(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160938
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】発酵及び培養方法、リポ多糖、発酵エキス、発酵エキス末並びにその配合物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20221013BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20221013BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20221013BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20221013BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221013BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221013BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221013BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221013BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221013BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20221013BHJP
A61K 31/739 20060101ALI20221013BHJP
A61K 35/741 20150101ALI20221013BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20221013BHJP
C12P 19/04 20060101ALN20221013BHJP
C08B 37/00 20060101ALN20221013BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A61Q19/10
A61K8/73
A61K8/99
A61P43/00 107
A61P37/04
A61P43/00 105
A61P25/00
A61P25/28
A61P29/00
A61P37/06
A61K31/739
A61K35/741
A23K10/16
C12P19/04 C
C08B37/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065471
(22)【出願日】2021-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】500315024
【氏名又は名称】有限会社バイオメディカルリサーチグループ
(71)【出願人】
【識別番号】390025210
【氏名又は名称】杣 源一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】河内 千恵
(72)【発明者】
【氏名】杣 源一郎
【テーマコード(参考)】
2B150
4B064
4B065
4C083
4C086
4C087
4C090
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AA05
2B150AA06
2B150AA07
2B150AA20
2B150AB10
2B150AC01
2B150BB01
4B064AF11
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4B064DA10
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4B065AA01X
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4B065CA41
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4B065CA60
4C083AA031
4C083AA032
4C083AD211
4C083AD212
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4C083CC25
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4C086ZB21
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4C090DA09
4C090DA23
4C090DA26
4C090DA27
(57)【要約】
【課題】パントエア菌培養物からLMM-LPSを単離する方法として、LPSを精製した後に、デオキシコール酸を用いたゲルろ過を行って、LMM-LPSとHMM-LPSを分離した後に、デオキシコール酸を除去する方法が開発された。ところが、この方法は、極めて煩雑な精製方法であり、製造費が膨大になり、食品成分としての市場化はコスト的に困難であった。
