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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160910
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】インクジェット記録用油性インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/36 20140101AFI20221013BHJP
【FI】
C09D11/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065438
(22)【出願日】2021-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 達也
(72)【発明者】
【氏名】高田 慎吾
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039BC01
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA07
4J039EA44
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】小粒径及び低粘度であり、かつ保存安定性に優れるインクジェット記録用油性インクを提供する。
【解決手段】顔料、顔料分散剤A、及び非水系溶媒Bを含有するインクジェット記録用油性インクであって、
該非水系溶媒Bが炭素数12以上24以下のオレフィン(b)を含む、インクジェット記録用油性インクである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、顔料分散剤A、及び非水系溶媒Bを含有するインクジェット記録用油性インクであって、
該非水系溶媒Bが炭素数12以上24以下のオレフィン(b)を含む、インクジェット記録用油性インク。
【請求項2】
非水系溶媒B中のオレフィン(b)の含有量が30質量%以上である、請求項1に記載のインクジェット記録用油性インク。
【請求項3】
顔料分散剤Aの含有量が、顔料100質量部に対して、50質量部以上150質量部以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用油性インク。
【請求項4】
顔料の含有量が、4質量%以上10質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のインクジェット記録用油性インク。
【請求項5】
オレフィン(b)の25℃における粘度が、1mPa・s以上7mPa・s以下である、請求項1~4のいずれかに記載のインクジェット記録用油性インク。
【請求項6】
オレフィン(b)が内部オレフィンである、請求項1~5のいずれかに記載のインクジェット記録用油性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用油性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、ノズルから微細なインク液滴を吐出し、ノズルに対向する記録媒体に画像等を印刷する記録方式である。この方式は、安価に高速印刷及び高画質印刷が可能であることから、近年、様々な分野で利用されている。インクジェット記録用インクは、溶媒の種類により、水系インク及び非水系インクに大別され、水系インクは主溶媒として水を含み、非水系インクは主溶媒として非水系溶媒を含む。さらに、非水系インクは、主溶媒が揮発性有機溶媒であるソルベントインクと、主溶媒が低揮発性あるいは不揮発性の有機溶媒である油性インクに分類される。
【0003】
例えば、特許文献1には、ノズルの目詰りがなく、吐出安定性の高い特にインクジェット記録方式に適した油性記録インクの提供を課題として、パラフィン系石油溶剤、芳香族系石油溶剤、ナフテン系石油溶剤、オレフィン系石油溶剤、エステル類等の一種または二種以上を組合せた有機溶剤に、油溶性染料を分散または溶解させてなるインクジェット記録用油性インクであって、特定の構造を有するポリオキシエチレンアルキルアミンを0.5~10Wt%含有するインクジェット記録用油性インクが開示されている。
特許文献2には、画質安定性に優れかつ初期充填性にも優れる油性インクジェット記録液の提供を課題として、色材と、不飽和結合を2つ以上もつ酸化重合性の油性媒質とを含み、ヨウ素価が65以上である油性インクジェット記録液が開示されている。
特許文献3には、浸透性記録媒体に対する印刷において、高画質と高速記録との両立等が可能なインクジェット記録用油性インク組成物の提供を課題として、油性媒質と、色材とを含み、前記油性媒質として、特定の構造を有するアリルエーテルを含有するインクジェット記録用油性インク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平8-6057号公報
【特許文献2】特開2018-154734号公報
