸エステルから選ばれる少なくとも一種を含んでいる。
(C)成分は、式(I)、(II)、(III)で示されるアジピン酸エステルから選ばれるいずれか一つでもよいし、(I)と(II)、(I)と(III)、(II)と(III)のいずれか二つの混合物でもよいし、(I)~(III)の混合物でもよい。
【0011】
【化1】
【0012】
本開示の組成物中の(A)成分、(B)成分、(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、(B)成分は19~45質量部であり、好ましくは20~40質量部であり、(C)成分は1~9質量部であり、好ましくは1.5~9質量部である。
【0013】
本開示の組成物中の(B)成分と(C)成分の合計含有量は、(A)成分100質量部に対して(B)成分と(C)成分の合計量が20~45質量部が好ましく、25~40質量部がより好ましい。
【0014】
(B)成分と(C)成分中のそれぞれの含有量は、水滴痕の発生を抑制するため、(B)成分と(C)成分の合計100質量%中、(B)成分の含有量は79~95質量%が好ましく、79~93質量%がより好ましく、(C)成分の含有量は21~5質量%が好ましく、21~7質量%がより好ましい。
【0015】
本開示の組成物は、用途に応じて公知の熱可塑性樹脂を含有することができる。
公知の熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、AS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などのポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂などを挙げることができる。
公知の熱可塑性樹脂の含有量は、(A)成分のセルロースエステルとの合計量中、40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0016】
本開示の組成物は、さらに充填剤を含有することができる。
充填剤としては、繊維状充填剤、非繊維状充填剤(粉粒状又は板状充填剤など)が含まれ、例えば、特開2005-194302号公報の段落番号0025~0032に記載のものを挙げることができる。
充填剤の含有量は、(A)成分のセルロースエステル100質量部に対して5~50質量部が好ましく、5~40質量部がより好ましく、5~30質量部がさらに好ましい。
【0017】
本開示の組成物は、特開2005-194302号公報の段落番号0035~0042に記載のエポキシ化合物、段落番号0043~0052に記載の有機酸、チオエーテル、亜リン酸エステル化合物などの安定化剤を含有することができる。
【0018】
本開示の組成物は、用途に応じて、慣用の添加剤、例えば、他の安定化剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、着色剤(染料、顔料など)、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、滑剤、アンチブロッキング剤、分散剤、ドリッピング防止剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。
【0019】
本開示の組成物は、MI(g/10min)が20g/10min以上であるものが好ましく、20~70g/10minであるものがより好ましい。
【0020】
本開示の組成物は、例えば、各成分をタンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ニーダーなどの混合機を用いて乾式または湿式で混合して調製してもよい。
さらに、前記混合機で予備混合した後、一軸または二軸押出機などの押出機で混練してペレットに調製する方法、加熱ロールやバンバリーミキサーなどの混練機で溶融混練して調製する方法を適用することができる。
【0021】
(成形品)
本開示の組成物は、射出成形、押出成形、多層押出成形、プレス成形、真空成形、異型成形、発泡成形、インジェクションプレス、プレス成形、ブロー成形、ガス注入成形などによって各種成形品に成形することができる。
本開示の成形品は、曲げ弾性率(MPa)(ISO178)が1800MPa以上であるものが好ましく、2000MPa以上であるものがより好ましい。
【0022】
本開示の組成物は、サングラス、眼鏡などのフレーム、各種靴の靴紐のティッピングフィルム(靴紐の先端部を包囲した状態で熱収縮させて使用するもの)、ゴーグル;化粧品容器;歯ブラシ、歯間ブラシの柄などのオーラルケア用品;チークブラシ、眉ブラシ、リップブラシの柄などのメイクアップ用品;ヘアアクセサリー、ヘアドライヤー、ヘアアイロン、ヘアブラシ、櫛などのヘアケア用品;インクペンの軸などの筆記用具;剃刀の柄などのパーソナルケア用品;玩具;家電製品や工具などの無地または模様(柄)を有する成形品の製造に使用することができる。
中でも、本開示の組成物を用いた眼鏡フレームは、加工性、感触や色彩感、耐衝撃性に優れる。
上記各成形品は、射出成形法などを使用して製造することができるほか、サングラス、眼鏡などのフレームなどの成形品は、1枚のシートまたは複数枚のシートの積層品を打ち抜き加工して製造することができる。
眼鏡フレームの製造用シートは、押出機のTダイから押し出した後、シートを切出し、プレス成形を繰り返して製造することができる。
【0023】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本発明の開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0024】
表1に示す(A)成分のセルロースエステル、(B)成分のクエン酸エステル系化合物、(C)成分のアジピン酸エステル系化合物を、ヘンシェルミキサーを用いて、ミキサー内の摩擦熱で70℃以上となるように各組成物を攪拌混合した後、二軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス温度:210℃)に供給し、押し出してペレット化した。
得られたペレットを、射出成形機に供給して、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、成形サイクル60秒(射出20秒、冷却時間40秒)の条件で試験片を射出成形して、表1に示す各評価試験に使用した。
【0025】
<使用成分>
(A)成分
セルロースエステル:商品名「L50」、置換度2.5、粘度平均重合度180、(株)ダイセル製、
(B)成分
クエン酸エステル系化合物(クエン酸アセチルトリエチルを含む):商品名「シトロフレックスA-2」、(水への溶解度0.72g/100ml[25℃])、森村商事株式会社
(C)成分
アジピン酸エステル系化合物(上記式(I)~(III)の混合物):商品名「DF101」、大八化学工業(株)製
【0026】
(曲げ弾性率:MPa)
ISO178に準拠して測定した。
【0027】
(シャルピー衝撃強度:kJ/m
ISO179/1eAに準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
【0028】
(MI:g/10min)
温度220℃、荷重10kgで測定した。
【0029】
(水滴痕)
23℃、50RHの環境の実験室内で、50mm×90mm×3mmtの透明プレートの上にホールピペットで純水2滴(0.1~0.4ml)を垂らして、5時間後にカラープレートに残った水滴痕を目視で評価した。
〇:目視では、水滴痕が確認できなかった。
△:透明プレートに当てる太陽光の角度を色々と変えることで、薄っすらと水滴痕が確認できた。
×:目視で、水滴痕がはっきりと確認できた。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から明らかなとおり、実施例1~11は(B)成分と(C)成分を併用しているため、4つの測定項目においてバランスの良い結果が得られた。
(B)成分を含んでいない比較例2、(B)および(C)成分を含んでいるが、(B)成分の含有量が少ない比較例3、5は、水滴痕の発生を抑制することができなかった。
特に実施例3((B)×100/[(B)+(C)])=79.7質量%)と比較例3((B)×100/[(B)+(C)])=78.3質量%)との対比から、(B)成分と(C)成分の合計量中の(B)成分の含有量を所定範囲に調整することで、水滴痕の抑制効果が高められることが確認された。
(C)成分を含んでいない比較例1は、水滴痕の発生は抑制できたが、流動性と衝撃強度が良くなかった。
(C)成分を含んでいない比較例4は、水滴痕の発生は抑制できたが、曲げ弾性率と衝撃強度が良くなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本開示のセルロースエステル組成物は、サングラス、眼鏡などのフレームの製造原料として利用することができる。