【解決手段】細菌の培養に影響する要素である培養温度とpH条件の設定により、LMM/HMM重量比を1.85~3.07(従来法の約4倍LMM-LPS含量が多い)に高める培養方法を見出した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH8.0以上9.0以下の培地を通性嫌気性グラム陰性菌によって発酵させて、同時に該通性嫌気性グラム陰性菌を培養することを特徴とする発酵及び培養方法。
【請求項2】
温度37.0℃以上38.0℃以下の前記培地を前記通性嫌気性グラム陰性菌によって発酵させて、同時に該通性嫌気性グラム陰性菌を培養することを特徴とする請求項1記載の発酵及び培養方法。
【請求項3】
前記通性嫌気性グラム陰性菌は、パントエア・アグロメランスであることを特徴とする請求項1又は2記載の発酵及び培養方法。
【請求項4】
前記培地は、植物から得られる粉末を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の発酵及び培養方法。
【請求項5】
前記粉末は、穀物、海草又は豆類であることを特徴とする請求項4記載の発酵及び培養方法
【請求項6】
請求項1、2、4又は5記載の発酵及び培養方法で発酵及び培養された通性嫌気性グラム陰性菌から得られることを特徴とするリポ多糖。
【請求項7】
請求項1乃至5いずれかに記載の発酵及び培養方法で得られることを特徴とする発酵エキス。
【請求項8】
請求項7記載の発酵エキスから得られることを特徴とする発酵エキス末。
【請求項9】
請求項6乃至8記載のリポ多糖、発酵エキス又は発酵エキス末が配合されていることを特徴とする配合物。
【請求項10】
前記配合物が医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性食品、飼料、浴用剤又は日用品雑貨であることを特徴とする請求項9記載の配合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトを含む哺乳動物(具体的には家畜、愛玩動物など)、鳥類(具体的には養鶏、愛玩鳥類など)、両生類、は虫類、魚類(具体的には、水産養殖魚、愛玩魚類など)、無脊椎動物に及ぶ医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性食品、飼料及び浴用剤などに添加しても安全な免疫賦活物質を得るための発酵及び培養方法、リポ多糖、発酵エキス、発酵エキス末並びにその配合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含む哺乳動物(具体的には家畜、愛玩動物など)、鳥類(具体的には養鶏、愛玩鳥類など)、両生類、は虫類、魚類(具体的には、水産養殖魚、愛玩魚類など)、無脊椎動物に関して、自然免疫は細菌やウイルスの感染を防御、傷の修復、新陳代謝の調節など生体の健康維持に欠かせない働きをしている。自然免疫の中心的な役割を担っている食細胞であるマクロファージは体中の組織に存在しており、感染防御、創傷治癒、代謝調節の機能を高めるなどが知られている。
【0003】
LPSは、グラム陰性細菌の細胞膜に存在し、多糖と脂質が結合した構造をしており、日本語では「糖脂質」あるいは「リポ多糖」と呼ばれ(英語ではLipopolysaccharide)、略してLPSと呼ばれている。LPSは極めて複雑な構造をした分子であるが基本的にはリピドAと呼ばれる脂質部分とそれに結合するコア多糖、さらにコア多糖に結合するO抗原と呼ばれる三つの部分からなる両親媒性物質である(非特許文献1)。LPSはマクロファージを活性化制御し、その効果として自然免疫機能を高める。
【0004】
ところで、LPSは注射した場合には全身性の炎症を誘起し、発熱、下痢、血圧低下などの作用から内毒素と呼ばれてきた歴史的経緯がある。一方、我々は、LPSを経口・経皮・経鼻などの経粘膜投与によって、マクロファージを介して細菌やウイルスの防除、傷の修復、アレルギーバランスの維持、糖尿病予防、などに働き、健康維持に有益な働きをすることを見いだしてきた。また、玄米や小麦、蕎麦などの食品中に含まれるLPSの摂取が健康の維持に働くことも明らかにしてきた(非特許文献2)。さらに、食経験のあるパントエア菌やキサントモナス菌、酢酸菌などのグラム陰性細菌のLPSを発酵培養することで食品の機能性成分として開発してきた。
【0005】
我々はパントエア菌から抽出したLPSは低分子型(約5,000Da)と高分子型(約50,000Da)との混合物として存在していることを電気泳動(SDS-PAGE)で見出した(特許文献1、非特許文献3)。低分子型をLMM (low molecular mass)-LPS、高分子型をHMM (high molecular mass)-LPSと名付けて解析したところ、LMM-LPSとHMM-LPSは生物活性が異なり、LMM-LPSは低毒性で高いマクロファージ活性化能を持つことを見出した(特許文献1)。そのことから、LMMが豊富なLPSは生体の健康維持により有用性が高いと考えられ、LMMが豊富なLPS製造方法が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4043533号公報