【特許文献3】特開2018-123244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年ではインクジェット記録の高速化及び高画質化の要求が高まっており、このような要求を満たすには、油性インクにおいても顔料が小粒径で分散し、かつ低粘度のインクが求められる。また、インクジェット記録の使用用途の拡大に伴い様々な条件で印刷されることが想定され、例えば、高温下でも顔料が安定に分散した油性インクが求められる。
しかしながら、油性インクで用いられる有機溶媒は一般的に高粘度であり、インク中の顔料は分散し難く、顔料の凝集が発生し易い。そのため、従来の技術では、油性インク中の顔料の小粒径化と油性インクの低粘度化の両立、及び高温下での良好な保存安定性を確保することは困難である。
本発明は、小粒径及び低粘度であり、かつ保存安定性に優れるインクジェット記録用油性インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、顔料、顔料分散剤、及び非水系溶媒を含有し、該非水系溶媒が炭素数が所定の範囲であるオレフィンを含むことにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、顔料、顔料分散剤A、及び非水系溶媒Bを含有するインクジェット記録用油性インクであって、
該非水系溶媒Bが炭素数12以上24以下のオレフィン(b)を含む、インクジェット記録用油性インクを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、小粒径及び低粘度であり、かつ保存安定性に優れるインクジェット記録用油性インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[インクジェット記録用油性インク]
本発明のインクジェット記録用油性インク(以下、「油性インク」ともいう)は、顔料、顔料分散剤A、及び非水系溶媒Bを含有するインクジェット記録用油性インクであって、該非水系溶媒Bが炭素数12以上24以下のオレフィン(b)を含む。
本発明において、「油性」とは、インクに含有される媒体中で、非水系溶媒が最大割合を占めていることを意味する。「非水系溶媒」とは、溶媒を25℃の水100mLに溶解させたときに、その溶解量が10mL未満である溶媒を意味する。「オレフィン」とは、分子中に炭素-炭素二重結合を1個以上有する鎖式炭化水素化合物を意味する。
【0009】
本発明の油性インクは、小粒径及び低粘度であり、かつ保存安定性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
油性インク中の顔料の分散においては、顔料表面全体が非水系溶媒によって濡らされた後、顔料分散剤が顔料表面に吸着することで顔料粒子が分散し安定化する。オレフィンは二重結合を有する低極性溶媒であり、一方で顔料も基本的に二重結合を有する骨格で疎水性の構造である。したがって、非水系溶媒としてオレフィンを用いると、従来用いられる飽和炭化水素やエステル系の溶媒と比べ、極性の近さやπ-π相互作用等の影響で顔料表面の濡れが進行して、顔料分散剤による顔料の安定化が発現し易く、顔料の小粒径化と低粘度化とを両立することができると考えられる。さらに、非水系溶媒としてオレフィンを用いると、顔料分散剤による顔料の安定化は高温下でも良好に維持することができるため、保存安定性も向上すると考えられる。
【0010】
<顔料>
本発明に用いられる顔料は、有機顔料及び無機顔料のいずれであってもよく、レーキ顔料、蛍光顔料を用いることもできる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。顔料は1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
有機顔料の具体例としては、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、スレン顔料、金属錯体顔料等の多環式顔料類等が挙げられる。
無機顔料の具体例としては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、ベンガラ、酸化クロム等の金属酸化物;真珠光沢顔料等が挙げられる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
これらの中でも、顔料は、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、好ましくは有機顔料であり、より好ましくは多環式顔料類である。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
【0011】
本発明の油性インク中の顔料の含有量は、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは6質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは16質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0012】
<顔料分散剤A>