【特許文献2】特開平08-245702号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wikipedia「リポ多糖」,[online],[令和 3年 3月15日検索],インターネット
【非特許文献2】C. Kohchi et al., “Applications of lipopolysaccharide derived from Pantoea agglomerans (IP-PA1) for health care based on macrophage network theory”, Journal of Bioscience and Bioengineering, 2006.12, 102(6), p.485-496
【非特許文献3】T. Kadowaki et al., “Induction of nitric oxide production in RAW264.7 cells under serum-free conditions by O-antigen polysaccharide of lipopolysaccharide”, ANTICANCER RESEARCH, 2013.07, 33(7), p.2875-9
【非特許文献4】H. Nagano et al., “p53-inducible DPYSL4 associates with mitochondrial supercomplexes and regulates energy metabolism in adipocytes and cancer cells”, Proceedings of the National Academy of Sciences, 2018.08, 115(33), p.8370-8375
【非特許文献5】Y. Lee et al., “Increased expression of glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF) in the brains of scrapie-infected mice”, Neuroscience Letters, 2006.12, 410(3), p.178-182
【非特許文献6】M. D. Wood et al., “Fibrin gels containing GDNF microspheres increase axonal regeneration after delayed peripheral nerve repair”, REGENERATIVE MEDICINE, 2013.01, 8(1), p.27-37
【非特許文献7】E. Joo et al., “Inhibition of Gastric Inhibitory Polypeptide Receptor Signaling in Adipose Tissue Reduces Insulin Resistance and Hepatic Steatosis in High-Fat Diet-Fed Mice”, Diabetes, 2017.04, 66(4), p.868-879
【非特許文献8】T. Tanaka et al., “IL-6 in Inflammation, Immunity, and Disease”, Cold Spring Harbor Perspectives in Biology, 2014.09, 6(10), a016295
【非特許文献9】T. Tanaka et al., “Regulation of IL-6 in Immunity and Diseases”, Advances in Experimental Medicine and Biology, 2016, 941, p.79-88
【非特許文献10】Q. Liu et al., “IL-10 targets Th1/Th2 balance in vascular dementia”, European Review for Medical and Pharmacological Sciences, 2018.09, 22(17), p5614-5619
【非特許文献11】H. Mollazadeh et al., “Immune modulation by curcumin: The role of interleukin-10”, Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 2019, 59(1), p.89-101
【非特許文献12】S. Sharba et al., “Formyl peptide receptor 2 orchestrates mucosal protection against Citrobacter rodentium infection”, Virulence, 2019.12, 10(1), p.610-624
【非特許文献13】T. Nishizawa et al., “Homeostasis as Regulated by Activated Macrophage. I. Lipopolysaccharide (LPS) from Wheat Flour: Isolation, Purification and Some Biological Activities”, Chemical and Pharmaceutical Bulletin, 1992, 40(2), p.479-483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