本発明の油性インク中の顔料は、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、顔料分散剤Aにより分散されてなる。
本発明に係る顔料分散剤Aは、少なくとも顔料分散能を有するものであれば特に制限はなく、高分子分散剤、界面活性剤等が挙げられる。中でも、顔料分散剤Aは、顔料表面に吸着し易い極性基を有するものが好ましい。
極性基としては、第一級アミノ基(-NH2)、第二級アミノ基(-NHR1、=NH(イミノ基))、第三級アミノ基(-NR12)、第四級アンモニウム基(-N+123)、アミド基、カルボキシ基(-COOM)、スルホン酸基(-SO3M)、リン酸基(-OPO32)、ヒドロキシ基、エステル基等が挙げられる。ここで、R1~R3は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ヒドロキシメチル基、又はヒドロキシエチル基を示し、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを示す。
【0013】
顔料分散剤Aとしては、ポリエステルポリイミン、ポリエステルポリアミン、ポリエーテルポリアミン、ポリアルキロールアミノアマイドとその塩、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、水酸基含有カルボン酸エステル、高分子量不飽和酸エステル、高分子量ポリカルボン酸の塩、変性ポリウレタン、変性ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。顔料分散剤Aは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
顔料分散剤Aは、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、好ましくは塩基性基を有し、より好ましくは第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及び第四級アンモニウム基から選ばれる少なくとも1種を有し、更に好ましくは、ポリエステルポリイミン、ポリエステルポリアミン、ポリエーテルポリアミン、及び、ポリアルキロールアミノアマイドとその塩から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはポリエステルポリイミンである。
【0015】
ポリエステルポリイミンとしては、好ましくはポリアルキレンイミンとカルボキシ基を有するポリエステルとの縮合物又はその塩、より好ましくは主鎖としてポリアルキレンイミン鎖に側鎖として2つ以上のポリエステル鎖が結合されてなる縮合物である。
ポリエステルポリイミンを構成するポリアルキレンイミンは、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、好ましくは炭素数2以上8以下のアルキレンイミンの重合体であり、より好ましくは炭素数2以上4以下のアルキレンイミンの重合体であり、更に好ましくはポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、及びポリブチレンイミンから選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはポリエチレンイミンである。
ポリエステルポリイミンを構成するポリエステルとしては、ヒドロキシカルボン酸の縮合体、環状エステルの開環重合体等が挙げられる。中でも、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、好ましくは脂肪族ヒドロキシカルボン酸の縮合体であり、より好ましくは炭素数8以上20以下の飽和又は不飽和の脂肪族ヒドロキシカルボン酸の縮合体であり、更に好ましくは12-ヒドロキシステアリン酸、ω-ヒドロキシステアリン酸、及びリシノール酸から選ばれる1種以上の縮合体であり、より更に好ましくは12-ヒドロキシステアリン酸の縮合体である。
【0016】
顔料分散剤Aは、予め非水系溶媒等に分散又は溶解させて油性インクに配合してもよい。
顔料分散剤Aの市販品としては、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパース(商品名)シリーズ;BASF社製のエフカ(商品名)シリーズ;楠本化成(株)製のディスパロン(商品名)シリーズ等が挙げられる。
【0017】
本発明の油性インク中の顔料分散剤Aの含有量は、顔料の分散性を向上させて、顔料を小粒径化する観点、及び保存安定性を向上させる観点から、顔料100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは60質量部以上、更に好ましくは70質量部以上であり、そして、油性インクを低粘度化する観点から、好ましくは150質量部以下、より好ましくは130質量部以下、更に好ましくは110質量部以下、より更に好ましくは90質量部以下である。
なお、顔料分散剤Aを非水系溶媒等に分散又は溶解させて油性インクに配合する場合には、上記の油性インク中の顔料分散剤Aの含有量は、該非水系溶媒等を除いた有効分の含有量である。