低分子LMM-LPS製造技術
パントエア菌培養物からLMM-LPSを単離する方法として、LPSを精製した後に、デオキシコール酸を用いたゲルろ過を行って、LMM-LPSとHMM-LPSを分離した後に、デオキシコール酸を除去する方法が開発された(特許文献1)。ところが、この方法は、極めて煩雑な精製方法であり、製造費が膨大になり、食品成分としての市場化はコスト的に困難であった。また、C4カラムを用いてHPLC(高性能液体クロマトグラフィー)で精製する方法が知られているが、大量精製には手間とコストがかかることが問題である。
【0009】
一方、これまで、パントエア菌の培養段階においては、LMM-LPSとHMM-LPSの混合比は制御されず、含有量も未知のままであった。そこで、通常条件で培養したパントエア菌のLMM-LPSとHMM-LPSの重量比を調べたところ、LMM-LPS含量とHMM-LPS含量の比(LMM/HMM重量比)は0.72であった。
【0010】
以上のことから、低分子LPSを高含有にするためには従来の物理化学的手法では、産業的規模での製品提供は困難であるので、我々は生物学的に高LMM-LPSを含有する細菌の培養条件を見出し、最適化することで、産業的規模にも対応しうる高LMM-LPS含有LPS製品の製造技術の確立が可能と創案し、鋭意検討した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
細菌の培養条件を変えることによって、LMM-LPS含量を変えることはこれまで知られていない。細菌の培養に影響する要素である温度、栄養、酸素濃度、pH、培養時間などの条件がある。そこで、これらの条件を鋭意検討したところ、培養温度とpH条件の設定により、LMM/HMM重量比を1.85~3.07(従来法の約4倍LMM-LPS含量が多い)に高める培養方法を見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明はこれまで評価されていないLMM-LPSとHMM-LPSの重量比を簡便に評価する方法を確立する必要があった。これをすべてのLPSを検出できるリムラス反応とHMMのみを検出するELISAを組み合わせることで確立できた。
基準となる培養条件は30.0℃でpH7.0である。
【0013】
これに、栄養、酸素濃度を検討したが、ほとんどLMM/HMM重量比には影響がなかったので、培養温度を検討したところ、所定の温度での培養でLMM/HMM重量比が高くなることを発見した。そこで、次に、温度を37.0℃でpHを変化させたところ、pH8.0以上9.0以下で基準よりも高いLMM/HMM重量比が得られた。
【0014】
詳細な温度を見出すために、pH8.8で培養温度を30.0℃から40.0℃まで変化させたところ、37.0℃以上38.0℃以下で高いLMM/HMM重量比を示すことが明らかとなった。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来のLPS精製法においてpH及び/又は温度を変えるだけで高LMM-LPS含有LPSを製造できるため低コスト化が実現できる。さらに、この方法で製造したLPSは、従来法では誘導されなかったDpysl4、GDNF及びGIPRを誘導する作用があったことから(2.55倍から14.42倍)、従来のLPSとは異なる。
・Dpysl4(ジヒドロピリミジナーゼ関連タンパク質4):腫瘍の成長と転移を抑制(非特許文献4)
・GDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子):神経細胞の喪失と萎縮に対する保護に関与(非特許文献5)、運動軸索再生を促進(非特許文献6)
・GIPR(胃抑制性ポリペプチド受容体):脂肪組織にエネルギー蓄積を直接誘導(非特許文献7)
【0016】
このことから、新しい培養物は従来にはない機能性を有することが見いだされた。また、この方法で製造したLPS抽出物は従来法での誘導に比べ、IL-6、IL-10及びFPR2が、15.51倍から271.54倍とLMMの増加では説明できない著しく高い効果を有することが見いだされた。
・IL-6(インターロイキン6):造血、免疫反応の刺激を通じて宿主の防御に貢献(非特許文献8)、損傷した組織の回復に貢献(非特許文献9)
・IL-10(インターロイキン10):神経細胞のアポトーシスを抑制(非特許文献10)、抗炎症性および免疫抑制性サイトカイン(非特許文献11)
・FPR2(ホルミルペプチド受容体2):炎症反応の低下(非特許文献12)
【0017】
以上のことから、高コストで煩雑な手間をかけることなく優れた生物活性を持つ、LMM-LPS高含有品である食品、化粧品、飼料及び薬品等の配合物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の「パントエア菌LPS」は、特に記載した場合を除き、特許文献1に記載の手順に従い、小麦に共生するグラム陰性菌のパントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)を小麦粉で培養し、菌体からリポ多糖を熱水抽出し、固形分を除去したリポ多糖を指す。