【0018】
<非水系溶媒B>
本発明の油性インクは、非水系溶媒Bを含有する。
非水系溶媒Bは、1種を単独で用いてもよく、単一の連続する相を形成する限り2種以上を組み合わせて用いることもできる。
非水系溶媒Bは、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、炭素数12以上24以下のオレフィン(b)を含む。
オレフィン(b)は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
オレフィン(b)1分子中の炭素-炭素二重結合の数は、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、更に好ましくは1個である。
オレフィン(b)の炭素数は、経済性の観点から、好ましくは偶数であり、保存安定性を向上させる観点から、12以上であり、好ましくは14以上、より好ましくは16以上であり、そして、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点から、24以下であり、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。
オレフィン(b)の分子鎖の構造は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよいが、顔料の小粒径化の観点、及び保存安定性を向上させる観点から、好ましくは直鎖状である。
【0019】
炭素-炭素二重結合を1個有する炭素数12以上24以下の直鎖オレフィンの具体例としては、ドデセン(炭素数12)、トリデセン(炭素数13)、テトラデセン(炭素数14)、ペンタデセン(炭素数15)、ヘキサデセン(炭素数16)、ヘプタデセン(炭素数17)、オクタデセン(炭素数18)、イコセン(炭素数20)、ドコセン(炭素数22)、テトラコセン(炭素数24)等が挙げられる。これらの中でも、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、好ましくはテトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、及びオクタデセンから選ばれる1種以上であり、経済性の観点から、より好ましくはヘキサデセン及びオクタデセンから選ばれる1種以上である。
【0020】
オレフィン(b)には、炭素-炭素二重結合の位置によって、炭素鎖の1位に存在する二重結合の割合が85質量%以上であるα-オレフィン、炭素鎖の1位に存在する二重結合の割合が3質量%未満である内部オレフィンがあるが、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、オレフィン(b)は、好ましくは内部オレフィンである。
内部オレフィンは、α-オレフィンに比べて、高温下でも化学的に安定で、溶媒同士の相互反応等を起こし難く、保存安定性をより向上させることができると考えられる。
内部オレフィン中における二重結合の位置は、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)により確認することができる。具体的には、実施例に記載のとおり、ガスクロマトグラフ分析計(GC)により炭素鎖長及び二重結合位置の異なる各成分を正確に分離することで、そのGCピーク面積から各々のオレフィンの割合を求めることができ、さらに、質量分析計(MS)により、オレフィンにおける二重結合位置を同定することができる。
【0021】
オレフィン(b)の25℃における粘度は、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは1.5mPa・s以上、更に好ましくは2mPa・s以上であり、そして、好ましくは7mPa・s以下、より好ましくは6mPa・s以下、更に好ましくは4mPa・s以下である。
前記粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0022】
非水系溶媒Bは、オレフィン(b)以外の他の非水系溶媒を含んでもよい。他の非水系溶媒としては、油性インクに通常用いられる、非極性溶媒、極性溶媒が挙げられる。
非極性溶媒としては、例えば、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、フッ素系炭化水素等のハロゲン化炭化水素等の炭化水素系溶媒;シリコン系溶媒等が挙げられる。
非極性溶媒の市販品としては、アイソパー(商品名)シリーズ、エクソール(商品名)シリーズ(いずれも、エクソンモービル社製);シェルゾール(商品名)シリーズ(Shell社製);AFソルベント(商品名)シリーズ、テクリーン(商品名)シリーズ、ナフテゾール(商品名)シリーズ、0号ソルベント(商品名)シリーズ、アイソゾール(商品名)シリーズ(いずれも、ENEOS(株)製);モレスコホワイト(商品名)シリーズ((株)MORESCO製)等が挙げられる。
【0023】
極性溶媒としては、エステル油、高級アルコール、高級脂肪酸等が挙げられる。