【0020】
本発明のパントエア菌LPSは、ヒト、ヒト以外の哺乳類(ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ及びネコ等の家畜)、鳥類(ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル等の家禽)及び魚類(ウナギ、タイ、マグロ、ハマチ等の養殖魚及びニシキゴイ等の観賞魚)等に適用することができる。
【0021】
本発明の投与経路の例としては、経口投与、経皮投与、口腔投与、皮下注射、皮内注射、腹腔内注射及び筋肉内投与などがある。好ましくは、経口投与、経皮投与及び口腔投与である。剤形の形としては、散剤、顆粒剤、液剤、カプセル、細粒剤、丸剤、シロップ剤及び乳剤等が挙げられる。この医薬組成物は、経口投与が可能であり、かつ有効である。これらの製剤は、パントエア菌LPSに加えて、医薬品として許容可能な種々の添加物、例えば、安定化剤、充填剤、乳化剤、増量剤、賦形剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、界面活性剤、懸濁剤、コーティング剤、着色剤、香料、風味剤、甘味剤、保存剤及び酸化防止剤を含有させることができる。
【0022】
本発明の食品組成物は、パントエア菌LPSをそのまま使用し、あるいは他の食品又は食品成分と混合する等、食品組成物における常法に従って使用できる。また、その形態についても、特に制限されず、通常用いられる食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状等)、ペースト状、液状又は懸濁状のいずれでもよい。本発明の食品組成物は、栄養機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品、健康食品、栄養補助食品、ドリンク剤、清涼飲料、アルコール飲料、サプリメント、飼料及び飼料添加物等とすることができる。
【0023】
本発明のパントエア菌培養方法は、以下に実施例として発明内容を詳述するが、本発明は実施例記載の微生物としてパントエア・アグロメランス、培地として、一般的に細菌培養に用いる培地の他、穀物(穀物に由来する素材である小麦粉、米粉、小麦ふすま粉、米ぬか、又は酒かす等を含む)、海草(海草に由来する素材であるわかめ粉、めかぶ粉、又は昆布粉等を含む)及び豆類(豆類に由来する素材であるおから等を含む)にも適応できる。これらの植物にはタンパク質及び糖類が含まれていることはよく知られており、パントエア・アグロメランスを用いる発酵及び培養に適応できる。また、これらの植物に常在性の細菌、例えばセラチア属、エンテロバクター属が共生していることは広く知られたところであり(非特許文献13)、発酵に用いる微生物もそれら植物に共生する通性嫌気性グラム陰性菌にも適応できるものであることは言うまでもない。
【実施例0024】
パントエア菌培養試験評価方法の確立
1.LB(ルリアブロス)培地の調整
市販LB培地粉末(Lennox、ナカライテスク)を蒸留水に2 % (w/v)の濃度で溶解し、オートクレーブ(MLS-3750、三洋電機)で高圧蒸気滅菌した。LB培地は水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬)でpHを調整(pH7.0, pH8.0, pH8.5, pH8.8, pH8.9, pH9.0)した。
【0025】
2.パントエア菌の培養
パントエア菌(Pantoea agglomerans)のシングルコロニーを5 mLのLB培地に植菌し、浸透培養機(バイオシェイカーBR-21UM、タイテック)で温度37.0℃、振盪速度140 rpmで18時間培養し菌液を得た。培養した菌液2 mLをpH調整LB培地100 mLに植菌し、容量500 mLの坂口フラスコ(AGCテクノグラス)にて浸透培養機(インキュベーターシェイカーRMS-20R、サンキ精機)で温度37.0℃、160 rpmの速度で24時間往復振盪培養し、パントエア菌培養液を得た。パントエア菌培養液の660nmの吸光度(optical density: OD)を吸光光度計(UV mini 1240、島津製作所)で測定しパントエア菌の増殖を確認した。
【0026】
3.パントエア菌培養液からのリポ多糖(LPS)抽出
パントエア菌培養液1 mLを恒温器(サーモアルミバスALB-101、アサヒテクノグラス)で90.0℃、20分間加温し、超音波洗浄機(UT-305HS、シャープ)で20分間超音波処理後、撹拌機(マイクロチューブミキサーMT-400、トミーメディコ)で2分間激しく撹拌した。その後、遠心機(マイクロ冷却遠心機3740、久保田商事)で830 g、15分間遠心分離した上清を回収し、LPS抽出液とした。
【0027】
4.LPS抽出液のリムラス反応によるLPS量の測定
リムラステストはリムルスES-IIシングルテストワコー(富士フイルム和光純薬)を用い、トキシノメーター(ET-6000、富士フイルム和光純薬)で比濁法にて行った。蒸留水で希釈したLPS抽出液をキット付属のガラス試験管に200 μL添加し、デジタルボルテックスジェニー2(SI-A286、サイエンティフィックインダストリーズ)で5秒間激しく撹拌し、トキシノメーターで濁度を測定した。リムラス反応によるLPS量は標準物質であるLPS (フナコシ, mac0001)を用いた。