エステル油としては、炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数1以上24以下の1価アルコールとからなる脂肪酸モノエステル、炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数2以上12以下の多価アルコールとからなる脂肪酸エステル、炭素数4以上18以下のジカルボン酸と炭素数1以上24以下の1価アルコールとからなるジカルボン酸ジエステル等の脂肪酸エステルが挙げられる。
炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数1以上24以下の1価アルコールとからなる脂肪酸モノエステルとしては、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ラウリン酸2-エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソステアリル、イソパルミチン酸イソオクチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸2-エチルヘキシル、イソステアリン酸イソプロピル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸イソブチル、オレイン酸ヘキシル、オレイン酸2-エチルヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、大豆油脂肪酸メチル、大豆油脂肪酸イソブチル、トール油脂肪酸メチル、トール油脂肪酸イソブチル等が挙げられる。
炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数2以上12以下の多価アルコールとからなる脂肪酸エステルとしては、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、天然油脂等が挙げられる。天然油脂としては、菜種油、ベニバナ油、ヒマワリ油、ゴマ油、大豆油、パーム油、パーム核油、ココナッツ油等が挙げられる。
炭素数4以上18以下のジカルボン酸と炭素数1以上24以下の1価アルコールとからなるジカルボン酸ジエステルとしては、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル等が挙げられる。
【0024】
高級アルコールとしては、ヘキシルデカノール、ヘキサデカノール、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等の炭素数12以上20以下の高級アルコールが挙げられる。
高級脂肪酸としては、ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸等の炭素数12以上22以下の高級脂肪酸が挙げられる。
【0025】
本発明の油性インク中の非水系溶媒Bの含有量は、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは93質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
非水系溶媒B中のオレフィン(b)の含有量は、顔料の小粒径化及びインクの低粘度化の観点、並びに保存安定性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、そして、上限は100質量%であり、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0026】
本発明の油性インクは、更に必要に応じて、油性インクに通常用いられる添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、粘度調整剤、定着助剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等が挙げられる。
【0027】
(インクジェット記録用油性インクの製造)
本発明の油性インクは、顔料、顔料分散剤A、及び非水系溶媒Bを含有する顔料混合物を分散処理することにより得ることができる。また、顔料混合物を調製する際に、顔料分散剤Aは、予め非水系溶媒等に分散又は溶解させた後、配合してもよい。
分散処理は、得られる油性インク中の顔料粒子の体積中位粒径(D50)が所望の粒径とするように制御して行うことが好ましい。分散処理は、剪断応力による本分散だけで顔料粒子の体積中位粒径(D50)を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、均一な油性インクを得る観点から、顔料混合物を予備分散して予備分散液を得た後、さらに該予備分散液を本分散することが好ましい。
予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
本分散に用いる剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。
本発明の油性インクは、必要に応じて、前述の各種添加剤を更に添加し、フィルター等によるろ過処理を行うことにより得ることができる。
【0028】
(インクジェット記録用油性インクの物性)
本発明の油性インク中の顔料粒子の体積中位粒径(D50)は、粗大粒子を低減し、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.45μm以下、更に好ましくは0.4μm以下、より更に好ましくは0.35μm以下であり、そして、生産性の観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.15μm以上、更に好ましくは0.2μm以上である。
前記体積中位粒径(D50)は、実施例に記載の方法により測定される。
【0029】
本発明の油性インクの25℃における粘度は、インクの吐出性の観点から、好ましくは50mPa・s以下、より好ましくは45mPa・s以下、更に好ましくは40mPa・s以下、より更に好ましくは35mPa・s以下であり、そして、インク中の顔料粒子の沈降を抑制する観点から、好ましくは5mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上、更に好ましくは15mPa・s以上、より更に好ましくは20mPa・s以上、より更に好ましくは25mPa・s以上である。
前記粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0030】
本発明の油性インクは、該インクを公知のインクジェット記録装置に装填し、記録媒体にインク液滴として吐出させて画像等を印刷することができる。
インクジェット記録装置は、サーマル式、ピエゾ式等のいずれの方式でも用いることができる。
用いる記録媒体としては、高浸透性の普通紙、低浸透性のコート紙、非浸透性の樹脂フィルムが挙げられる。コート紙としては、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙等が挙げられる。樹脂フィルムとしては、好ましくはポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、及びポリエチレンフィルムから選ばれる少なくとも1種である。当該樹脂フィルムは、コロナ処理された基材を用いてもよい。
【実施例0031】
原料、インク等の物性は、以下の方法により測定した。
【0032】
〔非水系溶媒及び油性インクの25℃における粘度〕
10mL容のスクリュー管に測定液を6~7mL入れ、回転振動式粘度計「ビスコメイトVM-10A-L」((株)セコニック製、検出端子:チタン製、φ8mm)を用い、検出端子の先端部の15mm上に液面が来る位置にスクリュー管を固定し、25℃にて粘度を測定した。
【0033】
〔油性インク中の顔料粒子の体積中位粒径(D50)〕
レーザー回折/散乱式粒径測定装置「マスターサイザー3000」(マルバーン・パナリティカル社製)を用いて、測定用セルをアイソパーL(エクソンモービル社製、イソパラフィン)で満たし、油性インクを散乱強度が5~15%になる濃度で投入し、粒子屈折率1.63、粒子吸収率0.50、粒子密度1.00g/cm、分散媒屈折率1.42の条件にて、体積中位粒径(D50)を測定した。
【0034】
製造例1(C16内部オレフィン(b1)の製造)
撹拌装置付きフラスコに原料アルコールとして1-ヘキサデカノール「カルコール6098」(花王(株)製)7,000g(28.9モル)、固体酸触媒としてγ―アルミナ(STREM Chemicals,Inc社製)700g(原料アルコール100質量部に対して10質量部)を仕込み、撹拌下、280℃にて系内に窒素(7,000ml/min)を流通させながら5時間、反応を行った。反応終了後のアルコール転化率は100%、C16内部オレフィン純度は99.7%であった。
得られた粗内部オレフィンを蒸留用フラスコに移し、136-160℃/4.0mmHgで蒸留することでオレフィン純度100%の炭素数16の内部オレフィン(以下、「C16内部オレフィン(b1)」と表記する)を得た。
得られたC16内部オレフィン(b1)の二重結合位置を後述する方法により測定した。C16内部オレフィン(b1)の二重結合分布は、C1位0.5質量%、C2位16.5質量%、C3位15.4質量%、C4位16.4質量%、C5位17.2質量%、C6位14.2質量%、C7、8位の合計が19.8質量%であった。
【0035】
製造例2(C18内部オレフィン(b2)の製造)
撹拌装置付きフラスコに原料アルコールとして1-オクタデカノール「カルコール8098」(花王(株)製)7,000g(25.9モル)、固体酸触媒としてγ―アルミナ(STREM Chemicals,Inc社製)1,050g(原料アルコール100質量部に対して15質量部)を仕込み、撹拌下、285℃にて系内に窒素(7,000ml/min)を流通させながら13時間、反応を行った。反応終了後のアルコール転化率は100%、C18内部オレフィン純度は98.5%であった。
得られた粗内部オレフィンを蒸留用フラスコに移し、148-158℃/0.5mmHgで蒸留することでオレフィン純度100%の炭素数18の内部オレフィン(以下、「C18内部オレフィン(b2)」と表記する)を得た。