【0028】
5.LPS抽出液の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によるLPS量の測定
(1) 前処理
パントエア菌検出用のELISAは二種類のパントエア菌LPSを特異的に検出する抗体を用いるサンドイッチELISA法である。リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))(シグマ)で2,000倍希釈したパントエア菌LPSに対する一次抗体(34-G2抗体(自然免疫応用技研))50 μLを96穴(ウェル)プレート(イムノプレートマキソープ、Cat. 442404、サーモフィッシャー)に加え、パラフィルム(PM-996、べミス)で封をし、4.0℃で、1時間以上処理し、一次抗体を固層化した。次に、一次抗体固層化プレートに200 μLの 3 % (w/v) BSA-PBS(-) (BSA(ウシ血清アルブミン画分V(シグマ))をPBS(-)に3 % (w/v)の濃度で溶解した)を添加し、25.0℃で、30分間~2時間ブロッキング処理を行った。その後、これを200 μL の洗浄液(10 mM Tris-HCl pH7.5(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(ナカライテスク)を蒸留水に溶解し塩酸(富士フイルム和光純薬)でpH 7.5に調整)、150 mM 塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬)、0.05 % (v/v) ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ナカライテスク))で3回洗浄し、ブロッキング済み一次抗体固層化プレートを得た。
【0029】
(2) サンプル添加と二次抗体処理
BSA (シグマ)をPBS(-)に1 % (w/v)の濃度で溶解した液(1 % (w/v) BSA-PBS(-))で希釈したLPS抽出液をブロッキング済み一次抗体固層化プレートの各ウェルに50 μL添加し25.0℃で1時間抗体反応させた後、ウェルを200 μL の洗浄液で3回洗浄した。1 % (w/v) BSA-PBS(-)で1,000倍希釈したパントエア菌LPSに対する二次抗体(4-E11抗体(自然免疫応用技研))を各ウェルに50 μL添加し25.0℃で1時間抗体反応させた後、各ウェルを200 μL の洗浄液で3回洗浄した。
【0030】
(3) 発色処理
1 % (w/v) BSA-PBS(-)で1,000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG特異的山羊免疫グロブリン(シグマ)を各ウェルに50 μL添加し25.0℃で1時間抗体反応させた後、各ウェルを200 μL の洗浄液で5回洗浄した。発色基質(1 mg/mL p-ニトロフェニルりん酸二ナトリウム六水和物(富士フイルム和光純薬)、1 mM 塩化マグネシウム(ナカライテスク)、50 mM 炭酸ナトリウム(ナカライテスク))を各ウェルに50 μL添加し室温で1時間反応させた後、マイクロプレートリーダー(アイマーク、バイオラッド)で405 nmの吸光度を測定した。パントエアLPS標準品(フナコシ, mac0001)を同時に測定し、検量線を得た。この検量線からサンプル中のLPS量を測定した。
【0031】
[結果]
1.LMM/HMM比を評価するための指標の作成
培養物に含まれるLMM-LPSとHMM-LPSの比を精製することなく、簡易的に評価する方法を作成した。特許文献1記載の方法で精製した純品のLMM-LPSと特許文献2記載の方法で精製した純品のHMM-LPSのリムラス及びELISA値を測定した。リムラス反応はリピドAと結合して反応が起こるため、LMM-LPSとHMM-LPS両方を検出する。一方、今回用いたELISAはO抗原多糖を識別する4-E11抗体を用いているため、O抗原を持たないLMM-LPSは検出されず、HMM-LPSのみを検出する。また、以前の研究でLMM-LPSの分子量は約5,000、HMM-LPSの分子量は約50,000であることをTricine SDS PAGEで確認している。
【0032】
各測定値は下記になった。
[リムラス値]
LMM-LPSで3987±1410 μg/mg (n=9、平均値プラマイナス標準偏差)
HMM-LPSで103±55 μg/mg (n=9、平均値プラマイナス標準偏差)
[ELISA値]
LMM-LPSで検出限界以下(<26 μg/mg) (n=6)
HMM-LPSで917±225 μg/mg (n=6、平均値プラマイナス標準偏差)
なお、純品HMM-LPSのELISA値はほぼ理論上1mg/mgとなった。
【0033】
[結論]
以上より、混合物のELISA値にはLMM-LPSが寄与せず、HMM-LPS由来と考えて良い。
これより混合物のLMM-LPS、HMM-LPSの各重量濃度はそれぞれ次の式で表される。
LMM-LPS=(Limulus値-ELISA値×0.103)÷3.987×希釈倍率
HMM-LPS=ELISA測定値×希釈倍率
※純品LMM-LPSのリムラス測定値=3.987 mg/mg (3987 μg/mg)
純品HMM-LPSのリムラス値=0.103 mg/mg (103 μg/mg)