得られたC18内部オレフィン(b2)の二重結合位置を後述する方法により測定した。C18内部オレフィン(b2)の二重結合分布は、C1位 0.7質量%、C2位 16.9質量%、C3位 15.9質量%、C4位 16.0質量%、C5位 14.7質量%、C6位 11.2質量%、C7位 10.1質量%、C8位とC9位の合計が14.5質量%であった。
【0036】
〔内部オレフィンの二重結合位置の測定方法〕
内部オレフィンに対しジメチルジスルフィドを反応させることでジチオ化誘導体とした後、炭素鎖長及び二重結合位置の異なる各成分をガスクロマトグラフィー(GC)で分離した。それぞれのピーク面積より内部オレフィンの存在割合を求めた。二重結合位置は質量分析計(MS)により同定した。
【0037】
GC-MS測定に使用する装置及び分析条件は次の通りである。
GC装置:6890(アジレントテクノロジー社製)
カラム:BPX-35 25m×0.22mm×0.25μm(SGE社製)
キャリアーガス:He(カラム流量1.0mL/min)
インジェクションモード:スプリット(100:1)
インジェクター温度:300℃
カラムオーブン温度:60℃から2℃/minで昇温し、300℃で5min保持
MS装置:5975(アジレントテクノロジー社製)
イオン源温度:230℃
アナライザー温度:150℃(四重極)
トランスファーライン温度:300℃
イオン化モード:EI
スキャン範囲:m/z 25~500
【0038】
実施例及び比較例で用いた非水系溶媒を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1~4、比較例1~4
シアン顔料「ECB-301」(大日精化工業(株)製、フタロシアニンブルー15:3)8質量部、表2に示す非水系溶媒79.2質量部、及び塩基性の顔料分散剤「ソルスパース11200」(日本ルーブリゾール(株)製、有効分:ポリエチレンイミンと12-ヒドロキシステアリン酸縮合体との縮合物(以下、「PEI/p-12HSAの縮合物」とも表記する)、有効分の含有量:50質量%、溶媒:シェルゾールD40(脂肪族炭化水素))12.8質量部を500mL容のポリエチレン製容器に入れ、「T.K.ロボミックス」(プライミクス(株)製)を用いて、氷冷下、回転数10,000r/minにて30分間撹拌を行い、油性インク予備分散液を得た。
次に、得られた油性インク予備分散液を250mL容のポリエチレン製容器に入れ、直径0.2mmのジルコニアビーズを用いて、体積充填率60体積%にて、ペイントシェーカー(淺田鉄工(株)製)で表2に示す体積中位粒径(D50)になるまで湿式分散した。ビーズをろ過により除去し、表2に示す物性を有する油性インクを得た。
【0041】
実施例5
油性インク予備分散液の調製に用いる非水系溶媒の量を76質量部に変更し、塩基性の顔料分散剤を「ソルスパース13940」(日本ルーブリゾール(株)製、有効分:ポリエチレンイミンと12-ヒドロキシステアリン酸縮合体との縮合物(PEI/p-12HSAの縮合物)、有効分の含有量:40質量%、溶媒:240/260(℃)脂肪族留出物)16質量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で、表2に示す物性を有する油性インクを得た。
【0042】
実施例6
顔料をマゼンタ顔料「Cinquasia Magenta D4570」(BASF社製、キナクリドン顔料)に変更した以外は実施例1と同様の方法で、表2に示す物性を有する油性インクを得た。
【0043】
実施例7
油性インク予備分散液の調製に用いる非水系溶媒をC16内部オレフィン(b1)とヘキサデカンの混合品(C16内部オレフィン(b1)/ヘキサデカン=55.44質量部/23.76質量部)に変更した以外は実施例1と同様の方法で、表2に示す物性を有する油性インクを得た。
【0044】
実施例8
油性インク予備分散液の調製に用いる非水系溶媒をC16内部オレフィン(b1)とヘキサデカンの混合品(C16内部オレフィン(b1)/ヘキサデカン=31.68質量部/47.52質量部)に変更した以外は実施例1と同様の方法で、表2に示す物性を有する油性インクを得た。
【0045】
実施例及び比較例で得られた油性インクを用いて、保存安定性の評価を行った。
油性インク4gを10mL容のスクリュー管に入れ、90℃の恒温槽にて24時間保存した。保存前後のインク中の顔料粒子の体積中位粒径(D50)を測定し、下記式で表される粒径維持率を算出して保存安定性を評価した。結果を表2に示す。粒径維持率が100%に近いほど保存安定性に優れることを示す。
粒径維持率(%)=〔(保存後のD50)/(保存前のD50)〕×100
【0046】
【表2】
【0047】
表2から、実施例1~8は、比較例1~4に比べて、顔料粒子の体積中位粒径(D50)が小さく、かつ、油性インクの粘度も低く、小粒径化及び低粘度化の両立が達成できており、また、保存安定性にも優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、小粒径及び低粘度で、かつ保存安定性に優れる油性インクを得ることができ、インクジェット記録用として有用である。